8−[{1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザ−スピロ[4.5]デカン−2−オンの塩酸塩およびその調製プロセス
【課題】薬学的に有用な塩と、薬学的に有用な塩を調製するための新規プロセスを提供すること。
【解決手段】式Iで表される(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1)7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性塩酸塩およびトシル酸塩形態とその調製方法が開示される。本発明の別の態様は、回折角(2θ、すべての値は±0.2の精度を示す)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Iに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式IIの塩酸塩一水和物化合物)の結晶性塩酸塩一水和物形態の提供である。
【解決手段】式Iで表される(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1)7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性塩酸塩およびトシル酸塩形態とその調製方法が開示される。本発明の別の態様は、回折角(2θ、すべての値は±0.2の精度を示す)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Iに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式IIの塩酸塩一水和物化合物)の結晶性塩酸塩一水和物形態の提供である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は一般的に、薬学的に有用な塩と、薬学的に有用な塩を調製するための新規プロセスとに関する。具体的には、8−[{1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザ−スピロ[4.5]デカン−2−オンの薬学的に有用な塩を合成するための新規プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ジアザスピロデカン−2−オン、具体的には、8−[{1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザ−スピロ[4.5]デカン−2−オン、例えば、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の調製物は、全体が参考として本願で援用される、特許文献1(’320号特許、2006年5月23日発行)に開示されている。
【0003】
【化15】
’320号特許に開示される新規化合物は、タキキニン化合物に分類されており、神経ペプチドニューロキニン−1受容体の拮抗薬(本願では便宜上「NK−1受容体拮抗薬」と称する)である。
【0004】
’320号特許に記載される化合物は、タキキニン化合物に分類され、また神経ペプチドニューロキニン−1受容体(本願では、「NK−1受容体」)の拮抗薬である。これには、例えば、全体が参考として本願で援用される、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3、ならびに以下の刊行物(特許文献2;特許文献3(1998年);特許文献4(1997年);特許文献5(1995年)、特許文献6(1994年)、および特許文献7(1994年))のそれぞれに記載されるものがある。
【0005】
「NK−1」受容体拮抗薬は、例えば疼痛、炎症、片頭痛、嘔吐および痛覚の治療に有用な治療剤であることが明らかにされている。前述の’320号特許に開示されている新規NK−1化合物には、化学療法に伴う悪心および嘔吐(化学療法に伴う悪心および嘔吐、CINE)の治療に有用である式Iの化合物が含まれる。嘔吐および悪心は、化学療法を提供する際の問題となってきた。例えばシスプラチン、カルボプラチンおよびテモゾロマイドなどの化学療法剤は、急性および遅発性の悪心および嘔吐を伴っていた。例えば、テモゾロマイドとオンダンセトロンの併用投与について記載する特許文献8に記載されているように、化学療法剤を抗嘔吐薬とともに投与することが知られているが、このような療法は、遅発性悪心および嘔吐の予防には有効でない。
【0006】
’320号特許で報告されているように、式Iの化合物は、TLCおよびGC/MS法を特徴としていた。’320号特許に記載の方法では、式Iの化合物の非晶質白色泡沫形態が得られた。遊離塩基を結晶化する試みが繰り返されているが、結晶性物質は得られていない。
一般的に、治療活性を有すると認識されている化合物は、医薬用の高純度の形態で提供されなければならない。さらに、薬剤に組み入れるために容易に取り扱え、薬剤に組み入れた時に化合物が化学分解されにくい十分に頑強な性質を有し、それによって薬剤に長い貯蔵寿命をもたらすような形態で、医薬用の化合物を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,049,320号明細書
【特許文献2】国際公開第05/100358号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,760,018号明細書
【特許文献4】米国特許第5,620,989号明細書
【特許文献5】国際公開第95/19344号パンフレット
【特許文献6】国際公開第94/13639号パンフレット
【特許文献7】国際公開第94/10165号パンフレット
【特許文献8】米国特許第5,939,098号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wu et al, Tetrahedron 56, 3043−3051 (2000)
【非特許文献2】Rombouts et al, Tetrahedron Letters 42,7397−7399 (2001)
【非特許文献3】Rogiers et al, Tetrahedron 57, 8971−8981 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記を考慮すると、望まれているのは、治療剤を高純度の形態で提供するのに適した治療剤の形態である。また、取扱いや保管がなされる環境条件での劣化に対して頑強な治療剤の形態も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらおよびその他の目的が本発明により有利に提供され、一態様において、本発明は、例えば結晶性一水和物などの、結晶性であり、場合により1つ以上の溶媒分子を組み込む式Iの化合物の塩形態を提供する。いくつかの実施形態においては、塩酸塩およびトシル酸塩から化合物Iの塩形態を選択することが好ましく、式Iの化合物の塩酸塩一水和物形態であることがより好ましい。
【0011】
本発明の別の態様は、回折角(2θ、すべての値は±0.2の精度を示す)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Iに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式IIの塩酸塩一水和物化合物)の結晶性塩酸塩一水和物形態の提供である。
【0012】
【化16】
【0013】
【化17】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性無水塩酸塩形態(無水塩酸I型)の提供である。
【0014】
【化18】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IIIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性無水塩酸塩形態(無水塩酸II型)の提供である。
【0015】
【化19】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IVに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸I型)の提供である。
【0016】
【化20】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Vに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸II型)の提供である。
【0017】
【化21】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表VIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸III型)の提供である。
【0018】
【化22】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される表VIIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸IV型)の提供である。
【0019】
【化23】
本発明の別の態様は、塩酸塩一水和物I型、無水塩酸塩I型およびII型、トシル酸塩I型、II型およびIII型から選択される((5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の少なくとも1つの結晶性塩形態を含有する医薬組成物の提供、ならびに式Iの化合物の結晶性塩形態の1つ以上を含有する薬剤を投与することによって、悪心よび嘔吐を治療および/または予防する方法の提供である。いくつかの実施形態においては、本発明にしたがって調製される式Iの化合物の塩を、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えばテモゾロマイドおよびシスプラチン、好ましくはテモゾロマイド)と併用投与することが好ましい。
【0020】
いくつかの実施形態においては、別個の剤形に含有される他の治療剤の同時期投与および同時投与から選択される投与計画で他の治療剤を投与することが好ましい。いくつかの実施形態においては、本発明の少なくとも1つの塩を1つ以上の治療剤とともに含有する剤形を使用した同時投与によって、他の治療剤を本発明の塩とともに投与することが望ましい。
いくつかの実施形態においては、悪心および嘔吐の治療および/または予防において、治療上有効な血清中濃度の式Iの化合物またはその塩を提供する量で、結晶性塩酸塩一水和物I型の(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンを含む薬剤を投与することによって療法を提供することが好ましい。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化2】
化合物(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型一水和物塩酸塩形態。
【化1】
(項目2)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化4】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性無水I型塩酸塩形態。
【化3】
(項目3)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化6】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性無水II型塩酸塩形態。
【化5】
(項目4)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化8】
8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型トシル酸塩形態。
【化7】
(項目5)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化9】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性II型トシル酸塩形態。
(項目6)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化10】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性III型トシル酸塩形態。
(項目7)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化11】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性IV型トシル酸塩形態。
(項目8)
格子「d」間隔(オングストローム)および相対ピーク強度(「RI」、S=強、M=中、W=弱として示され、これらはそれぞれV=極、D=拡散によって、例えばVS=極強、VWD=極弱拡散のように修飾される場合がある)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化13】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型塩酸塩一水和物形態。
【化12】
(項目9)
項目1〜8のいずれかに記載の結晶性塩と、薬学的に許容される担体と、場合により1つ以上の他の治療剤とを含む医薬組成物。
(項目10)
化学療法剤もさらに含む、項目9に記載の組成物。
(項目11)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目10に記載の組成物。
(項目12)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目1〜8のいずれかに記載の結晶性塩を含む薬剤を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目13)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目9に記載の組成物を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目14)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目10に記載の組成物を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目15)
式Iの化合物のエタノール溶液を塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群から選択される酸で処理することによって調製される、化合物(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の塩。
【化14】
(項目16)
化学療法剤もさらに含む項目1に記載の製剤。
(項目17)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目16に記載の製剤。
(項目18)
化学療法を必要とする罹患体に項目17または18のいずれかに記載の製剤を投与することによって、化学療法とともに遅発性嘔吐および/または遅発性悪心に対する療法を提供する方法。
(項目19)
化学療法剤の同時期投与もさらに含む、項目12に記載の治療方法。
(項目20)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目19に記載の治療方法。
(項目21)
1つ以上の他の治療剤と組み合わせた、項目9に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度CPS、個数(平方根));横軸:2シータ(2θ)(度)]。
【図2】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図3】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図4】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図5】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩I型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図6】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図7】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図8】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図9】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図10】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図11】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図12】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図13】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型(ヘキサン溶媒和物)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図14】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図15】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図16】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図17】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図18】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図19】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図20】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図21】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型(ヘキサン溶媒和物)の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図22】式Iの化合物の塩酸塩の特徴的な溶液プロトンNMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)
【0023】
【化24】
の塩形態は、悪心および嘔吐の治療に有益な治療剤を提供する。薬剤の提供に有用な物理的および化学的特性を有する、式IIの一水和物塩酸塩(上記)および種々のトシル酸塩を含めた、(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の塩の調製物については、それぞれの全体が参考として本願で援用される、米国特許出願第60/789,280号および第60/789,513号に開示されている。
【0024】
細胞障害性化学療法の最も消耗性の高い副作用の2つが悪心と嘔吐である。これには、急性期の化学療法に伴う悪心および嘔吐(CINE)と、遅延期CINEとがある。急性期CINEは化学療法施行後24時間以内に発生し、遅延期CINEは化学療法施行後2日から5日の間に発現する。急性期CINEは、5HT3受容体拮抗薬をコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)としばしば組み合わせて投与することによって管理されてきたが、この治療は遅延期CINEの管理には有効でなかった。急性期CINEと遅延期CINEは異なる生理現象に起因すると考えられている。また、NK−1受容体拮抗薬(例えば、(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの塩)を単独で、あるいはコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)および/または5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)の内の1つ以上と組み合わせて投与することにより、ヒトのCINEの治療に有効な療法が提供されると考えられている。
【0025】
(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの塩は、CINEおよびNK−1阻害剤の投与による治療に適したその他の病態、例えば別の原因要素による悪心および/または嘔吐(例えば、動揺病や早朝嘔吐)を処置するための療法の提供に有用である。場合により、本発明の塩の内の1つを含有する製剤は、有効な投薬量で投与された時に、また場合により5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)および/または1つ以上のコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)を含有する別個の薬剤とともに投与された時に、CINEの管理に有用となる。場合により、本発明の塩を含有する製剤は、急性期および遅延期の両CINEの治療で療法を提供する際に、5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)および/または1つ以上のコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)もさらに含んでよい。
【0026】
本発明はさらに、悪心および/または嘔吐を治療する方法も提供する。式Iの化合物の塩を含む薬剤は、いずれかの原因による(例えば、化学療法や放射線療法に起因する、術後回復期に生じる、動揺病に起因する、早朝嘔吐に起因する、ならびに内耳障害および感染に起因する)悪心および嘔吐に対する抗悪心および抗嘔吐治療の提供に有用であると考えられている。しかしながら、式Iの化合物は、化学療法や放射線治療に伴う、および術後回復期に生じる遅発性悪心および/または嘔吐に対する抗悪心および/または抗嘔吐治療の提供に最も有利に利用されると考えられている。いくつかの実施形態においては、本発明にしたがって調製される式Iの化合物の塩、あるいはその塩を含有する医薬組成物と、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えば、テモゾロマイドおよびシスプラチン、好ましくはテモゾロマイド)との組み合わせを提供することが好ましい。
【0027】
本願で使用される組み合わせには、単一剤形で投与するために医薬組成物中に物理的に混合された治療剤と;1つ以上の容器内に複数の治療剤を含有する薬剤またはキットと;例えば本願に記載されるような複数の治療剤の同時期または同時投与によって、治療上有効な濃度の式Iの化合物と他の治療剤とを提供する手順を含む療法の提供とが含まれる。キットの組み合わせが提供される場合には、一般的に複数の薬剤が、このような療法を必要とする罹患体への投与時に、薬剤に含有される治療有効量の活性医薬成分を提供するような形態で供給される。
【0028】
併用投与は、他の治療剤の同時期投与、すなわち本発明の塩形態の内の1つ以上を含む薬剤の投与前、投与中または投与後に第2の薬剤を投与することであり、この場合、第2の薬剤は、1つ以上の他の剤形で1つ以上の他の治療剤を含有する。他の治療剤の併用投与はまた、単一剤形に含有される複数の治療剤の同時投与によっても実施できる。後者の投与体系の例には、1つ以上の他の治療剤、例えば5HT−3阻害剤または化学療法剤(例えばテモゾロマイド)とともに、本発明の1つ以上の塩を含有するカプセル剤形がある。複数の治療剤を含有する一部の剤形では、単一の原薬の代わりにすべての治療剤の混合物を製剤に導入する(例えば、本発明の塩の代わりにすべての原薬の混合物を剤形に含有させる)ことによって、剤形に含有される製剤を調製することが好ましい。
【0029】
別個の薬剤として投与されるのであっても、本発明の製剤中に含まれるのであっても、5HT3受容体拮抗薬が使用される場合は、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、およびトロピセトロンから選択されるのが好ましく、また別個の薬剤としてであっても、本発明の製剤中に含まれるのであっても、コルチコステロイドが使用される場合は、デキサメタゾンから選択されるのが好ましい。
【0030】
本製剤はまた、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えばテモゾロマイド)を含有して、化学療法と、このような化学療法剤投与に伴う悪心および/または嘔吐の軽減および/または予防とを施行するための単一の薬剤を提供することもできる。テモゾロマイドの投薬量レベルの例については、米国特許第5,939,098号(’098号特許、1999年8月17日発行)、欧州特許第0858341B1号(’341号特許、2001年10月24日付与)、および米国特許出願公開第2006/0100188号(’188号広報、2006年5月11日公開)に記載されている。’098号特許と’341号特許のそれぞれには、化学療法に伴う即時型悪心および嘔吐に対する療法を提供するためのテモゾロマイドと5HT3阻害剤との併用投与について記載されている。’188号広報の表1および2(第2〜3ページ)には、テモゾロマイド投与のための詳細な投与計画が記載されている。
【0031】
また、本薬剤は、咳、早朝嘔吐、ならびに動揺病に起因する悪心および/または嘔吐を含むこれらに限定されない、NK‐1阻害剤の投与による治療に適した他の病態の治療に有用であるとも考えられている。
【0032】
本発明の化合物が抗悪心および抗嘔吐治療の提供に有用であるだけでなく、本願に開示される塩形態は、前記化合物の遊離塩基形態に比べて極性溶媒中での溶解度が高いことに関する処理上の利点を有するが、これらの利点は有用な薬剤の提供において有益である。さらに、トシル酸塩および塩酸塩のそれぞれは、前記化合物の非晶質形態に比べて以下の利点を有する形態で式Iの化合物を提供する1つ以上の結晶性形態を有する:より少ない不純物含有量およびより均一な製品品質、すなわちより均一な色、溶解速度、および取扱いの容易さを含めたより均一な物理的特徴;ならびに薬剤に組み込まれた時のより長期間の安定性。
【0033】
以下で詳述する通り、本願に記載される式Iの化合物の結晶性塩形態のそれぞれは、それぞれの塩形態の特徴的なX線回折パターン(図1、図5、図6、図9および図12〜14を参照)、特徴的な赤外線スペクトル(図3、図8、図11、図16および図18を参照)、および示差走査熱量測定(DSC)分析によるサーモグラム(図4、図19、図20および図21)の内の1つ以上を検討することによって、互いに、また非晶質と容易に区別することができる。
【0034】
本発明者等は、驚くべきことに、式Iのジアザスピロデカン−2−オンが、式Iの化合物のトシル酸塩を形成するためのp−トルエンスルホン酸
【0035】
【化25】
および式Iの化合物の塩酸塩を形成するための塩酸(HCl)(例えば、式IIの塩酸塩一水和物)から選択される無機酸によって沈殿させることができることを発見した。意外にも、これらの塩は、場合により結晶構造中に存在するプロトン化した式Iの化合物の各分子の結晶構造中に1つ以上の溶媒分子を含む結晶性固体形態で沈殿させることができる。結晶構造の一部を形成できると本発明者等が認めた好適な溶媒分子の例には、水、ヘキサン、およびアセトニトリルがある。
【0036】
本発明の塩は、それらの物理的特性において遊離塩基よりも優るいくつかの驚くべき利点(例えば化合物を粉砕、微粉化、および可溶化する能力)を有する。本発明の塩は、望ましい溶解度と取扱い性を有することに加えて、熱力学的に頑強であるため、薬剤中に容易に組み込まれ、多様な環境条件下で安定した塩形態で式Iの化合物を提供することが判明している。
【0037】
既知の通り、通常治療剤は、約pH1から約pH7のpH範囲にわたって水溶解度が約10mg/mL未満の時に、低い吸収率を示す。さらに、経口投与された治療剤がこのpH範囲内で約1mg/mL未満の溶解度を示す場合は、経口投与された薬剤中で溶解度と吸収とが関連しているため、通常このような治療剤は溶解率が限定された吸収を示す。したがって、これらの塩の溶解特性の改善は、式Iの化合物を治療剤として送達するように意図された経口投与形態の薬剤を提供するために重要である。本発明の一部の塩は、これらの望ましい改善された溶解特性に加えて、以下に詳述するような有利な物理的特性を示す。
【0038】
一般的に、本発明の塩は、以下の方法にしたがって、式Iの化合物と、トルエンスルホン酸および塩酸から選択される酸とから調製される場合がある:
i)攪拌しながら、容器内の無水エタノール約3mLに0.1g量の式Iの化合物(約0.2mMol)と相当量(0.2mMol)の選択される酸とを溶解する;
ii)続けて攪拌しながら、混合物が混濁するまで無水ジエチルエーテルを混合物に滴下する;
iii)混濁を除去するのにちょうど十分な量の無水エタノールを混濁した混合物に添加する(通常は数滴);
iv)攪拌を停止し、通気孔を有するアルミニウム箔で容器を覆い、24〜48時間静止放置すると、この期間に固体が沈殿する;
v)静止期の終わりに、固体を濾過によって回収し、溶媒で洗浄してから、まず空気中で約1〜約18時間乾燥させ、その後ハウスバキューム下で周囲温度にて一晩真空乾燥させ、式Iの化合物の塩を生成する。
【0039】
一部の塩では、以下の一般的な方法にしたがって、溶媒和物形態の種々の結晶が調製される。上記の方法による反応性結晶化、あるいは上述の一般的な方法を使用してまず非晶質材料として沈殿させた後、その非晶質塩のスラリーに種晶を加えることによって結晶化させた塩の再結晶化によって調製される塩の試料を計量してバイアルに加える(通常は約10mg〜約50mg)。エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、水、トルエン、酢酸エチル、塩化メチレン、およびヘキサンから選択される、固体を完全に浸漬するのに十分な量の溶媒をバイアルに添加する。固体と溶媒は、溶媒和結晶を提供するのに十分な期間(例えば、約7日間)にわたり周囲条件下で攪拌する。溶媒和結晶が調製されたら、懸濁した溶媒和結晶を粉末X線回折分光計で使用するために試料ホルダー上に滴下し、空気乾燥させる。次に、これらの試料を本願に記載の方法にしたがってX線分光法で分析する。式Iの化合物の発明の塩を調製するための他の方法を、以下に記載および例示する。
【0040】
(分析方法)
式Iの化合物の結晶性塩形態のそれぞれについて、X線粉末回折分光法(PXRD)、赤外線分光法(IR)、およびラマン分光法(ラマン)を含む1つ以上の技法によって特徴を明らかにする。また、化合物Iの選択した塩形態を示差走査熱量測定(DSC)によっても分析し、および/またはさらに溶解度試験および安定性試験を含む物理的方法によっても特徴を明らかにする。
【0041】
(X線粉末回折分光法)
以下の方法の内の1つを使用して、試料に対してX線粉末回折分光法を実施した。上述の方法にしたがって調製される溶媒和物に対しては、以下の方法にしたがってRigaku分光計で分析を行った。
【0042】
Rigaku Miniflex分光計を使用して得られた試料の分析には、以下の方法を使用した(PXRD法I)。PXRD法Iで分析する試料を低バックグラウンドプレート上に軽く詰めた。試料を周囲温度および湿度を有する室内環境に暴露した。Rigaku分光計には、試料を54rpmで回転させる6プレート回転台を装備し、試料試験における結晶の優先配向を最低限に抑えた。Rigaku分光計にはまた、Kα2フィルタを備えずに使用される銅Kα線源も装備した。分光計にはまた、可変発散スリットと0.3mm受光スリットも装備した。走査範囲は2.0〜40°2θで実施した。計器較正は111面のCu Kα1ピークを使用して検証した。走査中、ステップ継続時間0.6秒間でステップサイズは0.02度であった。データ分析は、Jade Plus(リリース5.0.26)分析ソフトウェアを使用して行った。データは、Savitzky−Golay放物線フィルタにより11点で平滑化した。通常「d」間隔値は±0.04A以内の精度である。
【0043】
2002年に製造されたBruker D8回折計を使用して、一部の試料にX線粉末回折分光法分析を実施した(PXRD法II)。Bruker回折計には、GOEBELビーム集束ミラーと固定ラジアルソーラースリットを装備したPSD検出器を使用した並列光学構成を装備した。Bruker回折計は、Anton Paar TTK450温度ステージとともに使用した。放射線源は銅(Kα)である。発散スリットは0.6mmに固定する。Bruker回折計は、トップローディング式黄銅ブロック試料ホルダーを使用した。PSD高速走査を使用して、4.0°から39.9°までを走査した。回折パターンを得るために、試料を試料ホルダーに装填し、ガラス製顕微鏡スライドと水平にした。試料チャンバは、25℃、30℃または120℃に温度を設定し、周囲湿度で、窒素でパージせず、真空にしなかった。計器較正はマイカ基準を使用して検証した。走査中、ステップ継続時間0.5から10秒間で、ステップサイズは0.013°から0.02°であった。データ分析は、EVA分析ソフトウェア(バージョン7.0.0.1、Bruker(登録商標)提供、SOCABIM(登録商標)作成)を使用して行った。データはこのソフトウェアにより0.1〜0.15で平滑化した。
【0044】
上述の方法にしたがって調製される溶媒和物試料を除き、X線粉末回折(「PXRD」)による分析用の試料は、あらゆる形態変化を防ぐために最低限の調製がなされた。試料粒子は、平滑な表面を形成して凝集しないように、試料ホルダー内に軽く詰めた。上述の方法にしたがって調製される溶媒和試料以外に対しては、溶剤、乾燥またはその他の調製手順を使用しなかった。
【0045】
(赤外線分光法)
試料は、Avatar Smart Miracle Attenuated Total Reflectrance(ATR)試料コンパートメントを装備したNicolet Instruments NEXUS 670 FTIRを使用した減衰全反射(ATR)赤外線分光法を使用して特徴を明らかにした。スペクトルは以下のパラメータを使用して収集した:DTGS KBr Detector;KBrビームスプリッタ;走査範囲600cm−1〜4000cm−1;絞り設定100;分解能2;試料1つにつき走査100回。分析は、バックグラウンドスペクトルを収集した後、対照標準または微粒子試料(通常は3mg〜5mgの試料)をATR結晶上に設置し、製造元の推奨にしたがって計器の加圧アームで試料に力を印加することによって実施した。次に、製造元のプロプライエタリソフトウェアを使用して、バックグラウンドと試料のスペクトルの比率として、検体(対照または試料)のスペクトルを得た。
【0046】
(ラマン分光法)
本発明の塩酸塩およびトシル酸塩のラマン分光分析(ラマン)は、Thermo Electron Nicolet Almega分散ラマン分光計の高分解能モードで実施した。試料をNMR試料管に入れ、以下の条件下でスペクトルを得た:走査範囲4000cm−1〜90cm−1;露光時間1.0秒;試料100個およびバックグラウンド露光100回;励起レーザ785nm/パワーレベル100%/平行レーザ偏光;格子1200本/mm;100ミクロンスリット;カメラ温度−50℃。
【0047】
(示差走査熱量測定)
熱量測定試験は、TA Instrumentsの変調示差走査熱量計(DSC)を使用して実施した。DSC走査は、流速40mL/分の窒素流下、開放型アルミニウムパン内で加熱速度10℃/分にて行った。
【0048】
溶解度試験は、過剰の化合物を対象溶媒のアリコートに加え、選択される温度条件(通常は周囲温度)下でスラリーを平衡化した。溶媒が水の場合は、塩酸および水酸化ナトリウムでpHを所望の値に調整した。スラリー混合物が平衡化したら、上澄みから余分な固形分を遠心分離(水)または濾過(その他すべての溶媒)し、希釈した上澄み液のアリコートのHPLC分析を使用して、溶解した化合物の量を定量化した。溶媒は医薬品グレードのものを使用した。
【0049】
化学的安定性試験は、対象塩形態のアリコートに対して、正確に計量した式Iの化合物の塩形態の試料をポリエチレン袋に入れて実施した。袋詰めした試料を、金属キャップを取り付けたファイバーボードの管に入れ、所定の湿度および温度条件下で所定の期間保管した。分析は、バイアルの内容物を溶解し、HPLC分析を使用して溶質の量を定量化することによって実施した。指定がある場合は、所定の条件下で、ポリエチレン袋の代わりに蓋をしたアンバーのバイアル内でアリコートを保管した。
【実施例】
【0050】
式Iの化合物の塩酸塩およびトシル酸塩形態を下記のように調製した。後述する通り、式Iの化合物塩形態のそれぞれについて、上で詳述した技法を使用して、X線粉末回折分光法、赤外線分光法、およびラマン分光法を含む種々の分光法により特徴を明らかにした。選択した塩形態の安定性、溶解度およびその他の改善された物理的特性を分析したが、一部の塩については示差走査熱量測定(DSC)による分析も行った。それ以外の記載がない限り、本願に記載の反応性結晶化、再結晶化およびスラリー化方法はすべて、特定のグレード(特別の指定のない限り、一般的には医薬品または食品グレード)の市販の溶媒中で実施し、(特別の指定のない限り)入手したまま使用した。
【0051】
以下の実施例に記載の式Iの化合物の塩の調製において使用するのに好適な式Iの化合物の調製物(遊離塩基)は、’320号特許に開示される方法、または式IIIの化合物を使用する本願に記載の方法のいずれかによって得た。
【0052】
本願に記載の塩の調製で使用する式Iの化合物である(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンを調製するのに好適な一方法は、全体が参考として本願で援用される、前述の米国特許第7,049,320号(’320号特許)に記載されているが、ここでは式Iの化合物の前駆物質として化合物61を使用している(’320号特許の段落番号0098、1行目〜段落番号0100、10行目を参照)。
【0053】
本発明による塩の調製で使用する式Iの化合物はまた、代理人整理番号CD06628US01として2007年3月22日に申請の出願に記載の方法にしたがっても好適に調製される場合もあるが、この方法は、式IIIの化合物のトルエン溶液をメチルスルホン酸で処理することによって、式IIIの化合物のメシル酸塩を沈殿させる手順を含む。金属亜鉛の存在下で式IIIの化合物を酢酸で処理することによって、式IIIの化合物の環化と硝酸還元が同時に行われ、式Iの化合物の遊離塩基が得られる。
【0054】
【化26】
以下の実施例では、式IIIの化合物を式Iの化合物に変換する上述のプロセスを説明する。容器に、式IIIの化合物のメシル酸塩(代理人整理番号CD06228L01USとして2007年3月20日に申請の特許出願に記載の方法にしたがって調製される式IIIの化合物のメシル酸塩の沈殿によって得られる)8.14kgを入れた。攪拌しながら、式IIIの化合物の塩を濃酢酸82Lに溶解し、溶液の温度を約25℃〜約30℃に調節した。反応器のパージと通気を3回行うことによって、不活性窒素雰囲気下で別の反応器に亜鉛末12.2kgを加えた。次に不活性雰囲気を維持しながら、濃酢酸42Lで亜鉛末を覆った。不活性雰囲気を維持しつつ、亜鉛末/酢酸混合物を攪拌して、実質的にすべての亜鉛末を懸濁状態に維持し、反応容器内の温度が約60℃を超えないように維持する速度で、式IIIの化合物の酢酸溶液をゆっくりと添加し始めた。式IIIの化合物の溶液をすべて添加したら、反応容器の温度を約55℃〜約60℃に維持した。反応混合物の温度を維持し、激しい攪拌を続け、実質的にすべての式IIIの化合物が消費されたことを反応混合物の試料が示すまで、亜鉛の懸濁を維持した。
【0055】
反応が完了した(反応混合物中に存在する非環化物質が約5モル%未満)ことを試料が示したら、反応混合物を約30℃〜約20℃の温度に冷却した。反応混合物が冷却されたら、濾過助剤(Hyflo)約4.12kgで濾過した。濾過ケーキをトルエン70Lのアリコート2回で洗浄し、既に得てあった濾液と混合した。混合した洗浄液と濾液を、圧力約80mbar〜約120mbar、温度約30℃〜約60℃で真空蒸留した。このようにして得られた残渣を不活性雰囲気下で維持し、周囲温度でトルエン41L中に再溶解した。
【0056】
残渣のトルエン溶液を、2N塩酸水溶液45Lで、次いで9重量%の炭酸ナトリウム水溶液(H2O 82L中Na2CO3 8kg)80Lで、次いで10重量%の塩化ナトリウム水溶液(H2O 21L中NaCl 2.2kg)22Lアリコート(連続2回)で順次洗浄した。洗浄計画の完了後、トルエン上澄み溶液を0.2ミクロンのインラインフィルターで濾過した。フィルタをさらに4Lのトルエンでリンスし、これを式Iの遊離塩基化合物を含有する上澄み液と混合した。
【0057】
(式IIIの化合物反応混合物からの塩酸塩一水和物I型の直接提供)
上述のように式IIIの化合物から調製した式Iの遊離塩基化合物を含有する上澄みを反応器に入れ、温度20℃〜約25℃に維持した。式Iの化合物の塩酸塩一水和物の種晶を約0.004kgの量で上澄みに添加した。溶液に種晶を添加した後、濃塩酸水溶液(37%)1.7Lと、約5体積%のイソプロパノールを含有するエタノール(ThommenのFine Spirit(登録商標))1.2Lとを約20分間かけて添加した。混合物を約30分間攪拌した。攪拌を継続し、混合物を冷却して、温度0℃〜約5℃に維持した。冷却した混合物をさらに35分間攪拌した。攪拌期間の終了時に、このようにして得られた結晶をNo.148フィルタで真空濾過することによって単離し、トルエンとメチル第三ブチルエーテル(MTBE)の1:1(体積比)混合物5Lのアリコートで連続5回、次いでMTBE 10Lのアリコート1回分を含有する最終洗浄液で洗浄した。
【0058】
沈殿した一水和物塩酸塩I型の結晶をフィルタから回収し、残留溶媒(MTBE、エタノール、トルエンおよび水)の所望の値が得られるまで、真空オーブンで約40℃〜約45℃にて乾燥させた。
【0059】
(式Iの化合物の塩酸塩)
上記の一般的な方法にしたがって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の溶液を塩酸で処理することによって調製される式Iの化合物の非晶質塩酸塩形態は、式Iの化合物の塩の3つの結晶性形態に変換できることが判明した。
【0060】
(式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型)
結晶性一水和物塩酸塩I型は、1当量の(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(’320号特許に記載の方法にしたがって調製した式Iの化合物)を最小限のエタノールまたはメタノールに溶解し、この溶液に1当量の塩酸を添加することによって、式Iの化合物から直接調製した。塩酸の添加に続いて、式Iの化合物の一水和物塩酸塩形態の結晶が溶液から析出するまで、攪拌しながら溶液に水を滴下した。結晶を濾過によって上澄み液から分離し、エタノールで洗浄した後、真空乾燥させた。
【0061】
塩酸塩が、上述の式IIIの化合物の反応から直接得られた式Iの化合物の遊離塩基の沈殿によって得られたのであっても、あるいは’320号特許に記載の方法により得られたのであっても、あるいは別の方法に得られたのであっても、式Iの化合物の塩酸塩は、以下の方法にしたがって再結晶化し、以下の方法にしたがって一水和物塩酸塩結晶I型を得ることができる。窒素ブランケット下で、上述のように調製される式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型14.54kgを容器に添加した。Fine Spirits(登録商標)(5重量%のイソプロパノールを含むエタノール)35L、水35L、濃塩酸(37%)0.3Lを含有する混合物を攪拌しながら添加することによって、結晶を懸濁させた。攪拌を継続しながら、懸濁液を加熱還流させた(約78℃〜85℃)。溶液が透明になると、No.3フィルタで第2の容器に濾過した。フィルタをFine Spirits(登録商標)10Lと水32Lとを含有する温度約60℃〜約70℃の水/エタノール混合物でリンスし、リンス液を濾過液に添加した。混合したリンス液と濾液の温度は73℃(±1℃)で安定させ、一水和物塩酸塩I型の種晶0.115kgを攪拌しながら添加した。攪拌を続けながら、さらに約20分間、温度約73℃を維持した。次に、溶液を約0.5℃/分の速度で温度0℃〜5℃まで冷却し、濃厚懸濁液が徐々に形成される間、攪拌しながら33分間この温度に維持した。この期間の終了時に、No.110フィルタで濾過することによって、懸濁液から結晶を分離した。冷却して温度0℃〜5℃に維持してあったエタノール/水混合物(エタノールと水の体積比40:60)14.5Lでフィルタを洗浄した。フィルタから結晶を回収し、温度35℃〜40℃に維持した真空乾燥器で約15時間乾燥させた。
【0062】
図1〜4では、前述のように、X線、赤外線、およびラマン分光法によって、またDSCによって、上で調製した式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型を分析した。以下の表VIIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図1に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0063】
【化27】
【0064】
【化28】
表VIIIに示す式Iの化合物の一水和物塩酸塩の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、12.9、16.1、18.4、18.7、19.8、21.6、23.5、および24.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、16.1、18.4、21.6、および23.5に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0065】
図2には、上述の方法にしたがって得られた、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型の透過赤外線スペクトルが示されている。図2に示す結晶性一水和物塩酸塩I型の最も特徴的な12のピークが、以下の表IXに列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱とした表記法を使用して列挙されている。
【0066】
【化29】
【0067】
【化30】
表IXに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1693、1277、1167、1141、1130、1094、703、および682毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1693、1277、1167、および682cm−1で現れるものである。
【0068】
図3には、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型のラマンスペクトルが示されている。図3のスペクトルの最も特徴的な12の散乱ピークが、表X(下記)に列挙されている(毎センチメートル、cm−1)。列挙した各ピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で示されている。
【0069】
【化31】
表Xに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、3695、3690、3625、1604、1032、997、724、および616cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、3695、1032、997、および724cm−1で現れるものである。
【0070】
図22には、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解した塩の約12mg/mL溶液を分析することによって得られた、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型のプロトンNMRスペクトルが示されている。スペクトルは、Varian INOVA−500 NMR分光計を使用して25℃にて溶液を分析することによって得た。表XIには、TMSに関するスペクトルの特徴的なピークがppmで列挙されている。7.3ppm〜8.0ppmの範囲は、一置換芳香環および対称性三置換芳香環で予測されるピークを有する。8.5ppm〜10.8ppmの範囲は、塩酸塩を形成するプロトン化アミンを含めた3つのアミンのピークと一致する。2.8〜4.8ppmの範囲は、窒素または酸素と隣接する5つの脂肪族プロトンと一致する。1.3ppm〜2.6ppmの範囲は、残りの8つの脂肪族プロトンと一致し、1.4ppmの二重線は、メチル基と一致する。
【0071】
【化32】
式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型は、上述の方法にしたがって、示差走査熱量測定によって分析した。図4には、この分析から得られたDSCサーモグラムが示されている。図4のDSCサーモグラムは、約101℃を中心とする幅広い吸熱と、約150℃を中心とする第2の吸熱と、約207℃を中心とする第3の吸熱とを含む。第1の吸熱は、結晶性一水和物I型の脱水に相当し、相当する無水塩酸塩I型を生成する。第2の吸熱は、無水塩I型の溶融に相当し(約150℃)、これは溶融中に分解して無水塩酸塩II型を生成する。約207℃での第3の吸熱は、無水塩II型の融点に相当する。
【0072】
本発明者等は、一水和物塩酸塩I型が無水塩酸塩I型の分解点よりも低い温度で脱水された時に、その後周囲条件の温度と湿度下で無水塩I型を保存すると、結晶が一水和物形態に戻ることを見出した。上述の方法による安定性試験では、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型が、周囲温度および相対湿度約5%〜約95%の条件下で分解または脱水しないことが示された。
【0073】
無水塩I型の試料は、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型を窒素流下、70℃を超える温度で加熱することにより調製した。無水塩I型はX線粉末回折分光法によって分析した。図5には、式Iの化合物の無水塩酸塩I型のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図5に示すスペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム、A)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0074】
【化33】
【0075】
【化34】
表XIIに示す式Iの化合物の無水塩酸塩I型の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、12.9、14.3、15.4、17.3、19.9、20.2、23.0、および24.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、12.9、15.4、17.3、および20.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0076】
図6には、無水塩酸塩I型をその分解点を超えて加熱することによって調製される式Iの化合物の無水塩酸塩II型のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XIIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図6に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム、A)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)が列挙されている。
【0077】
【化35】
【0078】
【化36】
表XIIIに示す式Iの化合物の無水塩酸塩II型の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、7.0、9.0、10.4、12.6、13.7、17.3、20.2、および22.4に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、7.0、9.0、12.6、および20.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0079】
図7には、前述の方法にしたがって得られた式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。結晶性一水和物の最も特徴的な12のピークが、以下の表XIVに列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱とした表記法を使用して列挙されている。
【0080】
【化37】
【0081】
【化38】
表XIVに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1694、1597、1276、1166、1120、898、704、および682毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1694、1276、898、および682cm−1で現れるものである。
【0082】
図8には、前述の方法にしたがって得られた式Iの化合物の無水塩酸塩II型形態のラマンスペクトルが示されている。以下の表XVには、図8のスペクトルに示す化合物の最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、cm−1)が列挙されている。列挙したピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で記載されている。
【0083】
【化39】
表XVに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1694、1607、1456、1382、1001、729、618、および277cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1607、1001、729、および277cm−1で現れるものである。
【0084】
上述の方法にしたがって行った溶解度試験では、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型が、pH4以下(より酸性)で少なくとも約1.0mg/mLの水溶解度を有し、以下の表XVIに示す医薬品溶媒中、周囲温度にて、記載の溶解度を有することが判明した。
【0085】
【化40】
また、ポリエチレン袋に入れた試料について、前述の方法を使用して、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩形態の安定性も試験した。この試験は、以下の条件に試料を暴露することによって行った:(a)相対湿度(RH)60%、4℃にて12ヶ月間、25℃にて18ヶ月間、50℃にて1ヶ月間;(b)40℃、相対湿度(RH)75%にて12週間;(c)70℃、周囲湿度にて1時間。また、結晶性一水和物塩酸塩I型の試料を、1サイクルのICHのUV/Vis光ストレス条件でも試験した。これらの試験では、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型が、室温、相対湿度約5%〜約95%で安定しており、最高約70℃で安定しており、また光ストレス条件下で安定していることが明らかにされた。
【0086】
(式Iの化合物のトシル酸塩)
本願に記載のプロセスにしたがって、式Iの化合物のトシル酸塩の4つの形態を調製した。
【0087】
(トシル酸塩I型)
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型は、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)1gと、p−トルエンスルホン酸380mgをバイアル中の無水エタノール4mLに溶解することによって調製した。この溶液に無水ジエチルエーテル30mLを添加した。混合物を、透明になるまでさらにエタノールを滴下して滴定した。混合物を含むバイアルを覆い(通気孔の空いた覆いで)、周囲条件下に48時間静置し、その間に式Iの化合物のトシル酸塩I型の結晶が沈殿した。沈殿した結晶を濾過によって単離し、ジエチルエーテルのアリコートで洗浄して、空気中で乾燥させた。次いで結晶を収集し、ハウスバキューム下で一晩真空乾燥させた。
【0088】
図9〜11および図19では、このようにして得られた式Iの化合物のトシル酸塩I型形態に関して、前述の方法にしたがって、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって、またDSCによって特徴を明らかにした。以下の表XVIIには、度2シータ(°2θ、値は+/−0.02(°2θ)で示す)で表す回折角で表される、図9に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A)、+/−0.04Aで示す)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)が列挙されている。
【0089】
【化41】
【0090】
【化42】
表XVIIに示す式Iの化合物のトシル酸塩I型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、9.4、12.8、15.1、18.0、20.0、21.0、21.7、および25.3に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、9.4、20.0、21.0、および25.3に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0091】
図10には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物のトシル酸塩I型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XVIIIには、結晶性トシル酸塩I型の最も特徴的な12のピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極とした表記法を使用して特定されている。
【0092】
【化43】
【0093】
【化44】
表XVIIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1668、1275、1157、1125、1032、1009、899、および681毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1275、1125、1032、および681cm−1で現れるものである。
【0094】
図11には、式Iの化合物のトシル酸塩I型形態のラマンスペクトルが示されている。以下の表XIXには、化合物の最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、(cm−1))が列挙されている。表XIXに列挙した各ピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で列挙されている。
【0095】
【化45】
【0096】
【化46】
表XIXに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、3695、3250、1117、1026、996、793、727、および615cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、3250、1117、996、および727cm−1で現れるものである。
【0097】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態は、前述の方法を使用して、示差走査熱量測定によって分析した。図19には、それによって得られたDSCサーモグラムが示されている。このDSCサーモグラムは、約218℃を中心とする単一の鋭い吸熱が含まれるが、これは式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態の融点である。
【0098】
上述の方法にしたがって行った溶解度試験では、式Iの化合物のトシル酸塩I型が、pH4以内(より酸性)で最高0.38mg/mLの水溶解度を有し、以下の表XXに示す医薬品溶媒中、周囲温度で以下の溶解度を有することが判明した。
【0099】
【化47】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態の安定性は、計量した量の塩を透明のガラス製バイアルに入れ、記載の条件下で保存することによって試験した。定期的にバイアルを取り外し、内容物の化合物の分解を調べた。そのため、トシル酸塩I型の試料は、以下の条件に暴露した:(a)40℃、相対湿度(RH)75%にて4週間;(b)50℃、周囲相対湿度にて4週間;(c)70℃にて1時間。トシル酸塩I型の試料は、1サイクルのICHのUV/Vis光ストレス条件で別個に試験した。これらの試験では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態がすべての試験条件下で安定していることを明らかにする。
【0100】
(トシル酸塩II型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述の方法にしたがって調製される結晶性トシル酸塩I型をアセトニトリル(ACN)中でスラリー化することによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンのトシル酸塩II型(式Iの化合物のトシル酸塩II型)を調製した。図12、図15および図16では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態について、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって特徴を明らかにし、DSCによって分析を行った。
【0101】
図12には、本願に記載の一般的な方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XXIには、図12に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークが列挙されている。表XXIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される特徴的なピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0102】
【化48】
【0103】
【化49】
表XXIに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、5.0、9.1、10.0、13.2、13.6、14.9、19.7、および23.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、5.0、10.0、13.6、および19.7に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0104】
図15には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XXIIには、図15に示す結晶性トシル酸塩II型のスペクトルの最も特徴的な12のピークが列挙されており、列挙した各ピークに隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、B=広域、V=極とした表記法を使用して表されている。
【0105】
【化50】
【0106】
【化51】
表XXIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1671、1625、1276、1158、1119、1032、1010、898、816、770、705、および680毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1671、1276、1119、および680cm−1で現れるものである。
【0107】
図16には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態のラマンスペクトルが示されている。表XXIIIには、図16に示す最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、cm−1)が列挙されている。表XXIIIは、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で表している。
【0108】
【化52】
【0109】
【化53】
表XXIIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1608、1126、1037、1003、802、731、290、152cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1126、1037、1003、および802cm−1で現れるものである。
【0110】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態は、前述の一般的な方法を使用して、示差走査熱量測定によっても分析した。このようにして得られたDSCサーモグラムは、図20に示されている。図20では、DSCサーモグラムが、2つの広域の吸熱を含んでおり、1つは約52℃を中心としたものであり、これは結晶化溶媒の喪失に起因している。第2の広域の吸熱は、約143℃を中心としており、これは溶媒が除去された後に残留した塩形態の溶融および分解に起因している。
【0111】
(トシル酸塩III型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述のように調製される結晶性トシル酸塩I型をヘキサン中でスラリー化することによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)のトシル酸塩III型を調製した。図13および図21では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態について、上述の方法を使用して、X線粉末回折分光法によって特徴を明らかにし、DSCによって分析を行った。
【0112】
以下の表XXIVには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図13に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、B=広域、W=弱、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0113】
【化54】
表XXIVに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、6.3、9.7、12.6、16.7、17.2、20.2、20.7、および22.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、6.3、9.7、20.2、および22.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0114】
図21には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態のDSC分析から得られたDSCサーモグラムが示されている。このDSCサーモグラムは、約130℃を中心とする広域の吸熱を含むが、これは結晶化溶媒の喪失と、溶媒喪失後に残留した結晶性物質の分解に起因している。
【0115】
(トシル酸塩IV型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述のように調製される結晶性トシル酸塩I型をテトラヒドロフラン(THF)中でスラリー化して、THF溶媒和物を得ることによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)のトシル酸塩IV型を調製した。図14、図17、および図18では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態について、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって特徴を明らかにした。
【0116】
図14には、本願に記載の一般的な方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XXVには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図14に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、B=広域、W=弱、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0117】
【化55】
【0118】
【化56】
表XXVに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、6.1、7.3、9.6、13.3、16.9、18.8、20.9、および22.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、6.1、9.6、20.9、および22.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0119】
図17には、本願に記載の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XXVIには、結晶性トシル酸塩IV型の最も特徴的な12のピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、B=広域、V=極とした表記法を使用して表されている。
【0120】
【化57】
【0121】
【化58】
表XXVIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1673、1277、1172、1121、1029、1007、898、および665毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1277、1121、1007、および665cm−1で現れるものである。
【0122】
図18には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態のラマンスペクトルが示されている。表XXVIIには、図18に示すラマンスペクトルで最も特徴的な12の散乱ピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で表されている。
【0123】
【化59】
表XXVIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1604、1450、1383、1207、1120、1003、800、および289cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1604、1003、800、および289cm−1で現れるものである。
【技術分野】
【0001】
本特許出願は一般的に、薬学的に有用な塩と、薬学的に有用な塩を調製するための新規プロセスとに関する。具体的には、8−[{1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザ−スピロ[4.5]デカン−2−オンの薬学的に有用な塩を合成するための新規プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ジアザスピロデカン−2−オン、具体的には、8−[{1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザ−スピロ[4.5]デカン−2−オン、例えば、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の調製物は、全体が参考として本願で援用される、特許文献1(’320号特許、2006年5月23日発行)に開示されている。
【0003】
【化15】
’320号特許に開示される新規化合物は、タキキニン化合物に分類されており、神経ペプチドニューロキニン−1受容体の拮抗薬(本願では便宜上「NK−1受容体拮抗薬」と称する)である。
【0004】
’320号特許に記載される化合物は、タキキニン化合物に分類され、また神経ペプチドニューロキニン−1受容体(本願では、「NK−1受容体」)の拮抗薬である。これには、例えば、全体が参考として本願で援用される、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3、ならびに以下の刊行物(特許文献2;特許文献3(1998年);特許文献4(1997年);特許文献5(1995年)、特許文献6(1994年)、および特許文献7(1994年))のそれぞれに記載されるものがある。
【0005】
「NK−1」受容体拮抗薬は、例えば疼痛、炎症、片頭痛、嘔吐および痛覚の治療に有用な治療剤であることが明らかにされている。前述の’320号特許に開示されている新規NK−1化合物には、化学療法に伴う悪心および嘔吐(化学療法に伴う悪心および嘔吐、CINE)の治療に有用である式Iの化合物が含まれる。嘔吐および悪心は、化学療法を提供する際の問題となってきた。例えばシスプラチン、カルボプラチンおよびテモゾロマイドなどの化学療法剤は、急性および遅発性の悪心および嘔吐を伴っていた。例えば、テモゾロマイドとオンダンセトロンの併用投与について記載する特許文献8に記載されているように、化学療法剤を抗嘔吐薬とともに投与することが知られているが、このような療法は、遅発性悪心および嘔吐の予防には有効でない。
【0006】
’320号特許で報告されているように、式Iの化合物は、TLCおよびGC/MS法を特徴としていた。’320号特許に記載の方法では、式Iの化合物の非晶質白色泡沫形態が得られた。遊離塩基を結晶化する試みが繰り返されているが、結晶性物質は得られていない。
一般的に、治療活性を有すると認識されている化合物は、医薬用の高純度の形態で提供されなければならない。さらに、薬剤に組み入れるために容易に取り扱え、薬剤に組み入れた時に化合物が化学分解されにくい十分に頑強な性質を有し、それによって薬剤に長い貯蔵寿命をもたらすような形態で、医薬用の化合物を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,049,320号明細書
【特許文献2】国際公開第05/100358号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,760,018号明細書
【特許文献4】米国特許第5,620,989号明細書
【特許文献5】国際公開第95/19344号パンフレット
【特許文献6】国際公開第94/13639号パンフレット
【特許文献7】国際公開第94/10165号パンフレット
【特許文献8】米国特許第5,939,098号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wu et al, Tetrahedron 56, 3043−3051 (2000)
【非特許文献2】Rombouts et al, Tetrahedron Letters 42,7397−7399 (2001)
【非特許文献3】Rogiers et al, Tetrahedron 57, 8971−8981 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記を考慮すると、望まれているのは、治療剤を高純度の形態で提供するのに適した治療剤の形態である。また、取扱いや保管がなされる環境条件での劣化に対して頑強な治療剤の形態も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらおよびその他の目的が本発明により有利に提供され、一態様において、本発明は、例えば結晶性一水和物などの、結晶性であり、場合により1つ以上の溶媒分子を組み込む式Iの化合物の塩形態を提供する。いくつかの実施形態においては、塩酸塩およびトシル酸塩から化合物Iの塩形態を選択することが好ましく、式Iの化合物の塩酸塩一水和物形態であることがより好ましい。
【0011】
本発明の別の態様は、回折角(2θ、すべての値は±0.2の精度を示す)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Iに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式IIの塩酸塩一水和物化合物)の結晶性塩酸塩一水和物形態の提供である。
【0012】
【化16】
【0013】
【化17】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性無水塩酸塩形態(無水塩酸I型)の提供である。
【0014】
【化18】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IIIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性無水塩酸塩形態(無水塩酸II型)の提供である。
【0015】
【化19】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表IVに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸I型)の提供である。
【0016】
【化20】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表Vに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸II型)の提供である。
【0017】
【化21】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される、表VIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸III型)の提供である。
【0018】
【化22】
本発明の別の態様は、回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される表VIIに示すX線粉末回折パターンを特徴とする、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性トシル酸塩形態(トシル酸IV型)の提供である。
【0019】
【化23】
本発明の別の態様は、塩酸塩一水和物I型、無水塩酸塩I型およびII型、トシル酸塩I型、II型およびIII型から選択される((5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の少なくとも1つの結晶性塩形態を含有する医薬組成物の提供、ならびに式Iの化合物の結晶性塩形態の1つ以上を含有する薬剤を投与することによって、悪心よび嘔吐を治療および/または予防する方法の提供である。いくつかの実施形態においては、本発明にしたがって調製される式Iの化合物の塩を、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えばテモゾロマイドおよびシスプラチン、好ましくはテモゾロマイド)と併用投与することが好ましい。
【0020】
いくつかの実施形態においては、別個の剤形に含有される他の治療剤の同時期投与および同時投与から選択される投与計画で他の治療剤を投与することが好ましい。いくつかの実施形態においては、本発明の少なくとも1つの塩を1つ以上の治療剤とともに含有する剤形を使用した同時投与によって、他の治療剤を本発明の塩とともに投与することが望ましい。
いくつかの実施形態においては、悪心および嘔吐の治療および/または予防において、治療上有効な血清中濃度の式Iの化合物またはその塩を提供する量で、結晶性塩酸塩一水和物I型の(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンを含む薬剤を投与することによって療法を提供することが好ましい。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化2】
化合物(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型一水和物塩酸塩形態。
【化1】
(項目2)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化4】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性無水I型塩酸塩形態。
【化3】
(項目3)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化6】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性無水II型塩酸塩形態。
【化5】
(項目4)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化8】
8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型トシル酸塩形態。
【化7】
(項目5)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化9】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性II型トシル酸塩形態。
(項目6)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化10】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性III型トシル酸塩形態。
(項目7)
回折角(2θ)、格子「d」間隔(オングストローム)、および相対ピーク強度(「RI」)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化11】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの結晶性IV型トシル酸塩形態。
(項目8)
格子「d」間隔(オングストローム)および相対ピーク強度(「RI」、S=強、M=中、W=弱として示され、これらはそれぞれV=極、D=拡散によって、例えばVS=極強、VWD=極弱拡散のように修飾される場合がある)で表される以下のX線粉末回折パターンを特徴とする:
【化13】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の結晶性I型塩酸塩一水和物形態。
【化12】
(項目9)
項目1〜8のいずれかに記載の結晶性塩と、薬学的に許容される担体と、場合により1つ以上の他の治療剤とを含む医薬組成物。
(項目10)
化学療法剤もさらに含む、項目9に記載の組成物。
(項目11)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目10に記載の組成物。
(項目12)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目1〜8のいずれかに記載の結晶性塩を含む薬剤を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目13)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目9に記載の組成物を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目14)
哺乳類の嘔吐および/または悪心を治療および/または予防する方法であって、項目10に記載の組成物を治療有効量上記哺乳類に投与する手順を含む、方法。
(項目15)
式Iの化合物のエタノール溶液を塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群から選択される酸で処理することによって調製される、化合物(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式I)の塩。
【化14】
(項目16)
化学療法剤もさらに含む項目1に記載の製剤。
(項目17)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目16に記載の製剤。
(項目18)
化学療法を必要とする罹患体に項目17または18のいずれかに記載の製剤を投与することによって、化学療法とともに遅発性嘔吐および/または遅発性悪心に対する療法を提供する方法。
(項目19)
化学療法剤の同時期投与もさらに含む、項目12に記載の治療方法。
(項目20)
上記化学療法剤がテモゾロマイドである、項目19に記載の治療方法。
(項目21)
1つ以上の他の治療剤と組み合わせた、項目9に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度CPS、個数(平方根));横軸:2シータ(2θ)(度)]。
【図2】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図3】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図4】式Iの化合物の結晶性塩酸塩一水和物形態の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図5】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩I型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図6】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図7】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図8】式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図9】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図10】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図11】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図12】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図13】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型(ヘキサン溶媒和物)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図14】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的なX線粉末回折パターンを示す[縦軸:強度(CPS、個数(平方根));横軸:2シータ((2θ)度)]。
【図15】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図16】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図17】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的な赤外線スペクトルを示す[縦軸:透過率(%);横軸:波数(cm−1)]。
【図18】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型(THF溶媒和物)の特徴的なラマンスペクトルを示す[横軸:ラマンシフト(毎センチメートル);縦軸:バックグラウンドに対する相対強度]。
【図19】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図20】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型(アセトニトリルから結晶化)の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図21】式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型(ヘキサン溶媒和物)の特徴的な示差走査熱量測定サーモグラムを示す[縦軸:熱流(cal/秒/g);横軸:温度(℃)]。
【図22】式Iの化合物の塩酸塩の特徴的な溶液プロトンNMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)
【0023】
【化24】
の塩形態は、悪心および嘔吐の治療に有益な治療剤を提供する。薬剤の提供に有用な物理的および化学的特性を有する、式IIの一水和物塩酸塩(上記)および種々のトシル酸塩を含めた、(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の塩の調製物については、それぞれの全体が参考として本願で援用される、米国特許出願第60/789,280号および第60/789,513号に開示されている。
【0024】
細胞障害性化学療法の最も消耗性の高い副作用の2つが悪心と嘔吐である。これには、急性期の化学療法に伴う悪心および嘔吐(CINE)と、遅延期CINEとがある。急性期CINEは化学療法施行後24時間以内に発生し、遅延期CINEは化学療法施行後2日から5日の間に発現する。急性期CINEは、5HT3受容体拮抗薬をコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)としばしば組み合わせて投与することによって管理されてきたが、この治療は遅延期CINEの管理には有効でなかった。急性期CINEと遅延期CINEは異なる生理現象に起因すると考えられている。また、NK−1受容体拮抗薬(例えば、(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの塩)を単独で、あるいはコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)および/または5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)の内の1つ以上と組み合わせて投与することにより、ヒトのCINEの治療に有効な療法が提供されると考えられている。
【0025】
(5S,8S)−8−[[(1R)−1−(3,5−ビス−トリフルオロメチル)フェニル]−エトキシメチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンの塩は、CINEおよびNK−1阻害剤の投与による治療に適したその他の病態、例えば別の原因要素による悪心および/または嘔吐(例えば、動揺病や早朝嘔吐)を処置するための療法の提供に有用である。場合により、本発明の塩の内の1つを含有する製剤は、有効な投薬量で投与された時に、また場合により5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)および/または1つ以上のコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)を含有する別個の薬剤とともに投与された時に、CINEの管理に有用となる。場合により、本発明の塩を含有する製剤は、急性期および遅延期の両CINEの治療で療法を提供する際に、5HT3受容体拮抗薬(例えば、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、またはトロピセトロン)および/または1つ以上のコルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン)もさらに含んでよい。
【0026】
本発明はさらに、悪心および/または嘔吐を治療する方法も提供する。式Iの化合物の塩を含む薬剤は、いずれかの原因による(例えば、化学療法や放射線療法に起因する、術後回復期に生じる、動揺病に起因する、早朝嘔吐に起因する、ならびに内耳障害および感染に起因する)悪心および嘔吐に対する抗悪心および抗嘔吐治療の提供に有用であると考えられている。しかしながら、式Iの化合物は、化学療法や放射線治療に伴う、および術後回復期に生じる遅発性悪心および/または嘔吐に対する抗悪心および/または抗嘔吐治療の提供に最も有利に利用されると考えられている。いくつかの実施形態においては、本発明にしたがって調製される式Iの化合物の塩、あるいはその塩を含有する医薬組成物と、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えば、テモゾロマイドおよびシスプラチン、好ましくはテモゾロマイド)との組み合わせを提供することが好ましい。
【0027】
本願で使用される組み合わせには、単一剤形で投与するために医薬組成物中に物理的に混合された治療剤と;1つ以上の容器内に複数の治療剤を含有する薬剤またはキットと;例えば本願に記載されるような複数の治療剤の同時期または同時投与によって、治療上有効な濃度の式Iの化合物と他の治療剤とを提供する手順を含む療法の提供とが含まれる。キットの組み合わせが提供される場合には、一般的に複数の薬剤が、このような療法を必要とする罹患体への投与時に、薬剤に含有される治療有効量の活性医薬成分を提供するような形態で供給される。
【0028】
併用投与は、他の治療剤の同時期投与、すなわち本発明の塩形態の内の1つ以上を含む薬剤の投与前、投与中または投与後に第2の薬剤を投与することであり、この場合、第2の薬剤は、1つ以上の他の剤形で1つ以上の他の治療剤を含有する。他の治療剤の併用投与はまた、単一剤形に含有される複数の治療剤の同時投与によっても実施できる。後者の投与体系の例には、1つ以上の他の治療剤、例えば5HT−3阻害剤または化学療法剤(例えばテモゾロマイド)とともに、本発明の1つ以上の塩を含有するカプセル剤形がある。複数の治療剤を含有する一部の剤形では、単一の原薬の代わりにすべての治療剤の混合物を製剤に導入する(例えば、本発明の塩の代わりにすべての原薬の混合物を剤形に含有させる)ことによって、剤形に含有される製剤を調製することが好ましい。
【0029】
別個の薬剤として投与されるのであっても、本発明の製剤中に含まれるのであっても、5HT3受容体拮抗薬が使用される場合は、オンダンセトロン、グラニセトロン、パロノセトロン、ドラセトロン、およびトロピセトロンから選択されるのが好ましく、また別個の薬剤としてであっても、本発明の製剤中に含まれるのであっても、コルチコステロイドが使用される場合は、デキサメタゾンから選択されるのが好ましい。
【0030】
本製剤はまた、他の治療剤、例えば化学療法剤(例えばテモゾロマイド)を含有して、化学療法と、このような化学療法剤投与に伴う悪心および/または嘔吐の軽減および/または予防とを施行するための単一の薬剤を提供することもできる。テモゾロマイドの投薬量レベルの例については、米国特許第5,939,098号(’098号特許、1999年8月17日発行)、欧州特許第0858341B1号(’341号特許、2001年10月24日付与)、および米国特許出願公開第2006/0100188号(’188号広報、2006年5月11日公開)に記載されている。’098号特許と’341号特許のそれぞれには、化学療法に伴う即時型悪心および嘔吐に対する療法を提供するためのテモゾロマイドと5HT3阻害剤との併用投与について記載されている。’188号広報の表1および2(第2〜3ページ)には、テモゾロマイド投与のための詳細な投与計画が記載されている。
【0031】
また、本薬剤は、咳、早朝嘔吐、ならびに動揺病に起因する悪心および/または嘔吐を含むこれらに限定されない、NK‐1阻害剤の投与による治療に適した他の病態の治療に有用であるとも考えられている。
【0032】
本発明の化合物が抗悪心および抗嘔吐治療の提供に有用であるだけでなく、本願に開示される塩形態は、前記化合物の遊離塩基形態に比べて極性溶媒中での溶解度が高いことに関する処理上の利点を有するが、これらの利点は有用な薬剤の提供において有益である。さらに、トシル酸塩および塩酸塩のそれぞれは、前記化合物の非晶質形態に比べて以下の利点を有する形態で式Iの化合物を提供する1つ以上の結晶性形態を有する:より少ない不純物含有量およびより均一な製品品質、すなわちより均一な色、溶解速度、および取扱いの容易さを含めたより均一な物理的特徴;ならびに薬剤に組み込まれた時のより長期間の安定性。
【0033】
以下で詳述する通り、本願に記載される式Iの化合物の結晶性塩形態のそれぞれは、それぞれの塩形態の特徴的なX線回折パターン(図1、図5、図6、図9および図12〜14を参照)、特徴的な赤外線スペクトル(図3、図8、図11、図16および図18を参照)、および示差走査熱量測定(DSC)分析によるサーモグラム(図4、図19、図20および図21)の内の1つ以上を検討することによって、互いに、また非晶質と容易に区別することができる。
【0034】
本発明者等は、驚くべきことに、式Iのジアザスピロデカン−2−オンが、式Iの化合物のトシル酸塩を形成するためのp−トルエンスルホン酸
【0035】
【化25】
および式Iの化合物の塩酸塩を形成するための塩酸(HCl)(例えば、式IIの塩酸塩一水和物)から選択される無機酸によって沈殿させることができることを発見した。意外にも、これらの塩は、場合により結晶構造中に存在するプロトン化した式Iの化合物の各分子の結晶構造中に1つ以上の溶媒分子を含む結晶性固体形態で沈殿させることができる。結晶構造の一部を形成できると本発明者等が認めた好適な溶媒分子の例には、水、ヘキサン、およびアセトニトリルがある。
【0036】
本発明の塩は、それらの物理的特性において遊離塩基よりも優るいくつかの驚くべき利点(例えば化合物を粉砕、微粉化、および可溶化する能力)を有する。本発明の塩は、望ましい溶解度と取扱い性を有することに加えて、熱力学的に頑強であるため、薬剤中に容易に組み込まれ、多様な環境条件下で安定した塩形態で式Iの化合物を提供することが判明している。
【0037】
既知の通り、通常治療剤は、約pH1から約pH7のpH範囲にわたって水溶解度が約10mg/mL未満の時に、低い吸収率を示す。さらに、経口投与された治療剤がこのpH範囲内で約1mg/mL未満の溶解度を示す場合は、経口投与された薬剤中で溶解度と吸収とが関連しているため、通常このような治療剤は溶解率が限定された吸収を示す。したがって、これらの塩の溶解特性の改善は、式Iの化合物を治療剤として送達するように意図された経口投与形態の薬剤を提供するために重要である。本発明の一部の塩は、これらの望ましい改善された溶解特性に加えて、以下に詳述するような有利な物理的特性を示す。
【0038】
一般的に、本発明の塩は、以下の方法にしたがって、式Iの化合物と、トルエンスルホン酸および塩酸から選択される酸とから調製される場合がある:
i)攪拌しながら、容器内の無水エタノール約3mLに0.1g量の式Iの化合物(約0.2mMol)と相当量(0.2mMol)の選択される酸とを溶解する;
ii)続けて攪拌しながら、混合物が混濁するまで無水ジエチルエーテルを混合物に滴下する;
iii)混濁を除去するのにちょうど十分な量の無水エタノールを混濁した混合物に添加する(通常は数滴);
iv)攪拌を停止し、通気孔を有するアルミニウム箔で容器を覆い、24〜48時間静止放置すると、この期間に固体が沈殿する;
v)静止期の終わりに、固体を濾過によって回収し、溶媒で洗浄してから、まず空気中で約1〜約18時間乾燥させ、その後ハウスバキューム下で周囲温度にて一晩真空乾燥させ、式Iの化合物の塩を生成する。
【0039】
一部の塩では、以下の一般的な方法にしたがって、溶媒和物形態の種々の結晶が調製される。上記の方法による反応性結晶化、あるいは上述の一般的な方法を使用してまず非晶質材料として沈殿させた後、その非晶質塩のスラリーに種晶を加えることによって結晶化させた塩の再結晶化によって調製される塩の試料を計量してバイアルに加える(通常は約10mg〜約50mg)。エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、水、トルエン、酢酸エチル、塩化メチレン、およびヘキサンから選択される、固体を完全に浸漬するのに十分な量の溶媒をバイアルに添加する。固体と溶媒は、溶媒和結晶を提供するのに十分な期間(例えば、約7日間)にわたり周囲条件下で攪拌する。溶媒和結晶が調製されたら、懸濁した溶媒和結晶を粉末X線回折分光計で使用するために試料ホルダー上に滴下し、空気乾燥させる。次に、これらの試料を本願に記載の方法にしたがってX線分光法で分析する。式Iの化合物の発明の塩を調製するための他の方法を、以下に記載および例示する。
【0040】
(分析方法)
式Iの化合物の結晶性塩形態のそれぞれについて、X線粉末回折分光法(PXRD)、赤外線分光法(IR)、およびラマン分光法(ラマン)を含む1つ以上の技法によって特徴を明らかにする。また、化合物Iの選択した塩形態を示差走査熱量測定(DSC)によっても分析し、および/またはさらに溶解度試験および安定性試験を含む物理的方法によっても特徴を明らかにする。
【0041】
(X線粉末回折分光法)
以下の方法の内の1つを使用して、試料に対してX線粉末回折分光法を実施した。上述の方法にしたがって調製される溶媒和物に対しては、以下の方法にしたがってRigaku分光計で分析を行った。
【0042】
Rigaku Miniflex分光計を使用して得られた試料の分析には、以下の方法を使用した(PXRD法I)。PXRD法Iで分析する試料を低バックグラウンドプレート上に軽く詰めた。試料を周囲温度および湿度を有する室内環境に暴露した。Rigaku分光計には、試料を54rpmで回転させる6プレート回転台を装備し、試料試験における結晶の優先配向を最低限に抑えた。Rigaku分光計にはまた、Kα2フィルタを備えずに使用される銅Kα線源も装備した。分光計にはまた、可変発散スリットと0.3mm受光スリットも装備した。走査範囲は2.0〜40°2θで実施した。計器較正は111面のCu Kα1ピークを使用して検証した。走査中、ステップ継続時間0.6秒間でステップサイズは0.02度であった。データ分析は、Jade Plus(リリース5.0.26)分析ソフトウェアを使用して行った。データは、Savitzky−Golay放物線フィルタにより11点で平滑化した。通常「d」間隔値は±0.04A以内の精度である。
【0043】
2002年に製造されたBruker D8回折計を使用して、一部の試料にX線粉末回折分光法分析を実施した(PXRD法II)。Bruker回折計には、GOEBELビーム集束ミラーと固定ラジアルソーラースリットを装備したPSD検出器を使用した並列光学構成を装備した。Bruker回折計は、Anton Paar TTK450温度ステージとともに使用した。放射線源は銅(Kα)である。発散スリットは0.6mmに固定する。Bruker回折計は、トップローディング式黄銅ブロック試料ホルダーを使用した。PSD高速走査を使用して、4.0°から39.9°までを走査した。回折パターンを得るために、試料を試料ホルダーに装填し、ガラス製顕微鏡スライドと水平にした。試料チャンバは、25℃、30℃または120℃に温度を設定し、周囲湿度で、窒素でパージせず、真空にしなかった。計器較正はマイカ基準を使用して検証した。走査中、ステップ継続時間0.5から10秒間で、ステップサイズは0.013°から0.02°であった。データ分析は、EVA分析ソフトウェア(バージョン7.0.0.1、Bruker(登録商標)提供、SOCABIM(登録商標)作成)を使用して行った。データはこのソフトウェアにより0.1〜0.15で平滑化した。
【0044】
上述の方法にしたがって調製される溶媒和物試料を除き、X線粉末回折(「PXRD」)による分析用の試料は、あらゆる形態変化を防ぐために最低限の調製がなされた。試料粒子は、平滑な表面を形成して凝集しないように、試料ホルダー内に軽く詰めた。上述の方法にしたがって調製される溶媒和試料以外に対しては、溶剤、乾燥またはその他の調製手順を使用しなかった。
【0045】
(赤外線分光法)
試料は、Avatar Smart Miracle Attenuated Total Reflectrance(ATR)試料コンパートメントを装備したNicolet Instruments NEXUS 670 FTIRを使用した減衰全反射(ATR)赤外線分光法を使用して特徴を明らかにした。スペクトルは以下のパラメータを使用して収集した:DTGS KBr Detector;KBrビームスプリッタ;走査範囲600cm−1〜4000cm−1;絞り設定100;分解能2;試料1つにつき走査100回。分析は、バックグラウンドスペクトルを収集した後、対照標準または微粒子試料(通常は3mg〜5mgの試料)をATR結晶上に設置し、製造元の推奨にしたがって計器の加圧アームで試料に力を印加することによって実施した。次に、製造元のプロプライエタリソフトウェアを使用して、バックグラウンドと試料のスペクトルの比率として、検体(対照または試料)のスペクトルを得た。
【0046】
(ラマン分光法)
本発明の塩酸塩およびトシル酸塩のラマン分光分析(ラマン)は、Thermo Electron Nicolet Almega分散ラマン分光計の高分解能モードで実施した。試料をNMR試料管に入れ、以下の条件下でスペクトルを得た:走査範囲4000cm−1〜90cm−1;露光時間1.0秒;試料100個およびバックグラウンド露光100回;励起レーザ785nm/パワーレベル100%/平行レーザ偏光;格子1200本/mm;100ミクロンスリット;カメラ温度−50℃。
【0047】
(示差走査熱量測定)
熱量測定試験は、TA Instrumentsの変調示差走査熱量計(DSC)を使用して実施した。DSC走査は、流速40mL/分の窒素流下、開放型アルミニウムパン内で加熱速度10℃/分にて行った。
【0048】
溶解度試験は、過剰の化合物を対象溶媒のアリコートに加え、選択される温度条件(通常は周囲温度)下でスラリーを平衡化した。溶媒が水の場合は、塩酸および水酸化ナトリウムでpHを所望の値に調整した。スラリー混合物が平衡化したら、上澄みから余分な固形分を遠心分離(水)または濾過(その他すべての溶媒)し、希釈した上澄み液のアリコートのHPLC分析を使用して、溶解した化合物の量を定量化した。溶媒は医薬品グレードのものを使用した。
【0049】
化学的安定性試験は、対象塩形態のアリコートに対して、正確に計量した式Iの化合物の塩形態の試料をポリエチレン袋に入れて実施した。袋詰めした試料を、金属キャップを取り付けたファイバーボードの管に入れ、所定の湿度および温度条件下で所定の期間保管した。分析は、バイアルの内容物を溶解し、HPLC分析を使用して溶質の量を定量化することによって実施した。指定がある場合は、所定の条件下で、ポリエチレン袋の代わりに蓋をしたアンバーのバイアル内でアリコートを保管した。
【実施例】
【0050】
式Iの化合物の塩酸塩およびトシル酸塩形態を下記のように調製した。後述する通り、式Iの化合物塩形態のそれぞれについて、上で詳述した技法を使用して、X線粉末回折分光法、赤外線分光法、およびラマン分光法を含む種々の分光法により特徴を明らかにした。選択した塩形態の安定性、溶解度およびその他の改善された物理的特性を分析したが、一部の塩については示差走査熱量測定(DSC)による分析も行った。それ以外の記載がない限り、本願に記載の反応性結晶化、再結晶化およびスラリー化方法はすべて、特定のグレード(特別の指定のない限り、一般的には医薬品または食品グレード)の市販の溶媒中で実施し、(特別の指定のない限り)入手したまま使用した。
【0051】
以下の実施例に記載の式Iの化合物の塩の調製において使用するのに好適な式Iの化合物の調製物(遊離塩基)は、’320号特許に開示される方法、または式IIIの化合物を使用する本願に記載の方法のいずれかによって得た。
【0052】
本願に記載の塩の調製で使用する式Iの化合物である(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンを調製するのに好適な一方法は、全体が参考として本願で援用される、前述の米国特許第7,049,320号(’320号特許)に記載されているが、ここでは式Iの化合物の前駆物質として化合物61を使用している(’320号特許の段落番号0098、1行目〜段落番号0100、10行目を参照)。
【0053】
本発明による塩の調製で使用する式Iの化合物はまた、代理人整理番号CD06628US01として2007年3月22日に申請の出願に記載の方法にしたがっても好適に調製される場合もあるが、この方法は、式IIIの化合物のトルエン溶液をメチルスルホン酸で処理することによって、式IIIの化合物のメシル酸塩を沈殿させる手順を含む。金属亜鉛の存在下で式IIIの化合物を酢酸で処理することによって、式IIIの化合物の環化と硝酸還元が同時に行われ、式Iの化合物の遊離塩基が得られる。
【0054】
【化26】
以下の実施例では、式IIIの化合物を式Iの化合物に変換する上述のプロセスを説明する。容器に、式IIIの化合物のメシル酸塩(代理人整理番号CD06228L01USとして2007年3月20日に申請の特許出願に記載の方法にしたがって調製される式IIIの化合物のメシル酸塩の沈殿によって得られる)8.14kgを入れた。攪拌しながら、式IIIの化合物の塩を濃酢酸82Lに溶解し、溶液の温度を約25℃〜約30℃に調節した。反応器のパージと通気を3回行うことによって、不活性窒素雰囲気下で別の反応器に亜鉛末12.2kgを加えた。次に不活性雰囲気を維持しながら、濃酢酸42Lで亜鉛末を覆った。不活性雰囲気を維持しつつ、亜鉛末/酢酸混合物を攪拌して、実質的にすべての亜鉛末を懸濁状態に維持し、反応容器内の温度が約60℃を超えないように維持する速度で、式IIIの化合物の酢酸溶液をゆっくりと添加し始めた。式IIIの化合物の溶液をすべて添加したら、反応容器の温度を約55℃〜約60℃に維持した。反応混合物の温度を維持し、激しい攪拌を続け、実質的にすべての式IIIの化合物が消費されたことを反応混合物の試料が示すまで、亜鉛の懸濁を維持した。
【0055】
反応が完了した(反応混合物中に存在する非環化物質が約5モル%未満)ことを試料が示したら、反応混合物を約30℃〜約20℃の温度に冷却した。反応混合物が冷却されたら、濾過助剤(Hyflo)約4.12kgで濾過した。濾過ケーキをトルエン70Lのアリコート2回で洗浄し、既に得てあった濾液と混合した。混合した洗浄液と濾液を、圧力約80mbar〜約120mbar、温度約30℃〜約60℃で真空蒸留した。このようにして得られた残渣を不活性雰囲気下で維持し、周囲温度でトルエン41L中に再溶解した。
【0056】
残渣のトルエン溶液を、2N塩酸水溶液45Lで、次いで9重量%の炭酸ナトリウム水溶液(H2O 82L中Na2CO3 8kg)80Lで、次いで10重量%の塩化ナトリウム水溶液(H2O 21L中NaCl 2.2kg)22Lアリコート(連続2回)で順次洗浄した。洗浄計画の完了後、トルエン上澄み溶液を0.2ミクロンのインラインフィルターで濾過した。フィルタをさらに4Lのトルエンでリンスし、これを式Iの遊離塩基化合物を含有する上澄み液と混合した。
【0057】
(式IIIの化合物反応混合物からの塩酸塩一水和物I型の直接提供)
上述のように式IIIの化合物から調製した式Iの遊離塩基化合物を含有する上澄みを反応器に入れ、温度20℃〜約25℃に維持した。式Iの化合物の塩酸塩一水和物の種晶を約0.004kgの量で上澄みに添加した。溶液に種晶を添加した後、濃塩酸水溶液(37%)1.7Lと、約5体積%のイソプロパノールを含有するエタノール(ThommenのFine Spirit(登録商標))1.2Lとを約20分間かけて添加した。混合物を約30分間攪拌した。攪拌を継続し、混合物を冷却して、温度0℃〜約5℃に維持した。冷却した混合物をさらに35分間攪拌した。攪拌期間の終了時に、このようにして得られた結晶をNo.148フィルタで真空濾過することによって単離し、トルエンとメチル第三ブチルエーテル(MTBE)の1:1(体積比)混合物5Lのアリコートで連続5回、次いでMTBE 10Lのアリコート1回分を含有する最終洗浄液で洗浄した。
【0058】
沈殿した一水和物塩酸塩I型の結晶をフィルタから回収し、残留溶媒(MTBE、エタノール、トルエンおよび水)の所望の値が得られるまで、真空オーブンで約40℃〜約45℃にて乾燥させた。
【0059】
(式Iの化合物の塩酸塩)
上記の一般的な方法にしたがって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)の溶液を塩酸で処理することによって調製される式Iの化合物の非晶質塩酸塩形態は、式Iの化合物の塩の3つの結晶性形態に変換できることが判明した。
【0060】
(式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型)
結晶性一水和物塩酸塩I型は、1当量の(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(’320号特許に記載の方法にしたがって調製した式Iの化合物)を最小限のエタノールまたはメタノールに溶解し、この溶液に1当量の塩酸を添加することによって、式Iの化合物から直接調製した。塩酸の添加に続いて、式Iの化合物の一水和物塩酸塩形態の結晶が溶液から析出するまで、攪拌しながら溶液に水を滴下した。結晶を濾過によって上澄み液から分離し、エタノールで洗浄した後、真空乾燥させた。
【0061】
塩酸塩が、上述の式IIIの化合物の反応から直接得られた式Iの化合物の遊離塩基の沈殿によって得られたのであっても、あるいは’320号特許に記載の方法により得られたのであっても、あるいは別の方法に得られたのであっても、式Iの化合物の塩酸塩は、以下の方法にしたがって再結晶化し、以下の方法にしたがって一水和物塩酸塩結晶I型を得ることができる。窒素ブランケット下で、上述のように調製される式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型14.54kgを容器に添加した。Fine Spirits(登録商標)(5重量%のイソプロパノールを含むエタノール)35L、水35L、濃塩酸(37%)0.3Lを含有する混合物を攪拌しながら添加することによって、結晶を懸濁させた。攪拌を継続しながら、懸濁液を加熱還流させた(約78℃〜85℃)。溶液が透明になると、No.3フィルタで第2の容器に濾過した。フィルタをFine Spirits(登録商標)10Lと水32Lとを含有する温度約60℃〜約70℃の水/エタノール混合物でリンスし、リンス液を濾過液に添加した。混合したリンス液と濾液の温度は73℃(±1℃)で安定させ、一水和物塩酸塩I型の種晶0.115kgを攪拌しながら添加した。攪拌を続けながら、さらに約20分間、温度約73℃を維持した。次に、溶液を約0.5℃/分の速度で温度0℃〜5℃まで冷却し、濃厚懸濁液が徐々に形成される間、攪拌しながら33分間この温度に維持した。この期間の終了時に、No.110フィルタで濾過することによって、懸濁液から結晶を分離した。冷却して温度0℃〜5℃に維持してあったエタノール/水混合物(エタノールと水の体積比40:60)14.5Lでフィルタを洗浄した。フィルタから結晶を回収し、温度35℃〜40℃に維持した真空乾燥器で約15時間乾燥させた。
【0062】
図1〜4では、前述のように、X線、赤外線、およびラマン分光法によって、またDSCによって、上で調製した式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型を分析した。以下の表VIIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図1に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0063】
【化27】
【0064】
【化28】
表VIIIに示す式Iの化合物の一水和物塩酸塩の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、12.9、16.1、18.4、18.7、19.8、21.6、23.5、および24.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、16.1、18.4、21.6、および23.5に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0065】
図2には、上述の方法にしたがって得られた、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型の透過赤外線スペクトルが示されている。図2に示す結晶性一水和物塩酸塩I型の最も特徴的な12のピークが、以下の表IXに列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱とした表記法を使用して列挙されている。
【0066】
【化29】
【0067】
【化30】
表IXに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1693、1277、1167、1141、1130、1094、703、および682毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1693、1277、1167、および682cm−1で現れるものである。
【0068】
図3には、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型のラマンスペクトルが示されている。図3のスペクトルの最も特徴的な12の散乱ピークが、表X(下記)に列挙されている(毎センチメートル、cm−1)。列挙した各ピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で示されている。
【0069】
【化31】
表Xに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、3695、3690、3625、1604、1032、997、724、および616cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、3695、1032、997、および724cm−1で現れるものである。
【0070】
図22には、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解した塩の約12mg/mL溶液を分析することによって得られた、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型のプロトンNMRスペクトルが示されている。スペクトルは、Varian INOVA−500 NMR分光計を使用して25℃にて溶液を分析することによって得た。表XIには、TMSに関するスペクトルの特徴的なピークがppmで列挙されている。7.3ppm〜8.0ppmの範囲は、一置換芳香環および対称性三置換芳香環で予測されるピークを有する。8.5ppm〜10.8ppmの範囲は、塩酸塩を形成するプロトン化アミンを含めた3つのアミンのピークと一致する。2.8〜4.8ppmの範囲は、窒素または酸素と隣接する5つの脂肪族プロトンと一致する。1.3ppm〜2.6ppmの範囲は、残りの8つの脂肪族プロトンと一致し、1.4ppmの二重線は、メチル基と一致する。
【0071】
【化32】
式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型は、上述の方法にしたがって、示差走査熱量測定によって分析した。図4には、この分析から得られたDSCサーモグラムが示されている。図4のDSCサーモグラムは、約101℃を中心とする幅広い吸熱と、約150℃を中心とする第2の吸熱と、約207℃を中心とする第3の吸熱とを含む。第1の吸熱は、結晶性一水和物I型の脱水に相当し、相当する無水塩酸塩I型を生成する。第2の吸熱は、無水塩I型の溶融に相当し(約150℃)、これは溶融中に分解して無水塩酸塩II型を生成する。約207℃での第3の吸熱は、無水塩II型の融点に相当する。
【0072】
本発明者等は、一水和物塩酸塩I型が無水塩酸塩I型の分解点よりも低い温度で脱水された時に、その後周囲条件の温度と湿度下で無水塩I型を保存すると、結晶が一水和物形態に戻ることを見出した。上述の方法による安定性試験では、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型が、周囲温度および相対湿度約5%〜約95%の条件下で分解または脱水しないことが示された。
【0073】
無水塩I型の試料は、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型を窒素流下、70℃を超える温度で加熱することにより調製した。無水塩I型はX線粉末回折分光法によって分析した。図5には、式Iの化合物の無水塩酸塩I型のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図5に示すスペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム、A)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0074】
【化33】
【0075】
【化34】
表XIIに示す式Iの化合物の無水塩酸塩I型の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、12.9、14.3、15.4、17.3、19.9、20.2、23.0、および24.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、12.9、15.4、17.3、および20.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0076】
図6には、無水塩酸塩I型をその分解点を超えて加熱することによって調製される式Iの化合物の無水塩酸塩II型のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XIIIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図6に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム、A)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)が列挙されている。
【0077】
【化35】
【0078】
【化36】
表XIIIに示す式Iの化合物の無水塩酸塩II型の特徴を示すピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、7.0、9.0、10.4、12.6、13.7、17.3、20.2、および22.4に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、7.0、9.0、12.6、および20.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0079】
図7には、前述の方法にしたがって得られた式Iの化合物の結晶性無水塩酸塩II型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。結晶性一水和物の最も特徴的な12のピークが、以下の表XIVに列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱とした表記法を使用して列挙されている。
【0080】
【化37】
【0081】
【化38】
表XIVに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1694、1597、1276、1166、1120、898、704、および682毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1694、1276、898、および682cm−1で現れるものである。
【0082】
図8には、前述の方法にしたがって得られた式Iの化合物の無水塩酸塩II型形態のラマンスペクトルが示されている。以下の表XVには、図8のスペクトルに示す化合物の最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、cm−1)が列挙されている。列挙したピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で記載されている。
【0083】
【化39】
表XVに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1694、1607、1456、1382、1001、729、618、および277cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1607、1001、729、および277cm−1で現れるものである。
【0084】
上述の方法にしたがって行った溶解度試験では、式Iの化合物の一水和物塩酸塩I型が、pH4以下(より酸性)で少なくとも約1.0mg/mLの水溶解度を有し、以下の表XVIに示す医薬品溶媒中、周囲温度にて、記載の溶解度を有することが判明した。
【0085】
【化40】
また、ポリエチレン袋に入れた試料について、前述の方法を使用して、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩形態の安定性も試験した。この試験は、以下の条件に試料を暴露することによって行った:(a)相対湿度(RH)60%、4℃にて12ヶ月間、25℃にて18ヶ月間、50℃にて1ヶ月間;(b)40℃、相対湿度(RH)75%にて12週間;(c)70℃、周囲湿度にて1時間。また、結晶性一水和物塩酸塩I型の試料を、1サイクルのICHのUV/Vis光ストレス条件でも試験した。これらの試験では、式Iの化合物の結晶性一水和物塩酸塩I型が、室温、相対湿度約5%〜約95%で安定しており、最高約70℃で安定しており、また光ストレス条件下で安定していることが明らかにされた。
【0086】
(式Iの化合物のトシル酸塩)
本願に記載のプロセスにしたがって、式Iの化合物のトシル酸塩の4つの形態を調製した。
【0087】
(トシル酸塩I型)
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型は、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)1gと、p−トルエンスルホン酸380mgをバイアル中の無水エタノール4mLに溶解することによって調製した。この溶液に無水ジエチルエーテル30mLを添加した。混合物を、透明になるまでさらにエタノールを滴下して滴定した。混合物を含むバイアルを覆い(通気孔の空いた覆いで)、周囲条件下に48時間静置し、その間に式Iの化合物のトシル酸塩I型の結晶が沈殿した。沈殿した結晶を濾過によって単離し、ジエチルエーテルのアリコートで洗浄して、空気中で乾燥させた。次いで結晶を収集し、ハウスバキューム下で一晩真空乾燥させた。
【0088】
図9〜11および図19では、このようにして得られた式Iの化合物のトシル酸塩I型形態に関して、前述の方法にしたがって、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって、またDSCによって特徴を明らかにした。以下の表XVIIには、度2シータ(°2θ、値は+/−0.02(°2θ)で示す)で表す回折角で表される、図9に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A)、+/−0.04Aで示す)と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)が列挙されている。
【0089】
【化41】
【0090】
【化42】
表XVIIに示す式Iの化合物のトシル酸塩I型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、9.4、12.8、15.1、18.0、20.0、21.0、21.7、および25.3に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、9.4、20.0、21.0、および25.3に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0091】
図10には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物のトシル酸塩I型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XVIIIには、結晶性トシル酸塩I型の最も特徴的な12のピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極とした表記法を使用して特定されている。
【0092】
【化43】
【0093】
【化44】
表XVIIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1668、1275、1157、1125、1032、1009、899、および681毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1275、1125、1032、および681cm−1で現れるものである。
【0094】
図11には、式Iの化合物のトシル酸塩I型形態のラマンスペクトルが示されている。以下の表XIXには、化合物の最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、(cm−1))が列挙されている。表XIXに列挙した各ピークに隣接する列には、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で列挙されている。
【0095】
【化45】
【0096】
【化46】
表XIXに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、3695、3250、1117、1026、996、793、727、および615cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、3250、1117、996、および727cm−1で現れるものである。
【0097】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態は、前述の方法を使用して、示差走査熱量測定によって分析した。図19には、それによって得られたDSCサーモグラムが示されている。このDSCサーモグラムは、約218℃を中心とする単一の鋭い吸熱が含まれるが、これは式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態の融点である。
【0098】
上述の方法にしたがって行った溶解度試験では、式Iの化合物のトシル酸塩I型が、pH4以内(より酸性)で最高0.38mg/mLの水溶解度を有し、以下の表XXに示す医薬品溶媒中、周囲温度で以下の溶解度を有することが判明した。
【0099】
【化47】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態の安定性は、計量した量の塩を透明のガラス製バイアルに入れ、記載の条件下で保存することによって試験した。定期的にバイアルを取り外し、内容物の化合物の分解を調べた。そのため、トシル酸塩I型の試料は、以下の条件に暴露した:(a)40℃、相対湿度(RH)75%にて4週間;(b)50℃、周囲相対湿度にて4週間;(c)70℃にて1時間。トシル酸塩I型の試料は、1サイクルのICHのUV/Vis光ストレス条件で別個に試験した。これらの試験では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩I型形態がすべての試験条件下で安定していることを明らかにする。
【0100】
(トシル酸塩II型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述の方法にしたがって調製される結晶性トシル酸塩I型をアセトニトリル(ACN)中でスラリー化することによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オンのトシル酸塩II型(式Iの化合物のトシル酸塩II型)を調製した。図12、図15および図16では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態について、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって特徴を明らかにし、DSCによって分析を行った。
【0101】
図12には、本願に記載の一般的な方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XXIには、図12に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークが列挙されている。表XXIには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される特徴的なピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、W=弱;B=広域、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0102】
【化48】
【0103】
【化49】
表XXIに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、5.0、9.1、10.0、13.2、13.6、14.9、19.7、および23.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、5.0、10.0、13.6、および19.7に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0104】
図15には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XXIIには、図15に示す結晶性トシル酸塩II型のスペクトルの最も特徴的な12のピークが列挙されており、列挙した各ピークに隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、B=広域、V=極とした表記法を使用して表されている。
【0105】
【化50】
【0106】
【化51】
表XXIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1671、1625、1276、1158、1119、1032、1010、898、816、770、705、および680毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1671、1276、1119、および680cm−1で現れるものである。
【0107】
図16には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態のラマンスペクトルが示されている。表XXIIIには、図16に示す最も特徴的な12の散乱ピーク(毎センチメートル、cm−1)が列挙されている。表XXIIIは、各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で表している。
【0108】
【化52】
【0109】
【化53】
表XXIIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1608、1126、1037、1003、802、731、290、152cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1126、1037、1003、および802cm−1で現れるものである。
【0110】
式Iの化合物の結晶性トシル酸塩II型形態は、前述の一般的な方法を使用して、示差走査熱量測定によっても分析した。このようにして得られたDSCサーモグラムは、図20に示されている。図20では、DSCサーモグラムが、2つの広域の吸熱を含んでおり、1つは約52℃を中心としたものであり、これは結晶化溶媒の喪失に起因している。第2の広域の吸熱は、約143℃を中心としており、これは溶媒が除去された後に残留した塩形態の溶融および分解に起因している。
【0111】
(トシル酸塩III型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述のように調製される結晶性トシル酸塩I型をヘキサン中でスラリー化することによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)のトシル酸塩III型を調製した。図13および図21では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態について、上述の方法を使用して、X線粉末回折分光法によって特徴を明らかにし、DSCによって分析を行った。
【0112】
以下の表XXIVには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図13に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、B=広域、W=弱、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0113】
【化54】
表XXIVに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、6.3、9.7、12.6、16.7、17.2、20.2、20.7、および22.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、6.3、9.7、20.2、および22.2に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0114】
図21には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩III型形態のDSC分析から得られたDSCサーモグラムが示されている。このDSCサーモグラムは、約130℃を中心とする広域の吸熱を含むが、これは結晶化溶媒の喪失と、溶媒喪失後に残留した結晶性物質の分解に起因している。
【0115】
(トシル酸塩IV型)
本願に記載の一般的なスラリー化方法を使用して、前述のように調製される結晶性トシル酸塩I型をテトラヒドロフラン(THF)中でスラリー化して、THF溶媒和物を得ることによって、(5S,8S)−8−[{(1R)−1−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル)フェニル)−エトキシ}−メチル]−8−フェニル−1,7−ジアザスピロ[4.5]デカン−2−オン(式Iの化合物)のトシル酸塩IV型を調製した。図14、図17、および図18では、式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態について、X線粉末回折、赤外線、およびラマン分光法によって特徴を明らかにした。
【0116】
図14には、本願に記載の一般的な方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態のX線粉末回折スペクトルが示されている。以下の表XXVには、度2シータ(°2θ)で表す回折角で表される、図14に示すX線粉末回折スペクトルの特徴的な12のピークと、対応する「d」間隔(オングストローム(A))と、シグナルの相対強度(「RI」、表記法:S=強、M=中、B=広域、W=弱、V=極、D=拡散)とが列挙されている。
【0117】
【化55】
【0118】
【化56】
表XXVに示す式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態に特徴的なピークの中で、最も特徴的な8つのピークは、6.1、7.3、9.6、13.3、16.9、18.8、20.9、および22.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、6.1、9.6、20.9、および22.0に相当する回折角(°2θ)で現れるものである。
【0119】
図17には、本願に記載の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態の透過赤外線スペクトルが示されている。以下の表XXVIには、結晶性トシル酸塩IV型の最も特徴的な12のピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの相対吸収強度が、S=強、M=中、W=弱、B=広域、V=極とした表記法を使用して表されている。
【0120】
【化57】
【0121】
【化58】
表XXVIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1673、1277、1172、1121、1029、1007、898、および665毎センチメートル(cm−1)で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1277、1121、1007、および665cm−1で現れるものである。
【0122】
図18には、前述の方法を使用して得られた式Iの化合物の結晶性トシル酸塩IV型形態のラマンスペクトルが示されている。表XXVIIには、図18に示すラマンスペクトルで最も特徴的な12の散乱ピークが列挙されており、隣接する列には、列挙した各ピークの強度が、S=強、M=中、W=弱、V=極、B=広域とした表記法で表されている。
【0123】
【化59】
表XXVIIに示す特徴的なピークの中で、化合物の最も特徴的な8つのピークは、1604、1450、1383、1207、1120、1003、800、および289cm−1で現れるものであり、最も特徴的な4つのピークは、1604、1003、800、および289cm−1で現れるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図7】
【図15】
【図17】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図7】
【図15】
【図17】
【図22】
【公開番号】特開2013−32404(P2013−32404A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−253653(P2012−253653)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−504269(P2009−504269)の分割
【原出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(510087760)オプコ ヘルス, インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253653(P2012−253653)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−504269(P2009−504269)の分割
【原出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(510087760)オプコ ヘルス, インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】
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