説明

ALCパネル用アンカー金具およびALCパネル

【課題】屋外使用に耐えうる高い剪断引抜強度を有するALCパネルの取付が可能なALCパネル用アンカー金具およびこれを用いたALCパネルを提供すること。
【解決手段】ALCパネル30内に埋設されるアンカー金具10は、鉄筋マット36の主筋34a間距離以上の幅を有し、主筋34aの2本以上がかかる幅方向位置で一対の鉄筋マット36a、36bの間に配置され、一対の鉄筋マット36a、36bの両方の鉄筋に溶接される管状体12と、管状体12の内部空間に配置されるとともにその両端24a、24bが管状体12の周面に支持されており、その内周面に形成されている雌ネジ孔26の開口端がALCパネル30の短辺小口面30bに開口される筒状体14とを備える。さらに、管状体12は、鉄筋マット36の副筋34b間距離以上の長さを有し、その周面が一対の鉄筋マット36a、36bの両方の副筋34bの2本以上に溶接されると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁・間仕切壁・隔て壁・袖壁等の建築物の壁として好適に用いられるALCパネルのアンカー金具およびそのALCパネルに関し、さらに詳しくは、共同住宅等の高層建築におけるベランダでの隣戸との隔て壁や玄関周り通路での袖壁などの屋外使用される壁として好適に用いられるALCパネルのアンカー金具およびそのALCパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)は、その軽量性、耐熱性、耐火性等の特性に優れていることから、建物の屋根材、床材、壁材等の建築材料として広く用いられている。
【0003】
例えば、ALCパネルを壁材として用いる場合には、特許文献1に示されるように、床スラブにL型アングル鋼材の水平板を固定し、この水平板上にALCパネルを立設配置するとともに、水平板より起立形成されたL型アングル鋼材の垂直板に溶接されたイナズマプレートを介して、予めALCパネル内に埋設された埋設アンカーにボルト接合することにより、ALCパネルが取り付けられることが多い。
【0004】
上記取付方法による場合、ALCパネルを取り付けるための金具がALCパネルの壁面の外側に固定されることから、その金具は壁面の外側に露出される。ALCパネルの壁面の外側に金具が見えているため、取り付けられたALCパネルは、その金具により美観が損なわれることがある。
【0005】
ALCパネルの美観を重視する場合には、ALCパネルを床スラブに取り付けるための金具をALCパネルの壁面の外側に固定する方法を採用しないのが望ましい。ALCパネルの壁面以外の面に金具を固定する例としては、例えば特許文献2〜3には、立設配置されたALCパネルの下側短辺小口面にALCパネルを取り付けるための金具を固定する例が記載されている。
【0006】
具体的には、特許文献2には、ALCパネル内に埋設された補強鉄筋にL字型プレートの水平片が緊結され、このL字型プレートの垂下片に、長ナットが、そのネジ穴がALCパネルの下側短辺小口面に開口するように固着され、この長ナットに長尺ボルトが螺合されることにより、長尺ボルトの一端がALCパネル内に埋設されるとともにその他端がALCパネルの下側短辺小口面より突出されてなるALCパネルが開示されている。このALCパネルは、長尺ボルトの他端が床スラブに植設固定されることにより、床スラブに立設取付される。
【0007】
特許文献3には、ALCパネル内に埋設された補強鉄筋に、金属板の両端を直角に曲げ加工して形成されたコ字形状の板材の中央面にアンカーナットの一方の開口端が挿通固定されてなるアンカー金具が、アンカーナットの一方の開口端がALCパネルの下側短辺小口面に開口するように緊結されてなるALCパネルが開示されている。このALCパネルの下側短辺小口面には、さらに、コ字形状の板材よりなる取付金具が、下側短辺小口面と取付金具の中央面とが接するようにボルトで固定される。ALCパネルは、その取付金具の両側面の先端が、床スラブに予め埋設された金属プレートに溶接されることにより、床スラブに立設取付される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−26978号公報
【特許文献2】特開2004−339890号公報
【特許文献3】特開2009−97184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ALCパネルの下側短辺小口面にALCパネルを取り付けるための取付金具を固定し、この取付金具を介して床スラブにALCパネルを立設取付する場合には、ALCパネルと床スラブとの間の剪断引抜強度が低下しやすい。従来、このような構成のものは、主に間仕切等で使用されており、屋内使用が多かった。そのため、それほど剪断引抜強度が必要とされていなかった。
【0010】
これに対し、例えば共同住宅等の高層建築におけるベランダでの隣戸との隔て壁や玄関周り通路での袖壁などの壁として、屋外で使用されるALCパネルの場合には、雨風に耐えうる取付強度が必要となる。したがって、屋外で使用されるALCパネルの取付には、高い剪断引抜強度が要求される。ところが、従来のALCパネルは、屋外使用に耐えうる取付強度が得られる構造ではなかった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、屋外使用に耐えうる高い剪断引抜強度を有するALCパネルの取付が可能なALCパネル用アンカー金具およびこれを用いたALCパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明に係るALCパネル用アンカー金具は、ALCパネルの長さ方向に沿って配置される複数本の主筋と前記ALCパネルの幅方向に沿って配置される複数本の副筋とが格子状に組み合わされて構成され前記ALCパネルの壁面に沿ってALCパネル内に埋設される格子状の鉄筋マット一対とともにALCパネル内に埋設されるALCパネル用アンカー金具であって、前記鉄筋マットの主筋間距離以上の幅を有し、前記主筋の2本以上がかかる幅方向位置で、前記格子状の鉄筋マット一対の間に配置され、前記一対の鉄筋マットの両方の鉄筋に溶接される管状体と、前記ALCパネルを床スラブに固定するための雌ネジ孔を有し、前記雌ネジ孔の開口端が前記ALCパネルの1つの面に開口される筒状体とを備え、前記筒状体は、前記管状体の内部空間に配置されるとともにその両端が前記管状体の周面に支持されていることを要旨とするものである。
【0013】
本発明に係るALCパネル用アンカー金具においては、前記管状体は、前記鉄筋マットの副筋間距離以上の長さを有し、その周面が前記一対の鉄筋マットの両方の副筋2本以上に溶接されるものであること、前記管状体は、角管よりなり、前記角管の対向する一対の面が前記一対の鉄筋マットに溶接され、前記角管の対向する他の一対の面に前記筒状体の両端が支持されるものであること、前記角管は、長さ50〜180mm、幅80〜200mm、厚さ30〜110mm、板厚1.5〜3.5mmであることが望ましい。
【0014】
本発明にかかるALCパネルは、上記ALCパネル用アンカー金具がALCパネル内に埋設されたことを要旨とするものである。
【0015】
本発明にかかるALCパネルにおいては、前記筒状体の雌ネジ孔の開口端は前記ALCパネルの短辺小口面または壁面に開口されていること、長さ1500〜3500mm、幅300〜700mm、厚さ75〜150mmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るALCパネル用アンカー金具の管状体は、ALCパネル内に埋設される一対の鉄筋マットの両方の鉄筋に溶接されるとともに主筋の2本以上がかかるため、ALCパネル内で鉄筋マットに強固に固定される。そして、鉄筋マットに強固に固定されるこの管状体の周面に筒状体の両端が支持されるため、筒状体は、管状体に強固に支持される。
【0017】
そうすると、ALCパネル内に埋設されたアンカー金具の筒状体の開口端を介して、下側短辺小口面でALCパネルを取り付ける場合にも、ALCパネルの取付部分は高い剪断引抜強度を有するため、屋外使用に耐えうる高い剪断引抜強度を有するALCパネルの取付が可能となる。
【0018】
この際、管状体が、前記鉄筋マットの副筋間距離以上の長さを有し、その周面が前記一対の鉄筋マットの両方の副筋2本以上に溶接されるものであると、ALCパネルの強度を補強する主筋との溶接ではないので、主筋の断面欠損を招くおそれはない。したがって、アンカー金具の鉄筋マットへの溶接に当たって、補強鉄筋の強度低下を抑えることができる。
【0019】
また、前記管状体が角管よりなり、この角管の対向する一対の面が前記一対の鉄筋マットに溶接されるものであると、角管のフラットな面と平面状の鉄筋マットとの間で溶接するので、アンカー金具の鉄筋マットへの溶接がしやすい。
【0020】
そして、ALCパネルは、通常、上記特定範囲内の大きさなので、前記角管が特定範囲内の大きさであれば、確実に上記効果を奏する。
【0021】
本発明にかかるALCパネルによれば、上記の構成のALCパネル用アンカー金具がALCパネル内に埋設されているため、床スラブに取り付けられた際には、屋外使用に耐えうる高い剪断引抜強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るALCパネル用アンカー金具を表わす斜視図(a)および側面図(b)である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るALCパネルを表わす斜視図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るALCパネルを床スラブに取り付けた状態を表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図4】本発明の第二実施形態に係るALCパネルを表わす斜視図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るALCパネルを床スラブに取り付けた状態を表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図6】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Aを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図7】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Bを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図8】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Cを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図9】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Dを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図10】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Eを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図11】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Fを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図12】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Gを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図13】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Hを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図14】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Iを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図15】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Jを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図16】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Kを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図17】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Lを表わす正面図(a)および平面図(b)である。
【図18】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Mを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図19】ALCパネル内に埋設されるアンカー金具Nを表わす正面図(a)および側面図(b)である。
【図20】ALCパネルの剪断引抜強度の測定方法を説明する正面図(a)および側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るALCパネル用アンカー金具10(以下、ALCパネル用アンカー金具をアンカー金具と省略することがある。)は、四角管状に形成された管状体12と、円筒状に形成された筒状体14とにより構成されている。
【0025】
管状体12は、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)内に埋設される補強鉄筋に溶接される一対の溶接面部16a、16bと、これら一対の溶接面部16a、16b間を連結している一対の連結面部18a、18bとを備えている。一対の溶接面部16a、16bおよび一対の連結面部18a、18bにより管状体12の周面が形成されており、管状体12は中空状になっている。溶接面部16a、16bおよび連結面部18a、18bは、それぞれ平面状に形成されており、一対の溶接面部16a、16bは互いに平行に配置されており、また、一対の連結面部18a、18bは互いに平行に配置されている。管状体12の連結面部18a、18bの中央位置には、それぞれ円形の貫通孔20a、20bが形成されている。
【0026】
中空状の管状体12の内部空間には、筒状体14が配置されている。筒状体14の一方の端部24aは、一方の連結面部18aの貫通孔20aに挿通されており、一方の端部24aの周縁が一方の連結面部18aに溶接されている。また、筒状体14の他方の端部24bは、他方の連結面部18bの貫通孔20bに挿通されており、他方の端部24bの周縁が他方の連結面部18bに溶接されている。これにより、筒状体14の両端は、管状体12の連結面部18a、18bに支持されている。筒状体14の内周面には雌ネジが形成されており、筒状体14は雌ネジ孔26を有する。したがって、筒状体14は雄ネジ部材と螺合可能になっている。
【0027】
上記構成のアンカー金具10は、補強鉄筋とともにALCパネル内に埋設される。
【0028】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るALCパネル30は、板壁状に成形された軽量気泡コンクリート32と、軽量気泡コンクリート32の内部に埋設され、コンクリート強度を補強する補強鉄筋34と、補強鉄筋34とともに軽量気泡コンクリート32の内部に埋設され、ALCパネル30を床スラブ50に取り付けるためのアンカー金具10とを備えている。なお、ALCパネル30の長さ方向は、図2に示すX方向であり、ALCパネル30の幅方向は、図2に示すY方向であり、ALCパネル30の厚さ方向は、図2に示すZ方向である。
【0029】
補強鉄筋34は、ALCパネル30の長さ方向に沿って配置される主筋34aと、ALCパネル30の幅方向に沿って配置される副筋34bよりなる。複数本の主筋34aと複数本の副筋34bとが格子状に組み合わされることにより、鉄筋マット36が形成されている。鉄筋マット36は、ALCパネル30の壁面30aに沿ってALCパネル30内に2枚埋設されており、一対の鉄筋マット36a、36bは所定距離をおいてALCパネル30内に平行に配置されている。鉄筋マット36の側縁の主筋34aには、一対の鉄筋マット36a、36bを架け渡す鉄筋製のスペーサ38が溶接されており、補強鉄筋34はかご状にされている。鉄筋マット36においては、補強鉄筋34のうちの副筋34bが主筋34aよりもALCパネル30内における内側に配置されている。
【0030】
アンカー金具10は、ALCパネル30内に埋設された一対の鉄筋マット36a、36b間に配置されており、ALCパネル30内において、ALCパネル30の幅方向中央で、ALCパネル30の短辺小口面30bに近い、ALCパネル30の長さ方向の端部に、1パネルにつき1個配置されている。
【0031】
アンカー金具10の管状体12の溶接面部16a、16bは、ALCパネル30の壁面30aに平行に配置されている。また、管状体12の連結面部18a、18bは、ALCパネル30の短辺小口面30bに平行に配置されている。管状体12の両開口端22a、22bは、ALCパネル30の幅方向に開口されている。
【0032】
アンカー金具10の厚さは、ALCパネル30の厚さ方向における長さであり、管状体12の溶接面部16a、16b間の距離に相当するものであるが、アンカー金具10の溶接面部16a、16bが副筋34bに接するか、あるいは溶接可能な程度に副筋34bに近接されるように、鉄筋マット36a、36b間の距離に合わせた長さにされている。
【0033】
管状体12の溶接面部16a、16bは、鉄筋マット36の主筋34a間距離以上の幅を有しており、溶接面部16a、16bには、それぞれ2本の主筋34aがかかっている。すなわち、溶接面部16a、16bの厚さ方向外側にはそれぞれ2本の主筋34aが配置されている。管状体12は、ALCパネル30内において、溶接面部16a、16bにそれぞれ2本の主筋34aがかかる幅方向位置に配置され、厚さ方向には合計4本の主筋34aにより両側から拘束されている。溶接面部16a、16bに主筋34aがかかるとは、溶接面部16a、16bの面の幅方向の領域内に主筋34aがあることをいう。
【0034】
また、管状体12の溶接面部16a、16bは、鉄筋マット36の副筋34b間距離以上の長さを有しており、溶接面部16a、16bには、それぞれ2本の副筋34bがかかっている。すなわち、溶接面部16a、16bの厚さ方向外側にはそれぞれ2本の副筋34bが配置されている。管状体12は、ALCパネル30内において、溶接面部16a、16bにそれぞれ2本の副筋34bがかかる長さ方向位置に配置され、厚さ方向には合計4本の副筋34bにより両側から拘束されている。溶接面部16a、16bに副筋34bがかかるとは、溶接面部16a、16bの面の長さ方向の領域内に副筋34bがあることをいう。
【0035】
管状体12の一方の溶接面部16aは、一方の鉄筋マット36aの2本の副筋34bに溶接され、管状体12の他方の溶接面部16bは、他方の鉄筋マット36bの2本の副筋34bに溶接されている。したがって、管状体12は両方の鉄筋マット36の副筋34bに溶接されている。
【0036】
アンカー金具10の筒状体14は、管状体12の連結面部18a、18b間を橋渡しするようにその両端が連結面部18a、18bに溶接されているため、その軸方向がALCパネル30の長さ方向に平行になるように配置されている。また、管状体12の他方の連結面18bは、ALCパネル30の短辺小口面30bに平行に配置されているため、この他方の連結面18bに支持された筒状体14の他方の端部24bは、ALCパネル30の短辺小口面30bに開口されており、この開口された端部24bを介して筒状体14と雄ネジ部材60とが螺合できる。
【0037】
ALCパネル30の長さとしては、1500〜3500mmの範囲内であることが好ましい。ALCパネル30の幅としては、300〜700mmの範囲内であることが好ましい。ALCパネル30の厚さとしては、75〜150mmの範囲内であることが好ましい。ALCパネル30の長さ・幅は、それぞれALCパネル30の壁面30aの長手方向の寸法・短手方向の寸法である。ALCパネル30を床スラブ50上に取り付けた際には、壁面30aの長手方向は垂直方向に沿った方向になり、壁面30aの短手方向は水平方向に沿った方向になる。
【0038】
ALCパネル30内に埋設されるアンカー金具10の管状体12の大きさは、ALCパネル30の大きさを考慮して適宜決定することができる。管状体12の長さ・幅・厚さは、それぞれALCパネル30の長さ方向の寸法・幅方向の寸法・厚さ方向の寸法である。管状体12の長さとしては、50〜180mmの範囲内であることが好ましい。管状体12の幅としては、80〜200mmの範囲内であることが好ましい。管状体12の厚さとしては、30〜110mmの範囲内であることが好ましい。管状体12の板厚としては、1.5〜3.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
ALCパネル30は、例えば次のようにして製造できる。まず、補強鉄筋34をかご状に組み、補強鉄筋34の所定の位置にアンカー金具10を溶接する。次いで、アンカー金具10が溶接された補強鉄筋34を型枠内に配置する。次いで、軽量気泡コンクリート32の主原料となる珪酸質原料および石灰質原料と、発泡剤と、水と、必要に応じて各種添加剤とをミキサーで混練りする。次いで、混練りして得られたスラリーを、補強鉄筋34を配置した型枠内に注入する。次いで、スラリーが所定の硬さとなって得られた半硬化体を脱型し、これを所定の寸法に切断する。次いで、所定寸法とされた半硬化体を高温高圧蒸気で養生する。これにより、ALCパネル30が得られる。ALCパネル30は、養生された後、各種加工処理が施されても良い。
【0040】
通常、型枠は、ALCパネル30の長さ方向が水平方向となり、ALCパネル30の幅方向が垂直方向となるように配置される。このように型枠を配置した場合、スラリーは、型枠内で発泡し、ALCパネル30の幅方向に膨らむ(発泡上昇する)。補強鉄筋34に溶接されたアンカー金具10の管状体12の開口された両端部24a、24bはALCパネル30の幅方向に沿って開口されているので、発泡上昇するスラリーは管状体12の中空内を通過できる。これにより、スラリーの発泡上昇は妨げられない。また、スラリーの発泡上昇が妨げられないことから、ALCパネル30内で空洞が生じるおそれも低減できる。また、これによるALCパネル30の強度低下が抑えられる。
【0041】
軽量気泡コンクリート32の主原料となる珪酸質原料としては、珪石または珪砂が一般的であり、石灰質原料としては、生石灰とセメントが一般的であり、発泡剤としては、金属アルミニウムが一般的である。
【0042】
上記構成のALCパネル30は、取付金具40と雄ネジ部材60とを用いて床スラブ50に取付できる。
【0043】
図2および図3に示すように、ALCパネル30の床スラブ50への取付は、まず、雄ネジ部材60を用いて、ALCパネル30の短辺小口面30bに、ALCパネル30を床スラブ50に取り付けるための取付金具40を取り付ける。
【0044】
取付金具40は、ALCパネル30が載置される載置面42aを有する載置部42と、載置部42の両端より延設形成された一対の脚部44a、44bとを有している。脚部44a、44bは、載置部42に対して直角に曲げ加工された折曲片よりなり、その先端46a、46bはさらに外側に開く方向に直角に曲げ加工されている。脚部の先端46a、46bは、載置部42の載置面42aに平行な面を有しており、床スラブ50に予め埋設された金属プレート52に溶接可能になっている。載置部42の中央には、雄ネジ部材60の雄ネジ部62が挿通可能な貫通孔48が形成されており、雄ネジ部材60とアンカー金具10の筒状体14との間で取付金具40を締結可能になっている。この取付金具40は、例えば、金属製の板材の両端を曲げ加工し、さらにこの板材の中央に穴あけ加工することにより製造することができる。
【0045】
ALCパネル30の短辺小口面30bに取付金具40を取り付けるには、取付金具40の載置部42の貫通孔48に、載置面42aとは反対側の面から雄ネジ部62材60の雄ネジ部62を挿通した後、雄ネジ部62をアンカー金具10の筒状体14の雌ネジ孔26に螺入させる。これにより、ALCパネル30の短辺小口面30bに取付金具40の載置面42aが接した状態で取付金具40がALCパネル30に取り付けられる。
【0046】
次いで、取付金具40が取り付けられたALCパネル30を床スラブ50に取り付ける。床スラブ50には予め金属プレート52が埋設されており、この金属プレート52に、取付金具40の脚部の先端46a、46bを溶接する。溶接方法としては、特に限定されるものではないが、例えば周知のアーク溶接法等を適用することができる。
【0047】
ALCパネル30は取付金具40を介して床スラブ50に取り付けられるため、ALCパネル30と床スラブ50との間には取付金具40の大きさの隙間Sが生じている。また、ALCパネル30内に埋設されているアンカー金具10は1個であるため、ALCパネル30は、1個の取付金具40を介して床スラブ50に取り付けられる。
【0048】
取付金具40の脚部の先端46a、46bを床スラブ50の金属プレート52に溶接した後は、必要に応じて、防水等の目的で、ALCパネル30と床スラブ50との間の隙間Sにシール材を充填しても良い。シール材の材料としては、例えば、ポリウレタン系材料、変性シリコーン系材料等が挙げられる。
【0049】
上記構成のALCパネル30は、外壁・間仕切壁・隔て壁・袖壁等の建築物の壁材として好適に用いられる。特に、共同住宅等の高層建築におけるベランダでの隣戸との隔て壁や玄関周り通路での袖壁などの屋外使用されるALCパネルに好適である。
【0050】
上記構成のALCパネル30によれば、アンカー金具10の管状体12は、その溶接面部16a、16bでALCパネル30内に埋設された一対の鉄筋マット36a、16bの両方の鉄筋に溶接されているとともに、その溶接面部16a、16bに2本の主筋34aがかかっているため、鉄筋マット36a、16b間に強固に固定されている。そして、鉄筋マット36a、16b間に強固に固定されている管状体12の連結面部18a、18bに挿通固定される形で筒状体14の両端24a、24bが管状体12の周面に支持されているため、筒状体14は管状体12に強固に支持されている。そのため、アンカー金具10の筒状体14と雄ネジ部材60とによりALCパネル30の短辺小口面30bに取り付けられた取付金具40を介して床スラブ50に取り付けられたALCパネル30は、高い剪断引抜強度を有する。
【0051】
したがって、共同住宅等の高層建築におけるベランダでの隣戸との隔て壁や玄関周り通路での袖壁などとして用いた際には、ALCパネル30の壁面30aは高い風圧を受けることがあるが、これに耐えられるだけの十分な取付強度を有する。
【0052】
ALCパネル30の床スラブ50への取付はALCパネル30の短辺小口面30bで行なわれているため、取付部分は外部から見えにくい。したがって、美観にも優れる。特に、取付金具40の大きさをALCパネル30の短辺小口面30bの大きさよりも小さくすれば、取付金具40も外部から見えにくいので、取付金具40により美観が損なわれるおそれもない。
【0053】
つまり、ALCパネル30の美観を良くしようとすると、ALCパネル30の短辺小口面30bでALCパネル30を取り付けることになるが、そうすると、取付強度が低下しやすい。上記構成のALCパネル30によれば、従来、両立が難しかった取付強度と美観とを両立できる。
【0054】
また、管状体12の溶接面部16a、16bは、鉄筋マット36の主筋34aにではなく、副筋34bに溶接されている。主筋34aはALCパネル30の強度補強に主に寄与するものであり、これへの溶接による断面欠損が生じないため、補強鉄筋34の強度低下が抑えられている。
【0055】
また、管状体12は四角管状をしており、溶接面部16a、16bは平面状をしている。そのため、溶接面部16a、16bの長さ方向全体にわたって主筋34aがかかっており、溶接面部16a、16bの幅方向全体にわたって副筋34bがかかっている。そのため、管状体12は主筋および副筋にしっかりと拘束されている。これにより、管状体12は、さらに強固に鉄筋マット36a、16b間に固定できる。また、溶接面部が平面であることから、副筋34bとの間で溶接がしやすい。
【0056】
さらに、ALCパネル30は下部に1個のアンカー金具10が埋設されており、ALCパネル30は、1個の取付金具40を介して床スラブ50に取り付けられている。また、ALCパネル30と床スラブ50との間には、取付金具40の大きさの隙間Sが形成されている。そのため、取り付けられたALCパネル30は、地震等による建物の揺れに対してスムーズにロッキングすることとなるため、層間変形に対して優れた追従性能を有する。これにより、地震等による建物の揺れを吸収できるため、地震等によるALCパネル30の破壊・脱落を防止できる。このとき、取付金具40が弾性変形可能な材料で形成され、あるいは、取付金具40の載置面42aが上方に突となる曲面に構成されるものなどであれば、より一層、地震等による建物の揺れを吸収できる。
【0057】
次いで、本発明の第二実施形態に係るALCパネルについて説明する。
【0058】
図4に示すように、第二実施形態に係るALCパネル130は、板壁状に成形された軽量気泡コンクリート32と、軽量気泡コンクリート32の内部に埋設され、コンクリート強度を補強する補強鉄筋34と、補強鉄筋34とともに軽量気泡コンクリート32の内部に埋設され、ALCパネル130を床スラブ50に取り付けるためのアンカー金具110とを備えている。
【0059】
第二実施形態に係るALCパネル130は、第一実施形態に係るALCパネル30と比較して、アンカー金具110の構成およびALCパネル130内におけるアンカー金具110の配置が異なるものであり、これ以外の構成については第一実施形態に係るALCパネル30と同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0060】
アンカー金具110の管状体112は、鉄筋マット36の主筋34a間距離よりも長い幅を有しているが、鉄筋マット36の副筋34b間距離よりも短い長さになっている。すなわち、第一実施形態におけるアンカー金具10の管状体12よりも長さが短くなっている。そのため、溶接面部116a、116bは、ALCパネル130の長さ方向において副筋34bにかからないようにされるとともに、ALCパネル130の幅方向においてそれぞれ2本の主筋34aにかかるようにされ、それぞれ2本の主筋34aに溶接されている。すなわち、管状体112の一方の溶接面部116aは、一方の鉄筋マット36aの2本の主筋34aに溶接され、管状体112の他方の溶接面部116bは、他方の鉄筋マット36bの2本の主筋34aに溶接されている。これにより、管状体112は両方の鉄筋マット36a、36bに溶接されている。
【0061】
アンカー金具110の筒状体114は、その軸方向がALCパネル130の厚さ方向に平行になるように管状体112の内部空間に配置されている。筒状体114の両端124a、124bは、管状体112の溶接面部116a、116bに支持されており、筒状体114の一方の端部124aは、ALCパネル130の壁面130aに向けられ、この壁面130aに開口されており、この開口された端部124aより筒状体114と雄ネジ部材60とが螺合できる。
【0062】
第二実施形態に係るALCパネル130は、上記構成であるため、ALCパネル130を床スラブ50に取り付ける際には、例えばL型アングル鋼材54とイナズマプレート56とを用いる。具体的には、図4及び図5に示すように、まず、L型アングル鋼材54をその水平板54aで床スラブ50に固定する。次いで、雄ネジ部材60を用いてALCパネル130にイナズマプレート56を仮止めする。この際、イナズマプレート56に形成された貫通孔56aを通して、雄ネジ部材60の雄ネジ部62をALCパネル130の筒状体114に螺入させる。次いで、ALCパネル130をL型アングル鋼材54の水平板54a上に立設配置して、取付位置を決める。次いで、L型アングル鋼材54の水平板54aより起立形成された垂直板54bにイナズマプレート56を溶接する。これにより、ALCパネル130の壁面130aで、L型アングル鋼材54およびイナズマプレート56を介してALCパネル130が床スラブ50に取り付けられる。
【0063】
第二実施形態に係るALCパネル130においても、アンカー金具110の管状体112は、その溶接面部116a、116bでALCパネル130内に埋設された一対の鉄筋マット36a、36bの両方の鉄筋に溶接されているとともに、その溶接面部116a、116bに2本の主筋34aがかかっているため、鉄筋マット36a、36b間に強固に固定されている。そして、鉄筋マット36a、36b間に強固に固定されている管状体112の連結面部118a、118bに挿通固定される形で筒状体114の両端124a、124bが管状体112の周面に支持されているため、筒状体114は管状体112に強固に支持されている。そのため、アンカー金具110の筒状体114と雄ネジ部材60とによりALCパネル130の壁面130aに取り付けられたL型アングル鋼材54およびイナズマプレート56を介して床スラブ50に取り付けられたALCパネル130は、高いアンカー引抜強度を有する。
【0064】
したがって、共同住宅等の高層建築におけるベランダでの隣戸との隔て壁や玄関周り通路での袖壁などとして用いた際には、ALCパネル130の壁面130aは高い風圧を受けることがあるが、これに耐えられるだけの十分な取付強度を有する。
【0065】
また、ALCパネル130には1個のアンカー金具110が埋設されており、ALCパネル130は、1箇所で床スラブ50に取り付けられている。そのため、取り付けられたALCパネル130は、地震等による建物の揺れに対してロッキング可能にできる。この構造において、ALCパネル130をロッキングさせるためには、例えば、図4に示すように、ALCパネル130の下側短辺小口面130bとL型アングル鋼材54の水平板54aとの間に、ALCパネル130の幅方向中央位置で、ALCパネル130と床スラブ50との間に隙間を形成するための平板状のロッキングスペーサ58を介在させると良い。この構造において、ロッキングスペーサ58を介在させることにより、地震等による建物の揺れに対してALCパネル130がスムーズにロッキングすることとなり、層間変形に対して優れた追従性能を有する。これにより、地震等による建物の揺れを吸収できるため、地震等によるALCパネル130の破壊・脱落を防止できる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0067】
(アンカー金具の構成)
本実施例において用いたアンカー金具A〜Nは、それぞれ図6〜19に示した構成をしている。アンカー金具は、幅W、長さL、厚さtであり、アンカー金具の幅・長さ・厚さは、それぞれALCパネルの幅方向の寸法・長さ方向の寸法・厚さ方向の寸法である。
【0068】
・アンカー金具A
図6に示すように、内周面に雌ネジが形成された円筒管と四角管とにより構成され、四角管の一対の面で円筒管の両端が溶接固定されている。
・アンカー金具B
図7に示すように、高ナットと四角管とにより構成され、四角管の正面側の面および背面側の面に、ALCのスラリーが流動可能な四角形状の貫通孔が形成されている。四角形状の貫通孔の下側で、板材により四角管の正面側の面と背面側の面とが連結されており、高ナットの両端は四角管の底面と板材とで溶接固定されている。
【0069】
・アンカー金具C〜F、H、K、L
図8〜11、13、16、17に示すように、高ナットと曲げ加工された板材とにより構成され、長さ方向に沿って、曲げ加工された板材に高ナットの周面が溶接固定されている。一部の板材には、ALCのスラリーが流動可能な貫通孔が形成されている。
・アンカー金具G、I
図12、14に示すように、内周面に雌ネジが形成された円筒管と曲げ加工された板材とにより構成され、長さ方向に沿って、曲げ加工された板材に高ナットの周面が溶接固定されている。
・アンカー金具J、M
図15、18に示すように、内周面に雌ネジが形成された円筒管と曲げ加工された一対の板材とにより構成され、一対の板材を橋架けするように、円筒管の両端が一対の板材に溶接固定されている。
・アンカー金具N
図19に示すように、高ナットとコ字形状に曲げ加工された板材とにより構成され、高ナットの一端のみが板材の底面に溶接固定されている。
【0070】
(ALCパネルの作製)
補強鉄筋を格子状に組んで鉄筋マットを作製し、2枚の鉄筋マットをスペーサで繋いでかご状に組んだ。次いで、補強鉄筋の所定の位置にアンカー金具を溶接した。次いで、軽量気泡コンクリートの原料となる珪石・生石灰・セメント・発泡剤・添加剤・水を所定の混合比でミキサーで混練りしてスラリーを調製した。次いで、アンカー金具を溶接した補強鉄筋を型枠内に配置した後、この型枠内にスラリーを注入した。スラリーが所定の硬さとなったところで、得られた半硬化体を脱型し、これを所定の寸法に切断した。次いで、得られた半硬化体を高温高圧蒸気で養生した。これにより、ALCパネルを作製した。
【0071】
ALCパネルの大きさは、2490×600×100mmとした。また、アンカー金具を溶接する位置における補強鉄筋の主筋と主筋との距離は100mmとし、副筋と副筋との距離は140mmとした。
【0072】
アンカー金具は、ALCパネル内において、一対の鉄筋マット間で、ALCパネルの幅方向中央、かつ、ALCパネルの短辺小口面に近い、ALCパネルの長さ方向の端部に、ALCパネルの短辺小口面に雌ネジ孔が開口するようにし、アンカー金具の正面図に示す部分がALCパネルの正面を向き、側面図に示す部分がALCパネルの側面を向き、平面図に示す部分がALCパネルの上下方向を向くように配置した。
【0073】
なお、ALCパネルのアンカーにおいては、短辺小口面に雌ネジ孔が開口するようにアンカー金具を配置した場合には、ALCパネルの取付強度はアンカーの剪断引抜強度であり、壁面に雌ネジ孔が開口するようにアンカー金具を配置した場合には、ALCパネルの取付強度はアンカーの引抜強度である。引抜強度は剪断引抜強度よりも大きい値となるため、本実施例では剪断引抜強度の試験を行なった。試験結果から剪断引抜強度に優れるアンカー金具であれば、引抜強度にも優れることが推測される。
【0074】
(実施例1〜3)
表1に示す大きさのアンカー金具Aを1個用いた。アンカー金具Aの四角管の正面側の面および背面側の面にそれぞれ主筋2本および副筋2本がかかるようにし、これらの両面にそれぞれ副筋2本を溶接した。
【0075】
(実施例4)
表1に示す大きさのアンカー金具Bを1個用いた。アンカー金具Bの四角管の正面側の面および背面側の面にそれぞれ主筋2本および副筋2本がかかるようにし、これらの両面にそれぞれ副筋2本を溶接した。
【0076】
(実施例5)
表1に示す大きさのアンカー金具Aを1個用いた。アンカー金具Aの四角管の正面側の面および背面側の面にそれぞれ主筋2本のみがかかるようにし、これらの両面にそれぞれ主筋2本を溶接した。
【0077】
(比較例1〜2)
表1に示す大きさのアンカー金具Cを1個用いた。アンカー金具Cの板材の背面側の面のみに副筋2本を溶接した。
【0078】
(比較例3)
表1に示す大きさのアンカー金具Cを2個用いた点以外は、比較例1と同様にした。
【0079】
(比較例4)
表1に示す大きさのアンカー金具Dを1個用いた。アンカー金具Dの板材の背面側の面のみに副筋2本を溶接した。
【0080】
(比較例5〜6)
表1に示す大きさのアンカー金具E〜Fを1個用いた。アンカー金具E〜Fの板材の正面側の面の側端部および背面側の面の側端部にそれぞれ主筋2本および副筋2本がかかるようにし、正面側の面の側端部と背面側の面の側端部にそれぞれ副筋2本を溶接した。
【0081】
(比較例7〜11)
表1に示す大きさのアンカー金具G〜Jを1個用いた。アンカー金具G〜Jの板材の正面側の面の上下端部および背面側の面の上下端部にそれぞれ主筋2本および副筋2本がかかるようにし、正面側の面の上下端部と背面側の面の上下端部とにそれぞれ副筋2本を溶接した。
【0082】
(比較例12〜15)
表1に示す大きさのアンカー金具K〜Nを1個用いた。アンカー金具K〜Nの板材の正面側の面の側端部および背面側の面の側端部にそれぞれ主筋2本のみがかかるようにし、正面側の面の側端部と背面側の面の側端部にそれぞれ主筋2本を溶接した。
【0083】
実施例および比較例に係るALCパネルについて、下記測定方法にしたがって剪断引抜強度を測定した。なお、比較例1〜3については、一方側の鉄筋マットのみにアンカー金具を溶接しているため、異なる変位方向(垂直方向上側と下側)との間で最大荷重の比較も行なった。なお、屋外使用において必要な強度としては、ALCパネル1m当たり最大4000Nの風荷重がかかることを想定すると、試験体のALCパネルの幅が0.6m、長さが3mであるので、4000N/m×0.6m×3.0m÷2=3600Nである。したがって、ALCパネルの許容荷重は3600Nとした。また、表1に示す安全率は、許容荷重に対する最大荷重の比で表わしたものである。したがって、安全率の高いものほど安全性に優れるものといえる。比較例1〜3においては、正圧の最大荷重(上段データ)および負圧の最大荷重(下段データ)は、それぞれ3回の試験による平均値とした。その他の比較例と実施例においては、最大荷重は、ALC母材のかぶりが少ない補強鉄筋側における3回の試験による平均値とした。
【0084】
(剪断引抜強度の測定方法)
ALCパネル1を試験用鉄骨架台2上に水平に配置し、ALCパネル1の端部から300mmの位置で壁面1aを挟持してALCパネル1を固定した。次いで、ボルト3を用いて金属プレート4をALCパネル1の短辺小口面1bに取り付けた。次いで、油圧ジャッキ5を用いて金属プレート4を垂直方向(矢印の方向)に変位させた。この際の最大荷重を剪断引抜強度の指標とした。
【0085】
【表1】

【0086】
比較例1〜3では、アンカー金具が一方側の鉄筋マットのみに溶接されているため、異なる変位方向との間で最大荷重に大きな差が見られた。また、値の小さいほうの変位方向における最大荷重は許容荷重を下回った。なお、比較例3では、1パネル当たりアンカー金具を2個用いているため、ALCパネルがロッキングしにくい。
【0087】
実施例1〜4および比較例5〜11では、アンカー金具は、鉄筋マットの主筋2本および副筋2本にかかっており、両側の鉄筋マットの副筋2本に溶接されている。そのため、変位の方向の違いによって最大荷重に大きな差は見られない。比較例4では、アンカー金具は、鉄筋マットの主筋2本および副筋2本にかかっているが、一方側の鉄筋マットの副筋2本に溶接されている。
【0088】
実施例1〜4は、比較例4〜11と比較して、剪断引抜強度に優れていることが確認できた。特に、いずれの実施例においても、最大荷重が6000N超であり、安全率は1.8を超えることが分かった。実施例においては、屋外使用における許容荷重を大きく上回るため、屋外使用に適しているといえる。
【0089】
実施例5および比較例12〜15では、アンカー金具は、鉄筋マットの主筋2本のみにかかっており、両側の鉄筋マットの主筋2本に溶接されている。実施例5は、比較例12〜15と比較して、剪断引抜強度に優れていることが確認できた。特に、実施例5では、最大荷重が6000N超であり、安全率は1.8を超えることが分かった。したがって、実施例においては、屋外使用における許容荷重を大きく上回るため、屋外使用に適しているといえる。
【0090】
このように、実施例に係るALCパネルによれば、ALCパネルの短辺小口面で床スラブに取り付ける場合であっても、屋外使用に耐え得る十分な剪断引抜強度を有していることが確認できた。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態においては、管状体12、112は四角管状をしているものであるが、これに限定されるものではなく、その周面で筒状体の両端を支持できる管状であれば、丸管状であっても良いし、楕円管状、四角管状以外の角管状であっても良い。また、筒状体の端部は、管状体の連結面部あるいは溶接面部よりも外側に突出されていても良い。
【0093】
また、上記実施形態においては、管状体12、112の溶接面部16a、16b、116a、116bに2本の主筋34aがかかっている例が示されているが、主筋34aまたは副筋34bが溶接される溶接面部は、3本以上の主筋34aがかかるほどの幅を有するものであっても良いのは勿論である。これによっても、上記実施形態に係るALCパネル30、130と同様の優れた剪断引抜強度を得ることができる。同様に、溶接面部は、3本以上の副筋34bがかかるほどの長さを有するものであっても良い。
【0094】
ALCパネル内におけるアンカー金具の配置は特に限定されるものではなく、アンカー金具は、ALCパネルの幅方向の中央位置以外の位置にあっても良い。また、アンカー金具は、ALCパネル1枚につき2個以上あっても良い。
【0095】
さらに、管状体の溶接面部に補強鉄筋の主筋と副筋とがかかる構成においては、ALCパネル30のように筒状体の開口端部がALCパネルの短辺小口面に開口する構成には限られず、筒状体の開口端部がALCパネルの壁面に開口する構成であっても良い。また、管状体の溶接面部に補強鉄筋の主筋のみがかかる構成においては、ALCパネル130のように筒状体の開口端部がALCパネルの壁面に開口する構成には限られず、筒状体の開口端部がALCパネルの短辺小口面に開口する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0096】
10 アンカー金具
12 管状体
14 筒状体
26 雌ネジ孔
30 ALCパネル
30b 短辺小口面
34 補強鉄筋
34a 主筋
34b 副筋
36 鉄筋マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネルの長さ方向に沿って配置される複数本の主筋と前記ALCパネルの幅方向に沿って配置される複数本の副筋とが格子状に組み合わされて構成され前記ALCパネルの壁面に沿ってALCパネル内に埋設される格子状の鉄筋マット一対とともにALCパネル内に埋設されるALCパネル用アンカー金具であって、
前記鉄筋マットの主筋間距離以上の幅を有し、前記主筋の2本以上がかかる幅方向位置で、前記格子状の鉄筋マット一対の間に配置され、前記一対の鉄筋マットの両方の鉄筋に溶接される管状体と、
前記ALCパネルを床スラブに取り付けるための雌ネジ孔を有し、前記雌ネジ孔の開口端が前記ALCパネルの1つの面に開口される筒状体とを備え、
前記筒状体は、前記管状体の内部空間に配置されるとともにその両端が前記管状体の周面に支持されていることを特徴とするALCパネル用アンカー金具。
【請求項2】
前記管状体は、前記鉄筋マットの副筋間距離以上の長さを有し、その周面が前記一対の鉄筋マットの両方の副筋2本以上に溶接されるものであることを特徴とする請求項1に記載のALCパネル用アンカー金具。
【請求項3】
前記管状体は角管よりなり、前記角管の対向する一対の面が前記一対の鉄筋マットに溶接され、前記角管の対向する他の一対の面に前記筒状体の両端が支持されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載のALCパネル用アンカー金具。
【請求項4】
前記角管は、長さ50〜180mm、幅80〜200mm、厚さ30〜110mm、板厚1.5〜3.5mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のALCパネル用アンカー金具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のALCパネル用アンカー金具がALCパネル内に埋設されたALCパネル。
【請求項6】
前記筒状体の雌ネジ孔の開口端は、前記ALCパネルの短辺小口面または壁面に開口されていることを特徴とする請求項5に記載のALCパネル。
【請求項7】
長さ1500〜3500mm、幅300〜700mm、厚さ75〜150mmであることを特徴とする請求項5または6に記載のALCパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−26827(P2011−26827A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173211(P2009−173211)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】