説明

AMPK活性化剤、GLUT4活性化剤、およびそれらを用いた医薬品・飲食品

【課題】副作用を生じることなく、人体にやさしく、AMPK活性効果,GLUT4活性効果が得られる薬剤、およびこれら各効果に伴う糖尿病・肥満等の改善効果等が期待できる医薬品・飲食品の提供。
【解決手段】2−8量体のプロアントシアニジンを有効成分として含有するAMPK活性化剤。また、プロアントシアニジンを有効成分として含有するGLUT4活性化剤。また、上記各薬剤からなる、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤。また、これら薬剤を含有する飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AMPK(アデノシン一リン酸活性型プロテインキナーゼ[AMP-activated protein kinase])活性化剤、GLUT4(インスリン依存性糖輸送担体[glucose transporter 4] )活性化剤、およびそれらを用いた医薬品・飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肥満の予防および治療は、健康の維持・増進において非常に重要な課題である。肥満は、2型糖尿病、高血圧症、高脂血症等を引き起こす。さらにこれらの疾病は、脳卒中や虚血性心疾患等の基礎疾患でもある。現在、これらの疾病は、肥満によって引き起こされるインスリン抵抗性を基盤とする、一連の代謝異常状態と解されている。近年の分子生物学的研究により、肥満・インスリン抵抗性に関与する様々な因子の存在が明らかになりつつある。
【0003】
生体内の糖・脂質代謝に大きく関与する脂肪細胞には、主にGLUT1及びGLUT4といった輸送担体(glucose transporter :GLUT)が発現している。その中でも、特にGLUT4は、脂肪細胞の膜上におけるグルコースの取込み活性における主要な役割を果たしていることが知られている。GLUT4は、インスリン感受型GLUTと呼ばれ、通常は脂肪細胞及び筋肉細胞における細胞内小胞に存在し、インスリンの刺激を受けると、細胞膜上に移行(トランスロケーション)し、グルコースを取り込める状態とする。GLUT4のトランスロケーションは、インスリンが受容体に結合し、受容体のβサブユニットが自己リン酸化することが情報伝達の開始となり、その後インスリン受容体基質(IRS)のリン酸化、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の活性化、Akt /Protein Kinase Bの活性化(およびプロテインキナーゼCの活性化)という経路を介して細胞内の小胞体から細胞膜へのエキソサイトーシスにより、移行が完了する(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、内臓脂肪細胞に蓄積された中性脂肪が分解されて放出される遊離脂肪酸や、内臓脂肪細胞から分泌されるTNF−αによる、PI3−キナーゼ活性の抑制が生じると、GLUT4の細胞膜表面への移行が抑制され、上記のようなインスリンによるグルコース代謝に異常が生じ、糖尿病を発症するおそれがある。糖尿病患者数は、肥満の増加を反映して増える傾向にある。そして、糖尿病は、いったん発症するとなかなか完治しづらいばかりか、合併症を発症させるおそれもある。具体的には、プロテインキナーゼC等の酵素の働きが異常に亢進して細胞機能が低下したり、高血糖の持続により酵素などの蛋白質にグルコースが化学結合して酵素機能が低下したり、高血糖による代謝障害のためにソルビトール(糖アルコール)が細胞内に蓄積して細胞障害を起こし、それにより、細小血管の細胞や血液細胞に異常が生じ、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害といった合併症を発症する。
【0005】
一方、インスリンによらないグルコース代謝方法として、筋肉や肝臓にあるAMPK(アデノシン一リン酸活性型プロテインキナーゼ[AMP-activated protein kinase])を活性化させる方法がある。AMPKは、細胞での糖や脂質代謝の流れを調節する酵素であり、GLUT4を細胞表面に移行させて、筋肉がエネルギーを作るためのグルコースを取り込ませたり、脂肪を燃焼させたりする働きがある。
【0006】
しかし、上記のようにAMPKを活性化させるには、運動による筋収縮が必要である。そこで、近年、薬剤投与によりAMPKを活性化させ、それによる「運動疑似効果」を通じて、糖代謝や高脂血症を改善し抗動脈硬化作用を発揮させる手法が検討されている。このような薬剤としては、例えば、メトホルミン(ビグアナイド薬)、チアゾリジン誘導体等が有用であることが知られている。
【0007】
ところが、これらの薬剤は、副作用を伴うものも多く、そのため、日常的な飲食品に含有させることが好ましいものは少ないのが実情である。そのようななか、近年、葡萄の葉又はその抽出物を有効成分とするAMPK活性化剤(特許文献2)、ローズマリーやセージの抽出物を含有するAMPK活性化剤(特許文献3)、グレープフルーツ由来のヌートカトンを含有するAMPK活性化剤(特許文献4)といったものも提案されており、食品として従来から用いられている植物を由来とするものであることから、日常的な飲食品への適用においても安全性が高いと考えられる(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−1929公報
【特許文献2】特開2008−255048公報
【特許文献3】特開2008−208081公報
【特許文献4】特開2007−63241公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来からある植物由来のAMPK活性化剤は、実際には、AMPK活性作用はあまり高くなく、化学薬品であるメトホルミン等の性能に比べると、かなり劣る。そのため、更なる研究による活性能の向上が期待されている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、副作用を生じることなく、人体にやさしく、AMPK活性効果,GLUT4活性効果が得られる薬剤、およびこれら各効果に伴う糖尿病・肥満等の改善効果等が期待できる医薬品・飲食品の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の一般式(1)で表されるプロアントシアニジンを有効成分として含有するAMPK活性化剤を第1の要旨とする。
【化1】

【0012】
また、本発明は、下記の一般式(1)で表されるプロアントシアニジンを有効成分として含有するGLUT4活性化剤を第2の要旨とする。
【化2】

【0013】
また、本発明は、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤のいずれか一つの医薬品であって、上記第1の要旨の薬剤や第2の要旨の薬剤を含有する医薬品を第3の要旨とする。
【0014】
また、本発明は、上記第1〜第3の要旨の薬剤を含有する飲食品を第4の要旨とする。
【0015】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、各種の生理作用が報告されているプロアントシアニジンに着目した。プロアントシアニジンは、エピカテキン(またはエピガロカテキン)の重合体であり、2量体,3量体,4量体,5量体等の多重合体が存在し、さらに、これらには、結合位置の違うものや、各種の立体異性体も存在する。そして、これらは、それぞれ生理作用も異なるものである。本発明者らは、このようなプロアントシアニジンに関する研究を更に進めた。その結果、AMPKの活性効果,GLUT4の活性効果において、上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンを有効成分として用いたとき、有利な効果が認められることを、実験により新たに突き止めた。なお、GLUT4の活性化は、AMPKの活性化によりなされる以外にも、インスリン情報伝達経路の全部または一部によりなされる場合も含まれる。また、これらの作用効果を発揮すると、それに関連し、特に、肥満・糖尿病等の改善効果等も得られることから、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤といった医薬品の用途にも適用することができることを見いだした。さらに、上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンは、副作用を生じることがないことから、安全性が高く、日常的な飲食品に含有させるのに好適なものとなり得ることから、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のAMPK活性化剤は、上記一般式(1)で表される特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、AMPK活性作用を有するものである。また、本発明のGLUT4活性化剤も、上記一般式(1)で表される特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、GLUT4活性作用を有するものである。これらの薬剤は、それぞれの用途においてその作用が有為に発揮できるよう、その作用を阻害する物質の不含化等が考慮されたものであり、また、それぞれの用途においてその作用が充分に発揮できるよう、有効成分であるプロアントシアニジンの含有割合等が規定されたものである。これにより、上記薬剤は、それぞれ、副作用を生じることなく、人体にやさしく、AMPK活性効果,GLUT4活性効果,およびこれに関連する各種疾病等の予防・改善効果を発揮することができる。
【0017】
特に、上記各作用効果を良好に発揮することができると、肥満,糖尿病等の改善効果等に優れた効果を発揮することができる。したがって、上記薬剤は、特に、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤といった医薬品の用途に有利に適用することができる。
【0018】
そして、上記特定構造のプロアントシアニジンを有効成分する上記薬剤を含有する飲食品とする場合、このものを通常の飲食品と同様に継続して飲食することにより、AMPK活性効果、GLUT4活性効果、およびそれに伴う肥満・糖尿病等の改善効果等が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プロアントシアニジンの糖取り込み促進活性を測定した結果を示すグラフ図である。
【図2】PA4(プロシアニジン4量体であるシナムタンニンA2)の糖取り込み促進活性を測定した結果を示すグラフ図である。
【図3】細胞膜画分におけるGLUT4の検出結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図4】プロアントシアニジンによるタンパク質のリン酸化および発現量の結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図5】AMPKの活性阻害による、PA4等の糖取り込み促進活性を測定した結果を示すグラフ図である。
【図6】P−AMPKαおよびAMPKαの検出結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図7】プロアントシアニジンのAMPK活性化レベルを測定した結果を示すグラフ図である。
【図8】P−AMPKαおよびAMPKαの検出結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図9】PA4のAMPK活性化レベルを測定した結果を示すグラフ図である。
【図10】P−AMPKαおよびAMPKαの検出結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図11】PA4のAMPK活性化レベルを測定した結果を示すグラフ図である。
【図12】P−ACCおよびACCの検出結果(ウェスタンブロット解析結果)写真である。
【図13】PA4のACCリン酸化レベルを測定した結果を示すグラフ図である。
【図14】PA4投与によるPPARαの遺伝子発現量を測定した結果を示すグラフ図である。
【図15】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、食餌摂取量の推移を示すグラフ図である。
【図16】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、体重の推移を示すグラフ図である。
【図17】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、血清グルコース濃度の推移を示すグラフ図である。
【図18】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、血清トリグリセライド濃度を示すグラフ図である。
【図19】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、血清総コレステロール濃度を示すグラフ図である。
【図20】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、血清インスリン濃度を示すグラフ図である。
【図21】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群における、AMPK活性化レベルを測定した結果を示すグラフ図である。
【図22】黒大豆抽出成分摂食群と非摂食群の各組織におけるGLUT4の発現量を測定した結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0021】
先に述べたように、本発明のAMPK活性化剤は、下記の一般式(1)で表される特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、AMPK活性作用を有するものである。また、本発明のGLUT4活性化剤も、下記の一般式(1)で表される特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、GLUT4活性作用を有するものである。これらの薬剤は、それぞれの用途においてその作用が有為に発揮できるよう、その作用を阻害する物質の不含化等が考慮されたものであり、また、それぞれの用途においてその作用が充分に発揮できるよう、有効成分であるプロアントシアニジンの含有割合等が規定されたものである。
【0022】
【化3】

【0023】
上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンのなかでも、特に、下記の一般式(1’)で表される特定構造のプロアントシアニジン(プロシアニジン)を有効成分として含有すると、他のプロアントシアニジンに比べ、極めて高いAMPK活性効果、GLUT4活性効果が得られるようになるため、好ましい。
【0024】
【化4】

【0025】
そして、上記一般式(1’)において、nは、好ましくは、1,2または3であり、より好ましくは、1または2である。n=1のとき、上記一般式(1’)は、下記の化学式(2)で表されるプロシアニジンC1を示す。また、n=2のとき、上記一般式(1’)は、下記の化学式(3)で表されるシナムタンニンA2を示す。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
そして、上記のプロアントシアニジンは、自然界に存在する生物が保有または産生する組成物の中から精製し抽出したものであっても、エピカテキンやカテキンの重合促進等を行うことにより化学的に合成することによって調製したものであって、微生物などを利用する生物学的方法により得たものであってもよい。
【0029】
上記特定構造のプロアントシアニジンは、植物では、黒大豆種皮、リンゴ、カカオ、ブドウ、シナモン、ムタンバ、サンザシ、ブニノキ、ゴレンシ、マザーワート、ケクロピア、コーラ(コーラナッツ)、茶等に多く含まれる。これらの植物に対する上記特定構造のプロアントシアニジンの抽出方法としては、例えば、抽出溶媒に上記植物を浸漬することにより行われる。上記特定構造のプロアントシアニジンの抽出溶媒としては、例えば、水や、メタノール, エタノール, イソプロパノール, n−プロパノール, アセトン等の水溶性溶媒が用いられるが、特に、黒大豆種皮を原料とする場合、黒大豆種皮には1〜30量体程度の各種プロアントシアニジンが含まれることから、高濃度の低級アルコールやアセトンで抽出すると、高重合度のプロアントシアニジンが混入してしまう。したがって、この場合、水や0.1〜30%の含水エタノールが、所望のプロアントシアニジンを高純度で抽出することができるものとして好適に用いられる。また、上記抽出溶媒による抽出温度は、70℃以下であることが、純度および安定性の点から好ましい。
【0030】
そして、このようにして得られた抽出液から、所望のプロアントシアニジンを高純度で含有する画分を、吸着処理,樹脂精製処理,ゲル濾過処理,イオン交換処理,膜分離処理,塩析出処理等により抽出し、それを、乾燥、濃縮することにより、目的とするプロアントシアニジンを得ることができる。
【0031】
本発明のAMPK活性化剤は、そのAMPK活性作用の有効性の観点から、前記特定構造のプロアントシアニジン含量が0.01〜100重量%の範囲のものであることが好ましく、より好ましくは、1〜100重量%の範囲である。また、本発明のGLUT4活性化剤は、そのGLUT4活性作用の有効性の観点から、前記特定構造のプロアントシアニジン含量が0.01〜100重量%の範囲のものであることが好ましく、より好ましくは、1〜100重量%の範囲である。
【0032】
さらに、本発明のAMPK活性化剤は、その有効性の観点から、前記特定構造のプロアントシアニジンの一日の摂取量が1〜2000mgの範囲になるよう、その分量を設定することが好ましく、より好ましくは10〜1000mgの範囲である。本発明のGLUT4活性化剤も、その有効性の観点から、前記特定構造のプロアントシアニジンの一日の摂取量が1〜2000mgの範囲になるよう、その分量を設定することが好ましく、より好ましくは10〜1000mgの範囲である。
【0033】
また、本発明のAMPK活性化剤およびGLUT4活性化剤には、前記特定構造のプロアントシアニジンとともに、シアニジン−3−グルコシド(C3G)を含有することにより、そのAMPK活性効果およびGLUT4活性効果をさらに向上させることができるため好ましい。なお、C3Gは、アントシアニンの一種であり、上記特定構造のプロアントシアニジンを抽出した各種植物にも多く含まれる物質である。そして、C3Gの抽出方法は、上記特定構造のプロアントシアニジンの抽出方法(分離精製方法)に準じる。
【0034】
本発明のAMPK活性化剤におけるC3G含量は、その有効性の観点から、0.1〜40重量%の範囲のものであることが好ましく、より好ましくは、1〜10重量%の範囲である。また、本発明のGLUT4活性化剤におけるC3G含量は、その有効性の観点から、0.1〜40重量%の範囲のものであることが好ましく、より好ましくは、1〜10重量%の範囲である。
【0035】
なお、本発明のAMPK活性化剤およびGLUT4活性化剤は、それらの作用効果を良好に発揮することにより、肥満・糖尿病等の予防・改善効果に優れた効果を発揮することができるため、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤といった医薬品の用途に適用する場合も、上記特定構造のプロアントシアニジンの含量および上記特定構造のプロアントシアニジンの一日の摂取量は、上記各薬剤に規定された割合に準じる。
【0036】
また、本発明の上記各薬剤においては、先のプロアントシアニジン抽出物をそのまま直接使用してもよいが、一般的には、上記抽出物を、適当な液状担体に溶解あるいは分散させたり、適当な粉末担体に混合させたものを使用する。
【0037】
薬理学的に許容される担体としては、例えば、固形製剤における賦形剤,滑沢剤,結合剤および崩壊剤、あるいは、液状製剤における溶剤,溶解補助剤,懸濁化剤,等張化剤,緩衝剤および無痛化剤等があげられる。
【0038】
また、本発明の薬剤は、その製剤化の際に、通常製剤化に用いられる各種の成分が任意に使用されるが、その例としては、例えば、デンプン、デキストリン、乳糖、コーンスターチ、無機塩類等があげられる。
【0039】
本発明の薬剤の剤型としては、例えば、アンプル、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、輸液、ドリンク剤等があげられる。
【0040】
さらに、本発明の薬剤は、それを飲食品に関与させた形態としても提供することができる。上記飲食品としては、例えば、健康食品(タブレット、粉末、顆粒、濃縮液体)、清涼飲料、特定保健用食品、ドリンク、お茶、ミルク、プリン、ゼリー、飴、ガム、ヨーグルト、チョコレート、スープ、クッキー、スナック菓子、ワイン、焼酎、日本酒、ドレッシング、煮豆、豆腐、納豆、豆乳、煎り豆、乾燥豆、味噌等があげられる。そして、これらの飲食品を、通常の飲食品と同様に継続して飲食することにより、肥満抑制効果が得られるようになる。
【0041】
本発明の薬剤は、副作用を生じることなく、人体にやさしく、AMPK活性効果,GLUT4活性効果,およびこれに関連する各種疾病(特に、肥満や糖尿病)等の予防・改善効果を発揮することができる。また、ヒトのみでなく、ペットや家畜等の動物においても上記効果が得られるものであり、その投与量は、投与対象とする生物の違い、投与される者の性別、体重、年齢等の条件に応じて適宜設定される。そして、上記のように、本発明の薬剤は、ペットや家畜等の動物においても肥満抑制効果等が得られるものであることから、ペットフードや飼料に関与させた形態としても提供することもできる。
【0042】
つぎに、実施例について説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
〔L6骨格筋細胞におけるプロアントシアニジンの活性実験〕
<試験用のL6骨格筋細胞の作製>
L6筋芽細胞の濃度が2×104 /mLになるようにMEM培地〔10%v/v牛胎児血清(FBS)含有〕で調製して得られたL6筋芽細胞懸濁液を、24穴組織培養プレートに1穴当たり500μL播種し、37℃の5%炭酸ガス培養器で上記細胞を2日間培養した。上記細胞がコンフルエントになった後、培地をMEM培地(2%v/vFBS含有)に変更し、37℃の5%炭酸ガス培養器で上記細胞を5日間培養することにより、L6骨格筋細胞を作製した。そして、さらに培地をMEM培地〔0.2%w/v牛血清アルブミン(BSA)含有〕に変更し、37℃の5%炭酸ガス培養器で上記L6骨格筋細胞を18時間培養し、この細胞を、実施例1における後記の糖取り込み測定等に用いた。一方、L6筋芽細胞の濃度が3×104 /mLとなるようにMEM培地(10%v/vFBS含有)で調製して得られたL6筋芽細胞懸濁液を、60mm培養皿に1枚当たり4mL播種し、上記と同様の条件で骨格筋細胞を作製した後、培地をMEM培地〔0.2%w/vBSA含有〕に変更し、37℃の5%炭酸ガス培養器で上記L6骨格筋細胞を18時間培養し、この細胞を、実施例1における後記のウェスタンブロット解析に用いた。
【0044】
<プロアントシアニジン(PA)の調製>
黒大豆種皮抽出物(製品名:クロノケア、フジッコ社製)を45%メタノール水溶液に溶解し、セファデックスLH−20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を担体としたゲル濾過カラムに通してプロシアニジンを吸着させ、1.2倍カラム容量の45%メタノール水溶液、1.2倍カラム容量の55%メタノール水溶液の順に洗浄した。その後、2倍カラム容量の70%アセトン水溶液を通液、回収、濃縮乾層することによりプロシアニジン粗画分を得た。この粗画分は、酢酸メチル/アセトン=80/20(v/v)溶液に溶解し、濾過操作により沈殿を除去し、再度濃縮乾燥することによりプロシアニジン精製物を得た。本プロシアニジン精製物を45%メタノールに溶解し、再度セファデックスLH−20カラムに供し、メタノール濃度45%から75%までの濃度勾配によりプロシアニジン2、3及び4量体の各粗画分を分離した。この各粗画分を、逆層液体クロマトグラフィー(カラム:ODS-C18、液層:0.1%ギ酸水溶液とアセトニトリル、アセトニトリルの比率が5%〜20%までの濃度勾配)により2、3及び、4量体プロシアニジンの各画分を分離、濃縮乾固することにより、下記一般式(4)においてn=0で表されるプロシアニジンの2量体(プロシアニジンB2)、下記一般式(4)においてn=1で表されるプロシアニジンの3量体(プロシアニジンC1)、および、下記一般式(4)においてn=2で表されるプロシアニジンの4量体(シナムタンニンA2)を分離精製した。
【0045】
【化7】

【0046】
<L6骨格筋細胞における糖取り込み促進作用の確認試験>
先に準備した、プロアントシアニジンの2量体であるプロシアニジンB2(PA2)、3量体であるプロシアニジンC1(PA3)、4量体であるシナムタンニンA2(PA4)を、それぞれ、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、これを用いて、30μMのプロアントシアニジン(PA)を含有するKrebs-Ringer-Hepes(KRH)緩衝液(50mM HEPES、pH7.4、137mM NaCl、4.8mM KCl、1.85mM CaCl2 、1.3mM MgSO4 )を調製した。そして、先に準備したL6骨格筋細胞が入った24穴組織培養プレートに、これらの調製緩衝液を1穴当たり300μL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で15分培養した。また、0.1%v/vDMSOを含有する緩衝液を調製し、それを陰性対照(control)として用い、上記と同様の手法でL6骨格筋細胞の培養を行った。また、インスリン(Insulin)を100nM含有するKRH緩衝液を調製し、それを陽性対照として用い、上記と同様の手法でL6骨格筋細胞の培養を行った。
【0047】
その後、上記組織培養プレートの各ウェル(穴)内の培地に、[ 3H]で標識された2−デオキシグルコース(2DG)を、終濃度として6.5mM(18.5μCi)となるように添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で5分間、L6骨格筋細胞を培養した。このようにして培養したL6骨格筋細胞を、氷冷したKRHで4回洗浄し、細胞内に取り込まれなかった2DGを除去した。続いて、L6骨格筋細胞から完全にKRHを取り除き、この細胞を0.05N NaOH250μLで可溶化して、それをシンチレーションカクテルの入ったバイアルビンに回収した。さらに組織培養プレートの各ウェル(穴)を、KRH200μLで2回洗浄して、この洗液も合わせてバイアルビンに回収した。このようにして回収して得られた液体を、液体シンチレーションシステムLSC−5000シリーズ(アロカ社製) を用いて分析し、L6骨格筋細胞内に取り込まれた2DGに標識された[ 3H]の放射活性(糖取り込み活性)を測定した。なお、非特異的な取り込み量は、グルコース輸送の阻害剤であるサイトカラシンBを用いて、上記回収した液体を処理(20μM サイトカラシンBで15分間処理)した後、上記と同様の方法で取り込み活性を測定し、その値を「非特異的な取り込み量」とした。
【0048】
<L6骨格筋細胞における糖取り込み促進作用の確認試験結果>
プロアントシアニジンによる糖取り込み促進活性(L6骨格筋細胞内に取り込まれた2DGに標識された[ 3H]の放射活性(見かけの糖取り込み活性)から、非特異的な取り込み量を引いた値(真の糖取り込み活性、図中では2DG uptakeと表示)の結果は、図1のグラフに示す通りである。図おいて、*は、有意水準5%で有意差があったことを示しており、PA2、PA3、PA4ともに糖取り込み活性が認められたが、特に、PA3、PA4で有意に糖取り込み活性を促進していた。特に、PA4は、インスリンと同等の糖取り込み促進効果が認められた。なお、上記の手法に準じ、PA4の濃度依存的な糖取り込み促進効果も測定・評価した。その結果を図2のグラフに示す。図2より、PA4は濃度依存的に糖取り込みを促進し、10μM以上で有意差が認められた。
【0049】
<GLUT4の細胞膜移行の確認試験>
先に準備したPA2、PA3、PA4を、それぞれ、DMSOに溶解し、これを用いて、10μMまたは30μMのPAを含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)を調製した。また、対照として、0.1%v/vDMSOを含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)、および、インスリン(100nM)を含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)も調製した。そして、先に準備したL6骨格筋細胞の培養皿にこれらの調製培地を1枚当たり4mL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で15分培養した。その後、細胞を、KRH緩衝液により培養皿1枚当たり1mLで2回洗浄し、所定の方法(非特許文献である、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71, 9, 2343-2346, 2007 を参照)により細胞膜画分を調製した。このようにして得られた細胞膜画分のタンパク質量を測定し、その2μgをSDS−PAGEに供してタンパク質を分離した。分離後のタンパク質をポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写し、ブロッキング試薬であるBlocking one(ナカライテスク社製)でブロッキングした。PVDFメンブレンをTris-buffered saline-Tween〔TBST:20mM Tris−HCl(pH8.0)、0. 15M NaCl、0. 05% Tween20〕溶液(TBST溶液)で数回洗浄した後、1次抗体として抗GLUT4抗体を、2次抗体としてhorseradish peroxidase標識した抗ヤギIgG抗体を反応させた。メンブレン上の免疫複合体をLumi−Light Plusウェスタンブロッティング基質(ロッシュ社製) と反応させ、X線フィルムに露光させることにより、細胞膜移行したGLUT4を検出した。
【0050】
<GLUT4の細胞膜移行の確認試験結果>
GLUT4の細胞膜移行をウェスタンブロット法により確認した結果は、図3に示す通りである。図3より、PA2、PA3、PA4ともに細胞膜画分におけるGLUT4の存在量を増加させる作用が認められたが、特に糖取り込み促進作用の高かったPA3、PA4は、細胞膜画分におけるGLUT4の存在量を増加させる作用も高いことを示した。また、30μMPA4によるGLUT4の存在量増加は、インスリンによるGLUT4の存在量増加と同程度であった。このことから、特に、PA3、PA4は、GLUT4の活性化剤としての作用に優れていることがわかる。
【0051】
<プロアントシアニジン(PA)の作用機構の確認試験>
先に準備したPA2、PA3、PA4を、それぞれ、DMSOに溶解し、これを用いて、10μMまたは30μMのPAを含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)を調製した。また、対照として、0.1%v/vDMSOを含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)、および、インスリン(100nM)を含有するMEM培地(0.2%w/vBSA含有)も調製した。そして、先に準備したL6骨格筋細胞の培養皿にこれらの調製培地を1枚当たり4mL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で15分培養した。その後、細胞を、KRH緩衝液により培養皿1枚当たり1mLで2回洗浄し、所定の方法(非特許文献である、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 71, 9, 2343-2346, 2007 を参照)により全タンパク質画分を得た。得られた全タンパク質画分のタンパク質量を測定し、その20μgをSDS−PAGEに供してタンパク質を分離した。分離後のタンパク質をPVDF膜に転写し、Blocking oneでブロッキングした。PVDFメンブレンをTBST溶液で数回洗浄した後、1次抗体として抗p−Akt抗体、p−AMPK抗体またはAMPK抗体を、2次抗体としてhorseradish peroxidase標識した1次抗体に対応した抗体を反応させた。メンブレン上の免疫複合体をLumi−Light Plusウェスタンブロッティング基質と反応させ、X線フィルムに露光させることにより、それぞれのタンパク質のリン酸化および発現量を検出した。
【0052】
つぎに、AMPKの阻害剤であるCompound C(Sigma社製)を、DMSOに溶解して、30μM Compound Cを含有するKRH緩衝液を調製した。そして、先に準備したL6骨格筋細胞が入った24穴組織培養プレートに、上記調製緩衝液を1穴当たり300μL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で30分培養した。また、0.1%v/vDMSOを含有するKRH緩衝液を調製し、この緩衝液を上記Compound C含有緩衝液に代えて用い、上記と同様の手法でL6骨格筋細胞の培養を行った。その後、上記組織培養プレートの各ウェル(穴)内の培地に、DMSO、インスリン、AMPKの活性化剤である5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)、PA4のいずれかを添加した。なお、上記DMSOは、その濃度が0.1%v/vとなるように添加したものであり、上記インスリンは、その濃度が100nMとなるように添加したものであり、上記AICARは、その濃度が500μMとなるように添加したものであり、上記PA4は、DMSOに溶解させ、PA4の終濃度が10μMとなるように添加したものである。
【0053】
続いて、上記組織培養プレートの各ウェル(穴)内の培地に、[ 3H]で標識された2−デオキシグルコース(2DG)を、終濃度として6.5mM(18.5μCi)となるように添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で5分間、L6骨格筋細胞を培養した。このようにして培養したL6骨格筋細胞を、氷冷したKRHで4回洗浄し、細胞内に取り込まれなかった2DGを除去した。続いて、L6骨格筋細胞から完全にKRHを取り除き、この細胞を0.05N NaOH250μLで可溶化して、それをシンチレーションカクテルの入ったバイアルビンに回収した。さらに組織培養プレートの各ウェル(穴)を、KRH200μLで2回洗浄して、この洗液も合わせてバイアルビンに回収した。このようにして回収して得られた液体を、液体シンチレーションシステムLSC−5000シリーズ(アロカ社製) を用いて分析し、L6骨格筋細胞内に取り込まれた2DGに標識された[ 3H]の放射活性(糖取り込み活性)を測定した。なお、非特異的な取り込み量は、グルコース輸送の阻害剤であるサイトカラシンBを用いて、上記回収した液体を処理(20μM サイトカラシンBで15分間処理)した後、上記と同様の方法で取り込み活性を測定し、その値を「非特異的な取り込み量」とした。
【0054】
<PAの作用機構の確認試験結果>
タンパク質のリン酸化および発現量をウェスタンブロット法により確認した結果は図4に示す通りである。図より、PA2、PA3、PA4ともに(特にPA4)、AMPKのリン酸化を促進していたが、インスリンのように、Aktのリン酸化には影響を及ぼしていなかった。また、図5のグラフに示すように、AMPKの阻害剤(Compound C)を作用させた条件下でのPA4の糖取り込み活性を測定した結果、AMPKの活性化剤であるAICARと同様、上記阻害剤によりPA4の糖取り込み活性が抑制されたことから、PA4はAMPKを介して糖取り込みを促進することを示した。このことから、PA2、PA3、PA4は、AMPKの活性化剤としての作用を奏することがわかる。
【実施例2】
【0055】
〔筋管細胞におけるプロアントシアニジンの活性実験〕
<試験用の筋管細胞の作製>
マウス筋芽細胞C2C12を、10%FBS含有DMEM培地(Dulbecco’s modified eagle’s medium, high glucose、SIGMA社製)を用い、CO2 インキュベーター内(37℃、CO2 濃度5%)で培養した。上記細胞が80%コンフルエントになったところで継代し、ついで、その培養皿から培地を除去し、2%HS(ウマ血清、SIGMA社製)含有のDMEM培地(分化用培地)に交換した。その2日後、上記分化用培地を再度交換し、さらに2日後、同様に培地交換し、1〜2日培養した。このようにして得られた、分化後5日目あるいは6日目の筋管細胞を、実施例2における後記の各試験に使用した。
【0056】
<筋管細胞におけるプロアントシアニジン(PA)のAMPK活性化作用の確認試験>
上記筋管細胞の培地を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有DMEMに交換し、約3時間培養した。これを、24穴組織培養プレートの各ウェル内に1mLずつ入れた。つぎに、実施例1で使用したPA2、PA3、PA4を、それぞれ、DMSOに溶解し、これを上記培養プレートの各ウェル内の培地に添加した(PA濃度10μM)。また、対照となる培地には、0.1%v/vDMSOのみを添加した。そして、これら各成分の存在下、筋管細胞を10分間培養した。その後、溶解バッファー(50 mM HEPES (pH 7.5), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 100 mM NaF, 10 mM sodium pyrophosphate, 1 % Triton X-100, 2 mM sodium metavanadate, 1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride and a protease inhibitor cocktail (P8340, Sigma-Aldrich, St Louis, MO) )中に細胞を回収し、軽く混合した後、遠心処理に供し、上清を回収した。このようにして回収した上清中のタンパク質についてウエスタンブロットで解析し、AMPKの活性を調べた。ウェスタンブロットでは、一次抗体として、P−AMPKα(Thr172)抗体(Phospho-AMPKα antibody )(Cell Signaling社製)、AMPKα抗体を使用し、二次抗体として、Anti−rabbit IgG、HRP−linked抗体(Cell Signaling社製)を使用した。
【0057】
また、得られたタンパク質の発現強度の測定のために化学発光試薬(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により発光させて、その強度を検出し(LAS−3000、富士フィルム社製)、Gauge Ver 3.0 Densitograph Software (富士フィルム社製)により定量した。それぞれの定量値を元にしてp−AMPKαの発現強度をAMPKαの発現強度で除して、コントロール(0. 1%DMSO)に対する上昇率で表した。これにより、上記プロアントシアニジン(PA)の違いによるAMPK活性化レベル(P−AMPK/AMPK)を測定した。
【0058】
<筋管細胞におけるプロアントシアニジン(PA)のAMPK活性化作用の確認試験結果>
ウェスタンブロット法によるP−AMPKαおよびAMPKαの検出結果は、図6に示す通りである。また、プロアントシアニジン(PA)の違いによるAMPK活性化レベル(P−AMPK/AMPK)の結果は、図7のグラフに示す通りである。図7の結果より、PA2投与群よりもPA3投与群の方が、PA3投与群よりもPA4投与群の方が、AMPK活性化レベルの上昇が大きかった。したがって、PAは重合度が高いものほどAMPK活性化作用が強いことが示唆された。
【0059】
また、上記図7の結果より、AMPK活性化作用が強いと予想されるPA4に着目し、PA4投与によるAMPK活性化レベルの経時変化、さらに、それに伴うアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のリン酸化レベル(P−ACC/ACC)の経時変化について検討した。図8は、10μM PA4投与群におけるP−AMPKαおよびAMPKαの検出結果(ウェスタンブロット法による経時変化)を示したものであり、図9のグラフは、10μM PA4投与群におけるAMPK活性化レベル(P−AMPK/AMPK)の経時変化を示したものである。また、図10は、上記と同様の試験を50μM PA4投与群に対しても行い、上記10μM PA4投与群結果とともに、P−AMPKαおよびAMPKαの検出結果(ウェスタンブロット法による経時変化)を示したものであり、図11のグラフは、これら10μMおよび50μM PA4投与群におけるAMPK活性化レベル(P−AMPK/AMPK)の経時変化を併記したものである。さらに、先のACCのリン酸化レベル(P−ACC/ACC)の経時変化を検討するに際し、一次抗体として、P−AMPKα抗体、AMPKα抗体に代えて、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)抗体、ホスホ−アセチルCoAカルボキシラーゼ(Ser79) (P−ACC)抗体(Cell Signaling社製)を用いる以外は、上記「筋管細胞におけるプロアントシアニジン(PA)のAMPK活性化作用の確認試験」と同様の試験を、10μMおよび50μM PA4投与群に対して行った。そして、図12は、10μMおよび50μM PA4投与群におけるP−ACCおよびACCの検出結果(ウェスタンブロット法による経時変化)を示したものであり、図13のグラフは、これら10μMおよび50μM PA4投与群におけるACCのリン酸化レベル(P−ACC/ACC)の経時変化を併記したものである。
【0060】
以上の結果から、PA4投与直後から筋管細胞のAMPK活性化レベルの上昇が見られ、投与から3時間が経過してもAMPKの活性化が持続されていた。また、PA4投与直後のものにはACCリン酸化レベルの増大が確認された。この結果から、PAはAMPKの活性化を介してACCのリン酸化を促進することが明らかになった。なお、AMPKは主に赤筋や肝臓に発現しており、これが活性化されるとACCのリン酸化(不活性化)を介してミトコンドリアでの脂肪酸酸化が促進されることが知られている。
【0061】
<筋管細胞へのPA4投与による遺伝子発現量変化(PPARα)の確認試験>
上記作製した試験用の筋管細胞(分化後5日目あるいは6日目の細胞を筋管細胞)を使用し、PA4投与の約3時間前に培地を1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有DMEMに交換した。所定の濃度の各成分存在下、筋管細胞を5時間さらに培養した。
【0062】
(核酸の回収)
PA4投与の5時間後、培地を取り除き、細胞を、phosphate buffered saline (PBS)で洗浄した後に、1ウェルあたり1mLのQIAZOL(キアゲン社製)を加え、セルスクレイパーで細胞を回収し、全量を滅菌済みの1.5mL容チューブに加えてヴォルテックスミキサーでよく混合して5分間室温で静置した。その後、200μLのクロロホルムを加えてヴォルテックスミキサーでよく混合した後、そのまま室温で5分間静置した。次に、12000×g、4℃で15分間遠心分離し、その水層を、新しい1. 5mL容チューブに回収した。回収した液に同量のイソプロパノールを加えてよく混合し、室温で5分間静置した。次に、12000×g、4℃で15分間遠心分離し、上清を取り除いた。さらに1mLの冷70%エタノールを加えてよく混合した後、12000×g、4℃で5分間遠心分離し、上清を取り除いた。そのまま沈殿を室温で5分間風乾させた。次に、沈殿にジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理した水(DEPC処理水)40μLを加えてピペッティングを行い、よく混合した。分光光度計(NanoDrop ND-1000)を用いて、260nmにおける吸光度を測定し、RNA濃度を定量した。
【0063】
(cDNA合成)
アプライドバイオシステムズ社のHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いて行った。
得られたRNA1μgを含む13.2μLのDEPC処理水に、2μmLの10×reverse transcription buffer(アプライドバイオシステムズ社製)、0.8μLの100mM 25×dNTP Mixture (アプライドバイオシステムズ社製)、1μLの20U/μL ribonuclease inhibitor(アプライドバイオシステムズ社製)、1μLの50U/μL MuLV reverse transcriptase(アプライドバイオシステムズ社製)、2μLの50μM 10×random primer (アプライドバイオシステムズ社製)を加え(計20μL)、雰囲気温度を所定の条件に制御(25℃で10分間、次いで37℃で120分間、次いで85℃で5秒間)することにより反応させ、cDNAを合成した。
【0064】
(real−time PCRによるmRNAの定量)
得られたcDNA1μgを含む10.75μLのDEPC処理水に、12.5μLのTakara premix Ex Taq(タカラバイオ社製)、0.5μLのROX reference dye (タカラバイオ社製)及び1.25μLのTaqman(R) Gene expression Assays〔Peroxisome proliferator activated receptor (PPARα) (Assay ID : Mm00440839#m1) 、Ribosomal protein , large P2(Assay ID : Mm00782638#s1)を含有〕(アプライドバイオシステムズ社製)を加え(計25μL)、7300 real-time PCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)のプロトコールに従ってreal-time PCR による遺伝子発現量測定を行なった。PPARα遺伝子発現量のmRNA量と内因性コントロールとしてRibosomal protein , large P2遺伝子発現量のmRNA量を測定し、PPARα遺伝子発現量のmRNA量をRibosomal protein , large P2遺伝子発現量のmRNA量で割って補正した値をPPARαの発現量とした。
【0065】
<筋管細胞へのPA4投与による遺伝子発現量変化(PPARα)の確認試験結果>
β1サブユニットを有するAMPKが活性化されるとACCの不活性化を介して脂肪酸酸化が促進される。これに対しβ2サブユニットを有するAMPKが活性化されると、活性化AMPKは核内に移行してPPARαの遺伝子発現を増大することでぺルオキシソームにおける脂肪酸酸化が促進される。これまでの結果から、PAはAMPKの活性化を介してACCのリン酸化を促進することが明らかになったが、それとは別にAMPKの下流因子として調整を受けるPPARαの遺伝子発現がPAの投与によってどのような変化を受けるか検討した。その結果を、図14に示す。PA4投与群では、Control群に比べてPPARαの遺伝子発現が濃度依存的に上昇しており、50μM PA4投与群においては有意な差が確認された。したがって、PA4は筋組織において、PPARαの発現や、ACCのリン酸化などの脂肪代謝関連酵素の活性化により、脂肪代謝が促進されることがわかる。
【実施例3】
【0066】
〔KK−Ay マウスへ黒大豆抽出物を摂取させた時の血清グルコース濃度、血清トリグリセリド濃度低下作用〕
<実験動物および飼育方法>
[実験動物]
KK−Ay マウス(2型糖尿病モデルマウス)の雄(4週齢)
室温24℃、明暗調製8〜20時、給水ビンによる給水で飼育を行った。
[投与物質]
黒大豆抽出成分の市販品であるクロノケア(BE)(フジッコ社製)
クロノケア(BE)中、プロアントシアニジン(PA)含量59%、シアニジン−3−グルコシド(C3G)含量9%。
[試験食の調製]
通常飼料としては、日本クレア社製の配合飼料粉末CE−2を使用した。そして、上記粉末CE−2と、BEを混合し、2.2%BE食(C3G含量として0.2%になるように計算された添加量)を調製した。
[飼育スケジュール]
(i) 4週齢マウスを購入し飼育を開始した。
(ii)予備飼育4日間飼料は、粉末CE−2(日本クレア配合飼料)を摂食させた。
(iii) 予備飼育後、体重、血糖値の平均値がほぼ等しくなるようにControl群、BF群(n=8)に分け、Control 群にはCE−2食、BE群にはCE−2食+2.2%BE食を自由摂取させた(試験食摂食開始を試験0週目とした)。
(iv)1週間毎に体重測定・採血を行い、血清グルコース濃度を測定した。
(v) 試験6週目にマウスを屠殺した。血液はエッペンチューブに採取し、4℃, 5000rpmで10分間遠心して血清を分離し、−80℃で冷凍保存した。
【0067】
<1週間毎の採血方法>
(i) 採血日の午前9時から1時間絶食させた。
(ii)尾静脈を剃刀で切りエッぺンチューブに血液を取り、数分間室温に置いた後氷中に置いた。
(iii) 4℃、5000rpm、10分間の遠心分離を行った。
(iv)上清(血清)を採取して別のエッペンチューブに移し氷中に置いた。
(v) 得られた血清を用いて血糖値を測定した。
【0068】
<血清グルコース濃度の測定>
1週間毎の採血から採取した上清(血清)のグルコース濃度を、グルコースCII−テスト・ワコー(和光純薬工業社製)を用いて、添付のプロトコールに従い、測定した。
【0069】
<血清トリグリセライド濃度、血清総コレステロール濃度、血清インスリン濃度の測定> 試験6週目のマウスを検体として、血清トリグリセライド濃度、血清総コレステロール濃度の測定を行った。なお、血清トリグリセライド濃度は、トリグリセライドE−テスト・ワコー(和光純薬工業社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって測定した。また、血清総コレステロール(血中総コレステロール)濃度は、コレステロールE−テスト・ワコー(和光純薬工業社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって測定した。また、血清インスリン(血中インスリン)濃度は、モリナガインスリン測定キット(森永生科学研究所社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって測定した。
【0070】
<組織における特定タンパク質の定量>
屠殺したマウスの解剖時に採取した肝臓、骨格筋におけるAMPKα, およびP−AMPKα(Thr 172) のタンパク量の定量を行った。また、骨格筋においては、Whole lysate (細胞全体からの抽出液), Plasma membrane fraction(細胞膜画分) , Cytosol fraction (細胞膜画分以外の細胞質由来抽出液)のサンプルを回収し、Whole lysateにおけるAMPKの活性化レベルと、それぞれのサンプルにおけるGlut4の発現量について検討した。詳しくは、採取した組織をタンパク抽出用バッファでホモゲナイズし、4℃, 18000×g, 30分間遠心分離して得られた上清を採取し、ウェスタンブロッティングにより各タンパク質を検出した。Plasma membrane fractionの採取はNishiumi&Ashida の方法(BBB 2007,71 (9)2343-2346)に従った。Glut4に対する抗体はCell Signaling社の製品を用いた。二次抗体としてAnti-rabbit IgG, HRP-linked antibody(Cell Signaling)を使用した。
【0071】
〔実施例3の試験結果〕
【0072】
<食餌摂取量、体重、血清グルコース濃度の1週間毎の推移>
図15および図16のグラフより、食餌摂取量、体重は、飼育期間を通じて両群の間に有意な差は認められなかった。しかしながら、図17のグラフより、血清グルコース濃度は、試験4週目以降において、BE投与群での有意な低下が認められた。
【0073】
<血清トリグリセライド濃度、血清総コレステロール濃度、血清インスリン濃度の測定結果>
図18のグラフより、血清トリグリセライド濃度に関しては、BE群の血清トリグリセライド濃度は有意に低下した。また、図19のグラフより、血清総コレステロール濃度は、BE群において、Control 群と比べて有意な低下が確認された。また、図20のグラフより、血清インスリン濃度に関しては、Control群に比べて、BE群の血清インスリン濃度が有意に低下していた。
【0074】
<組織における特定タンパク質の定量結果>
BE摂取による血糖値上昇抑制作用は、AMPKの活性化、およびインスリン感受性の改善を介したGlut4のトランスロケーションの増大がその一端を担っているのではないかと考え、先に示したように、Whole lysate (Whole) , Plasma membrane fraction (PM), Cytosol fraction (Cytosol)の3種のサンプルを回収し、Whole lysateにおけるAMPKの活性化レベルと、それぞれのサンプルにおけるGlut4の発現量について検討した。その結果、図21のグラフに示すように、BE摂取によるAMPK活性化レベル(AMPKαThr172リン酸化)の有意な上昇が確認された。また、図22のグラフに示すように、Whole lysate (Whole), Cytosol fraction (Cytosol)においては両群の間でGlut4の発現量に差が見られなかったが、Plasma membrane fraction(PM)においては、BE群のGlut4の発現が有意に上昇していた。
【0075】
以上より、上記各実施例において、PA3(プロシアニジンC1)およびPA4(シナムタンニンA2)が、高いAMPK活性作用,GLUT4活性作用を示すことが確認された。なお、前記一般式(4)のプロアントシアニジンにおいて、そのnの値が3〜6の整数であるものにおいても、上記と同様、高いAMPK活性作用,GLUT4活性作用を示すことを実験により確認している。また、これらのプロアントシアニジンほどではないが、前記一般式(1)で表される本発明に規定のプロアントシアニジンに該当するものであれば、上記AMPK活性作用,GLUT4活性作用において有意な効果が認められることを実験により確認している。また、AMPK活性作用,GLUT4活性作用は、肥満や糖尿病等の予防・改善と密接に関与することから、本実施例品である上記特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、上記各作用を発揮することができる薬剤は、抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,または内臓脂肪蓄積抑制剤として使用しても、有利な作用効果が認められると推測される。また、これらの薬剤は、実質的に何ら副作用を示すことがないことから、飲食品に含有させることもできる。なお、前記一般式(4)に示すプロアントシアニジンであっても、nの値が7以上の整数のものでは、上記作用効果において有意な結果が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の薬剤は、特定構造のプロアントシアニジンを有効成分として含有し、AMPK活性作用,GLUT4活性作用を有するものであり、実質的に何ら副作用を示すことなく、これらの作用が効果的になされるため、安全性に優れており、産業上有用である。また、これらの作用に基づき、抗糖尿病剤、抗肥満剤、内臓蓄積脂肪低減化剤、内臓脂肪蓄積抑制剤等に使用することも可能である。また、上記薬剤を含有する飲食品は、あらゆる飲食品に適用し得るため、飲食品に機能的付加価値をつける意味でも、産業上有用である。さらに、家畜・ペット用飼料等への応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるプロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とするAMPK活性化剤。
【化1】

【請求項2】
下記の一般式(1)で表されるプロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とするGLUT4活性化剤。
【化2】

【請求項3】
上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンが、下記の化学式(2)で表されるプロシアニジンC1、または下記の化学式(3)で表されるシナムタンニンA2である請求項1または2記載の薬剤。
【化3】

【化4】

【請求項4】
上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンとともに、シアニジン−3−グルコシド(C3G)を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンの含量が0.01〜100重量%の範囲に設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
上記一般式(1)で表されるプロアントシアニジンの一日の摂取量が0.1〜1000mgの範囲になるよう設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
抗糖尿病剤,抗肥満剤,内臓蓄積脂肪低減化剤,内臓脂肪蓄積抑制剤のいずれか一つの医薬品であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤を含有することを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−178728(P2011−178728A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45411(P2010−45411)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(391003129)フジッコ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】