説明

Ablチロシンキナーゼ阻害剤による慢性骨髄性白血病の処置を最適化するための方法

本発明は、ヒト患者群における慢性骨髄性白血病(CML)の処置の最適化を補助するために、ヒトを評価する方法に関する。より具体的には、本方法は、(a)CMLを有する温血動物の治療前血液におけるOCT−1活性を測定する段階、および
(b)約6.0〜10.0ng/200,000細胞、特に約8.0〜8.5ng/200,000細胞以下のイマチニブ細胞内濃度に対応するOCT−1活性を示したCMLを有する温血動物に、1日用量約500〜1200mgのイマチニブメシル酸塩を投与する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト患者集団における慢性骨髄性白血病(CML)を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの慢性期CML患者におけるイマチニブメシル酸塩処置の成功は、十分に実証されている。しかし、あまりうまく行かなかった患者の処置結果の改善には、処置応答の臨床的数値の詳細な理解が必要である。既に、イマチニブ誘導性キナーゼ阻害に対する内因性感受性が応答の良好な予測因子であると示されており(White D, Saunders V, Lyons AB, et al. Blood. 2005;106:2520-2526; Schultheis B, Szydlo R, Mahon FX, Apperley JF, Melo JV. Blood. 2005;105:4893-4894)、そしてこれはイマチニブの細胞内取り込みおよび保持(IUR)と密接に関連していることが示されている(White DL, Saunders VA, Dang P, et al. Blood. 2006;108:697-704)。さらに、イマチニブの能動輸送が有機カチオントランスポーターOCT−1に依存することが示されている(Thomas J, Wang L, Clark RE, Pirmohamed M. Blood. 2004;104:3739-3745; White DL, Saunders VA, Dang P, et al, OCT-1 mediated influx is a key determinant of the intracellular uptake of imatinib but not nilotinib. Blood. 2006; 108: 697-704)。
【0003】
OCT−1タンパク質は、薬物、毒素および他の生体異物を含む多様な有機カチオンを起電的に輸送する溶質キャリアファミリーであるトランスポーターの最も大きなスーパーファミリーのメンバーである(Koepsell H, Endou H. Pflugers Arch. 2004;447:666-676)。該トランスポーターは12個の膜貫通ドメインと、異なる基質および阻害剤についての部分的に重複した相互作用ドメインを有する結合ポケットを有すると予測されている(Koepsell H, Schmitt BM, Gorboulev V. Rev Physiol Biochem Pharmacol. 2003;150:36-90)。リン酸化状態によるOCT−1の翻訳後制御(Ciarimboli G, Schlatter E. Pflugers Arch. 2005;449:423-441)ならびにPKA、Src様p56およびCaMのようなかかる化合物も示されている。
【発明の概要】
【0004】
本発明において、IC50イマチニブとOCT−1活性の間に顕著な相関が存在し、そして低いIC50イマチニブを有する患者が、高いIC50イマチニブを有する患者よりも顕著に大きなOCT−1活性を有することを見出した。このことはより大きなOCT−1活性が、薬物標的のより効果的な阻害に関連していることを示唆している。TIDEL試験に登録した全ての患者(慢性期と新たに診断された、前もって600mgのイマチニブメシル酸塩を投与されているCML患者)においてOCT−1活性と分子応答を比較すると、高いOCT−1活性を有する患者は、低いOCT−1活性を有する患者よりも、24ヶ月にわたるイマチニブ処置で、顕著に大きな分子応答が得られることが示された。さらに、600mgのイマチニブメシル酸塩を投与した患者は600mg未満を投与したものよりも24ヶ月で顕著に良好な分子応答が得られたことから、低いOCT−1活性を有する患者の分子応答は用量依存的であることを見出した。重要なことに、低いOCT−1活性を有する患者群は、1日あたり試験投与量600mgまたは少なくとも600mgのイマチニブメシル酸塩が投与されなければ、準最適乃至不良なイマチニブ応答の危険がより高いことが同定された。さらなる試験結果は、800mgのイマチニブにランダム化した、低いOCT−1活性を有する患者の大部分は、400mgにランダム化したものと比較したとき、12ヶ月でMMRを得ることが示される。本明細書に記載のデータは、低OCT−1活性患者における準最適応答の危険を克服するために、用量が重要な要因であることを示している。
【0005】
重要なことに、この機能的アッセイを用いて診断時にOCT−1活性を測定することによって、標準用量のイマチニブメシル酸塩に十分応答すると思われるCML患者と、より高い用量のイマチニブメシル酸塩が有利であると思われるものとを同定することができる。
【0006】
従って、本発明は、温血動物におけるCMLを処置する方法であって、
(a)CMLを有する温血動物の治療前血液におけるOCT−1活性を測定する段階、および
(b)約6.0〜10.0ng/200,000細胞、特に約8.0〜8.5ng/200,000細胞以下のイマチニブ細胞内濃度に対応するOCT−1活性を示したCMLを有する温血動物に、1日用量約500〜1200mgのイマチニブメシル酸塩を投与する段階
を含む方法に関する。
【0007】
「約」:用語「約」は、本明細書および本願を通じて使用するとき、指示した値の−10%〜+10%の範囲内で変化し得る値を意味する。好ましくは、指示した値の−5%〜+5%である。
【0008】
好ましくは、温血動物はヒトである。
【0009】
好ましい態様において、投与するイマチニブメシル酸塩の1日用量は約600〜1000mg、例えば600mg/日、800mg/日、1000mg/日または1200mg/日である。
【0010】
1つの態様において、段階(b)において少なくとも1日用量400mgのイマチニブメシル酸塩が経口的に投与される。1つの態様において、段階(b)において少なくとも1日用量500mgのイマチニブメシル酸塩が経口的に投与される。1つの態様において、段階(b)において少なくとも1日用量800mgのイマチニブメシル酸塩が経口的に投与される。
【0011】
1つの態様において、段階(b)において1日用量約600〜1000mgのイマチニブメシル酸塩が経口的に投与される。1つの態様において、段階(b)において1日用量600〜1000mgのイマチニブメシル酸塩が経口的に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】A.99人の患者におけるIC50イマチニブとIURの相関。ボックスプロットは低および高IC50イマチニブ群間のIURの差を示し、また強力なOCT−1阻害剤であるプラゾシンを用いるとこの差がなくなることを示している。
【図2】A.99人の患者におけるIC50イマチニブとOCT−1活性の相関。B.ボックスプロットは低および高IC50イマチニブ群間のOCT−1活性の差を示す。
【図3】A.OCT−1活性と分子応答。低および高OCT−1活性群。B.高OCT−1活性を有する患者における用量の影響。C.低OCT−1活性を有する患者における用量の影響。
【図4】Kaplan Meierは低および高OCT−1活性群間の多様な時点でのMMRの達成の差を示す。
【図5】患者を低および高OCT−1活性群に分け、次いでさらにADDに基づいて分けて、用量漸増の影響を示す。
【図6】18ヶ月での分子応答(BCR−ABLにおける対数減少)と比較したOCT−1活性。評価した応答基準は準最適応答(18ヶ月でMMRが得られなかった)および最適応答(18ヶ月でBCR−ABLにおける3〜4対数減少および>4対数減少が得られた)である。コホート群は:A.投与した用量に関わりなく全患者、B.最初の12ヶ月にわたってADD<600mgを投与した患者、C.12ヶ月後にADD800mgに用量を漸増しなかった患者、D.治療の12ヶ月後にADD800mgに用量を漸増した患者に分ける。
【図7】A.丸はOCT−1活性とOCT−1mRNAの相関を示す。B.四角は低および高OCT−1活性群におけるOCT−1mRNAのレベルの差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語「大きな分子応答(MMR)」は、本明細書において使用するとき、実時間定量逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、好ましくは治療の12ヶ月後、例えばイマチニブメシル酸塩治療の12ヶ月後の末梢血から定量したBCR−ABL転写産物における3対数減少を意味する。
【0014】
用語「完全細胞発生応答(CCR)」は、本明細書において使用するとき、骨髄吸引液中分裂中期の少なくとも20または25個の細胞にわたってフィラデルフィア染色体陽性分裂中期が0%であることを意味する(Colombat M, Fort MP, Chollet C, et al. Molecular remission in chronic myeloid leukemia patients with sustained complete cytogenetic remission after imatinib mesylate treatment. Haematologica 2006;91:162-8.)。
【0015】
イマチニブは米国特許出願5,521,184、特に実施例21に一般的および具体的に記載されており、その内容を参照により本明細書に引用する。イマチニブはWO03/066613に記載の方法に準じて製造してもよい。
【0016】
本発明の目的のために、イマチニブは好ましくは、モノメシル酸塩の形態で適用する。イマチニブモノメシル酸塩はUS 6,894,051に記載の方法に準じて製造することができ、その内容を参照により本明細書に引用する。それらに開示されている対応する多型、例えば結晶修飾物も同様に含まれる。
【0017】
イマチニブモノメシル酸塩はUS 5,521,184、US 6,894,051またはUS 2005-0267125に記載の投与形態で投与することができる。
【0018】
本明細書に記載の方法の段階(a)で必要なCML患者の血液サンプルの採取は、当該技術分野における標準的な方法で実施することができる。OCT−1活性を評価するアッセイを実施するための患者の血液由来の細胞は、新鮮であっても凍結してもよい。
【0019】
本明細書に記載のOCT−1活性は、薬物の細胞内レベルによって定義されるとおり、イマチニブの輸送におけるOCT−1タンパク質の活性の測定するために、OCT−1阻害剤であるプラゾシンの非存在下(全IUR)と存在下での薬物/イマチニブのIURの差として計算する。例えば:[全IUR 32ng/200,000細胞]−[プラゾシンIUR 23ng/200,000細胞]によって9ng/200,000細胞のOCT−1活性を得る。
【0020】
下記実施例に記載のとおり、OCT−1活性はCML患者の治療前血液で測定した。OCT−1の活性は、OCT−1阻害剤であるプラゾシンの存在下または非存在下でインビトロで増殖したCML患者由来の細胞における、[14C]−イマチニブの細胞内取り込みおよび保持(IUR)の差を測定することに由来する。>平均(高い)OCT−1活性を有する患者の85%は24ヶ月で大きな分子応答(MMR)を得たが、≦平均(低い)OCT−1活性を有するものでは45%であった。12ヶ月にわたる治療で600mgのイマチニブメシル酸塩/日を投与した患者および平均<600mgの患者を評価すると、高OCT−1活性を有する患者は用量に拘わらず優れた分子応答を得たが、低OCT−1活性を有する患者の応答は極めて用量依存的であることが示された。<600mgを投与した低OCT−1活性を有する患者の45%が12ヶ月で2対数減少に達せず、82%が18ヶ月でMMRを得なかったが、高OCT−1活性および用量<600mg/日のコホートにおいて8%および17%であった(p=0.017およびp=0.022)。OCT−1活性はイマチニブに対する分子応答の重要な決定因子であり、用量と密接に関連した予測値を有する。
【実施例】
【0021】
実施例
下記実施例は、本明細書に記載の発明の範囲を限定することなく説明する。実施例は本発明を実施する方法を提案することのみを意味する。下記データはTIDEL試験のCML患者のサンプルから得た。
【0022】
細胞内イマチニブ濃度によってOct−1活性を測定する
薬剤:ハンクス平衡塩(HBSS)、Ca++およびMg++を含まない。SAFC Biosciences。使用前に0.05mMのHepesを加える。胎児ウシ血清(FBS)。Lymphoprep, Axis Shield。MICROSCINT-20シンチレーション液、PerkinElmer。RPMI培地、W/o L−グルタミン、Ca++およびMg++を含まない、SAFC Biosciences。
プラゾシン − OCT−1を阻害する
(プラゾシン塩酸塩、MW=419.9、Sigma)
10mM原液から100μMで使用する。
10mM原液=4.2mg/mLのメタノール
【0023】
14C−イマチニブ作用液
放射性および非放射性イマチニブ、1mLにつき100μMの50%混合物:
【表1】

【0024】
必要な試料
末梢血、骨髄および造血細胞を含む他の液体をリチウムまたはナトリウムヘパリン中、無菌で採取する。
血液をフィコールで分離し、単核細胞(MNC)をこのアッセイに用いるべきである。MNCの分離は密度勾配を用いた標準的な実験技術に準じて行う。
新鮮なものの代わりに、生存能力の補完を確実にするため、凍結保存後に解凍したMNCを用いることができる。
【0025】
方法
1. 全アッセイ点は3連で実施する。
2. 24×2mlのマイクロチューブは以下に詳述するとおりにラベルを付す(付録1)。
3. ステッパーピペットを用いて、1mLのRPMI+10%FBSを各チューブに分注する。
4. 200,000個の生存能力を有するMNCを各チューブに分注する。
5. 必要に応じて流入/流出の阻害剤を以下に詳述するとおりに加える(付録1)。
6. 付録1のとおりに14C−イマチニブをチューブに加える。
7. パスツールピペットを用いてRPMI+10%FBSを滴下して、全体積2mlとする。
8. 標準2時間アッセイのために、37℃/5% COで2時間インキュベートする。
9. チューブを6800rpmで5分間遠心分離する。13000rpmで30秒間パルススピンする。
10. 各チューブから上清(S/N)のアリコート20μlを取り、付録4の通り96ウェルプレート中で100μlのMicroscint-20と混合する。
11. 接着プラスチックカバーシールでプレートを被覆し、プレートをホイルでくるむ。
12. チューブを13000rpmで30秒間、再びパルススピンする。
13. カニューレ+イエローチップ装着吸い込み管を用いて残留液を全て吸引する−細胞ペレットをかき乱してはならない。
14. ステッパーピペットを用いて50μlのMicroscintをペレットに加える。
15. 細胞をボルテックス撹拌して再懸濁する。13000rpmで15秒間パルススピンする。
16. 溶解した細胞を、付録2の通りに2次96ウェルプレートに移す。
17. 接着カバーシールでプレートを被覆し、ホイルでくるむ。
18. TopCountベータカウンターで全プレートを計測する。
19. 測定したデータをIUR−イマチニブアッセイテンプレートスプレッドシートに入力する。
【0026】
実施例1:IC50イマチニブ14CイマチニブIURの相関
小規模なシリーズにおいて(n=19)、IC50イマチニブとIUR間の良好な相関(p=0.014)が示された(White DL, Saunders VA, Dang P, et al. Blood. 2006;108:697-704)。この最新の拡大されたシリーズにおいて(n=99)、再び強い相関(r=−0.342;p=0.0005)が示され、2つのパラメーター間の関係を確認した(図1A)。さらに、低および高IC50イマチニブ群のIUR間に有意な差が示される(p=0.001)が、この差はOCT−1阻害剤であるプラゾシンを加えると消失する(p=0.129)(図1B)。これによって再び、イマチニブ流入におけるトランスポーターOCT−1の重要性が確認される。
【0027】
実施例2:OCT−1活性
IURアッセイに強力なOCT−1の阻害剤であるプラゾシンを添加することによって、OCT−1によるイマチニブの能動輸送が阻害される。両方の試験に登録された132人の患者の試験は、広範なOCT−1活性を示す(平均8.2:範囲0〜31.2)。5人の患者の反復アッセイにおいて、プラゾシンの存在下でのIUR値はプラゾシンの非存在下での値と等しいか、あるいはそれより低かった。これらの患者は無視し得る(0ng/200,000細胞)OCT−1活性を有すると記録した。
【0028】
実施例3:OCT−1活性およびIC50イマチニブ
IC50イマチニブとOCT−1活性の両方を測定した99人の患者において、IC50イマチニブとOCT−1活性間に有意な相関が存在した(r=−0.238;p=0.019)(図2A)。さらに、IC50イマチニブを低いものと高いものにグループ分けすると、低IC50イマチニブ群は高い群と比較して顕著に高いOCT−1活性を示した(p=0.008)(図2B)。
【0029】
実施例4:OCT−1活性、分子応答および実際の投与量の影響
TIDEL試験に登録された56人の患者におけるイマチニブメシル酸塩治療の最初の24ヶ月にわたって、OCT−1活性を分子応答と比較した。このコホートの平均活性7.2ng/200,000細胞に基づいて、低および高OCT−1活性に患者をグループ分けした。表1および図3Aに示すとおり。高OCT−1活性を有する患者は(n=27)、低OCT−1活性を有する患者(n=29)よりも時間経過にわたって有意に高い分子応答を得た(n=29)(24ヶ月でp=0.005)。
【0030】
しかし、耐容性の問題のため、全ての患者に治療の最初の12ヶ月にわたって一貫して600mgのイマチニブメシル酸塩が投与されたわけではない。用量の変化の影響を評価するため、患者をさらに、イマチニブ治療の最初の12ヶ月にわたって平均1日用量(ADD)600mg(n=33)が投与された患者群と、1日あたりADD600mg未満が投与されたもの(n=23、平均ADD523mg)とにグループ分けした。ADD<400mgの4人の患者はこのコホートに含めた。
【0031】
高OCT−1活性を有する患者のみを評価すると、12ヶ月にわたって<600mgを投与した患者群と600mgまたはそれ以上を投与した患者群との分子応答に有意な差は存在しない(24ヶ月でp=0.449)(図3B、表1)。逆に、低OCT−1活性を有するコホートでは、600mgが投与された患者群は、600mgが投与されなかったものとよりも有意に良好な分子応答が得られたように、有意な用量効果が存在する(24ヶ月でp=0.005)(図3B、表1)。
【0032】
Kaplan Meir分析によって、高OCT−1活性を有する患者の85%が24ヶ月でMMRを得たが(平均9ヶ月で得た)、低OCT−1活性を有する患者では45%のみである(平均時間24ヶ月)ことが示された(p=0.009、図4)。最初の12ヶ月にわたるADD<600mgが投与された患者群のみを分析すると、低および高OCT−1活性患者間で有意な用量の影響が示される:低OCT−1活性患者の18%と比較して、83%の高OCT−1活性患者(n=12)がMMRを得る(n=11)p=0.022。しかし、600mgが投与された患者のコホートでは有意な差が存在しない(p=0.110)。
【0033】
表1 OCT−1活性およびMR
【表2】

【0034】
実施例5:用量増加の影響
TIDEL試験において、標準化されたベースラインから4対数減少が12ヶ月で得られなければ、初期の1日あたり600mgから800mgへの用量増加を実施した。本実施例の患者コホートにおいて、46人の患者が用量増加を企画された。この分析において、少なくとも1ヶ月間ADD800mgが患者に投与されたとき、用量増加が起こったと考えた。
【0035】
毒性のため、このコホート中29人(63%)の患者においてのみ、800mg/日に用量が増加された。不可能であった第一の理由は、用量が漸増されなかった17人の患者の13人に生じた上記毒性/耐容性の問題である。残り2人の患者のうち2人は1ヶ月間用量を漸増したがADD600mgに達しなかった。残り2人の患者が漸増されなかった理由は不明である。
【0036】
用量を増加することができる全患者において、14ヶ月で用量増加を行った。用量漸増の影響を評価するため、患者を上記の通り低および高OCT−1活性群にグループ分けし、次いでさらに増加用量を投与されたものと600mgまたはそれ未満のままのものとに再分割した。図5に示すとおり、高OCT−1活性コホートでは用量を増加した患者群と用量を増加しなかった患者群とに有意な差がなかった(全時点でp>0.05)。逆に、低OCT−1活性を有する患者群は、用量が増加されたとき、高い活性を有する患者のものと同様である。低OCT−1活性を有するものでは、薬物が非効率的に取り込まれる。したがって、適切な細胞内レベル(これは投与された薬物のより低い用量で高OCT−1/良好な輸送を有する細胞において達成される)に達するためには循環系における薬物量の増加が必要である。しかし、用量増加を行わなかったものは、24ヶ月で有意に低い分子応答を有した(図5)。
【0037】
18ヶ月でMMRを得なかった患者群の平均OCT−1活性は、MMRを得た患者群のOCT−1活性よりも有意に低い(図6)。分子応答群間でのこれらのOCT−1活性の差は、12ヶ月で用量を漸増できなかった患者群において最も明らかである(図6c)。12ヶ月で用量を増加した患者群では、3つの群の間で有意な差は存在しない(図6d)。
【0038】
実施例6:OCT−1活性、準最適応答およびイマチニブ不足
準最適応答は6ヶ月で主な細胞遺伝学的応答が得られず、12ヶ月で完全な細胞遺伝学的応答がえられず、あるいは18ヶ月でMMRが得られないものとして定義される(Baccarani M, Saglio G, Goldman J, et al. Blood. 2006;108:1809-1820)。分子応答と細胞遺伝学的応答の良好な相関は既に示されているため(Branford S, Hughes TP, Rudzki Z. Br J Haematol. 1999;107:587-599)、6ヶ月でBCR−ABLにおける1対数減少、12ヶ月で2対数減少および18ヶ月で3対数減少(MMR)に達しない準最適応答を評価した。表2に示すKaplan Meier分析によって、患者にADD600mgを投与するといずれの時点でも準最適応答の頻度に有意な差はないが、低い用量を患者に投与したとき全ての時点で有意な差が存在することが示され、これは低いOCT−1活性を有する患者に投与する用量が少ないと、イマチニブメシル酸塩に対する準最適応答の実質的リスクがあることを示している。
18ヶ月で2対数減少の達成失敗を評価することによって(Imatinib failure, Baccarani M, Saglio G, Goldman J, et al. see above)、低OCT−1活性を有し、投与量が低い患者は有意に低い割合で、18ヶ月で2対数減少を得ることも示される(高OCT−1活性8%、低OCT−1活性36%、p−0.04)。
【0039】
表2 準最適応答
【表3】

【0040】
実施例7:OCT−1mRNAとOCT−1活性
93人の患者において、BCRmRNAと比較してOCT−1mRNAのレベルを測定した。相対平均%mRNAは0.02〜3.5%の範囲で0.835であった。mRNAとOCT−1活性の相関はp値0.002で示された(r=0.378)(図7)。患者をこのコホートの平均値7.9で低および高OCT−1活性にグループ分けすると、2つのグループ間で有意な差が示される。低OCT−1活性を有する患者(n=47)の平均%OCT−1mRNAは0.367であり、高OCT−1活性を有する患者(n=46)は0.635であった(p=0.036、図7)。
興味深いことに、IC50とOCT−1mRNA分析が利用可能な77人の患者において、2つのパラメーター間に相関が見られなかった(r=0.162;p=0.171)。患者を低および高IC50イマチニブにさらにグループ分けしてOCT−1mRNA発現レベルを評価すると、2つのグループ間で有意な差が見られなかった(低IC50イマチニブ n=42、平均0.586;高IC50イマチニブ n=35、平均0.546;p=0.570)。
【0041】
24ヶ月分子追跡が利用可能な患者(TIDEL患者)に分析を限定すると、2つのグループ間(低および高OCT−1mRNA)の分子応答に有意な差が示され得なかった(表3)。またOCT−1活性とは逆に、用量に関する2つのグループ、600mgまたはそれ未満と用量漸増(800mg)の間に有意な差が存在しなかった(表3)。OCT−1活性と同様に、mRNA分析はイマチニブに対する準最適応答または不良のリスクを有する患者群を明らかにしなかった(データは示さず)。
【0042】
表3.OCT−1mRNAとMR
【表4】

【0043】
実施例7 60人のCML患者コホートにおける分子応答に対するOCT−1活性の影響の予備的分析
このアッセイは、これまで未処置であって、イマチニブ治療前の慢性期CML患者において実施した。1次エンドポイント:12ヶ月でMMR(大きな分子応答の達成:RQ−PCRで測定したときBCR−ABLにおいて>3対数減少)。
【0044】
統計 Kaplan Meier、対数ランク生存数、対数ランク分析およびt−検定。
<0.05のレベルで有意なp値とする。
【0045】
結果
A:12ヶ月でのMMRの達成(患者のパーセンテージ)
【表5】

【0046】
:平均分子応答(BCR−ABLにおける対数減少)
【表6】

【0047】
このデータは(i)400mgにランダム化されたものと比較して、800mgのイマチニブにランダム化された低OCT−1活性を有する患者がより大きな割合で、12ヶ月でMMRを得ること、(ii)低OCT−1活性を有する患者について、1日あたり>400mg(この場合800mg)のイマチニブ用量で有利な結果が観察されること;(iii)低OCT−1活性を有する患者は800mg以上に用量を増加することによってさらに利益を受けると思われることを示している。
このデータは、TIDEL試験の最初の知見を支持し、したがってMMRの達成におけるOCT−1活性の重要性について確認的な証拠を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温血動物における慢性骨髄性白血病(CML)を処置する方法であって、
(a)CMLを有する温血動物の治療前血液におけるOCT−1活性を測定する段階、および
(b)約6.0〜10.0ng/200,000細胞以下のイマチニブ細胞内濃度に対応するOCT−1活性を示したCMLを有する温血動物に、1日用量約500〜1200mgのイマチニブメシル酸塩を投与する段階
を含む方法。
【請求項2】
温血動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(b)において、少なくとも1日用量400mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
段階(b)において、少なくとも1日用量600mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
段階(b)において、少なくとも1日用量800mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
段階(b)において、1日用量約600〜1000mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
段階(b)において、1日用量600〜1000mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
段階(b)において、1日用量600mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
段階(b)において、1日用量800mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
段階(b)において、1日用量1000mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
段階(b)において、1日用量1200mgのイマチニブメシル酸塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
CMLを有する温血動物が、約8.0〜8.5ng/200,000細胞以下のイマチニブ細胞内濃度に対応するOCT−1活性を示す、請求項1〜10の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−530854(P2010−530854A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512465(P2010−512465)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000911
【国際公開番号】WO2009/000023
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(500109755)メドベット・サイエンス・プロプライエタリー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】