説明

Bi系はんだ合金の製造方法

【課題】 Bi中にPを簡単に且つ低コストで含有させることによって、Pbを含まず、濡れ性に優れ、高い信頼性を有するBi系はんだ合金の製造方法を提供する。
【解決手段】 Pbを含まず、Biを主成分とし、Pを含有するBi系はんだ合金の製造する際に、Biよりも融点の高い金属箔でPを包み込み、このPを包み込んだ金属箔をBiと共に不活性ガス雰囲気中で加熱溶融することによって、Pを0.001重量%以上含有させたBi系はんだ合金が得られる。金属箔はAl、Zn、Cuのいずれか1種又はこれらの合金からなり、その厚さが20μm以上800μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PbフリーのBi系はんだ合金に関し、特にPを含むことによって濡れ性に優れたBi系はんだ合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は半導体素子などを基板に接合する目的で使用されるはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くから鉛(Pb)が主成分として使われ続けてきたが、すでにRohs指令などでPbは規制対象物質になっている。このため、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ又は無鉛はんだと称される)の開発が盛んに行われている。
【0003】
半導体素子を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)に大別されている。そのうち中低温用はんだに関しては、Snを主成分とするものでPbフリーが実用化されている。例えば特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0mass%、Cuを2.0mass%以下、Niを0.5mass%以下、Pを0.2mass%以下含有する無鉛はんだ合金が記載されている。また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5mass%、Cuを0.5〜2.0mass%含有し、残部がSnからなる無鉛はんだが記載されている。
【0004】
一方、高温用のPbフリーはんだに関しても、多くの機関で開発が行われている。例えば特許文献3には、Biを30〜80質量%含み、溶融温度が350〜500℃のBi/Agろう材が記載示されている。また、特許文献4には、1〜12質量%のAg、0.1〜0.3質量%のCu、2〜8質量%のSbより選択されるいずれか1種を第2金属元素として含有し、更に0.001〜0.01質量%のPを含み、残部がBi及び不可避不純物からなり、固相線温度が260℃以上である高温ろう材が開示されている。
【0005】
尚、上記特許文献1〜4のはんだを含めて通常のはんだは、例えば特許文献5に記載された方法により製造することができる。具体的には、水冷分割銅るつぼを用いる水冷誘導溶解法により金属間化合物合金を溶製するに際し、溶湯とその凝固殻とが共存し且つ溶湯温度が時間に依存しない状態(熱的平衡状態)における溶湯温度と溶湯合金組成との関係を予め求めておき、実際の誘導溶解遂行時の被溶解原料の溶落後、熱的平衡状態における溶湯温度を測定し、該溶湯温度と前記関係とから溶湯組成を求め、該溶湯組成に応じて元素を添加して溶湯組成を調整する操作を1回又は2回以上繰り返して行い、溶湯組成を制御する誘導溶解方法などによってはんだ母合金を製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−077366号公報
【特許文献2】特開平08−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2004−114093号公報
【特許文献5】特開平06−145835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高温用のPbフリーはんだ材料に関しては、上記特許文献3〜4の例を含め各種の研究開発が行われているものの、未だ実用上許容できる特性のはんだ材料は提供されていないのが実情である。即ち、一般的に半導体装置の組立には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、例えば上記特許文献3に開示されたBi/Agろう材は、液相線温度が400〜700℃と高いことから、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合されるプリント基板等の耐熱温度を超えてしまうという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献4に記載されたBi系の高温ろう材は、溶融温度が260℃以上であり、良好な濡れ性及び接合信頼性を有するため、半導体素子のダイボンディングやプリント基板への組立等に好適に使用できるとしている。しかし、特許文献4には、第2金属元素であるAg、Cu、Sbの濃度がそれぞれの下限値を下回ると、BiにはPが固溶しないため所定量のPが添加できなくなると記載されているが、このPをBi系はんだ中に含有させる具体的方法について触れていないので、特許文献4は現実的には実施困難な技術と推測される。
【0009】
上記特許文献4にも記載されているように、従来の工業的方法では濡れ性向上の効果が得られる量のPを安定して添加することは困難であった。即ち、単に溶解するような一般的な方法では、比重が小さく且つ非常に発火しやすいPをBi中に固溶させることは難しかった。しかし、PはBi中にわずかながら固溶し、その固溶量は0.1質量%とされている。従って、特許文献4に記載されるような第2元素の添加量にかかわらず、Bi中にPを固溶させる方法を確立することができれば、高温用のPbフリーはんだとしてBi系はんだを実用化することが可能となる。
【0010】
しかし、高温用のPbフリーはんだ材料として期待されているBi系はんだに限定して考えた場合、PをBi中に含有させることは容易ではない。即ち、Bi中にPはわずかにしか固溶しないうえ、Pは非常に発火しやすく、例えば赤燐では融点(590℃)よりも発火点(260℃)が低いうえ、更にこの発火点はBiの融点(271℃)よりも低い。従って、例えば上記特許文献5に記載の方法のように温度を監視し制御しながら最もよいタイミングでPを添加したとしも、添加したPはBiが溶融する前に燃えてしまうため、PをBi中に含有させることは困難である。
【0011】
加えて、Bi中にPを含有させ難い理由として、Pの比重がBiに比較して小さいことが上げられる。つまり、Biの比重は9.8であり、Pはそれよりも比重が小さい(例えば、白燐は1.82、黒燐は2.69、紫燐は2.36、紅燐は1.88)ため、溶融状態のBiにPを添加したとしてもPはBi液面に浮いてしまい、溶融混合する前に酸化燐となって気化してしまう。尚、PをBiと共に低温から加熱した場合も同様であり、Bi中にPを含有させることは困難である。
【0012】
このように、従来の工業的方法ではPをBi中に安定して添加することは困難であったことから、濡れ性向上の効果が得られる量のPをBiに添加含有させることにより、低コストで実用的なPbフリーのBi系はんだ合金を得ることは非常に難しい課題であった。
【0013】
本発明は、このようなPbフリーのBi系はんだに関する従来の事情に鑑み、Bi中にPを簡単に且つ低コストで含有させることにより、濡れ性に優れ、高い信頼性を有するBi系はんだ合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明が提供するBi系はんだ合金の製造方法は、Pbを含まず、Biを主成分とし、Pを含有するBi系はんだ合金の製造方法であって、Biよりも融点の高い金属箔でPを包み込み、このPを包み込んだ金属箔をBiと共に不活性ガス雰囲気中で加熱溶融することにより、Pを0.001重量%以上含有させることを特徴とする。
【0015】
上記本発明によるBi系はんだ合金の製造方法において、前記金属箔はAl、Zn、Cuのいずれか1種又はこれらの合金であることが好ましく、前記金属箔の厚さは20μm以上800μm以下であることが好ましい。また、上記本発明によるBi系はんだ合金のPの含有量については、0.001重量%以上0.500重量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、他の添加元素の添加量にかかわらず、簡単且つ経済的な方法によって、Bi中にPを均一に添加させることが可能となる。その結果、Bi中にPを0.001重量%以上含有し、濡れ性に優れ、信頼性及び安定性を有するPbフリーのBi系はんだ合金を安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
Biの特異的な性質として、他の金属を固溶し難く、合金化が難しいことが挙げられる。そのため、Biを他の金属と合金化して接合材料として使用するには様々な改良が必要である。例えば、他の金属と合金化して得られたBi系のはんだ合金は、半導体装置の組立工程において接合しようとすると接合面になじまず、場合によってははんだが弾けて球状になってしまう。このような場合、濡れ性が悪いとうい表現をするが、この濡れ性を向上させることはBi系はんだを実用化するための必須条件である。
【0018】
この濡れ性向上の手段として、Bi系はんだ合金にPを含有させることが挙げられる。しかし、PはBi中に極微量しか固溶しないうえに、例えばPとして一般的な赤燐は発火点が260℃とBiの融点より低く、還元性も高いため、Biに固溶する前に酸素が僅かしか存在していなくても酸化して、酸化燐として気化してしまう。また、例えば赤燐は融点が590℃であることから、単体ではBiが271℃で液化した後も、更に約320℃以上高温にしないと液化しない。
【0019】
そこで、本発明においては、Biより融点の高い金属箔にPを包み込み、この状態のPをBiと共に溶融することによってBi中にPを固溶させることで、Bi系はんだ合金のP含有量を0.001重量%以上とする。即ち、PをBiより融点の高い金属箔で包むことによって、酸素との接触を実質的に絶ってPの酸化(発火)の進行を抑制すると同時に、Pを金属箔と直接接触させることでPが金属箔の金属中に固溶する。このようにして得られたPと金属箔の金属との合金が更にBiに溶け込むことによって、Bi系はんだ合金中のP含有量を高くすることができるのである。
【0020】
本発明によるBi系はんだ合金の製造方法を、金属箔としてAl箔を用いた場合を例に更に具体的に説明する。PをAl箔に包み込み、このPを包み込んだAl箔とBiをるつぼに投入して、不活性ガスの雰囲気中で加熱する。加熱による温度の上昇に伴って、まず融点が271℃と低いBiが溶融しはじめるが、Al箔に包み込まれたPは発火しない。例えばPとして赤燐を使用した場合について述べると、赤燐は260℃で発火するが、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを使用すると共にAl箔で包み込むことによってPの酸化が実質的に妨げられ、P単体であっても発火温度以上に加熱することが可能となる。
【0021】
更に温度を上げていくと、赤燐の融点(590℃)に達し、PがAl箔中で溶融しはじめる。溶融したPはAl箔と直接接しているので、溶融したPはAl中に固溶していく。更に温度を上げていくとAlの融点(660℃)に達し、既に固溶したPを含有しているAl箔がBi中に固溶していく。このようなメカニズムによって、Bi中にPを含有させることができる。因みに、Al箔などのBiより融点の高い金属箔でPを包み込まない場合には、不活性ガスを使用しても実質的に酸素濃度をゼロにはできないため、還元性の強いPは260℃に達した時点で発火してしまう。
【0022】
上記したPを包み込む金属箔としては、Biより融点の高い金属箔であれば上記のメカニズムによりBi中にPを含有させることができる。しかし、金属箔を構成する元素の添加によって、高温用としてのBi系はんだの作業温度を400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要があることから、金属箔はAl、Zn、Cuのいずれか1種又はこれらの合金であることが好ましい。
【0023】
また、上記金属箔の厚さは、20μm以上800μm以下であることが好ましい。厚さが10μmでは金属箔が薄くなり過ぎるため、Pを包むときに穴が開いたり、加熱溶融の際にBiの溶融後に比較的低い温度で金属箔が部分的に溶けたりしてPが露出してしまう結果、P含有量を高くすることができない。一方、金属箔の厚さが800μmを超えると、硬い板状になるため、ペンチ等を用いても手作業では密閉性よくPを包み込めなくなるため、金属箔の厚さは800μm以下が好ましい。上記したPの固溶のメカニズムと作業性を考慮すると、金属箔の厚さは50〜200μmの範囲が特に好ましい。
【0024】
尚、上記金属箔に包み込むPの量は、Pを包み込んだ金属箔を実質的に密封できれば、はんだ合金として必要な含有量であってよい。しかし、Pを包み込んだ金属箔の密封の程度によっては、Pの一部が発火して失われたり又は金属箔の金属に固溶しなかったりすることがある。このような場合には、金属箔に包み込むPの量は、PbフリーBi系はんだ合金として必要な含有量の3倍程度とすることが望ましい。
【0025】
上記した本発明の製造方法により得られるPを含有するBi系はんだ合金は、金属箔に由来するAl等の金属により高温用Pbフリーはんだとして良好な融点を有し、はんだ表面や基板等の接合面の酸化膜をPの還元作用によって除去することで濡れ性を格段に向上させることができる。
【0026】
次に、本発明に係るPbフリーBi系はんだ合金に含まれる元素について説明する。
<Bi>
Biは本発明のPbフリーBi系はんだ合金の主成分である。Biは5B族元素に属し、その結晶構造は対称性の低い三方晶(菱面体晶)であって、脆いという好ましくない面を持つ。一方、Biは融点が271℃であり、低温域から高温域のはんだ材料として使用できる。脆さ以上に問題になるのは、Biの濡れ性の悪さである。即ち、Biは他の金属と固溶体を作り難く、合金化し難いため、はんだとして接合し易くするためには、濡れ性を向上させる必要がある。尚、脆さを改善するため様々な元素を添加することによって、更に濡れ性が低下することもあるため、以下に示す元素を添加する。
【0027】
<P>
Pは本発明のPbフリーBi系はんだ合金において必須の元素であり、はんだ中にPを含有させることによって濡れ性を格段に向上させることができる。その理由は、Pは還元性が強く、はんだ表面や電子部品等の接合面を還元して酸化膜を除去し、金属同士が直接接して反応しやすくするためである。
【0028】
また、Pは接合時にボイドの発生を低減させる効果がある。即ち、前述したようにPには強い還元性があり自らが酸化しやすいため、接合時にはんだの主成分であるBiよりも優先的に酸化が進むうえ、はんだを還元して表面の酸化膜を除去すると共に、接合面においても同様に還元効果を発揮する。その結果、酸化膜を介することなく金属同士が直接接することになるため、ボイドが発生し難くなるのである。
【0029】
Pの含有量は、微量でも濡れ性向上の効果を発揮するため、0.001重量%以上であればよい。逆に、ある量以上含有しても濡れ性向上の効果は飽和して変わらないうえ、過剰に含有するとPの生成物がはんだ表面に析出し、脆弱な相を形成して脆化する恐れがある。従って、好ましいPの含有量は0.001重量%以上0.500重量%以下とする。Pが0.500重量%を超えると、その酸化物がはんだ表面を覆い、逆に濡れ性を落とす恐れがある。また、PはBiへの固溶量が非常に少ないため、添加量が多いと脆いP酸化物が偏析するなどして信頼性を低下させ、特にワイヤなどの形状に加工する場合には断線の原因になりやすい。
【0030】
<Al>
Alは、後述するZn及びCuと共に、本発明のPbフリーBi系はんだ合金において、Pを包むために用いてよい金属である。即ち、上述のごとくAl、Zn及びCuのいずれか1種又はこれらの合金でPを包み込むことによって、Bi系はんだ中にPを含有させることが可能となる。また、Alを含有させることにより、Biの凝固時の膨張に伴う残留応力の低減、液相線温度・固相線温度の調整、濡れ性の向上などの効果を期待できるが、最も重要な効果は濡れ性の向上である。
【0031】
本発明では、Alを所定の厚みの箔状に加工し、そのAl箔でPを包み込んだ後、Bi等の原料と共に溶解することによって、Bi系はんだ合金にPを含有させることができる。その具体的なメカニズムは上述したとおりである。
【0032】
本発明のPbフリーBi系はんだ合金におけるAlの含有量は、特に規定されないが、最低量はAl箔としてPを包み込める量があればよく、例えば0.1重量%程度である。最大量ははんだの用途に合わせて調整すればよいが、過剰に含有されると液相線温度が高くなってしまうため、2重量%程度が適当である。尚、Alの含有量が金属箔として添加する量だけでは足りない場合には、更に粉末や棒あるいは箔等の形状で別途添加することができる。
【0033】
<Zn>
Znは、Al及びCuと共に、本発明のPbフリーBi系はんだ合金において、Pを包むために用いてよい金属である。即ち、上述のごとくAl、Zn及びCuのいずれか1種又はこれらの合金でPを包み込むことによって、Bi系はんだ中にPを含有させることが可能となる。また、Znを含有させることにより、Biの凝固時の膨張に伴う残留応力の低減、液相線温度・固相線温度の調整、加工性の向上などの効果を期待できる。
【0034】
本発明では、Znを所定の厚みの箔状に加工し、そのZn箔でPを包み込んだ後、Bi等の原料と共に溶解することによって、Bi系はんだ合金にPを含有させることができる。その場合、Znの融点はAlに比較して419℃と低いが、Biよりは高いため、原料を溶解する際、具体的にBi−Zn―P系で説明すると次のような現象が起きていると考えられる。
【0035】
即ち、P(赤燐)を包んだZn箔とBiを原料として、るつぼ中で不活性ガスの雰囲気下で加熱していくと、まず融点の低いBiが溶融しはじめる。赤燐は260℃発火するが、不活性ガスを使用すると共にZn箔で包み込んでいることにより酸化が防げられ、P単体で発火温度以上に上げることが可能になる。更に温度を上げていくと、Znの融点(419℃)に達してZnが溶けはじめ、Pが溶融したZnに固溶する(尚、Pは多量にZn中に固溶する)。
【0036】
Zn箔でのPの包み方やPとZnの割合によっては、Pの過剰な部分ができ、一部固体のPが残った状態でPの融点(赤燐で590℃)に達し、残ったPが溶融することになる。従って、はんだ中のP含有量は、Pの包み方、PとZnの添加割合、昇温速度やガス雰囲気などに依存するが、これらのパラメーターを調整することによってPの含有量を制御することができる。
【0037】
本発明のPbフリーBi系はんだ合金におけるZnの含有量は、特に規定されないが、最低量はZn箔としてPを包み込める量があればよく、例えば0.1重量%程度である。最大量ははんだの用途に合わせて調整すればよいが、過剰に含有されると、P含有量が少ない場合などは濡れ性が低下したり、液相線温度が高くなって良好な接合ができなくなったりすることがある。このため、Zn含有量の上限値は13.5重量%程度とすることが好ましい。尚、Znの含有量が金属箔として添加する量だけでは足りない場合には、更に粉末や棒あるいは箔等の形状で別途添加することができる。
【0038】
<Cu>
Cuは、Al及びZnと共に、本発明のPbフリーBi系はんだ合金において、Pを包むために用いてよい金属である。即ち、上述のごとくAl、Zn及びCuのいずれか1種又はこれらの合金でPを包み込むことによって、Bi系はんだ中にPを含有させることが可能となる。また、Cuを含有させることにより、Biの凝固時の膨張に伴う残留応力の低減、液相線温度・固相線温度の調整、酸化進行の抑制などの効果を期待できる。
【0039】
本発明では、Cuを所定の厚みの箔状に加工し、そのCu箔でPを包み込んだ後、Bi等の原料と共に溶解することによって、Bi系はんだ合金にPを含有させることができる。その場合、Cuの融点は1083℃と高いため、Pを含有させるメカニズムは基本的にAlの場合と同様であると考えられる。
【0040】
ただし、Alと異なる点は、Cuの融点が1083℃とAlより420℃以上高いことである。従って、例えばPに赤燐を用いた場合、加熱溶解の際に590℃で赤燐が溶融した後、ゆっくり昇温すると、具体的には590℃から1083℃まで昇温する際に時間をかけ過ぎると、Pが蒸発あるいは酸化してしまい、はんだ中に必要量のPを含有させることが難しくなる。
【0041】
もちろん、PはCu箔で包み込まれているので、Cu箔でPが完全に密閉されていれば、ゆっくり昇温してもBi中にPを含有させることは理論上可能である。しかしながら、Pを完全に密閉してしまうと、温度が上がるに従ってPの蒸気圧が高くなるため、Cu箔の内圧が高くなって破裂し、溶湯が撒き散らされるなど危険な状態となる可能性がある。従って、Pを密閉することは技術上可能であるが、安全上好ましくないため、Cu箔でPを密閉せずに、Pを包み込んだCu箔が破裂することがないように、比較的にゆっくり昇温することが好ましい。
【0042】
本発明のPbフリーBi系はんだ合金におけるCuの含有量は、特に規定されないが、最低量はCu箔としてPを包み込める量があればよく、例えば0.1重量%程度である。最大量ははんだの用途に合わせて調整すればよいが、過剰に含有されると、Alと同様に液相線温度が高くなり、良好な接合ができなくなってしまう。そのため、Cu含有量の上限値は1.5重量%程度とすることが好ましい。尚、Cuの含有量が金属箔として添加する量だけでは足りない場合には、更に粉末や棒あるいは箔等の形状でCuを別途添加することができる。
【実施例】
【0043】
純度99.9重量%以上のBi、Al、Zn、Cuを準備すると共に、純度99.95重量%以上のPを準備した。Al、Zn、Cuについては、形状が棒状のものと箔状のものを準備した。尚、箔状のものは、棒状のものを圧延機で油をかけながら、1回の圧延厚さを0.1〜0.4mm程度とし、薄くなるに従って圧延厚みを小さくして、所定の厚みとなるまで圧延して作製した。下記表1に示す所定の厚みになった後、スリッター加工により30mmの幅に裁断して、Al、Zn、Cuの金属箔を作製した。
【0044】
次に、これらの原料から所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製るつぼに内に投入した。その際、試料1〜7、11、12では圧延加工で作製した金属箔でPを包み込み、試料8〜10では金属箔で包むことなく棒状のPを投入した。ただし、試料4ではPを包んだAl箔以外にPを包んでいないAl箔も加え、試料12ではAl箔で包んだPと共にAl箔で包んでいないPを加えた。尚、Pは酸化等によるロス分が多いため、各試料とも金属箔で包んだPと包まないPの合計で目標とする含有量の3倍の量に相当するPを添加した。
【0045】
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素ガスを原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属箔が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混合した。
【0046】
尚、Biと共に金属箔で包んだPをるつぼに投入して昇温・溶解するよりも、まずBiを先に溶融し、その後、適当な温度まで溶融したBiを冷却した後、Pを包んだ金属箔を添加して、温度が上がり過ぎないように加熱・混合すれば、はんだ合金中にPを含有させやすいため更に好ましい。即ち、Pを添加するときは温度が高くなり過ぎないように制御して、短時間でPを溶融・混合するようにすることが好ましい。
【0047】
全ての原料が十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに炉からるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯をはんだ母合金用の鋳型に流し込み、試料1〜12のはんだ母合金を製造した。尚、鋳型には、はんだ合金の製造の際に一般的に使用されている形状と同様のものを使用した。
【0048】
得られた試料1〜12の各はんだ母合金について、Pを金属箔で包んだか否か、Pを包んだ金属箔の種類、その金属箔の厚み、はんだ母合金の組成を下記表1示した。尚、はんだ母合金の組成の分析は、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いた。
【0049】
【表1】

【0050】
次に、上記表1に示す試料1〜12の各はんだ母合金に対して、下記に示すワイヤ加工性と濡れ性(接合性)の評価、及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。尚、はんだの濡れ性や接合性等の評価は、通常、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においてはワイヤに成形して評価した。得られた評価結果を下記表2にまとめて示した。
【0051】
<ワイヤ加工性の評価>
上記表1に示す試料1〜12の各はんだ母合金を各々押出機にセットし、外径0.80mmのワイヤに加工した。具体的には、予め押出機をはんだ組成に適した温度に加熱しておき、各はんだ母合金をセットした。押出機出口から押し出されるワイヤ状のはんだは未だ熱く酸化が進行し易いため、押出機出口は密閉構造とし、その内部に窒素ガスを流した。これにより、可能な限り酸素濃度を下げて酸化が進まないようにした。
【0052】
油圧で押出圧力を上げていき、はんだ母合金を外径0.80mmのワイヤ形状に押し出した。ワイヤの押出速度はワイヤが切れたり変形したりしないように予め調整しておいた速度とし、押し出されたはんだ合金のワイヤは自動巻取機を用いて同じ速度で巻き取った。このようにしてワイヤ状に加工すると同時に自動巻取機で60mを巻き取ったとき、ワイヤが1度も断線しなかった場合を「○」、1回以上断線した場合を「×」として評価した。
【0053】
<濡れ性(接合性)の評価>
この濡れ性評価は、上記ワイヤ加工性の評価の際に製造した試料1〜12の各ワイヤ形状のはんだ合金を用いて行った。まず、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱するヒーター部分に2重のカバーを設けてヒーター部の周囲4箇所から12リットル/分の流速で窒素ガスを流した。尚、ヒーターの温度は340℃に設定した。
【0054】
340℃に設定したヒーター温度が安定した後、板厚が約0.70mmのCu基板をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。次に、このCu基板の上に上記試料1〜12の各はんだ合金を載せて25秒間加熱し、加熱が完了した後Cu基板をヒーター部から取り上げて、その横の窒素ガス雰囲気で保たれている場所に一旦設置して冷却した。
【0055】
十分に冷却した後大気中に取り出し、はんだの接合部分を確認した。接合できたが濡れ広がりが悪かった場合(はんだが盛り上がった状態)を「×」、接合でき且つ良好に濡れ広がった場合(はんだがCu基板に薄く広がった場合)を「○」と評価した。
【0056】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するために、ヒートサイクル試験を行った。この試験は、上記濡れ性の評価と同様にして試料1〜12の各はんだ合金が接合されたCu基板を用いて行った。まず、はんだ合金が接合されたCu基板に対して、−40℃の冷却と150℃の加熱を1サイクルとして、これを所定のサイクル繰り返した。
【0057】
ヒートサイクル試験を所定のサイクル繰り返した後、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。接合面ではんだの剥がれやはんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」と評価した。
【0058】
【表2】

【0059】
上記表1及び表2から分かるように、本発明による試料1〜7のはんだ合金は各評価項目において良好な特性を示している。即ち、厚みが20〜800μmの金属箔でPを包み込み、Biと共に溶融して製造した試料1〜7のはんだ合金は、0.001〜0.5重量%のPを含有していることが分かる。
【0060】
そして、これら試料1〜7のはんだ合金は、ワイヤに加工しても切れることなく自動で巻き取ることができ、良好な加工性を示した。また、濡れ性も良好であり、Cu基板に接した瞬間に薄く濡れ広がった。更に、信頼性に関する試験であるヒートサイクル試験においても、500回のヒートサイクル後も不良は現れず、高い信頼性を示した。
【0061】
一方、比較例の試料8〜12のはんだ母合金は、少なくともいずれかの特性において好ましくない結果となった。即ち、試料8〜10はPが金属箔で包まれておらず、試料11はPを金属箔で包んだが、金属箔が厚すぎるためPが露出して途中で酸化燃焼したため、いずれもPが含有されておらず、濡れ性が悪かった。試料12はPの含有量が多すぎるため脆いPの酸化物が偏析し、ワイヤ加工時に断線した。更に、ヒートサイクル試験において、比較例の試料8〜12は少なくとも500回のヒートサイクルまでに全て不良が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを含まず、Biを主成分とし、Pを含有するBi系はんだ合金の製造方法であって、Biよりも融点の高い金属箔でPを包み込み、このPを包み込んだ金属箔をBiと共に不活性ガス雰囲気中で加熱溶融することにより、Pを0.001重量%以上含有させることを特徴とするBi系はんだ合金の製造方法。
【請求項2】
前記金属箔がAl、Zn、Cuのいずれか1種又はこれらの合金であることを特徴とする、請求項1に記載のBi系はんだ合金の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔の厚さが20μm以上800μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のBi系はんだ合金の製造方法。
【請求項4】
Pの含有量が0.001重量%以上0.500重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のBi系はんだ合金の製造方法。
【請求項5】
前記金属箔が圧延法によって製造されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のBi系はんだ合金の製造方法。

【公開番号】特開2013−18041(P2013−18041A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154595(P2011−154595)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】