説明

C型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬

【課題】C型肝炎の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供する。
【解決手段】HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを含むC型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬に関する。より具体的には、本発明は、HMG−CoA還元酵素阻害剤及び非環式レチノイドの組み合わせを有効成分として含むC型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(以下、本明細書において「HCV」と記載する場合がある)は慢性肝疾患発症の主要因の一つであり、感染者は世界で約1億7000万人、日本国内では約170万人に達すると推定される。一般的にHCV感染者の65〜80%は慢性肝炎に進行し、その後20〜30年をかけて20〜50%が肝硬変、5%が肝細胞癌に至るとされている。日本国内の肝癌による年間死亡者3万人の80%がHCV感染に起因するものとされており、HCVは公衆衛生上の重大な問題として認識されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
HCVはその血清型(セロタイプ)によって1及び2型に大別され、さらに遺伝子型(ジェノタイプ)によって30以上に分類される。世界的には1a型、1b型、2a型、2b型、3a型、3b型が広く分布しており、日本国内においては1b型が70%、2a型、2b型がそれぞれ20%、10%となっている(非特許文献3)。治療法としては、肝硬変や肝癌への進行を抑える目的でインターフェロン(以下、本明細書において「IFN」と記載する場合がある)によるウイルス駆除が行われてきた。IFNはC型肝炎治療薬として米国において1991年、日本では1992年に承認されており、特に2型ウイルス症例に高い効果を示したが、1型高ウイルス量症例では5%の著効率しか示さず、IFNの効果は不十分であった(非特許文献1及び2)。また、IFNはインフルエンザ様症状や時には、うつ病などの重篤な副作用を起こすことも問題となっていた。
【0004】
この問題を解決するため、1型高ウイルス量症例に対してIFNと他の薬剤との併用による治療効果が検討されている。リバビリン(以下、本明細書において「RBV」と記載する場合がある)は1970年代合成された抗ウイルス剤であり、単独ではHCVに対して効果がないことが知られていたが、1998年にIFNとRBVとを併用するとIFN単独治療に比べて著効率が2倍以上に上昇するとの複数の報告がなされ、IFN/RBV併用療法が米国では1998年に、日本では2001年に承認された。
【0005】
さらに2004年には人工高分子であるポリエチレングリコール(PEG)で修飾することによりIFNの血中での安定性を高め、かつ腎排泄を遅延させたPEG化インターフェロン(以下、本明細書において「Peg−IFN」と記載する場合がある)が開発された。このPeg−IFN製剤は週1回投与でよいことから患者のコンプライアンスが高いという利点があり、Peg−IFN/RBV併用療法は現在抗HCV治療の第一選択となっている(非特許文献1及び2)。もっとも、HCV遺伝子型1b高ウイルス量症例においてはPeg−IFN/RBV併用療法の著効率は60%程度であり、さらにRBVは特有の副作用として溶血性貧血と催奇形性を有していることから、貧血患者や心疾患患者への投与は注意を要すること、投薬期間内は避妊が必要であること、及びRBVが腎排泄性で透析除去できないことから腎不全患者には投与できないことなど、いくつかの課題が残されている。特に、RBVによって誘導された溶血性貧血によって、患者の15%が治療中止を余儀なくされており、最近、こうした患者群を治療前に予測しうるSNPsが同定され、臨床的にも大きな問題となっている(非特許文献4)。よって、今後、RBVに頼ることなく、非常に優れたウイルス学的著効を示しうる医薬品の開発が期待されるが、まだ実用化には至っていない。
【0006】
最近、HCVの非構造領域の蛋白質を標的としたHCV特異的抗ウイルス剤が開発されており、例えば、プロテアーゼ阻害剤やポリメラーゼ阻害剤が提供されている。プロテアーゼ阻害剤は、ポリペプチドからウイルスタンパクを切り出すNS3/4Aプロテアーゼを阻害してウイルス増殖を抑制するものであり、テラプレビル(VX−950)、ボセプレビル(SCH503034)、TMC435450、MK−7009等が知られている。しかしながら、最も先行しているテラプレビルの臨床試験において皮疹や貧血等の副作用の問題が明らかになっている。また、ポリメラーゼ阻害剤はHCVのRNAの合成にかかわるNS5Bポリメラーゼを阻害する作用を有しており、核酸型合成阻害剤であるバロピシタビン(NM283)等が知られている。しかしながら、バロピシタビンは米国における臨床試験においてリスクベネフィットプロフィールを理由に開発中止となっている。加えて、プロテアーゼ阻害剤及びポリメラーゼ阻害剤両方の問題点として耐性ウイルスの出現の問題があり、非特異的抗ウイルス剤であるIFNを併用して耐性ウイルスの出現を防止する併用療法が必要と考えられる。この他、耐性ウイルスの出現を抑制できる薬剤として宿主タンパクを標的とした薬剤や非特異的ウイルス阻害剤の開発も行われているが、いまだ実用化には至っていない(非特許文献1)。
【0007】
一方、ウイルスと脂質との関連性についての報告があり、スタチン系薬剤に代表されるHMG−CoA還元酵素阻害剤はHCVのRNA複製を阻害することが知られている。例えば、ピタバスタチンとIFN−αとの併用により、RNA複製阻害活性を増強できることが知られている(非特許文献5)。また、フルバスタチンとIFN/RBV併用とを組み合わせることにより、IFN/RBV併用よりもHCVのRNA陰性化率が有意に高いことが知られている。 イン・ビトロにおけるHCVのRNA複製阻害は他のスタチンにおいても確認されている(非特許文献6及び7)。さらに、スタチンとプロテアーゼ阻害剤やポリメラーゼ阻害剤との併用による強いHCV阻害作用が示されている(非特許文献8)。また、ピタバスタチンは、他のスタチン系薬剤、あるいはIFN−αに比較して、肝細胞障害が有意に少ないことが報告されている(非特許文献9)。
【0008】
レチノイドと肝炎との関連性についても報告があり、オールトランス型レチノイン酸がC型肝炎を含むウイルス感染症の治療に有用であることが知られている(特許文献1)。また、非環式レチノイドがレトロウイルス感染に有用であることも知られている(特許文献2)。さらに、オールトランスレチノイン酸とPeg−IFNとを併用等することによりHCVのRNA駆除率を著しく増強できること、及びIFNとRBVにさらにレチノイドを組み合わせて投与するC型肝炎の治療方法が知られている(非特許文献10及び特許文献3)。なお、スタチンとレチノイドとの併用が癌の治療に有用であることが報告されているが(非特許文献11、12、及び13)、スタチンとレチノイドとの併用によりC型肝炎を治療する試みについては報告がない。
【0009】
本発明で開示されている(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸は、臨床において、本化合物は一年間の長期投与により肝癌根治治療後の再発を有意に抑制したことから、肝癌再発抑制作用を有することが確認されている。また、肝機能障害及び他のレチノイドに見られる副作用は殆ど認められず、安全な薬剤である(非特許文献14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2002/66022号パンフレット
【特許文献2】WO2008/59662号パンフレット
【特許文献3】WO2004/50101号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】薬学雑誌、130(2)、143−156(2010)
【非特許文献2】医療薬学、34(4)、355−360(2008)
【非特許文献3】肝臓病学、374−375(1998)、医学書院
【非特許文献4】Nature、464、405−408(2010)
【非特許文献5】J. Pharmacol.Sci.,105,145−150(2007)
【非特許文献6】肝臓、49(1)、22−24(2008)
【非特許文献7】Hepatology,44,117−125(2006)
【非特許文献8】Hepatology,50,6−16(2009)
【非特許文献9】Hepatology,51,344−345(2010)
【非特許文献10】Liver International,28(3),347−354(2008)
【非特許文献11】Int.J.Oncol.,15(3),565−569(1999)
【非特許文献12】J.Amer.Coll.Nutrition,20(6),628−636(2001)
【非特許文献13】Carcinogenesis,25(8),1335−1344(2004)
【非特許文献14】N.Eng.J.Med.334,1561−1567(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、C型肝炎の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ピタバスタチンカルシウムなどのHMG−CoA還元酵素阻害剤と(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸(以下、本明細書において「ペレチノイン」と記載する場合がある)などの非環式レチノイドとを併用するとHCVに特異的かつ顕著な抗ウイルス作用が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明により、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを含むC型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0015】
上記発明の好ましい態様によれば、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である上記の医薬;非環式レチノイドがペレチノインである上記の医薬;HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを有効成分として含む単一製剤の形態である上記の医薬;HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤を別々に投与するための組み合わせを含む上記の医薬;及び上記製剤が製剤用添加物を含む医薬組成物の形態である上記の医薬が提供される。
【0016】
別の観点からは、本発明により、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物との組み合わせを含む抗C型肝炎ウイルス剤が提供される。
また、本発明により、HCVウイルス感染症に起因する肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療のための医薬であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物との組み合わせを含む医薬が提供される。
【0017】
さらに本発明により、C型肝炎の予防及び/又は治療方法であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせの有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;及びC型肝炎ウイルス感染症の予防及び/又は治療方法であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせの有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法;HCVウイルス感染症に起因する肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療のための医薬であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせの有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
【0018】
また、さらに別の観点からは、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む抗C型肝炎ウイルス剤の作用増強剤であって、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む作用増強剤;非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む抗C型肝炎ウイルス剤の作用増強剤であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む作用増強剤が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れたHCVウイルス複製阻害能力を有し、C型肝炎の予防及び/又は治療に高い有効性を有する医薬が提供され、C型肝炎の予防及び/又は治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、特に断らない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味で解釈すべきである。
【0021】
HMG−CoA還元酵素阻害剤とは、HMG−CoA還元酵素によって触媒されるヒドロキシメチルグルタリル−補酵素Aのメバロン酸への生物学的変換を阻害する化合物であり、典型的にはスタチンが包含される。スタチンとしては、例えば、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、アトルバスタチン、又はロスバスタチンを挙げることができ、好ましくはフルバスタチンナトリウム、プラバスタチンナトリウム、ピタバスタチンカルシウム、アトルバスタチンカルシウム、又はロスバスタチンカルシウムを用いることができ、さらに好ましくはピタバスタチンカルシウム、アトルバスタチンカルシウム、又はロスバスタチンカルシウムを用いることができる。HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、遊離形態の物質のほか、塩の形態の物質、又は遊離形態若しくは塩の形態の物質の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する溶媒としては、水のほか、生理学的に許容される有機溶媒、例えばエタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどを用いることができる。
【0022】
ピタバスタチンはHMG−CoA還元酵素阻害作用に基づくコレステロール合成阻害活性を有し、高脂血症治療薬として知られている(Atherosclerosis, 146(2), 259-270 (1999))。ピタバスタチン及びその類縁体は、例えば、米国特許第5856336号公報、特開平1−279866号公報に記載の方法により製造することができる。ピタバスタチンの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。ピタバスタチン又はその塩の溶媒和物、例えば水和物など医薬品として許容される溶媒和物を用いてもよい。本発明においてはピタバスタチンの塩を用いることが好ましく、特にカルシウム塩を用いることが好ましい。ピタバスタチンはラクトン体を含んでいてもよい。
【0023】
レチノイドとはビタミンA(レチノール)とその類縁化合物であり、生体内では形態形成、細胞の分化及び増殖制御などの作用を有している。レチノイドは構造的特徴により環式レチノイド及び非環式レチノイドに分類される(レチノイド・カルテノイド、14-20(1997)、南山堂)。環式レチノイドとしては、上記レチノールの他、レチナール、オールトランスレチノイン酸(トレチノイン)、9−シスレチノイン酸(アリトレチノイン)、13−シスレチノイン酸(イソトレチノイン)等が挙げられる。また、広義には、ビタミンAとは全く類似しない化学構造を持つ化合物でも、レチノイン酸受容体と結合親和性を示す合成化合物を含めてレチノイドと称する。
【0024】
本発明で使用する非環式レチノイドとしては、例えば、ゲラニルゲラノイン酸の他、(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸(ペレチノイン)、2,3−ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5‐ジデヒドロ‐10,11‐ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5,8,9‐テトラデヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5‐ジデヒドロ‐10,11,14,15‐テトラヒドロゲラニルゲラノイン酸、14,15‐ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、メトプレン酸、ハイドロプレン酸、又はフィタン酸等が挙げられる。非環式レチノイドの一つであるゲラニルゲラノイン酸は薬草中に含まれる成分で膜脂質のセラミドレベルを増加させること、並びに肝臓癌細胞のアポトーシスを引き起こすことから癌の予防治療薬として期待できることが報告されている(J. Lipid Res.,45 1092-1103 (2004))。非環式レチノイドとしては、(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸が好ましい。(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸は特開昭56−140949号公報に記載の方法により製造することができる。
【0025】
本発明においては非環式レチノイドの塩を用いてもよい。非環式レチノイン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、本発明においては非環式レチノイド又はその塩の溶媒和物を用いることもできる。
【0026】
後記実施例に示すように、HMG−CoA還元酵素阻害剤の代表例であるピタバスタチンと非環式レチノイドの代表例であるペレチノインとを組み合わせることにより、HCVウイルスに対して優れた抗ウイルス作用が達成される。従って、本発明の医薬はHCVウイルス感染症の予防及び/又は治療、並びにC型肝炎の予防及び/又は治療に有用である。また、本発明の医薬はHCVウイルス感染症に起因する肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療にも有用である。HCVウイルスとしては、例えば、1a型、1b型、1c型、1d型、2a型、2b型、2c型、2d型、3a型、3b型、3c型、3d型、3e型、3f型、4c型、5a型、6a型、7a型、8a型、8b型、9a型等が挙げられる。
【0027】
本発明の医薬の形態は特に限定されないが、例えば、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを有効成分として含む単一製剤の形態、又はHMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤を別々に投与するための形態であってもよい。本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよい。上記の2種の製剤を別々に投与する形態の医薬においては、片方を経口投与製剤とし、他方を非経口投与製剤とすることもできる。経口投与のための製剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与のための製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、皮膚外用剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。また、含嗽剤、鼻洗浄剤として使用してもよい。これらの投与形態のうち、好ましい投与形態は経口投与であり、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が好ましい。
【0028】
経口用固形製剤を調製する場合は、賦形剤のほか、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、嬌味剤等の製剤用添加物を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。このような賦形剤としては、乳糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロース、珪酸等を挙げることができる。結合剤としては水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ゼラチン液、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリプロピルピロリドン等を挙げることができる。崩壊剤としては、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等を挙げることができる。滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を挙げることができ、着色剤としてはβ−カロチン、黄色三二酸化鉄、カラメル等を挙げることができ、嬌味剤としては白糖、橙皮等を挙げることができる。
【0029】
経口用液体製剤を調製する場合は、例えば、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤、又は保存剤等の製剤用添加物を加えて、常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。製剤用添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものを使用することができる。例えば嬌味剤としては白糖等を挙げることができ、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等を挙げることができ、安定化剤としてはトラガント等を挙げることができ、保存剤としてはパラオキシ安息香酸エステル等を挙げることができる。
【0030】
注射剤を調製する場合は、pH調整剤、安定化剤、又は等張化剤などの製剤用添加物を添加し、常法により皮下、筋肉、又は静脈内投与用の注射剤を製造することができる。製剤用添加剤としては当該分野で一般に使用されているものを使用することができる。例えば、pH調節剤としてはリン酸ナトリウム等を挙げることができ、安定化剤としてはピロ亜リン酸ナトリウム等を挙げることができ、等張化剤としては塩化ナトリウム等を挙げることができる。
【0031】
本発明の医薬の投与時期などの使用態様は特に限定されないが、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤を別々に投与する場合には、それらを同時に投与するか、又は適宜の時間間隔をあけて別々に投与してもよく、HMG−CoA還元酵素阻害剤及び非環式レチノイドの相乗作用により所望の抗HCV作用が達成されるように、適宜の投与計画を採用することが可能である。HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤を別々に投与する医薬においては、両製剤を単一包装中に含む組み合わせのセット製剤として提供することもできる。
【0032】
HMG−CoA還元酵素阻害剤と非環式レチノイドとの投与比は特に限定されず、HMG−CoA還元酵素阻害剤及び非環式レチノイドの相乗作用により所望の抗HCV作用が達成されるように適宜選択することができるが、HMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチンであり、非環式レチノイドがペレチノインである場合には、ピタバスタチンカルシウムとペレチノインとの配合比は、重量比で100:1〜1:1000の範囲であることが特に優れた相乗効果の観点から好ましい。HMG−CoA還元酵素阻害剤を含む製剤と非環式レチノイドを含む製剤とを別々に投与する場合には、HMG−CoA還元酵素阻害剤を含む製剤は、非環式レチノイドを含む製剤の抗HCVウイルス作用を増強するための作用増強剤として用いることができ、一方、非環式レチノイドを含む製剤はHMG−CoA還元酵素阻害剤を含む製剤のHCVのRNA複製を阻害する作用などの抗HCVウイルス作用を増強するための作用増強剤として用いることができる。
【0033】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の年齢、体重、症状、投与形態、投与回数等の種々の条件に応じて適宜投与量を増減することができるが、HMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチンであり、非環式レチノイドがペレチノインである場合には、例えば成人に対して、ピタバスタチンを一日あたり0.01〜50mg、好ましくは0.1〜20mgを投与することが好ましく、ペレチノインを一日あたり1.0mg〜1000mg、好ましくは100mg〜800mg投与することが好ましい。上記の投与量を1日1回投与してもよく、又は複数回に分けて投与することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。HCVのRNA複製抑制作用の確認は、下記の実施例の方法のほか、公知の方法(例えばHepatology Research, 39, 60-69 (2009)、The Journal of Infectious Diseases, 189, 1129-1139(2004)等)により実施することができる。
【0035】
例1
[使用薬物]
ピタバスタチンカルシウム及びペレチノインは公知の方法等で製造したものを、フルバスタチンナトリウム及びオールトランスレチノイン酸は市販のものを用いた。
[培養細胞]
ヒト肝癌細胞株であるHuh7細胞を用いた。Huh7細胞は10%胎児牛血清を含むDulbecco's Modified Eagle's medium(Invitrogen社)を含む培地で5%CO2下37℃で維持した。HCVレプリコンを発現しているHuh7細胞は200 μg/mLのG418(和光純薬)を含む培地で培養した。
【0036】
[HCVサブゲノミックレプリコンのコンストラクト]
HCVのサブゲノミックレプリコンプラスミドpRep-FeoはpHCV1bneodelSのネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子をホタルルシフェラーゼとネオマイシンホスホトランスフェラーゼの融合遺伝子(Feo)で置き換えて再構築した。レプリコンRNAはpRepFeoから調製しHuh7細胞にトランスフェクトした。G418存在下培養後、安定してレプリコンを発現している細胞(Huh7/Rep-Feo)を樹立した。
【0037】
[相乗作用の判定]
ピタバスタチンカルシウム(以下、「ピタバスタチン」と略すことがある)とペレチノイン単独及び併用時の抗HCV作用を表1に、ピタバスタチンカルシウムとオールトランスレチノイン酸単独及び併用時の抗HCV作用を表2に、フルバスタチンナトリウム(以下、フルバスタチンと略することがある)とペレチノイン単独及び併用時の抗HCV作用を表3に示した。表の数値は、薬剤を添加しないで培養を行った場合のウイルス量を1とし、それぞれの濃度を組み合わせた試験の結果におけるウイルス量を換算して示してある。相乗作用の判定は、バルジの計算方法に従って行った。すなわち、両化合物の単独抗HCV作用の積を併用時の抗HCV作用が上回る(ルシフェラーゼ活性としては下回る)場合に相乗作用ありと判定した。
【0038】
[スタチンあるいはレチノイドのHCVゲノム複製に対する抑制効果]
スタチン、レチノイドの単独あるいはスタチンとレチノイドの併用によるHCV複製に対する抗ウイルス作用評価は、Huh7/Rep-Feo 細胞と各薬剤を種々の濃度で添加し、培養条件下で実施した。HCV複製のレベルは48時間後の内部ルシフェラーゼアッセイで定量した。結果を表1〜3に示す。ピタバスタチン単独では0.1 μMから100 μMまで濃度依存的に抗ウイルス作用を示し、そのIC50値は3.0 μMと計算された。ペレチノイン単独では1 μMから100 μMの範囲で軽度な抗ウイルス作用を示したが、50%以上の阻害を示さず、IC50値は得られなかった。ペレチノイン 3ないし10 μMにピタバスタチンを0.1 μMから100 μM併用したところ、抗ウイルス作用は強まりピタバスタチンのIC50値はペレチノイン3 μMで0.46μM、ペレチノイン10 μMの場合は0.25μMと計算された。これらの作用はピタバスタチン0.1〜30 μM及びペレチノイン3ないし10 μMの濃度において、測定した全域でバルジの計算式から相乗的であることが確認された。
【0039】
一方、ピタバスタチンとオールトランスレチノイン酸の併用では、抗ウイルス作用は全体的に弱く、バルジの計算式から相乗的であると確認されたポイントも2箇所だけであった。フルバスタチンとペレチノインの併用では、特にフルバスタチン高用量域において相乗効果が確認されているのみであった。従って、ピタバスタチンとペレチノインとの併用により抗HCV作用は著しく増強され、その効果は幅広い濃度領域で、相乗的に発揮されることが明らかになった。
【0040】
【表1】

カッコ内はピタバスタチン及びペレチノイン単独の抗HCV作用から算出される計算値を示す
*印はバルジ式による相乗効果ありを意味する[計算値(バルジ式)=ピタバスタチン単独の抗HCV作用×ペレチノイン単独の抗HCV作用]
- は測定せずを意味する
【0041】
【表2】

カッコ内は、ピタバスタチン及びオールトランスレチノイン酸単独の抗HCV作用から算出される計算値を示す
*印はバルジ式による相乗効果ありを意味する[計算値(バルジ式)=ピタバスタチン単独の抗HCV作用×オールトランスレチノイン酸単独の抗HCV作用]
- は測定せずを意味する
【0042】
【表3】

( )内は、フルバスタチン及びペレチノイン単独の抗HCV作用から算出される計算値を示す
*印はバルジ式による相乗効果ありを示す[計算値(バルジ式)=フルバスタチン単独の抗HCV作用×ペレチノイン単独の抗HCV作用]
- は測定せずを意味する
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の医薬はC型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを含むC型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項2】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
非環式レチノイドがペレチノインである請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせを有効成分として含む単一製剤の形態である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤、及び非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む製剤を別々に投与するための組み合わせを含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
上記製剤が製剤用添加物を含む医薬組成物の形態である請求項4又は5に記載の医薬。
【請求項7】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物との組み合わせを含む抗C型肝炎ウイルス剤。
【請求項8】
HCVウイルス感染症に起因する肝硬変及び/又は肝細胞癌の予防及び/又は治療のための医薬であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物との組み合わせを含む医薬。
【請求項9】
HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む抗C型肝炎ウイルス剤の作用増強剤であって、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む作用増強剤。
【請求項10】
非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む抗C型肝炎ウイルス剤の作用増強剤であって、HMG−CoA還元酵素阻害剤若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含む作用増強剤。

【公開番号】特開2011−246432(P2011−246432A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249377(P2010−249377)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月9日 http://www.interscience.wiley.comを通じて発表
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】