説明

C型肝炎治療用組成物、C型肝炎治療剤およびC型肝炎治療用キット

【課題】レポーター遺伝子産物を発現するHCV全長ゲノム複製細胞を用いたスクリーニング方法により得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とするC型肝炎治療用組成物を提供する。
【解決手段】 HCV全長ゲノム複製細胞から得られた治癒細胞を親細胞として、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むRNAを導入することで、レポーター遺伝子産物を発現するHCV全長ゲノム複製細胞が作製できる。当該細胞を用いたスクリーニング方法により得られた物質がC型肝炎治療用組成物の有効成分となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レポーター遺伝子産物を発現するHCV全長ゲノム複製細胞を用いたスクリーニング方法により得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とするC型肝炎治療用組成物、C型肝炎治療剤およびC型肝炎治療用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(以下「HCV」と記載する)は非A非B型肝炎の原因ウイルスとして1989年に発見同定されたフラビウイルス科に属するRNAウイルスである。HCVは持続感染を成立させるウイルスであることから、HCV感染により引き起こされる肝炎(C型肝炎)は高率に慢性肝炎に移行する。その後、二十数年の経過のなかで肝硬変、そして最終的に肝細胞癌発症に至ることが明らかになっている。
【0003】
HCV感染者は日本国内で約200万人、世界で約2億人いると推定されている。最近の社会的問題にもなっているフィブリノゲン製剤によるHCV感染という事態からもわかるように、HCVに感染していることを自覚していないいわゆる無症候性キャリアーも多数存在している。現在、日本国内における肝細胞癌による犠牲者は年間約3.5万人となっており、その8割はHCV感染によるものである。また、その前段階である肝硬変においても年間約2万人が犠牲となっている。したがって、HCVは深刻な感染症を引き起こすウイルスであると言える。
【0004】
現在、C型慢性肝炎に対して単独で抗ウイルス効果を示す治療薬はインターフェロン(以下「IFN」と記載する)のみである。日本国内では1992年からC型慢性肝炎に対するIFN療法が開始され、IFNの投与法の試行錯誤により治療効果にも向上がみられるようになった。しかし、約半数の患者には治癒が望めないことから、IFN療法の限界も明らかになっている。
【0005】
HCVには多数の遺伝子型が存在しているが、日本国内では1b型が約70%、2a型が約20%、2b型が約10%であり、稀にその他の遺伝子型が見出される。遺伝子型によりIFN治療に対する効果が異なり、2a型や2b型ではIFN治療効果が高い(著効率が50%以上)のに対して、1b型ではIFN治療効果が低いことが知られている。また、ウイルス量が多い患者では、少ない患者よりもIFNが効き難いことが知られているが、1b型にはウイルス量が多い患者が多く、1b型でウイルス量が多い患者の著効率は2〜8%と極端に低い。これらの患者群は、いわゆる「インターフェロン抵抗性」あるいは「インターフェロン難治性」と呼ばれている。
【0006】
著効率を上げることを目的として、近年になって核酸構造類似体で幅広い抗ウイルス活性を示すことが知られていたリバビリン(単独ではC型肝炎には効果がない)とIFNとの併用療法(2001年12月に保険適用認可)やIFNにポリエチレングリコールを結合させてIFNの血中での安定性を高め、かつ腎排泄度を低下させたペグIFNを用いた療法(2003年12月使用認可)が行われるようになっている。
【0007】
HCVが発見された翌年にはHCVのRNAゲノムの全構造が解明され、約9,600塩基の1本鎖プラス鎖RNAから10種類のHCVタンパク質が産生されることが明らかになっている(図1参照)。前半部のコアとエンベロープからウイルス粒子が産生され、後半部の非構造(NS)領域からHCVゲノムの複製に必須なNSタンパク質が産生される。
【0008】
ゲノム構造が解明されたことにより、HCV研究は大きく進展したが、中和抗体、ワクチン、特異的抗HCV薬剤の開発については依然として苦戦を強いられている。その最大の理由として、HCVを人工的に増殖させる実験システムの欠如が挙げられる。HCVの発見以後、多くの培養細胞や動物を用いて人工増殖システムの開発が試みられたが、実用的なものは得られなかった。また、HCV感染のモデル動物はチンパンジーのみであり、これに代わる動物は未だ見つかっていない。チンパンジーを薬剤のスクリーニングに用いることは希少性および経済性の観点から現実的でない。
【0009】
1999年に、上記の問題点をある程度クリアする新しい実験システムとしてHCVレプリコンシステムが登場した(非特許文献1参照)。このシステムでは、HCVゲノムの複製に必須のNS3〜NS5B領域とゲノムの両末端からなるHCVサブゲノムが細胞内で複製するようになっており、1細胞あたりのHCVサブゲノムのコピー数は数千というレベルに達する。その後、いくつかの異なるHCV株由来のサブゲノミックHCVレプリコン細胞が樹立されている(例えば、非特許文献2参照)。また、上記レプリコン細胞において、サブゲノミックHCVレプリコンの複製レベルを容易にモニターできるようにする目的で、レポーター遺伝子を組み込んだサブゲノミックHCVレプリコンが導入された細胞が開発されている(非特許文献3〜5を参照)。
【0010】
現在、C型肝炎治療薬の開発においては、多数のモデル動物(チンパンジー)を用いた薬理試験を実施することができないため、上記サブゲノミックHCVレプリコンシステムを用いた薬効評価が必須となっている。
【0011】
しかしながら、上記サブゲノミックHCVレプリコンシステムでは、HCV構造タンパク質の影響を評価できないという問題を有している。HCV構造タンパク質の1つであるコアタンパク質が宿主の細胞因子に影響を及ぼすことは従来知られている。したがって、実際にHCVに感染したヒト肝臓で生じていることを見ようとする試みには、レプリコンシステムでは不十分である。また、サブゲノミックHCVレプリコンシステムを用いてスクリーニングされたウイルスの複製を抑制する薬剤が、実際にはHCVの複製を十分抑制できない場合もあることが予想される。
【0012】
そこで、上記サブゲノミックHCVレプリコンシステムの有する問題を解決するために、HCV全長ゲノムRNAの複製システムが開発され、これまでに、3種類のHCV株(N株、Con−1株およびH77株)の全長ゲノムを複製できる細胞(全長HCV RNA複製システム)の樹立が報告されている(非特許文献6〜8を参照)。
【0013】
スタチンは、高脂血症治療剤、高コレステロール血症治療剤として広く臨床使用されているHMG Co−A還元酵素阻害剤である。最近、スタチンの抗ウイルス作用が報告されており、抗HCV作用についてもいくつかの報告がある。
【0014】
特許文献1には、アトルバスタチン、ローバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチンおよびプラバスタチンの5種類についてサブゲノミックHCVレプリコンシステムを用いて複製抑制効果を検討し、プラバスタチン以外の4種類のスタチンに抗HCV作用が認められたことが記載されている。しかし、全長HCV RNA複製システムを用いて評価したものではないため、構造タンパク質の影響については評価できていない。また、他の抗ウイルス剤(IFN、リバビリン)とスタチンとの併用についても言及されているが、実証データは付されていない。
【0015】
特許文献2および非特許文献9には、ローバスタチンについて抗HCV作用を検討した結果が記載されている。これらの報告においては、全長HCV RNA複製システムを使用しているが、RNAレベルの評価にはサブゲノミックHCVレプリコンシステムを用いており、全長HCV RNA複製システムではHCVタンパク質の発現抑制を評価しているに過ぎない。
【0016】
シクロスポリンAは、免疫抑制剤として広く臨床使用されている。シクロスポリンAが抗HCV作用を有することは既に報告されており、その作用機序についても明らかにされている(非特許文献10〜13を参照)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0085528号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0085529号
【非特許文献1】V.Lohmann, F.Korner, J.Koch, U.Herian, L.Theilmann, R.Bartenschlager, Replication of subgenomic hepatitis C virus RNAs in a hepatoma cell line, Science 285, 110-113 (1999)
【非特許文献2】N.Kato, K.Sugiyama, K.Namba, H.Dansako, T.Nakamura, M.Takami, K.Naka, A.Nozaki, K.Shimotohno, Establishment of a hepatitis C virus subgenomic replicon derived from human hepatocytes infected in vitro, Biochem.Biophys.Res.Commun. 306, 756-766 (2003)
【非特許文献3】E.M.Murray, J.A.Grobler, E.J.Markel, M.F.Pagnoni, G.Paonessa, A.J.Simon, O.A.Flores, Persistent replication of hepatitis C virus replicons expressing the beta-lactamase reporter in subpopulations of highly permissive Huh7 cells, J.Virol.77, 2928-2935 (2003)
【非特許文献4】M.Yi, F.Bodola, S.M.Lemon, Subgenomic hepatitis C virus replicons inducing expression of a secreted enzymatic reporter protein, Virology 304, 197-210 (2002)
【非特許文献5】T.Yokota, N.Sakamoto, N.Enomoto, Y.Tanabe, M.Miyagishi, S.Maekawa, L.Yi, M.Kurosaki, K.Taira, M.Watanabe, H.Mizusawa, Inhibition of intracellular hepatitis C virus replication by synthetic and vector-derived small interfering RNAs, EMBO Rep.4, 602-608 (2003)
【非特許文献6】K.J.Blight, J.A.McKeating, J.Marcotrigiano, C.M.Rice, Efficient replication of hepatitis C virus genotype 1a RNAs in cell culture, J.Virol.77, 3181-3190 (2003)
【非特許文献7】M.Ikeda, M.Yi, K.Li, S.M.Lemon, Selectable subgenomic and genome-length dicistronic RNAs derived from an infectious molecular clone of the HCV-N strain of hepatitis C virus replicate efficiently in cultured Huh7 cells, J.Virol.76, 2997-3006 (2002)
【非特許文献8】T.Pietschmann, V.Lohmann, A.Kaul, N.Krieger, G.Rinck, G.Rutter, D.Strand, R.Bartenschlager, Persistent and transient replication of full-length hepatitis C virus genomes in cell culture, J.Virol.76, 4008-4021 (2002)
【非特許文献9】Jin Ye et al. Disruption of hepatitis C virus RNA replication through inhibition of host protein geranylgeranylation. Proc Natl Acad Sci U S A. Dec 23;100(26):15865-70 (2003).
【非特許文献10】Watashi K, Hijikata M, Hosaka M, Yamaji M, Shimotohno K. Cyclosporin A suppresses replication of hepatitis C virus genome in cultured hepatocytes. Hepatology 38: 1282-1288 (2003)
【非特許文献11】Nakagawa M, Sakamoto N, Enomoto N, Tanabe Y, Kanazawa N, Koyama T, Kurosaki M, Maekawa S, Yamashiro T, Chen CH, Itsui Y, Kakinuma S, Watanabe M. Specific inhibition of hepatitis C virus replication by cyclosporin A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 313; 42-47 (2004)
【非特許文献12】Watashi K, Ishii N, Hijikata M, Inoue D, Murata T, Miyanari Y, Shimotohno K. Cyclophilin B is a functional regulator of hepatitis C virus RNA polymerase. Mol. Cell 19: 111-122 (2005)
【非特許文献13】Nakagawa M, Sakamoto N, Tanabe Y, Koyama T, Itsui Y, Takeda Y, Chen CH, Kakinuma S, Oooka S, Maekawa S, Enomoto N, Watanabe M. Suppression of hepatitis C virus replication by cyclosporin A is mediated by blockade of cyclophilins. Gastroenterology 129: 1031-1041 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
サブゲノミックHCVレプリコンシステムの有する問題は、全長HCV RNA複製システム(HCV全長ゲノム複製細胞)の樹立によって解決されたと考えられる。しかし、既に樹立されているHCV全長ゲノム複製細胞において、HCVの複製レベルをモニターする際には、煩雑な操作を要するRT−PCR法やノーザンブロット法などで行う必要があり、抗HCV薬剤の大量スクリーニングに利用することは困難である。また、複製レベルを感度良く正確にモニターするにも困難さを伴う。そこで、HCVの複製レベルを簡便かつ正確にモニターできるように、レポーター遺伝子を組み込んだ全長HCV RNA複製システムの開発が必要である。
【0018】
しかし、既に樹立されているHCV全長ゲノム複製細胞が非常に少数であることからもわかるように、HCV全長ゲノム複製細胞を樹立することは容易なことではない。その理由は、HCVの全長ゲノムRNAに薬剤耐性マーカー遺伝子をコードする領域を付加したRNAは11kbを超え、このように長いRNAを宿主細胞へ導入して安定的に複製させることが非常に難しいからである。それゆえ、さらにレポーター遺伝子配列を付加することで一層長くなるRNA(約12kb)を宿主細胞に導入して安定的に複製させることは非常に困難であり、レポーター遺伝子を組み込んだHCV全長ゲノム複製細胞は、未だ樹立されていない。
【0019】
一方、IFNを主体とした現在のC型肝炎治療法では、約50%の患者の治癒が望めないことから、IFNとの併用でさらに有効な薬剤あるいはIFNに代わる薬剤の開発が切望されている。
【0020】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、レポーター遺伝子を組み込んだHCV全長ゲノムが導入され、レポーター遺伝子産物を発現する全長HCV全長ゲノム複製細胞を実現し、当該細胞を用いた抗HCV薬剤のスクリーニング方法を提供し、さらに当該スクリーニング方法を用いて得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とするC型肝炎治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、レポーター遺伝子を組み込んだHCV全長ゲノムを導入するための親細胞として、既に本発明者らが樹立していたHCV全長ゲノム複製細胞をIFN−αで処理してHCV RNAを完全に排除した、いわゆる治癒細胞が好適であることを見出し、レポーター遺伝子を組み込んだHCV全長ゲノム複製細胞を樹立した。そして、本発明者らは、レポーター遺伝子産物の発現量とHCV RNAの複製量とが非常によく相関することを確認した。さらに、本発明者らは当該細胞を用いて、既にHMG Co−A阻害剤として市販されているスタチンをスクリーニングした結果、HCVゲノム複製抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明に係る細胞は、C型肝炎ウイルス(HCV)の全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現する細胞であって、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むRNAが導入されていることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る細胞に導入されているRNAは、さらに外来性のインターナルリボソーマルエントリーサイト(IRES)配列を含むことが好ましい。
【0024】
本発明に係る細胞は、上記RNAが挿入される親細胞として、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むRNAが導入されたHCV全長ゲノム複製細胞を、抗ウイルス作用を有する薬剤を含む培地で培養することにより得られる治癒細胞が用いられることが好ましい。上記抗ウイルス作用を有する薬剤は、インターフェロンであることが好ましい。さらに、当該治癒細胞は、ヒト肝癌細胞株HuH−7由来のOc細胞(FERM P−20517)であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る細胞において、親細胞に導入されるRNAのHCVオープンリーディングフレーム配列中に、少なくとも1個のアミノ酸置換を伴う変異が含まれることがより好ましい。上記変異はNS3領域内に生じていることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に係るHCVの全長ゲノムを複製する細胞において、親細胞に導入されるRNAは、5’末端から、HCVのIRES配列、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列、外来性IRES配列、HCVオープンリーディングフレーム(ORF)配列、HCV3’非翻訳配列の順に連結されていることが好ましい。
【0027】
本発明に係るスクリーニング方法は、抗HCV作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、被検物質を上記本発明に係る細胞と接触させる工程;レポーター遺伝子産物のレベルを測定する工程;および上記レポーター遺伝子産物のレベルを、被検物質を接触させないときのレベルと比較する工程、を包含することを特徴としている。
【0028】
本発明に係るスクリーニングキットは、抗HCV作用を有する物質をスクリーニングするためのキットであって、上記本発明に係るHCVの全長ゲノムを複製する細胞を備えることを特徴としている。
【0029】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、上記本発明に係るスクリーニング方法により得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とすることを特徴としている。
【0030】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、(1)フルバスタチンまたはその誘導体、(2)アトルバスタチンまたはその誘導体、(3)シンバスタチンまたはその誘導体、(4)ローバスタチンまたはその誘導体、(5)ピタバスタチンまたはその誘導体を有効成分とすることが好ましい。
【0031】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、インターフェロンを投与されるC型肝炎患者を適用対象とすることが好ましい。
【0032】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、インターフェロンおよびシクロスポリンAを投与されるC型肝炎患者を適用対象とすることが好ましい。
【0033】
本発明に係るC型肝炎治療剤は、フルバスタチンまたはその誘導体、アトルバスタチンまたはその誘導体、シンバスタチンまたはその誘導体、ローバスタチンまたはその誘導体およびピタバスタチンまたはその誘導体からなる群より選択されえる少なくとも1種と、インターフェロンとを組み合わせてなることを特徴としている。
【0034】
本発明に係るC型肝炎治療剤は、さらに、上記に加えてシクロスポリンAを組み合わせなることが好ましい。
【0035】
本発明に係るC型肝炎治療用キットは、上記本発明に係るC型肝炎治療用組成物を備えることを特徴としている。
【0036】
本発明に係るC型肝炎治療用キットにおいて、さらに、インターフェロンを有効成分とするC型肝炎治療用組成物を備えることが好ましく、さらにシクロスポリンAを有効成分とするC型肝炎治療用組成物を備えることがより好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係るHCVの全長ゲノムを複製する細胞は、HCVの全長ゲノムを複製できるとともに、レポーター遺伝子産物を発現するものである。複製されたゲノムRNA量とレポーター遺伝子産物量は非常によく相関するため、本細胞を用いることで、HCV全長ゲノムRNAの複製レベルを簡便かつ正確にモニタリングできるという効果を奏する。
【0038】
本発明に係るスクリーニング方法は、本発明にかかるHCVの全長ゲノムを複製する細胞を用いるものであり、抗HCV作用を有する物質のハイスループットスクリーニングが可能となるという効果を奏する。
【0039】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物を用いれば、従来のC型肝炎治療法における著効率の改善、副作用の低減を実現できるという効果を奏する。
【0040】
本発明に係るC型肝炎治療用キットを用いれば、スタチンとIFNとの併用、またはスタチン、シクロスポリンAおよびIFNの併用により、IFNとリバビリンとの併用による抗HCV効果を顕著に上回る抗HCV効果を実現することができるという効果を奏する。また、IFNの投与量を軽減してもIFNとリバビリンとの併用効果と同等以上の効果を得ることが可能となり、IFNによる副作用の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(1)HCVの全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現する細胞
本発明は、HCVの全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現する細胞を提供する。本発明に係る細胞は、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むRNAが導入された細胞で、HCVの全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現するものであればよい。本発明に係る細胞においては、レポーター遺伝子産物の発現量とHCV RNAの複製量は非常によく相関するので、レポーター遺伝子産物を定量することにより、HCV全長ゲノムの複製レベルを簡便にモニターすることができる。また、サブゲノミックHCVレプリコンでは不可能である、構造タンパク質の影響をも含めたHCVの機能解析に非常に有用である。すなわち、本発明に係る細胞を用いることにより、HCVの機能解析、抗HCV作用を有する物質のスクリーニングなどを簡便かつ迅速に行うことが可能となる。
【0042】
本明細書において、「HCVの全長ゲノム」とは、図1に示されるHCVゲノムの全領域が実質的に含まれているRNAを意味するものである。HCVを含むRNAウイルスは、比較的高率で自発変異を起こしゲノムの多様性を有する。同一遺伝子型でもウイルス株間では5〜8%の塩基配列の違いがあることが知られている。したがって、GenBank等のデータベースに登録されているHCV全長ゲノムの塩基配列と同一であることは要しない。つまり、公知のHCV全長ゲノムの塩基配列において、一部の塩基が置換、欠失または付加されているものであってもよい。
【0043】
本発明に係る細胞に導入されているRNAは、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むものであればよい。これらの配列の順序は、レポーター遺伝子産物、選択マーカー遺伝子産物およびHCVゲノムがコードするタンパク質が発現できる順序であれば特に限定されない。また、当該RNAには、レポーター遺伝子および選択マーカー遺伝子を翻訳するためのIRESと、HCVのORFを翻訳するためのIRESとの2つのIRESが含まれることが好ましい。これにより、翻訳されるタンパク質を高レベルに維持できるという効果が得られる。2つのIRESは、いずれもHCV由来のIRESであってもよいが、少なくとも1つは外来性のIRESであることが好ましい。外来性のIRESを用いることにより、全長ゲノムの複製様式が維持されるという効果が得られる。外来性のIRESとしては、特に限定されず、例えばencephalomyocarditis virus(EMCV)由来のIRES、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus:BVDV)のIRES、ポリオウイルスのIRESなどを挙げることができるが、活性が高く頻用されているという理由で、EMCV由来のIRESが好ましい。
【0044】
本発明に係る細胞に導入されているRNAに含まれる各配列の順序の一例としては、5’末端から、HCVのIRES配列、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列、外来性IRES配列、HCV ORF配列、HCV3’非翻訳配列の順序を挙げることができるが、これに限定されない。なお、HCVのIRESは5’非翻訳領域およびコアの5’側の一部とからなるRNAである。例えば、本発明者らは、配列番号1に示されるHCV−O株の塩基配列の第1位〜第377位(第1位〜第341位が5’非翻訳領域)を用いている。ただし、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明に係る細胞に導入されているRNAに含まれるHCVゲノム配列は、HCVに由来するものであればよい。HCVには、C型肝炎を引き起こすことができる病原株のみでなく、弱毒株および変異株も含まれる。また、HCVには多数の遺伝子型が存在しているが、いずれの遺伝子型のHCVに由来するものであってもよい。好ましくは1bである。日本国内のC型肝炎患者の約70%が1b型のHCVに感染しているからである。
【0046】
遺伝子型1bのHCV株としては、HCV−O株、N株、Con−1株、JT株などが知られている。本発明者らは、HCV−O株のゲノムRNAを用いて本発明に係る細胞を作製しているが、これに限定されない。なお、HCV−O株の塩基配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)は、GenBankにACCESSION AB191333として登録されている。
【0047】
本発明に係る細胞に導入されているRNAに含まれるレポーター遺伝子としては、特に限定されず、ルシフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β−ラクタマーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子などを挙げることができる。なかでもルシフェラーゼ遺伝子が、簡便かつ高感度にレポーターアッセイを行うことができる点で好ましい。ルシフェラーゼ遺伝子としては、一般にホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子またはウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子が使用されているが、いずれを用いてもよい。遺伝子の長さがより短いという点で、ウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子が好ましい。
【0048】
本発明に係る細胞に導入されているRNAに含まれる選択マーカー遺伝子としては、特に限定されないが、簡便性の観点から薬剤耐性遺伝子が好ましい。薬剤耐性遺伝子としては、特に限定されず、形質転換細胞の選択に使用可能な公知の薬剤耐性遺伝子から適宜選択すればよい。具体的には、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子)、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などを挙げることができる。
【0049】
本発明に係る細胞の由来、すなわち上記RNAが導入される親細胞は、HCV全長ゲノムが複製可能な細胞であれば特に限定されないが、哺乳動物の肝細胞であることが好ましく、ヒトの肝細胞であることがより好ましく、ヒト肝癌細胞株であることがさらに好ましい。ヒト肝癌細胞株としては、例えば、HuH−7、HepG2、Hep3B、C3A、PLCなどを挙げることができる。
【0050】
本発明に係る細胞において、上記RNAが導入される親細胞として、選択マーカー遺伝子配列およびHCV全長ゲノム配列を含むRNAが導入されたHCV全長ゲノム複製細胞を、抗ウイルス作用を有する薬剤を含む培地で培養することにより得られる治癒細胞が用いられることが好ましい。
【0051】
本明細書において「治癒細胞」とは、サブゲノミックHCVレプリコンを複製する細胞またはHCV全長ゲノムを複製する細胞を、抗ウイルス作用を有する薬剤で培養することにより得られる、サブゲノミックHCVレプリコンが完全に排除された細胞またはHCV全長ゲノムが完全に排除された細胞を意味する。ここで、「完全に排除された」とは、RT−PCRでHCV RNAが検出されないことを意味する。
【0052】
抗ウイルス作用を有する薬剤としては、培地に添加することで治癒細胞を得られるものであれば特に限定されないが、抗HCV作用を有する薬剤が好ましい。具体的には、例えば、IFN、シクロスポリンAなどが挙げられるが、特に好ましくはIFNである。IFNとしては、IFN−αまたはIFN−βを挙げることができ、IFN−αが好ましい。IFNの処理方法の一例としては、IFN−αを500 IU/mlの濃度で含む培地を用いて2週間処理する方法を挙げることができる。ただし、処理濃度、処理期間は治癒細胞が得られたか否かを確認しながら、適宜変更すればよい。治癒細胞が得られたか否かの確認は、細胞にHCV由来のRNAが含まれているか否かを、RT−PCR法やノーザンブロット法で確認すればよい。さらに、HCV由来のタンパク質が発現していないことは、ウエスタンブロット法などにより確認することができる。
【0053】
本発明に係る細胞において、上記RNAが導入される親細胞として、本発明者らが作製した治癒細胞であるヒト肝癌細胞株HuH−7由来のOc細胞が用いられることが特に好ましい。当該Oc細胞を親細胞として用いれば、HCV全長ゲノムを複製し、ウミシイタケルシフェラーゼを発現する本発明に係る細胞が効率良く得られることを本発明者らが実証しているからである。
【0054】
Oc細胞は、例えば以下に示す手順で作製することができる(図2参照)。なお、本発明者らが実際にOc細胞を作製した具体的手順については、実施例の項で詳細に説明する。また、以下の説明における、分子生物学の通常の実験手法は、例えば、J. Sambrook et al. 「Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition」 Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法にしたがって実施することができる。
【0055】
図1に示されるON/3−5B RNAをインビトロ合成し、ヒト肝癌細胞株HuH−7細胞にエレクトロポレーション法などで導入する。ON/3−5B RNAが導入された細胞(図2中「sO」と表記)はG418を含む培地で培養することにより選抜することができる。また、サブゲノミックHCVレプリコンを複製していることは、RT−PCR法またはノーザンブロット法により確認できる。サブゲノミックHCVレプリコンがコードしているHCVタンパク質の発現は、ウエスタンブロット法により確認できる。サブゲノミックHCVレプリコンを複製している細胞であることを確認した後に、当該細胞をIFN−αを含む培地で培養する。例えばIFN−αを500 IU/mlの濃度で含む培地で2〜3週間培養し、治癒細胞が得られたことを確認する。確認は上述のように、細胞にHCV由来のRNAが含まれていないことを、RT−PCR法やノーザンブロット法で確認すればよい。これにより、サブゲノミックHCVレプリコン複製細胞の治癒細胞(図2中「sOc」と表記)が得られる。
【0056】
次に、図1に示されるON/C−5B RNAをインビトロ合成し、上記サブゲノミックHCVレプリコン複製細胞の治癒細胞(sOc)にエレクトロポレーション法などで導入する。上記と同様に、ON/C−5B RNAが導入された細胞(図2中「O」と表記)はG418を含む培地で培養することにより選抜することができる。また、HCV全長ゲノムを複製していることは、RT−PCR法またはノーザンブロット法により確認できる。HCV全長ゲノムがコードしているHCVタンパク質の発現は、ウエスタンブロット法により確認できる。HCV全長ゲノムを複製している細胞であることを確認した後に、当該細胞をIFN−αを含む培地で培養する。例えばIFN−αを500 IU/mlの濃度で含む培地で2〜3週間培養し、治癒細胞が得られたことを確認する。確認は上述のように、細胞にHCV由来のRNAが含まれていないことを、RT−PCR法やノーザンブロット法で確認すればよい。これにより、HCV全長ゲノム複製細胞の治癒細胞、すなわちOc細胞が得られる。
【0057】
なお、本発明者らが作製したOc細胞は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに、平成17年4月26日に寄託されており、その受託番号はFERM P−20517である。
【0058】
本発明に係る細胞に導入されているRNAのHCV ORF中に少なくとも1個のアミノ酸置換を伴う変異が含まれていることが好ましい。このような変異を有することにより、細胞内でのHCVゲノムの複製効率の向上が認められる。一般に、このような効果が得られる変異を「適応変異」と呼ぶ。適応変異であるか否かは、変異を有するRNAおよび変異を有しないRNAをそれぞれ細胞に導入し、G418を含む培地で3〜4週間培養した後に生育コロニー数を比較することにより確認することができる。
【0059】
本発明に係る細胞に導入されているRNAに含まれる適応変異は、上述の効果が得られるものであれば特に限定されない。上記適応変異は、NS3(ヘリカーゼ)領域に存在することが好ましい。具体的には例えば、HCV−O株のアミノ酸配列(配列番号2を参照)の1609位のリジンがグルタミン酸に置換する変異(K1609E)、1202位のグルタミン酸がグリシンに置換する変異(E1202G)を挙げることができる。
【0060】
(2)スクリーニング方法
本発明は、抗HCV作用を有する物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明に係るスクリーニング方法は、被検物質を上述の本発明に係る細胞に接触させる工程、レポーター遺伝子産物のレベルを測定する工程、および上記レポーター遺伝子産物のレベルを、被検物質を接触させないときのレベルと比較する工程、を包含するものであればよい。本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、多数の被検物質を、簡便かつ迅速にスクリーニングすることができる。
【0061】
本発明に係るスクリーニング方法においては、抗HCV作用は、HCV全長ゲノムの複製を抑制する作用である。すなわち、本発明に係るスクリーニング方法は、HCV全長ゲノムの複製を抑制する作用を有している物質をスクリーニングする方法である。
【0062】
また、本発明に係るスクリーニング方法を用いれば、HCVに近縁のウイルスやHCVと同様の複製形式をとるウイルスの複製を抑制する物質のスクリーニングが可能である。HCVに近縁のウイルスとしては、フラビウイルス科のフラビウイルス属およびペスチウイルス属に属するウイルスを挙げることができる。フラビウイルス属に属するウイルスには日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルスなどが属し、ペスチウイルス属にはブタコレラウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルスなどが属する。
【0063】
さらに、本発明に係るスクリーニング方法を用いれば、HCVと同様の複製形式をとるウイルスの複製を抑制する物質のスクリーニングが可能である。HCVの複製の特徴は、細胞質内で複製が全て行われ、ウイルスゲノムが核内に存在することはないことである。したがって、本発明に係るスクリーニング方法により、このような複製形式をとるウイルスの複製を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
【0064】
被検物質と細胞との接触は、被検物質を培地に溶解または懸濁することで行うことができる。したがって、被検物質は、培地に溶解または懸濁可能なものであればよい。
【0065】
レポーター遺伝子産物のレベル測定は、用いるレポーター遺伝子に応じて公知の方法から選択すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、細胞を界面活性剤を含む緩衝液等で溶解した細胞溶解液を試料として、ルミノメーター等の機器を用いて発光量を測定すればよい。また、この際、市販のルシフェラーゼ測定用試薬やルシフェラーゼ測定用キットを好適に用いることができる。
【0066】
上記により測定したレポーター遺伝子産物のレベルを、被検物質を接触させていない細胞のレポーター遺伝子産物のレベルと比較することにより、当該被検物質が抗HCV作用を有するか否かを判定することができる。なお、細胞増殖能を低下させない被検物質濃度において、被検物質を接触させていない細胞のレポーター遺伝子産物のレベルより低ければ抗HCV作用を有すると判定でき、好ましくは、少なくとも50%以下、より好ましくは10%以下であるときに抗HCV作用を有すると判定する。
【0067】
さらに好ましい判定基準としては、現在のC型慢性肝炎治療の標準的な方法であるIFN−αを本発明に係るスクリーニング方法に適用したときのレベル、またはIFN−αとリバビリンとを併用して本発明に係るスクリーニング方法に適用したときのレベルを判定基準とすることである。現在の標準的なC型肝炎治療法に用いられている薬剤よりHCVの複製レベルが低ければ、非常に有用なC型肝炎治療薬を見出すことができる。
【0068】
本発明に係るスクリーニング方法により、少なくともC型肝炎治療薬の有効成分の候補物質を選択することができる。また、HCV感染モデル動物はチンパンジーのみであるため、現在の状況では多数の動物を用いた薬理試験の実施は不可能であり、本発明に係るスクリーニング方法がC型肝炎治療薬の開発における薬効評価に必須な方法になることが期待される。
【0069】
(3)スクリーニングキット
本発明は、抗HCV作用を有する物質をスクリーニングするためのスクリーニングキットを提供する。本発明に係るスクリーニングキットは、上述した本発明に係る細胞を備えるものであればよい。当該スクリーニングキットを用いることにより、簡便かつ効率的に上記本発明に係るスクリーニング方法を実施することができる。
【0070】
本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備える。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。
【0071】
本発明に係るスクリーニングキットには、本発明に係るHCVの全長ゲノムを複製する細胞以外のものが備えられていてもよい。当該細胞以外の具体的な構成については特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。例えば、細胞溶解液、レポーター遺伝子産物測定用試薬、レポーター遺伝子産物測定用器具等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0072】
本発明に係るスクリーニングキットの使用方法は、上述した本発明に係るスクリーニング方法の使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0073】
(4)C型肝炎治療用組成物
本発明は、C型肝炎治療用組成物を提供する。本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、上述した本発明に係るスクリーニング方法により得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とするものであればよい。C型肝炎は、急性C型肝炎と慢性C型肝炎とに分けることができるが、本発明に係るC型肝炎治療用組成物は慢性C型肝炎に好適である。
【0074】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物の有効成分は、上述した本発明に係るスクリーニング方法により、HCVの全長ゲノムの複製を抑制する作用を有する物質として選択される。
【0075】
本発明者らは、上記本発明に係るスクリーニング方法を用いて、既に高脂血症治療薬、高コレステロール血症治療薬として使用されている、HMG Co−A還元酵素阻害剤のスタチンについて、抗HCV作用の有無を試験した。詳細は後段の実施例で説明するが、試験に供した6種類のスタチンのうち、5種類のスタチンで抗HCV作用が認められた。
【0076】
試験に供したスタチンは、下記式(1)に示される構造を有するフルバスタチン、
【0077】
【化1】

【0078】
下記式(2)に示される構造を有するアトルバスタチン、
【0079】
【化2】

【0080】
下記式(3)に示される構造を有するシンバスタチン、
【0081】
【化3】

【0082】
下記式(4)に示される構造を有するローバスタチン、
【0083】
【化4】

【0084】
下記式(5)に示される構造を有するプラバスタチンである。
【0085】
【化5】

【0086】
および下記式(6)に示される構造を有するピタバスタチンである。
【0087】
【化6】

【0088】
フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチンは、それぞれローコール(ノバルチス)、リピトール(山之内)、リポバス(萬有)、メバロチン(三共)、リバロ(興和)の商品名で日本国内で医療用医薬品として販売されている。なお、ローバスタチンは日本国内では販売されていないが、海外では既に承認され販売されている。
【0089】
本発明者らの実施した試験において、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ローバスタチン、およびピタバスタチンに抗HCV作用が認められたが、プラバスタチンには抗HCV作用が認められなかった。
【0090】
ローバスタチンに関しては、HCV全長ゲノム複製細胞系を用いて、HCVタンパク質の発現が抑制されることが報告されている(特許文献2、非特許文献9)。しかし、複製されたRNAを定量したものではない。また、構造が類似するプラバスタチン(上記式(4)および式(5)を参照)には、抗HCV作用が認められなかったことからも明らかなように、試験に供したスタチンについて、作用(HMG Co−A還元酵素阻害剤)および構造の類似性から抗HCV作用を有するか否かを予測することは、当業者が容易になせることではない。
【0091】
また、IFN−αとの併用によるC型慢性肝炎治療剤として臨床で用いられているリバビリンの構造を下記式(7)に示す。
【0092】
【化7】

【0093】
リバビリンは核酸構造類似体であり、上記各スタチンの構造とは全く類似していない。また、リバビリンは単独では抗HCV作用がほとんどないことが知られている。したがって、リバビリンの構造または作用から、当業者が容易にスタチンの抗HCV作用を推定することができないことは明らかである。
【0094】
なお、本発明に係るC型肝炎治療用組成物の有効成分には、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ローバスタチンおよびピタバスタチン、並びにこれらの誘導体も含まれる。
【0095】
上述のように、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ローバスタチンおよびピタバスタチンは、HMG Co−A還元酵素阻害剤として既に臨床において使用されている薬剤であることから、遅滞なくC型肝炎治療薬として臨床応用が可能であるという利点を有している。
【0096】
本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、経口、非経口、または局所のいずれかの経路で哺乳動物に投与することができる。有効成分の含有量は、治療対象の体重および状態、治療される疾病の状態、および選択される特定の投与経路に応じて、適宜選択すればよい。
【0097】
有効成分は、上記投与経路のいずれかにより、単独で、あるいは、薬剤学的に許容することのできる担体または希釈剤との組み合わせで、投与することができ、投与は、単回または複数回投与で実施することができる。より具体的には、本発明に係るC型肝炎治療用組成物は、幅広い種々の剤形で投与することができる。すなわち、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー剤、散剤、スプレー剤、クリーム剤、塗剤、坐剤、ゼリー剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、軟膏剤、水性懸濁液、注射溶液、エリキシル剤、シロップ剤などの形で、種々の薬剤学的に許容されることのできる不活性担体と組み合わせることができる。担体には、固体希釈剤もしくは充填剤、滅菌水性媒体、種々の非毒性有機溶媒などが含まれる。更に、経口医薬組成物には、適当な甘味および/または香気を付与することができる。通常、有効成分は、上記剤形中に、5重量%〜70重量%(好ましくは10重量%〜50重量%)の範囲の濃度レベルで存在する。
【0098】
経口投与用では、種々の賦形剤(例えば、微結晶セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カリウム、およびグリシン)を含有する錠剤を、種々の崩壊剤(例えば、デンプン(好ましくはコーン、ポテト、またはタピオカスターチ)、アルギン酸、およびケイ酸複合体)と一緒に、あるいは顆粒化結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン、およびアラビアゴム)と一緒に用いることができる。加えて、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびタルク)が、多くの場合、錠剤形成用に非常に有用である。また、同型の固体組成物をゼラチンカプセルにおける充填剤として用いることができる。これに関連する好適材料には、ラクトース(乳糖)および高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。経口投与用に水性懸濁液および/またはエリキシル剤が望まれる場合には、活性成分を、種々の甘味量もしくは香料、着色剤、または色素と組み合わせることができ、所望により、さらに乳化剤および/または懸濁剤と、上記希釈剤(例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、およびそれらの種々の組み合わせ)と一緒に組み合わせることができる。
【0099】
非経口投与用では、ゴマもしくはピーナッツオイルまたは水性プロピレングリコールのいずれかを溶媒として用いることができる。所望に応じて、上記水溶液を適当に緩衝化(好ましくはpH>8)すべきであり、液体希釈剤を最初に等張性にするべきである。これらの水溶液は、静脈注射用に適している。油性溶液は、関節内、筋内、および皮下注射用に適している。滅菌条件下におけるこれらの全ての溶液の調製は、当業者に周知の標準的薬剤学的技術により、容易に達成される。
【0100】
薬剤学的に許容できる担体は当業者には周知であり、例えば、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Merck Pub.Co., N.J.1991)に十分に記載されている。
【0101】
(5)スタチンと他の薬剤とを組み合わせたC型肝炎治療剤
現在、C型慢性肝炎に対する標準的治療法は、IFNとリバビリンの併用療法である。しかし、この治療法を適用したときのC型肝炎に対する有効性は、血中での安定性を高めたペグIFNを用いた場合でも最大50%に過ぎず、残りの患者は、致死的な肝硬変、肝癌発症の危険に曝されている。また、リバビリンは65歳以上の高齢者には溶血性貧血の副作用が頻発し、治療の中止を余儀なくされるという事態が生じている。したがって、リバビリンに代わる新たなIFNとの併用に有効な薬剤の早期開発が望まれている。
【0102】
本発明者らは、本発明に係るスクリーニング方法により見出した、抗HCV作用を有するスタチンとIFNとの併用による抗HCV効果(HCV複製抑制効果)を検討し、スタチンとIFNとの併用が、IFNとリバビリンとの併用と比較して大幅に高い抗HCV効果を発現することを見出した。すなわち、本発明に係るC型肝炎治療剤は、フルバスタチンまたはその誘導体、アトルバスタチンまたはその誘導体、シンバスタチンまたはその誘導体、ローバスタチンまたはその誘導体およびピタバスタチンまたはその誘導体からなる群より選択されえる少なくとも1種と、インターフェロンとを組み合わせてなるものであればよい。IFNとしては、IFN−αまたはIFN−βが好ましく、IFN−αが特に好ましい。また、IFNはPEG化等の修飾がされていてもよい。
【0103】
当該C型肝炎治療剤は、一製剤中に有効成分としてのスタチンとIFNとが混合された配合剤の形態としてもよく、後述するように、スタチンを有効成分とする製剤とIFNを有効成分とする製剤とを含有するキットの形態としてもよい。
【0104】
さらに、本発明者らは、抗HCV作用を有することが報告されているシクロスポリンAについても、スタチンとの併用、スタチンおよびIFNとの併用による抗HCV効果を検討した。ここで、シクロスポリンAは免疫抑制剤として広く臨床使用されている薬剤であり、下記式(8)に示される構造を有している。
【0105】
【化8】

【0106】
その結果、スタチンとシクロスポリンAとの併用は、IFNとリバビリンとの併用と比較して高い抗HCV効果を発現することを見出した。さらに、スタチン、シクロスポリンAおよびIFNの3剤を併用すると、スタチンとIFNとの併用による抗HCV効果を顕著に上回る抗HCV効果を発現することが見出された。したがって、本発明に係るC型肝炎治療剤は、フルバスタチンまたはその誘導体、アトルバスタチンまたはその誘導体、シンバスタチンまたはその誘導体、ローバスタチンまたはその誘導体およびピタバスタチンまたはその誘導体からなる群より選択されえる少なくとも1種と、インターフェロンと、シクロスポリンAとを組み合わせてなるものであることがより好ましい。
【0107】
当該C型肝炎治療剤は、一製剤中に有効成分としてのスタチンとIFNとシクロスポリンAとが混合された配合剤の形態としてもよく、後述するように、スタチンを有効成分とする製剤とIFNを有効成分とする製剤とシクロスポリンAを有効成分とする製剤とを含有するキットの形態としてもよい。
【0108】
スタチン、IFNおよびシクロスポリンAは、いずれも既に臨床において使用されている薬剤であることから、遅滞なくC型肝炎治療薬として臨床応用が可能であるという利点を有している。
【0109】
(5)C型肝炎治療用キット
本発明は、上述した本発明に係るC型肝炎治療用組成物を備えるC型肝炎治療用のキットを提供する。本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備える。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。
【0110】
本発明に係るC型肝炎治療用キットには、本発明に係るC型肝炎治療用組成物のみではなく、これとは異なる成分を含む組成物が含まれていてもよい。本発明に係るC型肝炎治療用組成物と異なる成分を含む組成物としては、特に限定されないが、IFNを有効成分とするC型肝炎治療用組成物が好ましい。本発明に係るC型肝炎治療用組成物の有効成分は、IFNと併用することで、それぞれ単独で使用した場合より、さらに強くHCVゲノムの複製を抑制することが、本発明者らにより実証されているからである(実施例11および12を参照)。IFNとしては、IFN−αまたはIFN−βが好ましく、IFN−αが特に好ましい。また、IFNはPEG化等の修飾がされていてもよい。
【0111】
また、本発明に係るC型肝炎治療用組成物と異なる成分を含む組成物としては、シクロスポリンAを有効成分とするC型肝炎治療用組成物が好ましい。さらに、本発明に係るC型肝炎治療用キットには、本発明に係るC型肝炎治療用組成物、IFNを有効成分とするC型肝炎治療用組成物およびシクロスポリンAを有効成分とするC型肝炎治療用組成物の3剤が含まれることが特に好ましい。これらの3剤を併用することにより、顕著な抗HCV効果(HCVゲノムの複製抑制)の発現が、本発明者らにより実証されているからである(実施例14を参照)。
【0112】
キットに2種類以上の組成物が含まれる場合には、これらは別個の容器(例えば、分割されたボトルなど)に入れてもよく、分割されていない単独の容器に入れてもよい。またキットには、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本C型肝炎治療用キットには、C型肝炎治療法に適用するために必要な器具をあわせて備えてもよい。
【0113】
キットの形態は、別個の成分が好ましくは異なる剤形(例えば経口および非経口)で投与され、異なる投与量で投与され、または、処方する医師が当該組み合わせの各成分の滴定を所望する場合などに特に有利である。
【0114】
本発明に係るC型肝炎治療用キットにおける本発明に係るC型肝炎治療用組成物およびその他の物質の使用方法は、上述した組成物の使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0115】
(6)C型肝炎治療法
また、本発明はC型肝炎治療法を提供する。本発明のC型肝炎治療法は、上記本発明に係るC型肝炎治療用組成物を被検体に投与する工程を包含するものであればよい。より好ましい形態は、IFNを有効成分とするC型肝炎治療用組成物との併用療法である。したがって、被検体がIFNを投与されるC型肝炎患者であることが好ましい。さらに好ましい形態は、IFNを有効成分とするC型肝炎治療用組成物およびシクロスポリンAを有効成分とするC型肝炎治療用組成物との3剤併用療法である。したがって、被検体がIFNおよびシクロスポリンAを投与されるC型肝炎患者であることが好ましい。
【0116】
本発明のC型肝炎治療法における本発明に係るC型肝炎治療用組成物およびその他の物質の適用は、上述した組成物の使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0117】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0118】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0119】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
最初に、実験材料および実験方法について記載する。
【0121】
〔使用試薬〕
アトルバスタチンは山之内製薬より、シンバスタチンは萬有製薬より、プラバスタチン、フルバスタチン、ローバスタチンはCalbiochem社よりおよびピタバスタチンは興和より購入した。NystatinはCalbiochem社より、ファンギゾン(AMPH-B)は免疫生物研究所より購入した。IFN-αはSigma社より購入した。シクロスポリンAはSigma社より購入した。
【0122】
〔培養細胞〕
高分化型ヒト肝癌細胞株であるHuH-7細胞を用いた。HuH-7細胞は、10%胎児牛血清、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むDulbecco’s modified Eagles medium (complete DMEM) (Invitrogen社)で培養した。サブゲノミックレプリコン、HCV全長ゲノムを含むHuH-7細胞株は0.3 mg/mlの濃度のG418(Invitrogen社)を含む培地で維持した。継代は週2回5:1の分割比で行った。
【0123】
〔プラスミドの構築〕
プラスミドpON/C-5B は、HCVのIRES(Internal ribosomal entry site)の下流にネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(Neo)、およびEncephalomyocarditis virus(EMCV)のIRESの下流に全長HCV-Oタンパク質をコードする配列を含む。
【0124】
最初に、HCV陽性血清より遺伝子型1b型のHCV-O全長cDNAを含むプラスミドpHCV-Oを、2つのフラグメントを用いて構築した。2つのフラグメントとは、参考文献(N.Kato,M.Ikeda,K.Sugiyama,T.Mizutani,T.Tanaka,K.Shimotohno,Hepatitis C virus population dynamics in human lymphocytes and hepatocytes infected in vitro,J.Gen.Virol.79 (1998)1859-1869.)に記載のpBR322/16-6に由来するEcoR I−Mlu Iフラグメント(HCVゲノムの45位−2528位に相当)および血清1B-2のPCR産物由来のMlu I−Spe Iフラグメント(HCVゲノムの2528位−3420位に相当)である。これらを、1B-2R1配列を有するpNSS1RZ2RU(非特許文献2を参照)のEcoR I−Spe I サイトにライゲートし、pHCV-Oを構築した。
【0125】
pON/C-5Bを構築するためのフラグメントを得るために、オーバーラッピングPCRを用いて、EMCVのIRESとコアタンパク質をコードする配列とを融合した。得られたDNAをRsr IIおよびCla I で消化し、これをpNSS1RZ2RUのXba I−Rsr IIフラグメントと共に、pHCV-OのCla I−Xba I サイトにライゲートすることで、pON/C-5Bを構築した。
【0126】
プラスミドpON/3-5Bの構築は、非特許文献2に詳細に記載されている。すなわち、sO細胞より抽出したRNAを非特許文献2に記載されているように、HCV-O遺伝子の3474位-9185位に相当する領域をRT-PCR法で増幅しこれをpNSS1RZ2RUのSpe I-Bsiw Iサイトにライゲートして、pON/3-5Bを構築した。
【0127】
M.Ikedaらの方法(非特許文献7を参照)に従い、QuickChange mutagenesis(Stratagene)を用いて、pON/3-5B およびpON/C-5B にそれぞれK1609E 変異を導入し、pON/3-5B/KE およびpON/C-5B/KEを構築した。具体的には、配列番号1に記載の塩基配列において第5166位のアデニン(a)をグアニン(g)に置換する変異を導入した。なお、K1609E 変異については後段の〔実施例2〕で説明する。
【0128】
プラスミドpORN/3-5B/KE およびプラスミドpORN/C-5B/KEは、pON/3-5B/KE およびpON/C-5B/KEに、それぞれRenilla luciferase (Promega) のPCR産物をNeo 遺伝子の上流のAsc I サイトに導入することにより構築した。なお、上記各プラスミドは、挿入遺伝子の5’側にT7プロモーター配列を含んでいる。
【0129】
〔RNA合成〕
プラスミドDNAをXba I で切断して線状化し、T7 MEGAscript Kit (Ambion社)を用いて、添付の実験説明書に従い、RNAの合成を行った。塩化リチウムで沈澱させた後、RNAを75%エタノールで洗浄し、RNaseフリー水で溶解した。
【0130】
〔RNAのトランスフェクションおよびG418耐性細胞の選抜〕
エレクトロポレーションを適用するために、HuH-7細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、PBSで107cell/mlとなるように再懸濁した。細胞懸濁液500μLおよび上記合成したRNA 20μgを2mm幅のcuvette (Bio-Rad社)に移した。Gene Pulser(Bio-Rad社)にて1.2 KV、25μF、最大抵抗の条件で2回電気刺激を加え、RNAを細胞内へ導入した。その後10分間室温でインキュベートし、10cmの培養ディッシュに細胞を播いた。0.3 mg/mlの濃度のG418を含むDMEM培地にてG418耐性細胞を選抜した。
【0131】
〔ノーザンブロット分析〕
RNeasy Mini Kit (Qiagen社)を用いて、添付の実験説明書に従い、対象の細胞からトータルRNAを抽出した。波長260nmの吸光度測定により抽出したRNAを定量した。4μgのRNAを用いてHCV RNAおよびβ-actin RNAの検出を行った。すなわち、Northern Max Kit (Ambion社)を用いて、添付の実験説明書に従いRNAの特異的検出を行った。RNAサンプルを電気泳動し、ゲルをHybond-N+ ナイロンメンブレン (Amersham-Pharmacia Biotech社)にブロティングした。UVクロスリンク (Stratagene社)を行ってRNAをメンブレンに固定化し、メンブレン上の28S rRNA部分をエチジウムブロマイドで染色した。28S rRNA バンドの約1cm下でメンブレンをカットした。カットしたメンブレンの上部にはHCV RNAが含まれ、下部にはβ-actin mRNA が含まれる。HCV RNAの特異的検出のために、digoxigenine labeing kit (Roche社)を用いて、添付の実験説明書に従い、digoxigenineで標識したHCV NS5B領域に相補的なマイナス鎖リボプローブを合成して用いた。HCV RNAに特異的に結合したリボプローブの検出はアルカリフォスファターゼ標識抗digoxigenine抗体を用いた。CSPD(Roche社)で反応させた後、X線フィルムに感光し、特異的なHCV RNAの検出を行った。β-actin RNAの検出も同様に行った。なお、レプリコンRNAレベルおよび全長HCV RNAレベルとの比較のため、pON/3-5B/KEおよびpON/C-5Bからそれぞれ転写した合成RNA(108ゲノム相当の合成RNAを正常細胞由来のRNAに加えたもの)を用いた。
【0132】
〔ウエスタンブロット分析〕
6ウェルの細胞培養プレートで培養した細胞に、SDSを含むサンプルバッファー100μlを加えて、細胞溶解液を回収した。10分間超音波破砕機にてソニケイションを行った後、各サンプルに10μlの2-メルカプトエタノールを加え100℃で3分間処理した。10〜20μlのサンプルを10%のSDS-PAGEに供し、これをメンブレン(PVDF膜)に転写した。5%のスキムミルクを含む0.1% トリス緩衝液(10mM Tris (ph7.5), 150mM NaCl, 0.1% Tween20)で60分間、蛋白質を転写したメンブレンをブロッキングした。その後、各HCV蛋白質に対する抗体およびβ-actin蛋白質に対する抗体を0.1% トリス緩衝液で1000倍希釈した溶液と前記のメンブレンとを接触させ、60分間反応を行った。メンブレンを0.1% トリス緩衝液にて5分×3回洗浄後、1000倍希釈したHRP標識マウス二次抗体を加えた0.1% トリス緩衝液と接触させ、60分間反応を行った。メンブレンを0.1% トリス緩衝液にて20分×3回洗浄した。ルネッサンスTMルミノールウェスタンブロット化学発光検出試薬プラス(NEN Life Science)にて化学発光させ、X線フィルム(KODAK BioMax)で感光した。
【0133】
今回の実験で用いた抗体は、抗Core抗体(Institute of Immunology社)、抗E1抗体(東京都臨床研究所、小原博士より供与)、抗E2抗体(参考文献:Microbiol.Immunolo. 42,875-877,1998を参照)、抗NS3抗体(Novocastera Laboratories社)、抗NS4A抗体(大阪大学、高見沢博士より供与)、抗NS5A抗体(大阪大学、高見沢博士より供与)、抗NS5B抗体(東京都臨床研究所、小原博士より供与)、抗β-actin抗体(Sigma社)である。
【0134】
〔IFN処理による治癒細胞の作製〕
サブゲノミックレプリコン細胞由来の治癒細胞の作製方法は、非特許文献2に記載されている(なお、非特許文献2において「1B-2R1」と表記しているサブゲノミックレプリコン細胞を本明細書では「sO」と表記し、非特許文献2において「1B-2R1C」と表記しているサブゲノミックレプリコン細胞の治癒細胞を本明細書では「sOc」と表記する。)。HCV全長ゲノム複製細胞(本明細書では「O」と表記する。)の治癒細胞を作製するために、O細胞を6ウェル培養プレートに播き、24時間後にIFN処理を行った。ヒトIFN−α(Sigma)を最終濃度500 IU/mlで培地に添加した。4日ごとにIFN−α(500IU/ml)を含む新鮮な培地に交換し、G418なしで細胞を2週間培養した。本明細書ではO細胞の治癒細胞を「Oc」と表記する。
【0135】
なお、治癒細胞であることはHCV RNAが存在していないこと、および/またはHCV ゲノムがコードするタンパク質が発現していないことにより確認した。
【0136】
〔RT-PCR〕
RT-PCRは分離した2つの部分について行った。第1の部分はHCVの5'UTRからNS3をカバーする部分で、約5.1kbのフラグメントが増幅される。第2の部分はNS2から大部分の3'UTRをカバーする部分で、約6.1kbのフラグメントが増幅される。これらのフラグメントはNS2およびNS3領域が重複しており、後述するようにpBR322にサブクローニングされHCVのORFの塩基配列解析に用いられた。
【0137】
2つの部分の逆転写(RT)には、以下に示すアンチセンスプライマー290ROKおよび386Rをそれぞれ用いた。
290ROK:5'-ATTATTCTAGATCGACCTGGTTCCTGTCCCG-3'(配列番号3)
386R:5'-AATGGCCTATTGGCCTGGAG-3'(配列番号4)
第1の部分のPCRには以下に示すプライマーペアを用いた。
21X: 5'-ATTATTCTAGAGCCAGCCCCCGATTGGGGGCG-3'(配列番号5)
NS3RXOK: 5'-ATTATTCTAGAGGCCTGTGAGACTAGTGATGATGC-3'(配列番号6)
第2の部分のPCRには以下に示すプライマーペアを用いた。
NS2XOK: 5'-ATTATTCTAGACGTGTGGGGACATCATCTTGGGTC-3'(配列番号7)
9388RX: 5'-ATTATTCTAGAATGGCCTATTGGCCTGGAGTG-3'(配列番号8)
KOD-plus DNAポリメラーゼを用い、45サイクルのPCRを行った。1サイクルはアニーリング64℃30秒、伸長68℃7分、変性94℃15秒とした。
【0138】
〔cDNAクローニングおよび塩基配列解析〕
2つのPCR産物(5.1kbおよび6.1kb)をXba Iで消化し、pBR322MCのXba Iサイトにサブクローニングした。プラスミドに挿入された領域についてセンス方向およびアンチセンス方向に塩基配列を解析した。解析にはBig Dye Terminator Cycle Sequencing kit (Perkin-Elmer Life Sciences)およびABI PRISM 310 genetic analyzer (Applied Biosystems)を用いた。
【0139】
〔HCV RNAの定量〕
HCV RNA複製細胞から、RNeasy Mini Kit (Qiagen社)を用いて、添付の実験説明書に従い、トータルRNAを抽出した。はじめに、2μgのRNAを鋳型として、SuperScriptTMII 逆転写酵素 (Invitrogen社)および下記のプライマー319Rを用いて添付の実験説明書に従い、逆転写反応(RT)を行った。得られたcDNAを鋳型としてリアルタイムLightCycler PCRによるHCV RNAの定量を行った。リアルタイムLightCycler PCRは、下記のプライマー104および197Rを用いて、本発明者らが以前に報告した方法(参考文献:Acta Med. Okayama 56,107-110,2002)に基づいて実施した。
319R: 5'-TGCTCATGGTGCACGGTCTA-3'(配列番号9)
104: 5'-AGAGCCATAGTGGTCTGCGG-3'(配列番号10)
197R: 5'-CTTTCGCGACCCAACACTAC-3'(配列番号11)
〔薬剤処理〕
ORN/3-5B/KE細胞およびORN/C-5B/KE細胞に対するIFN−αまたは各種スタチンの作用を観察するために、24ウェル培養プレートに2×104個の細胞を播き、24時間培養した。
【0140】
IFN-α処理の場合は、培養開始24時間後に、最終濃度0、1、10および100 IU/mlのIFN−αを培地に添加し、24時間処理した。
【0141】
各種スタチン処理の場合は、培養開始24時間後に、培地に薬剤を各濃度で添加し、72時間培養した。
【0142】
〔ルシフェラーゼレポーターアッセイ〕
Renilla Luciferase Assay System (Promega社)を用い、添付の実験説明書に従って細胞を回収し、ウミシイタケルシフェラーゼの定量を行った。
【0143】
〔実施例1:Oc 細胞の樹立および特性の検討〕
上述のようにサブゲノミックレプリコン細胞(sO細胞)およびサブゲノミックレプリコン細胞の治癒細胞(sOc細胞)の作製方法については、非特許文献2に記載されている。
【0144】
全長HCV全長ゲノム複製細胞を作製するための親細胞として、sOc細胞を用いた。その理由は、本発明者らがサブゲノミックレプリコン細胞の親細胞としてHuH-7細胞よりsOc細胞を用いた方がG418耐性細胞のコロニー形成率が高いことを見出しいていたからである。
【0145】
10μgのON/C-5Bのin vitro転写産物(ON/C-5B RNA)をエレクトロポレーション法によりsOc細胞に導入し、3週間のG418による選抜を行った結果、ただ1つのG418耐性コロニーが得られた(O細胞)。同じ実験を繰り返したところ、G418耐性コロニーの出現は1個または0個であった。この条件におけるコロニー形成率(ECF)は0.5コロニー/μg RNAと概算された。
【0146】
続いて、上述のようにO細胞をIFN-αで処理することによりO細胞の治癒細胞であるOc細胞を得た(図2参照)。
【0147】
図3にOc細胞、sO細胞およびO細胞のノーザンブロット分析の結果を示した。レーン1およびレーン2は対照であり、pON/3-5B/KEおよびpON/C-5Bからそれぞれ転写した合成RNA(108ゲノム相当の合成RNAを正常な細胞由来のRNAに加えたもの、図中それぞれSub-genomeおよびGenome-lengthと表記)を用いた結果である。図3から明らかなように、Oc細胞由来のRNA中にHCV RNAは検出されなかった。
【0148】
図4にOc細胞、sO細胞およびO細胞の各細胞由来タンパク質についてのウエスタンブロット分析の結果を示した。図4から明らかなように、Oc細胞からはHCV RNAにコードされる7種類のタンパク質(コア(core)、E1、E2、NS3、NS4A、NS5AおよびNS5B)はいずれも検出されなかった。
【0149】
以上の結果から、Oc細胞は全長HCV RNAが存在しない治癒細胞であることが確認された。
【0150】
次に、サブゲノミックレプリコン細胞の治癒細胞であるsOc細胞およびHCV全長ゲノム複製細胞の治癒細胞であるOc細胞にON/C-5B RNA またはON/3-5B RNAを再導入し、G418耐性コロニーの形成率を比較した。すなわち、RNAを導入した細胞をφ10cmの培養用シャーレに播き、G418を含む培地で3週間培養した後、出現したG418耐性コロニーをクマシーブリリアントブルーで染色した。
【0151】
結果を図5に示した。図5から明らかなように、ON/C-5B RNA導入については、Oc細胞ではRNA量が0.02μgでもG418耐性コロニーが得られ、コロニー数はRNAの用量に依存して増加した。Oc細胞におけるON/C-5Bのコロニー形成率は、約50コロニー/μg RNAと概算された。一方、sOc細胞におけるON/C-5BのECFは、0.5コロニー/μg RNA未満であった。なお、ON/3-5B RNAが導入されたsOc細胞およびOc細胞からは、多数のG418耐性コロニーが得られた。以上の結果から、Oc細胞が全長HCV RNA複製システムのための親細胞として非常に優れていることが示された。
【0152】
〔実施例2:適応変異の検出および適応変異の効果検討〕
3つの独立したO細胞クローンについてHCVゲノムのORFの塩基配列を解析した。3クローンの塩基配列解析結果を相互に比較し、各クローンが有する変異を検出した。
【0153】
結果を図6に示した。3つのクローン(図中、Clone1-1、Clone1-2およびClone1-3)に共通する変異を星印で示し、各クローンにそれぞれ単独に検出された変異を点で示した。図6から明らかなように、3クローンに共通の変異が1つだけ検出された。この変異は、NS3ヘリカーゼ領域内に存在し、HCV-O株がコードするアミノ酸配列(配列番号2(GenBank ACCESSION AB191333)を参照)の1609位のリジンがグルタミン酸に置換する変異(K1609E)であった。
【0154】
検出された変異(K1609E)のコロニー形成率に及ぼす効果を検証するために、当該変異を有しない野生型のRNA(C-5B/wt)または当該変異を有するRNA(C-5B/KE)を、sOc細胞およびOc細胞に導入し、上記実施例1に記載の方法と同様の方法でG418耐性コロニーの形成率を比較した。
【0155】
結果を図7に示した。図7から明らかなように、sOc細胞ではC-5B/KE RNAを導入した場合にはG418耐性コロニーが得られた(コロニー形成率は約75コロニー/μg RNA)が、ON/C-5B/wt RNAを導入した場合にはG418耐性コロニーが得られなかった。一方、Oc細胞では、C-5B/KE RNAを導入した場合、非常に多数のG418耐性コロニーが得られ(コロニー形成率は約1500コロニー/μg RNA)、C-5B/wt RNAを導入した場合でも多数のG418耐性コロニーが得られた。
【0156】
以上の結果から、K1609E変異は適応変異としての働きを有すること、およびOc細胞が全長HCV RNA複製システムのための親細胞として非常に優れていることが示された。
【0157】
〔実施例3:ルシフェラーゼ遺伝子を発現するHCV全長ゲノム複製細胞の樹立〕
pORN/3-5B/KEまたはpORN/C-5B/KEのin vitro 転写産物(ORN/3-5B/KE RNAまたはORN/C-5B/KE RNA、図1参照)の10μgをOc細胞にエレクトロポレーション法により導入し、細胞を5枚の細胞培養器に播いて(2μg RNA/細胞培養器)、4週間のG418(300μg/ml)含む培地で選抜し、G418耐性細胞(ORN/3-5B/KE細胞およびORN/C-5B/KE細胞)を選抜した。Oc細胞におけるORN/C-5B/KEのコロニー形成率は約7コロニー/μg RNA であった。
【0158】
ORN/3-5B/KE細胞およびORN/C-5B/KE細胞中のHCV RNAの存在を確認するために、これらの細胞由来のトータルRNAを用いてノーザンブロット分析を行った。
【0159】
結果を図8に示した。レーン1およびレーン2は対照であり、pORN/3-5B/KEおよびpORN/C-5Bからそれぞれ転写した合成RNA(108ゲノム相当の合成RNAを正常細胞由来のRNAに加えたもの)を用いた結果である。レーン3はOc細胞、レーン4はORN/3-5B/KE細胞、レーン5はORN/C-5B/KE細胞の結果である。図8から明らかなように、ORN/3-5B/KE細胞由来のRNA中には9kbのHCV特異的RNAが検出され、ORN/C-5B/KE細胞由来のRNA中には12kbのHCV特異的RNAが検出された。
【0160】
また、Oc細胞、ORN/3-5B/KE細胞およびORN/C-5B/KE細胞の各細胞由来タンパク質についてのウエスタンブロット分析の結果を図9に示した。図9から明らかなように、ORN/3-5B/KE細胞では、NS3タンパク質およびNS5Bタンパク質が検出され、ORN/C-5B/KE細胞では、コアタンパク質、NS3タンパク質およびNS5Bタンパク質が検出された。
【0161】
以上の結果より、得られたORN/C-5B/KE細胞は、ウミシイタケルシフェラーゼ(Renilla luciferase)遺伝子およびNeo 遺伝子を含むHCV全長ゲノム複製細胞であることが確認された。
【0162】
上記ORN/C-5B/KE細胞は、複数のG418耐性コロニーが集まったポリクローナルな細胞株であった。そこで、より安定した均一な細胞株を樹立するために、約3週間のG418処理後に得られたコロニーよりクローン化細胞を樹立した。いくつかのクローン化細胞株のなかで、最も安定している(G418存在下、高い生存率で増殖を続けることができる)細胞株を「OR6」と名付けた。さらに、このOR6細胞についても、上述の方法(IFN-α処理)により治癒細胞「OR6c」を作製した。
【0163】
〔実施例4:ルシフェラーゼ活性とHCV RNA量との相関の検証〕
ルシフェラーゼ活性とHCV RNA量との相関を検証するために、ルシフェラーゼレポーターアッセイおよびリアルタイムLightCycler PCRを実施した。すなわち、ORN/3-5B/KE細胞およびORN/C-5B/KE細胞を、それぞれ最終濃度0、1、10および100IU/mlのIFN-αで24時間処理した後、上述の方法でルシフェラーゼレポーターアッセイおよびリアルタイムLightCycler PCRを行った。
【0164】
結果を図10(a)〜(d)に示した。(a)はORN/3-5B/KE細胞のルシフェラーゼ活性測定結果を示したグラフであり、(b)はORN/3-5B/KE細胞のリアルタイムLightCycler PCRによるHCV RNA定量結果を示したグラフであり、(c)はORN/C-5B/KE細胞のルシフェラーゼ活性測定結果を示したグラフであり、(d)はORN/C-5B/KE細胞のリアルタイムLightCycler PCRによるHCV RNA定量結果を示したグラフである。どちらの測定結果も、IFN-αを添加していない細胞を100%として相対値で示した。
【0165】
図10(a)〜(d)から明らかなように、両細胞ともIFN-αの濃度に依存してルシフェラーゼ活性およびHCV RNA量が減少し、ルシフェラーゼ活性はHCV RNA量と非常によく相関していた。IFN-αのIC50は1 IU/ml前後であり、このIC50値は以前の研究(参考文献:J.T.Guo,Q.Zhu,C.Seeger,Cytopathic and noncytopathic interferon responses in cells expressing hepatitis C virus subge-nomic replicons,J.Virol.77 (2003)10769-10779.)で報告されたものと同等であった。
【0166】
〔実施例5:スタチンのHCVゲノム複製に対する抑制効果の検討〕
上述の方法に従い、ORN/3-5B/KE細胞およびOR6細胞に対して、アトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンをそれぞれ0、5または10μMの濃度で72時間処理し、細胞を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。
【0167】
結果を図11(a)および(b)に示した。いずれの結果もスタチンを添加していないものを100%として相対値で示した。(a)にはサブゲノミックレプリコン細胞であるORN/3-5B/KE細胞の結果を示し、(b)にはHCV全長ゲノム複製細胞であるOR6細胞結果を示した。(a)から明らかなように、ORN/3-5B/KE細胞を用いた場合、プラバスタチンを除き、各スタチン処理により相対的なルシフェラーゼ活性が20〜50%程度低下していた。一方、(b)から明らかなように、OR6細胞を用いた場合には、プラバスタチンを除き、各スタチン処理により相対的なルシフェラーゼ活性が、用量依存的に非常に大きく低下していた。特にフルバスタチンの効果が最も顕著であり、5μMの添加においても相対的なルシフェラーゼ活性は30分の1程度に低下していた。
【0168】
以上の結果より、アトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンはHCV全長ゲノムの複製を抑制することが明らかとなった。また、抗HCV効果を有する薬剤をスクリーニングするためには、HCVの構造タンパク質コード領域を欠くサブゲノミックレプリコン細胞系ではなく、HCV全長ゲノム複製系を用いることが必要であることが示された。
【0169】
〔実施例6:スタチンのOR6細胞に対する毒性の検討〕
6ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、アトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンをそれぞれ5μMの濃度で添加して72時間培養した。培養終了後、トリプシンで細胞を剥がしてトリパンブルー染色し、生細胞数を計測した。薬剤を添加していないOR6細胞を対照とした。
【0170】
結果を図12に示した。対照の生細胞数を100%とし、各スタチン処理群の生細胞数を相対値で示した。図12から明らかなように、各スタチン5μMで処理した場合の生細胞数は、対照の生細胞数と同程度であり、各スタチン5μMではOR6細胞に対して細胞毒性を示さなかった。この結果から、上記実施例5で示された各スタチンのHCVゲノム複製抑制効果は細胞毒性に基づくものではなく、スタチンの抗HCV効果によるものであることが確認された。
【0171】
〔実施例7:スタチンのEMCV-IRESに対する作用の確認〕
OR6細胞内におけるHCV蛋白質の発現はEMCV-IRESの活性により規定されていることから、スタチンがEMCV-IRESの活性を抑制している可能性がある。この可能性を否定するために、EMCV-IRESの下流にRenillaルシフェラーゼ遺伝子を有するような発現プラスミドを作成し、OR6c細胞(OR6細胞の治癒細胞)に導入してRenillaルシフェラーゼを発現させる系を作製した。
【0172】
pEMCV-RLはEMCVとRLの2つのPCRフラグメントをpCX/bsrのBamHI-NotIサイトにライゲートして作製した。EMCVフラグメントは5‘末端側にBamHIサイトを、3’末端側にXhoIサイトを持つように、EMCVBamHIF (5'-cgggatccgcgggactctggggttcg-3':配列番号12)とEMCVXhoI (5'-ccgctcgagggtattatcgtgtttttcaaagg-3':配列番号13)の2つのプライマーを用いてPCRで増幅した。RLフラグメントは5'末端側にXhoIサイトを、3'末端側にNotIサイトをもつようにRennilaXhoIF (5'-ccgctcgagatggcttccaaggtgtacgacc-3':配列番号14)とRennilaNotIR (5'-atagtttagcggccgcctagacgttgatcctgg-3':配列番号15)の2つのプライマーを用いてPCRで増幅した。pEMCV-RLはCMVプロモーターを上流にもつプラスミドである。
【0173】
作製した細胞に、各種スタチンを5μM添加し、72時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。陰性対照として薬剤を添加していない細胞を用いた。また、陽性対照として、ルシフェラーゼ活性を抑制することが判っているファンギゾン(AMPH-B)およびNystatinを用いた。
【0174】
結果を図13に示した。陰性対照のルシフェラーゼ活性を100%とし、各薬剤処理群のルシフェラーゼ活性を相対値で示した。図13から明らかなように、各スタチン処理群のルシフェラーゼは抑止されておらず、用いたスタチンはEMCV-IRES活性およびウミシイタケルシフェラーゼを抑制しないことが示された。
【0175】
〔実施例8:ウエスタンブロット分析によるスタチンの抗HCV効果の確認〕
6ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、各薬剤を添加して96時間培養した細胞を、ウエスタンブロット分析に供した。使用薬剤は、IFN-α(10 IU/ml)、プラバスタチン(5μM)、ローバスタチン(5μM)、フルバスタチン(5μMまたは10μM)である。対照として、治癒細胞であるOR6c細胞および薬剤処理していないOR6細胞を用いた。
【0176】
結果を図14に示した。図14から明らかなように、レーン1のOR6c細胞ではHCVタンパク質の発現していなかった。また、レーン2の薬剤処理していないOR6細胞ではコアタンパク質、NS3タンパク質およびNS5Bタンパク質の強い発現が認められた。レーン3のIFN-α処理細胞では、レーン2と比較して各HCVタンパク質の発現が減少していた。レーン4のプラバスタチン処理細胞では、各HCVタンパク質の発現は減少しておらず、レーン2と同程度の発現が認められた。レーン5のローバスタチン処理細胞では、各HCVタンパク質の発現が減少していた。レーン6および7は、それぞれフルバスタチン5μMおよび10μMで処理した細胞であるが、レーン5のローバスタチン5μMで処理した細胞よりさらに強く各HCVタンパク質の発現が減少していた。
【0177】
〔実施例9:HCV-O RNAの複製に対するフルバスタチンの抑制効果の確認〕
OR6細胞で複製しているORN/C-5B/KE RNAには、HCVの遺伝子以外に、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子、Neo遺伝子およびHCVタンパク質の翻訳をするためのEMCV-IRESの3つの外来性遺伝子が含まれている。スタチンがこれらの3つの外来性遺伝子を抑制する可能性を否定するために、外来性遺伝子を含まないHCV-O RNAのみを導入した細胞を作製した。
【0178】
具体的には、細胞に導入するHCV RNAとして、HCVの複製効率を増強させるKE/EGの適応変異を含むHCV-O/KE/EG RNAを用いた。KE変異は、上述のとおり、HCV-O株がコードするアミノ酸配列の1609位のリジンがグルタミン酸に置換する変異(K1609E)である。EGは同じくNS3領域の1202位のグルタミン酸がグリシンに置換する変異(E1202G)である。変異の導入にはQuickChange mutagenesis(Stratagene)を用い、K1609Eの導入には、配列番号1に記載の塩基配列における第5166位のアデニン(a)をグアニン(g)に置換し、E1202Gの導入には配列番号1に記載の塩基配列における第3946位のアデニン(a)をグアニン(g)に置換した。
【0179】
また、陰性対照細胞として、RNAポリメラーゼ活性を持たない、すなわちHCV RNAの複製が起こらない細胞を作製した。具体的には、RNAポリメラーゼ活性のモチーフであるGDDを含む、NS5B領域の2732位から2741位までの10アミノ酸(MLVCGDDLVV)を欠損させたHCV-O/dGDD RNAを細胞に導入した。上記10アミノ酸の欠損変異の導入には、QuickChange mutagenesis(Stratagene)を用い、配列番号1に記載の塩基配列における第8535位〜第8564位の塩基を欠損させた。
【0180】
これらのHCV-O RNAを導入する細胞には治癒細胞であるOR6c細胞を用いた。細胞へのRNAの導入方法は、上述の〔RNAのトランスフェクションおよびG418耐性細胞の選抜〕の項に記載のとおり行った。ただし、HCV-O/KE/EG RNAおよびHCV-O/dGDD RNAはNeo遺伝子を含まないためG418による選抜は不要である。
【0181】
陰性対照としてのHCV-O/dGDD RNA導入細胞群、薬剤処理をしないHCV-O/KE/EG RNA導入細胞群、およびフルバスタチン処理HCV-O/KE/EG RNA導入細胞群の3群を設けて実験を行った。HCV-O/dGDD RNA導入細胞群および薬剤処理をしないHCV-O/KE/EG RNA導入細胞群は、RNA導入後24、48、72および96時間後にそれぞれ細胞を回収し、ウエスタンブロット分析に供した。フルバスタチン処理群はRNA導入後24時間目にフルバスタチン5μMを培地に添加し、48、72および96時間後にそれぞれ細胞を回収し、ウエスタンブロット分析に供した。
【0182】
結果を図15に示した。レーン1〜4はHCV-O/dGDD RNA導入細胞群の結果である。いずれの時間でもコアタンパク質およびNS3タンパク質の発現は認められなかった。レーン5〜8は薬剤処理をしないHCV-O/KE/EG RNA導入細胞群の結果である。24時間後にわずかにコアタンパク質およびNS3タンパク質の発現が見られ、その後発現レベルが上昇し、96時間後に最も強くなった。レーン9〜11は5μMのフルバスタチンで処理したHCV-O/KE/EG RNA導入細胞群の結果である。明らかにコアタンパク質およびNS3タンパク質の発現が抑制されていることが示された。
【0183】
〔実施例10:スタチンの用量依存的抗HCV効果の確認〕
OR6細胞にアトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンを、それぞれ0、0.625、1.25、2.5または5μMの濃度で添加し、72時間後のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0184】
結果を図16に示した。薬剤を添加していない(0μM)細胞のルシフェラーゼ活性を100%として示している。なお、プラバスタチンは抗HCV効果が認められなかったので、図示していない。図16から明らかなように、プラバスタチ以外の4種類のスタチン処理細胞は、用量に依存してルシフェラーゼ活性が減少した。すなわち、アトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンは用量依存的にHCVゲノムの複製を抑制する効果を有することが示された。
【0185】
各種スタチン剤における抗HCV効果の違いに有意差があるかどうかについては、Student t検定(P値が0.05未満を有意差ありとする)を用いて統計学的に検討した。その結果、フルバスタチン(0.625μM−5μMでP<0.01)、アトルバスタチン(1.25μMでP<0.05、2.5μM と 5μMでP<0.01)およびシンバスタチン(0.625μM と 1.25μMでP<0.05、2.5μMと5μMでP<0.01)はローバスタチンと比較して有意に強い抗HCV効果を有していることがわかった。
【0186】
特に、フルバスタチンは他のシンバスタチン(1.25μM−5μMでP<0.01)やアトロバスタチン(1.25μMでP<0.05、2.5μM と 5μMでP<0.01)と比較しても有意に強い抗HCV効果を有していることがわかった。
【0187】
この実験結果から各スタチンのIC50値を算出した(表1参照)。
【0188】
【表1】

【0189】
〔実施例11:スタチンとIFN-αの併用による抗HCV効果の検討〕
24ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、アトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンをそれぞれ5μMの濃度で添加するとともに、IFN-αを0、2、4または8IU/mlの濃度で添加した。その後72時間培養し、細胞を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。スタチンを添加せずに、IFN-αのみ0、2、4または8 IU/mlの濃度で添加した細胞を対照とした。
【0190】
結果を図17に示した。スタチンもIFN-αも添加していない細胞のルシフェラーゼ活性を100%とし、各処理群のルシフェラーゼ活性を相対値で示した。IFN-αのみを2、4、8 IU/mlの濃度で添加した場合のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、15.2%、6.2%、2.5%に低下した。アトルバスタチン5μMにIFN-αを0、2、4、8 IU/mlの濃度で併用した時のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、8.9%、0.75%、0.30%、0.19%と、IFN-α単独処理よりさらに低下した。シンバスタチン5μMにIFN-αを0、2、4、8 IU/mlの濃度で併用した時のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、8.5%、1.3%、0.45%、0.24%であった。プラバスタチン5μMにIFN-αを0、2、4、8 IU/mlの濃度で併用した時のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、100%、18.3%、6.4%、2.2%であり、IFN-α単独処理とほぼ同程度であった。フルバスタチン5μMにIFN-αを0、2、4、8 IU/mlの濃度で併用した時のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、3.5%、0.42%、0.29%、0.15%であり、今回用いたスタチンのなかで最も強い抗HCV効果を示した。ローバスタチン5μMにIFN-αを0、2、4、8 IU/mlの濃度で併用した時のルシフェラーゼ活性は、それぞれ、24.1%、3.3%、1.1%、0.45%であった。
【0191】
以上の結果より、プラバスタチン以外のアトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンとIFN-αとの併用は、各薬剤の単独処理より抗HCV効果を増強することが明らかとなった。
【0192】
〔実施例12:フルバスタチンとIFN-αの併用による抗HCV効果の検討〕
上記実施例11でIFN-αとの併用により最も強い抗HCV効果を示したフルバスタチンについて、より詳細にIFN-αとの併用効果を検討した。
【0193】
24ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、フルバスタチンを0、0.625、1.25、2.5または5μMの濃度で添加するとともに、IFN-αを0、4、8、16、32または64 IU/mlの濃度で添加した。その後72時間培養し、細胞を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。
【0194】
結果を図18に示した。薬剤を添加していない細胞のルシフェラーゼ活性を100%とし、各処理群のルシフェラーゼ活性を相対値で示した。図18に示したグラフの縦軸は相対的なルシフェラーゼ活性(%)を示し、横軸はフルバスタチン濃度(μM)を示す。
【0195】
フルバスタチン2.5μMを単独で処理した場合は、IFN-α 4 IU/mlを単独で用いた場合に相当する抗HCV効果を示し、フルバスタチン5μMを単独で処理した場合は、IFN-α 8 IU/mlを単独で用いた場合に相当する抗HCV効果を示した。フルバスタチン1.25μM、2.5μMまたは5μMをIFN-αと併用すると、IFN-α濃度にかかわらず、それぞれ約2倍、約4倍、約8倍の抗HCV効果が認められた。具体的には、例えば、IFN-α 8 IU/mlとフルバスタチン1.25μM、2.5μMまたは5μMとの併用時の抗HCV効果は、それぞれIFN-α単独処理の16 IU/ml、32 IU/ml、64 IU/mlの抗HCV効果に相当した。
【0196】
臨床でのIFN-αの投与の最大投与量は、副作用などの観点から約1000万IU/mlであるが、以上の結果は、これにフルバスタチン1.25μM、2.5μM、5μMを併用すると、それぞれ2000万IU/ml、4000万IU/ml、8000万IU/ml相当のIFN-αの効果が期待できることを暗示する。
【0197】
一般にIFN-αの投与期間、投与量が増えるとHCVの治癒率が改善することが知られている。投与期間の延長は可能であるが医療費の負担、患者の社会生活への圧迫が問題となる。投与量の増加はIFN-α 1000万IU/mlでも相当の副作用が生じることから現実的ではない。IFN-α 1000万IU/mlにフルバスタチンを併用することで、耐えられる副作用の範囲内でより高い抗HCV効果が実現できれば、さらなるHCVの治癒率の改善にとどまらず、HCV治療期間の短縮が期待でき患者の負担も軽減できる可能性がある。
【0198】
〔実施例13:ピタバスタチンの用量依存的抗HCV効果〕
OR6細胞にピタバスタチンを、それぞれ0、0.156、0.31、0.625、1.25、2.5または5μMの濃度で添加し、72時間後のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0199】
結果を図19に示した。ピタバスタチンを添加していない(0μM)細胞のルシフェラーゼ活性を100%として示している。図19から明らかなように、ピタバスタチンの用量に依存してルシフェラーゼ活性が減少し、用量依存的にHCVゲノムの複製を抑制する効果を有することが示された。なお、IC50値は0.45μMであった。
【0200】
〔比較例:リバビリンとIFN-αとの併用による抗HCV効果〕
現在、臨床で用いられているリバビリンとIFN-αとの併用による抗HCV効果を、OR6細胞を用いて検討した。
【0201】
24ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、IFN-αを2 IU/mlの濃度で添加するとともに、リバビリンを0、5、10、15、20または25μMの濃度で添加した。その後72時間培養し、細胞を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。
【0202】
結果を図20に示した。リバビリンを添加していない細胞のルシフェラーゼ活性を100%とし、各処理群のルシフェラーゼ活性を相対値で示した。図20から明らかなように、用量依存的にルシフェラーゼ活性は減少し、25μMでは約30%の抑制効果を示した。しかしながら、抑制効果はスタチンとIFN-αとの併用効果より非常に弱いものであった。
【0203】
〔実施例14:フルバスタチン、シクロスポリンAおよびIFN-αの併用による抗HCV効果の検討〕
24ウェル培養プレートに4×104 個のOR6細胞を播き、24時間培養した後、フルバスタチン、シクロスポリンA、IFN-αの各薬剤を添加した。フルバスタチンは0、0.625、1.25または2.5μMの濃度で添加した。シクロスポリンAは細胞毒性の認められない濃度として0.25μg/mlとした。IFN-αは2 IU/mlの濃度で添加した。薬剤の組み合わせとしては、フルバスタチンおよびシクロスポリンAの2剤併用、フルバスタチンおよびIFN-αの2剤併用、フルバスタチン、シクロスポリンAおよびIFN-αの3剤併用とした。対照は薬剤無添加とした。薬剤添加後72時間培養し、細胞を回収してルシフェラーゼ活性を測定した。
【0204】
結果を図21および表2に示した。対照(薬剤無添加)のルシフェラーゼ活性を100%とし、各薬剤処理群のルシフェラーゼ活性を相対値で示した。図21のグラフでは、Y軸が相対的ルシフェラーゼ活性(%)を示し、X軸はフルバスタチン濃度を示す。また、(◇)はフルバスタチンのみの場合、(□)はフルバスタチンとシクロスポリンAとを併用した場合、(△)はフルバスタチンとIFN-αとを併用した場合、(×)はフルバスタチン、シクロスポリンAおよびIFN-αを併用した場合を示す。
【0205】
表2の相加効果としての予測値は、それぞれの抗HCV効果を加算した値として算出した。
【0206】
【表2】

【0207】
IFN-α2 IU/mlとフルバスタチンとを併用した場合、それぞれ単独で使用した場合の抗HCV効果から予測される値よりも低い値が得られたことから、相乗的抗HCV効果が観察された。また、シクロスポリンA 0.25μg/mlとフルバスタチンとを併用した場合も、それぞれ単独で使用した場合の抗HCV効果から予測される値より低い値が得られたことから、相乗的抗HCV効果が観察された。
【0208】
さらに、IFN-α2 IU/ml、シクロスポリンA 0.25μg/mlおよびフラバスタチンの3剤を併用した場合、それぞれ単独で使用した場合に予測される値より大幅に低い値が得られたことから、顕著な相乗的抗HCV効果が認められた。例えば、フルバスタチン1.25μMの場合、3剤併用で予想される相対的ルシフェラーゼ活性は2.96%であるが、実測値は0.58%となり、予想値の5分の1程度まで低下していた。以上の結果より、フルバスタチン、シクロスポリンAおよびIFN-αの3剤併用による抗HCV効果は、フルバスタチンとIFN-αとの併用による効果を大きく上回ることが明らかとなった。
【0209】
臨床でのIFN-αの最大投与量は副作用などの点から約1000万IU/mlであるが、これにフルバスタチンやシクロスポリンAを併用すると大きな抗HCV効果が期待できる。また、フルバスタチンやシクロスポリンAを併用することにより、IFN-αの量を軽減することが可能となり、IFN-αによる副作用を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明を用いれば、抗HCV作用を有する物質のスクリーニング方法、さらにC型肝炎治療薬を提供できるので、試薬産業、医薬品産業などの発展に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】HCVゲノムの構成、サブゲノミックHCVレプリコン細胞に導入されるRNA(ON/3−5B)の構成、HCV全長ゲノム複製細胞に導入されるRNA(ON/C−5B)の構成、ルシフェラーゼ遺伝子産物を発現するサブゲノミックHCVレプリコン細胞に導入されるRNA(ORN/3−5B/KE)の構成、およびルシフェラーゼ遺伝子産物を発現するHCV全長ゲノム複製細胞に導入されるRNA(ORN/C−5B/KE)の構成を示す模式図である。
【図2】Oc細胞を作製する手順を示す図である。
【図3】Oc細胞、sO細胞およびO細胞のノーザンブロット分析の結果を示す画像である。
【図4】Oc細胞、sO細胞およびO細胞のウエスタンブロット分析の結果示す画像である。
【図5】sOc細胞およびOc細胞にON/C−5B RNAを導入してG418耐性コロニー形成率を比較した実験結果を示す写真である。
【図6】3つのO細胞クローンのHCVゲノムORF塩基配列を比較した変異箇所を示した図である。
【図7】K1609E変異の有無によるコロニー形成率の違いを、sOc細胞およびOc細胞を用いて比較した実験結果を示す写真である。
【図8】ORN/3−5B/KE細胞およびORN/C−5B/KE細胞のノーザンブロット分析の結果を示す画像である。
【図9】ORN/3−5B/KE細胞およびORN/C−5B/KE細胞のウエスタンブロット分析の結果を示す画像である。
【図10】ORN/3−5B/KE細胞およびORN/C−5B/KE細胞に対して各濃度のIFN−α処理を行い、ルシフェラーゼレポーターアッセイおよびリアルタイムLightCycler PCRを実施した結果を示すグラフである。
【図11】ORN/3−5B/KE細胞およびOR6細胞を用いて、5種類のスタチンのHCVゲノム複製抑制効果を調べた実験結果を示すグラフである。
【図12】5種類のスタチンのOR6細胞に対する細胞毒性を検討した結果を示すグラフである。
【図13】5種類のスタチンのEMCV−IRES活性抑制作用を検討した結果を示すグラフである。
【図14】OR6細胞系における、IFN−α、プラバスタチン、ローバスタチンおよびフルバスタチンの抗HCV効果を、ウエスタンブロット分析により確認した結果を示す画像である。
【図15】OR6細胞系において、フルバスタチンが外来性遺伝子を抑制しないことを確認するための実験結果を示す、ウエスタンブロット分析画像である。
【図16】OR6細胞系における、アトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンおよびローバスタチンの用量依存的抗HCV効果を確認した結果を示すグラフである。
【図17】OR6細胞系における、5種類のスタチンとIFN−αとの併用による抗HCV効果を検討した結果を示すグラフである。
【図18】OR6細胞系における、フルバスタチンとIFN−αとの併用による抗HCV効果を詳細に検討した結果を示すグラフである。
【図19】OR6細胞系における、ピタバスタチンの用量依存的抗HCV効果を確認した結果を示すグラフである。
【図20】OR6細胞系における、リバビリンとIFN−αとの併用による抗HCV効果を検討した結果を示すグラフである。
【図21】OR6細胞系における、フルバスタチン、シクロスポリンAおよびIFN−αの併用による抗HCV効果を検討した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HCV作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を包含する方法により得られた抗HCV作用を有する物質を有効成分とする、C型肝炎治療用組成物。
(1)C型肝炎ウイルス(HCV)の全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現する細胞であって、レポーター遺伝子配列、選択マーカー遺伝子配列およびC型肝炎ウイルス(HCV)全長ゲノム配列を含むRNAが、ヒト肝癌細胞株HuH−7由来のOc細胞(FERM P−20517)に導入されており、HCVの全長ゲノムを複製し、かつレポーター遺伝子産物を発現する細胞と、被験物質とを接触させる工程;
(2)レポーター遺伝子産物のレベルを測定する工程;および
(3)上記レポーター遺伝子産物のレベルを、被検物質と接触させないときの上記細胞におけるレベルと比較する工程
【請求項2】
上記有効成分が、フルバスタチンまたはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記有効成分が、アトルバスタチンまたはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
上記有効成分が、シンバスタチンまたはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
上記有効成分が、ローバスタチンまたはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
上記有効成分が、ピタバスタチンまたはその誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
インターフェロンを投与されるC型肝炎患者を適用対象とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
インターフェロンおよびシクロスポリンAを投与されるC型肝炎患者を適用対象とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
フルバスタチンまたはその誘導体、アトルバスタチンまたはその誘導体、シンバスタチンまたはその誘導体、ローバスタチンまたはその誘導体およびピタバスタチンまたはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種と、インターフェロンとを組み合わせてなるC型肝炎治療剤。
【請求項10】
さらに、シクロスポリンAを組み合わせてなる請求項9に記載のC型肝炎治療剤。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物を備える、C型肝炎治療用キット。
【請求項12】
さらに、インターフェロンを有効成分とするC型肝炎治療用組成物を備える、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
さらに、シクロスポリンAを有効成分とするC型肝炎治療用組成物を備える、請求項12に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−63284(P2007−63284A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286795(P2006−286795)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【分割の表示】特願2006−101483(P2006−101483)の分割
【原出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月1日 第52回日本ウイルス学会学術集会発行の「第52回 日本ウイルス学会学術集会 プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月3日 Elsevier Inc.がインターネットアドレス(http://dx.doi.org/10.1016/j.bbrc.2005.02.138)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月30日 Elsevier Inc.がインターネットアドレス(http://dx.doi.org/10.1016/j.bbrc.2005.03.062)にて発表
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】