説明

CMSブレーキの制御装置及びその制御方法

【課題】牽引車において、牽引時、非牽引時に関わらず、最適の制動力が得られ、急制動時にも、ジャックナイフ現象等の不安定な車両挙動を防止する衝突被害軽減ブレーキ装置及びその制御方法の提供。
【解決手段】被牽引車有無判断ブロック(32)と、牽引車(1)側のブレーキ(B1)及び被牽引車側のブレーキ(B2)の制動力を調節する制御信号を発生する制御信号発生ブロック(33)とを有し、前記制御信号発生ブロック(33)は、被牽引車有無判断ブロック(32)が、被牽引車(2)が無いと判定した場合には被牽引車が無い場合用の制御マップ(M1)を、被牽引車有無判断ブロック(32)が、被牽引車(2)が有ると判定した場合には被牽引車が有る場合用の制御マップ(M2)を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牽引車衝突被害軽減ブレーキ装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CMSブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ装置)は、一般的には自車がセンサで検知した先行車や障害物等に衝突する直前に急制動を行い、衝突速度を低減し、以って、衝突被害を軽減することを目的としている。
【0003】
しかし、CMSブレーキを装備した自車が牽引車(例えば、トラクタ)である場合には、急制動を行うと、自車である牽引車(トラクタ)よりも、被牽引車(トレーラ)の方が、はるかに慣性質量が大きいため、被牽引車が牽引車を押し込んで、カプラの位置で「く」の字に折れ曲がる、いわゆる「ジャックナイフ現象」を生じることがある。この「ジャックナイフ現象」が起こると、後続車両を2次的な事故に巻き込んでしまう恐れがある。
2次的な事故を誘発しないためにも、「ジャックナイフ現象」等の危険な挙動は防止されるべきである。
【0004】
ここで、牽引車(トラクタ)は、常に被牽引車(トレーラ)を牽引して走行するとは限らないため、牽引時と非牽引時では、本来、牽引車(トラクタ)と被牽引車(トレーラ)との間の制動力配分や同制動開始のタイミングを変えるべきである。しかし、現実にはそのような構成とはなっていない。
【0005】
ここで、ジャックナイフ現象の発生を判定して、被牽引車両の制動力を増加する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は、ジャックナイフ現象が発生した後に対処する技術であり、衝突時にジャックナイフ現象の発生を防止して、2次的な事故の発生の防止を目的とするものではなく、CMSブレーキに適応させたものでもない。
【特許文献1】特開2006−111178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、牽引時、非牽引時に関わらず、最適の制動力が得られ、衝突事故が発生した際にも、ジャックナイフ現象等の不安定な車両挙動を防止することが出来る衝突被害軽減ブレーキ装置及びその制御方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のCMSブレーキ装置は、カプラ(8)からの信号に基いて被牽引車(2)の有無を判断する被牽引車有無判断ブロック(32)と、牽引車(1)側のブレーキ(B1)及び被牽引車側のブレーキ(B2)の制動力を調節する制御信号を発生する制御信号発生ブロック(33)とを有し、前記制御信号発生ブロック(33)は、被牽引車有無判断ブロック(32)が被牽引車(2)が無いと判定した場合には被牽引車が無い場合用の制御マップ(M1)を選択し、被牽引車有無判断ブロック(32)が被牽引車(2)が有ると判定した場合には被牽引車が有る場合用の制御マップ(M2)を選択し、選択された制御マップに基いて制御信号を発生する様に構成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0008】
前記制御信号発生ブロック(33)は、被牽引車(2)が有る場合には、(従来の特性L10、L20に比較して)牽引車側ブレーキ(B1)の制動タイミングを遅延させ、牽引車側ブレーキ(B1)の制動力を低減し、且つ、被牽引車側ブレーキ(B2)の制動力を増加させる制御信号を出力する様に構成されている(請求項2)。
【0009】
また、本発明のCMSブレーキ装置は、ブレーキ(B1、B2)による制動が為される直前に、微小な制動エア圧力を発生させる制御を行う様に構成されている(請求項3)。
【0010】
本発明のCMSブレーキ装置の制御方法は、カプラ(8)からの信号に基いて被牽引車(2)の有無を判断する被牽引車有無判断工程(S1)と、牽引車側のブレーキ(B1)及び被牽引車側のブレーキ(B2)の制動力を調節する制御信号を発生する制御信号発生工程(S3、S4)とを有し、前記制御信号発生工程(S3、S4)では、カプラ(8)からの信号が入力される被牽引車有無判断ブロック(32)が被牽引車(2)が無いと判定した場合には被牽引車が無い場合用の制御マップ(M1)を選択して制御信号を発生し(S3)、被牽引車有無判断ブロック(32)が被牽引車(2)が有ると判定した場合には被牽引車が有る場合用の制御マップ(M2)を選択して制御信号を発生する(S4)ことを特徴としている(請求項4)。
【0011】
前記制御信号発生工程(S3、S4)では、被牽引車(2)が有る場合には、(従来の特性L10、L20に比較して)牽引車側ブレーキ(B1)の制動タイミングを遅延させ、牽引車側ブレーキ(B1)の制動力を低減し、且つ、被牽引車側ブレーキ(B2)の制動力を増加させる制御信号を出力する(請求項5)。
【0012】
また、本発明のCMSブレーキ装置の制御方法は、ブレーキ(B1、B2)による制動が為される直前に、微小な制動エア圧力を発生させる(請求項6)。
【発明の効果】
【0013】
上述した構成を具備する本発明によれば、被牽引車(2)が有る場合には、制御信号発生ブロック(33)は、(従来の特性L10、L20に比較して)牽引車側ブレーキ(B1)の制動タイミングを遅延させ、且つ、牽引車側ブレーキ(B1)の制動力を低減して被牽引車側ブレーキ(B2)の制動力を増加させる制御信号を出力する様に構成されている。
そのため、被牽引車(2)側が早期に制動が作用し、被牽引車(2)が牽引車(1)を押し込んでしまうことがなくなる。被牽引車(2)が牽引車(1)を押し込んでしまわないため、急制動時に被牽引車(2)が牽引車(1)を押し出すことにより発生する現象、いわゆる「ジャックナイフ現象」は発生しない。
【0014】
「ジャックナイフ現象」等の不安定な挙動を発生させることが防止されるため、本発明を適用した車両が衝突等の事故を起した場合に、2次的な事故の発生を最小限に抑えることが可能である。
【0015】
また、本発明のCMSブレーキ装置において、ブレーキ(B1、B2)による制動が為される直前に、ブレーキに微小な制動エア圧力を発生させる様に構成すれば(請求項3、請求項6)、当該微小な制動エア圧力により低覚醒状態のドライバーに対し、急制動がかかることの警告を行うと共に制動灯を点灯させる事が出来る。制動灯の点灯は、後続車のドライバーへ警報することが出来、後続車両は安全な回避動作をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るCMSブレーキ装置において、被牽引車を連結した状態の全体構成を示している。
【0017】
図1において、CMSブレーキ装置100は、牽引車1側のブレーキB1と、ブレーキコントロールユニット3と、エンジンコントロールユニット5と、車間距離レーダ7と、カプラ8に装備された牽引検知センサ81と、被牽引車2側のブレーキB2と、総合ブレーキ制御手段である衝突被害軽減ブレーキコントローラ10とを備えて構成されている。
図1において、符号6はエンジンを示す。
【0018】
ブレーキコントロールユニット3と、エンジンコントロールユニット5と、車間距離レーダ7と、牽引検知センサ81と、衝突被害軽減ブレーキコントローラ10は、CAN(自動車用制御ネットワーク)9によって接続されている。
【0019】
CMSブレーキ装置100は、例えば車間距離レーダ7を用いて先行車との距離を計測し、相対距離と、相対速度の関係が所定値以下となった場合には、自動的にブレーキを作動させることが出来る。換言すれば、オートブレーキ機能を有している。
【0020】
またCMSブレーキ装置100は、ブレーキを作動させる場合には、エンジンコントローラ5に、所定量のトルクカットを達成させるために燃料噴射量を変更する制御を行わせるように構成されている。係る燃料噴射量の変更は、図示しないエンジントルクカット用マップを用いて行われ、そのエンジントルクカット用マップは、衝突被害軽減ブレーキコントローラ10に記憶されている。
【0021】
図2は、ブレーキコントロールユニット3の詳細構成を示している。
図2において、ブレーキコントロールユニット3は、インターフェース31と、被牽引車有無判断ブロック32と、制御信号発生ブロック33とデータベース34とを有している。
【0022】
データベース34には、被牽引車2が無い場合用の制御マップM1と、被牽引被牽引車2が有る場合用の制御マップM2が記憶されている。
【0023】
牽引確認センサ81から衝突被害軽減ブレーキコントローラ10を経由して送られる被牽引車の有無の情報は、インターフェース31を介して、被牽引車有無判断ブロック32に伝達されるように構成されている。
被牽引車有無判断ブロック32は、被牽引車の有無の情報に基いて、被牽引車2が無い場合用の制御マップM1と、被牽引被牽引車2が有る場合用の制御マップM2の何れかを選択し、選択された制御マップをデータベース34から制御信号発生ブロック33に伝送するように構成されている。
【0024】
制御信号発生ブロック33は、被牽引車2が無い場合用の制御マップM1に基く制御信号、或いは、被牽引車2が有る場合用の制御マップM2に基く制御信号を、図示しないブレーキ圧発生手段に伝送するように構成されている。そして、図示しないブレーキ圧発生手段は、牽引車1側のブレーキB1と、被牽引車2側のブレーキB2に対して、最適の制動エア圧力(ブレーキ圧)を供給する。
【0025】
図3は、被牽引車2が無い場合用の制御マップM1を示し、図4は被牽引車2が有る場合用の制御マップM2を示している。
図3及び図4は、共に縦軸に制動エア圧を示し、横軸に時間の経過を示している。
【0026】
図3及び図4における太い実線L1は、牽引車(トラクタ)の制動エア圧の推移(特性)を示しており、図4における太い破線L2は、被牽引車(トレーラ)の制動エア圧の推移(特性)を示している。
図4における細い実線L10は、従来技術において、被牽引車を牽引している場合における牽引車の制動エア圧の推移(特性)を示し、細い破線L20は、被牽引車の制動エア圧の推移(特性)を示している。
【0027】
図4で示す様に、被牽引車2が有る場合には、従来技術における推移(特性)L10に比較して、牽引車の制動タイミングを遅らせて(矢印Y1:例えば、100ms〜500ms程度遅らせる)、牽引車の制動力を低下させている(矢印Y2:例えば、10%〜30%程度低下させる)。それと共に、従来技術における推移(特性)L20に比較して、被牽引車の制動力を増加させている(矢印Y3:例えば、10%〜30%程度増加させる)。
その結果、被牽引車2が牽引車1を押し込む様に作用する力は発生しなくなり、いわゆる「ジャックナイフ現象」等の不安定な挙動が防止される。
【0028】
ここで、牽引車1の制動力と被牽引車2の制動力の総和(連結車両としての制動力)を、概略、従来技術における連結車両としての制動力に等しくすることもできるし、従来技術における連結車両としての制動力よりも大きな制動力とすることも出来る。
【0029】
なお、図3及び図4では図示はしないが、牽引車(トラクタ)の制動エア圧の推移L1における立ち上がり領域RL1の直前と、被牽引車(トレーラ)の制動エア圧の推移L2における立ち上がり領域RL2の立ち上がり直前に、僅かな制動エア圧力を発生させるように構成することが出来る。僅かな制動エア圧を発生させることは、低覚醒状態のドライバーなどに対し、急制動がかかることの警告を行うためや、制動灯を点灯させ、後続車両のドライバーにブレーキが作用することを予告するためである。
制動灯を点灯して後続車へ予告することは、追突の危険を警報することとなり、後続車の危険回避を可能にして、衝突後の2次的事故を抑制する効果が大である。
【0030】
次に、図5のフローチャートに基き、図示の実施形態の制動制御方法について説明する。
先ず、カプラ8に設けた牽引検知センサ81によって被牽引車の有無を検出する(ステップS1)。
【0031】
ブレーキコントロールユニット3の被牽引車有無判断ブロック32は、被牽引車2の有無を判断し(ステップS2)、被牽引車が無ければ(ステップS2が「無し」のループ)、ステップS3に進む。一方、被牽引車があれば(ステップS2が「有り」のループ)、ステップS4に進む。
【0032】
ステップS3では、被牽引車無し用CMSブレーキ制御マップM1を選択し、マップM1に基いて、図3で示すような特性L1に相当するブレーキ信号を、制御信号発信手段33から図示しないブレーキ圧発生手段に発信して、制御を終える。
【0033】
ステップS4では、被牽引車有り用CMSブレーキ制御マップM2を選択し、マップM2に基いて、図4で示す特性L1、L2に相当するブレーキ信号を、制御信号発信手段33から図示しないブレーキ圧発生手段に発信して制御を終える。
【0034】
上述した図示の実施形態によれば、被牽引車が無い場合には、従来と同様な制動特性であるが、被牽引車が有る場合には、従来技術における制動エア圧の推移(特性)L10、L20に比較して、牽引車側ブレーキB1の制動タイミングを遅延させ、牽引車側ブレーキB1の制動力を低減し、且つ、被牽引車側ブレーキB2の制動力を増加させている。
これにより、被牽引車2が牽引車1を押し込む様な力が発生することが無くなり、いわゆる「ジャックナイフ現象」等の不安定な挙動を生じることが防止され、衝突後の2次的な事故の発生を防止することが出来る。
【0035】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るCMSブレーキの制御装置のブロック図。
【図2】ブレーキコントロールユニットの構成を説明するブロック図。
【図3】実施形態における被牽引車無しの場合の制御マップ。
【図4】実施形態における被牽引車有りの場合の制御マップ。
【図5】実施形態におけるブレーキの制御を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0037】
1・・・牽引車
2・・・被牽引車
3・・・ブレーキコントロールユニット
5・・・エンジンコントローラ
6・・・エンジン
7・・・車間距離レーダ
8・・・カプラ
9・・・CAN
31・・・インターフェース
32・・・被牽引車有無判断ブロック
33・・・制御信号発信ブロック
B1・・・牽引車側のブレーキ
B2・・・被牽引車側のブレーキ
M1・・・被牽引車無しの場合の制御マップ
M2・・・被牽引車有りの場合の制御マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプラからの信号に基いて被牽引車の有無を判断する被牽引車有無判断ブロックと、牽引車側のブレーキ及び被牽引車側のブレーキの制動力を調節する制御信号を発生する制御信号発生ブロックとを有し、前記制御信号発生ブロックは、被牽引車有無判断ブロックが、被牽引車が無いと判定した場合には被牽引車が無い場合用の制御マップを選択し、被牽引車有無判断ブロックが被牽引車が有ると判定した場合には被牽引車が有る場合用の制御マップを選択し、選択された制御マップに基いて制御信号を発生する様に構成されていることを特徴とするCMSブレーキの制御装置。
【請求項2】
前記制御信号発生ブロックは、被牽引車が有る場合には、牽引車側ブレーキの制動タイミングを遅延し、牽引車側ブレーキの制動力を低減し、且つ、被牽引車側ブレーキの制動力を増加する制御信号を出力する様に構成されている請求項1のCMSブレーキの制御装置。
【請求項3】
ブレーキによる制動が為される直前に、微小な制動エア圧力を発生させる制御を行う様に構成されている請求項1、2の何れかのCMSブレーキの制御装置。
【請求項4】
カプラからの信号に基いて被牽引車の有無を判断する被牽引車有無判断工程と、牽引車側のブレーキ及び被牽引車側のブレーキの制動力を調節する制御信号を発生する制御信号発生工程とを有し、前記制御信号発生工程では、カプラからの信号が入力される被牽引車有無判断ブロックが、被牽引車が無いと判定した場合には被牽引車が無い場合用の制御マップを選択して制御信号を発生し、被牽引車有無判断ブロックが被牽引車が有ると判定した場合には被牽引車が有る場合用の制御マップを選択して制御信号を発生することを特徴とするCMSブレーキの制御方法。
【請求項5】
前記制御信号発生工程では、被牽引車が有る場合には、牽引車側ブレーキの制動タイミングを遅延し、牽引車側ブレーキの制動力を低減し、且つ、被牽引車側ブレーキの制動力を増加する制御信号を出力する請求項4のCMSブレーキの制御方法。
【請求項6】
ブレーキによる制動が為される直前に、微小な制動エア圧力を発生させる請求項3、4の何れかのCMSブレーキの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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