説明

CZTS/Se前駆体インクとCZTS/Se薄フィルムおよびCZTS/Se系光電池の製造方法

本発明は、銅亜鉛スズカルコゲニド前駆体インクとして使用されうるコートされた二元および三元ナノ粒子カルコゲニド組成物に関する。さらに、本発明は、銅亜鉛スズカルコゲニド薄フィルムおよびかかる薄フィルムを組み込む光電池を製造するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月25日に出願された米国仮特許出願第61/264362号(その内容をその全体において本願にその一部として組み込む)から米国特許法第119条(e)下で優先権を主張する。
【0002】
本発明は、銅亜鉛スズカルコゲニド前駆体インクとして使用されうるコートされた二元および三元カルコゲニドナノ粒子組成物に関する。さらに、本発明は、銅亜鉛スズカルコゲニド薄フィルムおよびかかる薄フィルムを組み込む光電池を製造するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
薄フィルム光電池は典型的に、CdTeまたは銅インジウムガリウム硫化物/セレン化物(CIGS)などの半導体をエネルギー吸収剤材料として使用する。インジウムの入手の可能性が限られているため、CIGSの代替物が探し求められている。ケステライト(Cu2ZnSnS4または「CZTS」)は、約1.5eVのバンドギャップエネルギーおよび大きな吸収係数(約104cm-1)を有し、それを有望なCIGSの代用品にしている。さらに、CZTSは、無毒性かつ豊富な元素だけを含有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
CZTS薄フィルムを製造するための現在の技術(例えば、熱的蒸発、スパッタリング、ハイブリッドスパッタリング、パルスレーザー堆積法および電子ビーム蒸発)は複雑な装置を必要とし、したがって、費用がかかる傾向がある。電気化学堆積法は高価でない方法であるが、組成の不均一性および/または二次相の存在がこの方法によって高品質CZTS薄フィルムを生み出すことを妨げている。また、CZTS薄フィルムは、金属塩、典型的にCuCl、ZnCl2、SnCl4、およびチオ尿素を硫黄供給源として含有する溶液の噴霧熱分解によって製造されてもよい。この方法は、好ましくないモルフォロジー、密度および粒度のフィルムを生じる傾向がある。また、光化学堆積は、p型CZTS薄フィルムを生み出すことが示されている。しかしながら、生成物の組成は十分に制御されておらず、水酸化物などの不純物の形成を避けることは難しい。標準的な印刷技術によって四元CZTS前駆体粉末を調製して基材上に堆積することができる。その後に、窒素および硫黄雰囲気中でアニールすることによってCZTSフィルムを形成する。しかしながら、CZTS粉末中の元素のモル比を制御することは難しく、それはCZTS薄フィルムの最終性能を制限する。
【0005】
また、コートされない二元および三元硫化物からのケステライトの形成が開示されている。
【0006】
しかしながら、低コストで高品質CZTS薄フィルムを提供する方法がさらに必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例20において説明されたように、硫黄リッチ雰囲気中でアニールされたスピンコートされたCu2SnS3およびZnS前駆体から形成されたCZTSのXRDパターンを示す。
【図2】実施例26において説明されたように製造された太陽電池のJ−V曲線を示す。
【図3】実施例27において説明されたように製造された太陽電池のJ−V曲線を示す。
【図4】実施例28において説明されたように製造された太陽電池のJ−V曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の1つの態様は、銅亜鉛スズカルコゲニド前駆体インクとして使用されうるナノ粒子組成物を提供する。ナノ粒子組成物は、二元および/または三元カルコゲニドの混合物を含む。
【0009】
本発明の別の態様は、基材と、二元および/または三元カルコゲニドの混合物を含む1つまたは複数の層を含むコーティングとを含むコートされた基材を提供する。
【0010】
本発明の別の態様は、銅亜鉛スズカルコゲニド前駆体インクを用いて銅亜鉛スズカルコゲニド薄フィルムを製造するための方法を提供する。銅亜鉛スズカルコゲニドフィルムは、薄フィルム光電池内の吸収剤として使用されうる。
【0011】
本発明の別の態様は、CZTS、CZTSeまたはCZTS/Se前駆体インクを使用して薄フィルム光電池を製造するための方法を提供する。
【0012】
本明細書において用語「太陽電池」および「光電池」は、特に別記しない限り、同義語である。これらの用語は、半導体を使用して可視光および近可視光エネルギーを使用可能な電気エネルギーに変換するデバイスを指す。
【0013】
本明細書中で用いられるとき、用語「カルコゲン」は16族元素を指し、用語「金属カルコゲニド」または「カルコゲニド」は、金属と16族元素とを含む材料を指す。適した16族元素には硫黄およびセレンがある。
【0014】
本明細書において用語「CZTS」はCu2ZnSnS4を指し、「CZTSe」はCu2ZnSnSe4を指し、「CZTS/Se」は、Cu2ZnSnS4、Cu2ZnSnSe4、およびCu2ZnSnSxSe4-x(式中、0<x<4)など、Cu2ZnSn(S,Se)4の全ての可能な組み合わせを包含する。用語「CZTS」、「CZTSe」および「CZTS/Se」はさらに、端数の化学量論、例えば、Cu1.94Zn0.63Sn1.34を有する銅亜鉛スズ硫化物/セレン化物半導体を包含する。すなわち、元素の化学量論は、厳密に2:1:1:4から変化してもよい。また、CZTS/Seとして示される材料は、ナトリウムなどの少量の他の元素を含有してもよい。
【0015】
用語「ナノ粒子」は、約1nm〜約1000nm、または約5nm〜約500nm、または約10nm〜約100nmの平均最長寸法を特徴とするカルコゲニド含有粒子を含めることを意図する。ナノ粒子は、球、ロッド、ワイヤー、チューブ、フレーク、ウィスカー、リング、円板、または角柱の形状であってもよい。
【0016】
CZTS/Se前駆体インク
本発明の1つの態様は、
a)液体媒体と、
b)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子であって、銅−カルコゲニドが、銅カルコゲニド(例えば、Cu2S、CuS、Cu2Se、またはCuSe)および銅スズカルコゲニド(例えば、Cu2SnS3、Cu4SnS4、またはCu2SnSe3)の群から選択される(ここにおいてCu2SおよびCu2SeがCuySおよびCuySeを指し、式中、1.75≦y≦2.1である)、コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
c)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子であって、スズカルコゲニドが、スズカルコゲニド(例えば、SnS2、SnS、SnSeまたはSnSe2)および銅スズカルコゲニド(例えば、Cu2SnS3、Cu4SnS4、またはCu2SnSe3)からなる群から選択される、コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
d)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子であって、亜鉛カルコゲニドが、ZnSまたはZnSeである、コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含むCZTS/Se前駆体インクであり、CZTS/Se前駆体インクのCu:Zn:Sn:S/Seのモル比が約2:1:1:4である。
【0017】
このインクは、CZTS/Se薄フィルムを形成するための前駆体を含有するので、CZTS/Se前駆体インクと称される。
【0018】
本明細書において用いられた用語「コートされたナノ粒子」は、アルキルアミン、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィン、アルキルホスホン酸、ポリビニルピロリドン、ポリカルボキシレート、ポリホスフェート、ポリアミン、ピリジン、アルキルピリジン、システインおよび/またはヒスチジン残基を含むペプチド、エタノールアミン、シトレート、チオグリコール酸、オレイン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される1つまたは複数の安定剤でコートされる二元および三元カルコゲニドナノ粒子を指す。適したアミンには、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、およびトリオクチルアミンなどが含まれる。安定剤は典型的に、カルコゲニドナノ粒子上に物理的におよび/または化学的に吸着される。ナノ粒子の「重量%」へのすべての言及は、安定剤のコーティングを含めることを意図する。
【0019】
CZTS/Se前駆体インクのための適した液体媒体には、芳香族化合物、アルカン、ニトリル、エーテル、ケトン、エステル、有機ハロゲン化物、アルコール、およびそれらの混合物などが含まれる。より具体的には、適した液体媒体には、クロロホルム、トルエン、p−キシレン、ジクロロメタン、アセトニトリル、ピリジン、ヘキサン、へプタン、オクタン、アセトン、水、エタノール、メタノールおよびそれらの混合物などが含まれる。液体媒体は典型的に、CZTS/Se前駆体インクを30〜99重量%、または50〜95重量%、もしくは60〜90重量%で含む。
【0020】
液体媒体と二元および/または三元のコートされたカルコゲニドナノ粒子の混合物との他に、前駆体インクは任意選択により、分散剤、界面活性剤、ポリマー、バインダー、クロスカップリング剤、乳化剤、消泡剤、乾燥剤、充填剤、エキステンダー、増粘剤、フィルム調整剤、酸化防止剤、流動剤、均展材、および腐蝕抑制剤からなる群から選択される1つまたは複数の添加剤をさらに含むことができる。典型的に、添加剤は、CZTS/Se前駆体インクを20重量%未満、または10重量%未満、または5重量%未満、または2重量%未満、または1重量%未満で含む。
【0021】
適したバインダーには、直鎖、分岐、くし/ブラシ、星状、超分岐またはデンドリティック構造を有するポリマーおよびオリゴマーおよび200℃未満の分解温度を有するポリマーおよびオリゴマーが含まれる。適したポリマーおよびオリゴマーには、ポリエーテルのホモポリマーおよびコポリマー、ポリラクチド、ポリカーボネート、ポリ[3−ヒドロキシ酪酸]、ポリメタクリレート、ポリ(メタクリル)コポリマー、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(乳酸)、ポリ(DL−ラクチド/グリコリド)、ポリ(プロピレンカーボネート)、およびポリ(エチレンカーボネート)などが含まれる。存在する場合、ポリマーまたはオリゴマーバインダーはCZTS/Se前駆体インクの20重量%未満、または10重量%未満、または5重量%未満、または2重量%未満、または1重量%未満である。
【0022】
適した界面活性剤には、シロキシ−、フルオリル−、アルキル−、およびアルキニル置換界面活性剤などが含まれる。選択は典型的に、観察されたコーティングおよび分散体の特質および基材に対する所望の接着性に基づいている。適した界面活性剤にはByk(登録商標)(Byk Chemie)、Zonyl(登録商標)(DuPont)、Triton(登録商標)(Dow)、Surynol(登録商標)(Air Products)、およびDynol(登録商標)(Air Products)界面活性剤などが含まれる。
【0023】
また、CZTS/Se前駆体インクは任意選択により、ナトリウム塩および元素カルコゲンを含むことができる。ナトリウム塩および/または元素カルコゲンがCZTS/Se前駆体インクに添加される実施形態において、インクは、これらの添加剤を「ドープされる」と言われる。存在する場合、カルコゲンは典型的に、CZTS/Se前駆体インクの0.1重量%〜10重量%である。
【0024】
1つの実施態様において、CZTS/Se前駆体インクは、コートされた銅含有、スズ含有、および亜鉛含有ナノ粒子を含む混合物を液体媒体中に分散させることによって調製される。1つの実施態様において、CZTS前駆体インクは、コートされたCu2SnS3およびZnSナノ粒子を約1:1.4のモル比において含む。1つの実施態様において、CZTS前駆体インクは、コートされたCuS、ZnSおよびSnSナノ粒子を約2:1:1のモル比において含む。
【0025】
液体媒体中のコートされたナノ粒子の分散は、撹拌または音波処理によって補助されてもよい。
【0026】
コートされた二元および三元カルコゲニドナノ粒子の合成
CZTS/Se前駆体インクにおいて使用されたコートされたナノ粒子は、溶液からの共沈殿、ミクロエマルション、ゾルゲル法、鋳型合成、およびソルボサーマル法などの本技術分野に公知の方法によって合成されてもよい。
【0027】
コートされた二元カルコゲニドナノ粒子
CuS、CuSe、ZnS、ZnSeおよびSnSなどのコートされた二元カルコゲニドナノ粒子は、金属塩と硫化物またはセレン化物の供給源とを1つまたは複数の安定剤の存在下で0℃〜500℃、または150℃〜350℃の温度において反応させることによって、相当する金属塩から調製されてもよい。二元カルコゲニドナノ粒子は、例えば、非溶剤による沈殿の後に、遠心分離を行なうことによって単離されてもよく、洗浄、または溶解および再沈殿によってさらに精製されてもよい。この合成経路のために適した金属塩には、Cu(I)、Cu(II)、Zn(II)、Sn(II)およびSn(IV)ハロゲン化物、酢酸塩、硝酸塩、および2,4−ペンタンジオネートなどが含まれる。適したカルコゲン供給源には、元素硫黄、元素セレン、Na2S、Na2Se、チオ尿素、およびチオアセトアミドなどが含まれる。適した安定剤には、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、トリオクチルアミン、トリオクチルホスフィンオキシド、他のトリアルキルホスフィンオキシド、およびトリアルキルホスフィンなどが含まれる。
【0028】
Cu2Sナノ粒子は、ソルボサーマル法によって合成されてもよく、そこにおいて金属塩が脱イオン水に溶解される。長鎖アルキルチオールまたはセレノール(例えば、1−ドデカンチオールまたは1−ドデカンセレノール)は、硫黄供給源およびナノ粒子のための分散剤の両方として役立つことができる。酢酸塩および塩化物などのいくつかの付加的な配位子は、酸または塩の形態で添加されてもよい。反応は典型的に、150℃〜300℃の温度および150psig〜250psigの窒素の圧力において行なわれる。冷却した後、生成物は例えば、非溶剤および濾過を使用して沈殿によって、非水性相から単離されてもよい。
【0029】
また、二元カルコゲニドナノ粒子は、代替ソルボサーマル法によって合成されてもよく、そこにおいて相当する金属塩がチオアセトアミド、チオ尿素、セレノアセトアミド、セレノ尿素または硫化物またはセレン化物イオンの他の供給源および有機安定剤(例えば、長鎖アルキルチオールまたは長鎖アルキルアミン)と一緒に150℃〜300℃の温度の適した溶剤中に分散される。反応は典型的に、150psig〜250psigの窒素の圧力において行なわれる。この合成経路のために適した金属塩には、Cu(I)、Cu(II)、Zn(II)、Sn(II)およびSn(IV)ハロゲン化物、酢酸塩、硝酸塩、および2,4−ペンタンジオネートなどが含まれる。
【0030】
3つの経路のいずれかから得られた生じた二元カルコゲニドナノ粒子は、有機安定剤でコートされ、それを二次イオン質量分析法および核磁気共鳴分光分析法によって測定することができる。得られたコートされた二元ナノ粒子の無機結晶核の構造をX線回折(XRD)および透過型電子顕微鏡法(TEM)技術によって測定することができる。
【0031】
コートされた三元カルコゲニドナノ粒子
2つの金属を含有するコートされた三元カルコゲニドナノ粒子、例えば、Cu2SnS3、Cu4SnS4、またはCu2SnSe3ナノ粒子は、相当する金属塩とカルコゲンとをアミンと第2の有機安定剤との存在下で150℃〜350℃の温度において反応させることによって調製されてもよい。適したアミンには、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、およびトリオクチルアミンなどが含まれる。
【0032】
あるいは、コートされた三元カルコゲニドナノ粒子は、ソルボサーマル法によって合成されてもよく、そこにおいて相当する金属塩が硫化物またはセレン化物イオンの供給源と長鎖アルキルチオールと一緒に150℃〜300℃の温度の適した溶剤中に分散される。硫化物イオンの適した供給源には、チオアセトアミド、チオ尿素、セレノアセトアミドおよびセレノ尿素などが含まれる。長鎖アルキルチオールには、1−ドデカンチオールおよび1−デカンチオールなどが含まれる。反応は典型的に、175psig〜275psigの窒素下で行なわれる。
【0033】
どれかの経路から得られた生じた三元カルコゲニドナノ粒子は、有機安定剤でコートされ、それを二次イオン質量分析法および核磁気共鳴分光分析法によって測定することができる。得られたコートされたナノ粒子の無機核の構造をX線回折(XRD)分光分析法およびトンネル電子顕微鏡法(TEM)技術によって測定することができる。
【0034】
安定剤の交換
CZTS/Se前駆体インクの形成前に、コートされた二元および三元カルコゲニドナノ粒子を代替安定剤でさらに処理して初期安定剤を代替安定剤で置き換えることができる。この交換は、代替安定剤の存在下で、初期に形成されたコートされたナノ粒子を液体媒体中に懸濁させ、分散体を加熱し、その後に、コートされたナノ粒子を冷却および単離することによって行なわれてもよい。得られたナノ粒子は、代替安定剤でコートされる。
【0035】
いくつかの実施態様において、初期安定剤はより低い分子量、より高い揮発性またはより低い分解温度の代替安定剤で置き換えられる。コートされたナノ粒子カルコゲニドの混合物のためのコーティングとしてこのような代替安定剤を使用することは、より高純度の、従ってより良い半導体性質のアニールされたCZTS/Seフィルムをもたらす場合がある。この安定剤から得られた、より低レベルの炭素不純物を有するCZTS/Seフィルムが望ましいと考えられる。適した代替安定剤には、ピリジン、ピロリドン、メチルピリジン、エチルピリジン、2−メルカプトピリジン、チオフェン−2−エチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンおよびt−ブチルピリジンなどが含まれる。
【0036】
CZTS/Se前駆体インクを含むコートされた基材
本発明の別の態様において、CZTS/Se前駆体インクは、いくつかの従来のコーティング技術、例えば、スピンコーティング、ドクターブレードコーティング、噴霧、浸漬コーティング、ロッドコーティング、ドロップキャストコーティング、湿潤コーティング、印刷、ローラーコーティング、スロットダイコーティング、メイヤーバーコーティング、キャピラリーコーティング、インクジェット印刷、またはドローダウンコーティングのいずれかによって基材の表面上に堆積される。液体媒体を空気中または真空中で乾燥によって除去して、コートされた基材を形成することができる。乾燥工程は別個の異なった工程であってもよく、もしくは基材と前駆体インクとがアニーリング工程において加熱される時に存在してもよい。
【0037】
適した基材材料には、ガラス、金属またはポリマー基材などが含まれる。基材は硬質または可撓性であってもよい。特に重要であるのは、モリブデンがコートされたソーダ石灰ガラス、モリブデンがコートされたポリイミドフィルム、またはナトリウム化合物(例えば、NaF、Na2S、またはNa2Se)の薄い層を有するモリブデンがコートされたポリイミドフィルムの基材である。他の適した基材には、ソーラーガラス、低鉄ガラス、グリーンガラス、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、セラミック、金属化セラミック板、金属化ポリマー板、および金属化ガラス板などが含まれる。
【0038】
CZTS/Seフィルムの形成
本発明の別の態様において、コートされた基材を400℃〜800℃、または500℃〜575℃に加熱して、アニールされたCZTS/Se薄フィルムを基材上に得る。アニーリング工程は、CZTS/Se前駆体インク中に存在する一切の水および/または有機種の実質的に全てを除去するために役立つ。また、アニーリング工程は、コートされた二元および三元カルコゲニドナノ粒子の固相反応によってCZTS/Se薄フィルムの形成を促進する。
【0039】
アニーリング工程には、熱処理、パルス化熱処理、レーザービーム露光、赤外線ランプによる加熱、電子ビーム露光、およびそれらの組合せなどが挙げられる。
【0040】
アニール温度は、特定のプラトー温度に維持されずに温度範囲内で変動するように調整されうる。この技術は時々、「急速熱アニーリング」または「RTA」と称される。
【0041】
1つの実施態様において、フィルムは、硫黄リッチ環境、例えば、硫黄/N2環境内でアニールされる。例えば、アニーリングが管状炉内で行なわれる場合、窒素をキャリヤーガスとして使用し、硫黄の上を流れさせて硫黄リッチ雰囲気を作り出すことができる。1つの実施態様において、フィルムはセレンリッチ環境内、例えば、Se/N2環境内でアニールされる。例えば、アニーリングが管状炉内で行なわれる場合、窒素をキャリヤーガスとして使用し、セレンの上を流れさせてセレンリッチ雰囲気を作り出すことができる。別の実施態様において、フィルムは、硫化水素(H2S)リッチ雰囲気中でアニールされる。例えば、H2Sおよび窒素を1:9の体積比で混合してH2Sリッチ雰囲気を作り出すことができる。
【0042】
1つの実施態様において、CZTS/Se前駆体インクによるコーティングとアニーリングとの複数のサイクルを実施して、より厚いCZTS/Se層を基材上に形成する。
【0043】
液体媒体および他の有機材料は処理の間に除去されたので、アニールされたフィルムは典型的に、湿潤前駆体層の密度および/または厚さに対して増加した密度および/または低減した厚さを有する。1つの実施態様において、フィルムは、約0.5ミクロン〜約5ミクロン、または約1.5ミクロン〜約2.25ミクロンの厚さである。
【0044】
薄フィルム光電池の作製
本発明の別の態様は、薄フィルム光電池を製造するための方法を提供する。
【0045】
典型的な光電池は、基材(例えば、ソーダ石灰ガラス)と、裏接触層(例えば、モリブデン)と、吸収剤層(第1の半導体層とも称される)と、緩衝層(第2の半導体層とも称され、典型的に、CdS、Zn(S、O、OH)、硫化亜鉛カドミウム、In(OH)3、In23、ZnSe、セレン化インジウム亜鉛、セレン化インジウム、酸化マグネシウム亜鉛、またはSnO2から選択される)と、上部接触層(例えば、アルミニウムをドープされた酸化亜鉛)とを備える。また、光電池は、上部接触層上の電気的接触部または電極パッドと、半導体層への光の伝送を強化するための基材の表側(光に向いている)の表面上の反射防止(AR)コーティングとを備えることができる。
【0046】
本発明の1つの態様は、
a)i)液体媒体と、
ii)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
iii)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
iv)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含む組成物であって、
カルコゲニドが硫化物またはセレン化物であり、Cu:Zn:Sn:S/Seのモル比が、コートされた基材を形成するために約2:1:1:4である組成物で光電池基材をコートする工程と、
b)コートされた光電池基材を400℃〜800℃の温度において加熱して、アニールされたCZTS/Se薄フィルムを光電池基材上に形成する工程と、
c)任意選択により工程a)およびb)を繰り返して所望の厚さのCZTS/Seフィルムを形成する工程と、
d)緩衝層をCZTS/Se層上に堆積させる工程と、
e)上部接触層を緩衝層上に堆積させる工程とを含む、光電池を形成するための方法を提供する。
【0047】
光電池基材のために適した基材材料には、ガラス、金属、およびポリマーなどが含まれる。基材は硬質または可撓性でありうる。基材材料がガラスまたはプラスチックである場合、基材はさらに、金属コーティングまたは金属層を含む。適した基材材料には、ソーダ石灰ガラス、ポリイミドフィルム、ソーラーガラス、低鉄ガラス、グリーンガラス、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、およびセラミックなどが含まれる。適した光電池基材には、モリブデンがコートされたソーダ石灰ガラス、モリブデンがコートされたポリイミドフィルム、ナトリウム化合物(例えば、NaF、Na2S、またはNa2Se)の薄い層を有するモリブデンがコートされたポリイミドフィルム、金属化セラミック板、金属化ポリマー板、および金属化ガラス板などが含まれる。また、光電池基材は、基材材料と金属層との間の接着性を促進するための界面層を含むことができる。適した界面層は、金属(例えば、V、W、Cr)、ガラス、または窒化物、酸化物、および/または炭化物の化合物を含むことができる。
【0048】
典型的な光電池基材は、一方の面に導電材料、例えば、金属をコートされたガラスまたはプラスチックである。1つの実施態様において、基材はモリブデンがコートされたガラスである。
【0049】
CZTS/Se層を光電池基材上に堆積およびアニールする工程を上に記載されたように実施することができる。
【0050】
緩衝層は典型的に、CdS、ZnS、水酸化亜鉛、Zn(S、O、OH)、硫化亜鉛カドミウム、In(OH)3、In23、ZnSe、セレン化インジウム亜鉛、セレン化インジウム、酸化マグネシウム亜鉛、またはn型有機材料、もしくはそれらの組合せなどの無機材料を含む。これらの材料の層は化学浴堆積、原子層堆積、同時蒸発、スパッタリングまたは化学表面蒸着によって約2nm〜約1000nm、または約5nm〜約500nm、または約10nm〜約300nm、または40nm〜100nm、または50nm〜80nmの厚さに堆積されてもよい。
【0051】
上部接触層は典型的に、透明な導電性酸化物、例えば、酸化亜鉛、アルミニウムドープト酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、またはスズ酸カドミウムである。適した堆積技術には、スパッタリング、蒸発、化学浴堆積、電気めっき、化学蒸着、物理蒸着、および原子層堆積などが含まれる。あるいは、上部接触層は、透明な導電性ポリマー層、例えば、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)をドープされたポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含むことができ、それはスピンコーティング、浸漬コーティングまたは噴霧コーティングなどの標準的な方法によって堆積されてもよい。いくつかの実施態様において、PEDOTを処理して酸性成分を除去し、光電池の成分の酸による劣化を低減する。
【0052】
1つの実施態様において、CZTS/Seフィルムをコートされた光電池基材を硫化カドミウム槽内に置き、CdSの層を堆積させる。あるいは、CdSは、CZTS/Seがコートされた基材をチオ尿素を含有するヨウ化カドミウム槽内に置くことによってCZTS/Seフィルム上に堆積されてもよい。
【0053】
1つの実施態様において、CdSの代わりに絶縁酸化亜鉛のスパッタされた層を用いて光電池が製造される。いくつかの実施態様において、CdSおよびZnO層の両方が光電池内に存在している。他の実施形態において、CdSおよびZnOの1つだけが存在している。
【0054】
いくつかの実施態様において、ナトリウム化合物(例えば、NaF、Na2S、またはNa2Se)の層がCZTS/Se層の上および/または下に形成される。ナトリウム化合物の層は、スパッタリング、蒸発、化学浴堆積、電気めっき、ゾル−ゲルベースのコーティング、噴霧コーティング、化学蒸着、物理蒸着、または原子層堆積によって適用されてもよい。
【0055】
コートされたナノ粒子カルコゲニドの混合物を用いて前駆体インクを形成する1つの利点は、コートされたナノ粒子カルコゲニドが容易に調製されるということである。別の利点は、混合物が、粒子を沈降または凝集させずに長期間にわたって貯蔵されうる安定した分散体を形成するということである。別の利点は、前駆体インク中の銅、亜鉛、スズおよびカルコゲニドの全体比率を変えるのが容易で、光電池の最適な性能を達成することができるということである。別の利点は、ナノ粒子混合物が、より大きい粒子の混合物よりも低い温度でアニールされてもよく、光電池のためにより広範囲の基材の使用を可能にするということである。別の利点は、ナノ粒子の高密度充填が、より大きい粒子によって達成するのが難しい高密度で平滑なフィルムをもたらすということである。
【実施例】
【0056】
概要
全ての金属塩および試薬は商業供給元から得られ、特に記載しない限り、受入れたままで使用された。
【0057】
「ポリビニルピロリドンK30」は40,000の平均分子量を有するポリビニルピロリドンであり、Fluka Chemical Corp.(Milwaukee,WI)から入手された。
【0058】
上述の方法によって作製されたCu2ZnSnS4(CZTS)フィルムに基づいたこれらの薄フィルム太陽電池の性能は、Newport Corporation (Irvine,CA)製のOriel 太陽シミュレーターおよびAgilent Technologies (Santa Clara,CA)製のE5270ソース測定装置を用いて模擬太陽照射下で試験された。
【0059】
実施例1
この実施例は、コートされたZnSナノ粒子を合成するための方法を説明する。
【0060】
10mLのオレイルアミン中のZnCl2(0.2726g、2mmol)およびトリオクチルホスフィンオキシド(2.3g、5.95mmol)の溶液を窒素雰囲気下で170℃において、連続的に機械的攪拌しながら1時間加熱した。反応混合物を室温に冷却し、その後に、2.5mLのオレイルアミン中に溶解された硫黄(0.1924g、6mmol)を速やかに添加した。反応混合物を加熱し、1時間320℃に維持した。反応混合物を冷却し、次いでエタノール(15mL)を添加して、コートされたZnSナノ粒子を沈殿させ、それらを遠心分離によって集めた。このように得られたナノ粒子を数サイクルのエタノール中の再懸濁と遠心分離とによって洗浄した。ZnS閃亜鉛鉱構造をXRDによって定量した。粒子の形状およびサイズをSEMによって定量した。
【0061】
実施例2
この実施例は、コートされたCu2Sナノ粒子を合成するためのソルボサーマル法を説明する。
【0062】
20mLの水中の硝酸銅(Cu(NO32・2.5H2O、0.2299g、1mmol)、酢酸ナトリウム(0.8203g、10mmol)、および氷酢酸(0.6mL)の溶液を、400mLのガラスラインドHastelloy C振とう管内で室温において1−ドデカンチオール(3mL)と混合した。反応混合物を200℃において250psigの窒素下で6時間加熱した。反応混合物を冷却し、管の底部の無色の水性相を廃棄した。エタノール(20mL)を暗褐色の油相に添加して、コートされたナノ粒子を沈殿させ、それらを遠心分離によって集めた。XRDおよびTEMを用いて、得られたナノ粒子の構造を確認した。コートされたCu2Sナノ粒子は、10〜15nmの平均直径を有する略球形であった。
【0063】
実施例3
この実施例は、コートされたCuSナノ粒子を合成するための代替方法を説明する。
【0064】
10mLのオレイルアミン中の塩化銅(0.2689g、2mmol)およびトリオクチルホスフィンオキシド(2.3g、5.95mmol)の溶液を窒素雰囲気下で170℃において、連続的に機械的攪拌しながら1時間加熱し、その後に、2.5mLのオレイルアミン中に溶解された硫黄(0.0704g、2.2mmol)を速やかに添加した。反応混合物を水およびアセトン/ドライアイス槽中で急冷する前に30分間170℃に維持した。最初に反応器を室温の水槽に浸し、次にアセトン−ドライアイス槽(−78℃)に浸した。エタノール(80mL)を添加して、コートされたナノ粒子を沈殿させ、それらを遠心分離によって集めた。ナノ粒子を数サイクルのエタノール中の再懸濁と遠心分離とによって洗浄した。CuS銅藍構造をXRDによって定量した。
【0065】
実施例4
この実施例は、コートされたSnSナノ粒子を合成するための方法を説明する。
【0066】
40mLのオレイルアミン中の塩化スズ(2.605g、10mmol)およびトリオクチルホスフィンオキシド(11.6g、30mmol)の溶液を窒素雰囲気下で210℃において、連続的に機械的攪拌しながら15分間加熱し、その後に、10mLのオレイルアミン中に溶解された硫黄(0.3840g、12mmol)を速やかに添加した。反応混合物を210℃に20分間維持した。次いで反応温度を250℃に上げ、20分間維持した。反応混合物を室温の水槽中で冷却した。混合されたヘキサンおよびエタノール(1:7ヘキサン:エタノール)を反応混合物に添加して、ナノ粒子を沈殿させ、それらを洗浄した。XRD分析は、SnSが主生成物であることを示した。また、少量のSnS2が存在していた。
【0067】
実施例5
この実施例は、コートされたCu2SnS3ナノ粒子を合成するための共沈殿方法を説明する。
【0068】
10mLのオレイルアミン中のCuCl(0.1980g、2mmol)、SnCl4(0.2605g、1mmol)、およびトリオクチルホスフィンオキシド(2.3g、5.95mmol)の溶液を窒素雰囲気下で240℃において、連続的に機械的攪拌しながら15分間加熱し、その後に、3mLのオレイルアミン中に溶解された硫黄(0.0960g、3mmol)を添加した。反応混合物を240℃において20分間攪拌した。反応混合物を速やかに冷却するために、最初に反応器を室温の水槽に浸し、次にアセトン−ドライアイス槽(−78℃)に浸して固体生成物を得た。固体をヘキサン中に溶解し、エタノール中に沈殿させた。沈殿された固体を遠心分離を用いて集めた。ヘキサン中への溶解、エタノールによる沈殿および遠心分離のプロセスを2回繰り返した。Cu2SnS3構造をXRDによって定量した。粒子の形状およびサイズをSEMおよびTEMを用いて定量した。
【0069】
実施例6
この実施例は、コートされたCu2SnS3ナノ粒子を合成するためのソルボサーマル法を説明する。
【0070】
N,N−ジメチルホルムアミド(45mL)中の塩化銅2水和物(CuCl2・2H2O、0.3466g、2mmol)、塩化スズ5水和物(SnCl4・5H2O、0.3564g、1mmol)、およびチオアセトアミド(0.2291g、3mmol)の溶液に、1−ドデカンチオール(3mL)を添加した。反応混合物を室温において30分間激しく攪拌し、次にガラスラインドHastelloy C振とう管内に移した。反応混合物を250psigの窒素下で12時間180℃に加熱した。黒色の生成物を濾過によって集め、クロロホルム中に溶解した。Cu2SnS3ナノ粒子をメタノールで溶液から沈殿させた。Cu2SnS3構造をXRDによって定量した。
【0071】
実施例7
この実施例は、コートされたナノ粒子の安定剤をt−ブチルピリジンと交換するための方法を説明する。
【0072】
実施例1から得られたコートされたナノ粒子をt−ブチルピリジン中に懸濁し、4時間120℃に加熱した。懸濁液を冷却して、一晩室温において攪拌し、その後に、遠心分離を行なった。得られたペレットをt−ブチルピリジンと混合し、4時間120℃に加熱した。次に、分散体を冷却し、一晩室温において攪拌した。得られた溶液を0.2ミクロンのシリンジフィルターに通し、濾液を真空炉内で乾燥させた。乾燥された固体を集め、ヘキサンで洗浄し、次に真空デシケーター内で乾燥させてt−ブチル−ピリジンがコートされたナノ粒子を得た。
【0073】
この手順を実施例2〜6から得られたコートされたナノ粒子生成物の各々について繰り返した。
【0074】
実施例8
この実施例は、コートされたナノ粒子の安定剤をピリジンと交換するための方法を説明する。
【0075】
実施例1から得られたコートされたナノ粒子(1g)を20mLのピリジン中に懸濁し、ピリジン中で7時間還流した。次に、懸濁液を室温に冷却した。ヘキサン(80mL)を添加して、ピリジンがコートされたナノ粒子を沈殿させ、次に、それらを遠心分離および上澄み液の傾瀉によって集めた。
【0076】
手順を実施例2〜6から得られたコートされたナノ粒子生成物の各々について繰り返した。
【0077】
実施例9〜13
実施例9〜13は、コートされたCu2SnS3およびコートされたZnSナノ粒子を用いてCZTS前駆体インクを調製することを説明する。
【0078】
実施例9
CZTS前駆体インクを調製するために、コートされたCu2SnS3ナノ粒子およびコートされたZnSナノ粒子を1:1.4のモル比においてトルエン中に分散させた。1125mgのトルエン中のCu2SnS3(実施例5から得られたままで、268mg)およびZnS(実施例1から得られたままで、107mg)の分散体を30分間にわたって超音波処理してCZTS前駆体インクを提供した。
【0079】
実施例10
40mLのクロロホルム中のコートされたCu2SnS3ナノ粒子(実施例5から得られたままで、0.4g)の超音波処理された溶液を0.45ミクロンフィルターを通して濾過し、凝集体および他の大きな粒子を除去した。濾液の一部(1mL、濾液A)を乾燥させて、濾液中のコートされたCu2SnS3ナノ粒子の濃度を定量した。
【0080】
20mLのクロロホルム中のコートされたZnSナノ粒子(実施例1から得られたままで、0.2g)の超音波処理された溶液を0.2ミクロンフィルターを通して濾過した。濾液の一部(1mL、濾液B)を乾燥させて、濾液中のコートされたZnSナノ粒子の濃度を定量した。
【0081】
【表1】

【0082】
濾液A(35mL)を濾液B(7.3mL)と混合して、Cu2SnS3:ZnSの1:1モル比を有するCZTS前駆体インクを得た。
【0083】
実施例11
この実施例は、添加されたポリビニルピロリドンK30を使用するCZTS前駆体インクの調製を説明する。
【0084】
ポリビニルピロリドンK30(1g)をクロロホルム(99g)中に溶解して1重量%の原液を製造した。コートされたCu2SnS3ナノ粒子(実施例5において調製されたままで、0.3g)およびコートされたZnSナノ粒子(実施例1において調製されたままで、0.09g)をクロロホルム中のポリビニルピロリドンK30の原液1.54gに懸濁して、1:1モル比のCu2SnS3およびZnSの分散体を提供した。分散体を、コーティング基材のために使用する前に10分間にわたって超音波処理した。
【0085】
実施例12
この実施例は、コートされたCuS、ZnSおよびSnSナノ粒子を使用するCZTS前駆体インクの調製を説明する。
【0086】
2:1:1のモル比のCuS:ZnS:SnSの0.33%(重量による)溶液を製造するために、コートされたCuSナノ粒子(実施例3から得られたままで、12.8mg)、コートされたZnSナノ粒子(実施例1から得られたままで、6.5mg)、およびコートされたSnSナノ粒子(実施例4から得られたままで、10.1mg)を6mLのクロロホルム中に分散させた。分散体を超音波処理して(10分間、氷浴)CZTS前駆体インクを得た。
【0087】
実施例13
実施例8において説明されたように調製されたコートされたCu2SnS3およびZnSナノ粒子を1:1.4のモル比において混合する。ピリジン(900mg)を100mgのこのナノ粒子混合物に添加する。10分間にわたって超音波処理した後、ピリジン中に分散されたCu2SnS3およびZnSナノ粒子を含有するインクが形成される。
【0088】
実施例14〜19
実施例14〜18は、CZTS前駆体フィルムの調製を説明する。
【0089】
実施例14
この実施例は、CZTS前駆体インクを基材上に堆積させるための噴霧コーティングおよびCZTSフィルムを形成するためのアニーリング工程の使用を説明する。
【0090】
実施例10から得られた前駆体インクを超音波噴霧ノズル(Sono−Tek Corporation(Milton,New York)製のIMPACT48)および表2に示された噴霧コーティングのプロファイルを用いて、予め清浄化された、モリブデンがコートされたソーダ石灰ガラス基材上に噴霧した。各々のコートは、2400mm/sの速度で移動する20回の工程から成った。合計45のコートを適用した。3のコートごとに、コートされた基材を550℃において1分間アニールした。最終アニーリング工程を550℃において10分間実施した。
【0091】
最終フィルムの厚さは、プロフィルメーターを用いて測定した時に2830nmであった。
【0092】
【表2】

【0093】
実施例15
この実施例は、スピンコーティングを使用してCZTS前駆体インクを基材上に堆積させることを説明する。
【0094】
実施例9から得られたCZTS前駆体インクをモリブデンがコートされたガラス基材上にスピンコートした。基材が200rpmにおいてスピンされている間にインクを基材に適用し、次いでスピニングを40秒間400rpmにおいて継続した。次に、コートされた基材を軽い焼成(5分、75℃)のためにホットプレート上に置いた。
【0095】
実施例16
この実施例は、ロッドコーティングを使用してCZTS前駆体インクを基材上に堆積させることを説明する。
【0096】
実施例11から得られたCZTS前駆体インクをメイヤー・ロッドでガラス基材上にコートした。余分のインクを基材上に堆積させた。メイヤー・ロッドを基材の上で通過させ、インクの均一な厚さの層を基材上に残した。コートされた基材を空気中で乾燥させることによって溶剤を除去した。
【0097】
いくつかの場合、モリブデンがコートされたガラス基材をガラス基材の代わりに使用した。
【0098】
実施例17
この実施例は、滴下コーティングを使用してCZTS前駆体インクを基材上に堆積させることを説明する。
【0099】
実施例11から得られたCZTS前駆体インクをガラス基材上に滴下し、空気中で乾燥させて、コートされた基材をもたらした。
【0100】
いくつかの場合、モリブデンがコートされたガラス基材をガラス基材の代わりに使用した。
【0101】
実施例18
この実施例は、滴下コーティングを使用して、CuS、ZnSおよびSnSのコートされたナノ粒子を含有するCZTS前駆体インクを基材上に堆積させることを説明する。
【0102】
実施例12から得られたCZTS前駆体インクをガラス基材上に滴下し、空気中で乾燥させて、コートされた基材をもたらした。
【0103】
いくつかの場合、モリブデンがコートされたガラス基材をガラス基材の代わりに使用した。
【0104】
実施例19
この実施例は、滴下コーティングを使用して、ピリジン安定化Cu2SnS3およびZnSナノ粒子を含有するCZTS前駆体インクを基材上に堆積させることを説明する。
【0105】
実施例13に記載されたCZTS前駆体インクをガラス基材またはモリブデンがコートされたガラス基材上に滴下し、空気乾燥させる。
【0106】
実施例20〜25
実施例20〜25は、CZTSフィルムを形成するためのアニール法を説明する。
【0107】
実施例20
実施例15において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を500℃の管状炉内で2時間にわたって硫黄/N2雰囲気中でアニールした。アニールする間、管状炉のN2ガス入口近くに元素硫黄を有することによって硫黄/N2雰囲気を生じさせた。アニーリング工程の後に得られたXRD結果は、Cu2SnS3およびZnS前駆体をCZTSに変換した。加熱後に得られたXRDデータを図1に示す。
【0108】
実施例21
実施例17において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を500℃の管状炉内で30分間にわたって硫黄/N2雰囲気下でアニールした。
【0109】
実施例22
実施例18において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を700℃において30分間にわたって硫黄/N2雰囲気下でアニールした。XRDデータは、アニールした後にCZTSの形成を示した。
【0110】
実施例23
この実施例は、セレンリッチ雰囲気中でのCZTS/Seフィルムの形成を説明する。
【0111】
実施例15において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を500℃において30分間にわたってセレン/N2雰囲気下でアニールした。雰囲気は、炉管内の閉じられるが封止されていない容器内に元素セレンと試料とを有すると同時に炉管を通して一定の窒素流を有することによって達成された。
【0112】
実施例24
実施例15において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を500℃において30分間にわたってH2S/N2雰囲気下でアニールする。H2S/N2雰囲気は、H2SおよびN2ガスの混合物を管状炉に通して流すことによって達成された。
【0113】
実施例25
実施例19において説明された方法によって得られた、CZTS前駆体がコートされた基材を500℃の管状炉内で2時間にわたって硫黄/N2雰囲気中でアニールした。
【0114】
実施例26〜28
実施例26〜28は、CZTS前駆体インクから得られた吸収剤層を導入する光電池の作製を説明する。
【0115】
概要
150WのDC出力、20sccmのアルゴンおよび5mTの圧力の堆積条件下でデントロン・スパッタリング・システムを用いてソーダ石灰ガラスを500nmのモリブデンでコートすることによって光電池のための基材を作製した。
【0116】
これらの光電池基材を使用してCZTS前駆体インクを堆積させ、次いでそれらをアニールしてCZTSフィルムを形成した。CdSを(以下の実施例26〜28に説明された)CZTSフィルム上に堆積させ、その後に、50nmの絶縁ZnO(150WRF、5mTorr、20sccm)および500nmのAlドープトZnO構造を有する透明な導体を堆積させた。2%のAl23、98%のZnOターゲット(75WRF、10mTorr、20sccm)を使用してAlドープトZnOをスパッタ堆積させた。
【0117】
実施例26
p型CZTSフィルムを実施例14に記載された方法によって光電池基材上に形成した。次に、光電池をCdS槽上に置き、50nmのn型CdSをCZTSフィルムの上に堆積させた。
【0118】
CdS槽溶液を調製するために、水(28.92mL)、28%の水酸化アンモニウム(5.15mL)、0.015モル/L硫酸カドミウム溶液(3.95mL)、および1.5モル/Lのチオ尿素(1.98mL)を混合した。CZTSがコートされた光電池基材を槽溶液に浸し、水が加熱された容器内で温度を室温から65℃に上昇させた。11分後、試料を取り出し、脱イオン水で1時間洗浄し、次に200℃において15分間乾燥させた。
【0119】
CdSおよび透明な導体の堆積後、完成デバイスの性能を1太陽照射下で試験した。得られたJ−V曲線を図2に示す。
【0120】
実施例27
p型CZTSフィルムを実施例14に記載された方法によって光電池基材上に形成した。次に、光電池をCdS槽上に置き、50nmのn型CdSをCZTSフィルムの上に堆積させた。
【0121】
CdS槽溶液を調製するために、ヨウ化カドミウム(0.2747g)および濃縮アンモニア水(49mL)を65℃の予備加熱された水(191mL)にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ビーカー内で混合した。CZTSフィルムがコートされた光電池基材をヨウ化カドミウム溶液を保有するPTFEビーカー内に置いた。10mLの水中のチオ尿素(5.7090g)の溶液を基材を保有するPTFEビーカーに添加して、CdSを5分間堆積させた。コートされた基材を槽から取り出し、水で洗浄し、次に、1時間18.2MΩの水中に浸漬した。次に、基材を2分間250℃においてアニールし、一晩、真空乾燥器内に放置した。
【0122】
完成デバイスの性能を1太陽照射下で試験し、得られたJ−V曲線を図3に示す。
【0123】
実施例28
p型CZTSフィルムを実施例20に記載された方法によって光電池基材上に形成した。次に、試料をCdS槽上に置き、50nmのn型CdSをCZTSフィルムの上に堆積させた。
【0124】
CdS槽前駆体溶液を調製するために、34.846mLのH2O、12.4mgのCdSO4、225.6mgのチオ尿素、および5.15mLの28% NH4OHを混合した。温度を室温から65℃に上昇させた。9分間の堆積後、基材を槽から取り出し、水で洗浄し、次に、1時間18.2MΩの水中に浸漬した。次に、コートされた基材を2分間250℃においてアニールした。
【0125】
次に、透明な導電層をCdS層上に堆積させ、完成デバイスの性能を1太陽照射下で試験した。得られたJ−V曲線を図4に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)液体媒体と、
b)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
c)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
d)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含む組成物であって、
前記カルコゲニドが硫化物またはセレン化物であり、前記組成物のCu:Zn:Sn:(S+Se)のモル比が約2:1:1:4である、組成物。
【請求項2】
前記銅含有カルコゲニドが、Cu2S、CuS、Cu2Se、CuSe、Cu2SnS3、Cu4SnS4、およびCu2SnSe3からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スズ含有カルコゲニドが、SnS2、SnS、SnSe、SnSe2、Cu2SnS3、Cu4SnS4、およびCu2SnSe3からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記亜鉛含有カルコゲニドが、ZnSまたはZnSeである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子が、アルキルアミン、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィン、アルキルホスホン酸、ポリビニルピロリドン、ポリカルボキシレート、ポリホスフェート、ポリアミン、ピリジン、アルキルピリジン、システインおよび/またはヒスチジン残基を含むペプチド、エタノールアミン、シトレート、チオグリコール酸、オレイン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される有機安定剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子が、アルキルアミン、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィン、アルキルホスホン酸、ポリビニルピロリドン、ポリカルボキシレート、ポリホスフェート、ポリアミン、ピリジン、アルキルピリジン、システインおよび/またはヒスチジン残基を含むペプチド、エタノールアミン、シトレート、チオグリコール酸、オレイン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される有機安定剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子が、アルキルアミン、アルキルチオール、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィン、アルキルホスホン酸、ポリビニルピロリドン、ポリカルボキシレート、ポリホスフェート、ポリアミン、ピリジン、アルキルピリジン、システインおよび/またはヒスチジン残基を含むペプチド、エタノールアミン、シトレート、チオグリコール酸、オレイン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される有機安定剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記液体媒体が、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ピリジン、ヘキサン、へプタン、オクタン、アセトン、2−ブタノン、メチルエチルケトン、水、およびアルコールからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
添加剤を組成物の全重量に基づいて1重量%までさらに含み、前記添加物がナトリウム塩、元素硫黄または元素セレンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
a)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
b)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
c)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含む混合物を液体媒体中に分散させる工程を含む方法であって、前記カルコゲニドが硫化物またはセレン化物であり、組成物のCu:Zn:Sn:(S+Se)のモル比が約2:1:1:4である、方法。
【請求項11】
前記液体媒体が、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ピリジン、ヘキサン、へプタン、オクタン、アセトン、2−ブタノン、メチルエチルケトン、水、およびアルコールからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分散体を基材上に堆積させる工程を含む方法であって、前記分散体が、
a)液体媒体と、
b)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
c)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
d)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含み、前記カルコゲニドが硫化物またはセレン化物であり、組成物のCu:Zn:Sn:(S+Se)のモル比が約2:1:1:4である、方法。
【請求項13】
前記液体媒体が、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ピリジン、ヘキサン、へプタン、オクタン、アセトン、2−ブタノン、メチルエチルケトン、水、およびアルコールからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基材が、ガラス、金属、またはポリマー基材、モリブデンがコートされたソーダ石灰ガラス、モリブデンがコートされたポリイミドフィルム、およびナトリウム化合物の層をさらに含むモリブデンがコートされたポリイミドフィルムからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記液体媒体を除去して、コートされた基材を形成する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記カルコゲニドが硫化物であり、前記方法が、前記コートされた基材を加熱してCZTSフィルムを前記基材上に形成する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記カルコゲニドがセレン化物であり、前記方法が、前記コートされた基材を加熱してCZTSeフィルムを前記基材上に形成する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記カルコゲニドが硫化物とセレン化物との混合物であり、前記方法が、前記コートされた基材を加熱してCZTS/Seフィルムを前記基材上に形成する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
a)光電池基材を組成物でコートする工程であって、前記組成物が、
i)液体媒体と、
ii)コートされた銅含有カルコゲニドナノ粒子と、
iii)コートされたスズ含有カルコゲニドナノ粒子と、
iv)コートされた亜鉛含有カルコゲニドナノ粒子とを含み、
前記カルコゲニドが硫化物またはセレン化物であり、前記組成物のCu:Zn:Sn:(S+Se)のモル比が、コートされた基材を形成するために約2:1:1:4である工程と、
b)前記コートされた光電池基材を400℃〜600℃の温度において加熱して、アニールされたCZTS/Se薄フィルムを前記光電池基材上に形成する工程と、
c)任意選択により工程a)およびb)を繰り返して所望の厚さのCZTS/Seフィルムを形成する工程と、
d)緩衝層を前記CZTS/Se層上に堆積させる工程と、
e)上部接触層を前記緩衝層上に堆積させる工程とを含む、光電池を形成するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−512306(P2013−512306A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541070(P2012−541070)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035792
【国際公開番号】WO2011/065994
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】