説明

Co,Ni,Mn含有電池滓からの貴金属回収方法

【課題】 リチウム電池滓から三元系Li金属塩からMn、Co及びNi等の金属有価金属を回収する。
【解決手段】 ほぼ等量のCo,Ni及びMnを含有するリチウム酸金属塩を含有するリチウム電池滓を、250g/l以上の塩酸濃度を有する希釈塩酸で攪拌浸出、または、200g/l以上の硫酸濃度を有する希釈硫酸で65〜80℃に加熱しながら攪拌浸出により処理し、浸出液につきMn及びCoの2種の金属のほぼ100%を酸性抽出剤で溶媒抽出し、それぞれの金属を含有する溶液を生成し、これらの溶液から当該金属を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co,Ni,Mn含有リチウム電池滓からの貴金属回収方法に関するものである。Co,Ni,Mn含有リチウム電池滓とは、三元系Li金属塩と炭素、N-メチル−2−ピロリドン、ポリビニルアルコールなどの溶媒からなるスラリー状物質であり、リチウム二次電池製造工程で発生する滓である。これらの電池滓中貴金属を含有する金属酸リチウムの処理は貴金属回収の観点から重要である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1:特開平6−251805号公報は、その出願時の平成5年にはリチウム二次電池はまだ開発されていなかったが、開発に先立ってリチウム二次電池のリサイクルを準備したものである。この方法では、使用済みリチウム電池をウォータージェットで切断し、濾過により液体から分離された固体を、セパレータ、集電体及び正極材に選別する。これらは溶融又は粉砕を行い材料によっては再利用することができると説明している。なお、正極材として使用される金属酸化物の金属としては、Ni,Co,Ti,Fe,V,Mn,Mo.Cr,Wなど多種の金属が列挙されているが、これらの金属が全部使用されているのではなく、現在最も一般的金属はCoである。
【0003】
特許文献2:特開2006―331707号公報は、多くの段階からなるリチウム電池リサイクル法を提案しており、正極物質回収前後の段階では、捲回体、正極、負極及びセパレータを機械的に分離し、正極を硝酸水溶液に浸漬して正極基材(アルミニウム)と正極活物質を分離し、正極活物質を塩酸溶液に浸漬して溶解させ、溶液をろ過することによりLi,Niなどの金属イオン混合溶液を得る。ついでこの混合溶液から、イオン交換、電気分解、沈澱分離などの手法を用いて、それぞれの金属を回収する。
【0004】
特許文献3:特許第3450684号公報は、リチウム二次電池が各種電子機器に搭載されるようになっていた平成9年の出願であり、使用済みリチウム電池の正極活物質からMo, Co, Ni, Snなどを回収する方法を提案している。具体的には使用済みリチウム電池を解体せずに鉄ケースとともに焙焼し、焙焼物に粉砕;1次磁選;及び非磁性物について2次磁選を施している。
【0005】
最近、ほぼ等量のCo,Ni及びMnを含有するリチウム酸金属塩を正極活物質として使用する技術開発が行われている。例えば、特許文献4:特開2007−48692号公報は、二酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル及び炭酸リチウムを、Ni:Mn:Co比が 1:1:1となり、 Li:(Ni,Mn,Co)比が1.06:1となるように、秤量し、これらの化合物をポリビニルアルコール溶液と混合し、その後、造粒、乾燥、焼成する。この焼成三元系金属Li複酸化物を結着剤及び溶媒と混合してスラリー状正極活物質を調製している。
【0006】
ニッケル―水素化物電池の正極活物質はオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)であり、リチウム電池の正極活物質であるリチウム酸金属ではない。かかるニッケル―水素化物電池からの金属の回収法に関して、特許文献5:特表平10−510878号公報は次の方法を提案している。即ち、(1)廃電池をシュレッダーで破砕する;(2)得られたスクラップを磁選することによりFe,Niを分離する;(3)非磁性材料を硫酸で溶解する;(4)pH調整によりFeを分離する;(5)ろ過によりFeを分離したろ液を有機溶媒抽出することにより、Zn,Cd,Mn,Alを抽出する。
【特許文献1】特開平6−251805号公報
【特許文献2】特開2006−331707号公報
【特許文献3】特許第3450684号公報
【特許文献4】特開2007−48692号公報
【特許文献5】特表平10−510878号公報
【非特許文献1】「資源と素材」、1997,12, Vol.113,リサイクリング大特集号,第941頁
【非特許文献2】講座・現代の金属学、精錬編2、非鉄金属製錬、昭和57年7月10日金属学会出版、第240〜241頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池のリサイクルには、特許文献3及び5のように電池をそのままリサイクルする方法と、特許文献1及び2が提案するように電池を各構成部材もしくは材料に分解して回収する方法がある。本発明は、電池製造工程から発生するスラリー状電池滓のリサイクル法であり、これらのいずれにも属さない。
本発明は、リチウム電池の電池滓から三元系Li金属塩から有価金属を回収する方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、ほぼ等量のCo,Ni及びMnを含有するリチウム酸金属塩(以下「三元系Li金属塩」という)を含有する廃リチウム電池滓を、250g/l以上の濃度の塩酸溶液にて攪拌浸出、または、200g/l以上の濃度の硫酸溶液にて加熱攪拌浸出処理し、浸出液につきMn、Co及びNiのうちMn及びCoの2種の金属のほぼ100%を酸性抽出剤で溶媒抽出し、それぞれの金属を含有する溶液を生成し、これからの溶液から当該金属を回収することを特徴とするCo,Ni,Mn含有廃電池滓からの貴金属回収方法を提案するものである。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0009】
電池滓は、三元系Li金属塩と炭素、N-メチル−2−ピロリドン、ポリビニルアルコールなどの溶媒からなるスラリー状物質であり、リチウム二次電池製造工程上で発生する滓である。その金属組成は、10〜12質量%Co, 10〜12質量%Ni, 10〜12質量%Mnである。
【0010】
本発明者らは三元系Li金属塩の電池滓を次の条件で浸出し、その結果として硫酸や塩酸が三元系金属のすべての浸出に有効であることを確認した。
(イ)電池滓:段落番号0005で説明したもの; 200g。
(ロ)浸出液:表1に示す濃度の各種酸; 容量2000mL。
(ハ)浸出時間:4h〜8h
(ニ)温度:常温あるいは70〜80℃に加熱。
(ホ)攪拌:あり。
試験の結果を表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
三元系Li金属塩の浸出に関しては次のことが分かる。
(1)70〜80℃で加熱しながらの8時間攪拌浸出であれば、200g/l硫酸水溶液で
もCo,Ni,Mnともに100%の浸出が可能である。温度は80℃以上でも浸出は可能で
あるが、蒸発硫酸の浄化設備などが必要となる。さらに、300g/l硫酸水溶液で
あれば8時間の硫酸浸出を65〜75℃で行なうと同様の浸出率が達成可能である。
(2)攪拌のみの浸出では、250g/l以上の濃度の塩酸水溶液であれば浸出率はCo,Ni,Mnと
もに100%である。
【0013】
以上のとおり、200g/l以上の濃度の硫酸水溶液は加熱浸出を行うと、100%の浸出率を達成することができる。
次に、攪拌のみの浸出については、250g/l以上の濃度の塩酸水溶液であれば100%の浸出率を達成することができる。
なお、本発明において浸出率をほぼ100%としているのは、秤量の誤差を加味して規定しているのであり、通常月産で電池滓を100ton以上リサイクルする場合は±1%である。浸出の結果生成した浸出液は三元系金属イオンを含有しており、残渣は主として有機又は無機状態の炭素からなる。かかる炭素は硫酸や塩酸に対して難溶であり、固形物として残るが、炭素などは回収する価値がないため、浸出後の残渣は廃棄とする。
攪拌はスラリー状電池滓が、浸出液中に均一に分散するように、回転ブレードなどの任意の手段により行うことができる。
【0014】
浸出後液に含有されるCo,Ni,Mnを回収する上では、Mn,Coの二種の金属を溶媒抽出すると、Niが分離される。これらを溶媒抽出する抽出剤としては、例えば、非特許文献1:資源と素材、1997,12,Vol.113,「リサイクリング大特集号」、第941頁、表1にて公知の酸性抽出剤を使用することができる。
【0015】
Mn抽出剤としてLANXESS社製D2EHPAを、またCo抽出剤としては大八化学株式会社製PC-88Aを使用することが好ましい。D2EHPAはジー2−エチルヘキシル燐酸であり、非特許文献1にて公知のMn抽出剤である。PC-88Aは2−エチルヘキシル2−エチルヘキシルホスホネート系であり、その情報はhttp://www/daihachi-chem.co.jp/sehin/pdf/kinz.pdfにて入手できる。
【0016】
抽出後溶液からの金属回収法については、以下に記す、現に行われているかあるいは公知の湿式精錬工程の副原料として外販することが可能である。
Coについて:塩化Coの電解採取法。
Mnについて:硫酸Mnの電解採取法
Niについて:塩素浸出によるNi電解法。
【0017】
金属の回収の別法としては、溶媒抽出後に逆抽出した液である硫酸酸性溶液を中和することにより金属塩を沈殿させ、濾過により固形分として金属塩を回収する方法を採用することができる。続いて、かかる金属塩は、金属精錬会社に金属原料として外販することもできる。あるいは、金属塩の濃度を溶媒抽出後液中の濃度より数倍に濃縮し、その後電解採取により回収すると、電池滓の回収から金属再生まで一貫してリサイクルを行うことができる。Ni,Co,Mnの電解採取は、例えば、非特許文献2:講座・現代の金属学、精錬編2、非鉄金属製錬、昭和57年7月10日金属学会出版、第240〜241頁に記載された条件で行うことができる。
【0018】
続いて、DE2HPA及びPC-88AによりそれぞれMn及びCoを溶媒抽出する方法を、図1を参照して具体的に説明する。
Mnの抽出
DE2HPAのケロシン(灯油)混合液(A溶媒) とCo-Ni-Mn溶液(即ち浸出後液、図1参照)、サイトフロー及び攪拌機付き分液槽にて混合して溶媒抽出を行う。苛性ソーダを添加してpHを2〜3に調節する。
その後、さらに溶媒による抽出を行い、これにより、溶液にはCo-Niのみが残る。A溶媒は、溶液とは逆方向に、抽出3、抽出2、抽出1とながれ(向流多段抽出)、Co濃度が次第に低くなり、続いて10g/l H2SO4 によりCoは洗浄される(洗浄1)。
続いて、50g/l硫酸水溶液で逆抽出を行い、硫酸水溶液中にMnを濃縮させる(「Mn溶液」)。逆抽出は2段で行い、A溶媒は抽出3で再利用する。Mn溶液には苛性ソーダを添加して中和を行い、中和後の液体及び沈澱には濾過を施して、MnをMn(OH)2として回収する。洗浄液は抽出前のCo-Ni-Mn溶液に加える。
【0019】
Coの抽出
抽出剤がPC-88Aである点でMnの抽出と相違しており、その他の処理フローは図1と同じである。したがって、図1の「Co-Ni-Mn溶液」、「Mn溶液」及び「Co-Ni溶液」がそれぞれ『Co-Ni溶液』、『Co溶液』及び『Ni溶液』に代わる。
【0020】
上記した溶媒抽出により得られたCo,Ni,Mn濃度の一般的範囲及び実施例の濃度を表2に示す。金属は中和によりそれぞれMn(OH)2, Co(OH)2, NiCO3として回収することができる。
【0021】
【表2】

【0022】
上記したところから本発明の好ましい実施態様は次のとおりである。
(1)Mn及びCoを酸性溶媒抽出する方法。
(2)逆抽出後の溶液のpHを調整することによりMn,Co,Niを沈殿させ、濾過すること
により固形分として金属を分離する方法。
(3)固形金属を電解液に再溶解し電解採取する(2)項の方法
【発明の効果】
【0023】
(1)三元系金属Li塩系正極活物質をスラリー状態でリサイクルすることができるの
で、廃リチウム電池滓を固形化するためのエネルギーが不要である。さらに、ス
ラリー中の三元系金属Li塩は微粒子状態であるので、浸出液との接触面積が大き
く、浸出効率が高い。
(2)Co,Ni及びMnのそれぞれが全量浸出可能である。一方、これ以外の炭素などは残
渣となり、前記三種の金属とは分離される。溶媒抽出は2回だけ行うので、工程
が長くならない。
(3)希釈硫酸または希釈塩酸を使用するので環境への負担が少ない。
(4)Liは浸出液に溶解するが、固液分離することにより金属とは分離することができ
る(Ni溶液からNiを沈殿させた後も液中に残る)。溶媒抽出においてMn,Coを分離
した後、LiはNi溶液中に存在するが、Niを沈殿させた後、Liはろ液中に残り分離
される。
あるいは、Ni溶液を電解溶液用に濃縮する際に溶媒抽出すると、Liは抽出されず
に溶液中に残り分離される。いずれにせよLiは分離される。
(5)電子デバイスのバッテリーの正極活物質としてCo系化合物を用いるものと、新し
い三元系金属Li塩を用いたものの両方が、市場に出回る状態が続くことが十分に
考えられる。この場合、リチウム電池滓にはCo系のものも含まれる。このように
電池の種類が多くなっても、本発明により酸浸出を行い、その後溶媒抽出を行
い、貴金属を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
三元系金属Li塩含有ペースト(Co11%, Ni 11% Mn 11%、以下単に「ペースト」という)の100kgにつき浸出及び溶媒抽出を行った。以下説明する試験において、抽出時間は攪拌10分、逆抽出時間は攪拌10分、洗浄は攪拌10分で行った。
(1)浸出
300g/l硫酸水溶液1000L中にペーストを投入し、70〜80℃で加熱しながら4時間攪
拌し、その後濾過を行ったところ、乾燥後の状態で10kgの残渣が残った。1000L
の濾液中の金属濃度は次表のとおりであり、100%の浸出ができた。
【0025】
【表3】

【0026】
(2) Mn抽出
濾液につき25%NaOH溶液で中和後、Mnの溶媒抽出を行った。中和後の溶液は1290Lであった。溶媒抽出剤は、LANXESS 社製D2EHPAのケロシン溶液1290Lで、これを中和後の溶液と攪拌し、25%NaOH溶液でpH=2.5に調節した(O/A比=1/1)。溶媒抽出の結果、Mn抽出液1290LとCo-Ni溶液1340Lが得られた。Mn抽出液(少々Coを含む)を10g/l H2SO4 により洗浄し、続いて50g/l硫酸水溶液で逆抽出を行い、硫酸水溶液中にMnを濃縮させる(Mn溶液)。 Co-Ni溶液1290L (金属濃度は表4に示す)とMn溶液250L(金属濃度は表5に示す)を得た。
【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
表4に示すCo,Ni溶液につきCoの溶媒抽出を行った。溶媒抽出剤は、大八化学株式会社製PC-88Aのケロシン溶液1290Lで、これを中和後の溶液と攪拌し、25%NaOH溶液でpH=4.2に調節した(O/A比=1/1)。溶媒抽出の結果、Co抽出液1340LとNi溶液1390Lが得られた。Co抽出液(少々Niを含む)を10g/l H2SO4 により洗浄し、続いて50g/l硫酸水溶液で逆抽出を行い、硫酸水溶液中にCoを濃縮させる(Co溶液)。 Ni溶液1390L (金属濃度は表6に示す)とCo溶液250L(金属濃度は表7に示す)を得た。
【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
以上示すように、Mn,Co,Niを全て分離することができた。なお、硫酸浸出の例につき説明したが、塩酸浸出でも金属全量を浸出できるから、その後の溶媒抽出は同じ結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
従来三元系金属Li塩を正極活物質とする電池滓のリサイクル法がなかったので、倉庫に保管などなされていたが、本発明法により電池滓を硫酸または塩酸にて浸出すると貴金属の回収が可能になる。また、本発明法では溶媒抽出法を採用しているので、例えば電池滓にCo系正極活物質が混入しても、問題なく貴金属を回収することができるので、リサイクル事業の展開が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】Mnの溶媒抽出工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ等量のCo,Ni及びMnを含有するリチウム酸金属塩を含有するリチウム電池滓を、250g/l以上の濃度の塩酸溶液にて攪拌浸出、または、200g/l以上の濃度の硫酸溶液にて加熱攪拌浸出処理し、浸出液につきMn及びCoのほぼ100%を酸性抽出剤で溶媒抽出し、それぞれの金属を含有する溶液を生成し、これらの溶液から当該金属を回収することを特徴とするCo,Ni,Mn含有電池滓からの貴金属回収方法。
【請求項2】
Mn及びCoを酸性抽出剤により溶媒抽出する請求項1記載のCo,Ni,Mn含有電池滓からの貴金属回収方法。
【請求項3】
溶媒抽出後pH調整を行うことによりMn,Co,Niを沈殿させ、濾過することにより固形物として回収することを特徴とする請求項2記載のCo,Ni,Mn含有電池滓からの貴金属回収方法。
【請求項4】
前記固形物を電解液に再溶解し、電解採取することを特徴とする請求項3記載のCo,Ni,Mn含有電池滓からの貴金属回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231522(P2008−231522A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74089(P2007−74089)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】