説明

CrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】 本発明は、スパッタリングにより薄膜を形成するために用いられる化合物の生成を抑制したCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】 Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物かなるCrTi系合金において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比が[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であるCrTi系合金およびCrTi系スパッタリング用ターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングにより薄膜を形成するために用いられる化合物の生成を抑制したCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、CrTi系ターゲットは垂直磁気記録媒体の下磁膜に使用されており、純Cr粉末と純Ti粉末を熱間成形することで得られる。そのCrTi系ターゲットは脆い化合物相を多く含み、スパッタリング時に脆い化合物相がパーティクル起因となり、スパッタ膜へパーティクルが付着し製品歩留まりを下げている。そのため、CrTiターゲット中の化合物を減らす必要がある。
【0003】
上記、CrTiターゲット中の化合物を減らすための対策として、例えば、特公昭64−2659号公報(特許文献1)に開示されているように、溶湯を急冷することで、化合物を減らしている。しかし、CrTi系ターゲットは粉末冶金法にて作製する材料で溶湯にすることは出来ないという問題がある。
【0004】
一方、通常粉末焼結体の場合は融点の80%程度の温度で成形するもので、例えば、CrTi系類似組成のものである、特開2003−226963号公報(特許文献2)に開示されているように、ホットプレスにて1200℃以上の温度で成形している。また、特開2002−212607号公報(特許文献3)に開示されているように、アプセット法にて1200℃の温度で成形している。しかし、この焼結温度が高ければ高いほど化合物は増加する傾向にある。
【特許文献1】特公昭64−2659号公報
【特許文献2】特開2003−226963号公報
【特許文献3】特開2002−212607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献2、3は、いずれも成形温度が高いために、ターゲット中の化合物が多く存在するために、スパッタ時にパーティクルを多く発生し、スパッタ膜の製品歩留りを低下させるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、ターゲット中の化合物を減少させることで、スパッタ膜に生じるパーティクルを減らしたCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法を提供するものである。
その発明の要旨とするところは、
(1)Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるCrTi系合金において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であるCrTi系合金。
【0007】
(2)Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であることを特徴とするCrTi系スパッタリング用ターゲット材。
【0008】
(3)Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であることを特徴とするCrTi系スパッタリングによりなる磁膜を有する垂直磁気記録媒体。
【0009】
(4)原料粉末を800〜1100℃で熱間成形する請求項1〜3のいずれか1項に記載のCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法。
(5)熱間成形後、成形温度から冷却速度144〜36000℃/hrで冷却することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明におけるCrTi系合金およびスパッタリングターゲット材は化合物が少なく、スパッタリング時のパーティクル発生を抑えることにより、スパッタ膜の製品歩留りの向上を図ることが出来る極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る成分組成として、Tiを35〜65原子%とした理由は、スパッタリングターゲット材としてTiが35原子%未満では、スパッタ後の膜がアモルファスにならず、また、65原子%を超えるとスパッタ後の膜がアモルファスにならない。したがって、その範囲を35〜65原子%とした。好ましくは、40〜60原子%とする。
【0012】
また、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比が[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下とした理由は、0.50より高い場合パーティクルを多く発生するからである。好ましくは0.07以下、より好ましくは0.03以下とする。
【0013】
上記の製法としては、原料粉末を800〜1100℃で熱間成形する。800℃未満では、十分な密度が得られない。1100℃を超える温度であると、X線回折強度比の値が大きくなり、かつスパッタ時にパーティクルが多く発生し、スパッタ膜へパーティクルが付着し製品歩留りを低下させる。したがって、その範囲を800〜1100℃とした。好ましくは800〜1050℃とする。より好ましくは、アップセット法では上限を1000℃以下、HIP法で900℃以下とする。
【0014】
また、熱間成形後、熱間成形温度から冷却速度144〜36000℃/hrで冷却することで化合物の生成抑制効果がさらに増す。すなわち、上記冷却速度による急冷をすることで高温相のCrTi固溶体を低温まで維持し、固溶体が化合物へ変態するのを抑制するためである。上記冷却速度の下限の好ましい速度は500℃/hr以上とする。
【実施例】
【0015】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
粒度が250μm以下の純Cr粉末と粒度が150μm以下の純Ti粉末を表1に示すCr−Ti合金組成に配合し、混合したものを、スチール材質からなる封入缶に充填し、到達真空度10-1Pa以上で脱気真空封入した後、HIP(熱間等方圧プレス)の場合は、加熱温度800〜1100℃、成形圧力150MPa、加熱保持時間1時間の条件で成形し、その後表1に示す条件で300℃まで冷却速度を空冷(No.3、4、5、7、11、12、13、15、16、19、21、22、23、25、29、30、31、33)か水冷(No.8、9、17、26、27、34)で制御し成形体を作製した。また、アップセット法の場合は、加熱温度800〜1100℃、成形圧力500MPa、加熱保持時間1時間の条件で成形し、その後表1に示す条件で300℃まで冷却速度を空冷か水冷で制御し成形体を作製した。次いで機械加工によりターゲットを作製した。
【0016】
なお、評価方法としては、化合物ピーク比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]はX線源がCu−Kα線で、スキャンスピード4°/minの条件のX線回折にて測定した。また、パーティクル評価方法は、直径95mm、板厚1.75mmのアルミ基板上にDCマグネトロンスパッタにてArガス圧力0.9Paで成膜し、Optical Surface Analyzerにてパーティクル数を評価した。
【0017】
【表1】

表1に示すように、No.1〜35は本発明例、No.36〜45は比較例である。
【0018】
表1に示す、比較例No.36、38、40は、成形温度が低く冷却速度が遅いために、得られた粉末成形体の密度が低かったので評価していない。比較例No.37、39、41は、いずれも成形温度が高く、かつ冷却速度が遅いために、X線回折強度比の値が大きく、かつパーティクル数が大きい。比較例No.42は、成形温度が低いために得られた粉末成形体の密度が低かったので評価していない。比較例No.43は、成形後の冷却速度が遅いために、X線回折強度比の値が大きく、かつパーティクル数が大きい。
【0019】
比較例No.44は、Ti含有量が低いために、スパッタ後の膜がアモルファスにならないために評価していない。比較例No.45は、Ti含有量が高いために、比較例No.44と同様に、スパッタ後の膜がアモルファスにならないために評価していない。これに対し、本発明例である、No.1〜35は、いずれも本発明条件を満足していることから、X線回折強度を0.5以下に抑えることができ、かつパーティクル数の小さいことが分かる。
【0020】
以上のように、本発明による原料粉末を800〜1100℃の温度範囲で熱間成形し、かつその熱間成形後に成形温度から冷却速度144〜36000℃/hrの急速冷却することで、化合物生成量の少ないCrTi系合金およびCrTi系ターゲットを製造することが可能となり、スパッタ膜の製品歩留りの向上を図ることが出来た。



特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるCrTi系合金において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であるCrTi系合金。
【請求項2】
Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であることを特徴とするCrTi系スパッタリング用ターゲット材。
【請求項3】
Tiを35〜65原子%含み、残部Crおよび不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材において、Cr(110)のX線回折強度[I(Cr)]とCr2 Ti(311)のX線回折強度[I(Cr2 Ti)]の強度比[I(Cr2 Ti)/I(Cr)]が0.50以下であることを特徴とするCrTi系スパッタリングによりなる磁膜を有する垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
原料粉末を800〜1100℃で熱間成形する請求項1〜3のいずれか1項に記載のCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
熱間成形後、成形温度から冷却速度144〜36000℃/hrで冷却することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のCrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれらを使用した垂直磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2012−41585(P2012−41585A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182144(P2010−182144)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】