説明

DNMT3A及びDNMT3Bを標的にすることによるメチル化を元に戻す方法

DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することによって、必要とする対象においてin vitro及びin vivoの両方で、所望のDNAメチル化パターンを回復し、メチル化によって発現抑制された腫瘍抑制遺伝子(TSG)の再発現を誘導し、及び/又は腫瘍形成を抑制する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年7月31日に出願の米国仮出願第60/962,795号、及び2008年xxxxxに出願のPCT/US2008/xxxxxの利益を請求し、それらの全開示は参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
連邦助成研究に関する記載
本発明は、何らかの政府助成によってなされたものではなく、政府は本発明にいかなる権利も有しない。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、米国の癌による死亡の主な原因であり、1年に約213,000件の新症例の発生があり、死亡率が非常に高い15。新しい薬剤及び治療計画にもかかわらず、肺癌患者の予後はこの20年間あまり変わらず、新規治療戦略の必要性が強調されている。エピゲノムを標的にすることは、癌での有望な治療戦略を表す16
【0003】
異常なDNAメチル化は、肺癌で重要な役割を果たすことが示された17:
1)プロモーターメチル化は、TSG18〜20、例えばCDKN2A、CDH13、FHIT、WWOX、CDH1及びRASSF1Aの発現抑制を司る機構の一つである;
2)それぞれ維持及びde novoDNAメチルトランスフェラーゼであるDNMT1及びDNMT3BのmRNA発現は、報告によると、102個のNSCLCのそれぞれ53%及び58%で上昇し、DNMT1 mRNAレベルは、生存の独立予後因子であることが示された13;
3)DNMT1、DNMT3A及びDNMT3Bのタンパク質発現は、正常肺組織と比較して肺腫瘍で上昇する12;
4)プロモーター活性を有意に高めるヒトDNMT3Bプロモーター中の特異的多型は、肺癌リスクの増加と関連付けられている21;
5)DNMT1媒介DNAメチル化の阻害は、マウスのタバコ発癌物質誘発性の肺癌を、50%を超えて減少させた22
【0004】
19〜25個のヌクレオチドの非コードRNAであるmicroRNA(miRNA)は、部分的又は完全に相補的な部位への塩基対合を通して、それらの標的mRNAの翻訳阻害又は切断を誘導することによって遺伝子発現を調節し、発達、細胞分化、アポトーシス及び増殖を含む重大な生物過程に関与する1,2。近年、診断及び予後に関連する特異的miRNA発現プロファイルが、特定の癌について確認された(総説については参考文献3〜5)。特に、以前に、NSCLCで下方制御されることが示されているmiR-29ファミリーのメンバー6,7は、DNMT3A及びB遺伝子の3'非翻訳領域(3'UTR)の部位に相補的であることが、異なるmiRNA標的遺伝子予測アルゴリズム(PicTar8、TargetScan3.19、MiRanda10及びmiRGen11)を用いてin silicoで予測されている(図1)。
【0005】
肺癌で下方制御されるmiRNAの報告されたもののうち、miR-29ファミリー(29a、29b及び29c)は、肺癌でしばしば上方制御され12、悪い予後に関連する13、DNAメチル化に関与する二つの重要な酵素DNMT3A及び3B(de novoメチルトランスフェラーゼ)の3'非翻訳領域(UTR)に、興味深い相補性を有する8〜11
【0006】
現在、miRNAは発癌で役割を果たすと考えられており、miRNAの発現は、肺癌と正常な胚とで異なる。さらに、この異常な発現の重要性は、十分に理解されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、miR-29がDNMT3A及びDNTM3Bの両方を標的にすることができるかどうか、またmiR-29の回復が肺癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)での異常なメチル化パターンを正常化することができるかどうか判定する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
広い一態様では、所望のDNAメチル化パターンを、必要とする対象において回復する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む方法が本明細書で記載される。
【0009】
別の広い態様では、メチル化によって発現抑制された腫瘍抑制遺伝子(TSG)の再発現を、必要とする対象において誘導する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む方法が本明細書で記載される。ある実施形態では、TSGは、FHIT及びWWOXの一つ又は複数を含む。
【0010】
別の広い態様では、in vitro及びin vivoの両方で腫瘍形成を、必要とする対象において抑制する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む方法が本明細書で記載される。
【0011】
本明細書で記載されている方法は、肺癌などの悪性腫瘍に罹患している対象において有用である。
【0012】
別の態様では、非小細胞肺癌(NSCLC)のエピジェネティックな調節のために有用な方法が、本明細書で記載される。
【0013】
ある実施形態では、内因性miR-29bは、DNMT3B mRNAの逆転写を開始するプライマーとして有用である。
【0014】
別の態様では、広範なDNAメチル化を減少させる方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bを標的にする一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含み、miR-29の発現が、癌細胞でのDNAのエピジェネティックな修飾に寄与する方法が本明細書で記載される。
【0015】
別の態様では、少なくとも一つのヌクレオシド類似体を、de novo及び維持DNMT経路をブロックするのに十分な一つ又は複数のmiR-29と組み合わせることによって、DNA低メチル化を達成する方法が本明細書で記載される。ある実施形態では、ヌクレオシド類似体は、デシタビンを含む。
【0016】
別の態様では、腫瘍抑制遺伝子(TSG)の発現を増加させる方法であって、細胞に一つ又は複数のmi-R29をトランスフェクトすることを含む方法が本明細書で記載される。ある実施形態では、TSGは、FHIT及びWWOXタンパク質の一つ又は複数を含む。
【0017】
別の態様では、in vitroで細胞増殖を抑制し、及び/又は細胞でのスクランブル制御に関してアポトーシスを誘導する方法であって、一つ又は複数の細胞に一つ又は複数のmiR-29をトランスフェクトすることを含む方法が本明細書で記載される。
【0018】
別の態様では、FHIT及び/又はWWOX酵素の発現レベルを下方調節する方法であって、細胞にmiR-29ファミリーの一又は複数のメンバーをトランスフェクトすることによって、DNMT3A及び/又はDNMT3Bを調節することを含む方法が本明細書で記載される。ある実施形態では、細胞は肺癌細胞である。
【0019】
別の態様では、広範な(global)DNAメチル化を減少させる方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む方法が本明細書で記載される。
【0020】
別の態様では、TSGの発現を回復する方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む方法が本明細書で記載される。
【0021】
別の態様では、in vitro及びin
vivoで腫瘍形成を抑制する方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む方法が本明細書で記載される。
【0022】
別の態様では、腫瘍サプレッサーを再活性化させ、癌細胞での異常なメチル化パターンを正常化するために、合成miR-29を単独で又は他の治療法と組み合わせて用いるエピジェネティックな療法を開発する方法が本明細書で記載される。ある実施形態では、癌細胞は、肺癌細胞である。
【0023】
別の態様では、対象が、肺癌関連疾患を有するか、発症するリスクがあるか、又はそれに関して生存期間短縮の予後を有するかどうかを診断する方法であって、対象からの試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含み、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較した試験試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化は、対象が肺癌関連疾患を有するかそれを発症するリスクがあることを示し、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される方法が本明細書で記載される。
【0024】
さらに他の態様では、様々な細胞の肺癌誘発性の状態に関連するマーカーが本明細書で記載される。これらのマーカー又はこれらのマーカーの組合せのいずれかの発現の正常より高いレベルは、患者における肺癌関連疾患の存在と相関することが発見されている。試料中の肺癌関連疾患の存在;試料中のaの非存在;肺癌関連疾患の病期;及び、患者の肺癌関連疾患の評価、予防、診断、特徴付け及び療法に関連する、肺癌関連疾患の他の特徴を検出する方法が提供される。肺癌関連疾患を治療する方法も、提供される。
【0025】
さらに他の態様では、肺癌関連疾患に罹っているか肺癌関連疾患を発症するリスクのある患者を治療する方法が本明細書で記載される。そのような方法は、発現を減少させること及び/又はマーカーの生物学的機能を妨害することを含むことができる。一実施形態では、本方法は、マーカー核酸又はその部分に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを患者に提供することを含む。例えば、マーカー核酸又はその断片のアンチセンスポリヌクレオチドを発現するベクターの送達を通して、アンチセンスポリヌクレオチドを患者に提供することができる。別の実施形態では、本方法は、マーカータンパク質又はそのタンパク質の断片に特異的に結合する、抗体、抗体誘導体又は抗体フラグメントを患者に提供することを含む。
【0026】
添付の図に照らして読めば、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、本発明の様々な目的及び利点が当業者に明らかになる。
【0027】
本特許又は出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも一つの図面を含む。一つ又は複数のカラー図面を有する本特許又は特許出願公開公報の写しは、請求及び必要な料金の支払いにより当局から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】DNMT3A及び3Bの3'UTR領域におけるmiR-29に対する相補部位を示す図である。 Hsa-mi-R29a[配列番号1] Hsa-mi-R29b[配列番号2] Hsa-mi-R29c[配列番号3] 845-869 DNMT3A[配列番号4] 843-869 DNMT3A[配列番号5] 846-869 DNMT3A[配列番号6] 1184-1209 DNMT3B[配列番号7] 244-267 DNMT3B[配列番号8] 1374-1398 DNMT3B[配列番号9] 1182-1209 DNMT3B[配列番号10] 1185-1209 DNMT3B[配列番号11] ボールド体の大文字は、TARGETSCAN 3.1ソフトウェアによる完全な塩基の一致を表す。PICTARソフトウェアによると、miR-29aとDNMT3Bの間で二つの追加の一致領域が特定され、それをアスタリスクで示す。
【図2a】miR-29はDNMT3A及びDNMT3Bを直接標的にすることを示す図である。 549細胞にmiR-29をトランスフェクトした後のDNMT3発現に関するルシフェラーゼアッセイの結果である。
【図2b】上図:A549細胞にmiR-29又は陰性対照をトランスフェクトした後の、DNMT3A及びDNMT3BのmRNA発現に関するqRT-PCRによる評価。下図:アンチセンス分子(AS)を用いたmiR-29の発現抑制により、DNMT3A及びDNMT3BのmRNA発現の上昇が引き起こされる。
【図2c】DNMT3A及びB-3'UTRに対するGFP抑制ベクターに加えて、miR29又はスクランブルオリゴヌクレオチドを共トランスフェクトしたA549細胞から抽出したタンパク質のウエスタンブロット。
【図2d】miR-29bは、予測されるそのDNMT3B mRNA標的を逆転写する内在性プライマーとして働く。黒字:DNMT3BcDNA(RefSeq# NM_175848);青字:実験的に得られた、クローン化及び配列決定したcDNA(八つのクローンを解析);赤字:推定のRNA配列及び対応するmiR-29b。 3’UTR-DNMT3B 1178-1217: TTTAACACCTTTTACTCTTCTTA-TGGTGCTATTTTGTAG[配列番号12] cDNA(8): TTTAACACCTTTTACTCTTCTTA:TGGTGCTA-ADAPTER[配列番号13] RNA: 3’AAAUGAGAUUACCACGAU5’[配列番号14] Hsa-miR-29b:3’UUGUGACUUUACCACGAU5’[配列番号2] 上部の黒と青の下線のヌクレオチドは、標的と実験的なcDNAとの間に相同性をもたない。下部の赤の下線のヌクレオチドは、miR-29b配列との相同性を欠くcDNAと相補的なRNA配列を表す。ボールド体のヌクレオチドは、PICTAR予測の一致部位を表す。
【図3a】癌細胞のエピゲノムへのmiR-29の回復の影響を示す図である。 トランスフェクトして48及び72時間後に回収されるA549細胞における、miR-29により引き起こされる広範なDNAメチル化の変化。結果を、非トランスフェクト細胞(mock)及びスクランブルオリゴヌクレオチド(Scr)をトランスフェクトした細胞と比較する。広範なDNAメチル化の状態をLC/MS-MSにより決定した。
【図3b】miR-29又は陰性対照をトランスフェクトして48時間後の、A549及びH1299細胞中のFHIT及びWWOXのmRNAレベルのqRT PCRによる決定。miR-29は、FHIT及びWWOXのmRNAの再発現を誘導した。
【図3c】miR-29又は陰性対照をトランスフェクトして72時間後の、A549及びH1299細胞中のFHIT及びWWOXタンパク質の免疫ブロット。72時間までにmiR-29は、FHIT及びWWOXタンパク質の発現の上昇を引き起こした。免疫ブロット画像の上の数は、GAPDH遺伝子に対するバンドの明度を表す(上の列:FHIT、下の列:WWOX)。
【図3d】MassARRAYシステムを用いたFHIT及びWWOXのプロモーター領域に関する定量的DNAメチル化データのグラフ。各四角は、解析した一つのCpG又は一群のCpGを表し、各矢印は試料を表す。メチル化頻度は、各実験について色分けして示され、薄緑(低メチル化頻度)から鮮赤(より高いメチル化頻度)に及ぶ。
【図4a】A549細胞の腫瘍形成能に対するmiR-29の影響を示す図である。 in vitroでmiR-29、スクランブル(Scr)オリゴヌクレオチドをトランスフェクトした、又はmockをトランスフェクトした(Mock)、A549細胞の増殖曲線。曲線は、三つの異なる実験の平均細胞数を表す。
【図4b】生細胞の割合は、スクランブル(Scr)オリゴヌクレオチド又はmiR-29オリゴヌクレオチド(最終濃度100nM)をトランスフェクトしたA549細胞において測定した。24時間後、細胞を回収し、アネキシンV-FITC及びプロピジウムヨウ化物を含む結合バッファー中で懸濁した後、フローサイトメトリーを行って細胞死を評価した。エラーバーはSDを示す。
【図4c】miR-29、scrオリゴヌクレオチド又はmockを事前(注射する48時間前)にトランスフェクトしたA549細胞を注射したヌードマウスにおける移植腫瘍の増殖曲線。
【図4d】ヌードマウスに注射して21日目の、mock、Scr及びmiR-29をトランスフェクトしたA549細胞の移植腫瘍サイズの比較。画像は、五つの各カテゴリーの中の腫瘍の平均サイズを示す。
【図4e】ヌードマウスの腫瘍重量±SD。
【図5】NSCLC中のDNMT3Aタンパク質発現レベルは、全生存と逆に関連付けられることを示すグラフである。隣接する正常肺と比較した、腫瘍中の異なるDNMT3A発現レベルを有する172人のNSCLC患者の生存を示すカプランマイヤー曲線。DNMT3Aのより高い発現を有する患者は、より短い全生存(P=0.029)であった。DNMT3Bタンパク質発現レベルと生存の関連は類似の方向になる傾向があったが、かかる関連はDNMT1に関してはなかった。
【図6】内在性miR-29レベルとDNMT3A/BmRNAレベルの相関を示すグラフである。14個のNSCLCにおいてqRT PCRにより決定される、DNMT3A、3Bの内在性mRNAレベルとmiR-29の内在性レベルとの間の逆相関。R=回帰係数。□=回帰線;◆=実際の試料の相関。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示全体で、様々な刊行物、特許及び公開特許明細書が、特定引用文献によって参照される。これらの刊行物、特許及び公開特許明細書の開示物は、本発明が関係する最新技術をより完全に記載するために、ここに参照により本開示に組み込まれる。
【0030】
特に定義されていない場合は、本明細書で用いるすべての技術用語及び学術用語は、当分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)の技術者が通常理解するのと同じ意味を有する。当分野の技術の範囲内である、分子的、遺伝的及び生化学的方法のために、標準の技術が用いられる。そのような技術は、文献に詳細に説明されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. by Sambrook,
Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989)、DNA Cloning, Volumes I and II (Glover ed., 1985)、Oligonucleotide Synthesis (Gait ed., 1984)、Mullisら米国特許第4,683,195号、Nucleic Acid Hybridization (Hames
& Higgins eds., 1984)、Transcription And Translation
(Hames & Higgins eds., 1984)、Culture Of Animal
Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987)、Immobilized
Cells And Enzymes (IRL Press, 1986)、Perbal, A Practical
Guide To Molecular Cloning (1984); the treatise, Methods In Enzymology
(Academic Press, Inc., N.Y.)、Gene Transfer Vectors For
Mammalian Cells (Miller and Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory)、Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155 (Wuらeds.)、Immunochemical Methods In Cell And
Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987)、Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (Weir and
Blackwell, eds., 1986)、The Laboratory Rat, editor in
chief: Mark A. Suckow; authors: Sharp and LaRegina. CRC Press, Boston, 1988、及び化学方法を参照。
【0031】
本明細書及び請求項で用いるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに別の指示がない限り、複数体を含む。例えば、用語「細胞」は、その混合物を含む複数の細胞を含む。
【0032】
本明細書で互換的に用いるように、「miR遺伝子産物」、「マイクロRNA」、「miR」又は「miRNA」は、miR遺伝子からのプロセシングを経ていない(例えば、前駆体)か経ている(例えば、成熟した)RNA転写産物を指す。miR遺伝子産物はタンパク質に翻訳されないので、「miR遺伝子産物」という用語はタンパク質を含まない。プロセシングを経ていないmiR遺伝子転写産物は、「miR前駆体」又は「miR prec」とも呼ばれ、一般的に、長さ約70〜100個のヌクレオチドのRNA転写産物を含む。miR前駆体は、RNアーゼ(例えば、Dicer、Argonaut又はRNアーゼIII(例えば、大腸菌(E. coli)RNアーゼIII))による消化によって、活性のある19〜25個のヌクレオチドのRNA分子にプロセシングすることができる。この活性のある19〜25個のヌクレオチドのRNA分子は、「プロセシングを経た」miR遺伝子転写産物又は「成熟した」miRNAとも呼ばれる。
【0033】
「マーカー」は、正常又は健康な組織又は細胞でのその発現レベルから変化した、組織又は細胞でのその発現レベルが疾患状態に関連する、遺伝子又はタンパク質である。
【0034】
マーカーの「正常な」発現レベルは、肺癌関連疾患に罹っていないヒト対象又は患者の肺細胞におけるマーカーの発現レベルである。
【0035】
マーカーの「過剰発現」又は「有意により高い発現レベル」は、発現を評価するために使用したアッセイの標準誤差を超える、ある実施形態では、対照試料(例えば、マーカー関連の疾患を有しない健康対象からの試料)中のマーカーの発現レベル、ある実施形態では、いくつかの対照試料中のマーカーの平均発現レベルの少なくとも2倍高い、他の実施形態では3倍、4倍、5倍又は10倍高い試験試料中の発現レベルを指す。
【0036】
マーカーの「有意に低い発現レベル」は、対照試料(例えば、マーカー関連の疾患を有しない健康対象からの試料)中のマーカーの発現レベル、ある実施形態では、いくつかの対照試料中のマーカーの平均発現レベルの少なくとも2倍低い、ある実施形態では3倍、4倍、5倍又は10倍低い試験試料中の発現レベルを指す。
【0037】
「キット」は、マーカーの発現を特異的に検出するための少なくとも一つの試薬、例えばプローブを含む、任意の製造物(例えば、パッケージ又は容器)である。キットは、本発明の方法を実施するためのユニットとして促進、分配、又は販売することができる。
【0038】
「タンパク質」は、マーカータンパク質及びそれらの断片;変異体マーカータンパク質及びそれらの断片;マーカー又は変異体マーカータンパク質の少なくとも15個のアミノ酸の部分を含むペプチド及びポリペプチド;並びに、マーカー若しくは変異体マーカータンパク質、又はマーカー若しくは変異体マーカータンパク質の少なくとも15個のアミノ酸の部分を含む融合タンパク質を包含する。
【0039】
第一の広い態様では、正常な対照細胞と比較して、異なる肺癌に関連する癌細胞で発現が変化している特定のマイクロRNAの同定が、本明細書で提供される。
【0040】
活性のある19〜25個のヌクレオチドのRNA分子は、天然のプロセシング経路を通して(例えば、無傷の細胞又は細胞溶解物を用いて)、又は合成プロセシング経路によって(例えば、単離したプロセシング酵素、例えば単離したDicer、Argonaut又はRNアーゼIIIを用いて)miR前駆体から得ることができる。活性のある19〜25個のヌクレオチドのRNA分子は、miR前駆体からプロセシングすることなく、生物合成又は化学合成によって直接生成することもできると理解されている。本明細書でマイクロRNAに名称で言及する場合、特に明記しない限り、その名称は、前駆体形態及び成熟形態の両方に対応する。
【0041】
一態様では、対象が肺癌を有するか、それを発症するリスクがあるかどうか診断する方法であって、対象からの試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定し、試験試料中のmiR遺伝子産物のレベルを対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較することを含む方法が、本明細書で提供される。本明細書で用いるように、「対象」は、肺癌を有するか、又は有することが疑われる、任意の哺乳動物であってよい。好ましい実施形態では、対象は、肺癌を有するか、又は有することが疑われるヒトである。
【0042】
一実施形態では、試験試料中で測定される少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、miR遺伝子産物は、miR-29bである。
【0043】
肺癌関連疾患は、肺組織から生じる任意の障害又は癌であってよい。そのような癌は一般的に腫瘤の形成及び/又は存在と関連し、例えば、任意の肺癌形態、例えば組織学的に異なる肺癌(例えば、腺癌、扁平上皮癌)であってよい。さらに、肺癌は、特定の予後(例えば、低い生存率、速い進行)と関連していてもよい。
【0044】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対象から得られる生体試料(例えば、細胞、組織)で測定することができる。例えば、従来の生検技術によって、組織試料(例えば、腫瘍由来の)を肺癌関連疾患を有することが疑われる対象から取り出すことができる。別の実施形態では、血液試料を対象から取り出すことができ、標準の技術によるDNA抽出のために、血液細胞(例えば、白血球)を単離することができる。血液又は組織試料は、放射線療法、化学療法又は他の治療処置の開始の前に対象から得るのが好ましい。対応する対照組織又は血液試料は、対象の未罹患組織、正常なヒト個体若しくは正常な個体の集団、又は対象試料中の大多数の細胞に対応する培養細胞から得ることができる。次に、対象試料由来の細胞中の所与のmiR遺伝子から生成されるmiR遺伝子産物のレベルを、対照試料の細胞からの対応するmiR遺伝子産物レベルと比較することができるように、対照組織又は血液試料を対象からの試料とともにプロセシングする。生体試料のための参照用miR発現標準を、対照として用いることもできる。
【0045】
対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較した、対象から得られる試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化(例えば、上昇又は低下)は、対象における肺癌関連疾患の存在を示す。
【0046】
一実施形態では、試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも高い(すなわち、miR遺伝子産物の発現が「上方制御」されている)。本明細書で用いるように、対象由来の細胞又は組織試料中のmiR遺伝子産物の量が、対照細胞又は組織試料中の同じ遺伝子産物の量よりも大きい場合、miR遺伝子産物の発現は「上方制御」されている。
【0047】
別の実施形態では、試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルよりも低い(すなわち、miR遺伝子産物の発現が「下方制御」されている)。本明細書で用いるように、対象由来の細胞又は組織試料中のその遺伝子によって生成されるmiR遺伝子産物の量が、対照細胞又は組織試料中の同じ遺伝子から生成される量よりも少ない場合、miR遺伝子の発現は「下方制御」されている。
【0048】
対照及び正常試料中の相対的なmiR遺伝子発現は、一つ又は複数のRNA発現標準に対して判定することができる。標準は、例えば、ゼロmiR遺伝子発現レベル、標準細胞系のmiR遺伝子発現レベル、対象の未罹患組織のmiR遺伝子発現レベル、又は正常なヒト対照集団について以前に得られたmiR遺伝子の平均発現レベルを含むことができる。
【0049】
試料中のmiR遺伝子産物のレベルは、生体試料中のRNA発現レベルを検出するために適する、任意の技術を用いて測定することができる。生体試料(例えば、細胞、組織)中のRNA発現レベルを判定するのに適する技術(例えば、ノーザンブロット分析、RT-PCR、in situハイブリダイゼーション)は、当業者に公知である。特定の実施形態では、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、ノーザンブロット分析を用いて検出される。例えば、総細胞RNAは、核酸抽出緩衝液の存在下でのホモジナイゼーションと、その後の遠心分離によって細胞から精製することができる。核酸を沈殿させ、DNアーゼ処理及び沈殿によってDNAを取り出す。次に、標準の技術によってアガロースゲルによるゲル電気泳動によってRNA分子を分離し、ニトロセルロースろ紙に移す。次に、加熱によってRNAをろ紙の上に固定化する。特定のRNAの検出及び定量化は、問題のRNAに相補的である、適切に標識されたDNA又はRNAのプローブを用いて達成される。例えば、その全開示は参照により組み込まれる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら、eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989,
Chapter 7を参照。
【0050】
所与のmiR遺伝子産物のノーザンブロットハイブリダイゼーションに適するプローブは、核酸配列から生成することができ、その例には、対象とするmiR遺伝子産物に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の、又は完全な相補性を有するプローブが含まれるが、これらに限定されない。標識DNA及びRNAプローブの調製方法、及び標的ヌクレオチド配列へのそのハイブリダイゼーションの条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら、eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989,
Chapters 10 and 11に記載され、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
一つのそれには限定されない例では、核酸プローブは、例えば、3H、32P、33P、14C又は35Sなどの放射性核種;重金属;標識リガンドのための特異的結合対メンバー(例えば、ビオチン、アビジン又は抗体)として機能することができるリガンド;蛍光分子;化学発光分子;酵素などで標識することができる。
【0052】
プローブは、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる、Rigbyら(1977), J. Mol. Biol. 113:237-251のニックトランスレーション法又はFienbergら(1983), Anal. Biochem. 132:6-13のランダムプライミング法によって、高い特異的活性に標識することができる。後者は、一本鎖DNA又はRNA鋳型から高い特異的活性の32P標識プローブを合成する好ましい方法である。例えば、ニックトランスレーション法によって非常に放射性のヌクレオチドで既存のヌクレオチドを置換することによって、108cpm/マイクログラムを十分上回る特異的活性を有する32P標識核酸プローブを調製することが可能である。次に、ハイブリダイズされたろ紙を写真フィルムに曝露させることによって、ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフ検出を実施することができる。ハイブリダイズされたろ紙に曝露させられた写真フィルムの比重走査は、miR遺伝子転写産物レベルの精確な測定を提供する。別の手法を用いて、Amersham
Biosciences、Piscataway、NJから入手可能なMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimagerなどのコンピュータ画像処理システムによって、miR遺伝子転写産物レベルを定量化することができる。
【0053】
DNA又はRNAプローブの放射性核種標識化が実際的でない場合、類似体、例えば、dTTP類似体5-(N-(N-ビオチニル-ε-アミノカプロイル)-3-アミノアリル)デオキシウリジン三リン酸をプローブ分子に組み込むために、ランダムプライマー法を用いることができる。ビオチン化プローブオリゴヌクレオチドは、呈色反応を生成する蛍光染料又は酵素に結合している、アビジン、ストレプトアビジン及び抗体(例えば、抗ビオチン抗体)などのビオチン結合タンパク質との反応によって検出することができる。
【0054】
ノーザン及び他のRNAハイブリダイゼーション技術に加えて、RNA転写産物のレベルの判定は、in situハイブリダイゼーションの技術を用いて達成することができる。この技術は、ノーザンブロット技術より少ない細胞を必要とし、顕微鏡カバーガラスの上へ完全体細胞を置くこと、及び、放射性又はさもなければ標識核酸(例えば、cDNA又はRNA)プローブを含む溶液で細胞の核酸内容物を探ることを含む。この技術は、対象からの組織生検試料を分析するのに特に適する。in situハイブリダイゼーション技術の実際は、米国特許第5,427,916号にさらに詳細に記載され、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
非限定的一例では、所与のmiR遺伝子産物のin situハイブリダイゼーションに適するプローブは、核酸配列から生成することができ、その例には、上述のように対象とするmiR遺伝子産物に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%の、又は完全な相補性を有するプローブが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
細胞中のmiR遺伝子転写産物の相対数は、miR遺伝子転写産物の逆転写と、続くポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による逆転写産物の増幅によって判定することもできる。miR遺伝子転写産物のレベルは、内標準、例えば、同じ試料に存在する「ハウスキーピング」遺伝子からのmRNAのレベルと比較して定量化することができる。内標準として用いるのに適する「ハウスキーピング」遺伝子には、例えば、ミオシン又はグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)が含まれる。定量的及び半定量的RT-PCRを実施する方法及びその変形形態は、当業者に公知である。
【0057】
場合によっては、試料中の複数の異なるmiR遺伝子産物の発現レベルを同時に判定することが望ましいこともある。他の場合には、癌に関連するすべての既知のmiR遺伝子の転写産物の発現レベルを判定することが望ましいこともある。数百のmiR遺伝子又は遺伝子産物について癌特異的発現レベルを調べることは、時間がかかり、大量の総RNA(例えば、ノーザンブロットにつき少なくとも20μg)、及び、放射性同位体を必要とするオートラジオグラフ技術を必要とする。
【0058】
これらの限界を克服するために、一組のmiR遺伝子に特異的である一組のオリゴヌクレオチド(例えば、オリゴデオキシヌクレオチド)プローブを含んでいる、マイクロチップフォーマット(すなわち、マイクロアレイ)のオリゴライブラリーを構築することができる。そのようなマイクロアレイを用い、RNAを逆転写して一組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを生成し、それらをハイブリダイズしてマイクロアレイの上のオリゴヌクレオチドを探り、ハイブリダイゼーション又は発現プロファイルを生成することによって、生体試料中の複数のマイクロRNAの発現レベルを判定することができる。次に、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを対照試料のそれと比較し、肺癌細胞でどのマイクロRNAが変化した発現レベルを有するかについて判定することができる。
【0059】
本明細書で用いるように、「プローブオリゴヌクレオチド」又は「プローブオリゴデオキシヌクレオチド」は、標的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを指す。「標的オリゴヌクレオチド」又は「標的オリゴデオキシヌクレオチド」は、(例えば、ハイブリダイゼーションを通して)検出する分子を指す。「miR特異的プローブオリゴヌクレオチド」又は「miRに特異的なプローブオリゴヌクレオチド」は、特異的miR遺伝子産物に、又は特異的miR遺伝子産物の逆転写物にハイブリダイズするように選択される配列を有する、プローブオリゴヌクレオチドを意味する。
【0060】
特定の試料の「発現プロファイル」又は「ハイブリダイゼーションプロファイル」は、基本的に、試料の状態のフィンガープリントである。二つの状態は、同様に発現される任意の特定の遺伝子を有することができるが、いくつかの遺伝子の評価は、細胞の状態に特異である遺伝子発現プロファイルの生成を同時に可能にする。すなわち、正常な組織を癌性(例えば、腫瘍)の組織から区別することができ、癌性組織中では、異なる予後状態(例えば、良好又は劣る長期生存期間の見通し)を判定することができる。異なる状態の癌組織の発現プロファイルを比較することによって、これらの状態のそれぞれにおいてどの遺伝子(遺伝子の上方制御及び下方制御を含む)が重要であるかについての情報が得られる。癌組織で差別的に発現される配列、並びに異なる予後をもたらす差別的発現の同定は、いくつかの方法によるこの情報の使用を可能にする。
【0061】
それには限定されない一例では、(例えば、特定の患者で化学療法薬が長期の予後を改善する働きをするかどうかを判定するために)、特定の治療体系を評価することができる。同様に、患者試料を既知の発現プロファイルと比較することによって、診断をするか確定することができる。さらに、これらの遺伝子発現プロファイル(又は個々の遺伝子)は、肺癌発現プロファイルを抑制するか、又は劣る予後プロファイルをより良好な予後プロファイルに変換する薬剤候補のスクリーニングを可能にする。
【0062】
したがって、対象が肺癌を有するか、それを発症するリスクがあるかどうか診断する方法であって、対象から得られる試験試料由来のRNAを逆転写して一組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供すること、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイに標的オリゴデオキシヌクレオチドをハイブリダイズして、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供すること、及び試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料又は参照標準から生成されるハイブリダイゼーションプロファイルと比較することを含み、少なくとも一つのmiRNAのシグナルの変化は、対象が肺癌を有するかそれを発症するリスクがあることを示す方法も本明細書で提供される。
【0063】
一実施形態では、マイクロアレイは、すべての既知のヒトmiRNAの相当な部分について、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、マイクロアレイは、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiRNAについて、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む。
【0064】
マイクロアレイは、既知のmiRNA配列から生成される遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブから調製することができる。アレイは、各miRNAについて二つの異なるオリゴヌクレオチドプローブを含むことができ、一つは活性のある成熟した配列を含み、他はmiRNAの前駆体に特異的である。アレイは、わずか少しの塩基だけヒト相同分子種と異なる一つ又は複数のマウス配列などの対照を含むこともでき、それは、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー条件の対照の役目を果たすことができる。両方の種類からのtRNA又は他のRNA(例えば、rRNA、mRNA)を、マイクロチップにプリントすることもでき、特異的ハイブリダイゼーションのための、内部の、比較的安定した陽性対照を提供する。非特異的ハイブリダイゼーションのための一つ又は複数の適当な対照が、マイクロチップに含まれてもよい。この目的のために、任意の既知のmiRNAとの任意の相同性の非存在に基づいて、配列が選択される。
【0065】
マイクロアレイは、当技術分野で公知である技術を用いて作ることができる。例えば、適当な長さ、例えば40個のヌクレオチドのプローブオリゴヌクレオチドを、位置C6で5'-アミンで修飾し、市販のマイクロアレイ系、例えばGeneMachine
OmniGrid(商標)100 Microarrayer及びAmersham
CodeLink(商標)活性化スライドを用いてプリントする。標識プライマーで標的RNAを逆転写することによって、標的RNAに対応する標識cDNAオリゴマーを調製する。第一の鎖合成の後で、RNA/DNAハイブリッドを変性させてRNA鋳型を分解する。このように調製される標識標的cDNAは、次に、ハイブリダイゼーション条件下、例えば、25℃の6×SSPE/30%ホルムアミドで18時間、その後37℃の0.75×TNT(トリスHCl/NaCl/Tween 20)で40分間の洗浄によってマイクロアレイチップにハイブリダイズさせる。固定化プローブDNAが試料中の相補的標的cDNAを認識するアレイの上の位置で、ハイブリダイゼーションが起こる。標識標的cDNAは、アレイの上の結合が起こる正確な位置を示し、自動検出及び定量を可能にする。出力は、患者試料中の特異的cDNA配列の相対存在量、したがって、対応する相補的miRの相対存在量を示すハイブリダイゼーション事象のリストからなる。
【0066】
一実施形態によると、標識cDNAオリゴマーは、ビオチン標識プライマーから調製されるビオチン標識cDNAである。次に、マイクロアレイを、例えば、Streptavidin-Alexa647複合体を用いるビオチン含有転写産物の直接検出によって処理し、従来の走査法を利用して調べる。アレイの上の各スポットの画像強度は、患者試料中の対応するmiRの存在度に比例する。
【0067】
アレイの使用は、miRNA発現の検出のために、いくつかの利点を有する。第一に、数百の遺伝子の広範な発現を、一時点に同じ試料で同定することができる。第二に、オリゴヌクレオチドプローブの細心な設計を通して、成熟分子及び前駆体分子の両方の発現を同定することができる。第三に、ノーザンブロット分析と比較すると、チップは少量のRNAを必要とし、2.5μgの総RNAを用いて再現性のある結果を提供する。比較的限られた数(一種につき数百)のmiRNAが、各々のための異なるオリゴヌクレオチドプローブで、数種に共通するマイクロアレイの構築を可能にする。そのような道具は、様々な条件の下での、既知の各miRの種横断的発現の分析を可能にする。
【0068】
特異的miRの定量的発現レベルアッセイの利用に加えて、miR発現パターンの分析のために、miR遺伝子発現プロファイリングを実施するために、miRNomeの相当部分、好ましくはmiRNome全体に対応するmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロチップを使用することができる。異なるmiRサインを、確立された疾患マーカーと、又は疾患状態と直接関連付けることができる。
【0069】
本明細書で記載される発現プロファイリング方法により、試料中のRNAに相補的な一組の標識標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供するために、肺癌関連疾患を有することが疑われる対象からの試料由来の総RNAを、定量的に逆転写する。次に、試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供するために、標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズする。結果は、試料中のmiRNAの発現パターンを表す試料のハイブリダイゼーションプロファイルである。ハイブリダイゼーションプロファイルは、試料由来の標的オリゴデオキシヌクレオチドの、マイクロアレイ中のmiRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドへの結合からのシグナルを含む。プロファイルは、結合の有無(シグナル対ゼロシグナル)として記録することができる。
【0070】
より好ましくは、記録されるプロファイルは、各ハイブリダイゼーションからのシグナルの強度を含む。プロファイルを、正常な、すなわち、非癌性の対照試料から生成されるハイブリダイゼーションプロファイルと比較する。シグナルの変化は、対象における癌の存在、又はそれを発症する素因を示す。
【0071】
miR遺伝子発現を測定する他の技術も当分野の技術の範囲内であり、その例には、RNA転写及び分解の速度を測定するための様々な技術が含まれる。
【0072】
肺癌を有する対象の予後を判定する方法であって、肺癌関連疾患の特定の予後(例えば、良好又は陽性の予後、劣っているか悪い予後)と関連する、対象からの試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含む方法も、本明細書で提供される。
【0073】
これらの方法により、対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較して、試験試料中の特定の予後と関連するmiR遺伝子産物のレベルの変化は、対象が、特定の予後を有する肺癌を有することを示す。一実施形態では、miR遺伝子産物は、悪い(すなわち、劣る)予後と関連する。悪い予後の例には、低い生存率及び速やかな疾患進行が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態では、少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルは、対象から得られる試験試料由来のRNAを逆転写して一組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供すること、標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供すること、及び試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されるハイブリダイゼーションプロファイルと比較することによって測定される。
【0074】
任意の一つの理論に拘束されることを望むものではなく、細胞中の一つ又は複数のmiR遺伝子産物のレベルの変化は、これらのmiRの一つ又は複数の意図する標的の脱制御をもたらすことができると考えられ、それは肺癌の形成をもたらすことができる。したがって、(例えば、肺癌細胞で上方制御されているmiR遺伝子産物のレベルを低下させることによって、肺癌細胞で下方制御されているmiR遺伝子産物のレベルを上昇させることによって)miR遺伝子産物のレベルを変化させることは、肺癌の治療を成功させることができる。
【0075】
したがって、肺癌を有するかそれを有することが疑われる対象で腫瘍形成を抑制する方法であって、少なくとも一つのmiR遺伝子産物が対象の癌細胞で脱制御されている(例えば、下方制御又は上方制御されている)方法が、本明細書でさらに提供される。少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物が癌細胞で下方制御されている場合(例えば、miR-29ファミリー)、本方法は、対象における癌細胞の増殖が抑制されるように、少なくとも一つの単離されたmiR遺伝子産物、又はその単離された変異体又は生物学的活性断片の有効量を投与することを含む。
【0076】
例えば、miR遺伝子産物が対象の癌細胞で下方制御されている場合、単離したmiR遺伝子産物の有効量を対象に投与することは、癌細胞の増殖を抑制することができる。対象に投与される単離したmiR遺伝子産物は、癌細胞で下方制御される内因性の野生型miR遺伝子産物(例えば、miR遺伝子産物)と同一であってよく、又はそれは、その変異体又は生物学的活性断片であってもよい。
【0077】
本明細書で定義されるように、miR遺伝子産物の「変異体」は、対応する野生型miR遺伝子産物に100%未満の同一性を有し、対応する野生型miR遺伝子産物の一つ又は複数の生物活性を有するmiRNAを指す。そのような生物活性の例には、標的RNA分子の発現の抑制(例えば、標的RNA分子の翻訳を抑制すること、標的RNA分子の安定性を調節すること、標的RNA分子のプロセシングを抑制すること)、及び肺癌と関連する細胞過程(例えば、細胞分化、細胞増殖、細胞死)の抑制が含まれるが、これらに限定されない。これらの変異体には、種変異体、及びmiR遺伝子内の一つ又は複数の突然変異(例えば、置換、欠失、挿入)の結果である変異体が含まれる。ある実施形態では、変異体は、対応する野生型miR遺伝子産物に少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一である。
【0078】
本明細書で定義されるように、miR遺伝子産物の「生物学的活性断片」は、対応する野生型miR遺伝子産物の一つ又は複数の生物活性を有する、miR遺伝子産物のRNA断片を指す。上に述べたように、そのような生物活性の例には、標的RNA分子の発現の抑制、及び肺癌と関連する細胞過程の抑制が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態では、生物学的活性断片は、長さが少なくとも約5、7、10、12、15又は17個のヌクレオチドである。
【0079】
特定の実施形態では、単離したmiR遺伝子産物を、一つ又は複数の追加の抗癌治療法と組み合わせて対象に投与することができる。適する抗癌治療法には、化学療法、放射線療法及びそれらの組合せ(例えば、化学放射線療法)が含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
少なくとも一つの単離したmiR遺伝子産物が癌細胞で上方制御される場合、本方法は、癌細胞の増殖が抑制されるように、本明細書でmiR遺伝子発現抑制化合物と呼ばれる、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制するための少なくとも一つの化合物の有効量を、対象に投与することを含む。特定の実施形態では、少なくとも一つのmiR発現抑制化合物は、miR-29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せを含む、miR29ファミリーからなる群から選択されるmiR遺伝子産物に特異的である。
【0081】
本明細書で用いるように、用語「治療する」、「治療すること」及び「治療」は、疾患又は状態、例えば、肺癌と関連する症状を改善すること、例えば、疾患症状の開始を予防すること若しくは遅らせること、及び/又は疾患又は状態の症状の重症度若しくは頻度を低くすることを指す。本明細書で、用語「対象」、「患者」及び「個体」は、それらに限定されないが、霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、又は他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、齧歯動物又はマウスの種を含む、哺乳動物などの動物を含むと定義される。好ましい一実施形態では、動物はヒトである。
【0082】
本明細書で用いるように、単離したmiR遺伝子産物の「有効量」は、肺癌に罹患している対象で、癌細胞の増殖を妨げるのに十分な量である。当業者は、対象のサイズ及び体重;疾患侵食の範囲;対象の年齢、健康及び性別;投与経路;並びに、投与が局所性であるか全身性であるか、などの因子を考慮することによって、所与の対象に投与するmiR遺伝子産物の有効量を容易に判定することができる。
【0083】
例えば、単離したmiR遺伝子産物の有効量は、治療する腫瘤の概算重量に基づいて決めることができる。腫瘤の概算重量は、腫瘤の概算容量を計算することによって判定することができ、そこで、1立方センチメートルの容量は、おおよそ、1グラムと同等である。腫瘤の重量に基づく単離したmiR遺伝子産物の有効量は、腫瘤1グラムにつき約10〜500マイクログラムの範囲であってよい。ある実施形態では、腫瘤は、腫瘤1グラムにつき少なくとも約10マイクログラム、少なくとも約60マイクログラム、又は少なくとも約100マイクログラムであってよい。
【0084】
単離したmiR遺伝子産物の有効量は、治療する対象の概算又は推定体重に基づいて決めることもできる。本明細書で記載するように、好ましくは、そのような有効量は非経口的に、又は経腸的に投与される。例えば、対象に投与される単離したmiR遺伝子産物の有効量は、体重1kgにつき、約5〜約3000マイクログラムの範囲内、約700〜1000マイクログラムの範囲内、又は約1000マイクログラムを超えてもよい。
【0085】
当業者は、所与の対象への単離したmiR遺伝子産物の投与のための適当な投薬計画を、容易に決定することもできる。例えば、miR遺伝子産物を、対象に一回(例えば、単一の注射又はデポジションとして)投与してもよい。或いは、miR遺伝子産物を、約3〜約28日間、より詳細には約7〜約10日間、1日に一回又は二回対象に投与することができる。特定の投薬計画では、miR遺伝子産物は、1日に一回、7日間投与される。投薬計画が複数の投与を含む場合、対象に投与されるmiR遺伝子産物の有効量は、投薬計画全期間にわたって投与される遺伝子産物の総量を含むことができるものと理解される。
【0086】
本明細書で用いるように、「単離」したmiR遺伝子産物は、合成されたもの、又はヒト介入を通して天然の状態から変化させられたもの若しくは取り出されたものである。例えば、合成miR遺伝子産物、又はその天然の状態の共存物質から部分的若しくは完全に分離されたmiR遺伝子産物は、「単離」されているとみなされる。単離したmiR遺伝子産物は、実質的に精製された形で存在すること、又はmiR遺伝子産物が送達されている細胞に存在することができる。したがって、細胞に故意に送達されるかその中で発現されるmiR遺伝子産物は、「単離」されたmiR遺伝子産物とみなされる。miR前駆体分子から細胞中に生成されるmiR遺伝子産物も、「単離」された分子であるとみなされる。特定の一実施形態によると、本明細書に記載される単離したmiR遺伝子産物は、対象(例えば、ヒト)の肺癌を治療するための医薬の製造のために用いることができる。
【0087】
単離されたmiR遺伝子産物は、いくつかの標準の技術を用いて得ることができる。例えば、miR遺伝子産物は、当技術分野で公知である方法を用いて、化学的に合成するか、組換えで生成することができる。一実施形態では、miR遺伝子産物は、適当に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイト及び従来のDNA/RNAシンセサイザーを用いて、化学的に合成される。合成RNA分子又は合成試薬の商業的供給業者には、例えば、Proligo (Hamburg,
Germany)、Dharmacon Research (Lafayette, CO, U.S.A.)、Pierce Chemical (part of Perbio Science, Rockford, IL, U.S.A.)、Glen Research (Sterling, VA, U.S.A.)、ChemGenes
(Ashland, MA, U.S.A.)及びCruachem (Glasgow, UK)が含まれる。
【0088】
或いは、任意の適するプロモーターを用いて、miR遺伝子産物を、組換え体環状又は線状DNAプラスミドから発現させることができる。プラスミドからRNAを発現させるために適するプロモーターには、例えば、U6若しくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列、又はサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の適するプロモーターの選択は、当分野の技術の範囲内である。本発明の組換え体プラスミドは、癌細胞でのmiR遺伝子産物の発現のための、誘導可能又は制御可能なプロモーターを含むこともできる。
【0089】
組換え体プラスミドから発現されるmiR遺伝子産物は、標準の技術によって培養細胞発現系から単離することができる。組換え体プラスミドから発現されるmiR遺伝子産物は、癌細胞に送達すること、及びそこで直接発現させることもできる。miR遺伝子産物を癌細胞に送達するための組換え体プラスミドの使用を、下でさらに詳細に述べる。
【0090】
miR遺伝子産物を別々の組換え体プラスミドから発現させることができ、又はそれらを同じ組換え体プラスミドから発現させることができる。一実施形態では、miR遺伝子産物は単一のプラスミドからRNA前駆体分子として発現され、前駆体分子は、それに限定されないが癌細胞中に現存しているプロセシング系を含む適するプロセシング系によって、機能的miR遺伝子産物にプロセシングされる。他の適するプロセシング系には、例えば、in
vitroのショウジョウバエ細胞溶解物系(例えば、その全開示が参照により本明細書に組み込まれるTuschlらの米国特許出願公開第2002/0086356号に記載されているような)、及び大腸菌RNアーゼIII系(例えば、その全開示が参照により本明細書に組み込まれるYangらの米国特許出願公開第2004/0014113号に記載されているような)が含まれる。
【0091】
miR遺伝子産物を発現するのに適するプラスミド、遺伝子産物を発現させるために核酸配列をプラスミドに挿入する方法、及び、対象とする細胞に組換え体プラスミドを送達する方法の選択は、当分野の技術の範囲内である。例えば、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる、Zengら(2002), Molecular Cell 9:1327-1333、Tuschl (2002), Nat. Biotechnol, 20:446-448、Brummelkampら(2002), Science 296:550-553、Miyagishiら(2002), Nat. Biotechnol. 20:497-500、Paddisonら(2002), Genes Dev. 16:948-958、Leeら(2002), Nat. Biotechnol. 20:500-505及びPaulら(2002), Nat. Biotechnol. 20:505-508を参照。
【0092】
一実施形態では、miR遺伝子産物を発現するプラスミドは、CMV中間-初期プロモーターの制御下のmiR前駆体RNAをコードする配列を含む。本明細書で用いるように、プロモーターの「制御下」は、miR遺伝子産物をコードする核酸配列がプロモーターの3'に位置し、その結果、プロモーターがmiR遺伝子産物コード配列の転写を開始することができることを意味する。
【0093】
miR遺伝子産物は、組換え体ウイルスベクターから発現させることもできる。miR遺伝子産物を二つの別々の組換え体ウイルスベクターから、又は同じウイルスベクターから発現させることができると考えられる。組換え体ウイルスベクターから発現されるRNAは、標準の技術によって培養細胞発現系から単離すること、又は癌細胞で直接発現させることができる。miR遺伝子産物を癌細胞に送達するための組換え体ウイルスベクターの使用を、下でさらに詳細に述べる。
【0094】
本発明の組換え体ウイルスベクターは、miR遺伝子産物及び、RNA配列を発現するのに適する任意のプロモーターをコードする配列を含む。適するプロモーターには、それらに限定されないが、U6若しくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列、又はサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。他の適するプロモーターの選択は、当分野の技術の範囲内である。本発明の組換え体ウイルスベクターは、癌細胞でのmiR遺伝子産物の発現のための、誘導可能又は制御可能なプロモーターを含むこともできる。
【0095】
miR遺伝子産物のコード配列を受け入れることができる任意のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス(AV);アデノ随伴ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス);ヘルペスウイルスなどに由来するベクターを用いることができる。ウイルスベクターの親和性は、他のウイルス由来のエンベロープタンパク質若しくは他の表面抗原でベクターをシュードタイピングすることによって、又は異なるウイルスキャプシドタンパク質を適宜置換することによって修飾することができる。
【0096】
例えば、本発明のレンチウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病、エボラ、マコラなどに由来する表面タンパク質でシュードタイピングすることができる。本発明のAAVベクターは、異なるキャプシドタンパク質血清型を発現するようにベクターを工作することによって、異なる細胞を標的にさせることができる。例えば、血清型2のゲノムの上で血清型2のカプシドを発現するAAVベクターは、AAV 2/2と呼ばれる。AAV 2/2ベクター内のこの血清型2のカプシド遺伝子を血清型5カプシド遺伝子によって置換して、AAV 2/5ベクターを生成することができる。異なるキャプシドタンパク質血清型を発現するAAVベクターを構築する技術は、当分野の技術の範囲内である。例えば、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる、Rabinowitz, J.E.,ら(2002), J. Virol.
76:791-801を参照。
【0097】
本発明で使用するのに適する組換え体ウイルスベクター、RNAを発現するための核酸配列をベクターに挿入するための方法、対象とする細胞にウイルスベクターを送達する方法の選択、及び発現されたRNA産物の回復は、当分野の技術の範囲内である。例えば、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる、Dornburg (1995), Gene Therapy 2:301-310、Eglitis
(1988), Biotechniques 6:608-614、Miller (1990), Hum.
Gene Therapy 1:5-14及びAnderson (1998), Nature 392:25-30を参照。
【0098】
特に適するウイルスベクターは、AV及びAAVに由来するそれらである。miR遺伝子産物を発現するのに適するAVベクター、組換え体AVベクターを構築する方法、及び標的細胞にベクターを送達する方法が、Xiaら(2002), Nat. Biotech. 20:1006-1010に記載され、その全開示は、参照により本明細書に組み込まれる。miR遺伝子産物を発現するのに適するAAVベクター、組換え体AAVベクターを構築する方法、及び標的細胞にベクターを送達する方法が、Samulskiら(1987), J. Virol. 61:3096-3101、Fisherら(1996), J. Virol., 70:520-532、Samulskiら(1989), J. Virol. 63:3822-3826、米国特許第5,252,479号、米国特許第5,139,941号、国際特許出願公開第94/13788号及び国際特許出願公開第93/24641号に記載され、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。一実施形態では、miR遺伝子産物は、CMV中間初期プロモーターを含む単一の組換え体AAVベクターから発現される。
【0099】
ある実施形態では、本発明の組換え体AAVウイルスベクターは、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下のpolyT終止配列と機能的に連結しているmiR前駆体RNAをコードする核酸配列を含む。本明細書で用いるように、「polyT終止配列と機能的に連結している」は、センス鎖又はアンチセンス鎖をコードする核酸配列が、5'の方向のpolyT終止シグナルに直に隣接していることを意味する。ベクターからのmiR配列の転写の間、polyT終止シグナルは、転写を終了する作用をする。
【0100】
本発明の治療方法の他の実施形態では、miR発現を抑制する少なくとも一つの化合物の有効量を、対象に投与することができる。本明細書で用いるように、「miR発現を抑制する」は、治療後のmiR遺伝子産物の前駆体及び/又は活性のある成熟した形態の生成が、治療前の生成量よりも少ないことを意味する。miR発現が癌細胞で抑制されているかどうかについて、当業者は、例えば、診断方法について上で述べたmiR転写産物のレベルを判定するための技術を用いて、容易に判定することができる。抑制は、遺伝子発現のレベルで(すなわち、miR遺伝子産物をコードするmiR遺伝子の転写を抑制することによって)、又はプロセシングのレベルで(例えば、成熟した活性miRへのmiR前駆体のプロセシングを抑制することによって)起こることができる。
【0101】
本明細書で用いるように、miR発現を抑制する化合物の「有効量」は、癌(例えば、肺癌)に罹患している対象で、癌細胞の増殖を妨げるのに十分な量である。当業者は、対象のサイズ及び体重;疾患侵食の範囲;対象の年齢、健康及び性別;投与経路;並びに、投与が局所性であるか全身性であるか、などの因子を考慮することによって、所与の対象に投与するmiR発現抑制化合物の有効量を容易に判定することができる。
【0102】
例えば、発現抑制化合物の有効量は、上述したように、治療する腫瘤の概算重量に基づいて決めることができる。上述したように、miR発現を抑制する化合物の有効量は、治療する対象の概算又は推定体重に基づいて決めることもできる。
【0103】
当業者は、所与の対象へのmiR発現抑制化合物の投与のための適当な投薬計画を、容易に決定することもできる。
【0104】
miR遺伝子発現を抑制するのに適する化合物には、二本鎖RNA(例えば、short-若しくはsmall-interfering
RNAすなわち「siRNA」)、アンチセンス核酸、及びリボザイムなどの酵素RNA分子が含まれる。これらの化合物の各々は、所与のmiR遺伝子産物を標的にさせることができ、標的miR遺伝子産物の発現を妨害すること(例えば、その翻訳を妨げること、その切断若しくは破壊を誘導すること)ができる。
【0105】
例えば、所与のmiR遺伝子の発現は、miR遺伝子産物の少なくとも一部と、少なくとも90%、例えば少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列相同性を有する単離二本鎖RNA(「dsRNA」)分子を有するmiR遺伝子のRNA干渉を誘導することによって、抑制することができる。特定の実施形態では、dsRNA分子は、「short若しくはsmall
interfering RNA」すなわち「siRNA」である。
【0106】
本方法で有用なsiRNAは、長さが約17〜約29個のヌクレオチド、好ましくは約19〜約25個のヌクレオチドの短い二本鎖RNAを含む。siRNAは、標準のワトソンクリック塩基対合相互作用(以下「塩基対」)によって一緒にアニールさせた、センスRNA鎖及び相補的アンチセンスRNA鎖を含む。センス鎖は、標的miR遺伝子産物中に含まれる核酸配列と実質的に同一の核酸配列を含む。
【0107】
本明細書で用いるように、標的mRNAに含まれる標的配列に「実質的に同一である」siRNA中の核酸配列は、標的配列と同一であるか、又は1、2個のヌクレオチドが標的配列と異なる核酸配列である。siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、二つの相補的な一本鎖RNA分子を含むこと、又は二つの相補的部分が塩基対を形成して一本鎖「ヘアピン」領域によって共有結合している単一分子を含むことができる。
【0108】
siRNAは、一つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は変更によって天然のRNAと異なる、変化させたRNAであってもよい。そのような変化には、例えばsiRNAの一つ又は複数の末端への、又はsiRNAの一つ又は複数の内部ヌクレオチドへの非ヌクレオチド物質の付加、或いは、ヌクレアーゼ分解にsiRNAを耐性にする修飾、或いはデオキシリボヌクレオチドによるsiRNAの一つ又は複数のヌクレオチドの置換を含めることができる。
【0109】
siRNAの片方又は両方の鎖は、3'突出部を含むこともできる。本明細書で用いるように、「3'突出部」は、二重RNA鎖の3'末端から延長する、少なくとも一つの対未形成のヌクレオチドを指す。したがって、ある実施形態では、siRNAは、長さが1〜約6個のヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含む)、長さが1〜約5個のヌクレオチド、長さが1〜約4個のヌクレオチド、又は長さが約2〜約4個のヌクレオチドの、少なくとも一つの3'突出部を含む。特定の実施形態では、3'突出部はsiRNAの両方の鎖に存在し、長さは2個のヌクレオチドである。例えば、siRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)又はジウリジル酸(「uu」)の3'突出部を含むことができる。
【0110】
単離miR遺伝子産物について上に述べたように、siRNAは、化学的若しくは生物学的に生成すること、又は組換え体プラスミド若しくはウイルスのベクターから発現させることができる。dsRNA又はsiRNA分子を生成及び試験するための例示的な方法は、Gewirtzの米国特許出願公開第2002/0173478号及びReichらの米国特許出願公開第2004/0018176号に記載され、その両方の全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0111】
所与のmiR遺伝子の発現は、アンチセンス核酸によって抑制することもできる。本明細書で用いるように、「アンチセンス核酸」は、RNA-RNA、RNA-DNA又はRNA-ペプチド核酸相互作用によって標的RNAに結合する、標的RNAの活性を変化させる核酸分子を指す。本方法で使用するのに適するアンチセンス核酸は、miR遺伝子産物中の連続核酸配列に相補的である核酸配列を一般に含む、一本鎖核酸(例えば、RNA、DNA、RNA-DNAキメラ、ペプチド核酸(PNA))である。アンチセンス核酸は、miR遺伝子産物中の連続核酸配列に50〜100%相補的、75〜100%相補的又は95〜100%相補的である核酸配列を含むことができる。
【0112】
任意の理論に拘束されることを望むものではないが、アンチセンス核酸は、miR遺伝子産物/アンチセンス核酸二重鎖を消化する、RNアーゼH又は別の細胞ヌクレアーゼを活性化すると考えられている。
【0113】
アンチセンス核酸は、標的特異性、ヌクレアーゼ耐性、分子の効力に関係する送達又は他の特性を高めるために、核酸骨格又は糖及び塩基部分(又はそれらの同等物)に対する修飾を含むこともできる。そのような修飾には、コレステロール部分、二重インターカレータ、例えばアクリジン、又は一つ又は複数のヌクレアーゼ耐性基が含まれる。
【0114】
単離miR遺伝子産物について上に述べたように、アンチセンス核酸は、化学的若しくは生物学的に生成すること、又は組換え体プラスミド若しくはウイルスベクターから発現させることができる。生成及び試験のための例示的な方法は、当分野の技術の範囲内である。例えば、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる、Stein and Cheng (1993), Science 261:1004及びWoolfらの米国特許第5,849,902号を参照。
【0115】
所与のmiR遺伝子の発現は、酵素性核酸によって抑制することもできる。本明細書で用いるように、「酵素性核酸」は、miR遺伝子産物中の連続核酸配列に相補性を有し、miR遺伝子産物を特異的に切断することができる、基質結合領域を含む核酸を指す。酵素性核酸の基質結合領域は、miR遺伝子産物中の連続核酸配列に、例えば、50〜100%相補的、75〜100%相補的又は95〜100%相補的であってよい。酵素性核酸は、塩基、糖及び/又はリン酸基の修飾を含むこともできる。
【0116】
本明細書の実施例に記載のように、本方法で用いるための例示的な酵素性核酸には、DNMT3A及びDNMT3Bを含むde novoメチルトランスフェラーゼが含まれる。
【0117】
単離miR遺伝子産物について上に述べたように、酵素性核酸は、化学的若しくは生物学的に生成すること、又は組換え体プラスミド若しくはウイルスのベクターから発現させることができる。dsRNA又はsiRNA分子の生成及び試験のための例示的な方法は、Werner and Uhlenbeck (1995), Nucl. Acids Res. 23:2092-96、Hammannら(1999), Antisense and Nucleic Acid
Drug Dev. 9:25-31、及びCechらの米国特許第4,987,071号に記載され、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物、又はmiR発現を抑制するための少なくとも一つの化合物の投与は、肺癌を有する対象での癌細胞の増殖を妨げる。
【0119】
本明細書で用いるように、「癌細胞の増殖を抑制する」ことは、細胞を殺傷すること、又は永久若しくは一時的に細胞の増殖を停止させるか、遅らせることを意味する。miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物の投与の後、対象でそのような細胞の数が一定であるか又は減少するならば、癌細胞の増殖の抑制を推測することができる。そのような細胞の無名数は増加するが、腫瘍増殖速度が低下する場合も、癌細胞増殖の抑制を推測することができる。
【0120】
対象の体内の癌細胞の数は、直接測定によって、又は原発性若しくは転移性の腫瘤のサイズからの推定によって判定することができる。例えば、対象における癌細胞の数は、免疫組織学的方法、フローサイトメトリー、又は癌細胞の特徴的な表面マーカーを検出するように設計された、他の技術によって測定することができる。
【0121】
腫瘤サイズは、直接目視観察によって、又は画像診断方法、例えばX線、磁気共鳴画像法、超音波及びシンチグラフィーによって確認することができる。当技術分野で公知であるように、腫瘤サイズを確認するために用いられる画像診断法は、造影剤と一緒に、又は造影剤なしで使用することができる。腫瘤サイズは、組織塊の触診、又はキャリパーなどの計器による組織塊の測定などの、物理的手段によって確認することもできる。
【0122】
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、対象の癌細胞にこれらの化合物を送達するのに適する任意の手段によって対象に投与することができる。例えば、miR遺伝子産物又はmiR発現抑制化合物は、これらの化合物、又はこれらの化合物をコードする配列を含む核酸を対象の細胞にトランスフェクトするのに適する方法によって投与することができる。
【0123】
一実施形態では、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物をコードする配列を含むプラスミド若しくはウイルスベクターを細胞にトランスフェクトする。
【0124】
真核生物の細胞のためのトランスフェクション方法は当技術分野で公知であり、その例には、例えば、細胞の核又は前核への核酸の直接注入;エレクトロポレーション;リポソーム転移又は親油性物質によって媒介される転移;受容体媒介核酸送達、生物弾道又は粒子加速;リン酸カルシウム沈殿及びウイルスベクターによって媒介されるトランスフェクションが含まれる。
【0125】
例えば、細胞は、リポソーム転移化合物、例えば、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチルサルフェート、Boehringer-Mannheim)又はLIPOFECTINなどの同等物をトランスフェクトすることができる。用いる核酸の量は、本発明の実施に重大でない。105個の細胞につき0.1〜100マイクログラムの核酸で、許容される結果を達成することができる。例えば、105の細胞につき3マイクログラムのDOTAP中に、約0.5マイクログラムのプラスミドベクターの割合を用いることができる。
【0126】
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、任意の適する腸内又は非経口投与経路によって、対象に投与することもできる。本方法に適する腸内投与経路には、例えば、経口、直腸又は鼻腔内送達が含まれる。適する非経口投与経路には、例えば、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入及び血管系へのカテーテル滴下);組織の周囲及び内部への注射(例えば、腫瘍周囲及び腫瘍内注射、網膜内注射又は網膜下注射);皮下注入(例えば浸透ポンプによる)を含む皮下注射又はデポジション;例えばカテーテル又は他の配備装置(例えば、網膜ペレット又は坐薬、又は多孔性、非多孔性若しくはゼリー状の物質を含むインプラント)による対象とする組織への直接適用;並びに吸入が含まれる。特に適する投与経路は、腫瘍への注射、注入及び直接注入である。
【0127】
本方法では、miR遺伝子産物又はmiR遺伝子産物発現抑制化合物は、裸のRNAとして、送達試薬と一緒に、又はmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子産物発現抑制化合物を発現する配列を含む核酸(例えば、組換え体プラスミド又はウイルスベクター)として、対象に投与することができる。適する送達試薬には、例えば、Mirus
Transit TKO親油性試薬;リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;ポリカチオン(例えば、ポリリジン)及びリポソームが含まれる。
【0128】
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物を発現する配列を含む組換え体プラスミド及びウイルスベクター、並びにそのようなプラスミド及びベクターを癌細胞に送達する技術は、本明細書で論じられ、及び/又は当技術分野で公知である。
【0129】
特定の実施形態では、対象にmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む核酸)を送達するために、リポソームが用いられる。リポソームは、遺伝子産物又は核酸の血中半減期を長くすることもできる。本発明に用いるのに適するリポソームは、標準の小胞形成脂質から形成することができ、それらには、中性又は負荷電のリン脂質及びコレステロールなどのステロールが一般に含まれる。脂質の選択は、所望のリポソームサイズ及び血流中のリポソームの半減期などの因子を考慮することによって、一般に導かれる。リポソームを調製するために様々な方法が公知であり、例えば、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる、Szokaら(1980), Ann. Rev. Biophys. Bioeng.
9:467、並びに、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号及び第5,019,369号に記載されている。
【0130】
本方法に用いられるリポソームは、リポソームの標的を癌細胞にするリガンド分子を含むことができる。癌細胞に一般的な受容体に結合するリガンド、例えば腫瘍細胞抗原に結合するモノクローナル抗体が好ましい。
【0131】
本方法に用いられるリポソームは、単核マクロファージ系(「MMS」)及び細網内皮系(「RES」)によるクリアランスを回避するように修飾することもできる。そのような修飾されたリポソームは、表面に、又はリポソーム構造に組み込まれたオプソニン化抑制部分を有する。特に好ましい実施形態では、本発明のリポソームは、オプソニン化抑制部分及びリガンドの両方を含むことができる。
【0132】
本発明のリポソームを調製するのに用いるオプソニン化抑制部分は、一般的に、リポソーム膜に結合している大きな親水性重合体である。本明細書で用いるように、それが、例えば、膜自体への脂溶性アンカーのインターカレーションによって、又は膜脂質の活性基に直接結合することによって、化学的又は物理的に膜に結合している場合、オプソニン化抑制部分はリポソーム膜に「結合」している。これらのオプソニン化抑制親水性重合体は、例えば、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,920,016号に記載されているように、MMS及びRESによるリポソームの取込みを有意に減少させる、保護表面層を形成する。
【0133】
リポソームを修飾するのに適するオプソニン化抑制部分は、好ましくは、約500〜約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの数平均分子量を有する水溶性重合体である。そのような重合体には、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えば、メトキシPEG又はPPG及びステアリン酸PEG又はPPG;合成ポリマー、例えばポリアクリルアミド又はポリN-ビニルピロリドン;線状、分枝状、又はデンドリマーのポリアミドアミン;ポリアクリル酸;多価アルコール、例えば、カルボキシル基又はアミノ基が化学的に連結しているポリビニルアルコール及びポリキシリトール、並びに、ガングリオシドGM1などのガングリオシドが含まれる。PEG、メトキシPEG又はメトキシPPG、又はそれらの誘導体の共重合体も適する。さらに、オプソニン化抑制重合体は、PEGとポリアミノ酸、多糖、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン又はポリヌクレオチドとのブロック共重合体であってもよい。オプソニン化抑制重合体は、アミノ酸又はカルボン酸を含有する天然の多糖類、例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナン;アミノ化多糖類又はオリゴ糖(直鎖又は分岐状);又はカルボキシ化多糖類又はオリゴ糖、例えば、炭酸の誘導体と反応した結果カルボキシル基が連結したものであってもよい。好ましくは、オプソニン化抑制部分は、PEG、PPG又はそれらの誘導体である。PEG又はPEG誘導体で修飾されたリポソームは、「ペグ化リポソーム」と呼ばれることもある。
【0134】
オプソニン化抑制部分は、多数の公知技術のいずれか一つによって、リポソーム膜に結合させることができる。例えば、PEGのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジルエタノールアミン脂溶性アンカーに結合させ、次に膜に結合させることができる。同様に、デキストラン重合体は、60℃において、Na(CN)BH3及び30:12の比率のテトラヒドロフランと水などの溶媒混合液を用いて、還元アミノ化を通してステアリルアミン脂溶性アンカーで誘導体化することができる。
【0135】
オプソニン化抑制部分で修飾されたリポソームは、修飾されていないリポソームよりずっと長い時間循環中に残留する。この理由から、そのようなリポソームは、「ステルス」リポソームと呼ばれることがある。ステルスリポソームは、多孔性又は「漏出性」の微小血管系によって養われる組織に集積することが知られている。したがって、そのような微小血管系の欠陥を特徴とする組織、例えば肺腫瘍は、これらのリポソームを効率的に集積する。Gabizon,ら(1988), Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 18:6949-53を参照。さらに、RESによる取込みの減少は、肝臓及び脾臓へのリポソームの有意の蓄積を抑制することによって、ステルスリポソームの毒性を低下させる。したがって、オプソニン化抑制部分で修飾されているリポソームは、miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む核酸)を腫瘍細胞に送達するのに特に適している。
【0136】
miR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物は、それらを対象に投与する前に、当分野の公知技術によって、「医薬品」とも呼ばれる医薬組成物として製剤化してもよい。したがって、本発明は、肺癌を治療するための医薬組成物を包含する。
【0137】
一実施形態では、医薬組成物は、少なくとも一つの単離miR遺伝子産物、又は単離されたその変異体若しくは生物学的活性断片、及び薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態では、少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、適する対照細胞と比較して肺癌細胞で低下した発現レベルを有するmiR遺伝子産物に対応する。ある実施形態では、単離されたmiR遺伝子産物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0138】
他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、少なくとも一つのmiR発現抑制化合物を含む。特定の実施形態では、少なくとも一つのmiR遺伝子発現抑制化合物は、その発現が対照細胞よりも肺癌細胞で高いmiR遺伝子に特異的である。ある実施形態では、miR遺伝子発現抑制化合物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiR遺伝子産物に特異的である。
【0139】
本発明の医薬組成物は、少なくとも無菌で、発熱物質を含有しないことを特徴とする。本明細書で用いるように、「医薬組成物」には、ヒト及び獣医での使用のための製剤が含まれる。本発明の医薬組成物を調製する方法は当分野の技術の範囲内であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing
Company, Easton, Pa. (1985)に記載され、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0140】
本医薬組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)(例えば、0.1〜90重量%)、又はその生理的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と混合されて含む。ある実施形態では、本発明の医薬組成物は、一つ又は複数の抗癌剤(例えば、化学療法剤)をさらに含む。本発明の医薬製剤は、リポソームに封入されている少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)、及び薬学的に許容される担体を含むこともできる。一実施形態では、医薬組成物は、miR遺伝子、又はmiR29a、miR-29b及びmiR-29cの一つ又は複数である遺伝子産物を含む。
【0141】
特に適する薬学的に許容される担体は、水、緩衝水、通常の生理食塩水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などである。
【0142】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、ヌクレアーゼによる分解に耐性である、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)を含む。
【0143】
当業者は、例えば2'位置が修飾されている一つ又は複数のリボヌクレオチドをmiR遺伝子産物に組み込むことによって、ヌクレアーゼ耐性の核酸を容易に合成することができる。適する2'修飾リボヌクレオチドには、フルオロ、アミノ、アルキル、アルコキシ及びO-アリルで2'位置が修飾されたものが含まれる。
【0144】
本発明の医薬組成物は、従来の薬用の賦形剤及び/又は添加剤を含むこともできる。適する薬用賦形剤には、安定剤、抗酸化剤、モル浸透圧調節剤、緩衝剤及びpH調節剤が含まれる。適する添加剤には、例えば、生理的に生体適合性の緩衝剤(例えば、トロメタミン塩酸塩)、キラント(chelant)(例えばDTPA若しくはDTPA-ビスアミド)若しくはカルシウムキレート錯体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA-ビスアミド)の添加、又は任意選択で、カルシウム塩若しくはナトリウム塩(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム若しくは乳酸カルシウム)の添加が含まれる。本発明の医薬組成物は、液体状態で使用するために包装すること、又は凍結乾燥することができる。
【0145】
本発明の固体の医薬組成物のために、従来の無毒固体の薬学的に許容される担体、例えば、薬用等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、滑石、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどを用いることができる。
【0146】
例えば、経口投与のための固体医薬組成物は、上記の担体及び賦形剤のいずれか、並びに、10〜95%、好ましくは25%〜75%の少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)を含むことができる。エアゾール(吸入)投与のための医薬組成物は、0.01〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の、上に述べたようにリポソームに封入されている少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)、及び噴射剤を含むことができる。所望により担体が、例えば、鼻腔内送達のためのレシチンが含まれてもよい。
【0147】
本発明の医薬組成物は、一つ又は複数の抗癌剤をさらに含むことができる。特定の実施形態では、組成物は、少なくとも一つのmiR遺伝子産物又はmiR遺伝子発現抑制化合物(又はそれらをコードする配列を含む少なくとも一つの核酸)、及び少なくとも一つの化学療法剤を含む。本発明の方法に適する化学療法剤には、DNAアルキル化剤、抗腫瘍抗生物質剤、抗代謝剤、チューブリン安定化剤、チューブリン不安定化剤、ホルモンアンタゴニスト剤、トポイソメラーゼ阻害剤、プロテインキナーゼ阻害剤、HMG-CoA阻害剤、CDK阻害剤、サイクリン阻害剤、カスパーゼ阻害剤、メタロプロテイナーゼ阻害剤、アンチセンス核酸、三重螺旋DNA、核酸アプタマー、及び分子的に修飾されたウイルス、細菌及び細菌外毒素の剤が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物に適する作用物質の例には、シチジンアラビノシド、メトトレキセート、ビンクリスチン、エトポシド(VP-16)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シスプラチン(CDDP)、デキサメタゾン、アルグラビン、シクロホスファミド、筋肉融解素、メチルニトロソ尿素、フルオロウラシル、5-フルオロウラシル(5FU)、ビンブラスチン、カンプトセシン、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、過酸化水素、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ロイコボリン、カルムスチン、ストレプトゾシン、CPT-11、タキソール、タモキシフェン、ダカルバジン、リツキシマブ、ダウノルビシン、1-R-D-アラビノフラノシルシトシン、イマチニブ、フルダラビン、ドセタキセル、FOLFOX4が含まれるが、これらに限定されない。
【0148】
腫瘍形成阻害剤を特定する方法であって、試験剤を細胞に提供して、細胞中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含む方法も、本明細書で提供される。一実施形態では、本方法は、試験剤を細胞に提供して、癌細胞中で低下した発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含む。適する対照細胞(例えば、作用物質が提供されていない)と比較して、試験剤の提供後の、細胞中のmiR遺伝子産物のレベルの増加は、試験剤が腫瘍形成の阻害剤であることを示す。特定の実施形態では、癌細胞で低下する発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0149】
他の実施形態では、本方法は、試験剤を細胞に提供して、癌細胞中で増加した発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含む。適する対照細胞(例えば、作用物質が提供されていない)と比較して、試験剤の提供後の、細胞中のmiR遺伝子産物のレベルの低下は、試験剤が腫瘍形成の阻害剤であることを示す。特定の実施形態では、癌細胞で増加する発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物は、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0150】
適する作用物質には、薬剤(例えば、小分子、ペプチド)及び生体高分子(例えば、タンパク質、核酸)が含まれるが、これらに限定されない。作用物質は、組換えで、合成的に生成することができ、又はそれは、天然の源から単離(すなわち、精製)することができる。そのような作用物質を細胞に提供するための様々な方法(例えば、トランスフェクション)が当技術分野で公知であり、そのような方法のいくつかは上に記載されている。少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を検出するための方法(例えば、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、RT-PCR、発現プロファイリング)も、当技術分野で公知である。これらの方法のいくつかも、上に記載されている。
【0151】
次に、本発明を、以下の非限定的実施例で例示する。
【実施例1】
【0152】
miR-29の発現は、肺癌患者におけるDNMT3A及び3Bと逆相関している。さらに、miR-29は、DNMT3A及び3Bの両方を直接標的にする。肺癌細胞系においてmiR-29を強制発現させることにより、正常のDNAメチル化パターンが回復し、FHIT及びWWOX14などの、メチル化によって発現抑制された腫瘍抑制遺伝子(TSG)の再発現が誘導され、in vitro及びin vivoの両方において腫瘍形成能が抑制される。
【0153】
これらの知見は、NSCLCのエピジェネティックな制御におけるmiR-29の役割を裏付け、肺癌治療のためのmiRを基盤にした戦略の進展のための論理的根拠を提供する。
【0154】
非腫瘍性/初期のNSCLCと一致した172の組織対を組織マイクロアレイ(TMA)の免疫組織化学的分析により分析した。図5に示すように、DNMT3Aタンパク質のより高い発現は、有意に全生存の低下に関連していた(P=0.029)。生存との統計的に有意な相関は、この患者集団におけるDNMT1及びDNTM3Bでは観察されなかった。
【0155】
in vivoでこれらのmiRNA標的の相互作用を検証するために、DNMT3A及びDNTM3Bの相補部位は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の3'UTRにクローン化し、A459(NSCLC)細胞中にmiR-29a、mi-R29b又はmiR-29cを共トランスフェクトした。
【0156】
図2aに示されているように、すべての三つのmiRNA(miR-29a、mi-R29b又はmiR-29c)は、有意にスクランブルオリゴヌクレオチドに対してルシフェラーゼ活性を低下させた。それぞれのmiR-29配列の異所性発現が内在性DNMT3A及びDNTM3BのmRNAレベルの下方制御を引き起こすかどうかを評価するために、スクランブルRNA又はmiR-29をトランスフェクトした、肺癌由来細胞A549及びH1299における定量的RT-PCR(qRT-PCR)も実行した。
【0157】
それぞれのmiR-29の過剰発現は、DNMT3A及びDNMT3BのmRNAレベルの著しい低下を引き起こし(図2b、上部)、一方、アンチセンス分子を用いたmiR-29の発現抑制は、DNMT3A及びDNMT3BのmRNAレベルの上方制御を引き起こした(図2b、下部)(結果はA549細胞についてのみ示している)。
【0158】
miR-29の過剰発現がDnmt3A及び3Bタンパク質の発現を下方制御できることを示すために、GFP-レポーターベクターであるQBI-GFP25を使用した。
【0159】
簡潔には、QBI-GFP25ベクターのGFPコード配列の下流にDNMT3A及びDNMT3Bの3'UTRをクローン化し、DNMT3A又はDNMT3Bの3'UTRを含む融合GFPタンパク質の発現を可能にした。A549細胞には、GFP-3A/3B-3'UTR-ベクターに加えて、miR-29a、29b、29c又はスクランブルオリゴヌクレオチドを共トランスフェクトした。GFPタンパク質発現の著しい低下は、miR-29をトランスフェクトした細胞で観察され(図2c)、特にGFP-3B-3'UTRタンパク質で顕著であり;このタンパク質発現の結果は、内在性DNMT3BのmRNAがmiR-29の発現によってより有意に低下するという、qRT-PCRにより得られた結果(図2b)と一致した。
【0160】
理論に拘束されることを望むものではないが、DNMT3Aに比べてDNMT3Bが優先的に発現低下するのは、おそらく3A 3'-UTR(各miR-29に対して一つ)より3B
3'-UTR(29aに対して三つ、29bに対して一つ、29cに対して一つ)と予測的に一致するmiR-29の「シード」の数が全体的に多いからではないかと、現在考えられる。
【0161】
さらに、DNMT3B 3'UTRは、miR-29a及び29b/cの一致に対してわずか一ヌクレオチドしか違わない一致部位を示す。したがって、miRNAが一つの遺伝子中の複数の標的部位を通して協調的に働く場合があるという「協調原則」によれば10、23、miR-29ファミリーの任意のメンバーをトランスフェクトすることにより、DNMT3AよりもDNMT3Bの抑制がより強くなる可能性がある。
【0162】
miR-29bとDNMT3B
3'UTRとの直接的で機能的な相互作用を示すために、最近説明された検出方法は、内在性の細胞質プライマーとしてmiRNAを用いてmRNA鋳型上にcDNAを合成することにより、真核生物細胞中のmiRNA-mRNA複合体を検出するために用いられた24。内在性miR-29bは、3'UTRと相互作用するPictar予測サイトで8、DNMT3B mRNAの逆転写を開始する「ナチュラル」プライマーとして機能することができる(図2d)。
【0163】
次いで、一次NSCLC組織において、DNMT3A及びDNMT3BのmRNAの発現が、miR-29レベルと逆相関しているかどうかを測定した。14個のNSCLCについて、qRT-PCRにより、DNMT3A及びDNMT3BのmRNAの発現レベル及びmiR-29a、29b、29cの発現を分析した25。統計的に有意な逆相関(図6)が、DNMT3A mRNAとmiR-29a(P=0.02)及びmiR-29c(P=0.02)の間で観察された。
【0164】
類似の逆相関が、DNMT3B mRNAレベルとmiR-29a(P=0.02)及びmiR-29c(P=0.04)について観察された。DNMT3A及びDNMT3BのmRNAレベルとmiR-29bレベルが逆相関になる傾向はあったが、この関連は統計的に有意ではなく(DNMT3A
P=0.14、DNMT3B P=0.09)、その原因は、分析した癌の数が少ないことか、又はmiR-29aと29cが一つの染色体、それぞれ7番と1番染色体の位置のみから転写されるが、成熟miR-29bは異なる染色体上、miR-29b-1/miR-29aクラスターは7q32.3上、miR-29b-2/miR-29cクラスターは1q32.2上の二つの異なる第一転写物から転写されることである可能性がある。miR-29bの成熟産物を測定するqRT-PCRに用いられるプローブでは、29b-1又は29b-2遺伝子産物を区別することはできない。
【0165】
miR-29がDNMT3A及びDNMT3Bを標的にしているという発見は、これらのmiRNAの発現が癌におけるDNAのエピジェネティックな修飾の一因になっていることを示す。この問題に取り組むために、A549細胞にmiR-29a、miR-29b、miR-29c又はスクランブルオリゴヌクレオチドをトランスフェクトし、LCMS/MS法を用いて48及び72時間後の広範なDNAメチル化を分析した26
【0166】
図3aに示されているように、すべての三つのmiR-29は、対照に対して広範なDNAメチル化を低下させた。miR-29bについてより強い効果が見られ、48時間後は30%の低下、72時間後は40%の低下が見られた。miR-29bを処理した細胞中に観察された全体のメチル化の低下の割合は、デシタビンなどのDNMT1阻害剤で観察されたものに相当し26、どちらかの方法で部分的である。理論に拘束されることを望むものではないが、現在、デシタビン(又は他のヌクレオシド類似体)とmiR-29とを併用してより強い全DNA低メチル化が達成され、それによってde novoDNMT経路及びDNMT経路の維持が妨害されると考えられる。
【0167】
遺伝子発現へのメチル化変化の影響の特性を明らかにするために、肺癌におけるプロモーターのメチル化により頻繁に発現抑制される二つのTSG、FHIT及びWWOX14のmRNA発現レベルを分析した。
【0168】
図3b上図に示されているように、A549細胞をトランスフェクトして48時間後では、FHIT発現は、miR-29a、29b及び29cの発現により、それぞれ約65%、89%及び74%上昇し、WWOXのmRNAレベルは、miR-29a及び29bによりそれぞれ約40%及び60%上昇し;類似の傾向が、H1299細胞において観察された(図3b、下図)。
【0169】
FHIT及びWWOXタンパク質の両方の発現の上昇もまた、両細胞系で観察された(図3c)。
【0170】
FHIT及びWWOX遺伝子のプロモーターのメチル化の改変により、miR-29がこれらの遺伝子の発現を制御しているかどうかを決定するために、miR-29bをトランスフェクトしたA549及びH1299細胞においてMassARRAYシステム27(定量的ハイスループットDNAメチル化分析)を用いてFHIT及びWWOXの調節領域のメチル化状態を調べた。二つの亜硫酸水素塩反応(それぞれの遺伝子のCpG島について一つ)を設計し、FHIT及びWWOXそれぞれについて七のCpG及び11のCpGをカバーした。miR-29bをトランスフェクトしたH1299及びA549細胞において、FHITについてMassARRAY解析すると、スクランブルオリゴヌクレオチドと比較して、それぞれ平均して19.1%及び54.3%のメチル化の低下が示され、一方、H1299中のWWOXについては平均して32.1%の低下が示された(図3d)。
【0171】
A549細胞の腫瘍形成能へのmiR-29の再発現の影響も評価した。A549中のmiR-29の異所発現は、in
vitroでの細胞増殖を阻害し(図4a)、スクランブル対照のトランスフェクトに関してアポトーシスを引き起こした(図4b)。
【0172】
A549の腫瘍形成能へのmiR-29の阻害効果をin vivoでも観察した。miR-29のトランスフェクトにより、mock及びスクランブルオリゴのトランスフェクト細胞に対して、腫瘍が生着したA549の増殖が阻害され(図4c、4d、4e)、このようにしてこれらのmiRNAの有望な抗腫瘍効果を例示した。
【0173】
したがって、この実施例により、miR-29ファミリーのメンバーの発現が肺癌におけるDNMT3A及びDNMT3Bの発現と逆相関し、これらのmiRNAが両酵素の発現レベルを下方調節することが示される。
【0174】
さらに、肺癌細胞中のこれらのmiRNAを強制発現することにより、広範なDNAメチル化の低下が引き起こされ、TSGの発現が回復し、in vitroとin vivoの両方で腫瘍形成能が阻害される。これらの結果は、腫瘍抑制因子を再活性化し、肺癌における異常なメチル化パターンを正常化させるために、合成miR-29を単独又は他の治療と組み合わせて用いる新規のエピジェネティックな治療の開発に有用である。miR-29ファミリーのメンバーの発現欠失が他の共通のヒト悪性腫瘍に観察されるため、この手法は他のヒト悪性腫瘍の治療にまで広く適用することができる。
方法
試料
DNMT発現について組織マイクロアレイ(TMA)を行うために、オハイオ州立大学のPathology Core Facilityから、まとめて非小細胞肺癌(NSCLC)と呼ばれる、扁平上皮細胞癌、腺癌、大細胞癌及び神経内分泌大細胞癌を含む172の肺癌試料を入手した。これらの患者についての臨床上の特徴(組織学的診断、性別、年齢、TNMの状態及び生存期間)は得られた。
【0175】
qRT-PCR解析を行うために、Cooperative
Human Tissue Network- Midwestern Division、Columbus、OHから、主要な肺癌組織(八つの扁平上皮癌及び六つの腺癌)を購入した。製造元の説明書に従ってTRIzol(Invitrogen、Carlsbad、CA)抽出により、すべてのRNAを単離した。
組織マイクロアレイ
組織マイクロアレイ(TMA):各アレイには、複数の適切な肺及び他の正常な組織のスポットと一緒に、各肺癌の四つの試料が含まれていた。TMAは普通、各抗血清につき二つであり、DNMT1、DNTM3A及びDNTM3Bタンパク質に対する抗血清を付け、有意な関連を探るために、肺癌におけるこれらの各酵素の発現を臨床上の特徴と比較した。DNMT1、DNMT3A及びDNMT3Bタンパク質の発現は肺癌TMAに基づき評価し、GeneTex(GTX13537、San Antonio、TX)から得たDNMT1抗血清を1:150の希釈で、Novus Biologicals(ab-4897、Littleton、CO)から得たDNMT3A抗血清を1:25の希釈で、Abgent (AP1035a、San Diego、CA)から得たDNTM3B抗血清を1:32の希釈で使用した。TMAのブロックの4ミクロン切片を正電荷のスライド上に置き、60℃のオーブン内に1時間置き、冷却し、キシレン及びエタノール溶液から水への段階処理を通して脱パラフィン及び再水和した。内在性の過酸化酵素を阻害するために、スライドを3%過酸化水素中で5分間クエンチした。抗原を95℃で25分TRS(Dako、Carpinteria、CA)溶液中に回収し、スライドを一次抗血清に室温で1時間曝して、二次抗血清(1:200)に室温で20分間曝した。二次抗血清は、DNMT1に対するヤギ抗マウス及びDNMT3AとDMT3Bに対するヤギ抗ウサギのものであった。すべてのスライドは、二次抗血清のビオチン標識の適用に先立って、内在性ビオチンを阻害した。染色検出は、30分間Vectastain Elite(Vector、cat♯ PK-6100)で行った。染色基質にはDAB+(Dako、cat♯
K3468)を用いた。スライドはヘマトキシリンで対比染色し、段階的にエタノール溶液を通して脱水和し、カバーガラスを置いた。
【0176】
TMAは、臨床上の特徴を知らない病理学者により解読及びスコア化され、発現スコアは、染色の明度による個々の試料中の陽性細胞の割合を掛けることにより決定した。染色の明度は、1から3のスケールで評価され、1は最小の明度の染色であり、3は最大の明度である。例えば、明度3の10%陽性細胞の試料は30のスコアが割り当てられ、明度1の30%陽性細胞の試料と同じスコアである。
【0177】
定量的RT-PCR。miRNAのための定量的RT-PCR(qRT-PCR)解析は、製造元の説明書に従い、TaqMan
MicroRNAアッセイキット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使ってトリプリケートで行った。18S RNAを基準化のために使用した。対象とする他の遺伝子のqRT-PCR分析は、前述のように行った1。RNAは、遺伝子特異的なプライマー及びIQ SYBR Green Supermix (Biorad、Hercules、CA)を用いてcDNAに逆転写した。GAPDHを基準化対照として使用した。miR-29を発現抑制するために、A549及びH1299細胞は、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)の使用により、6穴プレート中で、製造元のプロトコールに従い、(最終的に)100nMのアンチセンスmiR-29a、29b-1、29c又はスクランブルアンチセンスmiR(Fidelity Systems、Gaithersburg、MD)をトランスフェクトした。
【0178】
細胞培養。アメリカ培養細胞系統保存機関(Manassas、VA)から得たA549及びH1299肺癌細胞は、10%FBS及び抗生物質(ペニシリン100U/ml及びストレプトマイシン100μg/mg)を含むRPMI培地1640中で維持した。
【0179】
DNMT 3'UTRを標的にするためのルシフェラーゼレポーターアッセイ。ルシフェラーゼレポーター実験のために、979bpのDNMT3A 3'UTRセグメント及び978bpのDNMT3B 3'UTRセグメントをヒトゲノムDNAからPCRにより増幅し、ルシフェラーゼの停止コドンのすぐ上流にあるXbaI部位を用いて、SV40プロモーター(Promega)を有するpGL3コントロールベクターに挿入した。以下のプライマーセットを使用して特異的断片を作製した。
【0180】
DNMT3A-UTR Fw: 5'-GCTCTAGAGCCGAAAAGGGTTGGACATCAT-3'[配列番号15]
DNMT3A-UTR Rv: 5'-GCTCTAGAGCGCCGAGGGAGTCTCCTTTTA-3'[配列番号16]
DNMT3B-UTR Fw: 5'-GCTCTAGAGCTAGGTAGCAACGTGGCTTTT-3'[配列番号17]
DNMT3B-UTR Rv: 5'-GCTCTAGAGCGCCCCACAAAACTTGTCAAC-3'[配列番号18]
増幅したDNMT3Aの3'UTRは583位にXbaI制限部位を含み、したがって上流3'UTR(DNMT3A 3'-UTRup=583bp)及び下流断片(DNMT3A
3'-UTRdown=396bp)を別々にpGL3ベクターにクローン化した。予測されるmiR-29の一致のシードはDNMT3A 3'-UTRの下流断片に位置し、ルシフェラーゼアッセイを行うために使用した。
【0181】
製造元のプロトコールに従ってリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を使用して、12穴プレート中でA549細胞にホタルルシフェラーゼレポーターベクター0.4μg及びウミシイタケルシフェラーゼpRL-TKベクター(Promega)を含むコントロールベクター0.08μgを共トランスフェクトした。それぞれの穴には、100nM(最終)の前駆体miR-29a、29b-1、29c又はスクランブルmiR(Ambion)を使用した。ホタル又はウミシイタケルシフェラーゼ活性は、トランスフェクトして24時間後、デュアルルシフェラーゼアッセイ(Promega)を使用することにより継続的に測定した。実験はトリプリケートで行った。
【0182】
タンパク質発現に対するDNMT 3'UTRの影響を評価するためのGFP抑制構築物。GFP抑制のために、1472bpのDNMT3A 3'UTRセグメント及び1566bpのDNMT3B 3'UTRセグメント(全体の3'UTRの長さに相当する)をヒトゲノムDNAからPCRにより増幅し、ベクターのGFPコード配列(GFPコード配列の末端に停止コドンをもたない)の3'に位置するBamHI-EcoRIクローニング部位を用いて、QBI-GFP25ベクター(Autofluorescent Proteins、Canada)に挿入した。以下のプライマーセットを使用して特異的断片を作製した。
【0183】
DNMT3A-GFP Fw: 5'-CGGGATCCGCAGGATAGCCAAGTTCAGC-3'[配列番号19]
DNMT3A-GFP Rv: 5'-CCCAAGCTTAAGTGAGAAACTGGGCCTGA-3'[配列番号20]
DNMT3B-GFP Fw: 5'-CGGGATCCCTCGATCAAACAGGGGAAAA-3'[配列番号21]
DNMT3B-GFP Rv: 5'-CCCAAGCTTGTTACGTCGTGGCTCCAGTT-3'[配列番号22]
製造元のプロトコールに従ってリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いて、12穴プレート中でA549細胞にDNMT3Aの3'UTR(QBI-GFP25-DNMT3A)又はDNMT3Bの3'UTR(QBI-GFP25-DNMT3B)を含むGFP抑制ベクター2μg、及び前駆体miR-29a、29b-1、29c又はスクランブルオリゴヌクレオチド(Ambion)100nM(最終)を共トランスフェクトした。追加の対照とし、一群の細胞にさらにGFPベクター(miRなし)をトランスフェクトした。24時間後に細胞を回収した。タンパク質の抽出及び免疫ブロット解析は前述のように行った2。以下の一次抗血清:ウサギのポリクローナル抗GFP、1:1000(Novus Biologicals、Littleton、CO)を使用した。
【0184】
miR29b-DNMT3B RNA複合体の検出。miR-29b-DNMT3B RNA複合体を検出するために、内在性miR-29bがA549細胞中でDNMT3B mRNAの逆転写のためのプライマーとして働くことができるかどうかを決定する、Vatolin S.らにより報告されている方法3を用いた。cDNAをpCR2.1-TOPOベクター(Invitrogen)にクローン化した。以下のプライマーセット及びアダプター配列を使用した(GSPは遺伝子特異的プライマーを意味する)。
【0185】
GSP-DNMT3B: 5'-GAGATGACAGGGAAAACTGC-3'[配列番号23]
GSP-DNMT3B 5N: 5'-ACAGGGAAAACTGCAAAGCT-3'[配列番号24]
アダプター:
5'-CGACTGGAGCACGAGGACACTGACATGGACTGAAGGAGTAGAAA-3'[配列番号25]
アダプター5N: 5'-CTGAAGGAGTAGAAA-3'[配列番号26]
プライマー5Nは、PCRバンドの検出の増感のために用いるアダプター及びGSP配列からの入れ子プライマーを表す。
【0186】
広範なメチル化の試験。スクランブルmiRNA及びmiR-29をトランスフェクトした後のA549細胞の広範なメチル化の状態は、前述4のように決定した。このアッセイのために、2×106個のA549細胞に、ルシフェラーゼアッセイのために上述のようにトランスフェクトし、48及び72時間後に回収した。
【0187】
定量的DNAメチル化。FHIT及びWWOXの調節領域の定量的DNAメチル化解析は、EpiTYPERメチル化解析アッセイ(Sequenom、San Diego、CA)を使用して行った。二つの亜硫酸水素塩反応(それぞれの遺伝子のCpG島について一つ)を設計し、FHIT及びWWOXそれぞれについて7のCpG及び11のCpGをカバーした。スクランブル又はmiR-29bをトランスフェクトしたA549/H1299のDNAは、トランスフェクトして48時間後に抽出し、1μgのDNAを亜硫酸水素塩処理し、in vitroで転写し、RNアーゼAにより切断し、記載のように5、メチル化パターンを決定するためにマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析法の解析を施した。FHIT及びWWOX遺伝子の調節領域を増幅するために以下のプライマーを使用した。
【0188】
FHIT Fw:
5'-GGGGAGGTAAGTTTAAGTGGAATATTGTT-3'[配列番号27]
FHIT Rv: 5'-CACCCCCAAAACCAAAAACTATAAC-3'[配列番号28]
WWOX Fw:
5'-TTGAAAGAAAGTTTTTTAAAATTAGGAAAT-3'[配列番号29]
WWOX Rv: 5'-TCAAAAAAACAAAACCTAAAAAAAA-3'[配列番号30]
図3dのヒートマップは、スタンフォード大学によるHeatmap builder version 1.0を用いて作成した。
【0189】
FHIT及びWWOXタンパク質のためのウエスタンブロット解析。タンパク質の抽出及び免疫ブロット解析は前述2のように行った。以下の一次抗血清:ウサギポリクローナル抗-FHIT、1:1000(Zymed、San
Francisco、CA);マウスモノクローナル抗WWOX、1:500を(文献2のように)使用した。FHIT、WWOX及びGapdhに対するシグナルの定量化は、Molecular Dynamics
Personal Densitometer SI及びIMAGEQUANT 5.2ソフトウェア(Image Products International、Chantilly、VA)の使用により行った。
【0190】
細胞増殖曲線。A549細胞(5×104)は6×多穴プレート中に播種し、24時間後、Ambionからのスクランブルオリゴヌクレオチド又はmiR-29オリゴヌクレオチドの最終濃度100nMを、製造元のプロトコールに従ってリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。対照としてトランスフェクトしていない(mock)細胞も含めた。細胞を回収して、ViCellカウンター(Beckman Coulter、Fullerton、CA)を用いて24時間の間隔で数えた。それぞれの試料はトリプリケートで行った。
【0191】
アポトーシス及びフローサイトメトリー研究。A549細胞(2×105)は、Ambionからのスクランブルオリゴヌクレオチド又はmiR-29オリゴヌクレオチドの最終濃度100nMを、製造元のプロトコールに従ってリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。24時間後、細胞は、供給元の指示書(BD Biosciences、San Diego、CA)に従い、アネキシンV-フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びプロピジウムヨウ化物を含む結合バッファー中で再懸濁し、Beckman-CoulterモデルEPICS XLサイトメーター(Beckman-Coulter)を用いるフローサイトメトリーにより評価した。それぞれの試料はトリプリケートで行った。
【0192】
in vivo試験。動物試験は、機関のガイドラインに従って行った。A549細胞は、in vitroで、100nM(最終濃度)のスクランブル(Scr)オリゴヌクレオチド又はmiR-29a、-29b又は29cをトランスフェクトし、或いは製造元のプロトコールに従い、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)の使用により、mockをトランスフェクトした。トランスフェクトして48時間後、3×106個の生存細胞は、6週齢の雌性ヌードマウス(Charles River Breeding
Laboratories、Wilmington、MA)の左側腹部に皮下注射した。なお、一群につき5匹のマウスである。腫瘍の直径は注射から7日後に測定し、次いで5日毎に測定した。注射後21日目にマウスを屠殺し、解剖後、腫瘍の重さを調べた。腫瘍の体積は、平均値V(mm3)=A×B2/2(式中、Aは最大の直径であり、Bは垂直径である。)を用いて決定した。
【0193】
統計解析。P値は両側であり、SPSSソフトウェアパッケージ(SPSS 10.0)を用いて得た。全生存は、診断の時から最後のフォローアップの日付まで算出した。データは、最後のフォローアップの時に生存した患者のために打ち切りにした。生存解析の実行及びカプランマイヤー(KM)プロットの作成のために、免疫組織化学な染色によって測定したDNMT1、DNMT3A及びDNMT3Bレベルは、試料を二つのクラス(DNMTスコア<10(低)又は>10(高)に従い、高発現及び低発現)に分けることにより、離散変数に変換した。生存曲線はそれぞれの群に対して得ており、ログランク検定を用いることにより比較した。miRNA発現とDNMT発現の間の相関を評価するために、Peason相関及び線形回帰分析(SPSSパッケージ)を使用した。これらの関数は、二つの値が一緒に動く傾向にあるか、又は反対の方向に動く傾向にあるかどうか、つまり、miRNA(高い発現)からのより大きな値が、DNMT発現からのより低い値と関連しているかどうかを決定するために、各ペアの測定値(一方はmiRNA、もう一方はDNMT)を調べた。
【実施例2】
【0194】
肺癌関連疾患の診断、段階付け、予後予知、モニタリング及び治療のための方法、試薬及びキット
本明細書におけるすべての実施例は、それらの範囲を限定するものではないとみなされるべきであることを理解されたい。種々の態様を、以下のサブセクションにおいてさらに詳細に説明する。
診断方法
一つの実施形態では、患者が肺癌関連疾患を有するか又は患者の肺癌関連疾患を発症するリスクが正常を上回っているかを評価する診断方法を提供し、この方法は、患者試料中のマーカーの発現レベルと対照、例えば、肺癌関連疾患を有しない患者からの試料中のマーカーの正常な発現レベルとを比較するステップを含む。
【0195】
正常なレベルと比較して患者試料中のマーカーの有意により高い発現レベルは、患者が肺癌関連疾患に罹患しているか又は患者の肺癌関連疾患を発症するリスクが正常を上回っていることを示す。
【0196】
マーカーは、方法の陽性の予想値が、少なくとも約10%となり、特定の非限定的な実施形態では、約25%、約50%又は約90%となるように選択される。また、正常な細胞と比較して、少なくとも約20%において、及び特定の非限定的な実施形態では約50%又は約75%において、少なくとも2倍だけ示差的に発現するマーカーも方法において使用するために好ましい。
【0197】
患者が肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを評価する一つの診断方法(例えば、新たな検出(「スクリーニング」)、再発の検出、反射試験(reflex testing))においては、この方法は、a)患者試料中のマーカーの発現レベルと、b)対照の非肺癌関連疾患試料中のマーカーの正常な発現レベルとを比較するステップを含む。正常なレベルと比較して患者試料中のマーカーの有意により高い発現レベルは、患者が肺癌関連疾患に罹患していることを示す。
【0198】
また、患者の肺癌関連疾患を阻害するための療法の効能を評価するための診断方法も提供する。そのような方法は、a)療法の少なくとも一部を患者に提供する前に患者から得た第1の試料中のマーカーの発現と、b)療法の一部を提供した後に患者から得た第2の試料中のマーカーの発現とを比較するステップを含む。第1の試料中のマーカーの発現レベルと比べて第2の試料中のマーカーの有意により低い発現レベルは、療法には、患者の肺癌関連疾患を阻害する効能があることを示す。
【0199】
これらの方法における「療法」は、これらに限定されないが、医薬組成物、遺伝子治療、並びに抗体及びケモカインの投与等の生物学的療法を含めた、肺癌関連疾患を治療するための任意の療法であってよいことが理解されるであろう。したがって、本明細書に記載する方法を使用して、療法の前、間及び後に患者を評価すること、例えば、疾患の状況の低減を評価することができる。
【0200】
特定の態様では、診断方法は、化学的薬剤又は生物学的薬剤を使用する療法を対象とする。これらの方法は、a)患者から得、化学的薬剤又は生物学的薬剤の存在下で維持した第1の試料中のマーカーの発現と、b)患者から得、薬剤の非存在下で維持した第2の試料中のマーカーの発現とを比較するステップを含む。第1の試料中のマーカーの発現レベルと比べて第2の試料中のマーカーの有意により低い発現レベルは、薬剤には、患者の肺癌関連疾患を阻害する効能があることを示す。一つの実施形態では、第1の試料及び第2の試料は、患者から得た単一の試料の一部であっても、又は患者から得、プールした試料の一部であってもよい。
予後を評価するための方法
また、患者の肺癌関連疾患の進行を評価するためのモニタリング方法も提供し、この方法は、a)第1の時点において、患者試料中のマーカーの発現を検出するステップと、b)その後の時点において、ステップa)を反復するステップと、c)ステップa)及びステップb)において検出した発現レベルを比較するステップと、これらから、患者の肺癌関連疾患の進行をモニターするステップとを含む。第1の時点における試料中のマーカーの発現レベルと比してその後の時点における試料中のマーカーの有意により高い発現レベルは、肺癌関連疾患が進行していることを示し、一方、有意により低い発現レベルは、肺癌関連疾患が退行していることを示す。
【0201】
さらに、肺癌関連疾患が悪化しているか又は将来悪化する可能性があるかを決定するための診断方法も提供し、この方法は、a)患者試料中のマーカーの発現レベルと、b)対照試料中のマーカーの正常な発現レベルとを比較するステップを含む。正常なレベルと比較して患者試料中の有意により高い発現レベルは、肺癌関連疾患が悪化しているか又は将来悪化する可能性があることを示す。
阻害性組成物、治療用組成物及び/又は有害性組成物を評価するための方法
また、患者の肺癌関連疾患を阻害するための組成物を選択するための試験方法も提供する。この方法は、a)患者由来の細胞を含む試料を得るステップと、b)試料の一定分量を、複数の試験組成物の存在下で別々に維持するステップと、c)一定分量のそれぞれにおけるマーカーの発現を比較するステップと、d)試験組成物のうちの一つを選択するステップとを含み、選択された試験組成物は、その試験組成物を含有する一定分量中のマーカーの発現レベルを、その他の試験組成物の存在下におけるマーカーの発現レベルと比べて有意に低減させる。
【0202】
その上、肺癌関連疾患を引き起こす点で化合物が有害である可能性を評価する試験方法も提供する。この方法は、a)細胞の一定分量を、化合物の存在下及び非存在下で別々に維持するステップと、b)一定分量のそれぞれにおけるマーカーの発現を比較するステップとを含む。化合物の非存在下において維持した一定分量中のマーカーの発現レベルと比べて化合物の存在下において維持した一定分量中のマーカーの有意により高い発現レベルは、化合物がそのような点で有害である可能性があること示す。
【0203】
その上、患者の肺癌関連疾患を阻害する方法もさらに提供する。この方法は、a)患者由来の細胞を含む試料を得るステップと、b)試料の一定分量を、複数の組成物の存在下で別々に維持するステップと、c)一定分量のそれぞれにおけるマーカーの発現を比較するステップと、d)組成物のうちの少なくとも一つを患者に投与するステップとを含み、少なくとも一つの組成物は、その組成物を含有する一定分量中のマーカーの発現レベルを、その他の組成物の存在下におけるマーカーの発現レベルと比べて有意に低減させる。
【0204】
試料中のマーカーの発現レベルは、例えば、対応するマーカータンパク質又はタンパク質断片の存在を(例えば、タンパク質又はタンパク質断片と特異的に結合する抗体、抗体の誘導体、抗体断片又は一本鎖抗体等の試薬を使用することによって)、対応するマーカーの核酸(例えば、ヌクレオチド転写物若しくはその相補体)又は核酸断片の存在を(例えば、試料から得た転写されたポリヌクレオチドを、核酸配列又はその相補体の全体又はセグメントを有する一つ又は複数の核酸が固定化された基板と接触させることによって)、対応するマーカータンパク質によって直接的(すなわち、触媒されて)又は間接的に産生する代謝産物の存在を、試料中に検出することによって評価することができる。
【0205】
上記の方法はいずれも、少なくとも一つ又は複数の(例えば、2、3、5若しくは10個以上の)肺癌関連疾患マーカーを使用して実施することができる。そのような方法においては、それらのうちの少なくとも一つがマーカーである、複数のマーカーのそれぞれの、試料中の発現レベルを、肺癌関連疾患に罹患していない対照のヒトから得た同一の型の試料中の複数のマーカーのそれぞれの正常な発現レベルと比較する。そうしたマーカーの対応する正常な又は対照のレベルと比べて、試料中の一つ又は複数のマーカーの有意に変化した(すなわち、単一のマーカーを使用する上記の方法において特定したように増加若しくは減少した)発現レベル、又はそれらの何らかの組合せは、患者が肺癌関連疾患に罹患していることを示す。上記の方法のすべてについて、(一つ又は複数の)マーカーが、方法の陽性の予想値が、少なくとも約10%となるように選択される。
候補薬剤の例
候補薬剤は、当技術分野で既知の薬理作用のある物質であってもよく、又は何らかの薬理学的活性を示すことがこれまでに知られていない物質であってもよい。これらの物質は、天然に存在する物質であっても、又は実験室で合成された物質であってもよい。それらは、微生物、動物又は植物から単離してもよく、又は組換えによって産生しても、若しくは任意の適切な化学的な方法によって合成してもよい。それらは、小型分子、核酸、タンパク質、ペプチド又はペプチド模倣薬であってよい。特定の実施形態では、候補薬剤は、50ダルトン超かつ約2,500ダルトン未満の分子量を有する小型の有機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的な相互作用のために必要な官能基を含む。候補薬剤はまた、生体分子中にも見い出され、それらとして、これらに限定されないが、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似体又は組合せが挙げられる。
【0206】
候補薬剤は、合成化合物又は天然化合物のライブラリーを含めた多種多様な源から得られる。例えば、ランダム化オリゴヌクレオチド及びランダム化オリゴペプチドの発現を含めて、多種多様な有機化合物及び生体分子の偶発的合成及び指向型合成のために利用可能な多数の手段がある。或いは、細菌、真菌、植物及び動物の抽出物の形態をとる天然化合物のライブラリーが、利用可能であるか、又は容易に産生される。さらに、天然の又は合成によって生成されるライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理学的及び生化学的な手段によって容易に改変され、コンビナトリアルライブラリーを生成するために使用することができる。特定の実施形態では、候補薬剤は、コンビナトリアルライブラリー法の技術における多数のアプローチのいずれかを使用して得ることができ、非限定的な例として、生物学的ライブラリー、空間的にアドレス可能な固相又は溶液相の平行ライブラリー、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、「1-ビーズ、1-化合物」ライブラリー法、及び親和性クロマトグラフィーによる選択を使用する合成ライブラリー法が挙げられる。
【0207】
特定のさらなる実施形態では、特定の薬理作用のある物質に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等、指向型の又は偶発的な化学的修飾を施して、構造類似体を生成することができる。
【0208】
また、肺癌関連疾患を治療するための治療剤を同定するための方法と同一の方法を使用して、in
vitro研究から得られたリード化合物/薬剤を検証することもできる。
【0209】
候補薬剤は、一つ又は複数の肺癌関連疾患の応答経路を上方制御又は下方制御する物質であってよい。特定の実施形態では、候補薬剤は、そのような経路に影響を及ぼすアンタゴニストであってよい。
肺癌関連疾患を治療するための方法
本明細書においては、肺癌関連疾患応答を治療する、阻害する、緩和する又は逆転させるための方法を提供する。本明細書に記載するこの方法においては、シグナル伝達カスケードを妨げる薬剤を、これらに限定されないが、そのような合併症がまだ明らかでない肺癌関連疾患患者及び少なくとも一つの肺癌関連疾患応答をすでに示している肺癌関連疾患患者等、それを必要とする個体に投与する。
【0210】
前者の場合、そのような治療は、そのような肺癌関連疾患応答の発生を予防するため及び/又はそれらが発生する程度を低減するために有用である。後者の場合、そのような治療は、そのような肺癌関連疾患応答が発生する程度を低減するため、それらのさらなる発達を予防するため、又は肺癌関連疾患応答を逆転させるために有用である。
【0211】
特定の実施形態では、肺癌関連疾患応答カスケードを妨げる薬剤は、そのような応答に特異的な抗体であってよい。
マーカーの発現
マーカーの発現は、いくつかの方法で阻害することができ、非限定的な例として、(一つ又は複数の)マーカーの転写、翻訳又は両方を阻害するために肺癌関連疾患細胞に提供することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。或いは、タンパク質の機能又は活性を阻害する細胞内抗体を産生させるために、マーカータンパク質に特異的に結合する抗体、抗体の誘導体又は抗体断片をコードし、適切なプロモーター領域/調節領域と動作可能に連結しているポリヌクレオチドを細胞に提供することができる。マーカーの発現及び/又は機能はまた、マーカータンパク質に特異的に結合する抗体、抗体の誘導体又は抗体断片を用いて肺癌関連疾患細胞を処理することによっても阻害することができる。本明細書に記載する方法を使用して、マーカーの発現を阻害する又はマーカータンパク質の機能を阻害する分子を同定するために、特に、細胞膜を越えることが可能な程度に十分に小型の分子を含めた、多様な分子をスクリーニングすることができる。患者の肺癌関連疾患細胞を阻害するために、そのようにして同定した化合物を患者に提供することができる。
【0212】
任意のマーカー又はマーカーの組合せ、及びマーカーと組み合わせた任意の特定のマーカーを、本明細書に記載する組成物、キット及び方法において使用することができる。一般に、肺癌関連疾患細胞中のマーカーの発現レベルと正常な肺細胞中の同一のマーカーの発現レベルとの間の差ができるだけ大きいマーカーを使用することが望ましい。この差が、マーカーの発現を評価するための方法の検出限界と同程度に小さい場合があるが、この差は、少なくとも判定方法の標準誤差よりも大きいことが望ましく、特定の実施形態では、正常組織中の同一のマーカーの発現レベルの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、100、500又は1000倍以上であることが望ましい。
【0213】
特定のマーカータンパク質が細胞の周囲の細胞外空間に分泌されることが認識されている。そのようなマーカータンパク質を、肺癌と関係がある体液試料中に検出することができるという事実に起因して、これらのマーカーが、組成物、キット及び方法の特定の実施形態では使用される。これらの体液試料は、組織生検試料よりも、ヒト患者から容易に収集することができる。さらに、マーカータンパク質を検出するためのin vivoにおける技法は、タンパク質に対して作られた標識抗体を対象に導入することを含む。例えば、抗体を、放射性マーカーを用いて標識することができ、対象中のその存在及び場所は、標準的な画像法によって検出することができる。
【0214】
任意の特定のマーカータンパク質が、分泌タンパク質であるかどうかを決定するために、マーカータンパク質を、例えば、ヒトの肺系統等の哺乳動物細胞中で発現させ、細胞外液を収集し、細胞外液中のタンパク質の有無を(例えば、タンパク質と特異的に結合する標識抗体を使用して)評価する。
【0215】
肺細胞を含有する患者試料を、本明細書に記載する方法において使用することができることが理解されるであろう。これらの実施形態では、マーカーの発現レベルを、試料中のマーカーの量(例えば、絶対的な量又は濃度)を評価することによって評価することができる。もちろん、試料中のマーカーの量を評価する前に、細胞試料に、多様な収集後の調製並びに保管の技法(例えば、核酸及び/若しくはタンパク質の抽出、固定化、保管、凍結、限外ろ過、濃縮、蒸発、遠心分離等)を施すことができる。
【0216】
また、マーカーは、細胞から、消化器系、血流及び/又は間質空間中へ流出する場合があることも理解されるであろう。流出したマーカーは、例えば、血清又は血漿を調べることによって試験することができる。
【0217】
組成物、キット及び方法を使用して、マーカータンパク質を発現する細胞の表面上に少なくとも一部が提示されるマーカータンパク質の発現を検出することができる。例えば、免疫学的な方法を使用して、全細胞上のそのようなタンパク質を検出してもよく、又はコンピュータに基づいた配列解析法を使用して、少なくとも一つの細胞外ドメイン(すなわち、分泌タンパク質及び少なくとも一つの細胞表面ドメインを有するタンパク質の両方を含む)の存在を予測してもよい。マーカータンパク質を発現する細胞の表面上に少なくとも一部が提示されるマーカータンパク質の発現は、必ずしも細胞を溶解することなく、(例えば、タンパク質の細胞表面ドメインと特異的に結合する標識抗体を使用して)検出することができる。
【0218】
マーカーの発現は、転写された核酸又はタンパク質の発現を検出するための任意の多種多様な方法によって評価することができる。そのような方法の非限定的な例として、分泌タンパク質、細胞表面タンパク質、細胞質タンパク質又は核タンパク質を検出するための免疫学的な方法、タンパク質精製法、タンパク質の機能又は活性のアッセイ、核酸ハイブリダイゼーション法、核酸逆転写法、及び核酸増幅法が挙げられる。
【0219】
特定の実施形態では、マーカーの発現を、抗体(例えば、放射標識抗体、発色団標識抗体、フルオロフォア標識抗体若しくは酵素標識抗体)、抗体の誘導体(例えば、基板とコンジュゲートさせた抗体、又はタンパク質-リガンドの対のタンパク質若しくはリガンドとコンジュゲートさせた抗体)、或いは抗体断片(例えば、一本鎖抗体、単離抗体の超可変ドメイン等)を使用して判定し、これらは、その正常な翻訳後修飾の全部又は一部を経たマーカータンパク質を含めて、マーカータンパク質又はその断片と特異的に結合する。
【0220】
別の特定の実施形態では、マーカーの発現を、患者試料中の細胞からmRNA/cDNA (すなわち、転写されたポリヌクレオチド)を調製し、mRNA/cDNAを、マーカー核酸の相補体又はその断片である参照ポリヌクレオチドとハイブリダイズさせることによって評価する。cDNAは場合により、参照ポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションの前に、任意の多様なポリメラーゼ連鎖反応法を使用して増幅してよいが、好ましくは増幅しない。同様に、一つ又は複数のマーカーの発現を、定量PCRを使用して検出して、(一つ又は複数の)マーカーの発現レベルを評価することもできる。或いは、マーカーの突然変異又は変異(例えば、一塩基多型、欠失等)を検出する多くの方法のうちのいずれかを使用して、患者内におけるマーカーの発生を検出することもできる。
【0221】
関連の実施形態では、試料から得た転写されたポリヌクレオチドの混合物を、マーカー核酸の少なくとも一部(例えば、少なくとも7、10、15、20、25、30、40、50、100又は500個以上のヌクレオチド残基)に対して相補性又は相同性を示すポリヌクレオチドが固定化された基板と接触させる。相補性又は相同性を示すポリヌクレオチドが、基板上で示差的に検出可能である(例えば、異なる発色団若しくはフルオロフォアを使用して検出可能である、又は異なる選択された位置に固定化されて検出可能である)場合には、複数のマーカーの発現レベルを、単一の基板(例えば、選択された位置に固定化されたポリヌクレオチドの「遺伝子チップ」マイクロアレイ)を使用して同時に評価することができる。一つの核酸と別の核酸とのハイブリダイゼーションが関与する、マーカーの発現を評価する方法を使用する場合には、ハイブリダイゼーションを厳密なハイブリダイゼーション条件下で実施することが望まれる。
【0222】
特定の実施形態では、バイオマーカーのアッセイを、質量分析又は表面プラズモン共鳴を使用して実施することができる。種々の実施形態では、肺癌関連疾患に対して活性を示す薬剤を同定する方法は、a)一つ又は複数のマーカー又はその誘導体を含有する細胞試料を提供するステップと、b)前記細胞から抽出物を調製するステップと、c)前記抽出物を、マーカー結合部位を含有する標識核酸プローブと混合するステップと、d)試験薬剤の存在下又は非存在下で、マーカーと核酸プローブとの間の複合体の形成を決定するステップとを含むことができる。決定ステップは、前記抽出物/核酸プローブの混合物に対して電気泳動移動度シフトアッセイを行うことを含むことができる。
【0223】
特定の実施形態では、決定ステップは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光に基づいたアッセイ及び超高スループットアッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ又は蛍光相関分光法(FCS)アッセイから選択されたアッセイを含む。そのような実施形態では、SPRセンサーが、生体分子の相互作用の直接的なリアルタイムでの観察のために有用である。これは、SPRが、金属の誘電性表面における微小な屈折率の変化に対して感受性が高いからである。SPRは、約200nmのSPRセンサー/試料の界面内における105〜10-6の屈折率(RI)単位の変化に対して感受性を示す表面技法である。したがってSPR分光法は、センサー層上に堆積する薄い有機被膜の成長をモニターするために有用である。
【0224】
組成物、キット及び方法は、一つ又は複数のマーカーの発現レベルの差の検出を利用することから、正常な細胞及び肺癌の影響を受けている細胞のうちの少なくとも一つにおいて、マーカーの発現レベルが、発現を評価するために使用する方法の最小検出限界よりも有意に高いことが望まれる。
【0225】
追加の患者試料を、一つ又は複数のマーカーを使用して日常的にスクリーニングすることによって、特異的な肺癌関連疾患を含めて、マーカーのうちの特定のものが、種々の型の細胞中で過剰発現することが認識されるであろうことを理解されたい。
【0226】
さらに、より多くの数の患者試料が、マーカーの発現について判定され、試料を得た個々の患者の成果が相関付けられるにつれ、また、マーカーのうちの特定のものの変化した発現が、肺癌関連疾患と強く相関付けられ、その他のマーカーの変化した発現が、その他の疾患と強く相関付けられることも確認されるであろう。したがって、組成物、キット及び方法は、患者の肺癌関連疾患の段階、グレード、組織学的な型及び性質のうちの一つ又は複数を特徴付けるために有用である。
【0227】
組成物、キット及び方法が、患者の肺癌関連疾患の段階、グレード、組織学的な型及び性質のうちの一つ又は複数を特徴付けるために使用される場合、対応する段階、グレード、組織学的な型又は性質の少なくとも約20%において、並びに特定の実施形態では、少なくとも約40%、60%又は80%において、及び肺癌関連疾患に罹患している実質的にすべての患者において、陽性の結果が得られるように、マーカー又はマーカーのパネルが選択されることが望まれる。マーカー又はマーカーのパネルの発明は、(非限定的な例では、80%超のアッセイの特異性と相まって)約10%超の陽性の予想値が、一般集団について得られるように選ぶことができる。
【0228】
複数のマーカーを、組成物、キット及び方法において使用する場合、患者試料中の各マーカーの発現レベルを、同一の型の非肺癌の試料中の複数のマーカーのそれぞれの正常な発現レベルと、単一反応混合物中(すなわち、各マーカーについて、異なる蛍光プローブ等の試薬を使用する)、又は一つ若しくは複数のマーカーに対応する個々の反応混合物中のいずれかで比較することができる。一つの実施形態では、対応する正常なレベルと比べて、試料中の複数のマーカーのうちの二つ以上の有意に増加した発現レベルは、患者が肺癌関連疾患に罹患していることを示す。複数のマーカーを使用する場合、2、3、4、5、8、10、12、15、20、30又は50個以上の個々のマーカーを使用することができ、特定の実施形態では、より少ないマーカーの使用が望まれる場合がある。
【0229】
組成物、キット及び方法の感受性(すなわち、患者試料中の非肺起源の細胞に起因する妨害による)を最大化するためには、そこで使用するマーカーは、制限された組織分布を有する、例えば、非肺組織中では通常は発現しないマーカーであることが望ましい。
【0230】
組成物、キット及び方法は、肺癌関連疾患を発症するリスクが増強している患者及びそれらの患者の医療アドバイザーにとって特に実用的であることが認識されている。肺癌関連疾患を発症するリスクが増強していると認識される患者として、例えば、肺癌関連疾患の家族歴を有する患者が挙げられる。
【0231】
正常なヒトの肺組織中のマーカーの発現レベルは、多様な方法で評価することができる。一つの実施形態では、こうした正常な発現レベルを、正常に見える肺細胞の一部中のマーカーの発現レベルを判定し、この正常な発現レベルを、異常であることが疑われる肺細胞の一部中の発現レベルと比較することによって評価する。或いは特に、本明細書に記載する方法の日常的な実行の結果として、さらなる情報が入手可能になるにつれて、マーカーの正常な発現についての集団平均値を使用することができる。その他の実施形態では、マーカーの「正常な」発現レベルは、非肺癌罹患患者から得た患者試料中、肺癌関連疾患の発症が疑われる患者における発症前に患者から得た患者試料から、アーカイブの患者試料から等のマーカーの発現を評価することによって決定することができる。
【0232】
また、本明細書においては、試料(例えば、アーカイブの組織試料、又は患者から得た試料)中の肺癌関連疾患細胞の存在を評価するための組成物、キット及び方法も提供する。これらの組成物、キット及び方法は、必要な場合には、組成物、キット及び方法を患者試料以外の試料と共に使用するために適応させる以外は、上記のものと実質的に同一である。例えば、使用すべき試料が、パラフィン処理された、アーカイブのヒト組織試料である場合には、キット中の組成物中の化合物の比を、又は試料中のマーカーの発現レベルを評価するために使用すべき方法を加減する必要がある場合がある。
抗体を産生する方法
また、本明細書においては、患者が肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを評価するために有用な抗体を産生する単離ハイブリドーマを作製する方法も提供する。この方法においては、マーカータンパク質の全体又はセグメントを含むタンパク質又はペプチドを、合成又は単離する(例えば、マーカータンパク質を発現する細胞からの精製によるか、又はin vivo若しくはin vitroにおいて、タンパク質若しくはペプチドをコードする核酸を転写し、翻訳することによる)。脊椎動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ又はヒツジ等の哺乳動物を、タンパク質又はペプチドを使用して免疫化する。脊椎動物は場合により(かつ好ましくは)、タンパク質又はペプチドを用いて、少なくともさらに一回免疫化してよく、その結果、脊椎動物は、タンパク質又はペプチドに対してロバストな免疫応答を示す。免疫化した脊椎動物から脾細胞を単離し、任意の多様な方法を使用して、不死化細胞系と融合させて、ハイブリドーマを形成する。次いで、このようにして形成したハイブリドーマを、標準的な方法を使用してスクリーニングして、マーカータンパク質又はその断片と特異的に結合する抗体を産生する一つ又は複数のハイブリドーマを同定する。また、本明細書においては、この方法によって作製したハイブリドーマ、及びそのようなハイブリドーマを使用して作製した抗体も提供する。
効能を評価する方法
また、本明細書においては、肺癌関連疾患細胞を阻害するための試験化合物の効能を評価する方法も提供する。上記に記載したように、マーカーの発現レベルの差は、肺細胞の異常な状況と相関付けられる。マーカーのうちの特定のものの発現レベルの変化は、肺細胞の異常な状況の結果生じる可能性が高いことが認識されているが、同様に、マーカーのうちのその他のものの発現レベルの変化が、それらの細胞の異常な状況を誘発、維持及び促進することも認識されている。したがって、患者の肺癌関連疾患を阻害する化合物は、一つ又は複数のマーカーの発現レベルの、そうしたマーカーの正常な発現レベル(すなわち、正常な肺細胞中のマーカーの発現レベル)により近づいたレベルへの変化を引き起こすであろう。
【0233】
したがって、この方法は、試験化合物の存在下で維持した第1の肺細胞試料中のマーカーの発現と、試験化合物の非存在下で維持した第2の肺細胞試料中のマーカーの発現とを比較するステップを含む。試験化合物の存在下において有意に低減したマーカーの発現は、試験化合物が肺癌関連疾患を阻害することを示す。肺細胞試料は、例えば、患者から得た正常な肺細胞の単一の試料の一定分量、患者から得た正常な肺細胞のプールした試料、正常な肺細胞系の細胞、患者から得た肺癌関連疾患細胞の単一の試料の一定分量、患者から得た肺癌関連疾患細胞のプールした試料、肺癌関連疾患細胞系の細胞等であってよい。
【0234】
一つの実施形態では、試料は、患者から得た肺癌関連疾患細胞であり、患者の肺癌関連疾患を最も良好に阻害する可能性のある化合物を同定するために、種々の肺癌関連疾患を阻害するために有効であると考えられている複数の化合物を試験する。
【0235】
同様に、この方法を使用して、患者の肺癌関連疾患を阻害するための療法の効能を評価することもできる。この方法においては、一対の試料(一方には療法を施し、他方には療法を施さない)中の一つ又は複数のマーカーの発現レベルを評価する。試験化合物の効能を評価する方法の場合と同様に、療法が、マーカーの有意により低い発現レベルを誘発する場合には、療法には、肺癌関連疾患を阻害する効能がある。上記に記載したように、選択された患者からの試料をこの方法において使用する場合には、患者の肺癌関連疾患を阻害する効能がある可能性が最も高い療法を選択するために、代替療法をin vitroにおいて評価することができる。
【0236】
本明細書に記載するように、ヒト肺細胞の異常な状況は、マーカーの発現レベルの変化と相関付けられる。また、試験化合物が有害である可能性を判定するための方法も提供する。この方法は、ヒト肺細胞の一定分量を試験化合物の存在下及び比存在下で別々に維持するステップを含む。一定分量のそれぞれにおけるマーカーの発現を比較する。(試験化合物の非存在下において維持した一定分量と比べて)試験化合物の存在下において維持した一定分量中のマーカーの有意により高い発現レベルは、試験化合物が有害である可能性があることを示す。種々の試験化合物の相対的な有害である可能性を、関連のあるマーカーの発現レベルの増強若しくは阻害の程度を比較すること、発現レベルを増強若しくは阻害するマーカーの数を比較すること、又は両方を比較することによって評価することができる。
単離タンパク質及び抗体
一つの態様は、単離マーカータンパク質及びその生物学的活性部分、並びにマーカータンパク質又はその断片に対して作られた抗体をもたらすための免疫原として使用するために適したポリペプチド断片に関する。一つの実施形態では、自然のマーカータンパク質を、細胞又は組織の源から、標準的なタンパク質精製の技法を使用する適切な精製スキームによって単離することができる。別の実施形態では、マーカータンパク質の全体又はセグメントを含むタンパク質又はペプチドを、組換えDNAの技法によって産生する。組換え発現に代わって、そのようなタンパク質又はペプチドを、標準的なペプチド合成の技法を使用して化学的に合成することもできる。
【0237】
「単離」若しくは「精製」したタンパク質又はその生物学的活性部分は、タンパク質が由来する細胞若しくは組織の源からの細胞材料及びその他の混入タンパク質を実質的に含有せず、又は化学的に合成する場合には、化学前駆体及びその他の化学物質を実質的に含有しない。「細胞材料を実質的に含有しない」という言い回しには、タンパク質の調製が含まれ、この調製では、タンパク質が、細胞の細胞構成成分から分離されて単離されるか、又は組換えによって産生される。したがって、細胞材料を実質的に含有しないタンパク質は、約30%、20%、10%又は5%(乾燥重量)未満の異種のタンパク質(本明細書では、「混入タンパク質」とも呼ぶ)を有するタンパク質の調製物を含む。
【0238】
タンパク質又はその生物学的活性部分を組換えによって産生する場合には、培地も実質的に含有しない、すなわち、培地が、タンパク質調製物の約20%、10%又は5%未満の容積に相当することが好ましい。タンパク質を化学合成によって生成する場合には、化学前駆体又はその他の化学物質を実質的に含有しない、すなわち、タンパク質の合成に関与する化学前駆体又はその他の化学物質からタンパク質は分離されていることが好ましい。したがって、タンパク質のそのような調製物は、目的のポリペプチド以外に、約30%、20%、10%又は5%(乾燥重量)未満の化学前駆体又は化合物を有する。
【0239】
マーカータンパク質の生物学的活性部分は、マーカータンパク質のアミノ酸配列に対して十分な同一性を示すアミノ酸配列又はマーカータンパク質のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、これらのポリペプチドは、完全長のタンパク質よりも少ないアミノ酸を含み、対応する完全長のタンパク質の少なくとも一つの活性を示す。典型的には、生物学的活性部分は、対応する完全長のタンパク質の少なくとも一つの活性を有するドメイン又はモチーフを含む。マーカータンパク質の生物学的活性部分は、例えば、10、25、50又は100個以上のアミノ酸長であるポリペプチドであってよい。さらに、マーカータンパク質のその他の領域が欠失しているその他の生物学的活性部分を、組換えの技法によって調製し、マーカータンパク質の自然の形態の機能的な活性のうちの一つ又は複数について評価することもできる。特定の実施形態では、有用なタンパク質は、これらの配列のうちの一つに対して実質的に(例えば、少なくとも約40%、及び特定の実施形態では50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%の)同一性を示し、対応する天然に存在するマーカータンパク質の機能的な活性を保持するが、天然の対立遺伝子変異又は変異誘発によってアミノ酸配列の点では異なる。
【0240】
さらに、マーカータンパク質のセグメントライブラリーを使用して、ポリペプチドの変化に富んだ集団を生成して、変異マーカータンパク質又はそのセグメントをスクリーニングし、それに続いて、選択することもできる。
予測医学(predictive medicine)
また、本明細書においては、予測医学の分野における動物モデル及びマーカーの使用も提供し、この分野では、診断アッセイ、予後予知アッセイ、薬理ゲノミクス及び臨床治験のモニタリングが、予後予知(予測)の目的で使用されて、それによって、個体を予防的に治療する。したがってまた、本明細書においては、個体に肺癌関連疾患を発症するリスクがあるかどうかを決定するための、一つ又は複数のマーカータンパク質又は核酸の発現レベルを決定するための診断アッセイも提供する。そのようなアッセイを、予後予知又は予測の目的で使用して、それによって、肺癌関連疾患が発症する前に個体を予防的に治療することができる。
【0241】
別の態様では、方法は、個体が、その個体の発現パターンを変化させる化学物質又は毒物に曝露されたことがあるかどうかを知るために、同一の個体を少なくとも定期的にスクリーニングするために有用である。
【0242】
さらに別の態様は、臨床治験において、薬剤(例えば、肺癌関連疾患を阻害する目的、又は任意のその他の障害を治療若しくは予防する目的(例えば、そのような治療が示す場合がある何らかのシステム効果を理解する目的)のいずれかで投与された薬物又はその他の化合物)の、マーカーの発現又は活性に対する影響をモニターすることに関する。
薬理ゲノミクス
マーカーはまた、薬理ゲノミクスのマーカーとしても有用である。本明細書で使用する場合、「薬理ゲノミクスのマーカー」は、客観的な生化学的マーカーであり、その発現レベルが、患者の特異的な臨床における薬物に対する応答又は感受性と相関付けられる。薬理ゲノミクスのマーカーの発現の存在又は量は、患者の、より具体的には、患者の腫瘍の、特定の薬物又は薬物群を用いた療法に対する予測される応答と関係を示す。患者中の一つ又は複数の薬理ゲノミクスのマーカーの発現の存在又は量を評価することによって、患者に最も適した薬物療法、又は成功をより大きな程度でもたらすことが予測される薬物療法を選択することができる。
臨床治験のモニタリング
薬剤(例えば、薬物化合物)の、マーカーの発現レベルに対する影響のモニタリングを、基礎的な薬物スクリーニングにおいてのみならず、また臨床治験においても適用することができる。例えば、マーカーの発現に影響を及ぼす薬剤の有効性を、肺癌関連疾患のための治療を受けている対象の臨床治験においてモニターすることができる。
【0243】
一つの非限定的な実施形態では、本発明は、薬剤(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、ペプチド模倣薬、タンパク質、ペプチド、核酸、小型分子又はその他の薬物候補)を用いて対象を治療する場合の有効性をモニターするための方法を提供し、この方法は、(i)薬剤の投与前の対象から投与前試料を得るステップと、(ii)投与前試料中の一つ又は複数の選択されたマーカーの発現レベルを検出するステップと、(iii)対象から一つ又は複数の投与後試料を得るステップと、(iv)投与後試料中の(一つ又は複数の)マーカーの発現レベルを検出するステップと、(v)投与前試料中の(一つ又は複数の)マーカーの発現レベルを、一つ又は複数の投与後試料中の(一つ又は複数の)マーカーの発現レベルとを比較するステップと、(vi)それにしたがって、薬剤の対象への投与を変化させるステップとを含む。
【0244】
例えば、治療コースの間の(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現の増加は、無効な用量、及び用量の増加が望まれることを示すことができる。逆に、(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現の減少は、治療には効能があり、用量を変化させる必要がないことを示すことができる。
電子装置の読取り可能媒体、システム、アレイ、及びそれらを使用する方法
本明細書で使用する場合、「電子装置の読取り可能媒体」は、電子装置による直接的な読取り及びアクセスが可能である、データ又は情報を記憶、保持又は含有するための任意の適切な媒体を指す。そのような媒体として、これらに限定されないが、フロッピーディスク、ハードディスク記憶媒体及び磁気テープ等の磁気記憶媒体、コンパクトディスク等の光学記憶媒体、RAM、ROM、EPROM、EEPROM等の電子記憶媒体等、並びに通常のハードディスク、さらにこれらのカテゴリーのハイブリッド、すなわち、磁気/光学記憶媒体等が挙げられる。媒体は、本明細書に記載するマーカーをその上に記録するようになされる又は構成される。
【0245】
本明細書で使用する場合、「電子装置」という用語は、任意の適切な計算若しくは処理のための装置、又はデータ若しくは情報を記憶するように構成された若しくはなされたその他の機器を含むことを意図する。本発明と共に使用するために適した電子装置の例として、独立型計算装置、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、インターネット、イントラネット及びエクストラネットを含めたネットワーク、携帯端末(PDA)、携帯電話、ポケットベル等の電子機器、並びにローカルな及び分散型の処理システムが挙げられる。
【0246】
本明細書で使用する場合、「記録された」とは、電子装置の読取り可能媒体上に情報を記憶又は暗号化するための過程を指す。当業者であれば、媒体上に情報を記録するための任意の方法を容易に採用して、本明細書に記載するマーカーを含む材料をもたらすことができる。
【0247】
多様なソフトウェアプログラム及びフォーマットを使用して、本発明のマーカーの情報を、電子装置の読取り可能な媒体上に記憶することができる。マーカーをその上に記録させる媒体を得る又は生み出すために、フォーマット(例えば、テキストファイル又はデータベース)を構築する任意の数のデータプロセッサを利用することができる。マーカーを読取り可能な形態で提供することによって、多様な目的で、マーカーの配列情報に日常的にアクセスすることができる。例えば、当業者であれば、読取り可能な形態のヌクレオチド又はアミノ酸の配列を使用して、標的配列又は標的構造モチーフを、データ記憶手段の内部に記憶されている配列情報と比較することができる。検索手段を使用して、特定の標的配列又は標的モチーフと一致する配列の断片又は領域を同定する。
【0248】
したがってまた、本明細書においては、対象が肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するための方法を実施するための指示を保持するための媒体も提供し、この方法は、マーカーの有無を決定するステップと、マーカーの有無に基づいて、対象が肺癌関連疾患若しくは肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定し、かつ/又は肺癌関連疾患若しくは前肺癌関連疾患状態のための特定の治療を推奨するステップとを含む。
【0249】
また、本明細書においては、対象がマーカーと関係がある肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するための電子システム及び/又はネットワーク中の方法も提供し、この方法は、マーカーの有無を決定するステップと、マーカーの有無に基づいて対象が肺癌関連疾患若しくは肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定し、かつ/又は肺癌関連疾患若しくは前肺癌関連疾患状態のための特定の治療を推奨するステップとを含む。この方法は、対象と関係がある表現型の情報を受け取り、かつ/又はネットワークから、対象と関係がある表現型の情報を得るステップをさらに含むことができる。
【0250】
また、本明細書においては、対象がマーカーと関係がある肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するためのネットワーク、すなわち、方法も提供し、この方法は、マーカーと関係がある情報を受け取るステップと、対象と関係がある表現型の情報を受け取るステップと、ネットワークから、マーカー及び/又は肺癌関連疾患に対応する情報を得るステップと、表現型の情報、マーカー及び得た情報のうちの一つ又は複数に基づいて、対象が肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するステップとを含む。この方法は、肺癌関連疾患又は前肺癌関連疾患状態のための特定の治療を推奨するステップをさらに含むことができる。
【0251】
また、本明細書においては、対象が肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するためのビジネス方法も提供し、この方法は、マーカーと関係がある情報を受け取るステップと、対象と関係がある表現型の情報を受け取るステップと、ネットワークから、マーカー及び/又は肺癌関連疾患に対応する情報を得るステップと、表現型の情報、マーカー及び得た情報のうちの一つ又は複数に基づいて、対象が肺癌関連疾患又は肺癌関連疾患の素因を有するかどうかを決定するステップとを含む。この方法は、肺癌関連疾患又は前肺癌関連疾患状態のための特定の治療を推奨するステップをさらに含むことができる。
【0252】
また、本明細書においては、アレイ中で一つ又は複数の遺伝子の発現をアッセイするために使用することができるアレイも提供する。一つの実施形態では、組織中の遺伝子の発現をアッセイするために、アレイを使用して、アレイ中で遺伝子の組織特異性を解明することができる。このようにして、最大約7000個以上の遺伝子を、発現について同時にアッセイすることができる。これによって、一つ又は複数の組織中で特異的に発現する一連の遺伝子を示すプロファイルの開発が可能となる。
【0253】
そのような定性的な決定に加えて、本明細書においては、遺伝子の発現の定量化も提供する。したがって、組織特異性のみならず、また組織中の一連の遺伝子の発現レベルも解明可能である。したがって、遺伝子を、それらの組織における発現自体及びその組織中における発現レベルに基づいて群化することができる。これは、例えば、組織間における遺伝子の発現の関係を解明する場合に有用である。したがって、一つの組織を動揺させることができ、第2の組織中における遺伝子の発現に対する効果を決定することができる。これに関連して、生物学的刺激に対する応答について、一つの細胞型の、別の細胞型に対する効果を決定することができる。
【0254】
そのような決定は、例えば、遺伝子の発現レベルにおける細胞対細胞の相互作用の効果を知るために有用である。薬剤を、一つの細胞型を治療目的で処理するために投与するが、薬剤が別の細胞型に対しては望ましくない効果を示す場合、この方法は、望ましくない効果の分子的基盤を決定するためのアッセイを提供し、したがって、対抗して作用する薬剤を同時投与するか、又はそうでなければ、望まれない効果を治療する機会を提供する。同様に、単一の細胞型内であっても、望ましくない生物学的な効果を、分子レベルにおいて決定することができる。したがって、薬剤の、標的遺伝子以外の遺伝子の発現に対する効果を解明し、それに対抗することができる。
【0255】
別の実施形態では、アレイを使用して、アレイ中で、一つ又は複数の遺伝子の発現の時間経過をモニターすることができる。こうした時間経過は、本明細書に開示するように、種々の生物学的な状況、例えば、肺癌関連疾患の発症、肺癌関連疾患の進行、及び肺癌関連疾患と関係がある細胞の形質転換等の過程において発生し得る。
【0256】
アレイはまた、同一細胞中又は異なる細胞中における、ある遺伝子の発現又はその他の遺伝子の発現の効果を解明するためにも有用である。これによって、例えば、究極的な又は下流の標的を調節できない場合、治療的介入のための代替の分子標的の選択肢を提供する。
【0257】
アレイはまた、正常細胞及び異常細胞中における、一つ又は複数の遺伝子の示差的な発現パターンを解明するためにも有用である。これによって、診断又は治療的介入のための分子標的として役立つことができるであろう一連の遺伝子が提供される。
代用マーカー
マーカーは、一つ若しくは複数の障害若しくは疾患の状況について、又は肺癌関連疾患状況に至る状態についての代用マーカーとして役立つことができる。本明細書で使用する場合、「代用マーカー」は、客観的な生化学的マーカーであり、これは、疾患若しくは障害の有無と、又は疾患若しくは障害の進行と相関付けられる。そのようなマーカーの存在及び量は、疾患には依存しない。したがって、これらのマーカーは、特定の治療コースが、疾患の状況又は障害を軽減する点で有効であるかどうかを示すために役立つことができる。代用マーカーは、疾患の状況若しくは障害の、存在若しくは程度を標準的な方法によって評価することが困難である場合、又は潜在的にリスクな臨床エンドポイントに達する前に、疾患の進行の判定が望まれる場合に、特に有用である。
【0258】
マーカーはまた、薬力学的なマーカーとしても有用である。本明細書で使用する場合、「薬力学的なマーカー」は、客観的な生化学的マーカーであり、これは、薬物の効果と特異的に相関付けられる。薬力学的なマーカーの存在及び量は、薬物が投与される疾患の状況及び障害とは関連がない。したがって、マーカーの存在又は量は、対象中の薬物の存在又は活性を示す。例えば、薬力学的なマーカーが、生物学的組織中で、薬物のレベルに関係して、発現状態若しくは転写状態にある、又は非発現状態若しくは非転写状態にあるのいずれかであるという点において、マーカーは、組織中の薬物の濃度を示すことができる。このようにして、薬物の分布又は取込みを、薬力学的なマーカーによってモニターすることができる。同様に、薬力学的なマーカーの存在又は量が、薬物の代謝産物の存在又は量と関係する場合もあり、したがって、マーカーの存在又は量は、in vivoにおける薬物の相対的な分解速度を示す。
【0259】
薬力学的なマーカーは、特に、薬物が低い用量で投与される場合には、薬物効果の検出感度を増加させる点で、特に有用である。少ない量の薬物でも、マーカーの転写又は発現を複数回活性化させるのに十分であり得ることから、マーカーが増幅されて多量に存在する場合があり、これらのマーカーは、薬物自体よりも容易に検出可能である。また、マーカー自体の性質に起因して、マーカーがより簡単に検出される場合もある。例えば、本明細書に記載する方法を使用して、抗体を、タンパク質マーカーを検出するための免疫に基づいたシステムにおいて利用してもよく、又はマーカーに特異的な放射標識プローブを使用して、mRNAマーカーを検出してもよい。さらに、薬力学的なマーカーの使用は、直接的な観察の可能な範囲を越えた薬物治療に起因するリスクの予測も機構に基づいて提供することができる。
試験のためのプロトコール
肺癌関連疾患について試験する方法は、例えば、対象からの生物学的試料中の各マーカー遺伝子の発現レベルを長期間にわたり測定するステップと、レベルを、対照の生物学的試料中のマーカー遺伝子のレベルと比較するステップとを含む。
【0260】
マーカー遺伝子が、本明細書に記載する遺伝子のうちの一つであり、発現レベルが示差的に発現する(例えば、対照中の発現レベルよりも高い又は低い)場合には、対象が肺癌関連疾患の影響を受けていると判断される。マーカー遺伝子の発現レベルが許容範囲内に収まる場合には、対象が肺癌関連疾患の影響を受けている可能性は低い。
【0261】
発現レベルを比較するために、対照中のマーカー遺伝子の発現レベルを測定することによって、対照の標準値をあらかじめ決定することができる。例えば、標準値は、対照中の上記のマーカー遺伝子の発現レベルに基づいて決定することができる。例えば、特定の実施形態では、許容範囲を、標準値に基づいて±2S.D.とする。標準値を決定したら、試験方法を、対象からの生物学的試料中の発現レベルのみを測定し、値を対照について決定した標準値と比較することによって実施することができる。
【0262】
マーカー遺伝子の発現レベルは、マーカー遺伝子のmRNAへの転写及びタンパク質への翻訳を含む。したがって、肺癌関連疾患について試験する一つの方法は、マーカー遺伝子に対応するmRNAの発現強度又はマーカー遺伝子がコードするタンパク質の発現レベルの比較に基づいて実施される。
【0263】
肺癌関連疾患について試験する場合のマーカー遺伝子の発現レベルの測定は、種々の遺伝子解析の方法に従って実施することができる。具体的には、例えば、これらの遺伝子とプローブとしてハイブリダイズする核酸を使用するハイブリダイゼーションの技法、又はマーカー遺伝子とプライマーとしてハイブリダイズするDNAを使用する遺伝子増幅の技法を使用することができる。
【0264】
試験のために使用するプローブ又はプライマーは、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。それぞれのマーカー遺伝子のヌクレオチド配列についての識別番号が、本明細書に記載されている。
【0265】
さらに、高等動物の遺伝子には一般に、遺伝子多型が高い頻度で伴うことを理解されたい。また、スプライシングの過程の間に、相互に異なるアミノ酸配列を含むアイソフォームを産生する多くの分子もある。マーカー遺伝子の活性に類似する活性を示す、肺癌関連疾患と関係がある遺伝子はいずれも、遺伝子多型によるヌクレオチド配列の差を有する場合であっても、又はアイソフォームであっても、マーカー遺伝子の中に含まれる。
【0266】
また、マーカー遺伝子は、ヒトに加えて、その他の種の相同体を含むことができることも理解されたい。したがって、別段の指定がない限り、「マーカー遺伝子」という表現は、マーカー遺伝子の種に独特の相同体、又は個体に導入されている他種からのマーカー遺伝子を指す。
【0267】
また、「マーカー遺伝子の相同体」は、ヒト以外の種に由来する遺伝子を指し、これは、ヒトのマーカー遺伝子とプローブとして厳密な条件下でハイブリダイズすることができることも理解されたい。そのような厳密な条件は、当業者に既知であり、当業者であれば、適切な条件を実験的又は経験的に選択して、十分な(equal)厳密度をもたらすことができる。
【0268】
マーカー遺伝子のヌクレオチド配列か又はマーカー遺伝子のヌクレオチド配列の相補鎖に対して相補性を示すヌクレオチド配列を含み、少なくとも15個のヌクレオチドを有するポリヌクレオチドを、プライマー又はプローブとして使用することができる。したがって、「相補鎖」は、二本鎖DNAのうちの、一方の鎖に対する他方の鎖を意味し、二本鎖DNAは、A:T(RNAの場合にはU)塩基対及びG:C塩基対でできている。
【0269】
さらに、「相補性を示す」は、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの領域に対して完全な相補性を示すもののみならず、特定の場合には少なくとも40%、特定の場合には50%、特定の場合には60%、特定の場合には70%、少なくとも80%、90%及び95%以上の相同性を示すヌクレオチド配列を有するものも意味する。ヌクレオチド配列間の相同性の程度は、BLAST等のアルゴリズムによって決定することができる。
【0270】
そのようなポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を検出するためのプローブとして、又はマーカー遺伝子を増幅するためのプライマーとして有用である。プライマーとして使用する場合、ポリヌクレオチドは通常、15bp〜100bpのヌクレオチドを、特定の実施形態では、15bp〜35bpのヌクレオチドを含む。プローブとして使用する場合には、DNAは、マーカー遺伝子の全ヌクレオチド配列(若しくはその相補鎖)、又は少なくとも15bpのヌクレオチドを有するその部分的な配列を含む。プライマーとして使用する場合、3'領域は、マーカー遺伝子に対して相補性を示さなければならず、5'領域は、制限酵素認識配列又はタグに連結されていてよい。
【0271】
「ポリヌクレオチド」は、DNA又はRNAのいずれかであってよい。これらのポリヌクレオチドは、合成である又は天然に存在するのいずれかであってよい。また、ハイブリダイゼーションのためのプローブとして使用するDNAは通常標識する。当業者であれば、そのような標識方法は容易に理解する。本明細書においては、「オリゴヌクレオチド」という用語は、重合の程度が比較的低いポリヌクレオチドを意味する。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの中に含まれる。
【0272】
ハイブリダイゼーションの技法を使用する肺癌関連疾患についての試験は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロットハイブリダイゼーション、又はDNAマイクロアレイの技法を使用して実施することができる。さらに、RT-PCR法等の遺伝子増幅の技法を使用することもできる。RT-PCRにおける遺伝子増幅のステップの間にPCR増幅をモニターする方法を使用することによって、マーカー遺伝子の発現のより定量的な解析を達成することができる。
【0273】
PCR遺伝子増幅をモニターする方法の場合、検出標的(DNA、又はRNAの逆転写物)を、蛍光染料及び蛍光を吸収するクエンチャーを用いて標識したプローブとハイブリダイズさせる。PCRが進行し、Taqポリメラーゼがその5'-3'エキソヌクレアーゼ活性でプローブを分解すると、蛍光染料とクエンチャーとが相互に引き離され、蛍光が検出される。蛍光は、リアルタイムで検出される。その中の標的のコピー数が知られている標準試料を同時に測定することによって、PCR増幅が直線的であるサイクルの数から、対象試料中の標的のコピー数を決定することが可能となる。また、当業者であれば、PCR増幅をモニターする方法は、任意の適切な方法を使用して実施することができることを認識する。
【0274】
肺癌関連疾患について試験する方法はまた、マーカー遺伝子がコードするタンパク質を検出することによっても実施することができる。以降、マーカー遺伝子がコードするタンパク質を、「マーカータンパク質」と記載する。そのような試験方法のためには、例えば、ウエスタンブロット法、免疫沈降法及びELISA法を、各マーカータンパク質に結合する抗体を使用して利用することができる。
【0275】
検出において使用する、マーカータンパク質に結合する抗体は、任意の適切な技法によって産生することができる。また、マーカータンパク質を検出するために、そのような抗体を適切に標識することもできる。或いは、抗体を標識する代わりに、抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインA又はプロテインGを標識して、マーカータンパク質を間接的に検出することもできる。より具体的には、そのような検出方法は、ELISA法を含むことができる。
【0276】
抗原として使用するタンパク質又はその部分的なペプチドを、例えば、マーカー遺伝子又はその一部を発現ベクター中に挿入し、構築物を適切な宿主細胞中に導入して形質転換体を生成し、形質転換を培養して組換えタンパク質を発現させ、培地又は培地の上清から発現した組換えタンパク質を精製することによって得ることができる。或いは、遺伝子がコードするアミノ酸配列又は完全長のcDNAがコードするアミノ酸配列の一部を含むオリゴペプチドを化学的に合成して、免疫原として使用することもできる。
【0277】
さらに、肺癌関連疾患についての試験を、指標として、マーカー遺伝子の発現レベルのみならず、また生物学的試料中のマーカータンパク質の活性も使用して実施することもできる。マーカータンパク質の活性は、タンパク質に本来備わっている生物学的活性を意味する。種々の方法を使用して、各タンパク質の活性を測定することができる。
【0278】
肺癌関連疾患を示唆する症状にもかかわらず、日常的な試験においては、患者がこれらの疾患の影響を受けているとは診断されない場合であっても、そのような患者が、肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを、本明細書に記載する方法に従って試験を実施することによって簡単に決定することができる。
【0279】
より具体的には、特定の実施形態では、マーカー遺伝子が、本明細書に記載する遺伝子のうちの一つである場合には、症状から肺癌関連疾患が少なくとも疑われる患者におけるマーカー遺伝子の発現レベルの増加又は減少によって、症状は主として肺癌関連疾患によって引き起こされていることが示される。
【0280】
さらに、試験は、患者の肺癌関連疾患が改善しているかどうかを決定するためにも有用である。すなわち、本明細書に記載する方法を使用して、肺癌関連疾患のための治療の治療効果を判断することができる。さらに、マーカー遺伝子が、本明細書に記載する遺伝子のうちの一つである場合には、肺癌関連疾患の影響を受けていると診断されている患者におけるマーカー遺伝子の発現レベルの増加又は減少によって、疾患がより進行していることが暗示される。
【0281】
また、重症度及び/又は肺癌関連疾患に対する易罹患性も、発現レベルの差に基づいて決定することができる。例えば、マーカー遺伝子が、本明細書に記載する遺伝子のうちの一つである場合には、マーカー遺伝子の発現レベルの増加の程度が、肺癌関連疾患の存在及び/又は重症度と相関性を示す。
【0282】
さらに、マーカー遺伝子の発現自体を、(一つ又は複数の)突然変異を遺伝子の転写調節領域中に導入することによって制御することもできる。当業者であれば、そのようなアミノ酸の置換を理解する。また、活性が維持される限り、変異させるアミノ酸の数は特に制限されない。通常、その数は、50個以内のアミノ酸であり、特定の非限定的な実施形態では、30個以内のアミノ酸、10個以内のアミノ酸、又は3個以内のアミノ酸である。活性が維持される限り、突然変異の部位はいずれの部位であってもよい。
【0283】
さらに別の態様では、本明細書において、肺癌関連疾患を治療するための治療剤としての候補化合物についてスクリーニングする方法を提供する。一つ又は複数のマーカー遺伝子が、本明細書に記載する遺伝子の群から選択される。肺癌関連疾患のための治療剤は、(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルを増加又は減少させることが可能である化合物を選択することによって得ることができる。
【0284】
「遺伝子の発現レベルを増加させる化合物」という表現は、遺伝子の転写、遺伝子の翻訳又はタンパク質活性の発現のステップのうちのいずれか一つを促進する化合物を指すことを理解されたい。他方、「遺伝子の発現レベルを減少させる化合物」という表現は、本明細書で使用する場合、これらのステップのいずれか一つを阻害する化合物を指す。
【0285】
特定の態様では、肺癌関連疾患のための治療剤についてスクリーニングする方法は、in
vivo又はin vitroのいずれかにおいて実施することができる。このスクリーニングの方法は、例えば、(1)候補化合物を動物の対象に投与し、(2)動物の対象からの生物学的試料中の(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルを測定し、又は(3)候補化合物と接触させていない対照中の(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルと比較して、(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルを増加又は減少させる化合物を選択することによって実施することができる。
【0286】
さらに別の態様では、本明細書において、医薬品のための候補化合物の、(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルに対する効能を、動物の対象を候補化合物と接触させ、動物の対象に由来する生物学的試料中において、化合物の、(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルに対する効果をモニターすることによって評価するための方法を提供する。動物の対象に由来する生物学的試料中における(一つ又は複数の)マーカー遺伝子の発現レベルの変動は、上記に記載した試験方法において使用した技法と同一の技法を使用してモニターすることができる。さらに、評価に基づいて、医薬品のための候補化合物を、スクリーニングすることによって選択することができる。
キット
別の態様では、種々の診断及び試験のためのキットを提供する。一つの実施形態では、キットは、患者が肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを評価するために有用である。このキットは、マーカーの発現を評価するための試薬を含む。別の実施形態では、キットは、患者において肺癌関連疾患を阻害するための化学的薬剤又は生物学的薬剤の適切性を評価するために有用である。そのようなキットは、マーカーの発現を評価するための試薬を含み、また、一つ又は複数のそのような薬剤も含むことができる。
【0287】
さらなる実施形態では、キットは、肺癌関連疾患細胞の存在を評価するため又は肺癌関連疾患を治療するために有用である。そのようなキットは、抗体、抗体の誘導体又は抗体断片を含み、それらは、マーカータンパク質又はタンパク質の断片と特異的に結合する。そのようなキットはまた、複数の抗体、抗体の誘導体又は抗体断片を含むこともでき、複数のそのような抗体物質は、マーカータンパク質又はタンパク質の断片と特異的に結合する。
【0288】
追加の実施形態では、キットは、肺癌関連疾患細胞の存在を評価するために有用であり、キットは、マーカー核酸又は核酸の断片と特異的に結合する核酸プローブを含む。キットはまた、複数のプローブを含むこともでき、各プローブが、マーカー核酸又は核酸の断片と特異的に結合する。
【0289】
本明細書に記載する組成物、キット及び方法には、とりわけ、以下の用途があり得る。1)患者が肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを評価すること、2)ヒト患者の肺癌関連疾患の段階を評価すること、3)患者の肺癌関連疾患のグレードを評価すること、4)患者の肺癌関連疾患の性質を評価すること、5)患者の肺癌関連疾患を発症する可能性を評価すること、6)患者の肺癌関連疾患と関係がある細胞の組織学的な型を評価すること、7)肺癌関連疾患を治療するため及び/又は患者が肺癌関連疾患に罹患しているかどうかを評価するために有用である抗体、抗体断片若しくは抗体の誘導体を作製すること、8)肺癌関連疾患細胞の存在を評価すること、9)患者の肺癌関連疾患を阻害するための一つ又は複数の試験化合物の効能を評価すること、10)患者の肺癌関連疾患を阻害するための療法の効能を評価すること、11)患者の肺癌関連疾患の進行をモニターすること、12)患者の肺癌関連疾患を阻害するための組成物又は療法を選択すること、13)肺癌関連疾患に罹患している患者を治療すること、14)患者の肺癌関連疾患を阻害すること、15)試験化合物が有害である可能性を評価すること、並びに16)肺癌関連疾患を発症するリスクがある患者において肺癌関連疾患の発症を予防すること。
【0290】
キットは、(例えば、患者試料等の試料中の)肺癌関連疾患細胞の存在を評価するために有用である。キットは、複数の試薬を含み、それらの各試薬が、マーカーの核酸又はタンパク質と特異的に結合することが可能である。マーカータンパク質と結合させるための適切な試薬には、抗体、抗体の誘導体、抗体断片等がある。マーカー核酸(例えば、ゲノムDNA、MRNA、スプライシングされたMRNA、cDNA等)と結合させるための適切な試薬には、相補性を示す核酸がある。例えば、核酸試薬は、基板に固定化された(標識した又は標識していない)オリゴヌクレオチド、基板とは結合していない標識したオリゴヌクレオチド、PCRプライマーの対、分子ビーコンのプローブ等を含むことができる。
【0291】
キットは、本明細書に記載する方法を実施するために有用な追加の成分を含むこともできる。例として、キットは、相補性を示す核酸とアニールするため又は抗体が特異的に結合するタンパク質と抗体を結合させるために適した液体(例えば、SSC緩衝液)、一つ又は複数の試料区分、方法の実施を説明する指示材料、正常な肺細胞試料、肺癌関連疾患細胞試料等を含むことができる。
動物モデル
広い態様では、少なくとも一つの肺癌関連疾患を評価するための非ヒト動物モデルを生成するための方法を提供する。この方法は、動物を、反復用量の、肺癌を引き起こすと考えられている少なくとも一つの化学物質に曝すステップを含む。特定の態様では、この方法は、動物から、一つ又は複数の選択された試料を収集するステップと、収集した試料を、潜在的な肺癌の開始又は発症の一つ又は複数の徴候と比較するステップとをさらに含む。
【0292】
広い態様では、動物モデルを生成する方法を提供し、この方法は、動物を、化学物質を含まない特異的な環境下に維持し、動物を、肺癌を引き起こすと考えられている少なくとも一つの化学物質を用いて感作するステップを含む。特定の実施形態では、動物の肺の少なくとも一部分を複数の逐次の曝露によって感作する。別の広い態様では、少なくとも一つの肺癌関連疾患に対する有効性について、薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は一般に、少なくとも一つの薬剤を試験動物に投与するステップと、薬剤が、肺癌関連疾患の一つ又は複数の症状を低減させるか又は悪化させるかを決定するステップと、一つ若しくは複数の症状の低減を、肺癌関連疾患に対する薬剤の有効性と相関付ける、又は一つ若しくは複数の症状の低減がないことを、薬剤の無効性と相関付けるステップとを含む。動物モデルは、開始、進行、重症度、病態、攻撃性、グレード、活性、不安定性、死亡率、罹患率、疾患の細分類のうちの少なくとも一つに寄与する一つ若しくは複数の代謝経路、又は少なくとも一つの肺癌関連疾患のその他の根底にある発症の若しくは病理学的な特色を評価するために有用である。この解析は、階層的クラスター分析、サインネットワークの構築、質量分析によるプロテオミクス解析、表面プラズモン共鳴、線形統計モデリング、部分最小二乗法判別解析及び多重線形回帰分析のうちの一つ又は複数によって行うことができる。
【0293】
特定の態様では、動物モデルは、少なくとも一つの肺癌関連疾患について、一つ又は複数のマーカー又はその機能的な等価物の発現レベルを調べることによって判定される。
【0294】
本明細書に記載する方法によって生み出された動物モデルによって、肺癌関連疾患を治療又は予防するために有用な治療剤のスクリーニングが可能となる。したがって、この方法は、肺癌関連疾患を治療又は予防するための治療剤を同定するために有用である。この方法は、候補薬剤を、本明細書に記載する方法によって作製した動物モデルに投与するステップと、候補薬剤が投与されていない対照の動物モデルと比較して、動物モデルにおける少なくとも一つの肺癌関連疾患の応答を評価するステップとを含む。少なくとも一つの肺癌関連疾患の応答が、症状の低減又は発症の遅延である場合には、候補薬剤は、肺癌関連疾患を治療又は予防するための薬剤となる。
【0295】
別の態様では、本明細書において、肺癌関連疾患のための動物モデルを提供し、この動物モデルにおいて、一つ若しくは複数のマーカー遺伝子又はマーカー遺伝子と機能的に等価な遺伝子の発現レベルが上昇している。本明細書で使用する場合、「機能的に等価な遺伝子」は一般に、マーカー遺伝子がコードするタンパク質の既知の活性に類似する活性を示すタンパク質をコードする遺伝子である。機能的に等価な遺伝子の代表的な例として、対象の動物のマーカー遺伝子の対応物が挙げられ、これは、動物に本来備わっている。
【0296】
肺癌関連疾患のための動物モデルは、肺癌関連疾患に起因する生理学的な変化を検出するために有用である。特定の実施形態では、動物モデルは、マーカー遺伝子の追加の機能を明らかにするため及びマーカー遺伝子を標的にする薬物を評価するために有用である。
【0297】
一つの実施形態では、肺癌関連疾患のための動物モデルを、対応遺伝子の発現レベルを制御すること又は対応遺伝子を投与することによって生み出すことができる。この方法は、肺癌関連疾患のための動物モデルを、本明細書に記載する遺伝子の群から選択された遺伝子の発現レベルを制御することによって生み出すステップを含むことができる。別の実施形態では、この方法は、肺癌関連疾患のための動物モデルを、本明細書に記載する遺伝子がコードするタンパク質を投与すること又はタンパク質に対する抗体を投与することによって生み出すステップを含むことができる。また、特定のその他の実施形態では、マーカーを過剰発現させてよく、その結果、次いで、適切な方法を使用してマーカーを測定することができることも理解されたい。
【0298】
別の実施形態では、肺癌関連疾患のための動物モデルを、遺伝子のそのような群から選択された遺伝子を導入すること又はそのような遺伝子がコードするタンパク質を投与することによって生み出すことができる。
【0299】
別の実施形態では、肺癌関連疾患を、遺伝子のそのような群から選択された遺伝子の発現又はそのような遺伝子がコードするタンパク質の活性を抑制することによって誘発することができる。アンチセンス核酸、リボザイム又はRNAiを使用して、発現を抑制することができる。タンパク質の活性を、抗体等の、活性を阻害する物質を投与することによって有効に制御することができる。
【0300】
動物モデルは、肺癌関連疾患の根底にある機構を解明するために、かつまた、スクリーニングによって得られた化合物の安全性を試験するためにも有用である。例えば、動物モデルが肺癌関連疾患の症状を発症する場合又は特定の肺癌関連疾患に関与する測定値が動物中で変化する場合には、スクリーニングの系を、疾患を和らげる活性を示す化合物を探索するために構築することができる。
【0301】
本明細書で使用する場合、「発現レベルの増加」という表現は、以下のいずれか一つを指す。外来遺伝子として導入したマーカー遺伝子が人為的に発現する場合、対象の動物に本来備わっているマーカー遺伝子の転写及びそのタンパク質への翻訳が増強される場合、又は翻訳産物であるタンパク質の加水分解が抑制される場合。本明細書で使用する場合、「発現レベルの減少」という表現は、対象の動物のマーカー遺伝子の転写及びそのタンパク質への翻訳が阻害される状況又は翻訳産物であるタンパク質の加水分解が増強される状況のいずれかを指す。遺伝子の発現レベルは、例えば、DNAチップ上のシグナル強度の差によって決定することができる。さらに、翻訳産物、すなわち、タンパク質の活性は、正常な状況におけるタンパク質の活性と比較することによって決定することもできる。
【0302】
また、動物モデルは、例えば、マーカー遺伝子が導入され、人為的に発現している動物を含めた遺伝子導入動物、マーカー遺伝子ノックアウト動物、及び別の遺伝子がマーカー遺伝子を置換しているノックイン動物を含むことができることも企図する範囲に属する。マーカー遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi効果を示すポリヌクレオチド、又はデコイ核酸として機能するDNA等が導入されている遺伝子導入動物を、遺伝子導入動物として使用することができる。そのような遺伝子導入動物はまた、例えば、マーカータンパク質の活性が、(一つ若しくは複数の)突然変異を遺伝子のコード領域中に導入することによって増強若しくは抑制されている動物又はアミノ酸配列が改変されて、加水分解に対して耐性若しくは感受性を示すようになっている動物も含む。アミノ酸配列の突然変異は、置換、欠失、挿入及び付加を含む。
【0303】
本明細書に引用するすべての特許、特許出願及び参照文献は、それらの全体が参照によって組み込まれている。当業者が本発明を作製及び使用するために十分詳細に本発明を説明及び例示してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の代替形態、改変形態及び改良形態が明らかになるはずである。当業者であれば、目的を実施し、言及した目標及び利点並びに本発明に本来備わっている目標及び利点を得るために本発明がよく適合していることを容易に理解する。
【0304】
本明細書に記載する方法及び試薬は、好ましい実施形態を代表する、例示的なものであり、それらによって本発明の範囲を制限するものではない。本発明の範囲内での改変形態、及びその他の用途を当業者であれば思いつくであろう。これらの改変形態は、本発明の精神の内に包含され、特許請求の範囲によって定義されている。また、当業者には、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、本明細書に開示した本発明に対して様々な置換形態及び改変形態を作製することができることも容易に明らかとなるであろう。
【0305】
本発明を好ましい実施形態によって具体的に開示してきたが、当業者であれば本明細書に開示した概念の自由選択的な特色、改変形態及び変更形態を思い浮かべることができ、そのような改変形態及び変更形態は、添付の特許請求の範囲によって定義する本発明の範囲に属するとみなされることを理解されたい。
【0306】
本発明を、種々の及び好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明の根本的な範囲から逸脱することなく、種々の変化形態を作製することができ、均等物によってそれらの要素を置換することができることを当業者には理解されたい。さらに、本発明の根本的な範囲から逸脱することなく、多くの改変形態を作製して、特定の状況又は材料を本発明の教示に適応させることもできる。
【0307】
したがって、本発明は、本発明を実施することを企図して本明細書に開示した特定の実施形態に制限されるものではなく、本発明は、特許請求の範囲に属するすべての実施形態を含むものとする。
【0308】
本発明を明らかにするため又は本発明の実行に関する追加の詳細を提供するために本明細書において使用した刊行物及びその他の材料は、参照によって本明細書に組み込まれており、便宜を図るために、以下の参照文献一覧において提供されている。
【0309】
本明細書において言及した文献の引用はいずれも、前記引用文献のいずれもが適切な先行技術であることを認めるものではない。年月日に関するすべての陳述又はこれらの文献の内容に関する描写は、本出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文献の年月日及び内容の正確さを何ら認めるものではない。
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追加の参考文献(方法のセクションに記載)
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restoration prevents lung cancer growth in vitro and in vivo. Proc. Natl. Acad.
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high-throughput analysis of DNA methylation patterns by base-specific cleavage
and mass spectrometry. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 15785-15790 (2005).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のDNAメチル化パターンを、必要とする対象において回復する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
メチル化によって発現抑制された腫瘍抑制遺伝子(TSG)の再発現を、必要とする対象において誘導する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
TSGが、FHIT及びWWOXの一つ又は複数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
in vitro及びin vivoの両方で腫瘍形成を、必要とする対象において抑制する方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bの一つ又は複数を標的にするのに十分な一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項5】
対象が肺癌患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抑制する方法が非小細胞肺癌(NSCLC)のエピジェネティックな調節を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
DNMT3B mRNAの逆転写を開始するプライマーとしての、内因性miR-29bの使用。
【請求項8】
広範なDNAメチル化を減少させる方法であって、DNMT3A及びDNMT3Bを標的にする一つ又は複数のmiR-29の有効量を投与することを含み、miR-29の発現が、癌細胞でのDNAのエピジェネティックな修飾に寄与する、前記方法。
【請求項9】
少なくとも一つのヌクレオシド類似体を、de novo及び維持DNMT経路をブロックするのに十分な一つ又は複数のmiR-29と組み合わせることによって、DNA低メチル化を達成する方法。
【請求項10】
ヌクレオシド類似体がデシタビンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍抑制遺伝子(TSG)の発現を増加させる方法であって、細胞に一つ又は複数のmi-R29をトランスフェクトすることを含む、前記方法。
【請求項12】
TSGが、FHIT及びWWOXタンパク質の一つ又は複数を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
in vitroで細胞増殖を抑制し、及び/又は細胞でのスクランブル制御に関してアポトーシスを誘導する方法であって、一つ又は複数の細胞に一つ又は複数のmiR-29をトランスフェクトすることを含む、前記方法。
【請求項14】
FHIT及び/又はWWOX酵素の発現レベルを下方調節する方法であって、細胞にmiR-29ファミリーの一又は複数のメンバーをトランスフェクトすることによって、DNMT3A及び/又はDNMT3Bを調節することを含む、前記方法。
【請求項15】
細胞が肺癌細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
広範なDNAメチル化を減少させる方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む、前記方法。
【請求項17】
TSGの発現を回復する方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む、前記方法。
【請求項18】
in vitro及びin vivoの両方で腫瘍形成を抑制する方法であって、肺癌細胞でmi-R29の発現を誘導することを含む、前記方法。
【請求項19】
腫瘍サプレッサーを再活性化させ、癌細胞での異常なメチル化パターンを正常化するために、合成miR-29を単独で又は他の治療法と組み合わせて用いるエピジェネティックな療法を開発する方法。
【請求項20】
癌細胞が肺癌細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象が肺癌関連疾患を有するか、発症するリスクがあるか、又はそれに関して生存期間短縮の予後を有するかどうかを診断する方法であって、対象からの試験試料中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含み、
対照試料中の対応するmiR遺伝子産物のレベルと比較した試験試料中のmiR遺伝子産物のレベルの変化が、対象が肺癌関連疾患を有するかそれを発症するリスクがあることを示し、
少なくとも一つのmiR遺伝子産物が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される、前記方法。
【請求項22】
肺癌関連疾患の応答の少なくとも開始、素因又はそれに関する生存期間短縮の予後について試験する方法であって、
(1)試験対象からの試料中の、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含む少なくとも一つのマーカーの発現レベルを判定すること、
(2)ステップ(1)で判定された発現レベルを、健康対象からの試料中のマーカーの対照発現レベルと比較すること、及び
(3)ステップ(2)の比較の結果が、
i)試験対象での少なくともマーカーの発現レベルが対照でのそれより高いこと、又は
ii)試験対象での少なくとも一つのマーカーの発現レベルが対照でのそれより低いことを示す場合に、対象が肺癌関連疾患を有すると判断することを含む、前記方法。
【請求項23】
試料が、組織、血液、血漿、血清、尿及び糞便の一つ又は複数を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
方法の全ステップがin vitroで実施される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
対象が、肺癌関連疾患を有するか、発症するリスクがあるか、又はそれに関して生存期間短縮の予後を有するかどうかを診断する方法であって、
(1)対象から得られた試験試料由来のRNAを逆転写して一組の標的オリゴデオキシヌクレオチドを提供すること、
(2)標的オリゴデオキシヌクレオチドを、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイにハイブリダイズして、試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを提供すること、及び
(3)試験試料のハイブリダイゼーションプロファイルを、対照試料から生成されるハイブリダイゼーションプロファイルと比較することを含み、
少なくとも一つのmiRNAのシグナルの変化が、対象が肺癌関連疾患を有するか、発症するリスクがあるか、又はそれに関して生存期間短縮の予後を有することを示し、
少なくとも一つのmiRNAのシグナルが、対照試料から生成されるシグナルと比較して、上方制御又は下方制御され、
マイクロアレイが、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiRNAについて、miRNA特異的プローブオリゴヌクレオチドを含む、前記方法。
【請求項26】
miR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物が、肺癌関連疾患を有するか、又は有することが疑われる対象で腫瘍形成を抑制する方法であって、該miR遺伝子産物が対照細胞と比較して対象の癌細胞で下方制御又は上方制御されており、
(1)少なくとも一つのmiR遺伝子産物が癌細胞で下方制御される場合に、腫瘍形成が対象で抑制されるように、miR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せからなる群から選択される少なくとも一つの単離miR遺伝子産物の有効量を対象に投与すること、又は
(2)少なくとも一つのmiR遺伝子産物が癌細胞で上方制御される場合に、腫瘍形成が対象で抑制されるように、miR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制する少なくとも一つの化合物の有効量を対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項27】
ステップ(1)及び/又はステップ(2)の少なくとも一つの単離miR遺伝子産物が、miR29a、miR-29b、miR-29c又はその単離変異体若しくは生物学的活性断片若しくは機能的同等物、又はそれに結合する抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
肺癌を有する対象で腫瘍形成を抑制する方法であって、
(1)対象由来の癌細胞中の少なくとも一つのmiR遺伝子産物の量を対照細胞と比較して判定すること、及び
(2)腫瘍形成が対象で抑制されるように、癌細胞で発現されるmiR遺伝子産物の量を、
(i)癌細胞で発現されるmiR遺伝子産物の量が対照細胞で発現されるmiR遺伝子産物の量より少ない場合には、miR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せからなる群から選択される少なくとも一つの単離miR遺伝子産物の有効量を対象に投与すること、又は
(ii)癌細胞で発現されるmiR遺伝子産物の量が対照細胞で発現されるmiR遺伝子産物の量より多い場合には、少なくとも一つのmiR遺伝子産物の発現を抑制する少なくとも一つの化合物の有効量を対象に投与すること
によって変化させることを含む、前記方法。
【請求項29】
ステップ(i)の少なくとも一つの単離miR遺伝子産物が、miR29a、miR-29b、miR-29c又はその単離変異体若しくは生物学的活性断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップ(ii)の少なくとも一つのmiR遺伝子産物が、iR29a、miR-29b、miR-29c及びその組合せ、又はその単離変異体若しくは生物学的活性断片からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
腫瘍形成の阻害剤を同定する方法であって、
試験剤を細胞に提供すること、及び
肺癌関連疾患で変化している発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含み、
適切な対照細胞と比較した、細胞中のmiR遺伝子産物のレベルの増加又は低下が、試験剤が腫瘍形成の阻害剤であることを示し、
miR遺伝子産物が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される、前記方法。
【請求項32】
腫瘍形成の阻害剤を特定する方法であって、
試験剤を細胞に提供すること、及び
肺癌関連疾患で変化している発現レベルと関連する少なくとも一つのmiR遺伝子産物のレベルを測定することを含み、
適切な対照細胞と比較した、細胞中のmiR遺伝子産物のレベルの低下が、試験剤が腫瘍形成の阻害剤であることを示し、
miR遺伝子産物が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される、前記方法。
【請求項33】
癌が肺癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも一つの肺癌関連疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、段階、活性、障害、死亡率、罹患率、疾患細分類又は他の根底にある病原性若しくは病理学的特徴のうちの少なくとも一つに寄与する一つ又は複数の代謝経路を調べるためのマーカーであって、
miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiR遺伝子産物を含む、前記マーカー。
【請求項35】
請求項34に記載のマーカーの一つ又は複数を含む組成物。
【請求項36】
対象で少なくとも一つの肺癌関連疾患の開始又は発症の可能性を特定する方法であって、請求項1から35のいずれかに記載のマーカーの一つ又は複数を測定することを提供する、前記方法。
【請求項37】
一つ又は複数のマーカーが単離された試料に存在し、方法の全ステップがin vitroで実施される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
肺癌関連疾患について試験するための試薬であって、請求項1から37のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーのヌクレオチド配列、又は前記マーカーのヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、前記試薬。
【請求項39】
肺癌関連疾患について試験するための試薬であって、請求項1から38のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーによってコードされるタンパク質を認識する抗体を含む、前記試薬。
【請求項40】
肺癌関連疾患について試験するためのDNAチップであって、請求項1から39のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーを分析するためにプローブが固定化されている、前記DNAチップ。
【請求項41】
少なくとも一つの肺癌関連疾患を予防、診断及び/又は治療するための療法の有効性を評価する方法であって、
(1)その有効性を評価する療法を動物に施すこと、及び
(2)請求項1から40のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーを評価することによって、試験する治療法の、肺癌関連疾患の治療又は予防における有効性のレベルを判定することを含む、前記方法。
【請求項42】
候補治療剤が、医薬組成物、機能性食品組成物及びホメオパシー組成物の一つ又は複数を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
評価する療法がヒト対象で使用するためのものである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
ヒト又は動物の体の手術又は療法による治療の方法でない、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
動物モデルで肺癌関連疾患応答を開始する能力について少なくとも一つの物質の可能性を評価する方法であって、
(1)動物で肺癌関連疾患応答を開始するのに十分な量の一つ又は複数の物質に動物を曝露した後に、請求項1から44のいずれかに記載の上方制御又は下方制御されたマーカーの一つ又は複数を測定すること、及び
(2)上方制御又は下方制御されたマーカーの少なくとも一つが肺癌関連疾患応答を開始する能力を有するかどうか判定することを提供する、前記方法。
【請求項46】
肺癌関連疾患を治療するための医薬組成物であって、
miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物、及び
薬学的に許容される担体
を含む、前記医薬組成物。
【請求項47】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物が、適切な対照細胞と比較して癌細胞で上方制御又は下方制御されているmiR遺伝子産物に対応する、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
肺癌関連疾患が腺癌である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項49】
肺癌を治療するための医薬組成物であって、
少なくとも一つのmiR発現抑制化合物、及び
薬学的に許容される担体を含み、
少なくとも一つのmiR発現抑制化合物が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択されるmiR遺伝子産物に特異的である、前記医薬組成物。
【請求項50】
少なくとも一つのmiR発現抑制化合物が、適切な対照細胞と比較して癌細胞で上方制御又は下方制御されているmiR遺伝子産物に特異的である、請求項49に記載の医薬組成物。
【請求項51】
請求項1から50のいずれかに記載のマーカーの少なくとも一つから選択される、肺癌関連疾患のマーカーに結合する少なくとも一つの捕捉試薬を含む製造品。
【請求項52】
肺癌関連疾患を治療するための治療剤の候補化合物についてスクリーニングするためのキットであって、
請求項1から51のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーの一つ又は複数の試薬、及び
少なくとも一つのマーカーを発現する細胞
を含む、前記キット。
【請求項53】
マーカーの存在が、少なくとも一つのマーカーに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを含む試薬を用いて検出される、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
試薬が、標識、放射標識又はビオチン標識され、及び/又は抗体又は抗体フラグメントが、放射標識、発色団標識、蛍光団標識又は酵素標識される、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
マーカーの少なくとも一つを含む容器をさらに含む、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
試薬が、抗体、試薬が結合しているか結合することができるプローブ、及び固定化金属キレートの一つ又は複数を含む、請求項55に記載のキット。
【請求項57】
肺癌関連疾患のためのスクリーニング試験であって、
請求項1から56のいずれかに記載のマーカーの一つ又は複数を、そのようなマーカーの基質及び試験剤と接触させること、及び
試験剤がマーカーの活性を調節するかどうか判定することを含む、前記スクリーニング試験。
【請求項58】
方法の全ステップがin vitroで実施される、請求項57に記載のスクリーニング試験。
【請求項59】
請求項1から58のいずれかに記載の少なくとも一つのマーカーに対する抗体を含む、対象で肺癌関連疾患の存在を予測するためのマイクロアレイ。
【請求項60】
マーカーの発現レベルが、転写されたポリヌクレオチド又はその部分の存在を検出することによって評価され、転写されたポリヌクレオチドがマーカーのコード領域を含む、請求項59に記載のマイクロアレイ。
【請求項61】
試料が肺癌関連の体液又は組織である、請求項60に記載のマイクロアレイ。
【請求項62】
試料が患者から得られる細胞を含む、請求項61に記載のマイクロアレイ。
【請求項63】
肺癌関連疾患合併症を、必要とする個体において治療するか、予防するか、回復させるか、又はその重症度を制限するための方法であって、
少なくとも一つの肺癌関連疾患応答シグナル伝達経路を妨害する作用物質を、そのようなシグナル伝達を妨害するのに十分な量で個体に投与することを含み、
作用物質が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含む、前記方法。
【請求項64】
個体において肺癌関連疾患合併症を治療するか、予防するか、回復させるか、又はその重症度を制限するための医薬の製造のための、少なくとも一つの肺癌関連疾患応答シグナル伝達経路を妨害する作用物質の使用であって、
作用物質が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含む、前記使用。
【請求項65】
肺癌関連疾患合併症を、必要とする個体において治療するか、予防するか、回復させるか、又はその重症度を制限するための方法であって、
少なくとも一つの肺癌関連疾患応答カスケードを妨害する作用物質を個体に投与することを含み、
作用物質が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含む、前記方法。
【請求項66】
個体において肺癌関連疾患合併症を治療するか、予防するか、回復させるか、又はその重症度を制限するための医薬の製造のための、少なくとも一つの肺癌関連疾患応答カスケードを妨害する作用物質の使用であって、
作用物質が、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも一つのmiR遺伝子産物を含む、前記使用。
【請求項67】
複数のデジタルコード化された参照プロファイルを有するデータベースを含むコンピュータ可読媒体であって、少なくとも第一の参照プロファイルは、肺癌関連疾患応答の兆候を示している一又は複数の対象に由来する一つ又は複数の試料中の少なくとも第一のマーカーのレベルを表し、
マーカーが、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiR遺伝子産物を含む、前記コンピュータ可読媒体。
【請求項68】
肺癌関連疾患応答の兆候を示している一又は複数の対象、又は肺癌関連疾患を有する対象に由来する一つ又は複数の試料中の少なくとも第二のマーカーのレベルを表す少なくとも第二の参照プロファイルを含む、請求項67に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項69】
対象が、肺癌関連疾患を有するか、その素因があるか、又はそれに関して生存期間の不良な予後を有するかどうか判定するためのコンピュータシステムであって、
請求項1から68のいずれかに記載のデータベース、及び
コンピュータに対象のプロファイルを受け取らせ、対象プロファイルに診断上関連している適合する参照プロファイルをデータベースから同定させ、対象が肺癌関連疾患を有するか、その素因があるかどうかの表示を生成させるための、コンピュータ実行可能コードを含むサーバー
を含む、前記コンピュータシステム。
【請求項70】
対象で肺癌関連疾患の存在、非存在、性質又は程度を評価するためのコンピュータを利用した方法であって、
(1)対象から得た試料からのデータを分類するためのモデル又はアルゴリズムを含むコンピュータを提供することであって、
分類が、少なくとも一つのマーカーの存在、非存在又は量についてデータを分析することを含み、
マーカーが、miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiR遺伝子産物を含むこと、
(2)対象から得た生体試料からのデータを入力すること、及び
(3)肺癌関連疾患の存在、非存在、性質又は程度を表示するために生体試料を分類することを含む、前記方法。
【請求項71】
少なくとも一つのmiR遺伝子産物及びその組合せが、その単離された変異体又は生物学的活性断片又は機能同等物、又はそれに結合する抗体を含む、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
肺癌関連疾患が腺癌である、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
miR29a、miR-29b、miR-29c及びそれらの組合せからなる群から選択される一つ又は複数のmiR遺伝子産物の変化した発現の少なくとも一つが存在する、肺癌の動物モデル。
【請求項74】
動物モデルがヒト以外の脊椎動物である、請求項73に記載の動物モデル。
【請求項75】
動物モデルがマウス、ラット、ウサギ又は霊長類である、請求項74に記載の動物モデル。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−535782(P2010−535782A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520144(P2010−520144)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/071532
【国際公開番号】WO2009/018303
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(510025821)
【Fターム(参考)】