説明

EGFR阻害薬及びIGF−1R阻害剤の投与を含む組み合わせ癌治療

以下を含む癌の治療方法:(a)当初はIRS1薬剤治療に応答し、進行が再開した癌患者の特定、(b)同一または異なるIRS1薬剤およびIGF-1R阻害剤が一緒にまたは連続して投与されることを含む、有効な療法の実施。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組み合わせ癌治療に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子受容体(EGFR)キナーゼ、またはそのリガンドTGF-αの過剰発現は、しばしば乳癌、肺癌、結腸直腸癌、頭部癌や頸部癌を含む数多くの癌(Salomon D.S., et al. (1995) Crit. Rev. Oncol. Hematol. 19:183-232; Wells, A. (2000) Signal, 1:4-11)、膠芽細胞腫、および星状細胞腫に関連しており、これらの腫瘍の悪性の増殖に寄与するものと考えられている。EGFR遺伝子における特異的な欠失突然変異も、細胞の腫瘍原性を増加させることがわかっている(Halatsch, M-E. et al. (2000) J. Neurosurg. 92:297-305; Archer, G.E. et al. (1999) Clin. Cancer Res. 5:2646-2652)。EGFR刺激シグナル経路の活性化により、癌促進の可能性がある複数のプロセス(例えば増殖、血管形成、細胞運動および侵入)、アポトーシスの低下ならびに薬剤抵抗性の誘導を促進する。
【0003】
EGFRのキナーゼ活性を直接阻害する化合物や、EGFR活性化またはEGFRの発現を遮断するアンチセンスオリゴヌクレオチドを遮断することによりEGFRキナーゼ活性を低減する抗体を抗腫瘍薬として使用するための開発も、集中的な研究努力の分野である(de Bono J.S. and Rowinsky, E.K. (2002) Trends in Mol. Medicine 8:S19-S26; Dancey, J. and Sausville, E.A. (2003) Nature Rev. Drug Discovery 2:92-313)。
【0004】
一部のEGFRキナーゼ阻害剤は、その他の一定の抗癌または化学療法薬または治療との組み合わせで使用したとき、腫瘍細胞や異常増殖の死滅を向上させることが例示または開示されている(例えば、Raben, D. et al. (2002) Semin. Oncol. 29:37-46、Herbst, R.S. et al. (2001) Expert Opin. Biol. Ther. 1:719-732、Magne, N et al. (2003) Clin. Can. Res. 9:4735-4732、Magne, N. et al. (2002) British Journal of Cancer 86:819-827、Torrance, C.J. et al. (2000) Nature Med. 6:1024-1028、Gupta, R.A. and DuBois, R.N. (2000) Nature Med. 6:974-975、Tortora, et al. (2003) Clin. Cancer Res. 9:1566-1572、Solomon, B. et al (2003) Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 55:713-723、Krishnan, S. et al. (2003) Frontiers in Bioscience 8, e1-13、Huang, S et al. (1999) Cancer Res. 59:1935-1940、Contessa, J. N. et al. (1999) Clin. Cancer Res. 5:405-411、Li, M. et al. Clin. (2002) Cancer Res. 8:3570-3578、Ciardiello, F. et al. (2003) Clin. Cancer Res. 9:1546-1556、Ciardiello, F. et al. (2000) Clin. Cancer Res. 6:3739-3747、Grunwald, V. and Hidalgo, M. (2003) J. Nat. Cancer Inst. 95:851-867;SeymourL. (2003) Current Opin. Investig. Drugs 4(6):658-666、Khalil, M.Y. et al. (2003) Expert Rev. Anticancer Ther.3:367-380、Bulgaru, A.M. et al. (2003) Expert Rev. Anticancer Ther.3:269-279、Dancey, J. and Sausville, E.A. (2003) Nature Rev. Drug Discovery 2:92-313、Kim, E.S. et al. (2001) Current Opinion Oncol. 13:506-513、Arteaga, C.L. and Johnson, D.H. (2001) Current Opinion Oncol. 13:491-498、Ciardiello, F. et al. (2000) Clin. Cancer Res. 6:2053-2063、US2003/0108545、US2002/0076408、US2003/0157104、WO99/60023、WO01/12227、WO02/055106、WO03/088971、WO01/34574、WO01/76586、WO02/05791、およびWO02/089842)。
【0005】
エルロチニブ(例えば、エルロチニブHCl、別名TARCEVA(登録商標)またはOSI-774)は、経口投与が可能なEGFRキナーゼの阻害剤である。生体外で、エルロチニブは、結腸直腸癌および乳癌を含む多くのヒト腫瘍細胞株のEGFRキナーゼに対してかなりの阻害活性を示しており(Moyer J.D. et al. (1997) Cancer Res. 57:4838)、また前臨床評価では、数多くのEGFR発現ヒト腫瘍異種移植片に対する活性が示されている(Pollack, V.A. et al (1999) J. Pharmacol. Exp. Ther. 291:739)。ごく最近、エルロチニブは、頭部癌や頸部癌(Soulieres, D., et al. (2004) J. Clin. Oncol. 22:77)、NSCLC(Perez-Soler R, et al. (2001) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 20:310a, abstract 1235)、CRC(Oza, M., et al. (2003) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 22:196a, abstract 785)およびMBC(Winer, E., et al. (2002) Breast Cancer Res. Treat. 76:5115a, abstract 445)を含めた数多くの適応症についての第I相および第II相治験において、有望な活性が示された。第III相治験では、エルロチニブ単剤療法は、進行性、治療難治性のNSCLC患者において、著しい生存率の延長、病気の進行の遅れ、および肺癌に関連した症状の悪化の遅れがみられた(Shepherd, F. et al. (2005) N. Engl. J. Med. 353(2):123-132)。エルロチニブについてのほとんどの治験データは、NSCLCにおけるその使用に関連する一方、第I/II相研究からの予備結果では、CRC(Oza, M., et al. (2003) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 22:196a, abstract 785)およびMBC(Jones, R.J., et al. (2003) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 22:45a, abstract 180)を含む、広範囲のヒト固形腫瘍タイプの患者におけるエルロチニブおよびカペシタビン/エルロチニブ併用療法について有望な活性が示されている。2004年11月、米国食品医薬品局(FDA)は、少なくとも1回の前の化学療法が失敗した、局所的に進行型または転移性の非小細胞肺癌(NSCLC)を持つ患者の治療に対してTARCEVA(登録商標)を認可した。TARCEVA(登録商標)は、第III相治験で進行型のNSCLC患者における生存の増加を示す、上皮成長因子受容体(EGFR)クラスの唯一の薬物である。
【0006】
エルロチニブなどの標的特異的な治療アプローチは、一般に従来的な細胞毒性薬剤と比べた毒性の低減に関連し、またそのため多剤併用療法で使用される。ベバシズマブ(Mininberg, E.D., et al. (2003) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 22:627a, abstract 2521)およびゲムシタビン(Dragovich, T., (2003) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 22:223a, abstract 895)との組み合わせでのエルロチニブの第I/II相研究で、有望な結果が観察されている。NSCLC第III相治験での最近のデータでは、第一選択のエルロチニブまたはゲフィチニブと標準化学療法との組み合わせでは、生存を改善しなかったことが示されている(Gatzemeier, U., (2004) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 23:617 (Abstract 7010)、Herbst, R.S., (2004) Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 23:617 (Abstract 7011) 、Giaccone, G., et al. (2004) J. Clin. Oncol. 22:777、Herbst, R., et al. (2004) J. Clin. Oncol. 22:785)。ただし、膵臓癌第III相治験では、第一選択のエルロチニブとゲムシタビンとの組み合わせが生存を改善させたことが示されている(OSI Pharmaceuticals/Genentech/ Roche Pharmaceuticals Press Release, 9/20/04)。したがって、EGFR阻害剤のその他の抗癌薬剤との組み合わせによって、腫瘍細胞の治療が改善される。
【0007】
受容体チロシンキナーゼ(RTK)を通じて作用する成長因子は、細胞増殖を加速し細胞生存を促進させることにより、腫瘍の開始および進行を促進する。上皮成長因子(EGF)およびインスリン様成長因子(IGF)のRTKは、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸直腸、膵臓、および乳房の腫瘍を含めた多数の腫瘍タイプの腫瘍形成に貢献している(Holbro, T., and Hynes, N. E. (2004)。ErbB受容体: 全寿命を通して主なシグナル伝達ネットワークを配向。Annu Rev Pharmacol Toxicol 44, 195-217、Kurmasheva, R. T., and Houghton, P. J. (2006)。正常細胞および悪性細胞におけるIGF-I媒介の生存経路。Biochim Biophys Acta 1766, 1-22; Levitzki, A. (2003)。治療標的としてのEGF受容体。Lung Cancer 41 Suppl 1, S9-14;Roskoski, R., Jr. (2004)。ErbB/HER受容体タンパク質-チロシンキナーゼおよび癌。Biochem Biophys Res Commun 319, 1-11.)腫瘍細胞は、単一のRTK阻害剤に対して新しい耐性を貢献する縮退(redundancy)をRTKの周辺で示すことがあり、またRTK間でのクロストークによって後天的耐性が与えられることがあるため、一つのRTKの阻害の活性が別のRTKによって向上されることにより補正される。
【0008】
IGF-1Rシグナル伝達は、化学治療または放射線治療、および上皮成長因子受容体(EGFR)阻害を含む、分子を標的とする治療に対する癌細胞の後天的耐性に関連することが示されてきた。実際に、いくつかの異なる癌タイプにおいて、EGFRおよびErbB2シグナル形質導入阻害剤の効力が、PI3-キナーゼ/Akt経路のIGF-1R活性化により急に減弱することが最近になって示されている(Chakravarti, A., Loeffler, J. S., and Dyson, N. J. (2002)。インスリン様成長因子受容体Iは、主にヒト膠芽細胞腫細胞において、ホスホイノシチド3-キナーゼシグナル伝達の連続的な活性化により、抗上皮成長因子受容体治療に対する耐性を媒介する。Cancer research 62, 200-207; Jones, H. E., Goddard, L., Gee, J. M., Hiscox, S., Rubini, M., Barrow, D., Knowlden, J. M., Williams, S., Wakeling, A. E., and Nicholson, R. I. (2004)。ヒト乳癌および前立腺癌細胞におけるゲフィチニブ(ZD1839、Iressa)に対するインスリン様成長因子-I受容体のシグナル伝達および後天的耐性。Endocr Relat Cancer 11, 793-814; Lu, Y., Zi, X., Zhao, Y., Mascarenhas, D., and Pollak, M. (2001)。トラスツズマブ(Herceptin)に対するインスリン様成長因子-I受容体のシグナル伝達および耐性。Journal of the National Cancer Institute 93, 1852-1857; Nahta, R., Yuan, L. X., Zhang, B., Kobayashi, R., and Esteva, F. J. (2005)。インスリン様成長因子-I受容体/ヒト上皮成長因子受容体2のヘテロ二量体化が乳癌細胞のトラスツズマブ耐性に貢献。Cancer research 65, 11118-11128)。例えば、IGF-1R活性化は、乳癌および前立腺癌の細胞のEGFR阻害に対する後天的耐性に関連する(Jones et al.、2004)。また、IGF-1Rは、膠芽細胞腫、結腸直腸、およびNSCLC腫瘍細胞における抗EGFR治療に対する耐性を媒介することも示されている(Chakravarti et al.、2002、Liu et al.、2001; Jones et al.、2004、Morgillo et al.、2006、Hurbin et al.、2003、Knowlden et al.、2005)。
【0009】
US2006/0235031は、癌治療用を含めた、IFG1R阻害剤としての6,6-二環式環置換したヘテロ二環式タンパク質キナーゼ阻害剤およびその使用に言及している。US2003/0114467、US2003/0153752、およびUS2005/0037999は、ピラゾロ-およびピロロ-ピリミジン、および癌治療用を含めたその使用に言及しており、また一般的に他の抗癌剤との様々な組み合わせに言及している。US2005/0153966は、キナーゼ阻害剤とされるヘテロ環式化合物、および癌治療用を含めたその使用に言及している。US2004/0180911は、ピリミジン誘導体および腫瘍および増殖性疾患用を含めたその使用に言及し、また他の化学療法薬物と組み合わせて化合物を使用できることが記載されている。WO2004/056830は、ピロロピリミジン誘導体および癌治療用を含めたその使用に言及し、またその化合物を他の抗癌剤と組み合わせて使用できることが記載されている。
【0010】
Valeriote et al.、Cancer Chemotheraty Reports、59(5)、895-900(1975)は、「抗癌剤における付加性および相乗作用について記載した広範な文献が存在する」と述べている。US2004/0106605は「癌治療のための相乗的な方法および組成物」と題され、一般的にIGF1R阻害剤のEGFR阻害剤との組み合わせに言及している。US2008/0267957およびUS2008/0014200は、IGF-1R阻害剤とEGFR阻害剤の両方の投与を含む治療法を開示している。これらの出版物について、特定のIGF-1R阻害剤、EGFR阻害剤、根底にある機構情報、および治療方法を含めて、あらゆる目的でその全体を本書に組み込む。
【0011】
また、Harris et al., Diseases of the Breast, p. 1193 (2005); Ueda et al., Modern Path., 19, 788-796 (2006); Wilsbacher et al., J. Biol. Chem., 283, 35, 23721-30 (2008); Science Daily June 25, 2008 (http://www.sciencedaily. com/releases/2008/06/ 080624135934.htm; accessed Jan. 13, 2009); Takahari et al., Oncology, 76, 42-48 (2009); Erlotinib With or Without IMC-A12 (clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00778167?show_desc=Y; accessed Jan. 13, 2009); Riely et al., Clin. Cancer Res., 13(17) (Sept. 2007) にも留意されたい。EGFRおよびIGF-1R阻害剤の組み合わせが相乗的に増殖を阻害し、上皮系表現型を持つ初期段階の腫瘍でのアポトーシスを駆動する可能性があるという仮説を裏付ける生体外での研究が示されている - Barr et al., Clin. Exp. Metastasis, 25:685-693 (2008); M. Hopfner, Free University Berlin Dissertations Online (2007) (www.diss.fu-berlin.de/diss/receive/fudiss_thesis_000000002588?lang=en; accessed Jan. 13, 2009)。
【0012】
残念ながら、全ての被験者がタルセバ/エルロチニブまたはその他のEGFR阻害剤に応答するわけではない。さらに、ほとんどの応答者では、一定期間の治療後、最終的には疾患が進行する。標準プロトコルでは、進行が生じた場合にEGFR阻害剤治療の中止が要請されうる。こうして、EGFR阻害剤について進行のない生存の時間を増大させることや、別の小分子治療薬を治療に追加することなどによって、EGFR阻害剤の効果の持続時間が遅延または延長される治療を含めた、癌治療の改善の必要性がある。
【発明の概要】
【0013】
本発明には、癌、ヒトの癌、腫瘍、および腫瘍転移を治療するための方法および組成物が含まれる。特に、本発明には、少なくとも一つのIGF-1Rタンパク質キナーゼ阻害剤およびEGFR阻害剤などのIRS1(IRS1薬剤)のセリンリン酸化を阻害する少なくとも一つの薬剤の両方が含まれる効果的な療法を受けているヒト癌患者を含めた被験者の治療が含まれる。一部の好ましい実施態様において、治療するために選択された患者または被験者は、その癌が当初はIRS1薬剤に応答したが、その後最終的に癌が進行した人物(難治性)である。
【0014】
一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤には、小分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が含まれる。一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤には、US2006/0235031に記載のあるその化合物または塩が含まれる。一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤には、OSI-906、すなわち、シス-3-[8-アミノ-1-(2-フェニル-キノリン-7-イル)-イミダゾ[1,5-a]ピラジン-3-イル]-1-メチル-シクロブタノールまたはその薬学的に許容される塩が含まれる。
【0015】
一部の実施形態において、当初効果的なIRS1薬剤は、エルロチニブまたはゲフィチニブである。一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤と併用するIRS1薬剤は、エルロチニブまたはゲフィチニブである。
【0016】
一部の実施形態において、癌は当初、EGFRキナーゼ阻害剤治療により部分的または完全に治療可能である。一部の実施形態において、癌はNSCLCである。一部の実施形態において、癌は、肺癌、膵臓癌、部癌と頸部癌、乳癌、副腎皮質悪性腫瘍(ACC)、結腸直腸癌、卵巣癌、腎細胞癌、膀胱癌、膠芽細胞腫、星状細胞腫、または神経芽細胞腫から選択される。
【0017】
一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤およびEGFR阻害剤の投与は、付加的または相乗的である。
【0018】
一部の実施形態において、進行時、またはその付近でIGF-1R阻害剤を付加したIRS1薬剤治療を継続することで、進行のない生存時間の改善またはその他の測定可能な利益が提供される。
【0019】
一部の実施形態において、EGFR阻害剤およびIGF-1R阻害剤は、連続して投与される。一部の実施形態において、EGFR阻害剤およびIGF-1R阻害剤は、同時に投与される。一部の実施形態において、生存時間および/または全体的な療法の成功を改善する追加的な活性薬剤が投与される。
【0020】
一部の実施形態において、発明には、本書の方法を実施するにあたって使用される薬剤の組成物および薬物の製造が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】未治療のマウスと、18日間のエルロチニブ治療(100 mg/kg/日)の後、平均ピクセル密度を示すマウスについてのGEOモデルRTKアレイ分析。
【図2】AKTおよびERKのGEOモデルウエスタンブロット分析。
【図3】GEOモデルTBP試験デザイン。
【図4】GEOモデルTBPデータ(腫瘍が2倍になる日数)。
【図5】未治療のマウスと、18日間のエルロチニブ治療(100 mg/kg/日)の後、ホスホチロシン負荷対照試料のパーセントとして平均ピクセル密度を示すマウスについてのH292モデルRTKアレイ分析。
【図6】AKTおよびERKのH292モデルウエスタンブロット分析。
【図7】H292モデルTBP試験デザイン。
【図8】H292モデル初期エルロチニブ治療(100 mg/kg/日)。
【図9】初回治験:H292モデルTBPデータ(腫瘍体積)。
【図10】初回治験:1回の倍加時間についてのデータのH292モデルTBPデータの統計カプラン・マイヤー分析
【図11】初回治験:2回の倍加時間についてのデータのH292モデル進行以降の治療データの統計カプラン・マイヤー分析
【図12】H292モデル最前線組み合わせデータ(腫瘍体積)。
【図13】第二回治験:H292モデルTBPデータ(腫瘍体積)。
【図14】第二回治験:2回の倍加時間についてのデータのH292モデルTBPデータの統計カプラン・マイヤー分析
【図15】第二回治験:2回の倍加時間についてのデータのH292モデル進行以降の治療データの統計カプラン・マイヤー分析
【発明を実施するための形態】
【0022】
EGFRキナーゼ阻害剤治療に当初は応答していた多くのNSCLC患者が、後に進行性疾患を発達させ、EGFRキナーゼ阻害剤治療に対して難治性となる。医療技術の当業者であれば、患者がEGFRキナーゼ阻害剤による単剤治療に対して難治性になることには数多くの理由があることが理解できるが、その一つは、患者の腫瘍細胞が試験したEGFRキナーゼ阻害剤による阻害に対して非感受性となることである。また、患者は、あるタイプのEGFRキナーゼ阻害剤での治療に対しては難治性となるが、別のタイプのEGFRキナーゼ阻害剤での治療に対しては感受性があるという可能性もある。
【0023】
EGFRキナーゼ阻害剤治療に対する当初の応答があった後で、進行性疾患となった患者の治療の継続は、新しい治療を開始した時でさえも有益である。本発明は、IGF-1Rキナーゼ阻害剤の追加を伴った治療の継続を提供している。こうして、新しい治療を開始した後でさえも、疾患の進行後のEGFR(またはその他のIRS1薬剤)治療の継続が有益となりうる。
【0024】
本発明はさらに、EGFRキナーゼ阻害剤またはIGF-1Rキナーゼ阻害剤での難治性患者における腫瘍または腫瘍転移の治療によって起こる副作用を低減する方法も提供しており、これには、付加的または相乗的な抗腫瘍効果を生み出し、腫瘍増殖の阻害に効果がある量での、治療に有効な量のEGFRキナーゼ阻害剤とIGF-1Rキナーゼ阻害剤の組み合わせを同時または連続的に患者に投与することが含まれる。
【0025】
本発明はさらに、難治性癌を治療する方法を提供しており、これには、こうした治療を必要とする被験者に効果的な療法を実施することが含まれ、これには(i)効果があるか治療量に満たない第一の量のEGFRキナーゼ阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、および(ii)効果があるか治療量に満たない第二の量のIGF-1Rキナーゼ阻害剤が含まれる。
【0026】
一部の実施形態において、発明は、効力を得るために必要とされる治療の個別成分の用量を低減し、それにより副作用は低減するが、その一方で生存時間という観点から治療の価値を維持または上昇させる、抗癌併用療法を提供する。

被験者および適応
一部の実施形態において、被験者または患者は、その癌がEGFRキナーゼ阻害剤などのIRS1薬剤に応答し、その後に疾患が進行した人物である。こうして、当初のIRS1薬剤は、患者の状態に対して当初効果のある任意の薬剤である。本発明の療法でその後も使用されるIRS1薬剤は、同じ阻害剤でも異なる阻害剤でもよい。
【0027】
一部の実施形態において、患者は、癌またはその他の形態の異常細胞増殖の治療を必要とする人物である。癌は、EGFRキナーゼ阻害剤などのIRS1薬剤の投与によって、部分的または完全に治療可能な任意の癌であることが好ましい。
【0028】
一部の実施形態において、癌は、結腸直腸癌、非小細胞肺悪性腫瘍(NSCLC)、副腎皮質悪性腫瘍(ACC)、膵臓癌、頭部癌と頸部癌、乳癌、または神経芽細胞腫から選択される。癌は、例えば、以下でもよい:NSCL、乳癌、結腸癌、膵臓癌、肺癌、細気管支肺胞上皮細胞肺癌、骨肉腫、皮膚癌、頭部癌または頸部癌、皮膚癌または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部分の癌、胃癌、胃癌、子宮癌、卵管癌、子宮癌、卵巣癌、外陰部の悪性腫瘍、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎の癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、尿管癌、腎臓癌、腎細胞悪性腫瘍、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、慢性または急性の白血病、リンパ球性リンパ腫、中枢神経系(CNS)腫瘍、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、膠多形性膠芽腫芽細胞腫多形、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣細胞腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、上記の任意の癌の難治性のもの、または上記の癌の一つ以上の組み合わせを含む。前癌状態または病変には、例えば、口腔白斑症、光線性角化症(日光性角化症)、結腸または直腸の前癌性ポリープ、胃の上皮性異形成症、腺腫様異形成、遺伝性非ポリープ性大腸癌症候群(HNPCC)、バレット食道、膀胱異形成症、および前癌性の子宮頚部の状態から成る群が含まれる。

IRS1薬剤
本発明によれば、IRS1のセリンリン酸化を阻害する薬剤には、MAPK経路の阻害剤が含まれ、これには、例えばEGFR阻害剤、MEK阻害剤、Ras阻害剤、Raf阻害剤、およびPKC阻害剤が含まれる。
【0029】
IRS薬剤は、EGFRキナーゼ阻害剤が好ましい。本書で使用される場合、「EGFRキナーゼ阻害剤」という用語は、本技術分野で現在知られているか将来特定される任意のEGFRキナーゼ阻害剤を指し、患者に投与した際に、EGFRの天然リガンドへの結合から生じる下流の生物学的効果を含む、患者のEGFR受容体活性化と関連した生物学的活性の阻害を引き起こす任意の化学物質を含む。このようなEGFRキナーゼ阻害剤には、EGFR活性化または患者の癌の治療に関連するEGFR活性化の下流の生物学的効果を遮断できる任意の薬剤を含む。このような阻害剤は、受容体の細胞外ドメインに直接結合し、そのキナーゼ活性を阻害することによって作用できる。または、このような阻害剤は、EGF受容体のリガンド結合部位またはその一部分を占有し、それにより受容体の正常な生物学的活性が阻止または低減されるように受容体が天然リガンドにアクセスできないようにすることによって作用できる。または、このような阻害剤は、EGFRポリペプチドの二量体化、またはEGFRと他のタンパク質との相互作用を調節することによって、またはEGFRのユビキチン化およびエンドサイトーシス分解を増強することによって作用できる。EGFRキナーゼ阻害剤には、低分子阻害剤、抗体、抗体フラグメント、ペプチドまたはRNAアプタマー、アンチセンス構築物、小阻害RNA(すなわち、dsRNAによるRNA干渉、RNAi)、およびリボザイムを含むがこれに限定されない。好ましい実施形態では、EGFRキナーゼ阻害剤は、ヒトEGFRに特異的に結合する小さな有機分子または抗体である。
【0030】
EGFRキナーゼ阻害剤には、例えば、下記の特許公報に記述されているようなキナゾリンEGFRキナーゼ阻害剤、ピリド-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピリミド-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピロロ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、ピラゾロ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、フェニルアミノ-ピリミジンEGFRキナーゼ阻害剤、オキシンドールEGFRキナーゼ阻害剤、インドロカルバゾールEGFRキナーゼ阻害剤、フタラジンEGFRキナーゼ阻害剤、イソフラボンEGFRキナーゼ阻害剤、キナロンEGFRキナーゼ阻害剤、およびチルホスチンEGFRキナーゼ阻害剤、および前述のEGFRキナーゼ阻害剤の薬学的に許容される塩および溶媒和物の全てを含む:国際特許公開番号WO96/33980、WO96/30347、WO97/30034、WO97/30044、WO97/38994、WO97/49688、WO98/02434、WO97/38983、WO95/19774、WO95/19970、WO97/13771、WO98/02437、WO98/02438、WO97/32881、WO98/33798、WO97/32880、WO97/03288、WO97/02266、WO97/27199、WO98/07726、WO97/34895、WO96/31510、WO98/14449、WO98/14450、WO98/14451、WO95/09847、WO97/19065、WO98/17662、WO99/35146、WO99/35132、WO99/07701、WO92/20642、EP520722、EP566226、EP787772、EP837063、EP682027、US5747498、US5789427、US5650415、US5656643、US6900221、およびDE19629652。追加的な低分子EGFRキナーゼ阻害剤の非限定的な例には、Traxler, P., 1998, Exp. Opin. Ther. Patents 8(12):1599-1625に記載のある任意のEGFRキナーゼ阻害剤が含まれる。
【0031】
本発明に従い使用できる低分子EGFRキナーゼ阻害剤の具体的な例には、[6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)-4-キナゾリン-4-イル]-(3-エチニルフェニル)アミン(別名OSI-774、エルロチニブ、またはTARCEVA(登録商標)(エルロチニブ HCl)、OSI Pharmaceuticals/Genentech/ Roche)(US5,747,498、WO 01/34574、およびMoyer, J.D. et al. (1997) Cancer Res. 57:4838-4848)、CI-1033(旧称PD183805、Pfizer)(Sherwood et al., 1999, Proc. Am. Assoc. Cancer Res. 40:723)、PD-158780(Pfizer)、AG-1478(University of California)、CGP-59326(Novartis)、PKI-166(Novartis)、EKB-569(Wyeth)、GW-2016(別名GW-572016またはラパチニブジトシラート、GSK)、およびゲフィチニブ(別名ZD1839またはIRESSA(商標)、Astrazeneca)(Woodburn et al., 1997, Proc. Am. Assoc. Cancer Res. 38:633)が含まれる。EGFRキナーゼ阻害剤には、例えば、EGFRキナーゼに対して活性を持つ複数キナーゼ阻害剤、すなわち、EGFRキナーゼおよび一つ以上の追加的なキナーゼを阻害する阻害剤も含む。このような化合物の例には、EGFRおよびHER2阻害剤CI-1033(旧称PD183805、Pfizer)、EGFRおよびHER2阻害剤GW-2016(GW-572016またはラパチニブジトシラートとしても知られる、GSK)、EGFRおよびJAK 2/3阻害剤AG490(チルホスチン)、EGFRおよびHER2阻害剤ARRY-334543(Array BioPharma)、BIBW-2992、不可逆性二重EGFR/HER2キナーゼ阻害剤(Boehringer Ingelheim Corp.)、EGFRおよびHER2阻害剤EKB-569(Wyeth)、VEGF-R2およびEGFR阻害剤ZD6474(別名ZACTIMA(商標)、AstraZeneca Pharmaceuticals)、およびEGFRおよびHER2阻害剤BMS-599626(Bristol-Myers Squibb)を含む。
【0032】
抗体ベースのEGFRキナーゼ阻害剤には、その天然リガンドによってEGFR活性化を部分的または完全に遮断できる、抗体フラグメントを含めた任意の抗EGFR抗体を含む。抗体ベースのEGFRキナーゼ阻害剤の非限定的例には、Modjtahedi, H., et al., 1993, Br. J. Cancer 67:247-253; Teramoto, T., et al., 1996, Cancer 77:639-645; Goldstein et al., 1995, Clin. Cancer Res. 1:1311-1318; Huang, S. M., et al., 1999, Cancer Res. 15:59(8):1935-40; およびYang, X., et al., 1999, Cancer Res. 59:1236-1243に記述のものを含む。したがって、EGFRキナーゼ阻害剤は、モノクローナルン抗体Mab E7.6.3(Yang, X.D. et al. (1999) Cancer Res. 59:1236-43)、またはMab C225(ATCC受入番号HB-8508)、抗体またはその結合特異性を持つ抗体フラグメントでありうる。適切なモノクローナル抗体EGFRキナーゼ阻害剤には、限定はされないが、IMC-C225(別名、セツキシマブまたはERBITUX(商標)、Imclone Systems)、ABX-EGF(Abgenix)、EMD 72000(Merck KgaA、ダルムシュタット)、RH3(York Medical Bioscience Inc.)、およびMDX-447(Medarex/ Merck KgaA)を含む。追加的な抗体ベースのEGFRキナーゼ阻害剤またはKITキナーゼ阻害剤は、適切な抗原またはエピトープを、数ある中でブタ、雌ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、およびマウスから選択した宿主動物に投与することにより、よく知られた方法に従い生成することができる。当技術分野でよく知られているさまざまなアジュバントを、抗体の生成を増進するために使用できる。発明を実施するために有用な抗体は多クローン性でもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。EGFRまたはKITに対するモノクローナル抗体は、培養内での連続継代性細胞株による抗体分子の生成について提供されている任意の技法を用いて、調製・単離することができる。製造および単離の技法には、限定はされないものの、KohlerおよびMilsteinによって最初に記述されたハイブリドーマ法(Nature, 1975, 256: 495-497)、ヒトB-細胞ハイブリドーマ法(Kosbor et al., 1983, Immunology Today 4:72; Cote et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 2026-2030)、およびEBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)などがある。
【0033】
別の方法として、単鎖抗体の製造について記載のある技術(例えば、US4946778を参照)を適応して、抗EGFRまたは抗Kit単鎖抗体を生成できる。本発明の実施において有用な抗体ベースのEGFRキナーゼ阻害剤またはKITキナーゼ阻害剤には、抗EGFRまたは抗Kit抗体フラグメントも含まれ、これには、限定はされないものの、損傷のない抗体分子のペプシン消化により生成できるF(ab')2フラグメント、およびF(ab').sub.2フラグメントのジスルフィド架橋の還元により生成できるFabフラグメントが含まれる。別の方法として、Fabおよび/またはscFv発現ライブラリを構成して(例えば、Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281を参照)、EGFRまたはKitに対する希望の特異性を持つフラグメントの迅速な同定を行えるようにすることができる。
【0034】
モノクローナル抗体および抗体フラグメントの製造および分離の技法は、当技術分野でよく知られており、Harlow and Lane, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory、およびJ. W. Goding, 1986, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, Londonに記載がある。ヒト化抗EGFR抗体および抗体フラグメントを、Vaughn, T. J. et al., 1998, Nature Biotech. 16:535-539および同文献中で引用された参考文献に記載のあるものなど、よく知られた技術に従い調製することもでき、またこうした抗体またはそのフラグメントは、本発明の実施においても有用である。

IGF-1R阻害剤
IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、IRS1薬剤の継続の効果を向上させる任意の薬剤である。一部の実施形態において、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、小分子有機化合物またはその塩である。例えば、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、US2006/0235031またはUS2006/0084654に記載のある任意の化合物またはその塩でもよく、この両方の全体をあらゆる目的で参照によって本書に組み込む。IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、OSI-906((シス-3-[8-アミノ-1-(2-フェニル-キノリン-7-イル)-イミダゾ[1,5-a]ピラジン-3-イル]-1-メチル-シクロブタノール)であることができる。

組成物
活性薬剤は、薬学的に許容される不活性の担体と共に、錠剤、カプセル、ロゼンジ、トローチ、硬質キャンディー、粉末、噴霧剤、クリーム、軟膏、座薬、ゼリー、ゲル、ペースト、ローション、軟膏、特効薬、シロップ、および同類のものなどの形状で投与できる。このような剤形の投与は、単回または複数回投与で実施できる。担体には、固体希釈剤または賦形剤、滅菌水媒体およびさまざまな非毒性有機溶媒等を含む。経口の薬剤の組成は、適切に加糖および/または味付けができる。
【0035】
EGFRキナーゼ阻害剤を含む医薬組成物の調製方法は当技術分野で知られており、例えば、WO01/34574に記述されている。本発明の教示という観点では、EGFRキナーゼ阻害剤および/またはIGF-1Rキナーゼ阻害剤を含む、医薬組成物の調製方法は、上記に引用された出版物およびRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 18th edition (1990)などの他の知られている参考文献から明らかとなる。
【0036】
EGFRキナーゼ阻害剤またはIGF-1Rキナーゼ阻害剤の経口投与では、活性薬剤の1つまたは両方を含む錠剤は、例えば、微結晶性セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウムおよびグリシンといったさまざまな任意の賦形剤と共に、デンプン(および好ましくはコーン、馬鈴薯またはタピオカデンプン)、アルギン酸および特定の複合シリカなどの崩壊剤、ポリビニルピロリドン、ショ糖、ゼラチンおよびアカシアなどの顆粒結合剤と混合される。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクなどの潤滑剤は、打錠の目的でしばしば非常に有用である。同様のタイプの固体組成物も、ゼラチンカプセルの賦形剤として使用されうるこの関連で好ましい材料には、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールも含まれる。水性懸濁液および/またはエリキシルが経口投与のために望ましい場合、EGFRまたはIGF-1Rキナーゼ阻害剤はさまざまな甘味または香味剤、着色剤または色素と混合することができ、望ましい場合は、乳化剤および/または懸濁剤も水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンおよびその各種の類似した組み合わせなどの希釈剤とともに混合しうる。

投薬および施術
治療的に有効な療法を実施する厳密な方法は、特定の患者およびその状態に依存しうる。投薬量、その他の抗癌剤との組み合わせ、投与の時期および頻度、および同類のものを含めた投与は、被験者もしくは患者への見込まれる応答性の診断、および患者の状態および病歴の影響を受ける。
【0037】
本発明の方法の一部の実施形態において、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、EGFRキナーゼ阻害剤と同時に投与される。本発明の方法の一部の実施形態において、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、EGFRキナーゼ阻害剤の前に投与される。本発明の方法の一部の実施形態において、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、EGFRキナーゼ阻害剤の後で投与される。本発明の方法の別の実施形態において、IGF-1Rキナーゼ阻害剤は、EGFRキナーゼ阻害剤とIGF-1Rキナーゼ阻害剤の組み合わせを投与する前に、事前投与される。
【0038】
本発明の組み合わせの化合物の投与レベルは、ほぼ本書に記載の通り、またはこれらの化合物の技術分野に記述の通りである。しかし当然ながら、特定の患者に対する特定の用量レベルは、年齢、体重、全般的健康、性別、食餌、投与時刻、投与経路、排泄率、複合薬および治療中の特定疾患の重症度を含む様々な要因によって決まる。
【0039】
投薬および投与は、少なくとも部分的に、薬剤単独および/または組み合わせでのPKおよびPDの性質によって指図されうる。
【0040】
本発明は、効力を得るために必要とされる個別成分の用量を低減し、それによってその薬剤に関連した副作用は低減するが、その一方で治療の価値を維持または上昇させる、抗癌併用療法を提供する。これは、使用する活性薬剤に基づき最適化しうる。
【0041】
EGFRキナーゼ阻害剤の投与量、およびEGFRキナーゼ阻害剤投与のタイミングは、治療を受けている患者のタイプ(人種、性別、年齢、体重など)および状態、治療している疾患または状態の重症度、および投与経路によって決まる。例えば、上記記載内容に加えて、小分子EGFRキナーゼ阻害剤は、体重一日あたりまたは一週間あたり0.001〜100 mg/kgの範囲の用量を単回または分割投与、または連続注入できる(例えば、WO 01/34574を参照)。特に、エルロチニブHClは、患者に1日あたり5〜200 mg、または1週間あたり100〜1600 mgを単回または分割投与または連続注入できる。好ましい用量は150 mg/日である。抗体ベースのEGFRキナーゼ阻害剤、またはアンチセンス、RNAiまたはリボザイム構築物は、体重一日あたりまたは一週間あたり0.1〜100 mg/kgを単回または分割投与または連続注入できる。一部の例では、前述の範囲の下限より低いレベルの用量で十分なことがあり、他の例では、有害な副作用を生じることなくより高用量が使用されうる。
【0042】
こうして、本発明には、以下を含む癌の治療方法が含まれる:(a)EGFR阻害剤治療など第一のIRS1薬剤に応答し、進行を再開した癌を持つ患者の選別;(b)(i)少なくとも一つの第二のEGFR阻害剤と、(ii)少なくとも一つのIGF-1R阻害剤が含まれる効果的な療法の患者への実施であって、ここで少なくとも一つの第二のEGFR阻害剤が第一のEGFR阻害剤治療で使用した薬剤と同じかまたは異なり、また、ここで(i)および(ii)が一緒にまたは連続して投与される。
【0043】
一部の実施形態において、IGF-1R阻害剤には、OSI-906またはその薬学的に許容される塩が含まれる。その一部の実施形態において、OSI-906は、約0.1〜約0.7 mg/kg・日、約0.7〜約5 mg/kg・日、または約5〜約15 mg/kg・日の量で投与される。
【0044】
一部の実施形態において、第二のEGFR阻害剤には、小分子の非生物学的薬剤が含まれる。その一部の実施形態において、第二のEGFR阻害剤には、エルロチニブまたはその薬学的に許容される塩が含まれる。一部の実施形態において、第二のEGFR阻害剤には、ゲフィチニブ、CI-1033、セツキシマブ、パニツムマブ、ラパチニブ、ラパチニブジトシラート、ZACTIMATM、BMS-599626、ARRY-334543、またはAG490が含まれる。一部の実施形態において、第二のEGFR阻害剤には、モノクローナル抗体が含まれる。
【0045】
一部の実施形態において、第二のEGFR阻害剤には、第一のEGFR阻害剤治療で使用したものと同じ薬剤が含まれる。
【0046】
本発明の一部の実施形態において、方法はさらに、少なくとも一つの追加的な活性薬剤の投与が含まれる。
【0047】
一部の実施形態において、第二のEGFRおよびIGF-1R阻害剤は相乗的に作用する。その他の実施形態において、それらは付加的に作用する。
【0048】
一部の実施形態において、患者は、IGF-1R阻害剤の第一の用量の投与から少なくとも約2、4、8、16、または32週間の間、進行のない生存を示す。
【0049】
一部の実施形態において、腫瘍体積が倍加する時間は、IGF-1R阻害剤の第一の用量の投与から少なくとも約3、6、12、または24週間である。

生体内(in vivo)でのデータ
本発明は、以下の実験の詳細で、より良く理解される。しかし、以下に続く請求項により完全に記述されるように、検討されている特定の方法および結果は本発明の単なる実例であり、これをいかなる形でも制限するとは見なされないことは、当業者であれば容易に理解できるはずである。
【実施例】
【0050】
H292(NSCLC)およびGEO(CRC)ヒト腫瘍異種移植片モデルを使用して、EGFR阻害剤(エルロチニブ)維持療法の効力について、エルロチニブ単独療法に対する応答後およびその後の進行後にIGF-1R阻害剤(OSI-906)治療を付加したもの、および付加しないものについて評価した。
【0051】
GEOおよびH292細胞に由来するマウス異種移植片腫瘍モデルを使用して、抗腫瘍の効力を評価した。雌の胸腺欠損ヌードnu/nuCD-1マウス(6-8 wks、22-29 g)を、Charles River Laboratories(マサチューセッツ州ウィルミントン)から入手した。研究の開始に先立ち、少なくとも1週間、動物を環境に慣らした。研究期間全体を通して、動物には無菌のげっ歯類用固形飼料および水を適宜に与え、また免疫無防備状態の動物は、特定の無菌状態下で維持した。全ての動物研究は、米国実験動物飼育公認協会(AAALAC)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)公認の飼育場の承認、および実験動物研究協会(Institute of Laboratory Animal Research)(実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)、NIH、メリーランド州ベセスダ)に従い実施した。細胞の指数増殖中に腫瘍細胞を細胞培養フラスコから収穫し、無菌PBSで2回洗浄して計数し、PBS中に適切な濃度で再懸濁させてから、雌のnu/nuCD-1マウスの右脇腹に皮下(s.c.)移植した。各群8匹のマウスの投与群に無作為化する前に、腫瘍を200 +/- 50 mm3の大きさに定着させた。研究中、ノギスを用いた腫瘍体積{V=[長さ×(幅)2]/2}の測定とともに、体重を週2回判定した。腫瘍増殖阻害(%TGI)を次の式で算出した:%TGI = {1-[(Tt/T0) / (Ct/C0)] /1-[C0/Ct]} X 100。Ttは、時間tでの治療群の腫瘍体積、T0は、時間0での治療群の腫瘍体積、Ctは、時間tでの対照群の腫瘍体積、およびC0は、時間0での対照群の腫瘍体積である。抗腫瘍活性は、治療終了時の最低腫瘍阻害阻害50%と定義した。さらに、治療群腫瘍(T)が当初腫瘍体積の400%に達するために必要とされる時間(日数)を対照群(C)の時間と比較した差として定義される、腫瘍増殖遅延(GDまたはT-C値)に対する薬物治療の効果を評価した。治癒はこの特定の計算から除外した。単一薬剤エルロチニブ治療における腫瘍進行の時点で、各群が8匹のマウスから成る追加的な試験群にマウスを無作為化した。研究期間全体を通して、全てのマウスについてそれぞれの腫瘍体積を上述のとおり計算し、再無作為化の時点からそれぞれのマウスがその腫瘍体積を倍加するまでの日数での時間を、データセット全体の線形回帰分析により判定した。データの統計評価をカプラン・マイヤー生存分析により判定した。

RTKアレイ分析 - GEOモデル
図1に示すとおり、未治療のGEO腫瘍およびエルロチニブ(100 mg/kg/日)で18日間治療した腫瘍において、pEGFR、pIGF-1R、およびpIRのレベルを平均ピクセル密度に関して測定した。治療した全ての腫瘍が、未治療の腫瘍と比較してpIGF-1RおよびpIRの上方制御を示した。当初は応答したがその後進行した腫瘍では、最も大きな上方制御が示された。

AKTおよびERKのGEOモデルウエスタンブロット分析
未治療のGEO腫瘍およびエルロチニブ(100 mg/kg/日)で18日間治療した腫瘍について、合計およびリン酸化AktおよびErkのレベルを測定し、各試料について蛍光体の総タンパクに対する比率に関して定量化した後、賦形剤対照治療の腫瘍で観察されたレベルと比較してプロットした(100%であると想定)。治療中に進行しなかった腫瘍は、下流シグナル伝達マーカー(Akt、Erk)の継続的な阻害を示す。図2に示すとおり、応答したがその後治療中に進行した腫瘍は、もはやこれらのマーカーを阻害していない。
【0052】

進行以降の治療 - GEOモデル
進行以降の前臨床の治療の研究を実行するために、細胞の指数増殖中にGEO細胞を細胞培養フラスコから収穫し、無菌PBSで2回洗浄して計数し
、PBS中に適切な濃度で再懸濁させてから、雌のnu/nuCD-1マウスの右脇腹に皮下(s.c.)移植した。賦形剤対照群とエルロチニブ治療群に無作為化する前に、腫瘍を200 +/- 50 mm3の大きさに定着させた。
【0053】
エルロチニブ(100 mg/kg/日)による18日間の経口投薬の後、当初はエルロチニブに応答した(上記のとおり腫瘍増殖の阻害を示す)が、その後エルロチニブ治療中に腫瘍の再増殖(進行)を始めたマウスを、群あたりn=8である以下のいずれかの群に無作為に再分類した:1)それ以降の治療なし、2)エルロチニブ治療(100 mg/kg/日)を維持、3)エルロチニブを中止し、OSI-906(60 mg/kg/日)治療をする、および4)エルロチニブ(100 mg/kg/日)治療を維持し、OSI-906(15 mg/kg/日)を治療計画に加える。これを、模式的に図3に図示する。
【0054】
再分類の時点からその腫瘍体積が倍加するまで、それぞれの動物を指定された投薬方式で維持した。図4を参照。図4に示すとおり、再分類後の腫瘍の倍加時間の中央値は、エルロチニブ維持(100 mg/kg/日)で約28日、および併用療法(p=0.0468)で約32日であった。

RTKアレイ分析 - H292モデル
未治療のH292腫瘍およびエルロチニブ(100 mg/kg/日)で18日間治療した腫瘍において、図5に示すとおり、pIGF-1RおよびpIRのレベルをホスホチロシン負荷対照に標準化したピクセル密度に関して測定した。当初は応答したがその後進行した腫瘍(プログレッサー)は、未治療の腫瘍またはエルロチニブ治療に引き続き応答した腫瘍(非プログレッサー)と比較して、pIGF-1RとpIRの両方の上方制御を示した。

AKTおよびERKのH292モデルウエスタンブロット分析
未治療のH292腫瘍およびエルロチニブ(100 mg/kg/日)で18日間治療した腫瘍について、合計およびリン酸化AktおよびErkのレベルを測定し、各試料について蛍光体の総タンパクに対する比率に関して定量化した後、賦形剤対照治療の腫瘍で観察されたレベルと比較してプロットした(100%であると想定)。治療中に進行しなかった腫瘍は、下流シグナル伝達マーカー(Akt、Erk)の継続的な阻害を示す。図6に示すとおり、応答したがその後治療中に進行した腫瘍は、もはやこれらのマーカーを阻害していない。

進行以降の治療(TBP)- H292モデル
2つの個別の実験(図9-11および図13-15)において、細胞の指数増殖中にNCI-H292細胞を細胞培養フラスコから収穫し、無菌PBSで2回洗浄して計数し、PBS中に適切な濃度で再懸濁させてから、雌のnu/nuCD-1マウスの右脇腹に皮下(s.c.)移植した。賦形剤対照群とエルロチニブ治療群に無作為化する前に、腫瘍を200 +/- 50 mm3の大きさに定着させた。
【0055】
H292モデルでのTBP研究を図解した図式を図7に示す。エルロチニブ(100 mg/kg/日、図8を参照)による28日間の経口投薬後、当初はエルロチニブに応答した(上記のとおり腫瘍増殖の阻害を示す)が、その後エルロチニブ治療している間に腫瘍の再増殖(進行)を始めたマウスを群当たりn=8である以下のいずれかの群に無作為に再分類した:1)それ以降の治療なし、2)エルロチニブ治療を維持、3)エルロチニブを中止し、OSI-906治療(50 mg/kg/日)をする、4)エルロチニブ治療を維持し、OSI-906(15 mg/kg/日)を治療計画に加える、および5) エルロチニブ治療を維持し、OSI-906(10 mg/kg)を治療計画に加える。図9および13を参照。
【0056】
図10(および図14)および11(および図15)は、それぞれ1回および2回の腫瘍サイズの倍加時間についてのデータの統計分析を示す。
【0057】
例えば、図10において、数ある中で、1回の倍加時間の平均は、カプラン・マイヤー分析により統計的に有意な程度で、20.9日(エルロチニブ)から31.1日または47.5日(組み合わせTBP両方)に延長されたことが示されている。
【0058】
図14において、数ある中で、1回の倍加時間の平均は、カプラン・マイヤー分析により統計的に有意な程度で、20.9日(エルロチニブ)から43.9日(組み合わせTBP両方)に延長されたことが示されている。
【0059】
エルロチニブ治療中の進行の時点で、OSI-906をエルロチニブ治療に追加することにより、腫瘍の倍加時間が統計的に有意に遅延する。エルロチニブ単独薬剤治療の維持と、OSI-906単独薬剤治療への切り替えとの間には、統計的差異はなかった。
【0060】
図11において、数ある中で、2回の倍加時間の平均は、カプラン・マイヤー分析により統計的に有意な程度で、41.5日(エルロチニブ)から64.5または71.3日(組み合わせTBP両方)に延長されたことが示されている。
【0061】
図15において、数ある中で、2回の倍加時間の平均は、カプラン・マイヤー分析により統計的に有意な程度で、45.8日(エルロチニブ)から50日より大(組み合わせTBP両方)に延長されたことが示されている。
【0062】
エルロチニブ治療中の進行時点で、OSI-906をエルロチニブ治療に追加することにより、腫瘍の2回の倍加時間が統計的に有意に遅延する。エルロチニブ単独薬剤治療の維持と、OSI-906単独薬剤治療への切り替えとの間には、統計的差異はなかった。

最前線組み合わせ治療 - H292モデル
図12は、上記記載のH292モデルにおけるOSI-906およびエルロチニブの最前線組み合わせ療法の研究の投薬および結果を示す。約51日までに、組み合わせ群とエルロチニブ単独群との間の腫瘍体積の分離が観察された。体重減少が観察されたため、エルロチニブ + 15 mg/kg OSI-906群で投薬を繰り返し、75日後に中止した。100日までに、エルロチニブ単独群の8匹のうち7匹のマウスでその腫瘍体積が2回倍加し、またエルロチニブ + 10 mg/kg OSI-906投薬療法群の8匹のうち4匹のマウスのみでその腫瘍体積が1回倍加した。

定義
「異常細胞の増殖」は、本書で使用される場合、別途指定されない限り、正常な調節機序と独立した細胞増殖を意味する(例えば、接触阻害の喪失)。これには以下の増殖異常が含まれる:(1)変異したチロシンキナーゼの発現または受容体チロシンキナーゼの過剰発現により増殖した腫瘍細胞(腫瘍)、(2)異常なチロシンキナーゼ活性化が発生するその他の増殖性疾患の良性および悪性の細胞、(4)受容体チロシンキナーゼにより増殖する任意の腫瘍、(5)異常なセリン/スレオニンキナーゼの活性化により増殖する任意の腫瘍、および(6)異常なセリン/スレオニンキナーゼ活性化が発生するその他の増殖性疾患による良性および悪性の細胞。
【0063】
動物においての「癌」という用語は、無秩序な増殖、不死性、転移能力、急速な成長および増殖速度、および特定の特徴的な形態学的機能など、発癌性細胞に特有の性質を持つ細胞の存在を指す。癌細胞は腫瘍の形態を取ることが多いが、このような細胞は動物内のみに存在したり、白血病細胞などの独立細胞として血流中を循環していることがある。
【0064】
「腫瘍増殖」または「腫瘍転移増殖」は、本書で使用される場合、別途指定されない限り、腫瘍学で一般的に使用されるように使用され、この用語は主に腫瘍細胞増殖の結果としての腫瘍または腫瘍転移の質量もしくは容量の増加に関連する。
【0065】
本書で使用される場合、「治療する」という用語は、別途指定されない限り、癌患者の腫瘍の増殖、腫瘍転移、または他の発癌性または腫瘍細胞を部分的または完全に改善する、緩和する、その進行を阻害する、または防止することを意味する。本書で使用される場合、「治療」という用語は、別途指定されない限り、治療行為を指す。
【0066】
「治療方法」またはそれと同等の句は、例えば癌に適用された場合、動物の癌細胞数を減少または除去するように、または癌の症状を緩和するようにデザインされた処置または一連の行為を指す。癌または別の増殖性疾患の「治療方法」は、癌細胞または他の疾患が実際に除去されること、細胞数または疾患が実際に減少すること、または癌または他の疾患の症状が実際に緩和されることを必ずしも意味しない。癌の治療方法は多くの場合、成功の見込みが低い場合でも行われるが、動物の病歴および予測される生存期間を考慮した場合、それでも全体として一連の有益な行為であると判断される。
【0067】
「治療効果のある薬剤」という用語は、研究者、獣医師、医師または他の臨床医が追求する組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的な反応を引き起こす組成物を指す。
【0068】
「治療有効量」または「有効量」という用語は、研究者、獣医師、医師または他の臨床医が追求する組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的な反応を引き起こす、対象化合物または組み合わせの量を指す。
【0069】
本書で使用される場合、「患者」という用語は、好ましくは、任意の目的でEGFRキナーゼ阻害剤などのIRS1薬剤での治療を必要とするヒトを指し、より好ましくは、癌、または前癌状態または病変を治療するためにこのような治療を必要とするヒトを指す。しかし、「患者」という用語はヒト以外の動物、好ましくはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジおよびヒト以外の霊長類などで、IRS1薬剤での治療が必要な哺乳類を指すこともある。
【0070】
本発明の目的では、公式 (I) のIGF1Rタンパク質キナーゼ阻害剤の化合物とEGFRキナーゼ阻害剤などのIRS1薬剤(両方の成分は本書では「2つの活性薬剤」として言及される)の「併用」または「同時投与」とは、別々または一緒に2つの活性薬剤を投与することを指し、ここで2つの活性薬剤は、併用療法の利益を得るために設計された適切な用法の一部として投与される。したがって、2つの活性薬剤は、同じ医薬組成物の一部としてか、または別々の医薬組成物として投与できる。公式 (I) のIGF1Rタンパク質キナーゼ阻害剤の化合物は、IRS1薬剤の投与前後または同時、またはそのいくつかの組み合わせで投与できる。IRS1薬剤が、(例えば、治療の通常過程中に)反復間隔で患者に投与される場合、公式 (I) のIGF1Rタンパク質キナーゼ阻害剤の化合物は、IRS1剤の各投与の前後または同時、またはそのいくつかの組み合わせで、またはIRS1薬剤治療に関して異なる間隔で投与するか、またはIRS1薬剤での治療過程の前後または最中に単回投与できる。
【0071】
「難治性」という用語は、本書で使用される場合、治療(例えば、化学療法薬剤、生物学的薬剤、および/または放射線治療)が無効であることが示されている癌を定義する。難治性癌腫瘍は縮小するが、治療が有効であると判断される点までには及ばない。しかし一般的に、腫瘍は治療前と同じサイズのまま(安定疾患)かまたは増殖する(進行疾患)。治療は、例えば、本書に記述の治療薬の任意のもので行いうる)。
【0072】
略語: EGF:上皮成長因子、EGFR:上皮成長因子受容体、EMT:上皮から間葉への変化、MET:間葉から上皮への変化、NSCL:非小細胞肺、NSCLC:非小細胞肺癌、HNSCC:頭頸部扁平上皮癌、CRC:結腸直腸癌、MBC:転移性乳癌、Brk:胸部腫瘍キナーゼ(別名タンパク質チロシンキナーゼ6(PTK6))、LC:液体クロマトグラフィー、IGF-1:インスリン様成長因子-1、TGFα:形質転換増殖因子α、IC50:半値最大阻害濃度、pY:ホスホチロシン、wt:野生型、PI3K:ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ、GAPDH:グリセルアルデヒド3-リン酸塩脱水素酵素、MAPK:マイトジェン-活性化プロテインキナーゼ、PDK-1:3-ホスホイノシチド依存タンパク質キナーゼ1、Akt:別名タンパク質キナーゼBはウィルス発癌遺伝子v-Aktの細胞相同体である、mTOR:哺乳類のラパマイシンの標的、4EBP1:真核生物の翻訳開始因子-4E(mRNAキャップ-結合タンパク質)結合タンパク質-1、別名PHAS-I、p70S6K:70 kDaリボソームタンパク質-S6キナーゼ、eIF4E:真核生物の翻訳開始因子-4E(mRNAキャップ-結合タンパク質)、Raf:Raf癌遺伝子のタンパク質キナーゼ生成物、MEK:ERKキナーゼ、別名マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ、ERK:細胞外のシグナル調節タンパク質キナーゼ、別名マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、PTEN:「10番染色体で削除されたホスファターゼおよびテンシン相同体」、ホスファチジルイノシトールリン酸ホスファターゼ、pPROTEIN:ホスホ-タンパク質、「タンパク質」はリン酸化できる任意のタンパク質でよく、例えば、EGFR、ERK、S6など、PBS:リン酸緩衝生理食塩水、TGI:腫瘍増殖阻害、WFI:注射用の水、SDS:ナトリウムドデシル硫酸塩、ErbB2:「v-erb-b2赤芽球系白血病ウィルス発癌遺伝子相同体2」、別名HER-2、ErbB3:「v-erb-b2赤芽球系白血病ウィルス発癌遺伝子相同体3」、別名HER-3、ErbB4、ErbB4:「v-erb-b2赤芽球系白血病ウィルス発癌遺伝子相同体4」、別名HER-4、FGFR:線維芽細胞増殖因子受容体、DMSO:ジメチルスルホキシド。
【0073】
本書で開示した全ての特許、公開された特許出願およびその他の参考文献は、ここに参照によって本書に明示的に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む癌の治療方法:
(a)第一のEGFR阻害剤治療に応答し、進行を再開した癌を持つ患者の選別;
(b)該患者への(i)少なくとも一つの第二のEGFR阻害剤と、(ii)少なくとも一つのIGF-1R阻害剤とを含む有効な療法の施行、
ここで、前記少なくとも一つの第二のEGFR阻害剤は、第一のEGFR阻害剤治療で使用した薬剤と同じかまたは異なり、そして、
(i)と(ii)とが、一緒にまたは逐次に投与される。
【請求項2】
IGF-1R阻害剤にOSI-906またはその薬学的に許容される塩が含まれる、請求項1の方法。
【請求項3】
OSI-906が一日当たり約0.1〜約0.7 mg/kgの量で投与される、請求項2の方法。
【請求項4】
OSI-906が一日当たり約0.7〜約5 mg/kgの量で投与される、請求項2の方法。
【請求項5】
OSI-906が一日当たり約5〜約15 mg/kgの量で投与される、請求項2の方法。
【請求項6】
第二のEGFR阻害剤に小分子の非生物学的薬剤が含まれる、請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項7】
第二のEGFR阻害剤にエルロチニブまたはその薬学的に許容される塩が含まれる、請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項8】
第二のEGFR阻害剤にモノクローナル抗体が含まれる、請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項9】
第二のEGFR阻害剤に、ゲフィチニブ、CI-1033、セツキシマブ、パニツムマブ、ラパチニブ、ラパチニブジトシラート、ZACTIMATM、BMS-599626、ARRY-334543、またはAG490が含まれる、請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項10】
第二のEGFR阻害剤に、第一のEGFR阻害剤治療で使用したものと同一の薬剤が含まれる、請求項1〜9のいずれかの方法。
【請求項11】
さらに少なくとも一つの追加的な活性薬剤の投与が含まれる、請求項1〜10のいずれかの方法。
【請求項12】
癌にNSCLCが含まれる、請求項1〜11のいずれかの方法。
【請求項13】
癌に、膵臓癌、頭部癌と頸部癌、乳癌、ACC、または神経芽細胞腫が含まれる、請求項1〜11のいずれかの方法。
【請求項14】
IGF-1Rおよび第二のEGFR阻害剤が一緒に投与される、請求項1〜13のいずれかの方法。
【請求項15】
IGF-1Rおよび第二のEGFR阻害剤が相乗的に作用する、請求項1〜14のいずれかの方法。
【請求項16】
IGF-1Rおよび第二のEGFR阻害剤が付加的に作用する、請求項1〜14のいずれかの方法。
【請求項17】
患者が、IGF-1R阻害剤の一回目の用量の投与から少なくとも約8週間の間、進行のない生存を示す、請求項1〜16のいずれかの方法。
【請求項18】
患者が、IGF-1R阻害剤の一回目の用量の投与から少なくとも約16週間の間、進行のない生存を示す、請求項1〜16のいずれかの方法。
【請求項19】
OSI-906およびエルロチニブまたはそれらの薬学的に許容される塩を含み、少なくとも一つの薬学的に許容される担体と一緒にまたは担体無しで調剤される、経口用の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−520893(P2012−520893A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500949(P2012−500949)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/027753
【国際公開番号】WO2010/107968
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511205552)オーエスアイ・ファーマシューティカルズ,エルエルシー (14)
【Fターム(参考)】