説明

FMCWレーダ装置

【課題】レーダの送信信号に三角波状の周波数変調を行い、送受信信号から抽出されたUP周波数とDOWN周波数のペアリング処理を行うことにより、目標ターゲットの距離、速度等を計算するための技術に関し、複数の移動対象物体が存在した場合における、複数のUP周波数とDOWN周波数のミスペアリングをなくすことにある。
【解決手段】速度全組合せ算出部111は、検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の全組合せに対応する速度値を算出する。速度出現頻度算出部112は、上記全組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する。UP/DOWN周波数ペアリング部113は、上記出現頻度に基づいて、UP周波数とDOWN周波数の適切なペアを決定する。この場合、各組合せに対応する速度値又は距離値が所定の閾値を超えるものについては、ペアから除外される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダの送信信号に三角波状の周波数変調を行い、送受信信号から抽出されたUP周波数とDOWN周波数のペアリング処理を行うことにより、ターゲットの距離、速度等を計算するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダは、周波数変調(FM)された連続波(CW)信号を送受信することにより、移動物体の距離と速度を同時に測定することができる装置である。
この原理を、図13に示す。
【0003】
図13(a)で、fs (t) は、送信アンテナより送信される送信信号の周波数、fr (t) は、移動対象物体にて反射された後、受信アンテナにて受信される受信信号の周波数である。送信アンテナに送信信号を供給する発振器の出力信号はFM変調器によって、三角波で周波数変調されている。図13(a)に示されるように、送信信号の中心周波数をf0 、変調繰返し周期をT、周波数変調幅をβとする。
【0004】
受信信号は、レーダと移動物体との距離に応じて、送信信号に対して時間τだけ遅延している。この時間遅延τと、レーダ及び移動物体間の(近づく又は遠ざかる)相対速度によるドップラー効果により、受信信号が送信信号と混合されて得られる出力信号においては、図13(b)に示されるように、時間tの経過に応じて周波数fupとfdownのビートが繰り返されるビート信号が得られる。
【0005】
いま、目標までの距離をr、目標との相対速度をν、光速をcとすると、送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間(以下、「UP区間」と呼ぶ)でのビート周波数fup(以下、「UP周波数」と呼ぶ)と、送信信号及び受信信号の周波数が減少する区間(以下、「DOWN区間」と呼ぶ)でのビート周波数fdown(以下、「DOWN周波数」と呼ぶ)は、下記数1式にて示される。
[数式1]
up=(4β/T)×r+(2f0 /c)×ν
down=(4β/T)×r−(2f0 /c)×ν
【0006】
この関係より、受信信号が送信信号と混合されて得られる出力信号に対して、高速フーリエ変換等によって周波数解析を行い、その解析結果から上記UP周波数fupとDOWN周波数fdownのペアを検出することができれば、数1式の2次元1次連列方程式を解いて得られる下記数2式によって、レーダから移動物体までの距離rとレーダに対する移動物体の相対速度νを検出することができる。
[数式2]
r=(fup+fdown)×T/(8β)
ν=(fup−fdown)×c/(4f0
【0007】
この原理に基づいて、道路の上部から道路にむけてFMCWレーダを送信すると、路上を通行している車の台数や速度(車流)を計測することができる。
【0008】
このような周波数情報から移動物体に関する情報を検出する従来技術として、例えば特許文献1に開示されている技術がある。この従来技術では、耐ノイズ性の高い距離速度計測装置の実現を目的として、観測区間を複数に連続的に分割して捉え、各ブロックで得られた上昇側及び下降側のピーク周波数をブロックにまたがり記憶してグルーピングし、グ
ルーピング後に平均化して距離、速度を算出することにより、ノイズの影響を除去するものである。
【特許文献1】特開平6−82551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで一般に、FMCWレーダで同時に観測される移動物体は複数あり得るため、前述のUP周波数fupとDOWN周波数fdownもそれぞれ、複数の周波数ピークが検出される。更に、周波数解析の結果信号中には、ノイズによるピークも出現する。
【0010】
このため、上記UP周波数fupとDOWN周波数fdownのペアを決定する処理(以下、「ペアリング」と呼ぶ)が困難になる場合がある。誤った組み合わせでペアリングが行われると、算出結果として得られる移動物体までの距離や移動速度も誤ったものになってしまうという問題点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題は、複数の移動対象物体が存在した場合における、複数のUP周波数とDOWN周波数のミスペアリングをなくすことにある。
本発明は、送信信号に対して三角波状の周波数変調を行い、該送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間でのビート周波数であるUP周波数と、減少する区間でのビート周波数であるDOWN周波数のペアを検出することにより、目標対象物体との距離及び速度を測定するレーダ装置による受信波を処理とする装置又はプログラムを前提とする。
【0012】
速度組合せ算出部(図1の111)は、検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値を算出する。
速度出現頻度算出部(図1の112)は、速度組合せ算出手段にて算出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する。
【0013】
UP/DOWN周波数ペアリング部(図1の113)は、速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度に基づいて、速度組合せ算出手段が速度値を算出する際に組み合わせたUP周波数とDOWN周波数との組合せの中からペアを決定する。このUP/DOWN周波数ペアリング手段は例えば、速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度が一定の閾値以上であるUP周波数とDOWN周波数のペアを決定するように構成することができる。また、このUP/DOWN周波数ペアリング手段は更に、速度組合せ算出手段にて算出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せに対応する速度値のうち、所定の速度閾値以上のものについては、その速度値に対応するUP周波数及びDOWN周波数の組合せはペアとして決定しないように構成することができる。また、UP/DOWN周波数ペアリング手段は更に、速度組合せ算出手段が前記速度値を算出する際に組み合わせた複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せのうち、各組合せに基づいて算出できる距離値が所定の距離閾値以上のものについては、それに対応するUP周波数及びDOWN周波数の組合せはペアとして決定しないように構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の移動対象物体が存在した場合においても、複数のUP周波数とDOWN周波数のミスペアリングをなくすことが可能となる。
本発明では、道路を走行する車群は類似した速度で走行することに着目し、速度の出現頻度を算出し最も出現頻度が高い速度が検出されている車群の速度と判定し、その速度に近いものから優先しUP周波数とDOWN周波数のペアリング対象とすることで、UP周波数とDOWN周波数の組合せの優先が明確になるため、ミスペアを削減することが可能
となる。
【0015】
特に、本発明の実施形態では、前回の測定データ(隣のビームで測定したときのデータ)を蓄積、比較することなどを必要とせず、単独方位データのみを用いた測定が可能となる。
【0016】
更に、本発明では、あり得ない速度又は距離を除外することにより、より正確なペアリングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の構成図である。
発振器102の出力信号はFM変調器101によって、三角波で周波数変調されている。この三角波は前述した図13(a)と同様のものである。このようにしてFM変調された三角波の送信信号は、送信アンテナ103から送信される。
【0018】
送信アンテナ103から送信された送信信号は、移動対象物体にて反射された後、受信アンテナ104にて受信される。この受信信号も、前述した図13(a)に示される三角波である。
【0019】
受信信号は、ミキサ部105にて送信信号と混合され、フィルタ部106で雑音成分等が除去された後、A/D変換器107にてデジタル信号に変換される。
このようにして得られた混合デジタル信号は、FFT演算部108にて、高速フーリエ変換によって周波数成分信号が検出される。
【0020】
UP周波数抽出部109は、FFT演算部108に対して、混合デジタル信号のUP区間(図13参照)における周波数解析を指示し、その結果得られる周波数成分信号から、UP周波数の複数のピーク値を検出する。同様に、DOWN周波数抽出部110は、FFT演算部108に対して、混合デジタル信号のDOWN区間(図13参照)における周波数解析を指示し、その結果得られる周波数成分信号から、DOWN周波数の複数のピーク値を検出する。
【0021】
速度全組合せ算出部111は、上述の検出された複数のUP周波数ピーク値と複数のDOWN周波数ピーク値の全ての組合せに対応する速度値を算出し、特には図示しないメモリ上のテーブルに記憶する。
【0022】
速度出現頻度算出部112は、速度全組合せ算出部111にて算出された複数のUP周波数ピーク値と複数のDOWN周波数ピーク値の全ての組合せに対応する速度値について、その出現頻度を特には図示しないメモリ上のテーブルに集計記憶する。
【0023】
UP/DOWN周波数ペアリング部113は、上記速度値の出現頻度に基づいて、UP周波数とDOWN周波数の適切なペアを決定する。
距離・速度・受信電力算出部114は、上記決定されたUP周波数とDOWN周波数のペアごとに、そのペアに対応する移動物体の距離、速度、及び上記UP周波数とDOWN周波数のペアの受信電力を算出する。
【0024】
上記本発明の実施形態の構成において、101〜110、及び114の各機能ブロックが実現する機能は、従来のFMCWレーダ装置において一般的に実現されている機能である。111〜113の機能ブロックが実現する機能は、本発明の実施形態として特有の機能であり、それらの動作は、図2の動作フローチャートで示される。
【0025】
なお、本実施例では、FMCWレーダ装置の中に101〜114の全ての構成が含まれる例で説明を行うが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、101〜107をレーダ装置に、108〜114を他のコンピュータに搭載するなど、これらの機能をFMCWレーダ装置と該FMCWレーダ装置に接続している制御PC(コンピュータ)とに分けて実装しても構わない。
【0026】
以下、これらの機能の詳細について、図2の動作フローチャートに沿って、図3〜図11の動作説明図を用いながら説明する。
図1に示される構成を有するFMCWレーダ装置は、例えば道路の上部に設置されて道路にむけてレーダを照射する場合、図3に示されるように、#1〜#Nの各測定方位に順次例えば10ミリ秒ずつ照射してゆき、各測定方位ごとに移動対象物体の検出を行う。
【0027】
この場合、1つの測定方位上には、複数の移動対象物体が存在し得る。
この結果、図4(a)に示されるようなA/D変換器107(図1)の出力に対して、FFT演算部108(図1)が、図4(b)に示されるように、UP区間での周波数解析を行った得られるUP周波数成分402と、DOWN区間での周波数解析を行って得られるDOWN周波数成分403には、複数のUP周波数とDOWN周波数のピークがそれぞれ現れる。
【0028】
そして、UP周波数抽出部109(図1)は、UP周波数成分402から、図4(b)の(1)、(4)、及び(5)の各ピークをUP周波数として抽出し、DOWN周波数抽出部110(図1)は、DOWN周波数成分403から、図4(b)の(2)、(3)、及び(6)の各ピークをDOWN周波数として抽出する。
【0029】
ここで、UP周波数抽出部109が抽出したUP周波数のピークと、DOWN周波数抽出部110が抽出したDOWN周波数のピークとに対して、ペアリングを行う必要がある。図4(b)の例は、UP周波数(1)とDOWN周波数(2)、UP周波数(3)とDOWN周波数(4)、及びUP周波数(5)とDOWN周波数(6)がペアであると、比較的簡単に判別できる。各ペアは、移動対象物体の相対速度に対応した距離を保って近接するが、道路上では複数の移動対象物体はほぼ同じ速度で移動するため、(1)と(2)、及び(3)と(4)のペアはほぼ同じ傾向を示していることがわかる。一方、(5)と(6)のペアは、ほとんど重なっているが、これは対象物体が静止物であることを示している。
【0030】
しかし実際の観測波形においては、UP周波数成分402及びDOWN周波数成分403共に、複数のピークが複雑に現れる。そこで、本発明の実施形態では、図5及び図6に示されるように、速度全組合せ算出部111(図1)が、UP周波数抽出部109が抽出したUP周波数のピークと、DOWN周波数抽出部110が抽出したDOWN周波数のピークの全ての組合せについて、前述した数2式に基づいて各移動対象物体の相対速度νを算出し、特には図示しないメモリ内に、速度テーブルを作成する(図2のステップS201)。この速度テーブルは、例えば配列データとして実現することができる。
【0031】
具体例として、例えば本発明の実施形態によるFMCWレーダが、一回のレーダ照射において、図7に示されるように、進行方向A(レーダに近づく方向)に移動する#1〜#3の3つの移動対象物体TARGET(レーダに対する相対速度νはそれぞれ45km/h、40km/h、及び43km/h)と、進行方向B(レーダから遠ざかる方向)に移動する#4の移動対象物体TARGET(レーダに対する相対速度νはそれぞれ−20km/h)を検出しようとしているとする。
【0032】
この例の場合、速度全組合せ算出部111(図1)は、UP周波数抽出部109が抽出
したUP周波数のピークと、DOWN周波数抽出部110が抽出したDOWN周波数のピークの全ての組合せについて、前述した数2式に基づいて各移動対象物体の相対速度νを算出し、図8に示されるようなテーブルを作成する。なお、UP周波数抽出部109及びDOWN周波数抽出部110は、それぞれ例えば12個までのUP周波数のピークとDOWN周波数のピークを抽出するように動作する。
【0033】
次に、速度出現頻度算出部112(図1)は、速度全組合せ算出部111にて算出された複数のUP周波数ピーク値と複数のDOWN周波数ピーク値の全ての組合せに対応する速度値について、その出現頻度を特には図示しないメモリ上のテーブルに集計記憶する(図2のステップS202)。この速度出現頻度テーブルは、例えば配列データとして実現することができる。例えば、図8に示されるように作成された速度全組合せテーブルに対しては、図9に示されるような速度出現頻度テーブルが作成される。
【0034】
続いて、UP/DOWN周波数ペアリング部113(図1)は、図10に示されるように、速度の出現頻度が所定の閾値以上のUP周波数とDOWN周波数のペアを検出し、それらを優先的に再ペアリングする(図2のステップS203)。ここでは、出現頻度が高い速度帯のペアから順に再ペアリングしても構わない。
【0035】
例えば、図9に示されるように作成された速度出現頻度テーブルに対しては、速度帯40km/h〜50km/hの出現頻度が高いため、図8に示される速度全組合せテーブル上で、UP周波数#1とDOWN周波数#2のペア(相対速度=45km/h)が移動対象物体TARGET#1(図7参照)として抽出され、UP周波数#2とDOWN周波数#3のペア(相対速度=40km/h)が移動対象物体TARGET#2として抽出され、UP周波数#4とDOWN周波数#1のペア(相対速度=43km/h)が移動対象物体TARGET#3として抽出される。
【0036】
UP/DOWN周波数ペアリング部113(図1)は、上述のようにして速度出現頻度テーブルの集計値に基づいて優先的なペアリングを行った後、残ったペアに対して以下の判定処理を行う。
【0037】
まず、UP/DOWN周波数ペアリング部113は、上述のようにして優先して組合せをしたUP周波数とDOWN周波数のペア以外の組み合わせが残っているか否かを判定する(図2のステップS204)。残っていなければ、UP/DOWN周波数ペアリング部113は、再ペアリングの処理を完了する。
【0038】
残っている場合には、UP/DOWN周波数ペアリング部113は、任意の速度閾値を越えたUP周波数とDOWN周波数のペアがあるか否かを判定する(図2のステップS205)。そのようなペアがある場合には、そのペアが示す相対速度は非現実的であるとして、速度全組合せテーブルからそのデータを削除し(図2のステップS205−>S207)、ステップS205の判定に戻る。
【0039】
任意の速度閾値は本発明を適用するレーダ装置の使用者が適宜設定して構わない。また、例えば、レーダ装置設置時に、検出対象とするターゲット(移動物)が取りえる移動速度を考慮して設定しても構わない。例えば、本発明を適用したレーダ装置を、一般道路上を通行する車両の検出に利用する場合には、一般道路の通行速度として超過することが考えにくい速度として、例えば時速150Kmを閾値として設定してもよい。
【0040】
ステップS205の判定で任意の速度閾値を越えるペアがなくなったら、UP/DOWN周波数ペアリング部113は更に、任意の距離閾値を越えたUP周波数とDOWN周波数のペアがあるか否かを判定する(図2のステップS205−>S206)。そのような
ペアがある場合には、そのペアが示す移動対象物体の距離は非現実的であるとして、速度全組合せテーブルからそのデータを削除し(図2のステップS206−>S207)、ステップS205−>S206の判定に戻る。
【0041】
任意の距離閾値は、本発明を適用するレーダ装置の使用者が適宜設定して構わない。また、例えば、レーダ装置設置時に、レーダ装置からレーダの設置角度に応じて決定される検出可能範囲の遠端までの距離を、閾値として設定しても構わない。例えば、本発明を適用したレーダ装置がレーダ装置から100メートル先までを検出できるように設置されたのであれば、距離閾値として100メートルを設定してもよい。
【0042】
ステップS206の判定で任意の距離閾値を超えるペアがなくなったら、UP/DOWN周波数ペアリング部113は、最後に残ったUP周波数とDOWN周波数のペアをペアリングして処理を完了する(図2のステップS206−>S208)。図11の例では、UP周波数#3とDOWN周波数#3のペア(相対速度=−20km/h)が移動対象物体TARGET#4として抽出される。
【0043】
なお、UP/DOWN周波数ペアリング部113は、UP周波数とDOWN周波数がほぼ一致するペアについては、静止対象物体であるとして、まずそのペアを除外するように動作してもよい。
【0044】
以上のようにして、UP/DOWN周波数ペアリング部113がUP周波数とDOWN周波数のペアを決定した後、距離・速度・受信電力算出部114(図1)が、各ペアについて、既に算出されている相対速度νに加えて、前述の数2式に基づいてレーダから移動物体までの距離rと、UP周波数のピークとDOWN周波数のピークとから受信電力を、それぞれ算出し、FMCWレーダ装置の外部に接続される特には図示しない制御PC等に通知する。
【0045】
以上説明したようにして、本発明の実施形態では、複数の移動対象物体が存在した場合においても、複数のUP周波数とDOWN周波数のミスペアリングをなくすことが可能となる。本発明の実施形態では、道路を走行する車群は類似した速度で走行することに着目し、速度の出現頻度を算出し最も出現頻度が高い速度が検出されている車群の速度と判定し、その速度に近いものから優先しUP周波数とDOWN周波数のペアリング対象とすることで、UP周波数とDOWN周波数の組合せの優先が明確になるため、ミスペアを削減することが可能となる。特に、本発明の実施形態では、前回の測定データ(隣のビームで測定したときのデータ)を蓄積、比較することなどを必要とせず、単独方位データのみを用いた測定が可能となる。
【0046】
図12は、図1の108〜114の機能をプログラムとして実現できるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図12に示されるコンピュータは、CPU1201、メモリ1202、入力装置1203、出力装置1204、外部記憶装置1205、可搬記録媒体1209が挿入される可搬記録媒体駆動装置1206、及びネットワーク接続装置1207を有し、これらがバス1208によって相互に接続された構成を有する。同図に示される構成は上記システムを実現できるコンピュータの一例であり、そのようなコンピュータはこの構成に限定されるものではない。
【0047】
CPU1201は、当該コンピュータ全体の制御を行う。メモリ1202は、プログラムの実行、データ更新等の際に、外部記憶装置1205(或いは可搬記録媒体1209)に記憶されているプログラム又はデータを一時的に格納するRAM等のメモリである。CUP1201は、プログラムをメモリ1202に読み出して実行することにより、全体の
制御を行う。
【0048】
入力装置1203は、例えば、キーボード、マウス等及びそれらのインタフェース制御装置とからなる。入力装置1203は、ユーザによるキーボードやマウス等による入力操作を検出し、その検出結果をCPU1201に通知する。
【0049】
出力装置1204は、表示装置、印刷装置等及びそれらのインタフェース制御装置とからなる。出力装置1204は、CPU1201の制御によって送られてくるデータを表示装置や印刷装置に出力する。
【0050】
外部記憶装置1205は、例えばハードディスク記憶装置である。主に各種データやプログラムの保存に用いられる。
可搬記録媒体駆動装置1206は、光ディスクやSDRAM、コンパクトフラッシュ(登録商標)等の可搬記録媒体1209を収容するもので、外部記憶装置1205の補助の役割を有する。
【0051】
ネットワーク接続装置1207は、例えばLAN(ローカルエリアネットワーク)又はWAN(ワイドエリアネットサーク)の通信回線を接続するための装置である。
本実施形態によるシステムは、図1の108〜114の機能を搭載したプログラムをCPU1201が実行することで実現される。そのプログラムは、例えば外部記憶装置1205や可搬記録媒体1209に記録して配布してもよく、或いはネットワーク接続装置1207によりネットワークから取得できるようにしてもよい。
【0052】
以上の本発明の実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
送信信号に対して三角波状の周波数変調を行い、該送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間でのビート周波数であるUP周波数と、減少する区間でのビート周波数であるDOWN周波数のペアを検出することにより、目標対象物体との距離及び速度を測定するレーダ装置において、
検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値を算出する速度組合せ算出手段と、
該速度組合せ算出手段にて算出された前記複数のUP周波数と前記複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する速度出現頻度算出手段と、
該速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度に基づいて、前記速度組合せ算出手段が前記速度値を算出する際に組み合わせた前記UP周波数と前記DOWN周波数との組合せの中からペアを決定するUP/DOWN周波数ペアリング手段と、
を含むことを特徴とするFMCWレーダ装置。
(付記2)
UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度が一定の閾値以上である前記UP周波数と前記DOWN周波数のペアを決定することを特徴とする付記1に記載のFMCWレーダ装置。
(付記3)
前記UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度組合せ算出手段にて算出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せに対応する速度値のうち、所定の速度閾値以上のものについては、該速度値に対応する前記UP周波数及び前記DOWN周波数の組合せをペアとして決定しない、
ことを特徴とする付記2に記載のFMCWレーダ装置。
(付記4)
前記UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度組合せ算出手段が前記速度値を
算出する際に組み合わせた複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せのうち、各組合せに基づいて算出できる距離値が所定の距離閾値以上のものについては、それに対応する前記UP周波数及び前記DOWN周波数の組合せをペアとして決定しない、
ことを特徴とする付記2に記載のFMCWレーダ装置。
(付記5)
送信信号に対して三角波状の周波数変調を行い、該送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間でのビート周波数であるUP周波数と、減少する区間でのビート周波数であるDOWN周波数のペアを検出することにより、目標対象物体との距離及び速度を測定するレーダ装置による受信波を処理するコンピュータに、
検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値を算出する速度組合せ算出機能と、
該速度組合せ算出機能にて算出された前記複数のUP周波数と前記複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する速度出現頻度算出機能と、
該速度出現頻度算出機能が算出した出現頻度に基づいて、前記速度組合せ算出機能が前記速度値を算出する際に組み合わせた前記UP周波数と前記DOWN周波数との組合せの中からペアを決定するUP/DOWN周波数ペアリング機能と、
を実行させるためのプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の動作フローチャートである。
【図3】FMCWレーダの測定状況を上空からみたイメージ図である。
【図4】UP周波数とDOWN周波数の波形図である。
【図5】本発明の実施形態におけるUP周波数とDOWN周波数の組合せ動作の説明図(その1)である。
【図6】本発明の実施形態におけるUP周波数とDOWN周波数の組合せ動作の説明図(その2)である。
【図7】速度分布の説明図である。
【図8】FMCWレーダの具体的使用場面を示す図である。
【図9】UP/DOWN周波数の全組合せテーブルの具体例を示す図である。
【図10】速度分布テーブルの具体例を示す図である。
【図11】ペアリングの具体例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態をプログラムとして実現する場合のハードウェア構成図である。
【図13】FMCWレーダの動作原理図である。
【符号の説明】
【0054】
101 FM変調器
102 発振器
103 送信アンテナ
104 受信アンテナ
105 ミキサ部
106 フィルタ部
107 A/D変換器
108 FFT演算部
109 UP周波数抽出部
110 DOWN周波数抽出部
111 速度全組合せ算出部
112 速度出現頻度算出部
113 UP/DOWN周波数ペアリング部
114 距離・速度・受信電力算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号に対して三角波状の周波数変調を行い、該送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間でのビート周波数であるUP周波数と、減少する区間でのビート周波数であるDOWN周波数のペアを検出することにより、目標対象物体との距離及び速度を測定するレーダ装置において、
検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値を算出する速度組合せ算出手段と、
該速度組合せ算出手段にて算出された前記複数のUP周波数と前記複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する速度出現頻度算出手段と、
該速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度に基づいて、前記速度組合せ算出手段が前記速度値を算出する際に組み合わせた前記UP周波数と前記DOWN周波数との組合せの中からペアを決定するUP/DOWN周波数ペアリング手段と、
を含むことを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項2】
前記UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度出現頻度算出手段が算出した出現頻度が一定の閾値以上である前記UP周波数と前記DOWN周波数のペアを決定することを特徴とする請求項1に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項3】
前記UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度組合せ算出手段にて算出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せに対応する速度値のうち、所定の速度閾値以上のものについては、該速度値に対応する前記UP周波数及び前記DOWN周波数の組合せをペアとして決定しない、
ことを特徴とする請求項2に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項4】
前記UP/DOWN周波数ペアリング手段は、前記速度組合せ算出手段が前記速度値を算出する際に組み合わせた複数のUP周波数と複数のDOWN周波数の組合せのうち、各組合せに基づいて算出できる距離値が所定の距離閾値以上のものについては、それに対応する前記UP周波数及び前記DOWN周波数の組合せをペアとして決定しない、
ことを特徴とする請求項2に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項5】
送信信号に対して三角波状の周波数変調を行い、該送信信号及び受信信号の周波数が増加する区間でのビート周波数であるUP周波数と、減少する区間でのビート周波数であるDOWN周波数のペアを検出することにより、目標対象物体との距離及び速度を測定するレーダ装置による受信波を処理するコンピュータに、
検出された複数のUP周波数と複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値を算出する速度組合せ算出機能と、
該速度組合せ算出機能にて算出された前記複数のUP周波数と前記複数のDOWN周波数との組合せに対応する速度値について、その出現頻度を集計算出する速度出現頻度算出機能と、
該速度出現頻度算出機能が算出した出現頻度に基づいて、前記速度組合せ算出機能が前記速度値を算出する際に組み合わせた前記UP周波数と前記DOWN周波数との組合せの中からペアを決定するUP/DOWN周波数ペアリング機能と、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−145282(P2009−145282A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325321(P2007−325321)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】