説明

GaN系層積層基板およびGaN系デバイス

【課題】支持基板にGaN系層を形成する際の反りが小さく熱伝導率が高い支持基板を有するGaN系層積層基板およびかかるGaN系層積層基板を含むGaN系デバイスを提供する。
【解決手段】本GaN系層積層基板1は、少なくとも1層の厚さAのGaN系層10と、厚さBの第1の金属製支持基板20としてAg製支持基板およびCu製支持基板のいずれかと、厚さCの第2の金属製支持基板30としてMo製支持基板とがこの順に積層され、第1の金属製支持基板がAg製支持基板である場合には、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下であり、第1の金属製支持基板がCu製支持基板である場合には、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が高く反りが小さいGaN系層積層基板およびそれを含むGaN系デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
LED(発光ダイオード)などの半導体デバイスには、半導体層としてGaN系層を用いたGaN系デバイスが好適に用いられる。かかるGaN系デバイスにおいては、GaN系層を支持するための支持基板が含まれる。かかる支持基板としては、GaN系層に電流を流すために導電性の基板が好ましく用いられ、また、GaN系層に流入した電流により発生する熱を外部に逃がすために熱伝導率の高い基板が好ましく用いられる。
【0003】
特開平11−68157号公報(特許文献1)は、支持基板としてFe−Ni合金基板またはCu−W合金基板を含む半導体発光素子を開示する。特開2004−266240号公報(特許文献2)は、支持基板としてCu−W合金基板またはCu−Mo合金基板を含む窒化物半導体素子を開示する。特開2008−300562号公報(特許文献3)は、支持基板としてのWおよびMoのいずれかを含む基板とIII族窒化物半導体層との貼り合わせ基板およびそれを含む半導体デバイスを開示する。特開2010−74122号公報(特許文献4)は、支持基板として、CuおよびAlの少なくとも一方からなる高熱伝導率層と、WおよびMoの少なくとも一方からなる低膨張率層とを含む積層構造体である放熱基板を開示し、また、かかる放熱基板を用いたLED素子を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−68157号公報
【特許文献2】特開2004−266240号公報
【特許文献3】特開2008−300562号公報
【特許文献4】特開2010−74122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、支持基板としてFe−Ni合金基板、W基板、Mo基板、Cu−W合金基板、Cu−Mo合金基板などを用いた場合は、これらの基板は、熱膨張係数がGaN系層の熱膨張係数と近似しているため支持基板上にGaN系層を形成する際に反りおよび/または剥離は発生しにくいが、支持基板の熱伝導率が非常に低い問題がある。
【0006】
また、支持基板として、Ag基板、Cu基板、Al基板などを用いた場合は、これらの基板は、熱伝導率は高いが、熱膨張係数がGaN系層の熱膨張係数と差異が大きいため支持基板上にGaN系層を形成する際に反りおよび/または剥離は発生するという問題がある。
【0007】
すなわち、GaN系層の熱膨張係数との差異が小さい熱膨張係数を有する基板は熱伝導率が低く、高い熱伝導率を有する基板はその熱膨張係数がGaN系層の熱膨張係数との差異が大きいため、支持基板にGaN系層を形成する際の反りが小さく熱伝導率の高い支持基板を有するGaN系デバイスを提供することが困難である。
【0008】
そこで、上記の問題点を解決して、支持基板にGaN系層を形成する際の反りが小さく熱伝導率が高い支持基板を有するGaN系層積層基板およびかかるGaN系層積層基板を含むGaN系デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるGaN系層積層基板は、少なくとも1層のGaN系層と、第1の金属製支持基板としてAg製支持基板およびCu製支持基板のいずれかと、第2の金属製支持基板としてMo製支持基板とがこの順に積層されている。ここで、第1の金属製支持基板がAg製支持基板である場合には、GaN系層の厚さA、第1の金属製支持基板の厚さをBおよび第2の金属製支持基板の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。また、第1の金属製支持基板がCu製支持基板である場合には、GaN系層の厚さA、第1の金属製支持基板の厚さをBおよび第2の金属製支持基板の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。
【0010】
本発明にかかるGaN系層積層基板において、第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板の全体における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上であり、かつ、半導体ウエハの全体の反りが±4μm/mm以内とすることができる。さらに、GaN系層の厚さAは、3μm以上30μm以下とすることができる。
【0011】
本発明にかかるGaN系デバイスは、上記のGaN系層積層基板と、GaN系層積層基板のGaN系層上の少なくとも一部に形成された電極と、を含む。
【0012】
本発明にかかるGaN系デバイスにおいて、半導体ウエハにおけるGaN系層の厚さAは、3μm以上30μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、支持基板にGaN系層を形成する際の反りが小さく熱伝導率が高い支持基板を有するGaN系層積層基板およびかかるGaN系層積層基板を含むGaN系デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかるGaN系層積層基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかるGaN系デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明にかかるGaN系層積層基板およびGaN系デバイスの製造方法の一例を示す概略断面図である。ここで、(A)は下地基板上にGaN系層を成長させる工程を示し、(B)はGaN系層に第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板を貼り合わせる工程を示し、(C)はGaN系層から下地基板を除去することによりGaN系層積層基板を得る工程を示し、(D)はGaN系層に電極を形成することによりGaN系デバイスを得る工程を示す。
【図4】本発明にかかるGaN系積層基板における積層金属製支持基板の平均熱伝導率の測定に用いられるサンプルを示す概略断面図である。ここで、(A)は厚さTのCu板である第1のサンプルを示し、(B)は厚さTSの第3のCu板を第1および第2のCu板で挟んだ全体の厚さTの第2のサンプルを示し、(C)は厚さTSの積層金属製支持基板を第1および第2のCu板で挟んだ全体の厚さTの第3のサンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態1]
(GaN系層積層基板)
図1を参照して、本発明にかかるGaN系層積層基板の一実施形態は、少なくとも1層のGaN系層10と、第1の金属製支持基板20としてAg製支持基板およびCu製支持基板のいずれかと、第2の金属製支持基板30としてMo製支持基板とがこの順に積層されている。ここで、第1の金属製支持基板20がAg製支持基板である場合には、GaN系層10の厚さA、第1の金属製支持基板20の厚さをBおよび第2の金属製支持基板30の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。また、第1の金属製支持基板20がCu製支持基板である場合には、GaN系層10の厚さA、第1の金属製支持基板20の厚さをBおよび第2の金属製支持基板30の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。
【0016】
本実施形態のGaN系層積層基板は、GaN系層10と、Ag製支持基板およびCu製支持基板のいずれかである第1の金属製支持基板20と、Mo製支持基板である第2の金属製支持基板30と、がこの順に積層された基板である。
【0017】
GaN系層10とは、III族元素としてGaを含有するIII族窒化物層をいい、たとえば、GaxAlyIn1-x-yN層(0<x、0≦y、x+y≦1)などが挙げられる。ここで、GaN層の熱膨張係数は5.6×10-6-1であり、AlN層の熱膨張係数は5.6×10-6-1であり、InN層の熱膨張係は5.7×10-6-1である。
【0018】
第1の金属製支持基板20は、Ag製支持基板(熱伝導率420W・m-1・K-1、熱膨張係数19.0×106-1)およびCu製支持基板(熱伝導率393W・m-1・K-1、熱膨張係数17.0×106-1)のいずれかであり、その熱膨張係数がGaN系層の熱膨張係数との差異が大きいが、その熱伝導率が極めて高いため、GaN系層に流入する電流により発生する熱がGaN系層から基板を通して容易に外部に発散される。
【0019】
第2の金属製支持基板30は、Mo製支持基板(熱伝導率142W・m-1・K-1、熱膨張係数5.3×106-1)であり、その熱伝導率は第1の金属製支持基板の熱伝導率に比べて低いが、その熱膨張係数がGaN系層の熱膨張係数に近似しているため、GaN系層積層基板1を形成する際の反りを低減することができる。特に、本実施形態のGaN系層積層基板1は、GaN系層の熱膨張係数との差異が大きな熱膨張係数を有する第1の金属製支持基板20を、互いに近似する熱膨張係数を有するGaN系層10と第2の金属製支持基板30で挟むサンドイッチ構造を有するため、GaN系層積層基板1を形成する際の反りが大きく低減される。
【0020】
また、本実施形態のGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板20がAg製支持基板である場合には、GaN系層10の厚さA、第1の金属製支持基板20の厚さBおよび第2の金属製支持基板30の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。B/(B+C)比を0.65以上とすることにより、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の全体(すなわち金属製支持基板全体)における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上と極めて高くなる。B/(B+C)比が0.91を超えるとGa系層積層基板1の形成および取扱の際にGaN系層が割れるおそれがある。また、C/A比を0.80以上1.15以下とすることにより、GaN系層積層基板1の反りを±4μm/mm以内と極めて小さくすることができる。
【0021】
すなわち、本実施形態のGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板20がAg製支持基板である場合に、B/(B+C)比を0.65以上0.91以下とし、かつ、C/A比を0.80以上1.15以下とすることにより、従来では得られなかった、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の全体(すなわち金属製支持基板全体)における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上かつGaN系層積層基板1の反りが±4μm/mm以内のGaN系層積層基板1が得られる。
【0022】
また、本実施形態のGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板20がCu製支持基板である場合には、GaN系層10の厚さA、第1の金属製支持基板20の厚さをBおよび第2の金属製支持基板30の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下である。B/(B+C)比を0.70以上とすることにより、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の全体(すなわち金属製支持基板全体)における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上と極めて高くなる。B/(B+C)比が0.91を超えるとGa系層積層基板1の形成および取扱の際にGaN系層が割れるおそれがある。また、C/A比を0.80以上1.15以下とすることにより、GaN系層積層基板1の反りを±4μm/mm以内と極めて小さくすることができる。
【0023】
すなわち、本実施形態のGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板20がCu製支持基板である場合に、B/(B+C)比を0.70以上0.91以下とし、かつ、C/A比を0.80以上1.15以下とすることにより、従来では得られなかった、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の全体(すなわち金属製支持基板全体)における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上かつGaN系層積層基板1の反りが±4μm/mm以内のGaN系層積層基板1が得られる。
【0024】
ここで、GaN系層積層基板1の第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の全体(金属製支持基板全体)における平均熱伝導率は、第1の金属製支持基板20と第2の金属製支持基板30の積層金属製支持基板について、レーザフラッシュ法により測定する。ここで、レーザフラッフュ法とは、レーザ光をサンプルの前面に当てたときにサンプルの後面の温度の経時変化および熱量を測定することにより、比熱Cpおよび熱拡散率αを算出し、さらにサンプルの密度ρを用いて、熱伝導率λをλ=Cp・α・ρから算出する方法をいう。また、GaN系層積層基板の反りは、GaN系層積層基板の凸面を上に向けて、かかる凸面の反りを表面粗さ計で測定する。ここで、反りの符号は、GaN系層積層基板のGaN系層側に凸となる場合を+(正)、GaN系層積層基板の第2の金属製支持基板側に凸となる場合を−(負)とする。
【0025】
また、本実施形態のGaN系層積層基板において、GaN系層10の厚さは、3μm以上30μm以下であることが好ましい。GaN系層の厚さが3μmより小さいとGaN系層に割れが発生しやすくなり、GaN系層の厚さが30μmより大きいとGaN系層の成長に時間がかかり生産性が低くなる。
【0026】
(GaN系層積層基板の製造方法)
図3を参照して、本実施形態のGaN系層積層基板の製造方法は、特に制限はないが、上記の特性を有するGaN系層積層基板1を効率よく製造する観点から、下地基板60上に少なくとも1層のGaN系層10を成長させる工程(図3(A))と、GaN系層10に第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30を貼り合わせる工程(図3(B))と、GaN系層10から下地基板60を除去することによりGaN系層積層基板1を得る工程(図3(C))と、含むことが好ましい。
【0027】
図3(A)を参照して、本実施形態のGaN系層積層基板の製造方法は、下地基板60上に少なくとも1層のGaN系層10を成長させる工程を含む。下地基板60は、結晶性の高いGaN系層10を成長させる観点から、GaN系層10と格子定数の整合性が高いサファイア基板、SiC基板、GaN基板などが好ましい。少なくとも1層のGaN系層10を成長させる方法は、結晶性の高いGaN系層10を成長させる観点から、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MBE(分子線エピタキシ)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが好ましい。少なくとも1層のGaN系層10には、発光層などの機能層が含まれる。GaN系層10が複数の層を有する場合、少なくとも1つのGaN系層のGaを含むIII族元素の種類および組成比が、その他のGaN系層のGaを含むIII族元素の種類および組成比と異なっていてもよい。
【0028】
図3(B)を参照して、本実施形態のGaN系層積層基板の製造方法は、GaN系層10に第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30を貼り合わせる工程を含む。GaN系層10に第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30を貼り合わせる方法は、特に制限はなく、接着剤を用いて貼り合わせる方法、接着剤を用いることなく直接貼り合わせる方法がある。GaN系層10に第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30間の接合強度が高い観点から、接着剤を用いて貼り合わせる方法が好ましく、たとえば、Au−Snはんだなどを用いて貼り合わせることが好ましい。ここで、Au−Snはんだを用いて貼り合わせる場合に、はんだの濡れ性を高めるために、GaN系層10および第1の金属製支持基板20の貼り合わせ面に、Au層などの金属層を形成してもよい。
【0029】
なお、直接貼り合わせる方法としては、貼り合わせる面の表面を洗浄して5MPa〜20MPaの圧力で直接貼り合わせ、その後200℃〜300℃に昇温して接合する直接接合法、金属膜を形成し、接触させつつ昇温することで金属膜の金属を合金化させることにより接合する合金接合法、プラズマやイオンなどで貼り合わせ面を活性化させ接合する表面活性化法、などが挙げられる。ここで、下地基板60上に順に配置されたGaN系層10、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30は、GaN系層積層基板1を構成する。
【0030】
図3(C)を参照して、本実施形態のGaN系層積層基板の製造方法は、GaN系層10から下地基板60を除去することによりGaN系層積層基板1を得る工程を含む。下地基板60を除去する方法は、特に制限はなく、研磨、レーザリフトオフ、ケミカルリフトオフおよびそれらの併用のいずれかにより行なうことができる。このようにして、GaN系層10、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30がこの順に積層されたGaN系層積層基板1が得られる。
【0031】
[実施形態2]
(GaN系デバイス)
図2を参照して、本発明にかかるGaN系デバイスの一実施形態は、実施形態1のGaN系層積層基板1と、GaN系層積層基板1のGaN系層10上の少なくとも一部に形成された電極40と、を含む。本実施形態のGaN系デバイス2は、電極40が配置され、場合によりチップ化されているため、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の平均熱伝導率ならびにGaN系デバイス2の反りを直接測定することが困難な場合が多いが、基本構造として実施形態1のGaN系層積層基板1を含んでいるため、GaN系層積層基板1の第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30の平均熱伝導率ならびにGaN系層積層基板1の反りと同等の特性を有する。
【0032】
GaN系層10上の少なくとも一部に形成される電極40は、特に制限はないが、発光効率を高める観点から、ITO(インジウムスズ酸化物)電極、ZnO電極などの透明電極41と、Au電極、Ag電極、Al電極などのパッド電極42を含むことが好ましい。
【0033】
また、本実施形態のGaN系デバイスにおいて、GaN系層10の厚さは、3μm以上30μm以下であることが好ましい。GaN系層の厚さが3μmより小さいとGaN系層に割れが発生しやすくなり、GaN系層の厚さが30μmより大きいとGaN系層の成長に時間がかかり生産性が低くなる。
【0034】
(GaN系デバイスの製造方法)
図3(D)を参照して、本実施形態のGaN系デバイスの製造方法は、特に制限はないが、上記の物性を有するGaN系デバイスを効率よく製造する観点から、実施形態1のGaN系層積層基板1のGaN系層10の少なくとも一部に電極40を形成することにより、GaN系デバイスを得る工程を含むことが好ましい。
【0035】
電極40を形成する方法は、特に制限はなく、たとえば、ITO(インジウムスズ酸化物)電極、ZnO電極などの透明電極41は、スパッタ法、蒸着法などにより形成することができ、Au電極、Ag電極、Al電極などのパッド電極42は、スパッタ法、蒸着法、メッキ法などにより形成することができる。
【0036】
また、GaN系デバイスを得る工程においては、GaN系層積層基板1のGaN系層10の少なくとも一部に電極40を形成した後、必要に応じて、必要な大きさにチップ化することができる。
【0037】
このようにして、GaN系層10、第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30がこの順に積層されたGaN系層積層基板1のGaN系層10上の少なくとも一部に電極40が形成されたGaN系デバイス2が得られる。
【0038】
上記のように、本発明は、厚さAのGaN系層、第1の金属製基板がAg製支持基板およびCu製支持基板いずれかである厚さBの第1の金属製支持基板、Mo製支持基板である第2の金属支持製基板がこの順に積層され、B/(B+C)比が0.65および0.70のいずれか以上0.91以下、C/A比が0.80以上1.15以下でであるGaN系層積層基板およびそれを含むGaN系デバイスに向けられている。しかしながら、本発明の特徴の1つは、GaN系デバイス2のGaN系層積層基板1が、第1の金属製支持基板20を、互いに近似する熱膨張係数を有するGaN系層10と第2の金属製支持基板30で挟むサンドイッチ構造を有することにある。このため、第1の金属製支持基板が、Ag層、Cu層およびAu層などの積層金属支持基板の場合、第2の金属製支持基板が、W製支持基板またはMo−W製支持基板などの場合にも応用することができる。
【実施例】
【0039】
(実施例I)
(例I−1〜例I−14、例I−R1〜例I−R12)
1.下地基板上におけるGaN系層の成長
図3(A)および表1を参照して、下地基板60として直径10mmのサファイア基板の(0001)主面上に、MOCVD法により、GaN系層10として厚さがAμmのGaN層を成長させた。
【0040】
2.GaN系層への第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板の貼り合わせ
表1を参照して、第1の金属製支持基板20としての厚さBμmのAg製支持基板と第2の金属製支持基板30としての厚さCμmのMo製支持基板とを融点280℃のAu−Snはんだで貼り合わせた積層金属製支持基板の平均熱伝導率を、レーザフラッフュ法により測定した。
【0041】
図4を参照して、具体的には、以下の要領で、積層金属製支持基板(第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30)の熱伝導率を測定した。まず、図4(A)に示すような直径が10mmで厚さTが2mmのCu板110の第1のサンプル100の熱伝導率λIを測定した。次に、図4(B)に示すような直径が10mmで厚さTSが(B+C)μmである第3のCu板113を第1のCu板111および第2のCu板112で挟んだ全体の厚さTが2mmの第2のサンプル200の熱伝導率λIIを測定した。さらに、図4(C)に示すような直径が10mmで厚さTSが(B+C)μmである積層金属製支持基板(第1の金属製支持基板20および第2の金属製支持基板30)を第1のCu板111および第2のCu板112で挟んだ全体の厚さTが2mmの第3のサンプル300の熱伝導率λIIIを測定した。ここで、熱伝導率(λII−λI)は、各板の接合部における熱伝導率を示し、熱伝導率(λIII−λI)は積層金属製支持基板および各板の接合部における熱伝導率を示すことから、(λIII−λI)−(λII−λI)=λIII−λIIにより、積層金属製支持基板の平均熱伝導率として熱伝導率(λIII−λI)を算出した。
【0042】
次いで、図3(B)を参照して、GaN層(GaN系層10)の主面に、Ag製支持基板(第1の金属製支持基板20)とMo製支持基板(第2の金属製支持基板)との積層体の第1の金属製支持基板20側の主面を、融点280℃のAu−Snはんだで貼り合わせた。
【0043】
3.下地基板の除去
図3(C)を参照して、GaN層(GaN系層10)からサファイア基板(下地基板60)を、研磨により除去した。こうして、GaN層(GaN系層10)、Ag製支持基板(第1の金属製支持基板20)およびMo製支持基板(第2の金属製支持基板30)がこの順に積層されたGaN系層積層基板が得られた。
【0044】
得られたGaN系層積層基板の反りを、表面粗さ計を用いて測定した。具体的には、GaN系層積層基板の凸面を上に向けて、かかる凸面の任意の3方向の直径における反りを表面粗さ計で測定して、1mm当りの反りの最大値を求めた。結果を表1にまとめた。
【0045】
【表1】

【0046】
表1を参照して、厚さがAμmのGaN層(GaN系層)と、厚さがBμmのAg製支持基板(第1の金属製支持基板)と、厚さがCμmのMo製支持基板(第2の金属製支持基板)とがこの順に積層され、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下であるGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板の全体の平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上と極めて高く、かつ、GaN系層積層基板の反りが±4μm/mm以内と極めて小さくなった。
【0047】
(実施例II)
(例II−1〜例II−9、例II−R1〜例II−R4)
GaN系層積層基板の積層構造を、厚さAμmのGaN層(GaN系層)と、厚さがBμmのCu製支持基板(第1の金属製支持基板)と、厚さCμmのMo製支持基板(第2の金属製支持基板)とがこの順に積層された積層構造としたこと以外は、実施例Iと同様にして、第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板の全体の平均熱伝導率を測定し、GaN系層積層基板を作製し、GaN系層積層基板の反りを測定した。結果を表2にまとめた。
【0048】
【表2】

【0049】
表2を参照して、厚さがAμmのGaN層(GaN系層)と、厚さがBμmのCu製支持基板(第1の金属製支持基板)と、厚さがCμmのMo製支持基板(第2の金属製支持基板)とがこの順に積層され、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下であるGaN系層積層基板は、第1の金属製支持基板および第2の金属製支持基板の全体の平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上と極めて高く、かつ、GaN系層積層基板の反りが±4μm/mm以内と極めて小さくなった。
【0050】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 GaN系層積層基板、2 GaN系デバイス、10 GaN系層、20 第1の金属製支持基板、30 第2の金属製支持基板、40 電極、41 透明電極、42 パッド電極、60 下地基板、100 第1のサンプル、110 Cu板、111 第1のCu板、112 第2のCu板、113 第3のCu板、200 第2のサンプル、300 第3のサンプル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のGaN系層と、第1の金属製支持基板としてAg製支持基板およびCu製支持基板のいずれかと、第2の金属製支持基板としてMo製支持基板とがこの順に積層され、
前記第1の金属製支持基板が前記Ag製支持基板である場合には、前記GaN系層の厚さA、前記第1の金属製支持基板の厚さB、および前記第2の金属製支持基板の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.65以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下であり、
前記第1の金属製支持基板が前記Cu製支持基板である場合には、前記GaN系層の厚さA、前記第1の金属製支持基板の厚さB、および前記第2の金属製支持基板の厚さCに関して、B/(B+C)比が0.70以上0.91以下であり、かつ、C/A比が0.80以上1.15以下であるGaN系層積層基板。
【請求項2】
前記第1の金属製支持基板および前記第2の金属製支持基板の全体における平均熱伝導率が300W・m-1・K-1以上であり、かつ、前記GaN系層積層基板の全体の反りが±4μm/mm以内である請求項1に記載のGaN系層積層基板。
【請求項3】
前記GaN系層の厚さAは、3μm以上30μm以下である請求項1または請求項2に記載のGaN系層積層基板。
【請求項4】
請求項1のGaN系層積層基板と、前記GaN系層積層基板の前記GaN系層上の少なくとも一部に形成された電極と、を含むGaN系デバイス。
【請求項5】
前記GaN系層積層基板における前記GaN系層の厚さAは、3μm以上30μm以下である請求項4に記載のGaN系デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−119355(P2012−119355A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264913(P2010−264913)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】