説明

HART通信機能を有する入出力装置

【課題】通信品質を向上させる。
【解決手段】4〜20mAの直流信号に、デジタル信号を1200Hzと2200Hzとの周波数信号に変換して表した交流信号を重畳して生成されるHART通信信号の入出力先ごとに割り当てられるチャンネル16と、監視系統側の上位機器3との間で行う通信を制御する第1制御部11と、チャンネル16ごとに設けられ、チャンネルを介して受信したHART通信信号から交流信号を取り出し、この交流信号に対応するデジタル信号を第1制御部11に送信するHART通信部10と、を備え、HART通信部10は、下位機器5宛に送信するリクエスト信号を増幅する増幅部14と、リクエスト信号に対する応答結果に基づいて、増幅部14における増幅率を切り替える第2制御部12と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HART通信機能を有する入出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生産プロセスを管理する現場では、発信機能を有する各種のフィールド機器(例えばセンサやバルブ等)をプラントに設置し、フィールド機器から発信される信号をシステムに取り込むことで、各種の生産プロセスを管理している。生産プロセスを管理するシステムとして、例えばセンサから取得した流量や温度、圧力等に基づいてバルブの開度等を制御するものがある。近年、このようなプロセス管理システムに接続されるフィールド機器として、HART(Highway Addressable Remote Transducer)通信機能を搭載したもの(以下、「HART通信対応機器」という。)が採用されている。HART通信対応機器は、測定値や制御値を示す4〜20mAの直流信号に、デジタル信号を1200Hzと2200Hzとの周波数信号に変換して表した交流信号を重畳することで生成される信号(以下、「HART通信信号」という。)を入出力する。つまり、HART通信対応機器は、測定値や制御値の他に、各種の情報を付加してやりとりすることができる。下記特許文献1および特許文献2には、HART通信対応機器を用いたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186503号公報
【特許文献2】特許第4129715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生産プロセスを管理するシステムでは、HART通信対応機器と、その上位側にある通信モジュールとの間に、例えば絶縁用のアイソレータや防爆用のツェナーバリア等を設置する場合がある。このような場合、HART通信信号に含まれる交流信号のレベルが、アイソレータやツェナーバリアの影響を受けて減衰してしまうことがある。また、HART通信対応機器と通信モジュールとの間の距離が長いと、配線抵抗や配線容量が増加し、HART通信信号に含まれる交流信号のレベルが減衰してしまうことがある。交流信号のレベルが減衰してしまうと、通信エラーや通信不能を招来するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、通信品質を向上させることができるHART通信機能を有する入出力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るHART通信機能を有する入出力装置は、第1信号に第2信号を重畳して生成されるHART通信信号の入出力先ごとに割り当てられるチャンネルと、自入出力装置を監視する監視系統側の機器との間で行う通信を制御する制御部と、前記チャンネルごとに設けられ、前記チャンネルを介して受信した前記HART通信信号から前記第2信号を取り出し、当該第2信号に対応するデジタル信号を前記制御部に送信するHART通信部と、を備え、前記HART通信部は、前記入出力先宛に送信するリクエスト信号を増幅する増幅部と、前記リクエスト信号に対する応答結果に基づいて、前記増幅部による増幅率を切り替える第2制御部と、を有する。
【0007】
かかる構成を採用することで、入出力先宛に送信したリクエスト信号に対する応答結果に応じて、リクエスト信号の増幅率を制御することができるため、例えば、入出力先との間で行われる通信の信号レベルが減衰した場合であっても、リクエスト信号の増幅率を大きくすることが可能となる。
【0008】
前記第2制御部は、前記リクエスト信号に対する応答確率に応じて、前記増幅率を切り替えることとしてもよい。具体的に、前記第2制御部は、前記応答確率が所定閾値よりも低い場合に、前記増幅率を大きくすることとしてもよい。これにより、リクエスト信号に対する応答確率が所定閾値よりも低い場合には、入出力先との間で行われる通信の信号レベルが減衰していると判断し、リクエスト信号の増幅率を大きくすることができる。
【0009】
前記増幅部は、複数の前記増幅率に切り替え可能であり、前記第2制御部は、前記増幅率を大きくする際に、複数の前記増幅率のうち、現在の前記増幅率よりも大きな前記増幅率に切り替えることとしてもよい。
【0010】
前記第2制御部は、前記リクエスト信号に対する応答信号に含まれる前記入出力先の状態を示す情報に応じて、前記増幅率を切り替えることとしてもよい。これにより、入出力先の状態が、例えば通信感度を示す内容である場合には、入出力先の通信感度に応じて、リクエスト信号の増幅率を制御することができる。
【0011】
前記第1信号は4〜20mAの直流信号であり、前記第2信号はデジタル信号を変換した周波数信号により表される交流信号であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信品質を向上させることができるHART通信機能を有する入出力装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態におけるHART−IOユニットの構成を例示する図である。
【図2】変形例における絶縁型HART−IOユニットの構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0015】
まず、図1を参照して、実施形態におけるHART通信機能を有する入出力装置(以下、「HART−IOユニット」という。)の構成について説明する。図1に示すように、HART−IOユニット1は、第1制御部11と、HART通信部10a〜10pと、チャンネル16a〜16pと、を有する。HART通信部10a〜10pは、第2制御部12a〜12pと、変復調部13a〜13pと、増幅部14a〜14pと、分離重畳部15a〜15pと、をそれぞれ含む。
【0016】
なお、HART通信部10a〜10p、第2制御部12a〜12p、変復調部13a〜13p、増幅部14a〜14p、分離重畳部15a〜15p、チャンネル16a〜16pおよび下位機器5a〜5pについては、以下において特に区別して記載する必要がない場合に、それぞれHART通信部10、第2制御部12、変復調部13、増幅部14、分離重畳部15、チャンネル16および下位機器5と記載する。また、本実施形態では、16チャンネル分のポートを有するHART−IOユニットについて説明するが、チャンネル(ポート)数はこれに限定されない。
【0017】
下位機器5は、HART−IOユニット1の各チャンネル16に割り当てられる下位側の機器である。下位機器5としては、例えば、HART通信機能を搭載したフィールド機器(以下、「HART通信対応機器」という。)が該当する。HART通信対応機器は、HART通信信号を送受信する。HART通信信号は、4〜20mAの直流信号に、デジタル信号を1200Hzと2200Hzとの周波数信号に変換して表した交流信号を重畳することで生成される信号である。
【0018】
上記直流信号は、HART通信対応機器ごとに伝達される一つの変数の値を示す信号である。変数の値としては、例えば、流量、圧力、温度等の測定値や、弁開度等の制御値が該当する。上記デジタル信号は、例えば、HART通信対応機器内で収集可能な各種のデータを示す信号である。各種のデータとしては、例えば、HART通信対応機器におけるプロセス情報や、HART通信対応機器に組み込まれているハードウェアの故障情報が該当する。なお、HART通信対応機器の測定値や制御値を上記各種のデータに含めることとしてもよい。
【0019】
本実施形態では、16個のHART通信部10を、第1制御部11の下位側に並列して接続する。HART通信部10は、チャンネル16を介して受信したHART通信信号から交流信号を取り出し、この交流信号に対応するデジタル信号を第1制御部11に送信する。以下において、HART通信部10に含まれる各部について説明する。
【0020】
分離重畳部15は、図示しないが、HART通信信号を直流信号と交流信号とに分離する分離部と、直流信号に交流信号を重畳してHART通信信号を生成する重畳部と、を有する。分離重畳部15は、変復調部13との間で交流信号を送受信するとともに、直流信号を図示しない外部機器(例えばコントローラ)に伝達する。
【0021】
変復調部13は、物理的には、例えばHARTモデムで構成する。変復調部13は、交流信号とデジタル信号との変換処理を実行する。変換処理としては、例えば、0と1とで表されるデジタル信号を、2200Hzの周波数信号と1200Hzの周波数信号とで表される交流信号に変換する処理が該当する。また、2200Hzの周波数信号と1200Hzの周波数信号とで表される交流信号を、0と1とで表されるデジタル信号に変換する処理が該当する。
【0022】
増幅部14は、物理的には、増幅回路で構成する。増幅部14は、変復調部13から分離重畳部15に送信される交流信号の振幅を増大させる。増幅部14の増幅率は可変であり、第2制御部12からの切替信号に基づいて増幅率が制御される。この交流信号は、上位側にある監視系統から下位機器5宛に送信されるリクエスト信号に対応する信号となる。監視系統は、下位機器5の状態等を監視する上位側のシステムである。
【0023】
第2制御部12は、物理的には、例えばCPUおよびその周辺デバイスで構成する。第2制御部12は、監視系統から下位機器5宛に送信されたリクエスト信号に対する応答確率に応じて、増幅部14の増幅率を制御する。具体的に、第2制御部12は、応答確率が所定閾値よりも低い場合に、増幅率を大きくするように指示する切替信号を増幅部14に送信する。応答確率は、リクエスト回数に対して正常なレスポンスを受け取った割合により表す。
【0024】
所定閾値は、使用されるユーザアプリケーションに影響を及ぼさない応答確率を実験等により求め、適宜設定することができる。所定閾値は、第2制御部12ごとに設定することができる。これにより、下位機器5ごとに異なる通信環境に適応させた閾値を、下位機器5に対応する第2制御部12に設定することができるため、比較的通信感度が低い下位機器5が接続された場合であっても、通信品質を向上させることが可能となる。
【0025】
第2制御部12は、HART通信部10と第1制御部11との間で行う信号の送受信を制御する。第2制御部12と第1制御部11との間は、専用バスで接続される。
【0026】
第1制御部11は、物理的には、例えばCPUおよびその周辺デバイスで構成する。第1制御部11は、上位機器3との間で行う通信を制御する。上位機器3としては、例えば、監視系統に含まれるHUBが該当する。HART−IOユニット1とHUBとの間は、Ethernet(登録商標)規格の通信ケーブルで接続される。
【0027】
監視系統に含まれる機器監視部(不図示)は、HART−IOユニット1から出力されたデジタル信号を、HUBを介して受信する。機器監視部は、受信したデジタル信号に基づいて、下位機器5でのプロセスの実行状況や、下位機器5に組み込まれているハードウェアの故障状況、下位機器5のメンテナンスおよび修理の必要時期等を診断する。機器監視部は、診断結果等をモニタに表示する。これにより、運用者は、下位機器5を監視することができる。
【0028】
上述した実施形態におけるHART−IOユニット1によれば、監視系統から下位機器5宛に送信されたリクエスト信号に対する応答確率が所定閾値よりも低くなった場合には、応答確率が所定閾値以上になるまで、徐々に増幅率を大きくして通信レベルを高めていくことが可能となる。また、所定閾値を、下位機器5ごとに異なる値に設定することができるため、下位機器5の通信感度に応じて通信レベルを調整することが可能となる。それゆえに、通信品質を向上させることが可能となる。
【0029】
[変形例]
なお、上述した実施形態におけるHART−IOユニットを、絶縁型のHART−IOユニットとして構成してもよい。図2に、絶縁型HART−IOユニットの構成を例示する。図2に示す絶縁型HART−IOユニット1は、図1に示すHART−IOユニット1が有する第2制御部12と変復調部13との間に、絶縁部17を追加した点で、上述した実施形態におけるHART−IOユニット1と相違する。絶縁部17は、例えば、フォトカプラ、トランスを用いることにより、HART通信部10ごとにデジタル信号、電源を絶縁する。絶縁部17を設けることで、チャンネル間の接地レベル差や静電気による影響を排除することができる。
【0030】
また、上述した実施形態における増幅部14は、増幅率を可変するタイプとして説明しているが、これに限定されず、例えば、複数の増幅率を切り替えるタイプであってもよい。この場合、第2制御部12は、増幅率を大きくする際に、複数ある増幅率のうち、現在の増幅率よりも大きな増幅率に切り替えるように指示する切替信号を増幅部14に送信する。
【0031】
また、上述した実施形態において、第2制御部12は、リクエスト信号に対する応答確率に応じて、増幅部14の増幅率を制御しているが、これに限定されない。例えば、リクエスト信号に対する応答信号に含まれる下位機器5の状態を示す情報に応じて、増幅部14の増幅率を制御してもよい。下位機器5の状態としては、例えば、下位機器の通信感度等が該当する。これにより、下位機器5の通信感度に応じて、適宜増幅率を制御することができるため、通信品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…HART−IOユニットユニット、3…上位機器、5a-5p…下位機器、10a-10p…HART通信部、11…制御部、12a-12p…第2制御部、13a-13p…変復調部、14a-14p…増幅部、15a-15p…分離重畳部、16a-16p…チャンネル、17…絶縁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号に第2信号を重畳して生成されるHART通信信号の入出力先ごとに割り当てられるチャンネルと、
自入出力装置を監視する監視系統側の機器との間で行う通信を制御する制御部と、
前記チャンネルごとに設けられ、前記チャンネルを介して受信した前記HART通信信号から前記第2信号を取り出し、当該第2信号に対応するデジタル信号を前記制御部に送信するHART通信部と、を備え、
前記HART通信部は、
前記入出力先宛に送信するリクエスト信号を増幅する増幅部と、
前記リクエスト信号に対する応答結果に基づいて、前記増幅部による増幅率を切り替える第2制御部と、を有する、
ことを特徴とするHART通信機能を有する入出力装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、前記リクエスト信号に対する応答確率に応じて、前記増幅率を切り替える、ことを特徴とする請求項1記載のHART通信機能を有する入出力装置。
【請求項3】
前記第2制御部は、前記応答確率が所定閾値よりも低い場合に、前記増幅率を大きくする、ことを特徴とする請求項2記載のHART通信機能を有する入出力装置。
【請求項4】
前記増幅部は、複数の前記増幅率に切り替え可能であり、
前記第2制御部は、前記増幅率を大きくする際に、複数の前記増幅率のうち、現在の前記増幅率よりも大きな前記増幅率に切り替える、
ことを特徴とする請求項3記載のHART通信機能を有する入出力装置。
【請求項5】
前記第2制御部は、前記リクエスト信号に対する応答信号に含まれる前記入出力先の状態を示す情報に応じて、前記増幅率を切り替える、ことを特徴とする請求項1記載のHART通信機能を有する入出力装置。
【請求項6】
前記第1信号は4〜20mAの直流信号であり、前記第2信号はデジタル信号を変換した周波数信号により表される交流信号である、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のHART通信機能を有する入出力装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195917(P2012−195917A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60405(P2011−60405)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】