説明

HCV核酸配列

【課題】細胞株に感染することができ、高度の増殖能力を有し、しかも実験動物に感染させることができるゲノムタイプが1bのウイルス株の提供。
【解決手段】重症のC型急性肝炎を発症した患者血清からRNAを分離精製し、このRNAを鋳型として、cDNAを作製し、ゲノタイプが1bに属する全長の核酸配列を有するクローンを得た。このウイルスcDNAを含むプラスミッドから、T7ポリメラーゼを用いて、ウイルスRNAを作製し、培養細胞株にエレクトロポレーションにより導入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い感染性および高度の増殖能を有するゲノムタイプが1bのHCVウイルスクローンの核酸配列、それを利用した治療薬のスクリーニング方法、ワクチンなどの治療薬および/または診断への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルスは1989年にアメリカ合衆国のカイロン社の研究者により発見されたプラス鎖の1本鎖RNAウイルスである(ChooらScience 244,359−362(1989))。現在世界中でおよそ2億人が感染していると考えられており、このウイルスの持続感染は慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌へと進展することが知られている、重要な感染症である(非特許文献1)。
【0003】
日本における肝細胞癌のおよそ7割はこのウイルスの感染に起因することが知られている。このウイルスには多数のサブタイプが存在することが知られており、遺伝子配列による分類が行われゲノタイプと呼ばれている(Simmondsら、Consensus proposals for a unified system of nomenclature of hepatitis C virus genotypes.Hepatology. 2005 Oct;42(4):962−73)。ゲノタイプ1bは、中でもインターフェロン治療に対して抵抗性であることが知られている。
【0004】
最近の治療法の改善によりペグインターフェロンとリバビリンを併用することによって、ゲノタイプ1bでも、治癒率が向上してきている。しかし、その治癒率はなお50%程度にすぎない。
【0005】
このウイルスの感染の診断は、ウイルスの有するポリペプチドの配列をもとに、抗体を検出する方法、ウイルスのコアタンパクを検出する方法、HCV RNAを検出する方法が考案されているが、感染早期の診断などにおいてはまだ不完全である。さらに、感染を防御するワクチンは未開発であり、治療用のワクチンも開発されていない。
【0006】
最近ゲノタイプ2aについては、感染性を有するウイルスを産生する系が開発されたが、ゲノタイプ1bのウイルスを増殖させることは困難であり、ゲノタイプが1bのウイルスを細胞株で高度に増殖し、継代培養できるようなHCVはこれまでに報告されていない(非特許文献2)。また、実験動物に感染させることができるウイルスを産生するようなウイルス株についても報告されていない。このような特性を有するウイルス株は、治療薬の開発、診断薬の開発やワクチンの開発、さらには遺伝子治療に用いるウイルスベクターの構築において特に有用である。
【0007】
また、治療薬となりうるような化合物を、ウイルスを産出している細胞株に添加し、その効果を測定することにより新規治療薬を開発する上で特に有用である。また、このようにして作製できるウイルスクローンは、点突然変異を導入することにより薬剤耐性を導入できることから、種々の抗ウイルス薬に対する耐性株の感受性や抵抗性を検討する上できわめて有用な手段となる。さらに実験動物にこのようなウイルスを感染させることができれば、生体内での薬物の治療効果を検討する上できわめて有用な実験系となる。
【非特許文献1】WHO: Global surveillance and control of hepatitis C. Report of a WHO Consultation organized in collaboration with the Viral Hepatitis Prevention Board, Antwerp, Belgium. J Viral Hepat 6 (1999) 35−47, Kiyosawa K, Sodeyama T, Tanaka E, et al. Interrelationship of blood transfusion, non−A, non−B hepatitis and hepatocellular carcinoma: analysis by detection of antibody to hepatitis C virus. Hepatology 12 (1990) 671−675.
【非特許文献2】河田純男、白鳥康史,工藤正俊、榎本信幸(編)、肝疾患Review 2006−2007、109−113(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような理由から、細胞株に感染することができ、高度の増殖能力を有し、しかも実験動物に感染させることができるゲノタイプが1bのウイルス株は切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、重症のC型急性肝炎を発症した患者血清からRNAを分離精製し、このRNAを鋳型として、既知の方法でcDNAを作製し全長の核酸配列を有するクローンを得た。このクローンは、別に示す核酸配列を有していた。この配列はゲノタイプが1bに属するものであり、従来報告されているものとは異なっていた。
【0010】
このウイルスcDNAを含むプラスミッドから、T7ポリメラーゼを用いて、ウイルスRNAを作製し、培養細胞株にエレクトロポレーションにより導入したところ、大量のウイルスの産生がみられ、産生されたウイルスは実験動物に感染性を有していた。このウイルスクローンを産生している細胞株に抗ウイルス薬であるインターフェロンを添加したところ、用量依存性にウイルスの増殖抑制が認められ、このウイルスクローン感染細胞系が、抗ウイルス薬のスクリーニングに有用であることが判明した。
【0011】
また、このように大量にモノクローナルなウイルスが産生されることはこれに対する抗体を産生する上での抗原を安定供給することができ、診断薬、ワクチンの開発に有用であることが判明した。
【0012】
具体的には、本発明は、以下を提供する。
【0013】
(項目1) 配列番号1に示される核酸配列。
【0014】
(項目2) 配列番号1に基づくレプリコン。
【0015】
(項目3) 配列番号1に示される核酸配列を含む、プラスミド。
【0016】
(項目4) 配列番号1に示される核酸配列を含むプラスミドを含む、細胞。
【0017】
(項目5) 配列番号1に示される核酸配列を含むプラスミドを含む、細胞から産生される、ウイルス粒子。
【0018】
(項目6) 配列番号1に示される核酸配列を含むウイルス粒子により感染した動物。
【0019】
(項目7) 配列番号1に示される核酸配列を含む、プラスミド、細胞、ウイルス粒子または感染動物を利用するC型肝炎ウイルス治療薬のスクリーニング方法
(項目8) 配列番号1に示される核酸配列およびルシフェラーゼなどのレポータ−配列を含む、プラスミド。
【0020】
(項目9) 配列番号1に示される核酸配列を改変した、核酸配列。
【0021】
(項目10) 核酸配列1によりコードされるアミノ酸配列。
【0022】
(項目11) 項目9に記載のアミノ酸配列に基づくワクチン。
【0023】
(項目12) 配列番号1に示される核酸配列の一部または全部の配列の相補鎖にハイブリダイズする核酸配列
(項目13) 項目11に記載の核酸配列に、1以上の核酸の欠失、置換、付加を含み請求項1に記載の核酸配列の一部または全部の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列。
【0024】
(項目14) 配列番号1または配列番号1を改変した核酸配列に基づく核酸ワクチン。
【発明の効果】
【0025】
このクローンを使用することにより、C型肝炎ウイルスを細胞株を使って継代培養することができ、さらに実験動物にも感染させることができることから、ウイルスのバイオロジーの研究ひいては抗ウイルス薬の探索に使用することができる。また、このウイルス株は高度の増殖性を有していることから、診断用の抗体を作製する際の抗原を多量に安定供給できる。また、培養細胞株に基礎化合物を添加し、ウイルスの増殖速度を観察することにより、ウイルスの増殖を抑制する薬剤の開発を行うことができる。しかも、実験動物に感染させ、生体内での薬剤の効果を測定することも可能である。特に、薬剤耐性であることが知られているような変異を導入することにより、種々の薬剤の耐性株に対する効果を検定する際に有用である。また、感染防御のためのワクチンの産生に用いる抗原の安定供給にも有用である。また、治療的ワクチンの作製やウイルスベクターとしての使用などにも応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0027】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0028】

本明細書において使用される場合、「キット」とは、複数の容器、および製造業者の指示書を含み、そして各々の容器が、本発明の薬学的組成物、その他の薬剤、およびキャリアを含む製品をいう。
【0029】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」は、一本鎖形態、二本鎖形態、または他の形態である、リン酸エステルポリマー形態のリボヌクレオチド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、もしくはシチジン;「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオチド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、もしくはデオキシシチジン(DNA分子」)、またはそれらの任意のホスホエステルアナログ(例えば、ホスホロチオエートおよびチオエステル)を指し得る。
【0030】
「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」は、核酸(例えば、DNAまたはRNA)中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオシド」とも呼ばれる)であり、2つの以上のヌクレオチドの任意の鎖またはその相補鎖を意味する。本発明の好ましい核酸は、配列番号1もしくは3のいずれかに示される核酸、ならびにその相補鎖、改変体およびフラグメントを包含する。
【0031】
「相補鎖」とは、ある核酸配列に対して塩基対を形成し得るようなヌクレオチドの鎖を意味する。例えば、二本鎖DNAの各々の鎖は互いに相補的な核酸配列を有し、一方の鎖から見て他方の鎖は相補鎖である。
【0032】
「コード配列」または発現生成物(例えば、RNA、ポリペプチド、タンパク質、もしくは酵素)を「コードする」配列は、発現された場合にその生成物の生成をもたらすヌクレオチド配列である。
【0033】
「タンパク質」、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸の連続列を含む。本発明の好ましいペプチドは、配列番号2もしくは4のいずれかに示されるペプチド、ならびにその改変体およびフラグメントを包含する。
【0034】
「タンパク質配列」、「ペプチド配列」、または「ポリペプチド配列」または「アミノ酸配列」は、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチド中にある一連の2つ以上のアミノ酸を指す。
【0035】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0036】
本明細書では、アミノ酸配列および核酸配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0037】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0038】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0039】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0040】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0041】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの核酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0042】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:a Practical Approach
、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0043】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0044】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015
M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0045】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0046】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1MNaClにおける融解温度の適切な概算は、Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0047】
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1の核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1に示す配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
【0048】
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他
の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
【0049】
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリー配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリー配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリー配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
【0050】
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships: Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington: National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
【0051】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0052】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プライマーとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、最も好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0053】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0054】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0055】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0056】
本明細書において核酸の存在を確認するには、放射能法、蛍光法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価され得る。
【0057】
本明細書中で、「生物学的サンプル」とは、例えば、血液、血清、尿、および/または腫瘍生検をいうが、これらに限定されない。
【0058】
「マーカー」とは、生物学的因子を明確に同定する、生物学的因子の高分子的、微視的、または分子的特徴をいう。
【0059】
「抗体」は、抗体およびそのフラグメント(好ましくは、抗原結合フラグメント)を包含するが、これらに限定されない。この用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、Fab抗体フラグメント、F(ab)抗体フラグメント、Fv抗体フラグメント(例えば、VまたはV)、単鎖Fv抗体フラグメント、およびdsFv抗体フラグメントを包含する。さらに、本発明の抗体分子は、完全ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であり得る。本発明の抗体は、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチドに、特異的に反応する。
【0060】
「中和」は、生物学的活性を有する物質が、それに対する抗体に結合することにより、活性を失う現象をいう。本明細書中では、この生物学的活性は特に、転移および/または浸潤活性である。
【0061】
「中和抗体」は、生物学的活性を中和する抗体をいう。本明細書中における「中和抗体」は、特に、癌細胞の転移および/または浸潤活性を中和する抗体をいう。
【0062】
本発明の核酸または抗体は、抗癌剤と組み合わせて使用され得る。この抗癌剤としては、当該分野で公知の任意の抗癌剤(抗悪性腫瘍薬剤、細胞毒性薬剤(例えば、DNA相互作用剤(例えば、シスプラチンまたはドキソルビシン)等);タキサン(例えば、タキソテール、タキソール);トポイソメラーゼIIインヒビター(例えば、エトポシド);トポイソメラーゼIインヒビター(例えば、イリノテカン(すなわちCPT−11)、カンプトスターまたはトポテカン);微小管相互作用剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセルまたはエポシロン);ホルモン剤(例えば、タモキシフェン);チミジル酸合成インヒビター(例えば、5−フルオロウラシル);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート);アルキル化剤(例えば、テモゾロミド(TEMODARTM)、シクロホスファミド);ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター(例えば、SARASARTM(4−[2−[4−[(11R)−3,10−ジブロモ−8−クロロ−6,11−ジヒドロ−5H−ベンゾ[5,6]シクロヘプタ[1,2−b]ピリジン−11−イル−]−1−ピペリジニル]−2−オキソエチル]−1−ピペリジンカルボキサミド、またはSCH 66336)、チピファルニブ(ZarnestrasまたはR115777)、L778,123(ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター)、BMS 214662(ファネシルタンパク質トランスフェラーゼインヒビター);シグナル伝達系インヒビター(例えば、Iressa、Tarceva(EGFRキナーゼインヒビター)、EGFRに対する抗体(例えば、C225)、GLEEVECTMC−ablキナーゼインヒビター);インターフェロン(例えば、イントロン、Peg−イントロン);ara−C、アドリアマイシン、シトキサンおよびゲムシタビン)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物と組み合わされて使用される、特に有用な抗癌剤は、シスプラチンまたは5−FUである。
【0063】
本発明の遺伝子は、siRNAを用いてその発現をノックダウンすることが可能である。所定の遺伝子からsiRNAを調製する方法は周知であり、例えば、実施例に示すような方法によって調製できる。さらに、(1)GまたはCが連続して4つ以上存在しない、(2)AまたはTが連続して4つ以上存在しない、(3)GあるいはCが9塩基以上存在しない、などの条件を加えてもよい。本発明のsiRNAは、19塩基長、20塩基長、21塩基長、22塩基長、23塩基長、24塩基長、25塩基長、26塩基長、27塩基長、28塩基長、29塩基長、または30塩基長である。本発明のsiRNAは、好ましくは、19塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは20塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは21塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは22塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは23塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは24塩基長である。siRNAの調製法については、実施例の一般的手法の項を参照のこと。
【0064】
用語「発現する」および「発現」は、遺伝子、RNA配列もしくはDNA配列中の情報が明らかになるのを可能にすることまたはそれを引き起こすこと(例えば、対応する遺伝子の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによって、タンパク質を生成すること)を意味する。DNA配列は、細胞中でかまたは細胞によって、「発現生成物」(例えば、RNA(例えば、mRNA)またはタンパク質)を形成するように発現される。その発現生成物自体はまた、その細胞によって「発現される」と言われ得る。
【0065】
用語「形質転換」とは、核酸を細胞中に導入することを意味する。導入される遺伝子または配列は、「クローン」と呼ばれ得る。その導入されるDNAまたはRNAを受ける宿主細胞は、「形質転換」されており、これは、「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAは、任意の供給源由来であり得、宿主細胞と同じ属または種の細胞由来であっても、異なる属または種の細胞由来であってもよい。
【0066】
用語「ベクター」は、宿主を形質転換し、必要に応じて導入された配列の発現および/または複製を促進するように、DNA配列またはRNA配列が宿主細胞中に導入され得る媒体(例えば、プラスミド)を包含する。
【0067】
本発明において使用され得るベクターとしては、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、組込み可能なDNAフラグメント、および宿主ゲノム中への核酸の導入を促進し得る他の媒体が挙げられる。プラスミドは、最も一般的に使用される形態のベクターであるが、同様の機能を提供しかつ当該分野で公知であるかまたは公知となる他のすべての形態のベクターが、本明細書中で野使用のために適切である。例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors:A Laboratory Manual,1985 and Supplements,Elsevier,N.Y.およびRodriguezら、(編),Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses 1988,Buttersworth,Boston,MAを参照のこと。
【0068】
用語「発現系」とは、適切な条件下で、そのベクターにより保有されて宿主細胞中に導入されるタンパク質または核酸を発現し得る、宿主細胞および適合性ベクターを意味する。一般的な発現系としては、E.coli宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。
【0069】
本発明の配列番号2または4に記載のポリペプチドをコードする核酸の発現は、原核生物細胞または真核生物細胞のいずれかにおいて従来の方法によって実行され得る。E.coli宿主細胞は、原核生物系において最も頻繁に使用されるが、他の多くの細菌(例えば、種々のPseudomonasおよびBacillusの株)が、当該分野で公知であり、そしてコレラも同様に、使用され得る。配列番号2または4に記載のポリペプチドをコードする核酸を発現するために適切な宿主細胞としては、原核生物および高等真核生物が挙げられる。原核生物は、グラム陰性生物およびグラム陽性生物(例えば、E.coliおよびB.subtilis)の両方を包含する。高等真核生物は、動物細胞(非哺乳動物起源(例えば、昆虫細胞)および哺乳動物起源(例えば、ヒト、霊長類、および齧歯類)の両方の動物細胞)由来の樹立された組織培養細胞株を包含する。
【0070】
原核生物宿主−ベクター系は、多くの異なる種のための広範な種類のベクターを包含する。DNAを増幅するための代表的なベクターは、pBR322またはその誘導体の多く(例えば、pUC18もしくはpUC19)である。配列番号2または4に記載のポリペプチドを発現するために使用され得るベクターとしては、lacプロモーターを含むベクター(pUCシリーズ);trpプロモーターを含むベクター(pBR322−trp);Ippプロモーターを含むベクター(pINシリーズ);λ−pPプロモーターもしくはλ−pRプロモーターを含むベクター(pOTS);またはハイブリッドプロモーター(例えば、ptac)を含むベクター(pDR540)が挙げられるが、これらに限定されない。Brosiusら、「Expression Vectors Employing Lambda−,trp−,lac−,and Ipp−derived Promoters」,Rodriguez and Denhardt(編)Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses,1988,Buttersworth,Boston,pp.205〜236を参照のこと。多くのポリペプチドは、米国特許第4,952,496号、同第5,693,489号および同第5,869,320号、ならびにDavanloo,P.ら、(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:2035〜2039;Studier,F.W.ら、(1986)J.Mol.Biol.189:113−130;Rosenberg,A.H.ら、(1987)Gene 56:125−135;およびDunn,J.J.ら、(1988)Gene 68:259に開示されるような、E.coli/T7発現系において、高レベルで発現され得る。
【0071】
高等真核生物組織培養細胞もまた、本発明の配列番号2または4に記載のポリペプチドの組換え生成のために使用され得る。任意の高等真核生物組織培養細胞株(昆虫バキュロウイルス発現系が挙げられる)が使用され得るが、哺乳動物細胞が、好ましい。このような細胞の形質転換、トランスフェクションおよび増殖は、慣用的手順となっている。有用な細胞株の例としては、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、J774細胞、Caco2細胞、ラット乳児腎臓(BRK)細胞株、昆虫細胞株、鳥類細胞株、およびサル(COS)細胞株が挙げられる。そのような細胞株のための発現ベクターは、通常は、複製起点、プロモーター、翻訳開始部位、RNAスプライス部位(ゲノムDNAが使用される場合)、ポリアデニル化部位、および転写終結部位を含む。これらのベクターはまた、通常は、選択遺伝子または増幅遺伝子を含む。適切な発現ベクターは、例えば、アデノウイルス、SV40、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、またはサイトメガロウイルスのような供給源に由来するプロモーターを保有する、プラスミド、ウイルス、またはレトロウイルスであり得る。発現ベクターの例としては、pCR(登録商標)3.1、pCDNA1、pCD(Okayamaら、(1985)Mol.Cell Biol.5:1136)、pMC1neo Poly−A(Thomasら、(1987)Cell 51:503)、pREP8、pSVSPORTおよびそれらの誘導体、ならびにバキュロウイルスベクター(例えば、pAC373またはpAC610)が挙げられる。
【0072】

(実施例1:C型肝炎ウイルスの増幅)
重症C型急性肝炎患者血清よりRNAを抽出、ゲノタイプ1bの高度に保存された領域に設定されたプライマーを使用してポリメーラゼ連鎖反応(PCR)による増幅を行った。アガロースゲル電気泳動により期待される位置にバンドが検出された。C型肝炎ウイルスのほぼ全領域をこのようにして増幅することが可能であった。さらに、5’RACE、3’RACEを行うことにより全配列を増幅することができた(図1)。
(実施例2:C型肝炎ウイルスRNAの転写)
実施例1で得られたDNA断片をそれぞれプラスミッドベクターにクローニングし、その後、一つのプラスミッドベクターに連結させることにより、C型肝炎ウイルスの全長を有するcDNAをクローニングすることができた。T7プロモータをその上流に配置しておくことにより、3’末端を制限酵素で切断後にC型肝炎ウイルスと同等のRNAを転写することが可能であった(図2)。転写されたRNAは変性アガロースゲルで電気泳動すると、予測される位置にバンドが確認された。
(実施例3:Huh7細胞によるウイルスの産生)
実施例2で作製されたRNAをエレクトロポレーションによりHuh7細胞に導入し、その後経時的に培養上清に産出されるウイルスを、HCV RNAを定量することにより測定した。培養上清にウイルスが産出され、徐々にその濃度が上昇することが観察された(図3)。
(実施例4:ウイルス粒子の蔗糖密度勾配遠心法による分離)
実施例3において培養上清に産出されたウイルスを蔗糖密度勾配遠心により分離した。全体を12のフラクションに分けて、HCV RNAの濃度を測定した。ウイルスのピークは密度1.1の位置に分画され、ウイルス粒子の存在が示唆された(図4)。
(実施例5:免疫不全マウスにおけるC型肝炎ウイルスの静脈注射による感染)
実施例3により産出されたウイルスを、ヒト肝細胞を移植した免疫不全マウスに静脈注射することにより投与した。静脈注射後2週間で、マウス血液中のC型肝炎ウイルス濃度が上昇し、HCV RNAを測定したところ10copy/mlに達していた(図5)。
(実施例6:免疫不全マウスにおけるC型肝炎ウイルスの肝臓内注射による感染)
実施例2において作製したHCV RNAを、ヒト肝細胞を移植した免疫不全マウスの肝臓内に直接注入した。その後2週間でマウスの血液中にウイルスが増加してきた。このウイルス量はHCV RNAを測定することによりその後さらに上昇していることがわかった(図6)。
(実施例7:パッセージ感染実験)
実施例6によりウイルス量が増加したマウス血清を次のマウスに投与したところ(パッセージ実験)、投与されたマウスの血中にウイルス粒子が増加してきていることが、HCV RNAを測定することにより検出された(図7)。
(実施例8:ゲノムタイプの異なるC型肝炎ウイルス感染に対するインターフェロンの効果の比較)
実施例6や7により、ウイルスが血中に増加したマウスに対して、インターフェロンを投与した。異なる量のインターフェロンに対して、用量依存性のウイルスの減少が見られ、インターフェロンなど、抗ウイルス薬の効果の検証に有用なモデルとなることが示された。インターフェロン投与によりウイルスは減少したが、ゲノタイプ2aのウイルスに比べて、ゲノタイプ1bのウイルスは血中濃度が高く、増殖能力が高いことが示唆されたが、インターフェロンの治療効果はゲノタイプ2aのウイルスと比較すると明らかに少なく、臨床的に経験される、ゲノタイプ1bはインターフェロン抵抗性であることを再現できるモデルであることがわかった(図8)。
(実施例9:ゲノムタイプの異なるC型肝炎ウイルス感染に対するインターフェロンの効果の比較)
実施例6や7により、ウイルスが血中に増加したマウスとゲノタイプ2aのウイルスが感染したマウスのインターフェロンの効果を比較した。ゲノタイプ2aに比べて、1bのウイルスは血中濃度が高く、増殖能力が高いことが示唆されたが、インターフェロンの治療効果はゲノタイプ2aのウイルスと比較すると明らかに少なく、臨床的に経験される、ゲノタイプ1bはインターフェロン抵抗性であることを再現できるモデルであることがわかった(図9)。
実施例10
実施例3で作製した、ウイルス産生細胞株に抗ウイルス薬であるインターフェロンを、培養上清に添加した。添加した薬剤の濃度により、より強いウイルス増殖抑制作用が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に従って、抗C型肝炎ウイルス治療薬のスクリーニング手段が提供される。さらにそのようなスクリーニングに使用するためのプラスミド、細胞、ウイルス粒子および感染動物もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は患者血清から抽出されたRNAを用いて,PCR反応、5’RACE、3’RACE行なって増幅した試料のアガロースゲル電気泳動の結果を示す。レーン1は、C型肝炎患者血清、レーン2はC型肝炎患者血清、レーン3は当該患者血清、レーン4は陰性コントロールを示す。
【図2】図2は、C型肝炎ウイルスの全長を有するcDNAをクローニングすることができるプラスミドベクターを示す。
【図3】図3は、実施例2で作製されたRNAをエレクトロポレーションによりHuh7細胞に導入し、その後経時的に培養上清に産出されるウイルス粒子の濃度に相当するHCV RNAの定量結果を示す。
【図4】図4は、実施例3において培養上清に産出されたウイルスを蔗糖密度勾配遠心により分離したフラクションのHCV RNA濃度(ウイルス粒子の濃度)の測定結果を示す。
【図5】図5は、実施例3により産出されたウイルスを、ヒト肝細胞を移植した免疫不全マウスに静脈注射で投与後2週間のマウス血液中のC型肝炎ウイルス濃度の測定結果を示す。
【図6】図6は、実施例2において作製したHCV RNAを、ヒト肝細胞を移植した免疫不全マウスの肝臓内に直接注入し、その後2週間のマウスの血液中ウイルス濃度の測定結果を示す。
【図7】図7は、実施例6によりウイルス量が増加したマウス血清を次のマウスに投与し(パッセージ実験)、その投与されたマウスの血中ウイルス粒子濃度の測定結果を示す。
【図8】図8は、実施例6や7により、ウイルスが血中に増加したマウスに対するインターフェロンの効果を示す。
【図9】図9は、実施例6や7により、ゲノムタイプ1bのウイルスが血中に増加したマウスとゲノタイプ2aのウイルスが感染したマウスに対するインターフェロンの効果の比較を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0075】
配列番号1は、HCV-KT9クローンのC型肝炎ウイルスの核酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示される核酸配列。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸配列に基づくレプリコン。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸配列のcDNAを含む、プラスミド。
【請求項4】
請求項3に記載のプラスミドを含む、細胞。
【請求項5】
請求項4に記載の細胞から産生される、ウイルス粒子。
【請求項6】
請求項3に記載のプラスミド、請求項4に記載の細胞または請求項5に記載のウイルス粒子により感染した動物。
【請求項7】
請求項3に記載のプラスミド、請求項4に記載の細胞、請求項5に記載のウイルス粒子および/または請求項6に記載の感染動物を利用するC型肝炎ウイルス治療薬のスクリーニング方法
【請求項8】
請求項1に記載の核酸配列およびレポータ配列を含む、プラスミド。
【請求項9】
請求項8に記載のレポータ配列が、ルシフェラーゼをコードする核酸配列である、プラスミド。
【請求項10】
請求項1に記載の核酸配列を1以上の核酸の欠失、置換、付加を含み、改変した核酸配列。
【請求項11】
請求項1に記載される核酸配列に対応するcDNAによりコードされるアミノ酸配列。
【請求項12】
請求項11に記載のアミノ酸配列に基づくワクチン。
【請求項13】
請求項1に記載の核酸配列の一部または全部の配列の相補鎖にハイブリダイズする核酸配列。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸に、1以上の核酸の欠失、置換、付加を含み請求項1に記載の核酸配列の一部または全部の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸。
【請求項15】
請求項1、請求項2、請求項10、請求項13および請求項14のいずれかに記載の配列に基づく核酸ワクチン。
【請求項16】
請求項10、請求項13および請求項14のいずれかに記載の核酸配列のcDNAを含む、プラスミド。
【請求項17】
請求項16に記載のプラスミドを含む、細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の細胞から産生される、ウイルス粒子。
【請求項19】
請求項16に記載のプラスミド、請求項17に記載の細胞または請求項18に記載のウイルス粒子により感染した動物。
【請求項20】
請求項16に記載のプラスミド、請求項17に記載の細胞、請求項18に記載のウイルス粒子および/または請求項19に記載の感染動物を利用するC型肝炎ウイルス治療薬のスクリーニング方法
【請求項21】
請求項3に記載のプラスミド、請求項4に記載の細胞、請求項5に記載のウイルス粒子、請求項16に記載のプラスミド、請求項17に記載の細胞、および/または請求項18に記載のウイルス粒子を含む、C型肝炎ウイルス治療薬のスクリーニングキット。
【請求項22】
請求項9に記載のプラスミドを含む、ウイルス増殖検出キット。


【図2】
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【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−38994(P2009−38994A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204967(P2007−204967)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】