説明

IκBキナーゼ、そのサブユニット、およびこれらを使用する方法

【課題】炎症誘発性シグナルに応答して活性化されて、NF-kB転写因子の活性を阻害するタンパク質(IκB)をリン酸化し得る組成物を提供する。
【解決手段】IKKセリンタンパク質キナーゼと会合するIκBキナーゼ(IKK)触媒サブユニットポリペプチドをコードする単離した核酸分子、このような核酸分子を含むベクター、およびこのようなベクターを含む宿主細胞、さらに、本発明の核酸分子と結合し得るヌクレオチド配列(このようなヌクレオチド配列はプローブまたはアンチセンス分子として有用である)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、National Institutes of Healthにより授与された助成金番号CA50528の下で合衆国政府の支持によりなされた。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、一般に、分子生物学および生化学に関し、そしてより詳細には、環境ストレスおよび炎症誘発性シグナルに応答して活性化されて、NF-κB転写因子のインヒビターをリン酸化するプロテインキナーゼである、IκBキナーゼ、およびこのプロテインキナーゼを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
特異的刺激に対する細胞曝露に起因する遺伝子発現の誘導は、緊密に制御されているプロセスである。誘導性刺激に依存して、1つ以上の遺伝子が迅速に誘導され、その結果その発現された遺伝子産物がその効果を媒介し得ることは、細胞の生存に重大であり得る。例えば、組織への損傷または組織の感染に起因しい刺激された炎症応答は、損傷の領域における迅速な血管拡張、およびマクロファージのようなエフェクター細胞の浸潤を生じる。血管拡張は、応答の数分以内に生じ、そして損傷領域におけるサイトカインの発現に部分的に起因する。
【0004】
例えば、炎症応答または免疫応答の迅速な誘導は、このような応答の調節に関与する転写因子が、迅速な活性化を受けやすい形態で細胞内に存在することを必要とする。従って、誘導性刺激への曝露の際に、この応答は急速に生じ得る。一方、このような転写因子が、不活性な状態でまだ細胞内に存在しない場合、この因子は、最初に、誘導性刺激への曝露の際に合成されて、炎症応答のような応答が生じ得る速度を大いに低減しなければならない。
【0005】
遺伝子発現のこのような迅速な誘導に関与する転写因子の活性の調節は、種々の機構により生じ得る。例えば、いくつかの場合では、細胞内で不活性な状態で存在する転写因子は、1つ以上のセリン、スレオニン、またはチロシン残基へのリン酸化のような翻訳後修飾により活性化され得る。さらに、転写因子は、調節因子(これは、誘導刺激への曝露の際に、転写因子から放出され、それにより転写因子を活性化する)との会合に起因して不活性であり得る。あるいは、不活性な転写因子は、転写活性を有するためには、第2のタンパク質と会合しなければならないかもしれない。
【0006】
まれに、グルココルチコイドの場合のように、誘導性刺激は、不活性な転写因子と直接相互作用して、この因子を活性にし、そして遺伝子発現の誘導をもたらす。しかし、より頻繁には、誘導性刺激は、細胞膜上に依存する特定のレセプターと相互作用することにより、または細胞に侵入し、そして細胞内タンパク質と相互作用することにより、誘導された応答を開始する。さらに、シグナルは、一般的に、タンパク質の一連の相互作用に起因して、例えば、細胞膜から核へと、経路に沿って伝達される。このようなシグナル伝達経路は、細胞外誘導性刺激の迅速な伝達を可能にし、その結果、適切な遺伝子発現が迅速に誘導される。
【0007】
シグナル伝達経路の存在は長い間認識されており、そしてこのような経路に関与する多くの細胞因子が記載されているが、多くの重要な応答(炎症応答および免疫応答を含む)の発現を担う経路は、完全には規定されていない。例えば、種々の誘導生刺激(例えば、細菌またはウイルス)が、免疫応答および炎症応答の共通のアームを活性化することが認識される。しかし、発現される遺伝子産物の相違もまた観察され、このことは、これらの刺激が、特定のシグナル伝達経路を共有することが、その誘導性刺激に対して独特な他の経路もまた誘導することを示す。さらに、細菌またはウイルスのような誘導性因子は最初に異なるシグナル伝達経路を刺激するが、依然として共通の遺伝子の発現を誘導するので、いくつかのシグナル伝達経路は、異なる経路が共通の転写因子を活性化するように一点に収束しなければならない。
【0008】
このような経路に関与するタンパク質についてのより明確な理解は、例えば、特定の経路により調節される遺伝子の発現を妨害することが公知であるが、その標的は公知ではない薬物の作用機構の説明を可能にし得る。さらに、このような経路の理解は、ガンのような疾患に関連する経路における欠損の理解を可能にする。例えば、細胞接着分子の変化した発現は、ガン細胞の転移能に関連する。しかし、細胞接着分子の発現をもたらすシグナル転移経路に関与する重要なタンパク質は、同定されていない。したがって、シグナル転移経路に関与するタンパク質、特に、例えば、炎症および免疫応答に関与する遺伝子産物の誘導をもたらす異なる開始経路の収束点に存在するタンパク質を同定する必要がある。本発明は、この必要性を満たし、そして関連する利点もまた提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、IκBキナーゼ(IKK)サブユニットIKKαおよびIKKβと称される、全長のヒトセリンプロテアーゼキナーゼをコードする単離された核酸分子を提供する。開示されるIKKサブユニットは、実質的な配列相同性を共有し、そして炎症誘発性シグナルに応答して活性化されて、NF-kB転写因子の活性を阻害するタンパク質(IκB)をリン酸化する。
【0010】
例えば、本発明は、IKKαと称されるサイトカイン誘導性IκBキナーゼサブユニットをコードする、配列番号1として示すヌクレオチド配列、特に配列番号1におけるヌクレオチド-35〜92として示す配列、を有する核酸分子、および配列番号2として示すアミノ酸配列をコードする核酸分子、ならびにそれらに相補的なヌクレオチド配列を提供する。さらに、本発明は、IKKβと称される、第2のサイトカイン誘導性IκBキナーゼサブユニットをコードする、配列番号14に示す通りのヌクレオチド配列を有する核酸分子、および配列番号15に示すアミノ酸配列をコードする核酸分子、ならびにそれらに相補的なヌクレオチド配列を提供する。本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクター、およびこのようなベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、配列番号1に示す通りのヌクレオチド-35〜92を含む、本発明の核酸分子に結合するヌクレオチド配列を提供する。本発明のこのようなヌクレオチド配列は、サンプル中のIKKサブユニットをコードする核酸分子の存在を同定するためのプローブとして、そしてIKKサブユニットをコードする拡散分子の発現を阻害するために用いられ得るアンチセンス分子として、有用である。
【0012】
本発明はまた、IκBタンパク質をリン酸化し得る、単離された全長のヒトIKKサブユニットを提供する。例えば、本発明は、配列番号2に示す通りのアミノ酸配列、特に配列番号2のN末端のアミノ酸1〜31を含むアミノ酸配列を有するIKKαポリペプチドを提供する。さらに、本発明は、配列番号15に示す通りのアミノ酸配列を有するIKKβポリペプチドを提供する。本発明はまた、例えば、配列番号2の残基1〜31として示すN末端アミノ酸の1以上の連続するアミノ酸を含む部分ペプチドを含む、IKKサブユニットの部分ペプチドを提供する。IKKサブユニットの部分ペプチドは、IKKサブユニットのキナーゼドメインを含み得るか、またはIκBキナーゼまたはIKKサブユニットに特異的に結合する抗体の産生を惹起するために有用なペプチドを含み得る。従って、本発明はまた、IKKサブユニットを含むIKK複合体に、特にIKKサブユニットに、例えば、配列番号2の残基1〜31として示す少なくとも1のアミノ酸を含むエピトープに、特異的に結合する抗IKK抗体を提供し、そしてまた、このような抗体のIKKサブユニット結合フラブメントを提供する。さらに、本発明は、抗IKK抗体またはそのIKK結合フラグメントを産生する細胞株を提供する。
【0013】
本発明はまた、単離されたIκBキナーゼ複合体を提供する。本明細書中に開示されるように、IKK複合体は、約900kDaまたは約300kDaの見かけの分子量を有し得る。IKK複合体は、IKKαサブユニット、IKKβサブユニット、またはその両方を含み、そしてIκBタンパク質をリン酸化し得る点で部分的に特徴付けされる。
【0014】
本発明は、IKK複合体またはIKKサブユニットを単離するための方法、ならびにインビトロまたはインビボでIKKと会合する第2のタンパク質とのIKK複合体またはIKKサブユニットの会合を変更し得る因子を同定するための方法をさらに提供する。このような第2のタンパク質は、例えば、別のIKKサブユニット;IKK活性の基質であるが、遺伝子の調節された発現をもたらすシグナル伝達経路に関与する、IκBタンパク質;シグナル伝達経路においてIκBキナーゼの上流であり、そしてIKK活性を調節する、タンパク質;またはIκBキナーゼまたはIKKサブユニットの調節サブユニットとして作用し、そしてIKK複合体の完全な活性化に必要である、タンパク質であり得る。第2のタンパク質とのIKKサブユニットの会合を変更し得る因子は、例えば、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣物、または有機低分子であり得る。このような因子は、細胞内でのIκBのリン酸化のレベルを調整し、それにより、細胞内のNF-κBの活性およびNF-κBにより調節される遺伝子の発現を調整するために有用であり得る。
【0015】
本発明はまた、IKKサブユニット、IKKの下流のエフェクター(例えば、IκBファミリーのメンバーのタンパク質)または上流のアクチベーターであり得るタンパク質、またはIKKの調節サブユニットを含む、IκBキナーゼと相互作用し得るタンパク質を同定する方法を提供する。IKK複合体またはIKKサブユニットと相互作用するタンパク質は、例えば、IKKとの共沈により、またはIKKサブユニットをリガンドとして用いることにより、単離され得、そして例えば、NF-κB活性化の組織特異的調節および結果として生じる組織特異的遺伝子発現に関与し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ヒトセリンタンパク質キナーゼ複合体であるIκBキナーゼ(IKK)のポリペプチドサブユニットをコードする、単離された核酸分子を提供する。このキナーゼは、炎症誘発性シグナルに応答して活性化され、そしてタンパク質(IκBの)をリン酸化し、これが、NF-κB転写因子に結合しそしてその活性を阻害する。例えば、本発明は、配列番号2(図1)に示されるアミノ酸配列を有する全長ヒトIKKαサブユニットをコードする単離された核酸分子(配列番号1)を提供する。さらに、本発明は、配列番号15(図3)に示されたアミノ酸配列を有する全長ヒトIKKβサブユニットをコードする、単離された核酸分子(配列番号14;図2)を提供する。
【0017】
本明細書中で用いる場合、用語「単離された」は、本発明の核酸分子について用いる場合、細胞において核酸分子に通常付随する、混入する脂質、タンパク質、核酸、または他の細胞の物質が比較的存在しないことを意味する。本発明の単離された核酸分子は、例えば、配列番号1または配列番号14に示したヌクレオチド配列の化学合成によるか、または実施例IIおよび実施例IIIに開示された方法のような方法を用いてこの分子をクローニングすることによって得られ得る。一般に、単離された核酸分子は、核酸分子を含むサンプルの少なくとも約30%を含み、そして一般にサンプルの約50%、または70%、または90%を含み、好ましくは、サンプルの95%または98%を含む。このような単離された核酸分子は、例えば、単離された核酸分子を含むサンプルと、このサンプルがそれを起源として得られた材料とを、比較することによって同定され得る。従って、単離された核酸分子は、例えば、ゲル電気泳動後に得られた細胞溶解物の画分における核酸分子の相対量と、細胞における核酸分子の相対量そのものとを比較することによって同定され得る。
【0018】
IKKαおよびIKKβは、IKKサブユニットと命名されている。なぜなら、それらは、IκBキナーゼ(IKK)活性を有する約900kDaの複合体の成分であるからであり、そしてそれらは、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の実質的な相同性を共有するからである。本明細書中に開示するように、IKKαおよびIKKβは、IKK触媒サブユニットのファミリーの関連するメンバーである(図3を参照のこと)。900kDaのIκBキナーゼ複合体は、一工程(例えば、IKKサブユニットに特異的な抗体を使用する免疫沈降法または金属イオンキレートクロマトグラフィー法(実施例IVを参照のこと))を用いることにより単離され得る。300kDa IKK複合体もまた、本明細書中で開示されるように単離され得、そしてIκB基質に対してキナーゼ活性を有する(実施例IIIを参照のこと)。
【0019】
配列番号1に関連する核酸分子は以前に記載されている(ConnellyおよびMarcu、Cell.Mol.Biol.Res.、41:537-549(1995)、これは、本明細書中で参考として援用される)。例えば、ConnellyおよびMarcuは、85キロダルトン(kDa)の見かけ上の分子量を有する全長マウスポリペプチドをコードし、そしてCHUKと命名されている、3466塩基対(bp)の核酸分子(GenBank登録番号#U12473;Locus MMU 12473)(これは、本明細書中で参考として援用される)を記載する。配列番号2に示されるポリペプチドの一部をコードする、2146bpの核酸分子(GenBanK登録番号#U22512;Locus HSU 22512)(これは、本明細書中で参考として援用される)もまた記載された。しかし、#U22512から推定されたアミノ酸配列は、配列番号2に示されるアミノ酸1〜31を欠き、従って、全長タンパク質ではない。さらに、いくつかのヌクレオチドの差異が、#U22512の配列と比較した場合、配列番号1に生じる。この差異は、配列番号2の543位、604位、679位、680位、684位、および685位で異なるアミノ酸をコードするヌクレオチド変化;また、コドン665および678で生じるサイレントなヌクレオチド変化、を含む。GenBank登録番号#U12473および#U22512のヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドは、約95%のアミノ酸レベルでの同一性を共有し、そして配列番号2に示される配列と実質的に類似している。ConnellyおよびMarcuによって記載されたポリペプチドについての機能は、実証されていないが、Regnierら(Cell 90:373〜383(1997))は、最近、ヒトCHUKが、本明細書中に開示されるようなIKKαに対応することを確証した。
【0020】
本発明の核酸分子は、全長ヒトIKKα(配列番号2;図1)をコードし、その活性は、サイトカインまたは他の炎症誘発性シグナルによって刺激される、配列番号1に示されるヌクレオチド配列、および全長IKKβ(配列番号15)をコードする配列番号14に示されるヌクレオチド配列によって例示される。遺伝コードの縮重性に起因し、ならびに全長ヒトIKKα(配列番号2)およびIKKβ(配列番号15)の開示されたアミノ酸配列を参照すれば、本発明のさらなる核酸分子は当業者には周知である。このような核酸分子は、それぞれ、配列番号1とは異なるヌクレオチド配列を有するが、それにも拘わらず、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいは、配列番号14とは異なるヌクレオチド配列を有するが、それにも拘わらず配列番号15に示されるアミノ酸配列をコードする。従って、本発明は、配列番号2に示される全長ヒトIKKα、または配列番号15に示されるIKKβのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0021】
本明細書中で用いる場合、「IKKサブユニットをコードする核酸分子」との言及は、1)IKKサブユニットをコードし、そしてIKKサブユニットをコードするRNAへと転写され得るヌクレオチド配列を含む1本鎖または2本鎖のDNA分子のポリヌクレオチド配列、または2) IKKサブユニットへ翻訳され得るRNA分子を示す。2本鎖DNA分子はまた、コード鎖に相補的な第2のポリヌクレオチド鎖を含み、そしてコード配列を含むポリヌクレオチド配列の開示は必然的に相補的なポリヌクレオチド配列を開示することが認識される。従って、本発明は、例えば、配列番号1または配列番号14に示すヌクレオチド配列、あるいは、それぞれ配列番号2または配列番号15に示すアミノ酸配列を有するIKK触媒サブユニットをコードする核酸分子に相補的なポリデオキシリボヌクレオチド配列またはポリリボヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列を提供する。
【0022】
本明細書中で用いる場合、用語「ポリヌクレオチド」は、最も広義に用いられ、共有結合によって結合された2つ以上のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを意味する。用語「オリゴヌクレオチド」もまた、本明細書中で共有結合によって結合された2つ以上のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを意味するように使用されるが、当業者は、オリゴヌクレオチドが一般に、約50ヌクレオチド長未満であり、従って、用語「ポリヌクレオチド」のより広義の意味の内の部分集合であることを認識する。
【0023】
一般に、ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、2−デオキシリボースに結合した、天然に存在するデオキシリボヌクレオチド(例えば、アデニン、シトシン、グアニン、またはチミン)、あるいはリボースで結合したリボヌクレオチド(例えば、アデニン、シトシン、グアニン、またはウラシル)である。しかし、ポリヌクレオチドはまた、ヌクレオチドアナログを含み得、これは、天然に存在しない合成ヌクレオチド、または改変された天然に存在するヌクレオチドを含む。このようなヌクレオチドアナログは、当該分野で周知であり、そしてこのようなヌクレオチドアナログを含むポリヌクレオチドと同様に市販されている(Linら、Nucl.Acids Res.22:5220-5234(1994);Jellinekら、Biochemistry 34:11363-11372(1995);Pagratisら、Nature Biotechnol.15:68-73(1997))。ポリヌクレオチドのヌクレオチドを結合する共有結合は、一般に、ホスホジエステル結合である。しかし、共有結合はまた、他の多数の結合のいずれかであり得、これは、チオジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ペプチド様結合、または合成ポリヌクレオチドを生成するためのヌクレオチドの結合に有用な当業者に公知の他の結合を含む(例えば、Tamら、Nucl.Acids Res.22:977-986(1994);EckerおよびCrooke、BioTechnology 13:351-360(1995)を参照のこと)。
【0024】
本発明のポリヌクレオチドを合成することが所望される場合、当業者は、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログの選択およびこのヌクレオチドを結合させるのに使用される共有結合が、部分的に、ポリヌクレオチドが調製される目的に依存することを理解する。例えば、ポリヌクレオチドが実質的にヌクレアーゼ活性を含む環境に曝露される場合、当業者は、ヌクレアーゼに比較的耐性であるヌクレオチドアナログまたは共有結合を選択する。天然に存在するヌクレオチドおよびホスホジエステル結合を含むポリヌクレオチドは、化学合成され得るか、または適切なポリヌクレオチドをテンプレートとして用いて組み換えDNA方法を用いて、生成され得る。比較すると、ヌクレオチドアナログまたはホスホジエステル結合以外の共有結合を含むポリヌクレオチドは、一般に、化学合成されるが、T7ポリメラーゼのような酵素は、特定の型のヌクレオチドアナログを取り込み得るので、それゆえ、適切なテンプレートから組換え的にそのようなポリヌクレオチドを生成するのに使用され得る(Jellinekら、前出、1995)。
【0025】
本発明はまた、本発明の核酸分子に特異的にハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を提供する。このようなハイブリダイズするヌクレオチド配列は、例えば、IKK触媒サブユニットをコードする核酸配列にハイブリダイズし得、そしてサンプル中の核酸分子の同定を可能にし得るプローブとして、有用である。本発明のヌクレオチド配列は、部分的に、少なくとも9ヌクレオチド長であることで特徴づけられ、そしてそのような配列は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のためのプライマーとして特に有用であり、そしてこの配列は少なくとも14ヌクレオチド長、または所望であれば少なくとも17ヌクレオチド長であり得る。このようなヌクレオチド配列は、ハイブリダイゼーションプローブとして特に有用であるが、このような配列はまた、PCRにも使用され得る。本発明のヌクレオチド配列は、配列番号1が従来の様式で5’末端(図1,左上)から3末端へと示される場合、配列番号1(図1)に示されるヌクレオチド92位の5’側の少なくとも6ヌクレオチドを含み、好ましくは、92位の5’側の少なくとも9ヌクレオチド。または所望に応じてより多く含み得る。本発明のこのようなヌクレオチド配列は、病理(例えば、異常なIKK活性によって特徴づけられるヒト疾患)を診断する方法において特に有用である。簡便のために、このようなヌクレオチド配列は、キットを含み、このキットは、市販用に作製され得、そして標準化された診断アッセイを提供し得る。
【0026】
IKKαをコードする核酸分子(例えば、配列番号1に示すヌクレオチド配列)は、マウスの相同体をコードする配列(GenBank登録番号#U12473)から、アミノ酸30をコードする領域において分岐する。従って、配列番号1に示されるヌクレオチド88から90を含むヌクレオチド配列は、ヒトIKKαのアミノ酸30をコードし、例えば、サンプルにおけるヒトIKKαをコードする核酸分子の存在を同定するのに特に有用であり得る。さらに、配列番号1と配列番号14との比較に基づいて、当業者は、ヒトIKKαまたはヒトIKKβをコードする核酸分子あるいは両方とハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を、所望により保存されたヌクレオチド配列または保存されていないヌクレオチド配列を含む配列を設計することによって容易に選択し得る。例えば、配列番号1および配列番号14の間で高度に保存されているヌクレオチド配列の選択によって、タンパク質のIKKサブユニットファミリーの関連メンバーの同定が可能になり得る。比較すると、例えば、配列番号14には存在するが、配列番号1には存在しないかまたは最低限の相同性のみを共有するヌクレオチド配列の選択によって、配列番号1もまた細胞において発現されているかどうかに拘わらず、細胞における配列番号14の発現の同定が可能になり得る。しかし、本発明のヌクレオチド配列がGenBank登録番号#U12473または#U22512と比較して、本発明のヌクレオチド配列がGenBank登録番号#U12473または#U22512のヌクレオチド配列ではないことが容易に同定可能であることが認識されるはずである。
【0027】
本発明のヌクレオチド配列は、IKKサブユニットをコードする核酸分子のコード配列、またはそれに相補的な配列の部分を含み得、このことは使用されるべきヌクレオチド配列の目的に依存する。さらに、コード配列とその相補的配列との混合物が調製され得、所望ならば、アニーリングさせて二本鎖分子を生成し得る。
【0028】
本発明はまた、アンチセンス核酸分子(これらはIKKサブユニットをコードする核酸分子に相補的であり、そしてその核酸分子に結合し、そしてその核酸分子の発現を阻害し得る)を提供する。本明細書中に開示されるように、配列番号1に示されるヌクレオチド配列に相補的であるアンチセンス分子の発現は、細胞中におけるNF-κB依存性レポーター遺伝子のサイトカイン誘導性発現を阻害した(実施例II.B.)。従って、本発明のアンチセンス分子は、細胞中のIKK活性を減少させ、それによってNF-κB媒介遺伝子の発現レベルの減少または阻害に有用であり得る。これらの実験は、細胞をトランスフェクトして24時間後に行われた(実施例II.B.)。また、細胞中におけるアンチセンス分子の発現は、ベクターをトランスフェクトされたコントロール細胞と比較して、IKKα活性のレベルの減少を生じ、このことはIKKαが比較的短い半減期を有することを示す。IKKαまたはIKKβ、あるいは両方に特異的なアンチセンス核酸は、ハイブリダイズするヌクレオチド配列の選択についての上記の基準に基づいて設計され得る。
【0029】
本発明のアンチセンス核酸分子は、アンチセンス配列がGenBank登録#U12473または#U22512の配列に対してその全体が相補的ではない場合、配列番号1または配列番号14に相補的な配列のようなIKK触媒サブユニットの全コード配列に相補的な配列を含み得る。さらに、IKKサブユニットをコードする核酸分子の部分に対して相補的なヌクレオチド配列は、アンチセンス分子、特に配列番号1のヌクレオチド-35〜92に相補的なヌクレオチド配列、または、例えば、ATGがコードする開始メチオニンの各々の側に少なくとも9つのヌクレオチド(配列番号1の-9位〜12位に相補的)、もしくは、もし所望ならば、ATGコドンの各々の側に少なくとも17個のヌクレオチド(配列番号1の-17位〜20位に相補的)を含むヌクレオチド配列、または配列番号14の配列に対応するヌクレオチド配列として有用であり得る。
【0030】
アンチセンス法は、標的核酸分子に相補的かつハイブリダイズし得る核酸分子を細胞中に導入する工程を包含する。アンチセンス核酸分子(これは標的細胞中にトランスフェクション方法を用いて導入され得る)は、化学的に合成されたポリヌクレオチドであり得、またはプラスミドもしくはウイルス性ベクターから発現され得る(これは細胞中に導入されて、そして周知の方法を用いて安定に、もしくは一過的に発現され得る(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989) ; Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology (Green Publ.、NY 1989) を参照のこと、これらはそれぞれ本明細書中に参考文献として援用される)。当該分野において、標的核酸配列に特異的にハイブリダイズするアンチセンス(もしくは他のハイブリダイズする)ヌクレオチド配列の能力は、例えば、配列間で共有される相補性の程度、ハイブリダイズする分子のGC含量、ならびにアンチセンス核酸配列の長さ(これは、少なくとも10ヌクレオチド長、一般的には少なくとも30ヌクレオチド長、もしくは少なくとも50ヌクレオチド長であり得、および配列番号1もしくは配列番号14の完全長までのヌクレオチド配列であり得、もしくは配列番号2もしくは配列番号15に示されるようなIKKサブユニットをコードするヌクレオチド配列(Sambrookら、前述、1989を参照のこと)であり得る)に依存することが公知である。
【0031】
本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクター、及びこのようなベクターを保持するのに適切な宿主細胞を提供する。ベクター(これはクローニングベクターまたは発現ベクターであり得る)は、当該分野において周知であり、そして市販されている。本発明の核酸分子(これはIKK-αをコードし得るか、またはアンチセンス分子であり得る)を含む発現ベクターは、細胞における核酸分子を発現するために使用され得る。
【0032】
一般に、発現ベクターは、例えば、核酸分子の持続的な転写を達成するために必須である発現エレメント含むが、このようなエレメントはまた、ベクター中にクローン化された核酸分子に固有であり得る。特に、発現ベクターはプロモーター配列(これは、クローン化された核酸配列の構成的な発現もしくは、もし所望されるならば、誘導性の発現を提供し得る)、poly-A認識配列、およびリボソーム認識部位を含むか、またはコードし、そしてエンハンサー(これは組織特異的であり得る)のような、他の制御エレメントを含み得る。ベクターはまた、所望される場合、原核生物宿主系もしくは真核生物宿主系またはその両方での複製に必要とされるエレメントを含む。このようなベクター(プラスミドベクターならびに、バクテリオファージ、バキュロウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、セムリキ森林ウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクターのような、ウイルス性ベクターを含む)は周知であり、そして商業的供給源から購入され得る(Promega、Madison WI ; Stratagene、LaJolla CA ; GIBCO/BRL、Gaithersburg MD)か、または当業者によって構築され得る(例えば、Meth.Enzymol.Vol.185、D.V.Goeddel編(Academic Press、Inc.、1990);Jolly、Canc.Gene Ther.1:51-64(1994);Flotte、J.Bioenerg.Biomemb.25:37-42(1993);Kirshenbaumら、J.Clin.Invest 92:381-387(1993)を参照のこと、これらは本明細書中に参考として援用される)。
【0033】
核酸分子(ベクターを含む)は、当該分野において公知である種々の方法(Sambrookら、前述、1989、およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology John Wiley and Sons Baltimore MD (1994)、これらは本明細書中に参考として援用される)のいずれかにより細胞中に導入され得る。このような方法は、例えば、トランスフェクション、リポフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、および組換えベクターでの感染、またはリポソームの使用を含む。
【0034】
ウイルスベクターでの感染による核酸分子の導入は、特に、核酸分子を細胞中にエキソビボまたはインビボで効率的に導入し得るという点で、有利である。さらに、ウイルスは非常に特殊化されており、そして代表的には特異的な細胞型に感染し、そして増殖する。従って、その天然の特異性はベクター中に含まれた核酸分子を特異的な細胞型に標的化するために使用され得る。例えば、HIV-1に基づくベクターは、アンチセンスIKKサブユニット分子を、HIV-1感染細胞に標的化し、それによってIκBのリン酸化を減少させるために使用され得る。これはHIV-1感染細胞に存在する高レベルの構成性NF-κB活性を減少させ得る。ウイルス性ベクターもしくは非ウイルス性ベクターはまた、特異的レセプターもしくはリガンドによって修飾されてレセプター介在事象の標的特異性を改変し得る。
【0035】
核酸分子はまた、核酸分子のベクターへの初期導入を必要としない方法を用いて細胞へと導入され得る。例えば、IKK触媒性サブユニットをコードする核酸分子は、カチオン性リポソームを用いて細胞中に導入され得、これはまた、上記のように特異的レセプターまたはリガンドで修飾され得る(Morishitaら、J.Clin. Invest.、91:2580-2585(1993)、これらは本明細書中に参考として援用される;また、Nabelら、前述、1993を参照のこと)。さらに、核酸分子は、例えば、アデノウイルス−ポリリジンDNA複合体を用いて細胞中に導入され得る(例えば、Michaelら、J.Biol.Chem.、268:6866-6869(1993)、これらは本明細書中に参考として援用される)。核酸分子を、コードされたIKKサブユニットまたはアンチセンス核酸分子が発現され得るような細胞中に導入する他の方法は、周知である(例えば、Goeddel、前述、1990を参照のこと)。
【0036】
例えば、ネオマイシン耐性(Neo)を付与するポリペプチドをコードする選択マーカー遺伝子もまた、容易に利用可能であり、そして本発明の核酸分子に連結される場合には、もしくはこの核酸分子を含むベクター中に組み込まれる場合には、核酸分子を取り込んだ細胞の選択を可能にする。他の選択マーカー(例えば、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、またはZEOCIN(Invitrogen)耐性を与えることが遺伝子移入の当業者に公知である)は、核酸酸分子(選択マーカー遺伝子を含む)を含む細胞を同定するのに使用され得る。
【0037】
「自殺」遺伝子もまた、遺伝子を含む細胞の選択的な誘導性の殺傷を可能にするように、ベクター中に組み込まれ得る。単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(TK)のような遺伝子は、自殺遺伝子として使用されて、そのような細胞の誘導性の破壊を提供し得る。例えば、核酸分子を含む細胞中にIKKまたはアンチセンスIKKサブユニット分子をコードする導入された核酸分子の発現を終結させることが望まれる場合、細胞は、個体に投与され得る、アシクロビルまたはガンシクロビルのような薬物に曝露され得る。
【0038】
多数の方法が、核酸分子を培養細胞に移すために利用可能であり、これには上記の方法が含まれる。さらに、有用な方法は、以前のヒト遺伝子転移の研究に使用された方法(腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)はレトロウイルス遺伝子導入によって改変され得、そして腫瘍患者に投与され得る(Rosenbergら、New Engl.J.Med.323:570-578(1990))に類似し得る。レトロウイルス媒介遺伝子転移のフェーズIの安全性の研究において、TILは遺伝的に改変されてネオマイシン耐性(Neo)遺伝子を発現した。静脈内注入の後、ポリメラーゼ連鎖反応分析は、投与後2ヶ月もの長い間、循環内において遺伝的に改変された細胞を一貫して見出した。感染性レトロウイルスは、これらの患者において同定されず、そして遺伝子転移に起因する副作用はいずれの患者にも記録されなかった。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルス性gag、pol、およびenv遺伝子の欠失によってウイルス性複製を阻害するように変更されている。このような方法はまた、被験体から取り出された細胞に導入するのにエクソビボで使用され得る(1995年、3月21日に登録された、Andersonら、米国特許第5,339,346号、これらは本明細書中に参考として援用される)。
【0039】
レトロウイルスが遺伝子転移のために使用される場合、理論的には複製コンピテントなレトロウイルスは、レトロウイルスベクターを生成するのに利用されるパッケージング細胞株中においてレトロウイルスベクターとウイルス遺伝子配列との組換えに起因して発達し得る。組換えによる複製コンピテントなウイルスの生成が減少するかまたは排除される、パッケージング細胞株は、複製コンピテントなレトロウイルスが生成される可能性を最小化するために使用され得る。それゆえ、細胞を感染させるのに使用される全レトロウイルスベクター上清は、PCRおよび逆転写酵素アッセイのような標準的アッセイによって複製コンピテントなウイルスについてスクリーニングされる。
【0040】
適切に機能するために、細胞はほとんど全ての遺伝子の正確な発現調節を必要とする。このような遺伝子調節は、核DNA上の調節配列と直接相互作用する、種々の転写因子による転写の活性化または抑制によって達成される。転写因子がDNAと結合するかまたは転写を活性化もしくは抑制する能力は、外部刺激に応答して調節される。転写因子NF-κBの場合、その活性化を媒介するシグナル経路に関連する決定的な因子が同定されている(Vermaら、Genes Devel.9:2723-2735(1995) ; BaeuerleおよびBaltimore、Cell 87:13-20 (1996) )。
【0041】
NF-κBは、転写因子のRelファミリーのメンバーであり、これは全ての動物細胞ではないがほとんどの動物細胞に存在する(ThanosおよびManiatis、Cell 80:629-532 (1995) )。Relタンパク質(例えば、RelA(p65)、c-Rel、p50、p52ならびにDrosophila背部およびDif遺伝子産物を含む)は、約35%〜61%の相同性を共有する約300のアミノ酸の領域(「Rel相同性ドメイン」)によって特徴付けられる。Rel相同性ドメインには、DNA結合ドメインおよび二量体化ドメイン、ならびに核局在化シグナルが含まれる。Relタンパク質は、2つのクラスの内の1つにグループ化され、このことはタンパク質が転写活性化ドメインも含むかどうかに依存する(Siebenlistら、Ann.Rev.Cell Biol.10:405-455(1994))。
【0042】
Relタンパク質はホモ二量体またはヘテロ二量体を形成し得、これは転写活性化ドメインの存在に依存して転写的に活性化され得る。最も一般的なRel/NF-κB二量体(これは「NF-κB」と命名されている)は、適切なκB部位を含む遺伝子の転写を活性化し得るp50/p65ヘテロ二量体である。p50/p65 NF-κBはほとんどの細胞型に存在し、そして転写因子のRel/NF-κBファミリーのプロトタイプと考えられる。異なる二量体は、その異なるκBエレメントへの結合、核局在の反応速度論、および組織中での発現のレベルで変化する(Siebenlistら、前述、1994)。本明細書中に使用されるように、用語「Rel/NF-κB」は、転写因子のRelファミリーを一般にいうために使用され、そして用語「NF-κB」は、p50/p65ヘテロ二量体を構成するRel/NF-κB因子を特にいうために使用される。
【0043】
NF-κBは、本来、免疫グロブリンκ軽鎖遺伝子エンハンサーである「κBエレメント」に存在する特定のDNA配列に結合する能力により同定された(SenおよびBaltimore、Cell 46:705-709(1986))。κBエレメントは、非常に多くの細胞およびウイルスプロモーターで同定されている。これは、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1);MHCクラスI(H-2κ)遺伝子のような免疫グロブリンスーパーファミリー遺伝子;腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-1β(IL-1β)、IL-2、IL-6および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子のようなサイトカイン遺伝子;RANTESおよびIL-8のようなケモカイン遺伝子;ならびにE-セレクチンのような細胞接着タンパク質遺伝子に存在するプロモーターを含む。κBエレメントは、二分染色体対称を示し、そしてこのエレメントの各半分の部位は、NF-κBダイマーの1つのサブユニットにより結合されているようである。
【0044】
適切なシグナル伝達刺激の非存在下で、Rel/NF-κBは、IκBタンパク質と複合体化された不活化形態にある細胞質に維持される。Rel/NF-κB転写活性は、以下を含む非常に多くの病理学的事象またはストレスにより誘導される:サイトカイン、ケモカイン、ウイルスおよびウイルス産物、二本鎖RNA、細菌、ならびにリポ多糖(LPS)および熱ショック症候群トキシン-1のような細菌産物、ホルボールエステルのようなマイトジェン、物理的および酸化ストレス、ならびにオカダ酸およびシクロヘキシミドのような化学因子(ThanosおよびManiatis、前出、1995;Siebenlistら、前出、1994)。顕著に、NκB活性を誘導するTNF-α、IL-1、IL-6、インターフェロン-β、および種々のケモカイン(NF-κB活性を誘導する)のような因子をコードする遺伝子の発現は、それ自体、NF-κBにより誘導されて、ポジティブな自己調節ループによりそれらのシグナルの増幅を生じる(Siebenlistら、前出、1994)。T細胞を活性化するホルボールエステルはまた、NF-κB、およびT細胞レセプター媒介シグナルを介してT細胞の活性化を阻害するシクロスポリンAのような免疫抑制因子を活性化する(Baldwin、Ann. Rev. Immunol. 14:649-681(1996)(これは、本明細書中に参考として援用される))。
【0045】
NF-κBによる特定の遺伝子の調節は、1つ以上の他のDNA結合タンパク質とNF−κBとの相互作用を必要とし得る。例えば、E-セレクチンの発現は、NF-κB、bZIPタンパク質ATF-2およびHMG-I(Y)との相互作用を必要とし、そしてIL-2レセプターα遺伝子の発現は、NF-κB、HMG-I(Y)、およびets様タンパク質であるELF-1との相互作用を必要とする(Baldwin、前出、1996)。
【0046】
NF-κBの活性化を誘導する非常に多くの因子が、種々の集中シグナル形質転換経路(タンパク質キナーゼC、Rafキナーゼおよびチロシンキナーゼの活性化に関与する経路を含む)を介して作用するようである。種々の誘導因子によりNF-κBの活性化を阻害する抗酸化剤の能力は、反応性酸素種がこのような経路の集中点であることを示唆する(Siebenlistら、前出、1994)。
【0047】
適切な誘導因子による活性化の際に、Rel/NF-κBダイマーは、核に転位し、ここで遺伝子転写を活性化し得る。Rel/NF-κBの細胞下位置は、特異的阻害タンパク質(「Rel/NF-κBのインヒビター」または「IκB」)により制御され、これは、Rel/NF-κBに非共有結合し、そして核局在シグナル(NLS)をマスクする。これによって、核の取り込みを妨げる。種々のIκB(例えば、IκBα、IκBβ、Bcl-3およびDrosophila cactus遺伝子産物を含む)は、同定されている(BaeuerleおよびBaltimore、前出、1996)、さらに、p105およびp100のようなRel前駆体タンパク質(それぞれ、p50およびp52の前駆体である)は、IκBとして機能する(Siebenlistら、前出、1994)。IκBαおよびIκBβは、大部分の細胞型で発現され、そして一般的にp65-およびc-Rel含有Rel/NF-κBダイマーに結合する。他のIκBは、組織特異的様式で発現されるようである(Thompsonら、Cell 80:573-582(1995))。
【0048】
IκBタンパク質は、5〜8のアンキリン反復ドメイン(各約30アミノ酸)およびC末端PESTドメインの存在により特徴づけられる。例えば、IκBαは、70アミノ酸N末端ドメイン、アンキリン反復を含む205アミノ酸内部ドメイン、およびPESTドメインを含む42アミノ酸C末端ドメインを含む(Baldwin、前出、1996)。IκBタンパク質は、Rel/NF-κBダイマーのRel相同性ドメインを有するアンキリン反復を介して相互作用するが、特定のRel/NF-κBタンパク質を有する特定のIκBタンパク質の結合は、比較的特異的であるようである。例えば、IκBαおよびIκBβは、主にRel-Aおよびc-Rel-含有Rel/NF-κBダイマーに会合する。これによって、それらの核局在シグナルをブロックする。IκBのNF-κBに対する結合はまた、NF-κBのDNAを結合する能力を妨げる。しかし、一方で、IκBは、細胞を腫瘍壊死因子(TNF)、IL-1、細菌リポ多糖(LPS)またはホルボールエステルに曝露した後に、リン酸化され、IκBβは、LPSまたはIL-1に対する応答にのみ特定の細胞型でリン酸化される(Baldwinら、前出、1996)。しかし、他の細胞型では、IκBαより遅い速度論を有する(DiDonatoら、Mol. Cell. Biol. 16:1295-1304(1996)、これは、本明細書中に参考として援用される)が、IκBβは、IκBαを誘導する同じシグナルに対する応答でリン酸化される。
【0049】
IκBタンパク質とRelタンパク質との間の複合体の形成は、アンキリンドメインとRel相同性ドメインとの相互作用に起因する(BaeuerleおよびBaltimore、前出、1996)。適切な刺激に曝露する際に、複合体のIκB部分は、迅速に分解され、そしてRel/NF-κB部分は遊離されて、細胞核に転位する。従って、Rel/NF-κBの活性化は、新規タンパク質合成を必要とせず、そしてそれゆえ、非常に迅速に生じる。結果的に、Rel/NF-κBに起因する遺伝子発現の活性化は、例外的に迅速であり得、そして外部刺激に対して応答する有効な手段を提供する。このようなRel/NF-κB転写因子の迅速な応答は、特に重要である。なぜなら、これらの因子は、ウイルスおよび細菌感染ならびに種々のストレスに対する応答を含む、免疫、炎症および急性期の応答に関与する遺伝子の調節に関与しているからである。
【0050】
細胞を、適切な誘導因子に曝露する際に、例えば、IκBαは、セリン残基32(Ser-32)およびSer36でリン酸化される(Haskillら、Cell 65:1281-1289(1991))。IκBαのリン酸化は、その迅速なユビキチン化を誘発し、これは、インヒビターのプロテアソーム媒介分解および活性NF-κBの核への転位を生じる(Brownら、Science 267:1485-1488(1995);Schererら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:11259-11263(1995);DiDonatoら、前出、1996;DiDonatoら、Mol. Cell. Biol. 15:1302-1311(1995);Baldiら、J. Biol. Chem. 271:376-379(1996))。同じメカニズムはまた、IκBβ分解を説明する(DiDonadoら、前出、1996)。
【0051】
Rel/NF-κB活性化は一過性または持続性であり得、これは、誘導因子およびリン酸化されたIκBに依存する。例えば、細胞の特定のサイトカインへの曝露は、IκBαのリン酸化および分解を誘導して、NF-κB活性化を生じる。これは、IκBαをコードする遺伝子を含む種々の遺伝子の発現を誘導する。次いで、新たに発現されたIκBαは、核でNF-κBに結合し、細胞質への搬出および不活化を生じ、そしてそれゆえ、一活性のNF-κB媒介応答を生じる。比較して、細菌性LPSは、IκBβリン酸化を誘導し、NF-κB活性化を生じる。しかし、IκBβ遺伝子は、NF-κβによって誘導されず、そして結果として、NF-κBの活性化は、より持続する(Thompsonら、前出、1995)。
【0052】
約700kDaの恒常的に活性な多サブユニットキナーゼは、IκBαをSer-32およびSer-36でリン酸化し、そしていくつかの場合では、活性のためにポリユビキチン結合を必要とする(Chenら、Cell 84:853-862(1996);Leeら、Cell 88:213-222(1997))。マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ/ERKキナーゼキナーゼI(MEKK1)は、この複合体と同時精製するいくつかのタンパク質をリン酸化し、そして約105kDa、64kDa、および54kDaの分子量を有する;約200kDa、180kDa、および120kDaの分子量を有する3つの他の同時精製したタンパク質は、MEKK1の非存在下でリン酸化される(Leeら、前出、1997)。しかし、触媒的に不活性なMEKK1変異体(これは、junキナーゼのTNFα媒介活性化をブロックし得る)は、NF-κB活性化をブロックしない(Liuら、Cell 87:565-576(1996))。
【0053】
MEKK1の過剰発現はまた、インビボでIκBαの部位特異的リン酸化を誘導し、そしてユビキチン非依存性機構によってインビトロでIκBαを直接活性化し得る。しかし、MEKK1は、インビトロ実験においてSer-32およびSer-36でIκBαをリン酸化しなかった。これは、IκBαキナーゼではなく、シグナル形質導入経路でIκBαキナーゼの上流で作用し得ることを示す(Leeら、前出、1997)。
【0054】
上記のユビキチン依存性キナーゼ700kDa複合体に加えて、ユビキチン非依存性700kDaキナーゼ複合体ならびにユビキチン非依存性300kDaキナーゼ複合体は、IκBαのSer-32およびSer-36をリン酸化するが、これらのセリンで置換されたスレオニンを含む変異体ではない(BaeuerleおよびBaltimore、前出、1996)。これらの複合体のIκBキナーゼ活性を担う特定のポリペプチドは、記載されていない。
【0055】
インビトロでIκBαをリン酸化する二本鎖RNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)が記載されている(Kumarら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:6288-6292(1994))。さらに、アンチセンスPKR DNA分子は、二本鎖RNAによってNF-κB活性化を妨げたが、TNFαによるNF-κB活性化を妨げなかった(Maranら、Science 265:789-792(1995))。カゼインのCKIIリン酸化と比較して弱く、そしてIκBαのSer-32およびSer-36残基は、CKIIリン酸化部位を表すが、カゼインキナーゼII(CKII)はまた、IκBαと相互作用し、そしてIκBαをリン酸化し得る(Roulstonら、前出、1995)。しかし、NF-κB活性の誘導因子の全ては、IκBをリン酸化するためのこれらのタンパク質キナーゼを刺激しない。これは、NF-κB活性化に関与する場合、これらのMEKK1様のキナーゼが、IκBキナーゼの上流を作動することを示す。従って、IκBαをSer-32およびSer-36について直接リン酸化し、そしてNF-κBの活性化を生じる、迅速に刺激されたIκBキナーゼは、同定されていない。
【0056】
推定のセリン−スレオニンタンパク質キナーゼは、コンセンサスヘリックス−ループ−ヘリックスドメインを含むタンパク質をコードする核酸をプローブすることによって、マウス細胞で同定されている。このドメインは、タンパク質−タンパク質相互作用に関与する(ConnellyおよびMarcu、前出、1995)。種々の樹立された細胞株で、偏在して発現されるが、正常マウス組織では差次的に発現されるこの推定のキナーゼは、CHUK(保存されたヘリックス−ループ−ヘリックス遍在性キナーゼ;GenBank受託番号#U12473)と称される。さらに、マウスCHUKとヌクレオチドレベルで93%同一である(アミノ酸レベルでは95%同一)、ヒトCHUKタンパク質の一部をコードする核酸分子(GenBank受託番号#U22512)もまた同定された。しかし、細胞のCHUKタンパク質の機能も、推定のキナーゼについての潜在的な基質も記載されていなかった。
【0057】
本発明は、単離された全長IKK触媒作用サブユニットを含む、単離されたIκBキナーゼ(IKK)を提供する。例えば、本発明は、単離された300kDaまたは900kDa複合体を提供し、これはIKKαまたはIKKβサブユニットを含み、そしてIκBキナーゼ活性を有する(実施例I、III、およびIVを参照のこと)。さらに、本発明は、単離されたヒトIKKα触媒作用サブユニット(配列番号2;実施例II)を提供し、これは、以前には記載されていないN末端アミノ酸配列および本質的には、ヒトCHUKのC末端領域を含み(ConnellyおよびMarcu、前出、1995)、そしてSer-32およびSer-36についてIκBαを、ならびにSer-19およびSer-23についてIκBβをリン酸化する(DiDonatoら、前出、1996;Regnierら、前出、1997もまた参照のこと)。本発明はまた、単離されたIKKβ触媒作用サブユニット(配列番15;実施例I
II)を提供し、これは、キナーゼドメインであるヘリックス−ループ−ヘリックスドメインおよびロイシンジッパードメインの保存された相同性を含む、IKKαと50%を越えるアミノ酸配列同一性を共有する。
【0058】
本明細書中で用いられるように、用語「単離された」とは、IκBキナーゼ複合体または本発明のIKK触媒作用サブユニットを言う際に用いられる場合、複合体またはサブユニットが、夾雑する脂質、タンパク質、核酸または細胞中のIKKに通常関連した他の細胞物質を比較的含まないことをいう。単離された900kDa IκBキナーゼ複合体または300kDa複合体は例えば、IKK触媒作用サブユニットに結合する抗体を用いた免疫沈降により単離され得る(実施例IIIおよびIVを参照のこと)。さらに、単離されたIKKサブユニットは、例えば、配列番号1または配列番号14のような組換え核酸分子の発現により得られ得、あるいはリガンドとしてATPもしくはIκBを用いたアフィニティークロマトグラフィー(実施例I)または抗IKKサブユニット抗体を用いたフィニティークロマトグラフィーを含む方法によって細胞から単離され得る。単離されたIKK複合体またはIKKサブユニットは、サンプル中の物質の少なくとも30%を含み、一般的には、核酸に関して上記に記載のように、サンプルの約50%、または70%、または90%、そして好ましくはサンプルの約95%または98%である。
【0059】
MEKK1(GenBank受託番号#U48596;遺伝子座RNU48596)、PKR(GenBank受託番号#M35663;遺伝子座HUMP68A)、およびCKII(GenBank受託番号#M55268 JO2924;遺伝子座HUMA1CKII)のアミノ酸配列は、本明細書中に開示されるIKKサブユニットの配列(配列番号2および配列番号15)とは異なっている。そしてそれゆえ、本発明とは区別可能である。さらに、本発明の全長ヒトIKKαは、部分的ヒトCHUKポリペプチド(ConnellyおよびMarcu、前出、1995;GenBank受託番号#22512)が、配列番号2に示されるようにアミノ酸1〜31を欠失しているという点で、部分的ヒトCHUKポリペプチド配列と区別可能である。本明細書中に開示されるように、部分的ヒトCHUKポリペプチドのアミノ酸配列を有するポリペプチドは、細胞で発現された場合、IκBキナーゼ活性を有さない。これは、アミノ酸残基1〜31のいくつかまたは全てが、キナーゼ活性に不可欠であることを示す。
【0060】
本発明の完全長IKK触媒サブユニットはヒトIKKαにより例示され、これは見かけの分子量が約85kDaを有し、そしてIkBαのSer-32およびSer-36をリン酸化する。本発明のIKK触媒サブユニットはまた、IKKβにより例示され、これは約87kDaのポリペプチドで、IKKαと実質的なアミノ酸配列相同性を共有する(図3)。本明細書で使用される用語「完全長」は、本発明のIKKサブユニットに関して使用される場合、細胞中で正常に発現されるIKKサブユニットのアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。このような正常に発現されたIKKポリペプチドは、そのN-末端のメチオニン残基((Met-1;図3) Met-1は、開始ATG(AUG)コドンによりコードされる)から始まり、そして終止コドンの存在による翻訳終結の結果として終結する。完全長のヒトIKK触媒サブユニットはネイティブなIKKポリペプチドであり得、これは細胞から単離されるか、または配列番号1あるいは配列番号14で示される核酸分子を発現させるような組換えDNA方法を使用して生成され得る。
【0061】
単離されたIKKサブユニットの見かけの分子量は、日常的方法(例えば、ドデシル硫酸ナトリウムの存在下で実施されるポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、または還元条件下および変性条件下で実施されるカラムクロマトグラフィー)を使用して測定され得る。さらに、IKKサブユニットのIκBαのSer-32およびSer-36をリン酸化する能力は、本明細書で開示される方法を使用して同定され得る。
【0062】
85kDaおよび87kDaの見かけの分子量である開示されるヒトIKKαおよびIKKβについては、例えば、SDS-PAGEにより決定されたこれまでに未知であったタンパク質の見かけの分子量が、既知の分子量を有するいくつかの他のタンパク質の移動と比較して、未知のタンパク質の相対的移動に基づく見積もりであることが認識される。従って、例えば、発明者が未知のタンパク質が82kDaの見かけの分子量を有することを合理的に見積もり得、一方で第二の発明者が同じ未知のタンパク質を実質的に同様な条件下で調べた場合、このタンパク質が87kDaの見かけの分子量を有することを合理的に見積もり得る。従って、「約85kDa」の見かけの分子量を有するIκBキナーゼとの本明細書中での言及は、このキナーゼが、還元条件下での8%のゲルでのSDS-PAGEにより、80kDa〜90kDaの範囲、好ましくは82kDa〜87kDaの範囲で移動することを示す。さらに、87kDaのIKKβとの本明細書中での言及は、IKKβが、IKKαの見かけの分子量の85kDaよりも相対的に大きい見かけの分子量を有することを示す。
【0063】
本発明のIKK触媒サブユニットは、配列番号2または配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む単離された完全長ポリペプチドにより例示される。さらに、本発明は、本明細書で提供されるようにIKKサブユニットのポリペプチドのペプチド部位を提供し、ここで、このようなペプチド部位は、配列番号2、または配列番号15で示される少なくとも3個の連続したアミノ酸を含み、そして一般には、少なくとも6個の連続したアミノ酸を含み、もし所望ならば少なくとも9個の連続したアミノ酸を含む。従って、本発明は、IKKαのペプチド部位を提供し、例えば、これは配列番号2の少なくとも3個の連続したアミノ酸で、アミノ酸残基30を含み、好ましくは少なくとも4個の連続したアミノ酸で、アミノ酸残基30を含み、そしてより好ましくは少なくとも6個の連続したアミノ酸で、アミノ酸残基30を含む。本発明はまた、IKKβのペプチド部位を提供し、これは配列番号15の少なくとも3個の連続したアミノ酸、一般には6個の連続したアミノ酸、そして好ましくは10個の連続したアミノ酸を含む。しかしながら、本発明のペプチドは、GenBank Accesion #U12473または#U22512で開示されるポリペプチドからなり得ない。
【0064】
IKKサブユニットの部分ペプチドは、一般に、トリペプチドまたはより大きく、好ましくはヘキサペプチドまたはより大きく、そしてより好ましくはデカペプチドまたはより大きく、完全長ポリペプチドの1個以上のN末端またはC末端のアミノ酸を欠失する最大長を有する連続アミノ酸配列(配列番号2または配列番号15)までである。従って、配列番号2として示されるアミノ酸配列を有するIKKαの部分ペプチドは、3アミノ酸長〜744アミノ酸長であり得、これは上記で記載されるものは除いて、完全長ポリペプチドよりも1残基少ない。
【0065】
本発明のIKKサブユニットポリペプチドの部分ペプチドは、任意の当該分野で周知である方法の幾つかによって生成され得る。例えば、IKKサブユニットの部分ペプチドは、IKKサブユニットタンパク質の酵素的切断により生成され得、これは、タンパク質分解酵素(例えば、トリプシン、キモトリプシン、Lys-Cなど)またはこのような酵素の組合せを使用して細胞から単離されている。このようなタンパク質分解切断生成物は、実施例Iで開示されるような方法を使用して単離され得、例えば、IKKαおよびIKKβの部分ペプチドを入手する。IKKサブユニットの部分ペプチドはまた、溶液または固相ペプチド合成の方法を使用して生成され得るか、または配列番号1または配列番号14で示される核酸配列のコード領域部分のような核酸分子から発現され得るか、または商業的供給源から購入され得る。
【0066】
IKKサブユニットの部分ペプチドはIKKサブユニットのキナーゼドメインを含み得、それゆえ、IκBタンパク質をリン酸化する能力を有し得る。例えば、15〜301アミノ酸を含む配列番号2の部分ペプチドは、セリン−スレオニンプロテインキナーゼドメインの特徴を有する(HanksおよびQuinn,Meth.Enzymol. 200:38-62(1991)、これは参考として本明細書で援用される)。IKKサブユニットのこのような部分ペプチドは、本明細書で開示される方法を使用し、IκBαのSer-32およびSer-36、またはIκBβのSer-19およびSer-23をリン酸化し得ることと決定することによりキナーゼ活性について試験され得る。さらに、IKKサブユニットの部分ペプチドは、ポリペプチドの免疫原性アミノ酸配列を含み得、そして、それゆえ、IKKサブユニットまたはサブユニットを含むIKK複合体、特に配列番号2で示されるアミノ酸残基30を含むエピトープ、または配列番号15のエピトープに特異的に結合し得る抗体の生成を誘発するために有用であり得る(ただし、上記のエピトープはCHUKタンパク質中には存在しない)。従って、本発明はまた、抗IKK抗体を提供し、これはIKK複合体のエピトープ、特にIKK触媒サブユニットに、およびこのような抗体のIKKサブユニット結合フラグメントに特異的に結合する。さらに、本発明は抗IKK抗体またはこのような抗体のIKK結合フラグメントを生成する細胞株を提供する。
【0067】
本明細書で使用される用語「抗体」は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、ならびにこのような抗体の抗原結合フラグメントを含むその広範な意味において使用される。本発明の抗IKK抗体については、用語「抗原」は、IKK触媒サブユニットタンパク質、ポリペプチド、またはそのペプチド部位、またはIKK触媒サブユニットタンパク質、ポリペプチド、またはその部分ペプチドを含むIKK複合体を意味する。従って、抗IKK抗体がIKK複合体と結合し、そして免疫沈降し得る一方で、例えば、抗体は、IKK触媒サブユニットの、少なくとも一部を含むエピトープに特異的に結合する。本発明の抗体はまた、IKK複合体を含まないIKKサブユニットの免疫沈降に使用され得る。
【0068】
抗IKK抗体、またはこのような抗体の抗原結合フラグメントは、IKKサブユニットの少なくとも約1×105-1、一般には少なくとも約1×106-1のエピトープについての特異的な結合活性を有することにより特徴付けられる。従って、抗IKK抗体のFab、F(ab’ )2、FdおよびFvフラグメントは、IKKサブユニットについて特異的な結合活性を保持し、抗体の定義の範疇に含まれる。詳細には、抗IKK抗体は、IKKαのN末端を含むエピトープまたはIKKβのエピトープと反応し得るが、配列番号2の32〜745の残基で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドとは反応し得ない。
【0069】
本明細書で使用される用語「抗体」は、天然に存在する抗体および天然に存在しない抗体を含み、例えば、単鎖抗体、キメラ抗体、二重特異的抗体およびヒト化抗体ならびにその抗原結合フラグメントを含む。このような非天然に存在しない抗体は、固相ペプチド合成法を使用して構築され得るか、組換え的に生成され得るか、または、例えば、Huseら、Science 246:1275-1281(1989)(これは参考として本明細書中に援用される)により記載されるような種々の重鎖および可変軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることにより入手され得る。キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移入(CDR-grafted)抗体、単鎖抗体、および二重特異的抗体を作製するこれらおよび他の方法は、当業者に周知である(WinterおよびHarris,Immunol.Today 14:243-246(1993);Wardら、Nature 341:544-546(1989);HarlowおよびLane,Antibodies:A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988);Hilyardら、Protein Engineering:A practical approach (IRL Press 1992);Borrabeck,Antibody Engineering,第2版. (Oxford University Press 1995);これらのそれぞれは本明細書において参考として援用される)。
【0070】
本発明の抗IKK抗体は、単離されたIKKサブユニットまたはその部分ペプチドを使用して惹起され得、そして遊離の非複合体形態のIKKサブユニットに結合し得るか、または300kDaまたは900kDaのIKK複合体に関連する場合、IKKサブユニットに結合し得る。さらに、本発明の抗IKK抗体は、単離された300kDaまたは900kDaのIκBキナーゼ複合体に対して惹起され得、これらは本明細書で開示されるように入手され得る。便宜上、本発明の抗体は、「抗IκBキナーゼ抗体」または「抗IKK抗体」として本明細書では一般に言及する。しかし、当業者は、本発明の種々の抗体が、例えば、遊離または複合体化したIKKサブユニット、または両方、または300kDaまたは900kDaのIκBキナーゼ複合体、または両方について独自の抗原特異性を有することを認識する。
【0071】
抗IKK抗体は、単離された完全長のIKK触媒サブユニット(これは、天然の供給源から調製され得るか、または組換え的に生成され得る)、または本明細書で定義されるIKKサブユニットの部分ペプチド(上記のような合成ペプチドを含む)を免疫源として使用して惹起され得る。IKK触媒サブユニットの非免疫原性部分ペプチドは、キャリア分子(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、またはキーホールリンペッドヘモシアニン(Keyhole limpet hemocyani)(KLH))へのハプテンの結合により、または融合タンパク質としての部分ペプチドを発現させることにより免疫原性になされ得る。種々の他のキャリア分子およびキャリア分子へのヘプトンの結合についての方法は、当該分野で周知であり、そして、例えば、HarlowおよびLane(前出、1998)により記載される。完全長ヒトIKKαおよびマウスCHUKの高いアミノ酸配列同一性により、IKKαポリペプチドおよびIKKβポリペプチドのアミノ酸配列は、種間、特に哺乳動物種の間で高度に保存されそうであることが認識される。しかし、高度に保存されたタンパク質に対する抗体は、例えば、ニワトリにおいて首尾良く惹起されている。このような方法は、もし所望ならば、IKKサブユニットに対する抗体を入手するために使用され得る。
【0072】
本発明の特に有用な抗体は、複合体化されていないが遊離の形態のIKKサブユニットと結合するか、あるいは遊離していないが複合体化されている形態のIKKサブユニットと結合する抗体を含む。しかし、本発明の抗体はまた、300kDaのIκBキナーゼ複合体もしくは900kDaのIκBキナーゼ複合体、または両方と結合する抗体を含む。300kDaまたは900kDaのIκBキナーゼ複合体に特異的な抗体は、本願発明内に包含されるためにIKKサブユニットエピトープの認識を必要としないことは認識されるべきである。なぜなら本開示以前には、300kDaおよび900kDaのIKK複合体は公知ではないからである(DiDonatoら、Nature 388:548-554(1997)を参考のこと)。
【0073】
活性型IKKに結合するが、不活性型IKKに結合しない本発明の抗体、および、逆に不活性形態のキナーゼに結合するが、活性形態に結合しない抗体もまた、とりわけ有用である。例えば、IKKは、IKKサブユニットのリン酸化により活性化され得、そしてそれゆえに、リン酸化形態のIKKを認識するが、非リン酸化形態に結合しない抗体が入手され得る。さらに、IKKは、調節サブユニットの放出により活性化され得、そしてそれゆえ、調節サブユニットに結合しないIKK複合体の形態を認識する抗体が入手され得る。このような抗体は細胞中の活性IKKの存在を同定するために有用である。
【0074】
抗IKK抗体は、例えば、組織サンプル(これは、溶解物または組織学的切片であり得る)中のIKKまたはIKKサブユニットのレベルまたは存在を決定するために有用である。サンプル中のIKKまたはIKKサブユニットの存在またはレベルの同定は、周知であるイムノアッセイおよび免疫組織化学的方法を使用してなされ得る(HarlowおよびLane、前出、1988)。抗IKK抗体はまた、サンプル由来の純粋IκBキナーゼまたはIKKサブユニットを実質的に精製するために使用し得る。さらに、抗IKK抗体はスクリーニングアッセイにおいて使用され、IκBキナーゼ活性を変化させる因子を同定し得る。
【0075】
抗IKK抗体を取り込むキットは、活性型変態、または不活性型変態のIκBキナーゼに特異的であり得るか、またはIKK複合体またはIKKサブユニットに結合し得、活性状態に関係なく、とりわけ有用であり得る。さらに、このようなキットは、抗IKK抗体、アッセイを実施するための適切な条件を提供する反応カクテル、公知の量のIKKまたはIKKサブユニットを含むコントロールサンプル、そして、もし所望ならば、抗IKK抗体について特異的な二次抗体を含む。このようなアッセイはまた、抗IKK抗体に結合されるサンプル中のIKKまたはIKKサブユニットの存在または量を検出するための単一な方法を含むべきである。
【0076】
抗IKK抗体のようなタンパク質およびそのIKKサブユニットまたは部分ペプチドは、当該分野で周知の方法を用いて、検出可能であるように標識され得る(Hermanson、「Bioconjugate Techniques」(Academic Press 1996)、これは本明細書中で参考として援用される;HarlowおよびLane、1988;第9章)。例えば、タンパク質は、放射性標識、酵素、ビオチンまたは蛍光色素を含む、種々の検出可能部分で標識され得る。抗IKK抗体のようなタンパク質を標識するための試薬は、タンパク質を含むキットに含まれ得るか、または商業的供給源から別々に購入され得る。
【0077】
例えば、標識抗体と、サンプル(例えば、組織ホモジネートまたは組織の組織学的切片)との接触後、特異的に結合した標識抗体が、特定の部分の検出によって同定され得る。あるいは、標識された第2の抗体が、未標識抗IKK抗体の特異的結合を同定するのに用いられ得る。第2の抗体は、一般的には、第1の抗体の特定のクラスに特異的である。例えば、抗IκBキナーゼ抗体がIgGのクラスである場合、第2の抗体は抗IgG抗体である。このような第2の抗体は、商業的供給源から容易に入手可能である。第2の抗体は、上記の検出可能部分を用いて標識され得る。サンプルが第2の抗体を用いて標識される場合、サンプルはまず、第1の抗体(これは抗IKK抗体である)と接触され、次いで、サンプルは標識された第2の抗体(これは抗IKK抗体と特異的に結合し、そして標識サンプルを生じる)と接触される。
【0078】
例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物においてポリクローナル抗体を生じる方法は、当該分野で周知である(実施例Vを参照のこと)。さらに、モノクローナル抗体は、当該分野で周知であり、そして日常的である方法を用いて得られ得る(HarlowおよびLane、前出、1988)。本質的に、IKK複合体またはIKKサブユニットまたはその部分ペプチドで免疫されたマウス由来の脾臓細胞が、適切なミエローマ細胞株(例えば、SP/02ミエローマ細胞)に融合されてハイブリドーマ細胞を産生し得る。クローン化ハイブリドーマ細胞株は、標識IKKサブユニットを用いてスクリーニングされて、抗IKKモノクローナル抗体を分泌するクローンを同定し得る。所望の特異性および親和性を有する抗IKKモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマは、単離されそして抗体の持続的な供給源として利用され得る。これは、例えば、上記の標準化キットを調製するのに有用である。同様に、例えば、単鎖抗IKKを発現する組換えファージもまた、標準化キットを調製するのに使用され得るモノクローナル抗体を提供する。
【0079】
抗IKKモノクローナル抗体は、抗イディオタイプ抗体を調製するのに用いられ得、これは、抗イディオタイプ抗体を調製するのに用いられるモノクローナル抗体により認識されるエピトープを模倣するエピトープを提示する。このモノクローナル抗体についてのエピトープに、例えば、IKK触媒サブユニットキナーゼドメインの一部が含まれる場合、抗イディオタイプ抗体は、IκBの競合物として作用し得、それ故、IκBのリン酸化レベル、そして結果的に、NF-κB活性の低下に有用であり得る。
【0080】
本発明はさらに、IKK触媒サブユニットと第2のタンパク質との会合を変更し得る因子を同定する方法を提供し、これは上流アクチベーター、下流エフェクター(例えば、IκB)、IKKサブユニットの相互作用性調節タンパク質、または300kDaもしくは900kDaのIκBキナーゼ複合体と会合する相互作用性サブユニットであり得る。本明細書中で用いられるように、用語「会合する」または「会合」は、IKKサブユニットおよび第2のタンパク質に関して用いられる場合、IKKサブユニットおよび第2のタンパク質が互いに対する結合親和性を有し、その結果、インビボまたはインビトロで(培養液中の細胞におけるものまたは実質的に純粋な試薬を含む反応におけるものを含む)、結合複合体を形成することを意味する。便宜上、用語「結合する」または「相互作用する」は、用語「会合する」と、相互転換可能に用いられる。
【0081】
IKKサブユニットと第2のタンパク質(例えば、IκB)または別のIKKサブユニットもしくはIKK複合体に存在する他のサブユニットとの結合親和性は、細胞においてインビボで結合複合体が形成され得るか、または本明細書中で開示した適切な条件下でのインビトロで形成され得るように、それが十分に特異的であるという点で、特徴付けられる。結合複合体の形成または解離は、例えば、ツーハイブリッドアッセイを用いるか、または本明細書中で開示した第2のタンパク質とIKKサブユニットとの免疫共沈降を実証するか、または平衡透析のような他の周知の方法を用いて、同定され得る。IKKサブユニットと第2のタンパク質との特異的会合と、IKKサブユニットへの非特異的結合とを区別するための方法は、当該分野で公知であり、そして一般的には、非特異的タンパク質結合が存在しないことを示すための適切な対照実験の実施が含まれる。
【0082】
本明細書中で用いるように、用語「第2のタンパク質」は、IKKサブユニット(「第1のタンパク質」)と特異的に会合するタンパク質をいう。このような第2のタンパク質は、IκBタンパク質(IκBαおよびIκBβを含み、これはIκBキナーゼ活性のための基質であり、そして調節された遺伝子発現を生じる、シグナル伝達系における、IκBキナーゼの下流である)によって、本明細書中で例示される。さらに、このような第2のタンパク質は、IKKサブユニットと一緒に、300kDaまたは900kDaのIκBキナーゼ複合体を形成するタンパク質によって例示され、これは、抗IKK抗体を用いて免疫共沈降する(実施例IVを参照のこと)。さらに、IKKαおよびIKKβのようなIKKサブユニットは互いに相互作用して、ホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成するので、第2のタンパク質はまた、第2のIKKサブユニットであり得、これは「第1の」タンパク質と同じであるかまたは異なり得る。
【0083】
IKK触媒サブユニットと第2のタンパク質(IκBタンパク質またはIKK調節サブユニット)との会合を変更する因子は、例えば、NF-κBの活性化を妨害することによって、急性期応答で生じるサイトカインの過剰発現を制限し、それによりサイトカイン遺伝子発現のNF-κB媒介誘導を防止するのに、非常に有益であり得る。本発明の薬物スクリーニングアッセイにおいて、第2のタンパク質がIκBである場合、IKKサブユニットは、IκBキナーゼ活性に関与する任意のタンパク質であり得、これには、例えば、マウスCHUK (ConnellyおよびMarcu、前出、1995;GenBank登録番号12473))が含まれ、これは本発明の開示前に、IκBと会合する能力を有するか、またはIκBキナーゼ活性を有することが公知でない。
【0084】
さらに、第2のタンパク質は、シグナル伝達系におけるIκBキナーゼの上流であり、そしてIKK複合体、特にIKK複合体のIKK触媒サブユニットと会合するタンパク質であり得る。このような第2のタンパク質(これはIκBキナーゼの上流アクチベーターであり得る)は、本明細書中で開示したタンパク質-タンパク質相互作用を、同定するための日常的方法を用いて同定され得る。このような第2のタンパク質は、例えば、MEKK1またはPKRまたはCKIIであり得、これらのそれぞれが、IκBリン酸化およびNF-κB活性化に通じる経路に関与することが報告されているが、これらはいずれも、種々のNF-κB活性化経路が集まる点に存在する、共通のIκBキナーゼの期待される特性を有さない(例えば、Leeら、前出、1997を参照のこと)か、あるいはNF-κB誘導キナーゼ(NIK)であり得、これは、NF-κB活性化経路のIKKから上流であると言われている(Regnierら、前出、1997;Malininら、Nature 385:540-544 (1997))。
【0085】
第2のタンパク質はまた、調節タンパク質であり得、これは、構成的に300kDaの部分もしくは900kDaの複合体として、またはIKK活性化を導く経路の活性化に応答してのいずれかで、IKK複合体のIKK触媒サブユニットと会合する。このような調節タンパク質は、例えば、調節タンパク質がIKKと会合するか、および調節タンパク質が遊離型またはIKK複合体の一部として、IKK触媒サブユニットと会合するかに依存して、IKK活性を阻害または活性化し得る。調節タンパク質はまた、触媒IKKサブユニットをその基質に「ドッキングする」ために重要であり得る。IKKサブユニットまたはIKK複合体と会合するかまたはそこから遊離する調節タンパク質の能力は、例えば、調節タンパク質の相対リン酸化状態に依存し得る。IKK上流アクチベーターがまた、このような調節タンパク質と相互作用し得、それによりIKKを間接的に阻害または活性化し得ることは認識される。
【0086】
本明細書中で開示されるように、2つの同時精製タンパク質は、ATPおよびIκBアフィニティークロマトグラフィーにより単離され、そしてSDS-PAGEによって同定された(実施例I)。部分アミノ酸配列が決定され、そしてこのタンパク質をコードするcDNA分子が得られた(実施例I、IIおよびIIIを参照のこと)。このタンパク質の1つは、85kDaの見かけの分子質量を有する。85kDaタンパク質をコードするcDNA分子の細胞での発現は、コントロール細胞と比較して、サイトカイン誘導を導くNF-κB活性の増加を生じたのに対して、このcDNAのアンチセンスの発現は、細胞の基礎NF-κB活性を減少させ、そしてNF-κB活性のサイトカイン誘導を防止した。85kDaのタンパク質の免疫沈降によりIKK複合体が単離され、このキナーゼ活性は、TNFまたはIL-Iに応答して即座に刺激された。これらの機能分析に基づいて、85kDaのタンパク質は、900kDaのIκBキナーゼ複合体の構成成分であると決定され、そしてIKKα(配列番号2)と指定されている。第2のタンパク質は、85kDaのIκBキナーゼと同時精製され、87kDaの見かけの分子質量を有し、そしてIKKαと50%より大きなアミノ酸配列同一性を共有し、そしてIKKβ(配列番号15)と命名されている。
【0087】
85kDaおよび87kDaのIKKサブユニットの、他のタンパク質(例えば、調節サブユニット)およびIκBと会合する能力は、例えば、IκBキナーゼにおける2つの異なるタンパク質結合ドメイン、ヘリックス・ループ・ヘリックスドメインおよびロイシンジッパードメインの存在によって、示唆される(ConnelyおよびMarcu、前出、1995を参照のこと;また、図3も参照のこと)。ロイシンジッパーモチーフは、IKKαとIKKβとの間のホモタイプおよびヘテロタイプの相互作用を媒介するが、ヘリックス・ループ・ヘリックスモチーフは、IκBキナーゼ活性化に必要な調節タンパク質の結合部位として働く。
【0088】
本発明のスクリーニングアッセイは、IKK複合体またはIKK触媒サブユニットと、上述の調節サブユニットのような第2のタンパク質との会合を変化させる因子を同定する手段を提供する。本明細書中で用いるように、用語「調節する」または「変化させる」は、IKKおよび第2のタンパク質の会合に関して用いられる場合、会合の親和性が、定常状態コントロールレベルの会合について、すなわち因子の非存在下において、増加または減少されたことを意味する。IKKと第2のタンパク質との会合を変化させ得る因子は、細胞におけるIκBのリン酸化レベルの調節に有利であり得、これはその結果として、細胞におけるNF-κBの活性およびNF-κBにより調節される遺伝子の発現を調節する。このような因子は、例えば、上記の抗イディオタイプ抗体であり得、これはIKKおよびIκBの会合を阻害し得る。アミノ酸32〜36を含むが、Ser-32およびSer-36についての置換を含むIκBαのペプチド部位は、IκBβの対応するペプチドがこのような因子の例であるように、このような因子の別の例であり、これはこのペプチドがIKKに結合するIκBαと競合し得るからである。
【0089】
本発明のスクリーニングアッセイはまた、IKKの活性を直接変化させる因子の同定に有用である。このような因子は、例えば、IKK複合体またはIKK触媒サブユニットと第2のタンパク質との会合を変化させることによって作用し得るが、因子はまた、IKK活性の特異的アクチベーターまたはインヒビターとして直接作用し得る。特異的プロテインキナーゼインヒビターには、例えば、スタウロスポリン、cAMP依存性プロテインキナーゼの熱安定性インヒビター、およびMLCKインヒビターが挙げられ、これらは当該分野で公知であり、市販されている。一般的にこのようなインヒビターまたはATPもしくはアデノシンに基づく分子のライブラリーは、本発明のアッセイを用いてスクリーニングされて、IKK複合体もしくはIKKサブユニットの活性を好適に調節する因子を得得る。
【0090】
本明細書中で開示されるように、IKK活性は、例えば、IκBαのリン酸化を、直接的にまたはIκBαのSer-32およびSer-36リン酸化形態に特異的な抗体を用いてのいずれかで同定することによって、測定され得る。Ser-32でリン酸化されたIκBαに結合する抗体は、例えば、商業的供給源(New England Biolabs;Beverly MA)から購入され得る。培養された細胞は、IKK活性を直接変化させる能力を有すると疑われる様々な因子に曝され得、次いで、細胞のアリコートは、回収されるか、またはサイトカインのような炎症誘発性の刺激物で処理され、そして回収されるかのいずれかである。回収された細胞は溶解され、そしてキナーゼは抗IKK抗体を用いて免疫沈降される。IκBαまたはIκBβのような基質は、免疫複合体に添加され、そして基質をリン酸化するIKKの能力が、上記のように決定される。所望であれば、抗IKK抗体はまず、96ウェルプレートのようなプラスチック表面にコーティングされ得、次いで、細胞溶解物が、抗体によるIKKの結合を可能にする条件下で、ウェルに添加される。ウェルの洗浄後、IKK活性は上記のように測定される。このような方法は非常に迅速であり、そして抗スループットアッセイのために自動化され得るというさらなる利点を提供する。
【0091】
本発明のスクリーニングアッセイは、分子の多様な集団から、IKK複合体またはIKK触媒サブユニットと別のタンパク質(本明細書中で「第2のタンパク質」として参照される)との会合を調節するか、あるいはIKKの活性を直接変化させる因子を同定するのに特に有用である。化学的または生物学的分子(例えば、単純もしくは複合有機分子、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣物、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリヌクレオチドなど)を含む分子の多様な集団を含むライブラリーを生成する方法は、当該分野で周知である(Huse、米国特許第5,264,563号、1993年11月23日発行;Blondelleら、Trends Anal. Chem. 14:83-92 (1995);YorKら、Science 274:1520-1522 (1996);Goldら、Proc. Natl. Acad. Sci., USA 94:59-64 (1997);Gold、米国特許第5,270,163号、1993年12月14日発行)。このようなライブラリーはまた、商業的供給源から得られ得る。
【0092】
多様な分子のライブラリーは1014〜1015もの多くの異なる分子を含み得るので、本発明のスクリーニングアッセイは、IKKおよび第2のタンパク質の会合を調節し得るかまたはIKKの活性を変化させ得る、ライブラリー中の因子を同定するための簡単な手段を提供する。特に、本発明のスクリーニングアッセイは自動化され得、これが因子のランダムに設計されたライブラリーの高スループット(through-put) スクリーニングを可能にし、IKKおよび第2のタンパク質の会合する能力を調節し得るか、またはIKKの活性を変化させ得る特定の因子を同定する。
【0093】
本発明の薬物スクリーニングアッセイは、本明細書中で開示されるように単離され得るIKK複合体を利用するか;あるいは、例えば、配列番号2もしくは配列番号15に示されるアミノ酸配列をコードする核酸分子から発現され得るIKKサブユニットを利用するか;あるいは、本明細書に開示されるように精製され得るか;あるいは、例えば、IKKα-グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)またはIKKβヒスチジン6(HIS6)融合タンパク質のような、IKKサブユニット融合タンパク質を利用し得、ここで、GSTまたはHIS6はIKKサブユニットと連結し、そしてタグを含む(実施例 VIを参照のこと)。IKKまたはIKKサブユニット融合タンパク質は、固体基質に対するアフィニティーを有すること、およびIκBタンパク質のような適切な第2のタンパク質と特異的に会合する能力を有することにより、部分的に特徴付けされる。例えば、IKK触媒サブユニットがスクリーニングアッセイに使用される場合、抗体が、IKKサブユニットの第2のタンパク質と結合する能力を妨害することなしにIKKと結合するのならば、固体基質は共有結合した抗IKK抗体を含み得る。例えば、IKKα-GST融合タンパク質をこのようなスクリーニングアッセイに使用する場合、固体基質は、共有結合したグルタチオンを含み得、これは融合タンパク質のGSTタグ成分によって結合される。所望する場合、IKKサブユニットまたはIKKサブユニット融合タンパク質は、本発明の薬物スクリーニングアッセイにおいてIKK複合体の一部となり得る。
【0094】
IKK複合体、またはIKKサブユニットおよび第2のタンパク質との会合を変化させる因子を同定するための薬物スクリーニングアッセイは、例えば、薬物の非存在下において、IKKおよびIκBαの会合に適切な条件下で融合タンパク質となり得るIKK複合体またはIKKサブユニットを固体支持体に結合させ、次いでIκBαのようなIκBであり得る第2のタンパク質、および試験されるべき因子を添加することによって実施され得る(実施例 VIを参照のこと)。適切には、IKKは本明細書中で開示したように活性化または不活性化され得、そして代表的には、IKKまたは第2のタンパク質は、会合の同定を容易にするために、検出可能に標識される。IKK成分、またはIκBタンパク質、または因子を含むかあるいは欠くかのいずれかのコントロール反応、または、IκBタンパク質をIKKとは特異的に結合しないことが公知である第2のタンパク質と置換するコントロール反応もまた、行われる。反応混合液のインキュベーション後、因子の存在下で特異的にIKKに結合するIκBαの量は決定され得、そして因子の非存在下で結合する量と比較され得、その結果、会合を調節する因子が同定され得る。
【0095】
スクリーニングアッセイにおいて使用されるIKKαまたはIKKβのようなIKKサブユニットは、放射性核種、蛍光標識、酵素、ペプチドエピトープ、または他のそのような部分で、検出可能に標識され得、それによって反応における会合の量の決定を容易にする。結合のコントロールレベルと比較した場合の因子の存在下での、IKKサブユニットまたはIKK複合体、およびIκBの特異的結合の量を比較することによって、IKKおよびIκBの結合を増加または減少させる因子が同定され得る。対照的に、薬物スクリーニングアッセイがIKKの活性を変化させる因子を同定するために使用される場合、検出可能な標識は、例えばγ-32P-ATPであり、そして32P-IκBの量はIKK活性の測定値として検出され得る。従って、薬物スクリーニングアッセイは、IKK、およびIκBのような第2のタンパク質の会合を所望されるように変化させる因子を選択するための、またはIKKの活性を変化させるための、迅速かつ簡単な方法を提供する。このような因子は、例えば、細胞中のNF-κBの活性を調節するために有用であり得、そしてそれゆえに、少なくとも部分的に、異常なNF-κB活性に起因する病理の処置のための医薬として有用であり得る。
【0096】
本明細書中で開示されるような、薬物スクリーニングアッセイを行うための方法はまた、所望でない炎症応答または免疫応答を改善するために治療的に使用されるかまたは使用され得る薬物であるが、それについての薬物の標的が公知ではない薬物の標的を同定するための研究ツールを提供する。例えば、サイトカイン抑制剤は、サイトカイン発現のレベルを変化させ得る薬物のクラスであり(1995年5月30日に公表された米国特許第5,420,109号)、そして慢性関節リウマチのような病理免疫原性疾患、および敗血症ショックにおいて生ずるような、細菌性エンドトキシンへの暴露によって誘導される疾患を含む、種々の病理を処置するために使用され得る(1996年9月12日に公表されたWO96/27386もまた参照のこと)。
【0097】
サイトカイン抑制剤が作用する特定の細胞標的は報告されていない。しかし、このような因子によって改善される無数の病理的効果は、異常なNF-κB活性に関連する種々の病理と類似しており、これは、サイトカイン抑制剤が、NF-κBシグナル伝達経路におけるエフェクター分子を標的にし得ることを示唆する。従って、サイトカイン抑制剤の1つの潜在的な標的は、IκBキナーゼ、特にキナーゼのIKK触媒サブユニットであり得る。従って、本発明のスクリーニングアッセイは、サイトカイン抑制剤がIκBキナーゼ活性を変化させるか、またはIKK、およびIκBのような第2のタンパク質の会合を変化させるか否かを決定するために使用され得る。サイトカイン抑制剤がそのような効果を有することが決定される場合、スクリーニングアッセイは、次いで、IKKに対する最も高いアフィニティーを有するような、所望の特性を有する因子を同定するための、サイトカイン調節因子のライブラリーをスクリーニングするために使用され得る。
【0098】
本発明はまた、単離されたIKK複合体またはIKK触媒サブユニットを得る方法を提供する。例えば、IKKαサブユニットを含む300 kDaまたは900 kDa IKK複合体を、抗IKKα抗体を使用する免疫沈降によって、またはIKKαのタグ化およびタグに特異的な抗体を使用することによってサンプルから単離し得る(実施例 IIIおよびIVを参照のこと)。加えて、IKK触媒サブユニットは、サンプルから以下を行うことによって単離され得る。1)IKKサブユニットを含むサンプルを、マトリックス上に固定化されたATPとともに、IKKサブユニットのATPへの結合に適した条件下でインキュベートする;2)固定化されたATPから、IKKサブユニットを含むサンプルの画分を得る;3)IKKサブユニットを含む画分を、マトリックス上に固定化されたIκBとともに、IKKサブユニットのIκBへの結合に適した条件下でインキュベートする;および4)固定化されたIκBから、単離された触媒IKKサブユニットを得る。IKKサブユニットを単離するこのような方法は、HeLa細胞のサンプルからIKKαまたはIKKβを単離するための、ATPアフィニティークロマトグラフィーおよびIκBαアフィニティークロマトグラフィーを使用して、本明細書中で例示される(実施例 Iを参考のこと)。
【0099】
当業者は、ATPもしくはIκBのようなリガンドまたは抗IKK抗体もまた、例えば、磁気ビーズを含む、種々の他のマトリックス上に固定され得ることを認識する。このマトリックスは、サンプルの残滓からATP結合もしくはIκB結合IKK複合体またはIKKサブユニットまたは抗IκBキナーゼ結合IKKを含む画分を得る迅速かつ簡単な方法を提供する。ATPもしくはIκBのようなリガンドまたは抗体を固定化するための方法は、当該分野で周知である(Haysteadら、Eur. J. Biochem. 214:459-467 (1993)、これは本明細書中で参考として援用される;また、Hermanson、前出、1996も参考のこと)。同様に、当業者は、IKK複合体またはIKKサブユニットを含むサンプルが、細胞、組織、または器官サンプルであり得、ヒトのような哺乳動物を含む動物から得られ、そして溶解物として調製されるか;または細菌、昆虫、酵母、もしくは哺乳動物細胞溶解物であり得、そこではIKK触媒サブユニットは組換え核酸分子から発現されることを認識する。本明細書中で開示するように、組換え的に発現させたIKKαまたはIKKβ(例えば、タグ化したIKKαまたはIKKBβ)は、会合して活性な300 kDaおよび900 kDa IKK複合体になる(実施例 IIIおよびIVを参照のこと)。
【0100】
本発明はまた、IKK複合体と、特にIKKサブユニットと会合する第2のタンパク質を同定する方法を提供する。酵母2ハイブリッド系のような、転写活性化アッセイは、タンパク質-タンパク質相互作用の同定に特に有用である(FieldsおよびSong、Nature340: 245-246 (1989)、これは本明細書中で参考として援用される)。さらに、2ハイブリッドアッセイは、タンパク質-タンパク質相互作用の操作に有用であり、そして、それゆえにまた、特異的な相互作用を調節する因子を同定するためのスクリーニングアッセイにおいて有用である。
【0101】
2ハイブリッドアッセイのような、転写活性化アッセイはまた、哺乳動物細胞においても行われ得る(Fearonら、Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89: 7958-7962 (1992)、これは本明細書中で参考として援用される ) 。しかし、酵母2ハイブリッド系は、酵母を使う作業の容易さおよびアッセイが行われ得る速さに起因して、特に有用なアッセイを提供する。このように、本発明はまた、IKKサブユニットと相互作用し得るタンパク質を同定する方法を提供する。このタンパク質は、IKKまたは、IKKに結合しそしてIKKの活性を調節するタンパク質によって仲介される、シグナル伝達経路においてIKK活性の上流のアクチベーター、または下流のエフェクターとして作用し得るタンパク質を含む。IKK触媒サブユニットと相互作用するこのようなタンパク質は、例えば、NF-κB活性化の組織特異的調節、または構成性NF-κB活性化、および結果としての遺伝子発現に関与し得る。
【0102】
転写活性化アッセイの根本的概念は、機能的に分離可能な、DNA結合およびトランス活性化ドメインからなる。転写因子のモジュラーの性質に基づいている。別個のタンパク質として発現された場合、これらの2つのドメインは、遺伝子転写を仲介し得ない。しかし、DNA結合ドメインおよびトランス活性化ドメインが、タンパク質間相互作用を通して互いに架橋される場合、転写を活性化する能力は回復し得る。これらのドメインは、例えば、DNA結合ドメインおよびトランス活性化ドメインを、融合タンパク質(ハイブリッド)として発現させることによって架橋され得る。ここでこれらのドメインに付着されたタンパク質はお互いに相互作用し得る。ハイブリッドのタンパク質間相互作用は、DNA結合ドメインおよびトランス活性化ドメインを一緒にして転写コンピテントな複合体を作製し得る。
【0103】
転写活性化アッセイの1つの適合である。酵母の2ハイブリッド系は、ハイブリッドタンパク質を発現するベクターの宿主細胞としてS. cerevisiaeを使用する。例えば、LexAオペレーター配列と連結したレポーターlacZ遺伝子を含む酵母宿主細胞は、IKKサブユニットと第2のタンパク質との間の特異的な相互作用を同定するために使用され得、ここでDNA結合ドメインは、LexAプロモーターを結合するLexA結合ドメインであり、そしてトランス活性化ドメインはB42酸性領域である。LexAドメインが、IKKサブユニットの、例えばcDNAライブラリー由来の発現され得る第2のタンパク質との相互作用を通して、B42トランス活性化ドメインに架橋される場合、レポーターlacZ遺伝子の転写が活性化される。このようにして、IKKサブユニットと相互作用するタンパク質は、同定され得、そしてIKKによって仲介されるシグナル伝達経路におけるそれらの役割は解明され得る。このような第2のタンパク質は、300 kDaまたは900 kDaのIKK複合体を含むさらなるサブユニットを含み得る。
【0104】
IKK、特にIKKαまたはIKKβサブユニットと相互作用することが以前には知られていなかったタンパク質を同定することに加えて、酵母2ハイブリッド系のような転写活性化アッセイはまた、IKKサブユニット、およびIKKに結合することが知られている第2のタンパク質の会合を変化させる因子を同定する、スクリーニングアッセイとして有用である。従って、インビトロスクリーニングアッセイについて、上記のように、転写活性化アッセイは、細胞中でのIKKサブユニットと第2のタンパク質との会合を変化させるのに特に有用である、これらの因子を同定するための、因子のパネルをスクリーニングするために使用され得る。そのような因子は、上記のように、因子の非存在下における転写のレベルと比較して、レポーター遺伝子の変化した転写レベルを検出することによって同定され得る。例えば、IKKサブユニットとIκBとの間の相互作用を増加させる因子は、因子の非存在下における転写のコントロールレベルと比較して、レポーター遺伝子の転写レベルの増加によって同定され得る。このような方法は、生きている細胞において、IKKサブユニットと第2のタンパク質との会合を変化させる因子を同定するので、特に有用である。
【0105】
いくつかの場合において、因子は酵母の細胞壁を通過不可能であり得、それゆえ、酵母細胞に入れ得ず、タンパク質間相互作用を変化させ得ない。細胞壁を欠く酵母細胞である、酵母スフェロプラストの使用は、この問題を回避し得る(SmithおよびCorcoran, Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら編;Green Publ., NY 1989)、これは本明細書中で参考として援用される)。さらに、因子は細胞に入る際に、酵母には存在しないかもしれない細胞の機構による「活性化」を必要とし得る。因子の活性化は、例えば、因子の代謝的プロセッシングまたは因子のリン酸化のような修飾を含み得、これは因子に活性を与えるために必要であり得る。この場合、哺乳動物細胞株は因子のパネルをスクリーニングするために使用され得る(Feasonら、前出、1992)。
【0106】
IKKの触媒活性を変化させる因子またはIKKサブユニットもしくはIKK複合体と第2のタンパク質(例えば、IκBまたはIKKのIKK調節サブユニットもしくは上流アクチベーター)との会合を変化させる因子は、異常なNF-κB活性により特徴付けられる重篤な症状を軽減するための薬物として有用であり得る。例えば、IKK活性を上昇させる薬物またはIKK触媒サブユニットおよびIκBαの親和性を上昇させる薬物は、Ser-32またはSer-36においてリン酸化されたIκBαの量を増加させ得、従って、活性なNF-κB量およびNF-κBにより調節される遺伝子の発現を増加させ得る。なぜなら、薬物は細胞におけるリン酸化されたIκBαのレベルを上昇させ、これによりNF-κBの核への転移が可能となるからである。対照的に、IKKの触媒活性、またはIKK触媒サブユニットとIκBαとの会合を減少もしくは阻害する薬物は、細胞における活性なNF-κBレベルおよび活性化されたNF-κBにより誘導された遺伝子の発現を減少させることが所望される場合に有用であり得る。本発明のアンチセンスIKKサブユニット分子はまた、IKKサブユニットの発現を減少もしくは阻害することにより、または誘導性因子(例えば、TNFα、IL-Iまたはホルボールエステル(実施例IIを参照のこと))に対する応答性を減少もしくは阻害することにより、細胞におけるIKK活性を減少させるために使用され得ることが認識されるべきである。従って、本発明はまた、IKKの触媒活性を調節する因子、またはIKKサブユニットと第2のタンパク質(例えば、IκB、またはIKKサブユニットと相互作用する300 kDaもしくは900 kDaのIKK複合体のサブユニット)との会合を変化させる因子を個体に投与することにより、異常なNF-κB活性により特徴付けられる症状を患う個体を処置する方法を提供する。
【0107】
IKKの活性を減少させる因子、またはそうでなければの細胞におけるIκBのリン酸化の量を減少させる因子は、遺伝子のNF-κB媒介性発現を減少させるか、または阻害し得、これには例えば、炎症応答、免疫応答もしくは急性期応答に関与するサイトカインおよび他の生物学的エフェクターのような炎症誘発性分子の発現が挙げられる。このような遺伝子発現を減少または阻害する能力は、このような炎症誘発性分子の発現により特徴付けられるか、または悪化させられる、慢性関節リウマチ、喘息、敗血症ショックのような種々の病理学的状態の処置のために特に役立ち得る。
【0108】
グルココルチコイドは有力な抗炎症剤および免疫抑制剤であり、これは種々の病理学的状態(例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、喘息のような自己免疫疾患を含む)を処置するために臨床的に使用される。グルココルチコイドは免疫応答および炎症応答を、少なくとも部分的に、IκBα合成速度を上昇させることにより抑制し、その結果、NF-κBに結合しそして不活性化させるIκBαの細胞レベルが増加される(Scheinmanら、Science 270:283-286(1995); Auphanら、Science 270: 286-290 (1995))。従って、グルココルチコイドは、例えばサイトカインをコードする遺伝子のNF-κB媒介性発現を抑制し、これにより免疫応答、炎症応答および急性期応答を抑制する。しかしながら、グルココルチコイドおよびグルココルチコイド様ステロイドもまた、生理学的に産生され、そして正常な成長および発達のために必要とされる。あいにく、生理学的な量より高いグルココルチコイドを用いた長期の個体処置は、臨床学的に望ましくない副作用を生じる。従って、IKKの活性を変化させる因子、またはIKK複合体もしくはIKKサブユニットと本発明の方法を使用して同定された第2のタンパク質との会合を変化させる因子の使用は、グルココルチコイド処置に関連する望ましくない副作用のいくつかを生じることなしにNF-κB活性を選択的に変化させる手段を提供し得る。
【0109】
Rel/NF-κB転写因子の不適切な調節は、種々のヒトの疾患に関連する。例えば、多くのウイルス(ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)およびサイトメガロウイルス(CMV)を含む)は、κB調節エレメントにより調節される遺伝子を含み、そしてこれらのウイルスは、細胞に感染している際に、ウイルス遺伝子の発現を媒介するために細胞性Rel/NF-κB転写因子を利用する(Siebenlistら、前出、1994)。HIV-1エンハンサー由来のTat媒介性の転写は、例えば、NF-κBおよびSP1結合部位がエンハンサー/プロモーター領域から欠失されている場合に減少し、Tatが、NF-κB、SP1または転写を刺激するために、この部位で結合する他の転写因子と相互作用することを示す(Roulstonら、Microbiol. Rev. 59:481-505 (1995))。さらに、慢性HIV-1感染、そしてエイズへの進行は、骨髄細胞において構成性のNF-κB DNA結合活性の発現に関連する(Roulstonら、前出,1995)。従って、ポジティブな自己調節性(positive autoregulatory)ループが形成され、これによりHIV-1感染は、HIV-1遺伝子の発現を誘導する構成的に活性なNF-κBを生じる(BaeuerleおよびBaltimore, Cell 87:13-20(1996) )。構成的なNF-κBの活性化はまた、細胞をアポトーシスに対して保護し得、免疫系によるウイルス感染細胞のクリアランスを阻止する(Liuら、前出,1996)。
【0110】
IKK活性を低下させる因子、またはIκBのリン酸化が減少されるようにIKKと第2のタンパク質との会合を変化させる因子は、ウイルス感染細胞における非リン酸化IκBレベルの増加を提供することにより、個体におけるウイルス感染(例えば、HIV-1感染)の重篤度を減少させるために有用であり得る。次に、非リン酸化IκBは細胞においてNF-κBに結合し得、これによりNF-κBの核転移およびウイルス遺伝子発現を阻止し得る。このようにして、ウイルス集団の拡大速度が制限され得、これにより個体に対する治療上の利点が提供され得る。
【0111】
さらに、NF-κB活性レベルの減少は、ウイルス感染細胞をアポトーシスさせ得、個体におけるウイルス負荷量を減少させる。現に、本発明の方法を使用して同定された因子を用いてエキソビボでウイルス感染細胞を処置するために、特に有用であり得る。例えば、末梢血単核細胞(PBMC)は、HIV-1感染された個体から回収され得、IKK活性を低下させる因子または、IKK複合体もしくはIKK触媒サブユニットとIκBとの会合を変化させる因子で培養において処置され得る。このような処置は、ウイルス感染された細胞のPBMCを、アポトーシスを進めさせることにより一掃するために有用であり得る。次いで、一掃されたPBMC集団は拡大され得、所望される場合、個体に対して再び投与され得る。
【0112】
Rel/ NF-κBタンパク質はまた、多くの種々の型の癌に関与する。例えば、癌細胞の内皮細胞への接着は、癌細胞をIL-1で処置することにより増加する。このことは、NF-κBが細胞接着分子(腫瘍細胞の内皮細胞への接着を媒介する)の発現を誘導し;アスピリンのような因子(NF-κB活性を減少させる)が細胞接着分子の発現を阻害することにより接着をブロックしたことを示唆する(Tozawaら、Cancer Res. 55:4162-4167 (1995))。これらの結果は、IKKの活性を低下させる因子またはIKKとIκBとの会合もしくはIKKサブユニットと第2のタンパク質(例えば、IKK複合体に存在する第2のタンパク質)との会合を減少させる因子が、個体における腫瘍の転移の可能性を減少させるために有用であり得ることを示す。
【0113】
ウイルス感染細胞について上述したように、構成的なNF-κBの活性化はまた、腫瘍細胞をプログラム細胞ならびに化学療法剤により誘導されるアポトーシスに対して保護し得る(Liuら、前出,1996; Baeuerle and Baltimore, Cell 87: 13-20(1996))。従って、IKK活性を減少させる因子またはIKKとIκBとの会合を減少させる因子はまた、リン酸化されていないIκB(NF-κBに結合し得、腫瘍細胞において活性なNF-κBレベルを減少させ得る)のレベルを増加させることにより、腫瘍細胞においてプログラム細胞死を生じさせるために有用であり得る。
【0114】
以下の実施例は、本発明を例示することが意図されるが、本発明を制限することは意図されない。
【実施例1】
【0115】
ヒトIκBキナーゼ複合体およびIKKサブユニットの同定および特徴付け
この実施例は、IκBをリン酸化するサイトカイン応答性タンパク質キナーゼ複合体(NF-κB活性を調節する)、およびタンパク質キナーゼ複合体の触媒サブユニットを同定ならびに単離するための方法を提供する。
A.キナーゼアッセイ:
キナーゼアッセイをIκBのアミノ酸残基1〜54を含むGST融合タンパク質を用いて実施した。融合タンパク質をグルタチオンSEPHAROSEに結合させ、そしてアッセイにおいてビーズを直接的に使用した。IKK活性の精製における最初の段階で、他のタンパク質からの寄与を最小限にするために、ビーズをゲルに充填する前に洗浄した。高度に精製された物質の後の特徴付けのいくつかにおいて、可溶性融合タンパク質を使用した。
【0116】
IKK活性のために異なる3つの基質を使用した:1)基質「WT」IκBαのアミノ酸残基1〜54を含んだ;2)基質「AA」はIκBαのアミノ酸残基1〜54を含んだ(ただしSer-32 (S32) およびS36をそれぞれAla-32(A32)およびA36で置換した);そして、3)基質「TT」は、IκBαのアミノ酸残基1〜54を含んだ(ただしS32およびS36をそれぞれThr-32(T32)およびT36で置換した(DiDonatoら、Mol. Cell. Biol. 16:1295-1304 (1996))。各基質をGST融合タンパク質として発現した。生理学的な、誘導性IκBキナーゼは、IκBαにおけるS32およびS36(WT)に対して特異的であるが、TT変異体またはAA変異体を認識しない(DiDonatoら、Mol. Cell. Biol. 16:1295-1304 (1996))。
【0117】
キナーゼアッセイを、20mM HEPES(pH 7.5〜7.6)、20mM β-グリセロリン酸(β-GP)、10mM MgCl2、10mM PNPP、100μM Na3VO4、2mM ジチオスレイトール(DTT)、20μM ATP、10μg/mlアプロニチン中で行った。NaCl濃度を150mM〜200mMとし、そしてアッセイを30℃で30分間行った。SDS-PAGEにより分画を行い、次いでリン酸イメージ(phosphoimager)分析により定量した。
B.IKK複合体およびIKKサブユニットの精製
タンパク質精製緩衝液(緩衝液A)は、20mM Tris(pH-7.6、室温で測定) 、20mM NaF、20mM β-GP、1mM PNPP、500μM Na3VO4、2mM DTT、2.5mM メタ重亜硫酸塩(metabisulfite)、5mM ベンズアミジン(benzamidine)、1mM EDTA、0.5mMEGTA、1mM PMSF、および10%グリセロールからなった。Brij-35を示したように添加した。細胞溶解緩衝液は、さらに19mM PNPP、20mM β-GPおよび500μM Na3VO4ならびに20μg/mlアプロニチン、2.5μg/mlロイペプチン、8.3μg/mlベスタチン1.7μg/ml ペプスタチンを含む緩衝液Aであった。
【0118】
精製を5〜130リットルのHeLa S3細胞を使用して行った。例示のために、15リットル調製物についての手順を示す。精製工程の全てを低温室内で4℃で行った。
【0119】
IKKを活性化するために、細胞を精製前にTNFαで刺激した。TNFαは、組換えTNFα(R&D Systemから購入した、20ng/mlで使用)またはHIS6タグ化されたTNFα(E.coli.から発現され、部分的に精製された、5μg/mlで使用)のいずれかであった。TNFα誘導されたHeLa S3細胞の殺傷活性のアッセイをシクロヘキシミド存在下で行い、これは部分的に精製されたHIS6タグ化されたTNFαが市販のTNFαの活性のおよそ1/10であることを示した。
【0120】
15リットルのHeLa S3細胞を10%の子ウシ血清、2mg/ml L-グルタミン、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.11mg/ml ピルビン酸ナトリウム、および1×非必須アミノ酸( nonessential amino acids)(Irvine Scientific; Irvine CA)を補充した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地中に懸濁液して増殖させた。細胞密度を回収時に約5×105細胞/mlとした。細胞を遠心分離により約10倍濃縮し、TNFαを用いて5分間37℃で刺激し、次いで2.5容量の50mMのNaFを含む氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で希釈し、そして2000×gでペレット化した。細胞のペレットを氷冷PBS/50m NaFで1回洗浄し、次いで溶解緩衝液中に懸濁し、液体窒素中で急速に凍結し、そして-80℃で保存した。
【0121】
IκBキナーゼの精製のために、細胞を解凍し、そして細胞質抽出物を調製した。溶解を0.05%のNP-40を含む溶解緩衝液中氷上で全てがガラスのDounceホモジェナイザー(内筒A)において、40ストロークにより達成した。ホモジネートをBeckmann SS34 ローターにおいて4℃で、12,000rpmで19分間遠心分離した。
【0122】
上清を回収し、そしてBeckman 50.1 Ti ローターにおいて4℃で、38,000rpmで80分間遠心分離した。上清(S100 画分)を液体窒素中で急速に凍結し、そして-80℃で保存した。S100物質の小アリコートを、刺激されていないHeLa細胞またTNFα刺激された細胞のいずれかから調製し、これを0.1% Brij-35および300mMNaClを含む緩衝液Aで平衡化したSUPEROSE 6 ゲル濾過カラム(1.0×30cm: Pharmacia; Uppsalla Sweden)に1回通して精製し、そして0.3ml/分の流速で溶出させた。0.6mlの画分を回収し、そしてそれぞれの画分のアリコートについてキナーゼアッセイを行った。高分子量物質(画分16〜20)は、WT基質に対して特異的であるTNFα誘導性IKK活性を含んでいた。
【0123】
110mlのS110物質(900mgのタンパク質;Bio-Rad Protein Assay)を、0.1% Brij-35を含む緩衝液Aで2ml/分で平衡化したQ-SEPHAROSE FAST FLOWカラム(56ml床容量、2.6cm ID)に汲み上げた。サンプルをロードした後、カラムを0.1% Brij-35および100mM NaClを含む100mlの緩衝液Aで洗浄し、次いで100から300mMの直線NaCl勾配をかけた。勾配容量は500mlであり、そして流速は2ml/分であった。10mlの画分を回収し、そして勾配間に溶出する画分に関してキナーゼアッセイを実施した。TNFα誘導IKK活性に対応する画分(画分30〜42;すなわち、20〜32の勾配比)をプールした。プールした物質は、40mgのタンパク質を含んだ。
【0124】
プールした物質を、0.1% Brij-35を含む緩衝液Aの添加によって390mlに希釈し、そして予め平衡化した5mlのHITRAP Q カラム(Pharmacia)に、4ml/分の流速でロードした。サンプルのロード後、カラムを、0.1% Brij-35を含む20mlの緩衝液Aで洗浄した。タンパク質を、0.1% Brij-35および300mM NaClを含む緩衝液Aにおいて一定に(isocratically) 1ml/分で溶出し、そして1mlの画分を収集した。タンパク質を含む画分を、BioRadアッセイを用いて同定し、そして回収し、そしてプールして、4mlの溶液を得た。以前に実施したコントロール実験は、IKK活性がタンパク質濃度と直接的に相関することを実証した。
【0125】
プールした物質を、ATPカラム緩衝液(20mM HEPES (pH 7.3)、50mM β-GP、60mM、MgCl2、1mM Na2VO4、1.5mM EGTA、1mM DTT、10μg/mlアプロチニン)で1:1に希釈し、次いで4mlの床容量を有するγ-ATPアフィニティーカラム(Haysteadら、前出、1993)へ4回通し;カラムを、2M NaCl、0.25% Brij-35で予め洗浄し、そして0.05% Brij-35を含む10床容量のATPカラム緩衝液で0.5ml/分の流速で平衡化した。サンプルのロード後、カラムを、0.05% Brij-35を含む10mlのATPカラム緩衝液で、次いで0.05%Brij-35および250mM NaClを含む10mlのATPカラム緩衝液で洗浄した。
【0126】
結合した物質を、0.05% Brij-35、250mM NaCl、および10mM ATPを含む10mlのATPカラム緩衝液(溶出緩衝液)で溶出した。溶出を、5mlの溶出緩衝液をカラムに通すこと、カラムを20分間インキュベートし、封栓し、次いでさらなる5mlの溶出緩衝液をカラムに通すことによって実施した。サンプルをプールし、10mlを得た。
【0127】
ATPカラムからの10mlのプールしたサンプルを、0.1% Brij-35を含む30mlの緩衝液Aで希釈し、そして1mlのHITRAP Q カラム(Pharmacia)に1ml/分でロードした。カラムを、0.1%Brij-35および300mM NaClを含む緩衝液Aで0.4ml/分で溶出した。0.2mlの画分を回収し、そして4つのタンパク質を含む画分をプールした(0.5mg)。プールした物質を、10K NANOSEPコンセントレーター(Pall/Filtron)上で200μlに濃縮し、そしてSUPEROSE 6 ゲル濾過カラム(1.0×30cm)にロードした。SUPEROSE 6 カラムを、0.1%Brij-35および300mM NaClを含む緩衝液Aで平衡化し、そして0.3ml/分の流速で操作し;0.6mlの画分を回収した。画分17、18、および19は、キナーゼ活性を含んだ。
【0128】
銀染色SDS-PAGEゲルに基づいて、最終精製物質は、約20μg〜40μgの総タンパク質からなり、このうちの約2μgは85kDaバンド(後に、IKKαと命名する)に対応した(実施例IIを参照のこと)。87kDaに移動する第2のバンドを、後にIKKβと命名した(実施例IIIを参照のこと)。S100物質の解凍から、ゲル濾過カラムからの画分の回収までの総時間は、24時間であった。
C.IKK精製の確認:
上記の手順後のキナーゼアッセイによって同定された85kDaのIKKαバンドは、総精製タンパク質の約10%のみを含んだので、3つのさらなる判定基準を使用して、同定したバンドがIKK複合体の内因性成分であることを確認した。
【0129】
1つの手順において、SUPEROSE 6 カラムの溶出プロフィールを、銀染色の8% SDS-PAGEゲルによって分析し、キナーゼ活性プロフィールと比較した。この分析のために、0.3mlの画分をSUPEROSE 6 カラムから回収し、次いで8% SDS-PAGEによって分離し、そして銀染色した。この比較は、85kDaの単一のバンドがIKK活性の溶出と正確に相関することを確認した。
【0130】
第2の手順において、さらに、IKK活性を基質アフィニティーカラムで4℃にて精製した。8回反復されるIκBαのA32/A36 1〜54アミノ酸配列を含むGST融合タンパク質(GST-(8×AA))を調製した。次いで、GST-(8×AA)を、CNBr活性化SEPHAROSE 4B樹脂に共有結合し、基質アフィニティー樹脂を生成した。
【0131】
IKK含有物質を、緩衝液A中に希釈し、最終濃度70mMのNaCl、0.025% Brij-35を得、次いで4:1の比(溶液:膨張したビーズ)で基質アフィニティー樹脂に添加した。樹脂を懸濁し、そして小さなカラム中で4℃にて混合物を一晩穏やかに回転させた。樹脂を、30分間静置し、次いでカラムを重力で溶出した。カラムを0.02% Brij-35を含む4床量の緩衝液Aで洗浄し、次いで樹脂を600mM NaClおよび0.1% Brij-35を含む1.1床量の緩衝液Aで懸濁した。樹脂を40分間静置し、次いで重力溶出を実施した。カラムを600mM NaClおよび0.1% Brij-35を含むさらに1.1床量の緩衝液Aで洗浄し、そして2つの画分をプールした。
【0132】
IκBα基質アフィニティーカラムを、2つの分離実験のために使用した。1つの実験において、最終のSUPEROSE 6カラムから溶出した物質を、さらにIκBα基質アフィニティーカラムで精製した。第2の実験において、最初のQ−SEPHAOSEカラム後に得た物質を、IκBα基質アフィニティーカラムで精製した。次いで、Q-SEPHAROSE 結合画分を、ATPカラムおよびSUPEROSE 6カラムでさらに精製した(上記を参照のこと)。
【0133】
銀染色SDS-PAGEゲルによるこれらの2つの実験からの精製物質の分析は、異なるタンパク質プロフィールを示した。しかし、これらのプロフィールの比較は、両方の調製物に共通の2つのみのバンドを示し、そのうちの1つは、SUPEROSE 6プロフィール分析によって同定され、そしてIκBキナーゼ活性と同時分画された、同じ85kDa IKKαバンドであると確認された。他のバンドは、サイズが87kDaであり、その後IKKβとして同定された。いくつかの異なる実験において、85kDaタンパク質および87kDaタンパク質は、等モル濃度比であると思われるものにおいて、基質アフィニティーカラムによって特異的に精製された。
【0134】
第3の手順において、精製したIKKを過剰のリン酸(これは、IKKを不活化する)で処置し、次いで半精製HeLa抽出物の添加によって再活性化した。リン酸不活化を、50mM Tris (pH7.6)、50mM NaCl、1mM MgCl2中に、精製したIκBキナーゼに過剰のタンパク質ホスファターゼ2A触媒性ドメイン(PP2A)を添加し、次いで30℃にて60分間反応を平衡化することによって実施した。1.25μMのオカダ酸を添加し、ホスファターゼを完全に不活化し、そしてホスファターゼ不活化物質を標準的キナーゼアッセイにおいて使用し、そして再活性化およびリン酸化手順を行った。
【0135】
細胞質抽出物を、HeLa S3細胞を用いて調製した。細胞をTNFαで5分間刺激し、次いで、0.1%NP-40および0.15M NaClを含む溶解緩衝液において収集した。再活性化を、(γ-32P)ATPの非存在下で、キナーゼ緩衝液中、30℃にて60分間行った。冷ATPのみを含むサンプルを、キナーゼ活性アッセイのために使用した。HeLa細胞抽出物による再活性化を(γ-32P)ATPの存在下で行い、次いでサンプルを8% SDS-PAGEによって分離し、そしてオートラジオグラフィーによって試験した。約86kDaのバンドを、再活性化物質においてリン酸化し、そしてこれは再活性化手順と関連したIKK活性の回復であった。
D.IKKαおよびIKKβの部分的アミノ酸配列
上記のSDS-PAGE後、85kDa IKKαバンドおよび87kDa IKKβバンドをゲルから切り出し、そして内部ペプチド配列決定分析のために提出した。IKKαポリペプチドから、2つのタンパク質分解フラグメントの配列を以下のように同定した:KIIDLLPK(配列番号3)およびKHR(D/A)LKPENIVLQDVG(P/G)K(配列番号4)。残基は明白には決定され得ないので、「X」を用いてアミノ酸が決定され得ないことを示し、そして識別され得なかったアミノ酸の範囲を括弧を用いて定めた。Lys-Cプロテアーゼを用いてタンパク質を消化することにより、ペプチドのN末端でのリジン残基の存在を推測した。87kDa IKKβバンドから、5つのタンパク質分解フラグメントの配列を決定した(図3を参照のこと(下線を付した);実施例IIIもまた参照のこと)。
【実施例2】
【0136】
全長ヒトIKKαサブユニットの同定および特徴付け
本実施例は、IKKαサブユニットをコードする核酸分子を単離するため、およびサブユニットの機能的活性を特徴付けるための方法を提供する。
A.ヒトIKKαをコードするcDNAのクローニング:
IKKα(図1を参照のこと)の2つのペプチドフラグメント(配列番号3および4)のアミノ酸配列の縮重オリゴヌクレオチド(長)配列を、GenBank DNA配列データベースにおいて検索した。この検索は、両方のペプチドフラグメントをコードするヌクレオチド配列が、ヒトCHUKと命名されたタンパク質(GenBank登録#U22512;ConnellyおよびMarcu、前出、1995)の一部をコードする部分cDNAにおいて存在することを示した。
【0137】
ヒトCHUK cDNA配列に基づいて、5’ 末端(5’ -CCCCATATGTACCAGCATCGGGAA-3’ ;配列番号5)および3’ 末端(3’ -CCCCTCGAGTTCTGTTAACCAACT-5’ ;配列番号6)に対応するPCRプライマーを調製した。配列番号5はまた、Nde I制限エンドヌクレアーゼ部位(下線)およびATG(AUG)メチオニンコドン(太字)を含み、そして配列番号6はまた、Xho I部位を含む。RNAをHeLa細胞から単離し、そして第1鎖cDNAを調製し、そして配列番号5および6をプライマーとして用いるPCRでテンプレートとして使用した。得られる2.1キロベース(kb)フラグメントをゲル精製し、オリゴ-dTおよびランダムプライマーを用いて32P標識し、そして高ストリンジェンシーな条件(50%ホルムアミド、42℃;Sambrookら、前出、1989)下でヒト胎児脳ライブラリー(Clontech;Palo Alto CA)をスクリーニングするために使用した。
【0138】
IKKαをコードするcDNAの5’ 末端を得るために、上記からのポジティブプラークを以下を用いるPCRによってスクリーニングした:2つの内部プライマーである5’ -CATGGCACCATCGTTCTCTG-3’ ;配列番号7(これは、配列番号1の136位のあたりのBan I部位を含む配列に相補的である)、および5’ -CTCAAAGAGCTCTGGGGCCAGATAC-3’ ;配列番号8(これは、475位あたりのSac I部位を含む配列に相補的である)、およびベクター特異的プライマーであるTCCGAGATCTGGACGAGC-3’ ;配列番号9(これは、cDNA挿入物の5’ 末端のベクターに相補的である)。最も長いPCR産物を選択し、そしてジデオキシ法によって配列決定した。
【0139】
DNA配列決定は、クローン化したIKKα cDNAが、ヒトCHUKと比較してN末端にさらなる31のアミノ酸を含むことを示した。ヒトIKKαは、マウスCHUKと命名されたタンパク質(GenBank登録#U12473;ConnellyおよびMarcu、前出、1995)との高量の配列同一性を共有した。マウスCHUKは、セリン−スレオニンプロテインキナーゼの特徴を有するドメインを含むが、タンパク質の機能的活性は報告されず、そして潜在的な基質は同定されなかった。ヒトCHUKの推定セリン−スレオニンプロテインキナーゼドメインはN末端で短縮された。
B.細胞におけるヒトIKKαまたはアンチセンスIKKα核酸の発現
全長IKKα cDNAおよびΔ31ヒトCHUKタンパク質をコードするcDNA(ConnellyおよびMarcu、前出、1995)を、カルボキシ末端FLAGエピトープおよびHIS6タグをコードする細菌発現ベクターのNde IおよびXho I部位にサブクローン化した。哺乳動物細胞発現ベクターを、Nde IおよびHind IIIで細菌発現ベクターを切断することにより構築し、cDNA挿入物を放出し、挿入物の末端をクレノウポリメラーゼを用いて平滑末端に変換し、そして全長IKKαまたはΔ31ヒトCHUKをコードするcDNA挿入物をpCDNA3(Invitrogen)に連結した。
【0140】
あるいは、IKKα cDNAおよびΔ31 cDNAを、pRcβactinペクター(DiDonatoら、前出、1996)のBst XI部位にサブクローン化した。挿入物の方向(センスまたはアンチセンス)を、制限エンドヌクレアーゼマッピングおよびベクター特異的プライマーを用いる部分配列によって決定した。センス方向で挿入されたcDNAを含むベクターを、FLAGエピトープに特異的な抗体を用いるイムノブロット分析によって、コードされた産物の発現を試験した。
【0141】
トランスフェクション実験を実施し、HeLa細胞におけるクローン化IKKαを発現する効果、またはアンチセンス方向でクローン化IKKα cDNAを発現する効果を決定した。トランスフェクション実施の1日前に、HeLa細胞を35mmディッシュに約50%の集密度で分けた。細胞を、IL-8プロモーターを含む0.25μgのルシフェラーゼレポーター遺伝子(Eckmanら、Amer. Soc. Clin. Invest. 96: 1269-1279(1995)、これは本明細書中で参考として援用される)、1μgのpCDNA3(Invitrogen, La Jolla CA; ベクターコントロール)、1μgのpRcβactin-IKKα-AA(センス方向)、1μgのpRcβactin-IKKα-K(アンチセンス方向)、または0.1μgのpCDNA-IKKα-Kで、製造業者(GIBCO/BRL, Gaithersburg MD)によって推奨されるようにLIPOFECTAMINE法を用いてトランスフェクトした。空のpRcβactinDNAの添加によって、総DNA濃度を一定に保持した。
【0142】
トランスフェクトした細胞を、10% FBSを含むDMEM中で24時間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、そして増殖培地を0.1% FBSを含むDMEMに置き換えた。細胞を未処置のままにするか、または20ng/ml TNFα、20ng/ml IL-Iα、もしくは100ng/ml TPA(ホルボールエステル)で3.5時間処置するかのいずれかであった。細胞を、スクレイピングによって収集し、そしてPBSで一回洗浄し、次いで1% TRITON-X100を含む100μlのPBSに溶解させた。ルシフェラーゼアッセイを、20μlの溶解物(DiDonatoら、前出、1995)を用いて行った。各抽出物のタンパク質濃度をBIORADタンパク質アッセイキットを使用して決定し、そしてルシフェラーゼ活性を、タンパク質濃度によって規格化した。
【0143】
NF-κBは、IL-8プロモーターの発現を誘導することが公知である。従って、予想通り、ベクターでトランスフェクトしたコントロール細胞のTNFα、IL-Iα、またはTPAでの処理は、規準化したルシフェラーゼ活性において3〜5倍の増加を生じた。対照的に、IKKαをコードするcDNAでトランスフェクトした細胞において、TNFα、IL-1α、またはTPAでの処理は、ベクターでトランスフェクトした細胞において観察した誘導レベルの5〜6倍のルシフェラーゼ活性の誘導を増強した。これらの結果は、細胞中のIKKαの発現は、誘導因子に応答して活性化されたNF-κBの量を増加したことを示す。
【0144】
アンチセンスIKKα核酸分子を発現するベクターでトランスフェクトした細胞において、IL-1またはTNFαによって誘導されたルシフェラーゼレポーター遺伝子の転写は、検出限界であった。このことは、転写が、アンチセンスIKKαの発現に起因してほとんど完全に阻害されたことを示す。この結果は、天然のIKKαが、細胞中で比較的迅速に代謝されることを示す。さらに、細胞の種々の誘導因子での処理は、未処理の細胞と比較して、コントロールレセプター遺伝子(これは、NF-κBに応答しない)のルシフェラーゼ発現のレベルに全く影響しない。他の適切なコントロール実験を、並行して行った。これらの結果は、細胞中のアンチセンスIKKα核酸分子の発現が、NF-κB媒介性遺伝子発現を特異的に阻害し得ることを実証する。
【実施例3】
【0145】
全長ヒトIKKβサブユニットの同定および特徴づけ
本実施例は、IKKのIKKβ触媒サブユニットをコードする核酸分子を単離し、そしてIKKβサブユニットの活性を特徴付けるための方法を提供する。
A.IKKβcDNAのクローニング
IKKβを、SDS-PAGEに続いて精製し、そして内部ペプチド配列決定に供した(実施例I)。5つのペプチド配列を、以下のように得た:
KIIDLGYAK(配列番号9);
KXVHILN(M/Y)(V/G)(T/N/R/E)(G/N)TI(H/I/S)(配列番号10);
KXXIQQD(T/A)GIP(配列番号II);KXRVYTQL(配列番号12);およびKXEEVVSL
MNEDEK(配列番号13)。ここで、明確に決定され得なかったアミノ酸残基を「X」によって示し、そして区別し得なかったアミノ酸を括弧で示す。これらのペプチド配列を使用して、NCBI ESTデータベースをスクリーニングし、そして配列番号12および13をコードする336塩基対EST(EST29518;受託番号AA326115)を同定した。このESTが、配列番号15のアミノ酸残基551〜661に対応することを決定した。
【0146】
ESTに対応するcDNAを、テンプレートとして第一鎖HeLa cDNAを用いてPCRによって得、そしてヒト胎児性脳ライブラリー(Clontech)をプローブするために使用した。1kbのフラグメントを同定し、そしてプラスミドベースのB細胞ライブラリー(Invitrogen)をスクリーニングするためのプローブとして使用した。3kbのcDNAインサートを単離し、そして配列決定し(図2;配列番号14)、そして全長IKKβ(配列番号15)(すべての5つのタンパク質分解性フラグメントを含む)をコードした(図3を参照のこと)。
【0147】
IKKαおよびIKKβのアミノ酸配列の比較は、50%を超えるアミノ酸同一性を明らかにした(図3)。さらに、配列番号15は、キナーゼドメイン(これは、IKKαと65%アミノ酸同一性を共有する)、ロイシンジッパーおよびヘリックス-ループ-ヘリックスドメインを含む。配列相同性およびドメイン構造に基づいて、このポリペプチド(配列番号15)を、IKKαとのIKK触媒サブユニットファミリーのタンパク質のメンバーであると決定し、それゆえIKKβと称した。
B.IKKβの特徴付け
この節は、IKKβ活性を特徴付ける種々のアッセイの結果を、特にそのIKKαとの関連に関して記載する。さらに、ノーザンブロット分析は、IKKβおよびIKKαが試験したほとんどの組織(膵臓、腎臓、骨格筋、肺、胎盤、脳、心臓、末梢血リンパ球、結腸、小腸、前立腺、胸腺、および脾臓を含む)において同時発現されることを明らかにした。
1.IKKβキナーゼ活性
IKKβに関連するキナーゼ活性を、HAタグ化IKKβ発現ベクターで一過的にトランスフェクトしたHeLaおよび293細胞を用いて特徴付けた。トランスフェクト細胞を、20ng/mlのTNFで10分間刺激し、そしてHA-IKKβを、抗HA抗体を用いて免疫沈降によって単離した(KolodziejおよびYoung, Meth.Enzymol. 194:508-519(1991))。免疫複合体を、IκBαおよびIκBβの野生型(wt)および変異形態をリン酸化する能力について試験した(実施例1を参照のこと)。
【0148】
精製したIKK複合体およびIKKαと会合した複合体と同様に、IKKβ免疫複合体は、wtIκBαおよびIκBβをリン酸化したが、誘導性リン酸化部位(IκBαについてSer-32およびSer-36ならびにIκBβについてSer-19およびSer-23)をアラニンでもスレオニンでも置換されたムテインはリン酸化しなかった。しかし、タンパク質のC末端部分の部位のリン酸化に起因する全長IκBα(A32/A36)の低レベルの残りのリン酸化が観察された(DiDonatoら(前出)1997)。一置換変異体IκBα(A32)およびIκBβ(A36)を、wtIκBαとほとんど同じ効率でリン酸化し、これはIKKβ関連IKK活性が、Ser-32およびSer-36の両方でIκBαをリン酸化し得ることを示す。
【0149】
IKKβ関連キナーゼ活性の種々の刺激に対する応答もまた、HA-IKKβ発現ベクターで一過的にトランスフェクトしたHeLa細胞において試験した。24時間後、細胞を、10ng/mlのIL-1、20ng/mlのTNF、または100ng/mlのTPAのいずれかで刺激し、次いでHA-IKKβ免疫複合体を免疫沈降によって単離し、そしてIKK活性を測定した。TNFおよびIL-1はIKKβ関連キナーゼ活性を強力に刺激したのに対して、TPAへの応答はより弱かった。TNFまたはIL-1のいずれかによるIKKβ活性化の速度論は、同様のプロトコルによって測定したIKKα関連IκBキナーゼの活性化の速度論と本質的に同一であった。
2.IKKαとIKKβとの間の機能的相互作用
実施例1に示すように、IKKαおよびIKKβは、いくつかのクロマトグラフィー工程を通じて、約1:1の比で同時精製し、このことは、2つのタンパク質が互いに相互作用することを示唆する。IKKサブユニットの機能的複合体において相互作用する能力および他のサブユニットの活性における各サブユニットの効果を、Flag(M2)-IKKαまたはM2-IKKαおよびHA-IKKβを単独または組み合わせのいずれかでコードする発現ベクターでトランスフェクトした293細胞を用いて試験した(Hoppら、Biotechnology 6:1204-1210(1988)を参照のこと)。24時間後、細胞の試料を、TNFで刺激し、溶解物を刺激した細胞および刺激していない細胞から調製し、そして溶解物の一部分を、抗Flag抗体(Eastman Kodak Co.;New Haven CT)で沈殿させ、そして別のタンパク質を、抗HA抗体で沈殿させた。IKKαおよびIKKβの異なる免疫複合体およびそれらの成分に関連するIKK活性を測定した。
【0150】
相当に多くの、基礎のIKK活性はFlag-IKKαを用いるよりHA-IKKβを用いて沈殿した。しかし、HA-IKKβに関連する活性を、M2-IKKαの同時発現においてさらに上昇させ、そしてFlag-IKKαに関連する低い基本活性を、IKKβの同時発現によってさらに増強した。イムノブロット分析は、このような同時発現の増強する効果は、IKKαまたはIKKβの発現のレベルにおける変化に起因しないことを明らかにした。
【0151】
IKKαおよびIKKβに関連するIKK活性のレベルを、漸増量のHA-IKKαまたはHA-IKKβ発現ベクター(0.1〜0.5μg/106細胞)で293細胞をトランスフェクトすることによって、およびTNF刺激(20ng/ml、5分)前または後に調製した細胞溶解物中の2つのタンパク質に関連するキナーゼ活性を決定することによって、より正確に比較した;GST-IκBα(1〜54)を基質として使用した。各タンパク質の発現のレベルを、イムノブロット分析によって決定し、そして特異的IKK活性の相対レベルを計算するために使用した。
【0152】
HA-IKKα関連IKKは、低レベルの基本特異的活性を有するのに対して、HA-IKKβの発現は、より高い量のHA-IKKβを発現した場合に増加する高い基本比活性を生じた。しかし、TNFで刺激した細胞から単離したIKKαまたはIKKβのいずれかに関連する特異的IKK活性は非常に類似し、そしてそれらの発現レベルにあまり影響しなかった。これらの結果は、ネガティブ調節因子の滴定または恒常的に活性なIKK複合体の形成が、IKKβの過剰発現に起因して生じ得ることを示す。
【0153】
IKKαおよびIKKβの生理学的に相互作用する能力を試験した。イムノブロット分析は、抗HA抗体を用いるHA-IKKβの沈殿が、Flag-IKKαでの同時刺激後に検出される同時沈殿するより高い量のIKKαによって示されるように、両方の内因性IKKαを同時沈殿し、そしてFlag-IKKαを同時発現することを実証した。同様に、抗Flag(M2)抗体とのFlag-IKKαの免疫沈降は、同時トランスフェクトしたHA-IKKβの同時沈殿を生じた。細胞のTNFへの暴露は、IKKαおよびIKKβの関連に優位な効果を有さなかった。
【0154】
IKKαとIKKβとの間の相互作用を、種々の量(0.1〜1.0μg/106細胞)のHA-IKKβベクターでHeLa細胞をトランスフェクトすることによってさらに試験した。24時間後、細胞を、20ng/mlのTNFの非存在または存在下で、5分間インキュベートし、次いで溶解した。溶解物を、IKK活性について、ならびにHA-IKKβおよび内因性IKKαの量について試験した。漸増量のHA-IKKβの発現はより高い基本レベルのIKK活性、および漸増量の同時沈殿したIKKαを生じた。TNF刺激したIKK活性のレベルはIKKβ過剰発現に対する応答をわずかに増加し、そしてTNFは、IKKβおよびIKKαの関連における効果を全く有さなかった。
【0155】
上記の結果は、HA-IKKβが内因性IKKαに関連して、機能的サイトカイン調節性IKK複合体を生成することを明らかにしたので、この関連を、空の発現ベクターまたは少量(1μg/60mmプレート)のHA-IKKαまたはHA-IKKβベクターのいずれかでHeLa細胞をトランスフェクトすることによってさらに試験した。24時間後、トランスフェクトした細胞の集団の試料を、20ng/mlのTNFで5分間刺激し、次いで細胞溶解物を調製し、そしてSUPEROSE6カラムにおけるゲルろ過によって分離した。各カラム分画の一部分を、IKKαに特異的なポリクローナル抗体で免疫沈降し、そしてIKKα関連IKK活性についてアッセイした。一方、第2部分を、抗HA抗体で沈殿させ、そしてHA-IKKβ関連IKK活性またはHA-IKKα関連IKK活性について試験した。相対的比活性を、複合体を免疫沈降し、SDS-PAGEによりタンパク質を分離して、IMOBILON膜(Millipore;Bedford MA)上へタンパク質をブロッティングし、抗HA抗体でイムノブロットし、そしてリン酸画像化(phosphoimage)によるIκBリン酸化およびHAタグ化タンパク質のレベルを定量することによって決定した。結果は、内因性IKKα関連IKK活性が2つの複合体(約900kDaの大きな複合体および約300kDaの小さな複合体)として存在することを実証した。TNFでの刺激は、増加の程度が900kDaの複合体についてかなり大きいが、両方の複合体のIKK活性を増加した。
【0156】
HA-IKKβ関連IKK活性は、IKKα関連活性と正確に同じ寄与を有し、これは900kDaおよび300kDaで溶出し、そして再び、TNF応答性の程度は、900kDaの複合体についてかなり大きかった。空のベクターでトランスフェクトした細胞におけるIKKα関連活性に対する比較は、HA-IKKβ発現によって小さな300kDaのIKK複合体に関連するIKK活性の相対量において、適度な約2倍の増加が生じたことを示した。これらの結果は、300kDaのIKK複合体が、900kDaの複合体のように、IKKαおよびIKKβの両方を含むことを示す。しかし、300kDaは、900kDaの複合体に存在するほかのサブユニットを欠失する。IKKを過剰発現した場合、小さな複合体の相対量が増加し、大きな複合体に独特であるいくつかのサブユニットは、限定量で存在することを示す。
3.IKK活性に対するIKKαおよびIKKβの両方の寄与
IKKαおよびIKKβのIKK活性に対する相対寄与を、変異体サブユニットを構築することによって試験し、ここで各サブユニットの44位に存在するリジン(K)コドンを、それぞれメチオニン(M)またはアラニン(A)のいずれかについてのコドンで置換した。他のタンパク質キナーゼにおける同様の変異は、結合ATPにおける酵素欠損を付与し、それゆえ触媒的に不活性である(Taylorら、Ann.Rev.Cell.Biol.8:429-462(1992))。IKK変異体の活性を、基質としてGST-IκBα(1〜54)を用いて、網状赤血球溶解物における無細胞翻訳によるそれらの野生型(wt)対応物の活性と比較した。IKKα(KM)の翻訳は、wt IKKαの翻訳によって形成されたIKKよりわずかに少ない活性のみを有するIκBキナーゼの形成を生じた。比較して、IKKβ(KA)の翻訳は、IKK活性を生成しなかった。wt IKKβの翻訳は、予測したようにIκBキナーゼ活性を生成した。
【0157】
異なるタンパク質の活性もまた、哺乳動物細胞における一過性トランスフェクションによって試験した。HA-IKKα(KM)の発現および免疫沈降は、サイトカイン刺激したIKK活性の単離を生じ、これは、TNF刺激後、TNF刺激した細胞から単離したwt HA-IKKαによって形成されたIKKの活性より、2〜3倍低かった。同様に、HA-IKKβの発現および免疫沈降は、サイトカイン応答性IKK活性の形成を生じ、これは、TNF刺激後、TNF刺激した細胞から単離したwt HA-IKKβによって生成されたIKKの活性より3〜5倍低かった。しかし、wt HA-IKKβの過剰発現により得られた結果と対照的に、HA-IKKβ(KA)の過剰発現は、基本IKK活性の生成を生じなかった。免疫沈降試験は、IKKα(KM)はIKKβに関連し、そしてIKKβ(KA)はIKKαに関連し、そしてIKKαおよびIKKβの両方は、ヘテロタイプの相互作用を生じるのと同じ効率でホモタイプの相互作用を生じることを明らかにした。
【0158】
wtおよびキナーゼ欠損のHA-IKKαおよびHA-IKKβの自己リン酸化を、一過性にトランスフェクトしたHeLa細胞で試験した。これらのタンパク質を発現するHeLa細胞を、TNFで10分間処理し、次いでTNF処理またはTNF非処理の細胞の細胞溶解物を、HA抗体で免疫沈降し、そして免疫複合体をリン酸化反応に供した(DiDonatoら、前出、1997)。wt HA-IKKαおよびwt HA IKKβの両方をリン酸化し、そしてその自己リン酸化を、TNF刺激抽出物で増強した。対照的に、キナーゼ欠損IKKαまたはIKKβ変異体は、有意な自己リン酸化を示さなかった。
4.IKKαおよびIKKβにおける、IZおよびHLHモチーフの役割
IKKαおよびIKKβは、両方とも、ロイシンジッパー(LZ)およびヘリックス-ループ-ヘリックス(HLH)モチーフを含み、これらは、その疎水性表面を介するタンパク質-タンパク質相互作用を媒介することが公知である。IKKサブユニット相互作用におけるLZモチーフの役割を、LZ領域内のL462およびL469残基がセリン残基に置換されたIKKα変異体を用いて試験した。HLHモチーフの役割を、L605のアルギニン(R)への置換、およびF606のプロリン(P)への置換を含むIKKαのHLH変異体を使用して試験した。IKKαLZおよびHLH変異体の活性を、単独または同時トランスフェクションされたFlag-IKKαの存在下のいずれかで、293細胞において、一過性のトランスフェクションによって試験した。
【0159】
wt HA-IKKαの発現は、抗HAでの免疫沈降によって単離された実質的なIKK活性を生成し、一方、非常に小さいIKK活性は、IKKα(LZ)変異体またはHA-IKKα(HLH)変異体のいずれかでトランスフェクトした細胞で生成した。Flag-IKKβを有する変異体IKKサブユニットの同時発現は、HA-IKKαの免疫沈降によって単離されたIKK活性の実質的な増加を生じたが、HA-IKKα(LZ)で同時沈降された非常に低い活性に対しては効果を有さなかった。しかし、Flag-IKKβの同時発現は、HA-IKKα(HLH)と結合して低いレベルのIKK活性を刺激した。抗Flag(M2)抗体を有するHA免疫複合体をプローブすることにより、wt HA-IKKαおよびHA-IKKα(HLH)は両方とも、同量のFlag-IKKβと結合したが、HA-IKKα(LZ)変異体はFlag-IKKβと結合しなかったことが示された。これらの結果は、IKKα(LZ)変異体と結合した、より低いIκBキナーゼ活性が、IKKβと相互作用するその能力における欠損に起因することを示す。一方、IKKα(HLH)変異体の、より低いIκBキナーゼ活性は、第2の規定されていないタンパク質と相互作用するその能力の欠損に起因するようである。なぜなら、HLH変異体は、IKKβと相互作用し得るからである。
5.IKKαおよびIKKβはともにNF-kB活性化に必要である
NF-kB活性化に対するIKKαおよびIKKβの寄与を、HAタグ化wt IKKα、IKKα(KM)、wt IKKβおよびIKKβ(KA)をコードする発現ベクターでトランスフェクトしたHeLa細胞を使用して、試験した;HA-JNK1ベクターを、コントロールとして使用した。NF-kB活性化を、間接免疫蛍光によりRelA(p65)の細胞性分布を試験することによって評価した。
【0160】
HeLa細胞を、増殖培地中のガラスカバースリップ上で増殖させ、次いで、リポフェクタミン法によって1μgのプラスミドDNAでトランスフェクトした。24時間後、細胞のサンプルを、20ng/ml TNFで30分間刺激し、次いで、刺激したまたは刺激していない細胞をPBSで洗浄し、そしてPBS中の3.5%のホルムアルデヒドで15分間、室温(RT)で固定した、固定した細胞を、PBS中0.02%のNP-40で1分間浸透させ、次いで100%ヤギ血清で、4℃で12時間、インキュベートした。次いで細胞をPBSで3回洗浄し、そして1%のBSAおよび0.2%のTRITON X-100を含むPBS中の、ウサギ抗NF-kB P65(RelA)抗体(1:100希釈;Santa Cruz Biotech)およびマウスモノクローナル抗HA抗体の混合物と、37℃で2時間インキュベートした。次いで、細胞を、0.2%のTRITON X-100を含むPBSで3回洗浄し、そして二次抗体、フルオレセイン結合ヤギアフィニティー精製抗マウスIgG-IgM、およびローダミン結合IgG画分ヤギ抗ウサギIgG(1:200希釈;Cappel)とともに、2時間RTでインキュベートした。細胞を、0.2%のTRITON X-100を含むPBSで4回洗浄し、次いで1滴のゲルバトール(gelvatol)マウント溶液でカバーし、そして観察し、そしてフルオレセインおよびローダミン特異的フィルターを用いてエピフルオレセンスを設置したZeiss Axioplan顕微鏡を使用して写真撮影した。
【0161】
抗RelAおよび抗HAの両方での二重染色は、中程度の量のwt IKKαまたはwt IKKβのいずれかの発現が、RelA核移行の顕著な刺激を示さなかったことを明らかにした。さらに、wt IKKタンパク質は、TNF処理によって誘導されたRelAの核移行を妨害しなかった。しかし、同じレベルの発現のIKKα(KM)またはIKKβ(KA)のいずれかは、蛍光シグナルの強度によって決定されるように、TNF処理細胞のRelAの核移行を阻害した。HA-JNK1の発現は、RelAのサブ細胞性分布に対して効果を有さなかった。RelAのサブ細胞性分布はIκBの状態および量に依存するので、これらの結果は、IKKα(KM)またはIKKβ(KA)のいずれかの発現がIκBリン酸化の誘導およびTNFによる分解を阻害することを示す。
【実施例4】
【0162】
IκBキナーゼ複合体の単離
この実施例は、IKKαポリペプチドを含む900 kDaのIκBキナーゼ複合体を単離するための方法を示す。
【0163】
インビボでIKKαと結合したタンパク質を、HIS6およびFLAGエピトープタグを使用して、免疫沈降によって単離した。HIS6-FLAG-IKKα(HF-IKKα)コード構築物を、6ヒスチジン残基(HIS6)、FLAGエピトープ、およびタンデム内の第Xa因子部位をコードする二本鎖オリゴヌクレオチド、5’ -AGCTTGCGCGTATGGCTTCGGGTCATCACCATCACCATCACGGTGACTACAAGGACGACGATGACAAAGGTGACATCGAAGGTAGAGGTCA-3’ (配列番号16)を使用して調製した。オリゴヌクレオチドを、IKKαコード配列のN末端とともに、インフレームで、HindIII-NdeI部位を使用して、BLUESCRIPT KSプラスミド(Stratagene;La Jolla CA)に挿入した、このプラスミドのHindIII-NotIフラグメント(これは、HF-IKKα cDNA配列を含む)を、ネオマイシン耐性を与える核酸配列を含むpRcβアクチン哺乳動物発現ベクターにサブクローニングし、プラスミドpRc-HF-IKKαを産生させた。HF-IKKαポリペプチドの発現を、抗FLAG抗体を使用してウェスタンブロット分析によって確認した。
【0164】
pRC-HF-IKKαを、ヒト胚性腎臓293細胞にトランスフェクトし、そしてトランスフェクトされた細胞を、G418の存在下での増殖について選択した。低基準レベルのIKK活性が、HF-IKKαを発現する細胞中で検出され、そしてIKK活性は、細胞をTNFαで処理した場合に数倍増加した。この結果は、293細胞におけるHF-IKKα発現が、細胞におけるIKK活性と関連すること、およびこのようなIKK活性はTNFαへの応答において誘導性であることを示す。
【0165】
HF-IKKαを発現する293細胞を選択し、そして約4×108細胞に拡大した。細胞を10ng/mlのTNFαで5分間処理し、次いで、2500×gの遠心分離によって氷冷PBS中で採集した。細胞ペレットを氷冷PBSで洗浄し、溶解緩衝液((20mM Tris、pH 7.6)、150mM NaCl、1% TRITON X-100、20 mMβ-グリセロリン酸、2mM PNPP、1mM Na3VO4、5mM β-メルカプトエタノール、1mM EDTA、0.5 mM EGTA、1mM PMSF、3μg/mlペプスタチン、3μg/mlロイペプチン、10μg/mlペスタチン、および25μg/mlアプロチニン)に再懸濁し、そしてガラスDounceホモジナイザー中で20回ストロークすることによって溶解した(すりつぶした物 A)。
【0166】
均質物を、Beckman SS34ローターで30分間、4℃にて15,000 rpmで遠心分離した。上清を回収し、20 mMイミダゾールおよび300 mM NaClを補充し、次いで0.5mlのNi-NTAの50%スラリー(ニッケルニトリロトリ酢酸;Qiagen, Inc.;Chatsworth CA)で混和し、そして4時間4℃で撹拌した。インキュベーション後、樹脂を200×gでペレット化し、そして上清を除去した。樹脂を、25mMイミダゾールを含む50mlの結合緩衝液で3回洗浄した。
【0167】
樹脂に結合したタンパク質を、150mMのイミダゾールおよび20mMのDTTを含む2mlの結合緩衝液で溶出した。溶出物を、SAPHAROSE樹脂に結合した100μlの50%スラリーの抗FLAG抗体で、AMINOLINK PLUS固定キット(Pierce Chem. Co.;Rockford IL)を使用して混和し、そして4時間4℃にて撹拌した。樹脂を1000×gでペレット化し、上清を除去し、そして樹脂を10 mlの結合緩衝液(イミダゾールを含まない)で洗浄した。次いで、樹脂に結合したタンパク質を、1%のSDSまたはFLAGペプチドで溶出し、そして10%のSDS-PAGEで試験した。
【0168】
銀染色により、HF-IKKαを含む、7つのタンパク質の存在が明らかになった。これは、ウェスタンブロット分析によって、抗FLAG抗体を使用して確認した。同時精製タンパク質は、約100 kDa、63 kDa、60 kDa、55 kDa、46 kDa、および29 kDaの明らかな分子量を有し;内因性87 kDa IKKβは、HA-IKKαタンパク質と共遊走する。これらの結果は、IKKαが、いくつかまたは全ての同時精製タンパク質とともに、900 kDa IκBキナーゼ複合体を含むことを示す。
【実施例5】
【0169】
抗IKK抗血清
本実施例は、抗IKK抗血清を産生する方法を提供する。
【0170】
抗IKKα抗体を、E.coli中で発現したHisタグ化IKKαまたはIKKαペプチドERPPGLRPGAGGPWE(配列番号17)またはTIIHEAWEEQGNS(配列番号18)のいずれかを免疫原として使用してウサギで惹起させた。抗IKKβ抗体を、ペプチドSKVRGPVSGSPDS(配列番号19)を使用して惹起させた。ペプチドを、キーホールリンペットへモシアニン(Sigma Chemical Co.;St. Louis MO)に結合させた。ウサギを、完全フロイントのアジュバントにおいて250〜500μgの結合したペプチドで免疫した。最初の免疫の3週間後、50〜100μgの免疫原を使用して追加免疫を行い、そして追加免疫を3回、3〜4週間毎に行った。ウサギの血液を、最終追加免疫の1週間後に採取し、そして抗血清を回収した。抗IKKα抗血清は、IKKαに特異的であり、そしてIKKβと交差反応しなかった。
【実施例6】
【0171】
薬物スクリーニングアッセイにおけるIKKサブユニットの使用
この実施例は、IKKサブユニットの結合を変化させる薬物、およびIKKサブユニットに特異的に結合する第2のタンパク質のような因子のスクリーニングについてのアッセイを記載する。
【0172】
GST-IKKサブユニット融合タンパク質またはHIS6-IKKサブユニット融合タンパク質を、上記の方法を使用して調製し得、そしてグルタチオン-クロマトグラフィーまたは金属キレートクロマトグラフィーをそれぞれ使用して、精製し得る(SmithおよびJohnson, Gene 67;31-40(1988)、これは、本明細書中で参考として援用される;実施例IVもまた参照のこと)。融合タンパク質を、GSTの特異的にグルタチオンを結合する能力、またはニッケル(Ni)イオンもしくはコバルト(Co)イオン(Clonetech)のような金属イオンを、固定化された金属アフィニティークロマトグラフィーによってキレートするHIS6ペプチドの能力が優れた固体支持体に固定化する。あるいは、抗IKK抗体をマトリックス上に固定化し、そしてIKKαを抗体に結合させ得る。
【0173】
第2のタンパク質、これは、例えば、IκBであり得るか、または900kDa IκBキナーゼの一部としてIKKサブユニットとともに同時精製するタンパク質を、蛍光分子または放射標識のような部分で検出可能に標識し得(Hermanson、前出、1996)、次いで実施例I荷記載のような、IκBがIKKサブユニットと特異的に結合させ得る条件下で固定化されたIKKサブユニットと、溶液中で接触させ得る。好ましくは、反応を、反応を自動的に検出し得る96ウェルプレート中で行う。薬物のような種々の因子を、IKKサブユニットおよびIκBの結合を変化させる能力についてスクリーニングする。
【0174】
例えば、因子および標識化IκBを、固定化されたIKKサブユニットとともに添加し、インキュベートして結合させ、次いで洗浄して非結合標識化IκBを除去し得る。スクリーニングされる因子の存在下と比較して、非存在下の標識化IκBの結合相対量を、プレートに残った標識の量を検出することによって決定する。適切なコントロールを、例えば、標識化IκBのマトリックスへの非特異的結合を説明するために行った。このような方法は、IKKサブユニットおよびIκBのような第2のタンパク質の結合を変化させる因子の同定を可能にする。
【0175】
あるいは、標識化IκBまたは他の適切な第2のタンパク質を、固定化されたIKKサブユニットに添加しおよび結合させ得、次いで、因子を添加し得る。このような方法は、IKKサブユニットおよびIκBを含む結合複合体の遊離を誘導し得る因子の同定を可能にする。同様に、本発明のスクリーニングアッセイを、IKKサブユニットを含む900kDa IKK複合体を使用して行い得る。
【0176】
本発明は上記の実施例を参照して記載されているが、種々の変更が本発明の精神から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1A−1C】図1は、IKK複合体の全長ヒトIKKαサブユニットのヌクレオチド配列(配列番号1;小文字)および推定のアミノ酸配列(配列番号2;大文字)を示す。ヌクレオチド位置は、配列の右および左に示す;開始メチオニンをコードするATGの「A」を、1位として示す。下線を付したアミノ酸残基は、配列決定されそしてオリゴヌクレオチドプローブを設計するために使用されたタンパク質のペプチド部分(「ペプチド1」および「ペプチド2」)を示す。アスタリスクは終止コドンをコードする配列を示す。
【図2A−2C】図2は、全長IKKβポリペプチド(図3を参照のこと)をコードするヌクレオチド配列(配列番号14)を示す。配列の左および右の数字は、ヌクレオチド位の番号を示す。開始ATGコドンは、ヌクレオチド36〜38に存在し、そして第一の終止コドン(TGA)は、ヌクレオチド2304〜2306に存在する。
【図3】図3は、IKKα(「α」、配列番号2)およびIKKβ(「β」、配列番号15)の推定アミノ酸配列の整列を示す。配列の右の番号は、それぞれのアミノ酸位を示す。下線を付したアミノ酸残基は、配列決定されそしてESTデータベースでの検索に使用したIKKβサブユニットのペプチド部分を示す(実施例IIIを参照のこと)。アミノ酸残基間の垂直線は、同一のアミノ酸を示す;アミノ酸残基間の2つのドットは、非常に類似したアミノ酸(例えば、GluおよびAsp;ArgおよびLys)を示し、そしてアミノ酸残基間の1つのドットは、低い程度の類似性を示す。アミノ酸配列間のドットは、配列相同性を維持するために導入されたスペースを示す。N末端側の半分の配列におけるキナーゼドメインおよびC末端側の半分の配列におけるヘリックス−ループ−ヘリックスドメインには括弧を付け、そしてロイシンジッパーに関与するロイシン残基を、IKKα配列の上の黒丸によって示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された核酸分子であって、配列番号15に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を含む、核酸分子、または配列番号14に示されるヌクレオチド配列を含む、核酸分子;
該核酸分子の少なくとも1つを含むベクター; 或いは
該ベクターを含む、宿主細胞
を含有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記核酸分子が、一本鎖ポリヌクレオチドまたは二本鎖ポリヌクレオチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ベクターが発現ベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
NF-κBのインヒビター(IκBα)をリン酸化するため、又は該リン酸化を防止するための、請求項1から5の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
セリン32及び/又はセリン36においてNF-κBのインヒビター(IκBα)をリン酸化するため、又は該リン酸化を防止するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
配列番号15に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を含むアンチセンス核酸分子を含有する、IκBキナーゼをコードする核酸分子の発現を調整するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
配列番号14に示されるヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を含む核酸分子を含有する、NF-κBのインヒビター(IκBα)のリン酸化を調整するための医薬組成物。
【請求項10】
前記核酸分子が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列又はそれに相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項9の医薬組成物。
【請求項11】
前記核酸分子が、一本鎖ポリヌクレオチドまたは二本鎖ポリヌクレオチドである、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を含むアンチセンス核酸分子を含有する、IκBキナーゼをコードする核酸分子の発現を阻止するための請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
配列番号1に示されるヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を含むアンチセンス核酸分子を含有する、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記アンチセンス核酸分子が、ベクター中に存在する、請求項7〜13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ベクターは発現ベクターである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ベクターはウィルスベクターである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ベクターが宿主細胞に含有されている、請求項14〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む、単離されたIκBキナーゼβ(IKKβ)サブユニットを含有する、医薬組成物。
【請求項19】
前記単離されたIκBキナーゼβ(IKKβ)サブユニットは、IκBαのセリン32およびセリン36位をリン酸化し、そして還元条件下での8%ゲル中のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって決定される場合、87キロダルトンの見かけの分子量を有する、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
IκBαをリン酸化するための、請求項18又は19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
IκBαのセリン32および/またはセリン36をリン酸化するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む単離されたヒトIκBキナーゼα(IKKα)を含有する、IκBαをリン酸化するための医薬組成物。
【請求項23】
前記単離されたヒトIκBキナーゼα(IKKα)が、IκBαのセリン32およびセリン36位をリン酸化し、そして還元条件下での8%ゲル中のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって決定される場合、約85キロダルトンの見かけの分子量を有する、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
免疫原として、配列番号17又は18に示すアミノ酸配列からなるペプチドを使用することにより調製される、IκBキナーゼα(IKKα)に特異的に結合する抗体。
【請求項25】
請求項24に記載の抗体を産生する細胞株。
【請求項26】
ハイブリドーマ細胞株である、請求項25に記載の細胞株。

【図3】
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【公開番号】特開2008−115164(P2008−115164A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260506(P2007−260506)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【分割の表示】特願平10−536953の分割
【原出願日】平成10年2月23日(1998.2.23)
【出願人】(507330235)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (1)
【Fターム(参考)】