説明

ICカード通信モジュール、及び、ICカード通信方法及びコンピュータプログラム

【課題】機器とICカードがUSBで通信する場合、ICカードとやりとりする通信量の大きさを、ICカードと通信する時の状況に合わせて調整することができるICカード通信モジュールを提供する。
【解決手段】SIM1との通信を制御するICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、SIM1とやりとりする通信量(パケットデータのサイズ)を下限値から始めて、通信量に定数(64バイト)を加えることで通信量を大きくし、通信量を変更するごとに、SIM1と一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した通信時間が最も小さくなったときの通信量を最適値として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードとUSBで通信するための技術に関し、更に詳しくは、ICカードとやりとりする通信量を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ICカードに実装されたICチップ近傍を短冊状に切り取ったSIM(Subscriber Identity Module)は、機器に組み込まれ、機器で利用するデータを暗号化/復号するデバイスとして利用されている。
【0003】
SIMを機器に組み込む一例として、同一出願人は、インターネットに接続できる監視カメラ2にSIMを搭載し、監視カメラ2が撮像した動画をSIMで暗号化するシステムを出願している(特許文献1)。
【0004】
監視カメラ2などの機器とSIMとを組み合わせることで、データを暗号化するために施す機器の変更点が最小限に抑えられ、更に、暗号アルゴリズム交換も容易になるメリットが生じる。
【0005】
しかしながら、SIMの通信速度は、標準で9600bpsと一般的なコンピュータの周辺機器の通信速度やネットワークの通信速度と比べて非常に遅く、機器にSIMを組み込み利用する際は、機器とSIM間の通信時間がボトルネックとなってしまうため、特許文献2で開示されているようなUSBインターフェースを搭載し、通信速度を飛躍的に向上させることの可能なICチップが開発されている。
【特許文献1】特願2005−108601号公報
【特許文献2】特表2003−532936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、ICチップの通信インターフェースをUSBインターフェースとすることで、機器とICカード間の通信速度は向上する。しかし、機器ごとに、USBで接続される周辺装置が異なるため、ICカードとやりとりできる最大の通信量(データ)の大きさはその時の状況によって異なる。
【0007】
そこで、本発明は、機器とICカードがUSBで通信する場合、ICカードとやりとりする通信量(データ)の大きさを、ICカードと通信する時の状況に合わせて調整することができるICカード通信モジュール、ICカード通信方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明は、ICカードとUSBで通信する機器に組み込まれ、前記機器に装着される前記ICカードとの通信を制御するICカード通信モジュールであって、前記ICカード通信モジュールは、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整手段を備えていることを特徴とする。
【0009】
更に、第2の発明は、ICカードとUSBで通信するICカード通信方法であって、前記ICカード通信方法は、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整工程を備えていることを特徴とする。
【0010】
更に、第3の発明は、ICカードとUSBで通信するコンピュータに組み込まれ、前記ICカードとの通信を制御するコンピュータプログラムであって、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整手段として、前記機器を機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0011】
なお、本発明において、ICカードとは、ICチップが実装されたカード媒体を意味し、上位装置と通信するためのインターフェースは接触/非接触を問うものではない。更に、本発明に係るICカードには、ICチップの周辺を短冊状に切り取ったSIM或いはUIMも含まれる。
【発明の効果】
【0012】
上述した発明によれば、ICカードとやりとりするとき、小さな通信量から始めて徐々に通信量を増やしていくため、ICカードと通信する時の状況に合わせて調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここから、本発明に係るICカード通信モジュールを組み込んだコンピュータ機器の一例として、機器を監視カメラとしたときの形態について説明する。図1は、本発明に係るICカード通信モジュール20を組み込んだ監視カメラ2を説明する図である。
【0014】
監視カメラ2が撮像した映像の動画ファイルの漏洩と動画ファイルの改ざんとを防止するために、SIM1は映像の動画ファイルを暗号化する暗号モジュールとして利用され、監視カメラ2は、撮影した映像の動画ファイルを小さなパケットデータに分割してSIM1へ送信し、SIM1が、DESを用いて暗号化したパケットデータをメモリカード3に記録する。
【0015】
監視カメラ2に装着されるSIM1は通信インターフェースとしてUSBインターフェースを備え、USBインターフェースを用いてSIM1と通信するために、監視カメラ2には、本発明に係るICカード通信モジュール20が組み込まれている。
【0016】
更に、SIM1は、特許文献3で開示されている発明が適用されたICカードで、SIM1は、ISOモードとデータモードの2つのモードを有し、SIM1のモードをISOモードからデータモードへ遷移させるコマンドであるモード変更コマンド10を備える。
【特許文献3】特願2006−175441号公報
【0017】
図2は、SIM1のモードを説明する図である。図2に図示したようにISOモードでは、SIM1と監視カメラ2間でAPDUが交換され、ISOモードで、モード変更コマンド10のコマンドAPDUをSIM1が受信したとき、SIM1のモードは、ISOモードからデータモードに遷移し、データモードでは、パケットデータとパケットデータの暗号文のみが交換される。
【0018】
監視カメラ2に備えられたICカード通信モジュール20は、監視カメラ2が撮像した動画ファイルを暗号化してメモリカード3に記憶するとき、SIM1とやりとりするときの通信量となるパケットデータのサイズを小さなサイズから送信を始めて、徐々にパケットデータのサイズを大きくし、SIM1に送信するパケットデータのサイズを最適値に調整する機能を備える。
【0019】
図3は、SIM1をデータモードに遷移させるモード変更コマンド10のコマンドAPDUの一例を示した図である。
【0020】
図3で示しているように、本実施の形態において、モード変更コマンド10のコマンドAPDUの構造は、ISO/IEC7816規格のCase3のコマンド構造で、CLA、INS、P1及びP2とから成るコマンドヘッダと、Lc及びデータフィールドとから成るボディとから構成される。
【0021】
モード変更コマンド10のコマンドAPDUのヘッダーに含まれるCLAとINSは、コマンドAPDUを識別するためのデータで、本実施の形態において、モード変更コマンド10のCLAは「D0h」で、INSは「00h」である。
【0022】
モード変更コマンド10のコマンドAPDUのヘッダーに含まれるP1およびP2は、モード変更コマンド10が実行されるときのパラメータで、本実施の形態においては、P1及びP2とも使用せず、その値はそれぞれ固定で「00h」である。
【0023】
モード変更コマンド10のボディのLcは、データフィールドに含まれるデータの長さを示し、データフィールドには、データモードで送信されるパケットデータのサイズ(2バイト)と、パケットデータの送信回数(2バイト)が含まれる。
【0024】
図4は、モード変更コマンド10のレスポンスAPDUの一例を示した図で、SIM1が暗号化したパケットデータの数が、モード変更コマンド10で示される送信回数に達したとき、SIM1のモードはISOモードに遷移し、トレイラとして、モード変更コマンド10の処理結果を示しSWと、ボディとして、最後に受信したパケットデータの暗号文を含むレスポンスAPDUを生成する。
【0025】
次に、監視カメラ2に組み込まれるICカード通信モジュール20について説明する。図5は、監視カメラ2に組み込まれるICカード通信モジュール20を説明する図である。
【0026】
ICカード通信モジュール20は、USBコントローラなどの電子部品が実装されたインターフェースボードなどで実現され、このICカード通信モジュール20には、物理的なインターフェースであるUSBインターフェース21を制御するUSBコントローラ201と、監視カメラ2の画像処理ボードとUSBコントローラ201を仲介し、監視カメラ2がSIM1の機能を利用するときの窓口となるサービスプロバイダ200を備える。
【0027】
USBコントローラ201は、USBインターフェース21を監視し、USBの通信プロトコルを実現する機能を有している。サービスプロバイダ200は、監視カメラ2の画像処理ボードがSIM1の機能を利用するときのAPI(API: Application Program Interface)を提供し、監視カメラ2の画像処理ボードから送信されるパケットデータを、SIM1を用いて暗号化し、暗号化したパケットデータを監視カメラ2の画像処理ボードに返信する機能を有する。
【0028】
サービスプロバイダ200は、本発明に係る通信量調整手段の機能を有し、SIM1へパケットデータを送信する際、小さなサイズのパケットデータから送信を始めて、徐々にパケットデータのサイズを大きくし、SIM1に送信するパケットデータの最適なサイズを調査し、最適なサイズでパケットデータをSIM1に送信する。
【0029】
サービスプロバイダ200が有する通信量調整手段の機能は、ICカード通信モジュールに実装されるCPLD(Complex Programmable Logic Device)に組み込まれ、通信量調整手段として機能するためのコンピュータプログラムで実現される。
【0030】
図6は、ICカード通信モジュール20の動作の手順を示したフロー図である。この手順で実行される最初のステップS1は、パケットデータのサイズを調整するときに利用する変数を初期化するステップである。
【0031】
このステップで、SIM1にパケットデータを送信するときの変数は、パケットサイズ、パケットサイズの下限値/上限値、最適パケットサイズ、最小通信時間、計測通信時間である。
【0032】
パケットサイズとは、SIM1がデータモードに遷移しているとき、SIM1に送信するパケットデータのサイズが代入される変数で、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、SIM1にパケットデータを送信するとき、パケットサイズを下限値から始めて、徐々にパケットサイズの値を大きくしていき、パケットサイズを最適値に調整する。
【0033】
計測通信時間は、パケットデータをSIM1に送信し暗号化したときに、SIM1との通信に要した時間、すなわち、パケットデータの送信に要した時間と、SIM1からパケットデータの暗号文を受信するのに要した時間の合計が代入される変数で、最小通信時間は、パケットデータのサイズを変更したときに、最も小さい計測通信時間が代入され、最も小さい計測通信時間ときのパケットサイズが最適パケットサイズに代入される。
【0034】
ここでは、パケットサイズの下限値は64バイト、上限値は1024バイトで、このステップでパケットサイズは下限値に設定される。また、最適パケットサイズの初期値を0バイトに設定され、最小通信時間は2の31乗に設定される。
【0035】
次のステップS2は、モード変更コマンド10をSIM1に送信するステップである。このステップで、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、SIM1に送信するパケットデータのサイズを最適値に調整するために、送信回数を10回、パケットのサイズをパケットサイズとしたモード変更コマンド10をSIM1に送信する。
【0036】
このステップで、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200がモード変更コマンド10を送信することで、SIM1のモードは、ISOモードからデータモードに遷移する。
【0037】
次のステップS3は、パケットデータをSIM1に送信し、パケットデータを暗号化するステップである。このステップでは、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、計測通信時間を初期化した後、ステップS3のモード変更コマンド10で設定したサイズのパケットデータを、設定した送信回数(ここでは、10回)だけ送信し、データモードに遷移したSIM1にパケットデータを暗号化させる。
【0038】
このステップで、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、パケットデータをSIM1に送信するごとに、パケットデータの送信に費やした時間と、SIM1から送信されるパケットデータの暗号文の受信に費やした時間を計測通信時間に加算する。すなわち、このステップが実行された後の計測通信時間は、パケットデータを10回暗号化したときに費やした通信時間の合計となる。
【0039】
次のステップS4は、最小通信時間と計測通信時間を比較するステップである。このステップで、計測通信時間が最小通信時間よりも小さいときはステップS5に進み、計測通信時間が最小通信時間以上であるときは、ステップS6に進む。
【0040】
ステップS5は、最小通信時間と最適パケットサイズの値を更新するステップで、このステップでは、ステップS3で得られた計測通信時間の値を最小通信時間に代入し、ステップS3で利用したパケットサイズの値を最適パケットサイズに代入する。このステップが実行された後は、ステップS6に進む。
【0041】
ステップS6は、パケットサイズを更新するステップである。このステップで、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、パケットサイズを徐々に大きくするために、パケットサイズに定数(ここでは、64バイト)を加算する。
【0042】
次のステップS7は、パケットサイズの値とパケットサイズの上限値を比較するステップである。このステップで、パケットサイズの値がパケットサイズの上限値よりも小さければステップS2に戻り、それ以外であればステップS8に進む。
【0043】
ステップS8は、モード変更コマンド10をSIM1に送信するステップである。このステップで、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、データフィールドの送信回数を無制限、データフィールドのパケットデータのサイズを最適パケットサイズの値としたモード変更コマンド10をSIM1に送信する。
【0044】
次のステップS9は、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200が、パケットデータをSIM1に送信し、パケットデータを暗号化するステップである。このステップでは、ICカード通信モジュール20のサービスプロバイダ200は、SIM1を非活性化するまで、最適パケットサイズのパケットデータをSIM1に送信し、データモードに遷移したSIM1にパケットデータを暗号化させる。
【0045】
なお、本発明は、これまで説明した実施の形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
【0046】
上述した実施の形態では、ICカード(SIM1)とやりとりする通信量を、コマンドヘッダを含まないパケットデータのサイズとしていたが、コマンドヘッダを含むコマンドAPDUとし、コマンドAPDUに含まれるデータのサイズを最適値に調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ICカード通信モジュールを組み込んだ監視カメラを説明する図。
【図2】SIMのモードを説明する図。
【図3】モード変更コマンドのコマンドAPDUの一例を示した図。
【図4】モード変更コマンドのレスポンスAPDUの一例を示した図。
【図5】ICカード通信モジュールを説明する図。
【図6】ICカード通信モジュールの動作の手順を示したフロー図。
【符号の説明】
【0048】
1 SIM
10 モード変更コマンド
2 監視カメラ
20 ICカード通信モジュール
200 サービスプロバイダ
201 USBコントローラ
21 USBインターフェース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICカードとUSBで通信する機器に組み込まれ、前記機器に装着される前記ICカードとの通信を制御するICカード通信モジュールであって、前記ICカード通信モジュールは、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整手段を備えていることを特徴とするICカード通信モジュール。
【請求項2】
ICカードとUSBで通信するICカード通信方法であって、前記ICカード通信方法は、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整工程を備えていることを特徴とするICカード通信方法。
【請求項3】
ICカードとUSBで通信するコンピュータに組み込まれ、前記ICカードとの通信を制御するコンピュータプログラムであって、前記ICカードとやりとりする通信量を初期値から始めて、前記通信量に定数を加えることで前記通信量を大きくし、前記通信量を変更するごとに、前記ICカードと一定回数通信したときの通信時間を計測し、計測した前記通信時間が最も小さくなったときの前記通信量を最適値とする通信量調整手段として、前記機器を機能させるためのコンピュータプログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−134846(P2008−134846A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320752(P2006−320752)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】