説明

IH調理器

【課題】磁性材の分割プレートを接合した非磁性材製の容器を均一に加熱する。
【解決手段】IH調理器30は、磁性材製の分割プレート14が周方向に沿って上段列をなすように複数並んでいると共に分割プレート16が周方向に下段列をなすように複数並んでいる銅釜10を加熱するものである。このIH調理器30は、上段及び下段コイル34,36と、これらのコイルの両端子に電力を供給可能な交流電源40とを備えている。上段コイル34は、上段列をなす分割プレート14の上側を周方向に沿って流れる電流の向きと、下側を周方向に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IH調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁誘導加熱(IH)方式により容器を加熱するIH調理器が広く利用されている。このようなIH調理器に用いられる被加熱容器の素材として、アルミ合金や銅合金などの非磁性材を用いる場合には、磁界を変化させても渦電流が発生しにくいことから、容器底面に鉄などの磁性材をろう付け又は熱間圧着等により接合したり鉄粉等を溶射して被膜を形成したりしている。また、特許文献1には、円形の磁性材を8等分した形状の分割プレートを底面に接合した非磁性材製の鍋が提案されている。この鍋は、誘導コイルが渦巻き状に配置されたIH調理器によって加熱される。こうすることにより、大判の磁性材から大きなプレートを1枚ものに打ち抜くことなく小さな分割プレートを互いに詰めた状態で切り出すことができるため、材料を無駄なく使うことができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−203070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、IH調理器の誘導コイルは、通常知られているように渦巻き状に一方向に巻いたものを使用するため、分割プレートの1つ1つに渦電流を発生させることができず、鍋底を均一に加熱することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、磁性材の分割プレートを接合した非磁性材製の容器を均一に加熱することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
すなわち、本発明のIH調理器は、所定方向に対して略平行で互いに離間した第1及び第2領域を持つ磁性材製の分割プレートが前記所定方向に沿って列をなすように複数並んでいる被加熱容器を加熱するIH調理器であって、コイルと、前記コイルの両端子に交流電力を供給可能な電力供給部と、を備え、前記コイルは、前記被加熱容器のうち一つの列をなす複数の前記分割プレートについて、各第1領域を仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、各第2領域を仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれているものである。
【0008】
このIH調理器では、被加熱容器の各分割プレートの中央付近において、第1領域と対向する位置を流れる電流によって生じる磁界の向きと、第2領域と対向する位置を流れる電流によって生じる磁界の向きとが同じになる。そのため、被加熱容器の分割プレートの1つ1つには、その向きとは反対方向の磁界が発生するように渦電流が発生し、ジュール熱が発生する。その結果、被加熱容器のうち複数の分割プレートが取り付けられた部分は分散して加熱されることになる。したがって、本発明のIH調理器によれば、磁性材製の分割プレートを接合した非磁性材製の容器を均一に加熱することができる。
【0009】
本発明のIH調理器は、前記被加熱容器として有底筒状の容器に適用されるものであり、前記容器の円筒側面及び/又は円形底面にて周方向に沿って列をなすように複数並んだ前記分割プレートを加熱するものとしてもよい。こうした被加熱容器としては、鍋や釜など立体的な形状の容器が挙げられる。特に、飴煮炊き用の釜は、飴が焦げ付きやすいことから、釜の底面全体を均一に加熱することが望ましいため、本発明を適用する意義が高い。
【0010】
本発明のIH調理器は、前記被加熱容器として平面部を含む容器に適用されるものであり、前記平面部にて直線方向に沿って列をなすように複数並んだ前記分割プレートを加熱するものとしてもよい。こうした被加熱容器としては、フライパンや卵焼き器など平面部で調理する容器が挙げられる。
【0011】
本発明のIH調理器において、前記コイルは、断熱材によって被覆されていることが好ましい。こうすれば、加熱された被加熱容器の温度を断熱材の効果によって維持しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】銅釜10の断面図である。
【図2】銅釜10の底面図である。
【図3】銅釜10をIH調理器30で加熱するときの様子を表す断面図である。
【図4】IH調理器30のコイルの斜視図である。
【図5】各分割プレート14,16に渦電流が発生した様子を表す銅釜10の底面図である。
【図6】釜本体12をIH調理器130で加熱するときの様子を表す断面図である。
【図7】卵焼き器60とIH調理器80とを表す斜視図である。
【図8】卵焼き器60をIH調理器80で加熱するときの様子を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は銅釜10の断面図、図2は銅釜10の底面図、図3は銅釜10をIH調理器30で加熱するときの様子を表す断面図、図4はIH調理器30のコイルの斜視図である。
【0014】
銅釜10は、上部に開口を有する釜本体12と、その釜本体12の開口を塞ぐ蓋18とを備えている。釜本体12は、有底筒状に形成され、底面が下方にやや膨らんだ形状のものである。この釜本体12の底面近くの円筒側面から円形底面にわたって、磁性材製(例えば鉄製)の分割プレート14,16が溶射されている。分割プレート14は、略長方形状であり、水平な周方向に沿って上段の列をなすように所定の間隔(例えば数mmから数cm)をあけて8枚並んで設けられている。この分割プレート14のうち、水平な周方向に対して略平行で互いに離間した2つの仮想領域を、第1領域14a及び第2領域14bと称する。また、分割プレート16は、略扇状であり、水平な周方向に沿って下段の列をなすように所定の間隔をあけて8枚並んで設けられている。分割プレート16のうち、水平な周方向に沿って略平行で互いに離間した2つの領域を、第1領域16a及び第2領域16bと称する。
【0015】
なお、釜本体12には、図示しないが、内部空間の温度を測定する熱電対が備え付けられている。また、蓋18は、釜本体12の開口を閉じた状態で図示しないクランプにより外れないように固定される。この蓋18には、図示しないが、銅釜10の内部空間を真空状態にする真空ポンプやその内部空間の真空度を測定する真空計、その内部空間と外部とを連通・遮断可能な脱気弁などが備え付けられている。
【0016】
IH調理器30は、銅釜10の釜本体12を受けることのできる凹曲面状に形成され、非磁性材(例えばアルミや非磁性のステンレスなど)製のケース32と、ケース32の内側上段に配置された上段コイル34と、ケース32の内側下段に配置された下段コイル36と、両コイル34,36を覆うように設けられた断熱層38と、両コイル34,36に電力を供給する交流電源40とを備えている。なお、断熱層38としては、加熱温度に耐えられる材料であれば特に限定されないが、例えばロックウールやグラスウールなどが挙げられる。上段コイル34と下段コイル36とは、配置位置や巻径、線間距離が異なる以外は同じであるため、以下には上段コイル34について説明する。
【0017】
上段コイル34は、図4に示すように、電線を一端34aから左回りに一巻きしたあとやや上方にずらし、再び左回りに一巻きしたあと大きく下方にずらし、今度は右回りに一巻きしたあとやや上方にずらし、再び右回りに一巻きして他端34dを一端34aのすぐ下になるようにしたものである。この上段コイル34のうち上半分34bは分割プレート14の第1領域14aと対向しており、下半分34cは分割プレート14の第2領域14bと対向している。また、上段コイル34の一端34aと他端34dとの間には交流電源40が接続されている。上段コイル34はこのように巻回されているため、例えば上段コイル34の一端34aから他端34dに向かって電流が流れる場合、上半分34bは左回りに電流が流れるが、下半分34cは右回りに電流が流れる。つまり、上段コイル34では、分割プレート14の第1領域14aを上段列に沿って仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、第2領域14bを仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている。一方、下段コイル36についても、上段コイル34と同様、分割プレート16の第1領域16aを上段列に沿って仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、第2領域16bを仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている。
【0018】
次に、本実施形態のIH調理器30の作用について図4に基づいて説明する。ここでは、上段コイル34の作用について説明する。例えば上段コイル34の一端34aから他端34dに向かって電流が流れる場合、上半分34bには左回りに電流が流れるため、分割プレート14の中央付近には半径方向内向きの磁界が発生する。また、下半分34cには右回りに電流が流れるため、分割プレート14の中央付近にはやはり半径方向内向きの磁界が発生する。すると、分割プレート14では、このように発生した磁界を打ち消すように渦電流が流れる(図4の太い点線矢印参照)。一方、下段コイル36についても、一端から他端に向かって電流が流れると、分割プレート16の中央付近では下段コイル36の上半分及び下半分によって同じ方向の磁界が発生するため、分割プレート16でも分割プレート14と同様に渦電流が流れる。このときの様子を図5に示す。なお、上段コイル34の他端34dから一端34aに向かって電流が流れ、且つ、下段コイル36の他端から一端に向かって電流が流れる場合には、図5と逆向きの渦電流が流れる。
【0019】
以上詳述した本実施形態のIH調理器30によれば、磁性材製の分割プレート14,16を接合した銅釜10を均一に加熱することができる。特に、銅釜10が飴煮炊き用の場合には、飴が焦げ付きやすいことから、釜の底面全体を均一に加熱することが望ましいため、IH調理器30を適用する意義が高い。また、釜本体12の底面は断熱層38によって覆われているため、釜本体12の温度を容易に維持することができる。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0021】
例えば、上述した実施形態では、上段列をなす分割プレート14と下段列をなす分割プレート16とは一方の列に他方の列が入り込むことのない形態であったが、図6に示すように、上段列をなす分割プレート114の下端が下段列に入り込むと共に下段列をなす分割プレート116の上端が上段列に入り込む形態を採用してもよい。この場合、上段列をなす分割プレート114を取り囲む上段コイル134は、上段コイル34と同様に巻回されており、その上半分(2巻き分)は第1領域114aと対向し、下半分(2巻き分)は第2領域114bと対向している。そして、分割プレート114の第1領域114aを上段列に沿って仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、第2領域114bを仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている。一方、下段列をなす分割プレート116を取り囲む下段コイル136は、上段コイル134と同様に巻回されており、その上半分(2巻き分)は第1領域116aと対向し、下半分(2巻き分)は第2領域116bと対向している。そして、分割プレート116の第1領域116aを下段列に沿って仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、第2領域116bを仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている。図6では、分割プレート114の第2領域114bと分割プレート116の第1領域116aとが上下方向にオーバーラップしているため、第2領域114bを囲む上段コイル134の下半分の電流の向きと第1領域116aを囲む下段コイル136の上半分の電流の向きとが同じになるように配線されている。このため、各分割プレート114,116を貫く磁界が効率よく発生し、それを打ち消す渦電流も効率よく発生する。
【0022】
上述した実施形態では、円筒部を有する銅釜10を加熱するIH調理器30を例に挙げて説明したが、図7及び図8に示すように、平面部を有する卵焼き器60を加熱するIH調理器80としてもよい。卵焼き器60は、銅製の長方形状の平面部62と、平面部62の外周を取り囲む外壁部64と、外壁部64によって囲まれた空間を二分する仕切部66とを有している。また、平面部62の裏面には、長方形状で鉄製の分割プレート68が長手方向(直線方向)に沿って列をなすように4枚並んでいる。各分割プレート68は、長手方向に対して略平行で互いに離間した2つの仮想領域、第1及び第2領域68a,68bを有している。一方、IH調理器80は、卵焼き器60の裏面側に配置されるコイル82と、コイル82の一端82aと他端82dとの間に電力を供給可能な交流電源84とを備えている。コイル82は、電線を長円形状に2巻き巻回したものである。IH調理器80によって卵焼き器60を加熱する場合、図8に示すように、コイル82の上面に卵焼き器60の裏面を近づけて配置する。なお、コイル82のうち電線をUターンさせている部分は、卵焼き器60の裏面からはみ出るようにする。このとき、コイル82は、各分割プレート68の第1領域68aを仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向き(コイル82の左半分82bの電線を流れる電流の向き)と、第2領域68bを仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向き(コイル82の右半分82cの電線を流れる電流の向き)とが反対になる。すると、各分割プレート68の中央付近において、コイル82の左半分82bを流れる電流によって生じる磁界の向きと右半分82cを流れる電流によって生じる磁界の向きとが同じになる。そのため、卵焼き器60の分割プレート68の1つ1つには、その磁界を打ち消す方向の磁界が発生するように渦電流が発生し、ジュール熱が発生する。したがって、IH調理器80によれば、卵焼き器60の平面部62を均一に加熱することができる。なお、コイル82と卵焼き器60の平面部62との間に断熱層を設けてもよい。
【0023】
上述した実施形態では、上段コイル34の上半分を2巻き、下半分を2巻きにしたが、2巻き以上の巻き数としてもよい。また、上半分と下半分との巻き数は同じであってもよいが、異なっていてもよい。この点は下段コイル36も同様である。
【0024】
上述した実施形態では、分割プレートを複数並べた列を上段と下段に設けたが、こうした列は1列だけ(例えば上段列のみ、下段列のみ)設けてもよいし、3列以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0025】
10 銅釜、12 釜本体、14 分割プレート、14a 第1領域、14b 第2領域、16 分割プレート、16a 第1領域、16b 第2領域、18 蓋、30 IH調理器、32 ケース、34 上段コイル、34a 一端、34b 上半分、34c 下半分、34d 他端、36 下段コイル、38 断熱層、40 交流電源、60 卵焼き器、62 平面部、64 外壁部、66 仕切部、68 分割プレート、68a 第1領域、68b 第2領域、80 IH調理器、82 コイル、82a 一端、82b 左半分、82c 右半分、82d 他端、84 交流電源、114 分割プレート、114a 第1領域、114b 第2領域、116 分割プレート、116a 第1領域、116b 第2領域、130 IH調理器、134 上段コイル、136 下段コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に対して略平行で互いに離間した第1及び第2領域を持つ磁性材製の分割プレートが前記所定方向に沿って列をなすように複数並んでいる被加熱容器を加熱するIH調理器であって、
コイルと、
前記コイルの両端子に交流電力を供給可能な電力供給部と、
を備え、
前記コイルは、前記被加熱容器のうち一つの列をなす複数の前記分割プレートについて、各第1領域を仮想的に繋げたときの第1仮想線に沿って流れる電流の向きと、各第2領域を仮想的に繋げたときの第2仮想線に沿って流れる電流の向きとが反対になるように電線が巻かれている、
IH調理器。
【請求項2】
前記被加熱容器として有底筒状の容器に適用されるものであり、前記容器の円筒側面及び/又は円形底面にて周方向に沿って列をなすように複数並んだ前記分割プレートを加熱する、
請求項1に記載のIH調理器。
【請求項3】
前記被加熱容器として平面部を含む容器に適用されるものであり、前記平面部にて直線方向に沿って列をなすように複数並んだ前記分割プレートを加熱する、
請求項1に記載のIH調理器。
【請求項4】
前記コイルは、断熱材によって被覆されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のIH調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−198639(P2011−198639A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64685(P2010−64685)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】