III族窒化物半導体発光素子
【課題】III 族窒化物半導体発光素子において、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させること
【解決手段】各層はIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層103、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層141とする多重量子構造を有した発光層104、p型層側クラッド層106を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子である。発光層104は、n型層側クラッド層103からp型層側クラッド層106の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分と第3区分における障壁層141の層数を等しくし、第1区分における障壁層141のAl組成比をx、第2区分における障壁層141のAl組成比をy、第3区分における障壁層141のAl組成比をzとする時、x+z=2y、且つ、z<xを満たすように、それぞれの障壁層141のAl組成比を設定した。
【解決手段】各層はIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層103、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層141とする多重量子構造を有した発光層104、p型層側クラッド層106を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子である。発光層104は、n型層側クラッド層103からp型層側クラッド層106の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分と第3区分における障壁層141の層数を等しくし、第1区分における障壁層141のAl組成比をx、第2区分における障壁層141のAl組成比をy、第3区分における障壁層141のAl組成比をzとする時、x+z=2y、且つ、z<xを満たすように、それぞれの障壁層141のAl組成比を設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動電圧の上昇を抑制して、発光効率を向上させたIII 族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子が知られている。特許文献1には、III 族窒化物半導体発光素子の活性層において、InGaNから成る井戸層のエネルギーバンドギャップを、n型コンタクト層に近いほど大きくすること、井戸層の厚さを、n型コンタクト層に近いほど薄くすること、InGaNから成る障壁層のエネルギーバンドギャップを、n型コンタクト層に近いほど大きくすることが、記載されている。この構造により、発光波長の不均一性を解消している。
【0003】
また、特許文献2には、活性層において、キャリアのオーバーフローを抑制するために、障壁層の厚さをp型層に向かうに連れて漸次厚くした構造が開示されている。
また、特許文献3には、障壁層、井戸層、障壁層の3層構造の活性層において、n型層側の障壁層のバンドギャップをp型層側の障壁層のバンドギャップよりも大きくした構造、n型層側の障壁層の厚さをp型層側の障壁層の厚さよりも薄くした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−103711
【特許文献2】特開2009−152552
【特許文献3】特開2003−273473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような構造であっても、III 族窒化物半導体発光素子においては、さらなる発光効率の向上が求められている。MQW(多重量子井戸)構造の活性層においては、電子の拡散長は、正孔の拡散長よりも長い。このため、MQW構造において、n型クラッド層から活性層に注入された電子は、p型クラッド層に至り、その障壁により活性層に閉じ込められる。この結果、p型クラッド層側に近接した井戸層程、より多くの電子が捕獲されることになる。すなわち、活性層の井戸層における電子密度の分布は、p型クラッド層側に向かうに連れて大きくなる。この結果、p型クラッド層から活性層に注入された正孔は、p型クラッド層に近い電子密度の高い井戸層に捕獲された電子とより多く再結合することになる。
【0006】
この結果、活性層における発光領域がp型クラッド層に近接した位置に偏るという問題がある。このことが、発光素子全体の発光出力を小さくし、発光効率を小さくするという原因となっていた。
そこで、本発明の目的は、駆動電圧を向上させることなく、III 族窒化物半導体発光素子の発光出力、発光効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層は、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分における障壁層のAl組成比の平均をx、第2区分における障壁層のAl組成比の平均をy、第3区分における障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0008】
本発明において、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層の層数は任意である。第1区分の障壁層の層数と、第3区分の障壁層の層数が等しいことが望ましい。また、各同一区分内における複数の障壁層のAl組成比は、異なっていても、同一であっても良い。また、n型層側クラッド層の側から障壁層のAl組成比が、単調に減少するものであっても、各区分内における障壁層のAl組成比の平均値が、z<y<xの関係を満たしていれば、各同一区分内でのAl組成比の分布は、任意である。しかし、n型層側クラッド層の側から障壁層のAl組成比が、単調に減少することが望ましい。
【0009】
第2発明は、第1発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とする。
第1区分と第3区分の障壁層の層数をk、発光層の障壁層の全層数をnとする。本発明では、第1区分における障壁層のAl組成比の平均x、第2区分における障壁層のAl組成比の平均y、第3区分における障壁層のAl組成比の平均zは、次式により決定される。ただし、z<xである。
【0010】
【数1】
(1)式は、(2)式のようにも表される。
【数2】
また、(2)式は、(3)式のようにも表される。
【数3】
【0011】
すなわち、本第2発明では、第1区分と第3区分の障壁層の層数を等しくし、第1区分の障壁層のAl組成比の平均xを第3区分の障壁層のAl組成比の平均zよりも大きくし、第1区分の障壁層のAl組成比の平均xと第3区分の障壁層のAl組成比の平均zの相加平均が第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに等しくなるように設計されていることが特徴である。
換言すれば、第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分の障壁層のAl組成比の平均xの偏差(x−y)と、第3区分の障壁層のAl組成比の平均zに対する第2区分の障壁層のAl組成比の平均yの偏差(y−z)とを等しくしている。また、第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分の障壁層のAl組成比の平均xの比x/yの1に対する偏差(x/y−1)と、1の第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第3区分の障壁層のAl組成比の平均zの比z/yに対する偏差(1−z/y)とを等しくしている。本件発明は、発光層における3つの区分における障壁層のAl組成比の平均に関して、上記のような対称性を持たせることにより、発光効率を改善している。また、最も望ましくは、各同一区分内における複数の障壁層のAl組成比を同一にしても良い。この場合には、第1区分の全ての障壁層のAl組成比はxで等しく、第2区分の全ての障壁層のAl組成比はyで等しく、第3区分の全ての障壁層のAl組成比はzで等しくなる。このことは、以下の発明においても、適用される。
【0012】
第3発明は、第2発明において、第2区分における障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分における障壁層のAl組成比の平均xの比x/yを、1.1≦x/y≦2.2としたことを特徴とする。障壁層のAl組成比の平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0013】
第4発明は、第1乃至第3の発明において、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。各区分における障壁層の厚さの平均値を、p型層側クラッド層に向けて、単調増加、又は、単調減少させたのが特徴である。各同一区分内の複数の障壁層の厚さは、同一でも、異なっていても良いが、同一であることが望ましい。各区分内における障壁層の厚さの平均値a,b,cが、上記の関係を満たしていれば良い。
【0014】
第5発明は、第4発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。 本発明では、各区分内の障壁層の厚さの平均値に関して、次式のように決定されている。
【0015】
【数4】
(4)式は、(5)式のようにも表される。
【数5】
また、(5)式は、(6)式のようにも表される。
【数6】
【0016】
すなわち、本発明では、第1区分と第3区分の障壁層の層数を等しくし、第1区分の障壁層の厚さの平均aと第3区分の障壁層の厚さの平均cの相加平均が第2区分の障壁層の厚さの平均bに等しくなるように設計されていることが特徴である。第2発明においては、障壁層の厚さの平均に関しては、発明の範囲に、a<b<cの場合も、c<b<aの場合も含む。
換言すれば、第1区分の障壁層の厚さの平均aに対する第2区分の障壁層の厚さの平均bの偏差(b−a)と、第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第3区分の障壁層の厚さの平均cの偏差(c−b)とを等しくしている。また、1の第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第1区分の障壁層の厚さの平均aの比a/bに対する偏差(1−a/b)と、第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第3区分の障壁層の厚さの平均cの比c/bの1に対する偏差(c/b−1)とを等しくしている。本件発明は、発光層における障壁層のAl組成比の分布と厚さの平均の分布に関して、上記のような対称性を持たせることにより、発光効率を改善している。また、最も望ましくは、各同一区分内における複数の障壁層の厚さを同一にしても良い。この場合には、第1区分の全ての障壁層の厚さはaで等しく、第2区分の全ての障壁層の厚さはbで等しく、第3区分の全ての障壁層の厚さはcで等しくなる。このことは、以下の発明においても、適用される。
【0017】
第6発明は、第5発明において、第1区分の障壁層の厚さの平均aと、第3区分の障壁層の厚さの平均cとの間には、a<cの関係に設定することを特徴とする。すなわち、p型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均よりも厚くすることで、第3区分における障壁層のAl組成比を小さくしたことによる障壁層の低さから生じる電子のオーバーフローを障壁層の厚さで抑制している。
【0018】
第7発明は、第5発明において、a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする。障壁層の厚さの平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0019】
第8発明は、各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層は、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層のAl組成比を等しくし、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0020】
本発明は、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層のAl組成比を等しくした上で、第2発明のように第1区分、第2区分、第3区分の各障壁層の厚さの平均値に関して、対称性を持たせたものである。
【0021】
第9発明は、第8発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。 また、第10発明は、第9発明において、第1区分の障壁層の厚さの平均aと、第3区分の障壁層の厚さの平均cとの間には、a<cの関係に設定することを特徴とする。この場合には、p型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均よりも大きくすることで、電子のp型層側クラッド層へのオーバーフローが抑制されて、発光効率が向上する。
【0022】
第11発明は、第9発明において、a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする。障壁層の厚さの平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0023】
上記の全ての発明の半導体発光素子は、通常は、n型クラッド層の下方には、n電極を形成するためのn型コンタクト層、p型層側クラッド層の上には、p電極を形成するためのp型コンタクト層が、存在する。また、本発明の半導体発光素子は、これ以外の層が存在してもかまわない。また、発光層は多重量子構造であり、層数は任意である。層の繰返構造の1単位は、少なくとも井戸層と障壁層とを有すれば良く、他の層が存在していても良い。この1単位の繰返数は、3以上の整数である。
【0024】
p型層側クラッド層は、Alz Ga1-z N(0<z<1)層を含む超格子層から成ることが望ましい。n型層側クラッド層はAlx Ga1-x N(0≦x<1)層を含む超格子から成ることが望ましい。また、n型層側クラッド層を、Iny Ga1-y N(0<y<1)層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層、及び、GaN層から成る超格子により構成しても良い。これらの超格子層の少なくとも1つの層には、Siが添加されていることが望ましい。もちろん、n型層側クラッド層を構成する全ての層に、Siが添加されていても良い。
【0025】
また、p型層側クラッド層は、Inw Ga1-w N層とAlz Ga1-z N(0<z<1)層の周期構造から成る超格子層としても良い。この構成により、電子を発光層に効果的に閉じ込め、正孔を発光層に効果的に注入することができる。この結果、発光効率が向上する。上記の発明おいて、III 族窒化物半導体とは、一般式Alx1Gay1Inz1N(x1+y1+z1=1、0≦x1、y1、z1≦1)で表される化合物半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。通常は、Gaを必須とするGaN、AlGaN、InGaN、AlGaInNを示す。
【0026】
発光層は、多重量子構造を用いることができる。多重量子構造としては、任意組成比のAlGaN/GaNの多重量子構造、任意組成比のAlGaN/InGaNの多重量子構造、任意組成比のAlGaN/GaN/InGaNの多重量子構造を用いることができる。本半導体発光素子は、その他、n型コンタクト層、p型コンタクト層等、その他の層を有していても良い。また、n型コンタクト層とn型層側クラッド層との間に、静電耐圧改善層(ESD層)を有していても良い。その他、層構成は任意である。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、発光層を、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分における障壁層のAl組成比の平均をx、第2区分における障壁層のAl組成比の平均をy、第3区分における障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定している。この結果、障壁層はn型層側クラッド層に近い側で障壁が高くなる。このため、発光層における電子はn型層側クラッド層に近い井戸層にも電子が蓄積され、発光層の厚さ方向の全範囲において、電子分布をより均一化させることができ、発光領域を厚さ方向の全範囲に渡って均一にすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。
【0028】
また、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定することで、Al組成比の分布は、n型層側クラッド層側が高く、p型層側クラッド層側が低く、しかも、厚さの中央に対して対称分布となる。この結果、n型層側クラッド層に近い井戸層にも電子が蓄積されるため、発光層の厚さ方向の全範囲において、電子分布をより均一化させることができ、発光領域を厚さ方向の全範囲に渡って均一にすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。
【0029】
また、障壁層の厚さに関しても、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定している。これにより、発光効率を向上させることができた。
【0030】
また、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように設定することで、発光層の厚さ方向の中央に対して障壁層の厚さの分布を対称とすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。特に、p型層側クラッド層に近い第3区分の障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い第1区分の障壁層の厚さの平均よりも大きくすることにより、電子のp型層側クラッド層へのオーバーフローを防止でき、発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の発光素子1の構成を示した図。
【図2】発光素子1の製造工程を示した図。
【図3】実施例1の発光素子のバンド構造を示した図。
【図4】実施例1の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図5】実施例2の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図6】実施例3の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図7】実施例5の発光素子のバンド構造を示した図。
【図8】実施例5の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図9】実施例6の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図10】実施例7の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図11】実施例5、6、7及び比較例1、3の発光層の発光光度を示した測定図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、実施例1の発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n型層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、ノンドープクラッド層105、p型層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0034】
サファイア基板100の表面には、光取り出し効率を向上させるために凹凸加工が施されている。サファイア以外にも、SiC、ZnO、Si、GaNなどを成長基板として用いてもよい。
【0035】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0036】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110と第2ESD層111との2層構造である。第1ESD層110は、ノンドープのGaNである。第1ESD層110の厚さは50〜500nmである。第1ESD層110の表面110aにはピットが生じており、そのピット密度は2×108 /cm2 以上である。第2ESD層111は厚さ25〜50nmのSiドープのGaNである。なお、第1ESD層110には、キャリア濃度が5×1017/cm3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0037】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
【0038】
n型クラッド層103は、厚さ2.5nmのノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、厚さ0.7nmのノンドープのGaN層132、厚さ1.4nmのSiドープのn−GaN層133の3層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第2ESD層111に接する層をIn0.08Ga0.92N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、69nmである。ここで、In0.08Ga0.92N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープGaN層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。Siドープのn−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0039】
発光層104(活性層ともいう)において、n型クラッド層103の側から第1区分、第2区分、第3区分と、厚さ方向に3つの区分に分ける。第1区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.33Ga0.66N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第2区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、3単位設けられている。第3区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.07Ga0.93N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。本実施例では、第1区分の2層のAl0.33Ga0.66N層144、第2区分の3層のAl0.2 Ga0.8 N層144、第3区分の2層のAl0.07Ga0.93N層144を、それぞれ、本発明の障壁層144とした。In0 .2Ga0.8 N層142が井戸層142である。なお、Al0.05Ga0.95N層141も障壁層である。Al0.05Ga0.95N層141を障壁層とした場合に、GaN層143とGaN層143に続く各層144は、Al0.05Ga0.95N層141に対するキャップ層と言われる場合もある。しかし、各層144はAl0.05Ga0.95N層141に続く層であり、井戸層142よりもバンドギャップは大きく、その井戸層142に対してキャリアを閉じ込める障壁層として機能する。したがって、以下の実施例1−4においては、各層144を障壁層とした場合を説明し、以下の実施例5−8においては、各層141を障壁層とした場合について説明する。
以下において、符号144は障壁層にも用い、符号142は井戸層にも用いる。
【0040】
ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.05Ga0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。1繰返単位の厚さは6.8nmであり、発光層104の全体の厚さは47.6nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。発光層104とp型クラッド層106との間に、厚さ2.5nmのノンドープのGaN層151と厚さ3nmのノンドープのAl0.15Ga0.85N152とから成るノンドープクラッド層105が設けられている。ノンドープクラッド層105は、その上層に添加されているMgが発光層104へ拡散するのを防止するための層である。
【0041】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In0.05Ga0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al0.3 Ga0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をp−In0.05Ga0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al0.3 Ga0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0042】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0043】
発光素子1は、ESD層102を上記のような構成としたことで、良好な静電耐圧特性が得られ、かつ、発光効率、信頼性が向上し、電流リークが減少している。以下、ESD層102を上記のように構成した理由について説明する。まず、ESD層102では、密度2×108 /cm2 以上のピットを有した第1ESD層110を形成し、そのピットが形成された第1ESD層110上にSiをドープした第2ESD層111を形成した構成としている。第1ESD層110のピットにSiが位置することにより、この位置での導電性が得られる。このような構成により良好な静電耐圧特性が得られ。第1ESD層110の厚さを50〜500nmとして、静電耐圧特性、発光効率が低下せず、電流リークが増大しないピット径となるようにした。
【0044】
なお、さらに静電耐圧特性、発光効率、および信頼性を向上させ、電流リークを減少させるためには、ESD層102の構成を以下のようにすることが望ましい。第1ESD層110の厚さは50〜500nm、ピット密度は2×108 〜1×1010/cm2 とすることが望ましい。また、第2ESD層111の特性値は、1.5×1020〜3.6×1020nm/cm3 、厚さは25〜50nmであることが望ましい。
【0045】
次に、発光素子1の製造方法について図2を参照に説明する。ただし、図2では、図1で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH3)3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 H5 )2 :以下「CP2 Mg」と書く。)を用いた。
【0046】
まず、サファイア基板100を水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を形成した。次に、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を1100℃まで上昇させ、基板温度が1100℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×1018cm-3のGaNよりなるn形コンタクト層101を、バッファ層120上に形成した(図2(a))。
【0047】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ50〜500nmのノンドープGaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×1017/cm3 以下、ピット密度2×108 /cm2 以上の結晶が得られるようにした。成長温度は800〜900℃とするとよりピット密度が増加し好ましい。
【0048】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のSiドープのn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(図2(b))。
【0049】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ2.5nmのノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、厚さ0.7nmのノンドープのGaN層132、厚さ1.4nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In0.08Ga0.92N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0050】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl0.05Ga0.95N層141、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143、Alw Ga1-w N層144の4層の周期構造を7回繰り返して形成した。ただし、第1区分における障壁層144であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.33Ga0.66N層144とし、層数は2である。第2区分における障壁層144であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.2 Ga0.8 N層144とし、層数は3である。第3区分における障壁層であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.07Ga0.93N層144とし、層数は2である。障壁層144であるAlw Ga1-w N層144の成長温度は、800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.05Ga0.95N層141の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0051】
次に、発光層104の上に、基板温度を855℃にして、TMG、アンモニアを供給して、ノンドープのGaN層151を厚さ2.5nmに成長させ、次に、基板温度を855℃に保持し、TMA、TMG、アンモニアを供給して、ノンドープのAl0.15Ga0.85N152を厚さ3nmに成長させた。これにより、ノンドープクラッド層105を形成した。
【0052】
次に、ノンドープクラッド層105の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In0.05Ga0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0053】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020cm-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、図2(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×1019〜1×1021cm-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0054】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にNi/Au/Al(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にNi/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって図1に示す発光素子1が製造された。
【0055】
図3は、発光素子1のバンド構造を示している。伝導帯において、n型コンタクト層101から発光層104に注入される電子に関して、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132による電位障壁が最も高い。ところが、Al0.2 Ga0.8 N層132は、厚さが0.8nmと薄いので、この層132をトンネルして、発光層104に至ることができる。また、発光層104では、障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、n型クラッド層103側に位置する障壁層程大きく、p型クラッド層106側に位置する障壁層程小さい。そして、Al組成比は、x+z=2yの関係、すなわち、(x−y)=(y−z)の関係を満たしている。これは、第2区分の障壁層144のAl組成比に対する第1区分の障壁層144のAl組成比の偏差と、第3区分の障壁層144のAl組成比に対する第2区分の障壁層144のAl組成比の偏差が等しいことを意味している。すなわち、発光層104における障壁層144のAl組成比は、第2区分を中心にして点対称に分布している。
【0056】
発光層104とp型クラッド層106の間には、p型不純物の添加による電位障壁があるので、n型クラッド層103から発光層104に注入された電子は、p型クラッド層106のp−Al0.3 Ga0.7 N層162によりブロックされる。したがって、電子は、発光層104に効果的に閉じ込められる。この時、障壁層144のAl組成比の厚さ方向の分布が上記したように対称分布であり、n型クラッド層103に近い側が大きいので、電子をn型クラッド層103に近い井戸層142にも蓄積することができる。
【0057】
一方、価電子帯において、p型コンタクト層107からp型クラッド層106及びノンドープクラッド層105を介して発光層104に注入された正孔は、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132をトンネルすることができない。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.8nmであるが、正孔には、トンネルできない厚さであるので、この層132でブロックされる。したがって、正孔は、発光層104において、効果的に閉じ込められる。このため、正孔密度は、発光層104において一様に分布する。この結果、電子と正孔の再結合は、発光層104における発光領域を厚さ方向に、より一様化することができる。この結果、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させることができる。
【0058】
この構造の障壁層144と井戸層142だけに注目したバンド構造は、図4のようになる。発光層104における障壁層144の電位障壁は、n型クラッド層103側が高くなり、p型クラッド層106側が低くなる。このため、発光層104の第1区分の井戸層142に注入された電子は、第1区分における障壁層144の障壁の高さのために、第2区分の井戸層142には移動し難い。同様に、第2区分の井戸層142の電子は、第2区分の障壁層144の高さにより、第3区分の井戸層142には移動し難い。この結果、発光層104においては、井戸層142における電子濃度は、n型クラッド層103側の方がp型クラッド層106側よりも高くなる。これにより、p型クラッド層106から発光層104に注入された正孔の一部は、発光層104のn型クラッド層103側にも至り、その部分でも電子と再結合する。この結果、発光は、発光層104の厚さ方向において一様となり、発光出力及び発光効率が向上する。
【実施例2】
【0059】
本実施例2は、発光層104における障壁層144の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、全て、0.2とした。第1区分の2層ある障壁層の厚さaを0.48nm、第2区分の3層ある障壁層の厚さbを0.6nm、第3区分の2層ある障壁層の厚さcを0.72nmとした。すなわち、第1区分の障壁層144の厚さa、第2区分の障壁層144の厚さb、第3区分の障壁層144の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(b−a)=(c−b)=0.12nm、とした。すなわち、障壁層144の厚さは、第2区分の障壁層144の厚さを中心として、第2区分の障壁層144の厚さに対する厚さの偏差が対称となるようにした。この場合に、p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さaよりも厚くした。すなわち、a<cとした。他は実施例1と同一構造の実施例2に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層144と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図5のようになる。
【実施例3】
【0060】
本実施例3は、実施例2と同様に、発光層104における障壁層144の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、全て、0.2とした。第1区分の2層ある障壁層の厚さaを0.72nm、第2区分の3層ある障壁層の厚さbを0.6nm、第3区分の2層ある障壁層の厚さcを0.48nmとした。すなわち、第1区分の障壁層144の厚さa、第2区分の障壁層144の厚さb、第3区分の障壁層144の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(a−b)=(b−c)=0.12nm、とした。すなわち、障壁層144の厚さは、第2区分の障壁層144の厚さを中心として、第2区分の障壁層144の厚さに対する厚さの偏差が点対称となるようにした。この場合に、実施例3では、実施例2とは逆に、p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さaよりも薄くした。すなわち、c<aとした。他は実施例1と同一構造の実施例3に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層144と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図6のようになる。
障壁層144の厚さの分布に関しては、図5、6のように、発光層104の厚さの中央CLに対して点対称性があれば、点対称性がない場合よりも発光光度は高くなる。このような障壁層144の厚さの分布により発光層104の厚さ方向での発光光度を一様化することができるため、発光光度が向上する。
【実施例4】
【0061】
実施例4は、障壁層144のAl組成比に関して、実施例1の構成を用い、障壁層144の厚さに関して、実施例2の構成を用いたものである。発光層104の障壁層144に関して、第1区分の障壁層144は、厚さ0.48nmのAl0.33Ga0.66N層144とし、層数を2とした。第2区分の障壁層144は、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144とし、層数を3とした。第3区分の障壁層144は、厚さ0.72nmのAl0.07Ga0.93N層144とし、層数は2とした。すなわち、組成比に関して、x+z=2y、且つ、z<x、厚さに関してa+c=2b、且つ、a<cとした。この構成の場合には、障壁層144は、n型クラッド層103に近い方においてAl組成比が大きいため、電子に対する障壁の高さが高く、p型クラッド層106に近い方において障壁の高さが低くなる。p型クラッド層106に近い方において障壁層144の障壁の高さが低くなることによる電子のオーバーフローを抑制するために、障壁層144は、p型クラッド層106に近い方がその厚さを厚くしている。この結果として、発光光度は、大きくなる。
【0062】
上記実施例においては、発光層104における障壁層144の層数は、第1区分と第3区分で層数が等しいならば、任意で良い。また、障壁層144のAlの組成比は、x+z=2y、且つ、z<xの関係を満たせば任意であるが、1.1≦x/y≦2.2の時に発光光度が高い。x/yが1.1より小さくなると、発光層104において、Al組成比を変化させて、井戸層における電子密度を均一化する効果が低くなり望ましくない。また、x/yが2.2より大きくなると、井戸層の結晶性が低下するので望ましくない。したがって、上記の範囲が望ましい。
【0063】
また、障壁層144の厚さは、a+c=2bの関係を満たすならば、その厚さの範囲は任意であるが、a/bを、0.7≦a/b≦0.9とすると、発光光度が向上する。p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さより厚くする方が、逆の場合より、発光光度は大きい。しかし、両者ともに、障壁層の厚さを一定とした場合よりは、発光光度は大きい。a/bが0.9を越えると、障壁層144の幅の変化が小さくなり、電子を発光層の厚さ方向に一様に閉じ込める効果が小さくなるので、望ましくない。a/bが0.7より小さいと、厚さの厚い障壁層を越える井戸層へ移動する電子が少なくなり、発光層の厚さ方向における発光領域の均一化を阻害することになる。したがって、a/bは、上記の範囲が望ましい。
【実施例5】
【0064】
本実施例は、実施例1において、発光層104におけるAl組成比を変化させる層を、障壁層141とした例である。実施例1と同様に、発光層104(活性層ともいう)において、n型クラッド層103の側から第1区分、第2区分、第3区分と、厚さ方向に3つの区分に分ける。第1区分では、厚さ2.4nmのAl0.083 Ga0.917 N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第2区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、3単位設けられている。第3区分では、厚さ2.4nmのAl0.017 Ga0.983 N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第1区分の2層のAl0.083 Ga0.917 N層141、第2区分の3層のAl0.05Ga0.95N層141、第3区分の2層のAl0.017 Ga0.983 N層141が、それぞれ、本発明の障壁層141であり、In0 .2Ga0.8 N層142が井戸層142である。以下において、符号141は障壁層にも用い、符号142は井戸層にも用いる。
【0065】
ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.083 Ga0.917 N層141、最後に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。1繰返単位の厚さは6.8nmであり、発光層104の全体の厚さは47.6nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。発光層104以外の他の層の構成及び製造方法は、実施例1と同一である。
【0066】
ただし、発光層104の製法において、第1区分における障壁層141であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.083 Ga0.917 N層141とし、層数は2である。第2区分における障壁層141であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141とし、層数は3である。第3区分における障壁層であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.017 Ga0.983 N層141、とし、層数は2である。そして、障壁層141であるAlw Ga1-w N層141の成長温度は、800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.2 Ga0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0067】
図7は、発光素子1のバンド構造を示している。伝導帯において、n型コンタクト層101から発光層104に注入される電子に関して、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132による電位障壁が最も高い。ところが、Al0.2 Ga0.8 N層132は、厚さが0.8nmと薄いので、この層132をトンネルして、発光層104に至ることができる。また、発光層104では、障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、n型クラッド層103側に位置する障壁層程大きく、p型クラッド層106側に位置する障壁層程小さい。そして、Al組成比は、x+z=2yの関係、すなわち、(x−y)=(y−z)の関係を満たしている。これは、第2区分の障壁層141のAl組成比に対する第1区分の障壁層141のAl組成比の偏差と、第3区分の障壁層141のAl組成比に対する第2区分の障壁層141のAl組成比の偏差が等しいことを意味している。すなわち、発光層104における障壁層141のAl組成比は、第2区分を中心にして点対称に分布している。
【0068】
発光層104とp型クラッド層106の間には、p型不純物の添加による電位障壁があるので、n型クラッド層103から発光層104に注入された電子は、p型クラッド層106のp−Al0.3 Ga0.7 N層162によりブロックされる。したがって、電子は、発光層104に効果的に閉じ込められる。この時、障壁層141のAl組成比の厚さ方向の分布が上記したように対称分布であり、n型クラッド層103に近い側が大きいので、電子をn型クラッド層103に近い井戸層142にも蓄積することができる。
【0069】
一方、価電子帯において、p型コンタクト層107からp型クラッド層106及びノンドープクラッド層105を介して発光層104に注入された正孔は、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132をトンネルすることができない。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.8nmであるが、正孔には、トンネルできない厚さであるので、この層132でブロックされる。したがって、正孔は、発光層104において、効果的に閉じ込められる。このため、正孔密度は、発光層104において一様に分布する。この結果、電子と正孔の再結合は、発光層104における発光領域を厚さ方向に、より一様化することができる。この結果、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させることができる。
【0070】
この構造の障壁層141と井戸層142だけに注目したバンド構造は、図8のようになる。発光層104における障壁層141の電位障壁は、n型クラッド層103側が高くなり、p型クラッド層106側が低くなる。このため、発光層104の第1区分の井戸層142に注入された電子は、第1区分における障壁層141の障壁の高さのために、第2区分の井戸層142には移動し難い。同様に、第2区分の井戸層142の電子は、第2区分の障壁層141の高さにより、第3区分の井戸層142には移動し難い。この結果、発光層104においては、井戸層142における電子濃度は、n型クラッド層103側の方がp型クラッド層106側よりも高くなる。これにより、p型クラッド層106から発光層104に注入された正孔の一部は、発光層104のn型クラッド層103側にも至り、その部分でも電子と再結合する。この結果、発光は、発光層104の厚さ方向において一様となり、発光出力及び発光効率が向上する。
【0071】
発光出力の測定図を図11に示す。発光層104の上記の単位を7単位として、全体で7層の障壁層であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wを、全て、上記の第2区分における障壁層のAl組成比0.05とした発光素子を比較例1として製造した。また、障壁層であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wについて、第1区分では0.017、第2区分では0.05、第3区分では0.083とした比較例2の発光素子を製造した。すなわち、比較例2では、発光層104における障壁層141のAl組成比について、発光層104の厚さの中点において点対称性はあるが、Al組成比wをn型クラッド層103に近い側を小さく、p型クラッド層106に近い側を大きくした。図11は、比較例1の光度を1として、規格化した相対光度である。図11から理解されるように、比較例2では0.975と小さく、実施例1では1.01と大きい。すなわち、実施例5の障壁層141におけるAl組成比の点対称性及び分布は、均一分布(比較例1)や、実施例5と逆の分布(比較例2)よりも、発光光度が大きいことが分かる。
【0072】
実施例1は、障壁層144について、実施例5と同一に、Al組成比を変化させたものであるが、層141と層144のバンドギャップは、共に、井戸層142のバンドギャップよりも大きい。したがって、層141と層144は、共に、井戸層142に対してキャリアの閉じ込めのための障壁層として機能する。よって、図11の測定結果から、実施例1の場合においても、実施例5と同一の効果が得られるものと見做される。
【実施例6】
【0073】
本実施例6は、発光層104における障壁層141の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、全て、0.05とした。第1区分の2層ある障壁層141の厚さaを2.0nm、第2区分の3層ある障壁層141の厚さbを2.4nm、第3区分の2層ある障壁層141の厚さcを2.8nmとした。すなわち、第1区分の障壁層141の厚さa、第2区分の障壁層141の厚さb、第3区分の障壁層141の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(b−a)=(c−b)=0.4nm、とした。すなわち、障壁層141の厚さは、第2区分の障壁層141の厚さを中心として、第2区分の障壁層141の厚さに対する厚さの偏差が対称となるようにした。この場合に、p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さaよりも厚くした。すなわち、a<cとした。他は実施例5と同一構造の実施例6に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層141と井戸層142だけを抽出してバンド構造を表現すると図9のようになる。
【0074】
発光光度を図11に示す。この実施例6の発光素子の発光光度は、1.018と比較例1よりも大きいことが分かる。同様に、この測定結果から、実施例2の障壁層144について、実施例6と同様な厚さの分布をさせた場合にも、同一の効果を奏するものと見做される。
【実施例7】
【0075】
本実施例7は、実施例6と同様に、発光層104における障壁層141の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、全て、0.05とした。第1区分の2層ある障壁層141の厚さaを2.8nm、第2区分の3層ある障壁層141の厚さbを2.4nm、第3区分の2層ある障壁層141の厚さcを2.0nmとした。すなわち、第1区分の障壁層141の厚さa、第2区分の障壁層141の厚さb、第3区分の障壁層141の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(a−b)=(b−c)=0.4nm、とした。すなわち、障壁層141の厚さは、第2区分の障壁層141の厚さを中心として、第2区分の障壁層141の厚さに対する厚さの偏差が点対称となるようにした。この場合に、実施例7では、実施例6とは逆に、p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さaよりも薄くした。すなわち、c<aとした。他は実施例5と同一構造の実施例7に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層141と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図10のようになる。
【0076】
発光光度を図11に示す。この実施例7の発光素子の発光光度は、1.01と比較例1よりも大きいことが分かる。同様に、この測定結果から、実施例3の障壁層144について、実施例7と同様な厚さの分布をさせた場合にも、同一の効果を奏するものと見做される。
【0077】
以上のことから、障壁層141の厚さの分布に関しては、図9、10のように、発光層104の厚さの中央CLに対して点対称性があれば、点対称性がない場合(比較例1)よりも発光光度は高いことが分かる。このような障壁層141の厚さの分布により発光層104の厚さ方向での発光光度を一様化することができるため、発光光度が向上する。
【実施例8】
【0078】
実施例8は、障壁層141のAl組成比に関して、実施例5の構成を用い、障壁層141の厚さに関して、実施例6の構成を用いたものである。発光層104の障壁層141に関して、第1区分の障壁層141は、厚さ2.0nmのAl0.083 Ga0.917 N層141とし、層数を2とした。第2区分の障壁層141は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141とし、層数を3とした。第3区分の障壁層141は、厚さ2.8nmのAl0.017 Ga0.983 N層141とし、層数は2とした。すなわち、組成比に関して、x+z=2y、且つ、z<x、厚さに関してa+c=2b、且つ、a<cとした。この構成の場合には、障壁層141は、n型クラッド層103に近い方においてAl組成比が大きいため、電子に対する障壁の高さが高く、p型クラッド層106に近い方において障壁の高さが低くなる。p型クラッド層106に近い方において障壁層141の障壁の高さが低くなることによる電子のオーバーフローを抑制するために、障壁層141は、p型クラッド層106に近い方がその厚さを厚くしている。この結果として、発光光度は、大きくなる。
【0079】
上記全実施例5−8においては、発光層104における障壁層141の層数は、第1区分と第3区分で層数が等しいならば、任意で良い。また、障壁層141のAlの組成比は、x+z=2y、且つ、z<xの関係を満たせば任意であるが、1.1≦x/y≦2.2の時に発光光度が高い。x/yが1.1より小さくなると、発光層104において、Al組成比を変化させて、井戸層における電子密度を均一化する効果が低くなり望ましくない。また、x/yが2.2より大きくなると、井戸層の結晶性が低下するので望ましくない。したがって、上記の範囲が望ましい。
【0080】
また、障壁層141の厚さは、a+c=2bの関係を満たすならば、その厚さの範囲は任意であるが、a/bを、0.7≦a/b≦0.9とすると、発光光度が向上する。p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さより厚くする方が、逆の場合より、発光光度は大きい。しかし、両者ともに、障壁層の厚さを一定とした場合よりは、発光光度は大きい。a/bが0.9を越えると、障壁層141の幅の変化が小さくなり、電子を発光層の厚さ方向に一様に閉じ込める効果が小さくなるので、望ましくない。a/bが0.7より小さいと、厚さの厚い障壁層を越える井戸層へ移動する電子が少なくなり、発光層の厚さ方向における発光領域の均一化を阻害することになる。したがって、a/bは、上記の範囲が望ましい。
【0081】
上記全実施例1−8において、n型クラッド層103は、n型コンタクト層101の側から、ノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、ノンドープのGaN層132、Siドープのn−GaN層133の周期構造としたが、配列に関して、In0.08Ga0.92N層、Siドープのn−GaN層、ノンドープのGaN層としても良く、Siドープのn−GaN層、ノンドープのGaN層、In0.08Ga0.92N層としても良く、Siドープのn−GaN層、In0.08Ga0.92N層、ノンドープのGaN層としても良い。また、In0.08Ga0.92N層131にも、Siをドープして、n型層としても良いし、GaN層133をノンドープとしても良い。また、Siドープのn−GaN層133に代えて、SiドープのAl0.2 Ga0.8 N層133としても良いし、そのAl0.2 Ga0.8 N層133はノンドープであっても良い。
【0082】
n型クラッド層103は、15周期としたが、この周期数は、任意である。例えば、一例であるが、3以上、30周期以下の範囲とすることができる。また、ノンドープのGaN層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。SiドープのGaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。In0.08Ga0.92N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。
【0083】
層132として、Alx Ga1-x N層132を用いた場合には、Alx Ga1-x N層132の組成比xは、0.05以上、1より小さくすることができる。望ましくは、0.1以上、0.8以下である。さらに、望ましくは、0.2以上、0.6以下である。Alx Ga1-x N層132をAlNとした場合には、厚さは、0.3nm程度でも、電子をトンネルさせ、正孔をトンネルさせないようにすることができる。また、Alx Ga1-x N層132をAl0.05Ga0.95Nとした場合には、その層132の厚さは2.5nm程度は必要である。したがって、Alx Ga1-x N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。p型クラッド層106の周期構造の一つの層には、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を用いているので、n型クラッド層103のAlx Ga1-x N層132のAlの組成比xは、0.15以上とするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、III 族窒化物半導体発光素子において、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させるのに用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
100:サファイア基板
101:n型コンタクト層
102:ESD層
103:n型クラッド層
104:発光層
105:ノンドープクラッド層
106:p型クラッド層
107:p型コンタクト層
108:p電極
130:n電極
110:第1ESD層
111:第2ESD層
120:バッファ層
131:Iny Ga1-y N層
132:Alx Ga1-x N層
133:GaN層
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動電圧の上昇を抑制して、発光効率を向上させたIII 族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子が知られている。特許文献1には、III 族窒化物半導体発光素子の活性層において、InGaNから成る井戸層のエネルギーバンドギャップを、n型コンタクト層に近いほど大きくすること、井戸層の厚さを、n型コンタクト層に近いほど薄くすること、InGaNから成る障壁層のエネルギーバンドギャップを、n型コンタクト層に近いほど大きくすることが、記載されている。この構造により、発光波長の不均一性を解消している。
【0003】
また、特許文献2には、活性層において、キャリアのオーバーフローを抑制するために、障壁層の厚さをp型層に向かうに連れて漸次厚くした構造が開示されている。
また、特許文献3には、障壁層、井戸層、障壁層の3層構造の活性層において、n型層側の障壁層のバンドギャップをp型層側の障壁層のバンドギャップよりも大きくした構造、n型層側の障壁層の厚さをp型層側の障壁層の厚さよりも薄くした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−103711
【特許文献2】特開2009−152552
【特許文献3】特開2003−273473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような構造であっても、III 族窒化物半導体発光素子においては、さらなる発光効率の向上が求められている。MQW(多重量子井戸)構造の活性層においては、電子の拡散長は、正孔の拡散長よりも長い。このため、MQW構造において、n型クラッド層から活性層に注入された電子は、p型クラッド層に至り、その障壁により活性層に閉じ込められる。この結果、p型クラッド層側に近接した井戸層程、より多くの電子が捕獲されることになる。すなわち、活性層の井戸層における電子密度の分布は、p型クラッド層側に向かうに連れて大きくなる。この結果、p型クラッド層から活性層に注入された正孔は、p型クラッド層に近い電子密度の高い井戸層に捕獲された電子とより多く再結合することになる。
【0006】
この結果、活性層における発光領域がp型クラッド層に近接した位置に偏るという問題がある。このことが、発光素子全体の発光出力を小さくし、発光効率を小さくするという原因となっていた。
そこで、本発明の目的は、駆動電圧を向上させることなく、III 族窒化物半導体発光素子の発光出力、発光効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層は、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分における障壁層のAl組成比の平均をx、第2区分における障壁層のAl組成比の平均をy、第3区分における障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0008】
本発明において、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層の層数は任意である。第1区分の障壁層の層数と、第3区分の障壁層の層数が等しいことが望ましい。また、各同一区分内における複数の障壁層のAl組成比は、異なっていても、同一であっても良い。また、n型層側クラッド層の側から障壁層のAl組成比が、単調に減少するものであっても、各区分内における障壁層のAl組成比の平均値が、z<y<xの関係を満たしていれば、各同一区分内でのAl組成比の分布は、任意である。しかし、n型層側クラッド層の側から障壁層のAl組成比が、単調に減少することが望ましい。
【0009】
第2発明は、第1発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とする。
第1区分と第3区分の障壁層の層数をk、発光層の障壁層の全層数をnとする。本発明では、第1区分における障壁層のAl組成比の平均x、第2区分における障壁層のAl組成比の平均y、第3区分における障壁層のAl組成比の平均zは、次式により決定される。ただし、z<xである。
【0010】
【数1】
(1)式は、(2)式のようにも表される。
【数2】
また、(2)式は、(3)式のようにも表される。
【数3】
【0011】
すなわち、本第2発明では、第1区分と第3区分の障壁層の層数を等しくし、第1区分の障壁層のAl組成比の平均xを第3区分の障壁層のAl組成比の平均zよりも大きくし、第1区分の障壁層のAl組成比の平均xと第3区分の障壁層のAl組成比の平均zの相加平均が第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに等しくなるように設計されていることが特徴である。
換言すれば、第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分の障壁層のAl組成比の平均xの偏差(x−y)と、第3区分の障壁層のAl組成比の平均zに対する第2区分の障壁層のAl組成比の平均yの偏差(y−z)とを等しくしている。また、第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分の障壁層のAl組成比の平均xの比x/yの1に対する偏差(x/y−1)と、1の第2区分の障壁層のAl組成比の平均yに対する第3区分の障壁層のAl組成比の平均zの比z/yに対する偏差(1−z/y)とを等しくしている。本件発明は、発光層における3つの区分における障壁層のAl組成比の平均に関して、上記のような対称性を持たせることにより、発光効率を改善している。また、最も望ましくは、各同一区分内における複数の障壁層のAl組成比を同一にしても良い。この場合には、第1区分の全ての障壁層のAl組成比はxで等しく、第2区分の全ての障壁層のAl組成比はyで等しく、第3区分の全ての障壁層のAl組成比はzで等しくなる。このことは、以下の発明においても、適用される。
【0012】
第3発明は、第2発明において、第2区分における障壁層のAl組成比の平均yに対する第1区分における障壁層のAl組成比の平均xの比x/yを、1.1≦x/y≦2.2としたことを特徴とする。障壁層のAl組成比の平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0013】
第4発明は、第1乃至第3の発明において、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。各区分における障壁層の厚さの平均値を、p型層側クラッド層に向けて、単調増加、又は、単調減少させたのが特徴である。各同一区分内の複数の障壁層の厚さは、同一でも、異なっていても良いが、同一であることが望ましい。各区分内における障壁層の厚さの平均値a,b,cが、上記の関係を満たしていれば良い。
【0014】
第5発明は、第4発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。 本発明では、各区分内の障壁層の厚さの平均値に関して、次式のように決定されている。
【0015】
【数4】
(4)式は、(5)式のようにも表される。
【数5】
また、(5)式は、(6)式のようにも表される。
【数6】
【0016】
すなわち、本発明では、第1区分と第3区分の障壁層の層数を等しくし、第1区分の障壁層の厚さの平均aと第3区分の障壁層の厚さの平均cの相加平均が第2区分の障壁層の厚さの平均bに等しくなるように設計されていることが特徴である。第2発明においては、障壁層の厚さの平均に関しては、発明の範囲に、a<b<cの場合も、c<b<aの場合も含む。
換言すれば、第1区分の障壁層の厚さの平均aに対する第2区分の障壁層の厚さの平均bの偏差(b−a)と、第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第3区分の障壁層の厚さの平均cの偏差(c−b)とを等しくしている。また、1の第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第1区分の障壁層の厚さの平均aの比a/bに対する偏差(1−a/b)と、第2区分の障壁層の厚さの平均bに対する第3区分の障壁層の厚さの平均cの比c/bの1に対する偏差(c/b−1)とを等しくしている。本件発明は、発光層における障壁層のAl組成比の分布と厚さの平均の分布に関して、上記のような対称性を持たせることにより、発光効率を改善している。また、最も望ましくは、各同一区分内における複数の障壁層の厚さを同一にしても良い。この場合には、第1区分の全ての障壁層の厚さはaで等しく、第2区分の全ての障壁層の厚さはbで等しく、第3区分の全ての障壁層の厚さはcで等しくなる。このことは、以下の発明においても、適用される。
【0017】
第6発明は、第5発明において、第1区分の障壁層の厚さの平均aと、第3区分の障壁層の厚さの平均cとの間には、a<cの関係に設定することを特徴とする。すなわち、p型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均よりも厚くすることで、第3区分における障壁層のAl組成比を小さくしたことによる障壁層の低さから生じる電子のオーバーフローを障壁層の厚さで抑制している。
【0018】
第7発明は、第5発明において、a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする。障壁層の厚さの平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0019】
第8発明は、各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、発光層は、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層のAl組成比を等しくし、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0020】
本発明は、第1区分、第2区分、第3区分の障壁層のAl組成比を等しくした上で、第2発明のように第1区分、第2区分、第3区分の各障壁層の厚さの平均値に関して、対称性を持たせたものである。
【0021】
第9発明は、第8発明において、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの障壁層の厚さを設定したことを特徴とする。 また、第10発明は、第9発明において、第1区分の障壁層の厚さの平均aと、第3区分の障壁層の厚さの平均cとの間には、a<cの関係に設定することを特徴とする。この場合には、p型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い障壁層の厚さの平均よりも大きくすることで、電子のp型層側クラッド層へのオーバーフローが抑制されて、発光効率が向上する。
【0022】
第11発明は、第9発明において、a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする。障壁層の厚さの平均の比をこの範囲に設定して、対称性を持たせることにより、発光効率を大きく改善することができる。
【0023】
上記の全ての発明の半導体発光素子は、通常は、n型クラッド層の下方には、n電極を形成するためのn型コンタクト層、p型層側クラッド層の上には、p電極を形成するためのp型コンタクト層が、存在する。また、本発明の半導体発光素子は、これ以外の層が存在してもかまわない。また、発光層は多重量子構造であり、層数は任意である。層の繰返構造の1単位は、少なくとも井戸層と障壁層とを有すれば良く、他の層が存在していても良い。この1単位の繰返数は、3以上の整数である。
【0024】
p型層側クラッド層は、Alz Ga1-z N(0<z<1)層を含む超格子層から成ることが望ましい。n型層側クラッド層はAlx Ga1-x N(0≦x<1)層を含む超格子から成ることが望ましい。また、n型層側クラッド層を、Iny Ga1-y N(0<y<1)層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層、及び、GaN層から成る超格子により構成しても良い。これらの超格子層の少なくとも1つの層には、Siが添加されていることが望ましい。もちろん、n型層側クラッド層を構成する全ての層に、Siが添加されていても良い。
【0025】
また、p型層側クラッド層は、Inw Ga1-w N層とAlz Ga1-z N(0<z<1)層の周期構造から成る超格子層としても良い。この構成により、電子を発光層に効果的に閉じ込め、正孔を発光層に効果的に注入することができる。この結果、発光効率が向上する。上記の発明おいて、III 族窒化物半導体とは、一般式Alx1Gay1Inz1N(x1+y1+z1=1、0≦x1、y1、z1≦1)で表される化合物半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。通常は、Gaを必須とするGaN、AlGaN、InGaN、AlGaInNを示す。
【0026】
発光層は、多重量子構造を用いることができる。多重量子構造としては、任意組成比のAlGaN/GaNの多重量子構造、任意組成比のAlGaN/InGaNの多重量子構造、任意組成比のAlGaN/GaN/InGaNの多重量子構造を用いることができる。本半導体発光素子は、その他、n型コンタクト層、p型コンタクト層等、その他の層を有していても良い。また、n型コンタクト層とn型層側クラッド層との間に、静電耐圧改善層(ESD層)を有していても良い。その他、層構成は任意である。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、発光層を、n型層側クラッド層からp型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分における障壁層のAl組成比の平均をx、第2区分における障壁層のAl組成比の平均をy、第3区分における障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定している。この結果、障壁層はn型層側クラッド層に近い側で障壁が高くなる。このため、発光層における電子はn型層側クラッド層に近い井戸層にも電子が蓄積され、発光層の厚さ方向の全範囲において、電子分布をより均一化させることができ、発光領域を厚さ方向の全範囲に渡って均一にすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。
【0028】
また、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの障壁層のAl組成比を設定することで、Al組成比の分布は、n型層側クラッド層側が高く、p型層側クラッド層側が低く、しかも、厚さの中央に対して対称分布となる。この結果、n型層側クラッド層に近い井戸層にも電子が蓄積されるため、発光層の厚さ方向の全範囲において、電子分布をより均一化させることができ、発光領域を厚さ方向の全範囲に渡って均一にすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。
【0029】
また、障壁層の厚さに関しても、第1区分における障壁層の厚さの平均をa、第2区分における障壁層の厚さの平均をb、第3区分における障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定している。これにより、発光効率を向上させることができた。
【0030】
また、第1区分と第3区分における障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように設定することで、発光層の厚さ方向の中央に対して障壁層の厚さの分布を対称とすることができる。このため、発光効率を向上させることができる。特に、p型層側クラッド層に近い第3区分の障壁層の厚さの平均を、n型層側クラッド層に近い第1区分の障壁層の厚さの平均よりも大きくすることにより、電子のp型層側クラッド層へのオーバーフローを防止でき、発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の発光素子1の構成を示した図。
【図2】発光素子1の製造工程を示した図。
【図3】実施例1の発光素子のバンド構造を示した図。
【図4】実施例1の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図5】実施例2の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図6】実施例3の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図7】実施例5の発光素子のバンド構造を示した図。
【図8】実施例5の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図9】実施例6の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図10】実施例7の発光素子において、発光層を障壁層と井戸層だけで簡略化した場合のバンド図。
【図11】実施例5、6、7及び比較例1、3の発光層の発光光度を示した測定図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、実施例1の発光素子1の構成を示した図である。発光素子1は、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を介して、III 族窒化物半導体からなるn型コンタクト層101、ESD層(静電耐圧改善層)102、n型層側クラッド層(以下、「n型クラッド層」という)103、発光層104、ノンドープクラッド層105、p型層側クラッド層(以下、「p型クラッド層」という)106、p型コンタクト層107、が積層され、p型コンタクト層107上にp電極108が形成され、p型コンタクト層107側から一部領域がエッチングされて露出したn型コンタクト層101上にn電極130が形成された構造である。
【0034】
サファイア基板100の表面には、光取り出し効率を向上させるために凹凸加工が施されている。サファイア以外にも、SiC、ZnO、Si、GaNなどを成長基板として用いてもよい。
【0035】
n型コンタクト層101は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。n電極130とのコンタクトを良好とするために、n型コンタクト層101をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0036】
ESD層102は、n型コンタクト層101側から第1ESD層110と第2ESD層111との2層構造である。第1ESD層110は、ノンドープのGaNである。第1ESD層110の厚さは50〜500nmである。第1ESD層110の表面110aにはピットが生じており、そのピット密度は2×108 /cm2 以上である。第2ESD層111は厚さ25〜50nmのSiドープのGaNである。なお、第1ESD層110には、キャリア濃度が5×1017/cm3 以下となる範囲でSiがドープされていてもよい。
【0037】
第2ESD層111は、SiがドープされたGaNであり、Si濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )である。たとえば、第2ESD層111の厚さを30nmとする場合にはSi濃度は3.0×1018〜1.2×1019/cm3 である。
【0038】
n型クラッド層103は、厚さ2.5nmのノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、厚さ0.7nmのノンドープのGaN層132、厚さ1.4nmのSiドープのn−GaN層133の3層を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を15回繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、n型クラッド層103は、最初に形成する層、すなわち、第2ESD層111に接する層をIn0.08Ga0.92N層131とし、最後に形成する層、すなわち、発光層104に接する層をn−GaN層133としている。n型クラッド層103の全体の厚さは、69nmである。ここで、In0.08Ga0.92N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。ノンドープGaN層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。Siドープのn−GaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。
【0039】
発光層104(活性層ともいう)において、n型クラッド層103の側から第1区分、第2区分、第3区分と、厚さ方向に3つの区分に分ける。第1区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.33Ga0.66N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第2区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、3単位設けられている。第3区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.07Ga0.93N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。本実施例では、第1区分の2層のAl0.33Ga0.66N層144、第2区分の3層のAl0.2 Ga0.8 N層144、第3区分の2層のAl0.07Ga0.93N層144を、それぞれ、本発明の障壁層144とした。In0 .2Ga0.8 N層142が井戸層142である。なお、Al0.05Ga0.95N層141も障壁層である。Al0.05Ga0.95N層141を障壁層とした場合に、GaN層143とGaN層143に続く各層144は、Al0.05Ga0.95N層141に対するキャップ層と言われる場合もある。しかし、各層144はAl0.05Ga0.95N層141に続く層であり、井戸層142よりもバンドギャップは大きく、その井戸層142に対してキャリアを閉じ込める障壁層として機能する。したがって、以下の実施例1−4においては、各層144を障壁層とした場合を説明し、以下の実施例5−8においては、各層141を障壁層とした場合について説明する。
以下において、符号144は障壁層にも用い、符号142は井戸層にも用いる。
【0040】
ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.05Ga0.95N層141、最後に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。1繰返単位の厚さは6.8nmであり、発光層104の全体の厚さは47.6nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。発光層104とp型クラッド層106との間に、厚さ2.5nmのノンドープのGaN層151と厚さ3nmのノンドープのAl0.15Ga0.85N152とから成るノンドープクラッド層105が設けられている。ノンドープクラッド層105は、その上層に添加されているMgが発光層104へ拡散するのを防止するための層である。
【0041】
p型クラッド層106は、厚さ1.7nmのp−In0.05Ga0.95N層161、厚さ3.0nmのp−Al0.3 Ga0.7 N層162を順に積層させたものを1単位として、この単位構造を7回繰り返し積層させた構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をp−In0.05Ga0.95N層161とし、最後に形成する層、すなわち、p型コンタクト層107に接する層をp−Al0.3 Ga0.7 N層162としている。p型クラッド層106の全体の厚さは32.9nmである。p型不純物にはMgを用いている。
【0042】
p型コンタクト層107は、Mgをドープしたp−GaNである。p電極とのコンタクトを良好とするために、p型コンタクト層107をキャリア濃度の異なる複数の層で構成してもよい。
【0043】
発光素子1は、ESD層102を上記のような構成としたことで、良好な静電耐圧特性が得られ、かつ、発光効率、信頼性が向上し、電流リークが減少している。以下、ESD層102を上記のように構成した理由について説明する。まず、ESD層102では、密度2×108 /cm2 以上のピットを有した第1ESD層110を形成し、そのピットが形成された第1ESD層110上にSiをドープした第2ESD層111を形成した構成としている。第1ESD層110のピットにSiが位置することにより、この位置での導電性が得られる。このような構成により良好な静電耐圧特性が得られ。第1ESD層110の厚さを50〜500nmとして、静電耐圧特性、発光効率が低下せず、電流リークが増大しないピット径となるようにした。
【0044】
なお、さらに静電耐圧特性、発光効率、および信頼性を向上させ、電流リークを減少させるためには、ESD層102の構成を以下のようにすることが望ましい。第1ESD層110の厚さは50〜500nm、ピット密度は2×108 〜1×1010/cm2 とすることが望ましい。また、第2ESD層111の特性値は、1.5×1020〜3.6×1020nm/cm3 、厚さは25〜50nmであることが望ましい。
【0045】
次に、発光素子1の製造方法について図2を参照に説明する。ただし、図2では、図1で示された超格子の周期構造の表示は省略されている。
用いた結晶成長方法は有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)である。ここで用いられたガスは、キャリアガスは水素と窒素(H2 又はN2 )を用い、窒素源には、アンモニアガス(NH3 )、Ga源には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) 、In源には、トリメチルインジウム(In(CH3)3:以下「TMI」と書く。) 、Al源には、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) 、n型ドーパントガスには、シラン(SiH4 )、p型ドーパントガスには、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 H5 )2 :以下「CP2 Mg」と書く。)を用いた。
【0046】
まず、サファイア基板100を水素雰囲気中で加熱してクリーニングを行い、サファイア基板100表面の付着物を除去した。その後、MOCVD法によって、基板温度を400℃にして、サファイア基板100上にAlNからなるバッファ層120を形成した。次に、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら基板温度を1100℃まで上昇させ、基板温度が1100℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×1018cm-3のGaNよりなるn形コンタクト層101を、バッファ層120上に形成した(図2(a))。
【0047】
次に、以下のようにしてESD層102を形成した。まず、n型コンタクト層101上に、MOCVD法によって厚さ50〜500nmのノンドープGaNである第1ESD層110を形成した。成長温度は800〜950℃とし、キャリア濃度5×1017/cm3 以下、ピット密度2×108 /cm2 以上の結晶が得られるようにした。成長温度は800〜900℃とするとよりピット密度が増加し好ましい。
【0048】
次に、第1ESD層110上に、MOCVD法によってSi濃度(/cm3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×1020〜3.6×1020(nm/cm3 )のSiドープのn−GaNである第2ESD層111を形成した。成長温度は800〜950℃とした。以上の工程により、n型コンタクト層101上にESD層102を形成した(図2(b))。
【0049】
次に、ESD層102上に、MOCVD法によってn型クラッド層103を形成した。n型クラッド層103の各層である厚さ2.5nmのノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、厚さ0.7nmのノンドープのGaN層132、厚さ1.4nmのSiドープのn−GaN層133から成る周期構造を15周期、繰り返して形成した。In0.08Ga0.92N層131の形成は、基板温度を830℃にして、シランガス、TMG、TMI、アンモニアを供給して行った。n−GaN層133の形成は、基板温度を830℃にして、TMG、アンモニアを供給して行った。
【0050】
次に、n型クラッド層103の上に、発光層104を形成した。発光層104の各層であるAl0.05Ga0.95N層141、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143、Alw Ga1-w N層144の4層の周期構造を7回繰り返して形成した。ただし、第1区分における障壁層144であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.33Ga0.66N層144とし、層数は2である。第2区分における障壁層144であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.2 Ga0.8 N層144とし、層数は3である。第3区分における障壁層であるAlw Ga1-w N層144は、Al0.07Ga0.93N層144とし、層数は2である。障壁層144であるAlw Ga1-w N層144の成長温度は、800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.05Ga0.95N層141の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0051】
次に、発光層104の上に、基板温度を855℃にして、TMG、アンモニアを供給して、ノンドープのGaN層151を厚さ2.5nmに成長させ、次に、基板温度を855℃に保持し、TMA、TMG、アンモニアを供給して、ノンドープのAl0.15Ga0.85N152を厚さ3nmに成長させた。これにより、ノンドープクラッド層105を形成した。
【0052】
次に、ノンドープクラッド層105の上に、p型クラッド層106を形成した。基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMI、TMG、アンモニアを供給して、p−In0.05Ga0.95N層161を厚さ1.7nmに、基板温度を855℃にして、CP2 Mg、TMA、TMG、アンモニアを供給して、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を、厚さ3.0nmに形成することを、7回繰り返して積層させた。
【0053】
次に、基板温度を1000℃にして、TMG、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020cm-3ドープしたp形GaNよりなる厚さ50nmのp形コンタクト層107を形成した。このようにして、図2(c)に示す素子構造が形成された。p形コンタクト層107のMg濃度は、1×1019〜1×1021cm-3の範囲で使用可能である。また、p形コンタクト層107の厚さは、10nm〜100nmの範囲としても良い。
【0054】
次に、熱処理によってMgを活性化した後、p型コンタクト層107の表面側からドライエッチングを行ってn型コンタクト層101に達する溝を形成した。そして、p型コンタクト層107の表面にNi/Au/Al(p型コンタクト層107の側からこの順に積層した構造)からなるp電極108、ドライエッチングによって溝底面に露出したn型コンタクト層101上にNi/Au(n型コンタクト層101側からこの順に積層させた構造)からなるn電極130を形成した。以上によって図1に示す発光素子1が製造された。
【0055】
図3は、発光素子1のバンド構造を示している。伝導帯において、n型コンタクト層101から発光層104に注入される電子に関して、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132による電位障壁が最も高い。ところが、Al0.2 Ga0.8 N層132は、厚さが0.8nmと薄いので、この層132をトンネルして、発光層104に至ることができる。また、発光層104では、障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、n型クラッド層103側に位置する障壁層程大きく、p型クラッド層106側に位置する障壁層程小さい。そして、Al組成比は、x+z=2yの関係、すなわち、(x−y)=(y−z)の関係を満たしている。これは、第2区分の障壁層144のAl組成比に対する第1区分の障壁層144のAl組成比の偏差と、第3区分の障壁層144のAl組成比に対する第2区分の障壁層144のAl組成比の偏差が等しいことを意味している。すなわち、発光層104における障壁層144のAl組成比は、第2区分を中心にして点対称に分布している。
【0056】
発光層104とp型クラッド層106の間には、p型不純物の添加による電位障壁があるので、n型クラッド層103から発光層104に注入された電子は、p型クラッド層106のp−Al0.3 Ga0.7 N層162によりブロックされる。したがって、電子は、発光層104に効果的に閉じ込められる。この時、障壁層144のAl組成比の厚さ方向の分布が上記したように対称分布であり、n型クラッド層103に近い側が大きいので、電子をn型クラッド層103に近い井戸層142にも蓄積することができる。
【0057】
一方、価電子帯において、p型コンタクト層107からp型クラッド層106及びノンドープクラッド層105を介して発光層104に注入された正孔は、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132をトンネルすることができない。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.8nmであるが、正孔には、トンネルできない厚さであるので、この層132でブロックされる。したがって、正孔は、発光層104において、効果的に閉じ込められる。このため、正孔密度は、発光層104において一様に分布する。この結果、電子と正孔の再結合は、発光層104における発光領域を厚さ方向に、より一様化することができる。この結果、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させることができる。
【0058】
この構造の障壁層144と井戸層142だけに注目したバンド構造は、図4のようになる。発光層104における障壁層144の電位障壁は、n型クラッド層103側が高くなり、p型クラッド層106側が低くなる。このため、発光層104の第1区分の井戸層142に注入された電子は、第1区分における障壁層144の障壁の高さのために、第2区分の井戸層142には移動し難い。同様に、第2区分の井戸層142の電子は、第2区分の障壁層144の高さにより、第3区分の井戸層142には移動し難い。この結果、発光層104においては、井戸層142における電子濃度は、n型クラッド層103側の方がp型クラッド層106側よりも高くなる。これにより、p型クラッド層106から発光層104に注入された正孔の一部は、発光層104のn型クラッド層103側にも至り、その部分でも電子と再結合する。この結果、発光は、発光層104の厚さ方向において一様となり、発光出力及び発光効率が向上する。
【実施例2】
【0059】
本実施例2は、発光層104における障壁層144の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、全て、0.2とした。第1区分の2層ある障壁層の厚さaを0.48nm、第2区分の3層ある障壁層の厚さbを0.6nm、第3区分の2層ある障壁層の厚さcを0.72nmとした。すなわち、第1区分の障壁層144の厚さa、第2区分の障壁層144の厚さb、第3区分の障壁層144の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(b−a)=(c−b)=0.12nm、とした。すなわち、障壁層144の厚さは、第2区分の障壁層144の厚さを中心として、第2区分の障壁層144の厚さに対する厚さの偏差が対称となるようにした。この場合に、p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さaよりも厚くした。すなわち、a<cとした。他は実施例1と同一構造の実施例2に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層144と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図5のようになる。
【実施例3】
【0060】
本実施例3は、実施例2と同様に、発光層104における障壁層144の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層144であるAlw Ga1-w N層144のAl組成比wは、全て、0.2とした。第1区分の2層ある障壁層の厚さaを0.72nm、第2区分の3層ある障壁層の厚さbを0.6nm、第3区分の2層ある障壁層の厚さcを0.48nmとした。すなわち、第1区分の障壁層144の厚さa、第2区分の障壁層144の厚さb、第3区分の障壁層144の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(a−b)=(b−c)=0.12nm、とした。すなわち、障壁層144の厚さは、第2区分の障壁層144の厚さを中心として、第2区分の障壁層144の厚さに対する厚さの偏差が点対称となるようにした。この場合に、実施例3では、実施例2とは逆に、p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さaよりも薄くした。すなわち、c<aとした。他は実施例1と同一構造の実施例3に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層144と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図6のようになる。
障壁層144の厚さの分布に関しては、図5、6のように、発光層104の厚さの中央CLに対して点対称性があれば、点対称性がない場合よりも発光光度は高くなる。このような障壁層144の厚さの分布により発光層104の厚さ方向での発光光度を一様化することができるため、発光光度が向上する。
【実施例4】
【0061】
実施例4は、障壁層144のAl組成比に関して、実施例1の構成を用い、障壁層144の厚さに関して、実施例2の構成を用いたものである。発光層104の障壁層144に関して、第1区分の障壁層144は、厚さ0.48nmのAl0.33Ga0.66N層144とし、層数を2とした。第2区分の障壁層144は、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144とし、層数を3とした。第3区分の障壁層144は、厚さ0.72nmのAl0.07Ga0.93N層144とし、層数は2とした。すなわち、組成比に関して、x+z=2y、且つ、z<x、厚さに関してa+c=2b、且つ、a<cとした。この構成の場合には、障壁層144は、n型クラッド層103に近い方においてAl組成比が大きいため、電子に対する障壁の高さが高く、p型クラッド層106に近い方において障壁の高さが低くなる。p型クラッド層106に近い方において障壁層144の障壁の高さが低くなることによる電子のオーバーフローを抑制するために、障壁層144は、p型クラッド層106に近い方がその厚さを厚くしている。この結果として、発光光度は、大きくなる。
【0062】
上記実施例においては、発光層104における障壁層144の層数は、第1区分と第3区分で層数が等しいならば、任意で良い。また、障壁層144のAlの組成比は、x+z=2y、且つ、z<xの関係を満たせば任意であるが、1.1≦x/y≦2.2の時に発光光度が高い。x/yが1.1より小さくなると、発光層104において、Al組成比を変化させて、井戸層における電子密度を均一化する効果が低くなり望ましくない。また、x/yが2.2より大きくなると、井戸層の結晶性が低下するので望ましくない。したがって、上記の範囲が望ましい。
【0063】
また、障壁層144の厚さは、a+c=2bの関係を満たすならば、その厚さの範囲は任意であるが、a/bを、0.7≦a/b≦0.9とすると、発光光度が向上する。p型クラッド層106に近い障壁層144の厚さを、n型クラッド層103に近い障壁層144の厚さより厚くする方が、逆の場合より、発光光度は大きい。しかし、両者ともに、障壁層の厚さを一定とした場合よりは、発光光度は大きい。a/bが0.9を越えると、障壁層144の幅の変化が小さくなり、電子を発光層の厚さ方向に一様に閉じ込める効果が小さくなるので、望ましくない。a/bが0.7より小さいと、厚さの厚い障壁層を越える井戸層へ移動する電子が少なくなり、発光層の厚さ方向における発光領域の均一化を阻害することになる。したがって、a/bは、上記の範囲が望ましい。
【実施例5】
【0064】
本実施例は、実施例1において、発光層104におけるAl組成比を変化させる層を、障壁層141とした例である。実施例1と同様に、発光層104(活性層ともいう)において、n型クラッド層103の側から第1区分、第2区分、第3区分と、厚さ方向に3つの区分に分ける。第1区分では、厚さ2.4nmのAl0.083 Ga0.917 N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第2区分では、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、3単位設けられている。第3区分では、厚さ2.4nmのAl0.017 Ga0.983 N層141、厚さ3.2nmのIn0 .2Ga0.8 N層142、厚さ0.6nmのGaN層143、厚さ0.6nmのAl0.2 Ga0.8 N層144の4層を順に積層させたものを1単位として、2単位設けられている。第1区分の2層のAl0.083 Ga0.917 N層141、第2区分の3層のAl0.05Ga0.95N層141、第3区分の2層のAl0.017 Ga0.983 N層141が、それぞれ、本発明の障壁層141であり、In0 .2Ga0.8 N層142が井戸層142である。以下において、符号141は障壁層にも用い、符号142は井戸層にも用いる。
【0065】
ただし、最初に形成する層、すなわち、n型クラッド層103に接する層をAl0.083 Ga0.917 N層141、最後に形成する層、すなわち、ノンドープクラッド層105に接する層をAl0.2 Ga0.8 N層144としている。1繰返単位の厚さは6.8nmであり、発光層104の全体の厚さは47.6nmである。発光層104の全ての層は、ノンドープである。発光層104以外の他の層の構成及び製造方法は、実施例1と同一である。
【0066】
ただし、発光層104の製法において、第1区分における障壁層141であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.083 Ga0.917 N層141とし、層数は2である。第2区分における障壁層141であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141とし、層数は3である。第3区分における障壁層であるAlw Ga1-w N層141は、厚さ2.4nmのAl0.017 Ga0.983 N層141、とし、層数は2である。そして、障壁層141であるAlw Ga1-w N層141の成長温度は、800〜950℃の範囲の任意の温度とし、In0 .2Ga0.8 N層142、GaN層143及びAl0.2 Ga0.8 N層144の成長温度は、770℃とした。勿論、各層の成長において、各層を成長させる基板温度は、一定の770℃にしても良い。それぞれの原料ガスを供給して、発光層104を形成した。
【0067】
図7は、発光素子1のバンド構造を示している。伝導帯において、n型コンタクト層101から発光層104に注入される電子に関して、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132による電位障壁が最も高い。ところが、Al0.2 Ga0.8 N層132は、厚さが0.8nmと薄いので、この層132をトンネルして、発光層104に至ることができる。また、発光層104では、障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、n型クラッド層103側に位置する障壁層程大きく、p型クラッド層106側に位置する障壁層程小さい。そして、Al組成比は、x+z=2yの関係、すなわち、(x−y)=(y−z)の関係を満たしている。これは、第2区分の障壁層141のAl組成比に対する第1区分の障壁層141のAl組成比の偏差と、第3区分の障壁層141のAl組成比に対する第2区分の障壁層141のAl組成比の偏差が等しいことを意味している。すなわち、発光層104における障壁層141のAl組成比は、第2区分を中心にして点対称に分布している。
【0068】
発光層104とp型クラッド層106の間には、p型不純物の添加による電位障壁があるので、n型クラッド層103から発光層104に注入された電子は、p型クラッド層106のp−Al0.3 Ga0.7 N層162によりブロックされる。したがって、電子は、発光層104に効果的に閉じ込められる。この時、障壁層141のAl組成比の厚さ方向の分布が上記したように対称分布であり、n型クラッド層103に近い側が大きいので、電子をn型クラッド層103に近い井戸層142にも蓄積することができる。
【0069】
一方、価電子帯において、p型コンタクト層107からp型クラッド層106及びノンドープクラッド層105を介して発光層104に注入された正孔は、n型クラッド層103のノンドープのAl0.2 Ga0.8 N層132をトンネルすることができない。Al0.2 Ga0.8 N層132の厚さは、0.8nmであるが、正孔には、トンネルできない厚さであるので、この層132でブロックされる。したがって、正孔は、発光層104において、効果的に閉じ込められる。このため、正孔密度は、発光層104において一様に分布する。この結果、電子と正孔の再結合は、発光層104における発光領域を厚さ方向に、より一様化することができる。この結果、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させることができる。
【0070】
この構造の障壁層141と井戸層142だけに注目したバンド構造は、図8のようになる。発光層104における障壁層141の電位障壁は、n型クラッド層103側が高くなり、p型クラッド層106側が低くなる。このため、発光層104の第1区分の井戸層142に注入された電子は、第1区分における障壁層141の障壁の高さのために、第2区分の井戸層142には移動し難い。同様に、第2区分の井戸層142の電子は、第2区分の障壁層141の高さにより、第3区分の井戸層142には移動し難い。この結果、発光層104においては、井戸層142における電子濃度は、n型クラッド層103側の方がp型クラッド層106側よりも高くなる。これにより、p型クラッド層106から発光層104に注入された正孔の一部は、発光層104のn型クラッド層103側にも至り、その部分でも電子と再結合する。この結果、発光は、発光層104の厚さ方向において一様となり、発光出力及び発光効率が向上する。
【0071】
発光出力の測定図を図11に示す。発光層104の上記の単位を7単位として、全体で7層の障壁層であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wを、全て、上記の第2区分における障壁層のAl組成比0.05とした発光素子を比較例1として製造した。また、障壁層であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wについて、第1区分では0.017、第2区分では0.05、第3区分では0.083とした比較例2の発光素子を製造した。すなわち、比較例2では、発光層104における障壁層141のAl組成比について、発光層104の厚さの中点において点対称性はあるが、Al組成比wをn型クラッド層103に近い側を小さく、p型クラッド層106に近い側を大きくした。図11は、比較例1の光度を1として、規格化した相対光度である。図11から理解されるように、比較例2では0.975と小さく、実施例1では1.01と大きい。すなわち、実施例5の障壁層141におけるAl組成比の点対称性及び分布は、均一分布(比較例1)や、実施例5と逆の分布(比較例2)よりも、発光光度が大きいことが分かる。
【0072】
実施例1は、障壁層144について、実施例5と同一に、Al組成比を変化させたものであるが、層141と層144のバンドギャップは、共に、井戸層142のバンドギャップよりも大きい。したがって、層141と層144は、共に、井戸層142に対してキャリアの閉じ込めのための障壁層として機能する。よって、図11の測定結果から、実施例1の場合においても、実施例5と同一の効果が得られるものと見做される。
【実施例6】
【0073】
本実施例6は、発光層104における障壁層141の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、全て、0.05とした。第1区分の2層ある障壁層141の厚さaを2.0nm、第2区分の3層ある障壁層141の厚さbを2.4nm、第3区分の2層ある障壁層141の厚さcを2.8nmとした。すなわち、第1区分の障壁層141の厚さa、第2区分の障壁層141の厚さb、第3区分の障壁層141の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(b−a)=(c−b)=0.4nm、とした。すなわち、障壁層141の厚さは、第2区分の障壁層141の厚さを中心として、第2区分の障壁層141の厚さに対する厚さの偏差が対称となるようにした。この場合に、p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さaよりも厚くした。すなわち、a<cとした。他は実施例5と同一構造の実施例6に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層141と井戸層142だけを抽出してバンド構造を表現すると図9のようになる。
【0074】
発光光度を図11に示す。この実施例6の発光素子の発光光度は、1.018と比較例1よりも大きいことが分かる。同様に、この測定結果から、実施例2の障壁層144について、実施例6と同様な厚さの分布をさせた場合にも、同一の効果を奏するものと見做される。
【実施例7】
【0075】
本実施例7は、実施例6と同様に、発光層104における障壁層141の厚さを変化させたものである。7層ある障壁層141であるAlw Ga1-w N層141のAl組成比wは、全て、0.05とした。第1区分の2層ある障壁層141の厚さaを2.8nm、第2区分の3層ある障壁層141の厚さbを2.4nm、第3区分の2層ある障壁層141の厚さcを2.0nmとした。すなわち、第1区分の障壁層141の厚さa、第2区分の障壁層141の厚さb、第3区分の障壁層141の厚さcに対して、a+c=2b、すなわち、(a−b)=(b−c)=0.4nm、とした。すなわち、障壁層141の厚さは、第2区分の障壁層141の厚さを中心として、第2区分の障壁層141の厚さに対する厚さの偏差が点対称となるようにした。この場合に、実施例7では、実施例6とは逆に、p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さcを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さaよりも薄くした。すなわち、c<aとした。他は実施例5と同一構造の実施例7に係る発光素子を製造した。発光層104における障壁層141と井戸層142だけ抽出してバンド構造を表現すると図10のようになる。
【0076】
発光光度を図11に示す。この実施例7の発光素子の発光光度は、1.01と比較例1よりも大きいことが分かる。同様に、この測定結果から、実施例3の障壁層144について、実施例7と同様な厚さの分布をさせた場合にも、同一の効果を奏するものと見做される。
【0077】
以上のことから、障壁層141の厚さの分布に関しては、図9、10のように、発光層104の厚さの中央CLに対して点対称性があれば、点対称性がない場合(比較例1)よりも発光光度は高いことが分かる。このような障壁層141の厚さの分布により発光層104の厚さ方向での発光光度を一様化することができるため、発光光度が向上する。
【実施例8】
【0078】
実施例8は、障壁層141のAl組成比に関して、実施例5の構成を用い、障壁層141の厚さに関して、実施例6の構成を用いたものである。発光層104の障壁層141に関して、第1区分の障壁層141は、厚さ2.0nmのAl0.083 Ga0.917 N層141とし、層数を2とした。第2区分の障壁層141は、厚さ2.4nmのAl0.05Ga0.95N層141とし、層数を3とした。第3区分の障壁層141は、厚さ2.8nmのAl0.017 Ga0.983 N層141とし、層数は2とした。すなわち、組成比に関して、x+z=2y、且つ、z<x、厚さに関してa+c=2b、且つ、a<cとした。この構成の場合には、障壁層141は、n型クラッド層103に近い方においてAl組成比が大きいため、電子に対する障壁の高さが高く、p型クラッド層106に近い方において障壁の高さが低くなる。p型クラッド層106に近い方において障壁層141の障壁の高さが低くなることによる電子のオーバーフローを抑制するために、障壁層141は、p型クラッド層106に近い方がその厚さを厚くしている。この結果として、発光光度は、大きくなる。
【0079】
上記全実施例5−8においては、発光層104における障壁層141の層数は、第1区分と第3区分で層数が等しいならば、任意で良い。また、障壁層141のAlの組成比は、x+z=2y、且つ、z<xの関係を満たせば任意であるが、1.1≦x/y≦2.2の時に発光光度が高い。x/yが1.1より小さくなると、発光層104において、Al組成比を変化させて、井戸層における電子密度を均一化する効果が低くなり望ましくない。また、x/yが2.2より大きくなると、井戸層の結晶性が低下するので望ましくない。したがって、上記の範囲が望ましい。
【0080】
また、障壁層141の厚さは、a+c=2bの関係を満たすならば、その厚さの範囲は任意であるが、a/bを、0.7≦a/b≦0.9とすると、発光光度が向上する。p型クラッド層106に近い障壁層141の厚さを、n型クラッド層103に近い障壁層141の厚さより厚くする方が、逆の場合より、発光光度は大きい。しかし、両者ともに、障壁層の厚さを一定とした場合よりは、発光光度は大きい。a/bが0.9を越えると、障壁層141の幅の変化が小さくなり、電子を発光層の厚さ方向に一様に閉じ込める効果が小さくなるので、望ましくない。a/bが0.7より小さいと、厚さの厚い障壁層を越える井戸層へ移動する電子が少なくなり、発光層の厚さ方向における発光領域の均一化を阻害することになる。したがって、a/bは、上記の範囲が望ましい。
【0081】
上記全実施例1−8において、n型クラッド層103は、n型コンタクト層101の側から、ノンドープのIn0.08Ga0.92N層131、ノンドープのGaN層132、Siドープのn−GaN層133の周期構造としたが、配列に関して、In0.08Ga0.92N層、Siドープのn−GaN層、ノンドープのGaN層としても良く、Siドープのn−GaN層、ノンドープのGaN層、In0.08Ga0.92N層としても良く、Siドープのn−GaN層、In0.08Ga0.92N層、ノンドープのGaN層としても良い。また、In0.08Ga0.92N層131にも、Siをドープして、n型層としても良いし、GaN層133をノンドープとしても良い。また、Siドープのn−GaN層133に代えて、SiドープのAl0.2 Ga0.8 N層133としても良いし、そのAl0.2 Ga0.8 N層133はノンドープであっても良い。
【0082】
n型クラッド層103は、15周期としたが、この周期数は、任意である。例えば、一例であるが、3以上、30周期以下の範囲とすることができる。また、ノンドープのGaN層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。SiドープのGaN層133の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。In0.08Ga0.92N層131の厚さは、1.5nm以上、5.0nm以下とすることができる。
【0083】
層132として、Alx Ga1-x N層132を用いた場合には、Alx Ga1-x N層132の組成比xは、0.05以上、1より小さくすることができる。望ましくは、0.1以上、0.8以下である。さらに、望ましくは、0.2以上、0.6以下である。Alx Ga1-x N層132をAlNとした場合には、厚さは、0.3nm程度でも、電子をトンネルさせ、正孔をトンネルさせないようにすることができる。また、Alx Ga1-x N層132をAl0.05Ga0.95Nとした場合には、その層132の厚さは2.5nm程度は必要である。したがって、Alx Ga1-x N層132の厚さは、0.3nm以上、2.5nm以下とすることができる。p型クラッド層106の周期構造の一つの層には、p−Al0.3 Ga0.7 N層162を用いているので、n型クラッド層103のAlx Ga1-x N層132のAlの組成比xは、0.15以上とするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、III 族窒化物半導体発光素子において、駆動電圧を上昇させることなく、発光効率を向上させるのに用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
100:サファイア基板
101:n型コンタクト層
102:ESD層
103:n型クラッド層
104:発光層
105:ノンドープクラッド層
106:p型クラッド層
107:p型コンタクト層
108:p電極
130:n電極
110:第1ESD層
111:第2ESD層
120:バッファ層
131:Iny Ga1-y N層
132:Alx Ga1-x N層
133:GaN層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、前記n型層側クラッド層から前記p型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、前記第1区分における前記障壁層のAl組成比の平均をx、前記第2区分における前記障壁層のAl組成比の平均をy、前記第3区分における前記障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの前記障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1区分と前記第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの前記障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
比x/yを、1.1≦x/y≦2.2としたことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1区分における前記障壁層の厚さの平均をa、前記第2区分における前記障壁層の厚さの平均をb、前記第3区分における前記障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1区分と前記第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項4に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
a<cの関係に設定することを特徴とする請求項5に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする請求項5に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、前記n型層側クラッド層から前記p型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分、第2区分、第3区分の前記障壁層のAl組成比を等しくし、前記第1区分における前記障壁層の厚さの平均をa、前記第2区分における前記障壁層の厚さの平均をb、前記第3区分における前記障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
第1区分と第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項8に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
a<cの関係に設定することを特徴とする請求項9に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする請求項9に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項1】
各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、前記n型層側クラッド層から前記p型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、前記第1区分における前記障壁層のAl組成比の平均をx、前記第2区分における前記障壁層のAl組成比の平均をy、前記第3区分における前記障壁層のAl組成比の平均をzとする時、z<y<xを満たすように、それぞれの前記障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1区分と前記第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、x+z=2yを満たすように、それぞれの前記障壁層のAl組成比を設定したことを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
比x/yを、1.1≦x/y≦2.2としたことを特徴とする請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1区分における前記障壁層の厚さの平均をa、前記第2区分における前記障壁層の厚さの平均をb、前記第3区分における前記障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1区分と前記第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項4に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
a<cの関係に設定することを特徴とする請求項5に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする請求項5に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
各層がIII 族窒化物半導体から成り、n型層側クラッド層、Alx Ga1-x N(0<x<1)層を障壁層とする多重量子構造を有した発光層、p型層側クラッド層を少なくとも有するIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、前記n型層側クラッド層から前記p型層側クラッド層の方向の厚さ方向に沿って、3区分の第1区分、第2区分、第3区分に分ける時、第1区分、第2区分、第3区分の前記障壁層のAl組成比を等しくし、前記第1区分における前記障壁層の厚さの平均をa、前記第2区分における前記障壁層の厚さの平均をb、前記第3区分における前記障壁層の厚さの平均をcとする時、a<b<c、又は、c<b<aを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
第1区分と第3区分における前記障壁層の層数を等しくし、a+c=2bを満たすように、それぞれの前記障壁層の厚さを設定したことを特徴とする請求項8に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
a<cの関係に設定することを特徴とする請求項9に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
a<b<cの場合には、比a/bを、0.7≦a/b≦0.9とし、c<b<aの場合には、比c/bを、0.7≦c/b≦0.9としたことを特徴とする請求項9に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−216751(P2012−216751A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212298(P2011−212298)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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