説明

IgA1沈着症の治療

【課題】Ig(免疫グロブリン)A1沈着症を治療するために使用できる治療薬を提供する。
【解決手段】細菌のIgA1プロテアーゼをコードする第一DNA配列およびタグをコードする第二DNA配列を含む核酸分子であって、第二DNA配列がIgA1プロテアーゼ切断部位をコードするDNA配列の上流に位置することを特徴とする核酸分子。また、組織および器官におけるIgA1沈着を治療するための該IgA1プロテアーゼの使用。細菌のIgA1プロテアーゼはIgA1分子を特異的に切断するため、IgA1沈着を特異的に切断し、除去する。また、IgA腎症、疱疹状皮膚炎(DH)、およびヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HS)を治療するための治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、全部または一部、NIH,NIDCRからの助成NIH R01 DE 09677によって支援された。合衆国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの組織および器官における免疫グロブリンA1(IgA1)沈着は、IgA腎症、疱疹状皮膚炎(DH)、およびヘノッホ・シェーンライン(Henoch-Schoenlein)紫斑病(HS)を含む多くのヒト疾患の特徴である。IgA1沈着は、腎不全、皮膚の水疱形成、発疹、関節炎、消化管出血および腹痛などの様々な臨床症状の原因となる。
【0003】
異常なIgA1沈着を呈する患者に対して、いくつかの利用可能な治療選択肢がある。これらは、免疫抑制特性および抗炎症特性を有するコルチコステロイドの投与、腎臓の炎症を軽減する魚油サプリメントの投与、ならびに進行性腎疾患および腎不全の危険性を軽減するアンギオテンシン変換酵素阻害剤の投与を含む。このような治療は、組織または器官におけるIgA1沈着物に直接的には作用しない。
【0004】
IgA1沈着除去のこの問題点を解決するために、IgA1沈着動物モデルにおいて外因性のタンパク質分解酵素が検査された(Gesualdo L.ら(1990)J.Clin.Invest.86:715-722およびNakazawa M.ら(1986) J.Exp.Med 164:1973-1987)。そのプロテアーゼ、キモパパインおよびスブチリシンは、腎臓においてIgA1沈着のタンパク質分解的切断によって作用するが、IgA1分子に対して特異的ではなく、様々な他のタンパク質を消化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本分野の進歩にも関わらず、当技術分野ではIgA1沈着症を治療するために使用できる治療薬の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、組織および器官におけるIgA1沈着を治療するための細菌のIgA1プロテアーゼの使用を開示する。細菌のIgA1プロテアーゼはIgA1分子を特異的に切断するため、IgA1沈着を特異的に切断し、除去する手段を提供する。従って、IgA1沈着を特徴とする疾患の治療のための治療薬を提供する。特に、IgA腎症、疱疹状皮膚炎(DH)、およびヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HS)を治療するための治療薬を開示する。
【0007】
本明細書において、IgA1プロテアーゼ自己触媒性切断部位の上流に位置するアミノ酸タグと融合されるIgA1プロテアーゼをコードする核酸分子が開示される。
【0008】
1つの実施形態では、IgA1プロテアーゼと融合されるタグは、抗体またはペプチドのようなタンパク質リガンドに特異的に結合するタグである。タグは、c-Myc、HA、VSV-G、HSV、FLAG、V5、またはHISであり得る。
【0009】
1つの態様では、抗IgA1プロテアーゼ抗体などの抗体と複合体を形成したIgA1プロテアーゼを含む、IgA1沈着の治療のための医薬組成物が提供される。
【0010】
別の態様では、タグのリガンドと複合体を形成したタグ付きIgA1プロテアーゼを含む、IgA1沈着の治療のための医薬組成物が提供される。IgA1プロテアーゼに融合されるタグは、c-Myc、HA、VSV-G、HSV、FLAG、V5、またはHISであり得る。従って、リガンドは、抗FLAG、抗MYC、抗VSV、抗HA、または抗V5などの抗タグ抗体であり得る。別法として、リガンドは、ペプチドまたは、キレート分子のような非ペプチドリガンドであり得る。
【0011】
別の態様では、IgA1沈着を特徴とする疾患の治療のための方法が提供される。その方法は治療上有効な量のIgA1プロテアーゼを患者に投与することを含む。
【0012】
1つの実施形態では、治療のための方法は、抗タグ抗体のようなタグのリガンドと複合体を形成するタグと融合されたIgA1プロテアーゼを使用する。IgA1プロテアーゼに融合されるタグは、c-Myc、Flag、HA、VSV-G、HSV、FLAG、V5、またはHISであり得る。従って、抗タグ抗体は、抗FLAG、抗MYC、抗VSV、抗HA、または抗V5であり得る。
別の実施形態では、IgA1沈着を特徴とする疾患は、IgA腎症、疱疹状皮膚炎、またはヘノッホ・シェーンライン紫斑病である。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
IgA1プロテアーゼをコードする第一DNA配列およびタグをコードする第二DNA配列を含む核酸分子であって、第二DNA配列がIgA1プロテアーゼ切断部位をコードするDNA配列の上流に位置することを特徴とする核酸分子。
(項目2)
IgA1プロテアーゼを含む第一アミノ酸配列およびタグを含む第二アミノ酸配列を含む単離ポリペプチド分子。
(項目3)
前記タグがタンパク質リガンドに特異的に結合する、項目1または2に記載の分子。
(項目4)
前記タンパク質リガンドが抗体である、項目3に記載の分子。
(項目5)
前記タグがc-Myc、HA、VSV-G、HSV、FLAG、V5、およびHISからなる群より選択される、項目1または2に記載の分子。
(項目6)
抗体および製薬上許容されうる担体と混合されたIgA1プロテアーゼを含む、IgA1沈着の治療のための医薬組成物。
(項目7)
前記IgA1プロテアーゼがタグを含む、項目6に記載の医薬組成物。
(項目8)
前記タグがリガンドに特異的に結合する、項目7に記載の医薬組成物。
(項目9)
前記リガンドが抗体である、項目8に記載の医薬組成物。
(項目10)
前記タグがc-Myc、HA、VSV-G、HSV、FLAG、V5、およびHISからなる群より選択される、項目7に記載の医薬組成物。
(項目11)
前記抗体が抗タグ抗体である、項目6に記載の医薬組成物。
(項目12)
前記抗タグ抗体が抗HIS、抗FLAG、抗MYC、抗VSV、抗HA、および抗V5からなる群より選択される、項目11に記載の医薬組成物。
(項目13)
患者に治療上有効な量のIgA1プロテアーゼを投与することを含む、IgA1沈着を特徴とする疾患の治療のための方法。
(項目14)
患者に治療上有効な量の項目2に記載のポリペプチドまたは項目6〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含む、IgA1沈着を特徴とする疾患の治療のための方法。
(項目15)
前記疾患がIgA腎症である、項目13または14に記載の方法。
(項目16)
前記疾患が疱疹状皮膚炎である、項目13または14に記載の方法。
(項目17)
前記疾患がヘノッホ・シェーンライン紫斑病である、項目13または14に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、IgA1のヒンジ領域およびヒンジ領域内のいくつかのIgA1プロテアーゼについての切断部位を示す(配列番号1)。
【図2A】図2aは、自己触媒性切断を受け、自己触媒性切断によって可溶性の成熟型IgA1プロテアーゼを放出する、IgA1プロテアーゼ前駆体を図解する。
【図2B】図2bは、Hisタグが成熟型IgA1プロテアーゼのカルボキシル末端付近に位置するように、HisタグをIgA1プロテアーゼに融合したIgA1プロテアーゼを示す。可溶性IgA1プロテアーゼはその後、治療目的で、抗His抗体と複合体を形成し得る。
【図3】図3は、Haemophilus influenzae Rd IgA1プロテアーゼ前駆体タンパク質の概略図を示し、自己触媒性切断部位(部位a)から上流のアミノ酸配列である、本来の配列(配列番号2)を示す。突然変異配列(配列番号3)は、タンパク質分解性切断部位の2アミノ酸上流で、HisタグがIgA1プロテアーゼの読み枠に融合されたところを示す。対応する本来の配列の核酸配列(配列番号25)および突然変異配列(配列番号26)もまた示される。
【図4】図4は、従来のライゲーション技術によって、H.influenzae Rd IgA1プロテアーゼにHISタグを挿入するために作製されたPCR部位指定突然変異導入断片を示す。
【図5】図5は、Haemophilus influenzae Rdのタンパク質配列を示す(配列番号4)。
【図6−1】図6は、Haemophilus influenzae Rdのヌクレオチド配列を示す(配列番号5)。
【図6−2】図6は、Haemophilus influenzae Rdのヌクレオチド配列を示す(配列番号5)。
【図6−3】図6は、Haemophilus influenzae Rdのヌクレオチド配列を示す(配列番号5)。
【図6−4】図6は、Haemophilus influenzae Rdのヌクレオチド配列を示す(配列番号5)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、IgA1沈着を特徴とする疾患を治療するための細菌の免疫グロブリンA1プロテアーゼ(IgA1プロテアーゼ)の使用に関する。
【0015】
定義
本明細書において用いられる場合、「IgA1プロテアーゼ」はヒトIgA1分子を特異的に切断する細菌酵素を指す。「特異的に切断する」とは、プロテアーゼがヒトIgA1分子のヒンジ領域で切断し、ヒトIgA2分子を切断しないことを意味する。IgA1プロテアーゼは、細菌膜を貫通する単鎖前駆体としてグラム陰性菌およびグラム陽性菌で発現される。グラム陰性菌のIgA1プロテアーゼは自己触媒性切断を受け、N末端の可溶性IgA1成熟型プロテアーゼを放出する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「上流に位置する」という用語は、タグが可溶性の分泌IgA1プロテアーゼのカルボキシル末端から2、または1、または0から50アミノ酸上流に位置するように、アミノ酸タグ配列がIgA1プロテアーゼの自己触媒性切断部位の少なくとも2アミノ酸、または1アミノ酸、または0アミノ酸アミノ末端側に位置し、最大50アミノ酸アミノ末端側に位置する、タグの空間的条件を指す。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「タグ」は3〜40アミノ酸の長さのポリペプチド配列を指す。タグは、ペプチド、タンパク質リガンド、または非ペプチドリガンドに特異的な結合親和性を持ち得る。特異的な結合親和性は、IgA1プロテアーゼを検出することができ、単離することができ、複合体型に拡張することができ、または治療目的に使用することができるように、それが融合されるIgA1プロテアーゼがリガンドと複合体を形成することを可能にする。本明細書において、タグはまた、蛍光タグ、発光タグ、または発色タグを含む。タグの非限定的な例は、c-Myc、HA、およびVSV-G、HSV、FLAG、V5、およびHISを含む。
【0018】
「リガンドと複合体を形成する」とは、IgA1プロテアーゼが抗体またはキレート分子などの結合パートナーと特異的に結合することを意味する。特異的な結合パートナーは、ビーズのようなマトリックスに結合され得る。「特異的に結合する」という用語は、例えば、抗体またはタンパク質またはペプチドまたはキレート剤などの、2つの分子の相互作用を指し、その相互作用はそれぞれの分子上の特定の構造の存在に依存する。例えば、2つの分子がタンパク質分子である場合、第一分子上の構造は、一般的なタンパク質よりむしろ、第二分子上の構造を認識して結合する。「特異的な結合」は、その用語が本明細書において用いられる場合、それが非特異的分子に結合するよりも、少なくとも2倍以上の親和性、好ましくは少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍またはそれ以上のより高い親和性で、分子がその特異的な結合パートナーに結合することを意味する。
【0019】
「検出される」とは、抗タグモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットによる「検出」、免疫蛍光検査法による検出、もしくはタグ自身が蛍光を発することによる検出などの、タグの存在または非存在を決定する方法を意味する。本発明の適切なタグの非限定的な例は、c-Myc、Flag、HA、およびVSV-G、HSV、FLAG、V5、およびHISを含む。
【0020】
「単離される」とは、IgA1プロテアーゼが、細胞膜および細菌増殖培地中に存在する任意のタンパク質または核酸などの細菌細胞物質から分離されることを意味する。非限定的な単離方法の例は、金属キレート樹脂またはビーズを用いたポリヒスチジンタグを有するIgA1プロテアーゼの単離、免疫沈降、および抗タグ抗体を用いたアフィニティーカラム精製を含む。
【0021】
本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は、タグもしくはIgA1プロテアーゼなどの抗原に結合することができる免疫グロブリン分子、またはその断片を指す。「抗体」という用語は、例えば任意のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgE等)の抗体全体を含むことを意図し、また、脊椎動物、例えば哺乳動物のタンパク質に特異的に反応するその断片を含む。抗体は従来の技術を用いて断片化され得る。従って、この用語は、タンパク質分解的に切断された、または組み換えによって調製された、特定のタンパク質に選択的に反応することができる抗体分子の一部の断片を含む。このようなタンパク質分解的断片および/または組み換え断片の非限定的な例は、Fab、F(ab') 2、Fab'、Fv、dAbsならびに、ペプチドリンカーによって連結されたVLおよびVHドメインを有する一本鎖抗体(scFv)を含む。scFvは、共有結合的または非共有結合的に連結され、2つ以上の結合部位を有する抗体を形成しうる。従って、抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または他の抗体の精製調製品および組み換え抗体を含む。本明細書において、「抗タグ抗体」という用語は、タグに特異的に結合する抗体を指す。
【0022】
本明細書において用いられる場合、「IgA1沈着」という用語は、凝集型もしくは非凝集型でのヒトの組織または器官へのIgA1免疫グロブリンの蓄積を指す。
【0023】
本明細書において、「IgA1沈着を特徴とする疾患」とは、限定はされないが、IgA腎症、疱疹状皮膚炎、およびヘノッホ・シェーンライン紫斑病などの、IgA1沈着が起こる任意の疾患を指す。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「IgA腎症」は、腎臓内へのIgA1沈着を特徴とする腎疾患を指す。
【0025】
本明細書において用いられる場合、「疱疹状皮膚炎」は、皮膚および他の組織へのIgA1の沈着に関連した慢性水疱形成疾患を指す。
【0026】
本明細書において用いられる場合、「ヘノッホ・シェーンライン紫斑病」は、皮膚組織および腎組織へのIgA1の沈着を特徴とする皮膚および腎疾患を指す。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「医薬組成物」は、薬理学的に有効な量の活性物質および製薬上許容されうる担体を含む。本明細書において用いられる場合、「薬理学的に有効な量」または単に「有効量」は、目的とする薬理学上、治療上または予防上の結果をもたらすために有効な薬剤の量を指す。例えば、特定の臨床治療の場合、疾患または障害に関連した測定可能なパラメーターにおいて少なくとも25%の減少がある場合、有効であると考えられる。
【0028】
I.IgA1プロテアーゼ
本明細書において、IgA1プロテアーゼはIgA1沈着を特徴とする疾患の治療のために使用される。IgA1プロテアーゼは、ヒトIgA1分子を特異的に切断する細菌酵素である。IgA2分子はすべてのIgA1分子に存在するヒンジ領域を欠如しているので、ヒトIgA2はほとんどすべての既知のIgA1プロテアーゼに耐性がある。IgA1分子のヒンジ領域は、図1に示されるように、様々なIgA1プロテアーゼのための切断部位を含む一連のアミノ酸から成る。IgA1プロテアーゼは、細菌の内膜を貫通する単鎖前駆体としてグラム陰性菌で発現される。前駆体タンパク質はその後、それ自身を細菌外膜に挿入し、自己触媒性切断を受けて、可溶性の成熟型IgA1プロテアーゼを放出する(図2a)。グラム陽性菌のIgAプロテアーゼは、自己触媒性分泌機構を持たないが、それらもまた本発明において有用である。このようなプロテアーゼに対して、エピトープタグが酵素タンパク質に付加される。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、タグ配列が分泌IgA1プロテアーゼのカルボキシル末端付近に位置するように、タグ配列はIgA1プロテアーゼの読み枠に融合される(図2b)。図3は、タグ配列(例えばHisタグ)が自己触媒性切断部位a、bおよびcの上流でIgA1プロテアーゼの読み枠に融合されることを図示する、Haemophilus influenzae Rd IgA1プロテアーゼ前駆体タンパク質の概略図を示す。
【0030】
様々な細菌はIgA1プロテアーゼを産生し、本発明において有用である。これらは、Haemophilus influenzae 1型および2型、Neisseria meningitidis 1型および2型、Nissseria gonorrhoeae、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sanguis、Clostridium ramosum、Prevotella melaninogenica、ならびにUreaplasma ureatyticumを含むが、それらに限定されない。
【0031】
本発明のIgA1プロテアーゼヌクレオチド配列は、そのIgA1プロテアーゼがヒトIgA1分子を切断することができる限り、IgA1プロテアーゼを発現する任意の細菌から得ることができる。多数の細菌株由来のIgA1プロテアーゼをコードするヌクレオチド配列が既に同定されており、以下を含む:すなわち、Clostridium ramosum(Genebank 受入番号,AY028440);Ureaplasma urealyticum (Genebank 受入番号,NC_002162);Haemophilus influenzae(Genebank 受入番号,X59800)および細菌株Rd (Genebank 受入番号,NC-000907),7768 (Genebank 受入番号,AF274862),6338(Genebank 受入番号,AF27486),2509 (Genebank 受入番号,AF274859),aegyptius (Genebank 受入番号,AF369907),8625(Genebank 受入番号,AJ001741),HK284 (Genebank 受入番号,X82487),Da66 (Genebank 受入番号,X82467),HK635(Genebank 受入番号,X82488),および他の未分類の菌株由来の寄託配列 (Genebank 受入番号,X59800,X82488,X64357,M87492,M87491,M87490,およびM87489);Neisseria memingitidis(Genebank 受入番号AF235032) および細菌株、Z2491 (Genebank 受入番号,NC-03316),B40 (Genebank 受入番号,AF012211),Z4099(Genebank 受入番号,AF012210),Z4018 (Genebank 受入番号,AF012209),Z4400 (Genebank 受入番号,AF012208),Z3524(Genebank 受入番号,AF012207),Z4024 (Genebank 受入番号,AF012206),Z3910 (Genebank 受入番号,AF012205),Z3906(Genebank 受入番号,AF012204),Z2491 (Genebank 受入番号,AF012203),IHN341 (Genebank 受入番号,AJ001740),NL3327(Genebank受入番号,AJ001739),NL823 (Genebank 受入番号,AJ001737),NL3293 (Genebank 受入番号,AJ001738),HK284(Genebank 受入番号,X82487),ETH2 (Genbank 受入番号,X82469),NGO93 (Genebank 受入番号,X82482),NCG80(Genebank 受入番号,X82479),NG117 (Genebank 受入番号,X82483),HF96 (Genebank 受入番号,X82475),HF54(Genebank 受入番号,X82473),HF48 (Genebank 受入番号,X82480),HF13 (Genebank 受入番号,X82474),NGC65(Genebank 受入番号,X82484),NCG16 (Genebank 受入番号,X82485),SM1894 (Genebank 受入番号,X82476),EN3771(Genebank 受入番号,X82468),NG44/76 (Genebank 受入番号,X82481),SM1166 (Genebank 受入番号,X82486),HF159(Genebank 受入番号,X82471),81139 (Genebank 受入番号,X82477),HF117 (Genebank 受入番号,X82470),SM1027(Genebank 受入番号,X82472)およびGenebank 受入番号,AF235032;Nissseria gonorrhoeae (Genebank受入番号,A12416)および細菌株、MS11 (Genebank 受入番号,S75490);Streptococcus pneumoniae(Genebank 受入番号,X94909)および細菌株MGAS315 (Genebank 受入番号,NC-004070),R6 (Genebank 受入番号,NC-003098);ならびにStreptococcusSanguis (Genebank 受入番号,NC-003098)および細菌株SK85 (Genebank 受入番号,Y13461),SK49(Genebank 受入番号,Y13460),SK4 (Genebank 受入番号,Y13459),SK162 (Genebank 受入番号,Y13458),SK161(Genebank 受入番号,Y13457),SK115 (Genebank 受入番号,Y13456),およびSk112 (Genebank 受入番号,Y13455)である。
【0032】
ベクターの構築
本発明において、可溶性IgA1プロテアーゼを産生、単離できるように、IgA1プロテアーゼをコードする配列は、タンパク質の発現に適したベクターにクローニングされる。ベクターは標準的な方法を用いて構築することができ(Sambrookら、Molecular Biology:A laboratory Approach,Cold Spring Harbor,N.Y.1989;Ausubel,ら、Current protocols in Molecular Biology,Greene Publishing,1995)、下記において議論される原理によって誘導される。簡潔には、従来のライゲーション技術を使用して、IgA1プロテアーゼをコードするDNA配列を細菌のクローニングベクターおよび/または発現ベクターに挿入する。
【0033】
IgA1プロテアーゼをコードする核酸を調製するために、IgA1プロテアーゼをコードする遺伝子源が必要である。遺伝子は天然または合成の遺伝子源から得ることができる。細菌株から新規IgA1プロテアーゼ遺伝子をクローニングする方法は、Lomholt H.,ら、Mol.Microbiol.(1995)15 (3),495-508;Fishman,Y.ら、(1985),G.K.Schoolink (編),The Pathogenic Neisseria,Am.Soc.Microbiol.,Washington DCのp.164-168;Koomey,J.ら、Proc.Natl,Acad.Sci.USA,(1982)79:7881-7885;Halter,R,ら、EMBO J.,(1984) 3:1595-1601;Bricker,J.ら、Proc,Natl.Acad.Sci.USA,(1983),80:2681-2685;Koomey,J.M.およびFalkow,S.,上述;Grundy,J.F.ら、J.Bacteriol,(1987)169:4442-4450;ならびにGilbert,J.V.ら、Infect.Immun.,(1988) 56:1961-1966に記載され、それらはすべて参照により本明細書に組み入れられる。
【0034】
別法として、既知のIgA1プロテアーゼをコードするDNAは、対象となるIgA1プロテアーゼ遺伝子に特異的なプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅によって、細菌ゲノムDNAから単離され得る。簡潔には、細菌ゲノムDNAは、当技術分野においてよく知られている方法を用いて、例えばQIAGENによって提供される細菌ゲノムDNA単離キット、またはSambrookら、Molecular Biology:A laboratory Approach,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)および Ausubel,ら、Current protocols in Molecular Biology,Greene Publishing,(1995)(参照により本明細書に組み入れられる)に記載される標準的な方法を用いて単離される。
【0035】
PCRは当技術分野においてよく知られている(MullisおよびFaloona,Methods Enzymol.,(1987),155:335、参照により本明細書に組み入れられる)。一般的に、本発明の有用なオリゴヌクレオチドプライマーは、IgA1プロテアーゼをコードする核酸鋳型に選択的にハイブリダイズし、第二の核酸鎖の酵素的合成を開始させる一本鎖DNAまたはRNA分子である。プライマーは細菌ゲノム由来の核酸分子のプールに存在する標的分子の一部に相補的である。プライマーは、化学的または酵素的のいずれかの合成方法によって調製されることが企図される。別法として、このような分子またはその断片は、天然に存在し、その自然源から単離され、または供給業者から購入される。様々な長さのオリゴヌクレオチドが有用であるが、変異オリゴヌクレオチドプライマーは15〜100ヌクレオチドの長さ、理想的には20〜40ヌクレオチドである。好ましくは、プライマーはまた固有の制限酵素配列を有する。
【0036】
一般的に、選択的なハイブリダイゼーションは、2つの核酸配列が実質的に相補的である(一連の少なくとも14〜25ヌクレオチドに渡り、少なくとも約65%相補的、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約90%相補的である)場合に起こる。参照により本明細書に組み入れられる、Kanehisa,Nucleic Acids Res.,(1984),12:203を参照せよ。結果として、プライマー部位でのある程度のミスマッチが許容されることが予想される。このようなミスマッチは、1、2または3ヌクレオチドのように少数であると思われる。あるいは、それは、ミスマッチが連続した一連の4以上のヌクレオチドを含む領域として定義されるヌクレオチドループを含み得る。
【0037】
全体として、5つの要因が、プライマーの第二核酸分子へのハイブリダイゼーションの効率および選択性に影響を与える。これらの要因、(i)プライマーの長さ、(ii)ヌクレオチド配列および/または組成、(iii)ハイブリダイゼーション温度、(iv)バッファーの化学的性質、ならびに(v)プライマーがハイブリダイズする必要がある領域における立体障害の可能性は、非ランダムなプライマー配列を設計する際の重要な検討事項である。
【0038】
プライマーの長さとプライマーが標的配列にアニーリングする効率および精度の両方との間には正の相関がある。すなわち、より長い配列は、より短いものより高い融解温度(TM)を持ち、与えられた標的配列内で繰り返される可能性が低いため、無差別的なハイブリダイゼーションを最小限に抑える。高いGC含量を有するプライマー配列またはパリンドローム配列を含むプライマー配列は、二分子よりもむしろ単分子のハイブリダイゼーション反応速度のほうが溶液中において一般的に有利であるため、目的とするそれらの標的部位と同様に、自己ハイブリダイズする傾向があるが、同時に、このような塩基対はそれぞれ、AおよびTの塩基対で見られる2個の水素結合ではなく、3個の水素結合によって結合されるので、標的配列に強固に結合するために十分な数のGCヌクレオチド対合を含むプライマーを設計することが重要である。ハイブリダイゼーション温度は、例えばハイブリダイゼーション混合物に含まれうるホルムアミドのような有機溶媒の濃度と同様に、プライマーアニーリング効率と反比例し、一方、塩濃度の増加は結合を促進する。厳しいハイブリダイゼーション条件下では、より長いプローブが、より穏やかな条件下では十分な短いプローブより効果的にハイブリダイズする。厳しいハイブリダイゼーション条件は、一般的に約1Mより低い、より通常は約500mMより低い、好ましくは約200 mMより低い塩濃度を含む。ハイブリダイゼーション温度は、0℃程度から22℃以上、約30℃以上に渡り、(ほとんどの場合)約37℃を越える。より長い断片は、特異的なハイブリダイゼーションのためにより高いハイブリダイゼーション温度を必要としうる。いくつかの要因がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与えるので、任意のパラメーター単独の絶対的な指標より、パラメーターの組み合わせがより重要である。
【0039】
プライマーは好ましくは、プライマー配列の作製および最適化を支援するコンピュータープログラムを用いて設計される。このようなプログラムの例は、DNAStar(商標)ソフトウェアパッケージ(DNAStar.Inc.;Madison,WI)の「PrimerSelect」およびOLIGO 4.0(National Biosciences.Inc.)である。一旦設計されたら、適切なオリゴヌクレオチドは、例えば、BeaucageおよびCarruthers(1981) Tetrahedron Lett.,22:1859に記載されたホスホロアミダイト法、もしくはMatteucciおよびCaruthers(1981) J.Am.Chem.Soc.,103:3185によるトリエステル法(両方とも参照により本明細書に組み入れられる)のような適切な方法によって、または市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置もしくはVLSIPS(商標)技術のいずれかを用いた他の化学的方法によって調製される。
【0040】
PCRは鋳型細菌DNA(少なくとも1fg、より有効には1〜1000ng)および少なくとも25pmolのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて行われる。プライマープールが非常に多様である場合、それぞれの配列はプール中の分子のわずか一部に相当するだけであり、その量が後の増幅サイクルにおいて制限になるので、より多量のプライマーを使用することが有利でありうる。一般的な反応混合物は、2μlのDNA、25pmolのオリゴヌクレオチドプライマー、2.5μlの10X PCRバッファー1(Perkin Elmer,Foster City,CA)、0.4μの1.25mM dNTP、0.15μl(または2.5ユニット)のTaq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer,Foster City,CA)および全量を25μlにする脱イオン水である。ミネラルオイルを重層し、プログラム可能なサーマルサイクラーを用いてPCRを行う。
【0041】
PCRサイクルの各ステップの長さおよび温度、ならびにサイクル数は、使用されるストリンジェンシーの必要条件に従って調節される。アニーリング温度および時間は、プライマーが鋳型にアニーリングすることが予想される効率と、許容されうるミスマッチの程度との両方によって決定され、核酸分子が同時に増幅、突然変異導入される場合には、明らかに、少なくとも1回目の合成においてはミスマッチが必要とされる。30℃〜72℃のアニーリング温度が用いられる。最初の鋳型分子の変性は通常92℃〜99℃、4分間で起こり、続いて、変性(94〜99℃で15秒〜1分間)、アニーリング(上述のようにして決定された温度で1〜2分間)、および伸長(増幅産物の長さに応じて、72℃で1〜5分間)からなる20〜40サイクルが行われる。最後の伸長は通常72℃で4分間であり、続いて4℃で無期限(0〜24時間)のステップが行われうる。
【0042】
PCR増幅後に、DNAは、ゲル電気泳動またはカラム精製などの標準的な方法によって単離され得る。細菌のIgA1プロテアーゼをコードするDNAはその後、適切な制限酵素によって消化され、適切なクローニングベクターおよび/または発現ベクターにライゲーションされ得る。
【0043】
ベクターおよび宿主細胞
任意のベクターが本発明において使用され得る。本明細書において用いられる場合、ベクターは、その発現および/または複製のために、異種DNAを細菌細胞に導入するために用いられる個別のエレメントを指す。本発明に適した多数のベクターは公的に入手可能であり、細菌プラスミドおよびバクテリオファージを含む。それぞれのベクターは様々な機能要素を含み、それは通常、クローニング(すなわち「ポリリンカー」)部位、複製起点および少なくとも1つの選択マーカー遺伝子を含む。与えられたベクターが発現ベクターである場合、それは更に以下の1つ以上、すなわち、エンハンサーエレメント、プロモーター、転写終止配列およびシグナル配列を有し、各々は、それらが本発明のIgA1プロテアーゼをコードする遺伝子に機能しうる形で連結されるように、クローニング部位の近傍に配置される。
【0044】
クローニングベクターおよび発現ベクターの両方は、通常、1以上の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般的にクローニングベクターでは、この配列は宿主染色体DNAとは独立にベクターの複製を可能にするものであり、複製起点または自己複製配列を含む。このような配列は様々な細菌についてよく知られている。例えば、プラスミドpBR322由来の複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌に適している。
【0045】
クローニングベクターまたは発現ベクターは、有利に、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含みうる。この遺伝子は、選択培地で培養される形質転換宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されない宿主細胞は、従ってその培地では生存しない。代表的な選択遺伝子は、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサートもしくはテトラサイクリンなどの抗生物質および他の毒素に耐性を与えるタンパク質、栄養要求性欠損を補完するタンパク質、または増殖培地中の利用できない必須栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0046】
本発明のベクターの複製は、最も都合良くはE.coliにおいて行われるため、E.coliの選択マーカー、例えば、抗生物質アンピシリンに耐性を与えるβ-ラクタマーゼが有用である。これらは、pBR322またはpUCl8もしくはpUCl9などのpUCプラスミドのようなE.coliプラスミドから得ることができる。
【0047】
発現ベクターは通常、宿主生物によって認識され、対象となるコード配列に機能しうる形で連結されるプロモーターを含む。このようなプロモーターは誘導性または構成的でありうる。「機能しうる形で連結される」という用語は、並列で、記載される構成要素がそれらの目的とする方式でそれらが機能することを可能にする関係であることを指す。コード配列に「機能しうる形で連結される」制御配列は、制御配列に適合した条件下でコード配列の発現が達成されるようにライゲーションされる。
【0048】
原核生物宿主での使用に適したプロモーターは、例えば、β-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系ならびにtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターを含む。細菌の系における使用のためのプロモーターはまた一般的に、コード配列に機能しうる形で連結されるシャイン・ダルガーノ配列を含む。本発明の好ましいプロモーターは、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)調節性プロモーターである。
【0049】
任意の細菌株が、本発明のIgA1プロテアーゼの発現およびクローニングのための適切な宿主細胞と考えられる。典型的な宿主はE.coliである。
【0050】
宿主細胞へのベクターの導入
ベクターは、当業者に知られている任意の多数の適切な方法によって選択された宿主細胞に導入され得る。例えば、ベクター構築物は、ラムダもしくはM13などのバクテリオファージベクター粒子を用いた感染によって、またはプラスミドベクターもしくはバクテリオファージDNAのための任意の多数の形質転換法によって、適切な細菌細胞に導入されうる。例えば、標準的な塩化カルシウムを介した細菌の形質転換は、未だに、裸のDNAを細菌に導入するために一般に使用されるが(Sambrookら、1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)、エレクトロポレーションもまた使用されうる(Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,(1988),(John Wiley& Sons,Inc.,NY,NY))。
【0051】
可溶性IgA1プロテアーゼの精製
適切な細菌宿主細胞へのIgA1プロテアーゼをコードする発現ベクターの導入後、可溶性IgA1プロテアーゼの過剰産生のために、標準的な方法によって、その細菌を増殖させる(Sambrookら、Molecular Biology:A laboratory Approach,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)およびAusubel,ら、Current protocols in Molecular Biology,Greene Publishing,(1995)、参照により本明細書に組み入れられる)。簡潔には、IgA1プロテアーゼをコードする発現ベクターを有するE.Coliのような細菌、または細菌ゲノム内に組み込まれたIgA1プロテアーゼをコードするDNAを有する細菌は、細菌増殖培地において37℃で培養される。細菌培養物が対数増殖期に達する時、可溶性IgA1プロテアーゼは増殖培地から当技術分野においてよく知られている方法によって精製される。
【0052】
例えば、6xHis-IgA1プロテアーゼを発現するH.influenzae Rd細菌を、NADおよびヘミンを添加したブレインハートインフュージョンブロスで満たした発酵槽において、20L(2 x 10 L)で培養する。細胞が静止期に達するまで、細胞を16〜20時間37℃で培養する。その後、細菌集団をPelliconシステムによって除去し、活性酵素を含む各10Lの培養上清を400 mlに濃縮する。0.05% NaN3を含む25 mM Tris/HClバッファー、pH 7.5にタンパク質を含むように、バッファーを調整する。不要なタンパク質を除去するために、この濃縮物の80ml分を、25 mM Trisバッファーで平衡化した40 mlベッド容量のDE-52陰イオン交換カラムにアプライする。IgAプロテアーゼはこのカラムに結合せず、500ml Trisバッファーを用いた流出液として回収される。回収率は、ヒトIgA基質を用いたアッセイによると、通常85〜90%である。その後、酵素を沈殿させるために硫酸アンモニウムを使用する(60%飽和硫酸アンモニウム、390gm/L)。その沈殿物を以下のバッファー、すなわち、pH 7.5に調整した50 mM リン酸ナトリウム、12.5 mM Tris/HCl、0.3 M NaClおよび0.025%アジ化ナトリウムに溶解し、次に酵素をこのバッファーに対して数日間透析する。酵素溶液の最終容量は、各10Lの出発培養物に対して約200 mlである。
【0053】
アフィニティー精製のために、40 mlアリコートの酵素溶液を、40 mlのベッド容量を有するカラム中のNi-NTAアガロースにアプライする。結合した酵素を、50mM リン酸ナトリウム、12.5 mM Tris/HCl、0.3 M NaClおよび0.025%アジ化ナトリウムを含む500 mlのバッファーで3回洗浄する。これらの洗浄バッファーのpHは、弱く付着した非酵素タンパク質をニッケルリガンドから除去することを目的として、pH7.5から始めて、次に6.6、その後6.0と、段階的に低減される。最後の洗浄は、再度pH 7.5のバッファーを、今度は200 ml使用する。その後、50 mM Tris/HCl中の0.1Mイミダゾール、pH 7.5を50 ml用いて、6xHis-IgAプロテアーゼをNi-NTAアガロースから溶出する。回収した酵素を、100 kDa カットオフCentriconメンブレンを用いた陽圧ろ過によって濃縮し、25mM Hepes、pH 7.15で3回洗浄後、Hepesバッファー中で保存する。
【0054】
IgA1プロテアーゼ活性のアッセイ
IgA1プロテアーゼは、Plaut,AGおよびBachovchin WW,IgA-specific prolyl endopeptidases:serine type.Methods Enzymol.1994;244:137-51(参照により本明細書に組み入れられる)に記載される標準的な方法によって酵素活性を検査される。アッセイは、精製されたプロテアーゼまたは細菌増殖培地に存在するIgA1プロテアーゼを用いて行われ得る。37℃で1分間当たり1μgのヒトIgA1の切断に相当するユニットによって、1ユニットの活性を有する場合、IgA1プロテアーゼは本発明に有用な十分な活性を有する。
【0055】
II.タグ付きIgA1プロテアーゼ
1つの実施形態では、IgA1プロテアーゼはタグに融合される。本発明のIgA1プロテアーゼへのタグの融合は、IgA1プロテアーゼが治療目的で抗タグ抗体のようなリガンドと複合体を形成できる手段を提供するだけでなく、プロテアーゼの精製および検出を支援する。
【0056】
タグを含むIgAプロテアーゼを作製するために、タグをコードする配列は、従来の分子生物学の技術を用いてIgAプロテアーゼをコードする配列の読み枠にライゲーションされ得る。IgA1プロテアーゼ前駆体タンパク質の切断により、タグを含む可溶性IgA1プロテアーゼが細菌増殖培地中に分泌されるように、タグ配列は、IgA1プロテアーゼの自己触媒性切断部位をコードするDNA配列の上流にライゲーションされる。
【0057】
別法として、タグを含むIgA1プロテアーゼは、PCRに基づく部位指定突然変異導入によって作製される。タンパク質中の特異的な領域を突然変異させることを可能にする、当技術分野において既知の多数の部位指定突然変異導入法がある。これらの方法は、従来の方法およびPCRに基づく方法の両方を含む、部位指定突然変異導入の実施のために市販される多数のキットに具体化される。例としては、Stratageneから入手可能なEXSITE(商標)PCR-based site-directed mutagenesis kit(カタログ番号200502;PCRに基づく)およびStratageneからのQUIKCHANGE(商標)site-directed mutagenesis kit(カタログ番号200518;PCRに基づく)、ならびにまたStratageneからのCHAMELEON(登録商標)double-stranded site-directed mutagenesis kit(カタログ番号200509)を含む。簡潔には、タグ配列は、PCRプライマーの一方の5'または3'末端付近にタグをコードする配列を含むことによって、PCR断片に導入される。その断片を消化することができ、その後、特定のアミノ酸コドンの置換のために親ベクターにライゲーションできるように、そのPCR断片は、適切な制限酵素認識部位を備えるように作製される。
【0058】
1つの実施形態では、プロテアーゼが結合リガンドとの免疫複合体を形成するように、本発明のタグはある抗体に特異的な結合親和性を有する。例えば、タグは、抗体が容易に利用できる特有のエピトープを含みうる。別法として、IgAプロテアーゼが金属キレート樹脂またはビーズ、例えばニッケル-NTAビーズと複合体を形成できるように、タグは金属とキレートを形成するアミノ酸(例えばHis)を含み得る。
【0059】
別の実施形態では、タグは酵素などの検出可能なマーカーを含むか、または検出可能なマーカーで標識され得るアミノ酸を含む。検出可能なマーカーは、例えば、放射性同位体、蛍光分子、発色分子、発光分子、および酵素を含む。本発明において有用な検出可能なマーカーは、標識ストレプトアビジンコンジュゲートによって染色するためのビオチン、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、等)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C、または32P)、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびELISAに一般的に使用される他の酵素)、ならびにコロイド金のような比色標識を含む。このような検出可能なマーカーの使用を教示する特許は、米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;および第4,366,241号を含み、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0060】
本発明の適切なタグの非限定的な例は、c-Myc、HA、およびVSV-G、HSV、FLAG、V5、およびHISを含む。それぞれのタグのアミノ酸配列および核酸配列を以下に示す。
【表1】

【0061】
IgA1プロテアーゼにおけるタグの配置は、in vivoおよびin vitroの両方においてIgA1プロテアーゼの容易な検出を可能にする利点を有する。抗体に対するエピトープを含むタグは、抗タグ抗体または検出可能なマーカーにコンジュゲートされた抗体のいずれかを用いて検出され得る。検出可能なマーカーは、例えば、放射性同位体(例えば125I、35S)、蛍光基もしくは発光基、ビオチン、ハプテン、抗原および酵素を有する、天然または非天然のアミノ酸であり得る。c-myc、HA、VSV-G、HSV、V5、His、およびFLAGなどのタグに対する多数の市販の抗体がある。加えて、本発明に使用されるタグに対する抗体は、例えば、モノクローナル抗体の産生による抗体を産生する標準的な方法を用いて作製され得る(Campbell,A.M.,Monoclonal Antibodies Technology:Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,the Netherlands(1984) ;St.Grothら、J.Immunology,(1990) 35 :1-21 ;およびKozborら、Immunology Today(1983) 4:72)。抗タグ抗体はその後、国際出願WO 00/70023ならびにHarlourおよびLane (1989) Antibodies,Cold Spring Harbor Laboratory,pp.1-726(参照により本明細書に組み入れられる)に記載される、当技術分野においてよく知られている方法を用いて、放射性同位体、親和性標識(ビオチン、アビジン等)、酵素標識(ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)の使用によって検出できるように標識され得る。
【0062】
タグを検出するためのアッセイは、ウェスタンブロット解析、免疫組織化学、Elisa、FACS解析、酵素アッセイ、およびオートラジオグラフィーを含むが、それらに限定されない。これらのアッセイを行う方法は当業者によく知られている。例えば、放射性標識は写真用フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出され、蛍光マーカーは放射光を検出するための光検出器を用いて検出されうる。酵素標識は一般的に、酵素に基質を供給し、基質への酵素の作用により生成される反応生成物を検出することによって検出され、比色標識は単に着色標識を可視化することによって検出される。
【0063】
タグは更に、他の細胞物質からIgA1プロテアーゼを単離するために使用され得る。例えば、免疫沈降、または抗タグ抗体アフィニティーカラムもしくは抗タグ抗体をコンジュゲートしたビーズを用いることによる。HISタグを用いる場合、単離は金属キレートカラムを用いて行われ得る(JK Setlow編のGenetic Engineering:Principles and Methods ,Plenum Press,NY,chp 18,pp 87-96におけるHochuliを参照せよ)。これらの種類の精製を行う方法は、当技術分野においてよく知られている。
【0064】
好ましい実施形態では、抗タグ抗体は、複合体を形成した際にIgA1プロテアーゼが酵素活性を保持するように、IgA1プロテアーゼ免疫複合体を生成するために使用される。このような免疫複合体は、IgA1沈着症の治療のための医薬品に使用され得る。例えば、IgA1免疫複合体は、患者に投与される際、IgA腎症およびヘノッホ・シェーンライン紫斑病におけるIgA1沈着の部位である腎臓の糸球体に捕捉されるようになると考えられる。
【0065】
III.IgA1沈着症の治療
本明細書において、IgA1プロテアーゼはIgA1沈着症を治療するための治療薬として使用される。IgA1分子の異常な沈着は、腎不全、皮膚の水疱形成、発疹、関節炎、消化管出血および腹痛の原因となることが知られている。
【0066】
IgA腎症
1つの実施形態では、本発明は、このような治療を必要とする患者にIgA1プロテアーゼを投与することによって、IgA腎症を治療する方法を提供する。IgA腎症は腎臓の疾患である。その疾患は、糸球体メサンギウム領域へのIgA1の顆粒状沈着を特徴とする、免疫複合体介在型糸球体腎炎であると考えられている。腎症は糸球体メサンギウム細胞における増殖性変化を生じ、それによって定義される。
【0067】
IgA腎症は、最も一般的な慢性糸球体腎炎の1つであり、頻繁に末期腎不全を引き起こす。
【0068】
疱疹状皮膚炎
本発明は更に、このような治療を必要とする患者にIgA1プロテアーゼを投与することによって、疱疹状皮膚炎(DH)を治療する方法を提供する。疱疹状皮膚炎は、真皮・表皮接合部でのIgA1の沈着を伴う慢性水疱形成性皮膚疾患である(Hall,RPおよびT.J.Lawley,J.Immunol.(1985)135 (3):1760-5)。DH患者は顆粒状のIgA1沈着を有し、関連したグルテン過敏性腸症(GSE)を有する。
【0069】
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病
別の実施形態では、本発明は、このような治療を必要とする患者にIgA1プロテアーゼを投与することによって、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HS)を治療する方法を提供する。ヘノッホ・シェーンライン紫斑病は皮膚および腎臓の疾患である。HSPは、IgA1を含む免疫複合体の組織への沈着を特徴とする。その疾患は、免疫蛍光顕微鏡検査法によって、皮膚組織または腎臓へのIgA1沈着の証拠を観察することによって診断される。臨床症状は一般的に、発疹、関節痛、腹痛、および腎疾患を含む。
【0070】
動物モデル
本発明のIgAプロテアーゼの治療効果は、当業者に知られている任意の適切な動物モデルにおいて検査され得る。いくつかの典型的な動物モデルが以下に記載される。
【0071】
1.IgA腎症
多数のIgA腎症のラットおよびマウス動物モデルが利用可能であり、本発明に有用である。これらのモデルはEmancipator,S.N.ら、(1987)Animal models of IgA Nephropathy In IgA Nephropathy.A.R.Clarkson,編.Martinus Nijhoff publishing,Boston.188-203に記載され、参照により本明細書に完全に組み入れられる。典型的なモデルは、Gesualdo L.ら、(1990)J.Clin.Invest.86 :715-722に記載され、同様に本明細書に完全に組み入れられる。簡潔には、IgA抗体/硫酸デキストラン複合体をマウスに注射する。免疫複合体は腎臓にとどまり、マウスはヒトIgA腎症の典型例に類似した糸球体腎炎を示す。どのようにモデルが作製され、治療薬の検査に使用されるかは、以下に更に詳細に記載される。
【0072】
硫酸デキストラン(500 kD,Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)およびモノクローナルIgA抗β1-6グリコシド(J558 :Litton Bionetics,Kensington,MD)の可溶性免疫複合体は、3倍過剰で(26.5μgデキストラン/mg J558(腎症モデル);22.0μgデキストラン/mg MOPC 104 E(正常な対照))調製される。3 mgの抗体を含む複合体をSwiss-Websterマウスに尾静脈注射によって注入する。1時間後、腎臓へのIgA複合体の最大沈着の時点で、マウスは、10分間隔など既定の間隔で、生理食塩水または治療薬いずれかの反復投与により腹腔内に注射される。最後の注射の1時間後、マウスを屠殺する。
【0073】
その後、腎臓をそれぞれのマウスから分離し、IgA1沈着および形態を光学顕微鏡検査、免疫蛍光顕微鏡検査、および電子顕微鏡検査によって観察する。
【0074】
簡潔には、IgA1沈着を観察するために、4μmでクリオスタット切片にした腎皮質の急速凍結サンプルを、直接免疫蛍光検査によって、マウスIgAに特異的なヤギ抗血清のフルオレセイン標識IgG画分(US Biochemical Corp)を用いて染色し、半定量的にIgA1沈着を評価する(Nakazawa,M.ら、(1986)Lab.Invest.55:551-556,およびNakazawa,M.ら、(1986) J.Exp.Med.164:1973-1987)。記録されたIgA1沈着の数が正常な腎臓において観察されるIgA1沈着の数に向かって減少する場合、治療薬は効果的な薬剤と見なされる。
【0075】
メサンギウム基質の増生およびメサンギウム過形成などの形態変化は、腎皮質の切片をPAS試薬を用いて染色することによって評価される(Gesualdo,L.ら、(1990) J.Clin.Invest.86:715-722)。簡潔には、腎皮質を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋して、染色する。メサンギウム基質の増生ならびにメサンギウム過形成は、Nakazawa,M.ら、(1986)Lab.Invest.55:551-556,およびNakazawa,M.ら、(1986)J.Exp.Med.164:1973-1987(参照により本明細書に完全に組み入れられる)に記載される方法に従って半定量的に評価される。
【0076】
正常なメサンギウム基質は0として評価される。メサンギウム基質の増生は、メサンギウムストークの拡大が観察される場合+1、毛細血管内腔に基質の侵入が観察される場合+2、明白なメサンギウムストークの拡大が毛細血管内腔の減少とともに観察される場合+3として評価される。メサンギウム基質の増生が正常な腎臓において観察される基質の形態に向かって、例えば+2または+1または0のスコアに向かって減少する場合、治療薬は効果的な薬剤と見なされる。
【0077】
正常なメサンギウム細胞充実度は0として評価され、メサンギウム領域当たり3以下の細胞核として定義される。過形成は、メサンギウム領域当たり4〜6の細胞核が観察される場合+1、ほとんどの領域においてメサンギウム領域当たり4〜6の細胞核が観察されるが、いくつかの領域は7以上の核を有する場合+2、ほとんどの領域においてメサンギウム領域当たり7以上の細胞核が観察される場合+3として評価される。メサンギウム過形成が正常な腎臓において観察されるものに向かって、例えば+2または+1または0のスコアに向かって減少する場合、治療薬は効果的な薬剤と見なされる。
【0078】
全体の糸球体領域、基質領域、および糸球体細胞充実度はまた、各マウスから無作為に選択された糸球体において、コンピューター形態計測によって定量化される(Cue image analysis system,Olympus Corp.,Columbia,MD.)(Gesualdo L.ら、(1990)J.Clin.Invest.86 :715-722)。簡潔には、皮質の立方体を0.1 Mカコジル酸ナトリウム中の2.5%グルタルアルデヒドで固定し、1%OsO4で後固定し、Spurr's epoxy(Polysciences,Inc.Warrington,PA)に包埋する。50〜70nm切片を酢酸ウラニルおよび水酸化鉛で染色する。コード化したグリッドをJEOL JEM 100 EX顕微鏡で検査し、基質、細胞充実度および免疫沈着を、Nakazawa,M.ら、(1986)J.Exp.Med.164:1973-1987(参照により本明細書に完全に組み入れられる)に記載されるように半定量化する。
【0079】
血尿(尿中の赤血球の存在)およびタンパク尿(尿中のタンパク質の存在)もまた、IgA腎症の適切な指標である。簡潔には、マウスをメタボリックケージに入れ、尿を24時間採取する。その後、尿を遠心分離し、Nakazawa,M.ら、(1986)J.Exp.Med.164:1973-1987(参照により本明細書に完全に組み入れられる)に記載されるように、3%スルホサリチル酸中での比濁法によってタンパク質についてアッセイし、顕微鏡検査によって血尿をアッセイする。一般的に、IgA腎症を持たない正常のマウスは、高倍率視野(40X)当たり3以下の赤血球しか持たないが、一方、IgA腎症を有するマウスは高倍率視野当たり10以上の赤血球を持つであろう。高倍率視野当たりの赤血球数の減少は、治療薬がIgA腎症に有効であることを示す。治療前にマウスを血尿およびタンパク尿について検査し、疾患を表示する基準値を決定する。治療前に得られた血尿およびタンパク尿の値と比較して、治療薬を用いた治療後の5%、10%、30%、40%、好ましくは50%、より好ましくは50%以上の基準値の減少は、薬剤がIgA1腎症の治療に有効であることを示す。
【0080】
IV 用量、製剤および投与
本明細書において、細菌のIgAプロテアーゼは、IgA沈着症の治療のために使用される。本発明のIgA1プロテアーゼは、製薬上許容されうる担体と組み合わされた組成物に使用され得る。このような組成物はまた、希釈剤、充填剤、塩、バッファー、安定剤、可溶化剤、および当技術分野においてよく知られている他の物質を含みうる。1つの態様では、IgA1プロテアーゼは抗体と複合体を形成し、治療用免疫複合体を形成する。大きな免疫複合体は投与により腎糸球体にとどまると考えられているので、このような治療用免疫複合体は腎臓へのIgA1沈着を特徴とする疾患の治療に特に有用である。
【0081】
「製薬上許容されうる」という用語は、有効成分の生物学的活性の効果を妨げない非毒性物質を意味する。担体の特性は、投与経路に依存する。このような担体は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびその組み合わせを含むが、それらに限定されない。経口投与される薬物について、製薬上許容されうる担体は、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、着色剤および保存剤などの製薬上許容されうる賦形剤を含むが、それらに限定されない。適切な不活性希釈剤は、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カルシウム、ならびにラクトースを含み、一方、トウモロコシデンプンおよびアルギン酸は適切な崩壊剤である。結合剤はデンプンおよびゼラチンを含み、一方、滑沢剤は、存在する場合、一般的にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクである。必要であれば、錠剤は、消化管での吸収を遅らせるために、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンなどの物質で被覆されうる。
【0082】
製薬上許容されうる塩は、酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、重硫酸、酪酸、クエン酸、樟脳、カンファースルホン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジグルコン酸、ドデシル硫酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプタン酸、グリセロリン酸、ヘミスルファート、ヘプタン酸、ヘキサン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、シュウ酸、チオシアン酸、トシル酸およびウンデカン酸などの無機酸によって形成され得る。基本的な塩は、アンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N-メチル-D-グルカミンなどの有機塩基による塩、ならびにアルギニン、リジンなどのアミノ酸による塩などを含む。また、塩基性窒素含有基は、メチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物およびヨウ化物などの低級アルキルのハロゲン化物;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチルおよび硫酸ジアミルのような硫酸ジアルキル;デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物およびヨウ化物などの長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジルおよび臭化フェネチル等のようなハロゲン化アラルキルなどの物質によって四級化され得る。水または油に可溶性もしくは分散性の製品はそれによって得られる。
【0083】
組成物はまた、組成物の活性を向上させるか、または治療上のその活性もしくは使用を補完するか、または保存中の治療薬の活性を維持する他の物質を含みうる。このような付加的な因子および/または物質は、相乗効果を生じるために、または副作用を最小限に抑えるために組成物中に含まれうる。あるいは、本発明の組成物の投与は、他の治療と同時に投与されうる。
【0084】
本発明の治療薬の投与は、経口摂取、吸入、局所適用もしくは皮膚適用、皮下注射、腹腔内注射、非経口または静脈注射などの、様々な従来の方法で実施され得る。
【0085】
本発明の治療薬を含む組成物は、例えば、単位用量の注射によって静脈内に投与され得る。「単位用量」という用語は、本発明の治療組成物に関して使用される場合、患者への単回投与量として適切な物理的に分離した単位を指し、それぞれの単位は、必要な希釈剤、すなわち、担体またはベヒクルと併せて、望ましい治療効果を生じるように計算された所定の量の活性物質を含む。
【0086】
本発明の治療薬の投与方法は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下ならびに動脈内への注射および注入を含む。非経口注射のための医薬組成物は、製薬上許容されうる無菌の水溶液もしくは非水溶液、分散液、懸濁液または乳剤、ならびに使用直前に無菌の注射可能な溶液または分散液に再構成するための無菌の粉末で構成される。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒またはベヒクルの例は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、カルボキシメチルセルロースおよびその適切な混合物、植物油(例えばオリーブ油)、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルを含む。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散液の場合は必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持されうる。これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの補助剤、ならびに/または治療薬の免疫原性決定基を保護する化合物を含みうる。微生物の作用の予防は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の、様々な抗細菌剤および抗真菌薬の含有によって改善されうる。糖、塩化ナトリウム等の等張化剤を含むこともまた望ましい。注射可能な医薬形態の持続的吸収は、吸収を遅らせるモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの薬剤の含有によってもたらされうる。注射可能なデポー製剤は、ポリラクチド-ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)などの生分解性ポリマー中に治療薬のマイクロカプセル基質を形成することによって作製される。ポリマーに対する治療薬の比率および使用される特定のポリマーの性質によって、治療薬の放出速度は制御され得る。注射可能なデポー製剤はまた、治療薬を生体組織に適合したリポソームまたはマイクロエマルジョンに封入することによっても調製される。注射可能な製剤は、例えば、細菌を保持するフィルターによるろ過によって、あるいは、使用直前に滅菌水もしくは他の無菌の注射可能な溶媒に溶解または分散され得る無菌の固形組成物の形態に殺菌剤を組み込むことによって、滅菌されうる。
【0087】
製剤は、経口投与、直腸投与、(硝子体内もしくは前房内を含む)眼部投与、鼻腔内投与、(口腔内および舌下を含む)局所投与、子宮内投与、膣内投与、または(皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮内、頭蓋内、気管内および硬膜外を含む)非経口投与に適したものを含む。製剤は、都合良く単位投与剤型にして提供されてもよく、従来の製薬技術によって調製されうる。このような技術は、有効成分と製薬上の担体または賦形剤を混合するステップを含む。一般的に、製剤は、均一かつ密に有効成分を液性担体もしくは細かく粉砕した固形担体または両方とともに混合し、その後、必要であれば製品を成型することによって、調製される。
【0088】
非経口投与に適した製剤は、抗酸化剤、バッファー、静菌剤および、製剤を目的のレシピエントの血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性の無菌注射液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含みうる水性および非水性の無菌懸濁液を含む。製剤は単回投与量または複数回投与量の容器で提供されうる。即席の注射液および注射懸濁液は、前述のような無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製されうる。
【0089】
本明細書において用いられる場合、「治療上有効な量」とは、有意な患者の利益、すなわち、関連する病状の治療、回復、予防もしくは改善、またはこのような症状の治療、回復、予防もしくは改善率の増加を示すのに十分な、医薬組成物または方法の各活性成分の全量を意味する。単独で投与される個々の有効成分に対して適用される場合、その用語はその成分のみを指す。組み合わせに対して適用される場合、その用語は、連続的または同時に、組み合わせて投与されてもされなくても、治療効果をもたらす有効成分を合わせた量を指す。一般的に、組成物は、1回の投与において100μg〜10 mg/kg体重の範囲で、好ましくは1μg〜100μg/kg体重の範囲で投与される。この用量は、毎日、週に1回、月に1回、年に1回、または治療を行う医師によって適切と考えられるように反復されうる。
【0090】
本発明の治療薬の治療上有効な量が経口投与される場合、本発明の組成物は液体の形であり得、その組成物は、重量で約0.5〜90%の本発明のタンパク質、好ましくは約1〜50%の本発明のタンパク質を含む。
【0091】
本発明の治療薬の治療上有効な量が静脈注射、皮膚注射または皮下注射によって投与される場合、タンパク質は、発熱物質を含まない、非経口的に許容されうる水溶液の形である。pH、等張性、安定性等を十分考慮した、このような非経口的に許容されうるタンパク質溶液の調製は、当技術分野の技術の範囲内である。静脈注射、皮膚注射または皮下注射のための好ましい組成物は、本発明のタンパク質に加えて、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸加リンゲル液などの等張性ベヒクル、または当技術分野において知られている他のベヒクルを含むべきである。本発明の組成物はまた、安定剤、保存剤、バッファー、抗酸化剤、または当業者に知られている他の添加物を含みうる。
【0092】
組成物が組織に接触してもたらされる局所投与は、疱疹状皮膚炎に適切でありうる。「接触する」とは、局所適用だけでなく、組成物を組織内、または組織の細胞内に導入する送達方法も意味する。
【0093】
時限放出型送達システムまたは徐放型送達システムの使用もまた本発明に含まれる。このようなシステムは、例えば、年齢のためもしくは疾患の経過自体によって衰弱した患者のような、外科手術が困難または不可能である状況において、あるいはリスク便益分析が治療の間の制御を左右する状況において、非常に望ましい。
【0094】
本明細書において用いられるような、徐放性基質は、酵素的加水分解もしくは酸/塩基加水分解によって、または崩壊によって分解可能な物質、通常はポリマーで作られた基質である。一旦体内に挿入されると、基質は酵素および体液に作用される。徐放性基質は望ましくは、リポソーム、ポリラクチド(ポリ乳酸)、ポリグリコリド(グリコール酸のポリマー)、ポリラクチド・コグリコリド(乳酸およびグリコール酸の共重合体)ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリタンパク質、ヒアルロン酸、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、カルボン酸、脂肪酸、リン脂質、多糖類、核酸、ポリアミノ酸;フェニルアラニン、チロシン、イソロイシンなどのアミノ酸;ポリヌクレオチド、ポリビニルプロピレン、ポリビニルピロリドン、およびシリコーンなどの生体適合性物質から選択される。好ましい生分解性基質は、ポリラクチド、ポリグリコリド、またはポリラクチド・コグリコリド(乳酸およびグリコール酸の共重合体)のいずれか1つの基質である。
【0095】
本発明の医薬組成物中の本発明の治療薬の量は、治療される症状の性質および重症度、ならびに患者が受けてきたそれまでの治療の性質に依存する。最終的には、主治医が各個人の患者を治療するための本発明の治療薬の量を決定する。初めに、主治医は低用量の本発明の治療薬を投与し、患者の反応を観察するであろう。患者にとって最良の治療効果が得られるまで、より多くの用量を投与することができ、その時点で用量はそれ以上増加されない。
【0096】
本発明の医薬組成物を用いた静脈内療法の継続期間は、治療される疾患の重症度ならびに各個人の患者の症状および特異体質反応の可能性によって異なる。本発明の治療薬の各適用期間は、約30 mg/時間の速度での持続静脈内投与において12〜72時間の範囲であると考えられる。最終的には、主治医が本発明の医薬組成物を用いた静脈内療法の適切な継続期間を決定する。
【実施例】
【0097】
実施例1
タグ付きIgA1プロテアーゼの構築
PCRに基づく部位指定突然変異導入によって、Haemophilus influenzae IgA1プロテアーゼをコードするDNA配列を含むプラスミドpFG26を用いて、Haemophilus influenzae IgA1プロテアーゼの読み枠にHisタグを融合させた。図4に図示されるように、2つのPCR断片がpFG26から生成した。第一断片、新たに挿入されるHISタグおよびPml I部位を含むXbaIおよびPml I断片は、下記に示されるオリゴヌクレオチドプライマー「HFD6His1」(プライマー1)ならびに「HFD6His2」(プライマー2)を用いて生成された。第二断片、PmlIおよびAcc I断片は、また下記に示されるプライマー3ならびにプライマー4を用いて生成された。
【表2】

【0098】
PCRによる2つの断片の増幅後、断片をXbaIおよびPml IまたはPml IおよびAcc Iのいずれかを用いて消化し、従来の技術を用いてpFG26親プラスミドのXba IおよびAcc I部位にライゲーションした。突然変異をDNA配列によって確認し、新たなプラスミドをpJQ/Rd6Hisと命名した。6つのヒスチジンのためのDNAコドンが、IgA1プロテアーゼの1007〜1012の位置、すなわちasn-asn-ile-gln-ala-asp(配列番号24)で本来のコドンを置換するように、断片を設計した。
【0099】
実施例2
タグ付きIgA1プロテアーゼを発現する細菌株の作製
酵素活性のあるタグ付きIgA1プロテアーゼのみを発現するHaemophilus influenzae細菌株を、標準的な組み換え技術によって作製した。簡潔には、実施例1において作製したプラスミドpJQ/Rd6Hisを、制限酵素ClaIおよびNde Iによって切断した。その遺伝子を単離し、組み換えによって細菌ゲノム内へのHisタグ付きIgA1プロテアーゼの挿入を可能にするように、酵素活性を持たないIgA1プロテアーゼを産生するHaemophilus influenzae Rd細菌株(Rd3-13)(Plaut AG,Qiu,J,Grundy,F.およびWright,A.J Infect Dis.(1992) Jul;1 66(1):43-52)に形質転換した。その後、活性のあるプロテアーゼの存在について、基質としてヒトIgA1を用いて、選択されたコロニーの細菌増殖培地を検査することによって、細菌の酵素活性の回復についてスクリーニングした。
【0100】
活性のある酵素への6-His突然変異の導入は、ゲノムDNAのPCR断片を用いたPml I部位の存在の検証によって確認された。この株をRd 6Hisと命名した。
【0101】
Rd 6His株は、野生型株Rdと同様の増殖速度およびコロニー形態を有していた。IgAプロテアーゼの活性収率および酵素のサイズは、野生型と区別できなかった。6-His突然変異は自己タンパク質分解a部位からわずか2アミノ酸しか離れていないところに導入されたが、細菌細胞からの酵素分泌およびその自己プロセシングのいずれにも検出されうる問題はなかった。
【0102】
モノクローナル抗5His抗体(Qiagen,Inc)は、ウェスタンブロット解析によって決定されるとおり、そのプロテアーゼに結合した。溶液中でモノクローナル抗体と結合した際、Rd 6His IgAプロテアーゼは完全な活性を保持した。
【0103】
実施例3
IgA腎症の治療のためのIgA1プロテアーゼの治療効果は、IgA腎症についてのマウスモデルにおいて検査され得る。
【0104】
実験当たり複数のSwiss-Websterマウス(Charles River Laboratories)を用い、群に分ける(一般的に、10マウス/群)。マウスをまずメタボリックチャンバーに入れ、24時間尿を採取し、尿中の血尿(尿中の赤血球の存在)およびタンパク尿(尿中のタンパク質の存在)の量を測定する。これは健康な正常マウスにおける血尿およびタンパク尿の基準値を与える。その後、Gesualdo L.ら、(1990)J.Clin.Invest.86:715-722に記載されるように、マウスにおいてIgA腎症を誘発させる。
【0105】
腎症の誘発後、マウスの腹腔内に、生理食塩水(対照)、不活性IgA1プロテアーゼ(対照)、活性IgA1プロテアーゼ、および(例えば、抗タグ抗体または抗IgA1プロテアーゼ抗体と複合体を形成した)免疫グロブリンとのIgA1プロテアーゼ複合体のいずれかを反復投与で注射した。投薬計画の例は、腹腔内への1日2回、5日間の0.1〜0.5mgのプロテアーゼの注射を含む。用量および投薬計画は、例えば一匹のマウスでのパイロット実験で観察される治療効果によって変更され得る。一般的には、組織学的または臨床的な毒性効果を誘発しない最大用量が選択される。IgA1プロテアーゼがリガンドと複合体を形成する場合、最も効果的なプロテアーゼ/リガンド比を決定するために、様々な濃度のリガンドが用いられる。投与方法はまた変更され得、例えば投与は静脈注射によって行われ得る。
【0106】
治療薬の最終投与の1〜24時間後、マウスは、治療薬を受けなかったマウスでの血尿およびタンパク尿の測定により、IgA腎症の軽減について検査される。健康な正常マウスにおいて観察されたそれらの値へ向かう、治療薬を受けなかったマウスと比較した血尿およびタンパク尿の量の減少は、治療の成功の指標となる。
【0107】
IgA腎症の形態学的指標もまた評価される。尿の採取後、マウスを屠殺し、腎臓を摘出して、記載されるように、i)IgA1沈着、ii)メサンギウム基質の増生、およびiii)メサンギウム過形成を測定する。治療薬を受けなかったマウスで観察されるものと比較した、パラメーター i〜iiiの減少は、治療の成功の指標となる。
【0108】
実施例4
疱疹状皮膚炎の治療のためのIgA1プロテアーゼの治療効果は、疱疹状皮膚炎についてのマウスモデルにおいて検査され得る。
【0109】
実施例5
ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の治療のためのIgA1プロテアーゼの治療効果は、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病についてのマウスモデルにおいて検査され得る。
【0110】
本明細書において引用されるすべての特許、特許出願、および公開された参考文献は、参照により完全に組み込まれる。本発明は特に、その好ましい実施形態に関して示され、記載されるが、添付された請求項によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な形態および詳細の変更を加えうることは、当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【公開番号】特開2011−101645(P2011−101645A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270964(P2010−270964)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2006−509132(P2006−509132)の分割
【原出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(504311419)タフツ メディカル センター インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】