説明

LEDランプ

【課題】低照度である室内の可視光の下でも有害物質を効果的に分解する機能を有するLEDランプを提供する。
【解決手段】基板7と、この基板7上に実装されたLEDチップ8とを備えるLEDモジュール2と、このLEDモジュール2が設置された基体部3aと、上記LEDモジュール2を、空間をおいて覆うように上記基体部3aに取り付けられたグローブ4aと、このグローブ4aの内面に前記LEDチップ8から離間させて設けられ、上記LEDチップ8から出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜9と、上記グローブ4aの外面に形成された可視光応答型光触媒層12と、上記基体部3a内に設けられ上記LEDチップ8を点灯させる点灯回路11と、を具備することを特徴とするLEDランプ1aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はLEDランプに係り、特にグローブ外表面に可視光応答型の光触媒層を有し、室内の可視光や低照度環境においても有害物質を分解する機能を有するLEDランプに関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)を用いた発光装置は、液晶表示装置のバックライト、信号装置、各種スイッチ類、車載用ランプ、一般照明等の照明装置に幅広く利用されている。特に、LEDと蛍光体とを組合せた白色発光型のLEDランプは、白熱電球の代替品として注目されており、その開発が急速に進められている。このLEDランプとしては、例えばランプ口金が設けられた基体部にグローブを取り付けると共に、グローブ内にLEDチップを配置し、さらに基体部内にLEDチップの点灯回路を設けた一体型のランプ構造を有するものが知られている。
【0003】
この種のLEDランプとしては、LEDチップの表面に直接蛍光体層を塗布し、一定の発光スペクトルを持つランプが公知であり、また現在未公開であるが特願2010−192533号明細書に記載されたLED電球のように、蛍光体層をLEDチップから離れた部位に設けたランプなどがある。
【0004】
上記特願2010−192533号明細書に記載されたLED電球は、図4に示すように、基板7と、この基板7上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップ8とを備えるLEDモジュール2と、このLEDモジュール2が設置された基体部3と、上記LEDモジュール2を覆うように上記基体部3に取り付けられたグローブ4と、このグローブ4の内面に上記LEDチップ8から離間させて設けられ、上記LEDチップ8から出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜(蛍光体層)9と、上記基体部3内に設けられ、上記LEDチップ8を点灯させる点灯回路(図示せず)と、この点灯回路と電気的に接続された口金6とを具備して構成されている。いずれも省電力が可能であり、フィラメント型の白熱電球と比較して長寿命であるという特徴を有する。
【0005】
さらに上記LEDランプと各種の光触媒とを組み合わせることにより、LEDランプからの出射光によって光触媒を活性化せしめ、ランプ自体に付着した有機物、ランプ周囲の雰囲気中に含有される臭気成分等を分解したり、雑菌を壊死せしめ抗菌・抗ウィルス効果を発揮させたりするように構成したLEDランプが各種提案されている。
【0006】
具体的には、特開2002−110097号公報には、内面に蛍光体層が形成され、放電媒体が封入されたバルブと;このバルブの外周面に形成された酸化チタン(TiO)粒子を主体にした光触媒膜とを具備した蛍光ランプが開示されている。
【0007】
また、特開平11−339521号公報には、発光部の少なくも1部を包囲するカバー部材の内側表面に酸化チタン(TiO)から成る光触媒塗膜を形成した照明装置が開示されている。この構成により、光触媒反応を促進させるための発光部の使用が可能になるので、脱臭効率を向上させることができ、さらに蛍光作用によって照明機能も向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−110097号公報
【特許文献2】特開平11−339521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようにLED発光素子と蛍光体と光触媒とを組み合わせたLEDランプや照明装置で使用されている光触媒は、いずれも酸化チタン(TiO)系材料を用いた紫外線で反応するタイプのものが主流であり、これらの酸化チタン系材料は屋外の太陽光の下ではある程度の触媒活性が得られていたが、低照度である室内の可視光に対する触媒性能が極端に低く、紫外光を含まない蛍光灯やランプから発生する紫外線が極端に少ないLED照明の光の下では光触媒が実際的にはほとんど機能しない問題点があった。したがって充分なガス分解性が発揮されず、高い抗菌性・抗ウィルス性が発揮できない致命的な欠点があった。
【0010】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、特にランプのグローブやバルブ表面に三酸化タングステン(WO)を主成分とする可視光応答型光触媒を塗布することにより、低照度である室内の可視光の下でも有害物質を効果的に分解する機能を有するLEDランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の実施形態に係るLEDランプは、基板と、この基板上に実装されたLEDチップとを備えるLEDモジュールと、このLEDモジュールが設置された基体部と、上記LEDモジュールを、空間をおいて覆うように上記基体部に取り付けられたグローブと、このグローブの内面に前記LEDチップから離間させて設けられ、上記LEDチップから出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜(蛍光体層)と、上記グローブの外表面に形成された可視光応答型光触媒層と、上記基体部内に設けられ上記LEDチップを点灯させる点灯回路と、を具備することを特徴とする。
【0012】
なお、上記可視光応答型光触媒の効果を得る照明装置としては、LEDランプに限らず、蛍光体ランプなどにも適用できる。また上記可視光応答型光触媒をランプ表面ではなく、ランプ本体に付設する火屋(ほや)や電球笠などの灯具に塗布した構成でも良い。
【0013】
上記のように構成したLEDランプによれば、照度が低い室内の可視光に対しても触媒性能が高い可視光応答型光触媒層を形成しているために、ランプから発生する紫外線が極端に少ないLED照明の光の下でも光触媒活性が充分に発揮され、充分なガス分解性、高い抗菌性・抗ウィルス性が発揮できる。
【0014】
また、上記LEDランプにおいて、前記可視光応答型光触媒層が、平均粒径が500nm以下である三酸化タングステン(WO)微粒子を主成分とすることが好ましい。可視光応答型光触媒層を構成する三酸化タングステン(WO)粒子の平均粒径は、小さいほど触媒面積が多くなり、分解反応を起す触媒面積が大きくなり、より効果的に分解反応等が進行する。つまり、平均粒径が500nmを超えるように粗大になると、触媒微粒子の表面で反応が起こる確率が減少して、充分な触媒効果が得られない。本発明では、三酸化タングステン(WO)微粒子の平均粒径は、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
【0015】
さらに、上記LEDランプにおいて、前記LEDモジュールが波長350〜420nmの紫外乃至紫色発光を出射する一方、この紫外乃至紫色発光を受けて、グローブ内面に塗布された蛍光体層が可視光を出射することが好ましい。このようなLEDランプでは、LEDモジュールから出射された波長350〜420nmの紫外乃至紫色発光を高い変換効率で可視光に変換できる蛍光体が実現しているので、より高い発光強度が得られる。
【0016】
また、上記LEDランプにおいて、前記グローブの最大径Aが、基体部の最大径Bよりも大きいことが好ましい。この場合には、ランプ本体の背面方向にも光が出射されることになり、より広い配向性が得られ、広配光を実現するLEDランプが得られる。
【発明の効果】
【0017】
上記構成に係るLEDランプによれば、照度が低い室内の可視光に対しても触媒性能が高い可視光応答型光触媒層を形成しているために、ランプから発生する紫外線が極端に少ないLED照明の光の下でも光触媒活性が充分に発揮され、充分なガス分解性、高い抗菌性・抗ウィルス性が発揮できる。特にLEDランプに付着した有機物のごみ、タバコの「やに」、台所の油煙等も分解可能であり、長期間に渡ってLEDランプを清潔に維持できる効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態によるLEDランプについてグローブ部を破断して示す部分断面図。
【図2】第2の実施形態によるLEDランプについてグローブ部を破断して示す部分断面図。
【図3】第1実施形態のLEDランプと、TiO光触媒層を形成したLEDランプと、光触媒層を形成しない従来のLEDランプとにおけるアセトアルデヒドの分解率の経時変化を比較して示すグラフ。
【図4】従来のLEDランプの構成例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1実施形態に係るLEDランプ1aは、図1に示すように、基板7と、この基板7上に実装されたLEDチップ8とを備えるLEDモジュール2と、このLEDモジュール2が設置された基体部3aと、上記LEDモジュール2を、空間をおいて覆うように上記基体部3aに取り付けられたグローブ4aと、このグローブ4aの内面に前記LEDチップ8から離間させて設けられ、上記LEDチップ8から出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜9と、上記グローブ4aの外面に形成された可視光応答型光触媒層12と、上記基体部3a内に設けられ上記LEDチップ8を点灯させる点灯回路11と、を設けて構成されている。
【0020】
また、図1に示す態様において、上記点灯回路11と電気的に接続された口金6が具備されており、またLEDチップ8の上面は透明樹脂層10で封止されている。一方、基体部3aと口金6とは、絶縁部材5を介して接合されている。
【0021】
上記LEDモジュール2は、基板7上に実装された紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を備えている。基板7上には複数のLEDチップ8が面実装されている。紫外乃至紫色発光のLEDチップ8としては、InGaN系、GaN系、AlGaN系等の発光ダイオード等が用いられる。基板7の表面(さらに必要に応じて内部)には、配線網が設けられており、LEDチップ8の電極は基板7の配線網と電気的に接続されている。LEDモジュール2の側面もしくは底面には、配線が引き出されており、この配線が基体部3内に設けられた点灯回路11と電気的に接続されている。LEDチップ8は、点灯回路11を介して印加される直流電圧により点灯する。
【0022】
グローブ4aの内面には、LEDチップ8から出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜(蛍光体層)9が設けられている。従来の蛍光体粒子をLEDチップの封止樹脂中に分散させたLEDモジュールとは異なり、蛍光膜9はLEDチップ8から離間するようにグローブ4aの内面に設けられている。口金6からLEDランプ1aに印加された電気エネルギーは、LEDチップ8で紫外乃至紫色光に変換され、さらに蛍光膜9でより長波長の光に変換されて白色光として放出される。LEDランプ1aから放出される白色光は、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球とは異なり、蛍光膜9の発光のみにより構成される。
【0023】
LEDランプ1aはグローブ4aの内面全体に設けられた蛍光膜9が発光するため、従来の蛍光体粒子を封止樹脂中に分散させたLEDモジュールとは異なり、蛍光膜9全体を面発光させることができ、蛍光膜9から全方位に白色光が広がる。また、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLEDランプとは異なり、蛍光膜9からの発光のみで白色光を得ているため、局所的な輝度ムラ等を抑制することができる。これらによって、ぎらつきが無く、均一で柔らかい白色光が得られる。すなわち、LEDランプ1aのグレアを従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球と比べて大幅に低減することが可能となる。
【0024】
グローブ4aの形状は特に限定されるものではなく、図1に示すような半球ドーム型形状や図2に示すようなナス型形状を適用することができる。なお、図2に示すLEDランプ1bは、グローブ4bの形状が異なる点以外は、図1に示すLEDランプ1aと同様な構成を備えている。グローブ4aの形成材料は透光性を有するものであれば特に限定されず、例えばガラス製のグローブやポリカーボネートなどの樹脂製のグローブ等が使用される。グローブ4aは、例えば白熱電球と同等の大きさを有している。
【0025】
LEDランプ1aの発光色は、LEDチップ8の発光波長と蛍光膜9を構成する蛍光体との組合せにより決定される。紫外乃至紫色光のLEDチップ8と組合せて白色光を得るにあたって、蛍光膜9は青色蛍光体、緑色乃至黄色蛍光体、及び赤色蛍光体を含む混合蛍光体(BGR又はBYR蛍光体)で構成することが好ましい。混合蛍光体は、さらに青緑色(BG)蛍光体及び深赤色(DR)蛍光体から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含んでいてもよい。混合蛍光体を構成する各蛍光体は特に限定されるものではないが、LEDチップ8からの紫外乃至紫色光との組合せ、また得られる白色光の色温度や演色性(平均演色評価数Ra等)の観点から以下に示す蛍光体を使用することが好ましい。
【0026】
すなわち、青色蛍光体としては、発光のピーク波長が430〜460nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(1)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活アルカリ土類クロロ燐酸塩蛍光体を使用することが好ましい。
【0027】
一般式:(Sr1−x−y−zBaCaEu(PO・Cl …(1)
(式中、x、y、及びzは0≦x<0.5、0≦y<0.1、0.005≦z<0.1を満足する数である)
また、緑色乃至黄色蛍光体としては、発光のピーク波長が490〜580nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(2)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類アルミン酸塩蛍光体、式(3)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体、式(4)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体、及び式(5)で表わされる組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0028】
一般式:(Ba1−x−y−zSrCaEu)(Mg1−uMn)Al1017 …(2)
(式中、x、y、z、及びuは0≦x<0.2、0≦y<0.1、0.005<z<0.5、0.1<u<0.5を満足する数である)
一般式:(Sr1−x−y−z−uBaMgEuMnSiO …(3)
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
一般式:(Si,Al)(O,N):Eu …(4)
(式中、xは0<x<0.3を満足する数である)
一般式:(Sr1−xEuαSiβAlγδω …(5)
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、12≦β≦14、2≦γ≦3.5、1≦δ≦3、20≦ω≦22を満足する数である)
一方、赤色蛍光体としては、発光のピーク波長が580〜630nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(6)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活酸硫化ランタン蛍光体、式(7)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活カズン蛍光体、及び式(8)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)付活サイアロン蛍光体から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0029】
一般式:(La1−x−yEuS …(6)
(式中、MはSm、Ga、Sb、及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x及びyは0.08≦x<0.16、0.000001≦y<0.003を満足する数である)
一般式:(Ca1−x−ySrEu)SiAlN …(7)
(式中、x及びyは0≦x<0.4、0<x<0.5を満足する数である)
一般式:(Sr1−xEuαSiβAlγδω …(8)
(式中、x、α、β、γ、δ、及びωは0<x<1、0<α≦3、5≦β≦9、1≦γ≦5、0.5≦δ≦2、5≦ω≦15を満足する数である)
さらに青緑色蛍光体としては、発光のピーク波長が460〜490nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(9)で表される組成を有するユーロピウム(Eu)及びマンガン(Mn)付活アルカリ土類珪酸塩蛍光体を使用することが好ましい。
【0030】
一般式:(Ba1−x−y−z−uSrMgEuMnSiO …(9)
(式中、x、y、z、及びuは0.1≦x≦0.35、0.025≦y≦0.105、0.025≦z≦0.25、0.0005≦u≦0.02を満足する数である)
また深赤色(DR)蛍光体としては、発光のピーク波長が630〜780nmの範囲の蛍光体が用いられ、例えば式(10)で表される組成を有するマンガン(Mn)付活マグネシウムフロロジャーマネート蛍光体を使用することが好ましい。
【0031】
一般式:αMgO・βMgF・(Ge1−xMn)O …(10)
(式中、α、β、及びxは3.0≦α≦4.0、0.4≦β≦0.6、0.001≦x≦0.5を満足する数である)
混合蛍光体を構成する各蛍光体の比率は、LEDランプ1aの発光色等に応じて適宜に設定されるものであるが、例えば混合蛍光体は質量割合で、10〜60%の範囲の青色蛍光体、0〜10%の範囲の青緑色蛍光体、1〜30%の範囲の緑色乃至黄色蛍光体、30〜90%の範囲の赤色蛍光体、及び0〜35%の範囲の深赤色蛍光体を含むことが好ましい。このような混合蛍光体によれば、相関色温度が6500K〜2500Kというような広範囲の白色光を同一蛍光種で得ることができる。従来の青色LEDと黄色蛍光体との組合せの場合、2色の組合せのみでは2800Kの電球色を、偏差を含めて調整することは困難であり、青色励起で発光する赤色蛍光体を追加することが必要となる。
【0032】
蛍光膜9は、例えば混合蛍光体の粉末をバインダ樹脂等と混合し、この混合物(例えばスラリー)をグローブ4aの内面に塗布した後に加熱・硬化させることによって形成される。混合蛍光体粉末は平均粒子径(粒度分布の中位値(D50))が3〜50μmの範囲であることが好ましい。このような平均粒子径を有する混合蛍光体(蛍光体粒子)を使用することによって、LEDチップ8から出射される紫外乃至紫色光の吸収効率を高めることができ、LEDランプ1aの輝度を向上させることが可能となる。
【0033】
LEDランプ1aの励起源として紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を使用した場合には、従来の青色LEDと黄色蛍光体とを組合せたLED電球とは異なり、上述したように蛍光膜9を種々の蛍光体で構成することができる。すなわち、蛍光膜9の構成する蛍光体種の選択幅が広がるため、LEDランプ1aから放出される白色光の演色性等を高めることができる。具体的には、相関色温度が6500K以下で、黒体軌跡からの偏差が−0.01以上0.01以下の範囲であると共に、平均演色評価数(Ra)が85以上の白色光を得ることができる。このような白色光を得ることによって、白熱電球の代替品としてのLEDランプ1aの実用性等を向上させることが可能となる。
【0034】
LEDチップ8は紫外乃至紫色発光タイプ(発光ピーク波長が350〜430nm)のLEDであればよいが、特に発光ピーク波長が400〜420nmの範囲、または370〜410nmの範囲であると共に、発光スペクトルの半値幅が10〜20nmのLEDチップ8を使用することが好ましい。このようなLEDチップ8と上述した混合蛍光体(BGR又はBYR蛍光体、さらに必要に応じて青緑蛍光体や深赤色(DR)蛍光体を加えた混合蛍光体)で構成した蛍光膜9とを組合せて使用した場合、相関色温度(発光色)についてはLEDチップ8の出力のばらつきに拘わらず安定した白色光を得ることができ、LEDランプ1aの歩留りを高めることが可能となる。従来の青色LEDと黄色蛍光体との組合せは、LEDチップの出力のばらつきが直接相関色温度(発光色)に影響するため、LEDランプの歩留りが低下しやすい。
【0035】
また、基板7上に面実装された複数のLEDチップ8は、透明樹脂層10で覆われていることが好ましい。すなわち、LEDモジュール2は、基板7上に面実装された複数のLEDチップ8と、複数のLEDチップ8を覆うように基板7上に設けられた透明樹脂層10とを備えることが好ましい。透明樹脂層10には、例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等が用いられ、特に耐紫外線性に優れるシリコーン樹脂を使用することが好ましい。このように、複数のLEDチップ8を透明樹脂層10で覆うことによって、各LEDチップ8から出射された光が互いに伝播し、グレアの一因となる局所的な光の強弱が緩和されると共に、光の取出し効率を高めることができる。
【0036】
ところで、蛍光膜9の励起源として紫外乃至紫色発光のLEDチップ8を用いた場合、グローブ4aからの紫外線の漏出を抑制することが重要となる。グローブ4aから漏出した紫外線は、LEDランプ1aの近傍やLEDランプ1aが配置された室内空間等に存在する印刷物、食品、薬品、人体等に悪影響を及ぼすおそれがある。このような点から、実施形態のLED電球1はグローブ4aから漏出する紫外線量(紫外線のエネルギー量)を0.1mW/nm/lm以下とすることが好ましい。このような紫外線の漏れ量であれば、蛍光灯等の従来の照明器具と同等レベルもしくはそれ以下であり、印刷物の色劣化、食品や薬品の変質、人体等への悪影響を極力抑えることができ、LEDランプ1aの実用性を高めることが可能となる。
【0037】
グローブ4aから漏出する紫外線量を低減するためには、蛍光膜9の膜厚を厚くすることが有効である。ここで、実施形態のLEDランプ1aは蛍光膜9からの発光のみで白色光を得ているため、蛍光膜9の膜厚を厚くすることができ、その場合にもLEDランプ1aから放出される白色光の色度等に影響を及ぼすことがない。ただし、蛍光膜9の膜厚を厚くしすぎると、LEDランプの明るさが低下する。そこで、実施形態のLEDランプ1aでは膜厚が80〜800μmの蛍光膜9を適用している。膜厚が80〜800μmの蛍光膜9を適用することによって、グローブ4から漏出する紫外線量を0.1mW/nm/lm以下まで低減しつつ、LEDランプ1aの明るさの低下を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態ではグローブ4a外表面に可視光応答型光触媒層12を形成している。この可視光応答型光触媒層12は、単斜晶系の結晶構造を有し平均粒径が100nmである三酸化タングステン微粒子を主成分とした光触媒塗料から成る被膜である。
【0039】
可視光応答型光触媒層12の膜厚は、0.5〜3μmの範囲が好適である。この膜厚が0.5μm未満の場合には、充分な触媒作用が得られない一方、膜厚が3μmを超えるように過大にするとグローブ4aからの白色光の出射が阻害される。したがって、可視光応答型光触媒層12の膜厚は、0.5〜3μmの範囲に規定されるが、1〜2μmの範囲がさらに好ましい。
【0040】
上記可視光応答型光触媒層12は、三酸化タングステン微粒子と、アルミナ微粒子、シリカ微粒子またはジルコニア微粒子等の、紫外線または可視光の透過性が良好なバインダ(結着剤)とから構成されている。このバインダは三酸化タングステン微粒子に対して10〜40質量%の範囲で添加される。なお、バインダとしてアクリル変性シリコンまたはシリコーン系樹脂を用いると、温度20〜200℃で硬化する光触媒層12を形成できる。
【0041】
上記可視光応答型光触媒層12を形成したLEDランプ1aを点灯すると、光触媒層12に接触した臭気成分等が出射光(可視光)によって分解される反応が開始され経時的に臭気成分濃度が減少する。
【0042】
すなわち、上記第1実施形態に係るLEDランプによれば、グローブ4aの外表面に、室内の可視光に対する触媒性能が高い可視光応答型光触媒層を形成しているために、ランプから発生する紫外線が極端に少ないLED照明の光の下でも光触媒活性が充分に発揮され、充分なガス分解性、高い抗菌性・抗ウィルス性が発揮できる。特にLEDランプに付着した有機物のごみ、タバコのヤニ、台所の油煙等も分解可能であり、長期間に渡ってLEDランプを清潔に維持でき、付着物による全光束の低下を効果的に防止できる。
【0043】
[実施例および比較例1,2]
比較例1として図4に示すようなグローブ4外表面に光触媒層を形成せず、前記紫外紫色発光をするInGaN系LEDチップ8と;前記一般式(1)で示される青色蛍光体と、一般式(2)で示される緑乃至黄色蛍光体と、一般式(6)で示される赤色蛍光体との混合物である3波長蛍光体から成る蛍光膜9と;を組み合わせた消費電量8.6WのLEDランプ(全光束612(lm))を比較例1として用意した。
【0044】
一方、図4に示すLEDランプのグローブ4の外表面に、平均粒径100nmの酸化チタン(TiO)微粒子から成る従来の光触媒層を厚さ2μmで形成したLEDランプを比較例2として用意した。この光触媒層は、上記酸化チタン微粒子とバインダ成分を溶媒で分散混合して調製した塗料をスプレーで塗布し、温度100℃で乾燥したものである。
【0045】
さらに、図4に示すLEDランプのグローブ4の外表面に、三酸化タングステンから成る可視光応答型光触媒(商品名:「ルネキャット」、東芝マテリアル(株)製)から成る光触媒層を厚さ2μmで形成したLEDランプを実施例として用意した。この光触媒層は、上記三酸化タングステン微粒子とバインダ成分とを溶媒で分散混合して調整した塗料をスプレーで塗布し、温度100℃で乾燥したものである。
【0046】
一方、容量5リットルの密閉容器にアセトアルデヒドを15ppm封入した試験容器を用意した。そして試験容器の天井部に、各実施例および比較例1,2に係るLEDランプのドーム部分のみを挿入し、ランプを点灯して容器内を照射して、50分毎にアセトアルデヒドの残存量をガスモニターで測定して残存率の経時変化を観察した。観察結果を図3に示す。
【0047】
図3に示す結果から明らかなように、グローブ4aの外表面に、三酸化タングステンから成る可視光応答型光触媒から成る光触媒層を形成した実施例のLEDランプにおいては、点灯と同時に急速にアセトアルデヒドの分解反応が進行し、顕著なガス分解性能を有することが確認できた。
【0048】
一方、光触媒層を形成していない比較例1のLEDランプにおいては、触媒による分解反応がないために、残存率の低下は僅かであった。また、グローブ4aの外表面に、従来の酸化チタン(TiO)微粒子から成る光触媒層を形成した比較例2に係るLEDランプにおいては、紫外線による触媒の活性化が少ないために、良好なガス分解性能は期待できないことが判明した。
【0049】
実施例1に係るLEDランプにおいて、三酸化タングステン粒子の平均粒径および光触媒層の厚さを変えて分解性能を比較したところ、平均粒径が500nmを超えると触媒の表面積が減少して分解反応に寄与する部位が減少するためにガス分解性能が低下した。一方、光触媒層の厚さを0.5μm未満とした場合は、触媒の活性化が不十分であり、厚さを3μm超とした場合には、ランプからの出射光が光触媒層に遮られて全光束が低下することが実験により確認されている。
【0050】
次に本発明の第2実施形態について図2を参照して説明する。
【0051】
図2に示す第2実施形態に係るLEDランプ1bは、グローブ4bの最大径Aが、基体部3bの最大径Bよりも大きい点以外の構成は、第1実施形態に係るLEDランプ1aと同一である。したがって同一構成要素には同一符号を付してその説明は省略する。
【0052】
本実施形態2のように、グローブ4bの最大径Aを、基体部3bの最大径Bよりも大きくすることにより、蛍光体層9から出射される光の方向がランプ本体の背面方向まで拡大されることになるために、ランプ本体の背面方向にも光が出射されることになり、より広い配向性が得られ、広配光を要する照明空間に最適なLEDランプが得られる。
【0053】
以上の詳細な説明では、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の実施形態に係るLEDランプによれば、照度が低い室内の可視光に対しても触媒性能が高い可視光応答型光触媒層を形成しているために、ランプから発生する紫外線が極端に少ないLED照明の光の下でも光触媒活性が充分に発揮され、充分なガス分解性、高い抗菌性・抗ウィルス性が発揮できる。特にLEDランプに付着した有機物のごみ、タバコの「やに」、台所の油煙等も分解可能であり、長期間に渡ってLEDランプを清潔に維持できる効果が発揮される。
【符号の説明】
【0055】
1,1a,1b…LEDランプ、2…LEDモジュール、3,3a…基体部、4,4a,4b…グローブ、5…絶縁部材、6…口金、7…基板、8…LEDチップ(発光素子)、9…蛍光膜(蛍光体層)、10…透明樹脂層、11…点灯回路、12…可視光応答型光触媒層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、この基板上に実装されたLEDチップとを備えるLEDモジュールと、このLEDモジュールが設置された基体部と、上記LEDモジュールを、空間をおいて覆うように上記基体部に取り付けられたグローブと、このグローブの内面に前記LEDチップから離間させて設けられ、上記LEDチップから出射された紫外乃至紫色光を吸収して白色光を発光する蛍光膜と、上記グローブの外面に形成された可視光応答型光触媒層と、上記基体部内に設けられ上記LEDチップを点灯させる点灯回路と、を具備することを特徴とするLEDランプ。
【請求項2】
請求項1記載のLEDランプにおいて、前記可視光応答型光触媒層が、平均粒径が500nm以下である三酸化タングステン(WO)微粒子を主成分とすることを特徴とするLEDランプ。
【請求項3】
請求項1記載のLEDランプにおいて、前記LEDモジュールが波長400〜420nmの紫外乃至紫色発光を出射する一方、この紫外乃至紫色発光を受けて、グローブ内面に塗布された蛍光体層が可視光を出射することを特徴とするLEDランプ。
【請求項4】
請求項1記載のLEDランプにおいて、前記グローブの最大径Aが、基体部の最大径Bよりも大きいことを特徴とするLEDランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64471(P2012−64471A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208431(P2010−208431)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】