説明

LED装置およびその製造方法、並びにそれに用いる蛍光体分散液

【課題】LEDチップを封止する封止層の膜強度を高めて、LED装置の耐久性を向上させることを目的とする。
【解決手段】特定波長の光を出射するLED発光素子と、前記LED発光素子からの特定波長の光を、他の特定波長の光に変換する波長変換部位とを有するLED装置であって、前記波長変換部位は、蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダとを含む層である、LED装置を提供する。前記アルミニウムケイ酸塩は、好ましくはイモゴライトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED装置およびその製造方法、並びにそれに用いる蛍光体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDチップを用いた発光素子(LED素子)は、発光素子の高輝度化および省エネルギーへの要望の高まりに伴い、様々な用途に適用を拡大している。特に、青色LEDチップと、青色光を受けることで黄色光を出射する蛍光体とを組み合わせて、青色光と黄色光とを混色させて白色光を出射する白色LED素子が知られている。このような白色LED素子は、白色光が必要とされる電灯、液晶表示装置のバックライトなどの照明として用いられるようになってきている。
【0003】
また、LEDチップと蛍光体とを組み合わせた白色LED素子として、さらに、紫外光を出射するLEDチップと、紫外光により青、緑、赤の光を出射する蛍光体とを組み合わせて白色光とする白色LED素子、青色光を出射するLEDチップと、赤、緑の光を出射する蛍光体とを組み合わせて白色光とする白色LED素子なども検討されている。
【0004】
LEDチップと蛍光体とを組み合わせた照明の構成として、LEDチップを、蛍光体が分散した硬化樹脂層(シリコーン樹脂など)で封止する構成が開発されている。また、封止層に蛍光体粒子を均一に分散させるために、封止層の原料となる液状の封止材料に、蛍光体粒子と蛍光体粒子の沈降防止材とを含有させることが提案されている(特許文献1を参照)。それにより、比重の重い蛍光体粒子の沈降を防止する。さらに、LEDチップ周辺に、蛍光体粒子含有封止層を設けた後、発光装置を回転させながら封止層を硬化させることで、発光装置内における色度差、即ち色むらを低減させることも提案されている(特許文献1を参照)。
【0005】
このように硬化樹脂層でLEDチップを封止した照明装置が、高輝度化が求められる照明装置(自動車のヘッドライトなど)に適用されると、硬化樹脂層が熱劣化するおそれがある。LEDチップからの発熱量が従来よりも増大するためである。これに対して、LEDと蛍光体とを組み合わせた照明の構成として、LEDチップを、蛍光体が分散したセラミック層で封止する構成も提案されている(特許文献2を参照)。
【0006】
一方、ナノ材料の一つとして、イモゴライトが知られている(特許文献3を参照)。イモゴライトは、例えば脱水剤として有用であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−153109号公報
【特許文献2】特開2000−349347号公報
【特許文献3】特開2000−128520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のように、LEDチップを、蛍光体が分散したセラミック層で封止することで、LED素子の耐久性がある程度高まるが、近年、LED発光装置の耐久性をより高めることが求められている。LED発光装置の耐久性を高める手段の一つは、LEDチップを封止する層の膜強度を高めることである。
【0009】
ここで、封止層の膜強度の向上と、封止層における蛍光体粒子の均一分散化とが、封止層に適切な無機粒子を加えることで実現されることが見出された。そこで本発明は、LEDチップを覆う蛍光体層に適切な無機粒子を配合することで、封止層の膜強度を高めて、LED装置の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、以下に示すLED装置に関する。
[1]特定波長の光を出射するLED発光素子と、前記LED発光素子からの特定波長の光を、他の特定波長の光に変換する波長変換部位とを有するLED装置であって、
前記波長変換部位は、蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダとを含む層である、LED装置。
[2]前記アルミニウムケイ酸塩は、イモゴライトである、[1]に記載のLED装置。
[3]前記波長変換部位における前記アルミニウムケイ酸塩化合物の含有量が、0.5重量%以上20重量%以下である、[1]に記載のLED装置。
[4]前記バインダは、透明セラミックである、[1]に記載のLED装置。
[5]前記バインダは、シリコーン樹脂である、[1]に記載のLED装置。
[6]前記波長変換部位は、酸化物微粒子をさらに含む層である、[1]に記載のLED装置。
【0011】
本発明の第2は、以下に示すLED装置の製造方法などに関する。
[7]蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダまたはバインダ前駆体と、溶媒とを含む蛍光体分散液。
[8]パッケージと、前記パッケージに配置された発光面を有するLEDチップと、を含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と;前記LEDチップの発光面に、[7]に記載の蛍光体分散液を塗布および乾燥して蛍光体層を成膜する工程とを含む、LED装置の製造方法。
【0012】
[9]蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、溶媒とを含む蛍光体分散液。
[10]パッケージと、前記パッケージに配置された発光面を有するLEDチップと、を含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と;前記LEDチップの発光面に、[9]に記載の蛍光体分散液を塗布および乾燥して蛍光体を配置する工程と;前記LEDチップの発光面に、バインダまたはバインダ前駆体を含む溶液を塗布および乾燥して、蛍光体層を成膜する工程とを含む、LED装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のLED装置は、その発光(好ましくは白色光)の色むらが抑制されており、しかもその耐久性が高く、発光特性が維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】LED装置の断面を概略的に示す図である。
【図2】塗布装置の概要を示す図である。
【図3】塗布装置を用いて、複数のLED装置を連続して製造する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.LED装置について
本発明のLED装置(半導体発光装置)は、LED発光素子と、波長変換部位とを有する。図1は、LED装置100の例を示す断面図である。LED発光素子は、凹部11を有するパッケージ(LED基板)1と、メタル部(メタル配線)2と、パッケージ1の凹部11に配置されたLEDチップ3と、メタル部2とLEDチップ3とを接続する突起電極4とを有する。このように、突起電極4を介してメタル部2とLEDチップ3とを接続する態様を、フリップチップ型という。
【0016】
パッケージ1は、例えば液晶ポリマーやセラミックであるが、絶縁性と耐熱性を有していれば、その材質は特に限定されない。
【0017】
LEDチップ3は、例えば青色LEDである。青色LEDの構成の例には、LED基板1に積層されたn−GaN系化合物半導体層(クラッド層)と、InGaN系化合物半導体層(発光層)と、p−GaN系化合物半導体層(クラッド層)と、透明電極層との積層体である。LEDチップ3は、例えば200〜300μm×200〜300μmの面を有し、LEDチップ3の高さは50〜200μmである。
【0018】
図1に示されるLED装置100には、パッケージ1の凹部11に、1つのLEDチップ3が配置されているが;パッケージ1の凹部11に、複数のLEDチップ3が配置されていてもよい。
【0019】
波長変換部位6について
さらに、LED装置100は、LEDチップ3の発光面を覆う波長変換部位6を有する。波長変換部位6は、蛍光体粒子と、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子と、バインダ(透明セラミックまたは透明有機樹脂)とを含む層である。波長変換部位6は、さらに、平板状粒子酸化物微粒子などの無機粒子を含有していてもよい。波長変換部位6は、LEDチップ3の発光面(少なくともLEDチップ3の上面)を覆っていればよく、図1に示されているように、LEDチップ3の上面と側面を覆っていることが好ましい。LEDチップ3の側面からも光が出射しうるからである。
【0020】
波長変換部位6は、LEDチップ3から出射される光(励起光)を受けて、蛍光を発する層である。励起光と蛍光とが混ざることで、LED装置100から所望の色の光が発光する。例えば、LEDチップ3からの光が青色であり、波長変換部位6からの蛍光が黄色であれば、LED装置100は白色LED発光装置となりうる。
【0021】
蛍光体粒子について
波長変換部位6に含有される蛍光体粒子は、LEDチップのLEDからの特定波長(励起波長)を有する出射光により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を発する。LEDチップから青色光が出射される場合には、蛍光体粒子が黄色の蛍光を発することによって、白色LED素子が得られる。黄色の蛍光を発する蛍光体の例には、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体が挙げられる。YAG蛍光体は、青色LEDチップから出射される青色光(波長420nm〜485nm)からなる励起光を受けて、黄色光(波長550nm〜650nm)の蛍光を発することができる。
【0022】
蛍光体は、例えば、1)所定の組成を有する混合原料に、フラックスとしてフッ化アンモニウム等のフッ化物を適量混合して加圧し、成形体を得て、2)得られた成形体を坩堝に詰め、空気中1350〜1450℃の温度範囲で2〜5時間焼成し焼結体を得ることで製造されうる。
【0023】
所定の組成を有する混合原料は、Y、Gd、Ce、Sm、Al、La、Gaの酸化物、または高温で容易に酸化物となる化合物を、化学量論比で十分に混合して得ることができる。あるいは、所定の組成を有する混合原料は、Y、Gd、Ce、Smの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶液を、シュウ酸で共沈したものを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムとを混合して得ることができる。
【0024】
蛍光体の種類はYAG蛍光体に限定されるものではなく、例えばCeを含まない非ガーネット系蛍光体などの他の蛍光体を使用することもできる。
【0025】
蛍光体粒子の平均粒径は1μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。蛍光体の粒径が大きいほど発光効率(波長変換効率)は高くなる。一方で、蛍光体の粒径が大きすぎると、蛍光体層において蛍光体とバインダとの界面に生じる隙間が大きくなり、蛍光体層の膜強度が低下する。蛍光体の平均粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定することができる。
【0026】
波長変換部位6を構成する層(蛍光体層)における蛍光体の濃度は、それに含まれるバインダの種類によって異なる。バインダが透明セラミックである場合には、波長変換部位6を構成する層に含まれる蛍光体の質量と、バインダとしてのセラミックの質量と、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子(平板状粒子や酸化物微粒子などを含む)の質量との合計質量に対して、60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。基本的には、波長変換部位6を構成する層における蛍光体粒子の濃度は高いほど好ましい。波長変換部位6を構成する層における蛍光体の濃度を高くすると、バインダの含有比率が低下するので、層における蛍光体粒子の分布が均一になりやすいからである。また、蛍光体の濃度を高くすると、層を薄くしても必要量の蛍光体をLED装置に配置することができるからである。
【0027】
また、波長変換部位6を構成する層における蛍光体粒子の濃度が高いと、蛍光体粒子同士が密着するため、層の膜強度を高めることができる。さらには、波長変換部位6を構成する層における蛍光体粒子の濃度が高いと、蛍光体からの発熱が、層から放散されやすくなる。
【0028】
一方で、波長変換部位6を構成する層における蛍光体の濃度が高すぎる(95質量%超である)と、バインダの含有比率が極端に低下して、蛍光体粒子同士が結着することができない場合がある。
【0029】
アルミニウムケイ酸塩について
波長変換部位6を構成する層(蛍光体層)には、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子が含有される。アルミニウムケイ酸塩とは、主な構成元素を珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)および水素(H)とし、多数のSi−O−Al結合で組み立てられた和水珪酸アルミニウムである。典型的には、組成式:SiO・Al・2HO または (OH)AlSiOH で示される。
【0030】
アルミニウムケイ酸塩の例には、イモゴライトと称されるチューブ状のアルミニウムケイ酸塩がある。イモゴライトとは、例えば、外径が2.0〜2.5nm、内径が1.0〜1.5nm、長さが5〜6μmのチューブ状の形態を有する。
【0031】
波長変換部位6を構成する層におけるアルミニウムケイ酸塩の含有量は、0.5重量%〜20重量%であることが好ましく、1重量%〜12重量%であるとより好ましい。アルミニウムケイ酸塩は、波長変換部位6を構成する層の膜強度を向上させるという効果を有するが、アルミニウムケイ酸塩の含有量が少なすぎると膜強度が十分に高まらないことがある。アルミニウムケイ酸塩の含有量が多すぎると、相対的に蛍光体粒子の含有量が低下するので、層における蛍光体粒子の分布が均一になりにくい場合がある。
【0032】
また、後述するように、波長変換部位6を成膜するために蛍光体分散液を塗布する。蛍光体分散液にアルミニウムケイ酸塩(特に、イモゴライト)が含まれていると、蛍光体分散液の粘度が高まり、蛍光体分散液中での蛍光体の沈降が抑制される。
【0033】
酸化物微粒子について
波長変換部位6を構成する層には、アルミニウムケイ酸塩以外の無機粒子が含有されていてもよい。アルミニウムケイ酸塩以外の無機粒子の例には、酸化物微粒子および平板状粒子が含まれる。酸化物微粒子は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛などの微粒子でありうる。特に、波長変化部位6におけるバインダを、シロキサンなどの含ケイ素有機化合物の硬化物であるセラミックとする場合には、形成されるセラミックに対する安定性の観点から、酸化物微粒子を酸化ケイ素とすることが好ましい。
【0034】
酸化物微粒子は、波長変換部位6を構成する層において、バインダと蛍光体との界面に生じる隙間を埋める充填剤となり、層の膜強度を向上させる膜強化剤として機能しうる。
【0035】
酸化物微粒子の平均粒径は、上述したそれぞれの効果を考慮して0.001μm以上50μm以下であることが好ましい。酸化物微粒子の平均粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定することができる。
【0036】
波長変換部位6を構成する層における酸化物微粒子の含有量は0.1質量%以上8質量%以下がより好ましい。波長変換部位6における酸化物微粒子の含有量が0.1質量%未満であるか、または8質量%を超えると、波長変換部位6を構成する層の膜強度が十分に高まらない。
【0037】
酸化物微粒子の表面は、シランカップリング剤やチタンカップリング剤で処理されていてもよい。表面処理によって、酸化物微粒子の、有機金属化合物や有機溶媒との相溶性が高まる。
【0038】
平板状粒子について
波長変換部位6を構成する層に含有される平板状粒子の典型例には、層状粘土鉱物微粒子がある。層状粘土鉱物微粒子の主成分は層状ケイ酸塩鉱物であり、雲母構造、カオリナイト構造、スメクタイト構造などの構造を有する膨潤性粘土鉱物が好ましく、膨潤性に富むスメクタイト構造を有する膨潤性粘土鉱物がより好ましい。層状粘土鉱物微粒子は平板状を呈するため、波長変換部位6を構成するセラミック層の膜強度を向上させることもできる。
【0039】
また、後述するように、セラミック層を成膜するために蛍光体分散液を塗布する。蛍光体分散液に平板状粒子が含まれていると、蛍光体分散液の粘度が高まり、蛍光体分散液中での蛍光体の沈降が抑制される。平板状粒子は、蛍光体分散液中においてカードハウス構造として存在し、少量で蛍光体分散液の粘度を大幅に高めることができる。
【0040】
波長変換部位6を構成する層における平板状粒子の含有量は0質量%以上8質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以上8質量%以下がより好ましい。波長変換部位6における平板状粒子の含有量が8質量%を超えるとセラミック層の強度が低下する。
【0041】
蛍光体分散液での有機溶媒との相溶性を考慮して、層状粘土鉱物微粒子の表面は、アンモニウム塩等で修飾(表面処理)されていてもよい。
【0042】
バインダについて
波長変換部位6を構成する層に含有されるバインダは、蛍光体粒子同士を結着させる。バインダは、シリコーン樹脂などの有機樹脂であるか、またはガラスなどの透明セラミックなどである。より具体的にセラミックは、ポリシロキサンまたはポリシラザンなどでありうる。透明セラミックをバインダとして用いることで、有機樹脂をバインダとして用いる場合よりも、波長変換部位6の耐熱性などを高めることができる。
【0043】
波長変換部位6を構成する層におけるセラミックの含有量は、3質量%以上35質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。蛍光体層6におけるバインダ(透明セラミック)の含有量が3質量%未満では、バインダとしてのセラミックが少な過ぎるために、加熱焼成後の波長変換部位6を構成する層の強度が低下する。一方、バインダ(透明セラミック)の含有量が40質量%を超えると、アルミニウムケイ酸塩や無機微粒子の含有量が相対的に低下する。無機微粒子の含有量が相対的に低下すると、波長変換部位6を構成する層の強度が低下する。また、波長変換部位6を構成する層における層状粘土鉱物微粒子の含有量が相対的に低下すると、蛍光体分散液における層状粘土鉱物微粒子の含有量も低下しやすく、蛍光体分散液の粘度も低下しやすい。
【0044】
波長変換部位6を構成する層の厚みについて
波長変換部位6を構成する層の厚みは、半導体発光素子が必要とする蛍光体の量に応じて設定されるため、特に限定されない。ただし、波長変換部位6を構成する層の厚みを150μm以下とすることが好ましく、さらに100μm以下とすることが好ましい。波長変換部位6を構成する層の厚みが150μmを超えると、通常は、波長変換部位6における蛍光体粒子の濃度が過剰に低くなるので、蛍光体粒子を均一に分散させにくかったり、膜強度が低かったりする。
【0045】
波長変換部位6を構成する層の厚みの下限は特に制限されないが、通常は15μm以上、好ましくは30μm以上である。蛍光体粒子の大きさ(粒径)は、通常10μm以上であるので、波長変換部位6を構成する層の厚みを15μm未満とすることは困難であることがある。
【0046】
波長変換部位6を構成する層の厚みは、LEDチップ3の上面に配置された層の最大厚みL(図1参照)を意味する。層の厚みは、レーザホロゲージを用いて測定することができる。
【0047】
2.LED装置の製造方法について
LED装置は、蛍光体分散液を塗布することで蛍光体層を成膜する工程を経て製造されうる。ここで用いる蛍光体分散液の態様によって、LED装置の製造方法は2つに大別されうる。
【0048】
LED装置の第1の製造方法は、蛍光体粒子と、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子と、バインダまたはバインダ前駆体と、溶媒とを含有する蛍光体分散液(「1液タイプの蛍光体分散液」と称する)を用いる。
【0049】
LED装置の第2の製造方法は、蛍光体粒子と、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子と、溶媒とを含有する蛍光体分散液(「2液タイプの蛍光体分散液」と称する)と、バインダまたはバインダ前駆体を含有する溶液(「バインダ溶液」と称する)とを用いる。2液タイプの蛍光体分散液は、通常は、バインダおよびバインダ前駆体を含まない。
【0050】
[LED装置の第1の製造方法(1液タイプの蛍光体分散液)]
LED装置の第1の製造方法は、1)パッケージと、前記パッケージに配置された発光面を有するLEDチップと、を含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と、2)前記LEDチップの発光面に、1液タイプの蛍光体分散液を塗布および乾燥して蛍光体層を成膜する工程とを含む。
【0051】
LEDチップ実装パッケージ90は、パッケージ1とそれに配置されたLEDチップ3とを有する(図2参照)。LEDチップ実装パッケージ90のLEDチップ3の発光面に蛍光体分散液を塗布する。
【0052】
1液タイプの蛍光体分散液について
1液タイプの蛍光体分散液は、蛍光体粒子と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダまたはバインダ前駆体と、溶媒とを含有し、さらにアルミニウムケイ酸塩以外の無機粒子(酸化物微粒子や平板状粒子など)を含んでいてもよい。蛍光体粒子、アルミニウムケイ酸塩、平板状粒子および酸化物微粒子の種類は、前述した通りである。
【0053】
1液タイプの蛍光体分散液に含まれるバインダは、シリコーン樹脂などの透明有機樹脂である。一方、バインダ前駆体は、例えば有機金属化合物である。有機金属化合物は、ゾル−ゲル反応することによって透明セラミック(好ましくはガラスセラミック)となる。生成するセラミックは、蛍光体、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子を結着させて、LEDチップを封止する蛍光体層を構成する。
【0054】
有機金属化合物の例には、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレートなどが含まれるが、加水分解と重合反応によりゲル化し易い金属アルコキシドが好ましい。透光性のガラスセラミックを形成可能であれば金属の種類に制限はない。形成されるガラスセラミックの安定性や製造の容易性の観点から、ケイ素を含有していることが好ましい。また、複数種の有機金属化合物を組み合わせてもよい。
【0055】
金属アルコキシドは、テトラエトキシシランのような単分子でもよいし、有機シロキサン化合物が鎖状または環状に連結したポリシロキサンでもよいが;ポリシロキサンによれば、蛍光体分散液の粘性を高めることができる。
【0056】
有機金属化合物の他の例には、ポリシラザン(シラザンオリゴマーともいう)が含まれる。ポリシラザンは、一般式:(RSiNRで表されうる。式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基、アリール基、ビニル基、シクロアルキル基を表すが、R、R、Rのうち少なくとも1つは水素原子であり、好ましくはすべてが水素原子であり、nは1〜60の整数を表す。ポリシラザンの分子形状はいかなる形状であってもよく、例えば、直鎖状または環状であってもよい。
【0057】
1液タイプの蛍光体分散液には、有機金属化合物(特に、ポリシラザン)とともに、反応促進剤が含まれていてもよい。反応促進剤は、酸または塩基などでありうる。反応促進剤の具体例には、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンなどの塩基や、塩酸、シュウ酸、フマル酸、スルホン酸、酢酸や、ニッケル、鉄、パラジウム、イリジウム、白金、チタン、アルミニウムを含む金属のカルボン酸塩などが含まれるが、これに限られない。特に好ましい反応促進剤は金属カルボン酸塩であり、添加量はポリシラザンを基準にして0.01〜5mol%が好ましい添加量である。
【0058】
1液タイプの蛍光体分散液におけるポリシラザン濃度は高い方が好ましいが、ポリシラザン濃度が上昇すると、バインダ溶液の保存期間が短縮する。そのため、1液タイプの蛍光体分散液におけるポリシラザンの濃度は、5〜50wt%(質量%)であることが好ましい。
【0059】
1液タイプの蛍光体分散液にポリシラザン溶液を配合する場合には、蛍光体分散液を塗布し、塗膜を加熱するかまたは塗膜に光を照射することで、塗膜をセラミック膜とすることが好ましい。塗膜を加熱する温度は、LEDチップの基板として用いられるガラス材料等の劣化を抑制する観点からは、150℃〜500℃が好ましく、150℃〜350℃とすることがより好ましい。特に、170〜230nmの範囲の波長成分を含むUVU放射線(例えばエキシマ光)を塗膜に照射して硬化させた後に、さらに加熱硬化を行うことで、水分の浸透防止効果をより向上させることができる。
【0060】
1液タイプの蛍光体分散液の溶媒には、アルコール類が含まれることが好ましい。アルコール類は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの1価アルコールでもよいし、2価以上の多価アルコールであってもよい。2種以上のアルコールを組み合わせてもよい。2価以上のアルコールを溶媒として用いれば、蛍光体分散液の粘度を高めやすく、分散質である蛍光体粒子の沈降が防止しやすくなる。
【0061】
溶媒の沸点は、250℃以下であることが好ましい。蛍光体分散液から、分散溶媒を乾燥しやすくするためである。沸点が高すぎると分散溶媒の蒸発が遅いので、分散溶液を塗布して塗膜としたときに、塗膜中で蛍光体が流れてしまう。
【0062】
2価以上の多価アルコールは、溶媒として用いることができる限り、いずれの多価アルコールでも使用できるが;例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールなどが挙げられ、好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールなどである。
【0063】
1液タイプの蛍光体分散液における蛍光体の濃度は、蛍光体粒子の質量と、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子の質量と、バインダまたはバインダ前駆体の硬化物の質量との合計に対して、60〜95質量%であることが好ましい。このような蛍光体分散液をLEDチップの発光面に塗布乾燥することで、蛍光体の密度の高い層からなる波長変換部位が得られる。
【0064】
1液タイプの蛍光体分散液は、溶媒に、バインダまたはバインダ前駆体と、蛍光体粒子とを混合して、さらにアルミニウムケイ酸塩を混合し、必要に応じて、他の無機粒子(平板状粒子や酸化物粒子)を添加して調製されうる。
【0065】
蛍光体分散液の塗布
LEDチップ実装パッケージ90のLEDチップ3の発光面に蛍光体分散液を塗布する。塗布の手段は特に限定されないが、ブレード塗布、スピンコート塗布、ディスペンサー塗布、スプレー塗布などが例示される。特に、スプレー塗布は薄い塗布膜を成膜しやすく、従って薄いセラミックス層を形成しやすいために好ましい。
【0066】
図2には、蛍光体分散液を塗布するためのスプレー装置の概略が示される。図2に示される塗布装置200における塗布液タンク210内の蛍光体分散液220は、圧力をかけられて連結管230を通じてヘッド240に供給される。ヘッド240に供給された蛍光体分散液220は、ノズル250から吐出されて、塗布対象物(LEDチップ3の発光面)に塗布される。ノズル250からの塗布液の吐出は風圧によって行われる。ノズル250の先端に開閉自在な開口部を設けて、この開口部を開閉操作して、吐出作業のオン・オフを制御する構成としてもよい。
【0067】
蛍光体分散液の塗布工程では、下記(1)〜(9)の操作や条件設定などをおこなう。
(1)基本的には、ノズル250の先端部をパッケージ1の直上に配置して蛍光体分散液220をLEDチップ3の真上から噴射する。LEDチップ3は直方体状である場合には、蛍光体分散液220をLEDチップ3の真上から噴射したり、LEDチップ3の斜上方から噴射したりしてもよい。斜め上方から噴射することで、LEDチップ3の角部に蛍光体分散液220を適切に塗布することができる。このようにして、LEDチップ3の側面に対しても蛍光体分散液220を均一に塗布することが好ましい。
【0068】
(2)蛍光体分散液220の噴射量を、混同液の粘度や目的の色度に応じて制御する。同一の条件で塗布をする限り、噴射量を一定とし、単位面積当たりの蛍光体量を一定とする。蛍光体分散液220の噴射量の経時的なバラツキは10%以内とし、好ましくは1%以内とする。蛍光体分散液220の噴射量は、LEDチップ3に対するノズル250の相対移動速度と、ノズル250からの噴射圧力などで調整される。一般的には、分散液の粘度が高い場合に、ノズルの相対移動速度を遅くして、かつ噴射圧力を高く設定する。特に限定されないが、ノズルの相対移動速度は通常は約30mm/s〜200mm/sであり;噴射圧力は通常は約0.01MPa〜0.2MPaである。
【0069】
(3)ノズル250の温度を調整し、蛍光体分散液220の噴射時の粘度を調整してもよい。パッケージ1を室温環境下においてもよいし、温度調整機構を移動台に設けてパッケージ1の温度をコントロールしてもよい。パッケージ1の温度を30〜100℃で高く設定すれば、パッケージ1に噴射された蛍光体分散液220中の有機溶媒を早く揮発させることができ、蛍光体分散液220がパッケージ1から液だれするのを防止することができる。逆に、パッケージ1の温度を5〜20℃と低く設定すれば、溶媒をゆっくり揮発させることができ、蛍光体分散液220をLEDチップ3の外壁に沿って均一に塗布することができる。ひいては波長変換部位6の膜密度や膜強度などを増大させることができ、緻密な膜を形成することができる。
【0070】
(4)塗布装置200の環境雰囲気(温度・湿度)を一定とし、蛍光体分散液220の噴射を安定させる。特に、有機金属化合物としてポリシラザンを使用する場合、ポリシラザンが吸湿性を有しており蛍光体分散液220自体が固化する可能性があるため、蛍光体分散液220を噴射するときは好ましくは湿度を低くする。
【0071】
(5)塗布装置200とパッケージ1との間にLEDチップ3の形状に応じたマスクを配置し、当該マスクを介して蛍光体分散液220を噴射してもよい。
【0072】
(6)1つのパッケージ1への蛍光体分散液220の噴射・塗布が終了したら、その次のパッケージ1に対して、上記と同様の操作を繰り返し、複数のパッケージ1のLEDチップ3上に蛍光体分散液220を順次噴射・塗布する。図3Aおよび3Bには、複数のLEDチップ実装パッケージ90を載置した移動台300を、ノズル250に対して相対移動(矢印方向)させなが吐出液270を吐出して、LEDチップ実装パッケージ90のそれぞれに蛍光体分散液を塗布する状態を示す。図3Aは、吐出方向に対して側面から見た図であり、図3Bは、吐出方向の上方から見た図である。
【0073】
この場合、パッケージ1の切り替えとは無関係に、蛍光体分散液220を連続的に噴射し続けてもよいし、パッケージ1を切り替えるごとに蛍光体分散液220の噴射を一時的に休止して、蛍光体分散液220を断続的に噴射してもよい。蛍光体分散液220を連続的に噴射し続ければ、各パッケージ1に対する蛍光体分散液220の噴射量を安定させることができる。蛍光体分散液220を断続的に噴射すれば、蛍光体分散液220の使用量を節約することができる。
【0074】
(7)噴射・塗布工程中は、一定数のパッケージ1への蛍光体分散液220の噴射・塗布が終了するごとに、白色光の色度や輝度を実際に検査し、その検査結果を蛍光体分散液220の噴射量や噴射圧、噴射温度などにフィードバックしてもよい(検査工程)。
【0075】
(8)噴射・塗布工程中は、ノズル250をクリーニングしてもよい。この場合、塗布装置200の近傍に、洗浄液を貯留したクリーニングタンクを設置し、蛍光体分散液220の噴射の休止中や白色光の色度・輝度の検査中などにおいて、ノズル250の先端部をクリーニングタンク中に浸漬させ、ノズル250の先端部の乾燥を防ぐ。また、噴射・塗布工程の休止中には、蛍光体分散液220が硬化してノズル250の噴射孔がつまる恐れがあるので、ノズル250をクリーニングタンク中に浸漬させるか、噴射・塗布工程の開始時にノズル250をクリーニングすることが好ましい。
【0076】
(9)噴射・塗布工程では、蛍光体分散液220をミスト状に噴射するため、蛍光体分散液220中の有機溶媒が揮発すると、蛍光体,無機微粒子などの粉体が飛散することもある。そのため、好ましくは塗布装置200の全体をハウジングなどで被覆してフィルタ越しに集塵・排気しながら、噴射・塗布工程や検査工程の処理を実行する。蛍光体をフィルタで捕集すれば、高価な蛍光体を再利用することができる。
【0077】
1液タイプの蛍光体分散液を塗布したら、それに含まれる溶媒を乾燥により除去する。1液タイプの蛍光体分散液にバインダ前駆体(例えば、セラミック前駆体としての有機金属化合物)が含まれている場合には、それを焼成により硬化反応させて、バインダ(例えば、透明セラミック)に変換する。それにより、蛍光体を含む層(蛍光体層6)からなる波長変換部位が成膜される。
【0078】
このようにして波長変換部位6を成膜して、図1に示されるLED装置100を得る。さらに、波長変換部位6を成膜した後に、さらに保護層で波長変換部位6を覆ってもよい。保護層の成膜も、スプレー装置やディスペンサー装置を用いればよい。LED装置100には、さらに他の光学部品(レンズなど)が設けられて各種光学部材として用いられる。
【0079】
[LED装置の第2の製造方法(2液タイプの蛍光体分散液)]
LED装置の第2の製造方法は、1)パッケージとLEDチップとを含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と、2)LEDチップの発光面に2液タイプの蛍光体分散液を塗布して蛍光体粒子を配置する工程と、3)LEDチップの発光面にバインダまたはバインダ前駆体を含む溶液(バインダ溶液)を塗布して、蛍光体層を成膜する工程と、を含む。
【0080】
LEDチップ実装パッケージ90は、例えば、図2に示される通りである。
【0081】
2液タイプの蛍光体分散液について
2液タイプの蛍光体分散液は、蛍光体粒子と、アルミニウムケイ酸塩と、溶媒とを含有し、さらにアルミニウムケイ酸塩以外の無機粒子を含有していてもよい。一方で、2液タイプの蛍光体分散液は、バインダおよびバインダ前駆体を含まないことが好ましい。
【0082】
2液タイプの蛍光体分散液は、バインダおよびバインダ前駆体を含まないこと以外は、1液タイプの蛍光体分散液と同様である。つまり、各成分(蛍光体粒子、アルミニウムケイ酸塩を含む無機粒子)や溶媒の種類、各成分の濃度など、1液タイプの蛍光体分散液と同様に調整すればよい。また、2液タイプの蛍光体分散液は、1液タイプの蛍光体分散液と同様に調製すればよく、例えば、溶媒に蛍光体粒子を混合して、さらにアルミニウムケイ酸塩を混合し、必要に応じて、他の無機粒子(平板状粒子や酸化物粒子)を添加して調製されうる。
【0083】
2液タイプの蛍光体分散液は、LEDチップ実装パッケージ90のLEDチップ3の発光面に塗布されるが、その塗布の手法は、1液タイプの蛍光体分散液の塗布手法と同様にしうる。つまり、ブレード塗布、スピンコート塗布、ディスペンサー塗布、スプレー塗布などが採用されうるが;特に、スプレー塗布は薄い塗布膜を成膜しやすく、従って薄いセラミックス層を形成しやすいために好ましい。
【0084】
2液タイプの蛍光体分散液を、LEDチップ実装パッケージ90のLEDチップ3の発光面に塗布したら、次に、バインダまたはバインダ前駆体を含む溶液(バインダ溶液)をLEDチップ3の発光面に塗布する。
【0085】
バインダ溶液に含まれるバインダまたはバインダ前駆体の種類は、1液タイプの蛍光体分散液に含まれるバインダまたはバインダの種類と同様である。つまり、バインダ前駆体の例には、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、ポリシラザンなどの有機金属化合物が含まれる。バインダ溶液に含まれる溶媒は、1液タイプの蛍光体分散液に含まれる溶媒と同様である。
【0086】
バインダ溶液の、LEDチップ3の発光面への塗布も、1液タイプの蛍光体分散液と同様に、スプレー塗布などで行えばよい。バインダ溶液の塗布後、それに含まれる溶媒を乾燥により除去する。また、バインダ溶液にバインダ前駆体(例えば、セラミック前駆体としての有機金属化合物)が含まれている場合には、それを焼成により硬化反応させて、バインダ(例えば、透明セラミック)に変換する。それにより、蛍光体を含む層(蛍光体層6)からなる波長変換部位が成膜される。
【0087】
2次タイプの蛍光体分散液とバインダ溶液は、交互に繰り返しLEDチップの発光面に塗布してもよい。
【0088】
このようにして波長変換部位6を成膜して、図1に示されるLED装置100を得る。さらに、波長変換部位6を成膜した後に、さらに保護層で波長変換部位6を覆ってもよい。保護層の成膜も、スプレー装置やディスペンサー装置を用いればよい。LED装置100には、さらに他の光学部品(レンズなど)が設けられて各種光学部材として用いられる。
【実施例】
【0089】
[LEDチップ実装パッケージの製造]
図2に概念的に示されるLEDチップ実装パッケージ90を用意した。具体的には、円形パッケージ(開口径3mm,底面直径2mm、壁面角度60°)の収容部の中央に、1つの青色LEDチップ(直方体状;200μm×300μm×100μm)をフリップチップ実装し、LEDチップ実装パッケージを用意した。
【0090】
[蛍光体粒子の作製]
以下の手順で黄色蛍光体粒子を作製した。下記に示す組成の蛍光体原料を十分に混合した混合物を、アルミ坩堝に充填し、これにフラックスとしてフッ化アンモニウム等のフッ化物を適量混合した。充填物を、水素含有窒素ガスを流通させた還元雰囲気中において1350〜1450℃の温度範囲で2〜5時間焼成して、焼成品((Y0.72Gd0.24)3Al5O12:Ce0.04)を得た。
【0091】
[蛍光体粒子の原料組成]
・・・ 7.41g
Gd ・・・ 4.01g
CeO ・・・ 0.63g
Al ・・・ 7.77g
【0092】
得られた焼成品を粉砕、洗浄、分離、乾燥することで所望の蛍光体を得た。得られた蛍光体を粉砕して約10μmの粒径の蛍光体粒子とした。得られた蛍光体粒子の組成を調べて、所望の蛍光体であることを確認した。波長465nmの励起光に対する発光波長を調べたところ、おおよそ波長570nmにピーク波長を有していた。得られた蛍光体粒子を、以下の比較例および実施例で用いた。
【0093】
[アルミニウムケイ酸塩化合物(イモゴライト)の合成]
容量1Lの攪拌機付き容器に、0.1mol/lのオルトケイ酸ナトリウム250mlと、0.15mol/lの塩化アルミニウム六水和物250mlとを混合した。混合物を攪拌しながら、混合物に1Nの水酸化ナトリウム水溶液50mlを混合物に滴下した。このときの溶液をプレートヒーターにより加熱して90℃とし、この温度を10時間維持した。
【0094】
次に、混合物に濃塩酸を加えてpHを7.0とした。生成した塩化ナトリウムを水洗により除去し、再度濃塩酸を加えてpHを4.0とした。これを100℃に加熱し、24時間維持することでアルミニウムケイ酸塩化合物であるイモゴライトを作製した。
【0095】
[比較例1]
7.5gの「セラミック前駆体溶液A:テトラエトキシシラン14重量%,イソプロピルアルコール86重量%)」に、0.05gの蛍光体粒子と、0.04gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)とを混合して混合液を調製した。
【0096】
スプレー装置(図2参照)の移動台上に、10個のLEDチップ実装パッケージを並べて配置した(図3参照)。スプレー装置を用いてパッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して、波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度100mm/sで移動しながら、0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0097】
[比較例2]
3.0gのセラミック前駆体溶液Aに、1.0gのエチレングリコールと、0.42gの蛍光体粒子と、0.05gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)と、スメクタイト(ルーセンタイトSWN、コープケミカル社製)0.02gとを混合して混合液を調製した。
【0098】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度70mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0099】
[実施例1]
3.0gのセラミック前駆体溶液Aに、1.0gの1,3-ブタンジオールと、0.7gの蛍光体粒子と、0.18gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0100】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度60mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。蛍光体層に占めるアルミニウムケイ酸塩化合物の濃度は22重量%であった。
【0101】
[実施例2]
3.0gのセラミック前駆体溶液Aに、1.0gの1,3-ブタンジオールと、1.5gの蛍光体粒子と、0.05gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)と、0.18gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0102】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度70mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。蛍光体層に占めるアルミニウムケイ酸塩化合物の濃度は9質量%であった。
【0103】
[実施例3]
3.0gのイソプロピルアルコールに、1.0gのプロピレングリコールと、1.5gの蛍光体粒子と、0.05gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)と、0.18gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0104】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して蛍光体を配置した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度75mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0105】
さらに、第2の混合液としてセラミック前駆体溶液Aを、パッケージ上に塗布し、150℃で1時間焼成することで波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度100mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。蛍光体層に占めるアルミニウムケイ酸塩化合物の濃度は10質量%であった。
【0106】
[実施例4]
1.5gの「セラミック前駆体B:ポリシラザン(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製NN120)20質量%、ジブチルエーテル80質量%」に、1.0gの蛍光体粒子と、0.05gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)と、0.13gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0107】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度70mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。蛍光体層に占めるアルミニウムケイ酸塩化合物の濃度は10質量%であった。
【0108】
[実施例5]
1.0gのイソプロピルアルコールに、1.0gの1,3-ブタンジオールと、1.5gの蛍光体粒子と、0.05gの酸化ケイ素(SiO 日本アエロジル株式会社製RX300,粒径7nm)と、0.18gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0109】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して蛍光体を配置した。この時のスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度70mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0110】
さらに、第2の混合液としてセラミック前駆体溶液Bを蛍光体層に塗布し、150℃で1時間焼成することで蛍光体層を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度120mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0111】
[実施例6]
3.0gのイソプロピルアルコールに、1.0gのプロピレングリコールと、1.5gの蛍光体粒子と、0.05gの合成雲母(ミクロマイカMK−100 コープケミカル社)と、0.18gのイモゴライトとを混合して混合液を調製した。
【0112】
比較例1と同様の塗布装置で、パッケージ上に混合液を塗布したのち、150℃で1時間加熱して蛍光体を配置した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度75mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。
【0113】
さらに、第2の混合液としてセラミック前駆体溶液Aを、パッケージ上に塗布し、150℃で1時間焼成することで波長変換部位(蛍光体層)を成膜した。このときのスプレー塗布条件はノズルの真下にLEDチップを配置し、ノズルのみを移動速度100mm/sで移動しながら0.1MPaの圧力で1往復しながら混合液を吐出した。蛍光体層に占めるアルミニウムケイ酸塩化合物の濃度は10質量%であった。
【0114】
各実施例および比較例で得られたLED装置について、以下の評価を行った。
【0115】
(膜強度測定)
各実施例および比較例で作製したサンプルをそれぞれ5個ずつ用意して、発光の色度を測定した。測定後のLED装置に冷熱衝撃試験(-40℃/30min ⇔ 150℃/30min 1000サイクル)を行った後、さらにLED装置を50cmの高さから落下させることを50回繰り返した。その後、それぞれのLED装置の発光の色度を測定した。発光の色度測定には、測定装置としてコニカミノルタセンシング社製分光放射輝度計CS-1000Aを用いた。
【0116】
表1には、色度のx値と、試験前後の色度差とを示した。劣化試験時に膜の剥離等が生じていれば、試験前後での色度にバラツキが生じるため、試験前後の色度差から膜強度の優劣を評価することができる。以下の基準で評価を行った。
0.02より大きい・・・×
0.01より大きく、0.02以下・・・○
0.01以下・・・◎
【0117】
表1に示された色度は、色空間をXYZ座標系で表したCIE−XYZ表色系であり、ある点と原点を結ぶ直線が平面x+y+z=1と交わる点で定義される。色度は(x、y)座標で表し、x+y+z=1の関係から得られるz座標は省略する。白色光の色度は(0.33,0.33)であり、色度がこの値に近いほど白色光に近くなる。x座標の値が小さくなると青色がかった白色になり、x座標の値が大きくなると黄色がかった白色になる。
【0118】
【表1】

【0119】
無機粒子としてシリカのみを配合した比較例1では、試験前後の色度差が大きいことがわかる。また、無機粒子としてシリカとスメクタイトを組み合わせた比較例2では、比較例1と比較すると、試験前後の色度差がかなり低減されていることがわかる。
【0120】
さらに、無機粒子としてイモゴライトを配合した実施例1〜6では、比較例2と比較して、試験前後の色度差がより低減されている。なかでも、無機粒子としてイモゴライトとシリカまたは合成雲母を組み合わせた実施例2〜6では、試験前後の色度差がより効果的に低減されている。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のLED装置は、発光色度のばらつきが少なくしかも耐久性が高い。よって、照明などの半導体発光装置として有用である。
【符号の説明】
【0122】
1 パッケージ
2 メタル部
3 LEDチップ
4 突起電極
6 波長変換部位
90 LEDチップ実装パッケージ
100 LED装置
200 塗布装置
210 塗布液タンク
220 蛍光体分散液
230 連結管
240 ヘッド
250 ノズル
270 吐出液
300 移動台
L セラミック層の厚み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定波長の光を出射するLED発光素子と、前記LED発光素子からの特定波長の光を、他の特定波長の光に変換する波長変換部位とを有するLED装置であって、
前記波長変換部位は、蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダとを含む層である、LED装置。
【請求項2】
前記アルミニウムケイ酸塩は、イモゴライトである、請求項1に記載のLED装置。
【請求項3】
前記波長変換部位における前記アルミニウムケイ酸塩化合物の含有量が、0.5重量%以上20重量%以下である、請求項1に記載のLED装置。
【請求項4】
前記バインダは、透明セラミックである、請求項1に記載のLED装置。
【請求項5】
前記バインダは、シリコーン樹脂である、請求項1に記載のLED装置。
【請求項6】
前記波長変換部位は、酸化物微粒子をさらに含む層である、請求項1に記載のLED装置。
【請求項7】
蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、バインダまたはバインダ前駆体と、溶媒とを含む蛍光体分散液。
【請求項8】
パッケージと、前記パッケージに配置された発光面を有するLEDチップと、を含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と、
前記LEDチップの発光面に、請求項7に記載の蛍光体分散液を塗布および乾燥して蛍光体層を成膜する工程と、
を含む、LED装置の製造方法。
【請求項9】
蛍光体と、アルミニウムケイ酸塩と、溶媒とを含む蛍光体分散液。
【請求項10】
パッケージと、前記パッケージに配置された発光面を有するLEDチップと、を含むLEDチップ実装パッケージを用意する工程と、
前記LEDチップの発光面に、請求項9に記載の蛍光体分散液を塗布および乾燥して蛍光体を配置する工程と、
前記LEDチップの発光面に、バインダまたはバインダ前駆体を含む溶液を塗布および乾燥して、蛍光体層を成膜する工程と、
を含む、LED装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−84796(P2013−84796A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223984(P2011−223984)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】