説明

LPG液充填装置

【課題】チャンバのLPG液を冷却器によることなく昇温を防止して、LPG車にスムーズに移充填できる装置を開示する。
【解決手段】バルク貯槽とディスペンサとを結ぶLPG液の液相配管の途中に、前記バルク貯槽から水頭圧または/および自重によって所定量のLPG液を一時的に貯留するチャンバを接続し、別途蒸発器により前記貯留したLPG液の一部を強制気化させて当該気化圧を前記チャンバの気相部分に印加することで前記貯留したLPG液を加圧して前記ディスペンサに液送するように構成したLPG液移充填装置であって、前記チャンバは、直管状の貯留空間を有し、且つ、その長手方向に沿った中心線がLPG液の液面と交差するように前記貯留空間を傾斜してなり、前記貯留空間の下端側にはディスペンサへの液送部を開口する一方、上端側に前記気化圧の印加部を開口した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルク貯槽からLPGを液状のままLPG車に移充填する装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルク貯槽から液状のLPG(「LPG液」という)をLPG車に移充填する装置として、バルク貯槽とディスペンサを結ぶ液相配管の途中に、前記バルク貯槽から1回の移充填に必要な量(例えば、50リットル)のLPG液を受け入れるLPG加温器(チャンバ)を接続し、その一部を別途温水ヒータなどの蒸発手段によって強制気化させ、これを加圧ガスとして前記加温器の気相部分に導入することによってLPG液をディスペンサを介してLPG車に移充填する構成が公知である(特許文献1、2)。
【0003】
また、同じくバルク貯槽とディスペンサの液相配管中に小型容器(チャンバ)を備えた移充填装置であって、バルク貯槽の自然気化した気相部分を加圧ガスとして小型容器の気相部分に導入すると共に、バルク貯槽と小型容器の液相配管中にLPG液を冷却する冷却器を設けた構成も公知である(特許文献3)。
【0004】
これら公知の移充填装置は何れも、液送ポンプを用いないため、高圧ガス保安法上の制約を受けにくく、また加圧ガス用の燃料を別途に必要としないから、装置導入が容易である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−90554号公報
【特許文献2】特開2006−266365号公報
【特許文献3】特開2007−24270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記装置はLPGの気化圧を利用してLPG液を送出するものであるから、当該気化圧(チャンバの内圧)とLPG車の車載タンクの内圧に充分な差がなければLPG液を移送することができない。しかしながら、近年の地球温暖化の影響で車載タンクが高温高圧化する傾向にあるのに対して、装置側は現在の法規上、容器温度等を40℃以下に保持しなければならないため、チャンバと車載タンクの間で充分な差圧を確保しづらくなっている。
【0007】
この点、特許文献1・2の装置によれば、強制気化させた加圧ガスを利用するから、チャンバの内圧を比較的高圧に設定できるが、その反面、当該加圧ガスは蒸発手段によって加温されたものであるため、伝熱によりチャンバのLPG液が法規上の40℃以下であっても常温以上となれば、加圧ガスにより昇温したLPG液によって車載タンクの内圧も高まることになり、移充填がスムーズに行えなくなる事態が予想される。
【0008】
これに対して、特許文献3の装置では、冷却器によってLPG液を冷却するため、常温以上のLPG液を車載タンクに移充填する不都合はないが、冷却器を装備する分だけ装置全体が複雑・高騰化するという課題がある。また、当該装置において加圧ガスは、バルク貯槽における自然気化分を利用するため、当該貯槽内のLPG液残量が減少するにつれて気相部分の容積が大きくなり、加圧ガスの圧力が降下するだけでなく、外気温が低下する冬場などは自然気化量(加圧ガスの発生量)そのものが減少するから、チャンバの内圧を思うように高められず、LPG液の移充填速度が遅いという課題もある。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、チャンバのLPG液の一部を強制気化させ、当該加圧ガスによってLPG液を圧送する構成において、LPG液を冷却器によることなく昇温を抑制して、LPG車にスムーズに移充填できる装置を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、バルク貯槽とディスペンサとを結ぶ液相配管の途中に、前記バルク貯槽から水頭圧または/および自重によって所定量のLPG液を一時的に受け入れる貯留空間を有したチャンバを接続すると共に、前記貯留したLPG液の一部を別途蒸発器によって強制気化させて、当該気化圧(以下、強制気化ガス・気化ガス・加圧ガスともいう)を前記貯留空間の気相部分に印加することで前記チャンバのLPG液を前記ディスペンサに液送可能に構成したLPG液移充填装置であることを前提とする。
【0011】
そして、上記構成において、チャンバは、貯留空間が断面略矩形をなす直管状で、且つ、長手方向に沿った中心線が貯留したLPG液の液面と交差するように前記貯留空間を傾斜してなり、その下端側にディスペンサへの液送部を開口する一方、上端側に前記気化圧の印加部を開口するという手段を用いた。なお、チャンバの貯留空間は、円筒状だけでなく角筒状でもよい。
【0012】
また、チャンバとバルク貯槽の気相部分同士を気相配管で連通可能に接続すると共に、当該気相配管のチャンバ側の管端はLPG液のHiレベル位置で開口するように貯留空間の気相部分に突出するという手段を用いた。当該手段によれば、チャンバのLPG液貯留量がHiレベルに達するまでは、互いの気相部分同士が連通し、バルク貯槽からチャンバに対してLPG液が送液されるのであるが、チャンバ内の液面がHiレベルに達すれば上記送液が停止すると共に、気相配管のチャンバ側管端が当該Hiレベルの液面によって閉塞され、チャンバ内の気相部分が密閉状態となる。従って、チャンバには常に密閉した気相部分が存在するので、チャンバ内がLPG液によって液封状態とならず、Hiレベル時の予期しない過大な昇圧が発生しても気相部分のクッション作用によって吸収される。また、このHiレベルの状態では、チャンバの液相部分とバルク貯槽の気相部分が連通することになるが、何らかの原因でLPG液が気相配管内を上昇しても、チャンバとバルク貯槽の内圧が均衡したときにその上昇は停止する。
【0013】
他方、チャンバの貯留空間は、上端側の底角と下端側の頂角を結ぶ横断面が下端側に向かって下り勾配となるように傾斜するという手段を用いた。当該手段によれば、貯留空間の横断面積が最も大きくなる前記横断面上にLPG液の液面が位置せず、これよりも小さい液面積を維持してLPG液を貯留することができる。
【0014】
チャンバは、同じ液面積で推移する範囲でLo・Hiそれぞれの液面レベルを検出する液面センサを備え、例えば、チャンバにおけるLPG液の導入と液送を前記液面センサの検出信号によって切り替えることができる。
【0015】
また、チャンバは、気相部分または/およびLPG液の温度計を備え、例えば、所定以上の温度を検出した場合は、蒸発器の稼働やディスペンサへの液送を停止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、チャンバの貯留空間の形状が直管状であるので、構成が極めて簡単である。また、貯留空間を傾斜させているため、貯留空間が水平のときと比べてLPG液の液面積が小さいまま推移し、この結果、蒸発器によって強制気化されたガスとの伝熱面積が小さく、且つ一定に保たれるから、LPG液もほとんど昇温せず、常温高圧の状態でLPG液をスムーズに移充填することができる。
【0017】
また、チャンバとバルク貯槽の気相部分同士を気相配管で接続すると共に、当該気相配管のチャンバ側の管端をLPG液のHiレベル位置で開口するように貯留空間の気相部分に突出したものにあっては、チャンバ内のLPG液がHiレベルに達したとき、バルク貯槽からチャンバ内への送液が停止し、チャンバの貯留空間に管端の突出長さ分だけ常に気相部分が確保されるから、液封によるチャンバ破壊等の危険を回避することができる。
【0018】
さらに、貯留空間の傾斜角度を、その横断面が下端側に向かって下り勾配となるように設定したものにあっては、LPG液の液面積が貯留空間の最大横断面積よりも常に小さくなるため、気化ガスからの伝熱を受けにくく、LPG液の昇温防止効果に優れる。また、当該構成では、液面が所定範囲にあるとき液面積が一定となるが、そのLo・Hiの液面レベルを検出するものにあっては、前記一定の液面積でLPG液を推移させることができるから、気化ガスからの過剰な伝熱を防止することができる。
【0019】
さらにまた、チャンバに気相部分または/およびLPG液の温度計を装備したものにあっては、チャンバ内のLPG液が適正な温度となるように蒸発器の加温温度等を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明装置の全体を示した回路図であり、例えばLPG車のオートガススタンドに適用したものである。先ず、全体の基本的な構成を説明すると、図中、1はLPG液を貯蔵するバルク貯槽、2はLPG液をLPG車に充填するディスペンサであって、両者1・2はチャンバ3を介してLPG液の液相配管4a・4bによって接続されている。また、5は温水ヒータ5’等を熱源としてLPG液を強制気化させる蒸発器であって、チャンバ3とは当該チャンバ3からLPG液の一部を導入する液管5aおよび気化ガス(気化圧)をチャンバ3の気相部分に印加するガス管5bによって接続されている。なお、弁13は点検時に使用する弁で、常閉である。
【0021】
バルク貯槽1は、この実施形態の場合、約1tのLPG液を貯蔵するもので、その底部に設けた送出口1aとチャンバ3とを締め切り弁1bおよび液受け入れ自動弁1cを介して一次側の液相配管4aによって接続したものである。このバルク貯槽1は、チャンバ3よりも高位置に設置され、貯蔵したLPG液を水頭圧または/および自重によってチャンバに送液するようにしている。また、バルク貯槽1の気相部分は、チャンバ3の気相部分と均圧用の気相配管6によって接続されている。この気相配管6には、締め切り弁1d及びベーパ戻り自動弁1eが設けられ、これら弁によって互いの気相部分を双方向に連通可能に制御している。
【0022】
一方、ディスペンサ2は、二次側の液相配管4bによってチャンバ3の液相部分と接続され、チャンバ3の内圧が所定以上となった場合に開弁される液送出弁7を介してチャンバ3からLPG液の送液を受ける。なお、前記二次側の液相配管4bおよびその分岐側液相配管4cの液封を防止するために安全弁8等を介して12から大気開放している。
【0023】
また、この実施形態の場合、各弁は手動弁を除き、エアコンプレッサ等の圧力発生装置9の発生圧力によって開閉制御するように構成している。
【0024】
上記装置は、その基本構成を特許文献1・2から踏襲するもので、基本動作も特許文献1・2から変更がないため、当該基本動作の詳細説明を割愛し、次に、本発明の特徴部分であるチャンバ3について詳述する。
【0025】
即ち、本発明は、特許文献1・2の装置の性能向上を図るためにチャンバ3を改良したもので、その具体的手段として、チャンバ3の貯留空間を断面略矩形の直管状に形成し、且つ、当該貯留空間を傾斜させたものである。
【0026】
図2は、チャンバ3の詳細図を示したものであって、内径が均一な直管3aにより本体を構成すると共に、その内部をLPG液および気相部分の貯留空間として、両端を閉塞したもので、さらに、長手方向に沿った中心線Cが内部LPG液の液面Sと交差するように前記直管3aを傾斜して設置したものである。このように傾斜設置されるチャンバ3は、両端が傾斜角度に見合った高低差をもって上下することになり(図示において右肩下がり)、その下端側(図の右側)に二次側の液相配管4bと接続可能なLPG液の液送部3bを設け、上端側に蒸発器5のガス管5bと接続可能な気化圧の印加部3cを設けている。液送部3bの一端はチャンバ3の底側で開口する一方、印加部3cの一端はチャンバ3の上壁側で開口している。また、チャンバ3の下端側には、蒸発器5の液管5aと接続可能なLPG液の供給部3dを設ける一方、上端側にはバルク貯槽1の一次側液相配管4aと接続可能なLPG液の導入部3eおよび均圧用の気相配管6と接続可能なガス連通部3fを設けている。
【0027】
また、10および11はチャンバ3の上下端それぞれで貯留空間に突出して、LPG液のHiレベルおよびLoレベルを検出する液面センサ取付部である。これら液面センサ取付部10・11には、例えばフロート式液面計が取り付けられ、その検出信号によって各弁を制御することができる。
【0028】
この他、チャンバ3に気相部分または/LPG液の温度計(図示なし)を設けることで、当該計測温度に従って各弁を制御することもできる。
【0029】
上述のようにチャンバ3は貯留空間が傾斜しているので、図3に示すように、同形状のチャンバ30を水平に設置した場合と比べて、運転条件下では液面積が小さくなる。従って、気化ガスとの接触面積も小さくなり、LPG液の昇温を有効に防止することができる。特に、図示したように、上端側の底角LCと下端側の頂角TCを結ぶ横断面Dが下端側に向かって下り勾配となるような角度で貯留空間が傾斜する場合、液面が図中のLo・Hiの範囲にあれば液面積が常に一定となる。さらに、LPG液の液面は常に水平に推移するため、チャンバを水平に設置した場合はLoレベルで底が浅くなるが、本発明によればLoレベルでも底に余裕ができるから、ディスペンサ2に対して液面温度が高い表層のLPG液の送液を防ぐことができると共に、二次側液相配管4bにベーパーが混入することを確実に防止できる。
【0030】
なお、貯留空間の傾きが大きくなるにつれて液面積が小さくなり、傾斜角度が90度、即ち前記形状のチャンバ3を垂直に設置(縦置き)した場合に液面積が最も小さくなり、しかも、常に液面積を一定のままLPG液を推移させることができる。しかし、そうすると、バルク貯槽1との落差が縮小してチャンバ3への送液に影響するし、当該落差を十分に確保しようとすれば、バルク貯槽1をより高位置に設置するか、チャンバ3を地中に深く埋入しなくてはならず、その施工に支障を来すことなる。つまり、液温上昇を防止する観点からは貯留空間(チャンバ3)の傾斜角度をより大きくすることが有利であるが、設備導入のしやすさという観点からは傾斜角度をより小さくすることが望ましく、この相反する条件を同時に満足するためには3〜5度の範囲で貯留空間を傾斜させることが好ましい。
【0031】
ところで、チャンバ3のLPG液量は容積の85%程度を上限として、残りの部分に常に気相を確保しておく必要がある。チャンバ3がLPG液によって液封状態となると、比較的小さな昇圧でチャンバ3が破裂する恐れがあるからである。そこで本実施形態では、バルク貯槽1からチャンバ3への1回当たりの送液量を、上述した二つの自動弁1c・1eによって過剰にならないように制御しているのであるが、さらに安全性を高めるために、図2に示したように、バルク貯槽1と気相部分同士を連通する気相配管6と接続可能なガス連通部3fを、その下端(本発明において、気相配管のチャンバ側管端)がLPG液のHiレベル位置で開口するように貯留空間の気相部分に所定長さ突出させている。当該構成によれば、チャンバ3内のLPG液がHiレベルに達すれば、前記ガス連通部3fがLPG液の液面によって閉塞され、この段階で気相部分同士の連通が阻止されて、チャンバ3内に適正な容積の気相部分が確保されることになる。また、このHiレベルの状態で、仮に予期しない過大な液圧がチャンバ内に作用したとしても、気相部分がクッションとなって、チャンバ3が破裂する危険を回避することができる。なお、上記Hiレベルを越えるようなLPG液は、気相配管6にオーバーフローする。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々変更が可能である。例えば、チャンバ3の貯留空間は断面矩形であればよいため、円筒状のみならず角筒状であってもよい。また、貯留空間が直管状であればよいため、このような内形状を有するチャンバ3であればその外形は問わず、同時に傾斜方法も特に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明装置の全体を示した回路図
【図2】チャンバの詳細図
【図3】液面積の推移を示した説明図
【符号の説明】
【0034】
1 バルク貯槽
2 ディスペンサ
3 チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク貯槽とディスペンサとを結ぶLPG液の液相配管の途中に、前記バルク貯槽から水頭圧または/および自重によって所定量のLPG液を一時的に貯留するチャンバを接続し、別途蒸発器により前記貯留したLPG液の一部を強制気化させて当該気化圧を前記チャンバの気相部分に印加することで前記貯留したLPG液を加圧して前記ディスペンサに液送するように構成したLPG液移充填装置であって、前記チャンバは、直管状の貯留空間を有し、且つ、長手方向に沿った中心線がLPG液の液面と交差するように前記貯留空間を傾斜してなり、前記貯留空間の下端側にはディスペンサへの液送部を開口する一方、上端側に前記気化圧の印加部を開口したことを特徴とするLPG液移充填装置。
【請求項2】
チャンバは、貯留空間のLPG液が同じ液面積を維持して推移する範囲でLo・Hiそれぞれの液面レベルを検出する液面センサを備えた請求項1記載のLPG液移充填装置。
【請求項3】
チャンバの貯留空間は、上端側の底角と下端側の頂角を結ぶ横断面が下端側に向かって下り勾配となるように傾斜してなる請求項1または2記載のLPG液移充填装置。
【請求項4】
チャンバとバルク貯槽の気相部分同士を気相配管で連通可能に接続すると共に、当該気相配管のチャンバ側の管端はLPG液のHiレベル位置で開口するように貯留空間の気相部分に突出してなる請求項1、2または3記載のLPG液移充填装置。
【請求項5】
チャンバは、気相部分または/およびLPG液の温度計を備えた請求項1〜4のうち何れか一項記載のLPG液移充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−270677(P2009−270677A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123663(P2008−123663)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000146962)カグラベーパーテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】