説明

MCrAlX層およびクロムリッチ層を含む層状コーティングシステムならびにその製造方法

本発明は、MCrX層およびMCrX層上のクロムリッチ層を含む層システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化および高温腐食に極めて耐性のある、MCrAlX層およびクロムリッチ層を含む層状システム、ならびに、このようなシステムの製造方法に関する。好適には、アルミナイド層が形成される。
【背景技術】
【0002】
EP0587341には、高温腐食耐性複合コーティングが開示されており、この処理には以下のステップが含まれている。
−MCrAlY型の合金コート材料を形成。
−任意選択的に、MCrAlY型コーティングをクロム化して、固体溶液中で、コーティングのM成分中に過剰なクロムを有するクロム化上層を形成。
−コーティングをアルミニウム化して、コーティングのM成分中にアルミナイドを含む表面層を有するコーティングを形成。
−アルミニウム化されたコーティングの表面上に白金層を蒸着。
【0003】
EP1327702には、β−NiAlの内側層およびγ/β−MCrAlYおよびTBCの外側層から構成されるMCrAlYコーティングシステムが開示されている。当該文献には、0.1乃至4%Siの付加によりこれらの層のコーティングに関して酸化耐性が改善されることが記載されている。このコーティングは気相法、CVD、PVD等を用いて蒸着される。
【0004】
US2005/0003227には、US’227におけるものと同様のシステムが開示されているが、これには白金型金属の中間層も含まれている。当該文献には、0.1乃至4%Siの付加によりこれらの層のコーティングに関して酸化耐性が改善されることが記載されている。
【0005】
EP1029100/US6416882には、2%以下のシリコンを含むMCrAlY型の接着コートが開示されている。
【0006】
また、アルミナイドおよび/またはクロム改質コーティングシステムが、US7,229,701、US6,183,888、US7,060,366、US6,287,644、EP1082216、US6,001,492、US5,507,623、EP1541808、US6,569,492に記載されている。
【0007】
EP0587341には、高温腐食耐性複合コーティングが記載されており、この処理には以下のステップが含まれている。
−MCrAlY型の合金コーティング材料を形成。
−任意選択的に、MCrAlY型コーティングをクロム化して、固体溶液中で、コーティングのM成分中に過剰なクロムを含むクロム化上層を含むコーティングを形成。
−コーティングをアルミニウム処理して、コーティングのM成分のアルミナイドを含む表面層を有するコーティングを形成。
−アルミニウム化されたコーティングの表面上に白金層を蒸着。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらのコーティングは未だ十分なものではない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、この問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題は、請求項1に係る層システムおよび請求項27に係るその製造方法により解決される。
【0011】
従属請求項において、さらに有利な実施形態が挙げられ、さらなる利点を得るために任意に組み合わせ可能である。
【0012】
本発明の背後にあるコンセプトは、所定の温度基準および環境基準において基体を保護するのに適した、異なるコーティング化合物に基づいている。たとえば、高温酸化の際に、外側のβ−NiAl層が、高温と系の酸素とに反応して強靱な薄いアルミナ層を形成することによって保護するが、この反応は、産業上見られ文献に十分記載されている同様のβ−NiAlコーティングに典型的なものである。約750℃乃至800℃、約950℃以下の温度で、広範囲の前面の攻撃により、保護されていないCrまたはAlの基質材料が消失する可能性がある。また、β−NiAlコーティングを形成するアルミナによって、I型腐食に対しては保護される。しかし、II型腐食に関しては、局所的なピッティング型腐食がより起こりやすい。SOおよびSOと化合した気流中の溶融塩がタービンの構成部品上で縮合し、表面に小さいピットが生じる。このような攻撃に対する最良の防御は、Crリッチなコーティングシステムを導入することである。本発明の重要な態様は、Crリッチ層が連続的(continuous)であり、最大限熱的に安定であるものであり、これにより、構成部品がβ−NiAlが消費されるII型腐食環境で動作する場合でも、腐食による損耗が外側のβ−NiAl層に限られ、連続するα−Cr層によって適切に保護され、SiやHf(これらに限定されない)などのコーティング腐食保護に元素が付加されてもよい。歪み適応型(strain compliant)基層がMCrAlYコーティングの形態で加えられ、これは、β−NiAlおよびα−Crが折衷される場合、ある程度の歪みコンプライアンス(strain compliance)ならびに保護の最後の層を提供する。設計により、層状コーティング構造によって、基本的に環境に応じて、保護に最適なコーティング組成物が「選択」されるようにすることができる。このコンセプトは、図3に明確に示されている。Siまたは他の有益な元素の導入は、α−Cr層の予想される寿命を向上可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】層システムの実施例を示す。
【図2】層システムの実施例を示す。
【図3】層システムの実施例を示す。
【図4】層システムの実施例を示す。
【図5】層システムの実施例を示す。
【図6】ガスタービンを示す。
【図7】ブレードを示す。
【図8】燃焼チャンバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面および詳細な説明は、本発明の実施形態にすぎない。
【0015】
図1は、本発明の層システムとしての一実施例にかかる構成要素を示す。
【0016】
構成要素1は金属基体4を有する。金属基体4は、好適には、熱耐性のキャストまたは鋳造ニッケルまたはコバルト合金、好適にはハステロイ(登録商標)Xから構成される。
【0017】
好適には、図4(a.)中の基体4上に、内側または最下層MCrX層7が形成され、有利にはただ1つのMCrX層7が形成される(図4(b.))。式中、Xはイットリウム(Y)、シリコン(Si)、ホウ素(B)およびアルミニウム(Al)の少なくともいずれか1つである。内側MCrX層7はMCrAlX’から構成され、X’は少なくともイットリウム(Y)から構成され、好適にはイットリウム(Y)のみである。内側MCrAlX’層7は有利にはNiCrAlY層から構成され、さらに有利にはat%でNi、22%Cr、10%Al、1.0%Yから構成され、有利にはAmdry962からなる。内側MCrX層7は好適にはHVOFにより形成される。また、内側MCrX層7は好適には基体4の上に直接設けられる。
【0018】
図4(c.)中、この内側MCrX層7の上または中に、クロムリッチ層10、有利にはα−Cr層が形成される。クロム化は好適には1000℃乃至1150℃で1乃至6時間、特に好適には1050℃乃至1075℃で2乃至4時間行われる。クロム化処理により、内側層7上に少なくとも部分的に拡散層が形成される(したがって、図4cの参照番号7は内側層7の厚さを示すか、または、拡散層が存在するが1つの組成物としては存在しないことを示す)。クロムリッチ層は好適には拡散層である。
【0019】
この層システム1は、好適には熱処理され、重畳されたCr層は内側のMCrAlX’層7中に拡散される。
【0020】
好適には、α−クロム層10上にはさらに、ニッケルベース層である第1の外側MCrX’’層13が形成され、これは好適には最も外側の層である(図4(d.))。このMCrX’’層のX’’は好適にはシリコン(Si)およびホウ素(B)である。さらに、第1の外側MCrX’’層13はシリコンおよびホウ素の少なくともいずれか1つを含むニッケルクロム合金Ni−Cr−Si−Bであってよい。この第1の外側MCrX’’層13は内側層7とは異なる組成を有し、特に有利にはNiCrSiB層(at%で74%Ni、17%Cr、9.2%Y、9%Si、0.1%BからなるAmdry103)である。
【0021】
好適にはHVOFにより行われるMCrX’’(NiCrSiB)層の形成後、安定化熱処理が好適には行われる。この安定化熱処理は、好適には1000℃乃至1200℃で好適には1乃至6時間、好適には1000℃乃至1025℃で6時間行われる。
【0022】
好適には、第2の外側層19が第1の外側層13の上または中に設けられる。第2の外側層19は、図3に示されるように、アルミニウムリッチ層である。好適には、外側層19は拡散層である。
【0023】
第1の外側MCrX’’層13はアルミニウム化されて、第2の外側層19(図4(e.))が形成されてもよい。アルミニウム化処理は、好適には1050℃乃至1115℃で好適には1乃至10時間、好適には1070℃乃至1095℃で7時間行われる。好適には、1000℃乃至1150℃で6時間、好適には1080℃で2時間、特に好適には真空下で、最終的なアニール処理が行われる。
【0024】
図2に本発明の別の実施形態を示す。構成要素1は金属基体4を有する。金属基体4は好適には熱耐性のキャストまたは鋳造ニッケルまたはコバルト合金から構成される。図2中、この基体は、好適には、市販の鋳造ニッケル合金"ハステロイ(登録商標)X"であり、これは47%Ni、22Cr、18.5Fe、9Mo、1.5Co、1Si、1Mn、0.1Cを名目上含有している。
【0025】
好適には、基質4(図5(a.))上に、第1の内側MCrX層7が形成され(図5(b.))、有利にはただ2つのMCrX’層7’、16が形成される。式中、X’は少なくともイットリウム(Y)であり、好適にはイットリウム(Y)のみからなる。この第1の内側MCrAlX’層7’は、有利にはNiCrAlY層から構成され、さらに有利にはat%で67%Ni、22%Cr、10%Al、1.0%Yから構成され、有利にはAmdry962からなる。第1の内側MCrAlX’層7’は、好適にはHVOFにより形成される。
【0026】
第2の内側層16は、第1の内側MCrAlX’層7’上に形成される(図5(c.))。この層16は有利にはMCrX’’層(X’’はSiおよびBの少なくともいずれか1つ)である。この付加的な層16は、第1の内側層7’とは異なる組成を有し、さらに有利にはNiCrSiB層(at%で74Ni、17Cr、9.2Si、0.1BのAmdry103)である。第2の内側層16は、好適にはHVOFにより形成される。
【0027】
この第2の内側層16の上または中に、クロムリッチ層10、特にα−Cr層が形成され(図5(d.))、したがって、図5(d.)の参照番号16は、内側層16の厚みを表すか、または、拡散層が存在するが1つの組成物としては存在しないことを示す。クロム化は、好適には1000℃乃至1150℃で好適には1乃至6時間、好適には1050℃乃至1075℃で2乃至4時間行われる。
【0028】
クロム化処理により、好適には第1の内側層7’上に拡散層が形成される。この層システム1は、好適には熱処理され、上に存在するα−Crは内側のMCrAlX’層7’中に拡散される。
【0029】
クロムリッチ層10上に、アルミナイド層22が形成される(図5(e.))。これは好適にはクロムリッチ層10のNiメッキおよびこのメッキNi層のアルミニウム化により行われる。Niメッキは好適には10μm乃至20μmの厚さである。好適には、Niメッキ後に熱アニール処理が好適には1121℃で好適には2時間行われる。このアニール処理は、好適には真空下で行われる。
【0030】
以降のアルミニウム化は好適には1080℃で7時間行われる。アルミニウム化の後、最終的な熱アニール処理が、好適には1080℃で2時間行われる。このアニール処理は好適には真空下で行われる。
【0031】
一般的留意点:クロム化またはアルミニウム化により、図4、5に示されているように拡散層が形成されるか、または、図1、2または3に示されているように重畳層として形成される。しかし、これに限定されるものではない。両方の特徴が存在しても良い。
【0032】
別の好適な実施例を以下に示す:
ベースコート:HVOFまたはプラズマによりスプレーされたMCrAlY(VPSやLPPSなどの他の方法によりスプレーされてもよい)。
Crリッチ層:CVDまたは上記のクロム化方法により形成。その後のアニール処理において安定なCr層とするには、4時間のクロム化サイクルが必要であることがわかった。
Ni:10μm乃至20μmのNiメッキ。
アルミニウム化:CVDまたは上記のアルミニウム化方法により形成。基体材料の機械的性質を回復するには最終的なアニールが必要である。
【0033】
別の例では、以下の構成を用いてコーティングシステムを形成する。この方法では、Siがコーティングに導入される。
ベースコート:HVOFまたはプラズマによりスプレーされたMCrAlY(VPSやLPPSなどの他の方法によりスプレーされてもよい)。
Crリッチ層:MCrAlYについてCVDまたは上記方法により4時間かけて過剰にクロム化した。その後、NiCrSiB(Amdry103粉末または同様の化合物粉末)をHVOFまたはプラズマ法を用いて形成してもよい(VPSやLPPSなどの他の方法によりスプレーされてもよい)。
アルミニウム化:CVDまたは上記のアルミニウム化方法により形成。基体材料の機械的性質を回復するには最終的なアニールが必要である。
【0034】
図6に、ガスタービン100の長手方向断面図を例示する。ガスタービン100は、その内部にタービンロータとして知られているロータ103を備える。ガスタービン103は回転軸102に周りを回転可能に設けられ、シャフトを有する。取り込みケーシング104、(たとえばドーナツ状の)コンプレッサ105、複数の同軸に配置されたバーナー107を備える燃焼チャンバ110(有利には冠状の燃焼チャンバ)、タービン108および排出ケーシング109がロータ103に沿って連続して設けられている。冠状の燃焼チャンバ110がたとえば冠状の高温ガスダクト111に接続されており、ここでたとえば4つの連続したタービンステージ112がタービン108を形成している。
【0035】
各タービンステージ112は、たとえば、2つのブレードとベーンリングから形成されている。作動媒体113の流れる方向から見ると、ロータブレード120から形成される列125が、高温ガスダクト111中のガイドベーンの列115に続いている。
【0036】
ガイドベーン130は、ステータ143の内側ケーシング138に固定されており、列125のロータブレード120は、たとえばタービンディスク133によりロータ103に取り付けられている。発電機または機械(図示せず)がロータ103に接続されている。
【0037】
ガスタービン100の動作中、コンプレッサ105は取り込みケーシング104を介して空気135を吸引し、圧縮する。コンプレッサ105のタービン側端部で供給される圧縮空気は、バーナー107に通され、燃料と混合される。混合物は燃焼チャンバ110内で燃焼されて作動媒体113を形成する。そこから、作動媒体113は、ガイドベーン130およびローダブレード120を通された高温ガスダクト111に沿って流れる。作動媒体113はロータブレード120のところで膨張し、その運動量が移され、ロータブレード120がロータ103を駆動し、ロータはこれに結合された機械を駆動する。
【0038】
ガスタービン100の動作中、高温の作動媒体113に曝される構成部品は熱負荷を受ける。第1のタービンステージ112のガイドベーン130およびロータブレード120は、作動媒体113の流れる方向から見て、環状の燃焼チャンバ110を裏打ちする熱シールド部材とともに、最大の熱負荷を受ける。そこでの温度に耐えるため、これらの構成部品はたとえば冷却剤によって冷却される。
【0039】
構成部品の基質を方向性構造、すなわち、単結晶形態(SX構造)または長手方向のみに方向性を有する粒子を含む構造(DS構造)とすることも可能である。たとえば、鉄系、ニッケル系またはコバルト系の超合金が、構成部品、特にタービンのブレード120とベーン130、および、燃焼チャンバ110の構成部品の材料として用いられる。この種の超合金は、たとえば、EP1204776B1、EP1306454、EP1319729A1、WO99/67435またはWO00/44949に開示されている。これらの文献は合金の化学組成物に関する本願の開示の一部を構成するものである。
【0040】
ブレード120およびベーン130は、同様に、腐食から保護するためのコーティングを有してもよい(MCrAlX;Mは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)、シリコン(Si)およびレアアース元素の少なくともいずれか1つまたはハフニウムである)。この種の合金はEP0486489B1、EP0786017B1、EP0412397B1またはEP1306454に開示されており、化学組成物に関して本願の開示の一部を構成するものである。
【0041】
たとえばZrO、Y−ZrOからなる、すなわち、酸化イットリウム、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムの少なくともいずれか1つにより安定化されない、部分的にまたは完全に安定化された、熱バリアコーティングをMCrAlX上に設けても良い。柱状粒子が適切なコーティング処理によって、たとえば、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD)によって熱バリアコーティングとして形成される。
【0042】
ガイドベーン130は、タービン108の内側ケーシング138に面するガイドベーンルート(図示せず)と、ガイドベーンルートの反対側のガイドベーンヘッドとを備える。ガイドベーンヘッドは、ロータ103に面し、ステータ143の固定リング140に固定されている。
【0043】
図7は、長手方向軸121に沿って延在する、ターボ機械のロータブレード120またはガイドベーン130の透視図を示す。
【0044】
ターボ機械は航空機または発電プラントのガスタービン、蒸気タービンまたはコンプレッサであってよい。
【0045】
ブレード120またはベーン130は、固定領域400、結合ブレードまたはベーンプラットフォーム403、および、主ブレードまたは主部分406を、長手方向軸121に沿って連続して備える。ガイドベーンとして、ベーン130はさらにベーン先端415にさらにプラットフォーム(図示せず)を備えても良い。
【0046】
ロータブレード120、130をシャフトまたはディスク(図示せず)に固定するために用いられるブレードまたはベーンルート183は、固定領域400に形成される。ブレードまたはベーンルート183は、たとえば、ハンマーヘッド形状に設計されている。モミの木またはダブテールルートなどの他の構成であってもよい。ブレード120またはベーン130は、主ブレードまたはベーン部分406を過ぎて流れる媒体のための先端409および後端412を備える。
【0047】
従来のブレード120またはベーン130の場合、例として、個体金属材料、特に超合金がブレード120またはベーン130の全ての領域400、403、406に用いられる。この種の超合金は、たとえば、EP1204776B1、EP1306454、EP1319729A1、WO99/67435またはWO00/44949に開示されている。これらの文献は、合金の化学組成に関する本願の開示の一部を構成するものである。ブレード120またはベーン130は、この場合、キャスト処理、指向性固体化、鋳造処理により、フライス処理またはこれらの組み合わせにより製造可能である。
【0048】
単結晶構造を有するワークピースが、動作時に高い機械的、熱的および/または化学的負荷に曝される機械の構成部品として用いられる。この種の単結晶ワークピースは、たとえば、溶融物からの方向性凝固により製造される。これにはキャスト処理が含まれ、キャスト処理では、液状金属合金を凝固させて単結晶構造すなわちワークピースをすなわち方向性を有して形成する。この処理では、熱フラックスの方向に樹状結晶が形成され、柱状結晶粒子構造(すなわちワークピースの全長にわたって粒子を有し、この文脈において、標準的な用語に従って、方向性凝固したと言われる構造)、または、単結晶構造(すなわちワークピース全体が単結晶からなる構造)のいずれかを形成する。非方向性成長の場合、不可避的に方向性凝固された粒界または単結晶の構成部品の良い性質を打ち消す横方向および長手方向の粒界となるため、この処理では球状の(多結晶)凝固への遷移は避けるべきである。方向性凝固した微細構造について一般的に述べる場合、粒界を有しないまたはあっても小さい角度の粒界しか有しない単結晶と、長手方向に延在する粒界を有するが横方向には粒界を有しない柱状結晶構造との両方を意図するものと理解されるべきである。後者の結晶構造の場合、方向性凝固した微細構造を意図する場合もある(方向性凝固構造)。この種の処理は、US6,024,792およびEP0892090A1に開示されている。これらの文献は、本願の開示の一部を構成する。
【0049】
ブレード120またはベーン130は、腐食または酸化に対して保護するコーティング、たとえば、MCrAlX(Mは鉄(Fe),コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくともいずれか1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)、シリコンおよびレアアースの少なくともいずれか1つまたはハフニウム(Hf)である)を有しても良い。この種の合金は、EP0486489B1、EP0786017B1、EP0412397B1またはEP1306454A1に開示されており、これらは合金の化学組成に関する本願の開示の一部を構成するものと意図される。
【0050】
たとえば、ZrO、Y−ZrOからなる、すなわち、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムの少なくともいずれか1つによって安定化されない、または部分的または完全に安定化される、熱バリアコーティングが、MCrAlX上の設けられていてもよい。柱状の粒子が、電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)等の適切なコーティング処理によって熱バリアコーティングとして形成される。
【0051】
再生(refurbishment)との語は、保護層を、その使用後に構成部品120、130から(例えばサンドブラストにより)除去しなければならない場合があることを意味する。その後、腐食および/または酸化の層または生成物が除去される。必要な場合、構成部品120、130のクラックも本発明に従って半田を用いて補修される。この後、構成部品120、130の再コーティングが行われ、構成部品120、130は再度使用可能となる。
【0052】
ブレード120またはベーン130は、中実または中空であってよい。ブレード120またはベーン130の冷却が必要な場合、ブレード120またはベーン130は中空であり、膜冷却ホール418(破線にて示す)を有しても良い。
【0053】
図8は、ガスタービン100(図6)の燃焼チャンバ110を示す。
【0054】
燃焼チャンバ110は、例えば、環状の燃焼チャンバとして知られているものとして構成されており、これにおいては、円周方向に回転軸102の周囲に配置された複数のバーナー107が共通燃焼チャンバ空間154の内部に開かれ、バーナー107が炎156を生じる。このため、燃焼チャンバ110全体は、回転軸102の周囲に配置された環状の構成を有する。
【0055】
比較的高い効率を実現するため、燃焼チャンバ110は、約1000℃乃至1600℃という比較的高い温度の作動媒体Mのために設計されている。材料にとって好ましくない、これらの動作パラメタにおいてさえ比較的長い動作時間を実現するため、燃焼チャンバ壁153には作動媒体Mに面する側に、熱シールド部材155から形成される内側ライニングが設けられている。合金から形成される各熱シールド部材155は、作動媒体側に特別な熱耐性保護層(MCrAlX層およびセラミックコーティングの少なくともいずれか1つ)を備えるか、または、高温に耐えうる材料(固体セラミックレンガ)から形成されている。これらの保護層は、タービンブレードまたはベーンと同様に、例えば、MCrAlX(Mは鉄(Fe),コバルト(Co)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、Xは活性元素であり、イットリウム(Y)、シリコンおよびレアアースの少なくともいずれか1つまたはハフニウム(Hf)である)を意味してもよい。この種の合金は、EP0486489B1、EP0786017B1、EP0412397B1またはEP1306454A1に開示されており、これらは合金の化学組成に関する本願の開示の一部を構成するものと意図される。
【0056】
たとえば、ZrO、Y−ZrOからなる、すなわち、酸化イットリウム、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムの少なくともいずれか1つによって安定化されない、または部分的または完全に安定化される熱バリアコーティングが、MCrAlX上の設けられていてもよい。
【0057】
柱状粒子が、電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)等の適切なコーティング処理によって熱バリアコーティングに形成される。
【0058】
再生との語は、保護層を、その使用後に(例えばサンドブラストにより)熱シールド部材155から除去しなければならない場合があることを意味する。その後、腐食および/または酸化の層または生成物が除去される。必要な場合、熱シールド部材155のクラックも本発明に従って半田を用いて補修される。この後、熱シールド部材155の再コーティングが行われ、熱シールド部材155は再度使用可能となる。
【0059】
さらに、燃焼チャンバ110内部の高温を考慮して、冷却部材に、熱シールド部材155および/またはその保持部材を設けてもよい。熱シールド部材155は、この場合、例えば、中空であってよく、燃焼チャンバ空間154内に開かれる膜冷却ホール(図示せず)を有してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 層システム、 4 基体、 7、7’ MCrX層、10 クロムリッチ層、 13 第1の外側MCrX’’層、 19 第2の外側層、 22 アルミナイド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(4)と、
Xは、イットリウム(Y)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)およびホウ素(B)の少なくともいずれか1つであり、Mは、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)の少なくともいずれか1つであり、前記基体(4)上に設けられた少なくとも1つのMCrX層(7、7’、16)であって、有利には前記基体(4)上に直接設けられた最下層(7、7’)としてのMCrX層(7、7’)と、
前記少なくとも1つのMCrX層(7、16)の上または前記少なくとも1つのMCrX層(7、16)の中に設けられたクロムリッチ層(10)と、
を備える、ことを特徴とする層システム。
【請求項2】
ただ1つの最下層のMCrX層(7)が前記基体(4)の上かつ前記クロムリッチ層(10)の下に設けられている、請求項1記載の層システム。
【請求項3】
ただ2つのMCrX層(7’、16)が前記基体(4)の上かつ前記クロムリッチ層(10)の下に設けられている、請求項1記載の層システム。
【請求項4】
前記最下層のMCrX層(7)はMCrAlX’層であり、X’は少なくともイットリウム(Y)であり、有利にはX’はYである、請求項2記載の層システム。
【請求項5】
第1の内側層(7’)はMCrAlX’層であり、X’は少なくともイットリウム(Y)であり、有利にはX’はYである、請求項3記載の層システム。
【請求項6】
第2の内側層(16)はMCrX’’層であり、X’’はシリコン(Si)およびホウ素(B)の少なくともいずれか1つ、有利にはX’’はSiおよびBである、請求項3または5記載の層システム。
【請求項7】
前記内側MCrAlX’層(7)または前記第1の内側MCrAlX’層(7’)は、NiCrAlY合金から構成され、有利にはNiCrAlY合金からなる、請求項4または5記載の層システム。
【請求項8】
前記内側NiCrAlY層(7)または前記第1の内側NiCrAlY層(7’)は、at%で、Ni、22%Cr、10%Al、1.0%Yから構成され、有利にはAmdry962からなる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのMCrX層(7、16)上の前記クロムリッチ層(10)は、α−クロム層から構成され、有利にはα−クロム層からなる、請求項1乃至8のいずれか1項記載の層システム。
【請求項10】
前記クロムリッチ層(10)は、前記最下層のMCrAlX’層(7)および前記MCrAlX’層(7)内の拡散層の少なくともいずれか1つであり、有利には前記クロムリッチ層(10)は拡散層のみである、請求項1、2、4、7乃至9のいずれか1項記載の層システム。
【請求項11】
前記クロムリッチ層(10)は、前記第2の内側層(16)および前記MCrX’’層(16)内の拡散層の少なくともいずれか1つの上に設けられ、有利には前記クロムリッチ層(10)は拡散層のみである、請求項1、3、6または9項記載の層システム。
【請求項12】
第1の外側MCrX’’層(13)は、前記クロムリッチ層(10)上に設けられ、X’’はY、SiおよびBの少なくともいずれか1つであり、有利にはX’’はY、SiおよびBの少なくともいずれか1つである、請求項1、2、9または10記載の層システム。
【請求項13】
前記第2の内側層(16)または前記第1の外側MCrX’’層(13)は、at%でNi、17%Cr、9.2%Si、0.1%Bから構成されるNiCrSiB層から構成され、有利にはNiCrSiBからなり、さらに有利にはAmdry103からなる、請求項6または12記載の層システム。
【請求項14】
第2の外側層(19)は、最も外側の層である前記第1の外側MCrX’’層(13)の上、または、最も外側の層である前記第1の外側MCrX’’層(13)の中に設けられている、請求項12または13記載の層システム。
【請求項15】
前記第2の外側層(19)アルミニウムリッチ層であり、有利にはアルミニウム層であり、さらに有利にはβ−NiAl構造から構成される、請求項14記載の層システム。
【請求項16】
前記第2の外側層(19)は、アルミニウム化された前記第1の外側MCrX’’(13)層の一部である、請求項12乃至15のいずれか1項記載の層システム。
【請求項17】
外側の層(22)が、有利には前記クロムリッチ層(10)上のアルミニウム化Niメッキ層により、前記クロムリッチ層(10)上、有利にはアルミナイド層(22)上、さらに有利にはNiAl層(22)上に形成され、有利にはNi層は厚さ10μm乃至20μmである、請求項1、3、9、11乃至13のいずれか1項記載の層システム。
【請求項18】
X’はYのみである、請求項4または5記載の層システム。
【請求項19】
X’’はSiおよびBのみである、請求項6または12記載の層システム。
【請求項20】
基体(4)と、
1つまたは2つのMCrX層(7、7’、16)と、
クロムリッチ層(10)と、
外側アルミニウムリッチ層(19、22)と、
から構成される、請求項1乃至19の少なくとも1項記載の層システム。
【請求項21】
基体(4)と、
内側MCrX層(7)と、
クロムリッチ層(10)と、
第1の外側MCrX’’層(13)と、
第2の外側層(19)と、
からなる、請求項1乃至20の少なくとも1項記載の層システム。
【請求項22】
基体(4)と、
第1の内側層(7’)と、
第2の内側層(16)と、
クロムリッチ層(10)と、
外側層(22)と、
からなる、請求項1乃至20のいずれか1項記載の層システム。
【請求項23】
最初の使用の前に熱処理される、請求項1乃至22のいずれか1項記載の層システム。
【請求項24】
前記基体(4)は、ハステロイ(登録商標)Xから構成され、有利にはハステロイ(登録商標)Xからなる、請求項1、20、21または22記載の層システム。
【請求項25】
MはNiのみである、請求項1乃至7、9乃至15、18、20乃至22のいずれか1項記載の層システム。
【請求項26】
XはY、SiまたはBのいずれかのみである、請求項1記載の層システム。
【請求項27】
Xはイットリウム(Y)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)およびホウ素(B)の少なくともいずれか1つであり、Mはニッケル(Ni)およびコバルト(Co)の少なくともいずれか1つであり、基体(4)上に、有利にはHVOFにより少なくとも1層のMCrX層(7、7’、16)が形成され、
クロムリッチ層(10)が形成され、有利にはα−クロム層(10)が形成される、
有利には請求項1乃至26のいずれか1項記載の構成要素(1)の製造方法。
【請求項28】
ただ1つのMCrX層(7)が、好適にはHVOFにより前記基体(4)上に形成される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
ただ2つのMCrX層(7’、16)が、好適にはHVOFにより前記基体(4)上に形成される、請求項27記載の方法。
【請求項30】
第2の内側層(16)はMCrX’’層であり、有利にはHVOFにより第1の内側層(7’)上に形成され、X’’はシリコン(Si)およびホウ素(B)の少なくともいずれか1つであり、有利にはX’’はシリコン(Si)およびホウ素(B)である、
請求項29記載の方法。
【請求項31】
好適には1010℃で、好適には6時間、安定化熱処理が行われる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記クロムリッチ層(10)は、有利には1050℃乃至1080℃の温度、さらに有利には1065℃、有利には2乃至4時間のクロム化処理によって形成される、請求項27乃至31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記クロムリッチ層(10)はCVDにより形成される、請求項27または32記載の方法。
【請求項34】
前記クロム化は、有利には4回繰り返される、請求項27、32または33記載の方法。
【請求項35】
第1の外側層(13)はMCrX’’層であり、有利にはHVOFにより、前記クロムリッチ層(10)上に形成され、X’’はシリコン(Si)および/またはホウ素(B)であり、有利にはX’’はシリコン(Si)およびホウ素(B)である、請求項27、32、33または34記載の方法。
【請求項36】
好適には1010℃で、好適には6時間、安定化熱処理が行われる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
外側アルミリッチ層(19)が、有利にはアルミニウム化により形成される、請求項35または36記載の方法。
【請求項38】
外側アルミリッチ層(19、22)が形成される、請求項27、32、33または34記載の方法。
【請求項39】
前記外側アルミリッチ層(22)はNi−Al−層(2)、有利にはアルミナイド層(22)であり、ニッケルメッキと引き続くアルミニウム化により形成される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記アルミニウム化は蒸着、有利にはCVDにより行われる、請求項37、38または39記載の方法。
【請求項41】
前記アルミニウム化は、1080℃で、有利には7時間行われる、請求項37乃至40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
安定化熱処理が、ニッケル(Ni)メッキの後に、好適には1120℃、好適には2時間、さらに好適には真空下で行われる、請求項39記載の方法。
【請求項43】
前記層システムは、アルミニウム化の後、有利には真空下で、さらに有利には1080℃で2時間行われる、請求項37乃至42のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−528249(P2012−528249A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513019(P2012−513019)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/003204
【国際公開番号】WO2010/138096
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】