MN/CA9スプライス変異体
MN/CA9 mRNAの選択的にスプライスされた[AS]変異体およびその関連タンパク質であるASのMN/CA IXについて、本明細書に開示する。大抵の組織において腫瘍形成および/または低酸素状態の前兆となる、腫瘍に関連した、完全長[FL]MN/CA9 mRNAおよびFLのMN/CA IXとは異なり、ASのMN/CA9 mRNAは、酸素正常状態で構成的に発現されるが、低酸素状態では刺激されず、ASのMN/CA IXは細胞膜に限定されない。ASとFLの各MN/CA9発現を識別することを目的として、前新生物疾患/新生物疾患の診断/予後診断方法、ならびにこれらの方法に有用なプローブ、プライマー、および抗体を、本明細書に提供する。MN遺伝子およびタンパク質を含む前新生物疾患/新生物疾患の治療方法についても開示するが、この方法は、FLのMNタンパク質(FL MN/CA IX)の触媒活性を阻害する、ASのMNタンパク質(AS MN/CA IX)の能力に基づくものであり、これらの方法には、その阻害能力を有するASのMNタンパク質断片を使用してもよい。これらの方法は、FLのMN/CA IXのレベルと比較してASのMN/CA IXのレベルを増加させる工程を有していて差し支えない。典型的な治療法としては、ASのMN/CA IX自体、ASのMN/CA9 mRNAを発現するベクター、FLのMN/CA IXの発現を遮断するが、ASのMN/CA IXは遮断しないアンチセンスオリゴヌクレオチド、これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するベクター、FLのMN/CA9イソ型に特異的なsiRNA、またはこれらFLのMN/CA9イソ型に特異的なsiRNAを発現するベクターなどの薬剤の投与が挙げられる。さらには、ASのMN/CA IXのレベルを調節可能な薬剤の同定方法についても開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般領域におけるものであり、生化学的工学、免疫化学および腫瘍学の分野におけるものである。さらに詳細には、本発明は、MN遺伝子すなわち、MN/CA9、CA9、または炭酸脱水酵素9としても知られる発癌遺伝子と考えられている細胞遺伝子に関するものであり、その遺伝子は、現在、MNタンパク質、MN/CA IXイソ酵素、MN/CA IX、炭酸脱水酵素IX、CA IXまたはMN/G250タンパク質としても知られている腫瘍性タンパク質をコードしている。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、選択的にスプライスされた[AS]型のMN/CA9 mRNA、およびそれを検出するためのプローブ/プライマーに関する。ASのMN/CA9 mRNAは、主として正常細胞および酸素正常状態下で発現し、完全長[FL]のMN/CA9 mRNAの発現を測定するアッセイ、特にRT−PCRアッセイを阻害する可能性がある。本発明はまた、AS型のMN/CA IX、および、それを単独で、またはFL型のMN/CA9 mRNAと組み合わせて、検出、あるいは検出および定量化するためのアッセイを用いる診断/予後診断法に関する。さらに本発明は、FLのMN/CA IXタンパク質を標的とする手段として、MN/CA9の選択的スプライシングを活用する治療方法に関する。本発明の焦点であるAS型のMN/CA9/CA IXの種類は、脊椎動物であって差し支えなく、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがさらに好ましい。
【背景技術】
【0003】
上述の通り、MN遺伝子およびタンパク質は、多くの別名が知られており、それらの名称は、本明細書において同義的に使用される。MNタンパク質は、亜鉛に結合することが判明しており、炭酸脱水酵素(CA)活性を有し、現在、9番目の炭酸脱水酵素イソ酵素−MN/CA IXまたはCA IXであると考えられている[非特許文献1]。炭酸脱水酵素の命名法に従って、ヒトCAイソ酵素は、大文字のローマ字と数字で記され、一方、それらの遺伝子は、イタリック文字とアラビア数字で記される。あるいは、本明細書では、「MN」は、文脈に示されるように、炭酸脱水酵素イソ酵素IX(CA IX)タンパク質/ポリペプチド、または炭酸脱水酵素イソ酵素9(CA9)の遺伝子、核酸、cDNA、mRNAなどを称するのに使用される。
【0004】
MNタンパク質はまた、G250抗原であることが確認されている。非特許文献2には、「配列分析およびデータベース検索により、G250抗原は、MN、すなわち、子宮頚部癌に確認されたヒト腫瘍関連抗原と同一であることが明らかとなった(パストレク(Pastorek)ら、1994年)」ことが記載されている。
【0005】
CA IXは、非特許文献3により最初に記載されたM75モノクローナル抗体を用いてザバダ,J(Zavada,J.)、パストレコバ,S.(Pastorekova,S.)およびパストレク,J.(Pastorek,J.)[「ザバダ(Zavada)ら」、例えば、特許文献1を参照]により同定された癌関連炭酸脱水酵素である。その抗体は、CA IXをコードするcDNAのクローニング[非特許文献4]、腫瘍および正常組織におけるCA IX発現の評価[非特許文献5、および他の多くの引用文献]、細胞密度によるCA IX調節試験[非特許文献6、非特許文献7]、ならびに低酸素症によるCA IX誘導の実証[非特許文献8、および他の多くの引用文献]に使用された。このような試験の全ては、MN/CA IX/CA9が、前新生物/新生物腫瘍マーカーとして診断および/または予後診断に、および標的として治療に使用できるというザバダ(Zavada)らの独創的な着想および研究[例えば、ザバダ(Zavada)ら、特許文献1]を裏付けるものであり、M75モノクローナル抗体は、種々の免疫検出法および免疫標的アプローチに有用な、価値のあるCA IX特異的試薬であることを示している。
【0006】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2(1993年9月16日公開)および特許文献1(1995年2月7日発行)は、MN遺伝子およびMNタンパク質の発見および生物学的性質ならびに分子的性質について記載している。MN遺伝子は、全ての被験脊椎動物の染色体DNAに存在し、その発現は、腫瘍形成能と強く関連することが判明した。
【0007】
MNタンパク質は、ヒト子宮頚部癌に由来するHeLa細胞において最初に確認された。MNタンパク質は、多くのタイプのヒト癌(中でもとりわけ子宮頚部、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、大腸、肺、食道、および前立腺)において見られる。MNタンパク質を有意に発現する正常組織は極めて少ないことが判明している。これらのMN発現正常組織としては、ヒト胃粘膜および胆嚢上皮、ならびに消化管の他の幾つかの正常組織が挙げられる。逆説的に言えば、通常MNを発現する幾つかの組織、例えば胃粘膜における癌および他の前新生物疾患/新生物疾患においては、MN遺伝子発現が消滅するか、または減少することが判明している。
【0008】
一般に、発癌は、MNタンパク質の異常発現が前兆となり得る。例えば、発癌は:(1)通常MNタンパク質を有意に発現しない組織において、MNタンパク質が存在する場合;(2)通常MNタンパク質を発現する組織にMNタンパク質が存在しない場合;(3)組織において通常に発現されるレベルからMN遺伝子発現が、有意に増加レベルまたは有意に減少レベルにある場合;または(4)MNタンパク質が、細胞内の異常位置に発現する場合、が前兆となり得る。
【0009】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3(1995年12月21日公開)には、MN遺伝子およびMNタンパク質の発見、ならびにMN遺伝子発現と腫瘍形成能との強い関連付けが、いかにして癌および前癌病態の診断/予後診断法および治療方法を生み出したかについて開示している。その明細書には、脊椎動物における異常MN遺伝子発現を検出、または検出および定量化することによって、新生物疾患の発症および存在を確認するための方法および組成物が提供されている。例えば、MN抗原を検出、または検出および定量化するためにMN特異的抗体を用いる免疫アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、あるいは、MN mRNAなどのMN核酸を検出、または検出および定量化するために、MN cDNAなどのMN核酸を用いてRT−PCRなどのPCRアッセイなど、脊椎動物のサンプルの種々の従来のアッセイにより、異常MN遺伝子発現を検出、または検出および定量化することができる。
【0010】
MN/CA IXは、ウェスタンブロッティングによる推定で58および54kDaの見かけの分子量を有する原形質膜および核タンパク質として、HeLa細胞において最初に確認された。MN/CA IXは、3kDaの単一炭水化物鎖によりN−グリコシル化され、非還元条件下でS−S結合オリゴマーを形成する[非特許文献3;非特許文献4]。MN/CA IXは、細胞表面に位置する膜間タンパク質であるが、一部の事例では、MN/CA IXは、核内に検出されている[非特許文献5;非特許文献3]。
【0011】
MNは、双子タンパク質(twin protein)であるp54/58NによりHeLa細胞中に見られる。p54/58N(MAb M75)と反応するモノクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により、54kdと58kdに2本のバンドが現われた。これらの2本のバンドは、恐らくは翻訳後処理により異なるであろうタンパク質の1種に相当すると考えられる。
【0012】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3には、本明細書の図8A〜8Cに示されているMN cDNA配列(配列番号1)、図8A〜8Cにも示されているMNアミノ酸配列(配列番号2)、および本明細書の図9A〜9Fに示されているMNゲノム配列(配列番号3)が開示されている。MN遺伝子は、エクソン11およびイントロン10で構成される。配列番号1のヒトMN cDNA配列は、1522の塩基対(bp)を含む。配列番号70のMN cDNA配列は、1552のbpを含む(EMBL登録番号X66839;パストレク(Pastorek)ら(1994年))。
【0013】
図8A〜8Cに示されているMNタンパク質の最初の37のアミノ酸(配列番号2)は、推定上のMNシグナルペプチド[配列番号4]を構成する。MNタンパク質は、細胞外(EC)ドメイン[図8A〜8Cのアミノ酸(aa)の38〜414(配列番号5)]、膜貫通(TM)ドメイン[aaの415〜434(配列番号6)]、および細胞内(IC)ドメイン[aa435〜459(配列番号7)]を有する。細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)の約53〜111(配列番号8)または好ましくはaaの約52〜125(配列番号81)にプロテオグリカン様(PG)ドメイン、およびaaの約135〜391(配列番号9)または好ましくはaaの約121〜397(配列番号82)に炭酸脱水酵素(CA)ドメインを含む。
【0014】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3には、MN特異的抗体の製造について記載されている。代表的で好ましいMN特異的な抗体であるモノクローナル抗体M75(MAb M75)、そのハイブリドーマ(VU−M75)は、ATCC指定番号HB11128として、米国バージニア州マナサス所在のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託された。M75抗体は、MNタンパク質を発見し、同定するために用いられ、例えば、新鮮、凍結、またはホルマリン−、アルコール−、アセトン−あるいは他の様式で固定、および/または、パラフィン埋め込みおよび脱パラフィン化された組織サンプルにおいて、ラジオイムノアッセイおよび免疫組織化学的にウェスタンブロットでMN抗原を容易に同定するためにM75抗体を使用することができる。別の代表的で好ましいMN特異的抗体であるMab MN12は、指定HB11647としてATCCに寄託されたハイブリドーマMN12.2.2により分泌される。ザバダ(Zavada)らの特許文献3の実施例1では、MAb M75を用いて組織の免疫組織化学的染色からMN遺伝子の発癌性を立証する代表的な結果を提供している。
【0015】
免疫優性エピトープは事実上、M75 mab、特にN末端PG領域において4回等しく反復されるアミノ酸配列PGEEDLP(配列番号11)に関する反復性エピトープなど、MN/CA IXのPGドメイン内にあるものと考えられている[非特許文献9]。
【0016】
M75 mabは、非特許文献2で最初に報告され、例えば、ザバダ(Zavada)らの特許文献4および特許文献5など多くの米国特許および外国特許において、全てのMN/CA IX特異的抗体、ポリクローナルおよびモノクローナルならびにそれらの断片を用いて、具体的ならびに包括的に主張されている。[ザバダらの特許文献1;特許文献6〜20も参照のこと]。これらザバダらの米国特許および外国特許は、参照することにより本明細書に援用される。
【0017】
CA IXは、二酸化炭素と重炭酸塩との間での可逆的変換を触媒する亜鉛金属酵素のうちのα炭酸脱水酵素群の高活性な種である[非特許文献4;非特許文献1;非特許文献10〜12]。CA IXは、哺乳動物に存在する14のイソ体のうちの1つであり、細胞質(CA I、II、III、VII)、ミトコンドリア(CA VA、VB)、分泌胞(CA VI)および細胞膜(CA IV、IX、XII、XIV)など、種々の細胞成分の位置を占めている。イソ酵素の幾つかは、広範囲の組織にわたって分布しており(CA I、II、CA IV)、他のイソ酵素は、特定の器官に限定されており(唾液腺のCA VI)、2つのイソ体は、癌組織に結合している(CA IX、XII)[非特許文献10;非特許文献13]。酵素活性および動態学的性質、ならびにスルホンアミド阻害剤に対する感受性は、高感受性(CA II、CA IX、CA XII、CA IV)から低感受性(CA III)まで異なっている[非特許文献14]。CA関連タンパク質と称される幾つかのイソ体(CA−RP VIII、X、XI)は、活性部位の保存が不完全なため触媒活性はない。同じ群のタンパク質の遺伝的に関連する種内で非常に変動があることが、多様な生理学的かつ病理学的過程におけるそれらの使用根拠をなしている。この触媒活性は、代謝活性組織における酸−塩基バランスの維持およびイオン類と水との交換に関して基本的に関連性がある。この活性を介して、CA類は、事実上、呼吸、体液の産生(硝子体液、胃液、脳脊髄液)、骨吸収、腎酸性化などに寄与する(非特許文献10)。
【0018】
CA IXイソ酵素は、基礎研究ならびに臨床研究の重要な対象となる幾つかの性質を含んでいる。第一に、CA IXの発現は、多種多様のヒト腫瘍と極めて密に関連するが、一方、その発現は一般に、対応する正常組織には存在しない[非特許文献5;非特許文献15〜21]。これは、−10/−3位における転写出発部位に近位の最小CA9プロモーターに局在化した低酸素状態応答因子(HRE)に結合する低酸素状態誘導因子(HIF)を介してCA9遺伝子の転写を強力に活性化する腫瘍低酸素状態に主に関連している[非特許文献8]。HIF転写因子は、腫瘍細胞の生存および低酸素ストレスへの適応または腫瘍細胞死に導く遺伝子の活性化により弱く酸素化された腫瘍細胞の発現プロフィールを有意に変化させる。その結果、低酸素状態は、侵入および転移する能力の増大した、より攻撃的な腫瘍細胞を選択し、したがって、予後不良および抗癌療法に対する応答不良に本質的に関連する[非特許文献22]。
【0019】
腫瘍低酸素状態は、癌発生および癌療法に関して大いに関連を有する重要な現象であるので[非特許文献23]、MNは、診断/予測値を有する固有の低酸素マーカーとして、ならびに有望な治療標的として重要な可能性を有している[非特許文献8;非特許文献24〜28]。提案された臨床適用の有利な点として、CA IXは、癌細胞の表面に露出した大きな細胞外部分を有する不可欠な細胞膜タンパク質であり、したがって特異的モノクローナル抗体などの標的手段によりアクセス可能である。さらに、CA IXは、細胞外CAドメインのN末端伸長を形成する独特なプロテオグリカン関連領域(PG)の存在により他のCAイソ酵素とは異なり、他のイソ酵素との交差認識の排除が可能になる[非特許文献1]。CA IXは、細胞接着の調整およびpHの調節の双方を介して腫瘍生物学において積極的な役割を果たしていると思われる(非特許文献29〜31)。CA IXは、重炭酸塩輸送メタボロン(metabolon)に関与しており、低酸素状態に応答して細胞外微小環境の酸性化に寄与している(非特許文献32、非特許文献30)。さらに、CA IXの細胞内ドメイン(IC)は、少なくとも腎細胞癌において腫瘍形成的な第三の役割を果たしている可能性がある:チロシンリン酸化CA IX(EGFRを介して媒介)は、PI−3Kの調節サブユニット(p85)と相互作用し、Aktの活性化をもたらす[非特許文献33]。発癌に寄与するその多くの潜在的活性のため、その機能の抑止を目的としたCA IXタンパク質を標的にすることにより、治療効果を有することが期待されている。しかしながら、CA IXの基礎的な分子的および機能的態様の多くは知られていない;そのうちの1つは、CA IXの選択的スプライシングの可能性であった。
【0020】
選択的スプライシングは、タンパク質の構造的および機能的多様化に寄与する重要な分子機構である。選択的スプライシングは、エクソン含有の差異から生じることが多く、ドメイン組成、細胞成分の局在化、相互作用の可能性の変化、シグナル伝達能力およびタンパク質レベルにおける他の変化を導く。最近のゲノムテクノロジーにより得られたデータでは、ヒト遺伝子の60%以上が選択的にスプライスされることが示されている。また、選択的スプライシングの変異体発現の不均衡は、細胞表現型に著しく影響を及ぼし、種々の病状に役割を果たし得る証拠が増加しつつある(非特許文献34)。
【0021】
本発明は、CA9遺伝子発現が選択的スプライシングを含むことの発見に基づくものである。本明細書では、MN mRNAの選択的にスプライスされた(AS)マウスおよびヒト変異体について記載する。ヒトAS変異体は、腫瘍において、完全長(FL)のCA9 mRNAよりも量が少ないが、正常組織および酸素正常状態下で検出することができることを、本発明者は実証している。ヒトAS CA9 mRNAは、エクソン8および9を含まず、切断されたCA IXタンパク質をコードしている。その結果、AS CA IXは、細胞膜に限定されず、触媒活性の減少を示す。HeLa細胞における過剰発現の際、AS CA IXは、低酸素状態に誘導された細胞外酸性化を減少させ、HeLaスフェロイドの増殖を損なう。AS変異体は、正常表現型を有する酸素正常状態の細胞内に存在し得ることから、AS変異体は、CA9遺伝子の低酸素関連発現および腫瘍関連発現を評価するために設計された診断および/または予後診断試験において偽陽性結果を生じさせる可能性がある。さらに、AS型のCA IXタンパク質は、特に、FLレベルが比較的低い場合の中等度の低酸素状態でFL型のCA IXを機能的に阻害し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献2】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献3】国際公開第95/34650号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,981,711号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0 637 336B1号明細書
【特許文献6】米国特許第5,955,075号明細書
【特許文献7】米国特許第5,972,353号明細書
【特許文献8】米国特許第5,989,838号明細書
【特許文献9】米国特許第6,004,535号明細書
【特許文献10】米国特許第6,051,226号明細書
【特許文献11】米国特許第6,069,242号明細書
【特許文献12】米国特許第6,093,548号明細書
【特許文献13】米国特許第6,204,370号明細書
【特許文献14】米国特許第6,204,887号明細書
【特許文献15】米国特許第6,297,041号明細書
【特許文献16】米国特許第6,297,051号明細書
【特許文献17】オーストラリア国特許第669694号明細書
【特許文献18】カナダ国特許第2,131,826号明細書
【特許文献19】独国特許第69325577.3号明細書
【特許文献20】韓国特許第282284号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】オパブスキー(Opavsky)ら、Genomics33(3):480−487頁(1996年)
【非特許文献2】ウエムラ(Uemura)ら「Expression of Tumor−Associated Antigen MN/G250 in Urologic Carcinoma:Potential Therapeutic Target」、J.Urol.、154(補遺4):377頁(Abstract 1475;1997年)
【非特許文献3】パストレコバ(Pastorekova)ら、Virology187:620−626頁(1992年)
【非特許文献4】パストレク(Pastrek)ら、Oncogene 9:2788−2888頁(1994年)
【非特許文献5】ザバダ(Zavada)ら、Int J Cancer、54:268−274頁(1993年)
【非特許文献6】リースコブスカ(Lieskovska)ら、Neoplasma、46:17−24頁(1999年)
【非特許文献7】カルツ(Kaluz)ら、Cancer Research、62:4469−4477頁(2002年)
【非特許文献8】ウィコッフ(Wykoff)ら、Cancer Research、60:7075−7083頁(2000年)
【非特許文献9】ザバダ(Zavada)ら、Br.J.Cancer82(11):1808−1813頁(2000年)
【非特許文献10】チェグウィッデン(Chegwidden)ら、EXS90:343−363頁(2000年)
【非特許文献11】ウィンゴ(Wingo)ら、Biochemical and Biophysical Research Communications288:666−669頁(2001年)
【非特許文献12】パストレコバ(Pastorekova)ら、J Enz Inhib Med Chem19:199−229頁(2004年)
【非特許文献13】パストレコバ(Pastorekova)およびパストレク(Pastorek)、第9章、Carbonic Anhydrase:Its Inhibitors and Activators(スプラン(Supuran)ら編;CRCプレス(ロンドンなど)2004年)
【非特許文献14】スプラン(Supuran)およびスコッザファバ(Scozzafava)、J.Enzym Inhib.15(6):597−610頁(2000年)
【非特許文献15】リアオ(Liao)ら、Am.J.Pathol.145(3):598−609頁(1994年)
【非特許文献16】ターナー(Turner)ら、Human Pathol.28(6):740−744頁(1997年)
【非特許文献17】リアオ(Liao)ら、Cancer Res.57:2827−2831頁(1997年)
【非特許文献18】サーニオ(Saarnio)ら、Am J Pathol 153:279−285頁(1998年)
【非特許文献19】ベルミレン(Vermylen)ら、Eur.Respir.J.14:806−811頁(1999年)
【非特許文献20】イワノフ(Ivanov)ら、J.Pathol.158(3):905−919頁(2001年)
【非特許文献21】バートソバ(Bartosova)ら、J.Pathol.197:314−321頁(2002年)
【非特許文献22】ハリス AL.(Harris AL.)、Nature Rev Cancer2:38−47頁(2002年)
【非特許文献23】ホッケル(Hockel)およびバウペル(Vaupel)、Semin.Oncol.28(2 補遺l8):36−41頁(2001年)
【非特許文献24】ウィコッフ(Wykoff)ら、Am.J.Pathol.158(3):1011−1019頁(2001年)
【非特許文献25】ビースレイ(Beasley)ら、Cancer Res.61(13):5262−5267頁(2001年)
【非特許文献26】ギアトロマノラキ(Giatromanolaki)ら、Cancer Res.61(21):7992−7998頁(2001年)
【非特許文献27】コーコーラキス(Koukourakis)ら、Clin.Cancer Res.7(11):3399−3403頁(2001年)
【非特許文献28】ポッター(Potter)およびハリス(Harris)、Br J Cancer89:2−7頁(2003年)
【非特許文献29】スバストバ(Svastova)ら、Exp Cell REs290:332−345頁(2003年)
【非特許文献30】スバストバ(Svastova)ら、FEBS Letters577:439−445頁(2004年)
【非特許文献31】スウィータッチ(Swietach)ら、Cancer Metastasis Rev、DOI 10,1007/s10555−007−9064−0(2007年)
【非特許文献32】モーガン(Morgan)ら、Am J Physiol−Cell Physiol293(2):C738−C748頁(2007年)
【非特許文献33】ドライ(Dorai)ら、Eur.J Cancer41:2935−2947頁(2005年)
【非特許文献34】マトリン(Matlin)ら、Nat Rev Mol Cell Biol6:386−398頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、低酸素状態で誘導された膜結合腫瘍関連MNタンパク質をコードする完全長(FL)CA9 mRNA転写体に加えて、細胞膜に限定されないASのMNタンパク質(ASのMN/CA IXまたはAS CA IX)をコードする、構成的に産生された、選択的にスプライスされた(AS)CA9 mRNA転写体もまた存在するという発見に基づいている。本発明の治療的態様の基礎となるさらなる発見は、AS型のCA IXがFL型のCA IXの機能を阻害することである。CA IXのAS変異体の低酸素状態および腫瘍に無関係な産生は、CA IXの診断、予後診断および治療態様に多くの密接な関係を有する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける、異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患に対する診断法および/または予後診断法に関するものであり、これらの方法は、完全長[FL]および選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現、あるいは、AS型およびFL型のMN/CA IX発現を識別する工程を有してなる。
【0026】
前記方法は、FLのMN/CA9 mRNAの発現および/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するために1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んで差し支えなく;好ましくは、前記方法は:(a)選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;(b)FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;および/または(c)FLのMN/CA9 mRNAとASのMN/CA9 mRNAの双方を検出するためのプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる。本発明の一態様において、診断法および/または予後診断法は、例えば、FLのMN/CA9 mRNAには存在しないが、ASのMN/CA9 mRNAには存在するスプライスジャンクションに対し、またはASのMN/CA9 mRNAに存在しないがFLのMN/CA9 mRNAに存在する核酸配列に対してプローブを標的にすることにより、選択的にスプライスされたMN/CA9核酸と完全長MN/CA9核酸との間の差異が利用される。同様に、例えば、FLのMN/CA9 mRNAには見られず、ASのMN/CA9 mRNAにのみ見られる領域を増幅するために一対のプライマーを設計することができ、または逆の設計もできる。本開示に鑑みて当業者は、本発明の診断法/予後診断法に有用であると思われる任意の数のプローブおよび/またはプライマー/プライマー対を設計することができるであろう。
【0027】
ヒトにおける前新生物疾患/新生物疾患に対する好ましい診断法/予後診断法において、本発明の1種類以上の特に好ましいプローブおよび/またはプライマーは、配列番号97〜101および配列番号97〜101と少なくとも80%相同性、好ましくは配列番号97〜101と少なくとも90%相同性である核酸配列からなる群から選択される。FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNA発現を検出、または検出および定量化するために1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる前記の方法は、FLのMN/CA9 mRNA:ASのMN/CA9 mRNAの比、または経時的にFLのMN/CA9 mRNA:ASのMN/CA9 mRNAの比の変化を測定することをさらに含むことができる。
【0028】
さらに、前記ASのMN/CA9 mRNAの発現を、正常なMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができ、かつ、前記FLのMN/CA9 mRNA発現を、異常なMN/CA9遺伝子発現、特に前記ASおよび/またはFLのMN/CA9 mRNA発現のレベルを示すために使用することができる。あるいは、または加えて、前記ASのMN/CA9 mRNAの発現を、酸素正常状態のMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができ、また、前記FLのMN/CA9 mRNAの発現を、低酸素状態のMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができる。また、前記MNのASおよび/またはFL mRNA発現のレベルは、特定の表示値を有することも考えられる。
【0029】
FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するために、1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる前記方法は、核酸増幅方法、好ましくは、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRから選択される増幅方法、および当業者に知られている同等の核酸増幅方法の使用をさらに含むことができる。あるいは、FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するための前記方法は、マイクロアレイチップの使用を含むことができる。例えば、前記マイクロアレイチップは、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAには結合しないが、完全長[FL]MN/CA9 mRNAに結合するプローブ、および/またはFLのMN/CA9 mRNAには結合しないが、ASのMN/CA9 mRNAに結合するプローブを含むことができ、このようなチップ上の前記プローブの戦略的配置は、当該技術分野の範囲内にある。
【0030】
別の態様において、本発明は、FLのMN/CA IX発現とASのMN/CA IX発現とを識別する工程を有してなり、哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患に係わる診断方法および/または予後診断方法に関する。前記方法は、前新生物組織/新生物組織においてFLのMN/CA IX発現とASのMN/CA IX発現とを識別するために1種類以上の抗体の使用を含んでなることが好ましい。前記方法は、前記組織においてASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化することを含むことができ;前記組織においてFLのMN/CA IXレベル対ASのMN/CA IXレベルの比を測定することをさらに含むことができる。さらに前記FLのMN/CA IX:ASのMN/CA IXの比は、前記組織における低酸素状態の存在または程度を示すために使用することができる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において、診断方法/予後診断方法は、脊椎動物の組織におけるFLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、該工程は:
(a)前記サンプルを、少なくとも2種の抗体、少なくとも2種の抗原結合性抗体断片、または抗体と抗原結合性抗体断片の混合物とを同時にまたは連続的に接触させて、少なくとも1種の抗体/抗体断片をASのMN/CA IXタンパク質には結合しないが、FLのMN/CA IXタンパク質に特異的に結合させ、少なくとも他の1種の抗体/抗体断片をFLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合させる工程と;
(b)前記サンプルにおいて前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と;
(c)前記差異的に結合する抗体/抗体断片の結合を比較してFLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの相対的レベルを判定する工程と、
を有してなる。
【0032】
ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する前記1種類以上の抗体/抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であり;FLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する前記1種類以上の抗体/抗体断片が、MN/CA IXのプロテオグリカン様(PG)ドメインに特異的であることが好ましい。さらにより好ましくは、MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在のBCCM(商標)/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であり;MN/CA IXのPGドメインに特異的な前記抗体が、ATCC指定番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されたハイブリドーマVU−M75により産生されるM75モノクローナル抗体である。
【0033】
さらに本発明は、脊椎動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法に関するものであり、適切な脊椎動物の組織サンプルにおける選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXタンパク質は検出せず、完全長[FL]MN/CA IXタンパク質を検出、または検出および定量化する工程を有してなり、該工程は:
(a)前記サンプルを抗体または抗体断片に接触させるステップであって、前記抗体または抗体断片が、ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する工程と;
(b)前記サンプルにおける前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
を有してなる。前記脊椎動物は、哺乳動物であることが好ましく、前記哺乳動物はヒトであることがさらに好ましい。
【0034】
ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する代表的な好ましい抗体または抗体断片は、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であるものである。より好ましくは、MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体は、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体である。
【0035】
本発明の特に好ましい態様は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法に関するものであり、それらの方法は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物の前新生物疾患/新生物サンプルにおいて選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、前記サンプルからのmRNAを、ASのMN/CA9 mRNAには結合しないが、FLのMN/CA9 mRNAに特異的に結合するプライマーまたはプローブに接触させる工程を有してなる。
【0036】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用される核酸プローブおよび/またはプライマーに関する。上記のとおり、本開示に基づくようなプローブ/プライマーの設計は、当該技術分野の範囲内にある。好ましくは、前記哺乳動物はヒトであり、前記プローブおよび/またはプライマーは、FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、前記プローブまたはプライマーは、MN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含んでなる。より好ましくは、前記プローブまたはプライマーは、配列番号101の配列または配列番号101と少なくとも80%相同性、より好ましくは、配列番号101と少なくとも90%相同性である配列を有する。あるいは、前記哺乳動物はヒトであり、前記プローブおよび/またはプライマーは、ASのMN/CA9 mRNAは検出せずFLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、前記プローブまたはプライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に結合するか、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7と8のスプライスジャンクション、エクソン8と9のスプライスジャンクション、もしくはエクソン9と10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含んでなる。より好ましくは、ASのMN/CA9 mRNAは検出せずヒトFLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用される前記プローブまたはプライマーは、配列番号100の配列または配列番号100と少なくとも80%相同性、より好ましくは、配列番号100と少なくとも90%相同性である配列を有する。本発明はさらに、このようなプローブまたはプライマーを発現するベクター、および/またはこのようなベクターを含んでなる宿主細胞、および1種類以上のこのようなプローブを含んでなるマイクロアレイチップに関する。
【0037】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用される一対のプローブおよび/またはプライマーに関する。前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用することができる。完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される代表的な好ましい一対のプローブまたはプライマーは、配列番号99および101、または配列番号99および101と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなる。
【0038】
あるいは、前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される。FL mRNAのみを検出するために使用される代表的な好ましい一対のプローブまたはプライマーは、配列番号99および100、または配列番号99および100と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなる。本発明のさらなる実施形態において、一対のプローブまたはプライマーは、ASヒトMN/CA9 mRNAおよびFLヒトMN/CA9 mRNAの双方を検出するために使用され、前記AS mRNAと前記FL mRNAは長さにより識別される。ASとFLの双方のヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、配列番号97および98、または配列番号97および98と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなることが好ましい。
【0039】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXをコードする単離された核酸に関する。前記ASのMN/CA IXは、約43〜約48kDaの分子量を有することが好ましい。本発明はさらに、このような核酸またはその断片を発現するベクター、このようなベクターを含んでなる宿主細胞および/または組換え、合成または他の生物学的手段によるASのMN/CA IXタンパク質およびポリペプチドの産生に関する。
【0040】
前記単離された核酸によりコードされた、代表的な好ましいAS型のMN/CA IXのは、MN/CA IXのPGドメインに特異的な抗体により特異的に結合されるが、MN/CA IXのCAドメインに特異的な抗体により結合されないことをさらに特徴とする。本発明のさらにより好ましい実施形態において、前記AS型のMN/CA IXは、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体には結合されない。
【0041】
より好ましくは、前記哺乳動物がヒトであり、前記単離された核酸が、MN/CA9のエクソン8およびエクソン9に相当するヌクレオチドを欠失させることを特徴とする。さらにより好ましくは、前記単離ヒト核酸が、配列番号108、または配列番号108と少なくとも80%相同性、より好ましくは配列番号108と少なくとも90%相同性の核酸配列を有する。好ましくは、配列番号108または密接に関連する配列によりコードされたAS型の代表的なヒトMN/CA IXは、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体により結合されない。
【0042】
さらに本発明は、他の型のMN/CA IXには結合しないが、AS型のMN/CA IXに特異的に結合する抗体または抗原結合抗体に関する。例えば、このようなAS特異的抗体は、AS型のMN/CA IXに特異的に結合するが、FL型のMN/CA IXに特異的に結合しない抗体または抗原結合抗体であり得るか;またはASのMN/CA IXに特異的に結合するが、可溶性MN/CA IX(s−CA IX)に特異的に結合しない抗体または抗原結合抗体であり得る。
【0043】
哺乳動物における前新生物疾患/新生物疾患を治療するための治療方法が、さらに本明細書に開示されており、前記疾患は、MN/CA IXの異常発現に関連し、本方法は、完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させる薬剤を含む組成物を治療に有効な量で前記哺乳動物に投与する工程を有してなる。前記ASのMN/CA IXはまた、FLのMN/CA IXの活性を阻害するASのMN/CA IXの任意のタンパク質またはポリペプチド断片を含むことも考えられる。前記ASのMN/CA IXの相対的レベルの増加により、前記FLのMN/CA IXの炭酸脱水酵素の活性が阻害されることが好ましい。前記薬剤は、生理学的に許容できる担体中のASのMN/CA IX自体、ASのMN/CA9 mRNAを発現するベクター、ASのMN/CA IXの発現は遮断しないがFLのMN/CA IXの発現を遮断するアンチセンスオリゴヌクレオチド、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するベクター、FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNA、または前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAを発現するベクターであり得る。
【0044】
例えば、前記薬剤は、エクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに標的化されるFLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAであり得る。あるいは、前記薬剤は、ASおよび/またはFLのMN/CA9の前mRNAスプライシングを調節するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0045】
別の態様において、本発明は、完全長[FL]MN/CA IXのレベルに比して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させるオリゴヌクレオチドに関するものであって、前記オリゴヌクレオチドは、異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の治療に使用される。例えば、前記オリゴヌクレオチドは、ASのMN/CA9の前mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9の前mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドである可能性があり;好ましくは、前記オリゴヌクレオチドは、FLのMN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに相補的である。あるいは、FLのMN/CA IXのレベルに比してAS FLのMN/CAのレベルを増加させる前記オリゴヌクレオチドは、ASのMN/CA9 mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9 mRNAに相補的であるsiRNAであり得る。
【0046】
本発明はまた、ASのMN/CA IXを発現する細胞を、この細胞において前記ASのMN/CA IXのレベルを調節すると思われる薬剤に接触させ、前記ASのMN/CA IXのレベルの変化を検出および定量化する工程を有してなる、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを調節することができる薬剤を同定するインビトロ方法に関する。
【0047】
引用文献
以下の引用文献は、MN/CA9遺伝子およびMN/CA IXタンパク質、または選択的にスプライスされたmRNAに関する最新情報を本明細書に引用するか、または提供する。本明細書に引用されるリストに挙げられた引用文献ならびに他の引用文献の全ては、参照することにより具体的に援用される。
【0048】
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略語
以下の略語が本明細書中に使用される:
細胞株
ヌクレオチドおよびアミノ酸の記号
以下の記号は、本明細書においてヌクレオチドを表すために使用される:
20の主要アミノ酸があり、それらの各々は、3つの隣接ヌクレオチド(トリプレットコードまたはコドン)の異なる配列により特定され、特定の順序で一緒に結合して特徴的なタンパク質を形成する。例えば、以下の図1に示される前記アミノ酸を同定するために、3文字または1文字の通則が、本明細書に使用される:
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウスCar9遺伝子(GenBank番号AY049077)のゲノム構造。
【図1B】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウス胃腸管系組織におけるCar9スプライシング変異体のRT−PCR[実施例に用いられるプライマーの配列に関しては下記表2を参照]。
【図1C】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:FL転写体およびAS転写体の別々の増幅。
【図1D】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:FLアミノ酸配列とASアミノ酸配列の比較。
【図1E】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウスAS CA IXタンパク質の予測された構造。
【図2A】マウスAS CA IXの免疫ブロット分析および局在化。マウスAS cDNAを含むpSG5C−ASプラスミドは、NIH3T3細胞およびMDCK細胞にそれぞれ形質移入された:マウスCA IXに対してポリクローナル血清を用いるAS形質移入細胞の免疫ブロットが、単一のAS関連バンドを示す。
【図2B】マウスAS CA IXの免疫ブロット分析および局在化。マウスAS cDNAを含むpSG5C−ASプラスミドは、NIH3T3細胞およびMDCK細胞にそれぞれ形質移入された:形質移入体の免疫蛍光分析が、マウスASタンパク質の細胞内局在を示す。
【図3A】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトCA9遺伝子(GenBank番号Z54349)のゲノム構造の略図。プライマー位置は、矢印により示される[実施例に用いられるプライマーの配列に関しては表2を参照]。選択的スプライシングにより排除されたエクソンは、暗灰色にある。
【図3B】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:スプライシング変異体間を識別しないh1S−h6Aプライマー[配列番号95および96]を用いたヒト胃腸におけるCA9のRT−PCR分析。
【図3C】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:h6S−h11Aプライマー[配列番号97および98]を用いたヒト組織におけるFLとAS双方の転写体の増幅。
【図3D】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトFLおよびAS CA9 cDNAから推測されたアミノ酸配列の比較。シグナルペプチド(SP)はイタリックで書かれ、プロテオグリカン様ドメイン(PG)は太字であり、炭酸脱水酵素ドメイン(CA)は実線で囲み、アミノ酸(aa)415で開始する膜貫通領域(TM)は破線で囲ってある。点線はASで欠失したアミノ酸残基を表す。触媒亜鉛に結合するヒスチジンおよびS−S結合の形成に関与するシステインは、単独に破線で囲ってある。
【図3E】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトFLおよびAS CA IXタンパク質の予測された構造。
【図4A】スプライシング変異体、すなわちFLに関してはh7S−h8A[配列番号99および100]およびASに関してはh7S−h10/7A[配列番号99および101]の個々の増幅のために設計されたプライマーを用いた(図3を参照)ヒトAS CA9のRT−PCR分析による、ヒト腫瘍細胞株およびヒト組織におけるAS CA IX変異体の発現。ベータ−アクチンを標品として用いた(図4Bおよび4Cにおいて同じ):酸素正常状態(N)および低酸素状態(H)に48時間露出させた細胞からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、低酸素状態に依存しないことを示している。
【図4B】低密度および高密度で72時間インキュベートした細胞からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、密度に依存しないことを示している。
【図4C】正常および腫瘍ヒト組織からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、腫瘍表現型に依存しないことを示している。
【図5A】ヒトAS CA IXの局在化およびオリゴメリ化を示す図。FL CA IXの天然の低酸素状態により誘導された発現を有するCA IX陰性MDCK細胞およびHeLa細胞に、pSG5Cプラスミド内のASCA9 cDNAを持続的に形質移入した:AS形質移入(AS)、FL形質移入(FL)および対照細胞(モック)の免疫蛍光分析を、ASおよびFLタンパク質の双方を認識するM75 mabを用いて実施した。
【図5B】ヒトAS CA IXの局在化およびオリゴメリ化を示す図。FL CA IXの天然の低酸素状態により誘導された発現を有するCA IX陰性MDCK細胞およびHeLa細胞に、pSG5Cプラスミド内のASCA9 cDNAを持続的に形質移入した:HeLa−AS細胞および対照HeLa細胞からのタンパク質抽出物および培地の免疫ブロット分析。AS CA IX変異体は、AS形質細胞の抽出物ならびに培地中のM75 mabにより検出された。
【図6A】オリゴマーを形成するFLおよびASスプライシング変異体の能力:非還元性SDS−PAGEおよびM75による免疫ブロットにより、ASがオリゴマーを形成できないことを示した。
【図6B】オリゴマーを形成するFLおよびASスプライシング変異体の能力:MAbV/10(ASは認識しないが、FLを認識する)またはM75(双方の変異体を認識する)で抽出されたHeLa−AS抽出物からの免疫沈降によるオリゴマー中のスプライシング変異体の検出。沈降されたオリゴマーの成分は、ペルオキシダーゼ標識M75を用いて可視化した。
【図7A】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:AS形質移入HeLa細胞および関連するモック形質移入対照を、それぞれ酸素正常状態および低酸素状態で48時間インキュベートし、細胞外pHを、実験の終了直後に培地中で測定した。データは、低酸素状態の細胞対酸素正常状態の細胞で測定されたpH値間の差異(ΔpH)として表され、標準偏差を含む。結果は、ASの発現が、低酸素状態でFL CA IXタンパク質により媒介される酸性化を減少させることを示す。
【図7B】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:ヒトFL CA IXタンパク質を構成的に発現するMDCK−CA IX形質移入細胞を、MDCK−AS形質移入体からの調整培地を添加した分泌AS変異体の不在下(対照)または存在下、蛍光CA阻害剤(FITC−CA I)により48時間処理した図である。調整培地を、新鮮な培地と混合した。FITC−CA Iは低酸素状態の細胞にのみ結合し、ASタンパク質の存在下でかなり減少した。
【図7C】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:同じ実験を、MDCK−AS細胞からの調整培地の半分(1/2AS)または三分の一(1/3AS)のいずれかで繰り返し実施した。FITC−CA Iと対応する蛍光との結合は、シオン(Scion)画像ソフトウェアを用いて獲得された画像から評価した。データは、ASの不在下、FITC−CA Iと共にインキュベートされた低酸素状態のMDCK−CA IX細胞により示された陽性対照のパーセンテージとして表示された。その結果、ASがCA IXに対するFITC−CA Iの結合を減少させることが確認された。
【図7D】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:対照のモック形質移入HeLa細胞およびAS形質移入HeLa細胞それぞれから増殖させたスフェロイドの顕微鏡画像。対照のHeLa細胞は、低酸素状態誘導の機能性FL CA IXタンパク質を発現し、コンパクトコアを形成するスフェロイドを生じる。低酸素誘導のFL CA IXおよび構成的に発現したAS双方を含むHeLa−AS細胞は、ルースコアを含むが、これは恐らくFLの機能がASにより損なわれるため、低酸素コア細胞の生存減少に至ったためと思われる。
【図8A】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図8B】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図8C】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図9A】図9A〜Fは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9B】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9C】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9D】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9E】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9F】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図10】ヒトMN遺伝子[配列番号24]の提案されたプロモーターに関するヌクレオチド配列。このヌクレオチドは、RNアーゼ保護アッセイにしたがって転写開始部位から番号が付けられる。調節要素として可能性のあるものを上線で示している。転写開始部位は、星印(RNアーゼ保護)および対応するヌクレオチド上に点(RACE)で示される。第一のエクソンの配列は、星印のもとで開始する。MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖双方で保護された5つの領域(I〜V)、および非コード鎖は保護されないが、コード鎖において保護された2つの領域(VIおよびVII)が明らかとなった。
【発明を実施するための形態】
【0050】
pHおよび細胞接着を調節する調節機構の一部として、MN/CA IXタンパク質は腫瘍形成において機能的に関係がある。MN/CA IXは、HIF−1経路を経て主として低酸素状態で誘導される;HIF−1はまた、MN/CA IX発現の増加を生じ得るPI3K経路を経て伝達された高細胞密度など、種々の細胞外シグナルおよび発癌性変化により酸素正常状態でも発現する可能性がある。HIF−1とPI3K双方の経路が、HIF−1タンパク質レベルを増加させ、その増加が、MN/CA IXレベルの増加に移し変えられる可能性がある。
【0051】
下記の実施例に示されるように、本発明者は、高酵素活性およびpHを調節する能力により低酸素誘導されるCA IXタンパク質をコードする完全長(FL)CA9転写体に加えて、量の少ない構成的に産生された選択的にスプライスされた(AS)CA9転写体もあることを見出した。下記の実施例2に示されるように、ヒトCA9 mRNAの選択的スプライシング変異体は、エクソン8および9を含まず、低酸素状態とは無関係に腫瘍細胞に発現する。また、この変異体は、完全長転写体の不在下で正常組織において検出可能であり、したがって、低酸素状態関連および癌関連CA9発現の検出に基づく予後診断において偽陽性データが生じ得る。スプライシング変異体は、触媒ドメインのC末端部分を欠く切断CA IXタンパク質をコードし、触媒活性の減少を示し、細胞内に局在するか、または分泌する。過剰発現される場合、変異体は、完全長CA IXタンパク質が低酸素状態の細胞内pHを酸性化する能力、および炭酸脱水酵素阻害剤に結合する能力を減少させる。実施例4および5において、ヒトAS CA IX変異体が、細胞膜に限らず、過剰発現の際にFLタンパク質の機能を阻害することを示す実験を記載している。実施例5において、スプライシング変異体cDNAを形質移入したHeLa細胞は、小型のコアを形成しないスフェロイドを生じることから、HeLa細胞は、低酸素ストレスに適合できないことを示唆している。このAS能力は、細胞が、苛酷なアシドーシスを受けず、過度のpH調節を必要としない場合、特に軽度の低酸素条件下で関連があり得る。
【0052】
CA IXのAS変異体の低酸素および腫瘍に無関係な産生は、CA IXの診断態様、予後診断態様および治療態様に関して多くの関係がある。完全長CA9 mRNA(機能的CA IXタンパク質をコードする)の将来の診断/予後診断試験において、選択的にスプライスされた変異体の同時検出を回避するために設計されたプローブ/プライマーを設計することができ、癌療法は、例えば、他の療法の中でもアンチセンスおよびRNA干渉療法に用いられるオリゴヌクレオチドの設計により、CA9選択的スプライシングに基づくことができる。
【0053】
前新生物/新生物疾患
本発明の診断方法/予後診断方法および治療方法の対象である前新生物疾患/新生物疾患(および患部組織)は、MN/CA IXの異常発現に関連するものである。本明細書に用いられる「前新生物組織/新生物組織」はまた、体液中の前新生物細胞/新生物細胞を含むことができる。前記前新生物疾患/新生物疾患は、乳房、尿路、膀胱、腎臓、卵巣、子宮、子宮頚部、子宮内膜、扁平上皮細胞、腺扁平上皮細胞、膣、外陰部、前立腺、肝臓、肺、皮膚、甲状腺、膵臓、精巣、脳、頭頚部、中胚葉、肉腫、胃、脾臓、胃腸管、食道、および大腸の前新生物疾患/新生物疾患からなる群から選択されるのが好ましい。
【0054】
酸素正常状態および低酸素状態
本明細書に用いられる「酸素正常状態」とは、哺乳動物の特定組織に関して生理的酸素張力レベルの正常範囲内にある特定の哺乳動物組織中の酸素張力レベルとして定義される。本明細書に用いられる「低酸素状態」とは、特定の組織または細胞中のHIF−1αを安定化させるために必要な酸素張力レベルとして定義される。実験的に誘導された低酸素状態は、一般的に2%以下であって、酸欠状態(酸欠状態は致死的となり得る0%のpO2)以上のpO2の範囲内にある。低酸素状態に関係する本明細書に記載された実施例では、代表的な低酸素状態である2%pO2で実施された。しかしながら、当業者は、「低酸素状態」として理解され、同様の実験結果を生じる他の酸素張力レベルを考えることもあろう。例えば、ウィコッフ(Wykoff)ら[Cancer Research、60:7075−7083頁(2000年)]は、代表的な低酸素状態として0.1%pO2の条件を用いてCA9のHIF−1α−従属発現を誘導した。トームズ(Tomes)らは、0.3%、0.5%および2.5%pO2の代表的なインビトロ低酸素状態下、HeLa細胞またはヒト乳房線維芽細胞におけるHIF−1αの安定化およびCA9発現の程度が変わることを立証している[トームズ(Tomes)ら、Br.Cancer Res.Treat.81(1):61−69頁(2003年)]。あるいは、カルツ(Kaluz)らは、CA9の実験的誘導に関して0.5%pO2の代表的な低酸素状態を用いており[カルツ(Kaluz)ら、Cancer Res.、63:917−922頁(2003年)]、0.1〜1%pO2を低酸素状態の「実験的に誘導された範囲」として言及している[Cancer Research、62:4469−4477頁(2002年)]。
【0055】
上記文献のトームズ(Tomes)らにより示されるように、2%以上のpO2の酸素張力レベルもまた低酸素状態であり得る。当業者は、HIF−1α安定化の判定に基づいて、ある状態が本明細書に定義された低酸素状態であるかどうかを判定することができるであろう。特定の組織または細胞における低酸素状態の代表的な範囲は、例えば、約3%から約0.05%pO2の間、約2%から約0.1%pO2の間、約1%から約0.1%pO2の間、および約0.5%から約0.1%pO2の間であり得る。
【0056】
MN遺伝子およびタンパク質
本明細書における用語「CA IX」および「MN/CA9」は、MNに関する同義語と考えられている。G250抗原は、MNタンパク質/ポリペプチドを称するものと考える。
【0057】
ザバダ(Zavada)らの国際公開第93/18152号パンフレットおよび/または国際公開第95/34650号パンフレットは、本明細書の図8に示されるMN cDNA配列[配列番号1]、また図8に示されるMNアミノ酸配列[配列番号2]、および本明細書の図9に示されるMNゲノム配列[配列番号3]について開示している。MN遺伝子は、11のエクソンおよび10のイントロンで構成される。
【0058】
図8に示されたMN cDNAのORFは、計算値49.7kdの分子量を有する459のアミノ酸タンパク質に関するコード化能力を有する。MNタンパク質の総アミノ酸組成物はかなり酸性であり、4.3のpIを有することが予測される。二次元電気泳動後の免疫ブロット法によるCGL3からの天然MNタンパク質の分析は、コンピュータ予測と一致して、MNは、4.7から6.3のpI範囲を有する幾つかの等電点形態で存在する酸性タンパク質であることを示している。
【0059】
図8に示されるMNタンパク質の最初の37のアミノ酸は、推定上のMNシグナルペプチド[配列番号4]である。MNタンパク質は、細胞外ドメイン[図8のアミノ酸(aa)38〜414;配列番号5]、膜貫通ドメイン[aa415〜434;配列番号6]および細胞内ドメイン[aa435〜459;配列番号7]を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン[aa53〜111;配列番号8]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa135〜391;配列番号9]を含む。
【0060】
CAドメインは、アンカーに依存しない誘導に必須であるが、一方、TMアンカーおよびICテールは、その生物学的効果にとって不必要である。MNタンパク質はまた、形質移入された細胞内で細胞膜ラッフリングさせることができ、固体支持体への結合に関与すると思われる。このデータは、細胞増殖の調節、接着および細胞間伝達におけるMNの関与を示している。
【0061】
MN遺伝子−クローニングおよび配列決定
図8A〜Cに、完全長MN cDNAクローンに関するヌクレオチド配列[配列番号1]を提供する。図9A〜Fに、完全MNゲノム配列[配列番号3]を提供する。提案されたMNプロモーターに関するヌクレオチド配列[配列番号24]は、図9A〜Fのnts3001から3540、および図10に示される。
【0062】
当然のことながら、遺伝子コードの縮退のため、すなわち、1つ以上のコドンが1つのアミノ酸をコードし[例えば、コドンTTA、TTG、CTT、CTC、CTAおよびCTGの各々が、アミノ酸のロイシン(leu)をコードする]、例えば、1つのコドンが別のコドンで置換される配列番号1および3におけるヌクレオチド配列の変更は、本発明による実質的に等しいタンパク質またはポリペプチドを生じるであろう。MN cDNAのヌクレオチド配列および相補的核酸配列におけるこのような変更は全て、本発明の範囲内に含まれる。
【0063】
さらに、当然のことながら、本明細書に記載され、図8、9および10に示されるヌクレオチド配列は、本明細書で単離され、記載されたcDNA、ゲノムおよびプロモーターヌクレオチド配列の正確な構造のみを表している。実質的に同様のまたは相同的MNタンパク質およびポリペプチド、例えば、同様のエピトープを有するものをコードするために、僅かに修飾されたヌクレオチド配列が見出されるか、または当業界に知られた技法により修飾できることが予想され、このようなヌクレオチド配列およびタンパク質/ポリペプチドは、本発明の目的にとって等価物であると考えられる。
【0064】
MNタンパク質/ポリペプチドに相同的または実質的に相同的なタンパク質/ポリペプチドをコードする合成核酸配列であり、ならびにストリンジェント条件下、前記代表的配列[配列番号1、3および24]にハイブリダイズすると考えられるか、または遺伝子コードの縮退がなかったら、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、前記cDNAヌクレオチド配列にハイブリダイズすると考えられる核酸配列などの等価コドンを有するDNAまたはRNAは、本発明の範囲内であると考えられる。本明細書に示された核酸配列の修飾および変更は、代表的なMN配列およびその断片と実質的に同じである配列を生じると考えられる。
【0065】
少なくとも80〜90%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する極めて密接に関連するnt配列だけが、ストリンジェント条件下、互いにハイブリダイズすると考えられる。図8に示されたMN cDNA配列とヒト炭酸脱水酵素II(CA II)の対応するcDNAの配列比較により、25以上のヌクレオチドを有するCA II cDNA配列のセグメントが、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、MN cDNAにハイブリダイズすることまたは逆を可能にする上で十分に長いと考えられる2つの配列間で同一の延伸部分がないことが示された。
【0066】
本明細書におけるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、ストリンジェントであるとして当該技術分野で理解される標準的なハイブリダイゼーション条件に合致すると考えられる。例えば、当然のことながら一般に、ストリンジェント条件は、50℃から70℃の温度で0.02Mから0.15MのNaClにより提供されるような、比較的低塩条件および/または高温条件を包む。20℃〜55℃の温度で0.15M〜0.9M塩のような低ストリンジェント条件は、温度上昇とともにハイブリッド二重鎖を不安定にさせるのに役立つホルムアミド量を増加させて加えることによって、よりストリンジェントにさせることができる。
【0067】
代表的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、サムブルック(Sambrook)らのMolecular Cloning:A Laboratory Manual、1.91頁および9.47−9.51頁(第二版、コールドスプリングハーバー・ラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press);コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州;1989年);マニアチス(Maniatis)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、387−389頁(コールドスプリングハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory);コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州;1982年);ツチヤ(Tsuchiya)ら、Oral Surgery,Oral Medicine,Oral Pathology、71(6):721−725頁(1991年6月);および米国特許第5,989,838号明細書、米国特許第5,972,353号明細書、米国特許第5,981,711号明細書、ならびに米国特許第6,051,226号明細書に記載されている。
【0068】
MNゲノム配列(配列番号3)を含むプラスミド−A4aクローンならびにXE1およびXE3サブクローンは、1995年6月6日、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に、それぞれATCC寄託番号97199、97200、および97198として寄託された。
【0069】
完全MNゲノム領域のエクソン−イントロン構造
オーバーラップクローンの完全配列は、10,898bp(配列番号3)を含む。ヒトMN遺伝子は、11のエクソンならびに2つの上流反復要素および6つのイントロンAlu反復要素を含んでなる。エクソンは全て、445bpである第1エクソンを除いて27bpから191bpの範囲と小型である。イントロンのサイズは、89bpから1400bpの範囲である。CAドメインは、エクソン2〜8によりコードされ、一方、エクソン1、10および11は、それぞれMN/CA IXタンパク質のプロテオグリカン様ドメイン、膜貫通アンカーおよび細胞質テールに相当する。下表1は、AG−GTモチーフを含むコンセンサススプライス配列に合致するスプライスドナーおよびアクセプター配列を掲げている[マウント(Mount)、Nucleic Acids Res.10:459−472頁(1982年)]。
【表1】
【0070】
MN遺伝子転写開始部位および終結部位のマッピング
ザバダ(Zavada)らの国際公開第95/34650号パンフレットには、MN遺伝子転写開始部位および終結部位をマッピングする方法が記載されている。RNアーゼ保護アッセイを、MN遺伝子の5'末端の精密マッピングに使用した。プローブは、MNを発現するHeLa細胞およびCGL3細胞からのRNA全体にハイブリダイズされ、配列決定ゲル上で分析された均一標識470のヌクレオチドコピーRNA(nt−205から+265)[配列番号66]であった。その分析により、MN遺伝子転写は、複数部位でRACEにより以前に特性化されたものよりも30nt長い最長のMN転写体の5'末端で開始することが示された。
【0071】
マウスCar9cDNA
マウスCA IXをコードするcDNAおよび遺伝子のクローニングおよび特性化は、以前に記載されている[オルトバ−ガット(Ortova−Gut)ら、Gastroenterology、123:1889−1903頁(2002年)]。マウスCar9cDNA断片を、ヒトcDNAに由来のプライマーおよびC57 BL/6Jマウスの胃から単離されたテンプレートRNAを用いてRT PCRにより単離した。完全長cDNAは、5'/3'双方の方向においてcDNA末端の高速増幅により得られた。完全長cDNAは、49bpの5'非翻訳領域、1311bpのオープンリーディングフレームおよび622pの3'非翻訳配列(登録番号AJ245857;配列番号71のもとでEMBLデータベースに寄託された)からなる1982bpを包含する。
【0072】
Car9 cDNAは、47.3kDaの理論的分子量を有する437のアミノ酸タンパク質(登録番号CAC80975(Q8VDE4);配列番号73としてEMBLデータベースに寄託された)に関してコード化能力を有する。マウスタンパク質は、そのヒト相同体と69.5%の配列同一性を示し、同様の予測されたドメイン配列を有する[オパブスキー(Opavsky)ら、(1996年)]。アミノ酸(aa)1〜31(配列番号74)は、シグナルペプチドに相当する。成熟タンパク質(aa32〜389)(配列番号75)のN末端細胞外領域は、プロテオグリカン様領域(aa48〜107)(配列番号76)、および炭酸脱水酵素ドメイン(aa112〜369)(配列番号77)からなる。C末端領域(aa390〜437)(配列番号78)は、膜貫通アンカー(aa390〜411)(配列番号79)および短細胞質テール(aa412〜437)(配列番号80)からなる。マウスCA IXとヒトCA IXとの間の配列相違の大部分は、プロテオグリカン様(PG)領域内に見られたが、一方、CAドメインは最も高度に保存されていることが明らかとなった。しかしながら、酵素活性部位に関与する5つの重要なアミノ酸(His94、His96、Glu106、His119、Thr199)のうち、ヒトCA IXでは全てが保存されるが、マウスのイソ酵素では1つが変化する(Thr199→Ser)。その置換にもかかわらず、スルホンアミドアガロースに結合されたマウスCA IXは、酵素活性を有し得ることが示唆される。
【0073】
Car9 cDNAの利用により、マウス組織におけるCar9 mRNAの発現パターンの分析を可能にした。CAドメインをコードする領域の3'部分を検出するために設計された170bpのリボプローブによりリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RNP)を実施した。ヒトおよびラットの組織における分布に基づいて予想されたとおり、最高レベルのCar9 mRNAが、マウスの胃に検出された。中等度レベルのCar9 mRNAは、小腸および大腸に見られたが、一方、腎臓および脳では、極めて弱い発現を示した。肝臓および脾臓は陰性であった。注目すべきことに、RNPシグナルはまた、胎仔日齢E18.5におけるマウス胎仔に存在したが、E10.5における胎仔幹細胞には存在しなかった。これは、マウス胃腸管の発育におけるCA IXに関する役割を示唆し得る。
【0074】
マウスCar9遺伝子の組織化
Car9遺伝子を単離し、その組織化を判定するために、完全長Car9 cDNAを、pBAC108Lにおけるマウス胎仔幹細胞129/Olaゲノムライブラリーのスクリーニングに用いた。マウス野生型ゲノムDNAの制限マッピングおよびサザンブロット解析により確認されたように、完全Car9ゲノム配列を含む1つのBACM−355(G13)クローンが得られた。このクローンから誘導された3つのオーバーラップゲノム断片を、pブルースクリプトII KSにサブクローン化した。
【0075】
ゲノム配列(GenBank登録番号AY049077;配列番号72)の分析により、Car9遺伝子は、6.7kbのマウスゲノムを含み、11のエクソンおよび10のイントロンからなることが明らかとなった。イントロンの分布およびエクソン対タンパク質ドメインの関係は、ヒトのものと同様である[オパブスキー(Opavsky)ら、(1996年)]。サザンハイブリダイゼーションパターンにより、Car9が単一コピー遺伝子であることが示された。5.9kbを包含し、プロモーター領域およびエクソン1〜6にわたる大腸菌(EcoRi)−HindIII断片を標的ベクターの構築に用いた。
【0076】
MNタンパク質および/はポリペプチド
語句「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)とは、MN遺伝子またはその断片によりコードされたタンパク質および/またはポリペプチドを意味するために本明細書に定義される。本発明による代表的な好ましいMNタンパク質は、図8に示される推定されたアミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図8に示されたMNタンパク質と実質的に相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、このような実質的に相同的MNタンパク質/ポリペプチドは、本発明のMN特異的抗体、好ましくはMAb M75、V/10、MN12、MN9およびMN7またはそれらの等価体と反応性であるものである。M75 mabを分泌するVU−M75ハイブリドーマは、1992年9月17日、HB11128としてATCCに寄託された。
【0077】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合により共有結合されたアミノ酸鎖であり、本明細書において50以下のアミノ酸からなることが考えられている。「タンパク質」は、本明細書において50以上のアミノ酸からなるポリペプチドであると定義される。用語のポリペプチドは、用語のペプチドおよびオリゴペプチドを包含する。本明細書に用いられる「ASのMN/CA IX」、「ASのCA IX」または「ASのMN」とは、AS型のMN/CA9 mRNAによりコードされたタンパク質および/またはポリペプチドのことである。
【0078】
MNタンパク質は、幾つかの興味深い特徴:細胞膜局在化、HeLa細胞における細胞密度依存性の発現、HeLa×線維芽細胞体細胞ハイブリッドの腫瘍形成表現型との関連性、および他の組織にもあるが、中でも多くのヒト癌における発現を示す。MNタンパク質は、一般に対応する正常な組織には認められないが、腫瘍組織切片では直接見ることができる(正常な胃粘膜および胆嚢組織のような上記の例外)。MNはまた、形成異常および/または悪性疾患を示す組織検体の形態学的には正常に見える領域に、時には発現する。まとめると、これらの特徴は、細胞増殖、分化および/または悪性転換の調節におけるMNの関与を示している。
【0079】
インビボで新生物細胞によって生じたタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養における腫瘍細胞により、または悪性転換細胞により生じたタンパク質またはポリペプチドとは配列が変化し得ることが認識できる。したがって、限定はしないが、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびそれらの組合せなど、アミノ酸配列を変化させたMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲内に入る。体液中に存在するタンパク質は、タンパク質分解処理などの分解処理に供されることもまた認識することができ;したがって、著しく切断されているMNタンパク質およびMNポリペプチドが、血清などの体液中に認められる。語句「MN抗原」は、本明細書では、MNタンパク質および/またはポリペプチドを包含するものとして使用される。
【0080】
MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は、遺伝子技法により修飾できることがさらに認識されるであろう。1つ以上のアミノ酸を欠失させることができるか、または置換することができる。このようなアミノ酸の変化により、タンパク質またはポリペプチドの生物学的活性における測定可能な変化は生じ得ず、また本発明の範囲内にあるタンパク質またはポリペプチド、ならびにMN突然変異タンパク質が生じ得る。
【0081】
本発明のMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明による種々の方法、例えば、組換え的、合成的あるいは生物学的に、すなわち長鎖タンパク質およびポリペプチドを酵素的および/または化学的に開裂させることにより調製することができる。MNタンパク質を調製するための好ましい方法は、組換え手法によるものである。
【0082】
MNタンパク質およびポリペプチドの組換え製造
MNタンパク質、例えば、図8に示されたようなMNタンパク質またはその断片を調製するための代表的な方法は、MN cDNAの完全長または適切な断片を、適切な発現ベクター内に挿入することであると考えられる。ザバダ(Zavada)らの国際公開第93/18152号パンフレットには、ベクターpGEX−3X(ファルマシア(Pharmacia)社)の部分的cDNAを用いて融合タンパク質GEX−3X−MN(現在はGST−MNと称される)の製造について記載されている。XL1−ブルー細胞に由来する非グリコシル化GST−MN(MN融合タンパク質MNグルタチオンS−トランスフェラーゼ)。
【0083】
ザバダ(Zavada)らの国際公開第95/34650号パンフレットには、昆虫細胞から発現されたグリコシル化MNタンパク質および発現プラスミドpEt−22b[ノバジェン(Novagen)社(米国ウィスコンシン州マジソン所在)]を用いて大腸菌(E.coli)から発現された非グリコシル化MNタンパク質双方の組換え製造が記載されている。組換えバキュロウィルス発現ベクターは、昆虫細胞を感染させるために使用された。グリコシル化MN20−19タンパク質は、バキュロウィルス感染sf9細胞[クロンテック(Clontech)社(米国カリフォルニア州パロアルト所在)]において組換え的に製造された。
【0084】
MN特異的抗体の調製
用語の「抗体」は、抗体全体のみならず抗体の生物学的活性断片、好ましくは抗原結合性領域を含む断片を含むように本明細書に定義されている。MNタンパク質および別の組織特異的抗原に特異的である二重特異性抗体が、抗体の定義にさらに含まれる。
【0085】
本発明の方法に従った有用な抗体は、従来の方法論および/または遺伝子工学により調製することができる。抗体断片は、好ましくは、超可変領域など、軽鎖および/または重鎖(VHおよびVL)の可変領域、さらにより好ましくは、VHおよびVL双方の領域から遺伝子的に操作することができる。例えば、本明細書に用いられる用語の「抗体」は、他の可能性の中でも「一価抗体」;共有結合であろうと非共有結合であろうともFab'およびF(ab)2断片を含むFabタンパク質;軽鎖または重鎖単独、好ましくは、可変重鎖領域および可変軽鎖領域(VHおよびVL領域)、より好ましくは、超可変領域[あるいは、VHおよびVL領域の相補性決定領域(CDR)として知られている]を含み;1つ以上の抗原に結合できる「ハイブリッド」抗体;定常領域−可変領域のキメラ、異なる起源の重鎖および軽鎖を有する「複合」免疫グロブリン;特異性の改善および標準的な組換え技法、またオリゴヌクレオチド特異的変異誘発技法により調製された他の特徴を有する「改造」抗体などのポリクローナル抗体ならびにモノクローナル抗体および生物学的に活性なそれらの断片を含む[ダルバディー−マクファリアンド(Dalbadie−MacFarland))ら、「Oligonucleotide−directed mutagenesis as a general and powerful method for studies of protein function」、PNAS USA 79:6409頁(1982年)]。
【0086】
多数の使用に関して、特に医薬品用、またはインビボ追跡用の使用に関して、部分的またはより好ましくは、完全なヒト化抗体および/または生物学的に活性な抗体断片が、特に最も適切であることが見出され得る。このようなヒト化抗体/抗体断片は、当業界に周知の方法により調製することができる。
【0087】
MNタンパク質/ポリペプチドを同定するために本発明に従った有用な抗体は、従来の様式、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素、蛍光化合物、または多くの他の標識があるが、中でも125Iなどの放射性同位元素により標識化することができる。本発明による好ましい標識は125Iであり、抗体を標識する好ましい方法は、クロラミン−Tの使用によるものである[ハンター,W.M.(Hunter,W.M.)、Handbook of Experimental Immunology14.1−14.40頁における「Radioimmunoassay」(D.W.ウェア(D.W.Weir)編集;ブラックウェル(Blackwell)、オックスフォード/ロンドン/エジンバラ/メルボルン;1978年)]。他の代表的な標識としては、例えば、多くの他の可能性があるが、中でもアロフィコシアニンおよびフィコエリトリンを挙げることができる。
【0088】
ザバダ(Zabada)らの国際公開第93/18152号パンフレットおよび国際公開第95/34650号パンフレットには、MN特異的抗体を製造するための詳細な方法、およびM75、MN7、MN9、ならびにMN12モノクローナル抗体として代表的なMN特異的抗体を調製するための詳細なステップが記載されている。
【0089】
エピトープ
エピトープを含むペプチドに対するMAbの親和性は、文脈において、例えば、そのペプチドが、短い配列(4〜6のaa)であるかどうか、またはこのような短ペプチドが、片側または両側に、より長いaa配列によってフランクされているかどうか、またはエピトープに関する試験において、そのペプチドが溶液中にあるか、または表面に固定されているかどうかによって決まる。したがって、MN特異的MAbに関して本明細書に記載された代表的なエピトープは、これらMAbの使用の文脈において変わり得ることが当業者によって予想されるであろう。
【0090】
用語の「MNタンパク質/ポリペプチドのエピトープに相当する」は、幾つかの場合において、天然タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の変更は抗原性であり、新生物疾患および/または抗腫瘍形成効果に対して防御免疫を付与し得る実用的な可能性を含むことが理解されるであろう。可能な配列変更としては、限定はしないが、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断、内挿およびそれらの組合せが挙げられる。このような変更を含むタンパク質またはポリペプチドが免疫原性であり、このようなポリペプチドまたはタンパク質によって誘発された抗体が、ワクチンとして投与された場合に防御免疫および/または抗腫瘍形成活性を提供するのに十分な程度に、天然MNタンパク質およびポリペプチドと交差反応するという条件で、このような変更は本発明の考慮された範囲内に入る。
【0091】
PGドメインおよび隣接領域における免疫優性エピトープ
上記のとおり、完全長CA IXの細胞外ドメインは、PGおよびCAドメインならびに幾つかのスペーサーあるいはヒンジ領域を含んでなる。CA IXの免疫優性エピトープは、主として約aa53〜111(配列番号8)または約aa52〜125(配列番号81)におけるPG領域にあり、好ましくはここでは約aa52〜125(配列番号81)にあると考えられる。CA IXの免疫優性エピトープは、PG領域に隣接する領域に位置し得る。例えば、aa36〜51(配列番号21)に関するエピトープは、免疫優性エピトープであると考えられるであろう。
【0092】
主要なCA IXの免疫優性エピトープは、M75 mabに関するものである。M75モノクローナル抗体は、CA IXのN末端プロテオグリカン様(PG)領域における免疫優性エピトープに特異的であると考えられる。アミノ酸配列のアラインメントにより、MN/CA IXタンパク質PG領域(aa53〜111)[配列番号8]とヒトアグレカン(aa781〜839)[配列番号10]との間でかなりの相同性が示される。M75のエピトープは、CA IXのN末端PG領域において4回等しく反復されているアミノ酸配列PGEEDLP(配列番号11)として同定されている[Zavada(ザバダ)ら(2000年)]。代表的な免疫優性エピトープでもあり、M75 mabもまた結合し得る密接に関連するエピトープは、例えば、図8A〜8Cのアミノ酸(aa)61〜96(配列番号12)に見ることができる免疫優性の6回タンデム反復を含み、予測されたCA IXアミノ酸配列を示す。PGドメイン内の免疫優性のタンデム反復エピトープの変異としては、GEEDLP(配列番号13)(aa61〜66、aa79〜84、aa85〜90およびaa91〜96)、EEDL(配列番号14)(aa62〜65、aa80〜83、aa86〜89、aa92〜95)、EEDLP(配列番号15)(aa62〜66、aa80〜84、aa86〜90、aa92〜96)、EDLPSE(配列番号16)(aa63〜68)、EEDLPSE(配列番号17)(aa62〜68)、DLPGEE(配列番号18)(aa82〜87、aa88〜98)、EEDLPS(配列番号19)(aa62〜67)およびGEDDPL(配列番号20)(aa55〜60)が挙げられる。他の免疫優性エピトープとしては、例えば、aa68〜91(配列番号22)が挙げられるであろう。
【0093】
モノクローナル抗体MN9およびMN12は、それぞれN末端PG領域の配列番号19〜20内の免疫優性エピトープに特異的であると考えられる。MN7モノクローナル抗体は、図8A〜8Cのaa127〜147(配列番号23)においてPG領域に隣接する免疫優性エピトープに特異的であり得る。
【0094】
CAドメイン(配列番号9)内で好ましいと考えられるエピトープは、約aa279〜291(配列番号67)に由来する。細胞内ドメイン(ICドメイン)(配列番号7)内で好ましいと考えられるエピトープは、約aa435〜450(配列番号68)に由来する。
【0095】
配列番号69(図8A〜8Cのaa166〜397)は、CAドメインの重要な抗原性成分であると考えられる。CAドメイン内には幾つかの抗原性部位がある。CAドメインに特異的になるように、CA IX欠失マウスにおいて調製された4群のCA IX特異的モノクローナル抗体があり;これらの群のうちの3群は配列番号69である。抗原性部位は、アミノ酸135〜166(配列番号84)にもまた部分的に位置し得る。MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインに特異的に結合する代表的な好ましいMN特異的抗体は、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10 Mabである。
【0096】
アッセイ
組織中のASおよびFLのMN/CA IX発現に関するスクリーンのためのアッセイ
この方法は、もしあれば、前新生物疾患/新生物疾患と診断された患者から採取したサンプルに存在するASおよび/またはFLのMN/CA9遺伝子発現産物に関するスクリーニングを含むことができ;MN/CA9遺伝子発現産物は、MNタンパク質、MNポリペプチド、MNタンパク質またはMNポリペプチドをコードするmRNA、MNタンパク質またはMNポリペプチドをコードするmRNAに相当する、ASまたはFL型のcDNAであり得る。
【0097】
多数のフォーマットを、本発明の方法による使用に適応させることができる。ASおよび/またはFLのMN mRNAの検出および定量化は、例えば、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRなどの核酸増幅法により実施することができるか、またはマイクロアレイチップの使用により実施することができる。ASおよび/またはFLのMNタンパク質またはMNポリペプチドの検出および定量化は、当該技術分野で一般に公知のアッセイは他にもあるが、中でもウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、放射免疫アッセイ、競合免疫アッセイ、デュアル抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫アッセイ、免疫電子顕微鏡および免疫金を用いる走査型顕微鏡により実施することができる。このようなアッセイにおけるMN ASおよび/またはFL遺伝子発現産物の検出は、当該技術分野で公知の従来法により適応させることができる。
【0098】
核酸プローブおよび/またはプライマー
本発明の核酸プローブおよび/またはプライマーは、図8に示されたMN cDNA配列[配列番号1]、または図9A〜Fの完全ゲノム配列[配列番号3]などの他のMN遺伝子配列と相補的または実質的に相補的である配列を含むものである。語句の「実質的に相補的」は、当該技術分野で十分に理解され、したがって標準的なハイブリダイゼーション条件の文脈において用いられる意味を有するように本明細書に定義される。ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、相補性の精度を制御するために調整することができる。2つの核酸は、例えば、それらがストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズする場合、互いに実質的に相補的である。上記に示したように、少なくとも80〜90%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する極めて密接に関連するnt配列だけが、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすると考えられる。
【0099】
本発明に使用される特に好ましいプローブおよび/またはプライマーは、完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現と、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現とを識別するプローブおよび/またはプライマーである。最近の多数の論文は、癌における選択的スプライシングに関する一般情報、および癌関連遺伝子により発現されたmRNA変異体を検出するために使用された特定のプローブおよび/またはプライマーの設計に関する特定の情報を提供しており、そこからプローブおよび/またはプライマーが、ASおよび/またはFL CA9 mRNA変異体を検出するために設計され得る[例えば、マトリン(Matlin)ら、Nat Rev Mol Cell Biol.6:386−398頁(2005年);ベナブルスJP(Venables JP)、BioEssays、28:378−386頁(2006年);スコセイム(Scotheim)およびネス(Nees)、Int J Biochem Cell Biol.、39(7−8):1432−1449頁(2007年);スレブロウ(Srebrow)およびコーンブリット(Kornblihtt)、J Cell Sci.、119(第13部):2635−2641頁(2006年);ゴーシー(Gothie)ら、J Biol Chem.275:6922−6927頁(2000年);ロビンソン(Robinson)ら、J Cell Sci.、114:853−865頁(2001年);フー(He)ら、Oncogene、25:2192−2202頁(2006年);ロイ(Roy)ら、Nucleic acids Res.、33(16):5026−5033頁(2005年);タコーネリ(Taconelli)ら、Cancer Cell 6:347−360頁(2004年)を参照]。一方法において、FL CA9 mRNAだけを検出するために使用される少なくとも1種のプローブまたはプライマーが、AS CA9 mRNAにおいて欠失された領域内から全体的にまたは部分的に誘導され、一方、AS CA9 mRNAだけを検出するために使用される少なくとも1種のプローブまたはプライマーは、選択的スプライシングで生じたジャンクションから誘導されるであろう。例えば、ヒトFLのMN/CA9特異的プローブ/プライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に対して十分な特異性を有して、特異的に結合することが好ましく、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7と8のスプライスジャンクション、エクソン8と9のスプライスジャンクション、エクソン9と10のスプライスジャンクションに対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合する核酸を含みうる;あるいは、任意のこれらの配列に対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合するのに十分に相同的な核酸を含みうる。同様にヒトASのMN/CA9特異的プローブ/プライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合する核酸を含みうる;あるいは、そのスプライスジャンクション位に対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合するための十分に相同的な核酸を含みうる。あるいは、プローブおよび/またはプライマーは、FLおよびAS双方のCA9 mRNA、ならびに例えば、ゲル上で長さにより識別されたFLおよびAS型のmRNA産物を検出するために使用できるであろう。
【0100】
MN選択的スプライシング変異体に基づく癌療法
多くの論文において、癌関連遺伝子の選択的スプライシング変異体に基づく癌療法が検討されており、他にも療法があるが、中でもアンチセンスおよびRNA干渉療法に使用されるオリゴヌクレオチドの設計に関する戦略が提供されている[例えば、ガルシア−ブランコ(Garcia−Blanco)、Curr Opin Mol Ther.、7(5):476−482頁(2005年);ウィルトン(Wilton)およびフレッチャー(Fletcher)、Curr Gene Ther.、5(5):467−483頁(2005年);パジャレス(Pajares)ら、Lancel Oncol.、8(4):349−357頁(2007年);シンY.(Xing Y.)、Front Biosci.、12:4034−4041頁(2007年)]。例えば、当業者は、それぞれ配列番号1および108の核酸配列からヒトAS CA9 mRNAには特異的ではないが、ヒトFL CA9 mRNAに特異的な適切なアンチセンス核酸配列、好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチドを判定することができるであろう。
【0101】
AS型のCA9 mRNAにより発現されたASのMN/CA IX全体に加えて、単離されたASのMN/CA IXタンパク質またはポリペプチド断片が、FLのMN/CA IX活性を阻害する能力を有し得ることを当業者は予想するであろう。したがって、FLのMN/CA IXの活性を阻害するASのMN/CA IXから誘導された任意のタンパク質またはポリペプチドは、本発明の治療法の範囲内で考慮されている。
【0102】
MN RNA干渉(MN RNAi)
MN遺伝子の発現阻害は、例えば、MN遺伝子の発現に対するRNA干渉効果を適用することによって実施することができる。RNA干渉は、近年報告されたようにRNAを用いることによって遺伝子発現を阻害するための方法である[エルバシア(Elbashir)ら、Nature、411:494−498頁(2001年)]。さらに詳細には、MN遺伝子の発現は、MN遺伝子の特定のmRNAスプライス変異体(FLスプライス変異体など)の発現に対してRNA干渉効果を示す1種類以上のオリゴヌクレオチドを用いることによって阻害することができる。
【0103】
MN遺伝子のmRNAスプライス変異体の発現阻害は、細胞にcDNAの断片を含むベクターまたはその相補的RNAを形質移入することにより実施することができる。したがって、前記オリゴヌクレオチドを含んでなるMNスプライス変異体を阻害する薬剤もまた、本発明の範囲内に含まれる。MN mRNAスプライス変異体を阻害する薬剤は、1種のオリゴヌクレオチドを含むことができるか、または2種以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。RNA干渉効果を示す前記オリゴヌクレオチドは、MN遺伝子発現系を用いてFL mRNA変異体の発現を特異的にサイレンシングするオリゴヌクレオチドを選択することによって、MN遺伝子のASおよび/またはFL mRNA変異体のヌクレオチド配列に基づいて設計されるオリゴヌクレオチドから得ることができる。
【0104】
MN遺伝子療法のベクター
オリゴヌクレオチドを用いるFLのMN/CA IXの発現を阻害するために、遺伝子療法の使用により標的細胞にオリゴヌクレオチドを導入することが可能である。遺伝子療法は、既知の方法を用いることによって実施することができる。例えば、注入により直接オリゴヌクレオチドを投与する工程を有してなる非ウィルス性形質移入、またはウィルスベクターを用いる形質移入のいずれかを用いることができる。非ウィルス性形質移入に関する好ましい方法は、オリゴヌクレオチドを含むリポソームなどのリン脂質小胞を投与することを含む方法、ならびに注入により直接オリゴヌクレオチドを投与することを含む方法がある。形質移入に使用される好ましいベクターは、ウィルスベクター、より好ましくは、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ関連ウィルスベクターおよびワクシニアウィルスベクターなどのDNAウィルスベクター、またはRNAウィルスベクターである。
【0105】
材料および方法
細胞培養、組織および抗体
マウスNIH 3T3線維芽細胞、イヌMDCK上皮細胞、腎癌由来のヒト腫瘍細胞株CAKI−1およびACHN、ならびに子宮頚部癌由来のCaski、SiHa、HeLa、およびC33a系を、37℃、5%CO2で加湿下、10%FCS(バイオウィタカー(BioWhittaker)社(ベルギー国ベルビエ所在))および40μg/mlのゲンタマイシン(レック社(スロベニア国所在)で補足されたDMEM中で培養した。低酸素処理は、37℃、2%O2、5%CO2、10%H2および83%N2中、嫌気性ワークステーション(ラスキンテクノロジーズ(Ruskin Technologies)社(英国ブリジェンド所在))内で実施した。
【0106】
HeLa細胞のスフェロイドを、37℃で3日間、組織培養皿のふたに懸滴させた培地20μl当り400の細胞から予め形成した。生じた細胞凝集体を、非接着表面のペトリ皿に移し、3日目ごとに培地を交換しながらさらに11日間懸濁液中で培養した。このスフェロイドを、ニコンE400顕微鏡で調べて、ニコンクールピクス990カメラで撮影した。
【0107】
ヒト組織は、以前に記載された(キベラ(Kivela)ら、2005年)採取物から選択された。マウス組織は、子宮頚部転移により殺処理されたBALB/cマウスから切開された。この組織を、RNA単離および/またはタンパク質抽出に使用するまで−80℃で保存した。
【0108】
ヒトMN/CA IXタンパク質に特異的なM75およびV/10マウスMAbは、以前に同定されている(パストレコバ(Pastorekova)ら、1993年、ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)。二次抗マウスペルオキシダーゼ複合化抗体および西洋わさびペルオキシダーゼと複合化した抗ウサギ抗体は、セバファーマ(Sevapharma)社(チェコ共和国プラハ所在)から入手した。抗マウスFITC複合化抗体は、ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories)社(米国カリフォルニア州バーリンガム所在)から入手した。Alexa488複合化抗ウサギ二次抗体は、アドバンスト・ターゲッティング・システムズ(Advanced Targeting Systems)社(米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)から入手した。
【0109】
免疫蛍光法
免疫蛍光法を、以前に記載されたとおりに実施した(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。カバーガラス上で増殖させた細胞を氷冷PBSで2回すすぎ、冷メタノールにより−20℃で5分間固定した。このカバーグラスを、1%BSAを含むPBSにより37℃で30分間インキュベートし、次いで1:1000に希釈されたmCA IXに対しM75 mabまたはウサギポリクローナル血清を含む非希釈ハイブリドーマ培地と共にインキュベートした。マウスCA IXタンパク質に対する抗体は、他でも記載されている(ガット(Gut)ら、2002年)。一次抗体とのインキュベーションを、37℃での加湿チャンバ内で1時間実施した。このカバーグラスを、0.02%のツイーン20を含むPBSで10分間3回洗浄し、次にPBS中0.5%BSA中、1:300に希釈されたフルオレセイン複合化抗マウス二次抗体で処理するか、またはPBS中0.5%BSA中、1:1000に希釈された抗ウサギAlexa488複合化二次抗体で処理した。PBSで10分間、3回すすいだ後、このカバーグラスを装着媒体(カルビオケム(Calbiochem)社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ所在))と共に顕微鏡スライド上に乗せ、次にニコン社のE400顕微鏡で調べてニコンクールピクス990カメラで撮影した。
【0110】
発現プラスミド
マウススプライシング変異体をコードする真核生物発現プラスミドpSG5C−mASを、マウスCA9 cDNAを含むpSG5C−Car9プラスミドから逆PCRにより作出した。順方向プライマーは、エクソン9(m9S、5'−TCCATGTGAATTCCTGCTTCACTG−3')[配列番号102]の開始点に対して設計され、逆方向プライマーは、エクソン6(m6A、5'−CTTCCTCCGAGATTTCTTCCAAAT−3')[配列番号103]の終止点に特異的であった。同様に、ヒトスプライシング変異体をコードする真核生物発現プラスミドpSG5C−ASを、エクソン10および7に対するプライマーを用いて完全長ヒトCA9 cDNA(GenBank番号X66839)を含むpSG5C−MN/CA9発現プラスミド(パストレク(Pastorek)ら、1994年)から逆PCRにより作出した。順方向プライマー(h10S、5'−GTGACATCCTAGCCCTGGTTTTT−3')[配列番号104]は、エクソン10の開始点に特異的であり、逆方向プライマー(h7A、5'−CTGCTTAGCACTCAGCATCACTG−3')[配列番号105]は、エクソン7の終止点に特異的であった。同じh7Aおよびh10Sプライマーを、シグナルペプチドなしの完全長CA IXタンパク質をコードする一次プラスミド構成物pGEX−3X−CA9から、ヒトCA IXタンパク質のGST融合スプライス変異体をコードする細菌発現ベクターpGEX−3X−ASの調製に使用した。PCR増幅は、Phusionポリメラーゼ(フィンザイムス(Finnzymes)社(フィンランド国エスポー所在))を用いて実施した。PCR反応は、98℃で30秒間の最初の変性、98℃で10秒間32サイクルの変性、64℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分40秒間の伸長、最後に72℃で5分間の伸長で構成された。PCR産物をゲル精製し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで処理し、T4 DNAリガーゼ(インビトロジェン社(米国カリフォルニア州カールスバッド所在))とライゲーションさせた。全ての構成物を塩基配列決定法により検証した。ヒトCA IXの細胞外部分を含むGST−PGCA融合タンパク質をコードする構成物は、以前に記載されている(ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)。下表2に、実施例に使用されたプライマーの配列を提供する。
【表2】
【0111】
形質移入
細胞を60mmのペトリ皿にプレーティングし、翌日およそ70%の密度に達した。形質移入は、ヒトおよびマウスのCA IXのスプライシング変異体をコードするそれぞれ2μgのpSG5C−hASプラスミドおよびpSG5C−mASプラスミド、200ngのpSV2neoプラスミドと共に実施した。形質移入は、ヒトおよびマウスのCA IXのスプライシング変異体をコードするそれぞれ2μgのpSG5C−hASプラスミドおよびpSG5C−mASプラスミド、200ngのpSV2neoプラスミドと共に、Gene Porter II形質移入剤(ゲンランティス(Genlantis)社(米国カリフォルニア州サンディエゴ所在))を用いて実施した。HeLa細胞に関しては900μg/mlの濃度で、MDCK細胞に関しては500μg/mlの濃度でG418(インビトロジェン社製)を用いて、形質移入細胞を選別に供した。耐性コロニーをクローン化し、免疫ブロット法によりスプライシング変異体の発現を試験し、増殖させた。
【0112】
蛍光CA阻害剤の結合
蛍光CA阻害剤(FITC−CA I)は、ホモスルファニルアミドとフルオレセインイソチオシアネートとの反応により得られ、CA IXに対して24nMのKi値を示した(スバストバ(Svastova)ら、2004年、セッチ(Cecchi)ら、2005年)。この阻害剤を100mMの濃度で20%のDMSOを有するPBS中に溶解し、細胞への添加直前に培地中で最終的に1mM濃度に希釈した。MDCK−CA IX細胞(スバストバ(Svastova)ら、2004年)を、ヒトAS変異体を分泌するMDCK−AS形質移入体から馴化培地を含めた培地に、3.5cmの皿当り4×105細胞の密度でプレーティングした。対照細胞を、分泌ASの不在下でインキュベートした。24時間のインキュベーション後、同じ新鮮な培地を補充し、FITC−CA Iを細胞に添加し、細胞を低酸素ワークステーションに移し、さらに48時間結合させた。平行して酸素正常状態中でサンプルをインキュベートした。最後に細胞をPBSで5回洗浄し、ニコンE400エピ蛍光顕微鏡により検視した。蛍光強度は、Scion Image Beta4.02ソフトウェア(シオン社(Scion Corporation)(米国メリーランド州フレデリック所在))を用いて獲得した画像から評価し、相対的FITC−CA I結合をパーセントで表した。
【0113】
タンパク質の抽出
タンパク質は、以前記載されたとおり(スバストバ(Svastova)ら、2004年)、RIPA緩衝液により、細胞単層または組織ホモジネートから抽出した。タンパク質は、プロテアーゼ阻害剤のComplete mini(ロッシュ・アプライドサイエンス(Roche Applied Science)社(ドイツ国マンハイム所在))を含むRIPA緩衝液(PBS中、1%トリトンX−100、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド)により、細胞単層または組織ホモジネートから、氷上で30分間、抽出した。抽出物は、13000rpmで15分間、遠心分離し、総タンパク質濃度を、製造元の指示に従って、BCAアッセイ(ピアス(Pierce)社(米国イリノイ州ロックフォード所在))によって判定した。総タンパク質の抽出物(30〜50μgを含むアリコート)を、2−メルカプトエタノール有り(還元条件)、または2−メルカプトエタノールなし(非還元条件)で、ラムリ(Laemmli)のサンプル緩衝液中、10%および8%のSDS−PAGEにおいて分離した。
【0114】
免疫沈降および免疫ブロット法
低酸素状態下および正常酸素状態下で24時間、FCSなしでインキュベートしたAS−形質移入細胞の培地から、細胞外ヒトASの検出用サンプルを調製した。培地の1/4(500μl)を10倍に濃縮し、SDS−PAGEで分離した。免疫沈降用に、1mlのハイブリドーマ培地中のCA IX特異的MAbsを、タンパク質−Aセファロースの50%懸濁液(ファルマシア(Pharmacia)社(スウェーデン国ウプサラ所在))25μlに、室温で2時間結合させた。細胞抽出物(200μl)を、タンパク質−Aセファロースの50%懸濁液20μlで予備クリアしてから、結合したMAbに加えた。タンパク質−Aセファロース上に採取した免疫複合体を洗浄し、沸騰させ、以前記載されたとおり(ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)、SDS−PAGEおよび免疫ブロット法に供した。タンパク質を、SDS−PAGEにおいて分離し、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜(Immobilon(商標)−P、ミリポア(Millipore)社(米国マサチューセッツ州ビレリカ所在))上にブロットした。この膜を、0.2%Nonidet P−40を含むPBS中、5%無脂肪乳を含むブロック緩衝液で1時間処理し、次いで、ブロック緩衝液(1:2に希釈したハイブリドーマ培地中のM75モノクローナル抗体または1:1000に希釈したウサギ抗マウスCA IXポリクローナル抗体)中に希釈した一次抗体と共に1時間インキュベートした。処理後、膜を、0.2%のNonidet P−40を有するPBS中、45分間完全に洗浄し、ブロック緩衝液中で1:7500および1:5000に希釈した、西洋わさびペルオキシダーゼに結合させたブタ抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体(セバファーマ(Sevapharma)社製)と共に1時間インキュベートした。膜を、0.2%のNonidet P−40(シグマ(Sigma)社(米国ミズーリ州セントルイス所在))を含むPBS中で洗浄し、ECL検出系により展開した。
【0115】
膜タンパク質および膜直下タンパク質の単離およびオリゴマーの分析のため、細胞をPBSで洗浄し、RIPA抽出緩衝液と共に30秒間、氷上でインキュベートした。タンパク質を有するRIPA緩衝液を吸引し、細胞に新鮮なRIPA緩衝液を加えた。次いで、残りのタンパク質を氷上で15分間抽出した。CA IX特異的なMAb V/10(FLを認識するが、ASは認識しない)またはM75(双方の変異体を認識する)を用いて先ずオリゴマーをHeLa−AS抽出物から免疫沈降させた。沈降させたオリゴマーの成分を、還元性SDS−PAGE中に溶解し、ブロットし、ペルオキシダーゼ標識したM75を用いて可視化した。
【0116】
逆転写PCR
InstaPure試薬(ユーロジェンテック(Eurogentec)社(ベルギー国セライング所在)を用いて、総RNAを、細胞または組織から単離した。ランダムヘプタマープライマー(400ng/μl)を用い、M−MuLV逆転写酵素(フィンザイムス(Finnzymes)社(フィンランド国オイ所在))により、逆転写を実施した。5μgの総RNAとランダムプライマー(400ng/μl)の混合物を70℃で10分間加熱し、氷上で速やかに冷却し、6mMのMgCl2、40mMのKCl、1mMのDTT、0.1mg/mlのBSAおよび50mMのトリス−HCl、pH8.3を含む逆転写酵素緩衝液を添加した。最終容量24μlの混合物に、さらに200UのM−MuLV逆転写酵素を添加し、42℃で1時間インキュベートし、70℃で15分間加熱し、使用するまで−80℃で保存した。
【0117】
表2(上記)に掲載したプライマーと共に、Dynazyme EXTポリメラーゼ(フィンザイムス(Finnzymes)社製)によってPCRを実施した。得られたPCR断片を、1.5%アガロースゲル上で処理した。PCRのプロトコルは、以下のように構成された:94℃で3分間の後、以下を30サイクル:94℃で30秒間の変性、40秒間のアニーリング(温度はプライマーセットに依る)、72℃で40秒間の伸長、引き続き、72℃で5分間の最終伸長。このPCR産物を精製し、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社(米国フォスターシティー所在)のABI 3100による自動シークエンサーを用いて配列決定した。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は例示のみを目的としており、本発明を限定することは決して意図していない。
【0119】
実施例1
CA IXのマウススプライス変異体の同定、構造および発現
マウス組織におけるCar9 mRNAの発現に関する以前の逆転写(RT)PCRデータは、エクソン1〜6の増幅に基づいていた。しかし、エクソン6〜11にわたる領域を増幅するために、プライマーm6Sおよびm11Aを用いたCar9 mRNAのRT PCR分析により、2つの増幅産物、すなわち、1つは予想された大きさのPCR産物、もう1つはそれよりも小さい産物の存在が判明した(図1A、1B)。この小さいPCR産物の配列決定により、そのCar9特異性が証明され、それが、エクソン7および8を欠く、マウスCar9 mRNAの選択的スプライシング(AS)変異体であることが示された。このマウスAS変異体は、分析した3つの組織、胃、小腸および結腸全てに見られた(図1B)。対応する一対のプライマー(野性型に対してはm8S〜m10AおよびASに対してはm6/9S〜m10A)を用いたCar9の野生型およびAS変異体の個々のRT PCR増幅により、分析した組織において、双方の産物が同時に存在することが確認された(図1C)。
【0120】
AS変異体配列のコンピュータ解析により、推定タンパク質は、完全長マウスCA IXより約6kDaだけ小さく、その予測分子量は48kDaであることが示された。スプライシング変異体は、触媒的(CA)ドメインのC末端部分および膜貫通アンカーの上流の領域を欠く一方、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインは完全のままである、アミノ酸335〜379を欠失したタンパク質をコードする能力を有する(図1D、1E)。
【0121】
マウスAS CA IX変異体の細胞成分局在を調べるために、本発明者らは、AS CAr9のcDNAをpSG5C発現プラスミド内にクローン化し、それを、永久的な形質移入細胞株の作出に用いた。AS変異体は、内因性のCA IXタンパク質を含まないマウスNIH3T3線維芽細胞およびイヌMDCK上皮細胞に過剰発現した。ポリクローナル抗マウスCA IX抗体を用い(ガット(Gut)ら、2002年)、免疫ブロットおよび免疫蛍光により、双方の形質移入した細胞株を調べた。形質移入体の細胞抽出物中におよそ48kDaの単一バンドが検出され、コンピュータで予測されたマウスAS CA IXタンパク質の分子量とよく対応していた(図2A)。形質移入された細胞は、明瞭な細胞質染色を示し、マウスAS変異体が細胞質ゾル内に局在していることを示唆していた(図2B)。
【0122】
実施例2
CA IXのヒトスプライス変異体の同定および構造
ヒトの組織および細胞株におけるAS CA9 mRNAを探索するために、本発明者らは、ヒトCA9 mRNAの全体をカバーするプライマーセットを設計した(図3A)。これらを、ヒトの胃および小腸から単離したmRNAから逆転写したcDNAテンプレート上でRT−PCRにおいて用いた。エクソン1および6に対して設計されたプライマーを用いて、本発明者らは、予想されたPCR産物のみを検出した(図3B)。しかしながら、エクソン6および11に対するプライマーにより、2つのPCRアンプリコン、すなわち、大量の長い産生物と、非常に少量の短い産生物が生じた(図3C)。この短い方の産生物の配列解析によって、これが、ヒトCA9 mRNAのAS変異体に相当することが確認された。スプライシングにより、エクソン8および9の検出に至った。
【0123】
コンピュータで予測されたヒトAS CA IXタンパク質は、アミノ酸356〜412を欠いており、完全長(FL)CA IXに関する49kDaの予測サイズに比較して、その推定分子量は約43kDaである。欠失により、触媒的CAドメインのC末端部分から35のアミノ酸およびCAドメインと膜貫通領域との間に局在する21のアミノ酸が除去されたが、これらには、分子間S−S結合の形成に関与すると考えられるCys409が含まれる(図3D)。AS mRNAにおける1119bp位(FL CA9 mRNAでは、停止コドンは、1142bp位にある)におけるフレームシフトで作出された停止コドンにより、ASタンパク質は切断され、膜貫通ドメインも細胞質内ドメインも含んでいない(図3E)。
【0124】
実施例3
腫瘍細胞株および腫瘍組織におけるヒトAS CA IXの発現
CA9 mRNAのFL変異体およびAS変異体の別々の検出を促進するために、本発明者らは、それら個々の増幅を可能にするプライマーを利用した。その設計は、1つのFL特異的プライマーを欠失領域内に配置し、もう1つのAS特異的プライマーを選択的スプライシングで生じたジャンクションに配置することに基づいていた(図3A)。
【0125】
先ず、本発明者らは、低酸素状態(2%)および酸素正常状態(21%)に曝露したヒト癌細胞株におけるAS変異体の存在を解析した。AS変異体は、試験した全ての細胞株で検出され、低酸素状態と酸素正常状態とで同様のレベルを示した(図4A)。これは、FL CA9 mRNAと対照的であり、FLCA9 mRNAは、明らかに低酸素状態誘導的であり、いわゆる腎癌由来のACHN細胞および子宮頚部癌由来のCaski細胞およびSiHa細胞においてかなりのレベル増加を示し、一方、CAKI−1細胞は、きわめて低レベルのFLCA9を発現した(図4A)。CA9遺伝子を欠くC33a子宮頚部癌細胞においては、FLCA9特異的なシグナルは見られなかった(リースコブスカ(Lieskovska)ら、1999年)。
【0126】
以前の研究により、細胞周囲の低酸素状態に関連したFL CA IXの密度誘導発現が示されている(カルツ(Kaluz)ら、2002年)。AS変異体の発現が密度依存的であるかどうかを調べるために、本発明者らは、低密度培養(1cm2当たり1×104細胞でプレーティング)ならびに高密度培養(1cm2当たり8×104細胞でプレーティング)それぞれにおいて24時間培養したHeLa細胞およびSiHa細胞を用いた。高密度細胞は、明らかにFLCA9 mRNAの酸素正常状態発現を示したが、そのレベルは、低酸素状態細胞におけるレベルよりも低かった。AS変異体のレベルに関しては、低密度単層で培養した細胞と高密度単層で培養した細胞との間に顕著な違いは見られなかった(図4B)。
【0127】
最後に、本発明者らは、ヒトの胃、結腸、直腸および肝臓などの正常な組織と悪性組織におけるAS発現を解析した。RT−PCRにより、試験した全ての組織においてAS変異体の存在が判明した(図4C)。先行の研究と一致して、FL転写体は、正常な胃、ならびに結腸および直腸に由来する腫瘍において見られた(サーミオ(Saarnio)ら、1998年、キベラ(Kivela)ら、2005年)。
【0128】
実施例4
CA IXのヒトAS変異体の局在および基本的な特徴
CA IXのAS変異体の基本的な特性化を実施するために、本発明者らは、ヒトASタンパク質の異所性発現を有する形質移入体を作出した。CA IX陰性のMDCK細胞ならびに高密度および低酸素状態に応じて天然に発現するヒトHeLa子宮頚部癌細胞に、ヒトAS cDNAを形質移入した。TM領域およびIC領域のスプライシングおよびフレームシフト媒介の除去を予測したコンピュータ解析と一致して、AS CA IXタンパク質は、細胞膜に限定されなかったが、MDCK細胞と酸素正常状態のHeLa細胞の双方においては、細胞内局在を示した(図5A)。これは、形質移入MDCK細胞および低酸素状態(2%のO2)に曝露した偽形質移入HeLa細胞における細胞表面局在と明らかに対照的であった。
【0129】
形質移入HeLa−AS細胞は、免疫ブロットにおいて、AS CA IXに対応するおよそ43/47kDaの2つのバンドおよび低酸素状態に誘導されたFL CA IXに対応する54/58Kのさらに2つのバンドを示した(図5B)。ASタンパク質からの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインが完全に欠如しているため、本発明者らはまた、AS CA IX分子の少なくとも一部は、培地に放出されるはずであると推測した。この可能性を調べるため、細胞を、無血清培地中、酸素正常状態下および低酸素状態下で培養した。24時間のインキュベーション後、培地の1/4を濃縮し、SDS−PAGEにより分析した。免疫ブロットにより、酸素正常状態下と低酸素状態下の双方で、培地中にAS CA IXの存在が示された(図5B)。これらを考え合わせると、これらのデータは、ほとんど細胞膜に限定されているFL CA IXとは対照的に、ASは、細胞内ならびに細胞外空間に存在していることを示した。
【0130】
しかしながら、いくらかのAS分子がFL CA IXによるヘテロオリゴマー内に組み込まれる可能性が残っている。通常はCA IXの完全ドメインに結合するが、AS変異体を認識できないモノクローナル抗体のV/10を用いて、この推測を試験した(データは示していない)。FL分子との相互作用を介したCA IXオリゴマーの免疫沈降に、このV/10 Mabを利用した。次いで、オリゴマーの成分(組み込まれた可能性のあるAS分子を含め)を還元性PAGEに溶解させ、FL型とAS型の双方と反応するペルオキシダーゼ標識M75抗体を用いる免疫ブロットにより視覚化した。非還元条件下、FLタンパク質は、約153Kのオリゴマーを形成し、一方、AS CA IX変異体は、それができず、また、FL CA IXタンパク質によって構築されたオリゴマー内に進入することもできなかった(図6;詳細は、材料と方法を参照)。
【0131】
実施例5
ヒトAS CA IXの機能的特性
腫瘍細胞におけるFL CA IXの発現は、低酸素状態によって誘導される。低酸素状態はまた、CA IXの触媒性能も活性化し、その結果、細胞外pHの酸性化が増強される(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。この酸性化能力は、CA IXの触媒的CAドメインを欠くドミナントネガティブな変異体の過剰発現によって消滅する(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。ASタンパク質は、不完全なCAドメインしか含んでいないので、それが触媒的に活性であるかどうか、およびFL CA IXタンパク質によって媒介される酸性化を阻害する能力があるかどうかを分析することは特に重要であった。酵素活性の測定は、完全CAドメイン[例えば、配列番号9]を含むFL CA IXのGST融合細胞外部分に比較して、切断CAドメインを含む組換え細菌GST−AS融合タンパク質を用い、それによってPGドメインとCAドメインの双方[aa52〜397(配列番号83)]を含むGST−PGCAを形成し、ストップトフロー分光法により達成した。その結果、野生型CA IXの触媒活性、Kcat(WT)=3.8×105/秒は、スプライシング変異体において半分、Kcat(AS)=1.9×105/秒に減少することが判明した。また、GST−ASタンパク質は、炭酸脱水酵素のスルホンアミド阻害剤であるアセタゾールアミンに対して、かなり低い親和性:Ki WT=14nM対KiAS=110nMを示した。それらのデータにより、このスプライシングは、CA IXの酵素活性と阻害剤に対するその親和性との双方を損なったことが示唆される。
【0132】
また、本発明者らは、AS CA IXが、低酸素条件下で、細胞外pHを酸性化するFL CA IXの能力を調節できるかどうかを知ることを望んだ。その目的のために、本発明者らは、2%のO2(低酸素状態)および21%のO2(酸素正常状態)において、48時間インキュベートした形質移入HeLa−AS細胞と偽形質移入対照とを分析した。低酸素インキュベーションは、酸素正常状態対応物に比較して、対照ならびにAS形質移入HeLa細胞において、予想された細胞外酸性化をもたらした(図7A)。しかし、培地は、AS過剰発現細胞において、酸性化がおよそ0.2pH単位少なく、ASが野生型のCA IXタンパク質の酸性度を阻害したことを示唆した。
【0133】
CA IXの触媒部位が細胞外空間に曝露されるため、本発明者らは、ASの細胞外画分の可能な役割を試験した。先に述べたように、CA IXの活性は、触媒部位がフルオレセイン標識CA阻害剤(FITC−CA I)によってアクセス可能である低酸素状態−活性化CA IXにのみ結合する阻害剤を用いて間接的に示すことができる(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。したがって、本発明者らは、低酸素で処理した場合、CA IX媒介の細胞外酸性化を示し、低酸素状態でFITC−CAを蓄積するが、酸素正常状態においては蓄積しないCA IX−形質移入MDCK細胞の確立されたモデルを用いた。ここで本発明者らは、AS分泌MDCK−CA IX細胞形質移入体からの培地の存在下および不在下で、MDCK−CA IX細胞におけるFITC−CA Iの蓄積を分析した。図7Bに示されるように、AS含有調整培地を混合した新鮮培地中でのMDCK−CA IX細胞のインキュベーションにより、FITC−CA IXの蓄積が明らかに減少し、細胞外ASが阻害剤の結合を減少させたという考えを裏付けていた。この実験を、1/2ならびに1/3のAS含有調整培地によって反復した。獲得した画像を分析して、蛍光強度の差を判定した。その結果、ASの細胞外画分は、FITC−CA Iの蓄積をおよそ半分に減少させることが実証された(図7C)。
【0134】
FL CA IXの機能性に及ぼすAS変異体の効果が、生物学的帰結を有し得るかどうかを調べるために、本発明者らは、偽形質移入対照に比較して、HeLa−AS形質移入体の増殖パラメーターを分析した。酸素正常状態または低酸素状態とは独立して、接着培養における短期(72時間)増殖に際して、これら2つの細胞型の間に有意な差は見られなかった(データは示していない)。したがって、本発明者らは、14日間増殖させたHeLa細胞スフェロイドも作製し、HeLa−AS細胞および対照HeLa細胞それぞれから作出したスフェロイドの質量および形状を比較した。HeLa−ASスフェロイドはそれほど小型でなく、低酸素および酸性pHを被る細胞を通常含む中央領域を欠いた(図7D)。これらHeLa−ASスフェロイドの外見は、pHを調節するFL CA IXの能力低下に導くASの効果が、これらの微小環境ストレスを生き延びる細胞の能力に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0135】
これらをまとめると、我々の結果によって、AS CA IXは、FL CA IXに比較して、調節のされ方が異なっており、局在化が異常であり、機能が不能化されていることが示された。
【0136】
考察
選択的スプライシングの脱調節は、特に癌においてよく認識された現象である(ベナブルス(Venables)ら、2006年)。CD44、HIF−α、VEGF、オステオポンチンなど、また他にも多くの、その産物が腫瘍の進行に因果的に関与している、選択的にスプライスされた遺伝子の例は多数ある(ワン(Wong)ら、2003年、ゴチー(Gothie)ら、2000年、ロビンソン(Robinson)ら、2001年、フー(He)ら、2006年)。いくつかの場合、正常な組織でな稀であるスプライス型が腫瘍においては一般的になり得、一方、正常組織に存在する選択的スプライス型は、不変のままであり得る(ロイ(Roy)ら、2005年)。
【0137】
本研究において同定されたヒトCA IXの選択的スプライシング変異体は、この範疇に分類できるが、完全長CA IXの発現パターンはかなり特殊であるため、明快に結論づけることは難しい。FL CA IXは、胃や小腸などのきわめてわずかな正常組織中に多量に存在するが、同時に、その選択的スプライシング変異体の発現は低レベルである。胃癌においては、FL CA IXの発現は減少するが、ASのレベルは正常な胃と同様である。他方、完全長CA IXの発現は、正常な結腸および直腸において存在しないか、またはきわめて少なく(本研究において分析されていない他の正常組織においても)、対応する腫瘍においては有意に増加する(サーミオ(Saarnio)ら、1988年)。しかしながら、AS変異体は、正常な組織と結腸直腸癌の双方において、安定した発現レベルを示す。これらのデータにより、その発現は腫瘍の表現型に関連していないことが強く示唆される。さらには、そのレベルが密集培養で増殖させ低酸素状態に曝露された細胞において誘導されるFL CA IXとは対照的に、AS変異体は、基本的に低酸素状態および細胞密度には依存しない。
【0138】
ASの比較的低いが構成的な発現は、可能性のある予後診断または予測の目的のために低酸素状態腫瘍のマーカーとしてCA9転写を用いる臨床的研究にとってかなり重要である。正常および/または非低酸素状態組織におけるFL CA9の不在下でASが存在するために、スプライシングによって影響を受けない領域の検出を目的に設計されたプライマーまたはプローブは、CA9 mRNAの2つの型を識別することができず、したがって、偽陽性の結果を与える可能性があり、低酸素状態に誘導されたFL CA9の真の臨床値に影響を及ぼし得る。
【0139】
注目すべきことに、FL転写体に比較してAS mRNAの5'PACE分析により、同じ長さの産物が作出され、双方の変異体が同一のプロモーターから生じるという結論を裏付けている(データは示していない)。この事実は、生理学的環境に依存するCA9転写体のプロセシングにおいて、転写機構とスプライシング機序の成分との差異的協力を示唆し得る。実際、hTERT、TrkAおよびXBP1に関連するものなど、低酸素状態によって調節されるスプライシング事象がいくつかある(アンダーソン(Anderson)ら、2006年、タコーネリ(Taconelli)ら、2004年、ロメロ−ラミレツ(Romero−Ramirez)ら、2004年)。hTERTの場合、RNAポリメラーゼII、TFIIB、HIFおよびコアクチベーターを含む転写複合体が、低酸素状態下でプロモーターに動員され、転写が進行する限り遺伝子に結合したままでいることが実証されている。これによって、酵素の活性形態に有利なスプライスパターンにおけるスイッチが誘起される(アンダーソン(Anderson)ら、2006年)。CA9遺伝子の転写の間も同様な機序がはたらく可能性はかなり考え得ることである。
【0140】
ヒトCA9 mRNAのAS変異体は、エクソン8プラス9の欠失から生じ、触媒的ドメインの膜貫通領域、細胞内テールおよびC末端部分を含まない切断タンパク質に翻訳される。TMおよびIC領域の除去は明らかに、細胞間空間を優勢的に占有し細胞外媒体にも放出されるこのAS変異体の局在変更の原因となる。これは、総体的な細胞膜タンパク質であるFL CA IXタンパク質とは対照的である。触媒的ドメインに関連するこのような部分的欠失に関連した不適切な局在により、タンパク質の機能性が損なわれると予想することができる。実際、GST−ASは、完全な触媒的ドメインを含む対応するGST−PG+CAタンパク質の酵素活性の半分しか示さない。しかしながら、低酸素状態下で、CA IXが炭酸トランスポーターと相互作用し、細胞膜全般にわたるpH調節に寄与する、局所の細胞文脈(モーガン(Morgan)ら、2007年、スバストバ(Svastova)ら、2004年、スウィータッチ(Swietach)ら、2007年)にこの知見を直接移し変えることはきわめて難しい。第1に、CA IXの触媒性能の調節に確かにある役割を果たしている細胞下構造、タンパク質−タンパク質相互作用、イオン流入および微小環境の影響が無い設定下、細菌内で産生されたタンパク質によって、活性の測定を実施した。第2に、種々の炭酸脱水酵素イソ酵素の触媒活性は、おおよそ2桁の大きさの範囲内で変わり、より高い活性イソ型は、中程度と考えられるイソ酵素よりも20倍からほんの3倍までの活性の高さを示す(パストレコバ(Pastorekova)ら、2004年)。したがって、半分に減少した活性が、CA IXの生理学的機能にとって十分であるかどうかを除外することは不可能である。いずれにせよ、AS変異体は細胞膜に適切に局在しておらず、CA IXタンパク質の機能にとってきわめて重要な条件であるオリゴマーを形成することができないため、この疑問は恐らく重要ではない。
【0141】
しかしながら、AS型のCA IXを構成的に過剰発現する低酸素状態のHeLa−AS細胞の培養において見られる細胞外酸性化の減少により、AS型のCA IXは、内因性の低酸素状態誘導FLタンパク質の機能を阻害することが明らかに示される。この機序は現在のところ明らかではないが、AS変異体で処理した低酸素状態のMDCK−CA IX細胞におけるCA阻害剤の蓄積減少に基づき、炭酸輸送メタボロン(metabolon)の細胞表面成分との相互作用に関して、ASがFL CA IXと競合していることを提案することができる。さらに、ASの過剰発現が、対応する腫瘍内微小環境を有する腫瘍塊を模倣する3Dモデルとしてたびたび用いられる小型のスフェロイドを形成するHeLa細胞の能力にかなりの影響を及ぼす。コア領域がより酸性な微小環境を特徴とする固形腫瘍の低酸素領域と明らかな類似性を示すスフェロイド全般にわたる酸素分圧、pH、栄養物および代謝物の勾配が、多くの研究により十分に文書化されている(アルバレツ−ペレツ(Alvarez−Perez)ら、2005年)。他に、FL CA IXの細胞膜染色が、SiHaおよびHeLaの子宮頚部癌細胞から生成した多細胞スフェロイドの最内部の細胞で有意に増加することが示されている(オリーブ(Olive)ら、2001年、クラスチナ(Chrastina)ら、2003年)。細胞が生き延びるために、低酸素ストレスおよび酸性微小環境の有害な影響に対する保護および/または適応の増大を必要としているまさにその領域にFL CA IXが存在することを、これらのデータは示している。ここでFL CA IXは、細胞内pHの炭酸媒介緩衝作用を介して作用する(スウィータッチ(Swietach)ら、2007年)。このpH調節を部分的に動揺させるAS変異体は明らかに、スフェロイド内の酸性pHに対する適応を許さず、スフェロイドのコアから最もストレスを受けた中心の細胞の除去に至る。この考えは、CA IXの触媒活性が低酸素状態により調節されるという知見と一致し、pHを調節するCA IXの能力は、低酸素腫瘍細胞の生き残りにとって重要であることを示唆している。後者の示唆はまた、ロバートソン(Robertson)ら(2004年)によるRNAi実験によっても間接的に裏付けられている。
【0142】
天然に産生されたAS変異体は低レベルで発現するが、FL CA IXをほんの弱く誘導する生理学的環境および細胞型がある。例えば、機能的血液供給性血管から短距離に局在化した腫瘍細胞は、軽微な低酸素状態に曝露され、同等レベルのFLおよびASを発現させて、CA IX活性のドミナントネガティブなダウンレギュレーションを可能にし得る。このような弱い低酸素状態の細胞は、苛酷なアシドーシスに曝露されないと推測され、したがって、このpH制御機序の完全な実施から利益を得ない可能性がある。軽微な虚血を被っている正常組織にも同様な説明を適用することができる。この考えは、いくつかの腫瘍細胞株、高密度の酸素正常状態の細胞(細胞周辺の弱い低酸素状態に影響を受けた)およびいくつかの早期の低酸素状態の程度が低い腫瘍は、ただ低レベルのFL CA IXを発現するということを示す最近ならびに以前のデータによって裏付けられている。結論として本発明者らは、AS変異体が、双方のタンパク質が同時発現される環境下で、FL CA IXのモジュレーターとして働くことを提案する。可能な予後診断または予測を目的とした、低酸素腫瘍のマーカーとしてのCA9転写に基づいた臨床的研究のために、選択的スプライシング変異体の低いが構成的な発現はかなり重要である。正常および/または非低酸素状態組織におけるFL CA9の不在下でASが存在するために、スプライシングによって影響を受けない領域の検出を目的に設計されたプライマーまたはプローブは、CA9 mRNAの2つの型を識別することができず、したがって、偽陽性の結果を与える可能性があり、低酸素状態に誘導されたFL CA9の真の臨床値に影響を及ぼし得る。実際これは、今までに公開されたいくつかの研究[例えば、マッキーナン(McKiernan)ら、Cancer.86(3):492〜497頁(1999年);スパン(Span)ら、Br J Cancer.89(2):271〜276頁(2003年);シミ(Simi)ら、Lung Cancer.52(1):59〜66頁(2006年);グライナー(Greiner)ら、Blood.108(13):4109〜4117頁(2006年)]において、生じ得る。この理由から、マイクロアレイチップおよびRT−PCRのための正しいプライマーおよびプローブの設計は注意して行なう必要があり、AS型のMN/CA IXを考慮に入れる必要がある。
【0143】
ブダペスト条約の寄託
下記に掲げた物質は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(米国20110−2209バージニア州マナッサスUniversity Blvd.,10810所在)に寄託された。この寄託は、the Budapest Treaty on the International Recognition of Deposited Microorganisms for the Purpose of Patent Procedure and Regulations(ブダペスト条約)にしたがって行なわれた。生存可能な培養物の維持は、寄託日から30年間保証される。ハイブリドーマおよびプラスミドは、ブダペスト条約の下、ATCCにより入手でき、当該出願から特許が付与された際に、寄託されたハイブリドーマおよびプラスミドの公的に非制限的利用を保証する出願者とATCC間の同意に従う。寄託された株が利用可能であることは、任意の政府当局のもとでその特許法に従って付与された権利に違反して、本発明を実施することの許可として解釈すべきではない。
【0144】
同様に、V/10モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株V/10−VUは、ブダペスト条約の下、ヘント大学(Universiteit Gent)(ベルギー国ヘントB−9000,K. L. Ledeganckstraat 35所在)のthe Laboratorium voor Moleculaire Biologie-Plasmidencollectie(LMBP)にある、ベルギーの微生物保存機関(the Belgian Coordinated Collections of Microorganisms)(BCCM)[BCCM/LMBP]の国際寄託当局(the International Depository Authority)(IDA)に、2003年2月19日に登録番号6009CBとして寄託された。
【0145】
本発明の前述の実施形態の記載は、例示および説明目的のために提供された。それらは、逐一的ではなく、または開示された正確な形態に本発明を限定する意図はなく、多くの修飾および変更が、上記の教示に鑑みて可能であることは明らかである。本発明の原理およびその実際の適用を説明し、それによって当業者が考慮される特定の使用に適するように種々の実施形態で、および種々の変更によって本発明を利用することができるように、これらの実施形態が選択され記載されている。
【0146】
本明細書に引用された全ての参考文献は、参照として本明細書に援用されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般領域におけるものであり、生化学的工学、免疫化学および腫瘍学の分野におけるものである。さらに詳細には、本発明は、MN遺伝子すなわち、MN/CA9、CA9、または炭酸脱水酵素9としても知られる発癌遺伝子と考えられている細胞遺伝子に関するものであり、その遺伝子は、現在、MNタンパク質、MN/CA IXイソ酵素、MN/CA IX、炭酸脱水酵素IX、CA IXまたはMN/G250タンパク質としても知られている腫瘍性タンパク質をコードしている。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、選択的にスプライスされた[AS]型のMN/CA9 mRNA、およびそれを検出するためのプローブ/プライマーに関する。ASのMN/CA9 mRNAは、主として正常細胞および酸素正常状態下で発現し、完全長[FL]のMN/CA9 mRNAの発現を測定するアッセイ、特にRT−PCRアッセイを阻害する可能性がある。本発明はまた、AS型のMN/CA IX、および、それを単独で、またはFL型のMN/CA9 mRNAと組み合わせて、検出、あるいは検出および定量化するためのアッセイを用いる診断/予後診断法に関する。さらに本発明は、FLのMN/CA IXタンパク質を標的とする手段として、MN/CA9の選択的スプライシングを活用する治療方法に関する。本発明の焦点であるAS型のMN/CA9/CA IXの種類は、脊椎動物であって差し支えなく、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがさらに好ましい。
【背景技術】
【0003】
上述の通り、MN遺伝子およびタンパク質は、多くの別名が知られており、それらの名称は、本明細書において同義的に使用される。MNタンパク質は、亜鉛に結合することが判明しており、炭酸脱水酵素(CA)活性を有し、現在、9番目の炭酸脱水酵素イソ酵素−MN/CA IXまたはCA IXであると考えられている[非特許文献1]。炭酸脱水酵素の命名法に従って、ヒトCAイソ酵素は、大文字のローマ字と数字で記され、一方、それらの遺伝子は、イタリック文字とアラビア数字で記される。あるいは、本明細書では、「MN」は、文脈に示されるように、炭酸脱水酵素イソ酵素IX(CA IX)タンパク質/ポリペプチド、または炭酸脱水酵素イソ酵素9(CA9)の遺伝子、核酸、cDNA、mRNAなどを称するのに使用される。
【0004】
MNタンパク質はまた、G250抗原であることが確認されている。非特許文献2には、「配列分析およびデータベース検索により、G250抗原は、MN、すなわち、子宮頚部癌に確認されたヒト腫瘍関連抗原と同一であることが明らかとなった(パストレク(Pastorek)ら、1994年)」ことが記載されている。
【0005】
CA IXは、非特許文献3により最初に記載されたM75モノクローナル抗体を用いてザバダ,J(Zavada,J.)、パストレコバ,S.(Pastorekova,S.)およびパストレク,J.(Pastorek,J.)[「ザバダ(Zavada)ら」、例えば、特許文献1を参照]により同定された癌関連炭酸脱水酵素である。その抗体は、CA IXをコードするcDNAのクローニング[非特許文献4]、腫瘍および正常組織におけるCA IX発現の評価[非特許文献5、および他の多くの引用文献]、細胞密度によるCA IX調節試験[非特許文献6、非特許文献7]、ならびに低酸素症によるCA IX誘導の実証[非特許文献8、および他の多くの引用文献]に使用された。このような試験の全ては、MN/CA IX/CA9が、前新生物/新生物腫瘍マーカーとして診断および/または予後診断に、および標的として治療に使用できるというザバダ(Zavada)らの独創的な着想および研究[例えば、ザバダ(Zavada)ら、特許文献1]を裏付けるものであり、M75モノクローナル抗体は、種々の免疫検出法および免疫標的アプローチに有用な、価値のあるCA IX特異的試薬であることを示している。
【0006】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2(1993年9月16日公開)および特許文献1(1995年2月7日発行)は、MN遺伝子およびMNタンパク質の発見および生物学的性質ならびに分子的性質について記載している。MN遺伝子は、全ての被験脊椎動物の染色体DNAに存在し、その発現は、腫瘍形成能と強く関連することが判明した。
【0007】
MNタンパク質は、ヒト子宮頚部癌に由来するHeLa細胞において最初に確認された。MNタンパク質は、多くのタイプのヒト癌(中でもとりわけ子宮頚部、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、大腸、肺、食道、および前立腺)において見られる。MNタンパク質を有意に発現する正常組織は極めて少ないことが判明している。これらのMN発現正常組織としては、ヒト胃粘膜および胆嚢上皮、ならびに消化管の他の幾つかの正常組織が挙げられる。逆説的に言えば、通常MNを発現する幾つかの組織、例えば胃粘膜における癌および他の前新生物疾患/新生物疾患においては、MN遺伝子発現が消滅するか、または減少することが判明している。
【0008】
一般に、発癌は、MNタンパク質の異常発現が前兆となり得る。例えば、発癌は:(1)通常MNタンパク質を有意に発現しない組織において、MNタンパク質が存在する場合;(2)通常MNタンパク質を発現する組織にMNタンパク質が存在しない場合;(3)組織において通常に発現されるレベルからMN遺伝子発現が、有意に増加レベルまたは有意に減少レベルにある場合;または(4)MNタンパク質が、細胞内の異常位置に発現する場合、が前兆となり得る。
【0009】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3(1995年12月21日公開)には、MN遺伝子およびMNタンパク質の発見、ならびにMN遺伝子発現と腫瘍形成能との強い関連付けが、いかにして癌および前癌病態の診断/予後診断法および治療方法を生み出したかについて開示している。その明細書には、脊椎動物における異常MN遺伝子発現を検出、または検出および定量化することによって、新生物疾患の発症および存在を確認するための方法および組成物が提供されている。例えば、MN抗原を検出、または検出および定量化するためにMN特異的抗体を用いる免疫アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、あるいは、MN mRNAなどのMN核酸を検出、または検出および定量化するために、MN cDNAなどのMN核酸を用いてRT−PCRなどのPCRアッセイなど、脊椎動物のサンプルの種々の従来のアッセイにより、異常MN遺伝子発現を検出、または検出および定量化することができる。
【0010】
MN/CA IXは、ウェスタンブロッティングによる推定で58および54kDaの見かけの分子量を有する原形質膜および核タンパク質として、HeLa細胞において最初に確認された。MN/CA IXは、3kDaの単一炭水化物鎖によりN−グリコシル化され、非還元条件下でS−S結合オリゴマーを形成する[非特許文献3;非特許文献4]。MN/CA IXは、細胞表面に位置する膜間タンパク質であるが、一部の事例では、MN/CA IXは、核内に検出されている[非特許文献5;非特許文献3]。
【0011】
MNは、双子タンパク質(twin protein)であるp54/58NによりHeLa細胞中に見られる。p54/58N(MAb M75)と反応するモノクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により、54kdと58kdに2本のバンドが現われた。これらの2本のバンドは、恐らくは翻訳後処理により異なるであろうタンパク質の1種に相当すると考えられる。
【0012】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3には、本明細書の図8A〜8Cに示されているMN cDNA配列(配列番号1)、図8A〜8Cにも示されているMNアミノ酸配列(配列番号2)、および本明細書の図9A〜9Fに示されているMNゲノム配列(配列番号3)が開示されている。MN遺伝子は、エクソン11およびイントロン10で構成される。配列番号1のヒトMN cDNA配列は、1522の塩基対(bp)を含む。配列番号70のMN cDNA配列は、1552のbpを含む(EMBL登録番号X66839;パストレク(Pastorek)ら(1994年))。
【0013】
図8A〜8Cに示されているMNタンパク質の最初の37のアミノ酸(配列番号2)は、推定上のMNシグナルペプチド[配列番号4]を構成する。MNタンパク質は、細胞外(EC)ドメイン[図8A〜8Cのアミノ酸(aa)の38〜414(配列番号5)]、膜貫通(TM)ドメイン[aaの415〜434(配列番号6)]、および細胞内(IC)ドメイン[aa435〜459(配列番号7)]を有する。細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)の約53〜111(配列番号8)または好ましくはaaの約52〜125(配列番号81)にプロテオグリカン様(PG)ドメイン、およびaaの約135〜391(配列番号9)または好ましくはaaの約121〜397(配列番号82)に炭酸脱水酵素(CA)ドメインを含む。
【0014】
ザバダ(Zavada)らの特許文献2および特許文献3には、MN特異的抗体の製造について記載されている。代表的で好ましいMN特異的な抗体であるモノクローナル抗体M75(MAb M75)、そのハイブリドーマ(VU−M75)は、ATCC指定番号HB11128として、米国バージニア州マナサス所在のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託された。M75抗体は、MNタンパク質を発見し、同定するために用いられ、例えば、新鮮、凍結、またはホルマリン−、アルコール−、アセトン−あるいは他の様式で固定、および/または、パラフィン埋め込みおよび脱パラフィン化された組織サンプルにおいて、ラジオイムノアッセイおよび免疫組織化学的にウェスタンブロットでMN抗原を容易に同定するためにM75抗体を使用することができる。別の代表的で好ましいMN特異的抗体であるMab MN12は、指定HB11647としてATCCに寄託されたハイブリドーマMN12.2.2により分泌される。ザバダ(Zavada)らの特許文献3の実施例1では、MAb M75を用いて組織の免疫組織化学的染色からMN遺伝子の発癌性を立証する代表的な結果を提供している。
【0015】
免疫優性エピトープは事実上、M75 mab、特にN末端PG領域において4回等しく反復されるアミノ酸配列PGEEDLP(配列番号11)に関する反復性エピトープなど、MN/CA IXのPGドメイン内にあるものと考えられている[非特許文献9]。
【0016】
M75 mabは、非特許文献2で最初に報告され、例えば、ザバダ(Zavada)らの特許文献4および特許文献5など多くの米国特許および外国特許において、全てのMN/CA IX特異的抗体、ポリクローナルおよびモノクローナルならびにそれらの断片を用いて、具体的ならびに包括的に主張されている。[ザバダらの特許文献1;特許文献6〜20も参照のこと]。これらザバダらの米国特許および外国特許は、参照することにより本明細書に援用される。
【0017】
CA IXは、二酸化炭素と重炭酸塩との間での可逆的変換を触媒する亜鉛金属酵素のうちのα炭酸脱水酵素群の高活性な種である[非特許文献4;非特許文献1;非特許文献10〜12]。CA IXは、哺乳動物に存在する14のイソ体のうちの1つであり、細胞質(CA I、II、III、VII)、ミトコンドリア(CA VA、VB)、分泌胞(CA VI)および細胞膜(CA IV、IX、XII、XIV)など、種々の細胞成分の位置を占めている。イソ酵素の幾つかは、広範囲の組織にわたって分布しており(CA I、II、CA IV)、他のイソ酵素は、特定の器官に限定されており(唾液腺のCA VI)、2つのイソ体は、癌組織に結合している(CA IX、XII)[非特許文献10;非特許文献13]。酵素活性および動態学的性質、ならびにスルホンアミド阻害剤に対する感受性は、高感受性(CA II、CA IX、CA XII、CA IV)から低感受性(CA III)まで異なっている[非特許文献14]。CA関連タンパク質と称される幾つかのイソ体(CA−RP VIII、X、XI)は、活性部位の保存が不完全なため触媒活性はない。同じ群のタンパク質の遺伝的に関連する種内で非常に変動があることが、多様な生理学的かつ病理学的過程におけるそれらの使用根拠をなしている。この触媒活性は、代謝活性組織における酸−塩基バランスの維持およびイオン類と水との交換に関して基本的に関連性がある。この活性を介して、CA類は、事実上、呼吸、体液の産生(硝子体液、胃液、脳脊髄液)、骨吸収、腎酸性化などに寄与する(非特許文献10)。
【0018】
CA IXイソ酵素は、基礎研究ならびに臨床研究の重要な対象となる幾つかの性質を含んでいる。第一に、CA IXの発現は、多種多様のヒト腫瘍と極めて密に関連するが、一方、その発現は一般に、対応する正常組織には存在しない[非特許文献5;非特許文献15〜21]。これは、−10/−3位における転写出発部位に近位の最小CA9プロモーターに局在化した低酸素状態応答因子(HRE)に結合する低酸素状態誘導因子(HIF)を介してCA9遺伝子の転写を強力に活性化する腫瘍低酸素状態に主に関連している[非特許文献8]。HIF転写因子は、腫瘍細胞の生存および低酸素ストレスへの適応または腫瘍細胞死に導く遺伝子の活性化により弱く酸素化された腫瘍細胞の発現プロフィールを有意に変化させる。その結果、低酸素状態は、侵入および転移する能力の増大した、より攻撃的な腫瘍細胞を選択し、したがって、予後不良および抗癌療法に対する応答不良に本質的に関連する[非特許文献22]。
【0019】
腫瘍低酸素状態は、癌発生および癌療法に関して大いに関連を有する重要な現象であるので[非特許文献23]、MNは、診断/予測値を有する固有の低酸素マーカーとして、ならびに有望な治療標的として重要な可能性を有している[非特許文献8;非特許文献24〜28]。提案された臨床適用の有利な点として、CA IXは、癌細胞の表面に露出した大きな細胞外部分を有する不可欠な細胞膜タンパク質であり、したがって特異的モノクローナル抗体などの標的手段によりアクセス可能である。さらに、CA IXは、細胞外CAドメインのN末端伸長を形成する独特なプロテオグリカン関連領域(PG)の存在により他のCAイソ酵素とは異なり、他のイソ酵素との交差認識の排除が可能になる[非特許文献1]。CA IXは、細胞接着の調整およびpHの調節の双方を介して腫瘍生物学において積極的な役割を果たしていると思われる(非特許文献29〜31)。CA IXは、重炭酸塩輸送メタボロン(metabolon)に関与しており、低酸素状態に応答して細胞外微小環境の酸性化に寄与している(非特許文献32、非特許文献30)。さらに、CA IXの細胞内ドメイン(IC)は、少なくとも腎細胞癌において腫瘍形成的な第三の役割を果たしている可能性がある:チロシンリン酸化CA IX(EGFRを介して媒介)は、PI−3Kの調節サブユニット(p85)と相互作用し、Aktの活性化をもたらす[非特許文献33]。発癌に寄与するその多くの潜在的活性のため、その機能の抑止を目的としたCA IXタンパク質を標的にすることにより、治療効果を有することが期待されている。しかしながら、CA IXの基礎的な分子的および機能的態様の多くは知られていない;そのうちの1つは、CA IXの選択的スプライシングの可能性であった。
【0020】
選択的スプライシングは、タンパク質の構造的および機能的多様化に寄与する重要な分子機構である。選択的スプライシングは、エクソン含有の差異から生じることが多く、ドメイン組成、細胞成分の局在化、相互作用の可能性の変化、シグナル伝達能力およびタンパク質レベルにおける他の変化を導く。最近のゲノムテクノロジーにより得られたデータでは、ヒト遺伝子の60%以上が選択的にスプライスされることが示されている。また、選択的スプライシングの変異体発現の不均衡は、細胞表現型に著しく影響を及ぼし、種々の病状に役割を果たし得る証拠が増加しつつある(非特許文献34)。
【0021】
本発明は、CA9遺伝子発現が選択的スプライシングを含むことの発見に基づくものである。本明細書では、MN mRNAの選択的にスプライスされた(AS)マウスおよびヒト変異体について記載する。ヒトAS変異体は、腫瘍において、完全長(FL)のCA9 mRNAよりも量が少ないが、正常組織および酸素正常状態下で検出することができることを、本発明者は実証している。ヒトAS CA9 mRNAは、エクソン8および9を含まず、切断されたCA IXタンパク質をコードしている。その結果、AS CA IXは、細胞膜に限定されず、触媒活性の減少を示す。HeLa細胞における過剰発現の際、AS CA IXは、低酸素状態に誘導された細胞外酸性化を減少させ、HeLaスフェロイドの増殖を損なう。AS変異体は、正常表現型を有する酸素正常状態の細胞内に存在し得ることから、AS変異体は、CA9遺伝子の低酸素関連発現および腫瘍関連発現を評価するために設計された診断および/または予後診断試験において偽陽性結果を生じさせる可能性がある。さらに、AS型のCA IXタンパク質は、特に、FLレベルが比較的低い場合の中等度の低酸素状態でFL型のCA IXを機能的に阻害し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献2】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献3】国際公開第95/34650号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,981,711号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0 637 336B1号明細書
【特許文献6】米国特許第5,955,075号明細書
【特許文献7】米国特許第5,972,353号明細書
【特許文献8】米国特許第5,989,838号明細書
【特許文献9】米国特許第6,004,535号明細書
【特許文献10】米国特許第6,051,226号明細書
【特許文献11】米国特許第6,069,242号明細書
【特許文献12】米国特許第6,093,548号明細書
【特許文献13】米国特許第6,204,370号明細書
【特許文献14】米国特許第6,204,887号明細書
【特許文献15】米国特許第6,297,041号明細書
【特許文献16】米国特許第6,297,051号明細書
【特許文献17】オーストラリア国特許第669694号明細書
【特許文献18】カナダ国特許第2,131,826号明細書
【特許文献19】独国特許第69325577.3号明細書
【特許文献20】韓国特許第282284号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】オパブスキー(Opavsky)ら、Genomics33(3):480−487頁(1996年)
【非特許文献2】ウエムラ(Uemura)ら「Expression of Tumor−Associated Antigen MN/G250 in Urologic Carcinoma:Potential Therapeutic Target」、J.Urol.、154(補遺4):377頁(Abstract 1475;1997年)
【非特許文献3】パストレコバ(Pastorekova)ら、Virology187:620−626頁(1992年)
【非特許文献4】パストレク(Pastrek)ら、Oncogene 9:2788−2888頁(1994年)
【非特許文献5】ザバダ(Zavada)ら、Int J Cancer、54:268−274頁(1993年)
【非特許文献6】リースコブスカ(Lieskovska)ら、Neoplasma、46:17−24頁(1999年)
【非特許文献7】カルツ(Kaluz)ら、Cancer Research、62:4469−4477頁(2002年)
【非特許文献8】ウィコッフ(Wykoff)ら、Cancer Research、60:7075−7083頁(2000年)
【非特許文献9】ザバダ(Zavada)ら、Br.J.Cancer82(11):1808−1813頁(2000年)
【非特許文献10】チェグウィッデン(Chegwidden)ら、EXS90:343−363頁(2000年)
【非特許文献11】ウィンゴ(Wingo)ら、Biochemical and Biophysical Research Communications288:666−669頁(2001年)
【非特許文献12】パストレコバ(Pastorekova)ら、J Enz Inhib Med Chem19:199−229頁(2004年)
【非特許文献13】パストレコバ(Pastorekova)およびパストレク(Pastorek)、第9章、Carbonic Anhydrase:Its Inhibitors and Activators(スプラン(Supuran)ら編;CRCプレス(ロンドンなど)2004年)
【非特許文献14】スプラン(Supuran)およびスコッザファバ(Scozzafava)、J.Enzym Inhib.15(6):597−610頁(2000年)
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【非特許文献21】バートソバ(Bartosova)ら、J.Pathol.197:314−321頁(2002年)
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【非特許文献23】ホッケル(Hockel)およびバウペル(Vaupel)、Semin.Oncol.28(2 補遺l8):36−41頁(2001年)
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【非特許文献25】ビースレイ(Beasley)ら、Cancer Res.61(13):5262−5267頁(2001年)
【非特許文献26】ギアトロマノラキ(Giatromanolaki)ら、Cancer Res.61(21):7992−7998頁(2001年)
【非特許文献27】コーコーラキス(Koukourakis)ら、Clin.Cancer Res.7(11):3399−3403頁(2001年)
【非特許文献28】ポッター(Potter)およびハリス(Harris)、Br J Cancer89:2−7頁(2003年)
【非特許文献29】スバストバ(Svastova)ら、Exp Cell REs290:332−345頁(2003年)
【非特許文献30】スバストバ(Svastova)ら、FEBS Letters577:439−445頁(2004年)
【非特許文献31】スウィータッチ(Swietach)ら、Cancer Metastasis Rev、DOI 10,1007/s10555−007−9064−0(2007年)
【非特許文献32】モーガン(Morgan)ら、Am J Physiol−Cell Physiol293(2):C738−C748頁(2007年)
【非特許文献33】ドライ(Dorai)ら、Eur.J Cancer41:2935−2947頁(2005年)
【非特許文献34】マトリン(Matlin)ら、Nat Rev Mol Cell Biol6:386−398頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、低酸素状態で誘導された膜結合腫瘍関連MNタンパク質をコードする完全長(FL)CA9 mRNA転写体に加えて、細胞膜に限定されないASのMNタンパク質(ASのMN/CA IXまたはAS CA IX)をコードする、構成的に産生された、選択的にスプライスされた(AS)CA9 mRNA転写体もまた存在するという発見に基づいている。本発明の治療的態様の基礎となるさらなる発見は、AS型のCA IXがFL型のCA IXの機能を阻害することである。CA IXのAS変異体の低酸素状態および腫瘍に無関係な産生は、CA IXの診断、予後診断および治療態様に多くの密接な関係を有する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおける、異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患に対する診断法および/または予後診断法に関するものであり、これらの方法は、完全長[FL]および選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現、あるいは、AS型およびFL型のMN/CA IX発現を識別する工程を有してなる。
【0026】
前記方法は、FLのMN/CA9 mRNAの発現および/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するために1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んで差し支えなく;好ましくは、前記方法は:(a)選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;(b)FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;および/または(c)FLのMN/CA9 mRNAとASのMN/CA9 mRNAの双方を検出するためのプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる。本発明の一態様において、診断法および/または予後診断法は、例えば、FLのMN/CA9 mRNAには存在しないが、ASのMN/CA9 mRNAには存在するスプライスジャンクションに対し、またはASのMN/CA9 mRNAに存在しないがFLのMN/CA9 mRNAに存在する核酸配列に対してプローブを標的にすることにより、選択的にスプライスされたMN/CA9核酸と完全長MN/CA9核酸との間の差異が利用される。同様に、例えば、FLのMN/CA9 mRNAには見られず、ASのMN/CA9 mRNAにのみ見られる領域を増幅するために一対のプライマーを設計することができ、または逆の設計もできる。本開示に鑑みて当業者は、本発明の診断法/予後診断法に有用であると思われる任意の数のプローブおよび/またはプライマー/プライマー対を設計することができるであろう。
【0027】
ヒトにおける前新生物疾患/新生物疾患に対する好ましい診断法/予後診断法において、本発明の1種類以上の特に好ましいプローブおよび/またはプライマーは、配列番号97〜101および配列番号97〜101と少なくとも80%相同性、好ましくは配列番号97〜101と少なくとも90%相同性である核酸配列からなる群から選択される。FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNA発現を検出、または検出および定量化するために1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる前記の方法は、FLのMN/CA9 mRNA:ASのMN/CA9 mRNAの比、または経時的にFLのMN/CA9 mRNA:ASのMN/CA9 mRNAの比の変化を測定することをさらに含むことができる。
【0028】
さらに、前記ASのMN/CA9 mRNAの発現を、正常なMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができ、かつ、前記FLのMN/CA9 mRNA発現を、異常なMN/CA9遺伝子発現、特に前記ASおよび/またはFLのMN/CA9 mRNA発現のレベルを示すために使用することができる。あるいは、または加えて、前記ASのMN/CA9 mRNAの発現を、酸素正常状態のMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができ、また、前記FLのMN/CA9 mRNAの発現を、低酸素状態のMN/CA9遺伝子発現を示すために使用することができる。また、前記MNのASおよび/またはFL mRNA発現のレベルは、特定の表示値を有することも考えられる。
【0029】
FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するために、1種類以上のプローブおよび/またはプライマーの使用を含んでなる前記方法は、核酸増幅方法、好ましくは、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRから選択される増幅方法、および当業者に知られている同等の核酸増幅方法の使用をさらに含むことができる。あるいは、FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNAの発現を検出、または検出および定量化するための前記方法は、マイクロアレイチップの使用を含むことができる。例えば、前記マイクロアレイチップは、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAには結合しないが、完全長[FL]MN/CA9 mRNAに結合するプローブ、および/またはFLのMN/CA9 mRNAには結合しないが、ASのMN/CA9 mRNAに結合するプローブを含むことができ、このようなチップ上の前記プローブの戦略的配置は、当該技術分野の範囲内にある。
【0030】
別の態様において、本発明は、FLのMN/CA IX発現とASのMN/CA IX発現とを識別する工程を有してなり、哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患に係わる診断方法および/または予後診断方法に関する。前記方法は、前新生物組織/新生物組織においてFLのMN/CA IX発現とASのMN/CA IX発現とを識別するために1種類以上の抗体の使用を含んでなることが好ましい。前記方法は、前記組織においてASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化することを含むことができ;前記組織においてFLのMN/CA IXレベル対ASのMN/CA IXレベルの比を測定することをさらに含むことができる。さらに前記FLのMN/CA IX:ASのMN/CA IXの比は、前記組織における低酸素状態の存在または程度を示すために使用することができる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において、診断方法/予後診断方法は、脊椎動物の組織におけるFLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、該工程は:
(a)前記サンプルを、少なくとも2種の抗体、少なくとも2種の抗原結合性抗体断片、または抗体と抗原結合性抗体断片の混合物とを同時にまたは連続的に接触させて、少なくとも1種の抗体/抗体断片をASのMN/CA IXタンパク質には結合しないが、FLのMN/CA IXタンパク質に特異的に結合させ、少なくとも他の1種の抗体/抗体断片をFLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合させる工程と;
(b)前記サンプルにおいて前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と;
(c)前記差異的に結合する抗体/抗体断片の結合を比較してFLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの相対的レベルを判定する工程と、
を有してなる。
【0032】
ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する前記1種類以上の抗体/抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であり;FLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する前記1種類以上の抗体/抗体断片が、MN/CA IXのプロテオグリカン様(PG)ドメインに特異的であることが好ましい。さらにより好ましくは、MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在のBCCM(商標)/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であり;MN/CA IXのPGドメインに特異的な前記抗体が、ATCC指定番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されたハイブリドーマVU−M75により産生されるM75モノクローナル抗体である。
【0033】
さらに本発明は、脊椎動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法に関するものであり、適切な脊椎動物の組織サンプルにおける選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXタンパク質は検出せず、完全長[FL]MN/CA IXタンパク質を検出、または検出および定量化する工程を有してなり、該工程は:
(a)前記サンプルを抗体または抗体断片に接触させるステップであって、前記抗体または抗体断片が、ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する工程と;
(b)前記サンプルにおける前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
を有してなる。前記脊椎動物は、哺乳動物であることが好ましく、前記哺乳動物はヒトであることがさらに好ましい。
【0034】
ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXに特異的に結合する代表的な好ましい抗体または抗体断片は、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であるものである。より好ましくは、MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体は、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体である。
【0035】
本発明の特に好ましい態様は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法に関するものであり、それらの方法は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物の前新生物疾患/新生物サンプルにおいて選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、前記サンプルからのmRNAを、ASのMN/CA9 mRNAには結合しないが、FLのMN/CA9 mRNAに特異的に結合するプライマーまたはプローブに接触させる工程を有してなる。
【0036】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用される核酸プローブおよび/またはプライマーに関する。上記のとおり、本開示に基づくようなプローブ/プライマーの設計は、当該技術分野の範囲内にある。好ましくは、前記哺乳動物はヒトであり、前記プローブおよび/またはプライマーは、FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、前記プローブまたはプライマーは、MN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含んでなる。より好ましくは、前記プローブまたはプライマーは、配列番号101の配列または配列番号101と少なくとも80%相同性、より好ましくは、配列番号101と少なくとも90%相同性である配列を有する。あるいは、前記哺乳動物はヒトであり、前記プローブおよび/またはプライマーは、ASのMN/CA9 mRNAは検出せずFLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、前記プローブまたはプライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に結合するか、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7と8のスプライスジャンクション、エクソン8と9のスプライスジャンクション、もしくはエクソン9と10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含んでなる。より好ましくは、ASのMN/CA9 mRNAは検出せずヒトFLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用される前記プローブまたはプライマーは、配列番号100の配列または配列番号100と少なくとも80%相同性、より好ましくは、配列番号100と少なくとも90%相同性である配列を有する。本発明はさらに、このようなプローブまたはプライマーを発現するベクター、および/またはこのようなベクターを含んでなる宿主細胞、および1種類以上のこのようなプローブを含んでなるマイクロアレイチップに関する。
【0037】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用される一対のプローブおよび/またはプライマーに関する。前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用することができる。完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される代表的な好ましい一対のプローブまたはプライマーは、配列番号99および101、または配列番号99および101と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなる。
【0038】
あるいは、前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される。FL mRNAのみを検出するために使用される代表的な好ましい一対のプローブまたはプライマーは、配列番号99および100、または配列番号99および100と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなる。本発明のさらなる実施形態において、一対のプローブまたはプライマーは、ASヒトMN/CA9 mRNAおよびFLヒトMN/CA9 mRNAの双方を検出するために使用され、前記AS mRNAと前記FL mRNAは長さにより識別される。ASとFLの双方のヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用される前記一対のプローブおよび/またはプライマーは、配列番号97および98、または配列番号97および98と少なくとも80%相同性、より好ましくは少なくとも90%相同性である核酸配列からなることが好ましい。
【0039】
本発明はさらに、哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXをコードする単離された核酸に関する。前記ASのMN/CA IXは、約43〜約48kDaの分子量を有することが好ましい。本発明はさらに、このような核酸またはその断片を発現するベクター、このようなベクターを含んでなる宿主細胞および/または組換え、合成または他の生物学的手段によるASのMN/CA IXタンパク質およびポリペプチドの産生に関する。
【0040】
前記単離された核酸によりコードされた、代表的な好ましいAS型のMN/CA IXのは、MN/CA IXのPGドメインに特異的な抗体により特異的に結合されるが、MN/CA IXのCAドメインに特異的な抗体により結合されないことをさらに特徴とする。本発明のさらにより好ましい実施形態において、前記AS型のMN/CA IXは、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体には結合されない。
【0041】
より好ましくは、前記哺乳動物がヒトであり、前記単離された核酸が、MN/CA9のエクソン8およびエクソン9に相当するヌクレオチドを欠失させることを特徴とする。さらにより好ましくは、前記単離ヒト核酸が、配列番号108、または配列番号108と少なくとも80%相同性、より好ましくは配列番号108と少なくとも90%相同性の核酸配列を有する。好ましくは、配列番号108または密接に関連する配列によりコードされたAS型の代表的なヒトMN/CA IXは、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体により結合されない。
【0042】
さらに本発明は、他の型のMN/CA IXには結合しないが、AS型のMN/CA IXに特異的に結合する抗体または抗原結合抗体に関する。例えば、このようなAS特異的抗体は、AS型のMN/CA IXに特異的に結合するが、FL型のMN/CA IXに特異的に結合しない抗体または抗原結合抗体であり得るか;またはASのMN/CA IXに特異的に結合するが、可溶性MN/CA IX(s−CA IX)に特異的に結合しない抗体または抗原結合抗体であり得る。
【0043】
哺乳動物における前新生物疾患/新生物疾患を治療するための治療方法が、さらに本明細書に開示されており、前記疾患は、MN/CA IXの異常発現に関連し、本方法は、完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させる薬剤を含む組成物を治療に有効な量で前記哺乳動物に投与する工程を有してなる。前記ASのMN/CA IXはまた、FLのMN/CA IXの活性を阻害するASのMN/CA IXの任意のタンパク質またはポリペプチド断片を含むことも考えられる。前記ASのMN/CA IXの相対的レベルの増加により、前記FLのMN/CA IXの炭酸脱水酵素の活性が阻害されることが好ましい。前記薬剤は、生理学的に許容できる担体中のASのMN/CA IX自体、ASのMN/CA9 mRNAを発現するベクター、ASのMN/CA IXの発現は遮断しないがFLのMN/CA IXの発現を遮断するアンチセンスオリゴヌクレオチド、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するベクター、FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNA、または前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAを発現するベクターであり得る。
【0044】
例えば、前記薬剤は、エクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに標的化されるFLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAであり得る。あるいは、前記薬剤は、ASおよび/またはFLのMN/CA9の前mRNAスプライシングを調節するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0045】
別の態様において、本発明は、完全長[FL]MN/CA IXのレベルに比して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させるオリゴヌクレオチドに関するものであって、前記オリゴヌクレオチドは、異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の治療に使用される。例えば、前記オリゴヌクレオチドは、ASのMN/CA9の前mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9の前mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドである可能性があり;好ましくは、前記オリゴヌクレオチドは、FLのMN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに相補的である。あるいは、FLのMN/CA IXのレベルに比してAS FLのMN/CAのレベルを増加させる前記オリゴヌクレオチドは、ASのMN/CA9 mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9 mRNAに相補的であるsiRNAであり得る。
【0046】
本発明はまた、ASのMN/CA IXを発現する細胞を、この細胞において前記ASのMN/CA IXのレベルを調節すると思われる薬剤に接触させ、前記ASのMN/CA IXのレベルの変化を検出および定量化する工程を有してなる、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを調節することができる薬剤を同定するインビトロ方法に関する。
【0047】
引用文献
以下の引用文献は、MN/CA9遺伝子およびMN/CA IXタンパク質、または選択的にスプライスされたmRNAに関する最新情報を本明細書に引用するか、または提供する。本明細書に引用されるリストに挙げられた引用文献ならびに他の引用文献の全ては、参照することにより具体的に援用される。
【0048】
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略語
以下の略語が本明細書中に使用される:
細胞株
ヌクレオチドおよびアミノ酸の記号
以下の記号は、本明細書においてヌクレオチドを表すために使用される:
20の主要アミノ酸があり、それらの各々は、3つの隣接ヌクレオチド(トリプレットコードまたはコドン)の異なる配列により特定され、特定の順序で一緒に結合して特徴的なタンパク質を形成する。例えば、以下の図1に示される前記アミノ酸を同定するために、3文字または1文字の通則が、本明細書に使用される:
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウスCar9遺伝子(GenBank番号AY049077)のゲノム構造。
【図1B】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウス胃腸管系組織におけるCar9スプライシング変異体のRT−PCR[実施例に用いられるプライマーの配列に関しては下記表2を参照]。
【図1C】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:FL転写体およびAS転写体の別々の増幅。
【図1D】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:FLアミノ酸配列とASアミノ酸配列の比較。
【図1E】マウスCA IXのスプライシング変異体の同定および予測構造:マウスAS CA IXタンパク質の予測された構造。
【図2A】マウスAS CA IXの免疫ブロット分析および局在化。マウスAS cDNAを含むpSG5C−ASプラスミドは、NIH3T3細胞およびMDCK細胞にそれぞれ形質移入された:マウスCA IXに対してポリクローナル血清を用いるAS形質移入細胞の免疫ブロットが、単一のAS関連バンドを示す。
【図2B】マウスAS CA IXの免疫ブロット分析および局在化。マウスAS cDNAを含むpSG5C−ASプラスミドは、NIH3T3細胞およびMDCK細胞にそれぞれ形質移入された:形質移入体の免疫蛍光分析が、マウスASタンパク質の細胞内局在を示す。
【図3A】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトCA9遺伝子(GenBank番号Z54349)のゲノム構造の略図。プライマー位置は、矢印により示される[実施例に用いられるプライマーの配列に関しては表2を参照]。選択的スプライシングにより排除されたエクソンは、暗灰色にある。
【図3B】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:スプライシング変異体間を識別しないh1S−h6Aプライマー[配列番号95および96]を用いたヒト胃腸におけるCA9のRT−PCR分析。
【図3C】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:h6S−h11Aプライマー[配列番号97および98]を用いたヒト組織におけるFLとAS双方の転写体の増幅。
【図3D】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトFLおよびAS CA9 cDNAから推測されたアミノ酸配列の比較。シグナルペプチド(SP)はイタリックで書かれ、プロテオグリカン様ドメイン(PG)は太字であり、炭酸脱水酵素ドメイン(CA)は実線で囲み、アミノ酸(aa)415で開始する膜貫通領域(TM)は破線で囲ってある。点線はASで欠失したアミノ酸残基を表す。触媒亜鉛に結合するヒスチジンおよびS−S結合の形成に関与するシステインは、単独に破線で囲ってある。
【図3E】ヒトCA IXのスプライシング変異体の同定および予測された構造:ヒトFLおよびAS CA IXタンパク質の予測された構造。
【図4A】スプライシング変異体、すなわちFLに関してはh7S−h8A[配列番号99および100]およびASに関してはh7S−h10/7A[配列番号99および101]の個々の増幅のために設計されたプライマーを用いた(図3を参照)ヒトAS CA9のRT−PCR分析による、ヒト腫瘍細胞株およびヒト組織におけるAS CA IX変異体の発現。ベータ−アクチンを標品として用いた(図4Bおよび4Cにおいて同じ):酸素正常状態(N)および低酸素状態(H)に48時間露出させた細胞からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、低酸素状態に依存しないことを示している。
【図4B】低密度および高密度で72時間インキュベートした細胞からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、密度に依存しないことを示している。
【図4C】正常および腫瘍ヒト組織からcDNAを単離した。この結果は、AS発現が安定しており、腫瘍表現型に依存しないことを示している。
【図5A】ヒトAS CA IXの局在化およびオリゴメリ化を示す図。FL CA IXの天然の低酸素状態により誘導された発現を有するCA IX陰性MDCK細胞およびHeLa細胞に、pSG5Cプラスミド内のASCA9 cDNAを持続的に形質移入した:AS形質移入(AS)、FL形質移入(FL)および対照細胞(モック)の免疫蛍光分析を、ASおよびFLタンパク質の双方を認識するM75 mabを用いて実施した。
【図5B】ヒトAS CA IXの局在化およびオリゴメリ化を示す図。FL CA IXの天然の低酸素状態により誘導された発現を有するCA IX陰性MDCK細胞およびHeLa細胞に、pSG5Cプラスミド内のASCA9 cDNAを持続的に形質移入した:HeLa−AS細胞および対照HeLa細胞からのタンパク質抽出物および培地の免疫ブロット分析。AS CA IX変異体は、AS形質細胞の抽出物ならびに培地中のM75 mabにより検出された。
【図6A】オリゴマーを形成するFLおよびASスプライシング変異体の能力:非還元性SDS−PAGEおよびM75による免疫ブロットにより、ASがオリゴマーを形成できないことを示した。
【図6B】オリゴマーを形成するFLおよびASスプライシング変異体の能力:MAbV/10(ASは認識しないが、FLを認識する)またはM75(双方の変異体を認識する)で抽出されたHeLa−AS抽出物からの免疫沈降によるオリゴマー中のスプライシング変異体の検出。沈降されたオリゴマーの成分は、ペルオキシダーゼ標識M75を用いて可視化した。
【図7A】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:AS形質移入HeLa細胞および関連するモック形質移入対照を、それぞれ酸素正常状態および低酸素状態で48時間インキュベートし、細胞外pHを、実験の終了直後に培地中で測定した。データは、低酸素状態の細胞対酸素正常状態の細胞で測定されたpH値間の差異(ΔpH)として表され、標準偏差を含む。結果は、ASの発現が、低酸素状態でFL CA IXタンパク質により媒介される酸性化を減少させることを示す。
【図7B】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:ヒトFL CA IXタンパク質を構成的に発現するMDCK−CA IX形質移入細胞を、MDCK−AS形質移入体からの調整培地を添加した分泌AS変異体の不在下(対照)または存在下、蛍光CA阻害剤(FITC−CA I)により48時間処理した図である。調整培地を、新鮮な培地と混合した。FITC−CA Iは低酸素状態の細胞にのみ結合し、ASタンパク質の存在下でかなり減少した。
【図7C】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:同じ実験を、MDCK−AS細胞からの調整培地の半分(1/2AS)または三分の一(1/3AS)のいずれかで繰り返し実施した。FITC−CA Iと対応する蛍光との結合は、シオン(Scion)画像ソフトウェアを用いて獲得された画像から評価した。データは、ASの不在下、FITC−CA Iと共にインキュベートされた低酸素状態のMDCK−CA IX細胞により示された陽性対照のパーセンテージとして表示された。その結果、ASがCA IXに対するFITC−CA Iの結合を減少させることが確認された。
【図7D】酸性化、阻害剤結合およびスフェロイド形成に対する過剰発現AS変異体の効果:対照のモック形質移入HeLa細胞およびAS形質移入HeLa細胞それぞれから増殖させたスフェロイドの顕微鏡画像。対照のHeLa細胞は、低酸素状態誘導の機能性FL CA IXタンパク質を発現し、コンパクトコアを形成するスフェロイドを生じる。低酸素誘導のFL CA IXおよび構成的に発現したAS双方を含むHeLa−AS細胞は、ルースコアを含むが、これは恐らくFLの機能がASにより損なわれるため、低酸素コア細胞の生存減少に至ったためと思われる。
【図8A】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図8B】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図8C】図8A〜Cは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。また、cDNAによりコードされた予測アミノ酸配列[配列番号2]も示している。
【図9A】図9A〜Fは、本明細書に記載される、単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンのヌクレオチド配列である。MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9B】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9C】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9D】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9E】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図9F】図9A〜Fは、MN[配列番号3]の10,898bpの完全ゲノム配列。塩基数は以下のとおりである:2654のA;2739のC;2645のG;および2859のT。11のエクソンは、一般に大文字で示されるが、エクソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定されたように3507位で開始されると考えられている。
【図10】ヒトMN遺伝子[配列番号24]の提案されたプロモーターに関するヌクレオチド配列。このヌクレオチドは、RNアーゼ保護アッセイにしたがって転写開始部位から番号が付けられる。調節要素として可能性のあるものを上線で示している。転写開始部位は、星印(RNアーゼ保護)および対応するヌクレオチド上に点(RACE)で示される。第一のエクソンの配列は、星印のもとで開始する。MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖双方で保護された5つの領域(I〜V)、および非コード鎖は保護されないが、コード鎖において保護された2つの領域(VIおよびVII)が明らかとなった。
【発明を実施するための形態】
【0050】
pHおよび細胞接着を調節する調節機構の一部として、MN/CA IXタンパク質は腫瘍形成において機能的に関係がある。MN/CA IXは、HIF−1経路を経て主として低酸素状態で誘導される;HIF−1はまた、MN/CA IX発現の増加を生じ得るPI3K経路を経て伝達された高細胞密度など、種々の細胞外シグナルおよび発癌性変化により酸素正常状態でも発現する可能性がある。HIF−1とPI3K双方の経路が、HIF−1タンパク質レベルを増加させ、その増加が、MN/CA IXレベルの増加に移し変えられる可能性がある。
【0051】
下記の実施例に示されるように、本発明者は、高酵素活性およびpHを調節する能力により低酸素誘導されるCA IXタンパク質をコードする完全長(FL)CA9転写体に加えて、量の少ない構成的に産生された選択的にスプライスされた(AS)CA9転写体もあることを見出した。下記の実施例2に示されるように、ヒトCA9 mRNAの選択的スプライシング変異体は、エクソン8および9を含まず、低酸素状態とは無関係に腫瘍細胞に発現する。また、この変異体は、完全長転写体の不在下で正常組織において検出可能であり、したがって、低酸素状態関連および癌関連CA9発現の検出に基づく予後診断において偽陽性データが生じ得る。スプライシング変異体は、触媒ドメインのC末端部分を欠く切断CA IXタンパク質をコードし、触媒活性の減少を示し、細胞内に局在するか、または分泌する。過剰発現される場合、変異体は、完全長CA IXタンパク質が低酸素状態の細胞内pHを酸性化する能力、および炭酸脱水酵素阻害剤に結合する能力を減少させる。実施例4および5において、ヒトAS CA IX変異体が、細胞膜に限らず、過剰発現の際にFLタンパク質の機能を阻害することを示す実験を記載している。実施例5において、スプライシング変異体cDNAを形質移入したHeLa細胞は、小型のコアを形成しないスフェロイドを生じることから、HeLa細胞は、低酸素ストレスに適合できないことを示唆している。このAS能力は、細胞が、苛酷なアシドーシスを受けず、過度のpH調節を必要としない場合、特に軽度の低酸素条件下で関連があり得る。
【0052】
CA IXのAS変異体の低酸素および腫瘍に無関係な産生は、CA IXの診断態様、予後診断態様および治療態様に関して多くの関係がある。完全長CA9 mRNA(機能的CA IXタンパク質をコードする)の将来の診断/予後診断試験において、選択的にスプライスされた変異体の同時検出を回避するために設計されたプローブ/プライマーを設計することができ、癌療法は、例えば、他の療法の中でもアンチセンスおよびRNA干渉療法に用いられるオリゴヌクレオチドの設計により、CA9選択的スプライシングに基づくことができる。
【0053】
前新生物/新生物疾患
本発明の診断方法/予後診断方法および治療方法の対象である前新生物疾患/新生物疾患(および患部組織)は、MN/CA IXの異常発現に関連するものである。本明細書に用いられる「前新生物組織/新生物組織」はまた、体液中の前新生物細胞/新生物細胞を含むことができる。前記前新生物疾患/新生物疾患は、乳房、尿路、膀胱、腎臓、卵巣、子宮、子宮頚部、子宮内膜、扁平上皮細胞、腺扁平上皮細胞、膣、外陰部、前立腺、肝臓、肺、皮膚、甲状腺、膵臓、精巣、脳、頭頚部、中胚葉、肉腫、胃、脾臓、胃腸管、食道、および大腸の前新生物疾患/新生物疾患からなる群から選択されるのが好ましい。
【0054】
酸素正常状態および低酸素状態
本明細書に用いられる「酸素正常状態」とは、哺乳動物の特定組織に関して生理的酸素張力レベルの正常範囲内にある特定の哺乳動物組織中の酸素張力レベルとして定義される。本明細書に用いられる「低酸素状態」とは、特定の組織または細胞中のHIF−1αを安定化させるために必要な酸素張力レベルとして定義される。実験的に誘導された低酸素状態は、一般的に2%以下であって、酸欠状態(酸欠状態は致死的となり得る0%のpO2)以上のpO2の範囲内にある。低酸素状態に関係する本明細書に記載された実施例では、代表的な低酸素状態である2%pO2で実施された。しかしながら、当業者は、「低酸素状態」として理解され、同様の実験結果を生じる他の酸素張力レベルを考えることもあろう。例えば、ウィコッフ(Wykoff)ら[Cancer Research、60:7075−7083頁(2000年)]は、代表的な低酸素状態として0.1%pO2の条件を用いてCA9のHIF−1α−従属発現を誘導した。トームズ(Tomes)らは、0.3%、0.5%および2.5%pO2の代表的なインビトロ低酸素状態下、HeLa細胞またはヒト乳房線維芽細胞におけるHIF−1αの安定化およびCA9発現の程度が変わることを立証している[トームズ(Tomes)ら、Br.Cancer Res.Treat.81(1):61−69頁(2003年)]。あるいは、カルツ(Kaluz)らは、CA9の実験的誘導に関して0.5%pO2の代表的な低酸素状態を用いており[カルツ(Kaluz)ら、Cancer Res.、63:917−922頁(2003年)]、0.1〜1%pO2を低酸素状態の「実験的に誘導された範囲」として言及している[Cancer Research、62:4469−4477頁(2002年)]。
【0055】
上記文献のトームズ(Tomes)らにより示されるように、2%以上のpO2の酸素張力レベルもまた低酸素状態であり得る。当業者は、HIF−1α安定化の判定に基づいて、ある状態が本明細書に定義された低酸素状態であるかどうかを判定することができるであろう。特定の組織または細胞における低酸素状態の代表的な範囲は、例えば、約3%から約0.05%pO2の間、約2%から約0.1%pO2の間、約1%から約0.1%pO2の間、および約0.5%から約0.1%pO2の間であり得る。
【0056】
MN遺伝子およびタンパク質
本明細書における用語「CA IX」および「MN/CA9」は、MNに関する同義語と考えられている。G250抗原は、MNタンパク質/ポリペプチドを称するものと考える。
【0057】
ザバダ(Zavada)らの国際公開第93/18152号パンフレットおよび/または国際公開第95/34650号パンフレットは、本明細書の図8に示されるMN cDNA配列[配列番号1]、また図8に示されるMNアミノ酸配列[配列番号2]、および本明細書の図9に示されるMNゲノム配列[配列番号3]について開示している。MN遺伝子は、11のエクソンおよび10のイントロンで構成される。
【0058】
図8に示されたMN cDNAのORFは、計算値49.7kdの分子量を有する459のアミノ酸タンパク質に関するコード化能力を有する。MNタンパク質の総アミノ酸組成物はかなり酸性であり、4.3のpIを有することが予測される。二次元電気泳動後の免疫ブロット法によるCGL3からの天然MNタンパク質の分析は、コンピュータ予測と一致して、MNは、4.7から6.3のpI範囲を有する幾つかの等電点形態で存在する酸性タンパク質であることを示している。
【0059】
図8に示されるMNタンパク質の最初の37のアミノ酸は、推定上のMNシグナルペプチド[配列番号4]である。MNタンパク質は、細胞外ドメイン[図8のアミノ酸(aa)38〜414;配列番号5]、膜貫通ドメイン[aa415〜434;配列番号6]および細胞内ドメイン[aa435〜459;配列番号7]を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン[aa53〜111;配列番号8]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa135〜391;配列番号9]を含む。
【0060】
CAドメインは、アンカーに依存しない誘導に必須であるが、一方、TMアンカーおよびICテールは、その生物学的効果にとって不必要である。MNタンパク質はまた、形質移入された細胞内で細胞膜ラッフリングさせることができ、固体支持体への結合に関与すると思われる。このデータは、細胞増殖の調節、接着および細胞間伝達におけるMNの関与を示している。
【0061】
MN遺伝子−クローニングおよび配列決定
図8A〜Cに、完全長MN cDNAクローンに関するヌクレオチド配列[配列番号1]を提供する。図9A〜Fに、完全MNゲノム配列[配列番号3]を提供する。提案されたMNプロモーターに関するヌクレオチド配列[配列番号24]は、図9A〜Fのnts3001から3540、および図10に示される。
【0062】
当然のことながら、遺伝子コードの縮退のため、すなわち、1つ以上のコドンが1つのアミノ酸をコードし[例えば、コドンTTA、TTG、CTT、CTC、CTAおよびCTGの各々が、アミノ酸のロイシン(leu)をコードする]、例えば、1つのコドンが別のコドンで置換される配列番号1および3におけるヌクレオチド配列の変更は、本発明による実質的に等しいタンパク質またはポリペプチドを生じるであろう。MN cDNAのヌクレオチド配列および相補的核酸配列におけるこのような変更は全て、本発明の範囲内に含まれる。
【0063】
さらに、当然のことながら、本明細書に記載され、図8、9および10に示されるヌクレオチド配列は、本明細書で単離され、記載されたcDNA、ゲノムおよびプロモーターヌクレオチド配列の正確な構造のみを表している。実質的に同様のまたは相同的MNタンパク質およびポリペプチド、例えば、同様のエピトープを有するものをコードするために、僅かに修飾されたヌクレオチド配列が見出されるか、または当業界に知られた技法により修飾できることが予想され、このようなヌクレオチド配列およびタンパク質/ポリペプチドは、本発明の目的にとって等価物であると考えられる。
【0064】
MNタンパク質/ポリペプチドに相同的または実質的に相同的なタンパク質/ポリペプチドをコードする合成核酸配列であり、ならびにストリンジェント条件下、前記代表的配列[配列番号1、3および24]にハイブリダイズすると考えられるか、または遺伝子コードの縮退がなかったら、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、前記cDNAヌクレオチド配列にハイブリダイズすると考えられる核酸配列などの等価コドンを有するDNAまたはRNAは、本発明の範囲内であると考えられる。本明細書に示された核酸配列の修飾および変更は、代表的なMN配列およびその断片と実質的に同じである配列を生じると考えられる。
【0065】
少なくとも80〜90%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する極めて密接に関連するnt配列だけが、ストリンジェント条件下、互いにハイブリダイズすると考えられる。図8に示されたMN cDNA配列とヒト炭酸脱水酵素II(CA II)の対応するcDNAの配列比較により、25以上のヌクレオチドを有するCA II cDNA配列のセグメントが、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下、MN cDNAにハイブリダイズすることまたは逆を可能にする上で十分に長いと考えられる2つの配列間で同一の延伸部分がないことが示された。
【0066】
本明細書におけるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、ストリンジェントであるとして当該技術分野で理解される標準的なハイブリダイゼーション条件に合致すると考えられる。例えば、当然のことながら一般に、ストリンジェント条件は、50℃から70℃の温度で0.02Mから0.15MのNaClにより提供されるような、比較的低塩条件および/または高温条件を包む。20℃〜55℃の温度で0.15M〜0.9M塩のような低ストリンジェント条件は、温度上昇とともにハイブリッド二重鎖を不安定にさせるのに役立つホルムアミド量を増加させて加えることによって、よりストリンジェントにさせることができる。
【0067】
代表的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、サムブルック(Sambrook)らのMolecular Cloning:A Laboratory Manual、1.91頁および9.47−9.51頁(第二版、コールドスプリングハーバー・ラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press);コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州;1989年);マニアチス(Maniatis)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、387−389頁(コールドスプリングハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory);コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州;1982年);ツチヤ(Tsuchiya)ら、Oral Surgery,Oral Medicine,Oral Pathology、71(6):721−725頁(1991年6月);および米国特許第5,989,838号明細書、米国特許第5,972,353号明細書、米国特許第5,981,711号明細書、ならびに米国特許第6,051,226号明細書に記載されている。
【0068】
MNゲノム配列(配列番号3)を含むプラスミド−A4aクローンならびにXE1およびXE3サブクローンは、1995年6月6日、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に、それぞれATCC寄託番号97199、97200、および97198として寄託された。
【0069】
完全MNゲノム領域のエクソン−イントロン構造
オーバーラップクローンの完全配列は、10,898bp(配列番号3)を含む。ヒトMN遺伝子は、11のエクソンならびに2つの上流反復要素および6つのイントロンAlu反復要素を含んでなる。エクソンは全て、445bpである第1エクソンを除いて27bpから191bpの範囲と小型である。イントロンのサイズは、89bpから1400bpの範囲である。CAドメインは、エクソン2〜8によりコードされ、一方、エクソン1、10および11は、それぞれMN/CA IXタンパク質のプロテオグリカン様ドメイン、膜貫通アンカーおよび細胞質テールに相当する。下表1は、AG−GTモチーフを含むコンセンサススプライス配列に合致するスプライスドナーおよびアクセプター配列を掲げている[マウント(Mount)、Nucleic Acids Res.10:459−472頁(1982年)]。
【表1】
【0070】
MN遺伝子転写開始部位および終結部位のマッピング
ザバダ(Zavada)らの国際公開第95/34650号パンフレットには、MN遺伝子転写開始部位および終結部位をマッピングする方法が記載されている。RNアーゼ保護アッセイを、MN遺伝子の5'末端の精密マッピングに使用した。プローブは、MNを発現するHeLa細胞およびCGL3細胞からのRNA全体にハイブリダイズされ、配列決定ゲル上で分析された均一標識470のヌクレオチドコピーRNA(nt−205から+265)[配列番号66]であった。その分析により、MN遺伝子転写は、複数部位でRACEにより以前に特性化されたものよりも30nt長い最長のMN転写体の5'末端で開始することが示された。
【0071】
マウスCar9cDNA
マウスCA IXをコードするcDNAおよび遺伝子のクローニングおよび特性化は、以前に記載されている[オルトバ−ガット(Ortova−Gut)ら、Gastroenterology、123:1889−1903頁(2002年)]。マウスCar9cDNA断片を、ヒトcDNAに由来のプライマーおよびC57 BL/6Jマウスの胃から単離されたテンプレートRNAを用いてRT PCRにより単離した。完全長cDNAは、5'/3'双方の方向においてcDNA末端の高速増幅により得られた。完全長cDNAは、49bpの5'非翻訳領域、1311bpのオープンリーディングフレームおよび622pの3'非翻訳配列(登録番号AJ245857;配列番号71のもとでEMBLデータベースに寄託された)からなる1982bpを包含する。
【0072】
Car9 cDNAは、47.3kDaの理論的分子量を有する437のアミノ酸タンパク質(登録番号CAC80975(Q8VDE4);配列番号73としてEMBLデータベースに寄託された)に関してコード化能力を有する。マウスタンパク質は、そのヒト相同体と69.5%の配列同一性を示し、同様の予測されたドメイン配列を有する[オパブスキー(Opavsky)ら、(1996年)]。アミノ酸(aa)1〜31(配列番号74)は、シグナルペプチドに相当する。成熟タンパク質(aa32〜389)(配列番号75)のN末端細胞外領域は、プロテオグリカン様領域(aa48〜107)(配列番号76)、および炭酸脱水酵素ドメイン(aa112〜369)(配列番号77)からなる。C末端領域(aa390〜437)(配列番号78)は、膜貫通アンカー(aa390〜411)(配列番号79)および短細胞質テール(aa412〜437)(配列番号80)からなる。マウスCA IXとヒトCA IXとの間の配列相違の大部分は、プロテオグリカン様(PG)領域内に見られたが、一方、CAドメインは最も高度に保存されていることが明らかとなった。しかしながら、酵素活性部位に関与する5つの重要なアミノ酸(His94、His96、Glu106、His119、Thr199)のうち、ヒトCA IXでは全てが保存されるが、マウスのイソ酵素では1つが変化する(Thr199→Ser)。その置換にもかかわらず、スルホンアミドアガロースに結合されたマウスCA IXは、酵素活性を有し得ることが示唆される。
【0073】
Car9 cDNAの利用により、マウス組織におけるCar9 mRNAの発現パターンの分析を可能にした。CAドメインをコードする領域の3'部分を検出するために設計された170bpのリボプローブによりリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RNP)を実施した。ヒトおよびラットの組織における分布に基づいて予想されたとおり、最高レベルのCar9 mRNAが、マウスの胃に検出された。中等度レベルのCar9 mRNAは、小腸および大腸に見られたが、一方、腎臓および脳では、極めて弱い発現を示した。肝臓および脾臓は陰性であった。注目すべきことに、RNPシグナルはまた、胎仔日齢E18.5におけるマウス胎仔に存在したが、E10.5における胎仔幹細胞には存在しなかった。これは、マウス胃腸管の発育におけるCA IXに関する役割を示唆し得る。
【0074】
マウスCar9遺伝子の組織化
Car9遺伝子を単離し、その組織化を判定するために、完全長Car9 cDNAを、pBAC108Lにおけるマウス胎仔幹細胞129/Olaゲノムライブラリーのスクリーニングに用いた。マウス野生型ゲノムDNAの制限マッピングおよびサザンブロット解析により確認されたように、完全Car9ゲノム配列を含む1つのBACM−355(G13)クローンが得られた。このクローンから誘導された3つのオーバーラップゲノム断片を、pブルースクリプトII KSにサブクローン化した。
【0075】
ゲノム配列(GenBank登録番号AY049077;配列番号72)の分析により、Car9遺伝子は、6.7kbのマウスゲノムを含み、11のエクソンおよび10のイントロンからなることが明らかとなった。イントロンの分布およびエクソン対タンパク質ドメインの関係は、ヒトのものと同様である[オパブスキー(Opavsky)ら、(1996年)]。サザンハイブリダイゼーションパターンにより、Car9が単一コピー遺伝子であることが示された。5.9kbを包含し、プロモーター領域およびエクソン1〜6にわたる大腸菌(EcoRi)−HindIII断片を標的ベクターの構築に用いた。
【0076】
MNタンパク質および/はポリペプチド
語句「MNタンパク質および/またはポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)とは、MN遺伝子またはその断片によりコードされたタンパク質および/またはポリペプチドを意味するために本明細書に定義される。本発明による代表的な好ましいMNタンパク質は、図8に示される推定されたアミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図8に示されたMNタンパク質と実質的に相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、このような実質的に相同的MNタンパク質/ポリペプチドは、本発明のMN特異的抗体、好ましくはMAb M75、V/10、MN12、MN9およびMN7またはそれらの等価体と反応性であるものである。M75 mabを分泌するVU−M75ハイブリドーマは、1992年9月17日、HB11128としてATCCに寄託された。
【0077】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合により共有結合されたアミノ酸鎖であり、本明細書において50以下のアミノ酸からなることが考えられている。「タンパク質」は、本明細書において50以上のアミノ酸からなるポリペプチドであると定義される。用語のポリペプチドは、用語のペプチドおよびオリゴペプチドを包含する。本明細書に用いられる「ASのMN/CA IX」、「ASのCA IX」または「ASのMN」とは、AS型のMN/CA9 mRNAによりコードされたタンパク質および/またはポリペプチドのことである。
【0078】
MNタンパク質は、幾つかの興味深い特徴:細胞膜局在化、HeLa細胞における細胞密度依存性の発現、HeLa×線維芽細胞体細胞ハイブリッドの腫瘍形成表現型との関連性、および他の組織にもあるが、中でも多くのヒト癌における発現を示す。MNタンパク質は、一般に対応する正常な組織には認められないが、腫瘍組織切片では直接見ることができる(正常な胃粘膜および胆嚢組織のような上記の例外)。MNはまた、形成異常および/または悪性疾患を示す組織検体の形態学的には正常に見える領域に、時には発現する。まとめると、これらの特徴は、細胞増殖、分化および/または悪性転換の調節におけるMNの関与を示している。
【0079】
インビボで新生物細胞によって生じたタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養における腫瘍細胞により、または悪性転換細胞により生じたタンパク質またはポリペプチドとは配列が変化し得ることが認識できる。したがって、限定はしないが、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびそれらの組合せなど、アミノ酸配列を変化させたMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲内に入る。体液中に存在するタンパク質は、タンパク質分解処理などの分解処理に供されることもまた認識することができ;したがって、著しく切断されているMNタンパク質およびMNポリペプチドが、血清などの体液中に認められる。語句「MN抗原」は、本明細書では、MNタンパク質および/またはポリペプチドを包含するものとして使用される。
【0080】
MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は、遺伝子技法により修飾できることがさらに認識されるであろう。1つ以上のアミノ酸を欠失させることができるか、または置換することができる。このようなアミノ酸の変化により、タンパク質またはポリペプチドの生物学的活性における測定可能な変化は生じ得ず、また本発明の範囲内にあるタンパク質またはポリペプチド、ならびにMN突然変異タンパク質が生じ得る。
【0081】
本発明のMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明による種々の方法、例えば、組換え的、合成的あるいは生物学的に、すなわち長鎖タンパク質およびポリペプチドを酵素的および/または化学的に開裂させることにより調製することができる。MNタンパク質を調製するための好ましい方法は、組換え手法によるものである。
【0082】
MNタンパク質およびポリペプチドの組換え製造
MNタンパク質、例えば、図8に示されたようなMNタンパク質またはその断片を調製するための代表的な方法は、MN cDNAの完全長または適切な断片を、適切な発現ベクター内に挿入することであると考えられる。ザバダ(Zavada)らの国際公開第93/18152号パンフレットには、ベクターpGEX−3X(ファルマシア(Pharmacia)社)の部分的cDNAを用いて融合タンパク質GEX−3X−MN(現在はGST−MNと称される)の製造について記載されている。XL1−ブルー細胞に由来する非グリコシル化GST−MN(MN融合タンパク質MNグルタチオンS−トランスフェラーゼ)。
【0083】
ザバダ(Zavada)らの国際公開第95/34650号パンフレットには、昆虫細胞から発現されたグリコシル化MNタンパク質および発現プラスミドpEt−22b[ノバジェン(Novagen)社(米国ウィスコンシン州マジソン所在)]を用いて大腸菌(E.coli)から発現された非グリコシル化MNタンパク質双方の組換え製造が記載されている。組換えバキュロウィルス発現ベクターは、昆虫細胞を感染させるために使用された。グリコシル化MN20−19タンパク質は、バキュロウィルス感染sf9細胞[クロンテック(Clontech)社(米国カリフォルニア州パロアルト所在)]において組換え的に製造された。
【0084】
MN特異的抗体の調製
用語の「抗体」は、抗体全体のみならず抗体の生物学的活性断片、好ましくは抗原結合性領域を含む断片を含むように本明細書に定義されている。MNタンパク質および別の組織特異的抗原に特異的である二重特異性抗体が、抗体の定義にさらに含まれる。
【0085】
本発明の方法に従った有用な抗体は、従来の方法論および/または遺伝子工学により調製することができる。抗体断片は、好ましくは、超可変領域など、軽鎖および/または重鎖(VHおよびVL)の可変領域、さらにより好ましくは、VHおよびVL双方の領域から遺伝子的に操作することができる。例えば、本明細書に用いられる用語の「抗体」は、他の可能性の中でも「一価抗体」;共有結合であろうと非共有結合であろうともFab'およびF(ab)2断片を含むFabタンパク質;軽鎖または重鎖単独、好ましくは、可変重鎖領域および可変軽鎖領域(VHおよびVL領域)、より好ましくは、超可変領域[あるいは、VHおよびVL領域の相補性決定領域(CDR)として知られている]を含み;1つ以上の抗原に結合できる「ハイブリッド」抗体;定常領域−可変領域のキメラ、異なる起源の重鎖および軽鎖を有する「複合」免疫グロブリン;特異性の改善および標準的な組換え技法、またオリゴヌクレオチド特異的変異誘発技法により調製された他の特徴を有する「改造」抗体などのポリクローナル抗体ならびにモノクローナル抗体および生物学的に活性なそれらの断片を含む[ダルバディー−マクファリアンド(Dalbadie−MacFarland))ら、「Oligonucleotide−directed mutagenesis as a general and powerful method for studies of protein function」、PNAS USA 79:6409頁(1982年)]。
【0086】
多数の使用に関して、特に医薬品用、またはインビボ追跡用の使用に関して、部分的またはより好ましくは、完全なヒト化抗体および/または生物学的に活性な抗体断片が、特に最も適切であることが見出され得る。このようなヒト化抗体/抗体断片は、当業界に周知の方法により調製することができる。
【0087】
MNタンパク質/ポリペプチドを同定するために本発明に従った有用な抗体は、従来の様式、例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素、蛍光化合物、または多くの他の標識があるが、中でも125Iなどの放射性同位元素により標識化することができる。本発明による好ましい標識は125Iであり、抗体を標識する好ましい方法は、クロラミン−Tの使用によるものである[ハンター,W.M.(Hunter,W.M.)、Handbook of Experimental Immunology14.1−14.40頁における「Radioimmunoassay」(D.W.ウェア(D.W.Weir)編集;ブラックウェル(Blackwell)、オックスフォード/ロンドン/エジンバラ/メルボルン;1978年)]。他の代表的な標識としては、例えば、多くの他の可能性があるが、中でもアロフィコシアニンおよびフィコエリトリンを挙げることができる。
【0088】
ザバダ(Zabada)らの国際公開第93/18152号パンフレットおよび国際公開第95/34650号パンフレットには、MN特異的抗体を製造するための詳細な方法、およびM75、MN7、MN9、ならびにMN12モノクローナル抗体として代表的なMN特異的抗体を調製するための詳細なステップが記載されている。
【0089】
エピトープ
エピトープを含むペプチドに対するMAbの親和性は、文脈において、例えば、そのペプチドが、短い配列(4〜6のaa)であるかどうか、またはこのような短ペプチドが、片側または両側に、より長いaa配列によってフランクされているかどうか、またはエピトープに関する試験において、そのペプチドが溶液中にあるか、または表面に固定されているかどうかによって決まる。したがって、MN特異的MAbに関して本明細書に記載された代表的なエピトープは、これらMAbの使用の文脈において変わり得ることが当業者によって予想されるであろう。
【0090】
用語の「MNタンパク質/ポリペプチドのエピトープに相当する」は、幾つかの場合において、天然タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の変更は抗原性であり、新生物疾患および/または抗腫瘍形成効果に対して防御免疫を付与し得る実用的な可能性を含むことが理解されるであろう。可能な配列変更としては、限定はしないが、アミノ酸置換、伸長、欠失、切断、内挿およびそれらの組合せが挙げられる。このような変更を含むタンパク質またはポリペプチドが免疫原性であり、このようなポリペプチドまたはタンパク質によって誘発された抗体が、ワクチンとして投与された場合に防御免疫および/または抗腫瘍形成活性を提供するのに十分な程度に、天然MNタンパク質およびポリペプチドと交差反応するという条件で、このような変更は本発明の考慮された範囲内に入る。
【0091】
PGドメインおよび隣接領域における免疫優性エピトープ
上記のとおり、完全長CA IXの細胞外ドメインは、PGおよびCAドメインならびに幾つかのスペーサーあるいはヒンジ領域を含んでなる。CA IXの免疫優性エピトープは、主として約aa53〜111(配列番号8)または約aa52〜125(配列番号81)におけるPG領域にあり、好ましくはここでは約aa52〜125(配列番号81)にあると考えられる。CA IXの免疫優性エピトープは、PG領域に隣接する領域に位置し得る。例えば、aa36〜51(配列番号21)に関するエピトープは、免疫優性エピトープであると考えられるであろう。
【0092】
主要なCA IXの免疫優性エピトープは、M75 mabに関するものである。M75モノクローナル抗体は、CA IXのN末端プロテオグリカン様(PG)領域における免疫優性エピトープに特異的であると考えられる。アミノ酸配列のアラインメントにより、MN/CA IXタンパク質PG領域(aa53〜111)[配列番号8]とヒトアグレカン(aa781〜839)[配列番号10]との間でかなりの相同性が示される。M75のエピトープは、CA IXのN末端PG領域において4回等しく反復されているアミノ酸配列PGEEDLP(配列番号11)として同定されている[Zavada(ザバダ)ら(2000年)]。代表的な免疫優性エピトープでもあり、M75 mabもまた結合し得る密接に関連するエピトープは、例えば、図8A〜8Cのアミノ酸(aa)61〜96(配列番号12)に見ることができる免疫優性の6回タンデム反復を含み、予測されたCA IXアミノ酸配列を示す。PGドメイン内の免疫優性のタンデム反復エピトープの変異としては、GEEDLP(配列番号13)(aa61〜66、aa79〜84、aa85〜90およびaa91〜96)、EEDL(配列番号14)(aa62〜65、aa80〜83、aa86〜89、aa92〜95)、EEDLP(配列番号15)(aa62〜66、aa80〜84、aa86〜90、aa92〜96)、EDLPSE(配列番号16)(aa63〜68)、EEDLPSE(配列番号17)(aa62〜68)、DLPGEE(配列番号18)(aa82〜87、aa88〜98)、EEDLPS(配列番号19)(aa62〜67)およびGEDDPL(配列番号20)(aa55〜60)が挙げられる。他の免疫優性エピトープとしては、例えば、aa68〜91(配列番号22)が挙げられるであろう。
【0093】
モノクローナル抗体MN9およびMN12は、それぞれN末端PG領域の配列番号19〜20内の免疫優性エピトープに特異的であると考えられる。MN7モノクローナル抗体は、図8A〜8Cのaa127〜147(配列番号23)においてPG領域に隣接する免疫優性エピトープに特異的であり得る。
【0094】
CAドメイン(配列番号9)内で好ましいと考えられるエピトープは、約aa279〜291(配列番号67)に由来する。細胞内ドメイン(ICドメイン)(配列番号7)内で好ましいと考えられるエピトープは、約aa435〜450(配列番号68)に由来する。
【0095】
配列番号69(図8A〜8Cのaa166〜397)は、CAドメインの重要な抗原性成分であると考えられる。CAドメイン内には幾つかの抗原性部位がある。CAドメインに特異的になるように、CA IX欠失マウスにおいて調製された4群のCA IX特異的モノクローナル抗体があり;これらの群のうちの3群は配列番号69である。抗原性部位は、アミノ酸135〜166(配列番号84)にもまた部分的に位置し得る。MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインに特異的に結合する代表的な好ましいMN特異的抗体は、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10 Mabである。
【0096】
アッセイ
組織中のASおよびFLのMN/CA IX発現に関するスクリーンのためのアッセイ
この方法は、もしあれば、前新生物疾患/新生物疾患と診断された患者から採取したサンプルに存在するASおよび/またはFLのMN/CA9遺伝子発現産物に関するスクリーニングを含むことができ;MN/CA9遺伝子発現産物は、MNタンパク質、MNポリペプチド、MNタンパク質またはMNポリペプチドをコードするmRNA、MNタンパク質またはMNポリペプチドをコードするmRNAに相当する、ASまたはFL型のcDNAであり得る。
【0097】
多数のフォーマットを、本発明の方法による使用に適応させることができる。ASおよび/またはFLのMN mRNAの検出および定量化は、例えば、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRなどの核酸増幅法により実施することができるか、またはマイクロアレイチップの使用により実施することができる。ASおよび/またはFLのMNタンパク質またはMNポリペプチドの検出および定量化は、当該技術分野で一般に公知のアッセイは他にもあるが、中でもウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、放射免疫アッセイ、競合免疫アッセイ、デュアル抗体サンドイッチアッセイ、免疫組織化学染色アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫アッセイ、免疫電子顕微鏡および免疫金を用いる走査型顕微鏡により実施することができる。このようなアッセイにおけるMN ASおよび/またはFL遺伝子発現産物の検出は、当該技術分野で公知の従来法により適応させることができる。
【0098】
核酸プローブおよび/またはプライマー
本発明の核酸プローブおよび/またはプライマーは、図8に示されたMN cDNA配列[配列番号1]、または図9A〜Fの完全ゲノム配列[配列番号3]などの他のMN遺伝子配列と相補的または実質的に相補的である配列を含むものである。語句の「実質的に相補的」は、当該技術分野で十分に理解され、したがって標準的なハイブリダイゼーション条件の文脈において用いられる意味を有するように本明細書に定義される。ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、相補性の精度を制御するために調整することができる。2つの核酸は、例えば、それらがストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズする場合、互いに実質的に相補的である。上記に示したように、少なくとも80〜90%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有する極めて密接に関連するnt配列だけが、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすると考えられる。
【0099】
本発明に使用される特に好ましいプローブおよび/またはプライマーは、完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現と、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現とを識別するプローブおよび/またはプライマーである。最近の多数の論文は、癌における選択的スプライシングに関する一般情報、および癌関連遺伝子により発現されたmRNA変異体を検出するために使用された特定のプローブおよび/またはプライマーの設計に関する特定の情報を提供しており、そこからプローブおよび/またはプライマーが、ASおよび/またはFL CA9 mRNA変異体を検出するために設計され得る[例えば、マトリン(Matlin)ら、Nat Rev Mol Cell Biol.6:386−398頁(2005年);ベナブルスJP(Venables JP)、BioEssays、28:378−386頁(2006年);スコセイム(Scotheim)およびネス(Nees)、Int J Biochem Cell Biol.、39(7−8):1432−1449頁(2007年);スレブロウ(Srebrow)およびコーンブリット(Kornblihtt)、J Cell Sci.、119(第13部):2635−2641頁(2006年);ゴーシー(Gothie)ら、J Biol Chem.275:6922−6927頁(2000年);ロビンソン(Robinson)ら、J Cell Sci.、114:853−865頁(2001年);フー(He)ら、Oncogene、25:2192−2202頁(2006年);ロイ(Roy)ら、Nucleic acids Res.、33(16):5026−5033頁(2005年);タコーネリ(Taconelli)ら、Cancer Cell 6:347−360頁(2004年)を参照]。一方法において、FL CA9 mRNAだけを検出するために使用される少なくとも1種のプローブまたはプライマーが、AS CA9 mRNAにおいて欠失された領域内から全体的にまたは部分的に誘導され、一方、AS CA9 mRNAだけを検出するために使用される少なくとも1種のプローブまたはプライマーは、選択的スプライシングで生じたジャンクションから誘導されるであろう。例えば、ヒトFLのMN/CA9特異的プローブ/プライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に対して十分な特異性を有して、特異的に結合することが好ましく、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7と8のスプライスジャンクション、エクソン8と9のスプライスジャンクション、エクソン9と10のスプライスジャンクションに対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合する核酸を含みうる;あるいは、任意のこれらの配列に対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合するのに十分に相同的な核酸を含みうる。同様にヒトASのMN/CA9特異的プローブ/プライマーは、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合する核酸を含みうる;あるいは、そのスプライスジャンクション位に対して十分な特異性を有して、好ましくは特異的に結合するための十分に相同的な核酸を含みうる。あるいは、プローブおよび/またはプライマーは、FLおよびAS双方のCA9 mRNA、ならびに例えば、ゲル上で長さにより識別されたFLおよびAS型のmRNA産物を検出するために使用できるであろう。
【0100】
MN選択的スプライシング変異体に基づく癌療法
多くの論文において、癌関連遺伝子の選択的スプライシング変異体に基づく癌療法が検討されており、他にも療法があるが、中でもアンチセンスおよびRNA干渉療法に使用されるオリゴヌクレオチドの設計に関する戦略が提供されている[例えば、ガルシア−ブランコ(Garcia−Blanco)、Curr Opin Mol Ther.、7(5):476−482頁(2005年);ウィルトン(Wilton)およびフレッチャー(Fletcher)、Curr Gene Ther.、5(5):467−483頁(2005年);パジャレス(Pajares)ら、Lancel Oncol.、8(4):349−357頁(2007年);シンY.(Xing Y.)、Front Biosci.、12:4034−4041頁(2007年)]。例えば、当業者は、それぞれ配列番号1および108の核酸配列からヒトAS CA9 mRNAには特異的ではないが、ヒトFL CA9 mRNAに特異的な適切なアンチセンス核酸配列、好ましくはアンチセンスオリゴヌクレオチドを判定することができるであろう。
【0101】
AS型のCA9 mRNAにより発現されたASのMN/CA IX全体に加えて、単離されたASのMN/CA IXタンパク質またはポリペプチド断片が、FLのMN/CA IX活性を阻害する能力を有し得ることを当業者は予想するであろう。したがって、FLのMN/CA IXの活性を阻害するASのMN/CA IXから誘導された任意のタンパク質またはポリペプチドは、本発明の治療法の範囲内で考慮されている。
【0102】
MN RNA干渉(MN RNAi)
MN遺伝子の発現阻害は、例えば、MN遺伝子の発現に対するRNA干渉効果を適用することによって実施することができる。RNA干渉は、近年報告されたようにRNAを用いることによって遺伝子発現を阻害するための方法である[エルバシア(Elbashir)ら、Nature、411:494−498頁(2001年)]。さらに詳細には、MN遺伝子の発現は、MN遺伝子の特定のmRNAスプライス変異体(FLスプライス変異体など)の発現に対してRNA干渉効果を示す1種類以上のオリゴヌクレオチドを用いることによって阻害することができる。
【0103】
MN遺伝子のmRNAスプライス変異体の発現阻害は、細胞にcDNAの断片を含むベクターまたはその相補的RNAを形質移入することにより実施することができる。したがって、前記オリゴヌクレオチドを含んでなるMNスプライス変異体を阻害する薬剤もまた、本発明の範囲内に含まれる。MN mRNAスプライス変異体を阻害する薬剤は、1種のオリゴヌクレオチドを含むことができるか、または2種以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。RNA干渉効果を示す前記オリゴヌクレオチドは、MN遺伝子発現系を用いてFL mRNA変異体の発現を特異的にサイレンシングするオリゴヌクレオチドを選択することによって、MN遺伝子のASおよび/またはFL mRNA変異体のヌクレオチド配列に基づいて設計されるオリゴヌクレオチドから得ることができる。
【0104】
MN遺伝子療法のベクター
オリゴヌクレオチドを用いるFLのMN/CA IXの発現を阻害するために、遺伝子療法の使用により標的細胞にオリゴヌクレオチドを導入することが可能である。遺伝子療法は、既知の方法を用いることによって実施することができる。例えば、注入により直接オリゴヌクレオチドを投与する工程を有してなる非ウィルス性形質移入、またはウィルスベクターを用いる形質移入のいずれかを用いることができる。非ウィルス性形質移入に関する好ましい方法は、オリゴヌクレオチドを含むリポソームなどのリン脂質小胞を投与することを含む方法、ならびに注入により直接オリゴヌクレオチドを投与することを含む方法がある。形質移入に使用される好ましいベクターは、ウィルスベクター、より好ましくは、レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、アデノ関連ウィルスベクターおよびワクシニアウィルスベクターなどのDNAウィルスベクター、またはRNAウィルスベクターである。
【0105】
材料および方法
細胞培養、組織および抗体
マウスNIH 3T3線維芽細胞、イヌMDCK上皮細胞、腎癌由来のヒト腫瘍細胞株CAKI−1およびACHN、ならびに子宮頚部癌由来のCaski、SiHa、HeLa、およびC33a系を、37℃、5%CO2で加湿下、10%FCS(バイオウィタカー(BioWhittaker)社(ベルギー国ベルビエ所在))および40μg/mlのゲンタマイシン(レック社(スロベニア国所在)で補足されたDMEM中で培養した。低酸素処理は、37℃、2%O2、5%CO2、10%H2および83%N2中、嫌気性ワークステーション(ラスキンテクノロジーズ(Ruskin Technologies)社(英国ブリジェンド所在))内で実施した。
【0106】
HeLa細胞のスフェロイドを、37℃で3日間、組織培養皿のふたに懸滴させた培地20μl当り400の細胞から予め形成した。生じた細胞凝集体を、非接着表面のペトリ皿に移し、3日目ごとに培地を交換しながらさらに11日間懸濁液中で培養した。このスフェロイドを、ニコンE400顕微鏡で調べて、ニコンクールピクス990カメラで撮影した。
【0107】
ヒト組織は、以前に記載された(キベラ(Kivela)ら、2005年)採取物から選択された。マウス組織は、子宮頚部転移により殺処理されたBALB/cマウスから切開された。この組織を、RNA単離および/またはタンパク質抽出に使用するまで−80℃で保存した。
【0108】
ヒトMN/CA IXタンパク質に特異的なM75およびV/10マウスMAbは、以前に同定されている(パストレコバ(Pastorekova)ら、1993年、ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)。二次抗マウスペルオキシダーゼ複合化抗体および西洋わさびペルオキシダーゼと複合化した抗ウサギ抗体は、セバファーマ(Sevapharma)社(チェコ共和国プラハ所在)から入手した。抗マウスFITC複合化抗体は、ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories)社(米国カリフォルニア州バーリンガム所在)から入手した。Alexa488複合化抗ウサギ二次抗体は、アドバンスト・ターゲッティング・システムズ(Advanced Targeting Systems)社(米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)から入手した。
【0109】
免疫蛍光法
免疫蛍光法を、以前に記載されたとおりに実施した(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。カバーガラス上で増殖させた細胞を氷冷PBSで2回すすぎ、冷メタノールにより−20℃で5分間固定した。このカバーグラスを、1%BSAを含むPBSにより37℃で30分間インキュベートし、次いで1:1000に希釈されたmCA IXに対しM75 mabまたはウサギポリクローナル血清を含む非希釈ハイブリドーマ培地と共にインキュベートした。マウスCA IXタンパク質に対する抗体は、他でも記載されている(ガット(Gut)ら、2002年)。一次抗体とのインキュベーションを、37℃での加湿チャンバ内で1時間実施した。このカバーグラスを、0.02%のツイーン20を含むPBSで10分間3回洗浄し、次にPBS中0.5%BSA中、1:300に希釈されたフルオレセイン複合化抗マウス二次抗体で処理するか、またはPBS中0.5%BSA中、1:1000に希釈された抗ウサギAlexa488複合化二次抗体で処理した。PBSで10分間、3回すすいだ後、このカバーグラスを装着媒体(カルビオケム(Calbiochem)社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ所在))と共に顕微鏡スライド上に乗せ、次にニコン社のE400顕微鏡で調べてニコンクールピクス990カメラで撮影した。
【0110】
発現プラスミド
マウススプライシング変異体をコードする真核生物発現プラスミドpSG5C−mASを、マウスCA9 cDNAを含むpSG5C−Car9プラスミドから逆PCRにより作出した。順方向プライマーは、エクソン9(m9S、5'−TCCATGTGAATTCCTGCTTCACTG−3')[配列番号102]の開始点に対して設計され、逆方向プライマーは、エクソン6(m6A、5'−CTTCCTCCGAGATTTCTTCCAAAT−3')[配列番号103]の終止点に特異的であった。同様に、ヒトスプライシング変異体をコードする真核生物発現プラスミドpSG5C−ASを、エクソン10および7に対するプライマーを用いて完全長ヒトCA9 cDNA(GenBank番号X66839)を含むpSG5C−MN/CA9発現プラスミド(パストレク(Pastorek)ら、1994年)から逆PCRにより作出した。順方向プライマー(h10S、5'−GTGACATCCTAGCCCTGGTTTTT−3')[配列番号104]は、エクソン10の開始点に特異的であり、逆方向プライマー(h7A、5'−CTGCTTAGCACTCAGCATCACTG−3')[配列番号105]は、エクソン7の終止点に特異的であった。同じh7Aおよびh10Sプライマーを、シグナルペプチドなしの完全長CA IXタンパク質をコードする一次プラスミド構成物pGEX−3X−CA9から、ヒトCA IXタンパク質のGST融合スプライス変異体をコードする細菌発現ベクターpGEX−3X−ASの調製に使用した。PCR増幅は、Phusionポリメラーゼ(フィンザイムス(Finnzymes)社(フィンランド国エスポー所在))を用いて実施した。PCR反応は、98℃で30秒間の最初の変性、98℃で10秒間32サイクルの変性、64℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分40秒間の伸長、最後に72℃で5分間の伸長で構成された。PCR産物をゲル精製し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで処理し、T4 DNAリガーゼ(インビトロジェン社(米国カリフォルニア州カールスバッド所在))とライゲーションさせた。全ての構成物を塩基配列決定法により検証した。ヒトCA IXの細胞外部分を含むGST−PGCA融合タンパク質をコードする構成物は、以前に記載されている(ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)。下表2に、実施例に使用されたプライマーの配列を提供する。
【表2】
【0111】
形質移入
細胞を60mmのペトリ皿にプレーティングし、翌日およそ70%の密度に達した。形質移入は、ヒトおよびマウスのCA IXのスプライシング変異体をコードするそれぞれ2μgのpSG5C−hASプラスミドおよびpSG5C−mASプラスミド、200ngのpSV2neoプラスミドと共に実施した。形質移入は、ヒトおよびマウスのCA IXのスプライシング変異体をコードするそれぞれ2μgのpSG5C−hASプラスミドおよびpSG5C−mASプラスミド、200ngのpSV2neoプラスミドと共に、Gene Porter II形質移入剤(ゲンランティス(Genlantis)社(米国カリフォルニア州サンディエゴ所在))を用いて実施した。HeLa細胞に関しては900μg/mlの濃度で、MDCK細胞に関しては500μg/mlの濃度でG418(インビトロジェン社製)を用いて、形質移入細胞を選別に供した。耐性コロニーをクローン化し、免疫ブロット法によりスプライシング変異体の発現を試験し、増殖させた。
【0112】
蛍光CA阻害剤の結合
蛍光CA阻害剤(FITC−CA I)は、ホモスルファニルアミドとフルオレセインイソチオシアネートとの反応により得られ、CA IXに対して24nMのKi値を示した(スバストバ(Svastova)ら、2004年、セッチ(Cecchi)ら、2005年)。この阻害剤を100mMの濃度で20%のDMSOを有するPBS中に溶解し、細胞への添加直前に培地中で最終的に1mM濃度に希釈した。MDCK−CA IX細胞(スバストバ(Svastova)ら、2004年)を、ヒトAS変異体を分泌するMDCK−AS形質移入体から馴化培地を含めた培地に、3.5cmの皿当り4×105細胞の密度でプレーティングした。対照細胞を、分泌ASの不在下でインキュベートした。24時間のインキュベーション後、同じ新鮮な培地を補充し、FITC−CA Iを細胞に添加し、細胞を低酸素ワークステーションに移し、さらに48時間結合させた。平行して酸素正常状態中でサンプルをインキュベートした。最後に細胞をPBSで5回洗浄し、ニコンE400エピ蛍光顕微鏡により検視した。蛍光強度は、Scion Image Beta4.02ソフトウェア(シオン社(Scion Corporation)(米国メリーランド州フレデリック所在))を用いて獲得した画像から評価し、相対的FITC−CA I結合をパーセントで表した。
【0113】
タンパク質の抽出
タンパク質は、以前記載されたとおり(スバストバ(Svastova)ら、2004年)、RIPA緩衝液により、細胞単層または組織ホモジネートから抽出した。タンパク質は、プロテアーゼ阻害剤のComplete mini(ロッシュ・アプライドサイエンス(Roche Applied Science)社(ドイツ国マンハイム所在))を含むRIPA緩衝液(PBS中、1%トリトンX−100、0.1%デオキシコール酸ナトリウム、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド)により、細胞単層または組織ホモジネートから、氷上で30分間、抽出した。抽出物は、13000rpmで15分間、遠心分離し、総タンパク質濃度を、製造元の指示に従って、BCAアッセイ(ピアス(Pierce)社(米国イリノイ州ロックフォード所在))によって判定した。総タンパク質の抽出物(30〜50μgを含むアリコート)を、2−メルカプトエタノール有り(還元条件)、または2−メルカプトエタノールなし(非還元条件)で、ラムリ(Laemmli)のサンプル緩衝液中、10%および8%のSDS−PAGEにおいて分離した。
【0114】
免疫沈降および免疫ブロット法
低酸素状態下および正常酸素状態下で24時間、FCSなしでインキュベートしたAS−形質移入細胞の培地から、細胞外ヒトASの検出用サンプルを調製した。培地の1/4(500μl)を10倍に濃縮し、SDS−PAGEで分離した。免疫沈降用に、1mlのハイブリドーマ培地中のCA IX特異的MAbsを、タンパク質−Aセファロースの50%懸濁液(ファルマシア(Pharmacia)社(スウェーデン国ウプサラ所在))25μlに、室温で2時間結合させた。細胞抽出物(200μl)を、タンパク質−Aセファロースの50%懸濁液20μlで予備クリアしてから、結合したMAbに加えた。タンパク質−Aセファロース上に採取した免疫複合体を洗浄し、沸騰させ、以前記載されたとおり(ザトビコバ(Zatovicova)ら、2003年)、SDS−PAGEおよび免疫ブロット法に供した。タンパク質を、SDS−PAGEにおいて分離し、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜(Immobilon(商標)−P、ミリポア(Millipore)社(米国マサチューセッツ州ビレリカ所在))上にブロットした。この膜を、0.2%Nonidet P−40を含むPBS中、5%無脂肪乳を含むブロック緩衝液で1時間処理し、次いで、ブロック緩衝液(1:2に希釈したハイブリドーマ培地中のM75モノクローナル抗体または1:1000に希釈したウサギ抗マウスCA IXポリクローナル抗体)中に希釈した一次抗体と共に1時間インキュベートした。処理後、膜を、0.2%のNonidet P−40を有するPBS中、45分間完全に洗浄し、ブロック緩衝液中で1:7500および1:5000に希釈した、西洋わさびペルオキシダーゼに結合させたブタ抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体(セバファーマ(Sevapharma)社製)と共に1時間インキュベートした。膜を、0.2%のNonidet P−40(シグマ(Sigma)社(米国ミズーリ州セントルイス所在))を含むPBS中で洗浄し、ECL検出系により展開した。
【0115】
膜タンパク質および膜直下タンパク質の単離およびオリゴマーの分析のため、細胞をPBSで洗浄し、RIPA抽出緩衝液と共に30秒間、氷上でインキュベートした。タンパク質を有するRIPA緩衝液を吸引し、細胞に新鮮なRIPA緩衝液を加えた。次いで、残りのタンパク質を氷上で15分間抽出した。CA IX特異的なMAb V/10(FLを認識するが、ASは認識しない)またはM75(双方の変異体を認識する)を用いて先ずオリゴマーをHeLa−AS抽出物から免疫沈降させた。沈降させたオリゴマーの成分を、還元性SDS−PAGE中に溶解し、ブロットし、ペルオキシダーゼ標識したM75を用いて可視化した。
【0116】
逆転写PCR
InstaPure試薬(ユーロジェンテック(Eurogentec)社(ベルギー国セライング所在)を用いて、総RNAを、細胞または組織から単離した。ランダムヘプタマープライマー(400ng/μl)を用い、M−MuLV逆転写酵素(フィンザイムス(Finnzymes)社(フィンランド国オイ所在))により、逆転写を実施した。5μgの総RNAとランダムプライマー(400ng/μl)の混合物を70℃で10分間加熱し、氷上で速やかに冷却し、6mMのMgCl2、40mMのKCl、1mMのDTT、0.1mg/mlのBSAおよび50mMのトリス−HCl、pH8.3を含む逆転写酵素緩衝液を添加した。最終容量24μlの混合物に、さらに200UのM−MuLV逆転写酵素を添加し、42℃で1時間インキュベートし、70℃で15分間加熱し、使用するまで−80℃で保存した。
【0117】
表2(上記)に掲載したプライマーと共に、Dynazyme EXTポリメラーゼ(フィンザイムス(Finnzymes)社製)によってPCRを実施した。得られたPCR断片を、1.5%アガロースゲル上で処理した。PCRのプロトコルは、以下のように構成された:94℃で3分間の後、以下を30サイクル:94℃で30秒間の変性、40秒間のアニーリング(温度はプライマーセットに依る)、72℃で40秒間の伸長、引き続き、72℃で5分間の最終伸長。このPCR産物を精製し、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社(米国フォスターシティー所在)のABI 3100による自動シークエンサーを用いて配列決定した。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は例示のみを目的としており、本発明を限定することは決して意図していない。
【0119】
実施例1
CA IXのマウススプライス変異体の同定、構造および発現
マウス組織におけるCar9 mRNAの発現に関する以前の逆転写(RT)PCRデータは、エクソン1〜6の増幅に基づいていた。しかし、エクソン6〜11にわたる領域を増幅するために、プライマーm6Sおよびm11Aを用いたCar9 mRNAのRT PCR分析により、2つの増幅産物、すなわち、1つは予想された大きさのPCR産物、もう1つはそれよりも小さい産物の存在が判明した(図1A、1B)。この小さいPCR産物の配列決定により、そのCar9特異性が証明され、それが、エクソン7および8を欠く、マウスCar9 mRNAの選択的スプライシング(AS)変異体であることが示された。このマウスAS変異体は、分析した3つの組織、胃、小腸および結腸全てに見られた(図1B)。対応する一対のプライマー(野性型に対してはm8S〜m10AおよびASに対してはm6/9S〜m10A)を用いたCar9の野生型およびAS変異体の個々のRT PCR増幅により、分析した組織において、双方の産物が同時に存在することが確認された(図1C)。
【0120】
AS変異体配列のコンピュータ解析により、推定タンパク質は、完全長マウスCA IXより約6kDaだけ小さく、その予測分子量は48kDaであることが示された。スプライシング変異体は、触媒的(CA)ドメインのC末端部分および膜貫通アンカーの上流の領域を欠く一方、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインは完全のままである、アミノ酸335〜379を欠失したタンパク質をコードする能力を有する(図1D、1E)。
【0121】
マウスAS CA IX変異体の細胞成分局在を調べるために、本発明者らは、AS CAr9のcDNAをpSG5C発現プラスミド内にクローン化し、それを、永久的な形質移入細胞株の作出に用いた。AS変異体は、内因性のCA IXタンパク質を含まないマウスNIH3T3線維芽細胞およびイヌMDCK上皮細胞に過剰発現した。ポリクローナル抗マウスCA IX抗体を用い(ガット(Gut)ら、2002年)、免疫ブロットおよび免疫蛍光により、双方の形質移入した細胞株を調べた。形質移入体の細胞抽出物中におよそ48kDaの単一バンドが検出され、コンピュータで予測されたマウスAS CA IXタンパク質の分子量とよく対応していた(図2A)。形質移入された細胞は、明瞭な細胞質染色を示し、マウスAS変異体が細胞質ゾル内に局在していることを示唆していた(図2B)。
【0122】
実施例2
CA IXのヒトスプライス変異体の同定および構造
ヒトの組織および細胞株におけるAS CA9 mRNAを探索するために、本発明者らは、ヒトCA9 mRNAの全体をカバーするプライマーセットを設計した(図3A)。これらを、ヒトの胃および小腸から単離したmRNAから逆転写したcDNAテンプレート上でRT−PCRにおいて用いた。エクソン1および6に対して設計されたプライマーを用いて、本発明者らは、予想されたPCR産物のみを検出した(図3B)。しかしながら、エクソン6および11に対するプライマーにより、2つのPCRアンプリコン、すなわち、大量の長い産生物と、非常に少量の短い産生物が生じた(図3C)。この短い方の産生物の配列解析によって、これが、ヒトCA9 mRNAのAS変異体に相当することが確認された。スプライシングにより、エクソン8および9の検出に至った。
【0123】
コンピュータで予測されたヒトAS CA IXタンパク質は、アミノ酸356〜412を欠いており、完全長(FL)CA IXに関する49kDaの予測サイズに比較して、その推定分子量は約43kDaである。欠失により、触媒的CAドメインのC末端部分から35のアミノ酸およびCAドメインと膜貫通領域との間に局在する21のアミノ酸が除去されたが、これらには、分子間S−S結合の形成に関与すると考えられるCys409が含まれる(図3D)。AS mRNAにおける1119bp位(FL CA9 mRNAでは、停止コドンは、1142bp位にある)におけるフレームシフトで作出された停止コドンにより、ASタンパク質は切断され、膜貫通ドメインも細胞質内ドメインも含んでいない(図3E)。
【0124】
実施例3
腫瘍細胞株および腫瘍組織におけるヒトAS CA IXの発現
CA9 mRNAのFL変異体およびAS変異体の別々の検出を促進するために、本発明者らは、それら個々の増幅を可能にするプライマーを利用した。その設計は、1つのFL特異的プライマーを欠失領域内に配置し、もう1つのAS特異的プライマーを選択的スプライシングで生じたジャンクションに配置することに基づいていた(図3A)。
【0125】
先ず、本発明者らは、低酸素状態(2%)および酸素正常状態(21%)に曝露したヒト癌細胞株におけるAS変異体の存在を解析した。AS変異体は、試験した全ての細胞株で検出され、低酸素状態と酸素正常状態とで同様のレベルを示した(図4A)。これは、FL CA9 mRNAと対照的であり、FLCA9 mRNAは、明らかに低酸素状態誘導的であり、いわゆる腎癌由来のACHN細胞および子宮頚部癌由来のCaski細胞およびSiHa細胞においてかなりのレベル増加を示し、一方、CAKI−1細胞は、きわめて低レベルのFLCA9を発現した(図4A)。CA9遺伝子を欠くC33a子宮頚部癌細胞においては、FLCA9特異的なシグナルは見られなかった(リースコブスカ(Lieskovska)ら、1999年)。
【0126】
以前の研究により、細胞周囲の低酸素状態に関連したFL CA IXの密度誘導発現が示されている(カルツ(Kaluz)ら、2002年)。AS変異体の発現が密度依存的であるかどうかを調べるために、本発明者らは、低密度培養(1cm2当たり1×104細胞でプレーティング)ならびに高密度培養(1cm2当たり8×104細胞でプレーティング)それぞれにおいて24時間培養したHeLa細胞およびSiHa細胞を用いた。高密度細胞は、明らかにFLCA9 mRNAの酸素正常状態発現を示したが、そのレベルは、低酸素状態細胞におけるレベルよりも低かった。AS変異体のレベルに関しては、低密度単層で培養した細胞と高密度単層で培養した細胞との間に顕著な違いは見られなかった(図4B)。
【0127】
最後に、本発明者らは、ヒトの胃、結腸、直腸および肝臓などの正常な組織と悪性組織におけるAS発現を解析した。RT−PCRにより、試験した全ての組織においてAS変異体の存在が判明した(図4C)。先行の研究と一致して、FL転写体は、正常な胃、ならびに結腸および直腸に由来する腫瘍において見られた(サーミオ(Saarnio)ら、1998年、キベラ(Kivela)ら、2005年)。
【0128】
実施例4
CA IXのヒトAS変異体の局在および基本的な特徴
CA IXのAS変異体の基本的な特性化を実施するために、本発明者らは、ヒトASタンパク質の異所性発現を有する形質移入体を作出した。CA IX陰性のMDCK細胞ならびに高密度および低酸素状態に応じて天然に発現するヒトHeLa子宮頚部癌細胞に、ヒトAS cDNAを形質移入した。TM領域およびIC領域のスプライシングおよびフレームシフト媒介の除去を予測したコンピュータ解析と一致して、AS CA IXタンパク質は、細胞膜に限定されなかったが、MDCK細胞と酸素正常状態のHeLa細胞の双方においては、細胞内局在を示した(図5A)。これは、形質移入MDCK細胞および低酸素状態(2%のO2)に曝露した偽形質移入HeLa細胞における細胞表面局在と明らかに対照的であった。
【0129】
形質移入HeLa−AS細胞は、免疫ブロットにおいて、AS CA IXに対応するおよそ43/47kDaの2つのバンドおよび低酸素状態に誘導されたFL CA IXに対応する54/58Kのさらに2つのバンドを示した(図5B)。ASタンパク質からの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインが完全に欠如しているため、本発明者らはまた、AS CA IX分子の少なくとも一部は、培地に放出されるはずであると推測した。この可能性を調べるため、細胞を、無血清培地中、酸素正常状態下および低酸素状態下で培養した。24時間のインキュベーション後、培地の1/4を濃縮し、SDS−PAGEにより分析した。免疫ブロットにより、酸素正常状態下と低酸素状態下の双方で、培地中にAS CA IXの存在が示された(図5B)。これらを考え合わせると、これらのデータは、ほとんど細胞膜に限定されているFL CA IXとは対照的に、ASは、細胞内ならびに細胞外空間に存在していることを示した。
【0130】
しかしながら、いくらかのAS分子がFL CA IXによるヘテロオリゴマー内に組み込まれる可能性が残っている。通常はCA IXの完全ドメインに結合するが、AS変異体を認識できないモノクローナル抗体のV/10を用いて、この推測を試験した(データは示していない)。FL分子との相互作用を介したCA IXオリゴマーの免疫沈降に、このV/10 Mabを利用した。次いで、オリゴマーの成分(組み込まれた可能性のあるAS分子を含め)を還元性PAGEに溶解させ、FL型とAS型の双方と反応するペルオキシダーゼ標識M75抗体を用いる免疫ブロットにより視覚化した。非還元条件下、FLタンパク質は、約153Kのオリゴマーを形成し、一方、AS CA IX変異体は、それができず、また、FL CA IXタンパク質によって構築されたオリゴマー内に進入することもできなかった(図6;詳細は、材料と方法を参照)。
【0131】
実施例5
ヒトAS CA IXの機能的特性
腫瘍細胞におけるFL CA IXの発現は、低酸素状態によって誘導される。低酸素状態はまた、CA IXの触媒性能も活性化し、その結果、細胞外pHの酸性化が増強される(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。この酸性化能力は、CA IXの触媒的CAドメインを欠くドミナントネガティブな変異体の過剰発現によって消滅する(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。ASタンパク質は、不完全なCAドメインしか含んでいないので、それが触媒的に活性であるかどうか、およびFL CA IXタンパク質によって媒介される酸性化を阻害する能力があるかどうかを分析することは特に重要であった。酵素活性の測定は、完全CAドメイン[例えば、配列番号9]を含むFL CA IXのGST融合細胞外部分に比較して、切断CAドメインを含む組換え細菌GST−AS融合タンパク質を用い、それによってPGドメインとCAドメインの双方[aa52〜397(配列番号83)]を含むGST−PGCAを形成し、ストップトフロー分光法により達成した。その結果、野生型CA IXの触媒活性、Kcat(WT)=3.8×105/秒は、スプライシング変異体において半分、Kcat(AS)=1.9×105/秒に減少することが判明した。また、GST−ASタンパク質は、炭酸脱水酵素のスルホンアミド阻害剤であるアセタゾールアミンに対して、かなり低い親和性:Ki WT=14nM対KiAS=110nMを示した。それらのデータにより、このスプライシングは、CA IXの酵素活性と阻害剤に対するその親和性との双方を損なったことが示唆される。
【0132】
また、本発明者らは、AS CA IXが、低酸素条件下で、細胞外pHを酸性化するFL CA IXの能力を調節できるかどうかを知ることを望んだ。その目的のために、本発明者らは、2%のO2(低酸素状態)および21%のO2(酸素正常状態)において、48時間インキュベートした形質移入HeLa−AS細胞と偽形質移入対照とを分析した。低酸素インキュベーションは、酸素正常状態対応物に比較して、対照ならびにAS形質移入HeLa細胞において、予想された細胞外酸性化をもたらした(図7A)。しかし、培地は、AS過剰発現細胞において、酸性化がおよそ0.2pH単位少なく、ASが野生型のCA IXタンパク質の酸性度を阻害したことを示唆した。
【0133】
CA IXの触媒部位が細胞外空間に曝露されるため、本発明者らは、ASの細胞外画分の可能な役割を試験した。先に述べたように、CA IXの活性は、触媒部位がフルオレセイン標識CA阻害剤(FITC−CA I)によってアクセス可能である低酸素状態−活性化CA IXにのみ結合する阻害剤を用いて間接的に示すことができる(スバストバ(Svastova)ら、2004年)。したがって、本発明者らは、低酸素で処理した場合、CA IX媒介の細胞外酸性化を示し、低酸素状態でFITC−CAを蓄積するが、酸素正常状態においては蓄積しないCA IX−形質移入MDCK細胞の確立されたモデルを用いた。ここで本発明者らは、AS分泌MDCK−CA IX細胞形質移入体からの培地の存在下および不在下で、MDCK−CA IX細胞におけるFITC−CA Iの蓄積を分析した。図7Bに示されるように、AS含有調整培地を混合した新鮮培地中でのMDCK−CA IX細胞のインキュベーションにより、FITC−CA IXの蓄積が明らかに減少し、細胞外ASが阻害剤の結合を減少させたという考えを裏付けていた。この実験を、1/2ならびに1/3のAS含有調整培地によって反復した。獲得した画像を分析して、蛍光強度の差を判定した。その結果、ASの細胞外画分は、FITC−CA Iの蓄積をおよそ半分に減少させることが実証された(図7C)。
【0134】
FL CA IXの機能性に及ぼすAS変異体の効果が、生物学的帰結を有し得るかどうかを調べるために、本発明者らは、偽形質移入対照に比較して、HeLa−AS形質移入体の増殖パラメーターを分析した。酸素正常状態または低酸素状態とは独立して、接着培養における短期(72時間)増殖に際して、これら2つの細胞型の間に有意な差は見られなかった(データは示していない)。したがって、本発明者らは、14日間増殖させたHeLa細胞スフェロイドも作製し、HeLa−AS細胞および対照HeLa細胞それぞれから作出したスフェロイドの質量および形状を比較した。HeLa−ASスフェロイドはそれほど小型でなく、低酸素および酸性pHを被る細胞を通常含む中央領域を欠いた(図7D)。これらHeLa−ASスフェロイドの外見は、pHを調節するFL CA IXの能力低下に導くASの効果が、これらの微小環境ストレスを生き延びる細胞の能力に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0135】
これらをまとめると、我々の結果によって、AS CA IXは、FL CA IXに比較して、調節のされ方が異なっており、局在化が異常であり、機能が不能化されていることが示された。
【0136】
考察
選択的スプライシングの脱調節は、特に癌においてよく認識された現象である(ベナブルス(Venables)ら、2006年)。CD44、HIF−α、VEGF、オステオポンチンなど、また他にも多くの、その産物が腫瘍の進行に因果的に関与している、選択的にスプライスされた遺伝子の例は多数ある(ワン(Wong)ら、2003年、ゴチー(Gothie)ら、2000年、ロビンソン(Robinson)ら、2001年、フー(He)ら、2006年)。いくつかの場合、正常な組織でな稀であるスプライス型が腫瘍においては一般的になり得、一方、正常組織に存在する選択的スプライス型は、不変のままであり得る(ロイ(Roy)ら、2005年)。
【0137】
本研究において同定されたヒトCA IXの選択的スプライシング変異体は、この範疇に分類できるが、完全長CA IXの発現パターンはかなり特殊であるため、明快に結論づけることは難しい。FL CA IXは、胃や小腸などのきわめてわずかな正常組織中に多量に存在するが、同時に、その選択的スプライシング変異体の発現は低レベルである。胃癌においては、FL CA IXの発現は減少するが、ASのレベルは正常な胃と同様である。他方、完全長CA IXの発現は、正常な結腸および直腸において存在しないか、またはきわめて少なく(本研究において分析されていない他の正常組織においても)、対応する腫瘍においては有意に増加する(サーミオ(Saarnio)ら、1988年)。しかしながら、AS変異体は、正常な組織と結腸直腸癌の双方において、安定した発現レベルを示す。これらのデータにより、その発現は腫瘍の表現型に関連していないことが強く示唆される。さらには、そのレベルが密集培養で増殖させ低酸素状態に曝露された細胞において誘導されるFL CA IXとは対照的に、AS変異体は、基本的に低酸素状態および細胞密度には依存しない。
【0138】
ASの比較的低いが構成的な発現は、可能性のある予後診断または予測の目的のために低酸素状態腫瘍のマーカーとしてCA9転写を用いる臨床的研究にとってかなり重要である。正常および/または非低酸素状態組織におけるFL CA9の不在下でASが存在するために、スプライシングによって影響を受けない領域の検出を目的に設計されたプライマーまたはプローブは、CA9 mRNAの2つの型を識別することができず、したがって、偽陽性の結果を与える可能性があり、低酸素状態に誘導されたFL CA9の真の臨床値に影響を及ぼし得る。
【0139】
注目すべきことに、FL転写体に比較してAS mRNAの5'PACE分析により、同じ長さの産物が作出され、双方の変異体が同一のプロモーターから生じるという結論を裏付けている(データは示していない)。この事実は、生理学的環境に依存するCA9転写体のプロセシングにおいて、転写機構とスプライシング機序の成分との差異的協力を示唆し得る。実際、hTERT、TrkAおよびXBP1に関連するものなど、低酸素状態によって調節されるスプライシング事象がいくつかある(アンダーソン(Anderson)ら、2006年、タコーネリ(Taconelli)ら、2004年、ロメロ−ラミレツ(Romero−Ramirez)ら、2004年)。hTERTの場合、RNAポリメラーゼII、TFIIB、HIFおよびコアクチベーターを含む転写複合体が、低酸素状態下でプロモーターに動員され、転写が進行する限り遺伝子に結合したままでいることが実証されている。これによって、酵素の活性形態に有利なスプライスパターンにおけるスイッチが誘起される(アンダーソン(Anderson)ら、2006年)。CA9遺伝子の転写の間も同様な機序がはたらく可能性はかなり考え得ることである。
【0140】
ヒトCA9 mRNAのAS変異体は、エクソン8プラス9の欠失から生じ、触媒的ドメインの膜貫通領域、細胞内テールおよびC末端部分を含まない切断タンパク質に翻訳される。TMおよびIC領域の除去は明らかに、細胞間空間を優勢的に占有し細胞外媒体にも放出されるこのAS変異体の局在変更の原因となる。これは、総体的な細胞膜タンパク質であるFL CA IXタンパク質とは対照的である。触媒的ドメインに関連するこのような部分的欠失に関連した不適切な局在により、タンパク質の機能性が損なわれると予想することができる。実際、GST−ASは、完全な触媒的ドメインを含む対応するGST−PG+CAタンパク質の酵素活性の半分しか示さない。しかしながら、低酸素状態下で、CA IXが炭酸トランスポーターと相互作用し、細胞膜全般にわたるpH調節に寄与する、局所の細胞文脈(モーガン(Morgan)ら、2007年、スバストバ(Svastova)ら、2004年、スウィータッチ(Swietach)ら、2007年)にこの知見を直接移し変えることはきわめて難しい。第1に、CA IXの触媒性能の調節に確かにある役割を果たしている細胞下構造、タンパク質−タンパク質相互作用、イオン流入および微小環境の影響が無い設定下、細菌内で産生されたタンパク質によって、活性の測定を実施した。第2に、種々の炭酸脱水酵素イソ酵素の触媒活性は、おおよそ2桁の大きさの範囲内で変わり、より高い活性イソ型は、中程度と考えられるイソ酵素よりも20倍からほんの3倍までの活性の高さを示す(パストレコバ(Pastorekova)ら、2004年)。したがって、半分に減少した活性が、CA IXの生理学的機能にとって十分であるかどうかを除外することは不可能である。いずれにせよ、AS変異体は細胞膜に適切に局在しておらず、CA IXタンパク質の機能にとってきわめて重要な条件であるオリゴマーを形成することができないため、この疑問は恐らく重要ではない。
【0141】
しかしながら、AS型のCA IXを構成的に過剰発現する低酸素状態のHeLa−AS細胞の培養において見られる細胞外酸性化の減少により、AS型のCA IXは、内因性の低酸素状態誘導FLタンパク質の機能を阻害することが明らかに示される。この機序は現在のところ明らかではないが、AS変異体で処理した低酸素状態のMDCK−CA IX細胞におけるCA阻害剤の蓄積減少に基づき、炭酸輸送メタボロン(metabolon)の細胞表面成分との相互作用に関して、ASがFL CA IXと競合していることを提案することができる。さらに、ASの過剰発現が、対応する腫瘍内微小環境を有する腫瘍塊を模倣する3Dモデルとしてたびたび用いられる小型のスフェロイドを形成するHeLa細胞の能力にかなりの影響を及ぼす。コア領域がより酸性な微小環境を特徴とする固形腫瘍の低酸素領域と明らかな類似性を示すスフェロイド全般にわたる酸素分圧、pH、栄養物および代謝物の勾配が、多くの研究により十分に文書化されている(アルバレツ−ペレツ(Alvarez−Perez)ら、2005年)。他に、FL CA IXの細胞膜染色が、SiHaおよびHeLaの子宮頚部癌細胞から生成した多細胞スフェロイドの最内部の細胞で有意に増加することが示されている(オリーブ(Olive)ら、2001年、クラスチナ(Chrastina)ら、2003年)。細胞が生き延びるために、低酸素ストレスおよび酸性微小環境の有害な影響に対する保護および/または適応の増大を必要としているまさにその領域にFL CA IXが存在することを、これらのデータは示している。ここでFL CA IXは、細胞内pHの炭酸媒介緩衝作用を介して作用する(スウィータッチ(Swietach)ら、2007年)。このpH調節を部分的に動揺させるAS変異体は明らかに、スフェロイド内の酸性pHに対する適応を許さず、スフェロイドのコアから最もストレスを受けた中心の細胞の除去に至る。この考えは、CA IXの触媒活性が低酸素状態により調節されるという知見と一致し、pHを調節するCA IXの能力は、低酸素腫瘍細胞の生き残りにとって重要であることを示唆している。後者の示唆はまた、ロバートソン(Robertson)ら(2004年)によるRNAi実験によっても間接的に裏付けられている。
【0142】
天然に産生されたAS変異体は低レベルで発現するが、FL CA IXをほんの弱く誘導する生理学的環境および細胞型がある。例えば、機能的血液供給性血管から短距離に局在化した腫瘍細胞は、軽微な低酸素状態に曝露され、同等レベルのFLおよびASを発現させて、CA IX活性のドミナントネガティブなダウンレギュレーションを可能にし得る。このような弱い低酸素状態の細胞は、苛酷なアシドーシスに曝露されないと推測され、したがって、このpH制御機序の完全な実施から利益を得ない可能性がある。軽微な虚血を被っている正常組織にも同様な説明を適用することができる。この考えは、いくつかの腫瘍細胞株、高密度の酸素正常状態の細胞(細胞周辺の弱い低酸素状態に影響を受けた)およびいくつかの早期の低酸素状態の程度が低い腫瘍は、ただ低レベルのFL CA IXを発現するということを示す最近ならびに以前のデータによって裏付けられている。結論として本発明者らは、AS変異体が、双方のタンパク質が同時発現される環境下で、FL CA IXのモジュレーターとして働くことを提案する。可能な予後診断または予測を目的とした、低酸素腫瘍のマーカーとしてのCA9転写に基づいた臨床的研究のために、選択的スプライシング変異体の低いが構成的な発現はかなり重要である。正常および/または非低酸素状態組織におけるFL CA9の不在下でASが存在するために、スプライシングによって影響を受けない領域の検出を目的に設計されたプライマーまたはプローブは、CA9 mRNAの2つの型を識別することができず、したがって、偽陽性の結果を与える可能性があり、低酸素状態に誘導されたFL CA9の真の臨床値に影響を及ぼし得る。実際これは、今までに公開されたいくつかの研究[例えば、マッキーナン(McKiernan)ら、Cancer.86(3):492〜497頁(1999年);スパン(Span)ら、Br J Cancer.89(2):271〜276頁(2003年);シミ(Simi)ら、Lung Cancer.52(1):59〜66頁(2006年);グライナー(Greiner)ら、Blood.108(13):4109〜4117頁(2006年)]において、生じ得る。この理由から、マイクロアレイチップおよびRT−PCRのための正しいプライマーおよびプローブの設計は注意して行なう必要があり、AS型のMN/CA IXを考慮に入れる必要がある。
【0143】
ブダペスト条約の寄託
下記に掲げた物質は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(米国20110−2209バージニア州マナッサスUniversity Blvd.,10810所在)に寄託された。この寄託は、the Budapest Treaty on the International Recognition of Deposited Microorganisms for the Purpose of Patent Procedure and Regulations(ブダペスト条約)にしたがって行なわれた。生存可能な培養物の維持は、寄託日から30年間保証される。ハイブリドーマおよびプラスミドは、ブダペスト条約の下、ATCCにより入手でき、当該出願から特許が付与された際に、寄託されたハイブリドーマおよびプラスミドの公的に非制限的利用を保証する出願者とATCC間の同意に従う。寄託された株が利用可能であることは、任意の政府当局のもとでその特許法に従って付与された権利に違反して、本発明を実施することの許可として解釈すべきではない。
【0144】
同様に、V/10モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株V/10−VUは、ブダペスト条約の下、ヘント大学(Universiteit Gent)(ベルギー国ヘントB−9000,K. L. Ledeganckstraat 35所在)のthe Laboratorium voor Moleculaire Biologie-Plasmidencollectie(LMBP)にある、ベルギーの微生物保存機関(the Belgian Coordinated Collections of Microorganisms)(BCCM)[BCCM/LMBP]の国際寄託当局(the International Depository Authority)(IDA)に、2003年2月19日に登録番号6009CBとして寄託された。
【0145】
本発明の前述の実施形態の記載は、例示および説明目的のために提供された。それらは、逐一的ではなく、または開示された正確な形態に本発明を限定する意図はなく、多くの修飾および変更が、上記の教示に鑑みて可能であることは明らかである。本発明の原理およびその実際の適用を説明し、それによって当業者が考慮される特定の使用に適するように種々の実施形態で、および種々の変更によって本発明を利用することができるように、これらの実施形態が選択され記載されている。
【0146】
本明細書に引用された全ての参考文献は、参照として本明細書に援用されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全長[FL]および選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAの発現、あるいは、ASおよびFLのMN/CA IXの発現の差異を識別する工程を有してなる、
哺乳動物における異常なMN/CA IXの発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法。
【請求項2】
1種類以上のプローブおよび/またはプライマーを使用して、FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNA発現を検出、または検出および定量化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]のMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;
(b)FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;および/または
(c)FLおよびASのMN/CA9 mRNAの双方を検出するためのプローブおよび/またはプライマー
の使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトであり、前記1種類以上のプローブおよび/またはプライマーが、配列番号97〜101および、配列番号97〜101と少なくとも80%相同性である核酸配列からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
核酸増幅方法の使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸増幅方法が、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRの使用を含んでなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAには結合しないが、完全長[FL]MN/CA9 mRNAに結合するプローブ、および/またはFLのMN/CA9 mRNAには結合しないが、ASのMN/CA9 mRNAに結合するプローブを含む、マイクロアレイチップの使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
FL:ASのMN/CA9 mRNAの比を決定する工程をさらに有してなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記ASのMN/CA9 mRNA発現が、正常なMN/CA9遺伝子発現を示し、前記FLのMN/CA9 mRNA発現が、異常なMN/CA9遺伝子発現を示すことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記ASのMN/CA9 mRNA発現が、酸素正常状態のMN/CA9遺伝子発現を示し、前記FLのMN/CA9 mRNA発現が、低酸素状態のMN/CA9遺伝子発現を示すことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
1種類以上の抗体を使用して、前新生物/新生物組織におけるFLおよびASのMN/CA9 mRNA発現の差異を識別する工程を有してなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組織においてASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程を有してなることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織においてFLのMN/CA IXレベルのASのMN/CA IXレベルに対する比を決定する工程をさらに有してなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記比が、前記組織における低酸素状態の存在または程度を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
脊椎動物の組織においてFLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程であって、
(a)前記脊椎動物の組織サンプルを、少なくとも2種の抗体、少なくとも2種の抗原結合性抗体断片、または抗体および抗原結合性抗体断片の混合物に同時にまたは連続的に接触させる工程であって、
ここで、少なくとも1種の抗体/抗体断片は、FLのMN/CA IXタンパク質には特異的に結合するが、ASのMN/CA IXタンパク質には結合せず、
少なくとも1種の他の抗体/抗体断片は、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する、
ことを特徴とする工程と、
(b)前記サンプルにおいて前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
(c)前記特異的に結合する抗体/抗体断片の結合を比較して、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの相対的レベルを決定する工程と、
を有してなることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体/抗体断片、または、FLのMN/CA IXに特異的に結合するが、ASのMN/CA IXには結合しない抗体/抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であり、
前記抗体/抗体断片、または、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する抗体/抗体断片が、MN/CA IXのプロテオグリカン様(PG)ドメインに特異的である、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとして、ベルギー国ヘント所在のBCCM(商標)/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であり、
前記MN/CA IXのPGドメインに特異的な前記抗体が、ATCC指定番号HB11128として、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されたハイブリドーマVU−M75により産生されるM75モノクローナル抗体である、
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
脊椎動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法であって、
脊椎動物の組織において選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXタンパク質は検出せず、完全長[FL]MN/CA IXタンパク質を検出、または検出および定量化する工程であって、
(a)前記脊椎動物の組織サンプルを、抗体または抗体断片と接触させる工程であって、前記抗体または抗体断片が、ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXには特異的に結合することを特徴とする工程と、
(b)前記サンプルにおける前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
を有してなる方法。
【請求項19】
前記抗体または抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとして、ベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物/新生物疾患の診断および/または予後診断方法であって、
哺乳動物の前新生物/新生物サンプルにおける選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、前記サンプルからのmRNAを、ASのMN/CA9 mRNAには結合しないが、FLのMN/CA9 mRNAに特異的に結合するプライマーまたはプローブに接触させる工程を有してなることを特徴とする方法。
【請求項22】
哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用されるプローブまたはプライマー。
【請求項23】
前記哺乳動物がヒトであり、
前記プローブまたはプライマーが、FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、
前記プローブまたはプライマーが、MN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含む、
ことを特徴とする請求項22に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項24】
前記プローブまたはプライマーが、配列番号101の配列、または配列番号101と少なくとも80%相同性の配列を有することを特徴とする請求項23に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項25】
請求項22に記載のプローブまたはプライマーを発現するベクター。
【請求項26】
請求項25に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
前記哺乳動物がヒトであり、
前記プローブまたはプライマーが、ASのMN/CA9 mRNAは検出せず、FLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、
前記プローブまたはプライマーが、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に結合するか、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7および8のスプライスジャンクション、エクソン8および9のスプライスジャンクション、またはエクソン9および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含む、
ことを特徴とする請求項22に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項28】
前記プローブまたはプライマーが、配列番号100の配列、または配列番号100と少なくとも80%相同性の配列を有することを特徴とする請求項27に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項29】
請求項22に記載のプローブを1種類以上含むマイクロアレイチップ。
【請求項30】
哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAと完全長[FL]MN/CA9 mRNAとの発現を識別するために使用される一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項31】
完全長[FL]のヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用されることを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項32】
配列番号99および101、または配列番号99および101と少なくとも80%相同性の核酸配列からなることを特徴とする請求項31に記載の一対のプローブまたはプライマー。
【請求項33】
選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用されることを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項34】
配列番号99および100、または配列番号99および100と少なくとも80%相同性の核酸配列からなることを特徴とする請求項33に記載の一対のプローブまたはプライマー。
【請求項35】
配列番号97および98、または配列番号97および98と少なくとも80%相同性の核酸配列からなるASのヒトMN/CA9 mRNAおよびFLのヒトMN/CA9 mRNAの双方を検出するために使用され、
前記ASのmRNAおよび前記FLのmRNAが、その長さにより識別される、
ことを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項36】
哺乳動物の選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXをコードする単離された核酸であって、前記ASのMN/CA IXが、約43〜約48000の分子量を有することを特徴とする単離された核酸。
【請求項37】
請求項36に記載の単離された核酸配列を発現するベクター。
【請求項38】
請求項37に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項39】
MN/CA9のエクソン8およびエクソン9に相当するヌクレオチドを欠失させることを特徴とし、ここで前記ASのMN/CA IXがヒトであることを特徴とする請求項36に記載の単離された核酸。
【請求項40】
配列番号108、または配列番号108と少なくとも80%相同性である単離された核酸を有し、ここで前記ASのMN/CA IXがヒトであることを特徴とする請求項36に記載の単離された核酸。
【請求項41】
配列番号108、または請求項40に記載の単離された核酸によりコードされたAS型のMN/CA IXであって、
前記AS型のMN/CA IXが、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体によっては結合されない
ことを特徴とするAS型のMN/CA IX。
【請求項42】
MN/CA IXのPGドメインに特異的な抗体により特異的に結合されるが、MN/CA IXのCAドメインに特異的な抗体によっては結合されないことをさらに特徴とする請求項36に記載の単離された核酸によりコードされたAS型のMN/CA IX。
【請求項43】
請求項42に記載されたAS型のMN/CA IXであって、
ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体によっては結合されないことをさらに特徴とするAS型のMN/CA IX。
【請求項44】
請求項36に記載のASのMN/CA IXに特異的に結合するが、FLのMN/CA IXには特異的に結合しないことを特徴とする抗体または抗原結合性抗体断片。
【請求項45】
請求項36に記載のASのMN/CA IXに特異的に結合するが、可溶性のMN/CA IX(s−CA IX)には特異的に結合しないことを特徴とする抗体または抗原結合性抗体断片。
【請求項46】
哺乳動物における前新生物疾患/新生物疾患を治療する方法であって、
前記疾患が、MN/CA IXの異常発現に関連し、完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させる薬剤を含む組成物を治療に有効な量で前記哺乳動物に投与する
工程を有してなる方法。
【請求項47】
前記ASのMN/CA IXの相対的レベルの増加により、前記FLのMN/CA IXの炭酸脱水酵素の活性が阻害されることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記薬剤が、生理学的に許容できる担体中のASのMN/CA IX自体、ASのMN/CA9 mRNA発現ベクター、FLのMN/CA IXの発現を遮断するがASのMN/CA IXの発現は遮断しないアンチセンスオリゴヌクレオチド、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するベクター、FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNA、または前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAを発現するベクターであることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAが、MN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションを標的とすることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記薬剤が、ASおよび/またはFLのMN/CA9の前mRNAスプライシングを調節するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項51】
完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させるオリゴヌクレオチドであって、
異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の治療に使用される
ことを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項52】
ASのMN/CA9の前mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9の前mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項51に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項53】
ASのMN/CA9 mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9 mRNAには相補的な、siRNAであることを特徴とする請求項51に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項54】
FLのMN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに相補的であることを特徴とする請求項53に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項55】
ASのMN/CA IXを発現する細胞を、前記細胞における前記ASのMN/CA IXのレベルを調節すると思われる薬剤に接触させる工程と、
前記ASのMN/CA IXのレベルの変化を検出および定量化する工程と、
を有してなる、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを調節する能力のある薬剤をインビトロにおいて同定する方法。
【請求項1】
完全長[FL]および選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAの発現、あるいは、ASおよびFLのMN/CA IXの発現の差異を識別する工程を有してなる、
哺乳動物における異常なMN/CA IXの発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法。
【請求項2】
1種類以上のプローブおよび/またはプライマーを使用して、FLおよび/またはASのMN/CA9 mRNA発現を検出、または検出および定量化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]のMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;
(b)FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するためのプローブおよび/またはプライマー;および/または
(c)FLおよびASのMN/CA9 mRNAの双方を検出するためのプローブおよび/またはプライマー
の使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトであり、前記1種類以上のプローブおよび/またはプライマーが、配列番号97〜101および、配列番号97〜101と少なくとも80%相同性である核酸配列からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
核酸増幅方法の使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸増幅方法が、PCR、RT−PCR、リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイムRT−PCRの使用を含んでなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAには結合しないが、完全長[FL]MN/CA9 mRNAに結合するプローブ、および/またはFLのMN/CA9 mRNAには結合しないが、ASのMN/CA9 mRNAに結合するプローブを含む、マイクロアレイチップの使用を含んでなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
FL:ASのMN/CA9 mRNAの比を決定する工程をさらに有してなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記ASのMN/CA9 mRNA発現が、正常なMN/CA9遺伝子発現を示し、前記FLのMN/CA9 mRNA発現が、異常なMN/CA9遺伝子発現を示すことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記ASのMN/CA9 mRNA発現が、酸素正常状態のMN/CA9遺伝子発現を示し、前記FLのMN/CA9 mRNA発現が、低酸素状態のMN/CA9遺伝子発現を示すことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
1種類以上の抗体を使用して、前新生物/新生物組織におけるFLおよびASのMN/CA9 mRNA発現の差異を識別する工程を有してなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組織においてASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程を有してなることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組織においてFLのMN/CA IXレベルのASのMN/CA IXレベルに対する比を決定する工程をさらに有してなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記比が、前記組織における低酸素状態の存在または程度を示すことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
脊椎動物の組織においてFLのMN/CA IXおよびASのMN/CA IXを検出、または検出および定量化する工程であって、
(a)前記脊椎動物の組織サンプルを、少なくとも2種の抗体、少なくとも2種の抗原結合性抗体断片、または抗体および抗原結合性抗体断片の混合物に同時にまたは連続的に接触させる工程であって、
ここで、少なくとも1種の抗体/抗体断片は、FLのMN/CA IXタンパク質には特異的に結合するが、ASのMN/CA IXタンパク質には結合せず、
少なくとも1種の他の抗体/抗体断片は、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する、
ことを特徴とする工程と、
(b)前記サンプルにおいて前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
(c)前記特異的に結合する抗体/抗体断片の結合を比較して、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの相対的レベルを決定する工程と、
を有してなることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体/抗体断片、または、FLのMN/CA IXに特異的に結合するが、ASのMN/CA IXには結合しない抗体/抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であり、
前記抗体/抗体断片、または、FLのMN/CA IXとASのMN/CA IXの双方に特異的に結合する抗体/抗体断片が、MN/CA IXのプロテオグリカン様(PG)ドメインに特異的である、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとして、ベルギー国ヘント所在のBCCM(商標)/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であり、
前記MN/CA IXのPGドメインに特異的な前記抗体が、ATCC指定番号HB11128として、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されたハイブリドーマVU−M75により産生されるM75モノクローナル抗体である、
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
脊椎動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の診断および/または予後診断方法であって、
脊椎動物の組織において選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXタンパク質は検出せず、完全長[FL]MN/CA IXタンパク質を検出、または検出および定量化する工程であって、
(a)前記脊椎動物の組織サンプルを、抗体または抗体断片と接触させる工程であって、前記抗体または抗体断片が、ASのMN/CA IXには結合しないが、FLのMN/CA IXには特異的に結合することを特徴とする工程と、
(b)前記サンプルにおける前記抗体/抗体断片の結合を検出および定量化する工程と、
を有してなる方法。
【請求項19】
前記抗体または抗体断片が、MN/CA IXの炭酸脱水酵素(CA)ドメインに特異的であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記MN/CA IXのCAドメインに特異的な前記抗体が、登録番号LMBP6009CBとして、ベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物における異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物/新生物疾患の診断および/または予後診断方法であって、
哺乳動物の前新生物/新生物サンプルにおける選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]MN/CA9 mRNAを検出、または検出および定量化する工程を有してなり、前記サンプルからのmRNAを、ASのMN/CA9 mRNAには結合しないが、FLのMN/CA9 mRNAに特異的に結合するプライマーまたはプローブに接触させる工程を有してなることを特徴とする方法。
【請求項22】
哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNA発現と完全長[FL]MN/CA9 mRNA発現とを識別するために使用されるプローブまたはプライマー。
【請求項23】
前記哺乳動物がヒトであり、
前記プローブまたはプライマーが、FLのMN/CA9 mRNAは検出せず、ASのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、
前記プローブまたはプライマーが、MN/CA9遺伝子のエクソン7および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含む、
ことを特徴とする請求項22に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項24】
前記プローブまたはプライマーが、配列番号101の配列、または配列番号101と少なくとも80%相同性の配列を有することを特徴とする請求項23に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項25】
請求項22に記載のプローブまたはプライマーを発現するベクター。
【請求項26】
請求項25に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
前記哺乳動物がヒトであり、
前記プローブまたはプライマーが、ASのMN/CA9 mRNAは検出せず、FLのMN/CA9 mRNAを検出するために使用され、
前記プローブまたはプライマーが、ヒトMN/CA9遺伝子のエクソン8またはエクソン9に結合するか、またはヒトMN/CA9遺伝子のエクソン7および8のスプライスジャンクション、エクソン8および9のスプライスジャンクション、またはエクソン9および10のスプライスジャンクションに結合する核酸を含む、
ことを特徴とする請求項22に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項28】
前記プローブまたはプライマーが、配列番号100の配列、または配列番号100と少なくとも80%相同性の配列を有することを特徴とする請求項27に記載のプローブまたはプライマー。
【請求項29】
請求項22に記載のプローブを1種類以上含むマイクロアレイチップ。
【請求項30】
哺乳動物における選択的にスプライスされた[AS]MN/CA9 mRNAと完全長[FL]MN/CA9 mRNAとの発現を識別するために使用される一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項31】
完全長[FL]のヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用されることを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項32】
配列番号99および101、または配列番号99および101と少なくとも80%相同性の核酸配列からなることを特徴とする請求項31に記載の一対のプローブまたはプライマー。
【請求項33】
選択的にスプライスされた[AS]ヒトMN/CA9 mRNAは検出せず、完全長[FL]ヒトMN/CA9 mRNAを検出するために使用されることを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項34】
配列番号99および100、または配列番号99および100と少なくとも80%相同性の核酸配列からなることを特徴とする請求項33に記載の一対のプローブまたはプライマー。
【請求項35】
配列番号97および98、または配列番号97および98と少なくとも80%相同性の核酸配列からなるASのヒトMN/CA9 mRNAおよびFLのヒトMN/CA9 mRNAの双方を検出するために使用され、
前記ASのmRNAおよび前記FLのmRNAが、その長さにより識別される、
ことを特徴とする請求項30に記載の一対のプローブおよび/またはプライマー。
【請求項36】
哺乳動物の選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXをコードする単離された核酸であって、前記ASのMN/CA IXが、約43〜約48000の分子量を有することを特徴とする単離された核酸。
【請求項37】
請求項36に記載の単離された核酸配列を発現するベクター。
【請求項38】
請求項37に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項39】
MN/CA9のエクソン8およびエクソン9に相当するヌクレオチドを欠失させることを特徴とし、ここで前記ASのMN/CA IXがヒトであることを特徴とする請求項36に記載の単離された核酸。
【請求項40】
配列番号108、または配列番号108と少なくとも80%相同性である単離された核酸を有し、ここで前記ASのMN/CA IXがヒトであることを特徴とする請求項36に記載の単離された核酸。
【請求項41】
配列番号108、または請求項40に記載の単離された核酸によりコードされたAS型のMN/CA IXであって、
前記AS型のMN/CA IXが、ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体によっては結合されない
ことを特徴とするAS型のMN/CA IX。
【請求項42】
MN/CA IXのPGドメインに特異的な抗体により特異的に結合されるが、MN/CA IXのCAドメインに特異的な抗体によっては結合されないことをさらに特徴とする請求項36に記載の単離された核酸によりコードされたAS型のMN/CA IX。
【請求項43】
請求項42に記載されたAS型のMN/CA IXであって、
ATCC番号HB11128としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU−M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により特異的に結合されるが、登録番号LMBP6009CBとしてベルギー国ヘント所在の「BCCM」/LMBPに寄託されたハイブリドーマVU−V/10により産生されるV/10モノクローナル抗体によっては結合されないことをさらに特徴とするAS型のMN/CA IX。
【請求項44】
請求項36に記載のASのMN/CA IXに特異的に結合するが、FLのMN/CA IXには特異的に結合しないことを特徴とする抗体または抗原結合性抗体断片。
【請求項45】
請求項36に記載のASのMN/CA IXに特異的に結合するが、可溶性のMN/CA IX(s−CA IX)には特異的に結合しないことを特徴とする抗体または抗原結合性抗体断片。
【請求項46】
哺乳動物における前新生物疾患/新生物疾患を治療する方法であって、
前記疾患が、MN/CA IXの異常発現に関連し、完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させる薬剤を含む組成物を治療に有効な量で前記哺乳動物に投与する
工程を有してなる方法。
【請求項47】
前記ASのMN/CA IXの相対的レベルの増加により、前記FLのMN/CA IXの炭酸脱水酵素の活性が阻害されることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記薬剤が、生理学的に許容できる担体中のASのMN/CA IX自体、ASのMN/CA9 mRNA発現ベクター、FLのMN/CA IXの発現を遮断するがASのMN/CA IXの発現は遮断しないアンチセンスオリゴヌクレオチド、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するベクター、FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNA、または前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAを発現するベクターであることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記FLのMN/CA9のイソ型に特異的なsiRNAが、MN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションを標的とすることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記薬剤が、ASおよび/またはFLのMN/CA9の前mRNAスプライシングを調節するアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項51】
完全長[FL]MN/CA IXのレベルと比較して選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを増加させるオリゴヌクレオチドであって、
異常なMN/CA IX発現に関連する前新生物疾患/新生物疾患の治療に使用される
ことを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項52】
ASのMN/CA9の前mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9の前mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項51に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項53】
ASのMN/CA9 mRNAには相補的ではないが、FLのMN/CA9 mRNAには相補的な、siRNAであることを特徴とする請求項51に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項54】
FLのMN/CA9 mRNAのエクソン7と8、エクソン8と9、またはエクソン9と10のスプライスジャンクションに相補的であることを特徴とする請求項53に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項55】
ASのMN/CA IXを発現する細胞を、前記細胞における前記ASのMN/CA IXのレベルを調節すると思われる薬剤に接触させる工程と、
前記ASのMN/CA IXのレベルの変化を検出および定量化する工程と、
を有してなる、選択的にスプライスされた[AS]MN/CA IXのレベルを調節する能力のある薬剤をインビトロにおいて同定する方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10】
【公表番号】特表2010−506566(P2010−506566A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532452(P2009−532452)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/021905
【国際公開番号】WO2008/069864
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/021905
【国際公開番号】WO2008/069864
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
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