説明

MOSFETモデル及びそのパラメータ抽出方法

【課題】パワー用途のMOSFETを高精度に模擬できる回路シミュレーション用MOSFETモデルとそのパラメータの抽出を短時間かつ容易に得る。
【解決手段】この発明に係るMOSFETモデルは、MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなるMOSFETモデルであって、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、
前記MOSFETのターンオフのミラー期間における前記MOSFETのドレイン―ソース間の出力電圧Vdsの実測値から抽出して補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回路シミュレーション用MOSFETモデル及びそのパラメータ抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インバータなど電源装置の開発においては、半導体集積回路のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデル等を用いた回路シミュレーションと同様に、ダイオード、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体デバイスの電気特性を模擬的に算出するモデル(デバイスモデル)を利用して、設計を満足する回路構成をシミュレーションで解析し、回路機能を試作評価で検証することが行われている。
【0003】
半導体集積回路のモデル化では、たとえばMOSFETの動作を模擬するためにデバイスの多くの物理的パラメータを抽出し、回路シミュレーションと連携して解析されている。パワーエレクトロニクス回路のシミュレーションにおいては、半導体集積回路のシミュレーションと主に2つの点で違いがある。第1にインバータなどの電源装置の設計者が回路基板を設計するためにシミュレーションをすることが目的であり、パワー半導体デバイスまたは集積回路自体の開発を目的としていない。
したがって、基本的に購入品であるデバイスについてその内部の物理的または構造的情報はまったく入手できず、また一般に電源装置の回路設計者に高度な半導体物理の知識は必要がないため、デバイスモデルの物理的パラメータの抽出は困難である。第2にパワーデバイスは従来の半導体集積回路と違って耐圧が数十ボルト以上のデバイスであり、一般の回路シミュレータに標準的に搭載されている小信号モデルとは動作が異なる。したがって、既存モデルでは精度が低く、設計仕様を満足する回路シミュレーションの検討は不十分なものとなる。
【0004】
インバータに代表される電源装置は、小型、高効率、低コストの要求が強く、このためには電源装置の最適設計をシミュレーションで検討することにより、試作回数の低減、工期短縮、限界動作設計を実現する必要がある。さらに電源装置の回路設計者が半導体の高度な知識なしにデバイスモデルのパラメータを抽出し、回路設計を高精度で行えるようなデバイスモデルが必要である。
【0005】
最も一般的に使用されるMOSFETのシミュレーションモデルはSPICEモデルと呼ばれるもので、様々なLEVELによって分別される。PSPICEやSimplorerなどの回路シミュレータで標準的にサポートされているのがLEVEL 1〜3であり、PSPICEには標準でLEVEL 3用のパラメータ抽出ツールが用意されているほど広く使用される。また、LEVEL 1〜3に限らず、各種SPICEモデルのパラメータ抽出法として様々な手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
元来、SPICEモデルは信号処理に利用される電子回路用デバイスの模擬を目的としているため、パワーエレクトロニクスで使用される高電圧・大電流のデバイスとは構造が異なる。信号処理用MOSFETはいわゆる「横型」の構造であるのに対し、パワーMOSFETは大電流を流すためにドレイン端子がゲート・ソース端子と対向する「縦型」の構造である。
【0007】
「横型」と「縦型」MOSFETの大きな違いは、ドレイン―ゲート端子間に空乏層が形成されるか否かである。ゲート・ドレイン・ソース端子が真横に並んだ「横型」では、ドレイン―ソース間に大きな電圧が印加されても、ゲート―ドレイン間に空乏層は形成されない。ゆえにその端子間の静電容量は主回路の動作状態によらず酸化膜相当の静電容量でほぼ一定となっている(非特許文献1、図3(a)参照)。
一方「縦型」では、ドレイン端子とゲート・ソース端子が対向しているため、ドレイン―ソース間に電圧が印加された場合はドレイン―ゲート間にも空乏層が形成される。そのため、ドレイン―ゲート間の静電容量は酸化膜の静電容量から電圧の増加に伴って減少する(非特許文献1、図3(b)参照)。
【0008】
SPICEモデルの「横型」の特性に「縦型」の特性を補うために開発された代表例がMODPEXモデルである(非特許文献1)。MODPEXモデルは主回路部とサブ回路部によって構成され、主となるSPICEモデルのMOSFET LEVEL 1にデータシート記載の伝達特性と出力特性から抽出した適切なパラメータを抽出し、SPICEモデルでは模擬しきれない動特性、特にドレイン―ゲート間静電容量を電流源で模擬するサブ回路を組み合わせている。サブ回路ではダイオードのSPICEモデルが持つ電圧依存容量特性を利用し、ドレイン―ゲート間静電容量に流れる電流を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−322456号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】電気学会誌126巻6号「磁界系と連成したパワー半導体デバイスレベルパワーエレクトロニクス回路の詳細シミュレーション解析法」(357頁右12〜358頁左1行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、従来技術、例えば特許文献1のものでは、高度な半導体知識を持たない電源装置の回路設計者にとってほとんどのパラメータの物理的な意味を理解することは難しく、多くのパラメータを抽出する必要があるために時間がかかるという問題点の他、従来のSPICEモデルではパワー用途のMOSFETのモデル化が困難であるという問題点があった。また非特許文献1のものでは、ドレイン―ゲート間の容量特性はダイオードモデルの容量特性を用いているため、その傾向は模擬できてもドレイン―ソース間電圧が低い場合の容量特性を完全に模擬できず、また、ゲート―ソース間の容量特性がほぼ一定であることからドレイン―ソース間電圧も完全に模擬できないため、動特性を完全に模擬しきれないという問題点があった。
【0012】
この発明は、前記のような問題点を解決するためになされたものであり、パワー用途のMOSFETを高精度に模擬できる回路シミュレーション用MOSFETモデルとそのパラメータ抽出方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るMOSFETモデルは、MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなるMOSFETモデルであって、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記MOSFETのターンオフのミラー期間における前記MOSFETのドレイン―ソース間の出力電圧Vdsの実測値から抽出して補正するものである。
【0014】
また、この発明に係るMOSFETモデルのパラメータ抽出方法は、MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなり、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記MOSFETのターンオフのミラー期間における前記MOSFETのドレイン―ソース間の出力電圧Vdsの実測値から抽出して補正するMOSFETモデルのパラメータ抽出方法であって、
前記静電容量Cdgの抽出において、前記静電容量Cdgが前記MOSFETのドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する関係から前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求める第1のステップと、前記MOSFETのターンオフ時の前記出力電圧Vdsの実測波形から前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式を求める第2のステップと、前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式を時間で微分して得たdVds/dtと前記MOSFETのゲート電圧Vgsと前記MOSFETのゲート入力抵抗とに基づいて前記静電容量Cdgを求め、さらに前記MOSFETの端子間電圧の関係から前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式と前記ミラー期間の前記MOSFETのゲート電圧Vgsの実測値とに基づいて前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgを求める第3のステップと、前記第3のステップで求めた前記静電容量Cdgおよび前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgによって前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求め、該電圧特性式または電圧特性テーブルを前記第1のステップで求めた電圧特性式または電圧特性テーブルの相当部分と置き換え、前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを補正する第4のステップとを含むものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、パワー用途のMOSFETを高精度に模擬できる回路シミュレーション用MOSFETモデルを容易に得ることができると共に、MOSFETモデルに設定するパラメータの抽出を短時間かつ容易に行える顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1によるMOSFETモデルを示す回路構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるMOSFET静特性解析用パラメータの抽出方法を示すフロー図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるパラメータRDの抽出方法を示すMOSFETの出力特性グラフである。
【図4】この発明の実施の形態1によるパラメータRDの抽出結果を示す温度特性グラフである。
【図5】この発明の実施の形態1によるパラメータKO、VTOの抽出方法を示すMOSFETの伝達特性グラフである。
【図6】この発明の実施の形態1によるパラメータKPの抽出結果を示す温度特性グラフである。
【図7】この発明の実施の形態1によるパラメータVTOの抽出結果を示す温度特性グラフである。
【図8】この発明の実施の形態1によるMOSFET動特性解析用パラメータの抽出方法を示すフロー図である。
【図9】この発明の実施の形態1によるゲート―ソース間電圧Vgs=0でドレイン―ソース間電圧Vdsを変化させた場合のMOSFETの容量特性グラフである。
【図10】この発明の実施の形態1による静電容量Cdsの抽出結果を示す容量特性グラフである。
【図11】この発明の実施の形態1による静電容量Cdgの抽出結果を示す容量特性グラフである。
【図12】この発明の実施の形態1によるMOSFETモデルと駆動回路を示す回路構成図である。
【図13】この発明の実施の形態1によるMOSFETターンオフのミラー期間におけるドレイン―ソース間電圧Vdsの立上りとその近似曲線を示す波形である。
【図14】この発明の実施の形態1によるミラー期間における静電容量Cdgの抽出結果を示す容量特性グラフである。
【図15】この発明の実施の形態1によるドレイン―ソース間電圧Vds=0でゲート―ソース間電圧Vgsを変化させた場合のMOSFETの容量特性グラフである。
【図16】この発明の実施の形態1による静電容量Cgsの抽出結果を示す容量特性グラフである。
【図17】この発明の実施の形態2によるMOSFETモデルを示す回路構成図である。
【図18】この発明の実施の形態2によるMOSFET動特性解析用パラメータの抽出方法を示すフロー図である。
【図19】この発明の実施の形態2によるMOSFETモデルと駆動回路を示す回路構成図である。
【図20】この発明の実施の形態2によるターンオン時におけるゲート電圧Vgs、出力電圧Vds、ドレイン電流Idの実測波形例である。
【図21】この発明の実施の形態2によるMOSFETモデルと駆動回路を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態に係るMOSFETモデルによるシミュレーション方法を、N型MOSFETを例にとって説明する。
図1はこの発明の実施の形態1によるMOSFETモデルの回路構成図である。MOSFETのSPICEモデル1はNMOS LEVEL 1〜3のいずれかであり、ゲート端子G、ソース端子S、ドレイン端子Dの3種類の電極端子を有する。また、ドレイン端子Dとソース端子Sの間に静電容量Cdsのキャパシタ2、ゲート端子Gとドレイン端子Dの間に静電容量Cdgのキャパシタ3、ゲート端子Gとソース端子Sの間に静電容量Cgsのキャパシタ4を接続している。キャパシタ2〜4はそれぞれにかかる端子間電圧Vds、Vdg、Vgsにしたがって端子間静電容量Cds、Cdg、Cgsが変化する、電圧依存性を持つ可変キャパシタである。
以上のように構成されるMOSFETモデルは、後述するパラメータ抽出法によって抽出したパラメータを抽出することにより、SPICEモデル1によってMOSFETの静特性を模擬し、可変キャパシタ2〜4によって動特性を模擬する。
【0018】
まず、図2のフロー図によりこの発明の実施の形態によるMOSFET静特性解析用パラメータの抽出方法を詳細に説明する。
SPICEモデル1には抽出するパラメータが多数用意されているが、この発明によるMOSFETモデルでは、NMOS LEVEL 1〜3で抽出可能なパラメータのうち、RD(Drain Ohmic Resistance:ドレイン抵抗)、KP(Transconductance Parameter:相互コンダクタンス・パラメータ)、VTO(Threshold Voltage:閾値値電圧)の3種類のパラメータのみ抽出し、その他のパラメータは抽出せずにデフォルト値のままとする。
【0019】
パラメータRDはドレイン端子Dに存在する抵抗成分に相当する。ゆえにMOSFETが導通状態にある時は、パラメータRDが導通抵抗に作用する。パラメータRDの抽出には、図3に示すゲート電圧(ゲート―ソース間電圧)Vgsが例えば20V、すなわちMOSFETが導通状態にあって、出力電圧(ドレイン―ソース間電圧)Vdsとドレイン電流Idの関係を表した出力特性の実測値を使用する。ここで、データシートに記載される電気特性の導通抵抗Ronは出力特性の傾き(ΔVds/ΔId)に相当する。パラメータRDは、出力特性の原点(Vds=0、Id=0)における接線の傾きから求める。
温度Tを変えて出力特性を実測すると図3のような傾向を示し、各温度についてパラメータRDを抽出した結果は図4のようになる。すなわち、温度Tが上昇するとパラメータRDも上昇し、導通抵抗Ronが温度Tと共に上昇する特性を表す。図4からパラメータRDの温度Tに対する近似式を求め、パラメータRDの温度特性式または温度特性のテーブルを得る(図2:ステップS11,S12)。
【0020】
パラメータKPは伝達特性における傾きを示し、パラメータVTOは閾値電圧である。よって、パラメータKP、VTOは伝達特性から抽出する。先に抽出したパラメータRDをSPICEモデル1に設定し、パラメータVTOは仮にV0として、パラメータKPを変化させた場合の伝達特性をシミュレーションによって求める(図2:ステップS13)。
次に、図5に示すようにシミュレーションと実測による伝達特性を同一グラフに表示する。パラメータKPは伝達特性の傾きであるので、定格電流付近で実測と傾きが一致するパラメータKPの値を求める(図2:ステップS14)。図5の例ではKP=bである。
次に、図5から実測とKP=b時の伝達特性を比較してゲート電圧Vgsの差ΔVを求める。よってパラメータVTOは仮の閾値電圧V0にこの差ΔVを足してVTO=V0+ΔVとする(図2:ステップS15)。
【0021】
同様に温度を変えてパラメータKP、VTOを抽出し、その結果をグラフにプロットすると図6,7のような傾向を示す。パラメータKPに関しては温度上昇と共にパラメータKPの値が低下、すなわち伝達特性の傾きが小さくなる現象を表しており、パラメータVTOに関しては温度上昇と共に閾値電圧が低下する現象が見られる。図6,7からパラメータRDと同様に温度Tに対するパラメータKP、VTOの近似式を求め、それぞれの温度特性式または温度特性のテーブルを得る(図2:ステップS16)。
【0022】
このようなSPICEモデル1の構成によれば、MOSFETの静特性のうち、出力特性をパラメータRDで決定し、伝達特性をパラメータKPとVTOで決定するので、MOSFETモデルの静特性を3種類の少ないパラメータで模擬することとなる。また、パラメータRDは出力特性の実測値から抽出し、パラメータKPとVTOは伝達特性の実測値から抽出するので、MOSFETの静特性を高精度に模擬することとなる。さらに、パラメータRD、KP、VTOは静特性の温度特性も考慮して抽出し、温度の関数として抽出するので、温度特性においても高精度に模擬することとなる。
なお、SPICEモデル1のその他のパラメータは抽出しないので、SPICEモデル1はMOSFETの静特性を模擬するのみであり、動特性は模擬しない。
【0023】
次に、図8のフロー図によりこの発明の実施の形態によるMOSFET動特性解析用パラメータの抽出方法を詳細に説明する。
この発明によるMOSFETモデルでは、MOSFETの端子間静電容量Cds、Cdg、Cgsはそれぞれにかかる端子間電圧Vds、Vdg、Vgsに依存すると考える。MOSFETの端子間静電容量は、データシートに記載されている容量特性から計算することができる。
【0024】
まず可変キャパシタ2の静電容量Cdsは、データシートに記載されている容量特性を実測して抽出する。図9に示す容量特性は入力容量Ciss、出力容量Coss、帰還容量Crssを実測したものであり、ドレイン―ソース間の静電容量Cdsとは一般にCds=Coss−Crssという関係が成り立つ。したがって、図9の容量特性からCoss−CrssでCdsを求めた結果は図10のようになり、出力電圧Vdsに対する静電容量Cdsの特性を表す。図10から静電容量Cdsの出力電圧Vdsに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを得る(図8:ステップS21)。
【0025】
同様に可変キャパシタ3の静電容量Cdgも、データシートに記載されている容量特性を実測して抽出する。ドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは一般にCdg=Crssという関係があり、帰還容量Crssがそのままドレイン―ゲート間の静電容量Cdsに相当する。また図9の容量特性はゲート電圧Vgsを0に固定して出力電圧Vdsを変化させた場合の値であり、可変キャパシタ3にかかるドレイン―ゲート間電圧VdgはMOSFET端子間電圧の関係式

Vds=Vdg+Vgs ……(1)

からVds=Vdgとなる。したがって、図9の容量特性からCrss=Cdg、Vds=Vdgと置き換えると図11のようになり、ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する静電容量Cdgの特性を表す。すなわち、静電容量Cdgがドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する特性を表す。図11から静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを得る(図8:ステップS22)。
【0026】
図9に示した帰還容量Crssの実測値は、出力電圧Vdsが低い領域において2桁以上の大きさで値が変化しており、その測定の難しさから精度が低い。したがって可変キャパシタ3の静電容量Cdgについては、低電圧領域における電圧特性の補正を行う。この発明によるMOSFETモデルでは実際のスイッチング波形からCdgを抽出する。
【0027】
図12はMOSFETにおけるゲート電流と各電圧・電流の関係図を示している。図中、5はオフ時に電圧値Vgsminを、オン時に電圧値Vgsmaxを出力するゲート電源、6は抵抗値Rgのゲート入力抵抗を示している。
まず電流の関係として、ゲート電流Igは静電容量Cdgを通ってドレイン端子Dへ流れる電流Igdと、静電容量Cgsを通ってソース端子Sへ流れる電流Igsに分かれる。したがって、次式が成り立つ。

Ig=Igd+Igs ……(2)

ここで、各電流は図12から次式で与えられる。

Ig=(Vgsmin−Vgs)/Rg ……(3)
但し、Rgはゲート入力抵抗
Igs=Cgs・dVgs/dt ……(4)
Igd=−Cdg・dVdg/dt=Cdg・d(Vgs−Vds)/dt ……(5)

MOSFETのターンオフで出力電圧Vdsの上昇時に、ゲート電圧Vgsが一定になるミラー期間では、その傾きであるdVgs/dtは0となり、次式が得られる。

Cdg=−(Vgsmin−Vgs)/Rg/dVds/dt ……(6)
【0028】
ミラー期間はゲート電圧Vgsが一定であるので式(2)においてIgs=0であり、ゲート電流Ig=Idgによってドレイン―ゲート間の静電容量Cdgを充放電している。したがって、ミラー期間の長さはCdgの値と関係があり、Cdgが大きくなればミラー期間も長くなる。またMOSFETのターンオンでゲート電圧Vgsが上昇し、出力電圧Vdsが数V程度まで低下した場合は、Vds<Vgsとなるので式(1)の関係からドレイン―ゲート間電圧Vdgは0V以下となる。この時、Vdgの低下と共にCdgは増大し、Vdgが0Vに達した時点でドレイン―ゲート間の空乏層はなくなって、Cdgはゲート酸化膜容量に相当する値となる。ターンオン時のミラー期間の終わりではVdgは0V以下になっているので、ミラー期間の長さはVdg=0VにおけるCdgの値で調整することができる。したがって、Vdg=0VにおけるCdgの値を変えてシミュレーションを行い、実測波形と比較してミラー期間の長さを合わせることによってCdgを決定する。なお、ミラー期間の長さが温度によって異なる場合、Vdg=0VにおけるCdgは温度によって値を変え、Cdgの温度特性値を決定する。
【0029】
式(6)を用いて静電容量Cdgを導出する。図13に示すMOSFETのターンオフ時における出力電圧Vdsの実測波形は、ミラー期間における低電圧領域の立上り波形であり、これに対して時間関数の近似式を求める(図8:ステップS23)。このVdsの近似式を時間で微分して得たdVds/dtを式(6)に代入してCdgを求め、さらにMOSFET端子間電圧の関係式(1)を用いてVdsの近似式とミラー期間のゲート電圧Vgsの実測値からVdg=Vds−Vgsを求めると、ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する静電容量Cdgは図14のようになる。すなわち、静電容量Cdgがドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する特性を表す(図8:ステップS24)。
【0030】
図14からCdgのVdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求め、先に実測した容量特性から求めた電圧特性式または電圧特性テーブルの相当部分と置き換えると、可変キャパシタ3の静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルが補正できる(図8:ステップS25)。
【0031】
また、ゲート電圧Vgsのシミュレーション波形をゲート電圧Vgsの実測波形に合せこむために、MOSFET動特性の温度依存性を考慮して電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求めることもできる。MOSFETのターンオン時において温度を変えた場合のゲート電圧Vgsの実測波形とシミュレーション波形を比較して、ミラー期間の長さが一致するようにVdg=0VにおけるCdgを決定すると、静電容量Cdgは図14(図14の縦軸近傍参照)のようになり、静電容量Cdgの温度特性値を得られる。このような、静電容量Cdgの温度特性値に基づいて静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求め、先に実測した容量特性から求めた電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルの相当部分と置き換え、静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを補正する。この結果、MOSFET動特性の温度依存性を高精度に模擬することができる。
【0032】
可変キャパシタ4の静電容量Cgsは、ゲート電圧Vgsに対する関係式として抽出する。しかし、データシートに記載されている容量特性は、一般にゲート電圧Vgsを0に固定して出力電圧Vdsを変化させた場合の値であり、この発明における可変キャパシタ4の静電容量Cgsを抽出するには不十分である。そこで、出力電圧Vdsを0に固定してゲート電圧Vgsを変化させた場合の容量特性を実測すると、図15に示すような結果が得られる。ゲート―ソース間の静電容量Cgsは、入力容量Cissと帰還容量Crssとの間で一般にCgs=Ciss−Crssという関係が成り立つ。
したがって、図15の容量特性からCiss−CrssでCgsを求めた結果は図16のようになり、ゲート電圧Vgsに対する静電容量Cgsの特性を表す。図16から静電容量Cgsのゲート電圧Vgsに対する関係式を求め、可変キャパシタ4の静電容量Cgsの電圧特性式または電圧特性のテーブルを得る(図8:ステップS26)。
【0033】
このようなMOSFETのSPICEモデル1の構成によれば、MOSFET端子間の電圧変動による端子間静電容量の変化を3種類の電圧依存性の可変キャパシタ2〜4で表すので、MOSFETの動特性を可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsの3種類のパラメータで模擬することとなる。また、可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsは、容量特性の実測値およびMOSFETのターンオフ時における出力電圧Vdsとゲート電圧Vgsの実測値を用いて抽出するので、MOSFETの動特性を高精度に模擬することとなる。
【0034】
以上のように、MOSFETの静特性をSPICEモデル1のLEVEL 1〜3のいずれかで模擬し、動特性を端子間に接続した可変キャパシタ2〜4で模擬するモデル構成として、MOSFETの特性を模擬するパラメータはSPICEモデル1のパラメータKP、VTO、RDの3種類と、可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsの3種類、計6種類のみを実測値から抽出して模擬するので、高度な半導体知識を必要とせず短時間かつ容易に高精度なシミュレーションを行うことができる。また、MOSFET動特性の温度依存性を高精度に模擬することができる。
【0035】
実施の形態2.
図17はこの発明の実施の形態2によるMOSFETモデルの回路構成図である。実施の形態1と異なる点は、ゲート端子Gに寄生抵抗を接続し、ソース端子Sに寄生インダクタンスを接続している点である。
図17において、ゲート端子G、ソース端子S、ドレイン端子Dの3種類の端子を有する。MOSFETのSPICEモデル1はNMOS LEVEL 1〜3のいずれかであり、ゲート端子G’、ソース端子S’、ドレイン端子Dの3種類の電極端子を有する。また、ドレイン端子Dとソース端子S’の間に静電容量Cdsのキャパシタ2、ゲート端子G’とドレイン端子Dの間に静電容量Cdgのキャパシタ3、ゲート端子G’とソース端子S’の間に静電容量Cgsのキャパシタ4を接続している。キャパシタ2〜4はそれぞれにかかる端子間電圧Vds、Vdg、Vgsにしたがって端子間静電容量Cds、Cdg、Cgsが変化する、電圧依存性を持つ可変キャパシタである。さらに、ゲート端子GとG’の間に抵抗値Rpの寄生抵抗7、ソース端子SとS’の間にインダクタンス値Lpの寄生インダクタンス8を接続している。以上のように構成されるMOSFETモデルは、後述するパラメータ抽出法によって抽出したパラメータを抽出することにより、SPICEモデル1によってMOSFETの静特性を模擬し、可変キャパシタ2〜4および寄生抵抗7、寄生インダクタンス8によって動特性を模擬する。
【0036】
MOSFET静特性解析用パラメータの抽出方法については、実施の形態1において説明した方法と同様であるので、ここでは説明を省略する。次に、図18のフロー図によりこの発明の実施の形態によるMOSFET動特性解析用パラメータの抽出方法を詳細に説明する。まず、寄生抵抗Rpは、スイッチング時のミラー期間においてゲート電圧Vgsが一定値となるミラー電圧を実測して抽出する。すなわち、伝達特性から得られるミラー電圧と実測したミラー電圧Vmswとの差から計算する。MOSFETオン時のドレイン電流Idに対応するゲート電圧の値を伝達特性から読み取ってVmtとする(図18:ステップS18)。これは図19に示すように、ゲート端子G’とソース端子S’の間の電圧に相当する。実測で得られるのはゲート端子Gとソース端子Sの間の電圧であり、図20に示すようにスイッチング時におけるミラー電圧の実測値をVmswとすると、ドレイン電流Idに変化はなく寄生インダクタンスLpに電位差は発生しないので、VmswとVmtの差が寄生抵抗Rpに印加されている。この時のゲート電流Igは実測、またはオン時のゲート電源電圧Vgsmaxとゲート入力抵抗Rgから求められ、その結果、ゲート端子の寄生抵抗Rpは以下の式(7)または、式(8)より導出されるゲート入力抵抗Rgを式(7)に代入した式(9)で得られる(図18:ステップS19)。
Rp=(Vmsw−Vmt)/Ig ……(7)
Ig=(Vgsmax−Vmsw)/Rg ……(8)
Rp=Rg・(Vmsw−Vmt)/(Vgsmax−Vmsw) ……(9)
【0037】
また、ソース端子の寄生インダクタンスLpは、ゲート端子Gとソース端子Sとの間、およびドレイン端子Dとソース端子Sとの間の両方に共通して入っているため、ドレイン電流Idの急激な変化により、ゲート−ソース間電圧が変化する。図20は、スイッチング時のゲート−ソース間電圧Vgsとドレイン電流Idの実測波形例である。ドレイン電流Idが寄生インダクタンスLpに流れることによりゲート電圧VgsがVmswからVmlに上昇している。これを用いてソース端子の寄生インダクタンスLpは式(10)から得られる(図18:ステップS20)。
Lp・dId/dt=Vml−Vmsw ……(10)
【0038】
次に、この発明によるMOSFETモデルでは、MOSFETの端子間静電容量Cds、Cdg、Cgsを抽出する。可変キャパシタ2の静電容量Cdsの抽出方法については、実施の形態1において説明した方法と同様であり、図18のステップS21に示しているので、ここでは説明を省略する。可変キャパシタ2の静電容量Cdsと同様に可変キャパシタ3の静電容量Cdgも、データシートに記載されている容量特性を実測して抽出する。ドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは一般にCdg=Crssという関係があり、帰還容量Crssがそのままドレイン―ゲート間の静電容量Cdsに相当する。また図9の容量特性はゲート電圧Vgsを0に固定して出力電圧Vdsを変化させた場合の値であり、可変キャパシタ3にかかるドレイン―ゲート間電圧VdgはMOSFET端子間電圧の関係式である実施の形態1で示した式(1)からVds=Vdgとなる。したがって、実施の形態1と同様に図9の容量特性からCrss=Cdg、Vds=Vdgと置き換えると図11のようになり、ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する静電容量Cdgの特性を表す。すなわち、静電容量Cdgがドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する特性を表す。図11から静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを得る(図18:ステップS22)。
【0039】
実施の形態1の図9に示した帰還容量Crssの実測値は、出力電圧Vdsが低い領域において2桁以上の大きさで値が変化しており、その測定の難しさから精度が低い。したがって可変キャパシタ3の静電容量Cdgについては、低電圧領域における電圧特性の補正を行う。この発明によるMOSFETモデルでは実際のスイッチング波形からCdgを抽出する。
【0040】
図21はMOSFETにおけるゲート電流と各電圧・電流の関係図を示している。図中、5はオフ時に電圧値Vgsminを、オン時に電圧値Vgsmaxを出力するゲート電源、6は抵抗値Rgのゲート入力抵抗を示している。
まず電流の関係として、ゲート電流Igは静電容量Cdgを通ってドレイン端子Dへ流れる電流Igdと、静電容量Cgsを通ってソース端子S’へ流れる電流Igsに分かれる。したがって、実施の形態1の式(2)と同様に、Ig=Igd+Igsの関係が次式が成り立つ。
【0041】
ここで、各電流は図21から式(11),式(12)、式(13)で与えられる。
Ig=(Vgsmin−Vgs)/(Rg+Rp) ……(11)
Igs=Cgs・dVgs/dt ……(12)
Igd=−Cdg・dVdg/dt=Cdg・d(Vgs−Vds)/dt ……(13)
MOSFETのターンオフで出力電圧Vdsの上昇時に、ゲート電圧Vgsが一定になるミラー期間では、その傾きであるdVgs/dtは0となり、式(14)が得られる。
Cdg=−(Vgsmin−Vgs)/(Rg+Rp)/dVds/dt ……(14)
【0042】
ミラー期間はゲート電圧Vgsが一定であるので式(2)においてIgs=0であり、ゲート電流Ig=Idgによってドレイン―ゲート間の静電容量Cdgを充放電している。したがって、ミラー期間の長さはCdgの値と関係があり、Cdgが大きくなればミラー期間も長くなる。またMOSFETのターンオンでゲート電圧Vgsが上昇し、出力電圧Vdsが数V程度まで低下した場合は、Vds<Vgsとなるので式(1)の関係からドレイン―ゲート間電圧Vdgは0V以下となる。この時、Vdgの低下と共にCdgは増大し、Vdgが0Vに達した時点でドレイン―ゲート間の空乏層はなくなって、Cdgはゲート酸化膜容量に相当する値となる。ターンオン時のミラー期間の終わりではVdgは0V以下になっているので、ミラー期間の長さはVdg=0VにおけるCdgの値で調整することができる。したがって、Vdg=0VにおけるCdgの値を変えてシミュレーションを行い、実測波形と比較してミラー期間の長さを合わせることによってCdgを決定する。なお、ミラー期間の長さが温度によって異なる場合、Vdg=0VにおけるCdgは温度によって値を変える。
【0043】
式(14)を用いて静電容量Cdgを導出する。実施の形態1の図13に示したMOSFETのターンオフ時における出力電圧Vdsの実測波形は、ミラー期間における低電圧領域の立上り波形であり、これに対して時間関数の近似式を求める(図18:ステップS23)。このVdsの近似式を時間で微分して得たdVds/dtを式(14)に代入してCdgを求め、さらにMOSFET端子間電圧の関係式(1)を用いてVdsの近似式とミラー期間のゲート電圧Vgsの実測値からVdg=Vds−Vgsを求めと、ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する静電容量Cdgは実施の形態1の図14のようになる。すなわち、静電容量Cdgが、Vdgの増加に伴って減少する特性を表す(図18:ステップS24)。
【0044】
実施の形態1の図14からCdgのVdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求め、先に実測した容量特性から求めた電圧特性式または電圧特性テーブルの相当部分と置き換えると、可変キャパシタ3の静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルが補正できる(図18:ステップS25)。
【0045】
また、図20のようなゲート電圧Vgsのシミュレーション波形をゲート電圧Vgsの実測波形に合せこむために、MOSFET動特性の温度依存性を考慮して電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求めることもできる。MOSFETのターンオン時において温度を変えた場合のゲート電圧Vgsの実測波形とシミュレーション波形を比較して、ミラー期間の長さが一致するようにVdg=0VにおけるCdgを決定すると、静電容量Cdgは図14(図14の縦軸近傍参照)のようになり、静電容量Cdgの温度特性値を得られる(図18:ステップS24’参照)。このような、静電容量Cdgの温度特性値に基づいて静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求め、先に実測した容量特性から求めた電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルの相当部分と置き換え、静電容量Cdgのドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを補正する。この結果、MOSFET動特性の温度依存性を高精度に模擬することができる。
【0046】
可変キャパシタ4の静電容量Cgsの抽出方法については、実施の形態1において説明した方法と同様であり、図18のステップS26に示しているので、ここでは説明を省略する。このようなMOSFETのSPICEモデル1の構成によれば、寄生抵抗、寄生インダクタンスを考慮し、MOSFET端子間の電圧変動による端子間静電容量の変化を3種類の電圧依存性の可変キャパシタ2〜4で表すので、MOSFETの動特性を可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsの3種類のパラメータで模擬することとなる。また、可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsは、容量特性の実測値およびMOSFETのターンオフ時における出力電圧Vdsとゲート電圧Vgsの実測値を用いて抽出するので、MOSFETの動特性を高精度に模擬することとなる。
【0047】
以上のように、MOSFETの静特性をSPICEモデル1のLEVEL 1〜3のいずれかで模擬し、動特性を端子間に接続した可変キャパシタ2〜4で模擬するモデル構成として、MOSFETの特性を模擬するパラメータはSPICEモデル1のパラメータKP、VTO、RDの3種類と、可変キャパシタ2〜4の静電容量Cgs、Cdg、Cdsの3種類、計6種類のみを実測値から抽出して模擬するので、高度な半導体知識を必要とせず短時間かつ容易に高精度なシミュレーションを行うことができる上、MOSFET動特性の温度依存性を高精度に模擬することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 MOSFETのSPICEモデル
2 ドレイン―ソース間可変キャパシタCds
3 ドレイン―ゲート間可変キャパシタCdg
4 ゲート―ソース間可変キャパシタCgs
5 ゲート電源
6 ゲート入力抵抗
7 寄生抵抗
8 寄生インダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなるMOSFETモデルであって、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記MOSFETのターンオフのミラー期間におけ
る前記MOSFETのドレイン―ソース間の出力電圧Vdsの実測値から抽出して補正することを
特徴とするMOSFETモデル。
【請求項2】
MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなるMOSFETモデルであって、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記ドレイン―ゲート間の電圧が0Vの場合
の温度に依存した温度特性値を有することを特徴とするMOSFETモデル。
【請求項3】
前記MOSFETのゲート端子に寄生抵抗を接続し、前記MOSFETのソース端子に寄生インダクタンスを接続し、実測した前記MOSFETのゲート電圧の電圧波形から抽出したゲート端子の寄生抵抗Rpをパラメータに含めたことを特徴とする請求項1または2記載のMOSFETモデル。
【請求項4】
MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなり、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記MOSFETのターンオフのミラー期間における前記MOSFETのドレイ
ン―ソース間の出力電圧Vdsの実測値から抽出して補正するMOSFETモデルのパラメータ抽
出方法であって、
前記静電容量Cdgの抽出において、
前記静電容量Cdgが前記MOSFETのドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する関係から前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求める第1のステップと、
前記MOSFETのターンオフ時の前記出力電圧Vdsの実測波形から前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式を求める第2のステップと、
前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式を時間で微分して得たdVds/dtと前記MOSFETのゲート電圧Vgsと前記MOSFETのゲート入力抵抗とに基づいて前記静電容量Cdgを求め、さらに前記MOSFETの端子間電圧の関係から前記出力電圧Vdsの時間関数の近似式と前記ミラー期間の
前記MOSFETのゲート電圧Vgsの実測値とに基づいて前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgを求める第3のステップと、
前記第3のステップで求めた前記静電容量Cdgおよび前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgによって前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを求め、該電圧特性式または電圧特性テーブルを前記第1のステップで求めた電圧特性式または電圧特性テーブルの相当部分と置き換え、前記静電容量Cdgの前記ドレ
イン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧特性式または電圧特性テーブルを補正する第4のス
テップとを
含むことを特徴とするMOSFETモデルのパラメータ抽出方法。
【請求項5】
前記静電容量Cdgを式(A)によって求めることを特徴とする請求項4記載のMOSFETモ
デルのパラメータ抽出方法。
Cdg=−(Vgsmin−Vgs)/Rg/(dVds/dt) −−−(A)
但し、VgsminはMOSFETのオフ時のゲート電圧
【請求項6】
MOSFETのSPICEモデルと、前記MOSFETのSPICEモデルの電極端子間に接続した電圧依存性の可変キャパシタからなり、前記可変キャパシタのうちの前記MOSFETのドレイン―ゲート間の静電容量Cdgは、前記ドレイン―ゲート間の電圧が0Vの場合の温度に依存した温度
特性値を有するMOSFETモデルのパラメータ抽出方法であって、
前記静電容量Cdgの抽出において、
前記静電容量Cdgが前記MOSFETのドレイン―ゲート間電圧Vdgの増加に伴って減少する関係から前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求める第1のステップと、
前記MOSFETのターンオン時の温度を変えた場合の前記MOSFETのゲート電圧Vgsの実測波形
とシミュレーション波形とを比較して、前記MOSFETミラー期間の長さが一致するように前記ゲート電圧Vdgが0Vにおける前記静電容量Cdgの温度特性値を決定する第2のステップと、
前記静電容量Cdgの温度特性値によって前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを求め、該電圧・温度特性式
または電圧・温度特性テーブルを前記第1のステップで求めた電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルの相当部分と置き換え、前記静電容量Cdgの前記ドレイン―ゲート
間電圧Vdgに対する電圧・温度特性式または電圧・温度特性テーブルを補正する第3のス
テップとを
含むことを特徴とするMOSFETモデルのパラメータ抽出方法。
【請求項7】
前記MOSFETモデルは、前記MOSFETのゲート端子に寄生抵抗を接続し、前記MOSFETのソース端子に寄生インダクタンスを接続し、実測した前記MOSFETのゲート電圧の電圧波形から抽出したゲート端子の寄生抵抗Rpをパラメータとし、
前記ゲート端子の寄生抵抗Rpの抽出において、
前記MOSFETのターンオン時のドレイン電流Idに対応する前記MOSFETのゲート電圧値Vmtを
伝達特性から読み取るステップと、
前記MOSFETのターンオン時のミラー電圧Vmswを実測し、前記ゲート電圧値Vmtと前記ミラ
ー電圧Vmswと前記MOSFETのターンオン時のゲート電源電圧Vgsmaxと前記MOSFETのゲート入力抵抗Rgとに基づいて、または前記ゲート電圧値Vmtと前記ミラー電圧Vmswと実測された
ゲート電流Igとに基づいて前記寄生抵抗Rpを求めるステップとを
含むことを特徴とする請求項4または6記載のMOSFETモデルのパラメータ抽出方法。
【請求項8】
前記寄生抵抗Rpを、前記ゲート入力抵抗Rgに基づく式(B)または前記ゲート電流Igに基づく式(C)によって求め、前記静電容量Cdgを式(D)によって求めることを特徴と
する請求項7記載のMOSFETモデルのパラメータ抽出方法。
Rp=Rg・(Vmsw−Vmt)/(Vgsmax−Vmsw) −−−(B)
Rp=(Vmsw−Vmt)/Ig −−−(C)
Cdg=−(Vgsmin−Vgs)/(Rg+Rp)/dVds/dt −−−(D)
但し、VgsminはMOSFETのオフ時のゲート電圧

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−211387(P2010−211387A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55179(P2009−55179)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】