説明

NF−κB阻害剤

【課題】新たなNF-κBを阻害する物質、並びに、それを含有する、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するための医薬組成物、アポトーシス誘導剤、単核球細胞の活性化阻害剤、IκB発現誘導阻害剤、及びキットを提供すること。
【解決手段】下記の一般式(I)で表される化合物(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)は、NF-κBの活性化を阻害する作用、アポトーシスを誘導する作用、単核球細胞の活性化を阻害する作用、及び、NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害する作用などを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NF-κB阻害剤、DNA結合阻害剤、転写活性抑制剤、医薬組成物、アポトーシス誘導剤、マクロファージ活性化阻害剤、IκB発現誘導阻害剤、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
NF-κBを阻害する物質は、腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、細菌感染症、リウマチ、糖尿病などのNF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するのに有用であるとされており、様々なNF-κBの阻害剤が開発されている。NF-κBを阻害する物質としては、例えば、サリチル酸アミド誘導体(特許文献1参照)、パネポキシドン(panepoxydone;非特許文献1参照)、シクロエポキシドン(cycloepoxydon;非特許文献2参照)、SN-50 (非特許文献3参照)などが開発されている。
【0003】
また、リポ多糖やIL-1βなどによるマクロファージなどの単核球細胞の活性化には、NF-κBの活性化が関与し(特許文献2参照)、このためNF-κBを阻害することにより単核球細胞の活性化を阻害することができることが報告されている(例えば、非特許文献4〜6などを参照)。
【0004】
さらに、抗腫瘍剤による治療、放射線による治療などのNF-κBを活性化させる治療にNF-κBを阻害する物質を用いた併用療法が有用であることが報告されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】国際公開第01/012588号パンフレット
【特許文献2】特開2001−352986号公報
【特許文献3】国際公開第04/002465号パンフレット
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun. 226, 214-221, 1996
【非特許文献2】J. Antibiot. 51, 455-463, 1998
【非特許文献3】J. Biol. Chem. 270, 14255-14258
【非特許文献4】Molecular Pharmacology, 1997, 52, 465-472
【非特許文献5】Journal of Clinical Investigation, 1996, 98(1), 78-89
【非特許文献6】Cardiovascular Research, 2002, 55, 406-415
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たなNF-κBを阻害する物質、並びに、それを含有する、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するための医薬組成物、アポトーシス誘導剤、単核球細胞の活性化阻害剤、IκB発現誘導阻害剤、及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、抗ウイルス活性(Uirusu, 30,111-118, 1980)、インターフェロンの誘導作用(Antimicrob Agents Chemother. 13(6), 939-43, 1978、Ann NY Acad Sci. 284, 667-75, 1977、Antimicrob Agents Chemother. 10(1), 14-9, 1976、Nippon Saikingaku Zasshi. 30(1), 263, 1975、J Antibiot. 27(3), 206-14, 1974)、及びras(ts)-transformed NRK cellsの形態変化を誘導する作用(J Antibios 46, 1827-1833, 1993)などを有することが知られている下式(1)で表される化合物(9-MS(methlstreptimidone)(Antimicrob Agents Chemother. 10, 14-19, 1976)又はS-632-A2(J antibiot. 42, 647-654, 1989)と呼ばれている。;以下、本明細書において「化合物(1)」と称する。)が、NF-κBの活性化を阻害する作用(具体的には、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害して、NF-κBの転写活性を阻害する作用)、アポトーシスを誘導する作用、単核球細胞の活性化を阻害する作用、及び、NF-κBの活性化により誘導されるIκBの再合成を阻害する作用などを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】

【0007】
すなわち、本発明に係るNF-κB阻害剤は、下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。
【化2】

【0008】
また、本発明に係るNF-κB阻害剤は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。
【0009】
本発明に係るDNA結合阻害剤は、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害する薬剤であって、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。
【0010】
また、本発明に係るDNA結合阻害剤は、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害する薬剤であって、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。
【0011】
本発明に係る転写活性阻害剤は、NF-κBの転写活性を阻害する薬剤であって、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。
【0012】
また、本発明に係る転写活性阻害剤は、NF-κBの転写活性を阻害する薬剤であって、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。
【0013】
本発明に係る医薬組成物は、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するためのものであって、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る医薬組成物は、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するためのものであって、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。前記疾患は、例えば、単核球細胞の活性化に起因する疾患などである。前記単核球細胞は、例えば、マクロファージなどである。前記疾患は、例えば、腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、白血病、細菌感染症などである。前記細菌は、例えば、グラム陰性菌などである。
【0014】
本発明に係るアポトーシス誘導剤は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。上記アポトーシス誘導剤によりアポトーシスが誘導される細胞としては、例えば、白血病MT-1細胞などを挙げることができる。なお、前記アポトーシス誘導剤は、TNF-αを有効成分としてさらに含有することとしてもよい。このように、上記の化合物又はその薬理学的に許容される塩及びTNF-αを有効成分として含有するアポトーシス誘導剤により、アポトーシスが誘導される細胞としては、例えば、白血病Junket細胞などを挙げることができる。
【0015】
本発明に係るアポトーシス誘導キットは、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るアポトーシス誘導キットは、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩とTNF-αとを含む。
【0016】
本発明に係る単核球細胞活性化阻害剤は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る単核球細胞活性化阻害剤は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。前記単核球細胞の活性化は、例えば、リポ多糖に起因するものを挙げることができる。前記単核球細胞は、例えば、マクロファージなどである。
【0017】
本発明に係るIκB発現誘導阻害剤は、NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害する薬剤であって、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るIκB発現誘導阻害剤は、NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害する薬剤であって、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。
【0018】
本発明に係る医薬組成物は、NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る医薬組成物は、NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する。前記NF-κBを活性化させる治療は、例えば、抗腫瘍剤を用いた治療、腫瘍細胞に対する放射線照射による治療などである。
【0019】
本発明に係るキットは、抗腫瘍剤と、前記抗腫瘍剤に伴うNF-κBの活性化を阻害する上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩とを含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るキットは、抗腫瘍剤と、前記抗腫瘍剤に伴うNF-κBの活性化を阻害する上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩とを含む。
【0020】
本発明に係るNF-κBを阻害する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るNF-κBを阻害する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。
【0021】
本発明に係る、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。
【0022】
本発明に係る、NF-κBの転写活性を阻害する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る、NF-κBの転写活性を阻害する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩をNF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。
【0023】
本発明に係る、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBの活性化に起因する疾患を伴うヒト又はヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物に投与する工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBの活性化に起因する疾患を伴うヒト又はヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物に投与する工程を含む。前記疾患は、例えば、単核球細胞の活性化に起因する疾患などである。前記単核球細胞は、例えば、マクロファージなどである。前記疾患は、例えば、腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、白血病、細菌感染症などである。前記細菌は、例えば、グラム陰性菌などである。
【0024】
本発明に係るアポトーシスを誘導する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を腫瘍細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係るアポトーシスを誘導する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を腫瘍細胞に作用させる工程を含む。前記腫瘍細胞は、例えば、白血病MT-1細胞などである。なお、前記アポトーシスを誘導する方法は、TNF-αを腫瘍細胞にさらに作用させる工程を含むこととしてもよい。この場合の腫瘍細胞としては、例えば、白血病Junket細胞などを挙げることができる。
【0025】
本発明に係る単核球細胞の活性化を阻害する方法は、上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を単核球細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る単核球細胞の活性化を阻害する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を単核球細胞に作用させる工程を含む。前記単核球細胞の活性化は、例えば、リポ多糖に起因するものを挙げることができる。前記単核球細胞は、例えば、マクロファージなどである。
【0026】
本発明に係る、NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害する方法は、上述の一般式(I)で表される塩又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る、NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害する方法は、上述の化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBの活性化を伴う細胞に作用させる工程を含む。
【0027】
本発明に係る治療方法は、NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる上述の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBを活性化させる治療を行う前、あるいは治療と同時に、あるいは治療を行った後に、ヒト又はヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物に投与する工程を含む。なお、式(I)中、Rは、例えば、水素原子、アルキル基などである。また、本発明に係る治療方法は、NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩を、NF-κBを活性化させる治療を行う前に、あるいは治療と同時に、あるいは治療を行った後に、ヒト又はヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物に投与する工程を含む。前記NF-κBを活性化させる治療は、例えば、抗腫瘍剤を用いた治療、腫瘍細胞に対する放射線照射による治療などである。
【0028】
なお、上述において「細胞に作用させる」とは、上述の一般式(I)で表される化合物(例えば、化合物(1)など)又はその薬理学的に許容される塩などを、添加又は投与することにより細胞に対する作用(例えば、NF-κBを阻害するなど)を発揮させることをいい、対象となる細胞は、培養細胞であっても、個体内の細胞であってもよい。なお、前記個体としては、例えば、ヒトであってもよいし、ヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの脊椎動物であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、新たなNF-κBを阻害する物質、並びに、それを含有する、NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するための医薬組成物、アポトーシス誘導剤、単核球細胞の活性化阻害剤、IκB発現誘導阻害剤、及びキットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0031】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0032】
==一般式(I)で表される化合物の生理学的作用==
<NF-κB又は単核球細胞の活性化を阻害する作用>
NF-κBは活性化すると核内に移行してDNAのNF-κB結合サイトに結合し、その下流にある、免疫グロブリン、サイトカイン(例えば、IL(interleukin)-1、IL-2、IL-6、IL-8、TNF(tumor necrosis factor)-α、IFN(interferon)など)、細胞接着分子(例えば、E-セレクチン、ICAM(intercellular adhesion molecule)-1、VCAM(vascular cell adhesion molecule)-1など)、一酸化窒素(NO)合成酵素(iNOS)、シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)、Fasリガンド等をコードする遺伝子の転写を活性化し(Ghoshi, S.ら, Annu.Rev.Immunol. 16: 225-260, 1998、Cell, 87, 13-20, 1996)、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化症、血管新生疾患、腫瘍、悪疫質、転移性腫瘍、白血病、インスリン抵抗性を伴う疾患(例えば、2型糖尿病、高インスリン血症、脂質代謝異常、肥満、高血圧、動脈硬化性疾患など)、糖尿病に起因する疾患(例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害など)、デュシェンヌ(Duchenne)型を含む筋ジストロフィーなどの疾患をもたらすことが知られている。従って、これらのNF-κBの活性化に起因する疾患の予防又は改善にNF-κBの活性化抑制剤が有用である。
【0033】
さらに、単核球細胞(例えば、マクロファージ、単球(末梢血単球などを含む)、好酸球など)は、LPS(リポ多糖)、インターフェロン(INF-γなど)、IL-1、GM-CSF、TNF等の刺激によりNF-κBが活性化されると、炎症性サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1β、IL-1α、IL-8、IL-10など)、ケモカイン(MCP-1、RANTES)、iNOS、COX-2などを産生し、細菌感染症;敗血症;IV型アレルギー性疾患;アルツハイマー病やパーキンソン病などを含む神経変性疾患又は多発性硬化症;脳虚血後の後遺症としての神経変性疾患;AIDSなどの免疫不全症;動脈硬化症;歯周病;潰瘍性大腸炎、Crohn病、及び皮膚炎などを含む炎症性腸疾患;心筋梗塞;ぜんそく;心移植による拒絶;糖尿病;固形癌などの腫瘍(腫瘍の進展も含む);転移性腫瘍;慢性関節リウマチ;呼吸器疾患;肺疾患;自己免疫疾患SLE(全身性エリトマトーデス)等の疾患を引き起こしたり、アトピー性疾患(例えば、アトピー性皮膚炎など)の細菌感染による重症化をもたらしたりすることが知られている。
【0034】
また、マクロファージが活性化すると、血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome)、脳梗塞、腸疾患(proliferative enteropathy)などの疾患を引き起こすことが知られている。
【0035】
以上のことから、単核球細胞の活性化を阻害する物質は、単核球細胞の活性化に起因する疾患(細菌の感染によるアトピー性疾患の重症化を含む。)、並びに、血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome)、脳梗塞、腸疾患(proliferative enteropathy)などのマクロファージの活性化に起因する疾患の予防又は改善に有用であると考えられている。
【0036】
従って、上述のように、NF-κBの活性化を阻害する作用(具体的には、活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害して、NF-κBの転写活性を阻害する作用)、単核球細胞の活性化を阻害する作用などを有する化合物(1)は、NF-κBの活性化に起因する疾患、単核球細胞の活性化に起因する疾患、マクロファージの活性化に起因する疾患などの予防又は改善に有用である。また、上述の一般式(I)で表される化合物において、Rがメチル基以外のアルキル基又は水素原子である化合物も、化合物(1)と同様の作用を有すると考えられることから、NF-κBの活性化に起因する疾患、単核球細胞の活性化に起因する疾患、マクロファージの活性化に起因する疾患などの予防又は改善に有用である。なお、これらの疾患の予防又は改善は、当該疾患を引き起こす可能性がある、あるいは、当該疾患を伴うヒト及びヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物に化合物(1)を投与することにより行うことができる。
【0037】
<一般式(I)で表される化合物とNF-κBを活性化させる治療との併用効果>
化学療法や放射線療法などの腫瘍治療では、腫瘍細胞内のNF-κBが活性化し、腫瘍治療の効果が減少することがある(J. Clin. Invest. 107, 241-246, 2001)。例えば、放射線治療は、腫瘍細胞を殺すために行われるが、放射線照射による酸化ストレスによってNF-κBが活性化され、腫瘍細胞はアポトーシスを起こしにくくなって放射線治療に抵抗性を示すようになる。そのため、腫瘍細胞に対し、このような腫瘍治療抵抗性を獲得させない方法や失わせる方法の開発が望まれている。
【0038】
化合物(1)は、上述のようにNF-κBの活性化を阻害する作用を有することから、化学療法や放射線療法などのNF-κBを活性化させる腫瘍治療に用いることにより、腫瘍治療の効果を増大させることができるようになる。また、上述の一般式(I)で表される化合物において、Rがメチル基以外のアルキル基又は水素原子である化合物も、化合物(1)と同様の作用を有すると考えられることから、化学療法や放射線療法などのNF-κBを活性化させる腫瘍治療に用いることにより、腫瘍治療の効果を増大させることができるようになる。なお、前記化学療法に用いられる抗腫瘍剤としては、NF-κBを活性化させるものであればどのようなものでもよく、例えば、カンプトテシン(CPT)やダウノマイシン(成分名:ダウノルビシン;DNRまたはDM)などの公知の物質を挙げることができる。
【0039】
なお、上述の一般式(I)で表される化合物(例えば、化合物(1)など)と併用する薬剤は抗腫瘍剤に限らず、投与によりNF-κBが活性化され、そのため治療抵抗性を生じる薬剤であれば何でもよい。例えば、上述の一般式(I)で表される化合物(例えば、化合物(1)など)は、感染症疾患、アレルギー疾患、免疫疾患、炎症性疾患、腫瘍転移、悪疫質、動脈硬化、血管新生性疾患、白血病などの疾患に対して用いられ、NF-κBを活性化させる治療と併用することにより、治療の効果を増大させることも期待できる。投与の時期に関しては、上述の一般式(I)で表される化合物(例えば、化合物(1)など)を、NF-κBを活性化させる治療に先立って、あるいは同時に、あるいは治療後に、投与することとしてもよい。治療対象としては、上述の疾患を伴うヒト及びヒト以外のマウス、ラット、ブタなどの哺乳類動物が考えられる。
【0040】
<アポトーシス誘導作用>
後述するように、化合物(1)は、単独で成人T細胞白血病であるMT-1細胞に対してアポトーシスを誘導すること、及びTNF-αと併用するとヒトT細胞白血病細胞であるJurkat細胞に対してアポトーシスを誘導することが明らかになった(実施例6及び実施例7参照)。これに対して、化合物(1)は正常細胞(マクロファージ細胞)に対して細胞毒性を示さないことが明らかになった。以上のことから、化合物(1)、あるいは、化合物(1)及びTNF-αの併用は、腫瘍細胞にアポトーシスを特異的に誘導することができ、急性リンパ性白血病、成人T細胞白血病リンパ腫、慢性リンパ性白血病等の白血病の予防又は改善に対して有用であると考えられる。また、上述の一般式(I)で表される化合物において、Rがメチル基以外のアルキル基又は水素原子である化合物も、化合物(1)と同様の作用を有すると考えられることから、これらの化合物、あるいは、これらの化合物及びTNF-αの併用も、腫瘍細胞にアポトーシスを特異的に誘導することができ、急性リンパ性白血病、成人T細胞白血病リンパ腫、慢性リンパ性白血病等の白血病の予防又は改善に対して有用であると考えられる。
【0041】
<IκB発現誘導阻害剤>
後述するように、化合物(1)はNF-κBの活性化によって誘導されるIκBの再合成を阻害する(実施例2参照)。従って、化合物(1)は、NF-κBの活性化によるIκBの発現誘導を阻害する薬剤として有用である。また、上述の一般式(I)で表される化合物において、Rがメチル基以外のアルキル基又は水素原子である化合物も、化合物(1)と同様の作用を有すると考えられることから、NF-κBの活性化によるIκBの発現誘導を阻害する薬剤として有用である。
【0042】
<一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩の製造>
上述の一般式(I)で表される化合物は、例えば、Antimicrob Agents Chemother. 10, 14-19, 1976、J Antibiot. 42, 647-654, 1989、J Antibiot (Tokyo). 27(3), 206-14, 1974、J Antibiot. 46, 1827-33, 1993、Antibiot Chemother. 10, 9-16, 1960、及びEur J Org Chem. 2000, 3459-3462などの文献に記載の方法に準じて製造することができる。
【0043】
なお、本発明において用いられる上述の一般式(I)で表される化合物(例えば、化合物(1)など)は、薬理学的に許容される塩、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩など)、その他の金属塩(アルミニウム塩など)、無機塩(塩酸塩、アンモニウム塩、アミン類など)、有機塩(グルコサミン塩など)等のような形態としてもよい。このような化合物の塩は、常法に従って製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
[実施例1]
Jurkat細胞に、NF-κB結合配列を3回タンデムに重合した繰り返し配列を有するプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子配列が挿入されたレポーター遺伝子κB-lucベクター(Stratagene社製)をDEAE-デキストラン法により一過的に導入した。16時間後、この遺伝子導入細胞(1×106 cells)を、RPMI 1640培地(5% heat-inactivated fetal bovine serum (JRH Biosciences, Lenexa, KS), 100μg/ml kanamycin, 100 units/ml penicillin G, 30μg/ml L-glutamine, and 2.25 g/l NaHCO3を含む)の入った12ウェルプレートの各ウェルに播種して14時間培養した後、メタノールに溶解した化合物(1)を所定の濃度(0.1、0.3、1、3、又は10μg/ml)になるように加えて2時間処理した。その後、TNF-α(10 ng/ml)を加えて6時間刺激した。なお、コントロールとして、化合物(1)やTNF-αで処理していない遺伝子導入細胞、及び、TNF-αのみ処理した遺伝子導入細胞を準備した。
【0046】
次に、細胞をそれぞれ回収して溶解バッファー(組成:25 mM Tris-リン酸 pH7.8、2 mM DTT、2 mM CyDTA、10% glycerol、1% Triton-X)を用いて溶解し、ルシフェリン基質溶液(20 mM Tricine-NaOH (pH 8.0), 1.07 mM magnesium carbonate hydroxide, 2.67 mM MgSO4, 0.1 mM EDTA, 33.3 mM DTT, 270μM CoA, 470μM luciferin, 530μM ATP)を用いてルシフェラーゼアッセイを行い、発光量をLumat9501(Berthold社製)により測定した。その結果を図1に示す。なお、図1に示す各データは、TNF-αのみ処理した遺伝子導入細胞におけるルシフェラーゼ活性を100%とした場合の結果であり、3回の実験により算出したものである。
【0047】
図1に示すように、化合物(1)で前処理することにより、TNF-αの刺激によるNF-κBのルシフェラーゼ活性化を抑制すること、化合物(1)の濃度に依存してNF-κBのルシフェラーゼ活性が抑制されることがわかった。このことから、化合物(1)は、NF-κBによる転写活性を阻害する作用を有することが明らかになった。
【0048】
[実施例2]
PDTC等のほとんどのNF-κB抑制剤は、IKK誘導リン酸化によるIκBの分解を抑制してNF-κBの活性化を防止する。そこで、化合物(1)がPDTCと同様にIκBの分解を抑制するかどうか調べた。
【0049】
Jurkat細胞の溶液(1×106 cells/ml;実施例1で用いたRPMI 1640培地に懸濁)1 mlを12ウェルプレートの各ウェルに播種し、化合物(1)(10μg/ml)で2時間処理した後、TNF-α(10 ng/ml)で5、10、30、又は60分間処理した。なお、コントロールとして、何も処理していないJurkat細胞、TNF-αでのみ5、10、30、又は60分間処理したJurkat細胞、化合物(1)でのみ処理したJurkat細胞をそれぞれ準備した。また、化合物(1)の濃度に対する依存性を調べるため、Jurkat細胞を各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)の化合物(1)で2時間処理し、TNF-α(10 ng/ml)で60分間処理したものも準備した。
【0050】
次に、各細胞を回収し、lysis buffer(50 mM Tris-HCl pH 7.2, 125 mM NaCl, 0.5% NP-40, 0.1 mg/ml leupeptin, 1 mM PMSF)50μlで溶解し、SDS-PAGEを行った。その後、PVDF膜を用いてウェスタン・ブロッティングを行った。一次抗体は抗IκBα抗体(Amersham社製:2000倍希釈)又は抗tublin抗体 (Amersham社:2000倍希釈)を用い、二次抗体はウサギ抗マウスIgG抗体(Amersham社:2000倍希釈)を用い、検出はECLキット(Amersham社)によって行った。その結果を図2に示す。
【0051】
図2に示すように、化合物(1)は、PDTC等のNF-κB抑制剤とは異なり、IκBの分解を抑制しなかったが、NF-κBの活性化によって誘導されるIκBの再合成を阻害することが明らかになった。
【0052】
次に、LPS(リポ多糖)やインターフェロンなどによってNF-κBが活性化されることにより活性化する単核球細胞(例えば、マクロファージ、単球(末梢血単球などを含む)、好酸球など)においても同様の結果が得られるかどうかを調べた。
【0053】
RAW264.7細胞の溶液(1×106 cells/ml;DMEM培地(10% fetal bovine serum, 200μg/ml kanamycin, 100 units/ml penicillin G, 600μg/ml L-glutamine, and 2.25 g/l NaHCO3を含む)に溶解)1 mlを12ウェルプレートの各ウェルに播種し、化合物(1)(10μg/ml)で2時間処理した後、LPS(1μg/ml)で10、30、60、又は180分間処理した。なお、何も処理していないRAW264.7細胞、LPSでのみ10、30、60、又は180分間処理したRAW264.7細胞、化合物(1)でのみ処理したRAW264.7細胞をそれぞれ準備した。また、RAW264.7細胞を各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)の化合物(1)で2時間処理し、LPS(1μg/ml)で180分間処理したものも準備した。その後、上述に記載の方法と同様にウェスタン・ブロッティングを行った。
【0054】
図3に示すように、化合物(1)は、Jurkat細胞と同様に、RAW264.7細胞においてもPDTC等のNF-κB抑制剤とは異なり、IκBの分解を抑制しなかったが、NF-κBの活性化によって誘導されるIκBの再合成を阻害することが明らかになった。
【0055】
[実施例3]
本実施例では、化合物(1)がNF-κBの核移行を阻害するかどうかを調べた。
Jurkat細胞を化合物(1)(10μg/ml)で2時間処理し、TNF-α(10 ng/ml)で10、30、又は60分間処理した。なお、ポジティブコントロールとして、DHMEQ(10 μg/ml)で2時間処理した後、同様にTNF-αで60分間処理したJurkat細胞を準備した。また、ネガティブコントロールとして、何も処理していないJurkat細胞、TNF-αでのみ10、30、又は60分間処理したJurkat細胞、化合物(1)でのみ処理したJurkat細胞をそれぞれ準備した。
【0056】
まず、各細胞を回収してbuffer A (10 mM HEPES pH7.9、1.5 mM DTT、0.2 mM PMSF) 400μlで15分間可溶化した。その後、13000rpmで5分間遠心し、上清を除去した。次に、buffer C(20 mM HEPES-KOH pH 7.9, 25% glycerol, 420 mM NaCl, 1.5 mM MgCl2, 0.2 mM PMSF, 0.2 mM EDTA,0.5 mM DDT)40μlを加えて20分間可溶化し、13000rpmで5分間遠心し、上清を回収して核抽出物とした。
【0057】
次に、オリゴヌクレオチド(5'-AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC-3'(配列番号1)及び5'-GCCTGGGAAAGTCCCCTCAACT-3'(配列番号2);Promega)7 pmol、10 × T4 polynucleotide kinase (T4 PNK) buffer(500 mM Tris-HCl pH 8.0, 100 mM MgCl2, 50 mM DTT)2μl、蒸留水10μl、及び[γ-32P]-ATP(3000Ci/mmol;Amersham)2μlを混合した溶液に、10 units/μlのT4 polynucleotide kinase(Takara)を2μl加え、37℃で10分間反応させた。反応後、TE buffer(10 mM Tris-HCl pH8.0、1 mM EDTA)を80μl加え反応を停止した。これをNick column(Sphadex G-50;Amersham)で精製し、32P標識プローブを得た。
【0058】
その後、5×binding buffer(75 mM Tris-HCl pH 8.0, 375 mM NaCl, 0.1%, 75 mM EDTA, 7.5 mM DDT, 35% glycerol, 1.5% NP-40, 1.25 mg/ml BSA)4μlに、上述の核抽出物5μg、poly dI-dC(Amersham)2μg、及び上述の32P標識プローブ1μlを混合して、最終20μlとし、室温で20分間インキュベートした。その後、4% ポリアクリルアミドゲルを用いてDNAとタンパク質とを分離し、核におけるNF-κBの量を測定した。その結果を図4に示す。
【0059】
図4に示すように、核におけるNF-κBの量は、化合物(1)で処理しても、処理しない場合と何ら変化しないことから、化合物(1)はNF-κBの核移行に影響を与えないことが明らかになった。
【0060】
[実施例4]
NF-κBは核内に移行するとDNAのNF-κB結合サイトに結合し、炎症性サイトカイン(例えば、IL-1、IL-2、IL-8、TNF-αなど)および細胞接着分子(例えば、ICAM-1、VCAM-1など)をコードする遺伝子の発現を調節することが知られている(Annu.Rev.Immunol. 16, 225-260, 1998)。そこで、化合物(1)がNF-κBのDNAへの結合を阻害できるかどうかを調べた。
【0061】
実施例4に記載の方法と同様にTNF-αで刺激したJurkat細胞から核抽出物を調製し、0〜4℃において化合物(1)で60分間処理した。この核抽出物2μgに、末端標識アニールオリゴヌクレオチド 1μl(0.07 pmol)及び実施例4で用いた5×binding buffer 4μlを加え、室温で20分間インキュベートした。なお、得られたシグナルがNF-κB特異的なシグナルであることを示すために、ウサギ抗p65ポリクローナル抗体(Santa Cruz Co.) 5 μgをさらに加えてインキュベートしたものもスーパーシフトアッセイ用に準備した。なお、コントロールとして、NF-YのCAATボックスへの結合に対する化合物(1)の影響を調べ、その際に得られるシグナルが特異的であるかどうかを調べるため、標識していないアニールオリゴヌクレオチド(コールド)を過剰に加えてインキュベーションしたものも準備した。
【0062】
次に、4% ポリアクリルアミドゲルを用いてDNAとタンパク質とを分離し、核におけるNF-κBの量を測定した。それらの結果を図5に示す。
図5に示すように、化合物(1)はNF-YのDNAへの結合活性は阻害しないが、NF-κBへの結合活性を特異的に阻害することが明らかになった。また、抗p65ポリクローナル抗体によるスーパーシフトが検出されたことから、この実験で得られたシグナルはNF-κBのDNAに対する特異的な結合によるものであることが示された。
【0063】
[実施例5]
次に、Jurkat細胞をMT-1細胞に変える他は、実施例4に記載の方法と同様にDNAに対するNF-κBの結合を化合物(1)が阻害できるかどうかを調べた。
図6に示すように、化合物(1)で処理すると濃度依存的に、NF-κBのコンセンサス配列を含むオリゴヌクレオチドに対するNF-κB蛋白質の結合を阻害することが明らかになった。以上のことから、化合物(1)はNF-κBのDNAに対する結合を阻害することができることが示された。
【0064】
[実施例6]
NF-κBを抑制する物質には、アポトーシスを誘導するものがある。そこで、化合物(1)がアポトーシスを誘導するかどうかを調べた。
【0065】
Jurkat細胞培養液(2.0×105 cells/ml;実施例1で用いたRPMI 1640培地に懸濁) 1 mlを24ウェルプレートの各ウェルに播種した。その後、各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)の化合物(1)、あるいは、TNF-α(20 ng/ml)とともに各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)の化合物(1)を各ウェルに添加し、24時間インキュベートした。インキュベート後、細胞溶液を回収し、3500 rpm×5分間遠心分離した。上清を除去した後、上述のRPMI 1640培地 80μl及びトリパンブルー染色液(4 mg/ml trypan blue, 9 mg/ml NaCl) 20μgを加えた。その後、全細胞数と死滅した細胞数とをカウントし、細胞の生存率を算出した(図7A)。
【0066】
Jurkat細胞を2.0×105 cells/mlの濃度で12ウェルプレートの各ウェルに播種した。その後、化合物(1)(10μg/ml)のみ、TNF-α(20 ng/ml)のみ、あるいは、化合物(1)及びTNF-αを添加し、16時間インキュベートした。なお、コントロールとして、化合物(1)及びTNF-αを添加しないで16時間インキュベートした細胞も準備した。
【0067】
まず、細胞をPBS-(8.0 g/l NaCl, 0.2 g/l KCl, 1.15 g Na2HPO4・2H2O, 0.2 g/l KH2PO4)で洗浄した後、3% パラホルムアルデヒド(PFA)を含むPBS-で30分間固定してHoechst33258(10μg/ml)で5分間染色し、蛍光顕微鏡で観察した(図7B)。
【0068】
図7Aに示すように、Jurkat細胞を化合物(1)でのみ処理するだけでは細胞死を誘導しなかったが、Jurkat細胞を化合物(1)で処理したのち、TNF−αで刺激することにより、細胞死を誘導することが明らかになった。また、図7Bに示すように、化合物(1)又はTNF-αのみではJurkat細胞において核の断片化が生じないが、化合物(1)及びTNF-αで処理することにより、Jurkat細胞に核の断片化が生じ、上記細胞死はアポトーシスによるものであることがわかった。従って、化合物(1)とTNF-αの併用は、Jurkat細胞にアポトーシスを誘導する。
【0069】
[実施例7]
次に、Jurkat細胞をMT-1細胞に変える他は、実施例6に記載の方法に準じて化合物(1)がアポトーシスを誘導するかどうかを調べた。
図8Aに示すように、化合物(1)のみではJurkat細胞に細胞死を誘導できないが、MT-1細胞には細胞死を誘導できることが明らかになった。また、図8Bに示すように、化合物(1)はJurkat細胞に対し、核の断片化を誘導できないが、MT-1細胞に対しては核の断片化を誘導できることが明らかになった。従って、MT-1細胞に対しては、化合物(1)単独でアポトーシスを誘導できることが明らかになった。
【0070】
[実施例8]
単核球細胞(例えば、マクロファージ、単球(末梢血単球などを含む)、好酸球など)は、LPS(リポ多糖)やインターフェロンなどによってNF-κBが活性化されることにより活性化し、iNOSの発現を誘導して、NOを産生することが知られている。そこで、化合物(1)が単核球細胞の活性化を抑制することができるかどうかを調べた。
【0071】
実施例2で用いたDMEM培地で50%コンフルエントまで培養したRAW264.7細胞溶液を100μlずつ96ウェルプレートの各ウェルに播種し、各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)の化合物(1)で2時間処理した後、LPS(1μg/ml)で24時間刺激した。なお、コントロールとして、何も処理していないRAW264.7細胞、及びLPSのみ処理したRAW264.7細胞を準備した。
【0072】
まず、調製したGriess試薬溶液を100μl添加して5分間反応させ、マイクロプレートリーダーで570nmの吸光度を測定することにより各培養上清中のNOを測定した(図9A)。さらに、化合物(1)やLPSによって細胞障害が生じていないかどうかを以下のようにMTT法により調べた(図9A)。
【0073】
上述の刺激後に、MTT solution(3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5 ジフェニル-テトラゾリウムブロマイド) 10μlを各ウェルに添加し、37℃, 5%CO2で4時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルから培地を除去し、ジメチルスルフォキシド(DMSO)を100μlずつ加えてホルマザン沈殿を溶解させた。その後、マイクロプレートリーダー(MPR-A4i;東ソー株式会社)で波長570nmにおけるOD値を測定し、細胞数の相対比を求めた。
【0074】
また、上述の刺激後に細胞を回収して溶解し、その細胞抽出物(25μg)におけるiNOS蛋白質の発現量を、実施例2に記載の方法に準じたウェスタンブロット法により測定した(図9B)。なお、一次抗体としてはAnti-iNOS (Amersham社製:2000倍希釈)又はAnti-tublin (Amersham社製:2000倍希釈)を用い、二次抗体としてはウサギ抗マウスIgG抗体 (Amersham社製:2000倍希釈)を用いた。
【0075】
図9Aに示すように、マクロファージ細胞をあらかじめ化合物(1)により処理すると、LPSの刺激により産生されるNO量は化合物(1)の濃度依存的に減少することが明らかになった。また、化合物(1)は10μg/ml以下ではマクロファージ細胞に対して細胞毒性を示さないことがわかった。さらに、図9Bに示すように、化合物(1)で処理することにより、iNOS蛋白質の発現量が化合物(1)の濃度依存的に減少することも明らかになった。
【0076】
[実施例9]
次に、化合物(1)がRAW264.7細胞におけるDNA、RNA、及びタンパク質の合成に与える影響を調べた。
【0077】
実施例2で用いたDMEM培地で80%コンフルエントまで培養したRAW264.7細胞溶液を1000μlずつ12ウェルプレートの各ウェルに播種し、各濃度(0.1、0.3、1、3、及び10μg/ml)になるように化合物(1)の溶液(メタノールに溶解)を加えて2時間処理した。なお、コントロールとして、化合物(1)の溶液を添加していないものも準備した。
【0078】
その後、培養上清を除去した後、1μCiのトリチウムチミジン(DNAについて)、トリチウムウリジン(RNAについて)、又はトリチウムロイシン(プロテインについて)を含み、血清を含んでいない上述のDMEM培地に交換した。2時間後(DNA及びRNAについて)又は4時間後(プロテインについて)、10%トリクロロ酢酸で細胞を固定し、0.5N NaOHで溶解した後、液体シンチレーションカウンターで放射能を測定した。それらの結果を図10に示す。
【0079】
図10に示すように、化合物(1)で細胞を処理しても細胞内でのDNA、RNA、及びタンパク質の合成に有意な減少を誘導しないことから、化合物(1)は10μg/ml以下では正常細胞におけるDNA、RNA、及びタンパク質の合成に対して影響がないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施例において、化合物(1)がNF-κBの転写活性を抑制する効果を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、化合物(1)がRAW264.7細胞においてLPSにより誘導されるIκBの分解や再合成に与える影響を調べた結果を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、化合物(1)がRAW264.7細胞においてTNF-αにより誘導されるIκBの分解や再合成に与える影響を調べた結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施例において、化合物(1)がJurkat細胞においてNF-κBの核移行に与える影響を調べた結果を示す図である。
【図5】本発明の一実施例において、化合物(1)がJurkat細胞においてDNAに対するNF-κBの結合を抑制する効果を示す図である。
【図6】本発明の一実施例において、化合物(1)がMT-1細胞においてDNAに対するNF-κBの結合を抑制する効果を示す図である。
【図7】本発明の一実施例において、化合物(1)及びTNF-αによりJurkat細胞にアポトーシスを誘導する効果を示す図である。
【図8】本発明の一実施例において、化合物(1)によりMT-1細胞にアポトーシスを誘導する効果を示す図である。
【図9】本発明の一実施例において、化合物(1)がLPSによって活性化されたマクロファージ由来RAW264.7細胞のNO産生及びiNOS蛋白質の発現を抑制する効果を示す図である。
【図10】本発明の一実施例において、化合物(1)がRAW264.7細胞におけるポリマー合成に与える影響を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するNF-κB阻害剤。
【化1】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項2】
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するNF-κB阻害剤。
【化2】

【請求項3】
活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害するDNA結合阻害剤であって、
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するDNA結合阻害剤。
【化3】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項4】
活性化NF-κBのDNAへの結合を阻害するDNA結合阻害剤であって、
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するDNA結合阻害剤。
【化4】

【請求項5】
NF-κBの転写活性を阻害する転写活性阻害剤であって、
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する転写活性阻害剤。
【化5】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項6】
NF-κBの転写活性を阻害する転写活性阻害剤であって、
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する転写活性阻害剤。
【化6】

【請求項7】
NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するための医薬組成物であって、
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【化7】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項8】
NF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するための医薬組成物であって、
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【化8】

【請求項9】
前記疾患が、単核球細胞の活性化に起因する疾患であることを特徴とする請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記単核球細胞が、マクロファージであることを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記疾患が、腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、白血病、及び細菌感染症からなるグループから選ばれるいずれかの疾患であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記細菌が、グラム陰性菌であることを特徴とする請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアポトーシス誘導剤。
【化9】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項14】
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するアポトーシス誘導剤。
【化10】

【請求項15】
さらに、TNF-αを有効成分として含有することを特徴とする請求項13又は14に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項16】
白血病Junket細胞にアポトーシスを誘導することを特徴とする請求項15に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項17】
白血病MT-1細胞にアポトーシスを誘導することを特徴とする請求項13又は14に記載のアポトーシス誘導剤。
【請求項18】
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩とTNF-αとを含むアポトーシス誘導キット。
【請求項19】
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する単核球細胞活性化阻害剤。
【化11】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項20】
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する単核球細胞活性化阻害剤。
【化12】

【請求項21】
前記単核球細胞の活性化がリポ多糖に起因することを特徴とする請求項19又は20に記載の単核球細胞活性化阻害剤。
【請求項22】
前記単核球細胞がマクロファージであることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の単核球細胞活性化阻害剤。
【請求項23】
NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害するIκB発現誘導阻害剤であって、
下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するIκB発現誘導阻害剤。
【化13】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項24】
NF-κBの活性化に伴うIκBの発現誘導を阻害するIκB発現誘導阻害剤であって、
下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するIκB発現誘導阻害剤。
【化14】

【請求項25】
NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【化15】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項26】
NF-κBを活性化させる治療によるNF-κBの前記活性化を阻害することによって、前記治療の効果を増大させることができる下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【化16】

【請求項27】
前記NF-κBを活性化させる治療が、抗腫瘍剤を用いた治療であることを特徴とする請求項25又は26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記NF-κBを活性化させる治療が、腫瘍細胞に対する放射線照射による治療であることを特徴とする請求項25又は26に記載の医薬組成物。
【請求項29】
抗腫瘍剤と、前記抗腫瘍剤に伴うNF-κBの活性化を阻害する下記の一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩とを含むキット。
【化17】

(式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基である。)
【請求項30】
抗腫瘍剤と、前記抗腫瘍剤に伴うNF-κBの活性化を阻害する下式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩とを含むキット。
【化18】



【図1】
image rotate

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−182397(P2007−182397A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−902(P2006−902)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】