説明

NK1受容体アンタゴニスト組成物

【課題】医薬品に用い得る高い安全性を有し、満足な治療効果を有するNK1受容体アンタゴニスト組成物を提供する。
【解決手段】本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、有効成分としてアラビトールを使用する。本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物中のアラビトールの好適な配合量は0.01〜30質量%である。本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、有効成分以外のその他の成分として、種々の材料を配合することにより、外用剤、内服剤、食品、飲料等の種々の形態に調製して使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK1受容体が介在する症状、疾患の治療もしくは予防に有効なNK1受容体アンタゴニスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、アミノ酸配列のC末端に共通の構造(Phe−X−Gly−Leu−Met−NH2:配列番号1)を持つペプチドは、タキキニンと総称されている。現在までに哺乳類のタキキニンとしては、サブスタンスP(アミノ酸配列:H−Arg−Pro−Lys−Pro−Gln−Gln−Phe−Phe−Gly−Leu−Met−NH2:配列番号2)、ニューロキニンA(アミノ酸配列:H−His−Lys−Thr−Asp−Ser−Phe−Val−Gly−Leu−Met−NH2:配列番号3)およびニューロキニンB(アミノ酸配列:H−Asp−Met−His−Asp−Phe−Phe−Val−Gly−Leu−Met−NH2:配列番号4)の3種が同定されている。これら3種のタキキニンは、生体に広く分布する神経ペプチドである。これら3種のタキキニンの内、その生理的機能が最も詳しく研究されているものがサブスタンスPである。
【0003】
サブスタンスPは、哺乳動物の生体中に存在する11アミノ酸からなる神経ペプチドである。このサブスタンスPは、その局在や機能から、喘息、炎症、痛み、乾癬、偏頭痛、運動障害、膀胱炎、精神分裂病、嘔吐、不安などの多様な病態に関与していることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
そして、生体内でサブスタンスP(Substance P)と高い親和性を示す受容体(receptor)としてNK1受容体(neurokinin 1 receptor)が同定されている。すなわち、サブスタンスPは、NK1受容体と相互作用して細胞内シグナル伝達を引き起こす作動剤(アゴニスト:agonist)として作用していることが判明している。さらに、このようなアゴニストであるサブスタンスPとNK1受容体との結合を拮抗もしくは遮断しうる拮抗剤(アンタゴニスト:antagonist)が存在する。そして、かかる拮抗剤(アンタゴニスト)により改善され得る障害、症状または疾患が多岐に渡ることについても知られている。
【0005】
それらの症状または疾患の例としては、呼吸器疾患(咳、喘息、気道過敏症など)、皮膚疾患(接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、炎症、発赤、蕁麻疹、湿疹、乾癬など)、神経性炎症性疾患(関節炎、片頭痛、侵害知覚など)、CNS疾患(鬱病、躁病、精神分裂病、ストレス関連障害、強迫性障害、恐怖症、不安、アルコール依存症、精神活性物質乱用、パーキンソン病、運動障害、精神病など)、摂食障害(例えば、過食症、大食症、神経性食欲不振、摂食行動阻害など)、疼痛(術後疼痛、慢性疼痛、神経障害性疼痛)、掻痒症、嘔吐、胃腸障害、腎臓障害、泌尿器障害、眼球炎症、アレルギー性鼻炎、睡眠障害、月経前症候群、肥満、頭痛、膀胱障害、尿生殖器障害、等が挙げられる。
【0006】
これらNK1受容体が介在する症状、疾患を治療もしくは予防する目的で、種々のNK1アンタゴニストが開発されている。例えば、非特許文献2には、NK1受容体アンタゴニストが不安症、鬱病、精神病、精神分裂病、嘔吐等の各疾患に有効であることを示す臨床試験例が記載されている。また、非特許文献3には、NK1受容体アンタゴニストが制吐薬として有効であることを示す臨床試験例が記載されている。
【0007】
かかる知見に基づいて、これまでに、種々のNK1受容体アンタゴニストが開発され、報告されている。その報告されたNK1受容体アンタゴニストの大部分が哺乳類のサブスタンスPの構成アミノ酸の一部をD体で置換したペプチド性アナログである(非特許文献4、特許文献1などを参照)。
【0008】
前述のように、これまで開発されてきたNK1受容体アンタゴニストは、ペプチドであった。ペプチド型NK1受容体アンタゴニストでは、良好な薬物動態学的性質が得られず、生体内における活性発現には限界がある。さらに、前記ペプチド型NK1受容体アンタゴニストには、人に対する抗原性やアゴニスト作用による副作用が生じるという問題もあった。
【0009】
これに対して、現在、非ペプチド型NK1受容体アンタゴニストが開発中であることが報告されている(非特許文献5、特許文献2)。
【0010】
【非特許文献1】高柳一成 著、「細胞膜の受容体」、南山堂 発行、1998年刊
【非特許文献2】Kramer MS et al.,Science 281(5383)、 1640−1645(1998)
【非特許文献3】Gesztesi Z et al., Anesthesiology 93(4), 931−937(2000)
【非特許文献4】Zubrzycka M et al., Endocrine Regulations, 34(1), 13−18(2000)
【非特許文献5】Rost K et al., Med Monatsschr Pharm 29(6), 200−205 (2006)
【特許文献1】特許第2783520号公報
【特許文献2】特開2006−89499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、これまで開発されてきたNK1受容体アンタゴニストは、大部分が、哺乳類の内因性サブスタンスPを構成するアミノ酸の一部をD−アミノ酸などで置換する誘導化によって開発されたものである。これら従来のNK1受容体アンタゴニストは、ペプチド類であるため、良好な薬物動態学的性質が得られず、生体内での活性発現に限界がある。また、これら従来のNK1受容体アンタゴニストは、人に対する抗原性やアゴニスト作用による副作用に問題があった。これに対して、現在、非ペプチド型NK1受容体アンタゴニストが開発されている。例えば、(R. M. Snider et al., Science 251, 435−437 (1991))に、幾つかの非ペプチド型NK1受容体アンタゴニスト(CP−96,345)が開示されている。しかしながら、これらNK1受容体アンタゴニストは、NK1受容体に対して高い選択性を示す反面、キヌクリジン環を有するため、いくつかのイオンチャネル、特にL型カルシウムチャネルに顕著な親和性を示すことが、例えば、(M. Caeser et al., Br. J. Pharmacol. 109, 918−24 (1993))に、報告されている。したがって、前記非ペプチド型NK1受容体アンタゴニストは、臓血管系への副作用を生じる可能性が懸念されるため、実用に至っていない。このように、依然として、安全性が高く、満足な治療効果を有するNK1受容体アンタゴニストは得られていないのが現状である。
【0012】
本発明は、前記従来の事情に鑑みてなされたもので、その課題は、医薬品に用い得る高い安全性を有し、満足な治療効果を有するNK1受容体アンタゴニスト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意研究を行ったところ、アラビトールが優れたNK1受容体拮抗作用を有することを知見するに至った。すなわち、アラビトールは、NK1受容体介在性の症状、疾患を治療もしくは予防するのに有用であることが、知見された。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明にかかるNK1受容体アンタゴニスト組成物は、アラビトールを有効成分として含有してなることを特徴とする。
【0015】
アラビトールは、自然界には、地衣類、キノコ類に多く含まれていることが知られており、また、その安全性も確認されている化合物である。このアラビトールは、化学式C12で示される炭化水素化合物であり、互いに光学異性体である下記化学構造式(I)で示されるD−アラビトールと、化学構造式(II)で表されるL−アラビトールがある。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
本発明に用いるアラビトールとしては、上記互いに光学異性体であるD−アラビトールとL−アラビトールとが挙げられ、これらのいずれか1種あるいは混合物を用いることができる。これらの中でも、効果の程度および入手の容易性からD−アラビトールが好ましい。D−アラビトールおよびL−アラビトールは、例えば、和光純薬工業株式会社から購入することができる。
【0019】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物におけるアラビトールの配合量は、有効量である。かかる有効量から決められるアラビトールの配合量は、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物の用法、剤形、投与対象者の年齢、性別その他の条件、症状、疾患の程度等に応じて適宜選定される。通常、NK1受容体アンタゴニスト組成物全量に対して、0.01〜30質量%配合するのがよい。好ましくは0.1〜10質量%配合するのがよい。配合量が0.01質量%未満であると、本発明の効果を発揮できない。また、30質量%を超えても効果向上は見られず、剤形によっては製造が困難になるものもあることから30質量%を超えない方がよい。投与量は、投与対象者の年齢、性別その他の条件、症状、疾患の程度等に応じて適宜選定されるが、通常、1日当たり0.05mg/kgから500mg/kg投与される。1日当たりの投与量の範囲としては0.05mg/kgから100mg/kgが好ましい。便宜的には、所望ならば、1日あたりの合計投与量を分割し、1日の間に何回かに分けて投与してよい。特に、外用剤として使用する場合は、通常、0.01〜30質量%配合するのがよい。好ましくは0.1〜10質量%配合するのがよい。配合量が0.01質量%未満であると、本発明の効果を発揮できない。また、30質量%を超えても効果向上は見られず、処方によっては安定性や製造が困難になるものもあることから、30質量%を超えない方がよい。
【0020】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分を適宜に選択することにより、外用剤、注射剤、内服薬としての医薬品、医薬部外品は無論、化粧品、食品、飲料等の形態にして使用することができる。
【0021】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を皮膚外用組成物として用いる場合には、全身皮膚、頭皮などに適用される。例えば、クリーム、ハンドクリーム、乳液、化粧水、ローション、石鹸、ハンドソープ、ボディソープ、入浴剤、水虫薬、にきび治療剤、鎮痒剤、点眼剤、眼軟膏剤などの外用組成物及び皮膚化粧料、シャンプー、リンス、トニック、育毛剤等の毛髪化粧料などとして調製することができる。この場合、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、上記皮膚外用剤の種類、剤型などに応じた公知の配合成分、例えば、油分、水、界面活性剤、保湿剤、低級アルコ−ル、増粘剤、キレ−ト剤、色素、防腐剤、香料等を適宜配合することができる。また、頭部用外用剤として用いる場合には、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、例えば、油性成分、紫外線吸収剤、防腐剤、保湿剤、界面活性剤、香料、水、アルコ−ル、増粘剤、色素、薬剤などを配合することができる。
【0022】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を内服剤として用いる場合は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、まず、公知の配合成分、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加する。その後、圧縮成形する。次いで必要により、味のマスキング、持続性の目的のため公知の方法でコーティングすることにより、内服剤とすることができる。コーティング剤としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(商品名、ローム社(ドイツ)製メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0023】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を注射剤として用いる場合は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、公知の配合成分、すなわち、分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ社製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などを用いる。次に、これら他の成分と共にアラビトールを、水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化する。これら工程により、NK1受容体アンタゴニスト組成物を用いた注射剤を製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を適宜配合することができる。
【0024】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を食品として用いる場合は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、各種食材を配合することにより、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、あるいは病者用食品の形態に調製することができる。
【0025】
また、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を飲料として用いる場合は、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として、各種飲用材料を配合することにより、飲料の形態に調製することができる。
【0026】
本発明にかかるNK1受容体アンタゴニスト組成物は、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品等に調製して用いることができる。このような食品やサプリメントにNK1受容体アンタゴニスト組成物を用いることにより、NK1受容体アンタゴニストを継続的に摂取可能とすることができる。その結果、NK1受容体が介在する症状、疾患の予防および軽減、解消といった機能を、特に摂取を意識することなく、日常生活において実現させることができる。
【0027】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物において、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として各種食品材料を選択することにより実現した健康食品および機能性食品としては、各種のものが可能である。これらの健康食品および機能性食品の製造に関しては、通常用いられる食品素材、食品添加物に加え、賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、分散剤、保存剤、湿潤化剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化材、カプセル基剤等の補助剤を用いることができる。これら補助剤の具体的物質を例示すれば、乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、または、それらの塩、アラビアガム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、プルラン、カラギーナン、デキストリン、還元パラチノース、ソルビトール、キシリトール、ステビア、合成甘味料、クエン酸、アスコルビン酸、酸味料、重曹、ショ糖エステル、植物硬化油脂、塩化カリウム、サフラワー油、ミツロウ、大豆レシチン、香料等を挙げることができる。このような健康食品、機能性食品の製造に関しては、医薬品製剤の参考書、例えば「日本薬局方解説書(製剤総則)」(廣川書店)等を参考にすることができる。
【0028】
前記健康食品および機能性食品に適した形状としては、タブレット状、カプセル状、顆粒状、粉末状、懸濁液状、乳化液状のものが例示できる。タブレット状健康食品及び機能性食品の製造法を具体的に例示すれば、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を各種食品形態に調製した物を一定の形状に圧縮して製造するか、または水またはアルコールのような溶媒で湿潤させた練合物を、一定の形状にするか若しくは一定の型に流し込んで成型して製造したものが挙げられる。カプセル状健康食品および機能性食品の製造法を具体的に例示すれば、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を調製してなる配合物を液状、懸濁状、のり状、粉末状または顆粒状などの形でカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成型して製造したもので、硬カプセル剤および軟カプセル剤等が挙げられる。
【0029】
また、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物から調製することができる食品として、具体的には、プリン、クッキー、クラッカー、ポテトチップス、ビスケット、パン、ケーキ、チョコレート、ドーナツ、ゼリーなどの洋菓子、煎餅、羊羹、大福、おはぎ、その他の饅頭、カステラなどの和菓子、冷菓(飴等)、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば、きしめん等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、コーンビーフ等の畜肉製品や、塩、胡椒、みそ、しょう油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、甘味料、辛味料等の調味類や、明石焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きうどん等の鉄板焼き食品や、チーズ、ハードタイプのヨーグルト等の乳製品や、納豆、厚揚げ、豆腐、こんにゃく、団子、漬物、佃煮、餃子、シューマイ、コロッケ、サンドイッチ、ピザ、ハンバーガー、サラダ等の各種総菜や、各種粉末(ビーフ、ポーク、チキン等畜産物、海老、帆立、蜆、昆布、かつお等水産物、野菜・果実類、植物、酵母、藻類等)や、油脂類・香料類(バニラ、柑橘類等)を粉末固形化したものや、粉末飲食品(インスタントコーヒー、インスタント紅茶、インスタントミルク、インスタントスープ、味噌汁等)等の各種食品が挙げることができるが、これらに特に制限されない。
【0030】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、特に飲料の形態で用いれば、毎日継続摂取することが可能である。飲料は、継続的に飲用される製品である。したがって、NK1受容体アンタゴニスト組成物を用いた飲料は、渇きを癒すなどの本来の機能以外に、NK1受容体が介在する症状、疾患の予防および軽減、解消といった機能を併せ持つことができる。
【0031】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物から調製した飲料の種類としては、各種組成のものを挙げることができるが、それらの飲料の製造に際しては、通常の飲料の処方設計に用いられる糖類、香料、果汁、食品添加物などいずれも使用することが出来る。飲料の製造に関しては、既存の参考書、例えば「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)等を参考にすることができる。
【0032】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を飲料の形態とする場合、有効成分であるアラビトール以外の他の成分として配合する飲料材料を具体的に例示すれば、ドリンクタイプのヨーグルト、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、ウメ、スイカ等の果汁、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ等の野菜汁、清涼飲料、牛乳、豆乳、コーヒー、ココア、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー茶、ローズ茶、キク茶、ミント茶、ジャスミン茶等の各種ハーブ茶、スポーツ飲料、ミネラルウォーター、栄養ドリンク等)の各種飲料材料が挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、その有効成分であるアラビトールがNK1受容体拮抗作用を有するため、NK1受容体介在性の各種の症状または疾患(例えば、痒み、痛み、嘔吐、咳、喘息、皮膚炎(アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、蕁麻疹など)、鬱、脱毛など)の予防、治療に有用である。また、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物は、その有効成分であるアラビトールが食品に含有されるものであることから、安全性が高く、副作用の少ないものであることが明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するに好適な例示であって、なんら本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1、2および比較例1〜7)
本実施例1、2および比較例1〜7では、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物の有効成分であるアラビトールが、各種の症状または疾患(例えば、痒み、痛み、嘔吐、咳、喘息、皮膚炎(アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、蕁麻疹など)、鬱、脱毛など)の予防、治療において、サブスタンスPに拮抗することを確認した。この活性の確認は、以下のアッセイにより行った。
【0036】
[性能評価試験] NK1受容体拮抗アッセイ
(試薬の調製)
本試験では、D−アラビトール、L−アラビトール、D−アラビノース、マルトテトライトール、マルチトール、キシリトール、リビトール、D−ソルビトール、α−グリコシルルチンを和光純薬工業株式会社から購入し、それぞれの試薬を生理食塩水で希釈し使用した。
【0037】
(ヒト由来NK1受容体をコードするcDNAのクローニングおよび動物細胞発現ベクターの作製)
クローン化されたヒトNK1受容体をHEK293で一過性に発現させるために、ヒトNK1受容体のcDNAをpCDM8(INVITROGEN)から切り出して、アンピシリン耐性遺伝子(BLUESCRIPT SK+からのヌクレオチド1973から2964)をSacII部位に挿入することにより導出した発現ベクターpCDM9にクローニングした。
【0038】
(ヒトNK1受容体を発現したHEK293の調製)
HEK293細胞を10%ウシ胎児血清を含むα−MEM培地(GIBCO社)を用いてファルコンディッシュ(直径3.5cm)に1×105個播種し、5%CO2インキュベーターで37℃にて一晩培養した。発現ベクター20μgを、Transfection Reagent FuGENE6(Roche社)を用い、その添付説明書記載の方法に従って、トランスフェクトし、37℃で3日間インキュベートした。そして、カルシウムイメージング法でアッセイした。
【0039】
(NK1受容体を発現した神経細胞の調製)
Renganathanらの方法(Renganathan M et al., J Neurophysiol. 84(2), 710−82(2000))に従って、野性型マウスの脊髄後根神経節から神経細胞を分散単離し、ポリ−L−リジンコートした24ウェルプレートに1×105細胞で播種した。培養条件は、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン−ストレプトマイシン、100ng/mL NGF(SIGMA社製)、5μMシトシンアラビノシド(SIGMA社製)および90%DMEM培地(GIBCO社製)中で、5%CO2、37℃であった。1〜3週間の培養の後、下記カルシウムイメージング解析に供した。野性型マウス由来の脊髄後根神経節の神経細胞を、NK1受容体抗体(CHEMICON International社製)を用いて染色することにより、半数の神経細胞がNK1受容体陽性であることを確認した。
【0040】
(カルシウムイメージング測定法)
NK1受容体を一過性または恒常的に発現している細胞を、高解像度デジタルB/W冷却CCDカメラ(浜松ホトニクス社製、商品名「ORCA」)を用いて測定し、解析ソフト(浜松ホトニクス社製、商品名「AQUA COSMOS」)を用いて画像解析した。カルシウム標識に際しては、カルシウム感受性色素としてMolecular Probes社製の「Fluo4−AM(商品名)」を用いた。50μgの「Fluo4−AM」を400μLのDMSO(ジメチルスルフォキシド)に溶解し、Molecular Probe社の「プロニックF−127(商品名)」を4μL加えて混合した後、4mLのGIBCO社の「OPTI−MEM(商品名)」を加えた。
【0041】
こうして調製したカルシウム感受性色素溶液を細胞に加え、37℃にて60分間インキュベートした。アゴニスト、アンタゴニスト、評価サンプルは、アッセイ濃度の10倍濃度で調製し、解析時に細胞上清の10分の1容量を添加して解析を行った。
【0042】
全ての試薬およびアッセイ温度は、37℃に保持した。一過性にトランスフェクトした細胞に関しては、YFPレポーターDNA蛍光(490nm励起)をトランスフェクトされた細胞を同定するのに使用した。
【0043】
測定に際しては、最初に細胞を無処理の状態でイメージした蛍光量を初期値とした。1分経過後、望ましい濃度の評価サンプルについて添加前および添加後(2〜5分間)のカルシウム蛍光量変化を1秒間隔でモニタした。その後、サブスタンスPを添加し、直後(2〜5分間)の細胞内のカルシウム濃度変化を蛍光強度変化として1秒間隔でモニタし、評価検体のアンタゴニスト活性を判定した。
【0044】
(NK1受容体アンタゴニスト活性の計算方法)
評価検体のNK1受容体アンタゴナイズ活性は、下記式(1)にしたがって求めた。なお、1回の測定につきNK1受容体を発現している細胞を15個選び、各細胞について蛍光強度変化を記録した。各細胞について下記式(1)でアンタゴナイズ活性をもとに全測定細胞のアンタゴナイズ活性値を平均し、評価検体のアンタゴナイズ活性値を求めた。
【0045】
【数1】

式(1)において、A、B、Cは次の値を意味する。
A: 評価サンプル添加前の初期値の細胞の蛍光強度
B: サブスタンスP(100μM)添加後の細胞の最大蛍光強度
C: 評価サンプルで前処理し、次いで、サブスタンスP(100μM)を添加した細胞の最大蛍光強度
【0046】
(評価検体の有効性評価基準)
評価検体のアンタゴナイズ活性値は、基準物質SPANTIDE II(サブスタンスPのペプチド性アナログ)のアンタゴナイズ活性と比較することにより、評価検体の有効性を決定した。評価基準は、下記のとおりに設定した。
陽性対照として設定したSPANTIDE IIのアンタゴナイズ活性を基準として、4段階で有効性(◎、○、△、×)を決定した。結果を表1に記載した。なお、SPANTIDE IIのNK1受容体アンタゴナイズ活性が65%であった。
◎:評価検体のアンタゴナイズ活性が80%以上であり、陽性対照より著しく優れた性能を示したものを著効(◎)と判定
○:評価検体のアンタゴナイズ活性が70%以上80%未満であり、陽性対照より優れた性能を示したものを有効(○)と判定
△:評価検体のアンタゴナイズ活性が60%以上70%未満であり、陽性対照と同程度の性能を示したものをやや有効(△)と判定
×:評価検体のアンタゴナイズ活性が60%未満であり、陽性対照より低い性能を示したものを無効(×)と判定
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1、2から明らかなように、アラビトールにNK1受容体アンタゴニストとしての高い効果が認められた。特に、実施例1に示すD−アラビトールでは、1ppmという低濃度で高い有効性を示し、次いで実施例2に示すL−アラビトールが有効性を示した。一方、他の糖として評価に用いた比較例1〜7のD−アラビノース、マルトテトライトール、マルチトール、キシリトール、リビトール、D−ソルビトール、α−グリコシルルチンにはNK1受容体アンタゴニスト活性を全く認めなかった。上記結果から、アラビトールは、NK1受容体アンタゴニストとして非常に特異で優れた性能を有することが確認された。
【0049】
(実施例3、4および比較例8〜11)
以下、本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を皮膚外用剤に特化させた配合例を(表2)に示す。また、これらの実施例3,4に対する比較例8〜11では、アラビトールを添加せず、他の糖を添加した。以下の実施例3、4および比較例8〜11において、アラビトール以外の他の配合成分は、同一である。
【0050】
【表2】

*1 ジメチルシリコン(商品名;KF96A−10cs:信越化学社製)
*2 カルボキシビニルポリマー(商品名;カーボポール980:日光ケミカルズ社製)
*3 クエン酸ナトリウムはpH調整剤であり、適量とはpHを5.0に調整するのに必要な量である。
【0051】
(止痒性評価)
慢性的に痒みをもつ6名(男性2名、女性4名)に、上記(表2)に記載の実施例3、4の皮膚外用剤を0.5グラムとり、痒みを感じる部位に1回塗布した。同様に、比較例8〜11の皮膚外用剤を0.5グラムとり、痒みを感じる部位に1回塗布した。各例の皮膚外用剤の塗布は、それぞれ評価日がずれるようにして実行した。評価日がずれるようにして塗布することにより、止痒性の評価を行った。塗布30分後に、痒み抑制に関する官能評価(3点:著効、2点:有効、1点:どちらともいえない、0点:無効)を行ない、6名の評点平均を求め、下記の判定基準に従って止痒効果を判定した。結果を(表2)に併記した。
【0052】
(止痒効果の判定基準)
◎:平均点2.4点以上3.0点以下
○:平均点1.5点以上2.4点未満
△:平均点0.7点以上1.5点未満
×:平均点0点以上0.7点未満
【0053】
(実施例5および比較例12)
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物を内服液剤に特化させた配合例を(表3)に示す。内服液の全量は30mLとした。また、この実施例5に対する比較例12として、アラビトールを添加しないこと以外、実施例5と同成分を配合した内服液剤を調製した。
【0054】
【表3】

【0055】
(止痒性評価)
慢性的に痒みを持つ6名(男性2名、女性4名)を3名(男性1名、女性2名)ずつの2群に分け、1群には実施例5の内服液剤1本を摂取させ止痒評価を行った。摂取1時間後に、官能評価(3点:著効、2点:有効、1点:どちらともいえない、0点:無効)を行なった。1週間後に、比較例12の内服液剤1本を摂取させ止痒性の評価を行い、同様に官能評価を実施した。もう一方の群には比較例12の内服液剤を摂取させ、一週間後に実施例5の内服液剤を摂取させた他は同様の評価を行った。官能評価の6名の評点平均を求め、下記の判定基準に従って止痒効果を判定した。結果を(表3)に併記した。
【0056】
(止痒効果の判定基準)
◎:平均点2.4点以上3.0点以下
○:平均点1.5点以上2.4点未満
△:平均点0.7点以上1.5点未満
×:平均点0点以上0.7点未満
【0057】
(実施例6および比較例13)
本発明のNK1受容体アンタゴニスト組成物をタブレット剤にして効果を確認した。配合例と評価結果を(表4)に示す。各タブレットの全量は、300mgとした。また、この実施例6に対する比較例13として、アラビトールを添加しないこと以外、実施例6と同成分を配合したタブレット剤を調製した。
【0058】
(止痒性評価)
慢性的に痒みをもつ6名(男性2名、女性4名)を3名(男性1名、女性2名)ずつの2群に分け、1群には、実施例6のタブレット1錠を摂取させ止痒性の評価を行った。摂取1時間後に、官能評価(3点:著効、2点:有効、1点:どちらともいえない、0点:無効)を行なった。1週間後に同一被験者に比較例13のタブレット1錠を摂取させ止痒評価を行い、同様に官能評価を実施した。もう一方の群には比較例13のタブレットを先に、1週間後に実施例6のタブレットを摂取させて同様の評価を行った。官能評価の6名の評点平均を求め、下記の判定基準に従って止痒効果を判定した。結果を(表4)に併記した。
【0059】
(止痒効果の判定基準)
◎:平均点2.4点以上3.0点以下
○:平均点1.5点以上2.4点未満
△:平均点0.7点以上1.5点未満
×:平均点0点以上0.7点未満
【0060】
【表4】

*1卵殻カルシウム(商品名;TS-2:太陽化学株式会社製)
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明にかかるNK1受容体アンタゴニスト組成物は、良好なNK1拮抗性を有し、かつ生体に対して高い安全性を有するアラビトールを有効成分として有している。したがって、本発明にかかるNK1受容体アンタゴニスト組成物は、NK1受容体が介在する種々の症状、疾患の治療において有効である。また、本発明にかかるNK1受容体アンタゴニスト組成物は、有効成分以外のその他の成分として、種々の材料を配合することにより、外用剤、内服剤、食品、飲用などの形態に容易に調製できるので、日常的に簡易に摂取することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビトールを有効成分として含有してなることを特徴とするNK1受容体アンタゴニスト組成物。
【請求項2】
前記アラビトールがD−アラビトールであることを特徴とする請求項1に記載のNK1受容体アンタゴニスト組成物。
【請求項3】
前記アラビトールの配合量が0.01〜30質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のNK1受容体アンタゴニスト組成物。
【請求項4】
アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬又は蕁麻疹、喘息、痒み、痛み、咳、嘔吐、欝症状、脱毛の少なくとも一つの症状を改善もしくは予防するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNK1受容体アンタゴニスト組成物。
【請求項5】
アラビトール以外の他の成分を用途に応じて選択することにより、外用剤、注射剤、内服薬、化粧品、食品、飲料のいずれか1種として構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のNK1受容体アンタゴニスト組成物。

【公開番号】特開2009−263270(P2009−263270A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113734(P2008−113734)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】