説明

NKG2D陽性CD4+細胞による免疫応答の負の免疫調節法

本発明は、免疫障害、特に、NKG2D陽性CD4+細胞が関与する免疫不全局面を有する自己免疫疾患および癌を処置する方法に関する。さらに、本発明は、NKG2D陽性CD4+細胞の負の免疫調節効果を調節する組成物の能力を評価するスクリーニング方法を提供する。可溶性MICリガンドによるシグナル伝達の阻害のための新しい標的、すなわち、腫瘍細胞の表面上のMICA/MICBと相互作用するERP-5ジスルフィドイソメラーゼもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌および関節リウマチなどの自己免疫障害を含む異常な免疫応答構成要素を有する障害を処置する方法に関する。今まで知られていなかった免疫制御経路を通して、特に、CD4+細胞の非定型NKG2D陽性集団を通して作用する免疫調節剤についてスクリーニングする方法もまた記載される。さらに、ERP-5とMICA/MICBの間の相互作用をターゲットにする、MIC関連疾患のスクリーニングおよび処置のための方法が提供される。なお、本出願は、2005年11月3日に出願された米国仮出願第60/733,312号の優先権の恩典を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
背景
自己免疫反応を誘発することなく効果的な免疫監視を維持することは、エフェクターT細胞応答の正確な力価測定を必要とする。この微調整は、MHCクラスI、HLA-A、-B、もしくは-C対立遺伝子と相互作用する異なるキラー細胞Ig様受容体(KIR)などの抑制性または活性化アイソフォーム、ならびにHLA-Eと相互作用する抑制性CD94-NKG2Aおよび活性化CD94-NKG2Cのヘテロ二量体により伝達される負または正のシグナルの組み込みを含みうる。これらの受容体の一部は、T細胞抗原受容体依存性T細胞活性化の閾値を調節する能力を有する。まれな、抑制性受容体の非存在下において、活性化アイソフォームはT細胞エフェクター機能を増強し、自己免疫病態に寄与しうる。
【0003】
NKG2Dは、リガンドの中で特に、MHCクラスI関連MICAおよびMICB糖タンパク質と相互作用する活性化受容体である。MICAおよびMICBは抗原提示に役割をもたず、一般的に、腸上皮にのみ見出され、ウイルスおよび細菌感染、悪性転換、ならびに増殖により許容型細胞においてストレス誘導されうる。NKG2Dは、CD28と類似している会合したDAP10アダプタータンパク質を通してシグナル伝達するC型レクチン様活性化受容体である。NKG2Dのリガンド会合は、NK細胞を活性化し、エフェクターT細胞を強く共刺激する。しかしながら、NKG2Dの発現は、リガンド誘導性下方調節により制御され、その下方調節は、一過性であり、T細胞受容体刺激により、かつIL-15の存在下で迅速に逆転される。
【0004】
NKG2Dは、大部分のナチュラルキラー(NK)細胞、CD8+T細胞上に発現しているが、一般的に、CD4+T細胞上では発現しない。この規則の一つの例外が、関節リウマチにおいて見られ、自己免疫疾患性および炎症性関節疾患の重症度は、健康な個体においてまれである、NKG2Dを発現する多数の自己反応性CD4+CD28-T細胞と相関する(Groh et al., 2003(非特許文献1))。RA患者の末梢血および滑膜組織に見出されるこれらのT細胞は、RA滑膜細胞により産生される、NKG2Dのストレス誘導性MICリガンドにより刺激され、結果として、異常なサイトカインおよび増殖性応答を生じる。これらの結果は、NKG2DおよびそのMICリガンドの制御の著しい欠如が、自己反応性T細胞刺激を引き起こし、それに従って、RAおよびおそらく他の自己免疫疾患において自己永続化病態を促進する(Groh et al., 2003(非特許文献1))。しかしながら、免疫機能障害におけるNKG2D陽性CD4+細胞の完全な役割は、十分には理解されていない。
【0005】
【非特許文献1】Groh et al., 2003
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
このように、本発明に従って、(a)ERP5およびMICA/MICBを発現する細胞を供給する段階;(b)細胞を候補物質と培養する段階;ならびに(c)(i)MICA/MICBの細胞表面発現、(ii)ERP5と複合体形成したMICA/MICB、(iii)MICA/MICBにおけるジスルフィド結合還元、(iv)MICA/MICB四量体結合、(v)MICA/MICBのタンパク分解性切断、(vi)可溶性MICA/MICBの存在、(vii)ERP5の転写、翻訳、もしくは細胞表面発現、および/または(viii)MICA/MICB自己抗体の1つまたは複数を評価する段階を含む免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、候補物質で処理されていない細胞と比較した際の、(c)(i)〜(viii)のいずれかにおける変化により、候補物質が免疫調節剤であると同定される、方法が提供される。候補物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質でありうる。細胞は、上皮腫瘍細胞、活性化リンパ球、滑膜細胞、白血病細胞、活性化造血細胞、炎症性細胞、感染細胞、または自己免疫性病変由来の細胞でありうる。
【0007】
もう一つの態様において、MICA/MICBおよびERP5を発現する細胞においてMICA/MICB切断を調節する方法であって、その細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む方法が提供される。モジュレーターは、ERP5のMICA/MICBの放出を変化させうる、ERP5のMICA/MICBへの結合を変化させうる、ERP5のMICA/MICBの異性化を変化させうる、ERP5のMICA/MICBのチオ還元(thioreduction)を変化させうる、またはERP5の転写もしくは翻訳もしくは細胞表面発現を変化させうる。細胞は、上皮腫瘍細胞、活性化リンパ球、滑膜細胞、白血病細胞、活性化造血細胞、炎症性細胞、感染細胞、または自己免疫性病変由来の細胞でありうる。モジュレーターは、MIC断片(例えば、MICAまたはMICBのα3ドメイン)などのEPR5の競合基質であるアンタゴニスト、チオレダクターゼ(thioreductase)インヒビターであるアンタゴニスト、またはバシトラシン、DTNB、およびPAOから選択されるアンタゴニストでありうる。細胞は、動物またはヒトの被験体などの被験体内にありうる。被験体は、癌、自己免疫疾患、炎症疾患、もしくは感染を有しうる、または有するのではないかと疑われうる。
【0008】
さらになお追加の態様において、MICA/MICBおよびERP5を発現する細胞においてMICA/MICB切断を調節する方法であって、その細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む方法が提供される。モジュレーターは、ERP5のMICA/MICBの放出を変化させうる、ERP5のMICA/MICBへの結合を変化させうる、ERP5のMICA/MICBの異性化を変化させうる、ERP5のMICA/MICBのチオ還元を変化させうる、またはERP5の転写もしくは翻訳もしくは細胞表面発現を変化させうる。細胞は、上皮腫瘍細胞、活性化リンパ球、滑膜細胞、白血病細胞、活性化造血細胞、炎症性細胞、感染細胞、または自己免疫性病変由来の細胞でありうる。モジュレーターは、EPR5の競合基質、チオレダクターゼインヒビター、またはバシトラシン、DTNB、およびPAOから選択される、アンタゴニストでありうる。
【0009】
さらなる態様は、(a)単離されたERP5またはそのMICA/MICB結合断片を供給する段階;(b)候補物質の存在下でERP5をMICA/MICBまたはそのERP5結合断片と接触させる段階;および(c)ERP5のMICA/MICBへの結合を評価する段階を含む、ERP5とMICA/MICBの相互作用を調節する作用物質についてスクリーニングする方法であって、候補物質の非存在下における結合と比較した際の、ERP5のMICA/MICBへの結合の変化により、候補物質がERP5とMICA/MICBの相互作用を調節する作用物質であることが示される、方法を含む。候補物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質でありうる。候補物質は、MICA、MICB、抗NKG2D抗体、または抗NKG2D抗体誘導体でありうる。
【0010】
追加の態様は、(a)被験体におけるCD4+集団を同定する段階、および(b)CD4+集団においてNKG2D+およびNKG2D-細胞の相対的割合を評価する段階を含む、被験体におけるT細胞集団を特徴付ける方法を含む。被験体は、自己免疫疾患もしくは癌を有することがわかっている、または自己免疫疾患もしくは癌を有するのではないかと疑われる場合でもよい。癌は、原発性、転移性、再発性、または薬物耐性癌でありうる。NKG2D+/NKG2D-比が高ければ高いほど、癌は重症である。NKG2D+/NKG2D-比が高ければ高いほど、癌は進行する可能性が高い。NKG2D+/NKG2D-比が低ければ低いほど、自己免疫疾患は重症である。NKG2D+/NKG2D-比が低ければ低いほど、自己免疫疾患は進行する可能性が高い。方法はさらに、被験体におけるMICA/MICB発現のレベルを評価する段階、被験体における可溶性MICA/MICBを評価する段階、被験体におけるFasLのレベルを評価する段階、または被験体におけるサイトカインのレベルを評価する段階を含みうる。
【0011】
もう一つの態様において、(a)(i)NKG2D+ CD4+細胞の集団であって、NKG2D+ CD4+細胞がNKG2Dリガンドで刺激されている、集団、および(ii)NKG2D- CD4+細胞の集団を供給する段階;(b)NKG2D+ CD4+細胞、NKG2D- CD4+細胞、および候補物質をいっしょに培養する段階;(c)NKG2D- CD4+細胞集団の生存、増殖、または活性を評価する段階を含む、免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、候補物質の非存在下でNKG2D+ CD4+細胞と共に培養されたNKG2D- CD4+細胞と比較した際の、NKG2D- CD4+細胞の生存、増殖、または活性における変化により、候補物質が免疫調節剤であることが示される方法が提供される。候補物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質である。方法はさらに、NKG2D+ CD4+細胞の第二集団が、候補物質およびNKG2D- CD4+細胞の第二集団と共に培養する前にNKG2Dリガンドで刺激されない、陰性対照を含みうる。NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、抗NKG2D抗体、ULB1〜ULB10、DAP10、または抗NKG2D抗体誘導体でありうる。NKG2D- CD4+細胞の活性は、サイトカイン産生、アポトーシス、成長停止、細胞周期停止、細胞増殖、または可溶性メディエーターの発現でありうる。
【0012】
もう一つの態様において、(a)(i)NKG2D+ CD4+細胞の集団であって、NKG2D+ CD4+細胞がNKG2Dリガンドで刺激されている、集団、および(ii)NKG2D- CD4+細胞の集団を供給する段階;(b)候補物質の存在下でNKG2D- CD4+細胞を培養する段階;(c)NKG2D+ CD4+細胞またはそれ由来の細胞上清を段階(b)の細胞と培養する段階;(d)NKG2D- CD4+細胞の生存、増殖、または活性を評価する段階を含む、免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、候補物質の非存在下で培養されたNKG2D- CD4+細胞と比較した際の、NKG2D- CD4+細胞の生存、増殖、または活性における変化により、候補物質が免疫調節剤であることが示される方法が提供される。候補物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質でありうる。方法はさらに、NKG2D+ CD4+細胞の第二集団が、候補物質およびNKG2D- CD4+細胞の第二集団と共に培養する前にNKG2Dリガンドで刺激されない、陰性対照を含みうる。NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、抗NKG2D抗体、ULB1〜ULB10、DAP10、または抗NKG2D抗体誘導体でありうる。NKG2D- CD4+細胞の活性は、サイトカイン産生、アポトーシス、成長停止、細胞周期停止、細胞増殖、または可溶性メディエーターの発現でありうる。
【0013】
さらにもう一つの態様において、(a)(i)NKG2D+ CD4+細胞の集団であって、NKG2D+ CD4+細胞がNKG2Dリガンドで刺激されている、集団、および(ii)NKG2D- CD4+細胞の集団を供給する段階;(b)候補物質の存在下でNKG2D+ CD4+細胞を培養する段階;(c)NKG2D- CD4+細胞を段階(b)の細胞または段階(b)の細胞上清と培養する段階;(d)NKG2D- CD4+細胞の生存、増殖、または活性を評価する段階を含む、免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、候補物質の非存在下で培養されたNKG2D+ CD4+細胞または上清と培養されたNKG2D- CD4+細胞と比較した際の、NKG2D- CD4+細胞の生存、増殖、または活性における変化により、候補物質が免疫調節剤であることが示される方法が提供される。方法はさらに、NKG2D+ CD4+細胞の第二集団が、候補物質およびNKG2D- CD4+細胞の第二集団と共に培養する前にNKG2Dリガンドで刺激されない、陰性対照を含みうる。NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、抗NKG2D抗体、ULB1〜ULB10、DAP10、または抗NKG2D抗体誘導体でありうる。NKG2D- CD4+細胞の活性は、サイトカイン産生、アポトーシス、成長停止、細胞周期停止、細胞増殖、または可溶性メディエーターの発現でありうる。
【0014】
なおさらにもう一つの態様において、(a)NKG2D+ CD4+細胞の集団を供給する段階であって、NKG2D+ CD4+細胞がNKG2Dリガンドで刺激されている、段階;(b)NKG2D+ CD4+細胞を候補物質と培養する段階;ならびに(c)NKG2D+ CD4+細胞による可溶性メディエーターの産生および/または分泌を評価する段階を含む、免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、候補物質で処理されていないNKG2D+ CD4+細胞と比較した際の、NKG2D+ CD4+細胞による可溶性メディエーター産生および/または分泌における変化により、候補物質が免疫調節剤と同定される方法が提供される。候補物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質でありうる。可溶性メディエーターはFasLでありうる。評価する段階は、抗FasLのELISA、FasLに基づいたFACS、HPLC、FPLC、タンパク質分析、MS、電気泳動、ウェスタンブロッティング、発現分析、PCR、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ分析、または段階(b)の上清によるジャーカット(Jurkat)細胞アポトーシスの測定を含みうる。NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、抗NKG2D抗体、または抗NKG2D抗体誘導体でありうる。
【0015】
さらなる態様において、可溶性MICもしくはMIC断片、またはNKG2D+抗体もしくは抗体誘導体などの他のNKG2Dアンタゴニストを細胞に投与する段階を含むNKG2D+ CD4+細胞による可溶性因子の産生を調節する方法が提供される。調節されることになる因子は、サイトカインまたはFasLを含みうる。方法はさらに、NKG2Dシグナル伝達、細胞成長、細胞増殖を抑制しうるか、または細胞死を促進しうる。この制御は、抗原依存性または非依存性でありうる。
【0016】
さらなる態様において、上皮細胞由来腫瘍を有する被験体を処置する方法であって、被験体にNKG2D+ CD4+細胞のアンタゴニストを投与する段階を含む方法が提供される。アンタゴニストは抑制性NKG2D+抗体または抗体誘導体でありうる。アンタゴニストは、NKG2Dシグナル伝達、可溶性メディエーターの発現、可溶性メディエーターの分泌、細胞成長、または細胞増殖を抑制しうる。
【0017】
なおさらなる態様において、MIC分泌性腫瘍を有する被験体を処置する方法であって、(a)腫瘍によるMIC分泌を評価する段階、および(b)被験体にFasLのアンタゴニストを投与する段階を含む方法が提供される。アンタゴニストは、抗FasL抗体、FasL siRNA、またはFasL受容体結合についての競合性インヒビターでありうる。MIC分泌は、血液または血清におけるMICAおよび/またはMICBレベルを測定することにより評価されうる。
【0018】
まだなおさらなる態様において、自己免疫疾患を有する被験体を処置する方法であって、被験体にNKG2D+ CD4+細胞のアゴニストを投与する段階を含む方法が提供される。アゴニストは、MICA、MICB、抗NKG2D+抗体もしくはその誘導体、DAP10、またはULB1〜10でありうる。自己免疫疾患は、RA、SLE、若年性SLE、強皮症、MS、クローン病、セリアック病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病(1型)、多発性硬化症、ヴェゲネル肉芽腫症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、皮膚筋炎、多発性筋炎、T細胞媒介性移植片拒絶反応(例えば、GVHD)、およびギラン・バレーでありうる。
【0019】
追加の態様において、自己免疫疾患を有する被験体を処置する方法であって、被験体にFasL活性のアゴニストを投与する段階を含む方法が提供される。自己免疫疾患は、RA、SLE、若年性SLE、強皮症、MS、クローン病、セリアック病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病(1型)、多発性硬化症、ヴェゲネル肉芽腫症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、皮膚筋炎、多発性筋炎、T細胞媒介性移植片拒絶反応(例えば、GVHD)、およびギラン・バレーでありうる。
【0020】
もう一つの局面において、本発明は、本明細書に記載された化合物の任意の1つまたは複数を含むキットを提供する。典型的には、キットはまた、本方法に従って抗体を用いるための使用説明書を含む。
【0021】
もう一つの局面において、本発明は、MICA/MICBおよびERP5を発現する細胞においてMICA/MICB切断を調節するエクスビボの方法であって、細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む方法を企図する。さらにもう一つの局面において、本発明は、MICA/MICBおよびERP5を発現する非ヒト細胞におけるMICA/MICB切断を調節するインビボの方法であって、細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む方法を企図する。ERP5によるMICAおよび/またはMICB切断を低下させることにより効果を発揮する薬剤の製造における、MICA/MICBを結合し、かつERP5によるMICAおよび/またはMICBの切断をブロックする能力がある結合剤の使用も企図される。いくつかの態様において、自己免疫疾患の処置のための薬剤の製造におけるNKG2D+ CD4+細胞のアゴニストの使用が企図される。特定の態様において、自己免疫疾患の処置のための薬剤の製造におけるFasL活性のアゴニストの使用が企図される。
【0022】
本明細書に記載された任意の方法または組成物は、本明細書に記載された任意の他の方法または組成物に関して実施されうることが企図される。
【0023】
本明細書および/または特許請求の範囲における「含む(comprising)」という用語と共に用いられる場合の「1つの(a)」または「1つの(an)」という用語の使用は、「1つの(one)」、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、または「1つまたは1つより多い」という意味でありうる。
【0024】
本発明の他の対象、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになると思われる。しかしながら、本発明の真意および範囲内の様々な変化および改変はこの詳細な説明から当業者にとって明らかになると思われるため、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい態様を示しているとはいえ、例証のためのみ与えられることは理解されるべきである。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、MICAが腫瘍細胞の表面上で特異的に会合するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーの小胞体タンパク質であるERP-5とのMICリガンドの相互作用に取り組む。チオレダクターゼ触媒活性の薬理学的阻害およびERP5発現のsiRNA媒介性サイレンシングは、可溶性MICAの分断を著しく低下させ、ERP5とのその物理的相互作用に干渉する。本発明者らはまた、MICAのドメイン内ジスルフィド結合のERP-5還元が、近位α3ドメインと膜貫通ドメインを連結するペプチド配列内でのタンパク分解性切断(別個のタンパク分解性実体による)に必要な前提条件である立体構造的不安定化を引き起こすことを示している。この相互作用をターゲットにすることは、MIC関連疾患状態における薬物のスクリーニングおよび治療介入のための新しい機構を提供する。
【0026】
本発明のもう一つの局面において、NKG2D陽性CD4+細胞を通しての免疫調節効果のための組成物のスクリーニング、および関連疾患状態を処置するための方法が提供される。MICリガンドとERP-5ジスルフィドイソメラーゼの間の相互作用をターゲットにすることによりMIC関連病態のスクリーニングおよび治療に関する方法もまた提供される。
【0027】
従って、本発明は、NKG2D陽性CD4+細胞が、腫瘍細胞に対して見られるものなどの免疫応答の発生に必要である、NKG2D陰性CD4+細胞の著しい負の免疫調節を示すという驚くべき発見に、一部、基づいている。従って、癌設定におけるこの制御を阻害することにより、MIC関連癌に観察される免疫抑制を減少させうる、または防ぎうる。さらに、この経路は、以前に示唆された関節リウマチにおけるこれらの細胞の阻害とは対照的に(参照により本明細書に組み入れられている、Groh et al., 2003;また米国特許出願第10/898,003号およびPCT/US03/12299)、MIC関連自己免疫機能障害の下方制御を達成するために正の様式で利用されうる。
【0028】
I. 定義
本明細書に用いられる場合、以下の用語は、他に規定がない限り、それらに帰属した意味を有する。
【0029】
本明細書に用いられる場合、「T細胞」は、胸腺において成熟するリンパ球の亜集団を指し、それらの表面上に、分子の中でも特に、T細胞受容体をディスプレイする。T細胞は、TCR、CD4、またはCD8を含む特定の表面抗原の発現、腫瘍または感染細胞を殺す特定のT細胞の能力、免疫系の他の細胞を活性化する特定のT細胞の能力、およびサイトカインと呼ばれるタンパク質分子または免疫応答を刺激もしくは抑制する他の可溶性メディエーターを放出する能力などの特定の特徴および生物学的性質によって同定されうる。これらの特徴および活性のいずれでも、当技術分野において周知の方法を用いてT細胞を同定するために用いられうる。
【0030】
「NKG2D」という用語は、多数の型の免疫細胞、特にNK細胞、CD8+ T細胞、いくつかのCD4+ T細胞、およびγ/δT細胞の全部またはわずかに一貫して見出される活性化細胞表面分子を指す。NKG2Dはまた、キラー細胞レクチン様受容体、サブファミリーC、メンバー4、またはKLRC4とも呼ばれている(例えば、OMIM 602893参照、その全開示は、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。本明細書に用いられる場合、NKG2Dは、任意のNKG2Dアイソフォーム、例えば、Diefenbach et al. (2002)に記載されたアイソフォームを指す。NK細胞およびT細胞において、NKG2Dは、DAP10(例えば、OMIM 604089参照)またはDAP12(例えば、OMIM 604142参照)などのタンパク質とヘテロ二量体を形成できる。本明細書でNKG2Dに起因する任意の活性、例えば、細胞活性化、抗体による認識などはまた、NKG2D-DAP10またはNKG2D-DAP12ヘテロ二量体などのNKG2D含有複合体を指しうることは認識されているものと思われる。
【0031】
「自己免疫」障害は、非自己から自己を識別する能力の崩壊または他の原因のため、免疫系が自己細胞または組織に対して反応を開始する、任意の障害、状態、または疾患を含む。自己免疫障害の例には、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、I型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、クローン病、セリアック病、炎症性腸障害、シェーグレン症候群、エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、多発性筋炎、ギラン・バレー、ヴェゲネル肉芽腫症、結節性多発性動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、ベーチェット病、チャーグ・ストラウス症候群、高安動脈炎などが挙げられる。自己免疫障害は、免疫系の任意の構成要素と関係していることがあり、身体の任意の細胞または組織型をターゲットにすることが可能である。
【0032】
「癌」は、任意の過剰増殖性障害を指すが、特に、それは、脳、頭頸部、食道、口および歯肉、気管、肺、胃、結腸、肝臓、膵臓、腎臓、直腸、卵巣、子宮、頸部、睾丸、前立腺、膀胱、陰茎、膣、または血液を含むほとんどいかなる組織にも関係する悪性腫瘍を指す。癌はまた、原発性、転移性、再発性、および薬物耐性である癌も指す。「上皮癌」は、上皮組織由来であるものであり、卵巣癌、扁平上皮癌、甲状腺癌、乳癌、および基底細胞癌を含む身体の任意の場所に生じうる。「MIC関連癌」は、癌細胞/腫瘍によるMIC産生により特徴付けられるものである。
【0033】
本明細書に用いられる場合、関節リウマチという用語は、関節の炎症を伴い、かつ関節侵食、リンパ球浸潤、滑膜の過形成、線維芽細胞様滑膜細胞およびマクロファージの攻撃的増殖、ならびに/またはCD4+ NKG2D+細胞の存在などの特徴を含む、任意の障害を指す。
【0034】
NKG2DまたはNKG2D発現細胞に関して「低下させる」、「干渉する」、「阻害する」、「下方調節する」、「拮抗する」、および「下方制御する」という用語は、NKG2D受容体の活性もしくは数、またはNKG2Dを発現する細胞の数を遅らせうる、低下させうる、逆転させうる、または何らかの負の影響を及ぼしうるプロセス、方法、または化合物を意味する。これらの用語は、リガンドによるNKG2Dの活性化を阻害する、受容体の活性を減少させるリガンドの非存在下で拮抗的に作用する、受容体の発現レベルを減少させる、NKG2D誘発性シグナル伝達および/もしくは遺伝子発現をブロックする、またはNKG2D活性化に起因する細胞の任意の他の活性をブロックする、化合物を指しうる。特定の態様において、阻害性化合物または方法は、例えば、受容体に結合して、リガンド接近を防ぐことにより、リガンドによる受容体の結合をターゲットにする。または、阻害性化合物は、MICAおよび/もしくはMICBの産生、プロセシング、または分泌に干渉しうる。
【0035】
本明細書に用いられる場合、「抗体」という用語は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を指す。重鎖における定常ドメインの型に依存して、抗体は以下の5つの主要なクラスの1つに割り当てられる:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM。これらのいくつかはさらに、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのサブクラスまたはアイソタイプへ分類される。例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対で構成され、各対は1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100個〜110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、「α」、「δ」、「ε」、「γ」、および「μ」と名付けられている。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造および3次元立体構造は周知である。IgGおよび/またはIgMは、本発明に用いられる抗体の好ましいクラスであり、IgGは特に好ましいが、なぜなら、それらは生理学的状況において最も一般的な抗体であるからであり、かつそれらは実験室設定において最も容易に作製されるからである。好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。特に好ましいのは、ヒト化抗体、二重特異的抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、または他の方法でヒトに適した抗体である。「抗体」はまた、本明細書に記載された抗体のいずれかの任意の断片または誘導体を含む。
【0036】
「特異的に結合する」という用語は、タンパク質の組換え型、その中のエピトープ、または単離されたT細胞もしくはNK細胞もしくは他の標的細胞の表面上に存在する天然タンパク質のいずれかを用いて評価される場合、リガンドが競合的結合アッセイにおいて結合パートナーに好んで結合できることを意味する。競合的結合アッセイおよび特異的結合を測定するための他の方法(例えば、抗体マスキング)はさらに下で記載され、当技術分野において周知である。
【0037】
「ヒトに適した」または「ヒト化」抗体は、例えば、本明細書に記載された治療方法のためにヒトにおいて安全に用いられうる任意の抗体、誘導体化抗体、または抗体断片を指す。ヒトに適した抗体は、キメラの、もしくは完全のヒト抗体のすべての型、または抗体の少なくとも一部がヒト由来である、もしくは天然の非ヒト抗体が用いられる場合に一般的に誘発される免疫応答を避けるために別な方法で改変されている任意の抗体を含む。
【0038】
本発明の目的のために、「ヒト化」抗体は、1つまたは複数のヒト免疫グロブリンの定常および可変フレームワーク領域が、動物免疫グロブリンの結合領域、例えば、CDRと融合されている抗体を指す。そのようなヒト化抗体は、結合領域が由来している非ヒト抗体の結合特異性を維持するが、非ヒト抗体に対する免疫反応を避けるように設計される。
【0039】
「キメラ抗体」は、(a)定常領域またはその一部が、抗原結合部位(可変領域)が異なるもしくは変化したクラス、エフェクター機能、および/もしくは種の定常領域、またはキメラ抗体に新しい性質を与える完全に異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物などに連結されているように変更、置換、または交換されている;または(b)可変領域またはその一部が、異なるまたは変化した抗原特異性を有する可変領域と変更、置換、または交換されている、抗体分子である。
【0040】
「ヒト」抗体は、抗原投与に応答して特異的ヒト抗体を産生するように「遺伝子操作されている」トランスジェニックマウスまたは他の動物から得られる抗体である(例えば、Green et al., 1994; Lonberg et al., 1994; Taylor et al., 1994、それらの全教示は参照により本明細書に組み入れられている)。完全なヒト抗体もまた、遺伝子または染色体トランスフェクション方法、およびファージディスプレイテクノロジーにより構築されることができ、それらの方法のすべては当技術分野において公知である(例えば、McCafferty et al., 1990参照)。ヒト抗体はまた、インビトロの活性化B細胞により産生されうる(例えば、米国特許第5,567,610号および第5,229,275号参照、それらは参照により全体として組み入れられている)。
【0041】
本発明の関連内で、「活性のある」または「活性化された」T細胞は、生物活性のあるT細胞、より具体的には、例えば、サイトカインを分泌することにより、細胞溶解の能力または免疫応答を刺激する能力を有するT細胞を表す。
【0042】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、それの天然状態において見出されるような、通常付随する成分を実質的または本質的に含まない材料を指す。純度および均一性は、典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技術を用いて測定される。調製物に存在する主要な種であるタンパク質は、実質的に精製されている。
【0043】
本明細書に用いられる場合、「生体試料」という用語には、生体液(例えば、血清、リンパ液、血液)、細胞試料、または組織試料(例えば、骨髄、腫瘍生検)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0044】
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の重合体を指すために本明細書で交換可能に用いられる。その用語は、天然アミノ酸重合体および非天然アミノ酸重合体だけでなく、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的化学模倣体であるアミノ酸重合体にも適用される。
【0045】
例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに関連して用いられる場合、「組換え」という用語は、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種性核酸もしくはタンパク質の導入、または天然核酸もしくはタンパク質の変化により改変されていること、または細胞がそのように改変された細胞由来であることを示す。従って、例えば、組換え細胞は、その細胞の天然(非組換え)型内で見出されない遺伝子を発現する、またはさもなければ異常に発現するか、不十分に発現するか、もしくは全く発現しない天然遺伝子を発現する。
【0046】
II. NKG2D
ホモ二量体C型レクチン様受容体である、NKG2Dは、ナチュラルキラー(NK)細胞、CD8 αβT細胞、およびγΔT細胞上に見出される固有の刺激性分子である。それは、DAP10と名付けられたアダプタータンパク質と、それらの膜貫通ドメイン内の逆帯電したアミノ酸残基を通して会合する。DAP10は、CD28共刺激性受容体と同様に、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)の活性化により、その細胞質ドメインにおけるYxxMモチーフのリン酸化によってシグナル伝達する。脱グリコシル化されたNKG2Dポリペプチド鎖は28キロダルトン(kD)である。それは、ヒト第12染色体上のNK複合体(NKC)における遺伝子によりコードされる。その名前にも関わらず、NKG2Dは、CD94と会合するNKG2AおよびNKG2C/H受容体と有意な配列相同性を共有しない。NKG2Dホモ二量体は、溶液中で単量体MICAと安定な複合体を形成し、この相互作用を促進するために他の成分が必要とされないことを示している。可溶性NKG2Dはまた、MICAと類似した構造的および機能的性質を有する細胞表面MICBに結合する(Steinle et al., 2001)。
【0047】
本発明者らは以前に、生化学的および遺伝学的方法を用いてNKG2DがMICAおよびMICBの受容体として機能することを示している(Bauer et al., 1999)。この知見の前に、NKG2Dの機能は知られていなかった。本発明者らは、NKG2Dがリンパ球サブセット上に非常に広い分布を有し、大部分のNK細胞、CD8 α/βT細胞、およびγ/δT細胞上に発現していることを決定した。機能実験は、NKG2Dの会合が、MICを発現するトランスフェクタントおよび上皮腫瘍細胞に対するγ-δT細胞およびNK細胞の細胞溶解性応答を活性化することを示した(Groh et al., 1999; Bauer et al., 1999)。これらの結果は、抗腫瘍NK細胞およびT細胞応答を促進しうる活性化免疫受容体-MHCリガンド相互作用を明示している。さらに、本発明者らは、MICのNKG2Dとの相互作用が、抗原特異的CD8 α/βT細胞応答の細胞溶解性応答を強く増加させ、サイトカイン産生およびT細胞増殖を共刺激することを示した(Groh et al., 2001)。
【0048】
NKG2Dは、明らかなアンタゴニストを欠く活性化受容体であるが、リガンドの中でも特に、MHCクラスI関連MICAおよびMICB糖タンパク質(下で考察されている)と相互作用する(Bauer et al., 1999)。これらは、抗原提示において役割をもたず、腸上皮において制限的な組織分布をもち、ウイルスおよび細菌感染、悪性転換、ならびに増殖により、許容型の細胞においてストレス誘導されうる(Groh et al., 1996; Groh et al., 1998; Das et al., 2001; Groh et al., 2001; Tieng et al., 2002)。NKG2Dは、CD28と類似している会合したDAP10アダプタータンパク質を通してシグナル伝達するC型レクチン様活性化受容体である(Wu et al., 1999)。それは、大部分のNK細胞、CD8 T細胞、およびγδT細胞上に発現するが、ほんのわずかなCD4 T細胞上にしか発現しない(Bauer et al., 1999)。NKG2Dのリガンド会合は、NK細胞を活性化し、エフェクターT細胞を強く共刺激する(Bauer et al., 1999; Das et al., 2001; Groh et al., 2001)。しかしながら、NKG2Dの発現は、リガンド誘導性下方調節により制御され、その下方制御は、一過性であり、インターロイキン-15により迅速に逆転される(Groh et al., 2002)。
【0049】
本発明は、一つの局面において、NKVG2D受容体を発現するCD4+ T細胞の特定のサブセットを扱う。正常な被験体において、全体のCD4+集団におけるこれらの細胞の比率は非常に低く、約2%またはそれ未満である。しかしながら、自己免疫疾患およびMIC関連癌を有するものなどの特定の被験体において、比率はよりずっと高く、場合によっては、CD4+細胞の大多数がNKVG2D受容体を発現する。従って、本発明の局面は、NKVG2D+ CD4+細胞の同定、精製、活性化、および阻害に取り組む。これらの細胞は、「制御性T細胞」(Treg)クラスの1メンバーであるが、重要な細胞群であり、その制御は、これらのようなTregからのシグナルを受けるエフェクター細胞を制御することを可能にしうる。
【0050】
III. MICおよびMICリガンド
A. MIC
NKG2Dの主要なリガンドは、抗原提示には役割を果たさないMHCクラスI分子の遠い類縁体である、MICAおよびMICBである。むしろ、それらは、細胞障害のシグナルとして機能する。これらのタンパク質は、腸上皮において非常に制限的な組織分布をもち、上皮腫瘍(Groh et al., 1996; Groh et al., 1999)および関節リウマチを有する患者の滑膜組織(Groh et al., 2003)において頻繁に発現している。
【0051】
MICAおよびMICBタンパク質(それぞれ、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:4)は、MHCクラスI関連鎖(Chain)AおよびBである。それらは密接に関連しており、それぞれ、HLA-Bの40キロベース(kb)および110キロベース(kb)のセントロメア側の遺伝子によりコードされる(Bahram et al., 1994)。MICと全く相同的な配列は、齧歯類を除く大部分の哺乳動物において保存されており、それゆえに、おそらく、哺乳動物進化の初期に発生したと思われる。MICAの翻訳産物は、哺乳動物MHCクラスI鎖とわずかに類似しているだけだが、それは同じドメイン構成、および予想どおり、類似した三次構造を共有する。細胞外α1、α2、およびα3ドメインにおけるMICAアミノ酸の平均25%は、多様なヒトおよびマウスにおいて、または任意の他の哺乳動物MHCクラスI配列において、残基が一致している(Bahram et al., 1994)。MICAのさらなる特徴は、CD8の結合に関わる全部の残基の完全な欠如、およびα1〜α3ドメイン配列における8つのN結合型グリコシル化部位の存在である。さらに、MICAの転写は、様々な上皮細胞系に限定され、γ-インターフェロンにより制御されない。MICB mRNAは、非常に低いレベルではあるが、同じ細胞系に存在する。上皮細胞系において、MICAおよびMICBの両方の転写は、おそらく、MICAおよびMICBの両方の5'フランキング領域における推定の熱ショックエレメント(HSE)の存在のせいで、熱ショックタンパク質70(hsp70)と類似した様式で熱ショックにより誘導されうる(Groh et al., 1996; Groh et al., 1998)。この性質のため、MICAおよびMICBは細胞ストレス応答遺伝子である。
【0052】
本発明者らは、以前に、HLA-Bの40キロベース(kb)セントロメア側の11,722塩基対(bp)のDNAを含むMICA遺伝子の完全なヌクレオチド配列を報告している。配列は、コスミドM32Aに由来した、マッピングまたはランダムにショットガンサブクローニングされたDNA断片の一本鎖(M13)および二本鎖(pUC19)鋳型から得られた(Spies et al., 1989)。リーダーペプチドをコードする第一エクソンの後に、6840bpのイントロンが続き、それはクラスI遺伝子としては異常に大きい。MICA遺伝子の残りは、膜貫通エクソンの後の比較的長いイントロンの存在および単一の最後のエクソンにおける細胞質テールと3'非翻訳配列の融合を除いて、通常のクラスI遺伝子と全く類似した構成を示す。
【0053】
MICB遺伝子は、MICA cDNAプローブを用いるDNAブロットハイブリダイゼーションによりクローニングされたコスミドにおいてマッピングされている。それは、サイズが1.4kbであるMICA mRNAと異なる、約2.4kbのmRNAに対応する(Bahram et al., 1994)。リーダーペプチド配列を欠く部分的な2304塩基対(bp)MICB cDNAクローンが、MICA cDNAプローブでのスクリーニングによりIMR90ヒト肺線維芽細胞ライブラリーから単離された。欠けている5'末端配列は、ポリ(A)+HeLa細胞mRNAの逆転写(RT)後のcDNA末端の5'急速増幅ポリメラーゼ連鎖反応(RACE-PCR)手順によりクローニングされた。完全なMICBコード配列を含むcDNAは、その後、RT-PCRにより作製され、クローニングされた。2380bpの完全長MICB cDNA配列は、ヌクレオチド6位の推定翻訳開始コドン(ATG)から始まる383アミノ酸のポリペプチドをコードする(Bahram and Spies, 1996)。終止コドンの後に、比較的長い3'非翻訳領域が続くが、それが、MICB mRNAとMICA mRNAのサイズの差の原因となっている。MICB cDNAの3'末端近くのコンセンサスポリアデニル化シグナルは欠損している;最も近いAATAAA配列は、772bp上流に位置し、適切に位置した代替ポリアデニル化シグナルは容易には識別できない。
【0054】
MICB翻訳産物は、MICA鎖と長さおよびドメイン構成において同一であり、非常に類似して、83%の一致したアミノ酸残基を有する。合計65個のアミノ酸置換のうち、18個は、MICBの推定膜貫通セグメントにおける24アミノ酸のセグメント内に密集しており、整列した配列で唯一の高度に異なる部分となっている。α1〜α3ドメインにおいて、MICBおよびMICAは、86%アミノ酸配列類似性を共有し、α1、α2、およびα3ドメインにおいて、それぞれ、15個、14個、および8個のアミノ酸置換を有し、顕著な選択的分布を示していない。MICAのように、推定MICB鎖は、5つの可能性のあるN結合型グリコシル化部位の存在のために、高度にグリコシル化されている可能性があり、その部位のうちのα3ドメインにおける4つは両方の配列に共通している。MICAα1およびα2における3つのN結合型グリコシル化モチーフのいずれもMICBに保存されておらず、MICBは1つのそのようなモチーフをα2ドメインに有する。MHCクラスI鎖におけるアミノ酸86位の高度に保存されたグリコシル化部位は、MICBおよびMICAにおいて欠けている。両方の配列は、クラスI鎖においてドメイン内ジスルフィド結合を形成する、α2およびα3における2対のシステイン、ならびに数個の余分のシステイン残基を含む。
【0055】
MICBおよびMICAに共通しているのは、α1ドメインにおけるギャップであり、多くのMHCクラスI鎖におけるペプチド側鎖結合ポケットB(「45」ポケット)、およびα2ドメインにおける147位の6個のアミノ酸の挿入に対応する(Bahram et al., 1994)。全体としては、MICBは、MICAと同じ程度に哺乳動物MHCクラスI鎖からの相違を示し、脊椎動物クラスI配列の間で不変であるアミノ酸残基の大部分は保存されている(Grossberger and Parham, 1992; Bahram et al., 1994)。このように、要するに、MICBおよびMICAは非常に密接に関連しており、おそらく、比較的最近の遺伝子重複により派生したと思われる。
【0056】
MICAおよびMICBに類似した追加の配列(MICC、MICD、およびMICE)は、クラスI領域にまたがる酵母人工染色体(YAC)クローンを用いて、ヒトMHCにおいてHLA-E、-A、および-Fの近くに位置を特定されている(Bahram et al., 1994)。対応するコスミドDNAの部分的ゲノムシーケンシングにより、これらの3つの配列は、切断された遺伝子断片として同定された。従って、MICAおよびMICBは、高度に分岐したMHCクラスI遺伝子のこのファミリーにおける唯一の機能的メンバーである。これは、ヒトMHCおよびマウスH2複合体における多数のクラスI偽遺伝子および遺伝子断片の存在と類似している(Stroynowski, 1990)。
【0057】
本発明者らは、MICポリペプチドの発現をそれらの特異的な抗体、トランスフェクションされた突然変異体細胞系、および上皮腫瘍細胞系を用いて研究している。これらを始めとする実験からの結果により、MHCクラスI分子とは逆に、MICはβ2-ミクログロブリンおよびペプチドと会合していないことが確立された(Groh et al., 1996; Groh et al, 1998)。MICAおよびMICBの両方は、高度にグリコシル化されている;脱グリコシル化されたポリペプチドは43キロダルトン(kD)である。MICAの結晶構造は、β2-ミクログロブリンの結合を排除する再編成されたドメイン界面およびペプチド収容溝の欠如を示す(Li et al., 1999)。MICAのNKG2Dホモ二量体との相互作用は、これらの分子の複雑な結晶構造により精巧化されている(Li et al., 2001)。
【0058】
本発明に従って、MICA/MICBポリペプチドまたはそれらの断片は、例えば、癌治療の関連においてNKG2D受容体とのそれらの相互作用に干渉することにより、または自己免疫疾患の関連においてNKG2D+ CD4+ T細胞の免疫抑制効果を増大させる一手段としてこの相互作用を増強することにより、治療介入の標的となりうる。さらに、MICA/MICBは、MICA/MICBとERP5の間の相互作用をターゲットにするものなどのスクリーニングアッセイの一部として用いられうる。
【0059】
B. MIC結合物質
一つの態様において、本発明は、MICAまたはMICBに結合し、それにより、MICに結合する作用物質とのその相互作用を防ぐ、MIC機能を防ぐ、およびMIC修飾剤によるMICへの作用を防ぐ、作用物質の使用を企図する。1つのそのような作用物質は、MICAまたはMICBに結合する抗体である。特に、MICAまたはMICB上の様々な領域への結合は、MICおよび/またはMIC相互作用タンパク質へ特異的効果を与えるために企図される。例えば、ERP5切断部位を含むMICα3ドメインへの抗体の結合は、切断を防ぐが、NKG2Dへの結合などの他のMICドメインの作用に干渉しない。または、NKG2D結合を支配するものなどのMICの他の機能的領域へのインヒビター抗体をターゲットにしうる。抗体はまた、MICに、およびERP5などのもう一つの作用物質に結合する二重特異的でありうる。
【0060】
MICのその他のインヒビターは、NKG2DおよびERP5を含むMIC受容体の機能的断片を含む。そのような受容体断片には、膜貫通ドメインを欠くポリペプチド、すなわち可溶型の受容体が含まれうる。
【0061】
IV. タンパク質ジスルフィドイソメラーゼERP5およびERP5アンタゴニスト
A. ERP5
新生タンパク質の正しいフォールディング中のジスルフィド結合の形成および再編成は、チオールイソメラーゼとして公知の酵素のファミリーにより調節され、その酵素には、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、小胞体タンパク質5(ERP5)、およびERP57が挙げられる。最近の証拠により、受容体リモデリングおよび認識に関与しているという、細胞表面上でのこのファミリーのタンパク質についての代替的役割が支持されている。
【0062】
血小板において、阻害性抗体によるPDIのブロッキングは、凝集、分泌、およびフィブリノーゲン結合を含むいくつかの血小板活性化経路を阻害する。ヒト血小板膜画分の分析により、チオールイソメラーゼタンパク質ERP5の存在が同定された。さらなる研究により、ERP5が主に血小板細胞内膜に常在するが、それは一連の血小板アゴニストに応答して細胞表面へ迅速にリクルートされることが示された。阻害性抗体を用いて細胞表面ERP5をブロックすることは、アゴニストに応答した血小板凝集の減少、ならびにフィブリノーゲン結合およびP-セレクチン露出の減少へ導く。本発明者らはERP5が血小板刺激中にインテグリンβ(3)サブユニットと物理的に会合するようになることを観察したため、これはインテグリン機能の破壊に基づいている可能性がある(Jordan et al., 2005)。
【0063】
B. アンタゴニスト
ERP5のインヒビターは、ERP5機能または発現のインヒビターを含みうる。ERP5発現のインヒビターには、ERP5コード配列および/または転写/翻訳シグナルをターゲットにするアンチセンス、リボザイム、ならびにsiRNA分子が挙げられる。他のアンタゴニストには、抗体などのERP5に対する結合作用物質、またはMICAもしくはMICBのα3ドメインを含むMICの断片が挙げられる。最後に、ERP5の発現、細胞内プロセシング、または細胞表面輸送を下方制御する薬物(有機薬剤)が提供されうる。
【0064】
V. Fasリガンド
アポトーシスは、プログラム細胞死中およびいくつかの細胞傷害性T細胞により誘導されるプロセスの一部としての両方で起こる。Fasリガンド(FasL)は、Fasとして様々に知られた細胞表面受容体に結合することによりCTL媒介性細胞死を誘発するシグナル伝達に関与すると同定された。FasLは、免疫系の細胞においてだけでなく、肝臓、肺、卵巣、および心臓においても発現しているが − これらの組織におけるその機能は明らかではない。FasLは、281アミノ酸、およびおよそ32kDaの分子量を有する。FasLの遺伝子は、染色体1q23上に位置する。FasLは、腫瘍壊死因子ファミリーに属するII型膜貫通タンパク質である。
【0065】
FasLは、T細胞媒介性死へのその関与と一致して、活性化脾細胞および胸腺細胞において発現されている。それは、細胞表面でタンパク分解性に切断され、細胞外液へ放出される。FasLは2つの選択的にスプライスされた型で存在する。FasLは、Fasと共に、T細胞発生および自己反応性T細胞のクローン除去において極めて重要な役割を果たす。FasLのその受容体への結合は、デスドメインタンパク質を活性化し、それが次に、様々なカスパーゼファミリーメンバー(細胞機能に関与する特定の酵素をターゲットにするシステイン依存性アスパラギン酸特異的プロテアーゼ)を活性化し、細胞死へと導く。
【0066】
VI. アッセイ
本発明に従って、様々なアッセイ形式が、MICA、MICB、ERP5、およびNKG2Dを含む様々な分子の活性、発現、分泌、結合、切断、修飾、内部移行、または分解についてスクリーニングするために用いられうる。そのようなアッセイには、RIA、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降、および免疫組織化学法などの免疫学的アッセイが挙げられる。他のアッセイには、親和性アッセイ、擬似親和性アッセイ(フィルター形式およびカラム形式の両方;競合的および非競合的の両方を含む)、細胞ソーティングアッセイ(FACS)、質量分析、シンチレーション近接アッセイ、蛍光消光アッセイなどが挙げられる。様々な有用な免疫検出方法の段階は、科学的文献に記載されている(例えば、Doolittle and Ben-Zeev, 1999; Gulbis and Galand, 1993; De Jager et al., 1993; Nakamura et al., 1987、それぞれは参照により本明細書に組み入れられている)。さらに、核酸発現についてのアッセイが、タンパク質発現または細胞活性化の代わりとして用いられうる。これらの一部は下に記載されている。
【0067】
A. イムノアッセイ
特定の態様において、有用な抗体には、CX5(Ebioscienceカタログ番号14-5882)、1D11、BAT221、ECM217、およびON72が挙げられる(例えば、Groh et al., 2003; Andre et al., 2004参照;それらの全開示は参照により本明細書に組み入れられている)。一般的に、免疫結合方法は、関連するポリペプチドを含むのではないかと疑われる試料を得る段階、および免疫複合体の形成を可能にするのに効果的な条件下で試料を第一抗体と接触させる段階を含む。免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに効果的な条件下および十分な時間、選択された生体試料を抗体と接触させる段階は、一般的に、単に抗体組成物を試料に加え、抗体が存在する任意の抗原と免疫複合体を形成する、すなわち、抗原に結合するのに十分長い時間、混合物をインキュベートすることである。この時間の後、組織切片、ELISAプレート、ドットブロット、またはウェスタンブロットなどの試料-抗体組成物は、一般的に、任意の非特異的に結合した抗体種を除去するために洗浄され、一次免疫複合体内の特異的に結合したそれらの抗体のみが検出されるのを可能にする。
【0068】
一般的に、免疫複合体形成の検出は、当技術分野において周知であり、多数のアプローチの適用を通して達成されうる。これらの方法は、一般的に、放射性、蛍光、生物学的、および酵素的タグのいずれかなどの標識またはマーカーの検出に基づいている。そのような標識の使用に関する米国特許には、第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;および第4,366,241号が挙げられ、それぞれは参照により本明細書に組み入れられている。もちろん、当技術分野において公知であるように、二次抗体などの二次結合リガンドおよび/またはビオチン/アビジンリガンド結合配置の使用を通してさらなる有利性を見出しうる。
【0069】
検出に用いられる抗体は、それ自身、検出可能な標識に連結されることができ、次いで、単にこの標識を検出し、それにより、組成物内の一次免疫複合体の量が測定できるようになる。または、一次免疫複合体内で結合することになる第一抗体が、その抗体に対する結合親和性を有する第二結合リガンドを用いて検出されうる。これらの場合、第二結合リガンドは検出可能な標識に連結されうる。第二結合リガンドは、それ自身、抗体であることが多く、従って「二次」抗体と呼ばれる場合もある。一次免疫複合体を、二次免疫複合体の形成を可能にするのに効果的な条件下および十分な時間、標識された二次結合リガンドまたは抗体と接触させる。二次免疫複合体は、その後、一般的には、任意の非特異的に結合した標識二次抗体またはリガンドを除去するために洗浄され、二次免疫複合体における残りの標識がその後検出される。
【0070】
さらなる方法は、2段階アプローチによる一次免疫複合体の検出を含む。その抗体に対する結合親和性を有する、抗体などの第二結合リガンドが、上記のように、第二免疫複合体を形成するために用いられる。洗浄後、第二免疫複合体を、再び、免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに効果的な条件下および十分な時間、二次抗体に対する結合親和性を有する第三結合リガンドまたは抗体と接触させる。第三リガンドまたは抗体は、検出可能な標識に連結され、このように形成された三次免疫複合体の検出を可能にする。この系は、必要に応じて、シグナル増幅を提供しうる。
【0071】
Charles Cantorにより設計された免疫検出の一つの方法は、2つの異なる抗体を用いる。第一段階のビオチン化モノクローナルまたはポリクローナル抗体が標的抗原を検出するために用いられ、第二段階抗体は、その後、複合体形成されたビオチンに付着したビオチンを検出するために用いられる。その方法において、試験される試料は、まず、第一段階抗体を含む溶液中でインキュベートされる。標的抗原が存在する場合には、抗体の一部は抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。抗体/抗原複合体は、その後、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補性ビオチン化DNAの連続的溶液におけるインキュベーションにより、各段階が抗体/抗原複合体へ追加のビオチン部位を加えて増幅される。増幅段階は、増幅の適切なレベルが達成されるまで繰り返され、達成された時点で、試料は、ビオチンに対する第二段階抗体を含む溶液中でインキュベートされる。この第二段階抗体は、例えば、色素原基質を用いる組織酵素学法により抗体/抗原複合体の存在を検出するために用いられうる酵素で標識される。適切な増幅で、肉眼で見える結合体が産生されうる。
【0072】
免疫検出のもう一つの公知の方法は、免疫PCR(Polymerase Chain Reaction)方法論を利用する。PCR方法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションまでCantor法と類似しているが、ストレプトアビジンおよびビオチン化DNAインキュベーションの複数のラウンドを用いる代わりに、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体が、抗体を遊離させる低pHまたは高塩緩衝液で洗い出される。結果として生じる洗浄溶液は、その後、適切な対照と共に適したプライマーを用いるPCR反応を行うために用いられる。少なくとも理論において、PCRの莫大な増幅能力および特異性は、単一の抗原分子を検出するために利用されうる。
【0073】
一つの例示的なELISAにおいて、本発明の抗体は、ポリスチレンマイクロタイタープレート内のウェルなどのタンパク質親和性を示す選択された表面上へ固定化される。その後、臨床試料などの、抗原を含むのではないかと疑われる試験組成物がウェルへ加えられる。結合段階および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄段階後、結合した抗原が検出されうる。検出は、一般的に、検出可能な標識に連結されているもう一つの抗体の添加により達成される。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第二抗体の添加、続いて第二抗体に対する結合親和性を有する第三抗体の添加により達成されることができ、第三抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0074】
もう一つの例示的なELISAにおいて、全体または断片化された細胞を含む、抗原を含むのではないかと疑われる試料を、ウェル表面上へ固定化し、その後、本発明の抗ORFメッセージおよび抗ORF翻訳産物抗体と接触させる。結合段階および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄段階後、結合した抗ORFメッセージおよび抗ORF翻訳産物抗体を検出する。最初の抗ORFメッセージおよび抗ORF翻訳産物抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出されうる。さらにまた、免疫複合体は、最初の抗ORFメッセージおよび抗ORF翻訳産物抗体に対する結合親和性を有する第二抗体を用いて検出されることができ、第二抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0075】
抗原/細胞が固定化されているもう一つのELISAは、検出における抗体競合の使用を含む。このELISAにおいて、抗原に対する標識抗体をウェルへ加え、結合させて、それらの標識を用いて検出する。未知の試料における抗原の量は、その後、コーティングされたウェルとのインキュベーション中に、抗原に対する標識抗体と試料を混合することにより測定される。試料における抗原の存在は、ウェルへの結合に利用可能な、抗原に対する抗体の量を低下させるように働く。これはまた、未知の試料における抗原に対する抗体を検出するために適しており、非標識抗体は抗原がコーティングされたウェルに結合し、標識抗体を結合するのに利用可能な抗原の量をまた低下させる。
【0076】
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに効果的な条件下」とは、条件が好ましくは、BSA、ウシγグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tweenなどの溶液で抗原および/または抗体を希釈する段階を含むことを意味する。これらの添加される作用物質はまた、非特異的バックグラウンドの低減を助ける傾向にある。「適切な」条件はまた、インキュベーションが効果的な結合を可能にするのに十分な温度または時間であることを意味する。インキュベーション段階は、典型的には、好ましくは約25℃〜27℃の温度で約1〜2時間から4時間くらいまでであるか、または約4℃くらいで一晩であってもよい。
【0077】
本発明の抗体はまた、免疫組織化学法(IHC)による研究のために調製される、新鮮凍結組織塊および/またはホルマリン固定パラフィン包埋組織塊の両方と共に用いられうる。これらの微粒子状検体から組織塊を調製する方法は、以前の様々な予後因子のIHC研究での使用に成功している、および/または当業者に周知である(Brown et al., 1990; Abbondanzo, 1999; Allred et al., 1990a; Allred et al., 1990b)。
【0078】
免疫組織化学法の使用もまた本発明において企図される。このアプローチは、抗体を用いて、無傷組織試料における抗原を検出し、かつ定量化する。一般的に、凍結切片が、小さなプラスチックカプセルにおいてリン酸緩衝食塩水(PBS)中、室温で、凍結「微粉砕された」組織を再水和する段階;粒子を遠心分離によりペレットにする段階;それらを粘性包埋剤(OCT)に再懸濁する段階;カプセルを逆さにして、遠心分離により再び、ペレットにする段階;-70℃イソペンタン中で急速凍結する段階(snap-freezing);プラスチックカプセルを切り、凍結した組織円柱を取り出す段階;組織円柱をクリオスタットミクロトームチャック上に固定する段階;および25〜50個の連続切片を切断する段階により調製される。
【0079】
永久切片は、プラスチックミクロチューブにおける50mg試料の再水和;ペレット化;10%ホルマリン中に再懸濁して、4時間固定;洗浄/ペレット化;温2.5%寒天における再懸濁;ペレット化;寒天を固めるための氷水での冷却;チューブからの組織/寒天塊の取り出し;パラフィンにおける塊の浸潤および/または包埋;ならびに最高50個までの連続永久切片への切断を含む類似した方法により調製されうる。
【0080】
B. 質量分析
質量および電荷の内因的性質を利用することにより、質量分析(MS)は、核酸およびタンパク質を含む幅広い種類の複雑な化合物を分解し、確信して同定することができる。伝統的な定量的MSは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、続いてタンデムMS(MS/MS)を用いているが(Chen et al., 2000; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)、より新しい定量的方法が、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)、続いて飛行時間(TOF)型MSを用いて開発中である(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)。
【0081】
C. 核酸検出
タンパク質発現を検出するための代替態様において、遺伝子転写についてアッセイしうる。例えば、タンパク質発現を検出するための間接的な方法は、タンパク質が生成されるmRNA転写産物を検出することである。これらの方法は、基本的には、核酸ハイブリダイゼーションに依存する。ハイブリダイゼーションは、核酸の、DNAおよび/またはRNAの相補的なひと続きと二重鎖分子を選択的に形成する能力として定義される。構想される適用に依存して、標的配列についてのプローブまたはプライマーの様々な程度の選択性を達成するようにハイブリダイゼーションの様々な条件を用いる。
【0082】
典型的には、13ヌクレオチド長と100ヌクレオチド長の間、好ましくは17ヌクレオチド長と100ヌクレオチド長の間で、最高1〜2キロベース長までもしくはそれ以上のプローブまたはプライマーが、安定的かつ選択的の両方である二重鎖分子の形成を可能にする。20塩基長より大きい連続したひと続きに対する相補的配列を有する分子が、得られるハイブリッド分子の安定性および選択性を増加させるために、一般的に好ましい。一般的には、20〜30ヌクレオチドの、または望ましい場合にはよりいっそう長い、1つまたは複数の相補的配列を有するハイブリダイゼーションのための核酸分子を設計することが好ましい。そのような断片は、例えば、化学的手段により断片を直接合成することにより、または組換え産生のために選択された配列を組換えベクターへ導入することにより、容易に調製されうる。
【0083】
高選択性を必要とする適用のためには、典型的には、ハイブリッドを形成するために比較的高いストリンジェンシー条件を用いることが望まれる。例えば、約50℃〜約70℃の温度での約0.02M〜約0.10M NaClにより提供されるような比較的低い塩および/または高い温度条件。そのような高いストリンジェンシー条件は、もしあれば、プローブまたはプライマーと鋳型または標的鎖の間のミスマッチをほとんど許容せず、特定の遺伝子を単離するのに、または特定のmRNA転写産物を検出するのに、特に適していると思われる。条件を、添加されるホルムアミドの量の増加により、よりストリンジェントにすることができることは、一般的に認識されている。
【0084】
特定の適用のためには、例えば、より低ストリンジェンシーな条件が用いられうる。これらの条件下で、たとえハイブリダイズする鎖の配列が完全には相補的ではないが、1つまたは複数の位置でミスマッチしているとしても、ハイブリダイゼーションは起こりうる。塩濃度の増加および/または温度の低下により、条件はより低ストリンジェントにされうる。例えば、中位のストリンジェンシー条件は、約37℃〜約55℃の温度での約0.1〜0.25M NaClにより提供されうる、一方、低ストリンジェンシー条件は、約20℃から約55℃までの範囲の温度で約0.15M〜約0.9M塩により提供されうる。ハイブリダイゼーション条件は、所望の結果に依存して容易に操作されうる。
【0085】
他の態様において、ハイブリダイゼーションは、例えば、およそ20℃〜約37℃の間の温度で、50mM Tris-HCl(pH 8.3)、75mM KCl、3mM MgCl2、1.0mMジチオスレイトールの条件下で達成されうる。利用される他のハイブリダイゼーション条件は、およそ40℃から約72℃までの範囲の温度で、およそ10mM Tris-HCl(pH 8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2を含みうる。
【0086】
代表的な固相ハイブリダイゼーション方法は、米国特許第5,843,663号、第5,900,481号、および第5,919,626号に開示されている。本発明の実施に用いられうる他のハイブリダイゼーション方法は、米国特許第5,849,481号、第5,849,486号、および第5,851,772号に開示されている。本明細書のこのセクションにおいて特定されたこれらを始めとする参考文献の関連する部分は、参照により本明細書に組み入れられている。多数のmRNAが比較的少ない量で存在するため、核酸増幅は、発現を評価する能力を大いに増強する。多数の鋳型依存性プロセスが、与えられた鋳型試料に存在するオリゴヌクレオチド配列を増幅するために利用できる。最良の公知の増幅方法の一つは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標)と呼ばれる)であり、米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,800,159号、ならびにInnis et al., 1988に詳細に記載されており、それぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている。逆転写酵素PCR(商標)増幅手順は、増幅されたmRNAの量を定量化するために行われうる。RNAをcDNAへ逆転写する方法は周知である(Sambrook et al., 1989参照)。逆転写のための代替方法は、耐熱性DNAポリメラーゼを利用する。これらの方法はWO 90/07641に記載されている。ポリメラーゼ連鎖反応方法は当技術分野において周知である。RT-PCRの代表的な方法は、米国特許第5,882,864号に記載されている。本発明の実施に用いられうる標的核酸配列の増幅のための代替方法は、米国特許第5,843,650号、第5,846,709号、第5,846,783号、第5,849,546号、第5,849,497号、第5,849,547号、第5,858,652号、第5,866,366号、第5,916,776号、第5,922,574号、第5,928,905号、第5,928,906号、第5,932,451号、第5,935,825号、第5,939,291号、および第5,942,391号、GB出願第2 202 328号、ならびにPCT出願第PCT/US89/01025号に開示されており、それぞれは全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0087】
任意の増幅後、増幅産物を鋳型および/または過剰なプライマーから分離することが望ましい場合がある。一つの態様において、増幅産物は、標準方法を用いて、アガロース、アガロース-アクリルアミド、またはポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離される(Sambrook et al., 1989)。分離された増幅産物は、切り出され、さらなる操作のためにゲルから溶出されうる。低融点アガロースゲルを用いて、分離されたバンドは、ゲルを加熱することにより取り出され、続いて核酸の抽出が行われうる。核酸の分離はまた、当技術分野において公知のクロマトグラフィー技術によってももたらされうる。本発明の実施に用いられうる多くの種類のクロマトグラフィーがあり、吸着、分配、イオン交換、ヒドロキシルアパタイト、分子ふるい、逆相、カラム、ペーパー、薄層、およびガスクロマトグラフィー、加えてHPLCが挙げられる。
【0088】
本発明の実施に用いられうる核酸検出の他の方法は、米国特許第5,840,873号、第5,843,640号、第5,843,651号、第5,846,708号、第5,846,717号、第5,846,726号、第5,846,729号、第5,849,487号、第5,853,990号、第5,853,992号、第5,853,993号、第5,856,092号、第5,861,244号、第5,863,732号、第5,863,753号、第5,866,331号、第5,905,024号、第5,910,407号、第5,912,124号、第5,912,145号、第5,919,630号、第5,925,517号、第5,928,862号、第5,928,869号、第5,929,227号、第5,932,413号、および第5,935,791号に開示されており、それぞれは参照により本明細書に組み入れられている。
【0089】
D. T細胞アッセイ
様々な異なるT細胞アッセイが、本発明の一部として行われうる。アッセイの最も一般的な形式は増殖アッセイである。これらのアッセイは、集団におけるT細胞の数の増加を見、様々な異なる技術を用いうる。標準アッセイは、3H-チミジン取り込みアッセイである。このアッセイは、DNA複製、細胞分裂、増殖の代わりに、トリチウム標識した核酸 − 典型的にはチミジン − の新しく合成されたDNAにおける包含を見る。もう一つの細胞増殖アッセイは細胞ソーティングアッセイである。典型的な形式は、蛍光細胞ソーティングアッセイであり、細胞は、自動的な方式で蛍光標識され、ソーティングされる(すなわち、カウントされる)。
【0090】
他のT細胞アッセイは、シグナル伝達分子によるなどの他の細胞への活性を調べる。これは、T細胞が作用しうる細胞の試験集団を供給することにより達成されうる。その後、試験集団の直接的接触によるか、またはT細胞産生の可溶性因子が標的集団に作用するのを可能にすることを除けば、物理的分離後かのいずれかで、試験集団の応答がモニターされる。そのような応答には、増殖、細胞死、別の因子の分泌、遺伝子発現、抗原提示、または他の活性が挙げられうる。
【0091】
他のT細胞アッセイは、米国特許第6,040,152号、第5,356,779号、第5,068,174号、第4,845,026号、および第4,725,669号に見出され、それぞれは参照により本明細書に組み入れられている。
【0092】
VII. 精製方法
本発明の特定の態様内で、NKG2D、MICA、MICB、ERP5、それらの断片、または関連したポリペプチドもしくはペプチド産物を精製することが求められる場合がある。タンパク質精製技術は当業者に周知である。これらの技術は、ペプチドまたはポリペプチドを混合物の他の成分から分離するための細胞環境の分画を含む傾向にある。ペプチドまたはポリペプチドを他の血漿成分から分離した後で、ペプチドまたはポリペプチド試料は、完全な精製を達成するためにクロマトグラフィーおよび電気泳動技術を用いて精製されうる。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に効率的な方法は、高速タンパク質液体クロマトグラフィーであり、またはHPLCでもよい。
【0093】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化するための様々な方法は、本開示に照らせば、当業者に公知であると思われる。これらには、例えば、活性画分の比活性を測定すること、またはSDS/PAGE分析により画分内のポリペプチドの量を評価することが挙げられる。画分の純度を評価するための好ましい方法は、画分の比活性を計算すること、それを最初の抽出物の比活性と比較すること、およびそれに従って、純度を計算することであり、本明細書では「-倍精製数」により評価される。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、もちろん、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技術、および発現したタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すかどうかに依存する。
【0094】
タンパク質精製に用いるのに適した様々な技術は、当業者に周知であると思われる。これらには、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などでの、または熱変性による沈殿、続いて遠心分離;イオン交換、ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー段階;等電点電気泳動;ゲル電気泳動;ならびにそのようなものを始めとする技術の組み合わせが挙げられる。当技術分野において一般的に知られているように、様々な精製段階を行う順序を変える、またはある特定の段階を省略することができ、かつなお、実質的に精製されたタンパク質もしくはペプチドの調製のための適した方法がもたらされうると考えられている。
【0095】
タンパク質またはペプチドは常にそれらの最も精製された状態で提供されるという一般的な必要はない。実際、それほど実質的には精製されていない産物が特定の態様において有用性をもつことが企図されている。部分的精製は、より少ない精製段階を組み合わせて用いることにより、または同じ一般的な精製スキームの異なる形式を利用することにより、達成されうる。例えば、HPLC装置を利用して実行される陽イオン交換カラムクロマトグラフィーは、一般的に、低圧クロマトグラフィーシステムを利用する同じ技術より高い倍精製をもたらす。より低い程度の相対的精製を示す方法は、タンパク質産物の総回収率について、または発現したタンパク質の活性を維持するにあたって、有利でありうる。
【0096】
ポリペプチドの移動が、SDS/PAGEの異なる条件によって、時々有意に、変わりうることは知られている(Capaldi et al., 1977)。
【0097】
それゆえに、異なる電気泳動条件下で、精製された、または部分的に精製された発現産物の見かけの分子量が変わりうることは認識されていると思われる。
【0098】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、並はずれたピークの分解能を有する非常に迅速な分離により特徴付けられる。これは、十分な流速を維持するための微細粒子および高圧の使用により達成される。分離は、ものの数分で、またはせいぜい1時間で、達成されうる。さらに、粒子が非常に小さくかつ密集しているので空隙容量が床容量の非常に小さい割合であるため、非常に少ない容量の試料のみが必要とされる。また、バンドは非常に狭いので試料の希釈はごくわずかであるため、試料の濃度はあまり高い必要はない。
【0099】
ゲルクロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーは、分子サイズに基づいている分配クロマトグラフィーの特別な型である。ゲルクロマトグラフィーの背後の理論は、小さい孔を含む不活性物質の微粒子で調製されるカラムが、分子が孔または孔の周囲を通過するにつれ、より大きな分子をより小さな分子から分離することである。粒子が作製されている材料が分子を吸着しない限り、流速を決定する唯一の因子はサイズである。このゆえに、分子は、形が比較的一定である限り、サイズが徐々に減少していく形でカラムから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、分離がpH、イオン強度、温度などのすべての他の因子から独立しているため、異なるサイズの分子を分離することについて卓越している。実質的に吸着もなく、ゾーン拡散(zone spreading)も少なく、および溶出容量は単純に分子量と関係している。
【0100】
アフィニティークロマトグラフィーは、単離される物質とそれが特異的に結合することができる分子との間の特異的親和性に依存するクロマトグラフィー手順である。これは、受容体-リガンド型相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの1つを不溶性マトリックスへ共有結合させることにより合成される。カラム材料は、そういうわけで、溶液から物質を特異的に吸着することができる。溶出は、条件を結合が生じない条件へ変化させる(pH、イオン強度、温度などを変化させる)ことにより起こる。
【0101】
糖含有化合物の精製に有用な特定の型のアフィニティークロマトグラフィーは、レクチンアフィニティークロマトグラフィーである。レクチンは、様々な多糖および糖タンパク質に結合する物質のクラスである。レクチンは、通常、臭化シアンによりアガロースに結合されている。セファロースに結合したコンカナバリンAは、用いられるこの種の第一の材料であり、多糖および糖タンパク質の単離に広く用いられており、用いられている他のレクチンには、レンズマメのレクチン、N-アセチルグルコサミニル残基の精製に役立っているコムギ胚芽凝集素、およびヘリックス・ポマチア(Helix pomatia)のレクチンが挙げられる。レクチン自身は、糖リガンドでのアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製される。ラクトースは、トウゴマおよびピーナッツからレクチンを精製するために用いられている;マルトースはレンズマメおよびナタマメからレクチンを抽出するのに役立っている;N-アセチル-Dガラクトサミンはダイズからレクチンを精製するために用いられる;N-アセチルグルコサミニルはコムギ胚芽由来のレクチンを結合する;D-ガラクトサミンはクラムからレクチンを得るのに用いられている、およびL-フコースはハス由来のレクチンに結合すると思われる。
【0102】
マトリックスは、それ自身、いかなる有意な程度でも分子を吸着しない、かつ広範囲の化学的、物理的、および熱的安定性を有する物質であるべきである。リガンドは、その結合性質に影響を及ぼさないような方法で結合されるべきである。リガンドはまた、比較的強力な結合を提供すべきである。かつ試料またはリガンドを破壊することなく、物質を溶出することが可能であるべきである。アフィニティークロマトグラフィーの最も一般的な型の1つは、イムノアフィニティークロマトグラフィーである。本発明に合わせて用いるのに適している抗体の産生は、本明細書の他の個所で考察されている。
【0103】
VIII. スクリーニング方法
様々な異なる方法が、MIC関連、NKG2D関連、およびERP5関連相互作用についてスクリーニングするために用いられうる。分子、細胞に基づいたモデルおよび動物に基づいたモデルの両方である、多数のアッセイのいずれかが用いられうる。典型的な態様において、様々な標的を発現する細胞が候補物質に曝され、その候補物質の効果が評価される、細胞に基づいたアッセイが用いられる。
【0104】
特にCD4+細胞上の、NKG2D活性を反映する任意の適切な生理学的変化が、試験化合物または抗体の有用性を評価するために用いられうる。例えば、遺伝子発現、細胞成長、細胞増殖、pH、細胞内二次メッセンジャー、例えば、Ca2+、IP3、cGMP、もしくはcAMP、または他のT細胞、特にCD4+NKG2D-細胞を活性化もしくは抑制する能力などの活性における変化などの様々な効果を測定できる。一つの態様において、受容体の活性は、NKG2D応答性遺伝子、例えば、CD25、IFN-γ、またはTNF-αの発現を検出することにより評価される(例えば、Groh et al., 2003; Andre et al., 2004参照)。一つの態様において、NKG2D活性は、リガンド(例えば、MICA/MICB)または活性化抗NKG2D抗体の存在下で、任意で抗CD3抗体と共に、CD4+NKG2D+細胞をインキュベートし、化合物または試験抗体の、T細胞によるTNF-αまたはIFN-γの放出を阻害する能力を評価することにより、評価される。もう一つの態様において、CD4+NKG2D+ T細胞は、リガンド、例えば、MICA、MICB、ULBP-1、ULBP-2、ULBP-3など、またはリガンド産生細胞、例えば、MIC産生腫瘍細胞の存在下でインキュベートされ、試験化合物の、サイトカイン産生(例えば、IFN-γまたはTNF-α)、FasL分泌、細胞成長もしくは増殖、T細胞ヘルプ、またはT細胞免疫抑制を変化させる能力が評価される。
【0105】
別の態様において、MICA/MICBとジスルフィドイソメラーゼERP5との間の相互作用を調べてもよい。この相互作用は、無細胞系、すなわち、単純な結合アッセイ(フィルターに基づいた、アフィニティーカラム、ゲル排除、ゲルシフトアッセイ)、を含みうるが、それは、有利には、MICA/MICBおよびERP5の一方または両方が細胞により発現される(例えば、細胞表面上に)細胞に基づいた系を組み入れうる。細胞は天然でこれらの分子を発現してもよいし、または分子を発現もしくは過剰発現するように遺伝子操作されていてもよい。さらに、MICまたはERP5は、抗体により認識されるエピトープ、6×Hisタグなどの、同定を促進する部分を含む変異体でありうる。または、MICまたはERP5は、標識(蛍光、化学発光、色素、酵素)を含みうる。アッセイは、結合を見ることの代替として、ERP5がMICA/MICBへもたらす効果、例えば、四量体形成、ジスルフィド結合形成/解離、およびMICA/MICB切断などのERP5により促進される他のタンパク質による効果を見てもよい。mRNAもしくはタンパク質発現、成熟、細胞輸送、細胞表面発現、および/または安定性などのERP5への効果を直接的に見てもよい。
【0106】
上で考察されているように、遺伝子発現を調べるための有用なツールは核酸アレイである。そのようなアレイは様々な供給源(例えば、Affymetrix)から市販されており、チップまたはウエハーなどの支持体の表面上に特定の様式で固定された複数の核酸配列を含む。複数の核酸配列は、複数の異なる標的遺伝子を表し、標的細胞由来のmRNAのアレイへのハイブリダイゼーション、続いて検出により、標的遺伝子の発現および相対量を示すことができる。
【0107】
動物に基づいたアッセイにおいて、動物内でのCD4+細胞におけるNKG2D調節の任意の生理学的または病理学的結果を用いて、抗体または試験化合物活性を評価することができる。例えば、一つの態様において、CD4+NKG2D+細胞が、MICA産生滑膜細胞などのリガンド産生細胞の同時投与を伴うかまたは伴わずに、動物モデルの関節へ導入され、炎症または組織損傷が評価される。試験化合物または抗体が、その後導入され、炎症または組織損傷を抑制する、遅らせる、逆転させる、または何らかの影響を及ぼすそれらの能力が検出される。もう一つの態様は、MICA/MICBを産生し、かつCD4+NKG2D-細胞も含む腫瘍で苦しんでいる動物におけるCD4+NKG2D+細胞の使用を含む。動物に基づいたアッセイはまた、MICA/MICB-ERP5相互作用を、特にMICA/MICB-ERP5を発現する腫瘍を有する動物との関連において調べるために用いられうる。
【0108】
A. 候補物質
候補化合物は、任意の小分子化合物、またはタンパク質、糖、核酸、もしくは脂質などの生物学的実体でありうる。典型的には、試験化合物は、化学的小分子およびペプチドである。本質的には、任意の化合物が、潜在的なNKG2D、MIC、もしくはERP5アゴニストまたはアンタゴニストとして用いられうるが、ほとんどの場合、水溶液または有機溶液(特に、DMSOベースの)に溶解されうる化合物が用いられる。一般的に、アッセイは、アッセイ段階を自動化すること、および化合物を任意の便利な供給源からアッセイへ供給することにより大きな化学ライブラリーをスクリーニングするように設計され、それは、典型的には、並行して実行される(例えば、ロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上でのマイクロタイター形式で)。Sigma(St. Louis, Mo.)、Aldrich(St. Louis, Mo.)、Sigma-Aldrich(St. Louis, Mo.)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs, Switzerland)などを含む、化合物の多くの供給業者があることは認識されていると思われる。
【0109】
コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。そのようなコンビナトリアルケミカルライブラリーには、限定されるわけではないが、ペプチドライブラリーが挙げられる(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, 1991、およびHoughton et al., 1991参照)。化学的多様性ライブラリーを作製するための他の化学もまた用いられうる。そのような化学には、限定されるわけではないが、以下が挙げられる:ペプトイド(例えば、PCT公開第WO 91/19735号)、コードされたペプチド(例えば、PCT公開第WO 93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公開第WO 92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソーマー(diversomer)(Hobbs et al., 1993)、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al., 1992)、グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., 1992)、低分子化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al., 1994)、オリゴカルバメート(Cho et al.)および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., 1994)、核酸ライブラリー(Ausubel et al., 1996; Sambrook et al., 1989参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., 1996およびPCT/US96/10287参照)、糖ライブラリー(例えば、Liang et al., 1996および米国特許第5,593,853号参照)、有機小分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum, 1993;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号など参照)。
【0110】
コンビナトリアルライブラリーの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville Ky., Symphony, Rainin, Woburn, Mass., 433A Applied Biosystems, Foster City, Calif., 9050 Plus, Millipore, Bedford, Mass.参照)。加えて、多数のコンビナトリアルライブラリーは、それら自身、市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, Mo., 3D Pharmaceuticals, Exton, Pa., Matek Biosciences, Columbia, Md.など参照)。
【0111】
改良された化合物を開発するのを助けるためにリード化合物を用いることは、「合理的薬物設計」として知られており、公知のインヒビターおよびアクチベーターとの比較だけでなく、標的分子の構造に関する予測も含む。合理的薬物設計の目標は、生物活性のあるポリペプチドまたは標的化合物の構造的類似体を作成することである。そのような類似体を創出することにより、天然分子より活性がある、もしくは安定である、変化に対して異なる感受性を有する、または様々な他の分子の機能に影響を及ぼす薬物を形づくることは可能である。一つのアプローチにおいて、標的分子またはその断片についての3次元構造を作成する。これは、x線結晶学、コンピューターモデリングにより、または両方のアプローチの組み合わせにより達成されうる。抗体を用いて標的化合物アクチベーターまたはインヒビターの構造を突きとめることも可能である。原理上は、このアプローチは、その後の薬物設計が基づきうるファーマコア(pharmacore)をもたらす。機能的な薬理活性のある抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することによりタンパク質結晶学を完全に迂回することは可能である。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位は、最初の抗原の類似体であることが予想される。抗イディオタイプは、その後、化学的または生物学的に作製されたペプチドバンクからペプチドを同定および単離するために用いられうる。選択されたペプチドは、その後、ファーマコアとしての役割を果たす。抗イディオタイプは、抗原として抗体を用いる、抗体を産生するための本明細書に記載された方法を用いて作製されうる。
【0112】
候補化合物は、天然化合物の断片もしくは部分を含みうる、または、さもなければ不活性である公知の化合物の活性のある組み合わせとして見出されうる。動物、細菌、真菌、葉および樹皮を含む植物源、および海水試料などの天然源から単離された化合物が有用な可能性のある薬剤の存在についての候補としてアッセイされることが提案される。スクリーニングされうる薬剤はまた、化学合成物または人工化合物由来でありうる、またはそれらから合成されうることは理解されていると思われる。このように、本発明により同定される候補物質は、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子インヒビター、または公知のインヒビターもしくは刺激物質から出発する合理的薬物設計を通して設計されうる任意の他の化合物でありうることは理解される。
【0113】
B. アッセイ形式
モジュレーターを同定するために、一般的には、候補物質の存在下または非存在下で標的の機能を決定し、モジュレーターは、標的の機能を変化させる任意の物質として定義される。例えば、方法は、一般的に以下の段階を含み:
(a)候補モジュレーターを供給する段階;
(b)候補モジュレーターを標的化合物、細胞、または実験動物と混合する段階;
(c)段階(b)における化合物、細胞、または動物への候補の1つまたは複数の効果を測定する段階;および
(d)段階(c)において測定された効果を、候補の非存在下における化合物、細胞、または動物への候補の効果と比較する段階、
ここで、(c)および(d)における測定された効果の間の差が、候補が実際に、標的化合物、細胞、または動物のモジュレーターであることを示す。
【0114】
本明細書に記載されたアッセイのいずれにおいても、上記の任意の検出可能な特性における5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%の調節、またはそれ以上の調節が、企図される。
【0115】
もちろん、効果的な候補が見出されない可能性があるという事実にかかわらず、本発明のすべてのスクリーニング方法はそれ自体、有用であることは理解されていると思われる。本発明は、そのような候補についてスクリーニングするための方法を提供し、それらを見出す方法を単に提供するのではない。
【0116】
C. インビトロアッセイ
実施される迅速、安価で簡単なアッセイはインビトロアッセイである。そのようなアッセイは、一般的に、単離された分子を用い、迅速かつ大量に実行されることができ、それにより、短時間で得られる情報の量を増加させる。様々な容器がアッセイを実行するのに用いられることができ、試験管、フィルター、プレート、チャンバー、皿、およびディップスティックまたはビーズなどの他の表面が挙げられる。
【0117】
無細胞アッセイの1つの例は結合アッセイである。機能を直接的には扱わないが、モジュレーターの標的分子に特異的様式で結合する能力は、関連した生物学的効果の強い証拠である。例えば、分子の標的への結合は、立体的、アロステリック的、または電荷-電荷相互作用によって、それ自体、阻害性でありうる。標的は、溶液中に遊離しているか、フィルターもしくはカラムなどの支持体に固定されているか、または細胞表面内もしくは上に発現しているかのいずれかでありうる。標的または化合物のいずれかが、標識されることができ、それにより、結合の測定が可能になる。通常、標的が標識種であり、標識化は結合に干渉するかまたは結合を増強する機会を減少させる。作用物質の1つが標識される競合的結合形式を行うことができ、結合への効果を測定するために遊離標識対結合標識の量を測定しうる。そのような形式は、MICA/MICB-ERP5相互作用の試験に有利に適用されうる。
【0118】
特定のアッセイ形式は、細胞より小さいサイズの細孔を有するか、またはゲル、寒天もしくは樹脂などの細胞より低い透過能力を有するチャンバーにおいてのように、可溶性細胞シグナル伝達を可能にすることを除けば、直接的接触から様々な細胞集団を隔離することを含む。
【0119】
化合物の高処理量スクリーニングのための技術はWO 84/03564に記載されている。多数の小ペプチド試験化合物は、プラスチックピンまたはいくつかの他の表面などの固体基質上で合成される。結合したポリペプチドは様々な方法により検出される。
【0120】
D. インサイト(in cyto)アッセイ
本発明はまた、化合物の、全体の生細胞、特にT細胞における作用を調節するそれらの能力についてのスクリーニングを企図する。様々な細胞系がそのようなスクリーニングアッセイに利用されることができ、この目的のために特異的に遺伝子操作された細胞が含まれる。または、組織または腫瘍生検から得られたものなどの新鮮に単離された「一次」細胞もまた用いられうる。アッセイに依存して、培養が必要とされる場合がある。細胞は、タンパク質結合、タンパク質分泌、または他の細胞もしくは細胞型への効果(増殖、アポトーシス、成長)を含むいくつかの異なる生理学的アッセイのいずれかを用いて試験されうる。または、分子分析は、例えば、タンパク質発現または分泌、mRNA発現(細胞全体またはポリA RNAのディファレンシャルディスプレイを含む)を見て、実施されうる。この形式の特定のアッセイは、CD4+NKG2D-との培養のためにCD4+NKG2D+またはこれらの細胞の培養物由来の上清を用いる段階を含む。NKG2D-への効果がその後、評価される。関連アッセイは、CD4+NKG2D+の負の免疫調節がFasLによりもたらされることが決定されているため、候補物質での処置に応答しての、CD4+NKG2D+によるFasLの産生を調べる。もう一つのアッセイは、モジュレーターのMIC-ERP5相互作用への効果を、これらの分子の両方を発現する細胞において、例えば、MICジスルフィド結合、切断、または遊離を見ることにより調べる。他のT細胞アッセイは上に記載されている。
【0121】
E. インビボアッセイ
インビボアッセイは、候補物質での処置に応答しての効果を測定するために用いられうるマーカーを有するように、または癌もしくは自己免疫疾患などの特定の病態の素因があるように遺伝子操作されているトランスジェニック動物を含む様々な動物モデルの使用を含む。マウスは、それらのサイズ、取扱いの容易さ、ならびにそれらの生理機能および遺伝子構造に関する情報により、特にトランスジェニックについて、好ましい態様である。しかしながら、他の動物も同様に適しており、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、アレチネズミ、ウッドチャック、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、およびサル(チンパンジー、ギボン、およびヒヒを含む)が挙げられる。モジュレーターについてのアッセイは、これらの種のいずれか由来の動物モデルを用いて行われうる。
【0122】
そのようなアッセイにおいて、1つまたは複数の候補物質が動物へ投与され、候補物質で処置されていない同様の動物と比較しての、候補物質の1つまたは複数の関連した特性を変化させる能力が、候補をモジュレーターと同定する。特性は、ERP5発現または機能、CD4+NKG2D+細胞の存在、MICA/MICA切断および/または分泌などの、上で考察されたもののいずれかでありうる。これらの態様において、方法は、一般的に、候補物質を動物へ投与する段階、および前記の特性の1つまたは複数を調節する候補物質の能力を測定する段階を含む。
【0123】
これらの動物の試験化合物での処置は、適切な形での化合物の動物への投与を含む。投与は、臨床的または非臨床的目的のために利用されうる任意の経路により、経口、経鼻、頬側、または局所が含まれるが、それらに限定されるわけではない。または、投与は、気管内点滴注入、気管支点滴注入、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内の注射によりうる。特に企図される経路は、全身静脈注射、血液もしくはリンパ液供給による領域投与、または罹患部位へ直接である。
【0124】
インビボで化合物の有効性を測定することは、上で考察されているように、様々な異なる判定基準を含みうる。毒性および用量応答を測定することは、インビトロまたはインサイトアッセイより有意義な様式で動物においても行われうる。
【0125】
IX. 治療
A. 癌
上皮腫瘍は、表面組織または内層組織から生じるものである。上皮細胞は、表面を覆い、内部通路を裏打ちしている。そのようなものとして、上皮組織は以下の3つの主要な場所に見出される:身体の外側表面、器官の表面、ならびに細管、脈管、および中空器官の内部表面裏打ち。大部分の腺は主として上皮細胞で構成されている。それゆえに、上皮腫瘍は、上記に適合する身体の任意の表面または内層に見出されうる。「上皮癌」は、上皮組織に由来するものであり、身体の任意の位置に生じる可能性があり、卵巣癌、扁平上皮癌、甲状腺癌、乳癌、および基底細胞癌が挙げられる。
【0126】
本発明者らは、CD4+細胞の特定のサブセット − NKG2D受容体を発現するもの − が、癌細胞がMICA/MICBを産生する癌患者において増強していることを決定している。驚くべきことに、これらの細胞は、残りのNKG2D陰性CD4+細胞に関連した正常なヘルパー機能に干渉し、そのため、著しい負の免疫調節効果を示す。さらに、この効果が、NKG2D陽性CD4+細胞により産生される可溶性因子、すなわちFasLの結果であることが本発明者らにより決定されている。
【0127】
従って、本発明は、MICA/MICB産生癌を有する被験体の、NKG2D+CD4+細胞およびFasLを阻害する作用物質での処置を企図する。特に企図されるのは、NKG2D+CD4+細胞に結合し、その際に、これらの細胞を阻害または除去する作用物質、例えば、任意で毒素に連結された、抗NKG2D抗体(そのキメラ型およびヒト化型を含む)、または毒素に連結されたMICA/MICBである。または、作用物質は、FasL合成もしくは放出、またはFasLのNKG2D-CD4+細胞上の受容体への結合に特異的に干渉することができ、例えば、抗FasL抗体、FasL siRNA、またはFasLアンチセンス分子などである。前記の抗NKG2Dまたは抗FasL治療が、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、および手術を含む伝統的な治療と組み合わされる併用療法もまた企図される。
【0128】
もう一つの態様において、NKG2D+CD4+細胞の阻害作用は、細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させることによるMICA/MICB切断に影響を及ぼすことにより調節されうる。モジュレーターは、ERP5のMICA/MICBの放出、ERP5のMICA/MICBへの結合、ERP5のMICA/MICBの異性化、ERP5のMICA/MICBのチオ還元、またはERP5の転写もしくは翻訳もしくは細胞表面発現を変化させうる。より具体的には、モジュレーターは、ERP5に対する競合基質であるアンタゴニスト、チオレダクターゼインヒビターであるアンタゴニスト、または特に、バシトラシン、DTNB、もしくはPAOでありうる。特に、本発明は、抗体などのMICA/MICB結合剤の使用を含む。抗体は、特に、ERP5の、MICA/MICBのチオ還元および/または切断を変化させる、その能力に基づいて選択されうる。抗体は、MICA/MICBのα3ドメインに結合しうる。
【0129】
DNA損傷剤に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学における主要な問題である。現在の癌研究の一つの目標は、化学療法および放射線療法の効力を向上させる方法を見出すことである。本発明の方法および組成物を用いて、細胞を殺す、細胞成長を阻害する、転移を阻害する、血管新生を阻害する、または他の方法で腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させる、もしくは低減するために、一般的には、本明細書に記載されたモジュレーターの1つおよび少なくとも1つの他の作用物質と癌細胞を接触させる。これらの組成物は、細胞を殺すかまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な混合量で供給されうる。このプロセスは、細胞を発現構築物および作用物質または因子と同時に接触させる段階を含みうる。これは、両方の作用物質を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤と細胞を接触させることにより、または細胞を、一方の組成物が1つの作用物質を含み、かつ他方が別の作用物質を含む2つの別個の組成物もしくは製剤と同時に接触させることにより達成されうる。
【0130】
または、一方の治療は、数分から数週間までの範囲の間隔で、他方に先行しうる、または他方の後に続きうる。作用物質が別々に細胞へ適用される態様において、通常、作用物質がまだ細胞へ有利な複合効果を発揮することができるように、有効期間が各送達の時間の間に切れないことを確実にする。そのような場合、お互いに約12〜24時間内、およびより好ましくは、お互いに約6〜12時間内に両方のモダリティーと細胞を接触させるが、約12時間のみの遅延時間が最も好ましい。場合によっては、処置期間を有意に延長することが望ましい可能性があるが、数日間(2、3、4、5、6、または7日間)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週間)は、それぞれの投与の間で経過する。
【0131】
いずれかの作用物質の複数回の投与が望ましいこともまた考えられる。様々な組み合わせが用いられうるが、下に例示されているように、上記のモジュレーターは「A」、他の癌治療は「B」である:

【0132】
他の組み合わせが企図される。この場合もやはり、細胞殺害を達成するために、両方の作用物質/処置は、細胞を処置するのに有効な混合量で癌細胞へ送達される。
【0133】
併用療法に用いるのに適した作用物質または因子は、細胞に適用された場合、DNA損傷を誘導する任意の化合物または処置方法である。そのような作用物質および因子には、γ-照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子放射などのDNA損傷を誘導する放射線および波動が挙げられる。「化学療法剤」とも記載される様々な化合物は、DNA損傷を誘導するように機能し、それらのすべては、本明細書に開示された併用処置方法に用いられることを意図される。用いられることを企図される化学療法剤には、例えば、アドリアマイシン、5-フルオロウラシル(5FU)、エトポシド(VP-16)、カンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシンC、シスプラチン(CDDP)、および過酸化水素も挙げられる。本発明はまた、シスプラチンとX線の使用またはエトポシドとシスプラチンの使用などの放射線に基づいたかまたは実際の化合物かにかかわらず、1つまたは複数のDNA損傷剤の組み合わせの使用を含む。特定の態様において、キリン(Killin)発現構築物と併用したシスプラチンの使用が、この化合物として特に好ましい。
【0134】
本発明に従って癌を処置するにあたって、本発明のモジュレーターに加えて作用物質と腫瘍細胞を接触させる。これは、局在性腫瘍部位に、放射線、例えば、X線、UV光、γ線、またはマイクロ波をも照射することにより達成されうる。または、アドリアマイシン、5-フルオロウラシル、エトポシド、カンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシンC、もしくはより好ましくは、シスプラチンなどの化合物を含む薬学的組成物の治療的有効量を被験体に投与することにより腫瘍細胞は作用物質と接触しうる。
【0135】
核酸、特にDNAを直接架橋結合する作用物質は、DNA損傷を促進し、キリンとの相乗的な抗腫瘍性の組み合わせへとなることが構想される。シスプラチンおよび他のDNAアルキル化剤などの作用物質が用いられうる。シスプラチンは癌を処置するために広く用いられており、20mg/m2の有効量が3週間ごとに5日間、合計3コース、臨床適用に用いられる。シスプラチンは、経口で吸収されず、それゆえに、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内への注射により送達されなければならない。
【0136】
DNAを損傷する作用物質はまた、DNA複製、有糸分裂、および染色体分離に干渉する化合物を含む。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても公知のアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシンなどが挙げられる。新生物の処置のために臨床設定において広く用いられており、これらの化合物は、アドリアマイシンについての21日間隔での25〜75mg/m2からエトポシドについての35〜50mg/m2までの範囲の用量での静脈内へのボーラス注入を通して、または静脈内用量の2倍を経口で投与される。
【0137】
核酸前駆体およびサブユニットの合成ならびにフィデリティーを乱す作用物質もまた、DNA損傷へ導く。そのようなものとして、多数の核酸前駆体が開発されている。特に有用なのは、広範囲に渡る試験を受けており、かつ容易に入手できる作用物質である。そのようなものとして、5-フルオロウラシル(5-FU)などの作用物質は、新生物組織により優先的に用いられ、この作用物質を新生細胞へのターゲティングに特に有用なものにさせている。極めて毒性の5-FUは、局所を含め、広範囲の担体において適用可能であるが、3mg/kg/日から15mg/kg/日までの範囲の用量での静脈内投与が一般的に用いられる。
【0138】
DNA損傷を引き起こし、かつ広範に用いられている他の因子は、γ線、X線として一般的に知られているもの、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞へ方向づけられた送達を含む。マイクロ波およびUV照射などの他の型のDNA損傷因子もまた企図される。これらの因子のすべては、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の集合および維持に関して広範囲の損傷DNAをもたらす可能性が最も高い。X線についての線量範囲は、50〜200レントゲンの一日線量の長期間(3〜4週間)から2000〜6000レントゲンの単回線量までの範囲である。放射性同位元素についての線量範囲は幅広く変わり、同位元素の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生細胞による取り込みに依存する。
【0139】
当業者は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」15th Edition, chapter 33、特にページ624〜652の指導に従う。用量におけるいくらかの変動は、処置されることになっている被験体の状態に依存して必然的に起こる。投与の責任を負う人は、いずれにせよ、個々の被験体についての適切な用量を決定する。さらに、ヒト投与のためには、調製物は、FDA Office of Biologics基準によって要求される滅菌、発熱性、一般的安全性、および純度基準を満たすべきである。
【0140】
本発明者らは、本発明のモジュレーターの癌を有する患者への局所性または領域性送達が臨床疾患を処置するための非常に効率的な方法であることを提案する。同様に、化学療法または放射線療法は、被験体の身体の特定の罹患領域に向けられうる。または、いずれかの作用物質の全身送達は、特定の環境において、例えば、広範な転移が生じている場合、適切でありうる。
【0141】
加えて、MICA/MICB発現癌についてスクリーニングすることは有用であると思われる。この情報は、以前に公開された文書(PCT/US03/12299)に含まれており、その文書は参照により本明細書に組み入れられている。表面結合型および可溶型MICの両方は、MICA(2C10および3H5)ならびにMICAとMICB(6D4および6G6)を含むMICポリペプチドについてアッセイすることにより検出されうる。
【0142】
B. 自己免疫疾患
自己免疫疾患または状態は、身体の自身の器官および/または組織に対する免疫応答がある、根本的欠陥により特徴付けられる。少なくとも80種のそのような状態および疾患があると考えられており、それには以下が含まれるが、それらに限定されるわけではない:円形脱毛症、強直性脊髄炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経神経障害、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素症、クローン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、グレーブス病、ギラン・バレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多内分泌腺症候群、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ(RA)、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、小児性SLE、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎、白斑、ならびにウェゲネル肉芽腫症。T細胞媒介性応答が生じる移植シナリオ(骨髄移植、固形臓器同種移植)、例えば、移植片対宿主病、もまた企図される。本発明の方法および組成物は、特に、RAに関する使用について企図される。
【0143】
本発明者らによる以前の研究は、NKG2D陽性CD4+CD28- T細胞が自己免疫障害における原因であると示唆しているが、この細胞集団における免疫抑制機能の同定は、それが自己免疫の処置に利用されうるという可能性を提起する。この関係において、自己免疫疾患を患っている被験体にNKG2D+CD4+細胞のアゴニスト、またはFasLアゴニスト(もしくはそのことについてはFasL自身)を供給する。
【0144】
もう一つの態様において、自己免疫との関連におけるNKG2D+CD4+細胞の作用は、細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させることによるMICA/MICB切断に影響を及ぼすことにより調節されうる。モジュレーターは、ERP5のMICA/MICBの放出、ERP5のMICA/MICBへの結合、ERP5のMICA/MICBの異性化、ERP5のMICA/MICBのチオ還元、またはERP5の転写もしくは翻訳もしくは細胞表面発現を変化させうる。
【0145】
処置は、治療剤の複数ラウンドを含みうる。例えば、投与の最初のラウンド後、患者におけるNKG2D発現CD4+ T細胞もしくはFasLシグナル伝達のレベルおよび/または活性が再評価され、適切な場合には、投与の追加のラウンドが行われうる。このようにして、投与の複数ラウンドが、障害が十分に処置されるまで行われうる。
【0146】
追加の作用物質との併用療法もまた企図される。コルチコステロイド薬、鎮痛剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、または免疫応答を抑制し、自己免疫疾患の進行を止める、シクロホスファミド、メトトレキセート、およびアザチオプリンなどのより強力な免疫抑制薬。リンパ節の放射線療法および血漿交換法(異常細胞および有害分子を血液循環から除去する手順)が時々、用いられる。
【0147】
加えて、自己免疫患者においてMICA/MICB発現細胞についてスクリーニングすることは有用であると思われる。この情報は、以前に公開された文書(PCT/US03/12299)に含まれており、その文書は参照により本明細書に組み入れられている。表面結合型および可溶型MICの両方は、MICA(2C10および3H5)およびMICAとMICB(6D4および6G6)を含むMICポリペプチドについてアッセイすることにより検出されうる。
【0148】
C. 炎症性疾患
本発明はまた、様々な炎症性疾患の処置を可能にするが、ここで炎症はNKG2Dを発現するCD4+CD28- T細胞により媒介され、NKG2Dは、ストレス誘導性MICリガンドにより刺激される。これらの疾患状態の一部は下に考察されている。
【0149】
乾癬性関節炎
乾癬は、1.5〜3%の有病率をもつ炎症性および増殖性皮膚障害である。乾癬を有する患者の約20%は、いくつかのパターンを有する特徴的な形態の関節炎を発症する(Gladman, 1992; Moll & Wright, 1973; Jones et al., 1994; Gladman et al., 1995)。一部の個体は最初に関節症状を示すが、大多数において、皮膚乾癬が最初に現れる。患者の約3分の1は、彼らの皮膚および関節疾患の同時悪化を起こし(Gladman et al., 1987)、爪疾患と遠位指節間関節疾患の間にトポグラフィックな関係がある(Jones et al., 1994; 33:834-9; V. Wright, 1956)。皮膚、爪、および関節疾患を結びつける炎症性プロセスは分かりにくいままであるが、免疫媒介性病理が関与している。
【0150】
乾癬性関節炎(PsA)は、関節炎および乾癬の連係により特徴付けられる慢性炎症性関節症であり、1964年に関節リウマチ(RA)と異なる病型として認識された(Blumberg et al., 1964)。その後の研究により、PsAが、強直性脊椎炎、反応性関節炎、および腸疾患に基づく関節炎を含む一群の疾患である他の脊椎関節症(SpA)といくつかの遺伝的、病因的、臨床的特徴を共有することが明らかにされている(Wright, 1979)。PsAがSpA群に属するという考えは、RAにはないが、PsAにおいて広範囲な付着部炎を示す画像研究からさらなる支持を最近得ている(McGonagle et al., 1999; McGonagle et al., 1998)。より具体的には、付着部炎は、SpAにおいて起きる、脊椎における骨再形成および強直へ、ならびに炎症を起こした付着部が末梢関節に近い場合、関節滑膜炎へ導く最初期事象の1つであると仮定されている。しかしながら、PsAは、変動する重症度への関節の関与のかなり不均一なパターンを示すため、PsAにおける付着部炎と臨床症状との間の関連はほとんどはっきりしないままである(Marsal et al., 1999; Salvarani et al., 1998)。従って、他の因子がPsAの多種多様の特徴を説明するように仮定されなければならず、そのほんのわずかだけ(軸椎疾患と強く関連しているHLA-B27の発現など)が同定されている。結果として、疾患徴候を特定の発症機序に位置づけることは困難なままであり、それは、この状態の処置がほとんど経験に基づくままであることを意味する。
【0151】
家族研究は、PsAの発症への遺伝的寄与を示唆している(Moll & Wright, 1973)。強直性脊椎炎および関節リウマチなどの他の慢性炎症型の関節炎は、複雑な遺伝的基盤を有すると考えられる。しかしながら、PsAの遺伝的構成要素は、いくつかの理由で評価することが困難になっている。PsAの発症にとって重要である遺伝的因子を隠す可能性がある乾癬のみに対する遺伝的素因の強い証拠がある。大部分の人は、PsAを別個の疾病として認めているが、時々、関節リウマチおよび強直性脊椎炎と表現型の重複がある。PsA自身もまた均一な状態ではなく、様々なサブグループが提案されている。すべてのこれらの交絡因子が本研究において克服されたわけではないが、本発明者らは、疾患スペクトラムを網羅するPsAを有する患者の3つの幅広いカテゴリーにおける候補遺伝子を調べることに集中した。
【0152】
TNFA領域のプロモーター領域における多型は、それらがTNF-α分泌のレベルに影響を及ぼしうるため、重要な関心対象である(Jacob et al., 1990; Bendzen et al., 1988)。TNF-αの量の増加が、乾癬皮膚(Ettehadi et al., 1994)および滑液(Partsch et al., 1997)の両方において報告されている。
【0153】
最近の試験は、PsA(Mease et al., 2000)および強直性脊椎炎(Brandt et al., 2000)の両方において抗TNF処置の明確な恩恵を示している。さらに、TNF-αについての遺伝子座は、MHCのクラスIII領域内に存在し、従って、クラスIおよびクラスII領域に隣接することにより供給されるものよりPsAとの強い関連を提供しうる。本発明者らの全体のPsA群においてTNFA対立遺伝子との比較的弱い関連があった。まれなTNFA-238A対立遺伝子は、末梢性多発性関節炎を有する群において頻度が増加し、脊椎炎を有する患者においては存在しなかったが、この所見はHLA-Cw*0602との連鎖不平衡により説明されうる。TNFA-238対立遺伝子における多型と関連した機能的結果があるかどうかは明らかではない(Pociot et al., 1995)。とはいえ、乾癬を有する患者に発症する関節炎のパターンがこの特定の対立遺伝子に直接的または間接的に結びつけられることは可能である。
【0154】
Hohlerら(1997)(A TNF-α promoter polymorphism is associated with juvenile onset psoriasis and psoriatic arthritis)は、PsAを有する患者において、および若年発症乾癬において、TNFA-238A対立遺伝子の頻度の増加を見出した。若年発症乾癬およびPsAの両方とのTNFA-238Aの関連は、HLA-Cw6とのそれより強かった。同様に、本発明者らの研究において、若年発症乾癬と、HLA-Cw*0602およびTNFA-238Aの両方との間の強い関連があったが、どちらの対立遺伝子も関節炎の発症の年齢といかなる関係ももたなかった。本発明者らの研究において、少なくとも1つのTNFA-238A対立遺伝子を有するPsAの全患者は、HLA-Cw6陽性であり、PsAにおけるこれらの対立遺伝子間の密接な連鎖が強調されている。しかしながら、Hohlerら(1997)による、かつHLA-Cw*0602との密接な連鎖により説明可能な研究と対照的に、TNFA-238A対立遺伝子は、末梢性関節炎を有する患者においてのみ増加した。強直性脊椎炎の別の研究において、同グループは、まれなTNFA-308AおよびTNFA-238A対立遺伝子が、脊椎炎の発症に保護作用を生じることを見出した(Hohler et al., 1998)。
【0155】
反応性関節炎
反応性関節炎(ReA)において、関節損傷の機構は明らかではないが、サイトカインが重要な役割を果たしている可能性が高い。高レベルのインターフェロンγ(IFN-γ)および低レベルのインターロイキン4(IL-4)のプロファイルが報告されているが(Lahesmaa et al., 1992; Schlaak et al., 1992; Simon et al., 1993; Schlaak et al., 1996; Kotake et al., 1999; Ribbens et al., 2000)、いくつかの研究は、関節リウマチ(RA)患者と比較して、反応性関節炎患者の滑膜(Simon et al., 1994; Yin et al., 1999)および滑液(SF)(Yin et al., 1999; Yin et al., 1997)においてIL-4およびIL-10の相対的優勢、ならびにIFN-γおよび腫瘍壊死因子α(TNF-α)の相対的欠乏を示している。RA患者においてより反応性関節炎における低レベルのTNF-α分泌はまた、末梢血単核細胞(PBMC)のエクスビボ刺激後も報告されている(Braun et al., 1999)。
【0156】
反応性関節炎関連細菌のクリアランスは適切なレベルのIFN-γおよびTNF-αの産生を必要とし、一方IL-10はこれらの反応を抑制することによって作用することが、論じられている(Autenrieth et al., 1994; Sieper & Braun, 1995)。IL-10は、活性化マクロファージによるIL-12およびTNF-γ(de Waal et al., 1991; Hart et al., 1995; Chomarat et al., 1995)、ならびにT細胞によるIFN-γ(Macatonia et al., 1993)の合成を阻害する制御性サイトカインである。
【0157】
腸疾患に基づく関節炎
腸疾患に基づく関節炎(EA)は、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)と組み合わせて起こる。それはまた、脊椎および仙腸関節を冒しうる。腸疾患に基づく関節炎は、通常、膝または足首などの脚における、末梢関節を含む。それは、一般的に、ほんのわずかな、または限られた数の関節を含み、腸状態に密接に従いうる。これは、潰瘍性大腸炎を有する患者の約11%、およびクローン病を有する患者の21%に起こる。滑膜炎は、一般的に、自己限定性かつ非変形性である。
【0158】
腸疾患に基づく関節炎は、GI病態へのリンクを共有する一群のリウマチ学的状態を含む。これらの状態には、細菌(例えば、シゲラ(Shigella)、サルモネラ(Salmonella)、カンピロバクター(Campylobacter)、エルシニア(Yersinia)種、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile))、寄生虫(例えば、糞線虫(Strongyloides stercoralis)、無鉤条虫(Taenia saginata)、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、回虫(Ascaris lumbricoides)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)種)による反応性(すなわち、感染関連)関節炎、および炎症性腸疾患(IBD)と関連した脊椎関節症が挙げられる。他の状態および障害には、腸バイパス(空腸回腸)、関節炎、セリアック病、ウィップル病、およびコラーゲン蓄積大腸炎が挙げられる。
【0159】
腸疾患に基づく関節炎の正確な原因は、知られていない。GI管の炎症は透過性を増加させ、結果として、細菌抗原を含む抗原性物質の吸収を生じうる。これらの関節炎惹起性抗原は、その後、筋骨格組織(付着部および滑膜を含む)に局在し、それに従って、炎症応答を誘発しうる。または、自己免疫性応答が、これらの抗原に対する宿主の免疫応答が滑膜における自己抗原と交差反応する分子擬態を通して誘導されうる。
【0160】
特に関心対象となるのは、反応性関節炎と、HLAクラスI分子であるHLA-B27との間の強い関連である。関節炎惹起性の可能性のある細菌由来の抗原ペプチドは、B27分子の抗原提示溝に適合することができ、結果として、CD8+ T細胞応答を生じる。HLA-B27トランスジェニックラットは、関節炎および腸炎症を有する腸疾患に基づく関節炎の特徴を発現する。
【0161】
家族性地中海熱
家族性地中海熱は、通常、熱および腹膜炎(腹膜の炎症)の再発エピソードにより特徴付けられる遺伝性障害である。1997年に、研究者らは、FMFについての遺伝子を同定し、この遺伝性リウマチ性疾患を引き起こす数個の異なる遺伝子突然変異を見出した。第16染色体上に見出されるその遺伝子は、顆粒球 − 免疫応答において重要な白血球 − においてほぼ例外なく見出されるタンパク質をコードする。そのタンパク質は、正常には、免疫応答を非活性化することによる制御下で炎症の維持を援助する可能性が高い − この「ブレーキ」が無ければ、不適切な本格的な炎症反応が起こる:FMFの攻撃。分子診断学的なサイトカイン特性が存在するかどうかを探究するために、FMFと臨床的に診断された6人の患者由来の血清試料が調べられ、サイトカインの濃度が定量化された。
【0162】
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛および排便習慣の変化により特徴付けられる機能障害である。この症候群は、青年期に始まり、重大な障害に関連しうる。この症候群は均一な障害ではない。むしろ、IBSのサブタイプが、主症状 − 下痢、便秘、または疼痛 − に基づいて記載されている。熱、体重減少、および消化管出血などの「警告」症状の非存在下において、限定された精密検査が必要とされる。いったんIBSの診断がなされたならば、総合的な処置アプローチが、症状の重症度を効果的に低下させうる。IBSは一般的な障害であるが、その罹患率は変化している。一般的に、IBSは、US成人の約15%を冒し、男性においてより女性において約3倍の頻度で起こる(Jailwala et al., 2000)。
【0163】
IBSは、毎年、240万〜350万の通院を占める。それは、胃腸科専門医により診察を受ける最も一般的な状態であるだけでなく、プライマリーケア医により診察を受ける最も一般的な消化管状態の一つでもある(Everhart et al., 1991; Sandler, 1990)。
【0164】
IBSはまた、費用のかかる障害である。腸症状をもたない人と比較して、IBSを有する人は、3倍も多く仕事日を休み、病気が重すぎて働けないと報告する可能性がより高い(Drossman et al., 1993; Drossman et al., 1997)。さらに、IBSを有するものは、腸障害をもたない人より医療費において数百ドル多く負担する(Talley et al., 1995)。
【0165】
IBSを有する患者により経験される腹痛および排便習慣の変化の悪化および緩解の原因となる特定の異常はない。IBSの発展的理論は、脳-腸軸の複数レベルにおける調節不全を示唆する。運動障害、内臓過敏、中枢神経系(CNS)の異常調節、および感染がすべて関与している。加えて、心理社会的因子が重要な変更する役割を果たしている。異常な腸運動が、長い間、IBSの発症機序における因子とみなされてきた。食事後の小腸中の通過時間は、便秘優勢または疼痛優勢のサブタイプを有する患者においてより、下痢優勢IBSを有する患者において短いことが示されている(Cann et al., 1983)。
【0166】
絶食中の小腸の研究において、別個の群をなす収縮および持続的伝播性収縮の両方の存在が、IBSを有する患者において報告されている(Kellow & Phillips, 1987)。彼らはまた、健康な人より頻繁に不規則な収縮を伴う疼痛を経験する(Kellow & Phillips, 1987; Horwitz & Fisher, 2001)。
【0167】
これらの運動性所見は、IBSを有する患者における症状群全体の原因とはならない;実際、これらの患者の大部分は、実証できる異常をもたない(Rothstein, 2000)。IBSを有する患者は、内臓痛に対する感受性が増加している。直腸S状結腸のバルーン拡張を含む研究により、IBSを有する患者が、対照被験体よりずっと低い圧力および容量で疼痛および鼓腸を経験することが示されている(Whitehead et al., 1990)。これらの患者は、身体刺激の正常な知覚を維持している。
【0168】
この現象を説明するために多数の理論が提案されている。例えば、内臓における受容体は、拡張または腔内容積に応答して感受性が増加している可能性がある。脊髄の後角のニューロンは、興奮性が増加している可能性がある。加えて、感覚のCNS処理における変化が関与している可能性がある(Drossman et al., 1997)。機能的磁気共鳴画像研究により、対照被験体と比較して、IBSを有する患者は、痛みを伴う直腸刺激に応答して、重要な疼痛中枢である前帯状皮質の活性化が増加していることが最近示されている(Mertz et al., 2000)。
【0169】
証拠は、感染性腸炎とその後のIBSの発症との間の関係をますます示唆している。炎症性サイトカインが役割を果たしている可能性もある。確認された細菌性胃腸炎の病歴をもつ患者の調査において(Neal et al., 1997)、25%が排便習慣の持続的変化を報告した。症状の持続は、急性感染の時点における心理的ストレスによる可能性がある(Gwee et al., 1999)。
【0170】
最近のデータは、小腸における細菌過剰増殖がIBS症状において役割をもちうることを示唆している。一つの研究において(Pimentel et al., 2000)、水素呼気検査について照会された202人のIBS患者のうちの157人(78%)が、細菌過剰増殖について陽性であるという検査所見を有した。追跡検査された47人の被験体のうち、25人(53%)が抗生物質処置で症状(すなわち、腹痛および下痢)の改善を報告した。
【0171】
IBSは一連の症状を示しうる。しかしながら、腹痛および排便習慣の変化は初期の特徴のままである。腹部不快感は、しばしば、本質的に痙攣性と記載され、左下部に位置するが、重症度および位置は大きく異なりうる。患者は、下痢、便秘、または下痢と便秘の交互エピソードを報告しうる。下痢症状は、典型的には、少量の軟便と記載され、便は時々、粘液分泌を伴う。患者はまた、鼓腸、便意切迫、不完全な排泄、および腹部膨満を報告しうる。胃食道逆流、消化不良、または吐き気などの上部消化管症状もまた存在しうる(Lynn & Fiedman, 1993)。
【0172】
症状の持続はさらなる検査の指標ではない;それはIBSの特徴であり、それ自身、その症候群の予想される症状である。より広範な診断評価は、症状が悪化している、または変化している患者において指示される。さらなる検査の指標はまた、警告症状の存在、50歳以後の症状の発現、および結腸癌の家族歴を含む。検査には、結腸鏡検査、腹部および骨盤のコンピューター断層撮影法、ならびに小腸または大腸のバリウム検査が挙げられうる。
【0173】
初期関節炎
異なる炎症性関節症の臨床提示は、疾患の経過中の同じような初期である。結果として、関節炎がより自己限定性である患者から、びらん性関節損傷へ導く重篤かつ持続的な滑膜炎を発症するリスクがある患者を区別することは、困難であることが多い。そのような区別は、びらん性疾患をもつ者を積極的に処置し、より自己限定性疾患をもつ患者においては不必要な毒性を避けるよう、治療を適切に向けるために重大な意味をもつ。関節リウマチ(RA)などのびらん性関節症を診断するための現在の臨床基準は、初期疾患においてあまり有効ではなく、関節数および急性期応答などの疾患活性の伝統的なマーカーは、不良転帰をもつ可能性が高い患者を十分には同定しない(Harrison & Symmons et al., 1998)。滑膜に生じる病理学的事象を反映するパラメーターが、有意な予後値である可能性が最も高い。
【0174】
初期炎症性関節炎において不良転帰の予測因子を同定するための最近の努力により、初期炎症性関節炎コホートにおいてびらん性および持続性疾患と関連しうる、RA特異的自己抗体、特にシトルリン化ペプチドに対する抗体の存在が同定されている。これに基づいて、環状シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者血清における抗CCP抗体の同定を補助するために開発されている。このアプローチを用いて、抗CCP抗体の存在が、RAに特異的かつ感受性であることが示されており、RAを他の関節症から区別でき、これらの転帰が臨床的に明確になる前に持続性びらん性滑膜炎を予測することができる可能性が高い(Schellekens et al., 2000)。重要なことには、抗CCP抗体は、しばしば、臨床症状より何年も前に血清において検出可能であり、それらが無症状性免疫事象の反映でありうることを示唆している(Nielen et al., 2004; Rantapaa-Dahlqvist et al., 2003)。
【0175】
異なる炎症性関節症の臨床提示は、疾患の経過中の同じような初期である。結果として、関節炎がより自己限定性である患者から、びらん性関節損傷へ導く重篤かつ持続的な滑膜炎を発症するリスクがある患者を区別することは、困難であることが多い。そのような区別は、びらん性疾患をもつ者を積極的に処置し、より自己限定性疾患をもつ患者においては不必要な毒性を避けるように、治療を適切に向けるために重大な意味をもつ。関節リウマチ(RA)などのびらん性関節症を診断するための現在の臨床基準は、初期疾患においてあまり有効ではなく、関節数および急性期応答などの疾患活性の伝統的なマーカーは、不良転帰をもつ可能性が高い患者を十分には同定しない(Harrison et al., 1998)。滑膜に生じる病理学的事象を反映するパラメーターが、有意な予後値である可能性が最も高い。
【0176】
初期炎症性関節炎において不良転帰の予測因子を同定するための最近の努力により、初期炎症性関節炎コホートにおいてびらん性および持続性疾患と関連しうる、RA特異的自己抗体、特にシトルリン化ペプチドに対する抗体の存在が同定されている。これに基づいて、環状シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者血清における抗CCP抗体の同定を補助するために開発されている。このアプローチを用いて、抗CCP抗体の存在が、RAに特異的かつ感受性であることが示されており、RAを他の関節症から区別でき、これらの転帰が臨床的に明確になる前に持続性びらん性滑膜炎を予測することができる可能性が高い。重要なことには、抗CCP抗体は、しばしば、臨床症状より何年も前に血清において検出可能であり、それらが無症状性免疫事象の反映でありうることを示唆している(Nielen et al., 2004; Rantapaa-Dahlqvist et al., 2003)。
【0177】
神経炎症
神経炎症は、中枢神経系におけるミクログリアおよびアストロサイトの応答ならびに作用が基本的に炎症様特徴をもつ、ならびにこれらの応答が幅広い種類の神経障害の発症および進行の中心となるという考えを要約している。この考えはアルツハイマー病の分野に端を発し(Griffin et al., 1989; Rogers et al., 1988)、それは、この疾患の我々の理解に革命をもたらした(Akiyama et al., 2000)。これらの考えは、他の神経変性疾患に(Eikelenboom et al., 2002; Orr et al., 2002; Ishizawa & Dickson, 2001)、虚血性/中毒疾患に(Gehrmann et al., 1995; Touzani et al., 1999)、腫瘍生物学に(Graeber et al., 2002)、および正常な脳の発達にまでも拡張されている。
【0178】
神経炎症は、ミクログリアおよびアストロサイトの活性化、ならびにサイトカイン、ケモカイン、補体タンパク質、急性期タンパク質、酸化損傷、および関連分子プロセスの誘導を含む、広範囲の複雑な細胞応答を組み入れる。これらの事象は、神経機能へ有害な効果を生じ、ニューロン損傷、さらなるグリア活性化、および最終的に神経変性へと導きうる。
【0179】
神経炎症は、慢性神経疾患の我々の理解に革命をもたらした、新しく、かつ急速に拡大する分野である。この分野は、人口調査からシグナル伝達経路まで及ぶ研究、ならびに病理学、生化学、分子生物学、遺伝学、臨床医学、および疫学ほど多様な分野にバックグラウンドをもつ研究者を含む。この分野への重要な貢献は、集団に関する、患者に関する、死後組織に関する、動物モデルに関する、およびインビトロ系に関する研究によってもたらされている。
【0180】
D. 薬剤
これらの組成物に用いられうる薬学的に許容される担体には、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースをベースにした物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコース、および羊毛脂が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0181】
本発明の組成物は、経口で、非経口で、吸入スプレーにより、局所的に、直腸に、経鼻で、頬側に、経膣的に、または埋め込みリザーバーを介して、投与されうる。本明細書に用いられる場合、「非経口の」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内、頭蓋内の注射または注入技術を含む。RAなどの局在性障害について、組成物は、しばしば、局所的に、例えば、炎症関節内に投与される。
【0182】
本発明の組成物の滅菌注射剤型は、水性または油性懸濁液でありうる。これらの懸濁液は、当技術分野において公知の技術に従って、適切な分散剤または湿潤剤、および沈殿防止剤を用いて製剤化されうる。滅菌注射剤調製はまた、無毒性の非経口的に許容される希釈液もしくは溶媒中の滅菌注射剤溶液または懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液などでありうる。用いられうる許容される媒体および溶媒の中には、水、リンガー液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌の固定油が、通常、溶媒または懸濁媒として用いられる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激固定油が用いられうる。オレイン酸などの脂肪酸およびそのグリセリド誘導体は、注射剤の調製に有用であり、オリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油も、特にそれらのポリオキシエチレン化バージョンにおいて同様である。これらの油溶液または懸濁液はまた、カルボキシメチルセルロース、もしくは乳濁液および懸濁液を含む薬学的に許容される剤形の製剤化に一般的に用いられる類似した分散剤などの、長鎖アルコール希釈剤または分散剤を含みうる。Tween、Spanなどの他の一般的に用いられる界面活性剤、および薬学的に許容される固体、液体、もしくは他の剤形の製造に一般的に用いられる他の乳化剤または生物学的利用能増強剤もまた、製剤化を目的として用いられうる。
【0183】
本発明の組成物は、限定されるわけではないが、カプセル、錠剤、水性懸濁液または溶液を含む任意の経口的に許容される剤形で、経口投与されうる。経口用の錠剤の場合、一般的に用いられる担体には、ラクトースおよびコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの平滑剤もまた典型的に添加される。カプセル型での経口投与について、有用な希釈剤には、ラクトースおよび乾燥コーンスターチが挙げられる。水性懸濁液が経口用に必要とされる場合、活性成分は、乳化剤および沈殿防止剤と組み合わされる。必要に応じて、特定の甘味剤、香味剤、または着色剤もまた添加されうる。
【0184】
または、本発明の組成物は、直腸投与のために坐剤の形で投与されうる。これらは、室温で固体であるが直腸温で液体であり、それゆえに、直腸において溶解し薬物を放出する、適切な非刺激性賦形剤と作用物質を混合することにより調製されうる。そのような物質には、カカオバター、蜜蝋、およびポリエチレングリコールが挙げられる。そのような組成物は、製剤処方の分野において周知の技術に従って調製される。
【0185】
本発明の組成物は、特に、処置の標的が局所投与により容易に到達可能な領域または器官を含む場合、局所的に投与されることができ、その標的には、眼、皮膚、関節、または下部腸管の疾患が挙げられる。適切な局所製剤は、これらの領域または器官のそれぞれについて容易に調製される。下部腸管についての局所投与は、直腸坐剤製剤(上記参照)で、または適切な注腸製剤で実施されうる。局所的経皮パッチもまた用いられうる。
【0186】
局所投与について、組成物は、1つもしくは複数の担体に懸濁または溶解された活性成分を含む適切な軟膏に製剤化されうる。本発明の化合物の局所投与のための担体には、限定されるわけではないが、ミネラルオイル、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、および水が挙げられる。または、組成物は、1つもしくは複数の薬学的に許容される担体に懸濁または溶解された活性成分を含む適切なローションまたはクリームに製剤化されうる。適切な担体には、限定されるわけではないが、ミネラルオイル、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水が挙げられる。
【0187】
眼科用について、組成物は、等張性のpH調整された滅菌生理食塩水中の微粉化懸濁液として、または好ましくは、等張性のpH調整された滅菌生理食塩水中の溶液として、塩化ベンジルアルコニウムなどの保存剤を含むかまたは含まないかのいずれかで、製剤化されうる。または、眼科用について、組成物は、ワセリンなどの軟膏中に製剤化されうる。
【0188】
本発明の組成物はまた、鼻エアゾールまたは吸入により投与されうる。そのような組成物は、製剤処方の分野において周知の技術に従って調製され、ベンジルアルコールもしくは他の適切な保存剤、生物学的利用能を増強するための吸収促進剤、フッ化炭化水素、および/または他の通常の可溶化剤もしくは分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として調製されうる。
【0189】
一つの態様において、本発明の抗体または治療化合物は、リポソーム(抗体の場合、「イムノリポソーム」)へ、単独で、または患者もしくは動物へのターゲット送達のためのもう一つの物質と共に、組み入れられうる。そのような他の物質には、遺伝子治療のための遺伝子の送達のための、またはT細胞における遺伝子を抑制するためのアンチセンスRNA、RNAi、もしくはsiRNAの送達のための核酸、または他の手段を通してT細胞の活性化のための毒素もしくは薬物、またはT細胞の活性化に有用でありうる本明細書に記載された任意の他の作用物質が挙げられうる。
【0190】
特に、本出願人らは、米国特許出願公開第2001/0007666号および第2005/0136102号に記載された脂質輸送テクノロジーの使用を企図し、その特許の内容は参照により本明細書に組み入れられている。これらの文書は、治療的および診断的作用物質または代謝産物または他の分析物の、細胞、細胞内の区画からの、または細胞層もしくはバリアを通しての、輸送または放出のための組成物および方法を開示する。組成物は、膜バリア輸送促進剤を含み、通常、破壊もしくは透過性の変化をもたらす、輸送する、または放出するための促進剤および/または刺激への曝露と組み合わせて投与される。特定の態様において、組成物は、治療剤または診断剤へ直接的または間接的に結合した、エンドソームにおける低pHに応答してエンドソーム膜を破壊するが、細胞膜に対して比較的不活性である化合物を含む。光、電気刺激、電磁刺激、超音波、温度、もしくはそれらの組み合わせなどのpH以外の刺激および/または促進剤に対して応答性の他の破壊剤もまた用いられうる。化合物は、送達されるべき作用物質へ、または送達されるべき作用物質と複合体を形成するリガンドへ、イオン結合、共有結合、またはH結合により結合されうる。送達されるべき作用物質は、治療剤および/または診断剤でありうる。超音波、イオントフェレーシス、および/またはエレクトロフェレーシスなどの送達を促進する処理が破壊剤と共に用いられうる。
【0191】
もう一つの態様において、本発明の抗体または他の化合物は、その生物学的利用能、インビボでの半減期などを向上させるために修飾されうる。例えば、抗体および他の化合物は、いずれかの数の形態のポリエチレングリコールおよび当技術分野において公知の付着方法を用いて、ペグ化されうる(例えば、Lee et al., 2003; Harris et al., 2003; Deckert et al., 2000参照)。
【0192】
非抗体化合物について、患者に投与される用量は、長い期間をかけて被験体において有益な応答をもたらすのに十分であるべきである。用量は、用いられる特定のモジュレーターの効力および被験体の状態、加えて体重または処置されるべき領域の表面積により決定される。用量のサイズはまた、特定の被験体における特定の化合物またはベクターの投与に伴う任意の有害な副作用の存在、性質、および程度により決定される。投与されるべき化合物の有効量の決定において、医師は、化合物の循環血漿中レベル、化合物毒性、および抗化合物抗体の産生を評価する場合がある。一般的に、化合物の用量当量は、典型的な被験体について約1ng/kgから10mg/kgまでである。投与は単一用量または分割量によって達成されうる。
【0193】
本発明のもう一つの重要な態様により、一次化合物は、抗体または化合物が投与されることになっている特定の治療目的のために、例えば、自己免疫疾患(抗炎症剤、免疫抑制剤)または癌(化学療法、放射線療法、手術、ホルモン療法)の処置のために、通常、利用される作用物質を含む、1つまたは複数の追加の治療剤と共に投与されうる。他の作用物質は、本抗体もしくは本化合物と共に、すなわち、同じ薬学的組成物において投与されうるか、または時間経過的でもを含む別々に投与されうるかのいずれかである。追加の治療剤は、一般的に、処置されることになっている特定の疾患または状態の単剤治療においてその作用物質について典型的に用いられる用量で投与される。
【0194】
本発明のさらなる局面および利点は、以下の実験のセクションに開示されており、その実験のセクションは、例証とみなされるべきであり、本出願の範囲を限定するものではない。
【0195】
X. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。技術は、本発明の実施において良く機能することが本発明者らに発見された代表的技術に従う実施例において開示され、それに従って、その実施の好ましいモードを構成するとみなされうることは、当業者により認識されているはずである。しかしながら、当業者は、開示される特定の態様において多くの変化がなされ、かつなお、本発明の真意および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得ることができることを本開示に照らせば、認識するはずである。
【0196】
実施例1 − MIC+腫瘍を有する患者における腫瘍浸潤性および循環型(末梢血)CD4 T+細胞の大部分によるNKG2D発現
材料および方法
末梢血単核細胞および腫瘍浸潤リンパ球試料。対照末梢血は、FHCRC審査委員会により承認されたプロトコールに従って所定の書面によるインフォームド・コンセントを有する健康なボランティアから採取された。末梢血単核細胞(PBMC)は、密度勾配遠心分離(Ficoll/Hypaque, Pharmacia)により単離された。
【0197】
26人の腫瘍患者(6人乳癌、8人肺癌、4人卵巣癌、4人結腸癌、および4人黒色腫)由来の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)および対応したPBMCの、以前に単離され、liquN2保存された試料は、腫瘍関連MIC発現について類別され、血清solMICの存在がこの分析に含まれた。
【0198】
フローサイトメトリー
PBMCおよびTILは、ビオチン化抗NKG2D(1D11)、続いてアロフィコシアニン結合型ストレプトアビジン(Molecular Probes)と共に、フィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、またはPECy5に結合した様々な濃度の抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD25、抗CD27、抗CD28、抗CD45RA、抗CD45RO、抗CD62、抗CD103、抗CD161、抗CCR-7(すべてBD Pharmingen)、または抗hGITR(R&D Systems)を用いる3色または4色フローサイトメトリーにより調べられた。
【0199】
結果
固形腫瘍患者のTILおよびPBMC(全身性)におけるCD8+ T細胞およびNK細胞上の変化した/減少したNKG2D発現が、これらの腫瘍によるMIC発現の存在と相関し、NKG2Dのリガンド誘導性下方調節に起因することが以前に示された。
【0200】
CD4+ T細胞上の誘導的に発現したNKG2Dの免疫生物学への最近になっての関心に駆られて、本発明者らは、腫瘍設定を再び取り上げ、以前に特徴付けられたTILおよびPBMC試料ペアの26個(15個MIC+、11個MIC-)において、モノクローナル抗体(mAb)染色およびフローサイトメトリーにより、腫瘍浸潤(TIL)および対応する末梢血CD4+ T細胞によるNKG2D発現を分析した。大部分が(〜98%)NKG2D陰性である対照末梢血CD4+ T細胞と対照的に、MIC+腫瘍を有する患者における腫瘍内(範囲:6.3〜74.8、平均20.6;n=15)および末梢(範囲:6.6〜71.8、平均20.7;n=15)におけるCD4+ T細胞の大部分がNKG2Dを発現した。CD4+ T細胞のNKG2D発現の程度は、与えられた腫瘍によるMIC発現の程度と相関した(データ未呈示)。MIC-腫瘍において、NKG2D+CD4+ T細胞の割合は、対照と比較して中程度に増加した(TILについて:範囲:0.7〜6.3、平均3.4;n=11。PBMCについて:範囲:1.1〜7.1、平均3.4;n=11)。
【0201】
以前の結果は、TCR媒介性T細胞活性化が CD4+ T細胞上のNKG2D発現に導きうることを示唆した(Groh et al., 2003)。任意の腫瘍免疫応答に関連したT細胞活性化は、従って、MIC-およびMIC+腫瘍患者においてNKG2D+CD4+ T細胞の頻度の増加を − 少なくとも一部 − 説明する可能性がある。これと一致して、MIC陽性および陰性腫瘍患者の両方由来のNKG2D-CD4+ TILおよびPBMCのかなりの割合が、それぞれ、T細胞活性化の表現型徴候を示し、CD25、CD27、CD28、CD45RA、CD45RO、CD62、およびCCR-7発現の多色フローサイトメトリー分析により証明されるメモリー表現型を示した。対照NKG2D+CD4+ T細胞は、これらのマーカーについて陰性であった。MIC+腫瘍患者におけるNKG2D発現CD4+ T細胞のより顕著な全身性増加は、MIC/NKG2D媒介性増殖および/またはNKG2D誘導性サイトカイン(IL-15、TNFα、IL-10)の放出に起因する可能性がある。
【0202】
MIC+腫瘍患者において、NKG2D+CD4+ TILおよびPBMC、それぞれの33〜81%(平均:54%、n=10)および26〜79%(平均:50%)は、CD45RO+であり、NKG2D+CD4+ TILおよびPBMC、それぞれの46〜79%(平均:62%、n=10)および27〜85%(平均:71%)は、HLA-DR+であり、NKG2D+CD4+ TILおよびPBMC、それぞれの34〜54%(平均:44%、n=10)および40〜61%(平均:51%)は、CD25+であった。
【0203】
MIC+腫瘍を有する患者におけるNKG2D+CD4+ TILおよびPBMCの著しい増加(最高70%まで)。MIC-腫瘍を有する患者におけるNKG2D+CD4+ TILおよびPBMCの中程度の増加(平均〜3.5%)。2Dの真の程度はよりずっと高い可能性があり、誘導性/増殖性シグナルと下方調節性シグナルとの間の異常があり、それゆえ、エクスビボでの結果は、誘導/リガンド誘導性下方調節の間のバランスを反映しうる。2D+ CD4+ TILおよびPBMCの大部分は、それらの起源に関わらず、活性化(CD25、HLA-DR)およびメモリー(CD45RO)表現型を有する。
【0204】
実施例2 − 活性化CD4 T細胞サブセットはMIC会合に応答してNKG2Dを発現し、増殖するが、バイスタンダーNKG2D-CD4+ T細胞は成長抑制される。
材料および方法
CD4 T細胞刺激
CD4 T細胞は、CD4MicroBeads(Miltenyi Biotec GmbH)を用いて製造会社の使用説明書に従ってPBMCから精製され(>99%純度)、フローサイトメトリーにより純度について検査された。
【0205】
活性化CD4 T細胞におけるNKG2D発現の分析について、新鮮に単離された純粋なCD4+ T細胞を、分裂促進刺激の存在および/またはNKG2Dリガンドの存在の有りまたは無しで、様々な時間、24ウェルプレートに0.3×106個/2ml AIM-V培地(Gibco)/ウェルで蒔いた。分裂促進刺激は、50ng/ml(他に指示がなければ)での架橋結合した抗CD3(プレートを、最初、4℃で一晩、PBS中の10μg/mlでのFcγ断片特異的なAffiniPure F(ab')2断片ヤギ抗マウスIgG1(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)でコーティングし、続いて、抗CD3(OKT3, Orthoclone, Ortho Biotech Products, L.P.)との4時間の室温でのインキュベーションを行った)、PHA(5μg/ml)、またはPMA/イオノマイシンのいずれかを含んだ。リガンド添加は、5:1のT細胞:トランスフェクタント比における放射線照射C1R-MICAおよび対照トランスフェクタントか、または他に指示がなければ、25ng/mlにおける、組換え可溶性MICAかのいずれかからなった。細胞を、培養開始後様々な時点で収集し、標準3色フローサイトメトリーのために直接結合したmAbを用いて、NKG2D、CD4、およびCD3共発現について試験した。
【0206】
NKG2D発現と共にCD4+ T細胞増殖の分析について、1×107個の新鮮に単離された純粋なCD4+ T細胞/ml PBSを、等容量の2μM CFSE(Molecular Probes)で室温、8分間、標識した。CFSEを等容量のウシ胎児血清で1分間、消光し、続いて、AIM-V培地で3回、洗浄した。CFSE標識細胞を、その後、上記のように、蒔き、刺激し、表現型的に分析した。この実験設定において試験される追加のリガンドは、C1R-MICB、ULBP-1、-2、-3、-4、もしくは-5のいずれかのトランスフェクタント、組換え可溶性MICB、またはMIC+腫瘍患者およびMIC-対照血清由来の5%可溶性MIC含有血清のいずれかを含んだ。リガンド特異性を試験するために、リガンド含有培養物を、10μg/ml 6D4(抗MICA/B)、10μg/ml 3F1(抗ULBP-1)、または適切に希釈されたアイソタイプ対照免疫グロブリンのいずれかで処理した。一部の実験において、リガンドを、5〜50ng/mlの範囲の濃度での固相抗NKG2D(1D11)と置換した。一部の実験において、リガンド/固相mAbを、培養開始後1日目、2日目、または3日目に加えた。
【0207】
標準[3H]チミジン取り込み実験によりCD4+ T細胞増殖の阻害を評価するために、新鮮に単離された純粋なCD4+ T細胞を、漸増される組換え可溶性MIC有りまたは無しの、漸増される架橋結合された抗CD3(上記参照)またはアイソタイプ対照Igを含む96ウェル平底プレートに1×105細胞/ウェルで蒔いた。37℃での72時間後、プレートを3μCiの[3H]チミジン(Perkin Elmer)で12時間、パルスした。プレートを収集し、試料を、Uni-Filter GF/CプレートおよびTopCountカウンター(両方ともPackardから)を用いる液体シンチレーションにより分析した。3連からのカウントを平均した。
【0208】
結果
MIC+腫瘍患者において多数のCD4+ T細胞の表現型の変換の原因である因子を同定するために、健康なドナー由来の精製されたCD4+末梢血T細胞を、架橋結合した抗CD3、PHA、もしくはPMA/イオノマイシンなどの活性化シグナルの存在下または非存在下で、細胞会合型もしくは可溶性MICリガンドのいずれかの有りまたは無しで、数日間、培養した。CD4+ T細胞によるNKG2D発現の後に、ビオチン結合型1D11およびPE-ストレプトアビジンを用いるフローサイトメトリーを行った。24時間後、NKG2D+CD4+ T細胞の割合は、活性化された培養物において2倍より多くなり、最高1週間、増加し続けたが、対照培養物においてはそうではなかった。試験されたすべての活性化刺激は同様の結果を生じた。
【0209】
培養の最初の3日間、MICの存在は、NKG2D発現CD4+ T細胞の出現に明らかな効果を生じなかった。しかしながら、4日目または5日目から始まって、膜結合型および可溶性MIC含有培養物は、リガンドを含まないものより実質的に大きな比率のNKG2D+CD4+ T細胞を含んだ。MIC含有培養物におけるNKG2D+CD4+ T細胞の割合のこの増加は、MIC/NKG2D共刺激性増殖かまたはサイトカイン放出後のNKG2D誘導かのいずれかに起因する可能性があった。これらの2つの可能性の間を区別するために、エクスビボで精製されたCD4+ T細胞を、活性化の前に、5-(および-6)-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識し、NKG2Dの染色後、培養の4日目または5日目に増殖およびNKG2D発現の両方について試験した。前の実験に関して、MICは、細胞表面発現型または可溶性型のいずれかで加えられ、それは、区別ができない効果を生じた。フローサイトメトリー分析により、非標識MICトランスフェクタントは、CFSE標識CD4+ T細胞と明確に分離可能であったが、可溶性MICの存在下において、より容易に解釈できる結果が得られ、考証のために選択された。活性化刺激の非存在下において、培養下、長期間に渡って、CD4+ T細胞は増殖せず、NKG2D+CD4+ T細胞の割合は変化しないままであった。予想どおり、T細胞活性化から4〜5日以内に、NKG2D発現T細胞の割合が増加し、NKG2D+発現体を含むCD4+ T細胞のわずかが、数回の細胞分裂を起こすことによる増殖の徴候を示した。劇的に異なり、かつ部分的に予想外のCFSE-NKG2D二重標識プロファイルが、NKG2D+集団およびNKG2D-集団に関して、抗CD3およびMICに曝されたCD4+ T細胞培養物で得られたドットブロットから現れ、対照的な増殖挙動を示した(右ドットブロットおよびヒストグラム)。NKG2D+細胞の増殖は、リガンドを含まない対照と比較して増強された。従って、CD8+ T細胞に関して、CD4+ T細胞上のNKG2Dのリガンド会合は、これらの細胞の増殖を共刺激し、それに従って、MIC+腫瘍患者におけるNKG2D+CD4+ T細胞の著しい増加を説明しうる(慢性刺激は大きな割合へと導きうる)。対照的に、NKG2D- T細胞の増殖は、リガンドを含まない培養物と比較して劇的に阻害され、細胞のほんのわずかな亜集団だけが細胞分裂を起こした。この阻害効果の程度は、漸増性濃度の抗CD3 mAbおよび可溶性MICに曝される精製されたCD4+ T細胞の3Hチミジン取り込み実験により明らかにされたように、用量依存性であった。
【0210】
CFSEプロファイルにより証明されているようなNKG2D-CD4+ T細胞増殖阻害が、細胞死に起因しうるのか、または細胞周期停止に起因しうるのかを評価すること。抗CD3活性化対照およびリガンド/固相抗NKG2D mAb含有CD4+ T細胞バルク培養物のアネキシン-V染色は、同一の結果を与え、アポトーシスは、NKG2D-CD4 T細胞の増殖の観察された阻害の原因とならないことを示唆した。しかしながら、ヨウ化プロピジウム(PI)染色を用いる細胞周期分析により、リガンド/固相抗NKG2D mAb曝露培養物におけるG0/G1の細胞の大多数の蓄積が明らかにされ、一方、対照抗CD3刺激CD4 T細胞のかなりの割合が培養から5日以内にS期およびG2/M期に入った。
【0211】
部分的に活性化されたNKG2D+CD4+ T細胞バルク培養物におけるNGK2D-CD4+ T細胞サブセットの増殖阻害もまた、細胞表面発現型および可溶性MICB、可溶性MICを含む患者血清、およびULBP-1〜ULBP-5のNKG2Dリガンドのいずれか1つを発現するC1Rトランスフェクタントの存在下で起こり、それぞれ、MICA/BまたはULBP-1〜ULBP-5に特異的なmAbの存在下で中和された。固相抗NKG2Dの添加は、NKG2Dリガンドの存在の代わりとなりうるが、すべてのリガンド媒介性効果が、リガンド媒介性NKG2D誘発に起因することを間接的に示唆した。
【0212】
要約すれば、これらの実験は、分裂促進刺激がCD4+ T細胞のサブセットにおけるNKG2D発現を誘導し、その細胞はリガンド会合によって増殖することを示した。MIC+腫瘍患者に観察されたCD4+ T細胞の表現型の変換は、このインビトロ観察のインビボの相当するものを示しうる。CD4+バルク培養物において、NKG2D+CD4+ T細胞のMIC/NKG2D共刺激増殖は、NKG2D-CD4+ T細胞の増殖の阻害と相関した。
【0213】
阻害効果は全NKG2Dリガンドに関して見られ、それぞれのmAbにより中和される
ので、リガンドは固相抗NKG2Dにより代用されうる。
【0214】
実施例3 − 混合されたNKG2D+およびNKG2D- CD4+ T細胞バルク培養物におけるNKG2D- T細胞の増殖阻害は、NKG2D-リガンド会合でNKG2D+CD4 T細胞により放出される可溶性因子によって媒介される
材料および方法
NKG2D-CD4+ T細胞の増殖阻害を媒介する細胞の性質を定義するために選択された実験設定の記載を単純化するために、これらの細胞集団を、今後、それぞれ、刺激細胞および応答細胞と呼ぶものとする。
【0215】
応答細胞は、上記のように、固相OKT3上にプレーティングされるCFSE標識前に、製造会社の使用説明書に従いPE-抗NKG2D(1D11)および抗PE MicroBeads(Miltenyi Biotech)を用いてそれらのNKG2D+サブセットが枯渇した新鮮に単離されたCD4+ T細胞であった。刺激細胞は、以下の細胞集団のいずれか1つを含んだ:1)結果としてNKG2D誘導を生じなかった、AIM-Vにおいて3日間、培養された、自己の精製されたNKG2D枯渇性CD4+ T細胞。これらの細胞は、従って、非誘導刺激細胞と呼ばれる。2)結果としてNKG2D誘導を生じた、AIM-Vおよび固相OKT3において3日間、培養された、自己の精製されたNKG2D枯渇性CD4+ T細胞。これらの細胞は、従って、誘導刺激細胞と呼ばれる。3)上記のようなNKG2D+サブセットが枯渇した誘導刺激細胞。4)誘導刺激細胞からPE-1D11およびBD FACSAria上での細胞ソーティングを用いて精製されたNKG2D+CD4+ T細胞。これらの精製アプローチは、リガンドの添加の前にNKG2D架橋を避けるために選択された。5)ソーティングされた集団から樹立されたNKG2D+およびNKG2D-CD4+ T細胞。刺激細胞は、MICビーズの存在下または非存在下において、1:5の以前に最適化された細胞:細胞比で応答細胞に、直接か、または0.4μm細孔サイズ膜を有するトランスウェルの上部チャンバーへかのいずれかで、加えられた。MICコーティング化ビーズは、可溶性リガンドまたはトランスフェクタントから放出されるリガンドは下部チャンバーへ入ってしまっただろうが、それはリガンドの上部チャンバーへの閉じ込めを保証するため、リガンド供給源として用いられた。
【0216】
リガンド添加の代わりに固相抗NKG2Dを用いる実験は、NKG2D- T細胞の増殖阻害の媒介における重要な因子としてのNKG2D誘発を確認した(リガンドの推定非NKG2D受容体への結合の関与を排除することができなかった)。新鮮に単離され、活性化されたCD4バルク培養物の純度は、一貫して、全細胞の99%を超え、残りの細胞は、おそらく、NKG2D-CD4CD3-単球を示すと思われる。従って、CD4+NKG2D+ T細胞は、CD4+NKG2D- T細胞増殖阻害を媒介する最も可能性の高い候補を表した。これは、NKG2D-CD4+ T細胞への阻害効果の程度がこれらの培養物におけるCD4+ T細胞上のNKG2D誘導の程度の増加との関連において測定されうるように、リガンドまたは固相抗NKG2Dが活性化CD4+ T細胞へゆっくり時間をかけて加えられる実験により支持された。培養の1日目または2日目に加えられたリガンド/抗NKG2Dは、NKG2D発現が0日目の状態と比較して増加しており、培養の開始以来存在するリガンド/mAbよりNKG2D- T細胞増殖の阻害に有意に効果的であった(データ未呈示、呈示可能)。しかしながら、NKG2D-CD4+ T細胞増殖の阻害の原因となる細胞の同定に関する直接的証拠は、表現型的に均一な、すなわち、それぞれ、純粋なNKG2D+CD4+またはNKG2D-CD4+、の細胞集団をそれらの阻害性潜在能力について試験することによってもたらされるべきである。そのような実験を最適に設計することは、NKG2D-CD4+ T細胞の成長停止が細胞-細胞接触を必要とするのか、または可溶性因子に依存するのかに、依存した。
【0217】
結果
これを試験するために、48時間もしくは72時間抗CD3刺激され、それに従ってNKG2D誘導された、または刺激されていないNKG2D-CD4+ T細胞バルク培養物を、安定に結合したリガンドの供給源としてのMICAコーティング化セファロースビーズと混合した。細胞/ビーズ混合物を、その後、固相抗CD3上に蒔かれた自己のCFSE標識の新鮮に精製されたNKG2D-CD4+ T細胞へ直接にか、または0.4μm細孔サイズ膜によりCFSE標識の新鮮に精製された固相刺激NKG2D-CD4 T+細胞から隔てられたトランスウェルプレートの上部チャンバーへかのいずれかで加えた。CFSE標識細胞の強い増殖阻害は、細胞-細胞接触が許されたかどうかに関係なくMICAビーズの存在下で抗CD3刺激NKG2D誘導細胞で処理された培養物において生じ、細胞-細胞接触よりむしろ可溶性因子が阻害を媒介していることを示唆した。非誘導CD4+NKG2D-細胞およびMICAビーズで処理された培養物もまた、増殖阻害を示し、T細胞活性化の結果としてCFSE標識および添加されたCD4+ T細胞の両方において誘導されたNKG2DのMIC連結に起因する可能性が最も高い。これと一致して、刺激細胞およびMICビーズの応答細胞からの物理的分離は阻害効果を生じなかった。このように、トランスウェル設定は、これらの実験を、NKG2D誘導サブセットが枯渇した抗CD3活性化CD4+バルク集団、そのような培養物から精製されたNKG2D誘導CD4+ T細胞、およびNKG2D+またはNKG2D-CD4+ T細胞クローンなどの表現型的に純粋な刺激細胞集団を用いることへ拡大するために適切(かつ、枯渇した細胞の再誘導が避けられうるため、理想的)であった。すべての以前の間接的結果を確認し、NKG2D+CD4+ T細胞はリガンド会合によって応答細胞増殖阻害を媒介することができたが、NKG2D-CD4+ T細胞はできなかった。
【0218】
実施例4 − 免疫応答のCD4+抑制はFasLにより媒介される
材料および方法
リガンド/固相抗NKG2D有りまたは無しで抗CD3で刺激された24時間上清CD4 T細胞におけるsFasリガンドの量が、標準ペアに関して対応抗体ペアを用いる市販のELISA(R&D Systems)により試験された。同じ上清が、非細胞傷害性ブロッキング抗Fas mAb SM1/23の存在下または非存在下でジャーカット細胞において細胞死を誘導するそれらの能力について試験された。
【0219】
結果
リガンドの存在下におけるFoxp3の増加についての証拠は見出されなかった。また、細胞-細胞接触は必要とされず、それゆえに、阻害が制御性T細胞により媒介される場合には、それらはむしろ、Tr1細胞のカテゴリーに分類されると思われる。実際、NKG2D+CD4+ T細胞のリガンド会合は、結果として、IL-10およびTGFなどのTr1サイトカインの分泌を生じた。従って、NKG2D+CD4+ T細胞は、Tr1細胞自身として機能しうるか、またはサイトカイン放出を通して間接的にTr1細胞の増殖を支援しうるかのいずれかであった。抗IL-10、抗ILR mAb、および抗TGFβを単独または組み合わせて用いて中和する努力は、効果を生じなかった。成長停止のもう一つの候補介在物質は、FasLであった。実際、FasLは、CD4+培養物(抗CD3+/-リガンド-固相抗NKG2D)においてELISAにより測定されることができ、これらの培養物のSNはジャーカット細胞傷害性効果を生じた。最も重要なことには、非刺激性抗Fas mAbの存在が結果として、阻害効果の中和を生じた。中和はかなり完全であり、それゆえに、他の因子(Tr1、Apo2L)の寄与を排除できないが、主要な介在物質はFasL/Fas成長停止であると思われる。
【0220】
実施例5 − NKG2D依存性免疫抑制およびMICA流出の機構
上皮腫瘍の可溶性MICリガンドの流出は、NKG2D受容体エンドサイトーシスおよび分解、ならびにそれに従って、NK細胞およびCD8 T細胞への全身性下方調節を引き起こす。結果として、NK細胞およびT細胞応答性は損なわれる。大部分のCD4+ T細胞は正常には、NKG2Dについて陰性である。しかしながら、腫瘍関連MICを有する癌患者において、約8%から最高77%までの範囲(28個体中平均25%)である様々な割合のCD4+ T細胞は、低い〜非常に高いレベルのNKG2Dを発現する。インビトロ活性化は、結果として、正常なCD4 T細胞の約8〜12%上のNKG2Dの迅速な誘導を生じ、それは、固相抗NKG2D mAbまたは可溶性MICAの追加の存在下で増殖し、共刺激を提供する。延長された培養期間に渡って、これらのT細胞は実質的に増殖し、可溶性介在物質の分泌によりNKG2D-CD4+ T細胞の成長停止を引き起こす。これらの予備的結果により、腫瘍設定におけるMIC-NKG2Dの追加の免疫抑制効果が明らかにされている。
【0221】
可溶性MICの流出は、メタロプロテイナーゼにより媒介されると考えられる。しかしながら、最近の証拠は、より複雑な分子事象を解明している。腫瘍細胞系および新鮮に単離された腫瘍細胞の表面上で、MICAは、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)ファミリーの小胞体タンパク質であるERP5と特異的に会合する。チオレダクターゼ触媒活性の薬理学的阻害およびERP5のsiRNA媒介性サイレンシングは、可溶性MICAの流出を著しく低下させ、ERP5とのその物理的相互作用に干渉する。MICAのドメイン内ジスルフィド結合の還元は、近位α3ドメインと膜貫通ドメインを結合するペプチド配列内でのタンパク分解性切断に必要な前提条件である立体構造的不安定化を引き起こす。
【0222】
実施例6 − 腫瘍関連NKG2Dリガンドのジスルフィドイソメラーゼによって可能にされている流出
材料および方法
腫瘍試料、ならびに細胞系、抗体、四量体、薬理学的インヒビター、およびsMICAについてのELISA
腫瘍細胞懸濁液の供給源は報告されている。細胞系は、American Type Culture Collectionからであった。抗NKG2D(mAb 1D11)、抗MICA(mAb 2C10)、抗MICA、および抗MICB(mAb 6D4)は前に記載されている。ウサギポリクローナル抗ERP5および抗GRP78は、それぞれ、AbcamおよびStressgenからであった。組換えMICA*001(残基1〜276位)およびULBP2(残基1〜202位)は、トランスフェクションされた293T細胞において産生され、Invitrogen方法を用いて細胞上清から精製された。四量体は、フィコエリトリン(PE)-ストレプトアビジンとの結合により調製された。細胞は、飽和四量体濃度で4℃で1時間、染色され、フローサイトメトリーにより調べられた。非グリコシル化MICAは、前に記載されいてるように、細菌において発現し、精製された。バシトラシン、DTNB、およびPAOはSigmaからであった。メタロプロテイナーゼインヒビターGM 6001およびMMPインヒビターIIIはCalbiochemからだった。sMICAについてのELISAは他の所で記載されている。
【0223】
MICA結合表面タンパク質の同定
U266およびU937細胞(各5×109個)を、10mM Tris-HCl(pH7.6)、0.5mM MgCl2、1mM PMSF 、1μg/mlロイペプチン、および1μg/mlペプスタチンにダウンスホモジナイズした。膜画分を、デキストラン-PEG分配により透明化上清から単離し、洗浄し[8%スクロース、5mM Tris-HCl(pH7.4)]、溶解緩衝液[50mM Tris-Cl(pH7.4)、1% Triton X-114、150mM NaCl、5mM EDTA、5mMヨードアセトアミド、プロテアーゼインヒビター]において解離した。透明化上清を、37℃まで温め、タンパク質をTriton X-114相分離中に分配した。水性画分におけるタンパク質を、MICA結合セファロースビーズを用いてアフィニティー精製し、SDS-PAGEおよび銀染色により可視化し、FHCRC Mass Spectrometry FacilityにおいてMALDI-TOFにより分析した。イムノブロッティングについて、MICA結合タンパク質は、EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin (Pierce)での細胞表面ビオチン化後、調製された。
【0224】
siRNA発現およびリアルタイムPCR
ERP5(ジスルフィドイソメラーゼ関連タンパク質P5;GenBankアクセッション番号D49489)mRNAを316〜338位および556〜567位でターゲットにするsiRNA-17およびsiRNA-19のオリゴヌクレオチド対は、それぞれ、

であった(全5'-3';内部ヘアピン配列、3'末端終結シグナル、ならびにBgl IIおよびEco RIオーバーハングは下線が引かれている)。アニールされるプライマーを、レトロウイルスベクターpBABE-GFPへライゲーションし、構築物をシーケンシングした。ウイルスは、Phoenix両種指向性パッケージング細胞において産生され、培養上清がA375細胞の感染に用いられ、それはGFP発現についてソーティングされた。リアルタイムRT-PCRは、プライマーセット、ERP5についての

、ならびにMICA cDNAについての

、ならびにSYBR Green試薬(Molecular Probes)を用いて、前に記載されているように、行われた。
【0225】
sRNアーゼの調製およびERP5-MICA複合体の捕獲
RNアーゼAを変性し、0.1M Tris-OH(pH8.6)、6M塩酸グアニジン、および0.15Mジチオスレイトールにおいて室温(RT)で24時間、還元し、リン酸緩衝食塩水(PBS)と平衡に達したD-Salt Dextranカラム(Pierce)を用いて脱塩した。2×106個の半集密的なHela細胞を様々な濃度のsRNアーゼに16時間、曝し、洗浄し、EZ-Link Sulfo-NHS-LC Biotinで表面ビオチン化した。標識細胞を、PBS中0.5ml 10%(w/v)TCAにおいて氷上で30分間、インキュベートし、PBS中10%および5%TCAにおいて連続的に洗浄し、50mM Tris(pH7.4)、1%Surfact-Amps NP-40(Pierce)、150mM NaCl、5mM EDTA、40mM N-エチルマレイミド(Sigma)、1mM PMSF、ロイペプチン(1μg/ml)、およびペプスタチン(1μg/ml)に溶解した。可溶化液pHは1M Tris-OH(pH9.5)で7.0に調整された。タンパク質複合体をmAb 2C10(抗MICA)またはERP5ポリクローナル抗体で沈降させ、N-グリカナーゼで処理し、SDS-PAGEのために処理した。連続的沈降について、mAb 2C10免疫複合体を、150mM Tris(pH7.4)、0.5%SDS、および10mM DTTで解離し、25mMヨードアセトアミドを含む溶解緩衝液で10倍に希釈し、DTT中和およびスルフィドリルアルキル化のためにRTで1時間、インキュベートし、抗MICA mAb BAMO-1(Axxora)または抗ERP5で再沈降した。sMICA C末端切断の測定について、Opti-MEM(Gibco)において成長したC1R-MICAトランスフェクタント由来の上清をAmicon Ultra-15遠心濾過機(Millipore)を用いて濃縮した。sMICAを免疫沈降し、N-グリカナーゼで処理し、SDS-PAGEにより単離し、Harvard University Microchemistry FacilityにおいてMALDI質量分析法によるペプチド断片化分析に供した。
【0226】
ERP5活性アッセイ
外部ドメインのみのMICA、シデロカリン(Siderocalin)、およびCD94-NKG2Aを細菌において発現し、前に記載されているように精製した。本発明者らは、同様に、ERP5(成熟タンパク質の残基1〜421位)、ERP5断片1〜118位および135〜421位、ERP5 1〜118位のC36SおよびC39S突然変異体(Stratagene Quick Change方法により作製される)、ならびに単離されたMICAα1α2プラットフォーム(残基1〜180位)およびα3ドメイン(残基187〜274位)を作製した。全ERP5配列は、N-末端ヘキサヒスチジン区域に融合され、pET22(b)において隣接するヘキサヒスチジンの発現を防ぐためにC末端終結コドンを含んだ。組換えタンパク質を金属アフィニティー(BD Talon, Clontech)およびサイズ排除(Superdex 200, Pharmacia)クロマトグラフィーにより精製した。機能活性の試験について、ERP5または誘導体タンパク質(2μg)を、時点試料あたり5μlの総容量のPNEA[25mM PIPES(pH7)150mM NaCl1mM EDTA0.02%アジ化ナトリウム]においてMICA基質または対照タンパク質(1.5μg)とRTでインキュベートし、β-MEを含むまたは含まない2×SDS-PAGE試料緩衝液(5μl)と混合し、15%Tris-グリシンまたは12%Bis-Tris NuPAGE(Invitrogen)ゲルにおいて分離した。
【0227】
結果
免疫グロブリン融合タンパク質として作製されたランダムにオリゴマー化されたsMICA(rsMICA)または他のNKG2Dリガンドは、NKG2D発現リンパ球に専ら結合する。MICAおよびULBP2リガンド四量体を試験して、本発明者らは、これらの高結合力試薬がNKL NK細胞系を染色すること、および抗体マスキングの完全阻害効果により示されるように、結合がNKG2Dにより専ら占められることを確認した(図10A)。しかしながら、〜40個の細胞系のフローサイトメトリースクリーニングにより、本発明者らは、MICA四量体は、NKG2Dを欠く細胞型を染色するが、ULBP2は染色しないことを観察した。最高蛍光強度は、試験されたU266黒色腫細胞およびすべての10個の上皮腫瘍系に関して記録され、相対的大量の細胞表面MICAと相関した。線維芽細胞、ならびに他の骨髄性細胞、B細胞、およびNKG2D- T細胞を含むリンパ球細胞系に関して、染色強度は、典型的には、より低くかつ不均一であった。単球のU937細胞のみが四量体結合について陰性と同定された(図10A)。MICA四量体は、トランスフェクションされたヒト293T細胞により分泌される高度グリコシル化タンパク質を用いて調製された。しかしながら、四量体結合は、U266および上皮腫瘍細胞上でのポリペプチド結合糖のN-グリカナーゼ媒介性切断後、減少しなかったが、細菌で産生された非グリコシル化rsMICAの存在下において阻害された(図10A;データ未呈示)。従って、これらの結果により、一般的なNKG2Dリガンドを含まないが、MICA、およびおそらくタンパク性細胞表面因子が関与する、未認識相互作用が明らかにされた。
【0228】
候補四量体結合タンパク質を、MICA結合セファロースビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによりU266および陰性対照U937細胞外膜画分から精製した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および銀染色により、U937細胞に関して検出されなかったが、U266に関して検出された2セットのタンパク質バンドが明らかにされた(図10B)。質量分析により、76〜78キロダルトン(kD)分子量範囲にある2つのタンパク質バンドは、グルコース調節タンパク質78(GRP78、BiPとしても知られている)と明白に対応した。50kDの主要なタンパク質バンドは、ERP5(P5としても知られている)と同定され、約47kDおよび48kDの2つの追加のタンパク質は、チオレドキシンファミリーメンバーと類似性を共有した。すべてのこれらのタンパク質は典型的には細胞内であるため、本発明者らは、それらの外側の細胞膜局在を詳しく調べた。しかしながら、同じ精製プロトコールおよび表面ビオチン化細胞を用いて、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)またはポリクローナル抗血清で探索されたイムノブロットにより、U266細胞の表面上のGRP78、およびより顕著に、ERP5の存在が確認されたが、U937細胞においては確認されなかった(図10C)。ERP5は、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)に関係している。両方のタンパク質は、2つのチオレドキシン様ドメインを含み、それぞれ、1対のCXXCモチーフにおける活性部位システインを有し、新生ポリペプチドジスルフィド結合の細胞内形成を媒介する;しかしながら、それらは、細胞外ジスルフィド交換にも関与している。
【0229】
MICAとERP5の間の機能的関係の探究において、本発明者らは、NKG2DリガンドのULBPファミリーのではなく、MICAの特性である上皮腫瘍関連発現を手掛かりとした。この考えは、新鮮に単離された上皮腫瘍細胞が四量体および抗MICA抗体の結合の類似したパターンを示した時に促された(図11A)。それゆえに、本発明者らは、U266細胞および上皮腫瘍細胞系(Hela、A375黒色腫、ならびにHCT116およびLovo結腸癌)を、PDIオキシドレダクターゼ活性を阻害する抗生物質であるバシトラシンに、またはDTNB[5,5-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)]もしくはPAO(酸化フェニルアルシン)(その触媒部位におけるチオール基と、それぞれ、ジスルフィド結合および配位結合を形成することによりPDI機能を損なう)に曝すことによりMICA流出におけるERP5の可能性のある役割を試験した。すべてのインヒビターは、濃度依存性様式でsMICAの生成を著しく低下させた(図11B;データ未呈示)。さらに、PAOでの処理はまた、四量体結合を減少させたが、MICAがERP5触媒部位と直接的に相互作用することを示唆した(図11C)。補完的な証拠を得て、ERP5以外のチオールイソメラーゼの関与を排除するために、本発明者らは、レトロウイルス形質導入A375細胞においてERP5 mRNAの2つの領域をターゲットにするsiRNA構築物を発現させた。リアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)により測定される場合、ERP5 mRNAは、約70〜80%、低下した(図12A)。結果として、MICA四量体結合およびsMICA流出は実質的に減少したが、MICA mRNAおよび表面タンパク質の量は顕著には変化しなかった(図12B〜C;データ未呈示)。
【0230】
ERP5とMICAの間の見かけの機能的会合は、生化学的に分析された。Hela細胞可溶化物由来の相互作用性タンパク質を免疫共沈降させることができなかった最初の失敗は、ERP5とMICAが、たぶん一過性のジスルフィド交換のせいで、安定な複合体を形成しないことを意味した。しかしながら、Hela細胞がトリクロロ酢酸(TCA)で処理され、混合ジスルフィドポリペプチドをトラップし、チオール相互交換を消滅させる場合、ERP5はMICAと特異的に免疫共沈降した(図13A、レーン1)。細胞可溶化物におけるスルフィドリル基は、ジスルフィド結合およびN-グリカナーゼで脱グリコシルした免疫複合体の人工的形成を防ぐためにアルキル化された。この手順は、「スクランブル化」(変性および還元型)RNアーゼ(sRNアーゼ)の存在下で成長したHela細胞を用いることにより改変され、それは、ERP5平衡を還元状態へシフトし、それによりMICAとのジスルフィド交換を支持する過剰基質としての役割を果たした。還元SDS-PGEによる分析は、増加性濃度のsRNアーゼが結果として、大量のERP5のMICAとの免疫共沈殿を生じることを示した(図13A、レーン1〜4)。付随して、38kDのMICAポリペプチド(Hela細胞では細胞質テールのホモ接合型欠失により短縮されている)が消滅し、sRNアーゼの非存在下において検出されなかった、31kDおよび34kDの分子量をもつタンパク質が出現した。これらの2つのタンパク質のうち、34kD種は、解離した免疫複合体からの二次沈降およびHela細胞培地から単離されたsMICAとの比較により測定される場合の切り詰められたsMICAに対応した(図13A、レーン3、4、9、および12)。31kDタンパク質のアイデンティティを決定することができなかったが、それは、ERP5-MICA複合体へリクルートされるもう一つの基質を表す可能性がある。同様のデータは、免疫沈降のために抗ERP5を用いて得られた(図13A、レーン5および6)。従って、これらの結果は、sRNアーゼ処理Hela細胞およびA375細胞培養物におけるsMICAの大幅な増加により実証された、sMICAの生成と密接な関係があるERP5とMICAの間の動的相互作用を示した(図13B)。
【0231】
ERP5媒介性MICAジスルフィド結合還元を実証し、基質およびドメイン特異性を探索するために、細菌性に産生され、精製された組換えタンパク質を混合し、還元剤の非存在下で、およびそれゆえ、酸化条件下で、インキュベートした。非還元ゲル電気泳動および対照β-メルカプトエタノール(β-ME)処理および未処理の試料との比較により、MICAの漸進的な還元が示された(図14A)。これは、ERP5が無傷の、正しくフォールディングされた、基質タンパク質を等エネルギー的に、かつ溶液中いかなる他の因子も存在しない状態で、作用する場合、顕著であった。同様の結果は、密接に関連したMICBに関して得られた(データ未呈示)。対照的に、ERP5は、比較的到達可能な鎖内(シデロカリン)または鎖内および鎖間(CD94-NKG2A)のジスルフィド結合を有する非関連タンパク質には作用しなかった(図14B〜C)。MICAがGRP78と共にERP5に曝された場合、相乗効果は観察されなかった。2つの別々のポリペプチドとして発現する、2つのERP5チオレドキシン様ドメイン(アミノ酸残基1〜118位および135〜421位;図15A)のうち、N末端ドメインのみが機能的活性を示した(図15B;データ未呈示)。PDIと同様に、ERP5は、触媒機構を用い、それにより、1つの活性部位システインは標的ジスルフィドに侵入し、一過性にジスルフィド結合ヘテロ二量体を形成し、それは第二活性部位システインとのジスルフィド交換により分解される。2つのERP5 1〜118位突然変異体断片のうち、C36SはMICA基質への活性を示さなかったが、C39Sはトラップされたジスルフィド結合中間体を形成し、従って、C36の役割を侵入することと、およびC39をこの反応における分解システインと確認した(図15C;データ未呈示)。サイズ排除クロマトグラフィーにより、無傷ERP5は溶液中で三量体であったが、その2つの個々のドメインは単量体のように振る舞った(データ未呈示)。従って、ドメイン間相互作用によるERP5多量体化は、MICA基質還元に必要とされなかった。
【0232】
通常のMHCクラスI分子と同様に、MICAは、α1、α2、およびC型免疫グロブリン様α3ドメインにおいて、それぞれ、アミノ酸残基36位と41位、96位と164位、および202位と259位の間に位置する3つの鎖内ジスルフィド結合を含む。標的ジスルフィドを同定するために、α1α2プラットフォームおよびα3膜近位ドメインを発現させ、別々に試験した。ERP5はα1α2ドメインに関して触媒活性を示さなかった(図15D)。本発明者らは、比較的小さいα3ドメインの還元型および非還元型を電気泳動的に分離することはできなかったため、本発明者らは分析のためにC39S突然変異を有するERP5 1〜118位ポリペプチドを用いた。ゲル電気泳動により、非分離混合型ジスルフィドヘテロ二量体に対応する大きなタンパク質バンドシフトが明らかにされた(図15E)。従って、ERP5によりターゲットされるジスルフィド結合は、MICAα3ドメインにあった。
【0233】
MICAのタンパク分解性切断は、メタロプロテイナーゼにより媒介されると考えられている。しかしながら、本発明者らは、メタロプロテイナーゼインヒビターによるsMICA流出における低下を観察せず、多様なプロテアーゼがMICAを切断する能力を有しうることを示唆した。MICA切断部位を決定するために、本発明者らは、適度の量のERP5を発現するが、U266および上皮腫瘍細胞の成長が悪い無血清培地において活発に増殖するトランスフェクタントC1R-MICA細胞培養物からsMICAを精製した。トリプシンペプチド断片の質量分光分析によるC末端シーケンシングにより、膜貫通境界地点または近くに数個の隣接アミノ酸残基で構成される不規則なMICA C末端が明らかにされた。
【0234】
結論として、これらの結果により、表面ERP5と膜貫通アンカー型NKG2DリガンドMICAの間の動的相互作用による、MICAα3ドメインの再構築と同時の一過性ジスルフィド交換がsMICA流出を可能にすることが明らかにされている。等エネルギー的プロセスにおいて非常に安定なタンパク質フォールディングに影響を及ぼす、この立体構造的変化のスケールは、混合ジスルフィド分解後、MICA膜近位領域のタンパク分解性活性への到達可能性を完全に変化させるのに十分大きい可能性が高い。この反応の補助におけるMICA関連表面GRP78の可能性のある役割は、不確かなままである。ERT5およびPDIなどのタンパク質の細胞内保持の回避、ならびにそれらの表面付着は十分には理解されていないが、単純には、増殖および細胞ストレス − 結果としてまた、許容型の細胞においてMICAの発現の誘導を生じる状態 − に関連した発現の増加後の漏出を含みうる。表面チオールイソメラーゼの生物学的機能の先例には、インテグリン親和性状態の変化、CD4 T細胞へのウイルス侵入前のHIV-1 gp120エンベロープタンパク質切断の促進、および血小板接着の調節が挙げられる。さらに、樹状細胞の表面上のカルレティキュリンは、腫瘍関連NY-ESO-1抗原の受容体として機能する。本明細書の結果は、ERP5機能が腫瘍免疫回避を促進し、sMICA媒介性T細胞調節を通して自己免疫疾患に影響を及ぼしうることを実証した。
【0235】
本明細書に開示および主張された組成物ならびに/または方法のすべては、本開示に照らせば、過度の実験なしに作製および実行されうる。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して記載されているが、バリエーションが、本発明の概念、真意、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された、組成物および/または方法に、および方法の段階において、もしくは段階の順序において、適用されうることは当業者に明らかであると思われる。より具体的には、化学的および生理学的の両方に関連している特定の作用物質が、本明細書に記載された作用物質の代わりに用いられても、同じまたは類似した結果が達成されるだろうことは明らかであると思われる。当業者にとって明らかな、すべてのそのような類似した置換および改変は、添付された特許請求の範囲により定義される本発明の真意、範囲、および概念内にあると考えられる。
【0236】
XI. 参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に示されたものの補充となる例示的な手順または他の詳細を提供する程度まで、具体的に参照により本明細書に組み入れられている。








【図面の簡単な説明】
【0237】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、より良く理解されうる。
【図1】MIC陽性腫瘍を有する患者におけるNKG2D+CD4+ T細胞の増殖。TIL、腫瘍浸潤リンパ球;PBMC、末梢血単核細胞。正常なCD4 T細胞のわずか約0.5〜2%がNKG2Dについて陽性である(未呈示)。BT、乳房腫瘍;OT、卵巣腫瘍;LT、肺腫瘍。
【図2】対照、ならびにMIC-およびMIC+腫瘍患者由来のTILおよびPBMC上のNKG2D平均蛍光値の範囲。N、試料数。
【図3】NKG2D+CD4+ T細胞は、メモリー(CD45RO)および活性化(CD25、HLA-DR)マーカーを発現する。
【図4】抗CD3活性化による正常なCD4+ T細胞上のNKG2D誘導。誘導は、可溶性MICA(sMICA)の追加の存在下で共刺激の結果として増強される。
【図5】(図5A)CFSE希釈により示された、NKG2D+CD4+ T細胞のリガンド(sMICA)誘導性増殖(パーセント数参照)およびNKG2D-CD4+ T細胞増殖の阻害。(図5B)増殖の用量依存性阻害。(図5CおよびD)ヨウ化プロピジウム(PI)染色により、sMICAまたは抗NKG2D抗体への曝露後のG0/G1における部分的細胞周期停止。
【図6】(図6A)sMICA、腫瘍患者血清BT450-85によるCD4 T細胞増殖の阻害、ならびに抗MIC mAb 6D4による;C1R細胞のMICAおよびULBP1トランスフェクタントによる;および抗NKG2Dによる中和。(図6B)sMICA添加の時間経過中のNKG2D誘導の動力学。
【図7】トランスウェルおよびT細胞枯渇実験は、T細胞増殖の抑制が細胞-細胞接触に関係なく、NKG2D-CD4+ T細胞により産生されないが、NKG2D+CD4+ T細胞により産生される可溶性因子により媒介されることを実証している。
【図8】(図8A)抗CD3、または抗CD3プラスsMICAもしくは抗NKG2Dに刺激されたCD4+ T細胞のサイトカインおよびFas-L分泌。(図8B)NKG2D-CD4+ T細胞上ではなくNKG2D+CD4+ T細胞上のFas-Lの表面検出。(図8C)抗CD3およびsMICAで活性化された培養CD4+ T細胞由来の上清は、活性化抗Fas抗体と類似して(左ドットプロット)、ジャーカット細胞アポトーシスを誘導する(中央ドットプロット)。この活性は、ブロッキング抗Fas抗体により阻害されうる(右ドットプロット)。(図8D)ブロッキング抗Fas抗体によるT細胞増殖の阻害の抑止。
【図9】MICA流出のための腫瘍細胞表面会合型チオレダクターゼ活性の必要性。(図9A)チオレダクターゼインヒビター、バシトラシン、DTNB[ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)]、およびPAO(酸化フェニルヒ素)によるsMICA流出の阻害。(図9B)PAOはMICA四量体の腫瘍細胞系への結合を阻害する。
【図10】NKG2D非依存的な特異的MICA四量体結合、ならびにMICAのERP5およびGRP78との一時的表面相互作用。(図10A)フローサイトメトリー分析は、MICA(黒色プロファイル)およびULBP(薄い陰影のプロファイル)四量体のNKL細胞への結合、ならびに抗NKG2D mAb 1D11による結合の完全な阻害(陰影のプロファイル)を確認した。ULBP2四量体ではなかったが、MICA四量体は、NKG2D- U266、Hela、HCT116、Lovo、およびA375腫瘍細胞に結合し、結合は、細菌で産生された組換え可溶性MICA(rsMICA;陰影のプロファイル)により阻害される。U937細胞は、MICA四量体結合について陰性である。全パネルにおける白色プロファイルは、IgG対照染色を表す。(図10B)MICAビーズへの結合について濃縮されたU266およびU937外側細胞膜タンパク質のSDS-PAGE後の銀染色。TRX、チオレドキシン。(図10C)表面ビオチン化細胞からのMICAビーズ精製タンパク質のSDS-PAGE後の探索、およびストレプトアビジン-HRPまたは特異的抗血清でのイムノブロッティングが、GRP78およびERP5の表面局在を確認する。抗ERP5パネルにおける2つの微量な追加のバンドは、抗血清と交差反応性である関連タンパク質である可能性が高い。
【図11】腫瘍関連ERP5表面発現およびsMICA流出の薬理学的阻害。(図11A)新鮮に単離された乳房、卵巣、および黒色腫腫瘍細胞は、MICA発現およびMICA四量体結合の蛍光強度の類似したパターンを示す。(図11B)チオレダクターゼインヒビター、バシトラシン、DTNB、およびPAOは、ELISAにより測定される場合、用量依存様式で、HelaおよびA375細胞によるsMICAの流出を低下させる。示されたデータは、3つの実験を代表する。(図11C)PAOはMICA四量体結合に干渉する。
【図12】ERP5はsMICA流出に必要とされる。(図12A)A375細胞のレトロウイルス形質導入によるsiRNA構築物17または19の発現は、結果として、リアルタイムRT-PCRにより測定される場合、細胞ERP5 mRNAの70〜80%低下を生じる。(図12B)ERP5 mRNAのノックダウンは、MICA四量体結合を減少させる(右列、黒色プロファイル);白色プロファイルは偽形質導入された細胞を表す。MICA発現(左列、陰影のプロファイル)は変化しない;白色プロファイルはIgG対照染色を表す。(図12C)ERP5 mRNAのノックダウンはsMICA流出を減少させる。
【図13】ERP5-MICAジスルフィド交換は、膜アンカー型MICAの切断を可能にする。(図13A)表面ビオチン化細胞の可溶化物からの抗MICAでの免疫沈降、N-グリカナーゼ媒介性タンパク質脱グリコシル、非還元SDS-PAGE、およびイムノブロッティングの前のTCAでのHela細胞の処理により、MICA-ERP5複合体が明らかにされる(レーン1)。タンパク質アイデンティティは、二次沈降により確認される(レーン7、8、および10)。追加の対照は、ERP5の一次沈降により(レーン5および6)、および精製rERP5により(レーン11)提供される。増加性濃度のsRNアーゼの存在下での細胞培養後、免疫共沈降するERP5の量は増加し(レーン1〜4)、完全長MICAは消失し(レーン1および2をレーン3および4と比較する)、sMICAが出現する(レーン3および4)。sMICAのアイデンティティは、二次沈降(レーン9)および細胞培地から単離されたsMICAとの比較(レーン12)により確認される。(図13B)sRNアーゼの濃度の増加は、A375およびHela細胞によるsMICA流出を促進する。示されたデータは、3つの実験を代表する。
【図14】インビトロでのERP5によるMICAの特異的還元。(図14A)ERP5(レーン1)およびMICA(レーン2)は、SDS-PAGEにより還元条件下(+β-ME)で分析される場合、それらの予想された分子量で流れる。非還元MICA(レーン3)は、安定な鎖内ジスルフィド結合と一致して、電気泳動移動度の増加を示す。MICAおよびERP5の室温での1時間または3時間の共インキュベーションにより、漸進的なMICA還元が明らかにされる。(図14B〜C)シデロカリンおよびCD94-NKG2Aについて明らかなERP5による還元はない。
【図15】MICAの膜近位α3ドメインについてのERP5基質特異性。(図15A)チオレドキシンドメイン(白色ボックス)内の活性部位CGHCモチーフを示すERP5ドメイン構造の概略図。上部の数はドメイン境界におけるアミノ酸位置を指す;下部の数は、システイン残基の位置および別々に発現したERP5断片の内部切断部位を同定する。KDEL配列は、C末端小胞体保持モチーフを表す。(図15B)非還元SDS-PAGEは、MICAがN末端ERP5により部分的に還元されている(レーン3)ことを示す。全パネルの右側の黒色および白色矢じりは、MICA基質の、それぞれ、非還元型および還元型の位置を示す。および対照タンパク質のアミノ酸残基1〜118位を含むポリペプチド断片。(図15C)MICA基質のERP5断片1〜118位の活性部位C39S突然変異体との1時間または3時間(レーン5および6)のインキュベーションは、結果として、β-MEにより分解される(レーン7)ジスルフィド結合ヘテロ二量体(アスタリスクによりマークされた位置)を生じる。突然変異体ERP5断片は一部、非還元条件下でホモ二量体を形成する(レーン3をレーン4〜6と比較する)。(図15D)ERP5はMICAα1α2プラットフォームドメインに効果を生じない。レーン2における部分的還元は、レーン1からの還元剤の浸出による。(図15E)ERP5 1〜118位C39S突然変異体ポリペプチドは、分解されていない蛋白質ヘテロ二量体の出現により示されているように、MICAのα3ドメインジスルフィド結合を還元する(レーン4および5;2つのアスタリスクによりマークされた位置)。図15Cにおいてのように、突然変異型ERP5は一部、ホモ二量体を形成する。図15B〜Dの右側の黒色および白色矢じりは、MICA基質タンパク質の、それぞれ、非還元型および還元型の位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ERP5およびMICA/MICBを発現する細胞を供給する段階;
(b)細胞を候補物質と培養する段階;ならびに
(c)(i)MICA/MICBの細胞表面発現、(ii)ERP5とのMICA/MICB複合体形成、(iii)MICA/MICBにおけるジスルフィド結合還元、(iv)MICA/MICB四量体結合、(v)MICA/MICBのタンパク分解性切断、(vi)可溶性MICA/MICBの存在、(vii)ERP5の転写、翻訳、もしくは細胞表面発現、および/または(viii)MICA/MICB自己抗体の1つまたは複数を評価する段階、
を含む、免疫調節剤についてスクリーニングする方法であって、
候補物質で処理されていない細胞と比較した際の、(c)(i)〜(vii)のいずれかにおける変化により、候補物質が免疫調節剤であると同定される、方法。
【請求項2】
候補物質が、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、有機薬剤、または脂質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が、上皮腫瘍細胞、活性化リンパ球、滑膜細胞、白血病細胞、活性化造血細胞、炎症性細胞、感染細胞、または自己免疫性病変由来の細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞をERP5発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む、MICA/MICBおよびERP5を発現する細胞においてMICA/MICB切断を調節する方法。
【請求項5】
モジュレーターがERP5によるMICA/MICBの放出を変化させる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
モジュレーターがERP5によるMICA/MICBへの結合を変化させる、請求項4記載の方法。
【請求項7】
モジュレーターがERP5によるMICA/MICBの異性化を変化させる、請求項4記載の方法。
【請求項8】
モジュレーターがERP5によるMICA/MICBのチオ還元(thioreduction)を変化させる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
モジュレーターがERP5の転写または翻訳または細胞表面発現を変化させる、請求項4記載の方法。
【請求項10】
細胞が、上皮腫瘍細胞、活性化リンパ球、滑膜細胞、白血病細胞、活性化造血細胞、炎症性細胞、感染細胞、または自己免疫性病変由来の細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項11】
モジュレーターが、EPR5の競合基質であるアンタゴニストである、請求項4記載の方法。
【請求項12】
モジュレーターが、チオレダクターゼ(thioreductase)インヒビターであるアンタゴニストである、請求項4記載の方法。
【請求項13】
モジュレーターが、バシトラシン、DTNB、およびPAOから選択されるアンタゴニストである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
以下の段階を含む、被験体においてERP5によるMICAおよび/またはMICB切断を低下させる方法:
(a)MICA/MICBに結合する、ならびにERP5によるMICAおよび/またはMICBの切断をブロックする能力に基づいて結合剤を選択する段階;
(b)ERP5によるMICAおよび/またはMICA切断を低下させるのに十分な量および経路で、該結合剤を該被験体に投与する段階。
【請求項15】
結合剤が抗血清またはモノクローナル抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
結合剤が非切断型のERP5を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
被験体が癌を有する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
結合剤がMICAおよび/またはMICBのNKG2Dへの結合をブロックしない、請求項14記載の方法。
【請求項19】
結合剤が、MICAおよび/もしくはMICBにおけるERP5切断部位に、またはその近くに結合する、請求項14記載の方法。
【請求項20】
結合剤が、ERP5切断部位の遠位に結合し、かつERP5がMICAおよび/またはyjr MICBを切断しないように立体構造的変化を引き起こす、請求項14記載の方法。
【請求項21】
被験体にNKG2D+CD4+細胞のアゴニストを投与する段階を含む、自己免疫疾患を有する被験体を処置する方法。
【請求項22】
アゴニストがMICA、MICB、抗NKG2D+抗体、もしくはそれらの誘導体、DAP10、またはULB1〜10である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
自己免疫疾患が、RA、SLE、若年性SLE、強皮症、MS、クローン病、セリアック病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病(1型)、多発性硬化症、ヴェゲネル肉芽腫症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、皮膚筋炎、多発性筋炎、T細胞媒介性移植片拒絶反応、およびギラン・バレーでありうる、請求項21記載の方法。
【請求項24】
以下の段階を含む、MIC分泌性腫瘍を有する被験体を処置する方法:
(a)腫瘍によるMIC分泌を評価する段階;および
(b)該被験体にFasLのアンタゴニストを投与する段階。
【請求項25】
被験体にFasL活性のアゴニストを投与する段階を含む、自己免疫疾患を有する被験体を処置する方法。
【請求項26】
自己免疫疾患が、RA、SLE、強皮症、MS、クローン病、セリアック病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病(1型)、多発性硬化症、ヴェゲネル肉芽腫症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、皮膚筋炎、多発性筋炎、GVHD、およびギラン・バレーである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞をERP5の発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む、MICA/MICBおよびERP5を発現する細胞においてMICA/MICB切断を調節するエクスビボ方法。
【請求項28】
細胞をERP5の発現または機能のモジュレーターと接触させる段階を含む、MICA/MICBおよびERP5を発現する非ヒト細胞においてMICA/MICB切断を調節するインビボ方法。
【請求項29】
ERP5によるMICAおよび/またはMICB切断を低下させることにより効果を発揮する薬剤の製造における、MICA/MICBに結合する、ならびにERP5によるMICAおよび/またはMICBの切断をブロックする能力がある結合剤の使用。
【請求項30】
自己免疫疾患の処置のための薬剤の製造における、NKG2D+CD4+細胞のアゴニストの使用。
【請求項31】
自己免疫疾患の処置のための薬剤の製造における、FasL活性のアゴニストの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−514528(P2009−514528A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538931(P2008−538931)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/041860
【国際公開番号】WO2007/055926
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508133879)
【Fターム(参考)】