説明

Nb3Sn超電導線材製造用前駆体およびNb3Sn超電導線材

【課題】良好な加工性を確保できると共に、Nb3Sn超電導線材の高強度および優れた超電導特性を発揮できるような前駆体(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体)の構成、およびNb3Sn超電導線材を提供する。
【解決手段】本発明の超電導線材製造用前駆体は、Cu−Sn基合金中に、複数本のNbまたはNb基合金からなるNb基フィラメントが配置された超電導マトリックス部と、その外周に拡散障壁層および安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、前記超電導マトリックス部には、純Nbからなる補強部材が配置されると共に、当該補強部材の外周面にTa層が形成されたものであり、且つ補強部材の前駆体横断面に占める面積率が8〜30%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nb3Sn超電導線材をブロンズ法によって製造するための前駆体(超電導線材製造用前駆体)、およびこうした前駆体によって製造されるNb3Sn超電導線材に関するものであり、殊に前駆体における良好な加工性を確保すると共に、Nb3Sn超電導線材における優れた超電導特性を発揮できる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材を巻回したコイルに大電流を流して強磁場を発生させる超電導マグネットは、核磁気共鳴(NMR)分析装置や物性評価装置の他に、電力貯蔵や核融合炉等への応用を目指して、その開発が進められている。
【0003】
超電導マグネットに使用される金属系の超電導線材としては、Nb3Sn線材が実用化されており、このNb3Sn超電導線材の製造には主にブロンズ法が採用されている。このブロンズ法では、図1(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体の模式図)に示すように、Cu−Sn基合金(ブロンズ)マトリックス1中に複数(図では7)のNb若しくはNb基合金(例えば、Nb−Ta合金)からなる芯材2を埋設して一次スタック材3が構成される。尚、この一次スタック材3は、図1に示すように断面形状が六角形になるようにされる。
【0004】
上記一次スタック材3を、伸線や押し出し等の減面加工することによって上記芯材2を細径化してフィラメント(以下、「Nb基フィラメント」と呼ぶことがある)とし、このNb基フィラメントとブロンズとからなる一次スタック材3を複数束ねて線材群となし、これを拡散障壁層4としてのNbシートやTaシートを巻いたパイプ形状のCu−Sn合金5内に挿入し、或いは一次スタック材3を複数束ねた線材群にNbシートやTaシートを直接巻き、その外周に安定化銅6を配置することによって二次多芯ビレット7を組み立てる。
【0005】
上記のような二次多芯ビレット7を静水圧押し出しし、続いて引き抜き加工等による減面加工を施し、図1の断面形状を維持したまま保持された前駆体や、断面矩形状の平角線材(図示せず)の前駆体に加工される。
【0006】
上記のような前駆体(伸線加工後の線材)を650〜720℃付近の温度で80〜150時間程度の拡散熱処理(Nb3Sn生成熱処理)をすることにより、Nb基フィラメントとブロンズマトリックスの界面にNb3Sn化合物層を生成させてNb3Sn超電導線材とする。
【0007】
上記のような前駆体においては、図1に示すように、Cu−Sn基合金(ブロンズ)マトリックス1中に複数のNb基フィラメントが配置された部分(以下、「超電導マトリックス部」と呼ぶことがある)と安定化銅6の間に拡散障壁層4を配置した構成とするのが一般的である(例えば、特許文献1)。この拡散障壁層4は、例えばNb層またはTa層、或いはNb層とTa層の2層からなり、拡散熱処理の際に超電導マトリックス部内のSnが外部に拡散してしまうことを防止し、安定化銅6へのSnの拡散を抑える作用を発揮するものである。
【0008】
ところで、上記のようなNb3Sn超電導線材を用いた高磁界マグネットは蓄積エネルギーが大きく、励磁時にマグネットを構成する超電導線材に高い応力(電磁応力)が印加されることになる。こうしたことから、超電導線材自体にも高い応力に耐えられるだけの強度が要求される。特に、Nb3Sn超電導線材の臨界電流は、歪みに対して敏感であり、歪みが0.2%を超えると臨界電流が歪みと共に減少していくので、Nb3Sn超電導線材の高強度化が検討されており、これまでに様々な技術が提案されている。
【0009】
こうした技術として、例えば特許文献2では、Nb,V,Zr,Hf等の合金元素を含むTa合金を補強部材として配置したNb3Sn超電導線材が提案されている。また、特許文献3には、Nb基合金、V基合金、Cu−Nb系合金、Cu−V系合金等の合金を、補強部材として用いたNb3Sn超電導線材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭51−61794号公報
【特許文献2】特開平9−82149号公報
【特許文献3】特開平10−255563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまでの技術では、補強部材として提案されている素材は、基本的に合金である。こうした補強部材では、合金ゆえに強度的に優れる反面、加工により導入される格子欠陥(転位)の移動が溶質元素により阻害されるので、純金属に比べて加工硬化が著しく進行することになる。
【0012】
また、上記のような構成の前駆体では、Cu−Sn基合金(ブロンズ)部の加工硬化が激しいので、加工工程の途中で複数回の焼鈍処理が施されるのが一般的である。この焼鈍は、通常500〜600℃程度で行なわれることになるが、この焼鈍によってCu−Sn基合金(ブロンズ)部は軟化できる。
【0013】
これに対し、これまで提案されている補強部材(合金)では、いずれも高融点金属であるので、これらの材料が焼鈍時に軟化する度合いは小さいものとなる。また、加工硬化が進行してしまった後(線材の細径まで加工した後)には、補強部材が起点となって、断線が却って生じやすい状況になる。こうした状況を回避するためには、補強部材を焼鈍することも考えられる。
【0014】
しかしながら、高融点金属を軟化させるためには、通常800℃以上の熱処理を行なわなければならず、その一方で、高温で熱処理した場合には、Nb基フィラメントとブロンズマトリックスの界面で、Nb3Sn超電導相の生成反応が進行してしまうことになる。Nb3Sn超電導相は塑性変形できないので、その後の加工工程で断線が生じることになる。即ち、断線を防止するために、補強部材の軟化を目的とした焼鈍を施すことは、却って断線を生じさせるという結果を招くことになる。
【0015】
こうしたことから、高温での焼鈍を施さずとも良好な加工性を確保できると共に、超電導線材における高い強度を確保することのできる前駆体の実現が望まれているのが実情である。また、超電導線材を製造する上で、高い臨界電流密度や交流損失の低減等の基本的な超電導特性を発揮できることも重要な要件である。
【0016】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、良好な加工性を確保できると共に、Nb3Sn超電導線材の高強度および優れた超電導特性を発揮できるような前駆体(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体)の構成、および上記のようなNb3Sn超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成することのできた本発明の超電導線材製造用前駆体とは、Nb3Sn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体であって、Cu−Sn基合金中に、複数本のNbまたはNb基合金からなるNb基フィラメントが配置された超電導マトリックス部と、その外周に拡散障壁層および安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、
前記超電導マトリックス部には、純Nbからなる補強部材が配置されると共に、当該補強部材の外周面にTa層が形成されたものであり、且つ補強部材の前駆体横断面に占める面積率が8〜30%である点に要旨を有するものである。
【0018】
こうした構成の前駆体においては、補強部材は超電導マトリックス部の横断面中央に配置されることが好ましい。
【0019】
前記拡散障壁層は、Nb層またはTa層、或はNb層とTa層の2層からなるもののいずれの構成も採用できるが、このうち少なくともTa層を含む層(Ta層、またはNb層とTa層の2層)であることが好ましい。
【0020】
上記のような超電導線材製造用前駆体に対して、700℃以下の温度でNbSn生成熱処理を施すことによってNbSn系超電導相を形成したものでは、希望する特性を発揮するNb3Sn超電導線材が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超電導マトリックス部に、純Nbからなる補強部材を配置すると共に、当該補強部材の外周面にTa層を形成し、且つ補強部材の前駆体横断面に占める面積率を規定したので、良好な加工性を確保できると共に、高強度を有し且つ優れた超電導特性を発揮できるNb3Sn超電導線材金を製造することができるような前駆体(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体)が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ブロンズ法に適用される超電導線材製造用前駆体の構成例を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明のNbSn超電導線材製造用前駆体の構成例を示す断面図である。
【図3】純Nb面積率が臨界電流密度および0.2%耐力に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、高温での焼鈍を施さずとも、良好な加工性を確保できると共に、超電導線材における高い強度を確保できる前駆体の実現を目指して様々な角度から検討した。その結果、図1に示した前駆体の構成において、前記超電導マトリックス部に、純Nbからなる補強部材を所定の割合で配置する構成を採用すれば、上記した基本的課題が解決できることが分かった。
【0024】
しかしながら、前記超電導マトリックス部に、純Nbからなる棒状の補強部材を配置することについては、前記特許文献3にも示唆されており、こうした構成を採用しただけでは、超電導特性の点で別の問題が発生することになり、根本的な解決にはなり得ないことも判明した。
【0025】
即ち、純Nbを補強部材として配置した場合に、この補強部材とブロンズが接触した状態で拡散熱処理を施すと、補強部材の外周面にもNb3Sn超電導相が生成することになり、マグネットとして使用する際に超電導特性として重要となる交流損失を増大させることになる。これは、純Nb周囲に生成したNb3Sn相の影響で「有効フィラメント径」が増大するためであると考えられる。この有効フィラメント径は、フィラメントが一体として振る舞うときの実効的な直径を意味し、磁気的安定性の指標となるものであり、この値が小さいほど超電導特性の安定性が高いと判断されるものである。また、後記(2)式に示すように、フィラメント径(上記「有効フィラメント径」に相当)は、交流損失に影響を及ぼす要因となるものであり、このフィラメント径が小さいほど、交流損失も小さくなる。
【0026】
本発明者らは、こうした問題を解決することについても検討した。その結果、純Nbからなる補強部材の外周面にTa層を形成すれば、上記のような問題も生じることのない(即ち、交流損失を低減した)超電導線材が実現できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の前駆体の構成を説明する。
【0027】
図2は本発明の前駆体(Nb3Sn超電導線材製造用前駆体)の構成例を示す断面図であり、前駆体としての基本的な構成は前記図1に示したものと類似するが(共通部分には、同一の参照符号を付してある)、要するに、複数本のNbまたはNb基合金からなるNb基フィラメントが配置された超電導マトリックス部に(この図では、超電導マトリックス部の横断面中央)、純Nbからなる補強部材8(この図では、棒状)を配置すると共に、当該補強部材8の外周面にTa層9を形成した構成である。
【0028】
純Nbからなる補強部材を配置する構成を採用することによって、前駆体における加工性を良好にできると共に、拡散熱処理の段階で、補強部材の外周面近傍にNb3Sn超電導相が形成されることをTa層9の存在によって阻止できる。その結果、上記した有効フィラメント径の増大を防止して、交流損失の低減が図れるものとなる。
【0029】
こうした作用を発揮するTa層の厚みについては、特に限定するものではなく、加工性を良好に維持するという観点からすれば(Ta合金に比べてTaは加工性が良好である)、できるだけ薄い方が好ましいが、伸線等の縮径加工後にNb3Sn超電導相形成阻止効果を発揮させる点をも考慮すれば、一次スタック材の段階で、0.1〜0.5mm程度であることが好ましい。また、補強部材の外周面にTa層を形成する方法は、シート状のTaを補強部材の外周面に巻き付ける方法が最も簡便である。
【0030】
本発明の前駆体で用いる補強部材は、純Nbからなるものであるが、この純Nbは、微量(0.5%程度)の不純物を含んだものをも含むものである。比較的容易に入手できるという観点からすれば、工業用純Nb(例えば、ASTM B392のCommercial Grade Unalloyed Niobium)を用いることが好ましい。
【0031】
また、本発明の前駆体で用いるTa層についても、純Taからなるものを想定しているが、微量(0.5%程度)の不純物を含んだものを用いることができる。上記Nbと同様の観点からして、工業用純Ta(例えば、ASTM B708のElectoron−Beam Cast,Vacuum−Arc Cast Unalloyed Tantalum)を用いることが好ましい。
【0032】
超電導線材に要求される機械的な強度は、超電導線材の使用状況にもよるが、通常のソレノイドコイルとしてNb3Sn超電導線材を使用する場合には、コイル全体が発生する強力な磁場により線材に電磁力が発生する。こうした電磁力下においても、超電導特性が劣化しないような強度に設定する必要がある。
【0033】
ここで、あるコイル位置の磁束密度をB(T:テスラ)、電流密度をJ(A/m2)、コイル半径をR(m)としたときに、電磁力により発生する応力σは、夫々の積となり、σ=B・J・Rで表されることになる。即ち、応力σは、磁束密度B、電流密度Jが高く、コイル半径Rが大きい部位で最大となる。機械的特性が要求される線材は、超電導マグネットの内層側コイルで使用されることになるため(内層側の個々のコイルの方が外層側のコイルよりもコイル半径は小さいが磁束密度Bが大きい)、こうした用途に用いられる超電導線材では特に超電導特性と強度のバランスを図る必要がある。
【0034】
上記のような構成(外周面にTa層を形成した純Nb)を採用した補強部材の配置量を増加させることは、Cu−SnとNb基フィラメントの接触領域の減少を招くことになるので、補強部材の過大な組み込みは、本来必要とされる超電導特性の低下を招くことになる。こうしたことから、補強部材の前駆体横断面に占める面積率で30%以下とする必要がある。但し、補強部材としての効果を発揮させるためには、上記面積率で8%以上とする必要がある(後記図3参照)。尚、上記面積率の好ましい下限は10%であり、好ましい上限は25%である。
【0035】
尚、上記面積率は、複合部材(一次スタック材)に組み込んだ段階での面積率を想定したものであるが、伸線加工後(即ち、伸線加工後・熱処理前での面積率)とほぼ等しいものとなる。
【0036】
本発明の前駆体は、ブロンズ法に適用されることを想定したものであって、Cu―Sn合金中に複数本のNb基フィラメントを配置した超電導マトリックス部を有するものであるが、上記Cu―Sn合金中のSn含有量は13〜16質量%程度であることが好ましい。こうした含有量とすることで、臨界電流密度Jcをできるだけ高めることができる。このSn含有量が、13質量%未満では、Sn濃度を高める効果が発揮されず、16質量%を超えると、Cu−Sn化合物が多量に析出して線材の均一加工が困難になる。
【0037】
また上記Nb基フィラメントや拡散障壁層に用いることのあるNb基合金としては、Ta,Hf,Zr,Ti等の添加元素を4質量%程度まで含有させたものを使用することができる。
【0038】
また、前記拡散障壁層は、Nb層またはTa層、或はNb層とTa層の2層からなるもののいずれの構成も採用できるが、このうち少なくともTa層を含む層(Ta層、またはNb層とTa層の2層)であることが好ましい。こうした構成を採用することによって、拡散熱処理の段階で、拡散障壁層の近傍にNb3Sn超電導相が形成されることを阻止でき、交流損失の更なる低減(有効フィラメント径の増大の防止)が図れるものとなる。
【0039】
上記のような前駆体を構成し、これに対して伸線加工を行い、その後拡散熱処理を施して超電導相を形成することによって、良好な特性を発揮する超電導線材を得ることができる。TaのようにNbよりも高融点の材料を補強部材として用いる場合には、700℃を超える温度で拡散熱処理を施しても、十分な補強効果が発揮されるが、純Nbを補強部材として用いる場合には、700℃を超える温度で拡散熱処理を行なうとNbの軟化が進んでしまい、希望する補強効果を得ることができなくなる懸念がある。こうしたことから、拡散熱処理する際の温度は700℃以下に設定することが好ましい。また、拡散熱処理時間は100〜200時間程度が適当である。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
直径:60mmのCu−15%Sn合金の中心とその周囲に、直径:12mmの穴を7箇所形成し、その穴に直径:11.8mmのNb棒を挿入し、溶接によって両端を真空封止し、一次多芯線用の押出しビレットを作製した。この押出しビレットを、静水圧押出し法により直径:20mmに押出し、これを引抜き加工により伸線した。その後、六角ダイスにより、対辺長:1.5mmの六角断面形状に仕上げ、六角断面を持つ一次多芯線(一次スタック材)を作製した。
【0042】
外径:Xmmの工業用純Nbの周囲に厚さ:0.2mmのTa製シートを巻付け、その外周に上記一次多芯線Y本を束ねて、更にその外周に厚さ:0.2mmのNbシートを2回巻き(拡散障壁層)、これらを一体化して、外径:60mm、内径:54mmのCu製パイプ(安定化銅層)に挿入して、溶接によって端部を封止し、二次多芯ビレットとした(前記図2参照)。
【0043】
得られたビレット(二次多芯ビレット)を、静水圧押出し法により、直径:20mmに押出し、これを引抜き加工により伸線して、直径:0.8mmのブロンズ法Nb3Sn超電導線材製造用前駆体を作製した。
【0044】
尚、Cu−Sn合金を含む一次多芯線および二次多芯線の伸線加工に際しては、Cu−Sn合金の加工硬化を原因とした断線がおこらない様に、加工途中に複数回の焼鈍を実施した。焼鈍条件は500℃、5時間である。
【0045】
得られた前駆体を、真空中において650℃で100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。こうして得られたNb3Sn超電導線材において、0.2%耐力、交流損失Phおよび臨界電流密度Jcについて、下記の条件で測定した。また、熱処理前の段階(減面加工後の最終形状)での補強部材の面積率(純Nb面積率)を下記(1)式に基づいて求めた。
純Nb面積率=(補強部材の面積/線材全断面積)×100(%)…(1)
【0046】
[0.2%耐力の測定]
熱処理後の線材を、液体ヘリウム中(温度4.2K)に浸漬した状態で引張試験を行い、0.2%耐力を測定した。0.2%耐力の合格基準は、220MPa以上である。
【0047】
[交流損失Phの測定]
交流損失Ph(超電導部の体積当りの損失)は、液体ヘリウム中(温度4.2K)で±3T(テスラ)の変動磁界中で測定した。このときの交流損失Phは、下記(2)式によって求められる。交流損失の合格基準は、750mJ/cm3以下である。
Ph=(8/3π)×f×λ×Jc×df×Bm …(2)
【0048】
f:外部変動磁界の周波数(Hz)
λ:超電導線材中の超電導部分の占面率
Jc:臨界電流密度(A/m2
f:フィラメント径(m)
m:外部変動磁界の振幅(T:テスラ)
【0049】
[臨界電流密度Jcの測定]
液体ヘリウム中(温度4.2K)で、15T(テスラ)の外部磁場の下、四端子法にて臨界電流を測定し、この電流値を、線材断面中の非Cu部当りの断面積で除して臨界電流密度Jcを求めた。臨界電流密度の合格基準は、220A/mm2以上である。
【0050】
これらの結果(試験No.1〜10)を一括して、下記表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
これらの結果から、次のように考察できる。試験No.1〜6のものは、本発明で規定する要件を満足するものであり、有効フィラメント径を小さくすることによって、交流損失を抑えることができると共に、臨界電流密度Jcおよび強度(0.2%耐力)も高いものとなっている。これに対して、試験No.7〜10では、本発明で規定するいずれかの要件を欠くものであり(比較例)、いずれかの特性が劣化している。
【0053】
比較例のうち、試験No.7,8のものは、補強部材としての純Nbを含まないもの、或は純Nb面積率が不足するものであり、いずれも強度(0.2%耐力)が不足している。試験No.9のものでは、純Nb面積率が過剰になっており、臨界電流密度Jcが低下している。試験No.10のものは、Ta層を形成していないものであり、有効フィラメント径が大きくなって、交流損失が大きくなっている。
【0054】
これらの結果に基づき、純Nb面積率が臨界電流密度Jcや0.2%耐力に与える影響を図3に示す(図中、◆は臨界電流密度、□は0.2%耐力を夫々示す)。純Nb面積率を適切な範囲に調整することによって、臨界電流密度Jcと0.2%耐力を適切な範囲に制御できることが分かる。
【0055】
[実施例2]
直径:60mmのCu−15%Sn合金の中心とその周囲に、直径:12mmの穴を7箇所形成し、その穴に直径:11.8mmのNb棒を挿入し、溶接によって両端を真空封止し、一次多芯線用の押出しビレットを作製した。この押出しビレットを、静水圧押出し法により直径:20mmに押出し、これを引抜き加工により伸線した。その後、六角ダイスにより、対辺長:1.5mmの六角断面形状に仕上げ、六角断面を持つ一次多芯線(一次スタック材)を作製した。
【0056】
外径:Xmmの工業用純Nbの周囲に厚さ:0.2mmのTa製シートを巻付け、その外周に上記一次多芯線Y本を束ねて、その外周に厚さ:0.2mmのTa製シートを巻付け、更にその外周に厚さ:0.2mmのNb製シートを巻付け(Ta層とNb層の2層からなる拡散障壁層)、これらを一体化して、外径:60mm、内径:54mmのCu製パイプ(安定化銅層)に挿入して、溶接によって端部を封止し、二次多芯ビレットとした(前記図2参照)。
【0057】
得られたビレット(二次多芯ビレット)を、静水圧押出し法により、直径:20mmに押出し、これを引抜き加工により伸線して、直径:0.8mmのブロンズ法Nb3Sn超電導線材製造用前駆体を作製した。
【0058】
尚、Cu−Sn合金を含む一次多芯線および二次多芯線の伸線加工に際しては、Cu−Sn合金の加工硬化を原因とした断線がおこらない様に、加工途中に複数回の焼鈍を実施した(焼鈍条件は実施例1と同じ)。
【0059】
得られた前駆体を、真空中において650℃で100時間の熱処理(拡散熱処理)を施して、Nb3Sn超電導線材とした。こうして得られたNb3Sn超電導線材において、実施例1と同様にして、0.2%耐力、交流損失Phおよび臨界電流密度Jcを測定した。また、熱処理前の段階(減面加工後の最終形状)での補強部材の面積率(純Nb面積率)を実施例1と同様にして[前記(1)式に基づいて]求めた。
【0060】
これらの結果(試験No.11〜20)を一括して、下記表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例1の結果と対比して明らかなように、拡散障壁層として、少なくともTa層を介在させることによって、交流損失を更に抑えることができることが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1 Cu−Sn基合金マトリックス
2 Nb若しくはNb基合金からなる芯材
3 一次スタック材
4 拡散障壁層
5 パイプ形状のCu−Sn合金
6 安定化銅
7 二次多芯ビレット
8 補強部材
9 Ta層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb3Sn超電導線材を製造する際に用いる超電導線材製造用前駆体であって、Cu−Sn基合金中に、複数本のNbまたはNb基合金からなるNb基フィラメントが配置された超電導マトリックス部と、その外周に拡散障壁層および安定化銅層を有する超電導線材製造用前駆体において、
前記超電導マトリックス部には、純Nbからなる補強部材が配置されると共に、当該補強部材の外周面にTa層が形成されたものであり、且つ補強部材の前駆体横断面に占める面積率が8〜30%であることを特徴とするNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項2】
前記補強部材は超電導マトリックス部の横断面中央に配置されたものである請求項1に記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項3】
前記拡散障壁層は、Nb層またはTa層、或はNb層とTa層の2層からなるものである請求項1または2に記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のNb3Sn超電導線材製造用前駆体に対して、700℃以下の温度でNbSn生成熱処理を施すことによってNbSn系超電導相を形成したものであるNb3Sn超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−192639(P2011−192639A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25374(P2011−25374)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】