NdFeB系焼結磁石の製造方法およびNdFeB焼結磁石製造用モールド
【課題】安価で加工しやすく脆化が生じないモールドを用いて、NdFeB系焼結磁石を湾曲や変形が生じることなく製造することができる方法及びモールドを提供する。
【解決手段】モールドのうちの少なくとも一部(例えば底板11)に炭素材料を用いる。炭素材料は金属よりも、焼結時に焼結体との間に生じる摩擦が小さいため、焼結収縮による摩擦を原因とする湾曲や変形を生じさせることなく、NdFeB系焼結磁石を製造することができる。しかも、炭素材料は安価で加工しやすく、モールドを繰り返し使用しても脆化が生じることがない。このような効果は、焼結時に焼結体の荷重が掛かる底板11に炭素材料を使用することにより、特に顕著に得ることができる。
【解決手段】モールドのうちの少なくとも一部(例えば底板11)に炭素材料を用いる。炭素材料は金属よりも、焼結時に焼結体との間に生じる摩擦が小さいため、焼結収縮による摩擦を原因とする湾曲や変形を生じさせることなく、NdFeB系焼結磁石を製造することができる。しかも、炭素材料は安価で加工しやすく、モールドを繰り返し使用しても脆化が生じることがない。このような効果は、焼結時に焼結体の荷重が掛かる底板11に炭素材料を使用することにより、特に顕著に得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNdFeB系焼結磁石の製造方法に関する。特に、NdFeB系焼結磁石用合金粉末(以下これを合金粉末という)を製品の形状及び寸法に対応して設計された容器(以下これをモールドという)に充填し、この合金粉末に磁界を印加して粉末の結晶方向をそろえ、合金粉末を入れたまま容器ごと加熱して焼結することにより、所望の形状のNdFeB系焼結磁石を製造する方法に関するものである。以下では、これらの工程をまとめて、プレスなし工程と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
従来のプレスなし工程では、特許文献1に記載のように、平均粒度2〜5μmの合金粉末を、充填密度が2.7g/cm3〜3.5 g/cm3になるようにモールドに充填し、モールドの上面に蓋を載置して、粉末に磁界を印加して配向し、焼結した後に焼結体をモールドから取出して、時効処理していた。ここで前記平均粒度は、特許文献1には明記されていないが、この文献の出願時に広く用いられていたFisher法により測定されたものと考えられる。
【0003】
従来、モールドの材料には、合金粉末と反応しない金属の好ましい例として挙げられるMo、W、Ta、Pt、Crが用いられている。しかし、本願発明者は、これらの金属はいずれも(i)高価である、(ii)加工が困難である、(iii)1回の昇温で脆化する、という3点のうちのいずれか1つ又は複数の欠点を有するという重大な問題点に気づいた。
【0004】
それに対して、本願発明者は、モールドの材料として、特許文献1には挙げられていないステンレスやパーマロイなどのFe-Ni合金を使用することを提案した(特許文献2)。
NdFeB焼結磁石を量産する際に、合金粉末をプレスして圧粉体を金属板に載せたり金属製の箱に入れて焼結すると、合金粉末がFe-Ni合金と反応したり強く溶着したりすること、及び、焼結後の磁石が大きく変形することが知られている。そのため、特許文献1ではモールドの材料としてFe-Ni合金は挙げられていなかったものと考えられる。本願発明者は更に、このような合金粉末との反応性に関する問題をモールドの内面にコーティングをすることにより解決し、それにより安価で、加工しやすく、脆化が生じないFe-Ni合金を用いたモールドを提案した(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平07-153612号公報
【特許文献2】特開2007-180375号公報
【特許文献3】特開2007-180373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者は、内部に適切なコーティングを施したFe-Ni合金製のモールドを使用すると、前述のように合金粉末との反応は防ぐことができるものの、焼結後の製品にわずかな湾曲あるいは変形が避けられないことに気づいた。そのため、このようなモールドを使用した場合には、最終製品を得るために、まずプレスなし工程により最終製品よりも大きい品物を作製し、湾曲した部分を機械加工により除去することが必要となる。その結果、製品の歩留まりが低下してしまうという問題が発生する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、安価で加工しやすく脆化が生じないモールドを用いて、NdFeB系焼結磁石を湾曲や変形が生じることなく製造することができる方法及びモールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、モールドのうちの少なくとも一部に炭素材料を用いることにより、上述した問題が解決されることを見い出した。これは、焼結時に焼結収縮が進行して焼結体が生成されていく時に、従来のモールドの材料と焼結体の摩擦よりも炭素材料と焼結体の摩擦の方が小さいため、焼結体の収縮が阻害され難いことによる。この発見により、本発明につながった。
【0009】
即ち、本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法は、粉末充填・焼結容器(モールド)に粉末を充填し、磁界配向後、モールドごと焼結炉に装入して、モールド内の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく焼結体を得るNdFeB焼結磁石の製造方法において、
前記モールドの少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とする。
【0010】
NdFeB焼結磁石の製造工程において焼結磁石の磁気特性を向上させるために、不純物の混入を極力抑制することが最重要事項の1つであり、炭素は混入のおそれがある不純物の代表的な元素である。そのため、従来は、合金粉末と直接接蝕するモールドの材料に炭素材料を使用することは常識に反すると考えられていた。しかし、本発明者は、実験の結果、NdFeB磁石の通常の焼結時に用いられている、酸素が極めて少ない雰囲気中においては、上記常識に反して炭素と合金粉末の反応が問題になるほどは生じないことを発見し、本発明の有効性を確認した。
【0011】
モールドの内部空間の形状及び大きさは、最終製品の形状及び大きさ並びに焼結時の収縮を考慮して設計する。
【0012】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法において、焼結時におけるモールドの底に該当する部分が炭素材料から成ることが望ましい。
【0013】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法において、モールドには炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有するものを用いることができる。その場合において、前記金属部分の少なくとも一部は強磁性体から成ることが望ましい。更に、前記強磁性体をモールドの両端に有することが望ましく、前記強磁性体をモールドの内部空間の四方を囲うように有することがより望ましい。
【0014】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドは、内部に粉末を充填した状態で磁界配向したうえで焼結炉に装入し、内部の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することによりNdFeB焼結磁石の焼結体を得るためのモールドにおいて、
少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とする。
【0015】
前記モールドには、複数枚の仕切り板により区切られた複数個の穴をもつものを用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結体との摩擦が小さい炭素材料をモールドの材料に用いるため、焼結収縮による摩擦を原因とする湾曲や変形を生じさせることなく、NdFeB系焼結磁石を製造することができる。しかも、炭素材料は安価で加工しやすく、モールドを繰り返し使用しても脆化が生じることがない。このような効果は、焼結時に焼結体の荷重が掛かるモールドの底に炭素材料を使用することにより、特に顕著に得ることができる。
【0017】
炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有し、金属部分の少なくとも一部が強磁性体であるモールドを用いることにより、磁界配向の精度を向上させることができる。特に、強磁性体をモールドの内部空間の四方を囲うように設けると、強磁性体部分により磁気的に連結された磁気回路が形成されるため、磁界配向の精度をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造方法及びNdFeB系焼結磁石製造用モールドの実施形態を、図1〜図5を用いて説明する。
図1に、本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドの一例を示す。このモールドは、底板11のみが炭素材料から成り、それ以外の側板・上板12はステンレス鋼から成る。このモールドでは、磁界配向方向は底板11に平行な方向、垂直な方向のいずれにも取ることができる。側板・上板12の内壁には、合金粉末との反応を防ぐためのコーティング(図示せず)を施す。ステンレス鋼に対するコーティングに関しては特許文献3に詳しく記載されている。底板11にはコーティングを施さなくてもよい。強度及び熱伝導を考慮して、炭素板の厚さは1〜10mmとすることが適当である。
【0019】
図2に、壁面21全体が炭素材料により構成されたNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す。このモールドにおいても、磁界配向方向は底板に平行な方向、垂直な方向のいずれにも取ることができる。炭素材料のみでは機械的強度が不足する場合があるので、ステンレス鋼などから成る金属ケースを壁面の外側にかぶせることもできる。このように炭素材料のみから成るモールドの利点は、コーティングを全く施こさなくても良好な焼結体が得られることにある。
【0020】
図3に、図2のモールドに更に、両端に強磁性体から成る磁極22を設けたモールドを示す。この場合には、磁界配向方向は壁面21の底板に平行な方向である。これにより、図2のモールドよりも焼結体の配向度を高く、また配向度の分散を小さくすることができる。これは、パルス磁界によって配向された磁性粉末が磁極に吸引されて高配向になり、その状態が保持されることによるものと考えられる。磁極22の合金粉末側の面は、コーティングするか、炭素材料から成る薄板を取り付けることにより、焼結時に合金粉末が磁極に融着することを防止する。
【0021】
図4に、底板31と蓋33が炭素材料から成り、側板32が金属強磁性体から成るモールドを示す。側板32はモールド内の空間の四方(4面)を囲んでいる。側板32の4面のうち長手方向の2面には内壁に特許文献3に記載のものと同様のBN等から成るコーティング(図示せず)を施し、残りの2面には内壁に炭素から成る薄板35を設ける。磁界配向方向は底板31に平行な方向である。合金粉末をこのモールドに充填して底板31に平行な方向に磁界を印加すると、モールド内の磁性粉末(合金粉末)から出る磁束が強磁性体から成る側板32を通じて閉回路を作るため、磁界配向後のモールドからモールド外に漏出する磁束の強度を弱くすることができる。これにより、複数のモールドを焼結炉内に装填する時に、モールド間の相互作用が弱くなるため、モールドの取扱いがしやすくなり、また、このような相互作用による配向の乱れが少なくなる。
【0022】
磁極22や側板32のうち磁界配向時に磁極になる部分には、薄い板状の強磁性体金属を積層したもの、あるいは粉末状の強磁性体金属を固めたものを使用することが望ましい。これらの積層体あるいは粉体を固めたものでは、薄板同士あるいは粉体中の粒子同士は電気抵抗が高い物質で隔離される。これにより、磁界配向の際に磁極中の渦電流が抑制され、磁性粉末と磁極を貫通する磁力線の直線性が高くなり、それにより磁性粉末の配向性も高くなる。その結果、焼結後の焼結体の形状の歪みや磁気特性の不均一性が抑制され、良質のNdFeB焼結磁石を得ることができる。
【0023】
図5に、図4のモールド内の空間に炭素材料から成る仕切り板36を複数取り付けたものである。これにより、仕切り板36で仕切られた各空間毎に1個の製品を製造することができることから、多数個の製品を一度に製造することができる。
【0024】
本発明の方法において使用する炭素材料は主として、粉末成形法により作製され、炭素質押出材、黒鉛質押出材、黒鉛質型押材、等方性黒鉛材と呼ばれる種類のものが挙げられる。このうち本発明の方法に最適であるのは密度が高い等方性黒鉛材である。炭素材料は比重によっても分類されており、本発明の方法では強度上の理由により比重は1.7g/cm3以上のものを用いることが望ましい。その他の炭素材として、炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジットと呼ばれている。)も図1の底板11用として、また図4、図5の底板31、蓋33用として好ましい材料である。モールド内に粉末を高密度で充填するために粉末に対してタッピングを行うとき、機械的強度の低い炭素材は破損しやすいのに対して、C/Cコンポジット材は薄くても強度が高く破損し難いため、これら底板や蓋の材料として適している。また図5の仕切り板用としては、上述した各種炭素材料の他にステンレスやMoなどの金属板を使用することができる。金属板を使用するときは特許文献3に記載された方法によりBN(窒化硼素)粉末やグラファイト粉末とワックスによるコーティングを施すことが望ましい。
【実施例】
【0025】
図6〜図10に、本発明のモールドの実施例、及びそのモールドを使用して異方性NdFeB焼結磁石を作製した例を示す。それぞれの図は、モールドとそれによって作製した焼結体の写真である。
図6は板金加工によって作製した非磁性ステンレス容器41とC/Cコンポジット板から成る蓋42により構成されたモールドの写真である。ステンレス容器41の内壁にはBNとワックスでコーティングを施した。このモールドを用いてNdFeB焼結磁石を作製した。使用した磁性粉末は、重量比で31.5%Nd、1%B、1%Co、0.2%Al、0.1%Cu、残部Feという標準的な組成のNdFeB焼結磁石を窒素によるジェットミルで酸素を添加することなく平均粒径3μm(レーザー法で測定した値)に粉砕したものである。粉末の酸素量は1500ppmであった。この粉末を、露点−70℃以下の高純度Arで満たしたグローブボックス中において充填密度3.6g/cm3でモールドに充填した。その後、蓋42を取り付け、蓋に平行な方向に6Tの磁界を印加して磁性粉末を配向した後、蓋42を下(底)にして、985℃で、2×10-4Paの真空中で焼結を行った。その結果、図6に示すように、曲がりや欠け、ひびのない、極めて良質で高密度のNdFeB焼結磁石43が得られた。焼結密度は7.53g/cm3であった。
【0026】
図7に、炭素材料のみから作られたモールド及びそのモールドを用いて作製されたNdFeB焼結磁石を示す。ここでモールドの容器51は比重1.83g/cm3の等方性黒鉛材料製で、蓋52はC/Cコンポジット炭素材である。使用した磁性粉末、充填密度および焼結温度は図6の場合と同じである。その結果、粉末充填前のモールド内壁のコーティングを施さなくても良質なNdFeB焼結磁石53を作製することができた。これは全体を炭素で作製したモールドを使用する大きな利点である。モールドは繰返し使用しても殆んど損傷はなく、極めて良質の焼結体を繰返し製造できることを確認した。この例のように薄くて、面積が大きく、磁化方向が平面に平行なNdFeB焼結磁石を1枚1枚、作ることは、従来の金型プレスを使う方法では極めて難しい。本発明の方法でこのような極めて扁平なNdFeB焼結磁石の生産が可能となった。
【0027】
図8に、図7と同じように全体を炭素材料により作製し、更にキャビティーの両端に磁極54を形成したモールドと、それを用いて作製したNdFeB焼結磁石55を示す。NdFeB焼結磁石の作製方法は上述のものと同じであり、その同じ条件で5回作製を行った。この図からわかるように、本方法により、極めて平坦で良質な平板状NdFeB焼結磁石が得られる。
【0028】
図9に、炭素材料から成る容器61、炭素材料から成る仕切り板62及び容器61の両端の磁極63から構成されたモールドとそれによって作られたNdFeB焼結磁石64を示す。使用した粉末および製造条件は図6〜8の場合と同じである。このモールドにより多数枚の板状NdFeB焼結磁石を能率よく生産できることがわかる。また、容器61及び仕切り板62に炭素材料を用いたことにより、モールド内壁にコーティングを施さなくてもよいため、コストを下げることができる。
【0029】
図10に、比較例として、炭素材を使わない全ステンレス製のモールド71によってNdFeB焼結磁石を作製した例を示す。ステンレスモールド71の内壁は全てBNコーティングが施されている。使用した粉末および製造条件は図6〜9の場合と同じである。全ステンレス製モールドを使用してプレスなし工程でNdFeB焼結磁石を作るときには、モールド内壁に欠陥のないコーティングを施す必要がある。少しでも欠陥があるとその部分で焼結体が溶着するので不良品となり、そのうえ、モールドを損傷する。しかし、たとえモールドのコーティングが完全であっても、図10に示すように、ステンレスモールド71を用いた場合には、NdFeB焼結磁石72にわずかな曲がりが生じることが避けられない。このような曲がりは、モールド内に充填された粉末が、焼結時に収縮して高密度化していくときに、品物(粉体)と底板上面との摩擦によって起こると考えられる。この摩擦は、どんなに完全にBN粉末などでコーティングしても、NdFeB合金粉末の一部が溶融して液相を形成し、この液相がBN粉末の隙間からわずかに侵入して金属モールドの内面と接触し、この小さいわずかな接触をなくすることができないために生じる、と推定される。
【0030】
一方、本発明では、NdFeB合金の液相と炭素との反応がNdFeB焼結磁石の焼結温度の範囲では極めて軽度にしか起こらないので、焼結収縮時の品物(粉末)と炭素底板上面との間の摩擦は極めて小さく、その結果、品物の上下面が同じように収縮し、曲がりが発生しないものと推定される。曲がりのない品物を製造することができることにより、最終製品にするための加工が少なくて済み、歩留まりを大きく改善させることができるため、製品の価格を低減でき、大変好都合である。
【0031】
図2(磁極無し)及び図3(磁極有り)に示したタイプであって図6〜9に示したものよりも深いモールドを使用して、NdFeB焼結磁石を作製した。作製条件は、両方のモールドについて、充填密度3.6g/cm3、配向磁界6T、焼結温度985℃、焼結時間2時間、焼結後800℃から急冷後500℃で2時間熱処理を行うという、同じ条件とした。両方のモールドのキャビティーの形状と大きさは同じであり、80mm×60mm×6.9mm(磁化方向は長さ80mmの方向)であった。得られた焼結体の寸法も、両者ともほぼ同じ57mm×51.5mm×5.9mmであった。得られた焼結磁石のうち図11に示す3箇所(A.モールドの隅付近、B.モールドの1壁面の中央近傍、C.横断面の中心)から、7mm×4mm×7mmの直方体(1つの7mmの方向が磁化方向)を切り出して、磁気特性を測定した。これら3個の直方体試料の磁気特性を図12に示す。この結果から、モールドの磁極の有無に関わらず、本発明により高い磁気特性を有するNdFeB系焼結磁石が得られることが確認できた。特に、保磁力HcJは、Dyを全く含まないNdFeB系焼結磁石としては、市販の製品よりも3〜4kOe高い値が得られた。このような高い保磁力が得られるのは、プレスなし工程を用いることにより、その工程中における酸素による汚染を極力防止することができるからである。
【0032】
一方、図12より、磁極を有する図3のモールドを使用した方が、残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが平均として大きいうえに、位置によるばらつきが小さいことが分かる。また、配向度Br/Jsについても、磁極が無い図2のモールドを使用した場合には試料の中央部よりも端部の配向度Br/Jsが低くなるという位置によるばらつきが見られるのに対して、磁極を有する図3のモールドでは位置によらず95%台という高い値が得られる。特に、位置Aにおいて、磁極有りの場合の方が磁極無しの場合よりも配向度が大幅に高い。このように、炭素材料のみでモールドを作るよりもキャビティーの両端に強磁性体による磁極が形成されている方が、より特性が高く、かつ分散の小さい良質な製品ができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドの一実施形態である、底板11のみが炭素材料から成るものを示す縦断面図及び横断面図。
【図2】壁面全体が炭素材料から成るNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図3】図2のモールドに更に、両端に強磁性体から成る磁極22を設けたNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図4】底板31と蓋33が炭素材料から成り、側板32が金属強磁性体から成るモールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図5】仕切り板36を有するNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図6】本発明に係るモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図7】本発明に係る炭素材料のみから成るモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図8】本発明に係る磁極を有するモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図9】本発明に係る仕切り板を有するモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図10】比較例のモールドと該モールドを用いて作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図11】磁気特性を測定するために、作製されたNdFeB焼結磁石から試料を切り出した位置を示す上面図。
【図12】本実施例で作製されたNdFeB焼結磁石の磁気特性を示す表。
【符号の説明】
【0034】
11、31…底板
12…側板・上板
13、33、42、52…蓋
21…壁面
22、54、63…磁極
32…側板
35…炭素薄板
36、62…仕切り板
41…ステンレス容器
43、53、55、64、72…NdFeB焼結磁石
51、61…容器
71…ステンレスモールド
【技術分野】
【0001】
本発明はNdFeB系焼結磁石の製造方法に関する。特に、NdFeB系焼結磁石用合金粉末(以下これを合金粉末という)を製品の形状及び寸法に対応して設計された容器(以下これをモールドという)に充填し、この合金粉末に磁界を印加して粉末の結晶方向をそろえ、合金粉末を入れたまま容器ごと加熱して焼結することにより、所望の形状のNdFeB系焼結磁石を製造する方法に関するものである。以下では、これらの工程をまとめて、プレスなし工程と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
従来のプレスなし工程では、特許文献1に記載のように、平均粒度2〜5μmの合金粉末を、充填密度が2.7g/cm3〜3.5 g/cm3になるようにモールドに充填し、モールドの上面に蓋を載置して、粉末に磁界を印加して配向し、焼結した後に焼結体をモールドから取出して、時効処理していた。ここで前記平均粒度は、特許文献1には明記されていないが、この文献の出願時に広く用いられていたFisher法により測定されたものと考えられる。
【0003】
従来、モールドの材料には、合金粉末と反応しない金属の好ましい例として挙げられるMo、W、Ta、Pt、Crが用いられている。しかし、本願発明者は、これらの金属はいずれも(i)高価である、(ii)加工が困難である、(iii)1回の昇温で脆化する、という3点のうちのいずれか1つ又は複数の欠点を有するという重大な問題点に気づいた。
【0004】
それに対して、本願発明者は、モールドの材料として、特許文献1には挙げられていないステンレスやパーマロイなどのFe-Ni合金を使用することを提案した(特許文献2)。
NdFeB焼結磁石を量産する際に、合金粉末をプレスして圧粉体を金属板に載せたり金属製の箱に入れて焼結すると、合金粉末がFe-Ni合金と反応したり強く溶着したりすること、及び、焼結後の磁石が大きく変形することが知られている。そのため、特許文献1ではモールドの材料としてFe-Ni合金は挙げられていなかったものと考えられる。本願発明者は更に、このような合金粉末との反応性に関する問題をモールドの内面にコーティングをすることにより解決し、それにより安価で、加工しやすく、脆化が生じないFe-Ni合金を用いたモールドを提案した(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開平07-153612号公報
【特許文献2】特開2007-180375号公報
【特許文献3】特開2007-180373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者は、内部に適切なコーティングを施したFe-Ni合金製のモールドを使用すると、前述のように合金粉末との反応は防ぐことができるものの、焼結後の製品にわずかな湾曲あるいは変形が避けられないことに気づいた。そのため、このようなモールドを使用した場合には、最終製品を得るために、まずプレスなし工程により最終製品よりも大きい品物を作製し、湾曲した部分を機械加工により除去することが必要となる。その結果、製品の歩留まりが低下してしまうという問題が発生する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、安価で加工しやすく脆化が生じないモールドを用いて、NdFeB系焼結磁石を湾曲や変形が生じることなく製造することができる方法及びモールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、モールドのうちの少なくとも一部に炭素材料を用いることにより、上述した問題が解決されることを見い出した。これは、焼結時に焼結収縮が進行して焼結体が生成されていく時に、従来のモールドの材料と焼結体の摩擦よりも炭素材料と焼結体の摩擦の方が小さいため、焼結体の収縮が阻害され難いことによる。この発見により、本発明につながった。
【0009】
即ち、本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法は、粉末充填・焼結容器(モールド)に粉末を充填し、磁界配向後、モールドごと焼結炉に装入して、モールド内の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく焼結体を得るNdFeB焼結磁石の製造方法において、
前記モールドの少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とする。
【0010】
NdFeB焼結磁石の製造工程において焼結磁石の磁気特性を向上させるために、不純物の混入を極力抑制することが最重要事項の1つであり、炭素は混入のおそれがある不純物の代表的な元素である。そのため、従来は、合金粉末と直接接蝕するモールドの材料に炭素材料を使用することは常識に反すると考えられていた。しかし、本発明者は、実験の結果、NdFeB磁石の通常の焼結時に用いられている、酸素が極めて少ない雰囲気中においては、上記常識に反して炭素と合金粉末の反応が問題になるほどは生じないことを発見し、本発明の有効性を確認した。
【0011】
モールドの内部空間の形状及び大きさは、最終製品の形状及び大きさ並びに焼結時の収縮を考慮して設計する。
【0012】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法において、焼結時におけるモールドの底に該当する部分が炭素材料から成ることが望ましい。
【0013】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石の製造方法において、モールドには炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有するものを用いることができる。その場合において、前記金属部分の少なくとも一部は強磁性体から成ることが望ましい。更に、前記強磁性体をモールドの両端に有することが望ましく、前記強磁性体をモールドの内部空間の四方を囲うように有することがより望ましい。
【0014】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドは、内部に粉末を充填した状態で磁界配向したうえで焼結炉に装入し、内部の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することによりNdFeB焼結磁石の焼結体を得るためのモールドにおいて、
少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とする。
【0015】
前記モールドには、複数枚の仕切り板により区切られた複数個の穴をもつものを用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結体との摩擦が小さい炭素材料をモールドの材料に用いるため、焼結収縮による摩擦を原因とする湾曲や変形を生じさせることなく、NdFeB系焼結磁石を製造することができる。しかも、炭素材料は安価で加工しやすく、モールドを繰り返し使用しても脆化が生じることがない。このような効果は、焼結時に焼結体の荷重が掛かるモールドの底に炭素材料を使用することにより、特に顕著に得ることができる。
【0017】
炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有し、金属部分の少なくとも一部が強磁性体であるモールドを用いることにより、磁界配向の精度を向上させることができる。特に、強磁性体をモールドの内部空間の四方を囲うように設けると、強磁性体部分により磁気的に連結された磁気回路が形成されるため、磁界配向の精度をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造方法及びNdFeB系焼結磁石製造用モールドの実施形態を、図1〜図5を用いて説明する。
図1に、本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドの一例を示す。このモールドは、底板11のみが炭素材料から成り、それ以外の側板・上板12はステンレス鋼から成る。このモールドでは、磁界配向方向は底板11に平行な方向、垂直な方向のいずれにも取ることができる。側板・上板12の内壁には、合金粉末との反応を防ぐためのコーティング(図示せず)を施す。ステンレス鋼に対するコーティングに関しては特許文献3に詳しく記載されている。底板11にはコーティングを施さなくてもよい。強度及び熱伝導を考慮して、炭素板の厚さは1〜10mmとすることが適当である。
【0019】
図2に、壁面21全体が炭素材料により構成されたNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す。このモールドにおいても、磁界配向方向は底板に平行な方向、垂直な方向のいずれにも取ることができる。炭素材料のみでは機械的強度が不足する場合があるので、ステンレス鋼などから成る金属ケースを壁面の外側にかぶせることもできる。このように炭素材料のみから成るモールドの利点は、コーティングを全く施こさなくても良好な焼結体が得られることにある。
【0020】
図3に、図2のモールドに更に、両端に強磁性体から成る磁極22を設けたモールドを示す。この場合には、磁界配向方向は壁面21の底板に平行な方向である。これにより、図2のモールドよりも焼結体の配向度を高く、また配向度の分散を小さくすることができる。これは、パルス磁界によって配向された磁性粉末が磁極に吸引されて高配向になり、その状態が保持されることによるものと考えられる。磁極22の合金粉末側の面は、コーティングするか、炭素材料から成る薄板を取り付けることにより、焼結時に合金粉末が磁極に融着することを防止する。
【0021】
図4に、底板31と蓋33が炭素材料から成り、側板32が金属強磁性体から成るモールドを示す。側板32はモールド内の空間の四方(4面)を囲んでいる。側板32の4面のうち長手方向の2面には内壁に特許文献3に記載のものと同様のBN等から成るコーティング(図示せず)を施し、残りの2面には内壁に炭素から成る薄板35を設ける。磁界配向方向は底板31に平行な方向である。合金粉末をこのモールドに充填して底板31に平行な方向に磁界を印加すると、モールド内の磁性粉末(合金粉末)から出る磁束が強磁性体から成る側板32を通じて閉回路を作るため、磁界配向後のモールドからモールド外に漏出する磁束の強度を弱くすることができる。これにより、複数のモールドを焼結炉内に装填する時に、モールド間の相互作用が弱くなるため、モールドの取扱いがしやすくなり、また、このような相互作用による配向の乱れが少なくなる。
【0022】
磁極22や側板32のうち磁界配向時に磁極になる部分には、薄い板状の強磁性体金属を積層したもの、あるいは粉末状の強磁性体金属を固めたものを使用することが望ましい。これらの積層体あるいは粉体を固めたものでは、薄板同士あるいは粉体中の粒子同士は電気抵抗が高い物質で隔離される。これにより、磁界配向の際に磁極中の渦電流が抑制され、磁性粉末と磁極を貫通する磁力線の直線性が高くなり、それにより磁性粉末の配向性も高くなる。その結果、焼結後の焼結体の形状の歪みや磁気特性の不均一性が抑制され、良質のNdFeB焼結磁石を得ることができる。
【0023】
図5に、図4のモールド内の空間に炭素材料から成る仕切り板36を複数取り付けたものである。これにより、仕切り板36で仕切られた各空間毎に1個の製品を製造することができることから、多数個の製品を一度に製造することができる。
【0024】
本発明の方法において使用する炭素材料は主として、粉末成形法により作製され、炭素質押出材、黒鉛質押出材、黒鉛質型押材、等方性黒鉛材と呼ばれる種類のものが挙げられる。このうち本発明の方法に最適であるのは密度が高い等方性黒鉛材である。炭素材料は比重によっても分類されており、本発明の方法では強度上の理由により比重は1.7g/cm3以上のものを用いることが望ましい。その他の炭素材として、炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジットと呼ばれている。)も図1の底板11用として、また図4、図5の底板31、蓋33用として好ましい材料である。モールド内に粉末を高密度で充填するために粉末に対してタッピングを行うとき、機械的強度の低い炭素材は破損しやすいのに対して、C/Cコンポジット材は薄くても強度が高く破損し難いため、これら底板や蓋の材料として適している。また図5の仕切り板用としては、上述した各種炭素材料の他にステンレスやMoなどの金属板を使用することができる。金属板を使用するときは特許文献3に記載された方法によりBN(窒化硼素)粉末やグラファイト粉末とワックスによるコーティングを施すことが望ましい。
【実施例】
【0025】
図6〜図10に、本発明のモールドの実施例、及びそのモールドを使用して異方性NdFeB焼結磁石を作製した例を示す。それぞれの図は、モールドとそれによって作製した焼結体の写真である。
図6は板金加工によって作製した非磁性ステンレス容器41とC/Cコンポジット板から成る蓋42により構成されたモールドの写真である。ステンレス容器41の内壁にはBNとワックスでコーティングを施した。このモールドを用いてNdFeB焼結磁石を作製した。使用した磁性粉末は、重量比で31.5%Nd、1%B、1%Co、0.2%Al、0.1%Cu、残部Feという標準的な組成のNdFeB焼結磁石を窒素によるジェットミルで酸素を添加することなく平均粒径3μm(レーザー法で測定した値)に粉砕したものである。粉末の酸素量は1500ppmであった。この粉末を、露点−70℃以下の高純度Arで満たしたグローブボックス中において充填密度3.6g/cm3でモールドに充填した。その後、蓋42を取り付け、蓋に平行な方向に6Tの磁界を印加して磁性粉末を配向した後、蓋42を下(底)にして、985℃で、2×10-4Paの真空中で焼結を行った。その結果、図6に示すように、曲がりや欠け、ひびのない、極めて良質で高密度のNdFeB焼結磁石43が得られた。焼結密度は7.53g/cm3であった。
【0026】
図7に、炭素材料のみから作られたモールド及びそのモールドを用いて作製されたNdFeB焼結磁石を示す。ここでモールドの容器51は比重1.83g/cm3の等方性黒鉛材料製で、蓋52はC/Cコンポジット炭素材である。使用した磁性粉末、充填密度および焼結温度は図6の場合と同じである。その結果、粉末充填前のモールド内壁のコーティングを施さなくても良質なNdFeB焼結磁石53を作製することができた。これは全体を炭素で作製したモールドを使用する大きな利点である。モールドは繰返し使用しても殆んど損傷はなく、極めて良質の焼結体を繰返し製造できることを確認した。この例のように薄くて、面積が大きく、磁化方向が平面に平行なNdFeB焼結磁石を1枚1枚、作ることは、従来の金型プレスを使う方法では極めて難しい。本発明の方法でこのような極めて扁平なNdFeB焼結磁石の生産が可能となった。
【0027】
図8に、図7と同じように全体を炭素材料により作製し、更にキャビティーの両端に磁極54を形成したモールドと、それを用いて作製したNdFeB焼結磁石55を示す。NdFeB焼結磁石の作製方法は上述のものと同じであり、その同じ条件で5回作製を行った。この図からわかるように、本方法により、極めて平坦で良質な平板状NdFeB焼結磁石が得られる。
【0028】
図9に、炭素材料から成る容器61、炭素材料から成る仕切り板62及び容器61の両端の磁極63から構成されたモールドとそれによって作られたNdFeB焼結磁石64を示す。使用した粉末および製造条件は図6〜8の場合と同じである。このモールドにより多数枚の板状NdFeB焼結磁石を能率よく生産できることがわかる。また、容器61及び仕切り板62に炭素材料を用いたことにより、モールド内壁にコーティングを施さなくてもよいため、コストを下げることができる。
【0029】
図10に、比較例として、炭素材を使わない全ステンレス製のモールド71によってNdFeB焼結磁石を作製した例を示す。ステンレスモールド71の内壁は全てBNコーティングが施されている。使用した粉末および製造条件は図6〜9の場合と同じである。全ステンレス製モールドを使用してプレスなし工程でNdFeB焼結磁石を作るときには、モールド内壁に欠陥のないコーティングを施す必要がある。少しでも欠陥があるとその部分で焼結体が溶着するので不良品となり、そのうえ、モールドを損傷する。しかし、たとえモールドのコーティングが完全であっても、図10に示すように、ステンレスモールド71を用いた場合には、NdFeB焼結磁石72にわずかな曲がりが生じることが避けられない。このような曲がりは、モールド内に充填された粉末が、焼結時に収縮して高密度化していくときに、品物(粉体)と底板上面との摩擦によって起こると考えられる。この摩擦は、どんなに完全にBN粉末などでコーティングしても、NdFeB合金粉末の一部が溶融して液相を形成し、この液相がBN粉末の隙間からわずかに侵入して金属モールドの内面と接触し、この小さいわずかな接触をなくすることができないために生じる、と推定される。
【0030】
一方、本発明では、NdFeB合金の液相と炭素との反応がNdFeB焼結磁石の焼結温度の範囲では極めて軽度にしか起こらないので、焼結収縮時の品物(粉末)と炭素底板上面との間の摩擦は極めて小さく、その結果、品物の上下面が同じように収縮し、曲がりが発生しないものと推定される。曲がりのない品物を製造することができることにより、最終製品にするための加工が少なくて済み、歩留まりを大きく改善させることができるため、製品の価格を低減でき、大変好都合である。
【0031】
図2(磁極無し)及び図3(磁極有り)に示したタイプであって図6〜9に示したものよりも深いモールドを使用して、NdFeB焼結磁石を作製した。作製条件は、両方のモールドについて、充填密度3.6g/cm3、配向磁界6T、焼結温度985℃、焼結時間2時間、焼結後800℃から急冷後500℃で2時間熱処理を行うという、同じ条件とした。両方のモールドのキャビティーの形状と大きさは同じであり、80mm×60mm×6.9mm(磁化方向は長さ80mmの方向)であった。得られた焼結体の寸法も、両者ともほぼ同じ57mm×51.5mm×5.9mmであった。得られた焼結磁石のうち図11に示す3箇所(A.モールドの隅付近、B.モールドの1壁面の中央近傍、C.横断面の中心)から、7mm×4mm×7mmの直方体(1つの7mmの方向が磁化方向)を切り出して、磁気特性を測定した。これら3個の直方体試料の磁気特性を図12に示す。この結果から、モールドの磁極の有無に関わらず、本発明により高い磁気特性を有するNdFeB系焼結磁石が得られることが確認できた。特に、保磁力HcJは、Dyを全く含まないNdFeB系焼結磁石としては、市販の製品よりも3〜4kOe高い値が得られた。このような高い保磁力が得られるのは、プレスなし工程を用いることにより、その工程中における酸素による汚染を極力防止することができるからである。
【0032】
一方、図12より、磁極を有する図3のモールドを使用した方が、残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxが平均として大きいうえに、位置によるばらつきが小さいことが分かる。また、配向度Br/Jsについても、磁極が無い図2のモールドを使用した場合には試料の中央部よりも端部の配向度Br/Jsが低くなるという位置によるばらつきが見られるのに対して、磁極を有する図3のモールドでは位置によらず95%台という高い値が得られる。特に、位置Aにおいて、磁極有りの場合の方が磁極無しの場合よりも配向度が大幅に高い。このように、炭素材料のみでモールドを作るよりもキャビティーの両端に強磁性体による磁極が形成されている方が、より特性が高く、かつ分散の小さい良質な製品ができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るNdFeB系焼結磁石製造用モールドの一実施形態である、底板11のみが炭素材料から成るものを示す縦断面図及び横断面図。
【図2】壁面全体が炭素材料から成るNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図3】図2のモールドに更に、両端に強磁性体から成る磁極22を設けたNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図4】底板31と蓋33が炭素材料から成り、側板32が金属強磁性体から成るモールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図5】仕切り板36を有するNdFeB系焼結磁石製造用モールドを示す縦断面図及び横断面図。
【図6】本発明に係るモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図7】本発明に係る炭素材料のみから成るモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図8】本発明に係る磁極を有するモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図9】本発明に係る仕切り板を有するモールドと該モールドを用いて本発明に係る製造方法により作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図10】比較例のモールドと該モールドを用いて作製されたNdFeB焼結磁石の一例を示す写真。
【図11】磁気特性を測定するために、作製されたNdFeB焼結磁石から試料を切り出した位置を示す上面図。
【図12】本実施例で作製されたNdFeB焼結磁石の磁気特性を示す表。
【符号の説明】
【0034】
11、31…底板
12…側板・上板
13、33、42、52…蓋
21…壁面
22、54、63…磁極
32…側板
35…炭素薄板
36、62…仕切り板
41…ステンレス容器
43、53、55、64、72…NdFeB焼結磁石
51、61…容器
71…ステンレスモールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末充填・焼結容器(以下モールドという)に粉末を充填し、磁界配向後、モールドごと焼結炉に装入して、モールド内の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することにより焼結体を得るNdFeB焼結磁石の製造方法において、
前記モールドの少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とするNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
焼結時におけるモールドの底に該当する部分が炭素材料から成ることを特徴とする請求項1に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
モールドが炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のNdFeB焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記金属部分の少なくとも一部が強磁性体から成ることを特徴とする請求項3に記載のNdFeB焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記強磁性体をモールドの両端に配置し、該両端を結ぶ方向に磁界を印加することにより前記磁界配向を行うことを特徴とする請求項4に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記モールドの内部空間の四方を囲うように前記強磁性体を配置することを特徴とする請求項5に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
内部に粉末を充填した状態で磁界配向したうえで焼結炉に装入し、内部の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することによりNdFeB焼結磁石の焼結体を得るためのモールドにおいて、
少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とするNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項8】
焼結時における底に該当する部分が炭素材料から成ることを特徴とする請求項7に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項9】
炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項10】
前記金属部分の少なくとも一部が強磁性体から成ることを特徴とする請求項9に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項11】
前記強磁性体を両端に有することを特徴とする請求項10に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項12】
内部空間の四方を囲うように前記強磁性体を有することを特徴とする請求項11に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項13】
複数枚の仕切り板により区切られた複数個の穴をもつことを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載のNdFeB焼結磁石製造用モールド。
【請求項1】
粉末充填・焼結容器(以下モールドという)に粉末を充填し、磁界配向後、モールドごと焼結炉に装入して、モールド内の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することにより焼結体を得るNdFeB焼結磁石の製造方法において、
前記モールドの少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とするNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
焼結時におけるモールドの底に該当する部分が炭素材料から成ることを特徴とする請求項1に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
モールドが炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のNdFeB焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記金属部分の少なくとも一部が強磁性体から成ることを特徴とする請求項3に記載のNdFeB焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記強磁性体をモールドの両端に配置し、該両端を結ぶ方向に磁界を印加することにより前記磁界配向を行うことを特徴とする請求項4に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記モールドの内部空間の四方を囲うように前記強磁性体を配置することを特徴とする請求項5に記載のNdFeB系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
内部に粉末を充填した状態で磁界配向したうえで焼結炉に装入し、内部の粉末に何ら機械的圧力を加えることなく加熱することによりNdFeB焼結磁石の焼結体を得るためのモールドにおいて、
少なくとも一部分が炭素材料から成ることを特徴とするNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項8】
焼結時における底に該当する部分が炭素材料から成ることを特徴とする請求項7に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項9】
炭素材料から成る部分と金属から成る部分の双方を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項10】
前記金属部分の少なくとも一部が強磁性体から成ることを特徴とする請求項9に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項11】
前記強磁性体を両端に有することを特徴とする請求項10に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項12】
内部空間の四方を囲うように前記強磁性体を有することを特徴とする請求項11に記載のNdFeB系焼結磁石製造用モールド。
【請求項13】
複数枚の仕切り板により区切られた複数個の穴をもつことを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載のNdFeB焼結磁石製造用モールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−49202(P2009−49202A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214074(P2007−214074)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(591044544)インターメタリックス株式会社 (23)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(591044544)インターメタリックス株式会社 (23)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]