説明

O2コントローラ

本発明は、人工呼吸器のPEEPとFiO2を制御して、機械的に換気される患者の血液中における動脈血酸素分圧を実現するための装置に関するものである。酸素供給の成功を表す示度、すなわち、血液の酸素飽和度がこの装置によって測定され、2つの特性線によって形成される3つの領域の1つに割り当てられる。第1の制御ループは、設定の変更を要求する領域に示度を割り当てる場合にPEEPとFiO2を最適化するか、あるいは、特性線間の正常領域に割り当てる場合に設定をそのままにしておくように設計されている。この第1の制御ループは、表示示度(SaO2REP)及び所定の必要な供給強度に対して所定の時間間隔でこうした最適化を実施する。その後、人工呼吸器がそれに応じて作動させられる。その間に、必要があれば、すなわち、第1の制御ループによる最適化操作の間に、現在の表示示度(SaO2REP)が、酸素供給の即時増大を要する供給強度によって決まる限界値(特性線)未満になると、FiO2だけが第2の制御ループによって増減させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の機械的換気に関して、患者の要件に応じて、とりわけ呼気終末陽圧(PEEP)及び換気ガス中の吸入時酸素濃度(FiO2:inspiratory oxygen concentration)について人工呼吸器を制御するための装置及び方法、並びに、こうした制御を施される人工呼吸器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の機械的換気は、患者の動脈血中におけるCO2分圧とO2分圧を状況に応じてできるだけ正常なレベルに保つことを目的としている。機械的換気の場合、a)換気頻度及び換気圧による換気容量、b)呼気終末陽圧(PEEP)によるガス交換に関与する肺気量、c)換気ガス中の酸素濃度(FiO2)による酸素供給量といった要素に影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
血液への酸素の混入は、一方では、ガス交換に関与しない血液であるいわゆるシャントによって悪影響を受け、もう一方では換気ガスの酸素含有量によって好ましい影響を受ける。PEEPを高めることによってガス交換に関与する肺気量を増すことが可能である。このため、シャントを減少させ、酸素分圧を高めることが可能である。FiO2を増すことによって、各呼吸毎に肺により多くの酸素を供給することが可能になる。このため、同様に動脈血中の酸素分圧を高めることも可能である。
【0004】
知られている特許文献1によって十分な肺胞換気を施す方法が知られている。酸素を供給し、二酸化炭素を除去するのが不十分であるため、この文献には、できれば吸入酸素濃度が低い空気だけを利用し、心肺系に対する損傷を最小限に抑えるように教示されている。この目的を実現するため、吸気時間と呼気時間との最小比が探究され、決定された。次に、最適な呼吸数が探究され、決定された。さらに、加えられる圧力を増減し、血液の部分酸素圧を分析することによって、肺の開放圧及び閉鎖圧が探究され、決定された。この文献には閉鎖圧を超える圧力での換気が教示されている。
【0005】
苦痛を生じた肺は、肺胞閉鎖圧を超える気道圧を適切に選択することによって開放状態に保つことが可能である。特許文献2には、
− ヘモグロビン酸素飽和度、呼気中の呼気終期CO2濃度、及び、CO2排出量の値の1つ測定するステップと、
− 気道圧を変化させるステップが含まれており、肺胞開放又は閉鎖が生じる気道圧のレベルが、測定値の結果として生じる経過を観測することによって決定されることを特徴とする、
人工呼吸器によって換気される肺の肺胞開放又は閉鎖を決定するための方法と、
− 人工呼吸器と、
− 上述の値を測定するためのセンサと、
− 気道圧の変化中に、測定値の結果として生じる経過から肺胞の開放及び閉鎖が生じる気道圧レベルを決定するデータプロセッサが含まれている、
肺の肺胞開放又は閉鎖を決定するための装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、できる限り大きい肺気量がガス交換に関与するPEEPの一般的な設定の場合、患者に特有の特殊性には最適に反応しない。酸素供給量に影響するパラメータを最適に設定するためには、一方におけるPEEPの増大及びもう一方におけるFiO2の上昇を互いに比較検討すべきである。PEEPとFiO2を最適化するには、両パラメータとも患者に対し個別に制御すべきである。従って、血行動態的に安定した患者に比べて血行動態的に不安定な患者の場合には、PEEPがそれほど高くない可能性があるという事実を特に考慮すべきである。
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 753 320号明細書
【特許文献2】米国特許第6,612,995 B2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、人工呼吸器の設定を患者に対して個別に自動的に設定可能にする装置及び方法を提供することにある。
【0009】
とりわけ本発明の目的は、患者に応じて人工呼吸器のPEEPとFiO2の設定を制御可能にする装置及び方法を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は本発明に従って実現されるものであり、人工呼吸器の設定を制御して、患者に適した機械的換気を実現するための装置に、
− 少なくとも1つのセンサ、好ましくは少なくとも2つのセンサであって、具体的には、O2供給の成功を表す少なくとも1つの示度を連続して測定するか又は時間間隔をあけて測定するための少なくとも1つのセンサ及び/又は換気の成功を表す少なくとも1つの示度を連続して測定するか又は時間間隔をあけて測定するための少なくとも1つのセンサと、
− プログラム式コンピュータであって、
− 長期的に機能する少なくとも1つの第1の電子制御ループ、具体的には、表示示度及び所定の必要な換気強度により、PEEPとFiO2を最適化するための制御ループ及び/又はPinspとRRIMVを最適化するための制御ループが設けられており、各事例毎に現在の最適化に従って人工呼吸器を作動させるようにプログラムされており、
− 短期的に機能する少なくとも1つの第2の制御ループ、具体的には、第1の制御ループによる最適化操作の間において、必要があれば、現在の表示値によってFiO2を高めるための制御ループ及び/又は第1の制御ループによる最適化操作の間において、必要があれば、現在の表示値により換気を強めるための制御ループが装備されている、
コンピュータが少なくとも含まれている。
【0011】
一方では、換気及び/又はO2供給を制御するため長期的に機能する制御ループ及び短期的に機能する制御ループをこのように設けることによって、長期にわたって患者の要件に合わせた最適化が可能になる。これによって肺に対する損傷の危険性が低下する。また一方で、患者の短期的な要件も確実に配慮される。
【0012】
望ましい実施態様の1つは、患者への酸素供給とりわけ患者の血液中における酸素飽和度を調べるための酸素センサと、換気とりわけ患者の動脈血CO2分圧を調べるためのCO2センサとを有し、かつ、全部で4つの制御ループを有する。
【0013】
本発明によれば、この目的は独立クレイムによって実現される。従属クレイムには本発明の有利な実施態様が定義されている。
【0014】
人工呼吸器によって機械的に換気される患者の血液中において適応する動脈血酸素分圧を実現するために、人工呼吸器のPEEPとFiO2設定を制御する本発明による装置には、例えば脈拍酸素濃度計のような少なくとも1つの酸素センサとプログラム式コンピュータとが含まれている。酸素センサは、酸素供給の成功を表す少なくとも1つの示度(SaO2REP)の測定に役立つ。この測定は時間間隔をあけて連続して実施される。
【0015】
プログラム式コンピュータには、表示示度(SaO2REP)及び所定の必要な供給強度によりPEEPとFiO2を最適化するため、第1の電子制御ループが装備されている。さらに、プログラム式コンピュータは所定の時間間隔でこうした最適化を反復するように、また、各事例毎に人工呼吸器を適宜作動させるようにプログラムされている。さらに、プログラム式コンピュータには、第1の制御ループで実施される前述の最適化の間に、必要があれば、現在の表示値(SaO2REP)によりFiO2を変化させるため、第2の電子制御ループが装備されている。
【0016】
こうした装置によって、一方では、患者の要件に対して酸素供給を短期的に適応させ、もう一方では、FiO2とPEEPを長期的に最適化することが可能になる。FiO2とPEEPの最適化は、効率の良い実施のためにより長い時間間隔を必要とし、肺への損傷の危険性を低下させる。第2の制御ループによってFiO2を適応させると、こうした比較的長い時間間隔のために、患者への酸素供給が不足する可能性はないという保証が得られる。
【0017】
最適化に関して、PEEPだけ又はFiO2だけを適応させることが可能である。従って有用なことには、時間間隔の長さは、最適化に関してこれらのパラメータのどちらを適応させたかによって決まる。しかし有益なことに、各事例ごとに最適化されたPEEPだけでなく最適化されたFiO2が、計算されて同時に設定される。
【0018】
そのPEEPとFiO2を最適化するタスクを実施するため、第1の制御ループには2つのアルゴリズムを含めるのが有用である。2つのアルゴリズムのうち第1のものは、必要な供給強度を計算するのに役立つ。このアルゴリズムでは、現在の表示示度(SaO2REP)及び現在の供給強度によりこうした値が計算される。第2のアルゴリズムは、PEEPとFiO2の個々の値を決定するのに役立つ。従って、これらは必要な供給強度のために計算される。PEEPの関数(値を含む)、FiO2の関数(値を含む)、又は、PEEPとFiO2の関数は供給強度とみなすことが可能である。
【0019】
供給強度によりPEEPとFiO2の個々の値を計算すると、患者に伴う要件に応じて異なる結果が得られるのが有利である。このため、装置は、肺の状態、換気の戦略的目標、血行動態的安定性、及び、場合によっては患者の年齢について入力可能であることが望ましい。設定値の計算に関する結果もこれらの入力に影響される。
【0020】
いずれにせよ、設定によってO2供給を確保しなければならない。従って装置に関して、第1の制御ループ、具体的には、第1のアルゴリズムは、各事例毎に表示示度を3つの領域に割り当てる。これらは、「高すぎる示度」、「正常示度」、「低すぎる示度」の領域である。これらの領域は、メモリに記憶されている少なくとも2つの特性線対によって定義される。2つの特性線対は、異なる戦略のために記憶されている。各特性線対は、各事例毎に、異なる定量化供給強度に異なる表示最小値を割り当てる第1の特性線を備えている。この特性線は、従って、正常領域と低すぎる領域との間の境界線を形成する。この特性線対は、もちろん、異なる定量化供給強度に異なる表示最大値を割り当てる第2の特性線も備えている。この第2の特性線は、従って、正常領域と高すぎる示度の領域との間の境界線である。両方の特性線は、互いにそれらの間に間隔をあけ、表示値に関する正常領域を形成している。2つの特性線は第1の制御ループのために存在する。2つの特性線は第2の制御ループについても同様に存在する。従って、第1の制御ループの特性線は、互いに第1のより短い間隔をあけて配置されるが、第2の制御ループについては、互いに第2のより長い間隔をあけて配置される。第2の制御ループは、下方の1つの特性線だけしか備えていない場合もある。これは、第2の制御ループに関して上方の特性線が100%のFiO2に位置しており、従って、これを超えることができないということを表わしている。いずれにせよ、第1の制御ループに適用可能な正常領域は、第2の制御ループに適用可能なより大きい正常領域内に完全に含まれる。表示された示度がこの正常領域内に含まれる場合、酸素供給に関係する人工呼吸器の設定が保持される。示度が第1の制御ループの正常領域に含まれる場合、示度は第2の制御ループの正常領域に強制的に含まれることになる。第2の制御ループの正常領域は第1の制御ループの正常領域より広いので、第2の制御ループは、第1の制御ループによる設定の適応操作の間において、示度がそれまでに第1の制御ループの正常領域外に出てしまって初めて有効になる可能性があり、また、示度が第2の制御ループの正常領域外に出る場合にも有効になる可能性がある。従って、第2の制御ループは第1の制御ループよりも広い許容範囲で反応するが、時間間隔が短い。
【0021】
第2の制御ループによってFiO2が上昇する結果、示度が第2の制御ループの正常領域内に含まれる場合に、これにもかかわらず、示度が第1の制御ループのより厳しい正常領域外に位置するということもあり得る。従って、第1の制御ループは、次に再び最適化を新たに実施しなければならず、患者の状態がこれを許す場合には、PEEPとFiO2の最適化を実現するため、多くの事例においてPEEPを高めなければならない。従って、第1の制御ループは、第2の制御ループによる補正後に結果として生じる供給強度を計算の基準にすることになる可能性がある。しかしながら、計算が、第2の制御ループによるこうした変更を考慮せずに、第1の制御ループによって設定された設定から生じる強度に基づいて行われるのは有利である。
【0022】
3つの領域は、戦略的目標に応じて有利に定義される。従って、メモリには異なる特性線対が記憶される。異なる特性線対は強制中止を表すか、あるいは意図的中止を伴った通常換気を表わしている。従って、この装置に関して戦略的目標を有利に選択することが可能になる。その結果、第1のアルゴリズムは、選択された戦略的目標に基づいて、戦略的目標に対応する異なる特性線対に依存することになる。用いられる特性線対に関する現在の示度がまだ正常領域内にあるか否かに基づき、それに応じて2つのパラメータPEEPとFiO2の少なくとも一方が変更されるか、又は、両方が同時に変更され、従って、強度も変更される。それらの特性線は別の特性線対とは異なる位置にあるので、2つのパラメータの変更が同じ状況で生じることはない。これによって戦略的目標に従うことが可能になる。
【0023】
この装置は、さらに有用なことには、患者の肺の状態の特性を示す患者パラメータについて入力することが可能である。従って、患者パラメータは第1の制御ループの第2のアルゴリズムにおいて考慮される。そのため、患者パラメータを変更すると、供給パラメータに関する個々の値に影響を及ぼす可能性がある。
【0024】
同様に有用なことには、患者の血行動態的安定性の特性を示す血行動態入力値に関する入力が可能になる。この血行動態入力値は、FiO2とPEEPの最適化によって、選択された呼気終末陽圧が決して血行動態に対する過剰な負担にならないようにするため、第2のアルゴリズムにおいて考慮される。血行動態入力値は、手動入力もできるし、また一方では、血圧を監視するか又は血行動態を示す別の値を監視することにより自動的に評価することも可能である。この値によって、例えば、平均血圧によって、血行動態的に不安定な患者のためのモードに自動的に切換えられる(例えば、患者は、例えば65mmHgを超える血圧で血行動態的に安定すると分類される)。
【0025】
血行動態を示すこの値が非常に悪くて、例えば、65mmHg以下の平均血圧の場合のように、それ以上負担をかけることができない血行動態であるとみなされると、コントローラが自動的にオンになり、それによって、PEEPの上昇にもかかわらず酸素濃度FiO2は確実に増すことになる。このコントローラは、さらに、この判断を可能にする血行動態を示す値の有無を確認する。血行動態を示す値が存在しない場合、コントローラは、2つの事例に限って、具体的には、現在のPEEPが5cmH2O以下である場合と、脈拍酸素濃度計によって確認される良好な血行が存在し、PEEPが最大で10cmH2Oの場合に限ってPEEPを高くする。これらの条件が満たされず、血行動態を示す根拠としての新たな値が存在しなければ、コントローラによって、PEEP又はFiO2を増すべきか否かに関する判断が機器のユーザに示される。
【0026】
第1の制御ループによるPEEPとFiO2の最適化に関して、患者の肺の状態及び血行動態を考慮に入れることが可能な関数が適用される。従って、装置のメモリにはさまざまな図式表示可能な関数が納められている。これらの関数によって、各事例毎にPEEPに関する値がFiO2に関する値に割り当てられる。これらの関数の1つにより、第2のアルゴリズムでPEEP又はFiO2に関する現在値を求めるか、あるいは、FiO2及び/又はPEEPの増減を実施しなければならないか否かを判断することになる。
【0027】
第2のアルゴリズムでは、入力された入力値に基づいて適合する関数が選択される。不安定な血行動態に適用される関数の1つによれば、供給強度の増減に関係なく、FiO2とPEEPが互いに割り当てられるのが有利である。一方、安定した血行動態に適用される関数の1つによればループが形成され、従って、供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPが互いに割り当てられるのが有利である。必要な強度の反応に関して、まずFiO2を意図的に低下させるが、また一方で、必要な強度の増大に関しては、意図的にまずPEEPを高めるか、又は、PEEPとFiO2を交互に又は同時に高めることになる。
【0028】
コンピュータは、いわゆる漸増操作の後、PEEPを高めて人工呼吸するため、PEEPを高める前に漸増操作を実施するようにプログラムされている。こうした漸増操作は、例えば、40cmH2Oで、圧力を持続することなく30秒間にわたりCPAPモードで換気することによって実施可能である。肺の換気されない部分は、これによって開放されることになり、その後、PEEPを強めて開放状態に保たれることになる。
【0029】
こうした装置は、換気率及び換気圧によって換気を、さらに、FiO2とPEEPによって酸素供給を定期的に制御するので、本発明については下記のように説明することも可能である。人工呼吸器の設定を制御するための装置は、換気及び酸素供給の成功を監視するためのセンサを備えている。この装置には、さらに、センサ信号により換気及び酸素供給を制御することを目的として人工呼吸器を作動させるためのプログラム式コンピュータが含まれている。コンピュータには、4つの制御ループがプログラムされている、すなわち、
1.患者に応じて目標頻度及び吸気圧を設定するための第1の換気制御ループ。換気強度に関する目標値、及び、現在の換気強度に対応する患者の動脈血CO2分圧に関する目標値は、これらの設定による範囲内に保たれる。第1の換気制御ループは換気設定の長期的調整を実施する。
2.時間的に制限されたやり方で、動脈血CO2分圧の目標値を下げ、換気強度に関する目標値を高くするための第2の換気制御ループ。しかしながら、これは、呼吸頻度が計算された目標頻度(特定の持続時間における)を一定の値だけ超える場合に限って実施される。この第2の換気制御ループは、患者自身の活性が増すことによってCO2分圧の低下を要求する患者を楽にするために換気設定の短期補正を実施する。
3.換気ガスの酸素濃度及び呼気終末陽圧を設定し、従って、患者への酸素供給に関する目標値を達成するための第1のO2供給制御ループ。この第1のO2供給制御ループはPEEPとFiO2を長期的に最適化する。
4.酸素供給の成功に関する表示示度が限界値より低くなるとすぐに、供給制御ループによって2つの最適化操作の間に換気ガスの酸素濃度をただ単に高めるための第2のO2供給制御ループ。この第2のO2供給制御ループは、十分な酸素供給量を短期的に確保する。
【0030】
こうした装置は、人工呼吸器の構成要素であることが望ましい。人工呼吸器は、酸素供給の成功を確認するためのセンサ、患者の血行動態的安定性を制御するためのセンサ、及び、患者パラメータの入力に関して患者の血行動態的安定性や戦略的目標を入力可能なコンピュータを備えているのが望ましい。血行動態及び酸素供給は同じセンサで監視されるのが望ましい。コンピュータは、センサ値及び入力値によりPEEPとFiO2を自動的に計算し、人工呼吸器の設定をそれに応じて制御するようにプログラムされている。
【0031】
人工呼吸器のPEEPとFiO2を制御するための本発明による方法は、機械的に換気される患者の血液中における動脈血酸素分圧の実現に役立つ。それは2つの制御ループによって機能する。第1の制御ループの場合、第1の時間間隔の間に、PEEPとFiO2の値を最適化し、それに応じて人工呼吸器を作動させる。変更後、新たな操作が計算されるまでの時間間隔は、例えば90秒〜3分間である。この時間間隔は、供給強度を減らす場合(180秒)よりも供給強度を増す場合のほうが短くなる(90秒)のが有利である。このため、第1の制御ループは、動脈血の酸素含有量(飽和度)の表示値(SaO2REP)及び必要な所定の供給強度に基づいている。必要があれば、FiO2は第2の制御ループによって第2のより短い時間間隔(例えば、15秒)の間に高められる。第2の制御ループは、従って、表示値(SaO2REP)に基づいている。FiO2は、場合によっては、第2の制御ループによって極めて迅速に100%まで高められる。いきなり100%の酸素を混入して、換気用空気中の酸素含有量が増すようにするのが有利である。酸素含有量を減らす場合には、増加後の飽和度は十分になっているので、短い時間(3分)内に、この増加した含有量を再び90%にまで減少させることになる。
【0032】
表示値は、例えば血液の酸素飽和度の表示する連続的に測定された示度であるのが有効である。観血的方法が可能であっても、非観血的方法が望ましいので、表示値は脈拍酸素濃度計によって得るのが望ましい。表示値は、単一センサによる示度から推定することが可能である。また一方では、表示値はいくつかのセンサの異なる示度から集約することも可能であり、それによって示度の信頼性が増すことになる。
【0033】
血液ガス測定を適用することが可能な場合には、呼吸ガスのCO2バランスから表示値を計算することも可能である。
【0034】
第1の制御ループは、2つのアルゴリズムに分割されるのが有利である。必要な供給強度(PEEPの関数)が、表示値及び現在の供給強度により第1のアルゴリズムによって計算される。PEEPとFiO2の個々の値が必要な供給強度により第2のアルゴリズムによって評価される。肺の状態の特性を示す患者パラメータが第2のアルゴリズムによって特性を明らかにされるので有用である。
【0035】
第1の制御ループの第1のアルゴリズムによって、各事例毎に表示値が3つの領域の1つに有効に割り当てられる。従って、設定を補正しなければならないのは、表示値が正常範囲外にある場合に限られる。第2の制御ループによって、2つの領域の1つに表示示度が割り当てられる。示度が、もはや正常範囲内にないほどに低く、従って不十分な酸素供給を示している場合、第2の制御ループによってFiO2の設定の補正が開始される。これらの領域は、第1の制御ループにおいて、互いに間隔をあけた、各事例毎に最小及び最大の表示値に供給強度を割り当てる2つの特性線によって形成される。特性線は、それらの間に表示値に関する正常領域を形成する。下方の特性線だけが下方の制御ループにおいて確定されており、この特性線によって、示度がこの特性線より低くなると、第2の制御ループを作動させるように規定されている。第2の制御ループの場合、最小の表示値に関する下方の特性線は、第1の制御ループにおいて用いられている特性線対よりも低い位置にある。同様に、第1の制御ループの場合、最大の表示値に関する上方の特性線は、第2の制御ループの100%の最大示度より下に位置している。
【0036】
通常、患者の血行動態的安定性の特性を示す血行動態入力値は、第1の制御ループの第2のアルゴリズムにおいて考慮される。血行動態が不安定な場合、最大呼気終末陽圧PEEPは、ほぼ換気用空気の酸素濃度だけが適応し続けるような深さに制限される。
【0037】
第2のアルゴリズムでは、図式表示可能な関数によりPEEPとFiO2に関する現在値が有利に決定される。関数によって、各事例毎にPEEPに関する値がFiO2に関する値に割り当てられる。
【0038】
第2のアルゴリズムでは、FiO2とPEEPの値を確定するため、どんな現在の血行動態入力値が存在するか、どんな現在の患者パラメータが存在するかに応じて異なる関数が用いられる。
【0039】
血行動態が不安定な場合、関数によって、供給強度の増減に関係なくFiO2とPEEPが互いに割り当てられる。
【0040】
その一方で血行動態が安定している場合、関数はループを形成する。このため、FiO2とPEEPは、供給強度の増減に応じて互いに割り当てられる。
【0041】
これらの図式表示可能な関数は、要望に応じて構成することが可能であるのが望ましい。従って、それらの関数は、新しい情報に基づいて又は医師の個人的確信に基づいて構成し、修正することが可能である。このため、それらの間に図式表示された関数が直線状に延びる10の点を決定することが可能である。これらの点は、無限に又はある限度内で表示し、設定することが可能である。
【0042】
示度が正常領域未満である限りにおいて、PEEPとFiO2の適応はΔtの各時間間隔毎に実施される。それによって、例えばPEEPが2cmH2Oだけ高められ(このため漸増操作が実施される)、FiO2が現在適用可能な関数によって確定される。漸増操作中に血行動態の監視が可能な場合、不安定な血行動態の徴候が観測されるとすぐに、漸増操作を終了することが可能である。
【0043】
強度を弱める場合、それに応じてPEEPを2cmH2Oだけ低下させ、妥当な関数に従ってFiO2を適応させる。これは、示度SaO2が正常領域内に納まるまで繰り返される。
【0044】
第2のアルゴリズムでは、供給の必要な強化を行う場合、血圧又は患者の血行動態に関する情報を提供する別の示度の評価を有効な根拠にして、PEEPを必要な程度まで高めることができるか否か、FiO2だけを増すことが可能か否かを判断する。
【0045】
有利なことには、異なる一連の特性線によって、患者パラメータに応じた第2の制御ループの基準が形成される。これによって、特性線、従って、正常領域を患者に特有の要件又は疾病に特有の要件に適応させることが可能になるが、とりわけ、戦略的目標に適応させることが可能になる。
【0046】
さらに、本発明は、人工呼吸器の設定を自動制御するための方法として定義することが可能であり、この方法によって下記のステップが実施される。
第1の換気制御ループに関して、患者に応じて患者の血液中における動脈血CO2分圧に関する目標値及び換気強度に関する目標値を達成するため、目標頻度及び吸気圧が設定される。
第2の換気制御ループによって、限られた時間の間に、動脈血CO2分圧に関する目標値が引き下げられ、換気強度に関する目標値が引き上げられる。しかしながら、これが実施されるのは全呼吸頻度が計算された目標頻度を一定の値だけ超える場合に限られる。第1のO2供給制御ループによって、患者に応じて供給強度及び患者の血液中の酸素濃度に関する目標値を達成するため、換気ガスの酸素濃度及び呼気終末陽圧が設定される。
最後に、第2の供給制御ループによって換気ガス中の酸素濃度が高められる。この酸素濃度を高める操作が実施されるのは、供給制御ループによる2つの設定操作の間において患者の血液中の酸素濃度に関する表示示度(SaO2REP)が特定の下限値未満になる場合に限られ、前記下限値は第1の制御ループの正常領域を下回る。
【0047】
本発明は、上述の方法の1つを実施するために設計されたコントローラを備える人工呼吸器にも関連する。
【0048】
こうした人工呼吸器には、酸素分圧を表示する示度を測定するためのセンサと、血行動態的安定性を監視するためのセンサと、患者パラメータを入力し、これらの入力値を考慮しながら、PEEPとFiO2を自動的に計算して、作動させるための、患者の血行動態的安定性について入力することが可能なプログラム可能コントローラが設けられている。
【0049】
本発明については、例と図によって詳細に後述することにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図1に描かれた略図には、患者11への酸素供給に本発明による方法を利用することが可能な回路の概略が示されている。
【0051】
圧力源(人工呼吸器)13によって、酸素が換気用空気15と共に患者11に供給される。圧力源13は、ある回路によって制御される。この回路は、両方とも十分な酸素供給を確実にする第1の制御ループ17と第2の制御ループ19から構成されている。第1の制御ループ17には、2つのアルゴリズム、すなわち、必要な供給強度を決める第1のアルゴリズム21と、FiO2とPEEPに関する適切な設定を評価し、それに応じて人工呼吸器13を作動させる第2のアルゴリズム23が含まれている。
【0052】
FiO2(%)とPEEP(cmH2O)の積は供給強度と定義することができる。従ってPEEPが1未満の供給強度は必ず1*FiO2である。しかしながら、FiO2とPEEPの線形関数として定義される供給強度に関して、PEEPの変化はFiO2の変化に比べて重み付けが低すぎる。従って、この値に換気強度をよりしっかりと反映させるためには、PEEPの重みを高めるか、あるいは、単純に供給強度の決定にFiO2を全く考慮しないことさえ有効である。後者の場合、供給強度はPEEPだけの関数である。「処置レベル」とも呼ばれるこの患者11に必要な供給強度は、第1の制御ループ17の第1のアルゴリズム21によって確定される。この確定のための根拠は患者パラメータ25の入力である。下記の状況が患者パラメータによって識別される。
・ 通常の患者、
・ 通常の患者に比べて肺の抵抗が増したCOPD患者、
・ 通常の患者に比べて肺の硬直性が増したARDS患者、
・ 血行動態が不安定な患者、
・ 脳を負傷した患者。
【0053】
さらに、通常操作(意図的中止を伴う)と強制中止の間に戦略的識別が実施される。この戦略的目標の入力が参照番号26で示されている。
【0054】
戦略に応じて、動脈血酸素分圧の評価に異なる特性線27、29が利用される。図5には、例証としてこれらの特性線27、29が示されている。X軸において供給強度が左から右へと増大し、Y軸には最上部にまで増大する血液中の酸素分圧に関する表示値が含まれている。各事例毎に表示値の最小値と最大値を供給強度に割り当てるいくつかの特性線対が存在している。特性線対は、図面において異なる線特性によって互いに識別される。切れ目がないように示された特性線は、第1の制御ループに適用され、断続的な特性線は第1の制御グループに適用される。
【0055】
特性線対は、どの戦略的目標に従うか、第1の制御ループと第2の制御ループのいずれに適用されるかに応じて異なるように延びている。強制中止のための戦略の場合、適用可能な正常領域は、動脈血酸素飽和度に関する値が通常換気のための戦略に適用可能な正常領域よりも低くなる。
【0056】
これに基づいて、表示値、この示された実施例の場合、脈拍酸素濃度計で測定された血液の飽和度に関する表示示度SaO2REPは、特性線によって形成される3つの領域31、33、35の1つに分類される。従って、示度は、領域33内にある場合の正常、領域35内にある場合の高すぎる、領域31内にある場合の低すぎる、のいずれかに等級分けされる。
【0057】
現在の表示値が現在適用可能な特性線対の特性線間に位置する場合には正常とみなされ、そのままで換気が続行される。しかし、現在値が下方の特性線27未満になるか上方の特性線29を超えると、それぞれ、供給強度の増減が施される。
【0058】
供給強度に関する新しい値は、患者の血行動態的安定性に関する入力値37と共に、PEEPとFiO2の測定に関する基準を形成する。PEEP又はFiO2を増すべきか減らすべきかについては、図2〜4に略示された関数によって決定される。通常の患者の場合、まず供給強度の増大に応じてPEEPが高められる。その後、PEEP又はFiO2のいずれか、あるいは両方が一緒に高められる。PEEPが曲線によって決まる限界値を超えて上昇することは絶対にない。特定の供給強度から、PEEPとFiO2が純酸素による換気が行われるまで高められる。その後も依然として高められるのは、呼気終末陽圧PEEPだけである。また一方で、意図的にまず換気用空気中の酸素成分だけが減少させられる。酸素成分は、関数の戻り曲線が交差するまで減少させられる。この曲線は、供給強度が最も高い極値コーナから換気ガス中の酸素成分が少ない供給強度まで急激に戻る。ここまで、PEEPはほんのわずかしか低下していない。この点から、換気圧及び酸素含有量は対称に減少する。最終的に、換気は30%の酸素含有量で実施されることになり、このため、PEEPだけは依然として低下させることが可能である。
【0059】
COPD患者及びARCD患者の関数の場合(図3)、PEEPとFiO2の同じ供給レベルからその極値まで比例して増大させる。供給強度が低下する場合、曲線はまず通常の患者に関する曲線まで全く同じように延びる。このため、減少させられるのは主として酸素含有量であり、PEEPはわずかに低下するだけである。FiO2が30%になるまで、曲線はこの方向を保つ。この後、PEEPだけが低下させられる。
【0060】
特定の状況下において、例えばCOPD患者の事例におけるPEEPに関する場合が考えられるが、PEEPとFiO2の自動評価を、示度に基づいて確実にプログラムすることができない場合、装置には、それぞれの値を手動で入力しなければならないようにプログラムされる。
【0061】
血行動態的に不安定な患者の場合、図4によれば、PEEPは0〜5mbarの領域で変化させられだけである。しかしながらこの領域では、換気ガスの酸素含有量は供給強度の上昇に応じて大幅に増加する。供給強度の低下時には、第2のアルゴリズムは増大の場合と同じ曲線に従うことになる。PEEPの上昇は心臓に対する負担を意味するので、血行動態的に不安定な患者の場合、主としてFiO2に反応する。
【0062】
図6には人工呼吸器の概略が描かれている。この図には、図1に描かれた略図も含まれている。第1のO2供給制御ループ17は、より長い時間間隔でFiO2とPEEPを互いに比較評価し、より長い期間にわたってこれらを最適化するアルゴリズム21と23の両方を備えている。その一方で、必要があれば、第2の供給制御ループ19が短期間に患者への酸素供給を確保するためにFiO2を高める。
【0063】
これとは別に、患者の換気を確実にするための制御が存在する。この制御には、アルゴリズム41と43を備えた第1の換気制御ループ39が用意されている。第1のアルゴリズム41は、現在の換気強度と患者の動脈血CO2分圧に関する現在の表示示度PaCO2REPにより新しい換気強度を計算する。この新たに評価された値は、第2のアルゴリズムの基準を形成する。これに基づいて、第2のアルゴリズムは目標頻度RRSP、機械周波数RRIMV、及び、吸気圧Pinspを計算する。目標頻度は第2の換気制御ループ45において現在の全呼吸頻度と比較される。患者が目標頻度に相当する一定の量だけより頻繁に能動的に呼吸する場合、第2の換気ループ45によって換気強度が強められ、PaCO2REPに関する目標値が引き下げられる。この処置は、患者がCO2分圧の低下、従って、頻度の増加を望んでいるという仮定に基づいている。全呼吸頻度RRtot及び目標頻度RRspが例えば10分間といった特定の時間にわたって互いに一致するとすぐに、第2の換気制御ループ45によって開始された換気の強化が再び中止される。
【0064】
患者の換気は、第1と第2の換気制御ループによって推定された吸気圧と換気率に基づいて人工呼吸器13によって実施される。酸素供給は、呼吸ガスの酸素含有量に関するFiO2及び残存呼気終末陽圧に関するPEEPの値に基づいて、人工呼吸器13によって実施される。従って、患者11は所定の換気を受ける。吸気圧と呼気圧は近位にあるフローセンサ51で測定される。この装置によって監視されるさまざまなパラメータがそれに基づいて計算される。
【0065】
さらに、換気及び酸素供給の基準をなすそれらの監視値を管理して(例えば、もっともらしさのチェック)、制御ループ39と17のための基準になるように処理するインターフェイスを示すブロックEが描かれている。
【0066】
ブロックGには、SpO2、脈拍、PaCO2、tcpCO2、mABP等の監視値が、外部監視装置Gからも生じる可能性があるが、必ずしもセンサからブロックEに直接供給する必要がないことが示されている。
【0067】
さらに、これらを関連づけるブロックA、B、C、D及びブロックHが描かれている。ブロックA〜Dには、いくつかの設定が手動入力可能であることが示されている。
A: 血圧と血液ガス値の手動入力。
B: 酸素供給及び換気に関する特定値の評価基準を形成する患者の換気戦略、疾病パラメータ、サイズ、性別の入力。
C: 全ての設定値の制御又は手動設定。
D: 警報限界、純酸素換気、又は、吸引等のような操作実施の手動設定。
【0068】
ブロックHには、それを介してこれら全ての入力可能性を利用することが可能であり、それによって設定値及び示度を表示することが可能な、スクリーンディスプレイを備えたユーザインターフェイスが示されている。
【0069】
ブロックEによるインターフェイスでは、一連の示度からの表示値が処理されて、これらにその信頼性に関する指数が付けられる。このため、血液の酸素飽和度は、例えば2つの脈拍酸素濃度計、脈拍酸素濃度計と呼吸ガスセンサ等のような2つの独立したセンサで同時に測定することが可能である。センサによって得られる示度SpO2及びPawO2及びPawCO2は、さらに表示値SaO2REPに集約される(例えば血液ガス測定を考慮しながら)。
【0070】
上記はPaCO2にも適用される。呼吸終期CO2示度が表示値PaCO2REPとして選ばれる。
【0071】
平均動脈血圧mABPは、血圧の観血的示度又は非観血的示度から評価される。血行動態に関する情報を提供する他の示度(例えば灌流指数)は、脈拍酸素濃度計の測定結果から推定することが可能である。
【0072】
この装置は、表示示度PaCO2REP及びSaO2REPが正常領域内に納まるように、呼吸圧Pinsp、呼吸数RRIMV、吸気時間TI、吸気ガス中の酸素濃度FiO2、及び、呼気終末陽圧PEEPといった換気パラメータの設定を制御する。示度が正常領域内にある場合、設定はほとんど不変のままである。変更が施されるのは、自発的呼吸数が目標呼吸数を一定の量だけ超える場合に限られる。表示示度が、供給強度に基づいて又は換気強度に基づいて決まる正常範囲内になければ、換気パラメータの変更が行われる。変更に関して、肺の状態(圧縮率、抵抗、COPD、ARDS)、血行動態的安定性、脳の負傷、患者活性度、年齢等のような患者パラメータが、例えば対応する関数又は正常領域の選択によって考慮される。酸素供給があまりに少ない場合、場合によってはPEEPを高めることも可能である。その後のPEEPの上昇に応じた人工呼吸のため、呼気終末陽圧の上昇に応じて漸増操作が実施される。PEEPは、血行動態的に不安定な患者に関して少しだけしか高められず、従って、こうした漸増操作は排除することが可能である。
【0073】
結論としては、本発明は、機械的に人工呼吸を施されている患者の血液中において動脈血酸素分圧を実現するためにPEEPとFiO2を制御する装置に関するものである。酸素供給の成功の少なくとも1つの表示示度、すなわち、血液の酸素飽和度が、装置によって連続して又は時間間隔をあけて測定され、2つの特性線によって形成される3つの領域の1つに割り当てられる。3つの領域のうちの2つは、設定の調整による供給の増減を要求し、第3の領域すなわち特性線間の正常領域は、所定の設定の保持が可能である。第1の制御ループは、ある示度を設定の変更を要求する領域に割り当てる場合にPEEPとFiO2を最適化するか、又は、正常領域に割り当てる場合にその設定を保持するように設計されている。この第1の制御ループは、表示示度(SaO2REP)及び所定の必要な供給強度を根拠に所定の時間間隔でこうした最適化を実施する。その後、人工呼吸器がそれに応じて作動させられる。これらの時間間隔内に、すなわち、第1の制御ループの2つの最適化操作の間に、必要があれば、すなわち、第1の制御ループによる最適化操作の間において、現在の表示値(SaO2REP)が、供給強度によって決まる、酸素供給の即時増加を要する限界値(特性線)未満になると、第2の制御ループによってFiO2だけが高められ、現在の表示値(SaO2REP)が前記限界値を再び超えると、第2の制御ループによって低下させられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】人工呼吸器による患者への酸素供給の制御の略図である。
【図2】通常の患者に必要な供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPを適応させるための関数曲線を略示した図である(x軸PEEP、y軸FiO2)。
【図3】通常の患者の関数と比較した、肺の硬直性及び/又は高い換気抵抗を有する患者に必要な供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPを適応させるための関数曲線を略示した図である(x軸PEEP、y軸FiO2)。
【図4】通常の患者の関数と比較した、血行動態的に不安定な患者に必要な供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPを適応させるための関数曲線を略示した図である(x軸PEEP、y軸FiO2)。
【図5】患者の血液中における動脈血酸素分圧に関する表示値を評価するための特性線を示す図である(x軸 供給強度、y軸 表示示度SaO2REP)。
【図6】換気及び酸素供給のための制御ループを備えた人工呼吸器の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工呼吸器で機械的に換気される患者の血液中において適合する動脈血酸素レベルを実現するためにPEEPとFiO2の設定を制御するための装置であって、
− 連続的に測定された示度又は時間間隔をあけた示度から得られる酸素供給の成功を表す少なくとも1つの示度(SaO2REP)を供給するための入力手段と、
− PEEPとFiO2に関する値を決定するためのプログラム式コンピュータが含まれており、
前記プログラム式コンピュータが
− 必要な供給強度を決定するように設計されており、
− 第1の電子制御ループに関して、PEEPとFiO2を互いに比較評価して、前記表示示度(SaO2REP)及び前記必要な供給強度によりそれらを最適化するように設計されており、かつ、この第1の制御ループが時間間隔をあけて繰り返され、前記人工呼吸器が各事例毎にそれに応じて作動させられるようにプログラムされており、
− 第2の電子制御ループに関して、必要があれば、前記第1の制御ループによる最適化操作の間に現在の表示する表示示度(SaO2REP)(SaO2REP)だけに対して短期的にFiO2を高めるように設計されていることを特徴とする、
装置。
【請求項2】
前記供給強度がPEEPの関数であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記供給強度がFiO2の関数であることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
酸素センサが脈拍酸素濃度計であることを特徴とする請求項1〜3の1つに記載の装置。
【請求項5】
前記第1の制御ループに2つのアルゴリズム、すなわち、
− 現在の表示示度(SaO2REP)と現在の供給強度に対して必要な供給強度を計算するための第1のアルゴリズムと、
− 前記必要な供給強度によりPEEPとFiO2に関する個々の値を評価するための第2のアルゴリズムが含まれることを特徴とする
請求項1〜4の1つに記載の装置。
【請求項6】
患者の肺の状態の特性を示す患者パラメータの入力が可能であり、前記第2のアルゴリズムにおいて前記患者パラメータが考慮され、この患者パラメータの変更がPEEPとFiO2の異なる最適化をもたらすことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の制御ループが、各事例毎に特性線対によって形成される3つの領域の1つに前記表示示度(SaO2REP)を割り当て、前記示度が中間の正常領域外にある場合にはパラメータFiO2及び/又はPEEPの変更を実施するだけであり、前記特性線対は、各事例毎に異なる定量化供給強度に異なる最小の表示値(SaO2REP)を割り当てる第1の特性線と、各事例毎に異なる定量化供給強度に異なる最大の表示値(SaO2REP)を割り当てる第2の特性線を備え、前記両方の特性線が互いに間隔をあけて位置し、それらの間に表示値(SaO2REP)に関する正常領域を形成しており、及び、前記第2の制御ループが、各事例毎に単一特性線によって形成される2つの領域の一方に前記表示示度(SaO2REP)を割り当て、前記示度が前記特性線未満の場合には前記パラメータFiO2の変更を実施するだけであり、前記特性線が、各事例毎に異なる定量化供給強度に異なる最小の表示値(SaO2REP)を割り当て、前記第2の制御ループに用いられる前記特性線が、前記第1の制御ループに用いられる前記特性線対の下方の特性線より下に位置し、前記第1の制御ループに用いられる前記正常領域が、前記第2の制御ループに用いられる前記特性線より上にある前記正常領域内に完全に納まることを特徴とする請求項1〜6の1つに記載の装置。
【請求項8】
前記第1の制御ループに関する異なる特性線対及び第2の制御ループに関する異なる単一特性線がメモリに記憶されており、選択可能であることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
戦略的目標が選択可能であって、前記コンピュータが、前記選択された戦略的目標に従って、前記戦略的目標に対応する異なる特性線対及び単一特性線を選択することを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
現在のPEEPと、患者の血行動態を示す少なくとも1つの値すなわち血圧又は末梢循環の基準である示度とに対して、前記第1の制御ループによって要求されるPEEPの上昇を実施するか、又は、指示されるPEEPの上昇の代わりにFiO2を増すか、又は、装置のユーザに判断を任せるかを決定するコントローラが設けられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の装置。
【請求項11】
患者の血行動態的安定性の特性を示す血行動態入力値の入力が可能であり、前記第2のアルゴリズムにおいて、PEEPとFiO2の最適化に関して前記血行動態入力値が考慮されること特徴とする請求項5〜10のいずれか1つに記載の装置。
【請求項12】
図式表示可能な異なる関数であり、それがメモリに記憶されていて、各事例毎にFiO2に関する値にPEEPに関する値を割り当てる異なる関数と、前記第2のアルゴリズムがこれらの関数のいずれか1つを根拠としてPEEPとFiO2に関する現在値を決定することを特徴とする請求項5〜11のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
前記第2のアルゴリズムは、前記アルゴリズムによる前記関数が、患者の血行動態的状況を表わす入力と現在の患者パラメータに従って選択されるようにプログラムされていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
不安定な血行動態に適用される関数であって、前記関数が供給強度の増減に関係なくFiO2とPEEPを互いに割り当てることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項15】
安定した血行動態に適用される関数であって、前記関数がループを形成し、従って、供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPを互いに割り当てることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記コンピュータが、PEEPの上昇前にいわゆる漸増操作を実施するようにプログラムされていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の装置。
【請求項17】
前記図式表示可能な関数が、人間のオペレータによって構成可能なようにプログラムされていることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1つに記載の装置。
【請求項18】
換気及び酸素供給の成功を監視するためのセンサと、
前記センサの信号に対して前記喚起及び酸素供給を制御することを目的として、前記人工呼吸器を作動させるためのプログラム可能コンピュータが設けられており、
前記コンピュータが、
− 第1の換気制御ループ(39)が、患者に応じて目標頻度(RRsp)及び吸気圧(Pinsp)を設定し、これによって、換気強度に関する目標値及び現在の換気強度に対応する患者の動脈血CO2分圧に関する目標値を実現するようにプログラムされており、
− 第2の換気制御ループ(45)が、全呼吸頻度が計算された前記目標頻度を一定の値だけ超えると、時間的に制限されたやり方で前記動脈血CO2分圧に関する目標値を引き下げ、前記換気強度に関する目標値を引き上げるようにプログラムされており、
− 第1の供給制御ループ(17)が、換気ガスの酸素濃度(FiO2)及び呼気終末陽圧(PEEP)を設定し、これによって、患者への酸素供給に関する目標値を実現するようにプログラムされており、
− 第2の供給制御ループ(19)が、前記酸素供給の成功に関する表示示度(SaO2REP)が特定の限界値未満になるとすぐに、前記第1の供給制御ループ(17)によってFiO2とPEEPの設定が更新されるまで、前記換気ガスの酸素濃度(FiO2)を単に高めるようにプログラムされていることを特徴とする、
人工呼吸器の設定を制御する装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の前記人工呼吸器の設定を制御する装置と、
酸素供給の成功を確認するためのセンサと、
患者パラメータの入力に関して患者の血行動態的安定性並びに戦略的目標を入力可能なコンピュータが設けられており、前記コンピュータが、センサ値及び前記入力値に対してPEEPとFiO2を自動的に計算し、前記人工呼吸器の設定をそれに応じて制御するようにプログラムされていることを特徴とする、
人工呼吸器。
【請求項20】
前記人工呼吸器によって機械的に換気される患者の血液中における動脈血酸素分圧を実現するために、人工呼吸器のPEEPとFiO2の設定を制御方法であって、
− 酸素供給の成功を表す少なくとも1つの示度が連続して又は時間間隔をあけて測定され、
− PEEPとFiO2値が、第1の制御ループによって前記酸素供給の成功を表す示度(SaO2REP)と所定の必要な供給強度とを根拠に時間間隔をあけて最適化され、それに応じて前記人工呼吸器が作動させられ、
− それらの間に、必要があれば、FiO2だけが第2の制御ループによって前記現在の表示値(SaO2REP)により高められることを特徴とする、
方法。
【請求項21】
前記表示示度が血液の酸素飽和度の連続測定された表示示度であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
必要な供給強度が、前記第1の制御ループの第1のアルゴリズムによって現在の表示値(SaO2REP)と現在の供給強度により計算され、PEEPとFiO2に関する個々の値が、前記第1の制御ループの第2のアルゴリズムによって前記必要な供給強度により評価されることを特徴とする請求項20及び21の一方に記載の方法。
【請求項23】
肺の状態の特性を示す患者パラメータが第1のアルゴリズムに考慮されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1のアルゴリズムによって、各事例毎に前記表示示度及び現在の供給強度が3つの領域のいずれか1つに割り当てられ、前記領域が、各事例毎に所定の供給強度に関して最小及び最大の表示値を決定し、それらの間に前記表示値(SaO2REP)に関する正常領域を形成する、互いに間隔をあけた2つの特性線によって形成されることを特徴とする請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のアルゴリズムが、前記患者パラメータ及び戦略的目標に従って異なる一連の特性線に基づいて形成されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
患者の血行動態的安定性の特性を示す血行動態入力値が前記第2のアルゴリズムに考慮されることを特徴とする請求項22〜25のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
前記第2のアルゴリズムが、図式表示可能な関数に対してPEEPとFiO2に関する現在値を決定し、前記関数が各事例毎にPEEPに関する値をFiO2に関する値に割り当てることを特徴とする請求項22〜26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
前記第2のアルゴリズムは、前記現在の血行動態入力値、患者の血行動態を示す示度、及び、前記現在の患者パラメータに基づいて異なる関数を利用することを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
血行動態が不安定な場合、適用される関数が、供給強度の増減に関係なくFiO2とPEEPを互いに割り当てることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
血行動態が安定している場合、適用される関数がループを形成し、従って、供給強度の増減に応じてFiO2とPEEPを互いに割り当てることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
PEEPの上昇前に、漸増操作が実施されることを特徴とする請求項20〜30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの図式表示可能な関数が修正され、このこうして新たに構成された関数が第2のアルゴリズムの基準を形成することを特徴とする請求項27〜31のいずれか1つに記載の方法。
【請求項33】
目標頻度(RRsp)及び吸気圧(Pinsp)が、患者に応じて患者の血液中における動脈CO2分圧及び換気強度に関する目標値を達成するように第1の換気制御ループ(39)によって設定され、
全呼吸頻度が計算された目標頻度を一定の値だけ超える場合、第2の換気ループ(45)によって、時間的に制限されたやり方で前記動脈血CO2分圧に関する目標値が引き下げられて前記換気強度に関する目標値が引き上げられ、呼吸ガスの酸素濃度(FiO2)及び呼気終末陽圧(PEEP)が、第1のO2供給制御ループ(17)によって、患者に応じて供給強度及び患者の血液中における酸素濃度に関する目標値を達成するように設定され、
患者の血液中における酸素濃度に関する表示示度(SaO2REP)が特定の限界値未満になるとすぐに、前記呼吸ガスの酸素濃度(FiO2)が、前記第1のO2供給制御ループによってFiO2とPEEPの設定が更新されるまで、第2のO2供給制御ループ(19)によって高められることを特徴とする、
人工呼吸器の設定を制御する方法。
【請求項34】
患者に適した機械的換気を実現するために人工呼吸器の設定を制御する装置であって、
− 少なくとも1つのセンサ、好ましくは少なくとも2つのセンサであって、少なくともO2供給の成功を表す示度を連続して測定するか又は時間間隔をあけて測定するための少なくとも1つのセンサ及び/又は換気の成功を表す少なくとも1つの示度を連続して測定するか又は時間間隔をあけて測定するための少なくとも1つのセンサと、
− プログラム式コンピュータであって、
長期的に機能する少なくとも1つの第1の電子制御ループ、表示示度及び所定の必要な換気強度に対して、PEEPとFiO2を最適化するための制御ループ及び/又はPinspとRRIMVを最適化するための制御ループが設けられており、各事例毎に現在の最適化に従って人工呼吸器を作動させるようにプログラムされており、
短期的に機能する少なくとも1つの第2の制御ループ、前記第1の制御ループによる最適化操作の間に、必要があれば、現在の表示値によってFiO2を高めるための制御ループ、及び/又は前記第1の制御ループによる最適化操作の間に、必要があれば、現在の表示値に対して換気を強めるための制御ループが装備されている、前記コンピュータと
を含む装置。
【請求項35】
患者への酸素供給、とりわけ、患者の血液中における酸素濃度を調べるための酸素センサと、換気、とりわけ、患者の動脈血CO2分圧を調べるためのCO2センサと、全部で4つの制御ループが設けられていることを特徴とする請求項34に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−524456(P2009−524456A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551622(P2008−551622)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000042
【国際公開番号】WO2007/085110
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508180482)ハミルトン・メディカル・アーゲー (7)
【Fターム(参考)】