説明

OCTシステムを備える手術用顕微鏡

【課題】物体領域の深部画像の検出を可能にする手術用顕微鏡を提供する。
【解決手段】本発明手術用顕微鏡100は、主観察のための観察光路と同時観察のための観察光路とを備える。手術用顕微鏡100は、主観察のための観察光路と同時観察のための観察光路106とが通る顕微鏡主対物レンズ101を有している。本発明によると、手術用顕微鏡100は物体領域を検査するためのOCTシステム120を含んでいる。OCTシステム120は、顕微鏡主対物レンズ101を通して案内されるOCT走査光路123を含んでいる。同時観察のための観察光路106には、OCT走査光路123を同時観察のための観察光路106へ入力結合して顕微鏡主対物レンズ101を通して物体領域108へと案内するために入力結合部材150が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察光路と、観察光路が通る顕微鏡主対物レンズとを備える手術用顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた種類の手術用顕微鏡は特許文献1から公知である。同文献には、主観察のための双眼鏡筒と、同時観察のための双眼鏡筒とを備える手術用顕微鏡が記載されている。主観察のための双眼鏡筒と同時観察のための双眼鏡筒は、共通の手術用顕微鏡本体に配置されている。主観察のための双眼鏡筒と同時観察のための双眼鏡筒は、立体視観察光路を有している。これらの立体視観察光路は共通の顕微鏡主対物レンズを通り抜ける。
【0003】
特許文献2には、OCTシステムを含んでいる手術用顕微鏡が記載されている。
【0004】
OCTシステムは、光コヒーレンス断層撮影法を用いて、組織内部の構造を非侵襲的に表示および測定することを可能にする。光コヒーレンス断層撮影法は光学的な画像の生成法として、特に、生物組織の断面画像または体積画像をマイクロメートルの解像度で生成することを可能にする。これに対応するOCTシステムは、試料光路と参照光路に供給される、時間的にインコヒーレントで空間的にコヒーレントであるコヒーレンス長lcの光のための光源を含んでいる。試料光路は、検査されるべき組織に対して向けられる。OCTシステムは、組織内の散乱中心に基づいて試料光路へとはね返されたレーザ放射を、参照光路に由来するレーザ放射と重ね合わせる。重ね合わせによって干渉信号が生じる。この干渉信号を基にして、検査された組織におけるレーザ放射に対する散乱中心の位置を決めることができる。
【0005】
OCTシステムについては、「タイムドメインOCT」と「フーリエドメインOCT」の構造原理が知られている。
【0006】
「タイムドメインOCT」の構造は、たとえば特許文献3で図1aを参照しながら、5欄40行から11欄10行に説明されている。このようなシステムでは、参照光路の光学的な経路長が、高速運動可能な参照鏡によって継続的に変えられる。試料光路と参照光路に由来する光は、光検出器で重ね合わされる。試料光路と参照光路の光学的な経路長が一致したときに、光検出器に干渉信号が発生する。
【0007】
「フーリエドメインOCT」は、たとえば特許文献4に説明されている。試料光路の光学的な経路長を測定するために、同じく、試料光路に由来する光が参照光路に由来する光に重ね合わされる。しかし「タイムフーリエOCT」とは異なり、試料光路の光学的な経路長を測定するために、試料光路と参照光路に由来する光が直接検出器へ供給されるのではなく、まず分光計によってスペクトル分解される。そして、こうして生成された、試料光路と参照光路に由来する重ね合わされた信号のスペクトル強度が、検出器によって検出される。検出器信号を評価することで、同じく、試料光路の光学的な経路長を判定することができる。
【0008】
特許文献2に記載されている手術用顕微鏡のOCTシステムは、干渉信号を評価するための分析ユニットを備える、ショートコヒーレントなレーザ光線からOCT走査光路を生成するためのモジュールを含んでいる。このモジュールには、OCT走査光路をスキャンする装置が付属している。OCT走査光路によって手術領域を走査するために、このスキャン装置は2つの運動軸を中心として位置調節することができる2つのスキャンミラーを含んでいる。特許文献2に記載された手術用顕微鏡では、OCT走査光路はビーム分割鏡を介して手術用顕微鏡の照明光路へ入力結合され、これによって顕微鏡主対物レンズを通過して物体領域へ向うように誘導される。
【0009】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102004049368A1号明細書
【特許文献2】欧州特許第0815801B1号明細書
【特許文献3】米国特許第5,321,501号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/10544A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、手術用顕微鏡によって物体領域の深部像の検出を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、物体領域を検査するためのOCTシステムを含む、冒頭に述べた種類の手術用顕微鏡によって解決され、OCTシステムは顕微鏡主対物レンズを通して案内されるOCT走査光路を有しており、OCT走査光路を観察光路に入力結合させ、顕微鏡主対物レンズを通して物体領域へと案内するために観察光路に入力結合部材が設けられている。
【0012】
このようにして、手術用顕微鏡で光学的な光路に口径食が起こったり、そのために画像の切断を生じさせることなく、OCTシステムを手術用顕微鏡に組み込むことが可能となる。
【0013】
本発明の発展例では、入力結合部材はビーム分割鏡として構成され、特に平面鏡またはビーム分割キューブとして構成される。このようにして、同時観察者は物体領域への視界を常に開いておくことが可能となる。
【0014】
本発明の発展例では、手術用顕微鏡は顕微鏡主対物レンズを通る主観察のための観察光路と同時観察のための観察光路とを含んでおり、入力結合部材は同時観察のための観察光路に配置されている。
【0015】
本発明の発展例では、平行な観察光路を中間像へと移行させるために、同時観察のための観察光路に光学系モジュールが配置されている。この場合、同時観察のための観察光路にある入力結合部材は、光学系モジュールと顕微鏡主対物レンズとの間に配置される。あるいは入力結合部材は、光学系モジュールと中間像との間に設けられていてもよい。
【0016】
本発明の発展例では、OCTシステムはOCT走査光路をスキャンするために第1のスキャンミラーを含んでいる。これに加えて、第2のスキャンミラーが設けられているのが好ましく、この場合、第1のスキャンミラーは第1の回転軸を中心として動かすことができ、第2のスキャンミラーは第2の回転軸を中心として動かすことができる。第1および第2の回転軸は側方にオフセットされて、互いに直角をなしている。このようにして、垂直に延びる網目パターンに応じた物体領域の走査が可能である。
【0017】
本発明の発展例では、OCTシステムは、OCT走査光路のための光射出区域を有する光導波路を含んでおり、光導波路の光射出区域を動かすための手段が設けられている。このようにして、物体領域でOCT走査平面を変えることができ、同時観察のための観察光路にある、可視光のために設計されている光学コンポーネントを考慮したうえで、さまざまなOCT波長に合わせてシステムを調整することが可能である。
【0018】
本発明の発展例では、OCT走査光路には、OCT走査平面への光導波路の射出端部の幾何学的結像を調整するために、位置調節可能な光学部材が設けられている。このようにして、手術用顕微鏡のOCT走査平面を、システムの光学的な観察光路の観察平面に対して相対的に変位させることができる。
【0019】
本発明の発展例では、位置調節可能な光学部材には駆動ユニットが付属している。このようにして、たとえばOCT走査平面を手術用顕微鏡の観察平面に対して相対的に所定の値だけ変えることができる。
【0020】
本発明の発展例では、OCTシステムは、第1の波長をもつ第1のOCT走査光路を提供するために、および、第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光路を提供するために設計されている。このようにして、患者のさまざまな組織構造や身体器官を検査するために、手術用顕微鏡を最適化することができる。
【0021】
本発明の発展例では、異なる波長のOCT走査光線が提供される第1および第2のOCTシステムが設けられる。このようにして、異なるOCT波長に基づいた物体領域の検査が最大の解像度で可能となる。
【0022】
本発明の発展例では、第1のOCTシステムのOCT走査光線は右側の立体視観察光路に少なくとも部分的に重ね合わされ、第2のOCTシステムのOCT走査光線は左側の立体視観察光路に少なくとも部分的に重ね合わされ、これらの光路が顕微鏡主対物レンズを異なる領域で通る。この場合、第1のOCTシステムは波長λ1=1300nmのOCT走査光線を提供し、第2のOCTシステムは波長λ2=800nmのOCT走査光線を提供するのが好ましい。このようにして、患者の目における角膜の層構造と網膜の構造を、
手術用顕微鏡によって同時に検査することができる。
【0023】
本発明の有利な実施形態が図面に示されており、以下において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】OCTシステムが組み込まれた第1の手術用顕微鏡である。
【図2】顕微鏡主対物レンズを示す図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】手術用顕微鏡におけるOCTシステムの区域である。
【図4】手術用顕微鏡でOCTシステムの光導波路から射出されるOCT走査光線の強度分布である。
【図5】手術用顕微鏡の物体領域のOCT走査平面におけるOCT走査光線の強度分布である。
【図6】OCTシステムが組み込まれた第2の手術用顕微鏡である。
【図7】OCTシステムが2つ組み込まれた第3の手術用顕微鏡を示す部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1の手術用顕微鏡100は、光学軸102をもつ顕微鏡主対物レンズ101を有している。顕微鏡主対物レンズ101は焦点面170を有しており、主観察のための双眼鏡筒103の立体視観察光路と、同時観察のための双眼鏡筒104の立体視観察光路とが通っている。主観察のための双眼鏡筒103には、ズーム可能な拡大システム105が付属している。図1は、同時観察のための双眼鏡筒の立体視観察光路の右側の観察光路106を示している。この観察光路は、顕微鏡主対物レンズ101の、物体領域108と反対側に配置された反射鏡107によって、物体領域108へと誘導される。観察光路106にはレンズ系109がある。レンズ系109は、顕微鏡主対物レンズ101を通過した後に平行になる、物体領域108から顕微鏡主対物レンズを通過してくる観察光路106の光を集束させて、同時観察のための双眼鏡筒104の中間像110にする。
【0026】
手術用顕微鏡100は、OCT画像を撮像するためのOCTシステム120を含んでいる。このOCTシステムは、OCT走査光路の生成と分析をするためのユニット121を含んでいる。ユニット121は手術用顕微鏡100に統合されている。あるいは、このユニットを手術用顕微鏡の外部に、たとえば相応の三脚柱などに配置することもできる。ユニット121は光導波路122と接続されている。この光導波路122を介して、ユニット121はOCT走査光路を提供する。光導波路122から射出される走査光路123は、OCTスキャンユニット126の第1のスキャンミラー124と第2のスキャンミラー125へと案内され、OCTスキャンユニット126の後、集光レンズ130を通過する。集光レンズ130は走査光路123の光を集束して平行な光束140にする。
【0027】
当然ながら、OCTスキャンユニット126の第1のスキャンミラー124と第2のスキャンミラー125によって、平行なOCT走査光路を偏向させることも可能である。そのためには、光導波路122とOCTスキャンユニット126との間に配置される適切な集光レンズが必要となる。その場合、OCTスキャンユニット126の光導波路と反対側にある集光レンズ130は不要である。OCTスキャンユニット126に由来する光束140は、ビーム分割鏡150へと案内される。ビーム分割鏡150は観察光路106中に配置されている。ビーム分割鏡150は、この観察光路における観察光の人間の目に見えるスペクトル領域に対して実質的に透過性である。逆にビーム分割鏡はOCT走査光路の光を反射させ、これを観察光路106に重ね合わせる。ビーム分割鏡150は平行平面板を備える鏡部材として、あるいはビーム分割キューブとして製作されていてよい。
【0028】
OCT走査光路123の光は顕微鏡主対物レンズ101によってOCT走査平面160で集束される。OCT走査平面160は、OCTスキャンユニット126を備えるOCT走査光路の光学部材、集光レンズ130、ビーム分割鏡150、反射鏡107、顕微鏡主対物レンズ101によって形成され、物体領域に光導波路123の射出端部が幾何学的に結像される平面である。すなわち、光導波路の射出端部の相応の幾何学的結像が、OCT走査平面160に位置している。
【0029】
OCT走査光路へとはね返された光は、反射鏡107とビーム分割鏡150を介してユニット121へと戻っていく。そこで、物体領域から後方散乱されたOCT走査光は、参照光路に由来するOCT放射によって干渉される。干渉信号が検出器によって検出され、計算機ユニットによって評価される。計算機ユニットはこの信号を基にして、物体領域におけるOCT光の散乱中心と、参照分路における光の経路長との間の光学的な経路長差を算定する。
【0030】
図2は、図1のII−II線に沿った断面図を示している。この図面は、図1の手術用顕微鏡100の双眼鏡筒103と双眼鏡筒104に由来する立体視観察光路の推移を説明するものである。顕微鏡主対物レンズ101の光学軸102はその中心に位置している。主観察201,202のための立体視光路、および同時観察203,206のための立体視光路は、顕微鏡主対物レンズ101を互いに分離された断面領域で通っている。
【0031】
図3は、図1の手術用顕微鏡100のスキャンミラーユニット126を示している。第1のスキャンミラー124と第2のスキャンミラー125は、アクチュエータ301,302によって、互いに垂直に延びる2つの軸303,304を中心として回転運動可能なように配置されている。このことは、OCT走査光路305を平面306でスキャンすることを可能にする。
【0032】
図4は、図1の光導波路122の前面区域402を示している。光導波路122は波長λ=1310nmの光に対してモノモードファイバとして作用する。光導波路122のファイバコアの直径dは次式、
【数1】

を満たしており、このときNAは光導波路の前面の開口数である。光導波路122のファイバコアの直径dは、5μm<d<10μmの範囲内にあるのが好ましい。このパラメータ範囲内では、光導波路122はガウス形の波長モードで光を案内する。OCT走査光線401は、胴部パラメータW0と開口パラメータθ0とによって特徴づけられる、近似的にガウス形の放射断面形状で光導波路122から射出され、このとき次式が成り立つ。
【数2】

【0033】
したがって、d0=10μmのファイバコア直径と波長λ0=1310nmについては、ビーム発散を表す目安としてθ0≒0.0827radの開口角が得られる。
【0034】
光導波路122の前面402は、図1に示す手術用顕微鏡100にあるスキャンミラー124、125、集光レンズ130、ビーム分割鏡150、反射鏡107、顕微鏡主対物レンズ101を介して、OCT走査平面160へ物体領域108に結像される。
【0035】
図5は、OCT走査光線401の強度の推移をOCT走査平面501に対して垂直に示している。OCT走査平面501では、OCT走査放射の強度分布は最小の狭隘部を有している。OCT走査平面の範囲外では、OCT走査光路の直径が増加していく。OCT走査光線401は図4の光導波路122から近似的にガウス形の放射断面形状で射出されるので、集光レンズ130と顕微鏡主対物レンズ101は、OCT走査光線にとってOCT走査平面160の領域で、OCT走査光線401のいわゆるガウス光束500を惹起する。このガウス光束500は、ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータzによって、および、OCT走査光線401の最小の狭隘部502の直径を表す目安としての、すなわちその胴部の直径を表す目安としての胴部パラメータWによって特徴づけられ、このとき次式が成り立つ:
【数3】

ここでλはOCT走査光線の波長である。ガウス光束500の胴部パラメータWと、図4に示す、光導波路122から射出される走査光線401の胴部パラメータW0との間には、次の関係が成り立つ:
W=βW0
ここでβは、OCT走査平面における図1の光導波路122の射出端部の上に述べた幾何学的結像の拡大パラメータないし縮小パラメータである。βは、図1の集光レンズ130の焦点距離f1および顕微鏡主対物レンズの焦点距離f2との間で、次の関係によって結びついている:
2/f1=β
【0036】
OCT走査光線401によって解像することができる構造のサイズは、OCT走査平面160におけるその直径によって決まり、すなわち胴部パラメータWによって決まる。たとえば、ある用途が手術用顕微鏡におけるOCTシステムの約40μmの横解像度を必要とする場合、ナイキストの定理により、表面におけるOCT走査光線401の断面積は約20μmでなければならない。したがって、図1に示すOCT走査光線123の波長がλのとき、OCTシステム120の希望する解像度のためには、光学的な結像の倍率と、光導波路122のファイバコアの直径とを適切に選択しなくてはならない。
【0037】
ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータzは、図1のOCT走査光路123で後方散乱された光を検出することができる軸方向の深部領域を決める。すなわち、共焦点パラメータzが小さくなるほど、OCT走査放射で走査される物体からOCT走査平面160までの距離で、横解像度に関わるOCTシステムの損失は大きくなる。散乱中心の場所は、胴部パラメータWと共焦点パラメータzによって決まる「漏斗」の内部でしか、特定することができないからである。
【0038】
一方では、OCTシステムの軸方向解像度は、OCTシステムで使用される光源の光のコヒーレンス長lcによって制限されており、他方では、OCTシステムの横解像度は、その深度ストロークが共焦点パラメータzで与えられる長さを超えると減少するので、OCTシステムの深度ストロークに合わせて共焦点パラメータzを調整するのが好都合である。
【0039】
そしてOCT走査光線401の特定の波長λについて、図1のOCTシステムの可能な横解像度が得られる。波長λと共焦点パラメータzが胴部パラメータWを決めるからである。そして、図1に示すOCT走査光路123の光学系ユニットと、光導波路122のファイバコアの寸法設定を、該当する胴部パラメータWが生じるように選択することができる。
【0040】
手術用顕微鏡100は、可視スペクトル領域についての顕微鏡主対物レンズ101の焦点面170と、OCT走査平面160とが一致するように設計されている。そうすれば、図5に示すOCT走査光線の胴部502は手術用顕微鏡の焦点面に位置する。
【0041】
手術用顕微鏡のこのような設計に代えて、OCT走査平面と手術用顕微鏡の焦点面とのオフセットが意図されていてもよい。このようなオフセットは、OCT走査平面の領域におけるOCT走査光線の共焦点パラメータzよりも大きくないのが好ましい。このことは、たとえば手術用顕微鏡の焦点面のすぐ下に位置する物体領域を、OCTによって視覚化することを可能にする。あるいは特定の用途については、たとえば手術用顕微鏡によって患者の目の角膜の表面を検査できるようにし、それと同時にOCTシステムによって患者の目の角膜の裏面またはそのレンズを視覚化するために、共焦点パラメータを上回る決められたオフセットを設けるのが有意義である。
【0042】
図6は、OCTシステム620が組み込まれたさらに別の手術用顕微鏡600を示している。手術用顕微鏡600のモジュールが図1に示す手術用顕微鏡100のモジュールと一致している場合には、図1に500の数字を加えた数字を符号として当該モジュールに付している。
【0043】
図1に示す手術用顕微鏡100の場合とは異なり、手術用顕微鏡600では、鏡筒レンズ系609と、これによって生成される物体領域の中間像610との間の収束観察光路に、ビーム分割鏡650が設けられている。OCTシステム620は、2つの異なる波長領域でOCT走査光路623を生成するためのユニット621を含んでおり、すなわち、波長λ=800nmのOCT走査光線と、波長λ=1310nmのOCT走査光線とを生成することができる。
【0044】
光導波路622から射出されるOCT走査光路623は、第1のOCTレンズ系630を介して、スキャンミラー624,625を備えるスキャンミラーユニット626へと誘導され、スキャンミラーユニット626から第2のOCTレンズ系631へと到達する。OCTレンズ系630,631は、物体領域608におけるOCT走査平面660と共役な平面633で、光導波路の射出端部の中間結像632を惹起する。
【0045】
手術用顕微鏡600の光学的な観察光路の物体平面608に対する、OCT走査平面660の調整を操作者に可能にするために、レンズ系630,631と光導波路622の射出端部の位置調節可能性が意図されている。そのために手術用顕微鏡600は、レンズ系630,631と光導波路622に割り当てられた駆動ユニット671,672,673を含んでいる。駆動ユニット671,672,673によって、レンズ系630,631と光導波路622を二重矢印674,675,676に示すように変位させることができる。それによって特に、OCT走査平面660の位置を変えられるばかりでなく、光導波路622の射出端部の拡大ないし縮小も、希望する値に合わせて行うことができる。
【0046】
図6を参照して説明した手術用顕微鏡600の改変された実施形態は、焦点距離を調整可能である焦点合わせ可能な顕微鏡主対物レンズを含んでいる。この方策も、OCT走査平面の変位を可能にするとともに、OCT走査平面における光導波路の射出端部の幾何学的結像の変更を可能にする。
【0047】
手術用顕微鏡600のOCTシステム620のOCT走査平面を変位させるにあたっては、ここには図示しないシステムの参照光路が再調節され、それによって参照光路が、設定されたOCT走査平面に合わせて常に適合化されるようにするのが好ましい。
【0048】
図7は、2つのOCTシステム720,780が設けられた第3の手術用顕微鏡の区域700を示している。この手術用顕微鏡も同じく光学軸702をもつ顕微鏡主対物レンズ701を有している。対物レンズ701には、主観察のための左側と右側の立体視観察光路703,704と、同時観察のための左側と右側の立体視観察光路705、706とが透過している。同時観察のための立体視観察光路705、706は、顕微鏡主対物レンズ701の、物体領域708と反対側に配置された反射鏡707によって、物体領域708へと誘導される。
【0049】
OCTシステム720,780は、OCT走査光路を生成し分析するためのユニット721,781をそれぞれ含んでいる。これらのユニット721,781は、光導波路722,782を介して、第1のOCT走査光線723と第2のOCT走査光線783を異なる波長λ1,λ2で提供する。OCT走査光線723,783は、集光レンズ730,731とスキャンミラーを備えるOCTスキャンユニット726,776を介して、ビーム分割鏡750に向って誘導される。
【0050】
ビーム分割鏡750は、同時観察のための立体視観察光路705,706に配置されている。このビーム分割鏡は、人間の目に見える観察光のスペクトル領域に対しては実質的に透過性であるが、OCT走査光線723,783を反射させて、これらのOCT走査光線が観察光路705,706に重ね合わされて、これとともに顕微鏡主対物レンズ701を通るようになっている。
【0051】
物体領域708からOCT走査光路723,783へとはね返された光は、該当するOCT走査光路の生成と分析のためのユニット721,781で評価される。
【0052】
2つのOCTシステムの使用は、異なる波長のOCT光で物体領域を走査することを可能にし、各々のOCT走査光路について、波長λ1,λ2および共焦点パラメータz1,z2および胴部パラメータW1,W2を、最大の解像度のために最善に選択することができる。
【0053】
<付記1>
観察光路(106,203,606,705,706)と、
前記観察光路(106,203,606,705,706)が通る顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)と
を備えている手術用顕微鏡(100,600,700)であって、
前記手術用顕微鏡は物体領域(108,608,708)を検査するためのOCTシステム(120,620,720,780)を含んでおり、
前記OCTシステム(120,620,720,780)は前記顕微鏡主対物レンズ(101,601)を通して案内されるOCT走査光路(123,623,723,783)を有しており、
前記OCT走査光路(123,623,723,783)を前記観察光路(106,606,705,706)へ入力結合させ、前記顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)を通して物体領域(108,608,708)へと案内するために、前記観察光路(106)に入力結合部材(150,650,750)が設けられていることを特徴とする手術用顕微鏡。
<付記2>
前記入力結合部材は、平面鏡またはビーム分割キューブとして構成される、ビーム分割鏡(150,650,750)として構成されていることを特徴とする付記1に記載の手術用顕微鏡。
<付記3>
主観察のための観察光路(201,202,703,704)と同時観察のための観察光路(106,203,606,705,706)とが設けられており、これら両者は前記顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)を通っており、前記入力結合部材(150,650,750)は同時観察のための前記観察光路(106,203,606,705,706)に配置されていることを特徴とする付記1または2に記載の手術用顕微鏡。
<付記4>
平行な観察光路を中間像(110,610)へと移行させるために、同時観察のための前記観察光路(106,606)に光学系モジュール(109,609)が配置されていることを特徴とする付記3に記載の手術用顕微鏡。
<付記5>
前記入力結合部材(150)は、同時観察のための前記観察光路(106)中に、前記光学系モジュール(109)と前記顕微鏡主対物レンズ(101)との間に配置されていることを特徴とする、付記4に記載の手術用顕微鏡。
<付記6>
前記入力結合部材(650)は、同時観察のための前記観察光路(606)中に、前記光学系モジュール(609)と中間像(610)との間に配置されていることを特徴とする、付記4に記載の手術用顕微鏡。
<付記7>
OCT走査光路をスキャンするための前記OCTシステム(120,620)は、少なくとも1つの第1の回転軸(303)を中心として動かすことができる第1のスキャンミラー(124,624)を含んでいることを特徴とする付記1から6までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
<付記8>
第2の回転軸(304)を中心として動かすことができる第2のスキャンミラー(124,125,624,625)がさらに設けられており、前記第1の回転軸(303)と前記第2の回転軸(304)は側方にオフセットされて互いに直角をなしていることを特徴とする付記7に記載の手術用顕微鏡。
<付記9>
前記OCTシステム(120,620)はOCT走査光路のための光射出区域を有する光導波路(122,622)を含んでおり、前記光導波路の前記光射出区域を動かすための手段が設けられていることを特徴とする付記1から8までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
<付記10>
前記OCT走査光路(623)に、OCT走査平面(660)への前記光導波路(622)の射出端部の幾何学的結像を調整するために、位置調節可能な光学部材(630,631)が設けられていることを特徴とする付記1から9までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
<付記11>
位置調節可能な前記光学部材(630,631)に駆動ユニット(672,673)が付属していることを特徴とする付記10に記載の手術用顕微鏡。
<付記12>
前記OCTシステム(120,620)は第1の波長をもつ第1のOCT走査光線(623)を提供するように、および、前記第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光線(623)を提供するように設計されていることを特徴とする付記1から11までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
<付記13>
波長の異なるOCT走査光線(723,783)を提供するために第1のOCTシステム720と第2のOCTシステム(780)が設けられていることを特徴とする付記1から12までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
<付記14>
前記第1のOCTシステム(720)のOCT走査光線(723)は、右側の立体視観察光路(705)に少なくとも部分的に重ね合わされ、一緒に前記手術用顕微鏡(700)の前記顕微鏡主対物レンズ(701)を通り抜け、前記第2のOCTシステム(780)のOCT走査光線(783)は左側の立体視観察光路(706)に少なくとも部分的に重ね合わされ、一緒に前記手術用顕微鏡(700)の前記顕微鏡主対物レンズ(701)を通ることを特徴とする付記13に記載の手術用顕微鏡。
<付記15>
前記第1のOCTシステム(720)は波長λ1=1300nmのOCT走査光線(723)を提供し、前記第2のOCTシステム(780)は波長λ2=800nmのOCT走査光線(783)を提供することを特徴とする付記14に記載の手術用顕微鏡。
【符号の説明】
【0054】
100 手術用顕微鏡、101 顕微鏡主対物レンズ、106 同時観察のための観察光路、108 物体領域、120 OCTシステム、123 OCT走査光路、150 入力結合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察光路(106,203,606,705,706)と、
前記観察光路(106,203,606,705,706)が通る顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)と
を備えている手術用顕微鏡(100,600,700)であって、
前記手術用顕微鏡は物体領域(108,608,708)を検査するためのOCTシステム(120,620,720,780)を含んでおり、
前記OCTシステム(120,620,720,780)は前記顕微鏡主対物レンズ(101,601)を通して案内されるOCT走査光路(123,623,723,783)を有しており、
前記OCT走査光路(123,623,723,783)を前記観察光路(106,606,705,706)へ入力結合させ、前記顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)を通して物体領域(108,608,708)へと案内するために、前記観察光路(106)に入力結合部材(150,650,750)が設けられ、
前記入力結合部材は、ビーム分割鏡として前記観察光路(106)に設けられ、観察光の人間の目に見えるスペクトル領域に対して実質的に透過性であり、
前記ビーム分割鏡は、前記OCT走査光路を反射して前記観察光路(106,606,705,706)に重ね合わせることを特徴とする手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記入力結合部材は、平面鏡またはビーム分割キューブとして構成される、ビーム分割鏡(150,650,750)として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の手術用顕微鏡。
【請求項3】
主観察のための観察光路(201,202,703,704)と同時観察のための観察光路(106,203,606,705,706)とが設けられており、これら両者は前記顕微鏡主対物レンズ(101,601,701)を通っており、前記入力結合部材(150,650,750)は同時観察のための前記観察光路(106,203,606,705,706)に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の手術用顕微鏡。
【請求項4】
平行な観察光路を中間像(110,610)へと移行させるために、同時観察のための前記観察光路(106,606)に光学系モジュール(109,609)が配置されていることを特徴とする請求項3に記載の手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記入力結合部材(150)は、同時観察のための前記観察光路(106)中に、前記光学系モジュール(109)と前記顕微鏡主対物レンズ(101)との間に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の手術用顕微鏡。
【請求項6】
前記入力結合部材(650)は、同時観察のための前記観察光路(606)中に、前記光学系モジュール(609)と中間像(610)との間に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の手術用顕微鏡。
【請求項7】
OCT走査光路をスキャンするための前記OCTシステム(120,620)は、少なくとも1つの第1の回転軸(303)を中心として動かすことができる第1のスキャンミラー(124,624)を含んでいることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項8】
第2の回転軸(304)を中心として動かすことができる第2のスキャンミラー(124,125,624,625)がさらに設けられており、前記第1の回転軸(303)と前記第2の回転軸(304)は側方にオフセットされて互いに直角をなしていることを特徴とする請求項7に記載の手術用顕微鏡。
【請求項9】
前記OCTシステム(120,620)はOCT走査光路のための光射出区域を有する光導波路(122,622)を含んでおり、前記光導波路の前記光射出区域を動かすための手段が設けられていることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項10】
前記OCT走査光路(623)に、OCT走査平面(660)への前記光導波路(622)の射出端部の幾何学的結像を調整するために、位置調節可能な光学部材(630,631)が設けられていることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項11】
位置調節可能な前記光学部材(630,631)に駆動ユニット(672,673)が付属していることを特徴とする請求項10に記載の手術用顕微鏡。
【請求項12】
前記OCTシステム(120,620)は第1の波長をもつ第1のOCT走査光線(623)を提供するように、および、前記第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光線(623)を提供するように設計されていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項13】
波長の異なるOCT走査光線(723,783)を提供するために第1のOCTシステム720と第2のOCTシステム(780)が設けられていることを特徴とする請求項1から12までのいずれか1項に記載の手術用顕微鏡。
【請求項14】
前記第1のOCTシステム(720)は波長λ1=1300nmのOCT走査光線(723)を提供し、前記第2のOCTシステム(780)は波長λ2=800nmのOCT走査光線(783)を提供することを特徴とする請求項13に記載の手術用顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52257(P2013−52257A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264197(P2012−264197)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2007−290525(P2007−290525)の分割
【原出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506085066)カール・ツアイス・メディテック・アーゲー (17)
【Fターム(参考)】