説明

P−セレクチン糖タンパク質リガンド1のモジュレーター

【課題】T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞の表面のP−セレクチン糖タンパク質1(PSGL−1)に結合する化合物は、T細胞若しくはNK細胞の枯渇、アポプトシスを誘導する。本発明の化合物及び方法は、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患の制御を提供。
【解決手段】過剰な若しくは望ましくないT細胞が介在する免疫応答の特徴を有する症状を有するまたはこのような症状になる危険性があると診断される個体を選択し;およびT細胞の表面上のP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)への化合物の結合はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物を、該個体に投与することにより、該個体でT細胞が介在する免疫応答を防止または抑制することを有する、個体におけるT細胞が介在する免疫応答の防止または抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2001年8月3日に提出された、米国仮出願第60/310,196号の優先権を主張するものであり、この内容は参考によって本明細書中に引用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫応答を制御するための組成物及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
望ましくない免疫応答の制御は、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患、及びある種の癌などの病気の処置において重要な問題である。過度に攻撃的なT細胞の活性は、免疫抑制によってまたは免疫トレランスの誘導によって制御されうる。トレランスは、免疫系が抗原に対して応答しなくなる状態として規定されるが、抗原に対する免疫応答を抑制する免疫抑制は、一般的に、薬剤の継続使用を必要とする。器官の移植では、T細胞は、アロ抗原に対する免疫応答において不可欠な役割を果たす。現在の免疫抑制レジメは、一般的に、T細胞の重要な増殖因子である、IL−2の転写を遮断する、またはIL−2に依存する増殖を阻害する、コルチコステロイド、シクロスポリンまたはラパマイシン(rapamycin)の使用を含む。しかしながら、T細胞枯渇剤(例えば、CD3、CD4、CD8)として、またはサイトカインシグナル伝達(signaling)若しくはT細胞の共刺激(co-stimulatory)経路の阻害剤(例えば、CD25、B7−1、B7−2、CD152、CTLA4)としてのいずれかで作用する多くのモノクローナル抗体は、副作用または毒性を制限して拒絶の発生を抑制するのに有効であることが示された。これらの薬剤によっては、自己免疫疾患を処置するのにおよび移植片生着を長期化するのにある程度成功していることが示された。
【0004】
アポプトシスは、免疫系の適当な機能及び望ましくない細胞を除去する主要な機構を維持するのに極めて重要であると、広く考えられている(Kabelitz et al. Immunol. Today 14:338-340 (1993); Raff, Nature:356:397-399 (1992))。細胞の内側または外側から派生する様々なシグナルは、細胞の生存及び死に影響を与える。Fas(またはCD95、MW=43kD)、TNFR2(MW=75kD)、CD2(MW=45kD)及びCTLA−4(MW=33kD)等のT細胞表面分子に対する抗体は、T細胞のアポプトシスを誘導する(Osborne, Curr. Opin. Immunol. 8:245-248 (1996); Lin et al. J. Immunol. 158:598-603 (1997); Zhang et al. Nature:377:348-350 (1995); Lai et al. Eur. J. Immunol. 25:3243-3248 (1995); Mollereau et al. J. Immunol. 156:3184-3190 (1996); Gribben et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:811-815 (1995))。望ましくないT細胞を制御するためにFas及びTNFR2分子を使用しようとする試みは、これら2分子が免疫細胞でのみならず、肝臓等の幾つかの他の重要な器官系でも発現するという事実によって妨げられた。この発現パターンは、潜在的に、これらの2抗体の治療用途を制限する(Ogasawara et al. Nature 364:806-809 (1993); Pfeffer et al. Cell:73:457-467 (1993); Engelmann et al. J. Biological Chemistry 265:14497-14504 (1990))。
【発明の開示】
【0005】
発明の要約
本発明は、T細胞がT細胞表面抗原であるP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)のエンゲージメントによって枯渇されうるおよび/またはアポプトシスを受けるのを誘導されうるという知見に基づくものである。T細胞の枯渇(depletion)は、過剰な若しくは望ましくないT細胞が介在する免疫応答または過剰な若しくは望ましくないT細胞の増殖に関連する症状の処置に特に有効でありうる。例えば、T細胞の枯渇は、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患、および/またはT細胞で誘導される癌(T cell-derived cancer)に関連する望ましくないT細胞の活性または増殖の抑制または排除を生じうる。本発明は、T細胞が介在する免疫応答を防止または抑制するためのPSGL−1機能のモジュレーターの使用方法さらにはPSGL−1機能のモジュレーターに関するスクリーニング方法を包含する。
【0006】
一態様においては、本発明は、個体のT細胞が介在する免疫応答の防止または抑制方法を特徴とする。本方法は、以下の段階を含む:過剰な若しくは望ましくないT細胞が介在する免疫応答の特徴を有する症状を有するとまたはこのような症状になる危険性があると診断される個体を選択し;およびT細胞の表面上のPSGL−1への化合物の結合がT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物を、個体に投与することにより、個体におけるT細胞が介在する免疫応答を防止または抑制する。
【0007】
このような方法に使用される化合物としては、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片がありうる。一例では、化合物は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である。一実施態様においては、本方法は、モノクローナル抗体に結合し、T細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質を投与するさらなる段階を含む。
【0008】
一実施態様においては、本方法は、架橋がT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導する、T細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを含む。
【0009】
一例では、本方法は、自己免疫疾患を有すると診断される個体を選択する段階を含む。他の例では、本方法は、同種または異種移植を受けたまたは受けることが予想される個体を選択する段階を含む。他の例では、本方法は、アレルギー疾患を有すると診断される個体を選択する段階を含む。他の例では、本方法は、T細胞癌を有すると診断される個体を選択する段階を含む。
【0010】
一実施態様においては、T細胞は、活性化T細胞である。一例では、T細胞は、CD4+ T細胞である。他の例では、T細胞は、CD8+ T細胞である。
【0011】
一実施態様においては、本方法は、化合物の投与前に個体から採取した第1の生体試料におけるT細胞の数を検出し、化合物の投与後の個体から採取した第2の生体試料におけるT細胞の数と結果を比較する段階を有する。
【0012】
他の実施態様においては、本方法は、化合物の投与前に個体から採取した第1の生体試料におけるT細胞の生物学的活性を検出し、化合物の投与後の個体から採取した第2の生体試料におけるT細胞の生物学的活性と結果を比較する段階を有する。
【0013】
一実施態様においては、投与により、個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも20%を減損する。実施態様によっては、投与により、個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも30%、40%、50%、またはそれ以上を減損する。
【0014】
一実施態様においては、抗体またはその抗原結合断片は、抗体またはその抗原結合断片に暴露した後に個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも20%の死亡を誘導するものである。実施態様によっては、このような投与は、個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも30%、40%、50%、またはそれ以上の死亡を誘導するものである。細胞の死は、抗体またはその抗原結合断片に暴露された後、いずれの時間、例えば、1、2、3、4、5、6、7日、またはそれ以上の日数で測定されてもよい。
【0015】
他の態様においては、本発明は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞の死の誘導方法を特徴とする。本方法は、以下の段階を含む:細胞表面上でPSGL−1を発現するT細胞またはNK細胞を提供し;およびT細胞またはNK細胞の表面上のPSGL−1への化合物の結合がT細胞またはNK細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞またはNK細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物と、T細胞またはNK細胞を接触させる。
【0016】
このような方法に使用される化合物としては、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片がありうる。一例では、化合物は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である。一実施態様においては、本方法は、モノクローナル抗体に結合し、T細胞またはNK細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質とモノクローナル抗体を接触させる段階を含む。
【0017】
一実施態様においては、本方法は、T細胞またはNK細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを有し、該架橋はT細胞またはNK細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導する段階を包含する。
【0018】
一実施態様においては、T細胞は、活性化T細胞である。一例では、T細胞は、CD4+ T細胞である。他の例では、T細胞は、CD8+ T細胞である。
【0019】
一実施態様においては、本方法は、化合物との接触後にT細胞またはNK細胞の生存率を評価する段階を包含する。
【0020】
一実施態様においては、本方法は、化合物との接触後にT細胞またはNK細胞の生物学的活性を評価する段階を包含する。
【0021】
他の態様においては、本発明は、PSGL−1機能のモジュレーターに関するスクリーニング方法を特徴とする。本方法は、以下の段階を含む:細胞表面上でPSGL−1を発現する細胞を提供し;細胞を試験物質と接触させ;および細胞を試験物質と接触させた後の細胞の生存率を測定することにより、試験物質がPSGL−1機能のモジュレーターであるかどうかを決定する。
【0022】
一実施態様においては、本方法は、試験物質によって誘導される細胞の死を検出することにより、試験物質がPSGL−1機能のモジュレーターであることを決定する段階を包含する。
【0023】
一実施態様においては、試験物質は、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片である。一例では、試験物質は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である。一実施態様においては、本方法は、モノクローナル抗体を、モノクローナル抗体に結合し、細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質と接触させる段階を包含する。
【0024】
一実施態様においては、本方法は、細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを有し、架橋はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導する段階を包含する。
【0025】
一実施態様においては、T細胞は、活性化T細胞である。一例では、T細胞は、CD4+ T細胞である。他の例では、T細胞は、CD8+ T細胞である。
【0026】
一実施態様においては、本方法は、大量の試験物質を製造し、該試験物質を製薬上許容できる担体中に配合する段階を含む。
【0027】
他の態様においては、本発明は、T細胞の表面上のPSGL−1への化合物の結合はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物;および自己免疫性、移植拒絶、アレルギー症状、またはT細胞癌を処置するための化合物の使用に関するインストラクションを有するキットを特徴とする。他の実施態様においては、上記キットは、本明細書中に記載される病気または疾患を処置するための化合物の使用に関するインストラクションを有する。
【0028】
本発明の利点としては、関連する望ましくないまたは有害な免疫応答を引き起こすことなくT細胞を枯渇および/またはT細胞のアポプトシスを誘導できることがある。例えば、個体への抗PSGL−1抗体の投与によって、IL−2またはTNF−E等の炎症性サイトカインのレベルの望ましくない上昇は起こらない。
【0029】
本発明の他の利点としては、その発現が白血球、および特にT細胞及びNK細胞にかなり限定される、細胞表面タンパク質、PSGL−1の標的化が可能であることがある。したがって、本明細書中に記載される化合物は、肝臓細胞等の他の細胞型の有意なレベルのアポプトシスを誘導しない。生存を脅かす全身性サイトカイン応答を有意に誘導したりまた他の器官系に損傷を与えたりすることなく、選択的な枯渇を目的としたT細胞及びNK細胞(移植拒絶にかかわる重要なCD3細胞型)の標的化は、免疫抑制剤の望ましい特性である。
【0030】
特記しない限り、本明細書中で使用される技術的及び科学用語はすべて、本発明が属する分野における通常の知識を有するものによって一般的に理解されるのと同様の意味を有する。本明細書中に記載されるのと同様のまたは等価の方法及び材料が本発明の実施または試験で使用できるが、適当な方法及び材料を以下に説明する。本明細書中に記載されるすべての公報、特許出願、及び他の参考文献は、参考によって完全に本明細書中に引用される。専門用語の不一致がある場合には、本明細書が制御するであろう。加えて、記載される材料及び方法は、詳細に説明するのみであり、本発明を制限するものではない。
【0031】
本発明の他の態様及び利点は、下記詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【0032】
図面の簡単な説明
図1は、いつ活性化T細胞がTAB4(抗TAIPモノクローナル抗体)が介在するアポプトシスシグナルに対する感受性を得るかを調べた経時的な実験の代表的結果を示すものである。
【0033】
図2は、TAB4抗体によって認識される抗原の細胞表面のビオチン化及び免疫沈降の結果を示すものである。
【0034】
図3は、脾臓CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD19+ B細胞、及びNK細胞でのPSGL−1抗原の発現を示すものである。
【0035】
図4は、CD4、CD8、及びCD4、及びCD4胸腺細胞でのPSGL−1抗原の発現を示すものである。
【0036】
図5は、レスポンダー(responder)としてのTAB4(またはハムスターIg)で処置されたBalb/cマウスから単離された脾臓細胞およびスティミュレーター(stimulator)としてのH2ミスマッチC3H脾臓細胞を用いた混合リンパ球培養で生産されたIL−2レベルを示すものである。
【0037】
図6は、(A)TAB4抗体で免疫沈降したタンパク質が市販の抗PSGL−1抗体によって認識できることおよび(B)抗PSGL−1抗体でT細胞溶解産物を予め透徹(preclearing)することによって、TAB4によって認識されたタンパク質を枯渇できることを示すウェスタンブロット分析を示すものである。
【0038】
図7は、Balb/cマウスから皮膚移植を受け、抗PSGL−1抗体(黒塗りのダイアモンド)またはコントロール抗体(白抜きの四角)で処置されたC57BL/6マウスでの生存した移植片の割合(%)を示すものである。
【0039】
図8は、活性化ヒト末梢血の単核細胞を抗ヒトPSGL−1抗体で処置した後のアポプトシスを受けたT細胞の割合(%)の経時変化を示すものである。
【0040】
図9は、抗PSGL−1抗体(黒塗りの四角)またはコントロール抗体(白抜きの四角)で処置された自己免疫性肥満でない糖尿病(autoimmune non-obese diabetic)(NOD)オスマウスの糖尿病の発症率を示すものである。
【0041】
詳細な説明
本発明は、T細胞の表面上にあるPSGL−1分子の機能を調節することによるT細胞活性の調節方法に関するものである。本明細書に記載される組成物でPSGL−1をエンゲージメントすると、T細胞を枯渇するおよび/またはT細胞がアポプトシスを受けるのを誘導することができる。したがって、これらの化合物は、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー症状、および/またはT細胞が誘導する癌等の免疫が関連する症状を制御するための治療剤として有用である。これらの組成物はまた、T細胞の存在または活性が望ましくない生体試料からT細胞を枯渇させるのにも有用である。
【0042】
PSGL−1タンパク質
PSGL−1は、好中球、T及びBリンパ球、NK細胞、単球、樹状細胞、及び原始ヒトCD34造血前駆細胞で発現する細胞表面付着分子である。セクレチンと相互作用できることにより、PSGL−1は、内皮での白血球の回転(rolling)及び炎症組織への白血球の溢出を仲介する。T細胞のE−及びP−セクレチンへのPSGL−1が仲介する結合、または移動は、異なるように調節される。例えば、CLA(皮膚リンパ球抗原)エピトープの出現は、記憶の移行(memory transition)に未経験である(naive)T細胞上で誘導されると考えられる。活性化ヘルパー1のみでなくヘルパー2T細胞も機能性PSGL−1を発現して、皮膚の炎症領域への移動が可能になる。
【0043】
PSGL−1は、特異的にシアリル化され、フコシル化され、さらに硫酸化されてP−セレクチンに結合しなければならないシアロムチンである。PSGL−1分子は、そのN末端でのグリコシル化及び硫酸化部位の異なる度合いという特徴を有するイソ型で存在する。休止抹消血T及びB細胞、リンパ細胞系およびインビトロの活性化抹消血T細胞は、同様のレベルのPSGL−1を発現する。しかし、活性化T細胞のみが機能性形態のPSGL−1を示して、P−セレクチンに貪欲に結合する。このような活性化依存性結合活性は、活性化T細胞でのアルファ(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性レベルの上昇によって示唆されるように、異なる翻訳後修飾の結果であると考えられる。PSGL−1イソ型はまた、L−セクレチン及びE−セクレチンへの異なる親和性を示す。例えば、CLA陽性イソ型を示すヒトT細胞はE−及びP−セクレチン双方でつないで(tether)回転できるが、CLAエピトープのないPSGL−1を発現するT細胞はP−セレクチンにのみ結合する。さらに、P−セレクチンへのPSGL−1の結合は、硫酸化のための3つのチロシン残基及びグリコシル化のための1つのトレオニン残基を含む末端デカペプチドの存在に左右される。
【0044】
PSGL−1タンパク質は、組み換え方法によっておよび/または生体材料からの天然のPSGL−1タンパク質を単離することによって調製できる。組み換えPSGL−1タンパク質は、インビトロまたはインビボのいずれかで、原核または真核細胞で生産されうる。PSGL−1をコード化する核酸は、タンパク質の組み換え生産で使用できる(例えば、PSGL−1ポリペプチドをコード化する核酸の一例としてGenBanko 受託番号NM_003006を参照)。PSGL−1に対する抗体はまた既知であり、抗原の精製に使用できる(例えば、Herron et al. (2000) Science Jun 2;288(5471):1653-56; WO 00/25808を参照)および/または本明細書に記載される方法に使用できる。PSGL−1はさらに、以下に制限されないがSako et al. (1993) Cell 75:1179; Vachino et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:21966; 及びVeldman et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:16470などの参考文献に記載される。
【0045】
PSGL−1の組み換え生産では、PSGL−1及びその修飾アルファ−(1,3)フコシルトランスフェラーゼ、Fuc−TVII、双方の同時発現が、PSGL−1の機能発現には必要であるかもしれない。加えてまたはこれに代わり、PSGL−1の組み換え生産は、プロペプチドを除去するためのPACEをコード化する核酸および/またはチロシンスルホトランスフェラーゼをコード化する核酸との同時トランスフェクション(co-transfection)を伴うかもしれない。
【0046】
抗PSGL−1抗体は、生体材料からPSGL−1抗原を単離、精製するのに使用できる。PSGL−1タンパク質を発現する細胞型、例えば、個体由来のT細胞またはT細胞系が、タンパク質源として使用されてもよい。精製されたら、タンパク質は、本明細書に記載される様々な方法に使用されうる。例えば、精製PSGL−1タンパク質は、T細胞でのPSGL−1機能のモジュレーターのインビトロスクリーニングにまたはそのタンパク質に対する抗体を調製するための免疫原として使用できる。
【0047】
加えて、PSGL−1抗原は、セクレチン−Fc融合、例えば、P−セクレチン−Fc融合を用いて精製できる。
【0048】
抗PSGL−1抗体
PSGL−1ポリペプチド(またはその免疫原性断片または類似体)は、本発明の方法に有用な抗体を生じるのに使用できる。上記したように、PSGL−1ポリペプチドまたはそのペプチド断片は、組み換え技術によって生産できるまたは固相合成方法を用いて合成できる。組み換えPSGL−1ポリペプチドまたはそのペプチド断片は、抗PSGL−1抗体を生産するための免疫原として使用できる。加えて、TAB4モノクローナル抗体等の、抗PSGL−1抗体は、PSGL−1ポリペプチド、例えば、天然の立体配置のPSGL−1ポリペプチドを精製するのに使用でき、これは次にさらなる抗PSGL−1抗体を生産するための免疫原として使用できる。
【0049】
本発明の抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、またはPSGL−1ポリペプチドに特異的に結合する操作された抗体であってもよい。特定の抗原、例えば、PSGL−1ポリペプチドに「特異的に結合する」抗体は、サンプル中の他の分子を実質的に認識または結合しないであろう。ゆえに、本発明はまた、ポリペプチドを試験化合物と接触させて、(結合の直接的な検出、ポリペプチドへの試験化合物の結合を阻害する競合分子の検出、および/またはアポプトシス誘導活性に関するアッセイを用いた結合の検出によって)ポリペプチドが試験化合物に結合するかどうかを決定することによって本発明のポリペプチドに結合する試験化合物(例えば、抗体)を同定する方法を特徴とするものである。
【0050】
通常、PSGL−1ポリペプチドは、KLH等の、キャリアタンパク質にカップリングさせ、アジュバントと混合されて、宿主哺乳動物に注射されうる。次に、その動物中で生産された抗体は、ペプチド抗原アフィニティークロマトグラフィーによって精製されうる。
【0051】
特に、様々な宿主動物が、PSGL−1ポリペプチドまたはその抗原性断片の注射によって免疫処置されうる。一般的に使用される宿主動物としては、ウサギ、マウス、モルモット、及びラットがある。免疫学的な応答を上昇させるのに使用できる様々なアジュバントは、宿主の種によって異なるが、フロイントアジュバント(完全及び不完全)、水酸化アルミニウム等の無機質ゲル、リゾレシチン等の界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシニアン、及びジニトロフェノールが挙げられる。潜在的に有用であるヒトのアジュバントとしては、BCG(カルメット−ゲラン杆菌)及びコリネバクテリウム−パルヴムがある。ポリクローナル抗体は、免疫処置された動物の血清中に含まれる抗体分子の異種集団である。
【0052】
したがって、本発明に包含される抗体は、ポリクローナル抗体、さらにはモノクローナル抗体、ヒト化またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、及びFab発現ライブラリーを用いて生産された分子を包含する。
【0053】
特定の抗原に対する抗体の同種集団である、モノクローナル抗体は、上記したPSGL−1ポリペプチドおよび標準的なハイブリドーマ技術(例えば、Kohler et al., Nature 256:495 [1975]; Kohler et al., Eur J Immunol 6:511 [1976]; Kohler et al., Eur J Immunol 6:292 [1976]; Hammerling et al., Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas, Elsevier, N.Y. [1981]を参照)を用いて調製できる。
【0054】
特に、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature 256:495 (1975)、及び米国特許第4,376,110号に記載されるなどの培養物での連続細胞系による抗体分子の生産を提供するいずれかの技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., Immunology Today 4:72 [1983]; Cole et al., Proc Natl Acad Sci USA 80:2026 [1983])、及びEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96 [1983])によって得られる。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD等のいずれかの免疫グロブリンクラスおよびこれらのサブクラスなどを有していてもよい。本発明のmAbを生産するハイブリドーマは、インビトロでまたはインビボで培養されてもよい。インビボで高力価のmAbを生産できることは、特に有用な生産方法である。
【0055】
生産されると、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、ウェスタンブロットまたは例えば、Ausubel et al、上記に記載されるような、標準的な方法による免疫沈降分析による特異的PSGL−1認識について試験される。PSGL−1を特異的に認識し、これに特異的に結合する抗体が本発明で有用である。T細胞、例えば、CD3+細胞の表面のPSGL−1抗原に結合し、個体でのT細胞の枯渇および/またはアポプトシスを誘導する抗PSGL−1抗体が特に有用である。
【0056】
抗体は、例えば、(例えば、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患、及びT細胞で誘導される癌等の症状に関連した、T細胞が介在する免疫応答等の、望ましくない免疫応答を抑制するまたは排除するための)治療レジメの一部として、使用されうる。抗体はまた、候補化合物のPSGL−1への結合能を測定するためのスクリーニングアッセイにも使用されうる。
【0057】
加えて、適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子由来の遺伝子と共に適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子由来の遺伝子をスプライシングすることによる「キメラ抗体」の生産を目的として開発された技術(Morrison et al., Proc Natl Acad Sci USA 81:6851 [1984]; Neuberger et al., Nature 312:604 [1984]; Takeda et al., Nature 314:452 [1984])が使用できる。キメラ抗体は、マウスのモノクローナル抗体由来の可変領域及びヒトの免疫グロブリン定常領域を有するものなどの、異なる部分が異なる動物種由来である分子である。
【0058】
または、単鎖抗体の生産を目的として記載される技術(米国特許第4,946,778号、第4,946,778号、及び第4,704,692号)を用いて、PSGL−1ポリペプチドに対する単鎖抗体、またはその断片を生産するのに適用してもよい。単鎖抗体は、アミノ酸架橋を介してFv領域の重及び軽鎖を連結して、単鎖のポリペプチドを得ることによって形成される。
【0059】
特定のエピトープを認識し、これに結合する抗体断片は、既知の技術によって得られる。例えば、このような断片としては、以下に制限されないが、抗体分子のペプシン消化によって生産されうるF(ab’)2断片、およびF(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって得られるFab断片がある。または、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片を迅速かつ容易に同定できるように、Fab発現ライブラリーを構築してもよい(Huse et al., Science 246:1275 [1989])。
【0060】
抗体は、当該分野において既知の方法によってヒト化されてもよい。例えば、所望の結合特異性を有するモノクローナル抗体を商業的にヒト化してもよい(Scotgene, Scotland; Oxford Molecular, Palo Alto, Calif.)。形質転換動物で発現するものなどの、十分なヒト抗体もまた本発明の態様である(Green et al., Nature Genetics 7:13 [1994]; 及び米国特許第5,545,806号及び第5,569,825号)。
【0061】
PSGL−1機能を調節する化合物に関するスクリーニングアッセイ
本発明はまた、以下に制限されないが、PSGL−1への結合する際にT細胞の枯渇および/またはT細胞のアポプトシスを誘導する化合物などの、PSGL−1(またはPSGL−1のドメイン)と相互作用する化合物を同定する方法をも包含する。PSGL−1活性を調節する膜内外、細胞外、または細胞内タンパク質とのPSGL−1の相互作用を調節する化合物およびPSGL−1活性を調節する化合物もまた包含される。
【0062】
本発明にしたがってスクリーニングされる化合物としては、以下に制限されないが、本明細書に記載されるように、PSGL−1に結合して、PSGL−1が介在する生物学的機能を調節するペプチド、抗体及びこれの断片、ならびに他の有機化合物が挙げられる。
【0063】
このような化合物としては、以下に制限されないが、例えば、以下に制限されないが、ランダムペプチドライブラリーのもの;(Lam et al., Nature 354:82 [1991]; Houghten et al., Nature 354:84 [1991])等の、可溶性ペプチド、およびD−および/またはL−体のアミノ酸から作製されるコンビナトリアルケミストリー由来の分子ライブラリー、ホスホペプチド(以下に制限されないが、ランダムまたは部分的に変性した定方向ホスホペプチドライブラリー(random or partially degenerate, directed phosphopeptide libraries)を含む;Songyang et al., Cell 72:767 [1993])などの、ペプチド、抗体(以下に制限されないが、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプの、キメラまたは単鎖抗体、ならびにFAb、F(ab’)2及びFAb発現ライブラリー断片、ならびにこれらのエピトープ結合断片を含む)、ならびに有機または無機小分子が挙げられる。
【0064】
本発明にしたがってスクリーニングされうる他の分子としては、以下に制限されないが、本明細書に記載されるように、PSGL−1タンパク質の活性に影響を与える有機小分子がある。
【0065】
コンピュータモデリング及び探索技術によって、PSGL−1発現または活性を調節できる、化合物を同定できる、または既に同定された化合物を改善できる。このような化合物または組成物が同定されたら、活性部位または領域が同定される。このような活性部位は、具体的には、活性の天然のモジュレーターに対する結合部位であってもよい。活性部位は、例えば、ペプチドのアミノ酸配列から、核酸のヌクレオチド配列から、または関連する化合物または組成物のその天然のリガンドとの複合体の研究からなどの、当該分野において既知な方法を用いて同定できる。後者の場合では、化学的またはX線結晶方法が、その因子上のどこにモジュレーター(またはリガンド)が見出されるかを知得することによって活性部位を見出すのに使用できる。
【0066】
結合を変更する化合物の設計及び生成を参照しながら上記してきたが、PSGL−1タンパク質に結合して、T細胞の枯渇を引き起こすおよび/またはT細胞のアポプトシスを誘導する化合物に関して、天然産物または合成化学物質、及びタンパク質等の生物学的に活性のある材料などの、既知の化合物のライブラリーをスクリーニングしてもよい。
【0067】
インビトロ系が、PSGL−1(またはPSGL−1のドメイン)と相互作用することができる化合物を同定するために設計されてもよい。同定される化合物は、例えば、本明細書に記載されるようにT細胞活性を調節するのに有用であり、ゆえに、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患、及びT細胞で誘導される癌等の症状の処置に有用である。
【0068】
PSGL−1に結合する化合物を同定するのに使用されるアッセイの原則は、2成分が相互作用して結合するのに、ゆえに反応混合物中で除去および/または検出されうる複合体を形成するのに十分な条件下および時間、PSGL−1(またはPSGL−1のドメイン)及び試験化合物の反応混合物を調製することを包含する。使用されるPSGL−1種は、スクリーニングアッセイの目標によって異なる。場合によっては、アッセイ系(例えば、得られた複合体の標識、単離など)で利点が得られる異種タンパク質またはポリペプチドに融合するPSGL−1のドメインに相当するペプチドを使用することが好ましく、利用できる。
【0069】
スクリーニングアッセイは、様々なように行ないうる。例えば、このようなアッセイを行なう一つの方法としては、固相上にPSGL−1タンパク質、ポリペプチド、ペプチド若しくは融合タンパク質または試験化合物を固着し、反応終了時に固相上に固着したPSGL−1/試験化合物複合体を検出することがある。このような方法の一実施態様においては、PSGL−1反応物を、固体表面に固着させてもよく、固着しない、試験化合物を、直接的または間接的に、標識してもよい。
【0070】
実際には、マイクロタイタープレートが、簡便に固相として使用されてもよい。固着した成分は、非共有または共有結合によって固定化されてもよい。非共有結合は、固体表面をタンパク質の溶液で簡単に被覆して、乾燥することによって達成されてもよい。または、固定化されるタンパク質に特異的な、固定化抗体、好ましくはモノクローナル抗体を用いて、タンパク質を固体表面に固着させてもよい。表面は、予め調製され、貯蔵されていてもよい。
【0071】
アッセイを行なうために、固定化されていない成分を、固着成分を含む被覆表面に添加する。反応が終了した後、未反応成分を、形成された複合体が固体表面で固定化され続けるような条件下で(例えば、洗浄によって)除去する。固体表面上に固着した複合体の検出は、数多くの方法で達成できる。前に固定化されていない成分が予め標識されている場合には、表面に固定化された標識の検出は、複合体が形成されたことを示す。前に固定化されていない成分が予め標識されていない場合には、間接的な標識を用いて;例えば、前に固定化されていない成分に特異的な標識抗体を用いて(さらに、この抗体は、直接標識されてもまたは標識された抗Ig抗体で間接的に標識されてもよい)、表面上に固着した複合体を検出できる。
【0072】
または、反応を、液相で行なってもよく、反応産物を未反応成分から分離して、複合体を、例えば、溶液中に形成される複合体を固着するためにPSGL−1タンパク質、ポリペプチド、ペプチド若しくは融合タンパク質または試験化合物に特異的な固定化抗体を、および固着した複合体を検出するために可能性のある複合体の他の成分に特異的な標識抗体を用いて、検出してもよい。
【0073】
または、細胞によるアッセイを用いて、PSGL−1と相互作用する化合物を同定してもよい。この際には、PSGL−1を発現する細胞系、またはPSGL−1を発現するように遺伝子操作された細胞系が使用できる。細胞によるアッセイは、本明細書に記載されるスクリーニングによって同定される化合物の機能的な効果を評価するのに特に有用である。例えば、化合物がPSGL−1タンパク質への結合能に基づいて同定されたら、次にこの化合物について、例えば、インビトロ若しくはインビボのT細胞のアポプトシスの誘導能またはインビトロ若しくはインビボのT細胞の枯渇能を試験してもよい。
【0074】
薬剤組成物
本発明の目的が個体の免疫応答を変更するものである場合には、例えば、PSGL−1ポリペプチドに特異的に結合する抗体、小分子、または他の化合物を含む薬剤組成物がまた、本発明の態様である。好ましい例では、化合物がPSGL−1のアゴニストとして機能する。
【0075】
本発明にしたがって使用される薬剤組成物は、一以上の生理学的に許容できる担体または賦形剤を用いて公知の方法で配合されうる。ゆえに、化合物ならびにこれらの生理学上許容できる塩及び溶媒和化合物は、様々な投与経路による投与を目的として配合されてもよい。
【0076】
化合物は、注射による、例えば、大量注射または連続輸注による、非経口投与を目的として配合されてもよい。注射用の配合物は、保存剤を添加して、単位服用形態(unit dosage form)で、例えば、アンプルでまたは複数投与用容器(multi-dose container)で提示されてもよい。組成物は、懸濁液、溶液または油性若しくは水性ベヒクルにおけるエマルジョン等の形態をとってもよく、懸濁、安定化および/または分散剤等の配合剤を含んでもよい。または、活性成分は、使用前に、適当なベヒクル、例えば、滅菌した発熱性物質なしの水で構成されるために粉末形態であってもよい。
【0077】
T細胞が介在する免疫応答を制御するおよびT細胞集団を枯渇する方法
本明細書に記載されるスクリーニングアッセイにおいて詳述されたものなどの化合物は、例えば、PSGL−1ポリペプチドによって調節される生物学的な機能を調節するのにおよび/または過剰な若しくは望ましくない免疫応答、例えば、T細胞が介在する免疫応答に関連する疾患の処置に有用でありうる。これらの化合物としては、以下に制限されるものではないが、T細胞の表面上のPSGL−1に結合し、T細胞の死を引き起こすシグナル伝達経路を誘導するペプチド、抗体及びこれの断片、ならびに他の有機化合物が挙げられる。本発明の方法は、必要であれば、細胞の表面のPSGL−1の架橋を誘導する架橋剤を添加することを含む。本明細書に記載される化合物は、T細胞活性の枯渇または排除が望ましい場合に使用できる。本発明の化合物で処置されうる特に有用な症状としては、自己免疫疾患、移植拒絶、アレルギー疾患、及びT細胞で誘導される癌がある。
【0078】
本明細書に記載される抗PSGL−1化合物で処置されうる症状としては、以下に制限されるものではないが、真性糖尿病、関節炎(リウマチ様関節炎、若年性関節リウマチ、骨関節炎、及び乾癬性関節炎を含む)、多発性硬化症、脳脊髄炎、重症筋無力症、全身性紅斑性狼瘡、自己免疫性甲状腺炎、皮膚炎(アトピー性皮膚炎及び湿疹性皮膚炎を含む)、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、I型糖尿病、炎症性腸疾患、潰瘍性結腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚性紅斑性狼瘡、強皮症、膣炎、直腸炎、薬疹、らい反転反応(leprosy reversal reactions)、らい性結節性紅斑、自己免疫性ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、特発性両側性進行性感覚神経性聴力損失、再生不良性貧血、真正赤血球性貧血、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ヴェグナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スティーヴェンズ−ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性肺線維症、移植片対宿主疾患、骨髄移植、肝臓移植またはいずれかの器官若しくは組織の移植等の移植の症例(同種または異種組織を用いた移植を含む)、アトピー性アレルギー等のアレルギー、AIDS、および白血病および/またはリンパ腫等のT細胞新生物が挙げられる。
【0079】
本発明の方法は、インビトロまたはインビボのいずれかで、細胞集団からT細胞を枯渇するのに使用できる。例えば、個体由来の生体試料から、このサンプルを、本明細書に記載される抗PSGL−1化合物と、さらに必要であれば架橋剤と共に、接触させることによって、インビトロでT細胞を枯渇することができる。本方法は、例えば、細胞集団中の非T細胞を強化させることによってさらには細胞集団からT細胞活性を減少するまたは排除することによって、有用でありうる。
【実施例】
【0080】
下記は、本発明の実施例である。下記実施例は、本発明の概念を制限するものでないと解される。
【0081】
実施例1:抗T細胞アポプトシス誘導タンパク質(「TAIP」)モノクローナル抗体の調製
TAIPに特異的なモノクローナル抗体を、所望の抗体を分泌するハイブリドーマを生産するのにKohler and Milstein ((1976) European Journal of Immunology 6:511-519)の既知の細胞融合方法を適用することによって得た。コンカナバリンA(ConA)活性化Bab/cの脾臓T細胞を注射したハムスターからの抗体産生細胞を、ミエローマ細胞系と融合させて、抗体を分泌するハイブリドーマを形成した。これらの細胞の2集団は、ポリエチレングリコールで融合させ、得られた抗体産生細胞をクローニングして、標準的な組織培養方法によって増殖させた。これらの方法にしたがって得られた一つのハイブリドーマは、インビトロでT細胞のアポプトシスを誘導しかつインビボでT細胞を枯渇することができる、TAB4と称する、モノクローナル抗体を分泌した。TAB4によって認識されるタンパク質を、T細胞のアポプトシス誘導タンパク質(TAIP)と称した。
【0082】
C57BL/6J(B6)及びBALB/cは、Jackson lab (Bar Harbor, ME)から購入した。シリアンハムスターは、Animal Core Facility, National Taiwan University Medical Collegeから購入した。
【0083】
TAB4ハイブリドーマの濃縮培養液上清を、20,000×gで10分間遠心し、上清を結合緩衝液(0.1M酢酸ナトリウム、pH5.0)で1:1の比で希釈した。プロテインGカラム(約1mlのベッドボリューム)を、3〜5mlの結合緩衝液で3回洗浄した。透明な培養液上清をプロテインGカラムにのせ、流動液を集め、カラムに再度のせた。カラムを6〜10mlの結合緩衝液で洗浄し、結合した抗体を5mlの溶出緩衝液(0.1Mグリシン−HCl、pH2.8)でカラムから溶出させた。各画分は1mlの溶出された抗体を含み、各1mlの画分を50μlの1M Tris−HCl、pH7.5と混合することによって、溶出画分を中性のpHに調節した。抗体を含む画分を溜め、各透析について3時間、2リットルのPBS、pH7.4で3回透析した。抗体試料中のタンパク質濃度を、Bio-Rad Protein Assay (BIO-RAD, Hercules, CA)を用いてBradfordによって記載された方法で測定した。
【0084】
実施例2:マウス脾臓細胞懸濁液の調製ならびにT細胞の活性化および強化
マウスの脾臓を、8mlのハンクス液(HBSS)に浸漬し、滅菌したカバーガラスでゆるやかに細かく切り刻み、15mlの遠心管(Costar)に移し、さらに200×gで5分間遠心した。上清を捨て、細胞ペレットを、壁をゆるやかにたたくことによって残りの緩衝液に再懸濁した。混入した赤血球(RBC)を、1mlのRBC溶解緩衝液(0.6M NHCl、0.17M Tris−ベース、pH 7.65)を添加することによって溶解した後、室温で2分間インキュベートし、9mlのHBSSで迅速に急冷した。細胞を200×gで5分間でペレット化し、2回洗浄して、RPIM培養液に再懸濁した。混合物中の細胞の濃度及び生存率を、血球計数器(Cambridge Scientific Inc.)及びトリパンブルー排除(Trypan blue exclusion)で測定した。
【0085】
脾臓細胞を、RPIM培地で3×10/mlの最終濃度になるように調節し、コンカナバリンAを2μg/mlの最終濃度になるように加えて、T細胞を活性化した。細胞懸濁液を、集める前に、6ウェルの培養プレート(5ml/ウェル)または10cmの培養皿(10ml/皿)に移し、37℃、5% COで48時間インキュベートした。活性化T細胞を含む、活性化された脾臓細胞を、5mlのHBSSに再懸濁し、遠心管のパーコール溶液の55%クッション5mlの頂上に注意深くのせた。分離した層を乱さないように注意した。細胞を止めずに25℃で1,900×gで13分間遠心した。強化された(enriched)T細胞を2層の界面から集め、HBSSで2回洗浄し、実験用に用意した。
【0086】
実施例3:活性化T細胞のアポプトシス
活性化T細胞(実施例2参照)を、5ng/mlのIL−2を含むRPIM培地に5×10細胞/mlの最終濃度になるように再懸濁し、表1に示される条件にしたがって、コントロールIg、TAB4、または抗CD3で処理した。
【0087】
【表1】

【0088】
18〜24時間インキュベートした後、各培養物のアポプトシスの程度を7−AADアポプトシスアッセイを用いて測定した。処理した細胞を、FACS管(Falcon)に移し、氷冷したFACS溶液(PBSにおける1%ウシ胎児血清、0.05%アジ化ナトリウム)で2回洗浄し、4℃で200×gでペレット化した。細胞を、1〜2×10細胞/mlの最終濃度になるように氷冷したFACS溶液に再懸濁した。染色するために、0.1mlの再懸濁された細胞を、2μg/mlの最終濃度で7−AADと混合した後、暗所で4℃で20分間インキュベートした。最後に、染色された細胞を氷冷したFACS溶液で2回洗浄し、0.5mlのFACS溶液に再懸濁して、BD LSRフローサイトメーター(Beckton Dickison)で分析した。
【0089】
図1は、いつ活性化T細胞がTAB4(抗TAIP)が介在するアポプトシスシグナルに対する感受性を得るかを調べた経時的な実験の代表的結果を示すものである。マウスの脾細胞を、Con−Aで活性化し、IL−2含有培地に維持した。活性化T細胞を集め、再懸濁し、架橋体(cross-linker)としての抗ハムスターIgG抗体の存在下でTAB4モノクローナル抗体またはコントロールのハムスターIgGで攻撃した。TAIP架橋が低レベル(6.5%)のアポプトシス細胞死を誘導できたことが1日目で明らかであった。しかしながら、TAB4で誘導されたアポプトシスの程度は、2日目で17%から増加し、4日で52%でピークとなり、6日目には44%にまで減少した。コントロールのハムスターIgGは、IL−2のみを投与した培養物に比して、特異的なアポプトシスT細胞死を誘導しなかった。抗CD3(ポジティブコントロールとして)は、活性化してから48時間後に38%のT細胞のアポプトシスを誘導した(データ示さず)。
【0090】
実施例4:異なる組織におけるTAIP抗原の発現
細胞を氷冷したFACS溶液(PBSにおける1%ウシ胎児血清、0.05%アジ化ナトリウム)で2回洗浄し、FACS管(Falcon)で4℃で200×gで遠心した。細胞を、1×10細胞/mlの最終濃度になるように氷冷したFACS溶液に再懸濁し、FACS管(Falcon)中の再懸濁した細胞の0.1mlのアリコートを各アッセイに使用した。表面を染色するために、2μg/mlの最終濃度でTABモノクローナル抗体またはコントロールのハムスターIgを細胞に添加し、混合物を暗所で4℃で30分間インキュベートした。細胞を氷冷したFACS溶液で1回洗浄した後、(1)脾細胞では、100μlの氷冷したFACS溶液におけるサイクロム(cychrome)接合抗CD3抗体(2μg/ml)、FITC接合抗ハムスターIg、及びPE接合抗CD8/CD4/CD19/CD11b/pan−NK/I−A/I−E/Mac−3抗体(2μg/ml);ならびに(2)胸腺細胞では、100μlの氷冷したFACS溶液におけるFITC接合抗ハムスターIg、PE接合抗CD8抗体、及びサイクロム接合抗CD4抗体(2μg/ml)で、染色した。反応は、暗所で4℃で30分間、行なった。最後に、染色細胞を氷冷したFACS溶液で2回洗浄し、1mlのFACS溶液に再懸濁して、BD LSRフローサイトメーター(Beckton Dickison)で分析した。
【0091】
図3及び4は、脾細胞及び胸腺細胞の様々なサブ集団でのTAIP抗原の分布をFACS分析によって示すものである。図3に示されるように、CD19 B細胞は、表面で低いが検出可能な量のTAIPタンパク質を発現した。有意により高い量のTAIPタンパク質が、CD3 T細胞及びNK細胞の画分で検出された。ほとんどのCD4、CD8、及びCD4 胸腺T細胞は、有意な量のTAIPタンパク質を発現した。これに対して、TAIPタンパク質は、CD4 胸腺T細胞の小集団でしか発現しなかった(図4)。
【0092】
脳、胸腺、心臓、肺、肝臓、胃、腎臓、脾臓、及び皮膚等の、B6及びBalb/cマウスの組織を集め、室温で一晩、10%ホルムアルデヒド中で固定し、パラフィンブロック中に包埋した。4μm厚の、組織切片を、Leica RM2135ミクロトームでパラフィンブロックから調製し、45℃の水中に広げ、被覆スライドにのせた。スライドを37℃で乾燥し、次の実験のために用意した。
【0093】
組織パラフィン切片を含むスライドを脱ろうし、標準的なプロトコルにしたがってキシレン−100%エタノールシリーズで乾燥し、最後に100%エタノールに保持した。切片を、標準的なプロトコルにしたがって100%エタノール−90%エタノール−85%エタノール−70%エタノール−PBSの連続インキュベーションからさらに最後にPBS溶液にまでして再水和させた。以下の反応はすべて、給湿ボックスで行なった。非特異的な結合を、組織切片を遮断緩衝液(1%正常ヤギ血清)中で室温で1時間(または4℃で一晩)インキュベートすることによって遮断した。遮断緩衝液を除き、TAB4または正常ハムスターIg(1:200希釈)を切片に加えて、インキュベーションをさらに室温で1時間(または4℃で一晩)続けた。切片を、各々5分間、PBSで2回洗浄して、一次抗体を除去し、1:250の希釈アルカリホスファターゼ接合ヤギ抗ハムスターIgと反応させ、室温で1時間インキュベートした。切片を、再度、各々5分間、PBSで2回洗浄して、抗体−酵素接合体を除去し、着色反応を、暗所でBCIP/NBT基質溶液で室温で30分間発色させた。切片を再度PBSで洗浄し、過剰な酵素基質を除去し、PBS−エタノール−キシレンシリーズで脱水し、顕微鏡検査にのせた。
【0094】
結果から、TAIPタンパク質の発現は骨髄由来組織でのみ検出され試験された残りの組織では検出されなかったことが示された。
【0095】
実施例5:TAIP抗原の細胞表面ビオチン化および免疫沈降
5×10RLオス1またはNIH−3T3細胞を、氷上で30分間0.5mg/mlスルホ−NHS−ビオチン(Sulfo-NHS-biotin)(Pierce)を含むPBS 1ml中で表面ビオチン化した。反応を、細胞を氷上で10分間、0.5mlのダルベッコ改変イーグル培地(Life Technologies, Inc.)でインキュベートすることによって終了した。細胞を1mlのダルベッコ改変イーグル培地で1回及び1mlのリン酸緩衝液で2回洗浄した。
【0096】
標識された細胞を、完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(complete protease inhibitor cocktail)(Roche)を含む冷却溶解緩衝液(1% Triton X−100、20mM Tris−HCl、pH 8.0、160mM NaCl、1mM CaCl)中で5.0×10細胞/mlの密度で15分間溶解し、不溶材料を10,000×gで10分間ペレット化した;これら及びすべての次の段階は、4℃で行なわれた。免疫沈降では、溶解産物を、50μlの充填プロテインG−セファロース(Amersham Pharmacia Biotech)と共に30分間予めインキュベートして、非特異的に結合するタンパク質を除去した。ビーズをペレット化し、上清のアリコート(定常的に5.0×10細胞に相当)を、10μgのmAb TAB4または正常なハムスター血清由来のIgGが予めのせられた20μlのプロテインG−セファロースと共にインキュベートした。4℃で4時間インキュベートした後、樹脂を、洗浄緩衝液(0.05% Triton X−100、50mM Tris−HCl、pH 8.5、400mM NaCl、1mM CaCl、1mg/ml オボアルブミン)で4回、および400mM NaClの代わりに250mMを含む、同様の洗浄緩衝液で2回洗浄した。TAB4に特異的に結合するタンパク質を、50μlの1×SDSサンプル緩衝液で溶出した。溶出したタンパク質を、8%SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロース膜(Millipore)に移した。フィルターについて、ペルオキシダーゼ接合アビジン(PharMingen)でビオチン化されたタンパク質を分析し、化学発光試薬(NENTMLife Science Products)で発色させた。
【0097】
図2に示されるように、約120kDの分子量を有するビオチン化された表面タンパク質が、RL□1細胞(TAIP T細胞)によっては同定されたが、3T3細胞(TAIP T細胞)では同定されなかった。これに対して、ハムスターの正常血清で被覆したプロテインGセファロースは、この120kDのタンパク質を抽出できなかった。これらの結果から、この120kDのタンパク質はT細胞の細胞表面でモノクローナル抗体TAB4によって認識される抗原であることが示唆される。
【0098】
実施例6:インビボでのT細胞の枯渇
インビボでのT細胞及び他の細胞の集団へのTAB4の効果を試験するために、マウスに、300μgのTAB4またはコントロールのハムスターIgを腹腔内に注射し、4日目に、脾細胞、胸腺細胞、及び末梢血の単核細胞を全細胞計測のために及びFACSによる細胞表面マーカーの分析のために集めた。
【0099】
FACSアッセイでは、細胞を、4℃で20分間2%パラホルムアルデヒドで固定し、2回洗浄して、1×10細胞/mlの最終濃度になるように氷冷したFACS溶液に再懸濁した。FACS管(Falcon)中の再懸濁された細胞の100μlのアリコートを各アッセイに使用した。2μg/mlの最終濃度のTAB4またはコントロールのハムスターIgを細胞に添加して、混合物を暗所で4℃で30分間、インキュベートした。細胞を氷冷したFACSで1回洗浄し、(1)脾細胞では、100μlの氷冷したFACS溶液におけるサイクロム(cychrome)接合抗CD3抗体(2μg/ml)、FITC接合抗ハムスターIg及びPE接合抗CD8/CD4/CD19/CD11b/pan−NK/I−A/I−E/Mac−3抗体(2μg/ml);ならびに(2)胸腺細胞では、100μlの氷冷したFACS溶液におけるFITC接合抗ハムスターIg、PE接合抗CD8抗体、及びサイクロム接合抗CD4抗体(2μg/ml)と、反応させた。反応は、暗所で4℃で30分間、行なった。最後に、染色した細胞を、氷冷したFACS溶液で2回洗浄し、1,000μlのFACS溶液中に再懸濁して、BD LSRフローサイトメーター(Beckton Dickison)で分析した。
【0100】
注射してから4日後に、末梢血の白血球(PBL)におけるCD3 T細胞のパーセントは、コントロールマウスの36.7%からTAB4で処置したマウスの4.1%にまで減少した(表2)。TAB4処置により、脾細胞の全数は若干減少した。しかしながら、TAB4処置マウスでは、CD3 T細胞の数が62%減少し、NK細胞の数が50%減少し、さらにCD19 B細胞の全数が若干増加した。TAB4処置マウスから回収した胸腺細胞の全数は、コントロールで見られたレベルのたった48%であった(52%減少)。さらに、CD4 T細胞以外では、すべての他のCD8、CD4CD8、及びCD4CD8 T細胞は減少し、この際、CD4CD8 サブ集団は最も顕著に影響を受けた(64.7%減少)。
【0101】
【表2】

【0102】
実施例7:抗TAIP抗体は、IL−2またはTNF−αの分泌を誘導しない
Balb/cマウス(H−2d)に、300μgのTAB4またはコントロールのハムスターIgを腹腔内に注射した。脾細胞を注射してから7日目に単離し、マイトマイシンC処置C3H(H−2k)脾細胞(スティミュレーター(stimulator)として)を有する培養物におけるレスポンダー(responder)として使用した。3日後、培養物上清を集め、IL−2含量をELISAセット(PharMingen)によって測定した。図5に示されるように、IL−2の生産は、コントロールマウスのものに比してTAB4処置マウス由来のレスポンダー細胞では抑制された。IL−2及びTNF−aの血漿レベルもまた分析したところ、コントロール及びTAB4処置マウスの血清ではIL−2(またはTNF−a)のレベルに有意な差は認められなかった。IL−2の生産はT細胞の活性には重要であるので、これらの結果から、TAB4等の、TAIPに特異的な抗体は、T細胞を操作し、自己免疫疾患及び移植拒絶に関連するもの等の望ましくないT細胞が介在する免疫応答を制御するのにインビボで使用できることが示される。
【0103】
実施例8:移植拒絶を防止するための抗TAIP抗体の使用
8〜12週齢のマウス(Jackson Laboratoryから得た)に、アセプロマジンマレエート(Acepromazin maleate)(Fermenta Animal Health Co., Kansas City, MO)で麻酔をかけた。皮膚移植前に、胸腺摘除されていないレシピエントC57BL/6マウス(H−2)に、皮膚移植外科手術する7日前に、500μgのTAB4またはイソ型のコントロール抗体を腹腔内注射した。7日後、十分同種のミスマッチした(fully allogeneic mismatched)Balb/cjマウス(H−2)の皮膚の側腹部を、抗体で予め処置されたC57BL/6マウスの側腹部に移植した。移植してから7日目に、マウスに再度500μgのTAB4またはイソ型のコントロール抗体を注射した。マウスを移植片の移植後毎日モニターした。移植片の生存率(%)を図7に示す(n=8)。データから、TAB4抗体による処置は同種皮膚移植片の生存を延ばすことが示される。
【0104】
実施例9:PSGL−1としてのTAIPの同定
CD162とも称する、P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)は、T細胞等の、白血球で発現する主要なP−セレクチンリガンドである(Sako et al. (1993) Cell 75:1179; Vachino et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:21966; Veldman et al. (1995) J. Biol. Chem. 270:16470)。その分子量及び二量体のなりやすさ等の、TAIPの生化学的な特性から、TAB4はPSGL−1に類似する可能性が示唆された。これら2種の抗原の関係を調べるために、以下のように試験した:1)TAB4によって沈降する抗原が市販の抗PSGL−1抗体によって認識できるかどうか;および2)抗PSGL−1抗体が細胞溶解産物からTAB4を枯渇できるかどうか。
【0105】
RLオス1 T細胞を、完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(complete protease inhibitor cocktail)を含む溶解緩衝液(1% Triton X−100、20mM Tris−HCl、pH 8.0、160mM NaCl、1mM CaCl)中で1.0×10細胞//mlの密度で1時間溶解し、不溶材料を10,000×gで10分間ペレット化した。これら及びすべての次の段階は、4℃で行なわれた。5.0×10細胞に相当する溶解産物を、10μgの抗PSGL−1 mAb(クローン2PH1、PharMingen, San Diego, CA)、抗TAIP mAb、TAB4、または正常ハムスター血清由来のIgGが予めのせられた20μlのプロテインG−セファロースと共にインキュベートした。4℃で4時間インキュベートした後、ビーズを洗浄緩衝液(0.05% Triton X−100、50mM Tris−HCl、pH 8.5、400mM NaCl、1mM CaCl、1mg/ml オボアルブミン)で4回、および400mM NaClの代わりに250mMを含む、同様の洗浄緩衝液で2回洗浄した。結合タンパク質を、40μlの1×SDSサンプル緩衝液で溶出した。溶出したタンパク質を、6%SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に移した。膜を、抗PSGL−1 mAbで免疫ブロットし、ペルオキシダーゼ接合ヤギ抗ラットIgG(H+L)によってさらには化学発光(Renaissance, NEN)によって出現させた。
【0106】
表面ビオチン化RLオス1 T細胞を、溶解緩衝液中で1.0×10細胞/mlの密度で溶解した。細胞抽出物を、4℃で一晩、40μlのプロテインG−セファロースに結合した抗体20μgと共にインキュベートした。枯渇を、抗PSGL−1 mAb(2PH1)またはコントロールのラットIgGを用いて、TAB4またはコントロールの正常ハムスター血清を用いて行なった。枯渇した溶解産物について、さらにTAB4または抗PSGL−1 mAbで、それぞれ、免疫沈降を行なった。免疫沈降物を、6%SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離し、蛍光板間接撮影によって検出した。図6に示されるように、抗PSGL−1抗体はT細胞溶解産物からTAIPタンパク質を枯渇できる。加えて、抗TAIP抗体(TAB4)で免疫沈降したタンパク質は、ウェスタン分析によって抗PSGL−1抗体によって認識されうる。
【0107】
実施例10:抗PSGL−1抗体によるヒトT細胞におけるアポプトシスの誘導
ヒトT細胞のアポプトシスにおけるPSGL−1によって果たされる役割を決定するために、経時的な実験を行ない、いつ活性化ヒトT細胞がPSGL−1が介在するアポプトシスシグナルに対する感受性を得るかを調べた。ヒトT細胞を、フィトヘムアグルチニン(PHA)マイトジェンで刺激し、さらにIL−2含有培地中に展開させた。活性化T細胞を集めた後、IL−2及び架橋抗体の存在下で抗PSGL−1で攻撃した。
ヒトの末梢血を、健常な成人から採取し、へパリン化し、フィコールパックプラス(Ficoll-Paque Plus)(Pharmacia Biotech)を用いて異なる密度に基づいた末梢血単核細胞(PBMC)を強化した。PBMCを、1%PHA(Life Technologies, GibcoBRL)で48時間活性化した後、アッセイ期間中組換えヒトIL−2(5ng/ml)中に維持した。抗ヒトPSGL−1抗体のアポプトシス誘導能を評価するために、活性化細胞を:(1)1μg/mlの抗PSGL−1抗体クローンKPL−1(BD PharMingen)に架橋体(cross-linker)ウサギ抗マウスIg(0.5μg/ml)(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を加えたもの;(2)イソ型のコントロール精製マウスIgに架橋体ウサギ抗マウスIgを加えたもの;または(3)架橋体ウサギ抗マウスIg単独で、処置した。6時間処置した後、初期のアポプトシス細胞のパーセントをFACSによって測定し、抗アネクシンV(anti-Annexin V)(BD PharMingen)及びPI(Sigma)で染色した。
【0108】
図8に示されるように、抗PSGL−1抗体に架橋体を加えたものを用いてPSGL−1によって引き起こされたシグナル伝達(signaling)は、PHA活性化ヒトPBMC(主にT細胞)において有意なレベルのアポプトシスを引き起こした。アポプトシス細胞のパーセントは、抗PSGL−1処置培養物において3日目の8.5%から8日目の24%まで増加した。同位体マッチコントロール(isotopic-matched control)、または架橋抗体単独はいずれも、これらの細胞に効果がなかった。
【0109】
実施例11:自己免疫疾患を処置するための抗PSGL−1アゴニスト抗体の使用
よく公認された自己免疫性糖尿病動物である、肥満でない糖尿病(non-obese diabetic)(NOD)マウスを、標準的な条件下で飼育した。突発性糖尿病(spontaneous diabete)が約20週齢のNODマウスで発症した。実験群では、マウスに、14、15及び17週齢のマウス当たり、300μgの抗PSGL−1抗体(TAB4)を3回腹腔内投与した。同じ投与量の注射を24及び26週齢でさらに2回与えた。コントロール群には、同じ投与量のハムスターIgを与えた。マウスを、15週齢以降毎週2回メディ−テストグルコースストリップ(Medi-Test Glucose strip)(Macherey-Nagel, Germany)によって尿中グルコースをモニターした。2回の連続した測定で300mg/dlを超える非空腹時尿中グルコースレベルが糖尿病と考えた。
【0110】
図9に示されるように、TAB4(抗PSGL−1)抗体処置によって、コントロールの抗体処置に比べて有意な保護が得られた。ゆえに、抗PSGL−1抗体による処置は、自己免疫T細胞の活性を抑制し、I型糖尿病の発症を遅延することができる。
【0111】
他の実施態様 本発明を詳細な説明と合わせて説明してきたが、前記説明は詳細に説明することを意図するものであり、本発明の概念を制限するものではないと解される。本発明の他の態様、利点、及び修飾は、下記特許請求の範囲の概念に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】いつ活性化T細胞がTAB4(抗TAIPモノクローナル抗体)が介在するアポプトシスシグナルに対する感受性を得るかを調べた経時的な実験の代表的結果を示すものである。
【図2】TAB4抗体によって認識される抗原の細胞表面のビオチン化及び免疫沈降の結果を示すものである。
【図3】脾臓CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD19+ B細胞、及びNK細胞でのPSGL−1抗原の発現を示すものである。
【図4】CD4、CD8、及びCD4、及びCD4胸腺細胞でのPSGL−1抗原の発現を示すものである。
【図5】レスポンダー(responder)としてのTAB4(またはハムスターIg)で処置されたBalb/cマウスから単離された脾臓細胞およびスティミュレーター(stimulator)としてのH2ミスマッチC3H脾臓細胞を用いた混合リンパ球培養で生産されたIL−2レベルを示すものである。
【図6】(A)TAB4抗体で免疫沈降したタンパク質が市販の抗PSGL−1抗体によって認識できることおよび(B)抗PSGL−1抗体でT細胞溶解産物を予め透徹(preclearing)することによって、TAB4によって認識されたタンパク質を枯渇できることを示すウェスタンブロット分析を示すものである。
【図7】Balb/cマウスから皮膚移植を受け、抗PSGL−1抗体(黒塗りのダイアモンド)またはコントロール抗体(白抜きの四角)で処置されたC57BL/6マウスでの生存した移植片の割合(%)を示すものである。
【図8】活性化ヒト末梢血の単核細胞を抗ヒトPSGL−1抗体で処置した後のアポプトシスを受けたT細胞の割合(%)の経時変化を示すものである。
【図9】抗PSGL−1抗体(黒塗りの四角)またはコントロール抗体(白抜きの四角)で処置された自己免疫性肥満でない糖尿病(autoimmune non-obese diabetic)(NOD)オスマウスの糖尿病の発症率を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰な若しくは望ましくないT細胞が介在する免疫応答の特徴を有する症状を有するまたはこのような症状になる危険性があると診断される個体を選択し;および
T細胞の表面上のP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)への化合物の結合はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物を、該個体に投与することにより、該個体でT細胞が介在する免疫応答を防止または抑制することを有する、個体におけるT細胞が介在する免疫応答の防止または抑制方法。
【請求項2】
該化合物は、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該化合物は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モノクローナル抗体に結合し、T細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質を投与することをさらに有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該方法は、T細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを有し、該架橋はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
自己免疫疾患を有すると診断される個体を選択することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
同種または異種移植を受けたまたは受けることが予想される個体を選択することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アレルギー疾患を有すると診断される個体を選択することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
T細胞癌を有すると診断される個体を選択することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該T細胞は活性化T細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該T細胞は、CD4+ T細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該T細胞は、CD8+ T細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該方法は、化合物の投与前に個体から採取した第1の生体試料におけるT細胞の数を検出し、化合物の投与後の該個体から採取した第2の生体試料におけるT細胞の数と結果を比較することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該方法は、化合物の投与前に個体から採取した第1の生体試料におけるT細胞の生物学的活性を検出し、化合物の投与後の該個体から採取した第2の生体試料におけるT細胞の生物学的活性と結果を比較することを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
投与により、個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも20%を減損する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
抗体またはその抗原結合断片は、抗体またはその抗原結合断片に暴露した後に個体の末梢血のCD3+細胞の少なくとも20%の死亡を誘導するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
細胞表面上でPSGL−1を発現するT細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞を提供し;および
T細胞またはNK細胞の表面上のPSGL−1への化合物の結合はT細胞またはNK細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞またはNK細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物と、該T細胞またはNK細胞を接触させることを有する、T細胞またはNK細胞の死亡の誘導方法。
【請求項18】
該化合物は、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該化合物は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
モノクローナル抗体に結合し、T細胞またはNK細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質とモノクローナル抗体を接触させることをさらに有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
該方法は、T細胞またはNK細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを有し、該架橋はT細胞またはNK細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
該T細胞は、活性化T細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
該T細胞は、CD4+ T細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
該T細胞は、CD8+ T細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
該方法は、化合物との接触後にT細胞またはNK細胞の生存率を評価することを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
該方法は、化合物との接触後にT細胞またはNK細胞の生物学的活性を評価することを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
細胞表面上でPSGL−1を発現する細胞を提供し;
該細胞を試験物質と接触させ;および
細胞を試験物質と接触させた後の細胞の生存率を測定することにより、該試験物質がPSGL−1機能のモジュレーターであるかどうかを決定することを有する、PSGL−1機能のモジュレーターに関するスクリーニング方法。
【請求項28】
該試験物質によって誘導される細胞の死を検出することにより、該試験物質がPSGL−1機能のモジュレーターであることを決定することをさらに有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該試験物質は、PSGL−1に特異的に結合する抗体またはこの抗原結合断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該化合物は、PSGL−1に特異的に結合するモノクローナル抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
モノクローナル抗体を、該モノクローナル抗体に結合し、T細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導する物質と接触させることをさらに有する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
該方法は、細胞の表面上の複数のPSGL−1抗原の架橋を誘導することを有し、該架橋はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
該T細胞は、活性化T細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
該T細胞は、CD4+ T細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
該T細胞は、CD8+ T細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
大量の試験物質を製造し、該試験物質を製薬上許容できる担体中に配合することをさらに有する、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
T細胞の表面上のPSGL−1への化合物の結合はT細胞を死亡させるシグナル伝達経路を誘導するものである、T細胞の表面上のPSGL−1に結合する化合物;および
自己免疫性、移植拒絶、アレルギー症状、またはT細胞癌を処置するための化合物の使用に関するインストラクションを有するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−260759(P2008−260759A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58501(P2008−58501)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2003−518607(P2003−518607)の分割
【原出願日】平成14年3月13日(2002.3.13)
【出願人】(503183260)アブゲノミクス コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】