説明

PCB含有油の無害化処理方法およびPCB含有油の無害化処理装置

【課題】 PCB含有油の無害化処理を促進するために、無害化の処理工程ならびにその処理装置が簡素で、処理設備の建設コストや運転コストが嵩張らず、取扱いの難しい触媒・薬剤を用いることなく、また高温処理を必要とせず、常温常圧下で環境負荷も小さく安全且つ効果的にPCB含有油を無害化処理できるようにする。
【解決手段】 PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化して、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、無声放電作動中の無声放電空間内に流通させることにより、PCB含有油中のPCBを無害物質に転換する。即ち、無声放電空間での電子付与と脱離による酸化還元力を利用してPCBを無害物質に転換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周知の化学物質PCB(polychlorinated biphenyls=ポリ塩化ビフェニル)を含有する油の無害化処理方法と、その無害化処理方法を実施するPCB含有油の無害化処理装置に関するもので、PCB含有油の噴霧技術と、無声放電(誘電体バリア放電)技術を重畳してPCBを含む油を無害化処理する方法と、その方法でPCB含有油を無害化処理する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PCBは、2個のベンゼン環が繋がったビフェニル骨格構造を有してその骨格周囲に配置される水素原子10個のうちの何れかが塩素(Cl)で置換された異性体物質の総称であって、その特性として、高沸点で熱分解し難く化学的に安定である上に高絶縁性、高親油性であることから、過去わが国においても、トランスやコンデンサー等の電気機器の電気絶縁油として、あるいは複写紙の添加物として、あるいは熱媒体や潤滑油として、広範な用途に利用された時期があった。しかし、PCBの人体への有害性が明らかになったことから、1972年にPCBは全面製造中止となり、残存するPCB含有油を高温焼却処理する経緯が一時あったものの、爾来現在まで30余年に亘り残存するPCB含有油は密封状態で継続保管されてきている。しかし、経年に伴う保管施設の老朽化によって、継続保管されているPCB含有油の漏洩が危惧されることから、2001年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が施行され、以後15年以内にPCBの無害化処理が義務付けられたことから、現在保管されているPCB含有油の無害化処理への対応が急務になってきている。
【0003】
PCBの無害化処理手法は従来から種々提案されており、それらの手法は次の5種類に大別することもできる。
すなわち、
[A]高温焼却による熱分解法
1200〜1400℃の高温炉内にPCBを噴霧して分解処理することにより、PCBを二酸化炭素、水、無機塩、焼却灰に分解するもので、例えば特開2004−132558号公開特許公報(特許文献1)に示されるように、溶剤にPCBを溶解させたPCB溶液と水を混合してエマルジョンを生成し、水素・酸素ガス発生手段で水の電気分解により発生する水素ガスと酸素ガスとを分離した状態で供給してその水素ガスを酸素ガスで燃焼させる燃焼室内に上記エマルジョンを噴霧することによって、PCBを水素ガスバーナーにより1400℃以上で燃焼させるものが提案されている。
[B]化学的脱塩素化分解法
PCBにアルカリ剤や炭素系触媒を混合させ、常圧下窒素雰囲気中で300〜350℃に加熱し化学反応させることにより、PCB中の塩素を水素などに置換してPCB以外の物質に転換するもので、その処理後に無害なビフェニル化合物と無機塩と水が生成される。そして、例えば特開2003−135621号公開特許公報(特許文献2)に示されるように、PCB、塩素化合物にシリコーンとトルエンを混合撹拌させると共にアルカリ剤の触媒を混合し撹拌することでゲル化が始まることにより、40〜120℃の発熱反応を起こさせて、PCBの脱塩素化を図るものが提案されている。
[C]水熱酸化分解法
水熱酸化分解法には、374℃、218気圧を超えた状態の、いわゆる超臨界水(通常、650℃以上、250気圧以上の超臨界水が用いられる)の持つ強い酸化力を利用してPCBを炭酸ガスと水と塩酸にまで分解する超臨界水酸化法や、超臨界直前の状態の水に酸素と炭酸ナトリウムを加えた熱水を用いて380℃、270気圧下でPCBを酸化分解させる熱水分解法がある。そして、例えば特開2003−175327号公開特許公報(特許文献3)に示されるように、供給される処理液中のハロゲン化有機化合物を高温高圧環境下で分解する前段反応器と後段反応器を備えて前段反応器内の処理液を後段反応器の内部に供給する水熱酸化分解装置も提案されている。
[D]光分解法
PCBに波長250〜300nmの紫外線を照射することにより、PCBを脱塩素化し、微量の残留PCBを貴金属触媒や微生物により分解するもので、例えば特開平11−319816号公開特許公報(特許文献4)に示されるように、内部電極を有するエキシマ発光部と、そのエキシマ発光部の外側に配置されて有機化合物を含む液体を満たす金属容器と、それら内部電極と金属容器の間に電圧を印加して誘電体バリア放電を生じさせる電源を備えた有機物分解装置を用い、そのエキシマ発光部と金属容器との間に満たされた有機化合物含有液体をエキシマ発光部から発生するエキシマ光によって二酸化炭素や水などに分解するものが提案されている。
[E]還元熱化学分解法
還元熱化学分解法としては、PCBを純水素雰囲気中の常圧下で加熱し、触媒を用いることなく脱塩素・分解する還元反応によってPCBを最終的に塩酸、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素および僅かな低級炭化水素に分解し塩酸は中和して系外に排出して無害化する気相水素還元法や、鉄溶融バスにPCB廃棄物を吹き込むことによりPCBを一旦原子レベルまで分解しその後に圧力、温度、酸素供給量を調節することにより生成物の化学組成を制御する溶融触媒抽出法や、酸素プラズマもしくは空気プラズマによる熱エネルギーを用いて酸化雰囲気中でPCBを分解して無害化する(直流プラズマジェットを用いてPCB含有油と酸素を反応させてPCBを分解して無害化する)プラズマ高温分解法や、高温焼却によって残った焼却灰もしくは焼却飛灰をプラズマによる熱エネルギーを使って溶融固化することによりスラグ化して無害化するプラズマ溶融法などが知られている。そして、例えば特開2003−19434号公開特許公報(特許文献5)に示されるように、PCBで汚染された土壌をサイクロンにより螺旋状に運動させてプラズマ処理容器に供給しそのサイクロンあるいはプラズマ処理容器のガス導入口より導入された処理ガスの活性化プラズマと化学反応させてPCBを無害化処理するものが提案されている。
【特許文献1】特開2004−132558号公開特許公報
【特許文献2】特開2003−135621号公開特許公報
【特許文献3】特開2003−175327号公開特許公報
【特許文献4】特開平11−319816号公開特許公報
【特許文献5】特開2003−19434号公開特許公報
【0004】
しかし上記のような従来のPCB無害化処理手法は、何れも実用化する上で大きな難点がある。すなわち、高温焼却による熱分解法では、高温で焼却させるための処理炉の管理が難しい上に、未分解のPCBが焼却灰中に残存する問題や、処理温度が低いとPCBより毒性の強いダイオキシンを発生する危険性があり、化学的脱塩素化分解法では、効果的に脱塩素化を図るために強アルカリ剤を必要とし、その強アルカリ剤は一般に扱い難いもので、NaOH、KOH、Na、Kの順に順次扱い難くなるという難点がある。また、化学的脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、光分解法、還元熱化学分解法は、共に大規模の設備を要することから、プラントの建設費や設備の運転コストが嵩むことが実用化上の大きな難点であり、さらに、PCBを含む多量の油を無害処理する際の処理コスト面でも問題視される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、従来の各種のPCB無害化処理手法が抱える上記のような実用上の難点に鑑み、PCB含有油の無害化処理を促進するために、無害化の処理工程ならびにその処理装置が単純で、処理設備の建設コストや運転コストが嵩張らず、取扱いの難しい強アルカリ剤や特殊の触媒・薬剤を用いることなく、前記のプラズマ溶融法等に見られるような高温処理を必要とせず、常温常圧下で環境負荷も小さく安全且つ効果的にPCB含有油を無害化処理できるような、実用性の高いPCB含有油の無害化処理方法と、その無害化処理方法を実施するための実用性に高いPCB含有油の無害化処理装置を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題・目的を達するために、この発明は、PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化して、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、無声放電作動中の無声放電空間内に流通させることにより、PCB含有油中のPCBを無害物質に転換する。即ちこの発明は、無声放電空間での電子付与と脱離による酸化還元力を利用してPCBを無害物質に転換する原理に基づくものである。
【0007】
また、不活性ガスをもってPCB含有油を噴霧ノズルに供給すると共に同不活性ガスを別途上記噴霧ノズルに供給することにより、その噴霧ノズルからPCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化して噴出させ、その噴出したPCB含有油を、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアの間に形成された無声放電空間内を流通させることにより、先に無害化処理された油中になお残存するPCBを無害物質に転換する。
【0008】
そしてまた、無声放電空間内を流通して無害化処理された後もPCBが残存するPCB含有油を回収し、その回収したPCB含有油を再度霧化または液滴化または蒸気化して、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、無声放電作動中の無声放電空間内に流通させることにより、PCB含有油中に残存するPCBを無害物質に転換する。
【0009】
一方、PCB含有油の無害化処理装置として、PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する手段と、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流通する無声放電系と、その無声放電系に無声放電エネルギーを供給する電源を主要部とする無害化処理装置を構成する。
【0010】
また、PCB含有油と不活性ガスが供給されてPCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する噴霧ノズル、並びに、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアを間隔を保って並設させその互に向かい合う無声放電バリアの間に無声放電空間を形成しその無声放電空間内に霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流通する無声放電系を有するリアクタと、その無声放電系に無声放電エネルギーを供給する電源を主要部としたPCB含有油の無害化処理装置を構成する。
【0011】
更にまた、リアクタに収まる無声放電系としては、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアをスペーサを介して間隔を保って並設させ、互に向かい合う無声放電バリアの間に無声放電空間を形成し、無声放電バリアと共に並設状態にある放電用電極板を順次交互に選択した二つの電極グループを形成し、その一方の電極グループを接地電極とし、他方の電極グループを電源出力端子に接続するものとする。
【発明の効果】
【0012】
そして、この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法とその無害化処理装置によれば、PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する噴霧ノズルと、誘電体バリアを備えた無声放電系を組み合わせて無害化処理を実行するものであり、その無害化処理方法の工程は極めて単純で、無害化処理装置の建設コストや使用コストを低く抑えることができ、環境コストも小さく、安全且つ効果的に実施できる無害化処理技術である。またこの発明に係る無害化処理における反応は、前記したプラズマ溶融法等に見られるような高温処理を必要とせず、常温常圧下で極めて取り扱い易いものであり、特殊な触媒や薬剤を必要とせず、残渣の発生もない。また、処理油は燃料として利用できる。更にこの発明に係る無害化処理は、気体液体混合処理であることから、従来技術のような高温焼却時に発生する飛灰や、固形化した焼却灰の埋め立て問題などが生じないという効果もある。したがって、環境に考慮しながら、限られた時間内で迅速に残存PCBを廃棄処理する方法として実用効果の大きいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法の極めて優れた実施形態は、窒素ガスでもってPCB含有油を噴霧ノズルに供給すると共に同時に同窒素ガスを別途前記噴霧ノズルに供給することにより、前記噴霧ノズルから前記PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化して噴出させ、その噴出したPCB含有油を、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアが間隔を保って並設されてその向かい合う無声放電バリアの間に無声放電空間が形成され且つ前記各無声放電バリアの放電用電極板が順次交互に選択されて成る二つの電極グループ間に高電圧が印加されて無声放電が生成される無声放電系の前記無声放電空間内を流通させることにより、前記PCB含有油中のPCBを無害物質に転換し、更に、前記無声放電空間内を流通して無害化処理された処理済油を回収して再度霧化または液滴化または蒸気化し、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、再度前記無声放電作動中の無声放電空間内を流通させて、前記処理済油中になお残存するPCBを無害物質に転換するPCB含有油の無害化処理方法である。
【0014】
この発明に係るPCB含有油の無害化処理装置の極めて優れた実施形態は、無害化処理を要するPCB含有油を貯留する圧力容器と、前記PCB含有油を供給し霧化または液滴化または蒸気化するための窒素ガスを封入した窒素ガスボンベと、前記PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する噴霧ノズル、並びにその霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流入し流通する無声放電系を内蔵したリアクタと、前記無声放電系に無声放電エネルギーを供給する電源と、前記リアクタで無害化処理された処理済油を回収する回収容器と、前記回収容器で回収した処理済油をPCB含有油を貯留する圧力容器に戻す手段とを備え、前記無声放電系は、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアがスペーサを介して間隔を保って並設されてその向かい合う無声放電バリアの間に前記霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流通する無声放電空間が形成され且つ前記各無声放電バリアの放電用電極板が順次交互に選択されて二つの電極グループに形成されその一方の電極グループを接地電極とし他方の電極グループを前記電源の出力端子に接続する電極としたものとし、前記圧力容器と前記窒素ガスボンベの間を液体側減圧弁を介して配管で連通させると共に、前記圧力容器のPCB含有油中と前記リアクタの前記噴霧ノズルの間を液体流量調節バルブを介して配管で連通させ、更に前記窒素ガスボンベと前記噴霧ノズルの間を気体側減圧弁を介して連通させたPCB含有油の無害化処理装置である。
【実施例】
【0015】
以下、この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法ならびにPCB含有油の無害化処理装置の実施例を、図面を参考に説明する。図1はこの発明に係るPCB含有油の無害化処理装置の構成図、図2は同無害化処理装置の無声放電系の斜視図、図3は図2におけるS−S’線で切断した同無声放電系の断面図である。また図4は、この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法の実施結果であるところの、放電処理回数に対するPCBの残存濃度変化図である。
【0016】
この発明の一実施例として示すPCB含有油の無害化処理装置は、図1に示すように、装置の心臓部となる無害化処理反応部A1と、その無害化処理反応部A1にPCB含有油を供給するPCB含有油供給部A2と、無害化処理反応部A1に無声放電エネルギーを供給する高電圧電源部A3と、無害化処理反応部A1で無害化処理された油を回収する処理済油回収部A4とで構成されている。
【0017】
無害化処理反応部A1は容器状のリアクタ1から成り、リアクタ1内には、供給されるPCB含有油を霧化あるいは液滴化あるいは蒸気化してリアクタ1内に噴出させる噴霧ノズル2と、無声放電(誘電バリア放電)を発生させる無声放電系3が配設されている。なお、4はリアクタ1内で無害化処理された処理済油を受ける下部ロート、5は下部ロート4で受けた処理済油を処理済油回収部A4へ導く導出管である。無声放電系3の構造は、図2,3に示すように、片面に厚さ0,1mmのステンレス薄板の放電用電極板31を貼り付けた長さ200mm×幅100mm×厚さ3mmの8枚のガラス板(例えば、商品名:テンパックス)32を、ギャップ長2mmの無声放電空間33を保って、並行状態に配して一体化したものである。ガラス板32は無声放電系3の無声放電バリアとなるもので、互に対向するガラス板32の間にギャップ長2mmの無声放電空間33を形成するために、ガラス板32の向かい合う長辺に沿う厚さ2mmのガラスエポキシ製のスペーサ34を、互に対向するガラス板32の間に介在させて7室の無声放電空間33が形成されている。また、ガラス板(無声放電バリア)32と共に並行状態に配設されている放電用電極板31を順次交互に選択して二つの電極グループ31a,31bを形成し、その一方の電極グループ31aに属する放電用電極板31を接地電極とし、他方の電極グループ31bに属する放電用電極板31を、高電圧電源トランス16の高電圧出力端子16aに接続するものとする。そして、電極グループ31aに属する放電用電極板31と、他方の電極グループ31bに属する放電用電極板31の間に、高電圧電源部A3の高電圧電源トランスから商用周波交流10kVの高電圧が印加されることにより、無声放電系3の無声放電空間33に常温常圧下で無声放電(誘電体バリア放電)が生じ持続されるものである。
【0018】
PCB含有油供給部A2は、無害化処理を要するPCB含有油6を蓄えたステンレス製の圧力容器7と、安価な不活性ガスである窒素ガスを封入した窒素ガスボンベ8を備えて成る。窒素ガスボンベ8とリアクタ1の噴霧ノズル2の間は、気体側減圧弁9を介して配管10を通じて連通するものであり、窒素ガスボンベ8と圧力容器7の間は、液体側減圧弁11を介して配管12を通じて連通するものであり、更に圧力容器7内のPCB含有油6とリアクタ1の噴霧ノズル2の間は、圧力調整弁13および液体流量調節バルブ14を介して配管15を通じて連通するものである。なお、配管10,12,15は化学的に安定なテフロン(登録商標)管が用いられている。窒素ガスボンベ8に貯留された高圧窒素ガスは、圧力容器7内のPCB含有油6をリアクタ1の噴霧ノズル2へ圧送して供給し噴霧ノズル2で霧化あるいは液滴化あるいは蒸気化してリアクタ1内の無声放電系3に向けて噴霧する働きをする。すなわち、窒素ガスボンベ8から供給される窒素ガスは、気体側減圧弁9と配管10を経て、リアクタ1の上部に取り付けられた噴霧ノズル2へ送られると同時に、液体側減圧弁11を経て、PCB含有油6を充填した圧力容器7にも送られる。そして圧力容器7において窒素ガスによって加圧されたPCB含有油6は、液体流量調整バルブ14、配管15を経て噴霧ノズル2へ送られる。配管10を流れる気体(窒素ガス)と、配管15を流れる液体(PCB含有油6)の圧力や流量比率は、気体側減圧弁9、液体側減圧弁11、圧力調整弁13、液体流量調節バルブ14などによって予め調整設定されており、PCB含有油6は、噴霧ノズル2で窒素ガスと混合された後にリアクタ1内に設置されている無声放電系3の無声放電空間33に向けて噴霧される。そして、噴霧ノズル2から噴霧されたPCB含有油6が、無声放電が持続している無声放電系3の無声放電空間33に、図2の矢印Mに示すように、流入し流通して無声放電空間33を通過する過程で、油中のPCB成分の塩素が取り除かれて無害化処理されるものである。
【0019】
高電圧電源部A3は高電圧電源トランス16を備え、高電圧電源トランス16の高電圧側出力端子16aは、無声放電系3のガラス板(無声放電バリア)32上に配設された電極グループ31bに属する放電用電極31に接続される。そして、電極グループ31aに属する放電用電極板31と、他方の電極グループ31bに属する放電用電極板31の間に商用周波交流10kVの高電圧が印加される。なお、17は高電圧電源トランス16に付設した電圧計、18は高電圧電源トランス16に付設した電流計である。
【0020】
処理済油回収部A4は、回収容器20、ミストトラップ21、へキサントラップ22、活性炭トラップ23が順に縦列接続されて成り、リアクタ1で無害化処理された処理済油は、前記下部ロート4で受けられ凝縮液化して回収容器20に導かれ蓄積される。また、回収容器20から排出した油ミスト分を含む窒素ガスは、ミストトラップ21、へキサントラップ22、活性炭トラップ23を経て油ミストが除去され浄化された後、大気中に放出される。そしてまた、回収容器20で回収した処理済油をPCB含有油供給部A2の圧力容器7へ戻して、上述の無害化処理工程サイクルを繰り返し実行することにより、PCB含有油の無害化処理の実効を高めることができる。
【0021】
なお、上記実施例の外、リアクタ、無声放電系を構成するガラスや電極のサイズ、供給ガス流量、ガス圧力等の条件を種々変えても問題なくPCB含有油の無害化処理が可能であった。更に上記実施例では、PCB含有油6をリアクタ1に供給してリアクタ1内に噴霧させるために窒素ガスを用いたが、窒素ガスに替えてアルゴンガスや、アルゴン・窒素混合ガスを用いても同様の結果が得られた。また、上記実施例では、無声放電空間33を形成する誘電体バリアとしてガラス板を採用したが、そのガラス板を絶縁性セラミック板に置き換えてもほぼ同様の結果を得た。したがって誘電体の無声放電バリアは、緻密質で電気絶縁性の高い材料であれば良いと考えられる。また、無声放電空間33に印加する高電圧がパルス波電圧であっても、全く問題なくPCB含有油の無害化処理が可能であった。
【0022】
また、図1に示した本発明に係るPCB含有油の無害化処理装置を用い、次の表1に示す処理条件下で、リアクタ1に供給されるPCB含有油と窒素ガスとの流量比を調整して噴霧ノズルのパターンと無声放電空間の入口形状を一致させるようにし且つPCB含有油を視認できない程に微細な油ミストもしくは液滴として無声放電処理を行い、その放電処理工程は1段とし、処理済油回収部A4で回収された処理済油を再び圧力容器7へ戻して再処理し、その再処理手順を6回繰り返し、無害化処理前の初期のPCB含有油の状態を放電処理回数0回目の状態とし、放電処理回数1回目、3回目および6回目の放電処理終了後に、処理済油回収部A4で回収された処理済油における残存PCB濃度を測定したところ、放電処理回数に対する残存PCB濃度変化は図4に示す通りであった。即ち図4は、放電処理回数に対するPCB残存濃度の変化を示すもので、初期のPCB残存濃度26ppm に対して、6回目の放電処理後のPCB残存濃度は略半減した効果が示されている。なお上記実施例では、放電処理工程は1段で繰り返し処理を6回処理としたものであるが、放電処理工程を多段処理とし繰り返し処理回数を更に増やすことは更に効果的であった。
【0023】
表1

【0024】
PCBは、塩素の置換数と位置によって多くの異性体が存在し、その毒性も大きく異なるので、脱塩素化処理を効率良く行って無害化することが重要である。この発明は、PCBを含有する油を霧化または液滴化あるいは蒸気化して噴霧し、その噴霧されたPCB含有油から、無声放電エネルギーによって塩素の結合を解いて、PCB含有油を無害化するもので、無声放電時の電流は、ガラス板などの誘電体バリアの存在によって非常に小さいことから、装置の運転コストは安く、長時間運転の信頼性も高い。また、無声放電系に印加する電圧は10kV程度で良いため、通常のネオントランスでも十分に用をなすことから、装置価格の面でも極めて経済的である。更にまた、無害化処理反応は常温常圧下で可能であり、特殊の触媒・薬剤も必要としないことから、無害化方法・装置の取り扱いは極めて容易で、無害化処理に伴う残渣の発生もない。したがって、この発明の実用上の効果は極めて大である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
現在継続保管されているPCB含有油の無害化処理は産業上の大きな且つ火急の課題であるが、この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法、ならびにその無害化処理装置は、産業上の負の遺産を取り除く上で大いに活用できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係るPCB含有油の無害化処理装置の構成図。
【図2】同無害化処理装置の無声放電系の斜視図。
【図3】図2のS−S’線で切断した同無声放電系の断面図。
【図4】この発明に係るPCB含有油の無害化処理方法における放電処理回数に対するPCB残存濃度変化図。
【符号の説明】
【0027】
A1 : 無害化処理反応部
A2 : PCB含有油供給部
A3 : 高電圧電源部(電源部)
A4 : 処理済油回収部
1 : リアクタ
2 : 噴霧ノズル
3 : 無声放電系
4 : 下部ロード
5 : 導出管
6 : PCB含有油
7 : 圧力容器
8 : 窒素ガスボンベ
9 : 気体側減圧弁
10,12,15: 配管
11: 液体側減圧弁
13: 圧力調整弁
14: 液体流量調節バルブ
16: 高電圧電源トランス(電源)
16a:高電圧出力端子(電源出力端子)
17: 電圧計
18: 電流計
20: 回収容器
21: ミストトラップ
22: ヘキサントラップ
23: 活性炭トラップ
31: 放電用電極板
31a,31b:電極グループ
32: ガラス板(誘電体の無声放電バリア)
33: 無声放電空間
34: スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化し、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、無声放電作動中の無声放電空間内を流通させることにより、前記PCB含有油中のPCBを無害物質に転換することを特徴とするPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項2】
不活性ガスをもってPCB含有油を噴霧ノズルに供給すると共に同不活性ガスを別途前記噴霧ノズルに供給することにより、その噴霧ノズルから前記PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化して噴出させ、その噴出したPCB含有油を、片面に放電用電極板が装着され互に対向して並設された誘電体の無声放電バリアの間に形成された無声放電空間内を流通させることにより、前記PCB含有油中のPCBを無害物質に転換することを特徴とするPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項3】
無声放電空間内を流通して無害化処理された後、なおPCBが残存するPCB含有油を回収し、その回収したPCB含有油を再度、霧化または液滴化または蒸気化し、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油を、無声放電作動中の無声放電空間内を流通させることにより、前記PCB含有油中のPCBを無害物質に転換することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のPCB含有油の無害化処理方法。
【請求項4】
PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する手段と、その霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流通する無声放電系と、その無声放電系に無声放電エネルギーを供給する電源部を備えたことを特徴とするPCB含有油の無害化処理装置。
【請求項5】
PCB含有油と不活性ガスが供給されて前記PCB含有油を霧化または液滴化または蒸気化する噴霧ノズルと、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアを間隔を保って並設させ互に向かい合う前記無声放電バリアの間に無声放電空間が形成されその無声放電空間内に前記霧化または液滴化または蒸気化されたPCB含有油が流通する無声放電系を有するリアクタと、その無声放電系に無声放電エネルギーを供給する電源を備えたことを特徴とするPCB含有油の無害化処理装置。
【請求項6】
リアクタに収まる無声放電系は、片面に放電用電極板が装着された複数枚の誘電体の無声放電バリアがスペーサを介して間隔を保って並設され、その互に向かい合う前記無声放電バリアの間に無声放電空間が形成され、前記無声放電バリアと共に並設状態にある前記放電用電極板が順次交互に選択されて二つの電極グループに形成され、その一方の電極グループを接地電極とし、他方の電極グループを電源出力端子に接続する電極としたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のPCB含有油の無害化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−129900(P2006−129900A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318865(P2004−318865)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】