説明

QKDシステムにおける検出器のオート・キャリブレーション

【課題】QKDシステムの最適なシステム性能を維持するためにQKDシステムにおける1又はそれ以上の検出器に関連するオート・キャリブレーションを実行する方法を提供する。
【解決手段】量子鍵配送(QKD)システム(200)において、光子検出器のオート・キャリブレーションを実行する方法(300)が開示されている。この方法(300)は、第1アクト(302)を含んでおり、そこでは、QKDシステム(200)において単一光子検出器(216)からの光子カウントの最大数(NMAX)に対応する検出器ゲート・パルス(S3)の最適な到着時間を確立するため、検出器ゲート・スキャンを実行する。一旦最適な検出器ゲート・パルス到着時間が決定されると、次にアクト(306)において検出器ゲート・スキャンが終了され、アクト(308)において検出器ゲート・ディザ・プロセスが開始される。検出器ゲート・ディザ・アクト(308)は、検出器ゲート・スキャン・プロセス期間中に確立された到着時間の最適値周りの検出器ゲート・パルス(S3)の到着時間(T)を変更する。検出器ゲート・ディザは、検出器(216)が光子カウントの最大数(NMAX)を確実に産出するように、到着時間に対してわずかな調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子暗号に関し、特に、最適なシステム性能を維持できる、量子鍵配送(QKD)システムにおける光子検出器のオート・キャリブレーション装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子鍵配送は、「量子チャネル」越しに送信された弱い光信号(例えば、平均で0.1フォトン)を用いて、送信者(「アリス」)と受信者(「ボブ」)との間で、鍵を設定することに関係する。鍵配送の安全性は、不確定状態にある量子系はどれでも測定するとその状態を変えるという、量子力学の原則に基づいている。結果として、量子信号を妨害あるいは測定しようとする盗聴者(「イブ」)は、送信信号にエラーを引き起こしてしまうため、その存在が明らかになる。
【0003】
量子暗号の一般的な原則は、ベネットとブラッザールの論文(非特許文献1参照)の中で、初めて発表された。具体的なQKDシステムは、ベネットの特許文献1(以下、‘410特許と称す)に記載されている。
ベネット‐ブラッザールの論文と‘410特許は、それぞれいわゆる「一方向」型QKDシステムについて述べている。一方向型QKDシステムとは、アリスが単一光子の偏光又は位相をランダムに暗号化して、ボブがそれら光子の偏光又は位相をランダムに測定するものである。ベネットの1992年の論文に述べられている一方向型システムは、二光束マッハ・ツェンダー干渉計に基づいている。アリスとボブは、干渉計の位相を制御できるように、干渉計の各部にアクセスすることが可能である。アリスからボブに送信された信号(パルス)は、時分割され、異なった経路をたどる。従って、干渉計は、熱ドリフトを補正するために、伝送中は数十ナノ秒の精度で動的に安定化している必要がある。
【0004】
本明細書で参照することにより本明細書に組み込まれる、ギシンの特許文献2(以下、‘234特許と称す)では、偏光や熱ゆらぎを自動補正する、いわゆる「双方向」型QKDシステムについて開示されている。このように、‘234特許の双方向QKDシステムは一方向型システムに比べて環境の影響を受けにくい。
【特許文献1】米国特許第5,307,410号公報
【特許文献2】米国特許第6,438,234号公報
【非特許文献1】Quantum Cryptography:Public key distribution and coin tossing, Proceedings of the International Conference on Computers、Systems and Signal Processing,Bangalore,India,1984,pp.175−179(IEEE、New York、1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
商業用QKDシステムを作動しているとき、マルチプル変数は時間的に整列される必要があり、さらに最適なシステム性能のために整列を維持される。例えば、商業用QKDシステムでは、1又はそれ以上の単一光子検出器が、ゲート・パルス時間でゲートされている。しかし、一旦システムがセットアップされると、タイミングは様々なシステム上や環境による要素によってドリフトして、さらに光子カウントが低下する。これによって、システムの転送レートが低下して、さらにビットエラー・レートも増加する。つまり、最適なシステム性能以下になる。
【0006】
実験用及びプロトタイプのQKDシステムは、極端に制御されしかも人工的な条件の下でシステムドリフトを考慮するように調整できる一方で、同じ分野の商業用QKDシステムについて必要な調整を行うにはかなり大変な努力が必要である。そして、実験的な又はプロトタイプのQKDシステムとは異なり、商業用QKDシステムのエンドユーザは、そのQKDシステムが最適な状態でオペレータの介入が最小限又はゼロの状態で自動的に働くことを期待している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一見地は、量子鍵配送(QKD)システムにおいて弱い光子パルスを検出するための単一光子検出器のオート・キャリブレーション方法である。この方法は、単一光子検出器からの光子カウントの最大数NMAXに対応する最適な到着時間TMAXを決定するために、検出器ゲート・パルスを単一光子検出器に送り、さらに、第1選択領域R1にわたって検出器のゲート・パルス到着時間Tを変化させることで検出器ゲート・スキャンを実行することを備えている。この方法は、さらに、光子カウントを最大値に維持するために、TMAXを囲む第2選択範囲R2にわたって到着時間Tを変更することで検出器ゲート・ディザリングを実行することを備えている。
【0008】
本発明の第二見地は、コントローラに動作可能に連結された単一光子検出器を有する量子鍵配送(QKD)システムにおいて鍵を交換する方法である。この方法は、QKDシステム内の暗号化ステーション同士間で弱い光子パルスを送り合うこと、第1検出器ゲート・スキャンを実行することを備える。第1検出器スキャンは、検出器からの光子カウントの第1最大数NMAXに対応する第1最適な到着時間TMAXを確立するために、検出器ゲート・パルス到着時間Tの範囲にわたって検出器ゲート・パルスをコントローラから検出器に送ることで実行される。この方法は、さらに、第1TMAXが確立されたときに第1検出器ゲート・スキャンを終了すること、第1検出器ゲート・ディザを実行することを備えている。第1検出器ゲート・ディザは、範囲R2にわたって光子カウントの最大数NMAX又は光子カウントの異なる最大数N’MAXを維持するため、第1TMAXの周りの到着時間の範囲R2にわたって到着時間Tがコントローラによって変更されることで実行される。
【0009】
本発明の第三見地は本発明の第二見地の方法に続くものであって、検出器ゲート・ディザを実行すると、新しい最適な到着時間T’MAXとなる。本発明の第三見地の方法は、検出器ゲート・ディザの実行を終了させること、第2検出器ゲート・スキャンを実行すること、第2検出器ゲート・スキャンを終了させること、そして第2検出器ゲート・ディザを実行することを備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、QKDシステムの最適なシステム性能を維持するためにQKDシステムにおける1又はそれ以上の検出器に関連するオート・キャリブレーションを実行する方法に関連して、産業上の利用性を有している。本発明は、最適な検出器ゲート・パルスの位置(タイミング)を決定するためのゲート・パルス・スキャニングを実行することを含んでおり、さらに、QKDシステムの作動中に最適な検出器ゲート・パルスのサイズ(すなわち、幅)及び位置を維持するために検出器ゲート・パルスのタイミングのディザリングを実行することを含んでいる。この結果、QKDシステムにおいて最適な光パルス検出が得られ、それは、たとえ環境条件がシステム性能に影響を与えるように変化した場合でも、QKDシステム全体の最適な動作におおむね一致している。
【0011】
本発明は、偏光符号化又は位相符号化を用いた、一方向、双方向及びリング型トポロジ又はn方向QKDシステムに対して産業上の利用性を有しており、1又はそれ以上の単一光子検出器を用いている。本発明は、位相符号化及び単一検出器を用いた双方向QKDシステムの一実施例に関連付けて説明される。このようなQKDシステムの選択は、本発明の方法を例示するためだけのものであり、本発明を制限するものではない。
【0012】
さらに、下記の説明では、「ゲート・パルス」は、パルスが送られた構成を駆動させるものであり、構成の起動はパルスの継続時間(幅W)に対応している。このように、検出器ゲート・パルスは、検出器ゲート・パルスの継続時間(すなわち、幅)を検出する検出器を駆動する。そして、駆動はパルスの前端で開始され、パルスの後端で終了する。
[QKDシステムの実施例]
図1は、折り返し型QKDシステム200の一実施例の概念図であり、本発明の方法が最も良く適合する。システム200は、2つの鍵暗号化ステーション、すなわち、送信/受信ステーションであるボブと、反射ステーションであるアリスとを有する。以下、単にボブ、アリスと称する。
[ボブ]
図1への参照を続けると、ボブは、光パルス204を発光するレーザ202を有する。レーザ202は、入力端208A、入力/出力端208B、及び検出器出力端208Cを有する時間多重化/逆多重化光学システム206に連結されている。光学システム206は、入力端208Aで入力パルス204を受信し、各パルスを時間多重化された2つのパルスP1,P2に分割し、それらのパルスを入力/出力端208Bで出力する。同様に、光学システム206は、下記に示すように、光パルスを入力/出力端208Bでも受信する。
【0013】
単一光子検出器216は、検出器出力端208Cで光学システム206に連結されている。位相変調器(PM)220は、光学システムの入力/出力端208Bに(例えば、光ファイバによって)連結されている。光ファイバ240はボブをアリスにPM220で連結している。
ボブは、さらに、コントローラ248を有している。コントローラ248は、レーザ202と、検出器216と、PM220とに、これらの操作を制御するために下記に述べるように動作可能に(例えば、電気的に)連結されている。一実施例において、コントローラ248は、コンピュータによる読み取り可能な媒体250に記憶された指示(例えば、「ソフトウェア」)を実行可能なプログラマブル・コンピュータを有している。一実施例では、コンピュータによる読み取り可能な媒体250に記憶された指示は、下記に述べるように本発明に係る方法を含んでいる。
[アリス]
アリスは、光ファイバ240に連結された可変光学的アッテネータ(VOA)264を有している。位相変調器(PM)266は、VOA264の下流に配置され、VOA264に光学的に連結されている。ファラデーミラー270はPM266の下流に配置され、PM266に光学的に連結されている。
【0014】
また、アリスは、コントローラ288も有している。コントローラ288は、PM266と、VOA264とに、動作可能に(例えば、電気的に)連結されている。一実施例では、コントローラ288はコンピュータによる読み取り可能な媒体289に記憶された指示(例えば、「ソフトウェア」)を実行可能なプログラマブル・コンピュータを有している。一実施例では、コンピュータによる読み取り可能な媒体289に記憶された指示は、本発明に係る方法を含んでいる。
【0015】
コントローラ248、288は、アリスとボブの動作を同期させるため、リンク290を介して(例えば、電気的あるいは光学的に)互いに接続されている。特に、位相変調器220、266及び検出器216の動作は、発射された光パルス204に対して、ゲート信号S2,S3及びS1をそれぞれ用いながら、アリスとボブ間とで量子鍵が交換された時に、コントローラ248、288によって制御・整合される。このようにして、一実施例では、コントローラ248、288は、QKDシステムの単一コントローラを構成していると考えることができる。
[QKDシステム動作]
図1への参照をさらに続けると、システム200の動作において、時間多重化/逆多重化光学システム206によって、パルス204は2つの別個のパルスP1とP2に分離される。本実施例においては、パルスP1とP2は、比較的弱いパルスである。パルスは、PM220に向かって光学システムの入力/出力端208Bを出て行く。PM220は、パルスが変調されずに通過可能なようにゲートされている。パルスP1とP2は、次に光ファイバ240越しにアリスへ送られる。パルスP1とP2は、続いてVOA264を通過していき、そこでは、必要であれば、パルスを減衰可能である。次に、パルスは、PM266を通過し、ファラデーミラー270で反射され、再度PM266に送り返される。
【0016】
PM266を介したパルスP1とP2の一方の通過に際して、PMはパルスの1つ(例えば、P1)を変調して、位相変調パルスP1'を形成する。これは、コントローラ288によって行われ、コントローラ288では、パルスP1がPM266を通過する際に、PM266を短時間で駆動させる間合いの取れたゲート信号S1(すなわち、パルス間のタイムセパレーションよりも小さい)を送信する。次に、パルスP1とP2は、VOA264を通って送り返され、そこでは、必要であれば、パルスを減衰してもよい。次にパルスはボブに戻され、その中のPM220に戻される。PM220は、選択的位相変調値の1つを用いてランダムに残りの非変調パルス(この場合、パルスP2)を変調する。これは、コントローラ248がPM220に間合いの取れたゲート信号S2を提供することにより行うことができる。ゲート信号S2は、パルスP2がPM220を通過する短い時間の間に位相変調器を駆動させるものである。
【0017】
変調されたパルスP1'及びP2'(後者は図1に示されていない)は、光学システム206に進む。光学システム206は、パルスを結合し、結合パルスP3を検出器出力端208Cから外へ出て検出器216に向かわせる。検出器216は、結合パルスP3を受信し、コントローラ248に信号を出力する。信号は、PM266、206によって、各々パルスP1、P2に伝えられる相対位相に対応している。
【0018】
一旦、所望のパルス数がボブとアリス間で交換されると、既知の技術を用いて鍵を得ることができる。例えば、アリスとボブにより、それらの測定基準を公開で比較し、同じ測定基準に対応する測定(ビット)のみを保持する。これにより、ふるいにかけられた鍵が形成される。その後、アリスとボブは、盗聴者イブの存在を検査するため残りのビットの集合を選択して、その後廃棄する。ボブとアリス間に送信される弱い光パルスを妨害あるいは測定しようする、イブの光ファイバ240上における盗聴行為は、交換される光子の量子性により必然的に鍵にエラーを導入してしまう。ふるいにかけた鍵に、盗聴者イブの存在によるエラーがない場合には、送信は安全だと考えられ、量子鍵が設定される。
[最適なシステム動作を維持する方法]
図2は、QKDシステム200の最適なシステム動作を維持するための本発明の方法を示すフロー図300である。この方法は、下記に述べる方式によって、検出器ゲート・スキャンと検出器ゲート・ディザの両方を行う。
【0019】
302において、鍵交換プロセスはコントローラ248によって開始される。コントローラ248は時分割された光パルスP1、P2がボブからアリスに送られるように、光源202に対して光パルス204を送出するように指示する。このプロセスは、上述したように、コントローラ288がPM266に対してパルスの一つを位相変調するように指示すること、パルスをボブに戻すこと、残りのパルスを変調すること、変調パルスを結合すること、及び結合されたパルスP3を検出することを含んでいる。
【0020】
304では、検出器ゲート・スキャンが実行される。これは、タイミング値の選択範囲R1にわたって検出器ゲート・パルスS3のタイミング(例えば、到着時間T)を変更することで、検出器216によって検出された光子カウントの最大数NMAXを産出する最適なゲート・タイミング(到着時間)TMAXを確立する。検出器ゲート・スキャンの一実施例では、検出器ゲート・パルス幅Wも選択されたパルス幅範囲RW1にわたってオプションとして変更されることで、最適な検出器ゲート・パルス幅WMAXを確立する。
【0021】
図3は、検出器ゲート・スキャンの結果の例示プロットを示すものであり、Y軸は、検出器ゲート間隔(すなわち、ゲート・パルス幅W)中に得られた光子カウントの数Nである。X軸は、単一光子検出器ゲート・パルスS3の相対的タイミング(例えば、到着時間T)を表しており、パルスS3は光子カウントの最大数NMAXを実現するために変更される。本発明の文脈において、光子カウントの最大数NMAXは最適なシステム性能に対応している。なぜなら、それは、暗電流カウントを増加させることなく、最高のデータ転送レート及び最高の光子感度レベルvsタイミングに対応しているからである。同様に、本発明の一実施例では、下記に説明するように、最適な光パルスは、検出器ゲート・ディザリングを可能とするスムーズな単一光子検出器応答を維持しながら、光パルスの比をダーク・イベント・パルスに最適化する。
【0022】
図3の曲線は、タイミング値T(X軸)の選択範囲R1にわたって検出器ゲート・パルスS3の到着時間Tをインクリメントすることによって得られる。一実施例では、到着時間Tは、基準、例えば、コントローラ248によって提供されたクロック基準時間に対して、検出器ゲート・パルスの前端の位置に対応している。
一旦TMAXとNMAXが決定されると、次にプロセスは306に移行し、検出器ゲート・スキャンが停止される(すなわち、オフされる)。
【0023】
308では、検出器ゲート・ディザリングが実行される。これは、ゲート信号S3のタイミング(例えば、到着時間T)及び/又はパルス幅Wを最大到着時間TMAXの周りの選択されたタイミング範囲R2内で少量だけ繰り返し変更することを含む(すなわち、、検出ゲート信号は「ディザ」される)。そして、必要であれば、到着時間Tを元の最適値TMAXから新しい最適値T’MAXにシフトして光子カウントNが最大値NMAX(又は、別の場合には、新しい最大光子カウントN’MAX)に維持されることを含む。なお、選択範囲R2は、R1より狭く、TMAXの周りの比較的小さな範囲を囲むように選択される。さらに、オプションのパルス幅ディザリングに対しては、パルス幅は最適なパルスWMAXの周りの小さな範囲RW2にわたってディザされる。
【0024】
一実施例では、タイミング範囲R2は、セキュリティ・アタッカ(例えば、イヴ)がタイミングをずらして好ましくない配置に持っていくことを妨げるくらい小さく、しかもディザリング・プロセスが成功する、すなわち、光子カウントNを最大値NMAXに保つくらい大きくなるように選択される。
図3を再び参照すると、曲線上の4個のデータ・ポイントd1,d2,d3及びd4は、例示のために強調されている。データ・ポイントd1が最初に計測され、次により大きな到着時間値Tに関連したデータ・ポイントd2が計測されると想定する。d2に関連した光子カウント数がd1に関連した光子カウント数より少ないため、到着時間Tは減らされている。データ・ポイントd1に関連したゲート・パルス位置のための光子カウント数は再測定される。d1において第2データ・ポイントに関連する光子カウント数Nはデータ・ポイントd2に関連する光子カウント数より高いため、到着時間Tはさらに減らされ、光子カウントが測定される。この結果はデータ・ポイントd3であり、それはデータ・ポイントd1に対する光子カウントより多い光子カウントを有している。到着時間Tはこのようにして再び減らされ、データ・ポイントd4に関連した低い光子カウントを産出する。この計測はd3のための計測より少ないため、検出器ゲート・パルスS3の到着時間Tは増やされるが、それほど多くはないのでそれはデータ・ポイントd2に関連した値に戻る。
【0025】
この方法では、ゲート・パルス間隔は、光子カウントの最大(又はほとんど最大)数に集束するまで、往復的に変更される(「ディザ」される)。このようにして、単一光子検出器216の通常動作中は、検出器ゲート・ディザ・プロセスが単一光子感度を高く保つ。一実施例では、検出器ゲート・ディザリングは定期的に(例えば毎秒)実行される。一実施例では、このレートは、受信された単一光子カウントの数に比例している。
【0026】
310では、別の検出器ゲート・スキャンを開始することで検出器ゲート信号S3のオート・キャリブレーションを選択実行することが提示されている。このようなオート・キャリブレーションが望ましい又は必要とみなされた場合には、方法は312に移行する。312では、検出器ゲート・ディザはオフされ、プロセスは304の検出器ゲート・スキャンに戻って、検出器ゲート・タイミング及び/又は検出器ゲート・パルス幅に対してアップデートされたキャリブレーションを行う。それによって新しい最適な到着時間TMAX及び/又は最適なパルス幅WMAXを見つけだす。このアップデートされたキャリブレーションは、様々な理由、例えば、環境における変化の検出や通常のシステムドリフトのために実行が必要とされる。
【0027】
一実施例では、オート・キャリブレーションは、下記の条件のいずれかが生じたときに実行される。すなわち、a)統計上の制限外の光子カウントレベルの変化、b)所定量、例えば0.5℃を越えた周囲温度の変化、c)スイッチング・ネットワーク・エレメントを通過するように光経路が構成を変化させた場合、a)の場合とは異なっており、光子カウントレベルの変化の前にペンディング中のイベントのメッセージが送られる場合、d)周知の1日の間の温度サイクルに起因する日々のスケジュール、及びe)要不要に関係なく例えば毎時といった固定時間ベースの場合、である。
【0028】
検出器ゲート・スキャンを実行するに先立って、検出器ゲート・ディザをオフする必要が生じる。なぜなら、これら2つのプロセスは互いに干渉し得るからである。具体的には、検出器ゲート・スキャンが単一光子検出器ゲート・パルスのタイミング又は幅をスムーズに(すなわち、インクリメンタルに)増加させようとするのに対して、検出器ゲート・ディザは光子カウントの最大数に留まるために小さなインクリメントにわたって往復的に変数を調整しようとする。この結果、これら2つの競合プロセスは偽りの結果を作り出す可能性がある。このようにして、304の検出器ゲート・スキャンの間の検出器ゲート・パルス・パラメータのスキャンとアップデートに続いて、検出器ゲート・ディザが自動的に(又は、別の例として、手動で)オンに戻される。
【0029】
もし、オート・キャリブレーションを実行する要求やその必要がない場合は、方法は、検出器ゲート・ディザ・プロセス308に留まり、それは前述したように例えば毎秒繰り返される。定期的な検出器ゲート・ディザ・プロセスは、光子カウントをNMAXに維持するため、又は別の例として光子カウントを新しい最大値N’MAX,N”MAX等に維持するため、通常はTMAXの値がわずかに変化するだけである。明瞭かつ簡潔にするため、本発明では、「最大光子カウント」は、NMAX、N’MAX、又はN”MAX等を意味する。同様に、「最適な到着時間TMAX」は変化可能であり、そのため本発明では、TMAX,T’MAX、及びT”MAX等を意味する。
【0030】
一実施例では、上述の本発明の方法は、コンピュータによる読み取り可能な媒体250、289の少なくとも一方によって具体化され、QKDシステム200において方法を実施するコントローラ248、288の少なくとも一方によって実行される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、双方向QKDシステムの一例を示す図である。
【図2】図2は、検出器のオート・キャリブレーションを表現するフロー図であり、検出器のオート・キャリブレーションは、検出器ゲート・パルスのスキャニング及びディザリングを用いることによって、図1のQKDシステムの性能を最適にする。
【図3】図3は、図1に示すようなQKDシステムのための単一光子検出器ゲート・スキャンの例示プロットである。そこでは、Y軸は規則的な時間間隔における光子カウント数Nであり、X軸は、検出器ゲート・パルスのタイミング(位置)に関連した単一光子の検出器ゲート・タイミングである。
【0032】
図面に描かれた様々な構成は単に代表的なものであり、必ずしも実寸通りに描かれていない。強調された部分もあれば、縮小された部分もありえる。これら図面は、当業者にとって理解及び適切な実施が可能な本発明の様々な実施形態を例示することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子鍵配送(QKD)システムにおいて弱い光子パルスを検出するための単一光子検出器のオート・キャリブレーション方法であって、
a)前記単一光子検出器からの光子カウントの最大数NMAXに対応する最適な到着時間TMAXを決定するために、検出器ゲート・パルスを前記単一光子検出器に送り、さらに、第1選択範囲R1にわたって前記検出器のゲート・パルスの到着時間Tを変化させることで、検出器ゲート・スキャンを実行すること、
b)前記光子カウントを最大値に維持するために、TMAXを囲む第2選択範囲R2にわたって前記到着時間Tを変更することで検出器ゲート・ディザリングを実行すること、
を備えたオート・キャリブレーション方法。
【請求項2】
前記検出器ゲート・ディザリングを終了させ、他の検出器ゲート・スキャンを実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記QKDシステムはプログラム可能なコントローラ及びコンピュータによる読み取り可能な媒体を有しており、前記コントローラが前記QKDシステムを指揮してアクトa)〜c)を実行可能となるように、前記方法は前記コンピュータによる読み取り可能な媒体で具現化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記検出器ゲート・スキャンは、最適な検出器ゲート・パルス幅WMAXを確立するために、パルス幅RW1の範囲にわたって検出器ゲート・パルス幅Wを変更する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
検出器ゲート・ディザリングは、最適なパルス幅を維持するために、パルス幅RW2<RW1の範囲にわたって前記検出器ゲート・パルス幅Wを変更することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
量子鍵配送(QKD)システムにおいて弱い光子パルスを検出するために配置された単一光子検出器のオート・キャリブレーションを実行する以下の方法を実行するために、前記QKDシステム内のコンピュータに指揮するために内部に具現化された指示を有する、コンピュータによる読み取り可能な媒体であって、前記方法は、
a)前記単一光子検出器からの光子カウントの最大数NMAXに対応する最適な到着時間TMAXを決定するために、検出器ゲート・パルスを前記単一光子検出器に送り、さらに、第1範囲R1にわたって前記検出器ゲート・パルスの到着時間Tを変化させることで、検出器ゲート・スキャンを実行すること、
b)光子カウント数を最大値に維持するために、TMAXを囲む第2選択範囲R2にわたって到着時間Tを変更することで検出器ゲート・ディザリングを実行すること、
である、コンピュータによる読み取り可能な媒体。
【請求項7】
コントローラに動作可能に連結された単一光子検出器を有する量子鍵配送(QKD)システムにおいて鍵を交換する方法であって、
前記QKDシステム内の暗号化ステーション同士間で弱い光子パルスを送り合うこと、
前記検出器からの光子カウントの第1最大数NMAXに対応する第1最適到着時間TMAXを確立するために、検出器ゲート・パルス到着時間Tの範囲にわたって検出器ゲート・パルスを前記コントローラから前記検出器に送ることで、第1検出器ゲート・スキャンを実行すること、
前記第1TMAXが確立されたときに前記第1検出器ゲート・スキャンを終了すること、
前記範囲R2にわたって前記光子カウントの最大数NMAX又は光子カウントの異なる最大数N’MAXのいずれかを維持するために、前記第1TMAXの周りの到着時間の範囲R2にわたって前記到着時間Tを変更することによって、第1検出器ゲート・ディザを実行すること、
を備えた鍵交換方法。
【請求項8】
前記検出器ゲート・ディザを実行すると、新しい最適な到着時間T’MAXとなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記検出器ゲート・ディザの実行を終了させること、
第2検出器ゲート・スキャンすること、
前記第2検出器ゲート・スキャンを終了させること、
第2検出器ゲート・ディザを実行すること、
をさらに含んでいる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
一連の検出器ゲート・ディザが実行されるように、前記第1検出器ゲート・ディザを定期的に終了及び繰り返すことをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
量子鍵配送(QKD)システムにおいて光子を検出するために配置された単一光子検出器のオート・キャリブレーションを実行する以下の方法を実行するために、前記QKDシステム内のコンピュータに指揮するために内部に具現化された指示を有する、コンピュータによる読み取り可能な媒体であって、前記方法は、
前記QKDシステムにおいて暗号化ステーション同士間で弱い光子パルスを送り合うこと、
前記検出器からの光子カウントの第1最大数NMAXに対応する第1最適到着時間TMAXを確立するために、検出器ゲート・パルス到着時間Tの範囲にわたって前記コントローラから前記検出器に検出器ゲート・パルスを送ることで、第1検出器ゲート・スキャンを実行すること、
前記第1TMAXが確立したときに前記第1検出器ゲート・スキャンを終了させること、
前記範囲R2にわたって前記光子カウントの最大数NMAX又は光子カウントの異なる最大数N’MAXのいずれかを維持するために、前記コントローラが前記第1TMAX周りの到着時間範囲R2にわたって前記到着時間Tを変更することによって、第1検出器ゲート・ディザを実行すること、
コンピュータによる読み取り可能な媒体。
【請求項12】
コントローラを有する量子鍵配送(QKD)システムの単一光子検出器のオート・キャリブレーション方法であって、
前記QKDシステムにおいて弱い光子パルスを暗号化ステーション同士間で送り合うこと、
コントローラから前記検出器に送られる検出器ゲート・パルスの最適な到着時間を決定するために、第1検出器ゲート・スキャンを実行すること、
前記第1検出器ゲート・スキャンを終了させること、
前記検出器からの光子カウントの最大数を維持するために、定期的に第1検出器ゲート・ディザを実行すること、
を備えたオート・キャリブレーション方法。
【請求項12】
前記第1検出器ゲート・ディザを終了させること、
及び第2検出器ゲート・スキャンを実行すること、
をさらに備える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
コントローラに連結された単一光子検出器を有する量子鍵配送(QKD)システムにおいて、光子検出器のオート・キャリブレーションを実行する方法であって、
前記QKDシステムの単一光子検出器からの光子カウントの最大数に対応する検出器ゲート・パルスの最適な到着時間を確立するために、検出器ゲート・スキャンを実行すること、
前記検出器ゲート・スキャンを終了させること、
前記到着時間をわずかに調整することで前記検出器が光子カウントの最大数を確実に産出するように、前記到着時間の前記最適値の周りの前記検出器ゲート・パルスの到着時間によって検出器ゲート・ディザ・プロセスを実行すること、
を備えた、オート・キャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−532041(P2007−532041A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539444(P2006−539444)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/002429
【国際公開番号】WO2005/057823
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505188939)マジック テクノロジーズ,インコーポレーテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】MAGIQ TECHNOLOGIES,INC.
【Fターム(参考)】