説明

R−T−B系希土類永久磁石用合金材料、R−T−B系希土類永久磁石の製造方法およびモーター

【課題】高い保磁力(Hcj)が得られるR−T−B系希土類永久磁石用合金材料およびこれを用いた生産性に優れたR−T−B系希土類永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類元素から選ばれる2種以上であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなるR−T−B系合金であって、Dy含有量が10質量%を超え31質量%未満であるR−T−B系合金と、金属粉末とを含むR−T−B系希土類永久磁石用合金材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系希土類永久磁石用合金材料、R−T−B系希土類永久磁石の製造方法およびモーターに係り、特に、優れた磁気特性を有し、モーターに好適に用いられるR−T−B系希土類永久磁石の得られるR−T−B系希土類永久磁石用合金材料およびこれを用いたR−T−B系希土類永久磁石の製造方法およびモーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、R−T−B系希土類永久磁石(以下、「R−T−B系磁石」という場合がある)は、ハードディスクドライブのボイスコイルモーターなどのモーターに使用されている。ローター中にR−T−B系磁石を組み込んだモーターは、高いエネルギー効率を発揮するものである。近年、省エネルギーへの要望が高まっていることや、R−T−B系磁石の耐熱性が向上したことから、家電、エアコン、自動車などの各種モーター等に用いるR−T−B系磁石の使用量が増えてきている。
【0003】
一般に、R−T−B系磁石は、Nd、Fe、Bを主成分とするR−T−B系合金を成形して焼結することによって得られる。R−T−B系合金においてRは、通常、Ndと、Ndの一部をPr、Dy、Tb等の他の希土類元素で置換したものである。Tは、FeとFeの一部をCo、Ni等の他の遷移金属で置換したものである。Bはホウ素であり、一部をCまたはNで置換できる。
R−T−B系磁石は、普通、R14Bで構成される主相と、主相の粒界に存在して主相よりもNd濃度の高いNdリッチ相の2相から構成されている。なお、Ndリッチ相は粒界相とも呼ばれている。
【0004】
ハイブリッド自動車や電気自動車などのモーターに用いられるR−T−B系磁石は、モーター内で高温に曝されるため、高い保磁力(Hcj)が要求される。R−T−B系磁石の保磁力を向上させる技術としては、R−T−B系合金のRをNdからDyあるいはTbに置換する技術がある。
また、R−T−B系合金に含まれるDyの含有量を多くすることなく、R−T−B系磁石の保磁力を向上させる技術としては、R−T−B系合金の焼結体の外部からDyを蒸着し、これを内部の粒界に拡散させる手法(例えば、特許文献1および特許文献2参照)や、R−T−B系合金の焼結体表面にDyのフッ化物などを塗布する方法(例えば、特許文献3参照)、Dy濃度の高い原料を添加してコアシェル型構造を得る方法(例えば、非特許文献1参照)等が検討されている。
【0005】
また、R−T−B系磁石の保磁力の発現機構について、熱処理による効果を調べた結果が報告されている。具体的には、熱処理により粒界に極薄いアモルファス層が形成され、Ndリッチ相とともにCu濃縮相が存在すること(例えば、非特許文献2参照)や、Cuの存在により液相が存在してNd−リッチ相間の濡れ性が向上すること(例えば、非特許文献3参照)などが報告されている。
【0006】
また、R−T−B系磁石を作製する際には、一般に、微細な組織を有する合金をジェットミルなどで4〜6μmに粉砕し、これを磁場中で配向させながら成形、焼結している。また、合金を粉砕する際に粉末を3μm以下まで細かくし、焼結後に得られる磁石粒子の大きさを小さくすることで、保磁力を向上させてDyの使用量を削減する取り組みも行われている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/088718号
【特許文献2】国際公開第2008/032667号
【特許文献3】特許第4450239号公報
【特許文献4】特開2008−2633243号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】杉本、粉体及び粉末冶金、Vol.57、No.6、pp395−400(2010)
【非特許文献2】W.F.Li et.al、Acta Materialia、57、pp1337−1346(2009)
【非特許文献3】松浦ら、電気学会マグネティックス研究会資料、Vol.MAG−09、No.168−189、pp77−81(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、R−T−B系磁石の保磁力が不十分であり、より一層R−T−B系磁石の保磁力を向上させることが望まれていた。
より詳細には、例えば、R−T−B系合金中におけるDy濃度を高くすると、焼結後に保磁力(Hcj)の高いR−T−B系磁石が得られる。しかしながら、R−T−B系合金中のDy含有量が10質量%を超えると、Dyの含有量を増やすことによる保磁力の向上効果が得られにくくなる。したがって、R−T−B系合金中におけるDy含有量を増やすだけで、R−T−B系磁石の保磁力を十分に高くすることは困難であった。
【0010】
また、R−T−B系合金に含まれるDyの含有量を多くすることなく、R−T−B系磁石の保磁力を向上させために、焼結体にDyを蒸着し、これを内部の粒界に拡散させる技術を用いる場合、焼結体表面のDyを粒界に拡散させることにより焼結体表面の平滑度が失われるため、再加工が必要となる。そのため、R−T−B系磁石の製造に手間がかかり、生産性が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い保磁力(Hcj)が得られるR−T−B系希土類永久磁石用合金材料およびこれを用いた生産性に優れたR−T−B系希土類永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
また、上記のR−T−B系希土類永久磁石の製造方法により製造された優れた磁気特性を有するR−T−B系希土類永久磁石を用いたモーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、10質量%を超えてDyを含有するR−T−B系合金と、それを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力とに着目して、検討を重ねた。その結果、R−T−B系合金中のDy濃度を高くすると、焼結後に得られたR−T−B系磁石中の粒界相が凝集し、粒界相の分散が悪化することがわかった。そして、粒界相の分散が悪化すると、主相(R14B相)同士が十分に隔離されなくなり、十分な保磁力が発揮できないことがわかった。
【0013】
そこで、本発明者らは、粒界相の分散を改善するため、さらに検討を重ねた。その結果、焼結前のR−T−B系磁石となる材料を、R−T−B系合金と金属粉末とを含むものとすることにより、焼結後に得られたR−T−B系磁石の粒界相の分散が改善され、保磁力が向上することを見出し、本発明に至った。
この効果は、R−T−B系合金と金属粉末とを含む永久磁石用合金材料を成形し、焼結してR−T−B系磁石を製造した場合、焼結中に、金属粉末に含まれる金属がR−T−B系磁石の粒界相中に入り込み、粒界相中に含まれる金属濃度が高くなることにより、粒界相の濡れ性が改善され、主相粒子間への粒界相の回り込みが容易になり、粒界相がR−T−B系磁石中に均一に分散されることによるものと推定される。
【0014】
すなわち本発明は、下記の各発明を提供するものである。
(1)希土類元素から選ばれる2種以上であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなり、Dy含有量が10質量%を超え31質量%未満であるR−T−B系合金と、金属粉末とを含むことを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【0015】
(2)前記金属粉末が、Fe、Al、Co、Mo、Ta、Zr、Wのうちから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする(1)に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
(3)前記金属粉末が、0.02質量%以上6質量%未満含まれていることを特徴とする(1)または(2)に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
(4)前記R−T−B系合金からなる粉末と前記金属粉末とが、混合されてなる混合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【0016】
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料を成形して焼結することを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石の製造方法。
(6)(5)に記載のR−T−B系希土類永久磁石の製造方法により製造されたR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とするモーター。
【発明の効果】
【0017】
本発明のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料は、Dy含有量が10質量%を超え31質量%未満であるR−T−B系合金と、金属粉末とを含むものであるので、これを成形して焼結することにより、十分に高い保磁力(Hcj)を有し、モーターに好適に用いられる優れた磁気特性を有するR−T−B系希土類永久磁石を容易に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実験例3のR−T−B系希土類永久磁石の断面の反射電子像である。
【図2】図2は、実験例4のR−T−B系希土類永久磁石の断面の反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
「R−T−B系希土類永久磁石用合金材料」
本実施形態のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料(以下、「永久磁石用合金材料」と略記する)は、R−T−B系合金と、金属粉末とを含むものである。永久磁石用合金材料に含まれるR−T−B系合金は、希土類元素から選ばれる2種以上であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、B(ホウ素)および不可避不純物からなるものである。また、本実施形態において、R−T−B系合金を構成するRには、Dyが含有されている。R−T−B系合金中に含まれるDyの含有量は、10質量%を超え31質量%未満とされている。
【0020】
R−T−B系合金の組成は、特に限定されないが、優れた磁気特性を有するR−T−B系磁石が得られるものとするために、Rが27〜35質量%、好ましくは30〜32質量%、Bが0.85〜1.3質量%、好ましくは0.87〜0.98質量%、Tが残部と不可避の不純物からなるものであることが好ましい。
R−T−B系合金に含まれるRが27質量%未満であると、これを用いて得られたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる場合があり、Rが35質量%を超えるとR−T−B系磁石の磁化(Br)が不十分となるおそれがある。
また、R−T−B系合金に含まれるBが0.85質量%未満であると、これを用いて得られたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる場合があり、Bが1.3質量%を超えるとR−T−B系磁石の磁化が著しく低下するおそれがある。
【0021】
R−T−B系合金のRに含まれるDy以外の希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられ、中でも特に、Nd、Pr、Tbが好ましく用いられる。また、R−T−B系合金のRは、Ndを主成分とすることが好ましい。
【0022】
R−T−B系合金中に含まれるDyの含有量は、10質量%を超え31質量%未満とされており、10質量%超〜25質量%含まれていることが好ましく、10質量%超〜21質量%含まれていることがより好ましい。R−T−B系合金中に含まれるDyが31質量%以上であると、金属粉末を含む永久磁石用合金材料であっても、Dyの含有量を増やすことによるR−T−B系磁石の保磁力の向上効果が得られなくなるとともに、磁化(Br)の低下が顕著となる。また、R−T−B系合金中にDyが10質量%を超えて含有されていると、非常に保磁力の高いR−T−B系磁石となる。
【0023】
R−T−B系合金に含まれるTは、Feを必須とする遷移金属である。R−T−B系合金のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、Co、Niなどが挙げられる。R−T−B系合金のTがFe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。
また、R−T−B系合金に含まれるBは、ホウ素であるが、一部をCまたはNで置換できる。
【0024】
R−T−B系合金には、R−T−B系磁石の保磁力を向上させるために、Al、Cu、Gaから選ばれるいずれか1種または2種以上が含まれていることが好ましい。
GaはR−T−B系合金中に0.03質量%〜0.3質量%含まれていることがより好ましい。R−T−B系合金中にGaが0.03質量%以上含まれている場合、R−T−B系磁石の保磁力を効果的に向上させることができ、好ましい。しかし、R−T−B系合金中のGaの含有量が0.3質量%を超えるとR−T−B系磁石の磁化が低下するため好ましくない。
【0025】
また、永久磁石用合金材料中の酸素濃度は、低いほど好ましいが、永久磁石用合金材料中に酸素が0.03質量%〜0.5質量%含まれていても、十分な磁気特性を達成できる。永久磁石用合金材料中に含まれる酸素含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。永久磁石用合金材料中に含まれる酸素含有量は、0.05質量%〜0.2質量%であることが好ましい。
【0026】
また、永久磁石用合金材料中の炭素濃度は、低いほど好ましいが、永久磁石用合金材料中に炭素が0.003質量%〜0.5質量%含まれていても、十分な磁気特性を達成できる。永久磁石用合金材料中に含まれる炭素含有量が0.5質量%を超える場合、磁気特性が著しく低下するおそれがある。永久磁石用合金材料中に含まれる炭素含有量は、0.005質量%〜0.2質量%であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の永久磁石用合金材料に含まれるR−T−B系合金は、希土類濃度やB濃度など成分の異なる複数の合金を混合したものであってもよいし、R−T−B系の合金とR−T系の合金とを混合して最終的にR−T−B系の合金としたものであってもよいし、1種類のR−T−B系合金であってもよい。
【0028】
また、本実施形態の永久磁石用合金材料は、R−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とが混合されてなる混合物であることが好ましい。
R−T−B系合金からなる粉末は、例えば、SC(ストリップキャスト)法により合金溶湯を鋳造して鋳造合金薄片を製造し、得られた鋳造合金薄片を、例えば、水素解砕法などにより解砕し、粉砕機により粉砕する方法などによって得られる。
なお、本実施形態においては、SC法を用いてR−T−B系合金を製造する場合について説明したが、本発明において用いられるR−T−B系合金は、SC法を用いて製造されるものに限定されるものではない。例えば、R−T−B系合金を、遠心鋳造法、ブックモールド法などを用いて鋳造してもよい。
【0029】
水素解砕法としては、室温で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させ、300℃程度の温度で熱処理した後、減圧して水素を脱気し、その後、500℃程度の温度で熱処理して鋳造合金薄片中の水素を除去する方法などが挙げられる。水素解砕法において水素の吸蔵された鋳造合金薄片は、体積が膨張するので、合金内部に容易に多数のひび割れ(クラック)が発生し、解砕される。
【0030】
また、水素解砕された鋳造合金薄片を粉砕する方法としては、ジェットミルなどの粉砕機により、水素解砕された鋳造合金薄片を例えば0.6MPaの高圧窒素を用いて平均粒度3〜4.5μmに微粉砕して粉末とする方法などが挙げられる。
なお、R−T−B系合金の粉砕は、R−T−B系合金が成分の異なる複数の合金を混合したものである場合、混合される各合金をそれぞれ粉砕してから混合しても良いし、複数の合金のうち一部または全てを混合してから粉砕しても良い。
【0031】
また、永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末としては、Al、Co、Fe、Mo、Ni、Si、Ta、Ti、W、Zrなどを用いることができ、Fe、Al、Co、Mo、Ta、Zr、Wのうちから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0032】
金属粉末は、永久磁石用合金材料中に0.02質量%〜6質量%未満含まれていることが好ましく、0.02質量%〜2質量%含まれていることがより好ましい。永久磁石用合金材料中の金属粉末の含有量が0.02質量%未満であると、保磁力(Hcj)を向上させる効果が十分に得られない恐れがある。また、金属粉末の含有量が6質量%以上であると、磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性の低下が顕著となるため好ましくない。
【0033】
また、永久磁石用合金材料に含まれる金属粉末の平均粒度(d50)は、0.01〜50μmの範囲であることが好ましい。なお、永久磁石用合金材料中の金属粉末は、微細で均一に分布していてもよいが、微細で均一に分布していなくてもよく、例えば、粒度1μm以上であってもよいし、5μm以上に凝集していてもよい。
【0034】
本実施形態の永久磁石用合金材料は、上述したR−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とを混合する方法により製造できる。
なお、永久磁石用合金材料を構成するR−T−B系合金と金属粉末とは、上述したように、鋳造合金薄片を粉砕してR−T−B系合金からなる粉末としてから混合してもよいが、例えば、鋳造合金薄片を粉砕する前に、鋳造合金薄片と金属粉末とを混合して永久磁石用合金材料とし、その後、鋳造合金薄片の含まれる永久磁石用合金材料を粉砕してもよい。この場合、鋳造合金薄片と金属粉末とからなる永久磁石用合金材料を、鋳造合金薄片の粉砕方法と同様にして粉砕して粉末とすることが好ましい。
【0035】
次に、このようにして得られた永久磁石用合金材料を用いてR−T−B系希土類永久磁石を製造する方法を説明する。
「R−T−B系希土類永久磁石の製造方法」
本実施形態のR−T−B系磁石を製造する方法としては、例えば、上述した永久磁石用合金材料に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成型機などを用いてプレス成形して、真空中で1030℃〜1200℃で焼結し、その後400℃〜800℃で熱処理する方法などが挙げられる。
【0036】
なお、R−T−B系合金と金属粉末とは、上述したように、鋳造合金薄片を粉砕してR−T−B系合金からなる粉末としてから混合してもよいが、例えば、R−T−B系合金からなる粉末に、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を添加した後に行ってもよい。
【0037】
本実施形態の永久磁石用合金材料は、希土類元素から選ばれる2種以上であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなり、Dy含有量が10質量%を超え31質量%未満であるR−T−B系合金と、金属粉末とを含むものであるので、これを用いて得られたR−T−B系磁石における粒界相の分散が改善され、R−T−B系磁石の保磁力が向上する。これは、本実施形態の永久磁石用合金材料を成形し、焼結してR−T−B系磁石を製造する場合、焼結中に、金属粉末に含まれる金属がR−T−B系磁石を構成する粒界相中に入り込み、粒界相中に含まれる金属濃度が高くなることにより、R−T−B系磁石の粒界相の濡れ性が改善され、粒界相がR−T−B系磁石中に均一に分散されることによるものと推定される。
【0038】
また、本実施形態の永久磁石用合金材料において、金属粉末が、Fe、Al、Co、Mo、Ta、Zr、Wのうちから選ばれる1種または2種以上である場合、これを用いて得られたR−T−B系磁石における粒界相の濡れ性がより効果的に改善され、粒界相がR−T−B系磁石中に均一に分散される。
また、本実施形態の永久磁石用合金材料において、金属粉末が、0.02質量%以上6質量%未満含まれている場合、R−T−B系合金中のDyの含有量を多くすることによってR−T−B系磁石の保磁力(Hcj)を向上させる効果が十分に得られるとともに、R−T−B系合金中のDyの含有量を多くすることによるR−T−B系磁石の磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性の低下を抑制でき、好ましい。
【0039】
また、本実施形態の永久磁石用合金材料が、R−T−B系合金からなる粉末と金属粉末とが混合されてなる混合物である場合、粉末のR−T−B系合金と金属粉末とを混合するだけで、容易に品質の均一な永久磁石用合金材料が得られ、これを成形して焼結することで、容易に品質の均一なR−T−B系磁石が得られる。
【0040】
また、本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法は、本実施形態の希土類磁石用合金材料を成形して焼結することによりR−T−B系磁石を製造する方法であるので、モーターに好適に用いられる優れた保磁力を有するR−T−B系磁石を容易に効率よく製造できる。
【実施例】
【0041】
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、Coメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%以上)、鉄塊(純度99%wt以上)を表1に示す合金A〜合金Iの成分組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。
【0042】
【表1】

【0043】
その後、アルミナるつぼを高周波真空誘導炉の炉内に入れ、炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して溶融させて溶湯とした。次いで、溶湯を水冷銅ロールに注ぎ、SC(ストリップキャスト)法を用いて、ロール周速度1.0m/秒で、平均厚み0.3mm程度、Rリッチ相(希土類リッチ相)間隔3〜15μm、Rリッチ相以外(主相)の体積率≧(138−1.6r)(ただし、rは希土類(Nd、Pr、Dy)の含有量)となるように制御し、鋳造合金薄片を得た。
【0044】
このようにして得られた鋳造合金薄片のRリッチ相間隔および主相の体積率は、以下に示す方法により調べた。
すなわち、平均厚みの±10%以内の鋳造合金薄片を樹脂に埋め込んで研磨し、走査電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)を用いて反射電子像を撮影し、300倍の写真を得た。そして、得られた鋳造合金薄片の写真を用いて、Rリッチ相の間隔を測定するとともに主相の体積率を算出した。その結果、表1に示した合金A〜合金IのRリッチ相間隔は4〜5μmであり、主相の体積率は90〜95%であった。
【0045】
次に、鋳造合金薄片を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、鋳造合金薄片を直径5mm程度になるように粗粉砕し、室温の水素中に挿入して水素を吸蔵させた。続いて、粗粉砕して水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を300℃において熱処理を行い水素解砕した。その後、減圧して水素を脱気し、さらに500℃まで加熱する熱処理を行って鋳造合金薄片中の水素を放出除去し、室温まで冷却した。
【0046】
次に、水素解砕された鋳造合金薄片に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛0.025wt%を添加し、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を平均粒度4.5μmに微粉砕して粉末とした。
【0047】
このようにして得られたR−T−B系合金からなる粉末(合金A〜合金I)に、表2に示す平均粒度の金属粉末を、表3に示す割合(永久磁石用合金材料中に含まれる金属粉末の濃度(質量%))で添加して混合することにより、永久磁石用合金材料を製造した。なお、金属粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
次に、このようにして得られた永久磁石用合金材料を、横磁場中成型機を用いて圧力0.8t/cmでプレス成形して圧粉体とし、真空中で焼結した。焼結温度は、合金によって異なり、合金Aおよび合金Bは1100℃、合金Cは1130℃、合金D、合金E、合金Fは1140℃、合金Gは1150℃、合金Hは1030℃、合金Iは1080℃で焼結した。その後800℃および530℃で熱処理して冷却することにより、表3に示す実験例1〜実験例41のR−T−B系磁石を得た。
【0051】
そして、得られた実験例1〜実験例41のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性をBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表3に示す。
なお、表3において「Hcj」とは保磁力であり、「Br」とは磁化であり、「SR」とは角形性であり、「BHmax」とは最大エネルギー積である。また、これらの磁気特性の値は、それぞれ5個のR−T−B系磁石の測定値の平均である。
【0052】
表3に示すように、合金A〜F、Iと金属粉末とを含む永久磁石用合金材料を用いて得られたR−T−B系磁石では、いずれも金属粉末を含まない合金A〜F、Iからなる永久磁石用合金材料を用いて得られたR−T−B系磁石と比較して、保磁力(Hcj)が向上している。
【0053】
これに対し、Dy含有量が31質量%以上である合金Gと金属粉末とを含む永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例25のR−T−B系磁石では、合金Gからなる金属粉末を含まない実験例24の永久磁石用合金材料を用いて得られたR−T−B系磁石と比較して、保磁力(Hcj)が低くなっている。
【0054】
また、Dyを含まない合金Hと金属粉末とを含む永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例27、29のR−T−B系磁石では、合金Hからなる金属粉末を含まない永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例26のR−T−B系磁石と比較して、保磁力(Hcj)が低くなっている。
また、Dyを含まない永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例26〜29のR−T−B系磁石では、金属粉末を含有していてもいなくても、十分に高い保磁力(Hcj)が得られなかった。
【0055】
また、実験例3および実験例4のR−T−B系磁石の断面を、走査電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)を用いて撮影し、反射電子像を得た。図1は、実験例3のR−T−B系磁石の断面の反射電子像であり、図2は、実験例4のR−T−B系磁石の断面の反射電子像である。なお、実験例3は金属粉末を含まない永久磁石用合金材料を用いて得られた本発明の比較例であり、実験例4は本発明の実施例である。
【0056】
図1および図2に示すように、合金Bと金属粉末とを含む永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例4のR−T−B系磁石では、金属粉末を含まない合金Bからなる永久磁石用合金材料を用いて得られた実験例3のR−T−B系磁石と比較して、粒界相の大きさが小さく、かつ粒界相がR−T−B系磁石中に均一に分散していることが分かる。
これは、永久磁石用合金材料に金属粉末を含有させることで、焼結時に主相粒子間への粒界相の回り込みが容易になり、粒界相が分散しやすくなったためと推定できる。そして、均一に分散された粒界相に主相粒子が被覆されることで、隣接する主相粒子同士が電磁気学的に隔離される確率が高まり、保磁力が向上されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素から選ばれる2種以上であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなり、Dy含有量が10質量%を超え31質量%未満であるR−T−B系合金と、金属粉末とを含むことを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【請求項2】
前記金属粉末が、Fe、Al、Co、Mo、Ta、Zr、Wのうちから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【請求項3】
前記金属粉末が、0.02質量%以上6質量%未満含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【請求項4】
前記R−T−B系合金からなる粉末と前記金属粉末とが、混合されてなる混合物であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類永久磁石用合金材料を成形して焼結することを特徴とするR−T−B系希土類永久磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のR−T−B系希土類永久磁石の製造方法により製造されたR−T−B系希土類永久磁石を備えることを特徴とするモーター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57182(P2012−57182A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198171(P2010−198171)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】