説明

RFIDおよび他の用途に使用するための高導電率ポリマー厚膜銀導体組成物

無線周波数認識装置(RFID)に有用な、銀フレークと有機媒体とからなる厚膜銀組成物が開示される。さらに、本発明は、ポリマー厚膜(PTF)を使用するRFID回路または他の回路を使用するアンテナ形成方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数認識装置(RFID)および他の用途に使用するためのポリマー厚膜(PTF)銀導体組成物に関する。1つの実施形態において、PTF銀組成物はポリエステルなどの可撓性低温基材上にスクリーン印刷された導体として使用され、そこでPTF銀組成物はアンテナとして機能する。さらに、この組成物は非常に高い導電率および低い抵抗率が必要とされる他の任意の用途に使用されてもよい。
【背景技術】
【0002】
ポリマー厚膜銀組成物は、RFIDデバイスならびに膜タッチスイッチ、電気器具回路などの他の用途、または高導電率ポリマー厚膜銀導体が必要とされる任意の用途において使用される。かかる製品は典型的に、セルの印刷アンテナとして使用される。ポリマー厚膜銀組成物のアンテナパターンは適切な基材の上に印刷される。RFID回路性能は、印刷アンテナの導電率と回路の抵抗との両方に依存する。抵抗率(導電率の逆数)が低くなればなるほど、使用された任意のポリマー厚膜組成物の性能が良くなるのがこのような回路である。低い抵抗率を有し、RFID用途に必要な厚さでコーティングするのに適している組成物を使用することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、(a)銀フレークと、(b)(1)有機ポリマーバインダー、(2)溶剤、および(3)低い抵抗率を有する印刷助剤を含む有機媒体とを含むポリマー厚膜組成物に関する。組成物は、全ての溶剤を除去するために必要な時間および温度において加工されてもよい。特に、組成物は、(a)少なくとも3ミクロンの平均粒度を有し、粒子の少なくとも10%が7ミクロンより大きく、ステアリン酸界面活性剤を有する50〜85重量%の銀フレークと、
(b)
(1)16〜25重量%のビニルコポリマー樹脂と、
(2)75〜84重量%の有機溶剤と
を含む15〜50重量%の有機媒体と
を含む。
【0004】
また、組成物は金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、白金、パラジウム、モリブデン、タングステン、タンタル、スズ、インジウム、ランタン、ガドリニウム、ホウ素、ルテニウム、コバルト、チタン、イットリウム、ユウロピウム、ガリウム、硫黄、亜鉛、ケイ素、マグネシウム、バリウム、セリウム、ストロンチウム、鉛、アンチモン、導電性炭素、およびそれらの組合せを1重量%まで含有してもよい。
【0005】
さらに、本発明はかかる組成物を用いてRFIDまたは他の回路上に電極形成する方法、かかる方法および/または組成物から形成された物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
一般的に、厚膜組成物は、適切な電気的機能性の特性を組成物に与える機能相を含む。機能相は、機能相のためのキャリアとして作用する有機媒体中に分散された電気的機能性粉末を含む。一般的には、厚膜組成物を焼成して有機化合物を燃焼消失させ、電気的機能性の特性を与える。しかしながら、ポリマー厚膜組成物の場合、有機化合物は乾燥後に組成物の一体部分として残る。このような「有機化合物」は、厚膜組成物のポリマー、樹脂またはバインダー成分を含む。これらの用語は交換可能に使用されてもよい。
【0007】
厚膜導体組成物の主成分は、ポリマー樹脂と溶剤とからなる有機媒体中に分散された導体粉末である。成分は以下に考察される。
【0008】
A.導体粉末
この厚膜組成物中の電気的機能性粉末はAg導体粉末であり、Ag金属粉末、Ag金属粉末の合金、またはそれらの混合物を含んでもよい。粒径、形状、および金属粉末上に使用された界面活性剤は特に重要であり、適用方法に適していなければならない。
【0009】
金属粒子の粒度分布はそれ自体、本発明の有効性に対して重要である。実際的な問題として、粒度は1〜100ミクロンの範囲であるのが好ましい。最小粒度は、1〜10ミクロンの範囲内、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ミクロンである。粒子の最大粒度は18〜100ミクロンの範囲内、例えば18、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100ミクロンである。1つの有利な実施形態において銀フレークは2〜18ミクロンの範囲である。
【0010】
金属粒子は、全組成物の50〜85重量%において存在する。
【0011】
界面活性剤を組成物中で用いて、本明細書に記載のフレーク化銀粒子の有効な整列を促進することも重要である。ステアリン酸がフレーク化銀のために好ましい界面活性剤である。
【0012】
さらに、少量の他の金属を銀導体組成物に添加して導体の特性を改良してもよいことは本技術分野に公知である。かかる金属の例には、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、白金、パラジウム、モリブデン、タングステン、タンタル、スズ、インジウム、ランタン、ガドリニウム、ホウ素、ルテニウム、コバルト、チタン、イットリウム、ユウロピウム、ガリウム、硫黄、亜鉛、ケイ素、マグネシウム、バリウム、セリウム、ストロンチウム、鉛、アンチモン、導電性炭素、およびそれらの組合せおよび厚膜組成物の本技術分野に一般的である他の金属がある。付加的な金属は全組成物の約1.0重量パーセントまで占めてもよい。
【0013】
B.有機媒体
本明細書に記載の粉末は典型的に、機械混合によって有機媒体(ビヒクル)と混合され、印刷のために適したコンシステンシーおよびレオロジーを有し、「ポリマー厚膜銀組成物」または「ペースト」と本明細書では呼ばれる、ペースト状組成物を形成する。多種多様な不活性液体を有機媒体として使用することができる。有機媒体は、固形分が十分な安定度を有して分散性である有機媒体でなければならない。媒体の流動学的特性は、組成物に良好な適用性を与えるようなものでなければならない。かかる特性には、十分な安定度を有する固形分の分散、組成物の良好な適用、適切な粘度、チキソトロピー、基材および固形分の適切な湿潤能力、十分な乾燥速度、および荒っぽい取扱いに耐えるために十分な乾燥膜強度などがある。
【0014】
本発明のポリマー樹脂は特に重要である。本発明において使用された樹脂は、銀フレークの高重量配合量を可能にするビニルコポリマーであり、したがって、RFID回路の銀電極の2つの重要な特性であるポリエステル基材への良い接着性と低い抵抗率(高い導電率)との両方を達成するのを助ける。
【0015】
本明細書において、ビニルコポリマーは、ビニルモノマーのビニル基を少なくとも1つのコモノマーと重合させることによって製造されたポリマーとして定義される。好適なビニルモノマーには、ビニルアセテート、ビニルアルコール、塩化ビニル、塩化ビニリデンおよびスチレンなどがあるがそれらに限定されない。好適なコモノマーには、第二ビニルモノマー、アクリレートおよびニトリルなどがあるがそれらに限定されない。塩化ビニル、アクリロニトリル、アルキルアクリレートのうちの少なくとも1つとの塩化ビニリデンコポリマーが好適なポリマー樹脂である。
【0016】
厚膜組成物中に存在する最も広範囲に使用された有機溶剤は、エチルアセテートおよびアルファ−またはベータ−テルピネオールなどのテルペンまたはケロシン、ジブチルフタレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ヘキシレングリコールおよび高沸点アルコールおよびアルコールエステルなどの他の溶剤とのそれらの混合物である。さらに、基材上に適用した後の急速な固化を促進するための揮発性液体をビヒクルに含有させることができる。本発明の多くの実施形態において、グリコールエーテル、ケトン、エステルおよび同様な沸点の(180℃〜250℃の範囲の)他の溶剤、およびそれらの混合物を用いてもよい。1つの有利な実施形態において媒体は二塩基性エステルおよびC−11ケトンを含有する。
【0017】
媒体は16〜25重量%のビニルコポリマー樹脂および75〜84重量%の有機溶剤を含む。
【0018】
厚膜の適用
本明細書に記載のポリマー厚膜銀組成物またはペーストは典型的に、ガスおよび湿気に対して本質的に不透過性であるポリエステルなどの基材上に付着される。また、基材は、プラスチックシートとその上に付着された任意の金属または誘電体層との組み合せから構成された複合材料など、不透過性プラスチックなどの軟質材料のシートでありうる。1つの実施形態において、基材は、金属化銀を含有する層の堆積でありうる。
【0019】
ポリマー厚膜銀組成物の付着は、1つの実施形態においてスクリーン印刷によって、他の実施形態においてステンシル印刷、シリンジ分注またはコーティング技術などの付着技術によって行なわれる。スクリーン印刷の場合はスクリーン網目の大きさが、付着された厚膜の厚さを制御する。
【0020】
例えば120〜140℃における10〜15分間の熱暴露などによって、付着された厚膜を乾燥させるかまたは有機溶剤を蒸発させる。
【0021】
本組成物は、以下の理由のためにRFID関連用途に特に適している。すなわち、
(1)観察された特異な低い抵抗率(4.6ミリオーム/sq/mil)、および
(2)RFIDおよび他の用途に非常に重要であるプリントの厚さ(280ステンレス鋼スクリーンを使用して9〜10ミクロン)である。(1)および(2)の結果として得られるのは非常に低い回路抵抗であり、非常に望ましい有利な特徴である。
【0022】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明される。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例によって全く制限されない。
【実施例】
【0023】
実施例1
PTF銀電極ペーストを調製するために、界面活性剤としてステアリン酸を含有する4ミクロンの平均粒度を有する銀フレーク(範囲は1〜18ミクロンであった)を、塩化ビニリデンとアクリロニトリル樹脂とのコポリマー(Dow Chemical(Midland,Michigan)製のSaran F−310樹脂としても知られている)からなる有機媒体と混合した。樹脂の分子量は約25,000であった。銀粒子の表面積対重量の比は0.8〜1.3m2/gの範囲である。
【0024】
銀フレークを添加する前に、溶剤を用いて樹脂を完全に溶解した。その溶剤は、DiBasic Esters(DuPont(Wilmington,Delaware)製)およびC−11ケトン溶剤(Eastman Chemical Company(Kingsport,Tennessee)製)の50/50ブレンドであった。少量の付加的なC−11ケトンを調合物に添加した。
【0025】
ポリマー厚膜組成物は、以下のとおりであった。
64.00% ステアリン酸界面活性剤を有するフレーク化銀
35.50 有機媒体(19.5%樹脂/80.5%溶剤)
0.50 C−11溶剤
【0026】
この組成物を30分間、遊星形ミキサーで混合した。次に、組成物を三本ロールミルに移し、そこでそれに150PSIにおいて第1の工程、250PSIにおいて第2の工程を実施した。この時点で、組成物を用いてポリエステル上に銀パターンをスクリーン印刷した。280メッシュのステンレス鋼スクリーンを用いて一連のラインを印刷し、銀ペーストを空気押込型箱形炉内で140℃において15分間乾燥させた。この後、抵抗率は10ミクロンの厚さにおいて4.6ミリオーム/sq/milとして測定された。比較として、DuPont製品5025などの標準組成物は、13.6ミリオーム/sq/milとして測定された。DuPont5028などの別の高導電率標準製品は9.8ミリオーム/sq/milを示したが、それは上に示された実施例よりも2倍大きい抵抗率である。全ての銀組成物の重要な特性である抵抗率のこの予想外に大きい改良(低下)によって、それをほとんどの用途に使用することができ、RFIDアンテナ性能が改良される。また、観察された値の4.6ミリオーム/sq/milは、高温焼成された(850℃)銀導体の値に近づいていることを指摘する。比較表を以下に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
銀フレーク上の界面活性剤をステアリン酸からオレイン酸に変えて、別のPTF銀組成物を調製した。調合物の全ての他の特性、銀粉末分布、および後続の加工は実施例1と同じであった。すなわち、実施例1と同じ有機媒体を使用した。この組成物の正規化抵抗率は42.8ミリオーム/sq/milであった。銀フレーク上の界面活性剤の化学的性質の変化は、組成物の抵抗率に有意の(良くない)影響を与えることは明らかである。
【0029】
実施例3
粒度分布をより小さい粒子に変えて、別のPTF銀組成物を調製した。ここで、平均粒度が約2ミクロンに低減され、7ミクロンより大きい粒子は実質的になかった。実施例2の界面活性剤、オレイン酸を銀フレーク上で使用した。全ての他の加工条件は実施例1と同じであった。この組成物の正規化抵抗率は20.2ミリオーム/sq/milであり、選択された銀の粒度および使用された界面活性剤の重要性を再び示した。
【0030】
実施例4
別のPTF銀組成物を実施例1に従って調製したが、使用された樹脂を実施例1に記載されたビニルコポリマーから分子量25000の熱可塑性のポリエステル樹脂に変えた。全ての他の条件および加工は同じであった。測定された正規化抵抗率は22.7ミリオーム/sq/milであり、銀粉末と共に実施例1において使用された樹脂の重要性を立証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも3ミクロンの平均粒度を有し、粒子の少なくとも10%が7ミクロンより大きく、ステアリン酸界面活性剤を有する50%〜85重量%の銀フレークと、
(b)i.16〜25重量%のビニルコポリマー樹脂と、
ii.75〜84重量%の有機溶剤と
を含む15〜50重量%の有機媒体と
を含む、ポリマー厚膜組成物。
【請求項2】
前記ビニルコポリマー樹脂が塩化ビニリデンと塩化ビニル、アクリロニトリル、およびアルキルアクリレートの少なくとも1つとのコポリマーである、請求項1に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項3】
前記ビニルコポリマー樹脂が塩化ビニリデンとアクリロニトリルとのコポリマーである、請求項2に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項4】
前記銀フレーク粒度が1〜100ミクロンの範囲である、請求項1に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項5】
前記銀フレーク粒度が2〜18ミクロンの範囲である、請求項4に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤が、エチルアセテート、アルファ−またはベータ−テルピネオールなどのテルペン、ケロシン、ジブチルフタレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ヘキシレングリコール、アルコール、アルコールエステル、グリコールエーテル、ケトン、エステルおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項7】
前記溶剤がエステル、ケトンおよびそれらの混合物から選択される、請求項6に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤の沸点が180℃〜250℃である、請求項6に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項9】
金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、白金、パラジウム、モリブデン、タングステン、タンタル、スズ、インジウム、ランタン、ガドリニウム、ホウ素、ルテニウム、コバルト、チタン、イットリウム、ユウロピウム、ガリウム、硫黄、亜鉛、ケイ素、マグネシウム、バリウム、セリウム、ストロンチウム、鉛、アンチモン、導電性炭素、およびそれらの組合せを1重量%までさらに含む、請求項1に記載のポリマー厚膜組成物。
【請求項10】
(a)i.少なくとも3ミクロンの平均粒度を有し、粒子の少なくとも10%が7ミクロンより大きく、ステアリン酸界面活性剤を有する50〜85重量%の銀フレークと、
ii.15〜50重量%の有機媒体であって、
iii.16〜25重量%のビニルコポリマー樹脂、および
iv.75〜84重量%の有機溶剤を含む有機媒体と
を含むポリマー厚膜を基材に適用する工程と、
(b)前記有機溶剤を蒸発させる工程と
を含む、銀導体を製造する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって製造された銀導体。
【請求項12】
(a)請求項1に記載の組成物を基材上に適用する工程と、
(b)前記組成物を乾燥させて回路を形成する工程と、
(c)電圧を前記回路の両端に印加する工程と
を含む、RFIDアンテナを形成する方法。
【請求項13】
請求項11に記載の銀導体を用いて形成されたRFID回路。

【公表番号】特表2012−509965(P2012−509965A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537679(P2011−537679)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/065494
【国際公開番号】WO2010/060024
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】