説明

RFID用磁性シート

【課題】 製造が容易で、しかも、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナと金属板との間に積層した場合に良好な受信強度が得られるRFID用磁性シートの提供。
【解決手段】 Si:8〜20wt%、Cr:0.5〜10wt%、残部Fe及び不純物からなる合金にて構成され、密度が6〜9g/cm3 、粒度分布がD50で10〜30μm、アスペクト比が3以上である扁平粒子を、塩素化ポリエチレンに35〜45vol%充填したものが、図2に示す実施例である。この実施例は、センダストの扁平粒子を充填した比較例1と同等の受信強度を維持することができ、その比較例1に比べて製造は極めて容易である。また、ソフトフェライトを充填した比較例2と比べれば受信強度は遥かに優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID(Radio Frequency Identification=無線通信による個体識別技術)によって電波・電磁波の送受信を行うICタグやRFID用リーダ・ライタなどのアンテナコイルと導電層との間に積層可能なRFID用磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナ送受信部は、携帯電話等の小型機器にも装着されるようになった。そこで、アンテナ送受信部を、アンテナコイル、磁性シート、金属板の順に積層された構造とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
携帯電話等の小型機器の場合、アンテナコイルの周辺に何らかの金属板が存在すると、RFIDによる電波・電磁波の送受信強度が影響を受ける。そこで、上記のようにアンテナコイルに予め金属板などの導電層を積層配置することで、周囲の金属板の影響を排除することができる。また、このように導電層を設けると、その導電層が電波・電磁波を渦電流として消費するため受信強度が低下するが、アンテナと導電層との間に磁性シートを配設することにより、受信強度を高めることができる。
【特許文献1】特開2004−213217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1では、フェライト磁性粉末または金属磁性粉末を樹脂からなる基材に充填してシート状に成形することで上記磁性シートを製造しているものの、磁性粉末の詳細には触れられていない。このような磁性粉末としては、RFIDで利用される13.56MHz近傍における複素透磁率μrの実数部μr’が大きく虚数部μr”が小さいことが、受信強度を大きくする上で望ましい。このような磁性粉末としては、扁平粒子に加工した粒度分布(D50)50〜65μmのセンダスト(Fe−Si−Al系合金)が挙げられる。しかしながら、このようなセンダストは長時間かけてアトライタなどにより扁平化する必要があり、かつ、シート作成時に密度を高めるための圧縮プレス加工などが必要でありコストアップにつながる。また、密度を高めてμr’を大きくした結果、μr”も大きくなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、製造が容易で、しかも、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナと導電層との間に積層した場合に良好な受信強度が得られるRFID用磁性シートを提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明は、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナコイルと導電層との間に積層可能なRFID用磁性シートであって、Si:8〜20wt%、Cr:0.5〜10wt%、残部Fe及び不純物からなる合金の扁平粒子を、樹脂からなる基材に充填してシート状に成形してなることを特徴としている。
【0007】
本願出願人は、上記配合の合金は扁平粒子に加工するのも容易で、透磁率等も優れていることを発見した。また、このような合金からなる扁平粒子を用いて樹脂からなる基材に充填して製造したシートは、μr’はセンダストシートほど大きくないがμr”もセンダストシートより遥かに小さい。このため、本発明のRFID用磁性シートは、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナと導電層との間に積層した場合に、センダストを利用したRFID用磁性シートと同様に受信強度を高めることができ、しかも、製造が容易である。
【0008】
なお、上記扁平粒子として、密度が6〜9g/cm3 であり、粒度分布がD50で10〜30μmであり、アスペクト比(平均粒径を厚さで除した値)が3以上であるものを使用すれば、一層製造が容易になり、かつ、一層受信強度を高めることができる。密度,粒度分布,またはアスペクト比が上記範囲未満であると、受信強度を充分に高めることができない場合がある。また、密度が上記範囲を超えると扁平粒子を製造する製造工程がそれほど容易ではなくなり、粒度分布が上記範囲を超えると、樹脂からなる基材に充填してシート状に成形する工程がそれほど容易ではなくなる。従って、上記扁平粒子の密度,粒度分布,及びアスペクト比を上記範囲に設定することにより、一層製造が容易になり、かつ、一層受信強度を高めることができる。
【0009】
更に、上記扁平粒子の充填量が35vol%未満であると上記受信強度を充分に高めることができない場合があり、充填量が45vol%を超えるとシート状に成形する工程がそれほど容易ではなくなる。従って、上記扁平粒子を35〜45vol%充填することにより、製造が更に一層容易になり、かつ、受信強度を更に一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。先ず、本願出願人は、次のような各工程を経て磁性シートを作成した。
(1)磁性フィラーの作成工程
Si:8〜20wt%、Cr:0.5〜10wt%、残部Fe及び不純物(微量添加物を含む)からなる合金を作成し、それに粉砕及び扁平化処理を施すことにより、密度が6〜9g/cm3 、粒度分布がD50で10〜30μm、アスペクト比が3以上の扁平粒子を磁性フィラーとして作成した。
(2)混練工程
この磁性フィラーを、塩素化ポリエチレン、アクリル、ウレタン、NBR(Nitrile Butadiene Rubber=ニトリルゴム)、エポキシ、ホットメルト材などの樹脂、及び、トルエンなどの溶剤若しくは水系溶剤と混練した。この混練には、真空脱泡ミキサー等の機械を用いる方法の他、溶剤を用いずに加圧ニーダ,押し出し,2本ロール等の種々の方法を適用することができる。
(3)成形工程
続いて、上記混練工程によって得られた材料をシート状に成形した。成形方法としては、ロール、コータ、コンプレッション等種々の方法を適用することができる。こうして得られた磁性シートは、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナコイルと導電層との間に積層され、そのアンテナコイルによる電波・電磁波の受信強度を高めることができる。
【実施例】
【0011】
次に、本願出願人は、磁性シートを次のように実際に製造し、従来の磁性シートとその特性を比較した。先ず、実施例として、粒度分布(D50)が15〜30μmの上記磁性フィラーを、塩素化ポリエチレン樹脂に35〜45vol%で充填してコータにより成形することにより、厚さ0.1mmの磁性シートを得た。続いて、この磁性シートを23mm×48mmの大きさに切り出し、3枚重ねることにより、23mm×48mm×0.3mmの磁性シートとした。
【0012】
比較例1として、扁平粒子に加工した粒度分布(D50)が50〜65μmのセンダスト(Fe−Si−Al系合金)を磁性フィラーとして使用し、同様の塩素化ポリエチレン樹脂に35〜45vol%で充填して同様のサイズの磁性シートを作成した。但し、この比較例1の磁性シートは、透磁率を高めて磁性フィラーの密度を高めるため、厚さ0.1mmのシートを5枚重ねて熱プレス加工を施すことで厚さ0.3mmとした。
【0013】
比較例2として、粒度分布(D50)が20〜35μmのNi−Znソフトフェライトを磁性フィラーとして使用し、同様の塩素化ポリエチレン樹脂に75〜85vol%で充填して同様のサイズの磁性シートを作成した。なお、これら実施例及び比較例1,2の構成は、以下の表1にもまとめたので参照されたい。
【0014】
【表1】

【0015】
次に、このように構成された実施例及び比較例1,2の磁性シートに対して、次のような装置により透磁率を測定した。すなわち、図1に示すように、それぞれ23mm×48mmの矩形のループアンテナを備えた送信アンテナ基板1と受信アンテナ基板3とを対向配置し、各アンテナ基板1,3のループアンテナをスペクトラムアナライザー5に接続した。なお、ループアンテナはコイルを2重巻きしており、共振点が13.56MHz付近となるようコンデンサにより調整した。また、受信アンテナ基板3の背後(送信アンテナ基板1と反対側)には、実施例または比較例1,2の磁性シート7と、導電層としての金属板9とを順次配置した。
【0016】
ここで、スペクトラムアナライザー5としてはアジレントテクノロジー製8593Eを使用し、金属板9としては23mm×48mm×0.5mmのアルミニウム板を使用した。また、送信アンテナ基板1と受信アンテナ基板3との間隔、受信アンテナ基板3と磁性シート7との間隔、磁性シート7と金属板9との間隔は、それぞれ、50mm、0mm、0mmとした。
【0017】
RFIDで一般的に用いられる13.56MHzにおける測定結果を図2に示す。本実施例は、μr’の値は比較例1のμr’よりも小さかったが、μr”の値も比較例1のμr”の28分の1と極めて小さかったので、得られる受信強度は比較例1とほぼ同等となった。比較例1では、前述のように、センダストの扁平化に時間がかかり、磁性シート自体にも製造工程中に熱プレス加工を施す必要があり、極めて製造コストが高くなるが、本実施例では、このようなコストをかけることなく容易に製造でき、比較例1と同等の受信強度が得られた。また、図2に示すように、比較例2はμr’が極めて小さく、受信強度も低かった。
【0018】
このように、本実施例のRFID用磁性シートは、製造が容易で、しかも、RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナと導電層との間に積層した場合に良好な受信強度が得られる。なお、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施できることはいうまでもない。
【0019】
例えば、導電層としては金属板の他、RFID用磁性シートの片面に蒸着やスパッタにより薄膜を形成したものを採用してもよい。このように、磁性シートの背面に予め導電層を設けておけば、磁性シートと導電層との距離が一定となるためどのような場所に配置しても安定した受信強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例及び比較例の特性を測定するための装置の構成を表す説明図である。
【図2】その装置によって測定された実施例及び比較例の特性を表す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1…送信アンテナ基板 3…受信アンテナ基板
5…スペクトラムアナライザー 7…磁性シート
9…金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDによって電波・電磁波の送受信を行うアンテナコイルと導電層との間に積層可能なRFID用磁性シートであって、
Si:8〜20wt%、Cr:0.5〜10wt%、残部Fe及び不純物からなる合金の扁平粒子を、樹脂からなる基材に充填してシート状に成形してなることを特徴とするRFID用磁性シート。
【請求項2】
上記扁平粒子は、密度が6〜9g/cm3 であり、粒度分布がD50で10〜30μmであり、アスペクト比が3以上であることを特徴とする請求項1記載のRFID用磁性シート。
【請求項3】
上記扁平粒子が35〜45vol%充填されたことを特徴とする請求項1または2記載のRFID用磁性シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−135037(P2006−135037A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321301(P2004−321301)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】