説明

Ru錯体を用いたジエンの1,4−水素添加

本発明は、シクロペンタジエニル誘導体およびジエンを配位子として有するRu錯体を、共役ジエンの1,4−水素添加において、いくつかの酸性添加剤を共に用いて主な生成物としての相応する"シス"−アルケン(即ち、ここでジエンの2、3の位置にある2つの置換基は相応するアルケンにおいてシス配置である)への選択性を改善するために用いる使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、触媒性水素添加の分野に関し、より詳細にはシクロペンタジエニル誘導体を1つの配位子として有する特定のRu錯体を、1,4−水素添加反応において、ジエンを主な生成物としての相応する"シス"−アルケン(即ち、ここでジエンの2、3の位置にある2つの置換基は相応するアルケンにおいてシス配置である)に還元するために用いる使用に関する。
【0002】
従来技術
相応する"シス"−アルケンへの、共役ジエンの選択的な1,4−水素添加は、有機化学において非常に興味深い反応である。なぜなら、それは一般に乏しい選択性で得られた多くの化合物に利用可能性を付与するからである。
【0003】
それらの反応の必須且つ特徴的な成分のひとつは、触媒あるいは触媒系である。相応する"シス"−アルケンへのジエンの1,4−水素添加のために有用な触媒あるいは触媒系の開発は、化学において未だに重要、困難、且つ予測不能な課題である。それは特に、化学産業が常により高い選択性、並びに高い転化率または収率を維持することを欲しているからである。
【0004】
従来技術から、ソルビン酸を[(Cp*)RuCO(ホスフィン)](アニオン)または[(Cp*)RuCO(ソルビン酸)](アニオン)錯体の存在下で相応する"シス"−アルケンに水素添加できることが公知である(Driessen et al, Chem.Commun., 2000, 217 または J.Organomet.Chem, 1998, 141を参照)。しかしながら、その収率(転化率×選択性)は非常に低い。
【0005】
さらには、EP1394170号において、触媒系として錯体[(ジエニル)Ru(非環式ジエン)](アニオン) (特に[(Cp*)Ru(ソルビン酸)](アニオン)または[(Cp*)Ru(ソルビトール)](アニオン)を使用した、ジエンのシソイド水素添加が報告されている。本文献においては、非環式ジエンの代わりに環式ジエンを使用すると全体の収率に対して非常に悪影響を及ぼすことが明示されている。良好な収率を提供するとして示される唯一の条件は、溶剤としてニトロメタンを必要とし、ニトロメタンは産業上の用途に対して比較的有毒で且つ危険である。最後に、前記の文献の表4はルイス酸の添加が収率に非常に悪影響を及ぼすことを示している。
【0006】
従って、代替の触媒系を使用して、高い選択性および/または転化率を提供し得る方法が必要とされている。
【0007】
発明の説明
上述の問題を克服するために、本発明は、H2分子を使用した、相応する"シス"−アルケン(II)への1,4−水素添加による、共役ジエン(I)の触媒還元のための方法において、前記の方法を以下で特定される型の少なくとも1つの酸性添加剤の存在下で実施し、該触媒あるいは前触媒は配位子としてシクロペンタジエニル誘導体を含むルテニウム錯体であることを特徴とする方法に関する。
【0008】
本発明の方法を、スキームIに示す:
スキームI
【化1】

【0009】
[式中、
1〜R6はジエンの置換基およびアルケンの置換基であり、且つ、化合物(II)においてR1およびR2基はシス配置である]。
【0010】
本発明の特定の実施態様は、H2分子を使用して、化学式:
【化2】

[式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいは随意に置換されたC1〜C12−アルキル基またはアルケニル基を表し、;
2あるいはR6の1つは随意に置換されたC1〜C12−アルコキシまたはアシルオキシ基も表し;且つ
1とR3、あるいはR3とR4、あるいはR2とR6、あるいはR6とR5、あるいはR4とR5とが一緒になって、随意に置換されたC2〜16アルカンジイル基または非共役(de−conjugated)アルケンジイル基を形成できる]
のC5〜C22−共役ジエンを、化学式:
【化3】

[式中、
1〜R6は化学式(I)の化合物と同じ意味を有し、且つ、シス配置においてR1およびR2基を有する異性体が支配的である(即ち、"シス"−アルケン)]
の相応するアルケンに、1,4−水素添加によって触媒還元するための方法において、前記の方法を
・ 化学式:
[Ru(L)(ジエン)(L’)n]X (III)
[式中、
Lはシクロペンタジエニル配位子(Cp)のC5〜C25誘導体を表し、ジエンはC4〜C22ジエンを表し、且つXは非配位アニオンを表し、nは2、1または0を表し、L’は溶剤を表す]
の少なくとも1つのルテニウム触媒あるいは前触媒;および
・ 好ましくは化合物(III)に対して約0.1、あるいは0.2〜100モル当量の総量の、以下で説明される型の少なくとも1つの酸性添加剤
の存在下で実施することを特徴とする方法である。
【0011】
1〜R6の可能な置換基は、単独あるいは共に、触媒による基質の還元を停止しない、1つあるいは2つの基である。かかる置換基の限定されない典型的な例は、OR7、COR7、OCOR7またはCOOR8であり、前記R7は水素原子あるいはC1〜C12−アルキル基またはアルケニル基を表し、R1〜R6の1つが2つのジェミナルのOR7基で置換される場合、前記の2つのR7は共に結合してC2〜C4−アルカンジイル基を形成でき、前記R8はC1〜C12−アルキルまたはアルケニル基を表す。
【0012】
本発明の特定の実施態様によれば、R1〜R6の可能な置換基は、単独あるいは共に、OR7、OCOR7またはCOOR8であり、前記R7は水素原子あるいはC1〜C6−アルキル基またはアルケニル基を表し、R1〜R6の1つが2つのジェミナルのOR7基で置換される場合、前記の2つのR7は共に結合してC2〜C4−アルカンジイル基を形成でき、前記R8はC1〜C6−アルキルまたはアルケニル基を表す。上記のR7またはR8はC1〜C6−アルキル基であってもよい。
【0013】
任意のR1、R2、R3、R4、R5またはR6がアルケニル基を表す場合、そこで前記の基は非共役あるいは共役アルケニル基であってよい。"非共役アルケニル"は、前記の基の炭素と炭素との二重結合がジエン部分と共役していない、即ち、共役トリエン系を形成していないことを意味すると理解される。
【0014】
"アルキルあるいは非共役アルケニル基"は、前記のR1〜R6が、例えば直鎖、分岐鎖または(多)環式基の形態であってよいか、あるいは前記のタイプの基の混合物の形態であってよいことを意味すると理解され、例えば特定の基は、1つのタイプへの特定の限定が述べられない限り、直鎖アルキルおよび(多)環式アルキル成分を含んでよい。
【0015】
化合物(II)に関して、それはオレフィンであるので、2つの異性体の混合物、即ち、R1とR2基とがシス配置("シス"−アルケン(II))であるか、あるいはR1とR2基とがトランス配置("トランス"−アルケン(II’))である形態で得られる。
【0016】
【化4】

【0017】
本発明によれば、得られるアルケンは"シス"−アルケンと"トランス"−アルケンとの混合物の形態であり、ここで"シス"−アルケン/"トランス"−アルケンの比(シス/トランス)は1より大きいと理解される。特定の実施態様によれば、前記の比は4より大きいか、あるいは10より大きくもある。他の特定の実施態様において、前記のシス/トランス比は19より大きく、あるいは30より大きくもあり、いくつかの場合においては45より大きいか、あるいはより大きな比が得られる。いずれにせよ、規定された濃度範囲の酸性添加剤の存在が前記の比の改善を可能にする。
【0018】
基質(I)がジエンであるので、基質(I)はその3つの配置異性体、即ち、(Z,Z)、(E,Z)および(E,E)異性体の混合物の形態であり得る。
【0019】
本発明のさらなる実施態様によれば、基質は少なくとも1つのエステルあるいはアルコール官能基を含むジエンである。前記のジエンは有利にも、医薬品、農薬、または香料産業において最終製品として、あるいは中間生成物として有用な不飽和エステルあるいはアルコールを提供できる。特に、好ましい基材は少なくとも1つのエステルあるいはアルコール官能基を含むジエンであり、且つ、前記のジエンは香料産業において、最終製品として、あるいは中間生成物として有用な不飽和エステルあるいはアルコールを提供する。
【0020】
本発明の他の実施態様によれば、基質は化学式(I)において、
1、R2、R3、R4、R5およびR6が同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいは随意に置換されたC1〜C8−アルキルまたは非共役のアルケニル基を表し、且つ、R1とR3、あるいはR3とR4、あるいはR2とR6、あるいはR6とR5、あるいはR4とR5とが一緒になって、随意に置換されたC3〜10アルカンジイル基または非共役アルケンジイル基を形成できる化合物である。
【0021】
本発明の他の実施態様によれば、基質は化学式(I)において、
1、R4およびR5がそれぞれ水素原子を表し、且つ
2、R3およびR6が同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいは随意に置換されたC1〜C8−アルキルまたは非共役のアルケニル基を表す化合物である。
【0022】
1〜R6の可能な置換基は、単独あるいは共に、上述の通りである。
【0023】
基質(I)の特定の例は、化学式:
【化5】

[式中、
aは直鎖、分岐鎖あるいは環式C1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基、好ましくは直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基を表し、且つ
bは(CH2mX基を表し、前記mは0、1、2または3を表し、前記XはCHO、OH、OCORc、ORcまたはCOORc基を表し、前記RcはC1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基である]
のものである。
【0024】
より特定の例は、化学式(I’)において、Raがメチル、エチルまたはプロピル基を表し、且つ、Rbが(CH2mX基を表し、前記mは0、1または2を表し、Xは上の定義と同じである化合物である。特定の実施態様によれば、基質はソルビトール、C1〜8−アルキルソルベート、あるいはC1〜8−カルボキシレートのソルビトールエステルであってよい。
【0025】
さらには、前記の基質(I’)は本質的にその(Z,Z)異性体の形態であってよい(例えば少なくとも99質量%の異性体(Z,Z)を含む)。
【0026】
基質(I)の他の特定の例は、化学式
【化6】

[式中、
dおよびReは水素原子、あるいは随意にOH基、OCORf基、ORf基またはCOORf基によって置換されたC1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基であり、前記RfはC1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基であり、ただし、RdとReとが同時に水素原子を表さない]
のものである。
【0027】
化学式(I’’)の化合物のより特定の例は、オシメン、ミルセン、ミルセノールあるいはそのC1〜8−カルボキシレートであってよい。
【0028】
本発明の方法は、触媒あるいは前触媒(特段記載されない限り、以下では錯体として示す)として、上述のようにルテニウム錯体を使用することによって特徴付けられる。
【0029】
本発明の特定の実施態様によれば、L’は非環式あるいは環式の非芳香族ケトンあるいはエステル、例えばアセトンあるいはメチルアセテートであってよい。該ケトンはそのエノール形に配位し得る。
【0030】
本発明の特定の実施態様によれば、Lは化学式:
【化7】

[式中、
各R9は同時あるいは互いに独立に、水素原子、随意に置換されたフェニル基、または随意に置換されたC1〜C10−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ
前記R9基の1つあるいは2つがCF3基、OSiR113、OCOR10、COR10またはCOOR10基であってよく、前記R11はC1〜C11または好ましくはC1〜C6−アルキル基を表し、前記R10はR11あるいはCF3基あるいは随意に置換されたフェニル基を表し、且つ
少なくとも1つのR9はアルキル基であり、2つの隣接したR9は共に結合してC2〜C10−アルカンジイル基を形成できる]
のC6〜C25化合物であってよい。
【0031】
アルキル基あるいはアルケニル基を表している場合、R9の可能な置換基は、1つあるいは2つのメチル、エチル、メトキシあるいはエトキシ基を含む。R9の可能な置換基、フェニル基を表す場合、R10の可能な置換基は、1つあるいは2つのメチル、エチル、メトキシ、エトキシ、あるいはニトロ基、あるいはCF3、F、Cl、Br基を含む。
【0032】
本発明の実施態様によれば、Lは化学式(IV)において、
各R9が同時あるいは互いに独立に、水素原子、C1〜C10−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ、前記R9基の1つあるいは2つがOSiR113、OCOR10、COR10またはCOOR10基であってよく、前記R11はC1〜C4−アルキル基を表し、前記R10は上述のように、R11あるいはCF3基あるいは随意に置換されたフェニル基を表し、且つ、少なくとも1つのR9がアルキル基である、C6〜C20−化合物であってよい。
【0033】
本発明の実施態様によれば、Lは化学式(IV)において、
各R9が、同時あるいは互いに独立に、水素原子、C1〜C10−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ、前記R9基の1つあるいは2つがOSiR113であってよく、前記R11はC1〜C4−アルキル基を表し、且つ、少なくとも1つのR9がアルキル基である、C6〜C20−化合物であってよい。
【0034】
本発明の実施態様によれば、4つのR9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいはC1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表し、且つ、1つのR9はOSiR113を表し、前記R11はC1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表し、且つ、少なくとも1つのR9はアルキル基である。
【0035】
本発明の実施態様によれば、2つのR9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいはC1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表し、且つ3つのR9は、同時にあるいは独立に、C1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表す。
【0036】
本発明の他の特定の実施態様によれば、1つのR9は水素原子あるいはメチルまたはエチル基を表し、且つ、他のR9はメチルまたはエチル基を表す。特に化合物(IV)は、1,2,3,4,5−ペンタメチル−シクロペンタジエニル(即ち、CP*あるいはC5Me5)、1−エチル−2,3,4,5−テトラメチル−シクロペンタジエニル(即ち、C5EtMe4)、1,2−ジエチル−3,4,5−トリメチル−シクロペンタジエニル(即ち、C5(1,2−Et2)Me3)、あるいは1,2,3,4,5−ペンタエチル−シクロペンタジエニル(C5Et5)であってよい。
【0037】
上述のシクロペンタジエニル配位子Cp(L)のシクロペンタジエン前駆体CpHは、当該技術分野において、および当業者によってよく知られている標準の一般的な方法を適用することによって得られる(例えばWO2006/051503号を参照)。前記の配位子のいくつかは市販でもある。
【0038】
該ジエンは、2つの炭素と炭素との二重結合を含むC4〜C22−非芳香族炭化水素基であってよく、前記の炭素と炭素との二重結合は共役していても、あるいは共役していなくてもよい。前記のジエンは特に、上記でR1〜R6について説明されたものと同一の置換基によって随意に置換された直鎖、分岐鎖あるいは環式C5〜C12−炭化水素ジエンであってよい。さらには、前記のジエンは基質そのもの、あるいは他の化合物であってもよいと理解される。
【0039】
特定の実施態様によれば、ジエンは好ましくは共役した、あるいは共役していない環式C6〜C12−アルカジエン、および特にシクロオクタジエン(COD)の1つである。
【0040】
ジエンの典型的且つ限定されない例として、以下を挙げることができる:
シクロオクタ−1,5−ジエン、シクロオクタ−1,4−ジエン、シクロオクタ−1,3−ジエン、NBD(ノルボルナジエン),ヘプタ−1,4−ジエン、ペンタジエン、2,4−ジメチルペンタジエン、2,3−ジメチルペンタジエン、2,3,4−トリメチルペンタジエン、2,4−ジ(tert−ブチル)−ペンタジエン、あるいは2,4−ジメチル−1−オキサペンタジエン、ブタジエン、ヘキサ−1,5−ジエン、あるいは上述の化学式(I’)または(I’’)の化合物。
【0041】
非配位アニオンXの特定の例は、ClO4-、R12SO3-であり、ここで前記R12は塩素あるいはフッ素原子(chlorine of fluoride atom)、あるいはC1〜C8−フルオロアルキルまたはフルオロアリール基、BF4-、PF6-、SbCl6-、SbF6-またはBR134-であり、ここで前記R13は1つから5つの基、例えばハライドの原子またはメチル基またはCF3基によって随意に置換されたフェニル基である。
【0042】
本発明の好ましい実施態様によれば、該アニオンはBF4-、PF6-、C65SO3-、BPh4-、CF3SO3-、あるいはさらに、B[3,5−(CF32644-、さらにより好ましくはBF4-である。
【0043】
錯体(III)の例として、以下のものが挙げられる:
[Ru(C5Me5)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5Et5)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5Me4H)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5(1,2−iPr2)Me3)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5(1,2,4−tBu3)H2)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5Me4tBu)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5Me4(OSiMe3)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5(1,2−Et2)Me3)(1,3−COD)]BF4、[Ru(C5Me5)(1,3−COD)]PF6、[Ru(C5Me5)(1,3−COD)]SbF6、[Ru(C5Me5)(1,3−COD)]ClO4、[Ru(C5Me5)(1,3−COD)]CF3SO3、[Ru(C5Me5)(NBD)(C36O)]BF4、[Ru(C5Me5)(1,5−ヘキサジエン)(C36O)]BF4、あるいは[Ru(C5Me5)(ジメチルブタジエン)(C36O)]BF4
【0044】
一般的なやり方で化学式(III)の錯体を調製し、そして単離した後、それらを、文献、例えばP.J.Fagan et al.(Organometallics,1990,9,1843〜1852ページ)、F.Bouachir et al. (Organometallics,1991,10,455〜462ページ)あるいはP.Alvarez et al. (Organometallics, 1991,20,3762〜3771ページ)内に記載されるいくつかの方法による工程において使用できる。選択されるものはシクロペンタジエニルおよびジエン配位子の性質、および非配位アニオンの性質にも依存する。
【0045】
当業者の標準的な知見によれば、化学式(III)の錯体は類似の化学式を有し、且つカチオン系あるいはアニオン系の錯体から、in situでも得られるということも理解される。例えば、反応を基質および銀またはタリウム(tallium)塩の存在下で[Ru(Cp*)(COD)Y] (YはF、Cl、BrあるいはIであり、且つ製造方法はP.J.Fagan et al.によってOrganometallics,1990,9,1843−1852ページ内に記載されている)を前駆体として使用して実施できる。
【0046】
好ましくは基質がソルビトールで且つ触媒が[(Cp*)Ru(COD)]Xであるケースは、本発明から除外される。
【0047】
化学式(III)の上述の錯体の多くは、新規であり、従って本発明の他の態様も表す。
【0048】
特に、前記の新規錯体(III)は、Lが化学式
【化8】

[式中、
各R9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子、随意に置換されたフェニル基、または随意に置換されたC1〜C10−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ
前記R9基の1つあるいは2つは、OSiR113、あるいはOCOR10基であり、前記R11はC1〜C6−アルキル基を表し、前記R10はR11あるいはCF3基あるいは随意に置換されたフェニル基を表し、且つ
少なくとも1つのR9はアルキル基であり、2つの隣接したR9は共に結合してC2〜C10−アルカンジイル基を形成できる]
のC6〜C25化合物であるものであってよい。
【0049】
アルキル基あるいはアルケニル基を表す場合、R9の可能な置換基は、1つあるいは2つのメチル、エチル、メトキシあるいはエトキシ基を含む。R9の可能な置換基、フェニル基を表す場合、R10の可能な置換基は、1つあるいは2つのメチル、エチル、メトキシ、エトキシ、あるいはニトロ基、あるいはCF3、F、Cl、Br基を含む。
【0050】
本発明の実施態様によれば、4つのR9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいはC1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表し、且つ、1つのR9はOSiR113を表し、前記R11はC1〜C4−アルキル基(例えばメチルまたはエチル)を表し、且つ、少なくとも1つのR9はアルキル基である。
【0051】
本発明の方法を実施するために、少なくとも1つの酸性添加剤の使用が必要である。"酸性添加剤"は、少なくとも1つのプロトンを触媒回路に提供できる化合物を意味する。前記の酸性添加剤は、好ましくは0.8〜7の間に含まれるpKaを有する有機あるいは無機化合物であるが、しかし、フェノールあるいはホウ素誘導体の場合には前記のpKaは10までの範囲であってよい。
【0052】
さらには、前記の酸性添加剤は下記からなる群から選択される:
・ 化学式R14(3-x)MO(OH)xの化合物、ここで前記R14はR14'あるいはR14'O基であり、ここで前記R14'はC1〜C10−基であり、MはPあるいはAsであり、且つxは1または2である;
・ 化学式R14B(OH)2のホウ素誘導体、ここでR14は上の定義と同じである;および
・ フェノール、あるいは3つまでのC1〜C4−アルキル基、アルコキシ基またはカルボキシル基、ニトロ基またはハロゲン原子によって置換されたフェノール;
・ C1〜C12−モノカルボン・非アミノ酸;
・ HOOCCH=CHCOOH二酸、およびテトロン酸。
【0053】
"モノカルボン・非アミノ酸"は、ここでは第一級、第二級あるいは第三級アミノ基、あるいは複素環式芳香族窒素誘導体によって置換されていないモノカルボン酸を意味する。
【0054】
特定の実施態様によれば、前記のR14(3-x)MO(OH)xの酸は、R14が随意に置換されたC1〜C8−アルキル基またはアルコキシル基、あるいはC6〜C8−フェニル基またはフェノキシル基であり、MがPまたはAsであり、且つxが1または2である誘導体であってよい。
【0055】
同様に、前記のR14B(OH)2の酸は、R14が随意に置換されたC1〜C8−アルキルまたはアルコキシ基、あるいはC1〜C8−フェニルまたはフェノキシル基であるものであってよい。
【0056】
本発明の他の実施態様によれば、前記の酸はフェノール、あるいは1つのC1〜C4−アルキル基、アルコキシ基またはカルボキシル基、ニトロ基またはハロゲン原子によって置換されたフェノールであってよい。
【0057】
さらには、本発明の他の特定の実施態様によれば、前記の酸性添加剤は化学式R15COOHにおいて、R15が、アルコール基あるいは1つまたは2つのエーテルまたはエステル基によって随意に置換されたC1〜C12−炭化水素基あるいはC1〜C12−ハロゲン化または過ハロゲン化炭化水素基を表す、モノカルボン酸であってよい。さらなる実施態様によれば、前記のカルボン酸は有利にも、以下からなる群から選択される:
・ 化学式R15COOHのカルボン酸、ここで前記R15は、
ハロゲン化または過ハロゲン化C1〜C8−炭化水素基;
16CH(OR16)基、ここで前記R16は水素原子またはC1〜C6−炭化水素基である;
1つあるいは2つのエーテルまたはエステル基によって随意に置換された、C1〜C12−炭化水素基
を表し、ここで前記の随意の置換基は1つ、2つまたは3つのC1〜C4−アルキル基、アルコキシ基またはカルボキシル基、あるいはニトロ基またはハロゲン原子による置換基である。
【0058】
前記の酸性添加剤の限定されない例として、以下が挙げられる:(BuO)2PO(OH)、(tBuO)2PO(OH)、(PhO)2PO(OH)、(PhCH2O)2PO(OH)、tBuPO(OH)2、Ph2PO(OH)、PhPO(OH)2、PhAsO(OH)2、(Me)2AsO(OH)、CF3COOH、HCF2COOH、マレイン酸またはフマル酸、グリコール酸、ピルビン酸、ソルビン酸、酢酸またはオレイン酸、テトロン酸、C613B(OH)2、PhB(OH)2、p−OMe−安息香酸、安息香酸あるいはp−(COOMe)−安息香酸、フェノール、3,5−ジメトキシ−フェノールあるいは2−メトキシ−フェノール。当然、上記の記載に該当する他の適した酸性添加剤を使用してもよい。
【0059】
本発明の他の実施態様によれば、前記の酸性添加剤は以下からなる群から選択される:
・ 化学式R142MO(OH)またはR14MO(OH)2の化合物、ここで前記R14はC1〜C6−アルキルまたはアルコキシル基、あるいはC6〜C8−フェニルまたはフェノキシル、且つMはPまたはAsである;および
・ マレイン酸またはグリコール酸、およびハロゲン化または過ハロゲン化C1〜C7−モノカルボン酸。
【0060】
先に述べたように、本発明の方法はルテニウム錯体および酸性添加剤を使用した、基質の水素添加で構成される。典型的な方法は、基質をルテニウム錯体、少なくとも1つの酸性添加剤、および随意に溶剤と混合し、その後、かかる混合物を選択された圧力および温度にて水素分子によって処理することを含む。
【0061】
該方法の本質的なパラメータである本発明の錯体を、反応媒体に広範囲の濃度で添加できる。限定されない例として、錯体の濃度の値としては、基質の量に対するモルパーセントで0.01モル%〜5モル%の範囲が挙げられる。好ましくは、錯体の濃度は0.03モル%〜2モル%の間に含まれる。言うまでもなく、錯体の最適な濃度は、当業者に公知のように、錯体の性質、基質の性質、溶剤の性質、および工程中に使用されるH2の圧力並びに所望の反応時間に依存する。
【0062】
反応混合物に添加される、酸性添加剤の有用な量は比較的広い範囲に含まれ得る。上で挙げたもの以外に、限定されない例として、錯体に対して0.5〜50モル当量、好ましくは0.8〜20、およびより好ましくは約2〜約10モル当量の範囲の総量を挙げることができる。
【0063】
水素添加反応を溶剤の存在下、あるいは不在下で実施できる。実用上の理由のために溶剤が必要とされるか、あるいは使用される場合、水素添加反応における任意の溶剤流を本発明の目的に使用できる。限定されない例は、非芳香族溶剤、例えばC1〜C12−非芳香族ケトン、エステル、アルカン、エーテル、塩素化アルカンおよびアルコール、およびそれらの混合物を含む。本発明の実施態様によれば、該溶剤は有利にもC1〜C12−アルキル ケトン、エステル、エーテル、または塩素化アルカンの中から選択される。特に、限定されない例として、以下が挙げられる:アセトンエチルアセテート、MTBE、THF、イソ−プロピルアセテート、Et2O、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン(dichloethane)、EtOH、MeOH、ペンタン、ヘキサン。溶剤の選択は錯体の性質に関して行われ、且つ、当業者はそれぞれの場合において最も便利な溶剤を適宜選択して水素添加反応を最適化できる。
【0064】
本発明の水素添加方法において、反応を105Pa〜80×105Pa(1〜80bar)の間に含まれるか、あるいは必要であればそれより高いH2圧力で実施する。ここでもまた、当業者は触媒装入量に関して、および溶剤中の基質の希釈度に関して、圧力を適宜調整できる。例として、1〜30×105Pa(1〜30bar)の典型的な圧力が挙げられる。
【0065】
水素添加が実施できる温度は、0℃〜120℃、より好ましくは40℃〜100℃の範囲に含まれる。当然、当業者は、出発物質および最終生成物の融点および沸点、並びに反応または転化の所望の時間に関して、好ましい温度を選択することもできる。
【0066】
実施例
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ここで温度は摂氏で示され、また略記は当該技術分野での通常の意味を有する。
【0067】
以降に説明される全ての工程は、特段記載されない限り、不活性雰囲気下で実施された。水素添加を、ステンレス鋼のオートクレーブ内部に設置された開口のガラス管内で実施した。H2ガス(99.99990%)を、受け入れたままの状態で使用した。全ての基質および溶剤をAr下で適切な乾燥剤から蒸留した。NMRスペクトルを、Bruker AM−400 (400 MHz)スペクトロメーターで記録し、且つ、特段指定されない限り、通常、300KでCD2Cl2において測定した。ケミカルシフトはppmで、且つ結合定数JはHzで示される。
【0068】
実施例1
A) シクロペンタジエンの合成
シクロペンタジエンを、特許WO2006051503号内で先に記載されている方法によって製造された置換シクロペンテノンから出発して合成した。
【0069】
【化9】

【0070】
シクロペンタジエンは一般に高いモル収率(>80%)且つ純度(> 95%)で得られた。
【0071】
nがアルキル基またはアルケニル基
シクロペンテノン(1当量)をTHF(1.6M)中に溶かした溶液を、0℃で不活性雰囲気下にてRnMgCl(1.2当量)の溶液に添加した。その後、反応混合物を室温に温め、そして3時間攪拌した。その後、酢酸10%を反応混合物に添加し、そして有機相をEt2Oで抽出した。HCl(水中で20%)を該有機相に添加し、そして30分間攪拌した。その後、該有機相をNaHCO3(水中で5%)で中和した。水での洗浄、乾燥および溶剤の蒸発で粗生成物が得られ、それを蒸留によって精製した。
【0072】
n=H
シクロペンテノン(Cyclopentenenone)を、NaBH4(0.5当量)によってEtOH中で不活性雰囲気下にて還元した。後処理の後、粗生成物を分留によって精製した。
【0073】
n=アルコキシまたはシロキシ
Li(NiPr)2(1.2当量)をTHF(2M)中に溶かした溶液を、シクロペンタノン(1当量)をTHF(0.1M)中に溶かした溶液に−78℃で添加した。1時間の攪拌後、アルキルハライド Rn−ハライド、あるいはシロキシハライド(R113Si−ハライド(1.5当量)を反応混合物に添加した。
【0074】
その後、反応混合物を室温に温め、そして5時間攪拌した。反応混合物を蒸発させて乾燥させ、そしてn−ヘキサンを添加した。固体の塩を濾過によって除去し、そして該溶液をその後、蒸発させて乾燥させた。前記の粗生成物を蒸留によって精製した。
【0075】
配位子C5(1,2,4−tBu3)H2を、文献(E.V.Dehmlow,C.Bollmann,Z.Naturforsch.,1993,48b,457−460)によって合成した。
【0076】
B) 触媒合成
ルテニウム触媒を、シクロペンタジエニルおよびジエン配位子の性質、および対イオンの性質にも依存した3つの異なった方法によって合成した。使用した全ての溶剤を乾燥させ、そして不活性雰囲気下にて保管した。
【0077】
方法1:
Lが芳香族基を有さないシクロペンタジエニル配位子である[Ru(L)(1,3−COD)]BF4錯体を、[Ru(COD)(COT)]から出発し、[(CODyI)2RuH][BF4]を経由して2段階で得た。両者はF.Bouachir,B.Chaudret,F.Dahan,F.Agbossou,I.Tkatchenko,Organometallics,1991,10,455〜462に先に記載された方法によって得られた。
【0078】
CH2Cl2(0.05M)中の溶液の[Ru(CODyI)2H]BF4に、不活性雰囲気下にて化学量論組成量の所望の置換をされたシクロペンタジエン誘導体L(1当量/Ru)を添加し、そしてその反応混合物を室温で16時間攪拌した。その後、それを濃縮して乾燥させた。[(L)Ru(1,3−COD)][BF4]錯体を、CH2Cl2/Et2O混合物から晶出させた。それは濾過および真空下での乾燥の後、80モルより高い収率で得られた。
【0079】

【0080】

【0081】
方法2:
芳香族基を有さないシクロペンタジエニル配位子を有する[Ru(L)(ジエン)]X錯体もまた、P.J.Fagan,M.D.Ward,J.C.Calabrese,J.Am.Chem,Soc,1989,111,1698〜1719によって、あるいはP.J.Fagan,W.S.Mahoney,j.C.Calabrese,I.D.Williams,Organometallics,1990,9,1843〜1852によって先に記載された多段階工程によって得た。
【0082】
まず、RuCl3x・H2Oを、EtOH中(0.25M)で過剰量の所望の置換をされたシクロペンタジエン誘導体L(2.5当量/Ru)と反応させて、[Ru(L)Cl2nを得た。該反応混合物を加熱して不活性雰囲気下で3時間還流させ、そしてその後、室温に冷却した。所望の生成物を濾過によって回収した。それはEtOHでの洗浄および真空下での乾燥の後、70モル%より高い収率で得られた。
【0083】
その後、室温で不活性雰囲気下にて、[Ru(L)Cl2nのTHF(0.6M)中の懸濁液と、1当量/Ru1Mの水素化トリエチルホウ素リチウムをTHF中に溶かした溶液とを反応させることによって、[Ru(L)Cl]4を得た。室温で1時間の攪拌の後、反応混合物を不活性雰囲気下で濾過した。THFでの洗浄および真空下での乾燥の後、75モル%より高い収率で、回収された生成物が得られた。
【0084】
室温で不活性雰囲気下にて、[Ru(L)Cl]4をTHF(0.05M)中に溶かした溶液と、わずかに過剰量の所望のジエン(1.5当量/Ru)とを反応させることによって、[Ru(L)(ジエン)Cl]を得た。1時間の攪拌の後、反応混合物を不活性雰囲気下で濾過して、そして回収された溶液を濃縮して乾燥させた。得られる残滓をペンタン中ですりつぶすことによって沈殿させ、そして固体の生成物を不活性雰囲気下で濾過によって回収した。それはペンタンでの洗浄および真空下での乾燥の後、75モル%より高い収率で得られた。
【0085】
室温で不活性雰囲気下にて、[Ru(L)(ジエン)Cl]をアセトン(0.25M)中に溶かした溶液と、化学量論組成量(1当量/Ru)のAgXとを反応させることによって、[Ru(L)(ジエン)]Xを得た。室温での1時間の攪拌の後、反応混合物を不活性雰囲気下で濾過して、そして回収された溶液を濃縮して乾燥させた。[Ru(L)(ジエン)]XをCH2Cl2/Et2O混合物から晶出させた。それは濾過および真空中での乾燥の後、75モル%より高い収率で得られた。該生成物が、主にジエンの性質に依存してしばしばアセトン付加物として得られ、その際、アセトンはルテニウム中心にケトンあるいはエノール形として配位している(IR分光法によって観察)ことについて、注目する価値がある。
【0086】

【0087】
方法3:
芳香族基を有するシクロペンタジエニル配位子Lを有する[Ru(L)(COD)]BF4錯体を、P.Alvarez,J.Gimeno,E.Lastra,S.Garcia−Granda,J.F.Van der Maelen,M.Bassetti,Organometallics,2001,20,3762〜3771によって先に記載された多段階工程によって得た。
【0088】
室温で不活性雰囲気下にて、[Ru(ジエン)Cl2]のTHF(0.05)中の懸濁液と、化学量論組成量(1当量/Ru)のLのナトリウム塩をTHF中に溶かした、新規に調製された溶液とを反応させることによって、[Ru(L)(ジエン)Cl]を得た。室温で1時間の攪拌の後、わずかに過剰量(1.2当量/Ru)のHClをEt2O(2M)中に溶かした溶液を、反応混合物に添加し、この温度でさらに1時間、攪拌した。それをその後、不活性雰囲気下で濾過し、そして回収された溶液を濃縮して乾燥させた。得られる残滓をペンタン中ですりつぶすことによって沈殿させ、そして固体の生成物を不活性雰囲気下で濾過によって回収した。それはペンタンでの洗浄および真空下での乾燥の後、70モル%より高い収率で得られた。
【0089】
室温で不活性雰囲気下にて、[Ru(L)(ジエン)Cl]をアセトン(0.25M)中に溶かした溶液と、化学量論組成量(1当量/Ru)のAgXとを反応させることによって、[Ru(L)(ジエン)]を得た。室温での1時間の攪拌の後、反応混合物を不活性雰囲気下で濾過して、そして回収された溶液を濃縮して乾燥させた。[Ru(L)(ジエン)]XをCH2Cl2/Et2O混合物から晶出させた。それは濾過および真空中での乾燥の後、75モル%より高い収率で得られた。該生成物が、主にジエンの性質に依存してしばしばアセトン付加物として得られ、その際、アセトンはルテニウム中心にケトンあるいはエノール形として配位していることについて、注目する価値がある。
【0090】
実施例2
本発明による水素添加反応
典型的な水素添加反応方法
本発明による、基質、溶剤、[Ru(L)(ジエン)]Xおよび酸性添加剤を、不活性雰囲気下でまとめてオートクレーブに装入し、そして該混合物を室温で窒素を用いて(2bar、3回)、その後水素を用いて(2bar、3回)攪拌しながらパージした。該オートクレーブをその後、所望の水素圧力に加圧し、且つ所望の温度で加熱した。該反応の後、水素吸着をモニター、および/またはGC分析サンプリングを行った。該ルテニウム触媒は残滓の蒸留によって容易に除去でき、且つ生成物の異性体混合物を通常、90モル%より高い収率で回収できた。
【0091】
得られた結果を以下の表にまとめる。
【0092】
表1:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響
【表1】

【0093】
表2:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響
【表2】

【0094】
表3:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響
【表3】

【0095】
表4:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響
【表4】

【0096】
表5:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響
【表5】

【0097】
表6:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響、ジエンの影響
【表6】

【0098】
表7:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響、配位子Lの影響
【表7】

【0099】
表8:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響、アニオンXの影響
【表8】

【0100】
表9:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響、配位子Lの影響
【表9】

【0101】
表10:酸性添加剤およびその存在が水素添加選択性におよぼす影響、ジエンの影響
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2分子を使用して1,4−水素添加によって、化学式:
【化1】

[式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいは随意に置換されたC1〜C12−アルキル基またはアルケニル基を表し、
2あるいはR6の1つが随意に置換されたC1〜C12−アルコキシ基またはアシルオキシ基を表してもよく、且つ
1とR3、あるいはR3とR4、あるいはR2とR6、あるいはR6とR5、あるいはR4とR5とが一緒になって、随意に置換されたC2〜16アルカンジイル基または非共役アルケンジイル基を形成できる]
のC5〜C22−共役ジエンを、化学式:
【化2】

[式中、
1〜R6は化学式(I)の化合物と同一の意味を有し、且つ、シス配置においてR1およびR2基を有する異性体が支配的である]
の相応するアルケンへと触媒還元するための方法において、
前記の方法が、
・ 少なくとも1つの化学式:
[Ru(L)(ジエン)(L’)n]X (III)
[式中、
LはC5〜C25−置換シクロペンタジエニル配位子を表し、ジエンはC4〜C22−ジエンを表し、且つXは配位していないアニオンを表し、nは2、1または0を表し、且つL’は溶剤を表す]
のルテニウム触媒または前触媒、
および
・ 以下からなる群から選択される少なくとも1つの酸性添加剤:
化学式R14(3-x)MO(OH)xの化合物、ここで前記R14はR14'あるいはR14'O基であり、ここで前記R14'はC1〜C10−基であり、MはPあるいはAsであり、且つxは1または2である;および
化学式R14B(OH)2のホウ素誘導体、ここでR14は上の定義と同じである;および
フェノール、あるいは3つまでのC1〜C4−アルキル基、アルコキシ基またはカルボキシル基、ニトロ基またはハロゲン原子によって置換されたフェノール;および
1〜C12−モノカルボン・非アミノ酸;および
HOOCCH=CHCOOH二酸、あるいはテトロン酸;
の存在下で実施されることを特徴とする方法(ただし、化合物(I)がソルビトールであり、且つ化合物(III)が化学式[Ru(Cp*)(COD)]Xである方法は除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、Lが化学式:
【化3】

[式中、
各R9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子、随意に置換されたフェニル基、あるいは随意に置換されたC1〜C10−アルキル基またはアルケニル基であり、且つ、
前記のR9基の1つまたは2つがCF3基、OSiR113、OCOR10、COR10またはCOOR10基であってよく、前記R11はC1〜C11−アルキル基を表し、前記R10はR11あるいはCF3基あるいは随意に置換されたフェニル基を表し、且つ、
少なくとも1つのR9がアルキル基であり、2つの隣接したR9が共に結合してC2〜C10−アルカンジイル基を形成できる]
のC6〜C25−化合物であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、2つのR9が同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいはC1〜C4−アルキル基を表し、且つ他の3つのR9が同時あるいは独立にC1〜C4−アルキル基を表すことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、4つのR9が、同時あるいは互いに独立に、水素原子あるいはC1〜C4−アルキル基を表し、且つ1つのR9がOSiR113を表し、R11がC1〜C4−アルキル基を表し、且つ少なくとも1つのR9がアルキル基であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法において、ジエンが共役あるいは共役していない環式C6〜C12−アルカジエンであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法において、XがClO4-、R12SO3-であり、ここで前記R12は塩素あるいはフッ素原子、あるいは、C1〜C8−フルオロアルキルまたはフルオロアリール基、BF4-、PF6-、SbCl6-、SbF6-、またはBR134-であり、ここで前記R13は1つから5つのハライドの原子またはメチル基またはCF3基によって随意に置換されたフェニル基であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法において、モノカルボン酸が化学式R15COOH
[式中、R15が、
ハロゲン化または過ハロゲン化C1〜C8−炭化水素基;
16CH(OR16)基、ここで前記R16は水素原子またはC1〜C6−炭化水素基である;
1つあるいは2つのエーテルまたはエステル基によって随意に置換されたC1〜C12−炭化水素基
を表し、前記の随意の置換基は1つ、2つまたは3つのC1〜C4−アルキル基、アルコキシ基またはカルボキシル基、あるいはニトロ基またはハロゲン原子による置換基である]
のカルボン酸からなる群から選択される方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、酸性添加剤が、
・ 化学式R142MO(OH)またはR14MO(OH)2の化合物、ここで前記R14はC1〜C6−アルキルまたはアルコキシル基、あるいはC6〜C8−フェニルまたはフェノキシル、且つMはPまたはAsである;および
・ マレイン酸またはグリコール酸、およびハロゲン化または過ハロゲン化C1〜C7−モノカルボン酸
からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法において、化学式(I)の共役ジエンが、化学式(I’):
【化4】

[式中、
aは直鎖、分岐鎖あるいは環式C1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ、Rbは(CH2nX基を表し、前記nは0、1、2または3を表し、前記XはCHO、OH、OCORc、ORcまたはCOORc基を表し、前記RcはC1〜C8−アルキル基あるいはアルケニル基である]、
あるいは、化学式(I’’):
【化5】

[式中、
dおよびReは水素原子あるいはOH、OCORf、ORfまたはCOORf基によって随意に置換されたC1〜C8−アルキルまたはアルケニル基を表し、前記RfはC1〜C8−アルキルまたはアルケニル基であり、ただし、RdとReとが同時に水素原子を表さない]
の化合物であることを特徴とする方法。
【請求項10】
化学式:
[Ru(L)(ジエン)(L’)n]X (III)
[式中、
ジエンはC4〜C22−ジエンを表し、且つXは配位していないアニオンを表し、nは2、1または0を表し、且つL’は溶剤を表し、且つ、Lは化学式:
【化6】

[式中、
各R9は、同時あるいは互いに独立に、水素原子、随意に置換されたフェニル基、または随意に置換されたC1〜C10−アルキル基あるいはアルケニル基を表し、且つ
前記R9基の1つあるいは2つは、OSiR113、またはOCOR10基であり、前記R11はC1〜C6−アルキル基を表し、前記R10はR11あるいはCF3基あるいは随意に置換されたフェニル基を表し、且つ
少なくとも1つのR9はアルキル基であり、2つの隣接したR9は共に結合してC2〜C10−アルカンジイル基を形成できる]
のC6〜C25−化合物を表す]
のルテニウム錯体。

【公表番号】特表2010−523543(P2010−523543A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501639(P2010−501639)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051227
【国際公開番号】WO2008/120175
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】