説明

SATB1:形態形成および腫瘍転移の決定因子

癌細胞がSATB1を発現し、SATB1が転移活性を促進する遺伝子の特定のセットの発現を制御することで転移活性の獲得に関する決定因子として作用することを提言する。乳癌細胞が転移能を獲得するためにSATB1は、遺伝子発現パターンの切り替えを可能とするように特異的に、ゲノム配列を再構成するかまたは再パッケージングする。SATB1の発現は侵襲癌細胞に主に限定されることが見出され、そこで転移過程に関与する段階をプログラムする遺伝子変化およびエピジェネティックな変化を調節する可能性がある。本発明は、侵襲癌の診断および予後予測に使用されるSATB1タンパク質を検出するための試薬およびツール、ならびにSATB1タンパク質を阻害して、転移癌および侵襲癌におけるその発現を枯渇させるための治療法について説明する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌のマーカーおよび治療法に関する。具体的には本発明は、進行期の原発腫瘍の指標として機能し、ならびに侵襲癌を促進する一般的な癌マーカーの検出および阻害に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のために全体が参照により本明細書に組み入れられる、2005年9月30日に出願された米国仮特許出願第60/722,833号の優先権による利益を主張する。
【0003】
政府の支援に関する言明
本発明は、米国エネルギー庁によって支援された研究の過程で、ローレンスバークレー国立研究所において、契約番号DE-AC02-05CH11231の下で作製された。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0004】
添付の配列表および付表に関する言及
本出願は参照により、その全体でおいて、紙の形式で表される表と同一の、コンピューターで読み取り可能な形式で表された添付の配列表を組み入れる。
【0005】
本出願は参照により、その全体において、紙の形式で表された付表を組み入れる。
【背景技術】
【0006】
関連技術
転移細胞は、原発腫瘍部位から拡散して、遠位臓器に二次腫瘍を確立する能力を獲得した、原発腫瘍巣内に含まれる特殊な腫瘍細胞亜群である。多数の遺伝子の発現の異なるパターンが、乳癌の発生および/または進行と関連づけられている。さまざまな変異が最終的に、さまざまな患者において転移性乳癌の発生に至る場合があるが、乳癌細胞がこのような侵襲性の表現型を獲得してこれを維持することを可能とする共通の、および基礎的な分子機構が存在するはずである。このような機構は、細胞内のDNA構成のレベルにおいて存在する可能性が高い。
【0007】
細胞は、細胞の機能に関連する遺伝子のみを発現させるために、非常に長いDNAを細胞の核の小さな空間内に組織化しなければならない。リンパ球中のタンパク質SATB1に関する発明者らの最近の研究は、いかにしてこの「機能的」パッケージングが達成されるかという謎に光を当てた。SATB1はゲノムDNA配列を、一連の特定のDNA配列が、さまざまな酵素、および遺伝子発現に必要なタンパク質因子によって足場を設けて集合する核内構造を提供することで組織化する。したがってSATB1は、ゲノムオーガナイザーとして作用し、数多くの遺伝子を制御している。
【0008】
発明者らの1人は、SATB1について長年にわたって研究してきた。SATB1については、米国特許第5,652,340号に記載されており、これに対して作製された抗体については、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,869,621号に記載されている。発明者らの研究グループは、ゲノムが核内で機能的に組織化される仕組みについて研究している。T細胞株で主に発現されるSATB1に関する、Kohwi-Shigematsuのグループによる最近の研究(Dickinson, L. A., T. Joh, Y. Kohwi, and T. Kohwi-Shigematsu, Cell 70:631, 1992;Alvarez, J. D., Yasui, D. H., Niida, H., Joh, T., Loh, D. Y.、およびKohwi-Shigematsu, T., Genes Dev 14, 521-535, 2000)では、特殊化したDNA配列をつなぎ止めることでクロマチンが折りたたまれる固有の核構造を1つのタンパク質が提供可能であるという新しい概念が導入されている(Yasui et al., Nature 419:641-645, 2002;Cai et al., Nat. Genet. 37:31-40, 2003)。このような特殊化したDNA配列は、塩基非対合形成領域(base unpairing region;BUR)と呼ばれ、これは、負の超らせんの張力を受けて塩基非対合が高度に高められた2本鎖DNAである(Kohwi-Shigematsu, T. and Kohwi, Y. Biochemistry, 29:9551-9560, 1990: Bode, J., Kohwi, Y., Dickinson, L. Joh, T., Klehr, D., Mielke, C、およびKohwi-Shigematsu, T. Science, 255:195-197, 1992)。SATB1は、新しいクラスの遺伝子調節因子であり:クロマチンリモデリング/修飾複合体を、SATB1の核構造に足場が築かれたDNA配列に導くことで、クロマチン構造を長い距離にわたって調節するとともに、数多くの遺伝子の発現を調節している(Yasui, D., Miyano, M., Cai, S., Varga-Weisz, P., and Kohwi-Shigematsu, T.(2002) Nature 419, 641-645;Cai, S., Han, H. J.、およびKohwi-Shigematsu, T.(2003) Nat Genet 34, 42-51)。
【0009】
細胞型に特異的であり、およびT細胞の発生に必要であると考えられていたSATB1が、乳癌細胞で、主に転移性乳癌細胞においても発現されることは全く予想されていなかった。発明者らは、T細胞の分化中に数多くの遺伝子の時間的および空間的な発現を調整する、細胞型特異的な核タンパク質であるSATB1について調べた(Alvarez, J. D., Yasui, D. H., Niida, H., Joh, T., Loh, D. Y.、およびKohwi-Shigematsu, T.(2000) Genes Dev 14, 521-535)。発明者らは、SATB1が、胸腺細胞の核内においてSATB1によって形成される特徴的な「かご状」の核構造が、転移性乳癌細胞の核内にも見出されるをことを明らかにした。SATB1は、T細胞の分化および機能に重要な役割を果たす遺伝子を直接調節することが報告されている。SATB1は、T細胞内で細胞特異的なゲノムオーガナイザーとして作用するので、SATB1が転移性乳癌においてもゲノムオーガナイザーとして作用し、および乳癌の転移活性に必要な重要な因子群を調節する可能性は極めて高い。
【0010】
SATB1が標的とするBURは、HMG-I(Y)、SAF-A、PARP、およびKu70/86によっても選択的に認識される。これらのBUR結合タンパク質も、癌が侵襲性のより高い表現型を獲得するに伴って発現が上昇する(Liu W-M, et al., HMG-I(Y) recognizes Base-unpairing regions of matrix attachment sequences and its increased expression is directly linked to metastatic breast cancer phenotype. Cancer Research 59, 5695-5703(1999);Yanagisawa J., et al., A matrix attachment region (MAR)-binding activity due to a p114 kilodalton protein is found only in human breast carcinomas and not in normal and benign breast disease tissues. Cancer Research, 56, 457-462(1996);Galande S and Kohwi-Shigematsu, T. Linking chromatin architecture to cellular phenotype: BUR-binding proteins in cancer. J. Cellular Biochem. Suppl. 35, 36-45(2000))。
【0011】
転移は、癌細胞が原発腫瘍部位から拡散して、遠位臓器において二次腫瘍を確立する多段階の過程である(Welch, D. R., Steeg, P. S., and Rinker-Schaeffer, C. W.(2000) Breast Cancer Res 2, 408-416)。最近、さまざまなヒト腫瘍試料を対象とした遺伝子のマイクロアレイ解析によって、転移性疾患の予後マーカーとして潜在的に有用な遺伝子発現プロファイルが得られている(van de Vijver, M. J., et al.,(2002) N Engl J Med 347, 1999-2009;Ramaswamy, S., and Perou, C. M.(2003) Lancet 361, 1576-1577;Sorlie, T., et al.,(2003) Proc Natl Acad Sci USA 100, 8418-8423)。腫瘍転移に対するそのような遺伝子の特異的な寄与を明らかにしようとする研究は極めて困難である。しかしながら一部の遺伝子は、異所的発現時に転移表現型を促すことが報告されている(Yang, J., et al.,(2004) Cell 117, 927-939;Eckel, K. L., et al.,(2003) DNA Cell Biol 22, 79-94)。腫瘍の転移は、癌患者の最も多い死因である。したがって、転移の重要な調節因子、およびそれらの機能を同定することは、将来の転移に対する有効な介入法を考案するために極めて重要である。
【発明の開示】
【0012】
Special AT-rich binding protein 1(SATB1)は当初、T細胞系統における因子として明らかにされたが、SATB1は意外なことに、転移性乳癌細胞株だけでなく、非転移性乳癌細胞株で、および転移を伴う進行期の乳癌に由来するヒト組織標本でも発現されることが判明した。高レベルのSATB1の発現は、あらゆるリンパ節陽性の低分化型の浸潤性腺管癌で検出されており、また低レベルの発現は、全てとは言わないまでも一部の中分化型の腫瘍試料で検出されている。SATB1タンパク質は、検討された28の腫瘍試料のうち23試料で検出されたが、10例の正常対照では、いずれも検出されなかった。28の腫瘍試料のうち16例が転移性乳癌であった。SATB1は、16例の転移性乳癌試料の全てにおいて、中分化型の腫瘍試料または正常組織試料のいずれかと比較して、極めて高い統計的有意性(P<0.0001)で発現した。SATB1は、どの正常隣接組織中にも検出されなかった。さらにSATB1は、小細胞肺癌、白血病(ジャーカット細胞、CEM細胞)、リンパ腫、および結腸癌でも発現されることが判明している。したがってSATB1は、癌の診断および予後予測のための信頼できるマーカーとなる可能性がある。
【0013】
さらに、SATB1を標的とすることで治療戦略を考案することが可能であると考えられる。発明者らの得た新たな知見から、侵襲性癌細胞からSATB1を枯渇させると、その侵襲性の表現型が、非侵襲性の表現型に逆転することがわかっている。さらに、SATB1を強制的に発現させると、非侵襲性癌細胞で侵襲性の表現型が誘導される。SATB1が発現されると、同タンパク質は、癌細胞の転移活性を促進するか、または同活性に必要な特定のセットの遺伝子の発現を制御することで、癌細胞の転移活性を高めるようである。SATB1は、ゲノム配列の再編成に、遺伝子発現パターンの切り替えを可能にする特異的な様式で寄与すると考えられている。本明細書に記載された知見から、SATB1が、新たな表現型(すなわち転移)を得るように切り替える癌細胞の決定因子として作用することがわかる。
【0014】
したがって、本明細書に記載された方法および組成物はいずれも新規であり、ならびに癌研究において、診断/予後予測法の開発と治療戦略の開発の両方に関して有用である。腫瘍の転移は、癌患者の最も一般的な死因である。したがって、細胞が転移活性を獲得することを防ぐこと、または転移細胞の細胞死を促進することは、多くの癌患者の命を救うことにつながると考えられる。診断の初期段階において、転移に関する高い指標を有する細胞を早期に検出することは、患者のリンパ節の状態に関係なく、積極的な治療によって利益を得られるであろう患者を同定するのに役立つ。一方で、組織標本中にそのような細胞が存在しないことは、再発に関する不安を和らげることに役立つであろう。
【0015】
好ましい態様の詳細な説明
略語
SATB1;Special AT-rich binding protein 1
HMEC;ヒト乳腺上皮の細胞株
SATB1-siRNAまたはSATB1-shRNA;SATB1に対する短鎖ヘアピン干渉RNA
2D培養;2次元培養、プラスチックディッシュ培養
3D培養;マトリゲル上における3次元培養
RT-PCR;逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
GO;遺伝子オントロジー
EMT;上皮-間葉転換
ChIP;クロマチン免疫沈降法
LM-PCR;ライゲーションによるポリメラーゼ連鎖反応
IL-2Rα;インターロイキン-2受容体アルファ
BRMS1;乳癌転移抑制因子1(Breast carcinoma metastasis suppressor 1)
PLAUR;プラスミノーゲンアクチベーターウロキナーゼ
OB;骨芽細胞
BM;基底膜
【0016】
本発明は、高レベルのSATB1の発現が、乳癌細胞がインビトロで浸潤し、かつインビボで転移する能力と相関するということを示す、発明者らの得た最近の知見に基づく方法および組成物を提供する。SATB1の高い臨床的意義は、ヒト乳癌で見出された(実施例参照)。28の腫瘍試料のなかで、16試料が転移性乳癌であった。SATB1は、16の転移性乳癌試料の全てにおいて、中分化型腫瘍試料または正常組織試料のいずれかと比較して、極めて高い統計的有意性(P<0.0001)で発現した。SATB1は、どの正常隣接組織でも検出されなかった。SATB1は、小細胞肺癌、白血病(ジャーカット細胞、CEM細胞)、リンパ腫、および結腸癌で発現することも確認された(データは提示していない)。したがってSATB1が、これらの癌、および他の侵襲癌すなわち進行癌に関して本明細書に記載されたように、予後予測、診断、および治療における応用に使用可能なことが想定される。
【0017】
他の癌の診断および検出は、一部の遺伝子の遺伝子増幅に依存する一方で、本発明は、SATB1の異所性発現に依存している。加えて、癌に特異的な別の形状のSATB1が存在する可能性があり、これは侵襲癌で発現される翻訳後修飾を受けたバージョンのSATB1の可能性がある。SATB1は遺伝子調節因子であるので、SATB1は、その癌特異的な形状では、転移癌に関与する遺伝子をオンにして組織化し、インビボにおける細胞の形態形成、細胞運動、および癌細胞の浸潤活性に決定的な役割を付与すると考えられる。
【0018】
乳腺組織の生検試料の乳腺上皮細胞におけるSATB1の検出は、侵襲性乳癌細胞の同定に十分であるが、SATB1は、活性化リンパ球でも検出される場合がある。したがって、癌特異的な形状のSATB1は、悪性細胞を特異的に検出する際の有用なマーカーになると考えられる。例えば、癌特異的なSATB1を生化学的に明らかにするためには、BURアフィニティクロマトグラフィーによって、転移性乳癌標本からSATB1を、Kohwi-Shigematsu et al., Methods in Cell Biology 53: 324-352, 1998に記載された確立された方法で同定することができる。
【0019】
癌特異的なSATB1タンパク質上の特定の修飾領域は、核磁気共鳴(NMR)、MALDI解析(例えばMALDI-TOF)などの、当技術分野で既知および有用な手法で同定可能である。これは文献に記載されたdsによって、または、Bechtel PE, et al.、「A unique form of proliferating cell nuclear antigen is present in malignant breast cells.」、Cancer Res. 1998 Aug l;58(15):3264-9を改変した方法で観察されるか癌特異的なタンパク質PCNAの場合と似ている。方法は、PCNAのさまざまなイソ型の存在と特異的なタンパク質分解が、インビボにおけるその機能に重要であるという考えと一致するデータについて述べた、Naryzhny SNA and Lee H、「Observation of multiple isoforms and specific proteolysis patterns of proliferating cell nuclear antigen in the context of cell cycle compartments and sample preparations」、Proteomics. 2003 Jun;3(6):930-6に記載された手順か、または改変された手順を使用することも可能である。いずれの参考文献も参照により、それらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0020】
したがって、試薬およびツールは、当技術分野で周知の方法で作製可能であり、診断および予後予測に使用される、侵襲性乳癌細胞で特異的に発現されるSATB1タンパク質を検出することが可能である。別の態様では、SATB1タンパク質を阻害して、転移癌および侵襲癌において、その発現を枯渇させるか、またはその機能をブロックするような治療法が可能である。
【0021】
A.SATB1を使用する診断および/または予後予測の適用
本発明の1つの態様では、SATB1タンパク質の検出法は、転移癌および侵襲癌の診断ならびに予後予測における使用のために提供される。特異的な態様では、検出される癌は乳癌である。他の態様ではSATB1は、肺小細胞肺癌、白血病(ジャーカット細胞、CEM細胞)、リンパ腫、骨癌、および結腸癌などの癌で検出される。上述したように、このような応用が可能なのは、正常組織ではSATB1が検出されず、および低レベル〜検出不能なレベルのSATB1の発現が、中分化型の浸潤性腺管癌であると当初診断された癌で検出され、および高レベルのSATB1の発現が転移性乳癌で検出され得るためである。
【0022】
1.SATB1のヌクレオチド検出
1つの態様では、SATB1の発現をPCRアッセイ法で検出する。配列の増幅をゲル電気泳動によるシグナル増幅によって検出するためのプライマーは、SATB1の固有の配列(SEQ ID NO: 1)またはゲノム配列を使用して作製することができる。当技術分野で周知なように、プライマーまたはオリゴヌクレオチドは、一般に15〜40 bpの長さであり、および通常は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や逆転写酵素PCRなどの方法で増幅され得る固有の配列に隣接する。SATB1の発現を検出するためのプライマーは、SATB1を含むゲノム配列、およびSATB1に隣接するゲノム配列を元に作製可能である。SATB1は、第3染色体の短腕23領域上に位置し、Gene IDは6304であり、およびUnigene Locus番号はHs.517717である。本発明におけるプローブおよび他の配列の作製に有用な配列は、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号NM_002971.2(GI:33356175)に記載されているヒトSATB1 mRNA、およびヒトSATB1タンパク質の配列(GenBankアクセッション番号NP_002962)を含むが、これらに限定されない。
【0023】
好ましい態様では、SATB1の発現は、侵襲癌細胞におけるSATB1の転写レベルを検出するRT-PCRアッセイ法で検出される。
【0024】
別の態様では、SATB1の発現は、バイオバーコードベースの標的分析物の検出について説明した、Mirkin et al.、米国特許出願第20020192687号および第20050037397号に記載されたバイオバーコードアッセイ法による比色検出で検出される。
【0025】
2.SATB1の抗体検出
別の態様では、侵襲性乳癌細胞における異所的なSATB1の発現は、ヒトの生検組織標本を対象とした免疫組織化学的アッセイ法で検出可能である。抗SATB1抗体は、いずれも参照により全ての目的で全体が本明細書に組み入れられる、米国特許第5,652,340号および第5,869,621号に記載されている、当技術分野で既知の方法で作製可能である。癌特異的な形状のSATB1が完全に解析されれば、そうした形状に特異的な抗体を作製することもできる。このような抗体は、正常SATB1タンパク質を発現する活性化リンパ球を含む可能性のある全組織抽出物を対象としたウェスタンブロットアッセイ法による、侵襲癌に特異的な形状のSATB1の検出をはるかに容易にするであろう。癌特異的なSATB1に対する抗体であれば、生検試料から調製された全細胞抽出物を使用して、活性化リンパ球に由来する侵襲性乳癌細胞で発現したSATB1を識別可能なはずである。
【0026】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は、当技術分野の周知の方法で作製することができる。このような抗体を作製する好ましい方法では、SATB1タンパク質に由来するペプチド断片を最初に合成する。このようなペプチド断片は、SEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 3のペプチドなど、正常SATB1と比較して改変された翻訳後修飾を受けるSATB1遺伝子中の固有の領域をカバーすべきである。仮に、特異的なタイプの修飾が、癌特異的なSATB1中に見出されれば、適切な修飾が施されたペプチドを合成することができる。合成されたペプチドは、それ自体が必ずしも常に免疫原性があるわけではないので、このようなペプチドは、使用前に担体タンパク質に結合させるべきである。適切な担体タンパク質は、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)を含むが、これに限定されない。次に結合型のホスホペプチドをアジュバントと混合して、哺乳動物(好ましくはウサギ)に皮内注射で注入して免疫応答を誘発すべきである。血清の試料を回収し、ELISAアッセイ法で検討して、抗体の力価を決定した後に回収することができる。
【0027】
ポリクローナル(例えば抗SATB1)抗体は、回収抗体をアフィニティカラムに通すことで精製可能である。モノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体より好ましく、および抗体を発現する不死化細胞株を作製する当技術分野で既知の標準的な方法で作製可能である。1つの態様では、対照のSATB1抗体は、米国特許第5,869,621号に記載の抗体である。
【0028】
非ヒト抗体は、ヒトにおいて免疫原性が高いので効力は低い。免疫原性を減じるために、非ヒト抗体は、治療薬としての応用に対してヒト化する必要がある。長年にわたって多くの研究者が、非ヒト抗体をヒト化するためのさまざまな戦略を開発してきた。その1つの例が、MEDAREX社から入手可能で、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、van de Winkelによる米国特許第6,111,166号に記載された「HuMAb-Mouse」法の使用である。「HuMAb-Mouse」は、ヒトの免疫グロブリン(Ig)遺伝子座の全体を有するトランスジェニックマウス系統であり、したがってモノクローナル抗SATB1抗体などの完全ヒトモノクローナル抗体の産生に使用することができる。
【0029】
1つの態様では、正常SATB1に対する抗体を使用した免疫組織化学的解析により、細胞の形状によって識別可能で、組織標本中に存在する、侵襲性の悪性乳癌細胞および活性化T細胞が検出される。しかしながら、固定組織標本を対象とした免疫組織化学的解析、および癌特異的なSATB1に対する抗体を使用する細胞抽出物を対象としたウェスタンブロット解析では、任意の標本中の転移の可能性のある侵襲性乳癌細胞の存在が特異的に検出される。
【0030】
別の態様では、抗SATB1抗体は、小細胞肺癌、白血病(ジャーカット細胞、CEM細胞)、リンパ腫、および結腸癌、および他の進行癌を含む他のタイプの癌の検出を容易にするために使用される。
【0031】
B.SATB1を使用する治療への応用
SATB1は、乳癌細胞の侵襲性に影響する重要な分子である。したがって別の態様では、発明者らは、好ましくは活性型すなわち機能性のSATB1を枯渇させることによって、SATB1の発現を操作する。本発明はさらに、SATB1を異所的に発現する悪性細胞を治療するための化合物を提供する。好ましい態様では、このような化合物は、アンチセンスオリゴヌクレオチド;siRNA/shRNAオリゴヌクレオチド;SATB1の機能に干渉する小分子;SATB1を阻害する核酸配列を産生するウイルスベクター;またはアプタマーなどのSATB1阻害物質である。
【0032】
例えば、このような操作は、最適化されたshRNAを使用することで可能である。shRNAの標的発現レベルと正常化効果(normalizing effect)の間に見られる強いピアソン相関から、発現レベルが、標的タンパク質阻害物質に対する反応の程度を決定することがわかる。高処理能の方法で、shRNAなどのSATB1阻害物質、ならびに/またはSATB1阻害物質を培養細胞および異種移植片に効率的に送達する低分子阻害物質製剤を同定することができる。癌特異的なSATB1阻害性製剤は好ましくは、癌特異的なSATB1を発現する異種移植片に対して有効であり、およびこのような製剤は、癌の形成、発生、または成長を阻害する。本明細書に記載された、このような方法による有効な製剤は、臨床応用のために開発されるであろう。
【0033】
1.RNA干渉(RNAi)配列の設計
1つの態様では、SATB1を阻害する配列は、既知の方法で同定される。このような阻害物質は、SATB1に結合してSATB1の発現および/または機能を阻害するように作用するsiRNAオリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド阻害物質、およびアプタマー配列を含んでもよいが、これらに限定されない。別の態様では、阻害物質siRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドは、SATB1およびSATB1の発現を標的とするように特異的に使用される。
【0034】
1つの態様では、RNA干渉を用いて、一般的にその同族RNAの切断および破壊を介して候補遺伝子の発現に影響する、低分子量の2本鎖RNA(低分子干渉RNA(siRNA)または短鎖ヘアピンRNA(shRNA))阻害物質を生成する。本明細書で、siRNAとshRNAは互換的に使用可能である。低分子干渉RNA(siRNAまたはshRNA)は、典型的には19〜22 ntの2本鎖RNAである。siRNAは、化学合成によってまたはDNAベクターをベースとしたRNAi法によって得られる。DNAベクターをベースとしたsiRNA法によって、対象遺伝子を標的とする短鎖ヘアピンRNAをコードする短いDNA挿入配列(約70 bp)が、市販のベクターにクローニングされる。挿入配列を含むベクターを細胞にトランスフェクトして、短鎖ヘアピンRNAを発現させることが可能である。ヘアピンRNAは、細胞内装置によって速やかに19〜22 ntの2本鎖RNA(siRNA)に切断される。好ましい態様では、siRNAは適切なRNAiベクター中に挿入される。なぜなら、合成によって作製されたsiRNAはトランスフェクション時の安定性が低く、それほど有効ではない傾向があるからである。
【0035】
siRNAは、参照により本明細書に組み入れられる、

に記載された方法およびアルゴリズムで作製することができる。
【0036】
siRNAの配列を構築するための他のツールは、GenScript, Oligo Designから入手可能なsiRNA Target FinderやConstruct Builder、およびIntegrated DNA TechnologiesのAnalysis Tools、またはDharmacon社のsiDESIGN(商標) Centerなどのウェブ上のツールである。siRNAは、好ましくは開始コドンの50〜100 nt下流に位置するORF(オープンリーディングフレーム)を標的選択領域として使用して構築することが推奨されている。siRNAは、タンパク質レベルではなくmRNAレベルで機能することから、siRNAを設計する際は、標的となるmRNAのヌクレオチドの正確な配列が必要となる場合がある。遺伝子コードの縮重性およびコードのバイアスのために、ペプチド配列から正しいヌクレオチド配列を正確に予測することは困難である。加えて、siRNAの機能はmRNA配列を切断することであるため、siRNAの設計には、ゲノム配列ではなくmRNAのヌクレオチド配列を使用することが重要である。ただし、実施例に記載されるように、ゲノム配列は、siRNAの設計に良好に使用可能である。しかしながら、ゲノム情報を使用した設計は、イントロンを意図せずに標的としてしまう可能性があり、結果としてsiRNAは、対応するmRNAのサイレンシングに対して機能しない場合がある。
【0037】
合理的なsiRNAの設計は、意図されない標的に対するセンス鎖またはアンチセンス鎖の部分的な相補性によってしばしば生じるオフターゲット効果を最小化すべきでもある。このような作用は濃度依存性であることが知られており、オフターゲット効果を最小化する1つの方法は、siRNA濃度を低下させることである場合が少なくない。このようなオフターゲット効果を最小化する別の方法は、siRNAを標的特異性に関してスクリーニングすることである。
【0038】
1つの態様では、蛍光色素、官能基、または極性基などの化合物を提示するように、siRNAをセンス鎖の5'端で修飾することが可能である。アンチセンス鎖の5'端の修飾は、siRNAのサイレンシング活性に干渉することが報告されているため、この位置は修飾対象部位として推奨されない。他の3か所の末端における修飾は、サイレンシング活性を最小限に抑えるか、またはゼロにすることが報告されている。
【0039】
プライマーは、siRNA切断部位の1つを囲むように設計することが推奨され、これはデータ上に生じる可能性のあるバイアスを除去しやすくするであろう(すなわち、プライマーの1つは切断部位の上流に対応すべきであり、もう1つは切断部位の下流に対応すべきである)。バイアスは、PCRによって切断部位の5'側または3'側のいずれかが増幅される場合に、実験に持ち込まれる可能性がある。これは部分的には、分解前に存在する可能性のある切断されたmRNA産物の長さの予測が困難なためである。増幅領域に切断部位が含まれる場合は、siRNAがその機能を発揮しても増幅は起こらない。
【0040】
好ましい態様では、SEQ ID NO: 3などの少なくとも1つの配列を、SATB1 shRNA配列であるSEQ ID NO: 4〜7の設計に使用した。好ましい態様では、標的配列としてSEQ ID NO: 3を使用し、Ambion社のsiRNA Target Finderを使用することで、悪性細胞でSATB1を枯渇させ、かつ細胞の表現型を非浸潤性の表現型に戻すsiRNAが設計される。別の好ましい態様では、SATB1 shRNAは、SEQ ID NO: 4(センス)およびSEQ ID NO: 5(アンチセンス)の配列、またはSEQ ID NO: 6(センス)およびSEQ ID NO: 7(アンチセンス)の配列を有する。SEQ ID NO: 4〜7の配列を以下に示す。

【0041】
別の態様では、Genescriptのウェブデザイニングツールを使用することができる。なぜなら、このツールは最高の候補を提供し、かつ結果として得られる各siRNA配列を対象とした、BLASTによるスクリーニング(Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, D.J.(1990) 「Basic local alignment search tool.」 J. Mol. Biol. 215:403-410)も可能とするからである。
【0042】
2.阻害物質アンチセンスオリゴヌクレオチド
別の態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチド(「オリゴ」および「オリゴマー」)は、SATB1および他の候補遺伝子の機能を阻害するように設計することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、その標的mRNAに選択的にハイブリダイズして翻訳をブロックすることで機能する短い1本鎖核酸である。翻訳は、DNA:RNA二重鎖におけるRNase Hのヌクレアーゼ活性か、またはリボソームの進行を阻害することでタンパク質合成を阻害することかのいずれかによって阻害される。この結果、合成が中断して、標的mRNAがコードするタンパク質の機能が喪失する。
【0043】
好ましい態様では、アンチセンスオリゴは、合成および精製時にホスホロチオエート化され、通常は18〜22塩基の長さである。SATB1のアンチセンスオリゴは、2'-O-メチルRNA、メチルホスホネート、キメラオリゴ、修飾塩基、および蛍光オリゴを含む他の多くの修飾など、他の修飾を有する可能性があることが想定される。
【0044】
好ましい態様では、活性アンチセンスオリゴは、アンチセンスオリゴと同じ全般的化学的性質、塩基組成、および長さを有する対照オリゴと同等であるべきである。これらは、逆の配列、無秩序配列、およびセンス配列を含む場合がある。逆の配列および無秩序配列が推奨される。なぜなら、このような配列は、同じ塩基組成を有することで、活性アンチセンスオリゴヌクレオチドと同じ分子量およびTmを有するからである。合理的なアンチセンスオリゴの設計では例えば、アンチセンスオリゴが、意図されないmRNAとアニーリングしないか、または免疫賦活反応を誘導することが既知である、4個の連続したG残基、6残基以上の塩基からなるパリンドローム、およびCGモチーフなどのモチーフを含まないことを考慮すべきである。
【0045】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、インビトロにおいて大半の細胞型で使用可能であり、良好な結果が得られている。しかしながら一部の細胞型では、細胞内への効率的な送達を可能とするためにトランスフェクション試薬の使用が必要である。1〜5μmの範囲のさまざまな最終オリゴヌクレオチド濃度を使用し、大半の例でトランスフェクション試薬が添加される最適化実験の実施が推奨される。絶好の好機、すなわち再現性のあるアンチセンス効果が得られる濃度は極めて狭い場合があり、そのような範囲を上回る場合は、複雑で非特異的な非アンチセンス効果がもたらされる可能性があり、同範囲に満たない場合は、結果が全く得られない可能性がある。好ましい態様では、標的mRNA(例えばSATB1 mRNA、SEQ ID NO: 1)のダウンレギュレーションは、ノーザンブロット、リアルタイムPCR、cDNA/オリゴアレイ、またはウェスタンブロットなどの手法の使用によって示されると考えられる。同じエンドポイントは、挙動に関するエンドポイントも評価しつつ、インビボ実験用に設定可能である。
【0046】
細胞の培養に関しては、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、無菌性のヌクレアーゼ非含有水に再懸濁すべきである(DEPC処理水の使用は推奨されない)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、精製して凍結乾燥することで再懸濁用の使用状態とすることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドのストック溶液は、懸濁状態で-20℃で凍結可能であり、数週間にわたって安定に保存することができる。
【0047】
3.小分子SATB1阻害物質のハイスループットスクリーニング
1つの態様では、ハイスループットスクリーニング(HTS)法で、SATB1を阻害する化合物が同定される。HTS法は、多数の潜在的治療化合物(すなわちSATB1を阻害する化合物)を含むコンビナトリアル化学ライブラリーまたはペプチドライブラリーを提供する段階を含む。このような「ライブラリー」は次に、望ましい特徴的な活性を示すライブラリーの成員(特定のペプチド、化学種、またはサブクラス)を同定するために、本明細書に記載された1つもしくは複数のアッセイ法でスクリーニングされる。このように同定された化合物は、従来の「リード化合物」として機能し得るか、またはそのものが潜在的な治療薬もしくは実際の治療薬として使用可能である。
【0048】
コンビナトリアル化学ライブラリーは、試薬などの数種類の化学的な「構成単位」を組み合わせることによる、化学的合成または生物学的合成のいずれかによって作製された多様な化合物の集合体である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの線形コンビナトリアル化学ライブラリーは、一連の化学的構成単位(アミノ酸)を、任意の化合物長(ポリペプチド化合物中のアミノ酸数)に関して、あらゆる可能な方法で組み合わせることで作られる。数百万種類の化合物を、化学的構成単位のこのような組み合わせ的な混合によって合成することができる。
【0049】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。このようなコンビナトリアル化学ライブラリーは、ペプチドライブラリーを含むが、これらに限定されない(例えば米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493(1991)、およびHoughton et al., Nature 354:84-88(1991)を参照)。化学的な多様性を有するライブラリーを作製する他の化学的手法を使用することもできる。このような化合物は、以下を含むが、これらに限定されない:ペプトイド(例えば、PCT公開番号 WO 91/19735)、コードされたペプチド(例えば、PCT公開 WO 93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公開番号 WO 92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909-6913(1993))、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568(1992))、グルコース足場(glucose scaffolding)を有する非ペプチド性ペプチド模倣物(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-9218(1992))、小分子化合物ライブラリーの類似有機合成物(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661(1994))、オリゴカルバミン酸(Cho et al., Science 261:1303(1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658(1994))、核酸ライブラリー(いずれも前掲のAusubel, Berger、およびSambrookを参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許第5,539,083号を参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-314(1996)およびPCT/US96/10287を参照)、糖質ライブラリー(例えば、Liang et al., Science, 274:1520-1522(1996)および米国特許第5,593,853号を参照)、有機小分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, Jan 18、33ページ(1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン(metathiazanone)、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、第5,288,514号などを参照)。
【0050】
コンビナトリアルライブラリーを調製するための装置は市販されている(例えば、ECIS TM, Applied BioPhysics Inc.,Troy, NY, MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照)。加えて、数多くのコンビナトリアルライブラリーそのものが市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照)。
【0051】
4.SATB1阻害物質抗体
1つの態様では、SATB1の枯渇は、SATB1を異所的に発現する細胞に選択的に毒性を示す阻害物質を使用することで可能となる。細胞の浸潤、運動性、形態変化、および足場依存性の成長に重要な役割を果たすことから、このような枯渇は次いで、癌細胞が転移活性を獲得することを可能にする遺伝子の発現を低下させることが企図される。したがって、SATB1の枯渇は最終的に、侵襲癌における腫瘍の形成および転移を予防し、腫瘍形成能を低下させるであろう。
【0052】
他の態様では、SATB1に特異的に結合するかもしくはSATB1を阻害するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、当技術分野で既知の方法で使用することが可能であり、かつ治療に使用することもできる。他の態様では、SATB1に特異的に結合するかもしくはSATB1を阻害するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、当技術分野で既知の方法および上述の方法で使用することができる。モノクローナル抗体は、治療にも使用可能なことが想定される。抗体のこのような使用は、他の研究者によって報告されており、SATB1を阻害またはダウンレギュレートする本発明に有用な可能性がある。
【0053】
5.SATB1阻害物質の組換えによる発現、合成、および単離
本明細書に記載されたsiRNA SATB1阻害物質などのSATB1阻害物質は、核酸もしくはペプチドを合成することで、または組み換え的に発現させることでも作製可能である。阻害物質配列の全体の作製は、市販のオリゴヌクレオチド合成またはペプチド合成によって可能である。本発明はさらに、天然および修飾型のDNA塩基ならびにRNA塩基の両方、例えばベータ-D-グルコシル-ヒドロキシメチルウラシル、ならびに天然および修飾型のアミノ酸残基の使用を想定している。
【0054】
他の態様では、siRNA SATB1阻害物質などのSATB1阻害物質をコードする核酸配列、および関連核酸配列の相同物をクローニングすることができる。本発明のこの局面は、組換え遺伝学の分野における常用の手法に拠る。一般に、本明細書に記載された、組換えDNA技術における命名法および実験手順は当業者に周知であり、広く使用されている。クローニング、DNAおよびRNAの単離、増幅、ならびに精製には標準的な手法が用いられる。一般に、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどが関与する酵素反応が、製造業者の指示書に従って実施される。本発明で使用される一般的な方法について記載した基本的なテキストは、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual(3d ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual(1990);および、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al., eds., 1994))を含む。
【0055】
ライブラリーのスクリーニングによって、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で核酸プローブおよびオリゴヌクレオチドを用いて、SATB1阻害物質の配列をコードする実質的に同一な核酸を単離することができる。他の方法では、発現ライブラリーを使用して、SATB1阻害物質の配列をコードする核酸のコアドメインに対して作製された抗血清または精製抗体で、発現された相同物を免疫学的に検出することにより、これらの配列をクローニングすることができる。
【0056】
SATB1の遺伝子発現は、当技術分野で既知の手法、例えばmRNAの逆転写および増幅、全RNAまたはポリA+ RNAの単離、ノーザンブロッティング、ドットブロッティング、インサイチューハイブリダイゼーション、RNaseプロテクション、DNAマイクロチップアレイのプローブ処理などでも解析可能である。
【0057】
shRNA SATB1阻害物質などのSATB1阻害物質をコードする核酸配列、および関連核酸配列の相同体をコードするcDNAの配列などの、クローニングされた遺伝子または核酸の配列の高レベル発現を得るためには、典型的には、阻害物質ペプチドの配列(例えば、shRNA SATB1阻害物質などのSATB1阻害物質をコードする核酸配列、および関連核酸配列の相同体、またはSEQ ID NO: 4〜7をコードする配列)を発現ベクターにサブクローニングし、次いでこれを適切な宿主細胞にトランスフェクトする。発現ベクターは典型的には、転写を誘導する強いプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー、転写/翻訳ターミネーター、およびタンパク質をコードする核酸、翻訳開始用のリボソーム結合部位を含む。プロモーターは、shRNA SATB1阻害物質などのSATB1阻害物質をコードする核酸配列、またはこの下位配列に機能的に連結される。適切な細菌プロモーターは当技術分野で周知であり、例えば、Sambrook et al.およびAusubel et al.に記載されている。発現ベクターに典型的に含まれるエレメントは、大腸菌などの適切な宿主細胞で機能するレプリコン、組換えプラスミド、および真核生物由来の配列の挿入を可能とするプラスミドの非必須領域中に固有の制限酵素切断部位を有する細菌の選択を可能とする抗生物質耐性をコードする遺伝子も含む。選択される特定の抗生物質耐性遺伝子は重要ではなく、当技術分野で既知の任意の多くの耐性遺伝子が適している。
【0058】
遺伝的な情報を細胞内に送達するために使用される発現ベクターの種類は特に重要でない。真核細胞または原核細胞における発現に使用されている任意の従来のベクターが使用可能である。標準的な細菌発現ベクターは、pBR322系プラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、およびGSTやLacZなどの融合発現系を含む。簡便な単離法を可能とするために、エピトープタグ(例えばHisタグ)を、組換え型SATB1阻害物質ペプチドに追加することもできる。場合によっては、酵素切断配列(例えば第Xa因子の切断部位を形成するMet-(His)g-Ile-Glu-GLy-Arg)が組換え型SATB1阻害物質ペプチドに追加される。SATB1阻害物質ペプチドおよび核酸を発現する細菌発現系は例えば、大腸菌、枯草菌(Bacillus sp.)、およびサルモネラにおいて利用可能である(Palva et al., Gene 22:229-235(1983);Mosbach et al., Nature 302:543-545(1983))。このような発現系のキットは市販されている。哺乳動物細胞、酵母、および昆虫細胞用の真核発現系は当技術分野で周知であり、かつ市販されている。
【0059】
標準的なトランスフェクション法が、標準的な手法で次いで精製可能な多数のSATB1阻害物質を発現する細胞株の作製に使用される(例えば、Colley et al., J. Biol. Chem. 264:17619-17622(1989);Guide to Protein Purification, in Methods in Enzymology, vol.182(Deutscher, ed., 1990)を参照)。細胞の形質転換は、標準的な手法で実施される(例えば、Morrison, J. Bact. 132:349-351(1977);Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology 101:347-362(Wu et al., eds, 1983)を参照)。例えば、外来のヌクレオチド配列を宿主細胞に導入する任意の周知の手順を使用することができる。これらは、リン酸カルシウムによるトランスフェクション、リポフェクトアミン、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、プラズマベクター(plasma vector)、ウイルスベクター、およびクローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNA、または他の外来性遺伝子材料を宿主細胞に導入するための任意の他の周知の方法の使用を含む(例えば、前掲のSambrook et al.を参照)。使用される特定の遺伝子組換えの手順は、SATB1の阻害物質ペプチドおよび核酸を発現可能な宿主細胞に、少なくとも1つの遺伝子を良好に導入可能なことだけが必要である。
【0060】
発現ベクターを細胞に導入後は、トランスフェクトされた細胞を、siRNA SATB1阻害物質および関連核酸配列相同体などのSATB1阻害物質の発現に好ましい条件で培養する。
【0061】
6.遺伝子治療
ある態様では、阻害性SATB1ペプチドをコードする核酸、ならびに本発明の核酸を、インビトロおよびインビボにおける細胞のトランスフェクションに使用することができる。このような核酸は、後述するように、標的となる細胞および生物体のトランスフェクション用に、任意の複数の周知のベクターに挿入可能である。核酸はエクスビボまたはインビボで、ベクターと標的細胞の相互作用によって、細胞にトランスフェクトされる。核酸は次いで、プロモーターの制御下で、本発明の阻害性SATB1のペプチドおよび核酸を発現し、それによって悪性細胞におけるSATB1の異所性発現の作用を抑制する。
【0062】
このような遺伝子治療の手順は、獲得されかつ遺伝された遺伝子欠損、癌、および他の疾患を、いくつかの状況の下で正すために使用されている。ヒトで人工遺伝子を発現させることができれば、他の治療法による治療に反応しない多くの疾患を含む多くの重要なヒト疾患の予防および/または治癒が促される。
【0063】
核酸の送達には、ウイルスベクターを使用することができる。適切なベクターは例えば、Lilley et al., Curr. Gene Ther. 1(4):339-58(2001)に記載された単純ヘルペスウイルスベクター、Polo et al., Dev. Biol.(Basel) 104:181-5(2000)に記載されたアルファウイルスDNAおよび粒子レプリコン、Mazda, Curr. Gene Ther. 2(3):379-92(2002)に記載されたエプスタイン-バーウイルス(EBV)ベースのプラスミドベクター、例えばOtomo et al., J. Gene Med. 3(4):345-52(2001)に記載されたEBVレプリコンベクター系、例えばGao et al., PNAS USA. 99(18):11854(2002)に記載されたアカゲザル由来のアデノウイルス関連ウイルス、例えばNicklin and Baker, Curr. Gene Ther. 2(3):273-93(2002)に記載されたアデノウイルスおよびアデノ関連ウイルスのベクターを含む。他の適切なアデノ関連ウイルス(AAV)ベクター系は、当技術分野で周知の手法で容易に構築可能である(例えば米国特許第5,173,414号および第5,139,941号;PCT公開番号 WO 92/01070およびWO 93/03769を参照)。他の適切なベクターは、例えばKim et al., Cancer Gene Ther. 9(9) :725-36(2002)に記載されたE1B遺伝子減弱型の複製アデノウイルス、および例えば、Pascual et al., J. Immunol. 160(9):4465-72(1998)に記載された非複製アデノウイルスベクターを含む。例示的なベクターは、Okayama et al.(1983) Mol. Cell. Biol. 3:280に記載された手順で構築可能である。
【0064】
Michael et al.(1993) J. Biol. Chem. 268:6866-6869、およびWagner et al.(1992) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6099-6103に記載されたアデノウイルスのキメラベクターなどの分子コンジュゲートベクターを、本発明の方法に従って遺伝子送達に使用することもできる。
【0065】
1つの説明目的の態様では、レトロウイルスは、遺伝子送達系のための簡便かつ有効なプラットフォームを提供する。阻害性SATB1の核酸またはポリペプチドをコードする選択されたヌクレオチド配列を、当技術分野で周知の手法でベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージすることができる。次いで組換えウイルスを単離し、対象に送達することができる。適切なベクターは、例えばScherr and Eder, Curr. Gene Ther. 2(1):45-55(2002)に記載されているレンチウイルスベクターを含む。他の説明目的のレトロウイルス系は文献に記載されている(例えば米国特許第5,219,740号;Miller and Rosman(1989) BioTechniques 7:980-990;Miller(1990) Human Gene Therapy 1:5-14;Scarpa et al.(1991) Virology 180:849-852;Burns et al(1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033-8037;およびBoris-Lawrie and Temin(1993) Curr. Opin. Genet. Develop. 3:102-109)。
【0066】
7.SATB1阻害物質アプタマー配列の設計
別の態様では、特定のRNAまたはDNAの配列に結合するアプタマー配列を作製することができる。本明細書で用いる「アプタマー」または「アプタマー配列」という用語は、単鎖の核酸(RNAまたはDNA)を意味し、それらの別個のヌクレオチド配列が固有の3次元構造への分子の折りたたみを決定する。15〜120ヌクレオチドを含むアプタマーをインビトロで、オリゴヌクレオチドのランダム化プール(1014〜1015個の分子)から選択することができる。本明細書に記載された本発明の任意のアプタマーはさらに、天然ならびに修飾型のDNA塩基およびRNA塩基(ベータ-D-グルコシル-ヒドロキシメチルウラシルなど)の両方の使用を想定している。
【0067】
アプタマー配列は、参照により本明細書に組み入れられる、「Aptamers and Methods for their Invitro Selection and Uses Thereof」と題する同時係属中の米国特許出願第10/934,856号に記載された方法などの方法で単離可能である。
【0068】
本明細書に記載された配列は、当初の配列と同じ機能を保持する実質的に相同な配列を生じるように変動する可能性があることが想定される。本明細書で用いるように、ポリヌクレオチドまたはこの断片は、他のポリヌクレオチド(またはその相補鎖)と、BLASTN(Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, DJ.(1990) 「Basic local alignment search tool.」 J. Mol. Biol. 215:403-410)などのアラインメントプログラムを使用して最適に整列化された(適切なヌクレオチドの挿入もしくは欠失を含む)場合に、別のポリヌクレオチドもしくはこの断片と「実質的に相同である」(または「実質的に類似している」)とされ、ヌクレオチド配列の同一性は、ヌクレオチド塩基の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、およびより好ましくは少なくとも約95〜98%である。
【0069】
SATB1阻害物質の配列をコードする核酸を、抗体をプローブとして使用することで、発現ライブラリーから単離することもできる。例えばSEQ ID NO: 5〜8で表される配列、およびこの下位配列を含むポリペプチドを当技術分野で既知の方法で使用することによって、このようなポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作製することができる(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual(1988)を参照)。
【0070】
8.投与および治療の方法
siRNA SATB1阻害物質などの本発明のSATB1阻害物質は、癌と関連するさまざまな障害を治療または予防するために使用することもできる。抗体、ペプチド、および核酸は、患者において治療効果を誘導するのに十分な量で患者に投与される(例えば、癌細胞の発生、成長、または転移の阻害;腫瘍のサイズおよび成長速度の低下、生存率の延長、患者に同時に実施される癌療法の軽減)。これを達成するのに適切な量は、「治療的に有効な用量または量」と定義される。
【0071】
本発明の抗体、ペプチド、および核酸は、当技術分野で既知の任意の経路、例えば注射(例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、または皮内)、吸入、経皮投与、直腸内投与、または経口投与によって、哺乳動物対象に直接投与することができる。
【0072】
他の態様では、SATB1と特異的に結合するか、またはSATB1を特異的に阻害する、このような抗体を治療に使用することができる。抗体のこのような使用は他の研究者によって報告されており、SATB1を阻害またはダウンレギュレートするために本発明において有用な可能性がある。
【0073】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。薬学的に許容される担体は、部分的に、投与される特定の組成物によって、および組成物の投与に使用される特定の方法によって決定される。したがって、本発明の薬学的組成物には、さまざまな適切な製剤が存在する(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、1989を参照)。
【0074】
本明細書で用いる「担体」は、任意の、およびあらゆる溶媒(solvent)、分散媒、溶媒(vehicle)、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。薬学的に活性のある物質のためのこのような溶媒および薬剤の使用は、当技術分野で周知である。任意の従来の溶媒または薬剤が活性成分と不適合な場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が想定される。補助的な活性成分を組成物中に混合することもできる。
【0075】
「薬学的に許容される」という表現は、ヒトへの投与時にアレルギーまたは類似の有害な反応を生じない分子および組成物を意味する。活性成分としてタンパク質を含む水性組成物の調製は、当技術分野で十分に理解されている。典型的に、このような組成物は、注射可能なように溶液または懸濁物のいずれかとして調製され;注射前に溶解する溶液または懸濁物に適した固体剤形の調製も可能である。調製物は乳化することもできる。
【0076】
本発明の抗体、ペプチド、および核酸の投与は、任意の簡便な様式で、例えば注射、腫瘍内注射、静脈内および動脈内ステント(溶出性ステントを含む)、カテーテル、経口投与、吸入、経皮投与、または直腸内投与で実施可能である。場合によっては、ペプチドおよび核酸は、投与に先だって、薬学的に許容される担体とともに製剤化される。薬学的に許容可能な担体は部分的には、投与される特定の組成物(例えば核酸またはポリペプチド)によって、ならびに組成物の投与に使用される特定の方法によって決定される。したがって、本発明の薬学的組成物には、さまざまな適切な製剤が存在する(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、1989を参照)。
【0077】
本発明のSATB1阻害物質は単独で、または組み合わせて投与可能であり、ならびに既知の、および当業者によって決定された他の抗悪性腫瘍薬と組み合わせて投与することもできる。これらは、賦形剤および安定剤とともに、注射用に無菌化された粉末状の凍結乾燥状態に簡便に調製可能であるか、または経口投与用に安定剤、ならびに口内および消化器における代謝のペプチダーゼ阻害物質とともに調製可能である。
【0078】
注射可能な使用に適切な薬学的剤形は、無菌性の水溶液または分散液、および無菌性の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌性粉末を含む(米国特許第5,466,468号)。担体は例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および/または植物油を含む溶媒もしくは分散媒の場合がある。
【0079】
本発明と関連して患者に投与される用量は、患者に経時的に有益な治療効果をもたらすのに十分であるべきである。用量は、使用される特定のベクター(例えばペプチドもしくは核酸)の有効性、および患者の条件、および治療対象の患者の体重または体表面積によって決定される。用量のサイズは、特定の患者における特定のペプチドまたは核酸の投与に伴う任意の有害な副作用の存在、性質、および程度によっても決定される。
【0080】
疾患または疾患と関連する障害の治療または予防用に投与されるベクターの有効量を決定する際、医師は、ポリペプチドまたは核酸の循環血漿濃度、ポリペプチドまたは核酸の毒性、疾患(例えば卵巣癌)の進行、およびペプチドに特異的に結合する抗体の産生を評価する。典型的には、ポリペプチドの用量当量は、約0.1〜約50 mg/kg体重、好ましくは約1〜約25 mg/kg体重、最も好ましくは約1〜約20 mg/kg体重である。一般に、核酸の用量当量は、典型的な70 kgの患者では約1μg〜約100μgであり、およびウイルス粒子を含むベクターの用量は、同等量の治療的核酸を生じるように計算される。
【0081】
投与に際しては、ポリペプチドまたは核酸のLD-50、およびさまざまな濃度の抗体、ポリペプチド、または核酸による副作用によって決定された速度で、腫瘍巣に投与時は患者の全般的な健康を考慮して、本発明の抗体、ポリペプチド、および核酸を投与することができる。投与は、単回用量または分割用量で、例えば一定の期間(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは1〜3週間、またはこれ以上)に定期的に(例えば毎日)、投与される用量によって可能である。
【0082】
状況によっては、本発明のSATB1阻害物質抗体、ペプチド、および核酸を含む薬学的組成物を、米国特許第5,543,158号;米国特許第5,641,515号、および米国特許第5,399,363号に記載された手順で、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、またはさらには腹腔内に送達することが望ましい。遊離塩基または薬学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を適切に混合した水中で調製することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中に、ならびに油中に調製することもできる。保存および使用に関する通常の条件では、このような調製物は、微生物の成長を防ぐ保存剤を含む。
【0083】
別の態様では、対象の静脈内に注射して癌細胞のアポトーシスを誘導するために、5〜20μgの本発明のsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを、PBS(リン酸緩衝食塩水)などの100μlの緩衝液に懸濁することができる(Slaton, Unger, Sloper, Davis, Ahmed, Induction of apoptosis by antisense CK2 in human prostate cancer xenograft model, Mol Cancer Res. 2004 Dec; 2(12):712-21を参照)。
【0084】
例えば、水溶液の非経口的投与の場合は、必要であれば溶液を適切に緩衝し、液体希釈液を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースによって等張性とする。このような特定の水溶液は特に、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に適している。例えば1回投与量を1 mlの等張性NaCl溶液に溶解し、これを1000 mlの皮下注入用溶液に添加するか、または提案された注入部位に注入することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第15版、pp.1035〜1038および1570〜1580を参照)。用量に関するある程度の変動は、治療対象の条件に応じて必然的に生じる。投与の施行者は、いかなる状況においても、個々の対象に適切な用量を決定するであろう。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDA Office of Biologicsの基準によって求められる無菌性、発熱性、および一般的な安全性、ならびに純度に関する標準に適合させるべきである。
【0085】
本明細書に開示された組成物は、中性または塩の状態に製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、(タンパク質の遊離アミノ基によって形成される)酸付加塩を含み、これは例えば塩酸やリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸などによって形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第2鉄などの無機塩基に由来する場合があるほか、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来する場合もある。製剤化の完了後に、溶液は投与剤形に適合した様式で、かつ治療的に有効な量で投与される。製剤は、注射可能溶液、薬剤放出カプセル剤などの、さまざまな投与剤形で容易に投与される。
【0086】
現在までのsiRNA研究の大半は、無菌性の生理食塩水、または血清と類似のイオン性を有するリン酸緩衝食塩水(PBS)で製剤化されたsiRNAを使用して実施されている。PBSの組成には、わずかな差があるので(カルシウム、マグネシウムなどを伴うまたは伴わない)、研究者は、注射経路および研究に使用される動物に最も適した剤形を選択すべきである。凍結乾燥状のオリゴヌクレオチド、および標準的または安定なsiRNAは水溶液に容易に溶解し、ならびに最高2.0 mMの濃度で再懸濁可能である。しかしながら、結果として得られる溶液の粘性がときに、このような高濃度溶液の扱いに影響する場合がある。
【0087】
9.治療薬の送達
ある態様では、リポソーム、ナノカプセル、微粒子、マイクロスフェア、脂質粒子、小胞などの使用が、本発明のSATB1阻害性核酸の投与に想定される。特に、本発明の組成物は送達用にカプセル化されるか、または脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、もしくはナノ粒子などに機能的に結合されることで製剤化することができる。
【0088】
リポソームの形成および使用は一般に当業者に知られている(例えば、Couvreur et al., 1977;Couvreur, 1988;細胞内細菌感染および疾患に対する標的抗生物質療法におけるリポソームおよびナノカプセルの使用について記載された、Lasic, 1998を参照)。最近、血清安定性および血中半減期が改善されたリポソームが開発されている(Gabizon & Papahadjopoulos, 1988;Allen and Choun, 1987;米国特許第5,741,516号)。さらに、潜在的な薬剤担体としてのリポソームおよびリポソーム様の調製物のさまざまな方法に関する総説がある(Takakura, 1998;Chandran et al., 1997;Margalit, 1995;米国特許第5,567,434号;米国特許第5,552,157号;米国特許第5,565,213号;米国特許第5,738,868号および米国特許第5,795,587号)。
【0089】
リポソームは、水性溶媒中に分散して自然に多層の求心性の二重層小胞(多重膜小胞(MLV)とも呼ばれる)を形成するリン脂質から形成される。MLVの直径は一般に25 nm〜4 mである。MLVを超音波処理すると、コアに水溶液を含む、直径が200〜500Åの範囲の小型単層小胞(SUV)が形成される。
【0090】
リポソームは細胞膜と類似性があり、かつ発明と関連してペプチド組成物用の担体としての使用が想定される。水溶性および脂溶性の物質の両方が、それぞれ水性空間中と二重層自体の内部に捕捉され得ることから、リポソームは広く適している。薬剤を含むリポソームはさらに、リポソーム製剤を選択的に修飾することによって、活性薬剤の部位特異的な送達に使用可能である。
【0091】
ターゲッティングは一般に、本発明で制限因子とはならない。しかしながら、特異的なターゲッティングが望ましい場合は、これを達成するための方法が利用可能である。例えば抗体を、リポソーム表面に結合するように、ならびにリポソームおよびその内容物を特定の細胞型に誘導するように使用することができる。糖質決定因子(細胞-細胞の認識、相互作用、および接着に役割を果たす糖タンパク質または糖脂質の細胞表面成分)は、リポソームを特定の細胞型に誘導する能力があるために、認識部位としても使用可能である。
【0092】
または本発明は、本発明の組成物の薬学的に許容されるナノカプセル製剤を提供する。ナノカプセルは一般に、安定かつ再現性のある方法で化合物を捕捉可能である(Henry-Michelland et al., 1987;Quintanar-Guerrero et al., 1998;Douglas et al., 1987)。細胞内におけるポリマーの過負荷(polymeric overloading)に起因する副作用を避けるために、このような超微細粒子(径は約0.1 m)を、インビボで分解可能なポリマーを使用して設計すべきである。こうした条件に適合する生分解性のポリアルキル-シアノアクリルレートのナノ粒子は、本発明における使用が想定される。このような粒子は、文献に記載された手順で容易に作製することができる(Couvreur et al., 1980;1988;zur Muhlen et al., 1998;Zambaux et al. 1998;Pinto-Alphandry et al., 1995、および米国特許第5,145,684号)。ナノ粒子に関しては、米国特許第6,602,932号;第6,071,533号にも記載されている。
【0093】
他の微粒子、ナノ構造体、およびナノデバイスを使用して、本発明のSATB1阻害物質を、対象の癌細胞に送達することも想定される。例えば、PolyMicrospheres社(Indianapolis, IN)から入手可能なマイクロスフェアを使用することができる。薬剤送達の説明に関しては、一般に、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、Alivisatos AP, Less is more in medicine, Understanding Nanotechnology, Warner Books, New York, 2002;Max Sherman, The World of Nanotechnology, US Pharm. 2004;12:HS-3-HS-4;Brannon-Peppas and Blanchette, Nanoparticle and targeted systems for cancer therapy, Advanced Drug Delivery Reviews, Intelligent Therapeutics: Biomimetic Systems and Nanotechnology in Drug Delivery, Volume 56, Issue 11, 22 September 2004, Pages 1649-1659;および、D.M. Brown, ed., Drug Delivery Systems in Cancer Therapy, Humana Press, Inc., Totowa, NJ. 2004(第6章を含む):Birnbaum and Brannon-Peppasによる、Microparticle Drug Delivery Systems、pp.117-136を参照されたい。
【0094】
10.併用療法
いくつかの態様では、阻害性SATB1の核酸は、癌を治療または予防するための第2の治療薬と組み合わせて投与される。1つの態様では、阻害性SATB1 siRNAは、癌を治療または予防するための第2の治療薬とともに投与可能である。例えば、SEQ ID NO: 3および4の阻害性のSATB1 siRNA、またはSEQ ID NO: 8およびSEQ ID NO: 9のSATB1 shRNAは、パクリタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、化学療法、および放射線療法を含むが、これらに限定されない任意の標準的な癌治療とともに投与することができる。
【0095】
阻害性SATB1の核酸と第2の治療薬は同時に、または連続して投与することができる。例えば、阻害性SATB1の核酸を最初に投与し、その後に第2の治療薬を投与することができる。または第2の治療薬を最初に投与し、その後に阻害性SATB1の核酸を投与することができる。場合によっては、阻害性SATB1の核酸と第2の治療薬は、同じ剤形で投与される。他の例では、阻害性SATB1の核酸と第2の治療薬は、異なる剤形で投与される。阻害性SATB1の核酸と第2の治療薬が異なる剤形で投与される場合、それらの投与は同時または連続的とすることができる。
【0096】
場合によっては、侵襲癌すなわち進行癌と関連するSATB1を発現する細胞および組織に治療薬を標的化するために、阻害性SATB1の核酸を使用することができる。SATB1は、侵襲癌すなわち進行期の癌、肉腫、小細胞肺癌、白血病(ジャーカット細胞)、リンパ腫、結腸癌、および乳癌で発現されることが見出されている。したがって本発明は、このようなおよび他の侵襲癌すなわち進行癌を対象とした、本明細書に記載の診断および治療への応用に使用可能なことが想定される。
【0097】
11.キット
診断/予後予測用のキット:
本発明はさらに、任意の上記の診断/予後予測法に使用されるキットを提供する。このようなキットは典型的には、診断/予後予測アッセイ法の実施に必要な2つ以上の構成要素を含む。キットの構成要素は、化合物、試薬、容器、および/または装置の場合がある。例えばキット内の1つの容器は、SATB1(正常バージョン)に対する抗体、および癌特異的なSATB1に対する抗体を含む場合がある。キットは、SATB1抗体を希釈するための緩衝液、SATB1のシグナルを検出するための蛍光色素を結合させた二次抗体(抗マウスまたは抗ウサギ)を含む。1つまたは複数の追加的な容器は、アッセイ法に使用される試薬または緩衝液などの要素を含む場合がある。このようなキットは追加的もしくは代替的に、抗体結合の直接または間接的な検出に適切なレポーター官能基を含む上記の検出用試薬を含む場合もある。
【0098】
治療用のキット
したがって、本発明の対象組成物は、通常は凍結乾燥状態で、容器内に提供されてもよい。本明細書に記載された阻害性SATB1の抗体、化合物、および/または核酸は、使用に関する指示書とともに、ならびに任意で緩衝剤、安定剤、殺生物剤、および不活性タンパク質とともにキットに含まれる。一般に、このような任意の材料は、ポリペプチドまたは核酸の量に対して重量比で約5%未満で存在し、通常は、ポリペプチドまたは核酸の濃度に対して重量比で少なくとも約0.001%の総量で存在する。活性成分を希釈するために不活性な増量剤または賦形剤を含めてもよく、ここで賦形剤は全組成物の重量の約1〜99%であってよい。キットはさらに、第2の治療薬、例えばパクリタキセル、カルボプラチン、または他の化学療法剤を含んでもよい。
【0099】
実施例
実施例1:侵襲性の高い癌細胞株および進行期の原発腫瘍の試料で発現されるが、良性試料および正常試料では発現されないSATB1
SATB1の発現レベルを、15の乳癌細胞株(図1A)、ならびに中分化型または低分化型の管癌であると診断されたヒト乳癌標本および隣接する正常組織(図1B、代表的なデータのみを示す)を対象としたウエスタン解析で調べた。SATB1は、侵襲性の高い癌細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-435、BT-549、Hs578T、およびHCC202)のみで検出され、正常な乳腺上皮細胞株(HMEC)または不死化誘導細胞(184A1、184AA2、184V、184flower)では検出されなかった。SATB1を発現する細胞株の浸潤活性が高いことは、インビトロ浸潤アッセイ法(ボイデン(Boyden)チャンバー)によって確認された。これらの細胞株、MDA-MB-435、BT-549、MDA-MB-231、Hs578Tは、インビボで転移を示すことも報告されている。したがって、本明細書に記載されたデータとともに、高レベルのSATB1の発現は、乳癌細胞がインビトロで浸潤する能力、およびインビボで転移する能力と相関する。ヒトの乳癌におけるSATB1の高い臨床的意義も明らかにされている。表1を参照されたい。
【0100】
表1に示されるように、また図1Bに例示されるように、SATB1の発現レベルを、中分化型の腺管癌(12例)、または低分化型の腺管癌(16例)、および対照として10の隣接組織を含む、ヒトの原発乳腺腫瘍の28の試料で検討した。これらの腫瘍試料の病理学的解析後に発明者らは、SATB1の発現解析を実施した。高レベルのSATB1の発現が全てのリンパ節陽性の低分化型の浸潤性腺管癌で検出され、および全てではないものの一部の中分化型の腫瘍の試料で低レベルの発現が検出された(図1bおよび表1)。SATB1タンパク質は、検討された28の腫瘍試料のうち23試料で検出された。28の腫瘍試料のうち16試料が転移性乳癌であり、SATB1はその全てにおいて、中分化型腫瘍の試料または正常組織試料のいずれかと比較して極めて高い統計的有意性(P<0.0001)で発現した。SATB1は、どの正常隣接組織でも検出されなかった(図1b)。
【0101】
免疫組織化学的解析の結果、SATB1の発現が、組織試料の癌領域の細胞に、主に高度に無秩序化した形態の領域に制限されることが判明した(図1c)。SATB1に対する抗体(赤)を使用した、正常標本、および組織アレイ(Biomax)に由来する転移性管癌(MDC)に由来する原発腫瘍標本を対象とした蛍光免疫染色。DNAをDAPIで対比染色した。組織の構造をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で調べた。悪性疾患の形態学的程度に関する情報を示すTNM病期(T、原発腫瘍のサイズまたは拡散;N、液窩リンパ節における腫瘍細胞の有無;M、遠隔転移の有無)を示す。
【0102】
SATB1の発現は、利用可能なマーカーの発現に基づく「カテゴリー」への分類にかかわらず、浸潤性乳癌で検出される可能性がある(表1)。表1は、本研究に使用された、ヒトの原発乳腺腫瘍標本の病理学的情報の要約を示す。
【0103】
生物学的経路によって分類された、2Dまたは3Dの培養条件において発現がSATB1依存性である遺伝子のリストをまとめた。SATB1の調節を受ける遺伝子内における機能的プロファイルの不均一性の解析を、ウェブベースの解析ツールであるPathway-express(URL:<http://vortex.cs.wayne.edu>)を使用して実施した。MDA-MB-231細胞において、SATB1に依存して少なくとも2倍、アップレギュレートまたはダウンレギュレートされた1200個の遺伝子のなかで、KEGG(Kyoto Encyclopedia of genes and genomes)データベースに基づく代表的な生物学的経路に関与する、計354個のアップレギュレートされた遺伝子、および267個のダウンレギュレートされた遺伝子が見出された。SATB1に依存して発現が変化する遺伝子は主に、細胞周期、接着結合、サイトカイン受容体との相互作用、細胞内シグナル伝達、アポトーシス、およびMAPキナーゼのシグナル伝達の経路に関与する。
【0104】
実施例2:SATB1ノックダウン系の構築
次に、高転移性のMDA-MB-231細胞におけるSATB1レベルの抑制が、細胞の侵襲性に影響するか否かを検討した。SATB1の発現を標的とするように良好に設計した短鎖ヘアピン干渉RNA(shRNA)を本明細書では、SEQ ID NO: 4〜7と表記する。これらのshRNAは、MDA-MB-231細胞におけるSATB1の発現を抑制可能であることが、このようなshRNAの配列を特定するDNAセグメントを含むpSUPER-puro(Mina Bissell博士から供与)が安定にトランスフェクトされた細胞クローンを確立することで明らかにされた(図2)。
【0105】
shRNAがSATB1の発現をタンパク質レベルでもRNAレベルでも劇的に減じた2個の代表的なクローンを示す(図2)。配列が任意の既知のヒト遺伝子にマッチしなかったshRNAもMDA-MB-231細胞に導入した。この対照shRNAはSATB1の発現を減じなかった。
【0106】
2種類のshRNAを、SATB1配列(参照により本明細書に組み入れられるGenBankアクセッション番号NM_002971)に従って、siRNA Target Finder(Ambion, Austin, TX)を使用して設計し;個々のオリゴ2本鎖(oligoduplex)の配列を以下のように標的化した。
shRNA2423

またはshRNA2595

オリゴ2本鎖をプラスミドpSUPER(Oligoengine, Seattle, WA)にクローニングした。調製後のDNAを、侵襲性乳癌細胞株MDA-MB-231に、リポフェクトアミン2000(Invitrogen)を使用してトランスフェクトし、および良好にトランスフェクトされた細胞を、トランスフェクションの24時間以降に2μg/mlのピューロマイシンまたは1.5 mg/mlのG418によって選択した。shRNA2423かshRNA2595のいずれかを安定に発現する1つのMDA-MB-231細胞クローンをそれぞれSATB1-shRNA1 MDA細胞またはSATB1-shRNA2 MDA細胞と命名する。SATB1の過剰発現の場合は、3'UTRを含む完全長のSATB1をレトロウイルスベクターpLXSN(Clontech, Mountain View, CA)にクローニングし、およびウイルス液をPT67パッケージ細胞株を使用して作製した。このウイルス液をHs578T細胞に感染させ、および安定感染細胞を、0.8 mg/mlのG418で5日間をかけて選択した。操作されたMDA-MB-231細胞およびHs578T細胞におけるSATB1レベルの状態を、ウェスタンブロットおよびリアルタイムRT-PCRによって調べた。
【0107】
SATB1状態に依存する遺伝子発現レベルの変化を評価するために、選択された遺伝子を対象とした半定量的RT-PCR解析またはリアルタイムRT-PCR解析を実施した(プライマー配列は要望があれば供与)。細胞株から全RNAをTRI試薬(Sigma)を使用して抽出し、続いてRNAの精製をRNeasy Miniキット(Qiagen, Valencia, CA)で行った。半定量的RT-PCRでは、5μgの全RNAを1本鎖のcDNAに、Superscript II RNaseH-逆転写酵素(Invitrogen)を、同キットに添付のプロトコルに従って使用して逆転写した。発明者らはPCR反応を、文献10に記載された手順で実施した。PCRのサイクルは、遺伝子特異的なプライマー(20 ng cDNA/反応)を使用して25〜40サイクルに制御した。GeneAmp PCRシステム9700(PerkinElmer Inc., Fremont, CA)を使用した各サイクルは、以下の段階からなる;94℃で30秒間、55℃で30秒間、および72℃で60秒間。1.5%アガロースゲルでPCR産物を分離し、および臭化エチジウムで染色して可視化した。ABI 7500 Fast Real-time PCRシステム(Applied Biosystems, Foster City, CA)における増幅のリアルタイムモニタリングには、SYBR Green PCR Core Reagentsシステムを使用した。絶対定量法で標的DNA断片を3回、95℃で2分間と、これに続く95℃で3秒間と60℃で30秒間の40サイクルのサイクリング条件で定量した。
【0108】
次に、RNA干渉(RNAi)で、SATB1が、乳癌細胞の浸潤性および転移性の表現型に必要か否かを判定した。原発腫瘍の除去の数年後に広範囲の転移を生じた乳癌患者の胸水に由来する高転移性のMDA-MB-231細胞株では、高レベルのSATB1の発現が認められた。この細胞株で、2つのSATB1配列を標的とした短鎖ヘアピン干渉RNA(shRNA)を発現させたところ、同配列の発現は劇的に低下した。SATB1の発現は、発明者らがSATB1-shRNA1 MDA細胞およびSATB1-shRNA2 MDA細胞と命名した2種類の形質転換細胞株で、それぞれ70%および90%低下した(図2)。SATB1の発現レベルは、SATB1-shRNA1を発現するSATB1-shRNA1 MDA細胞で30.4%±3.7であり、およびSATB1-shRNA2を発現するSATB1-shRNA2 MDA細胞では12.5%±5.2にとどまった。配列が任意の既知のヒト遺伝子にマッチしないshRNAを発現するMDA-MB-231細胞(対照細胞)では、SATB1の発現に変化は認められなかった。
【0109】
実施例3:shRNAによる侵襲性乳癌細胞からのSATB1の枯渇は、(1)増殖速度を低下させ、(2)細胞の形態を変化させ、(3)浸潤性表現型を非浸潤性表現型に逆転させ、および(4)足場非依存性の成長を喪失させた。
次に発明者らは、インビトロにおけるMDA-MB-231細胞におけるSATB1の発現低下が、宿主であるMDA-MB-231細胞、または対照shRNAを有する同細胞と比較して、2D(プラスチック)および3D(Matrigel)の培養系に及ぼす作用を調べた。
【0110】
細胞増殖速度の低下
発明者らは、SATB1の発現の喪失が癌細胞の増殖に影響するか否かを、SATB1-shRNA1 MDA細胞およびSATB1-shRNA2 MDA細胞をプラスチックディッシュ(2次元(2D)培養)で、またはEngelbreth-Holm-Swarm腫瘍に由来する、再構成された基底膜(Matrigel(商標))(3次元(3D)培養)で培養することで調べた。SATB1-shRNA1 MDA細胞およびSATB1-shRNA2 MDA細胞の増殖速度は、最長11日間の2Dと3Dの両培養において、親細胞株および対照細胞と比較して有意に低下した(図3)。
【0111】
細胞成長アッセイ法
計2×104個の細胞をプラスチックディッシュにプレーティングし、および37℃で最長10日間にわたって6ウェルプレートで培養した(2D培養)。成長培地は4日毎に交換した。細胞をトリプシン処理して回収し、ならびに各時点で細胞計数器(Beckman Coulter, Inc.; Fullerton, CA)および血球計算器を使用してカウントした。計5×103個の細胞を、Matrigel(BD Biosciences, Inc.; Bedford, MA)でコーティングした24ウェルプレート(3D培養)に3通りで添加し、および最長10日間にわたって37℃でインキュベートした。細胞をジスパーゼ(BD Biosciences, Inc.)で37℃で2時間処理してMatrigelから分離し、トリプシンとさらに5分間インキュベートし、および血球計算器を使用してカウントした。試料を、細胞培養を開始してから0日後、2日後、4日後、6日後、8日後、および10日後に3通りに解析した。トリパンブルー排出解析の結果、99〜100%の細胞が生存していたことがわかった。
【0112】
細胞形態の変化
プラスチック(2D)およびマトリゲル(3D)で培養したMDA-MB-231対照細胞(対照shRNA)、またはSATB1-shRNA1 MDA細胞(SATB1-shRNA1)の位相差顕微鏡写真を図5に示す。細胞形態に見られる主な差は、対照細胞と比較して、SATB1-shRNA1 MDA細胞を3D培養で成長させた際に観察された。細胞形態は、星状の散乱型構造(対照shRNAを含むMDA-MB-231)から球状構造(SATB1-shRNAを含むMDA-MB-231)に変化した。図6からわかるように、F-アクチン、β-カテニン、インテグリンα6(白)に対する抗体による免疫染色、およびDAPI(DNA、薄い白)による対比染色の結果、3D培養で成長させたSATB1-shRNA1 MDA細胞またはSATB1-shRNA2 MDA細胞が組織化されて極性のある形態を有しており、腺房様構造を形成することがわかった。これとは対照的に、3Dにおける対照細胞は極性を失い、ならびに外側膜および基底膜の構造が変化した無秩序な形態を示した。アクチンおよびインテグリンα6の免疫染色からわかるように、SATB1-shRNAを有する細胞は、形態形成に変化を示し、ならびに腺房を3日以内に形成したのに対し、対照細胞は、大きくかつ緩く無秩序した浸潤性の細胞コロニーを形成した。加えて、SATB1-shRNAを発現するMDA-MB-231細胞は、Matrigel上で基底部に蓄積して基底膜を組織化可能であり、MCF-10A対照細胞の観察時に形態にわずかな差があっても、特徴的な腺房形成が見られた。
【0113】
図7A、B、Cからわかるように、非腫瘍性MCF-10A細胞でSATB1を強制的に発現させると、正常な腺房構造が、細胞の多くが相互の最上面で成長して細胞の極性を失う(後述)、無秩序構造へと変化する。
【0114】
非悪性細胞から悪性細胞への移行は、正常な細胞の分化および発生に関連する場合と類似の機構に支配されている。上皮細胞は、その極性および接着部位を失って浸潤性の癌細胞となる場合がある。このような複雑な形質転換は、上皮-間葉転換(EMT)という用語に要約される。MCF-10AにおけるSATB1の異所性発現がEMTを促進するか否かは、安定にトランスフェクトされたSATB1を過剰発現する細胞株を使用して、Matrigel上の3D培養における細胞の形態を調べることで評価される。上皮細胞の小さな丸石様の外見から、紡錘様の線維芽細胞状の形態への形態変化は、EMTの特徴の1つである。形態の視覚的な検討は、位相差顕微鏡によって、ならびに免疫染色によって可能である。細胞構成に関しては、アクチンフィラメントおよびサイトケラチン18の分布を可視化可能であり、ならびに極性に関しては、コラーゲンV、ラミニン、およびインテグリンの分布を調べることが可能である。細胞を、E-カドヘリン、β-カテニン(上皮のマーカー)、ビメンチン、フィブロネクチン、およびN-カドヘリン(線維芽細胞のマーカー)などのマーカーで免疫染色することも可能である。発明者らは、SATB1を過剰発現するMCF-10A細胞にEMTが見られると考えている(24)。これらの細胞は、E-カドヘリンおよびβ-カテニン(上皮細胞のマーカー)を完全に喪失し、ならびに線維芽細胞のマーカーの発現を示し、EMTと正に相関することが推定される。一方、SATB1が枯渇したMDA-MB-231細胞はEMTを逆転させたことから、発明者らは、上皮マーカーが発現され、および線維芽細胞マーカーが喪失した可能性があると推定する。
【0115】
培養中の細胞の免疫染色
Matrigel(5 mg/mL)と混合した計1×104個の細胞を、事前にMatrigelの厚い層(1 mm)でコーティングした6ウェルプレートにプレーティングした。固化したMatrigelに成長培地(DMEM)を重層し、および4日毎に交換した。コロニーの形成および細胞の形態を、光学顕微鏡で3日後から14日まで観察した。
【0116】
細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1% Triton ×100で透過処理し、および5% BSAでブロック処理した。SATB1および接着斑複合体の染色を、抗SATB1抗体、抗β-カテニン抗体(クローン14)、抗インテグリンα6(CD49f、いずれもBD Biosciencesから入手)抗体と、ならびにF-アクチンの染色に関しては、フルオレセインファロイジン(Invitrogen Molecular Probe)と4℃で一晩インキュベートすることで実施した。免疫組織化学的解析では、乳癌の組織マイクロアレイをUS BioMax(Rockville, MD)から入手した。脱パラフィン処理後に各スライドを、抗原脱マスキング溶液(Vector Laboratories, Burlingame, CA)中で20分間煮沸した。組織切片を2% BSA/5%正常ヤギ血清/0.1% Triton X-100中で1時間インキュベートした後に、SATB1に対する一次抗体(BD Biosciences)と、ブロッキング緩衝液中で4℃で一晩反応させた。二次Alexa Fluor 488抗体および/またはAlexa Fluor 594抗体(Molecular Probes)による染色が検出された。細胞を、DAPI(Vector Laboratories)を含む蛍光マウント用培地にマウントした。Delta Vision顕微鏡を使用して、製造業者の指示書に従って画像を得て、SoftWoRxソフトウェア(Applied Precision, Issaquah, WA)で処理した。
【0117】
浸潤活性の逆転
Matrigel上における腺房の形態および形成と同時に、shRNAによるSATB1の枯渇は、図8のボイデンチャンバー浸潤アッセイ法からわかるように、MDA-MB-231宿主細胞の侵襲性を80〜85%低下させた。非腫瘍細胞であるMCF-10A細胞でSATB1を強制発現させると、細胞は浸潤活性を獲得する。
【0118】
ボイデンチャンバーアッセイ法
ボイデンチャンバーを使用するケモタキシス(chemo-migration)アッセイ法53を24ウェルのケモタキシスチャンバー(BD biosciences, Inc.)を使用して実施した。乳癌細胞を50,000個/ウェルで、希釈済みのMatrigel(10〜25%)(BD biosciences, Inc.)でコーティングされた8μmのポリカーボネートフィルター膜が設置された上のチャンバーに3通りで添加し、37℃で加湿5% CO2中で20時間にわたってインキュベートした。NIH3T3線維芽細胞培養物に由来する培養上清を下のチャンバーにおける化学遊走物質として使用した。チャンバーの上側に遊走した細胞を10%(wt/vol)緩衝ホルマリンで固定し、およびクリスタルバイオレットで染色した。最も上のチャンバー中に残る細胞を綿棒で除去した後に、孔を介して遊走した細胞の数を光学顕微鏡で計算した。
【0119】
足場依存性の成長の喪失(ソフトアガーアッセイ法)
クローニングされたSATB1枯渇細胞、ならびにSATB1を過剰発現する細胞を対象に、文献に記載されたソフトアガーによる細胞成長アッセイ法を行った(Kang, J. S., and Krauss, R. S.(1996) Mol Cell Biol 16, 3370-3380を参照)。SATB1が枯渇すると、MDA-MB-231細胞は足場依存性の成長(侵襲細胞の特徴)を失い、一方で、SATB1を強制発現させたMCF-10A細胞は足場非依存性の成長を新たに獲得した(図8)。
【0120】
実施例4:プラスチック培養または3D培養のいずれかによるMDA-MB-231細胞中のSATB1-shRNAによる遺伝子発現の大きな変化
対照MDA-MB-231細胞およびSATB1枯渇MDA-MB-231細胞(2D培養または3D培養のいずれかで成長)の形態形成中および浸潤中の重要な生物学的過程および情報伝達の空間的および時間的な側面を解析するために、ヒト20K CodeLink Bioarrays(GE Healthcare)を使用した市販のマイクロアレイを用いた実験を行った。全RNAの濃度および純度を、OD260/280における分光光度値によって測定し、ならびに全RNA試料の質を、RNA6000 Nano Lab Chip(Agilent Technologies)を接続したAgilent Bioanalyzerを使用して正確に評価した。アレイのハイブリダイゼーションおよび洗浄後に、GenePix(商標) 4000Bスキャナーで読み取りを行った。アレイをCodeLink Expression Analysisソフトウェア(GE Healthcare)で処理し、およびデータをGeneSpringソフトウェア(Silicon Genetics)で解析した。個々の発現値をアレイ全体にわたって比較するために、各遺伝子に由来する生の強度データ(CodeLink Expressionソフトウェアから作製)を、アレイの強度中央値に対して標準化した。
【0121】
本明細書に記載の手順による作製および解析の結果得られた一連のデータは、信頼性が極めて高い。結果の一部は、RT-PCRまたはリアルタイムRT-PCRを繰り返し行って確認した。対照MDA-MB-231細胞と、SATB1枯渇MDA-MB-231(SATB1-shRNAを発現する)細胞株の間で、少なくとも2倍の差で発現された遺伝子を選択した。SATB1の枯渇に伴い、プラスチック(2D)培養または3D培養のいずれかにおいて、1200個の遺伝子がSATB1の影響を受けた。これらの遺伝子のうち、70個の遺伝子が2Dおよび3Dの両培養系で同様に影響されていた。発明者らは、このように影響された遺伝子を対象とした、遺伝子オントロジー(GO)(URL: <http//www.geneontology.org/index.shtml>)によるアノテーションによる分類も行った。これらの遺伝子の公開GOアノテーションの解析によって、SATB1の枯渇によって影響された遺伝子が、細胞接着、補体活性化、クロマチン構造、および細胞周期に関与する遺伝子などの特定の一群の遺伝子に集中していることが確認された。この結果は、乳腺の腫瘍形成の進行中の細胞-細胞相互作用、クロマチンリモデリング、および増殖に、SATB1がさまざまな役割を果たすことを示唆する。
【0122】
図4に示すように、生物学的過程および分子機能に関する遺伝子オントロジーのタームを使用した機能的プロファイルを、参照集合として20,000個の遺伝子(AmershamのCodelink)の初期プールを使用するOnto-Express(OE, URL:<http://vortex.cs.wayne.edu/ontoexpress>)による、2D培養または3D培養のいずれかにおいてSATB1に依存してアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子群(>2倍)について構築した。計648個のアップレギュレートされた遺伝子(赤いバー)、および519個のダウンレギュレートされた遺伝子(緑のバー)のプロファイルを示す。SATB1依存性の遺伝子によって、p<0.05の統計的有意性で有意に表されるか、または5個を上回る遺伝子によって表される生物学的過程の機能カテゴリーを示す。この結果から、SATB1依存性の遺伝子が、細胞周期、細胞増殖、細胞接着、情報伝達、細胞-細胞シグナル伝達、および転写調節の正の制御を含む、癌と関連すると推定される生物学的過程の大半において高度に代表されることがわかる。代表的な遺伝子を、アップレギュレートされた遺伝子(赤)、およびダウンレギュレートされた遺伝子(緑色、下線部)として挙げた。
【0123】
発明者らの行ったマイクロアレイ解析で得られたデータと、乳癌の進行に関連する遺伝子に関する公開文献に由来するデータの両方を元に、発明者らは、RT-PCRによってSATB1依存性の発現を確認するために、40個以上の遺伝子を選択した(図9)。MDA-MB-231細胞では、発明者らは、SATB1がリプレッサーとしてではなく、もっぱら転写エンハンサーとして機能することを見出した。転移の促進に重要な役割を果たすことが知られている多くの遺伝子の発現は、SATB1の枯渇時にダウンレギュレートされていることがわかった。乳癌の進行と関連するSATB1依存性の遺伝子は、転移および血管新生に役割を果たすS100A4(Mts1またはmetastasinをコードする);細胞外マトリックス(ECM)を分解して腫瘍の浸潤を促進するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)2、3、および9;浸潤を促進する腫瘍成長因子β1(TGF-β1);血管形成および骨転移に介在する結合組織成長因子(CTGF);ならびに腫瘍抑制遺伝子BRMS133を含む(図9)。SATB1が発現されると、腫瘍抑制遺伝子BRMS1は抑制されるが、この群における他の全ての転移促進遺伝子はアップレギュレートされる。
【0124】
重要なことに、SATB1の発現は、EGF受容体サブファミリーの成員であるERRB1、ERBB2(HER-2またはNEUとしても知られる)、ERBB3、ERBB4、リガンドであるNRGおよびAREG、ならびにEGF誘導型のERKシグナル伝達に役割を果たすABL1癌遺伝子などの、表皮成長因子(EGF)のシグナル伝達に関与する遺伝子のアップレギュレーションとも相関していた。ERBBタンパク質のファミリーの成員のなかで最も発癌性の強いERBB2は、ERBBシグナル伝達ネットワークを調整することで乳癌進行の重要な調節因子である。ERBBタンパク質の発現の上昇はしばしばヒトの癌で認められ、およびERBB2から生じるシグナル伝達を封じる薬剤は、臨床応用で常用されている。多くの腫瘍細胞が、TGF-β1に対して浸潤性の上昇を示し、およびTGF-β1のレベルの上昇は大半の腫瘍タイプで報告されている。これらの結果から、SATB1が、腫瘍抑制遺伝子をダウンレギュレートする一方で、転移の既知の促進性因子である一連の遺伝子の発現を促進することがわかる。SATB1を発現する癌細胞における遺伝子発現パターンの劇的な変化によって、これらの癌細胞は、浸潤性で侵襲性の表現型を獲得することができるようになる。
【0125】
SATB1が枯渇したMDA-MB-231細胞に見られる細胞形態の逆転と一致して、浸潤性乳癌で発現がアップレギュレートされる遺伝子、および細胞構造に寄与する産物は全て、SATB1の枯渇によってダウンレギュレートされる(図9a)。このような遺伝子は、ECMタンパク質、フィブロネクチン(FN);中間径フィラメントタンパク質、ビメンチン(VIM);細胞-ECM相互作用タンパク質、β4インテグリン(ITGB4)を含む。核内の構造タンパク質であるラミンA/C(LMNA)は同様に、SATB1の枯渇によってダウンレギュレートされた。細胞-細胞接着に関与するカドヘリンおよびカテニンの発現の脱調節化も乳癌で検出されている。浸潤性乳癌でしばしばアップレギュレートされるOB-カドヘリン(CDH11)、VE-カドヘリン(CDH5)、およびN-カドヘリン(CDH2)は全て、SATB1ノックダウン細胞では抑制された。SATB1は上記の遺伝子群をアップレギュレートするが、一部の遺伝子に対しては、SATB1はリプレッサーとして作用する。SATB1ノックダウン細胞で抑制の解除が見出される、このような遺伝子には、浸潤性腫瘍で失われるか、または散乱することが知られている密着結合タンパク質であるCLDN1;カドヘリン-カテニン複合体の成分であり、かつ標準的なWnt経路の重要な成員であるβ-カテニン;接着結合タンパク質であり、かつ腫瘍抑制因子であるE-カドヘリンが含まれる。E-カドヘリンの喪失は、上皮細胞層が極性および細胞-細胞接触を喪失し、ならびに上皮腫瘍からの癌細胞の拡散に寄与すると考えられている、細胞骨格の劇的なリモデリングを受ける過程である上皮-間葉転換(EMT)の特徴の1つである。E-カドヘリンのアップレギュレーション、および腺房様形態の回復を生じるMDA-MB-231細胞からのSATB1の枯渇は、EMT過程が逆転したことを強く示唆する。
【0126】
実施例5:SATB1によって直接調節される遺伝子の同定:
SATB1によって直接調節される遺伝子を同定するために、発明者らは、発現が細胞内のSATB1レベルと相関する6個の遺伝子のゲノム座位内における、SATB1のインビボでの結合状態を判定した。これらの遺伝子は、SATB1によって直接調節される候補遺伝子であるERBB2、Metastasin、ABL1、TGF-β1、ラミンA/C、およびMMP3である(図10a)。発現がSATB1のレベルに依存しないと観察された5種類の遺伝子(GAPDH、NRP1、TIMP1、ITGA5、およびITBG5)を非SATB1標的対照として選択した(図10b)。これらの選択された遺伝子のそれぞれについて発明者らは、遺伝子の第1エクソンの上流および下流の約15 kbの領域を対象にインビボにおけるSATB1との結合を解析し、あらゆる潜在的なSATB1標的配列(BUR)、プロモーター配列(わかる場合)、CpGアイランドを含む領域、およびDNA配列からはSATB1と結合することが推定されない他の制御配列を探索した。潜在的なBURは、ATC配列の配列関係を特徴とするゲノム配列によって同定される可能性がある。これらの各候補部位へのSATB1の結合は、電気泳動易動度シフトアッセイ法(EMSA)によって確認された。インビボにおけるこれらの座位に対するSATB1の結合を評価するために、発明者らは、Kohwi-Shigematsu, T., deBelle, I, Dickinson, L.A., Galande, S. & Kohwi, Y. Identification of base-unpairing region-binding proteins and characterization of their in vivo binding sequences. Methods Cell Biol 53, 323-54(1998)に記載され、また後述する、クロマチンを架橋して、細胞株から尿素勾配遠心分離によって精製し、Sau3Aで切断し、およびSATB1を含むクロマチン断片を抗SATB1抗体を用いて免疫沈殿させる尿素-ChIP法を利用した。
【0127】
cDNAマイクロアレイ実験と組み合わせた、プロモーターチップ法中の尿素-クロマチン免疫沈降法(ChIP)で、乳癌細胞においてSATB1によって直接調節される多数の遺伝子を同定した。クロマチン免疫沈降法(IP)と、現在、Universiy Health Networkのマイクロアレイセンター(カナダ)から入手可能なプロモーターアレイを組み合わせた。このマイクロアレイは、プロモーター配列内に集中した12,192個のCpGアイランドの配列を含む。MDA-MB-231細胞中の抗SATB1抗体に対するクロマチンIPに由来するDNA配列のプールが、ヒトのプロモーターを対象としたマイクロアレイ用のハイブリダイゼーションプローブとして使用される。SATB1の直接的な標的遺伝子を同定するために、この方法を使用する根拠は以下の通りである:発明者らが改変したChIPアッセイ法で過去に、SATB1が、上流領域(プロモーターの最長60 kb)およびイントロン内にしばしば見出される標的遺伝子座位中の特殊化したDNA配列(ATC配列の配列関係)に足場を提供することがわかっていた。しかしながら、これは、ChIP断片の、より高サイクル数のライゲーション型PCR(LM-PCR)でも見られた。したがって、SATB1が結合する、標的遺伝子ではなく、標的遺伝子のプロモーター領域の検出が可能となる。標的遺伝子のプロモーターに対するSATB1の、このそれほど強くないが明確な結合はおそらく動的であり、および転写因子が介在するプロモーターへのSATB1の係留による局所的なクロマチンのループ形成によって達成される。
【0128】
発明者らの研究室によって考案された尿素-ChIP法は、尿素勾配遠心分離による、非架橋タンパク質およびRNAから架橋クロマチンの十分な精製を含む。尿素-ChIP実験は、Yasui, D., Miyano, M., Cai, S., Varga-Weisz, P. & Kohwi-Shigematsu, T. SATB1 targets chromatin remodelling to regulate genes over long distances. Nature 419, 641-5(2002)、およびde Belle, I, Cai, S. & Kohwi-Shigematsu, T. The genomic sequences bound to special AT-rich sequence-binding protein 1 (SATB1) in vivo in Jurkat T cells are tightly associated with the nuclear matrix at the bases of the chromatin loops. J Cell Biol 141, 335-48.(1998)に記載された手順に変更を加えて実施した。
【0129】
ホルムアルデヒドによって架橋されたクロマチンを、MDA-MB-231およびSATB1-shRNA MDA細胞(M5-5)から単離し、ならびに尿素勾配超遠心分離によってさらに精製した。60 UのSau3A1による消化後に、発明者らは、30μgの架橋クロマチンを対象に、抗SATB1抗体(BD Biosciences)に対する免疫沈降法を実施し、およびマウスIgG1(Sigma)を対照として精製した。発明者らはChIP試料を、100μg/mlのRNase Aおよび250μg/mlのプロテイナーゼKによる処理と、これに続く65℃で6時間のインキュベーションによって逆転させた。発明者らはPCR反応を、逆架橋クロマチンとAmpliTag-Gold DNA Polymerase(Applied Biosystems)を使用して、以下のサイクリング条件で実施した;GeneAmp PCRシステム9700(PerkinElmer Inc.)を使用する、95℃で10分、および35〜40サイクルの95℃における10秒間の変性、56℃で20秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長。発明者らは、各遺伝子のプロモーター領域(約15 kb)を主に標的とするプライマー配列を、Vector NTIソフトウェア(Invitrogen)を使用して設計した。ゲル易動度シフトアッセイ法(EMSA)を実施し、SATB1と、発明者らが尿素-ChIPアッセイ法で検出したインビボにおけるSATB1結合配列間のインビトロにおける結合能力を判定した。プロモーターチップを対象とした尿素-ChIPによって得られた結果は、cDNAマイクロアレイ解析のデータにおけるこれらの遺伝子の発現を調べ、野生型MDA-MB-231細胞と比較してSATB1枯渇MDA-MB-231細胞では変化することを確かめることで確認される。cDNAマイクロアレイのデータは容易に入手可能なので、プロモーターチップを対象としたこのChIPは、SATB1が侵襲性乳癌細胞において大規模に作用する遺伝子調節因子として機能すること、およびこのような細胞中にその特異的な一群の標的遺伝子が存在することを示す最初の証拠となる。
【0130】
候補となるSATB1標的遺伝子座位に関して、インビボにおける全体的なSATB1結合状態を、非標的対照遺伝子座位と比較することで、この2群間でSATB1の結合パターンに顕著な対比が認められた(図10a、b)。全6つの候補標的遺伝子座位のうち、ATC配列の相互関係を元に推定され、およびEMSAで確認された実質的に全てのSATB1結合配列が、インビボでSATB1と結合していた(図10a)。類似の結合パターンは、SATB1の過剰発現時に発現がダウンレギュレートされるβ-カテニンの座位に関して検出された(データは提示していない)。一方、非標的対照遺伝子座位では、これら全てが、インビトロでSATB1と内因的に結合可能な多くの配列を含んでいる場合でも、SATB1は、これらとインビボで結合することがまれに見出された(図10b)。2組みの遺伝子間に見られる、インビボにおけるSATB1の結合頻度の対比は、SATB1の結合状態によって識別可能な少なくとも2つの明らかに異なる遺伝子サブグループが、SATB1が遺伝子発現を抑制するか活性化するかにかかわらず存在することを示している。これらの結果は、SATB1依存性の発現と併せて、SATB1が、ERBB2、Metastasin、ABL1、TGF-β1、ラミンA/C、MMP3、およびβ-カテニンの発現を直接調節していることを強く示唆する。
【0131】
SATB1によって直接調節される遺伝子に関しては、SATB1の結合は、SATB1との結合能力を有する配列において独占的に生じるわけではない。EMSAでSATB1との結合能力を完全に欠く、プロモーターまたはCpGアイランドの近傍のいくつかの配列は、インビボで結合可能である。このような結合部位は、ABL1のプロモーターの近傍(部位1および部位6)、TGF-β1のプロモーターの近傍(部位10)、ラミンA/Cのプロモーターの近傍(部位4)で見出されている(図10a)。本研究で検討された残りのSATB1標的遺伝子は、既にSATB1結合配列をプロモーターの近傍に有しており、およびSATB1は、インビボでこれらの部位に結合する。インビボにおけるプロモーターまたは近傍配列へのSATB1の結合は、直接標的遺伝子のもう1つの指標である。これは、プロモーター/調節配列へのSATB1の間接的な結合が、Il2Ra、およびIl4、Il5、Il13などの、SATB1の他の既知の直接標的遺伝子内におけることがわかっているからである。SATB1による、このような間接的な結合はおそらく、ゲノム上の多数の部位を、空間的に極めて近くに位置させる大きなゲノムDNA/タンパク質複合体のSATB1を介した形成を反映している14。発現がSATB1に依存する、転移または癌に関連する他のいくつかの遺伝子は、インビボにおけるSATB1との結合と類似のパターンを示す可能性が高い。
【0132】
実施例6:MDA-MB-231細胞の肺への転移に必要となるSATB1
乳癌細胞の転移活性が、インビボにおけるSATB1の発現に依存するか否かを判定するために、マウスモデルを使用した。発明者らは、この疑問の解明に、MDA-MB-231細胞が、shRNAによるSATB1発現の枯渇時に、その転移活性を失うか否かを判定することで取り組んでいる。発明者らはさらに、侵襲性の低いHs558T細胞におけるSATB1の過剰発現がインビボにおける転移活性を高めるか否かを明らかにすることにした。
【0133】
SATB1のノックダウンは、ソフトアガー中で乳癌細胞の浸潤およびコロニー形成を低下させ、ならびにインビトロで正常な細胞形態を回復させるので、発明者らは、転移に対するそのインビボにおける作用を、ヌードマウスを使用する実験的転移アッセイ法で評価した。
【0134】
転移活性を低下させたMDA-MB-231(侵襲性)細胞からのSATB1の除去
SATB1-shRNA1 MDA細胞、SATB1-shRNA2 MDA細胞、および対照細胞(1×106個)を6週齢の無胸腺マウスの側尾静脈に静脈内注射して、これらの癌細胞株の肺への転移を評価した。マウスでは、ヒトMDA-MB-231細胞に由来する同所的に成長させた腫瘍の転移は比較的まれである。したがって、細胞を循環系中に直接導入することで、発明者らは、循環中の癌細胞の生存、ならびに肺への血管外遊出および肺における成長に対するSATB1の必要条件を調べた。腫瘍細胞を注入後の9週目までに、対照細胞が注入されたマウスの肺には、解析した全6匹のマウスの1つの肺あたり125〜160個の数多くの結節が形成された(図11 a、b)。これとは対照的に、肺転移の数は、SATB1ノックダウン細胞、SATB1-shRNA1 MDA細胞が注入されたマウスでは、6匹のマウスについて1つの肺あたり0個〜わずか50個に大きく減じた。SATB1枯渇腫瘍細胞に由来する肺転移は、対照細胞に由来する肺転移よりサイズもはるかに小さかった。第2のノックダウン細胞株であるSATB1-shRNA2 MDA細胞に由来する肺転移は、6匹のマウスのうち5匹で観察されず、およびこのような細胞が注入された1匹のマウスには、1つの肺あたり5個の結節しか認められなかった(図11b)。したがって、実験的な転移解析から発明者らの得たデータから、SATB1が、MDA-MB-231細胞の侵襲性で高転移性の表現型に必要なことがわかり、およびSATB1のレベルが癌細胞の転移活性に重要な役割を果たすことが示唆される。
【0135】
図11aに示すように、RNAiによるSATB1の枯渇は、MDA-MB-231細胞の、ヌードマウスの肺への転移能を阻害した。1×106個の、対照-shRNAを発現するMDA-MB-231細胞、SATB1-shRNA1 MDA細胞またはSATB1-shRNA2 MDA細胞を各マウスの尾静脈に注射し、9週間後に肺を対象に転移結節(矢印)について調べた。代表的な写真を示す。図11bでは、個々のマウスに由来する転移性の肺結節の総数を解剖顕微鏡下でカウントした。図に示した代表的なマウスの肺に関しては、肺内でコロニーを形成したヒト乳癌細胞におけるヒトSATB1の発現レベルを、ヒトGAPDHをローディング対照として、ヒトSATB1およびGAPDHに特異的なオリゴマーを使用したRT-PCRで解析した。ヒト遺伝子に対する、これらのオリゴマーの特異性は、マウスの胸腺細胞(Thy)ではRT-PCRのシグナルが見られないことから明らかである。したがって、SATB1-shRNAのインビボにおける発現がSATB1の発現を阻害することで転移を阻害することが明らかである。
【0136】
転移を高めるHs578T細胞におけるSATB1の過剰発現
次に発明者らは、SATB1の過剰発現が、SATB1がMDA-MB-231細胞より低レベルで発現されている別の乳癌細胞株であるHs578Tの転移を促進するか否かを検討した。発明者らがSATB1をHs578T細胞で、より高いレベルで強制的に発現させたところ、インビトロにおけるその浸潤活性は大きく上昇した(図11c,d)。ベクターのみをトランスフェクトした対照Hs578T細胞(2×106個/匹)を6匹のマウス(HS)に注入したところ、2匹のマウスのみで転移結節が肺に見られ、およびいずれの例においても、1匹のマウスにつき1つしか結節は見られず、これはHs578T細胞の侵襲性がMDA-MB-231細胞の侵襲性より低いという事実と一致する(図11c,d)。対照的に、pLXSN-SATB1をトランスフェクトしてSATB1を過剰発現するHs578T細胞では、極めて多数の肺転移が全マウス(HS25)において、1つの肺あたり25〜157個の転移結節が形成された。SATB1を過剰発現する細胞が注入された6匹のマウスのうち、3匹のマウスに、1つの肺あたり120個を上回る転移結節が生じた。この数は、対照MDA-MB-231細胞が注入されたマウスの肺に形成された転移の数と同等であった。したがって、この結果は、SATB1が乳癌細胞の肺への転移に必要なだけでなく、転移を誘導することを強く示唆する(図11c,d)。
【0137】
SATB1の過剰発現は、Hs578T細胞の肺への転移能を高める。ベクターのみ(対照)またはSATB1発現コンストラクト(pLXSN-SATB1)がトランスフェクトされた2×106個のHs578T細胞を各マウスに尾静脈を介して注射し、9週間後に肺を調べた。3匹の独立したマウスの代表的な写真を図11cに示す。
【0138】
SATB1の腫瘍形成活性
発明者らは、非腫瘍性細胞におけるSATB1の異所性発現による腫瘍形成の活性を評価した。
【0139】
非腫瘍性MCF-10A細胞でSATB1を強制的に発現させると、ヌードマウスに乳腺腫瘍が生じた。発明者らは、SATB1発現コンストラクトが安定にトランスフェクトされたMCF-10A細胞を、ヌードマウスの脂肪体に注入した。発明者らは9週間後にマウスを殺した。SATB1を発現するMCF-10Aがトランスフェクトされた6匹のマウスの全てについて腫瘍が認められたが、対照ベクターコンストラクトが安定にトランスフェクトされたMCF-10Aがトランスフェクトされたマウスには腫瘍は認められなかった(図12)。したがって、SATB1のインビボにおける発現は腫瘍形成能を高めることがわかる。
【0140】
実施例7:SATB1阻害物質のスクリーニングおよび選択化合物の生物学的作用の検討のためのアッセイシステム
この実施例では発明者らは、侵襲性乳癌細胞におけるSATB1活性を良好にブロックする化合物を同定するための、および(2)選択化合物の、侵襲性乳癌細胞の浸潤特性に対する生物学的作用を検討するための、MLSCNから入手可能な低分子化合物のスクリーニング用のアッセイ法システムの開発について説明する。
【0141】
侵襲性乳癌細胞株MDA-MB-231について発明者らは、SATB1が、ERBB2やABL1などの癌遺伝子、ならびにKISS1、CDH1、BRMS1、およびNME1などの腫瘍抑制遺伝子を直接調節すると判定した(図9Cに記載されたデータ、および上述)。実際には、RNAiによるSATB1の枯渇は、MDA-MB-231細胞の浸潤特性の大きな低下、およびMatrigel上における細胞形態の変化を生じた。したがって、侵襲性乳癌細胞におけるSATB1活性を標的とする化合物をスクリーニングするアッセイ法の開発が可能である。研究者はNIHのMolecular Libraries Roadmapから、遺伝子の機能を検討し、および新薬の開発を加速するために、化学的プローブとして使用可能な有機小分子を入手することができる。Molecular Libraries Screening Center Network(MLSCN)は、約500,000個の化学的に多様な小分子をスクリーニングするためのハイスループットスクリーニング(HTS)のアッセイ法を認可するであろう。
【0142】
したがって、SATB1/BURの相互作用に干渉する化合物を同定するための高感度かつ高精度のインビトロアッセイ法のシステムの開発の可能性は極めて高い。発明者らは、免疫グロブリン重鎖(IgH)のエンハンサーBURに由来する、解析の進んだBUR配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含む発現ベクター中に配置する予定である。SATB1の非存在下では、BURは、安定な形質転換体におけるレポーター遺伝子の発現を大きく増強する。SATB1はBURに結合してレポーターの転写を阻害することが知られているので、GFPタンパク質は、SATB1の存在下では抑制されて可視化されないはずである。しかしながら、SATB1のリプレッサー活性を阻害する化合物の存在下では、GFPタンパク質は発現されるようになるはずである。したがって、このような化合物の存在は、緑色の蛍光の出現によって検出され得る。このようなアッセイ法システムは、莫大な数の化合物の迅速なスクリーニング法を提供する。陽性化合物は、インビトロにおける浸潤活性に対する作用に関して検討されることになる。
【0143】
方法
発明者らは、IgHの3'BUR配列がレポーターEGFP遺伝子の5'側および3'側に挿入された強化型GFP(EGFP)レポーターコンストラクトを使用する予定である。発明者らはまた、巻き戻し特性を喪失した変異型のBURを含む変異コンストラクトを対照とする予定である。野生型BURまたは変異型BURの発現カセットは、単独で安定にトランスフェクトされるほか、SATB1発現コンストラクトとともに、通常はSATB1を発現しないさまざまな細胞株にトランスフェクトされるであろう。発明者らは、以下の2つの基準によって、安定にトランスフェクトされた細胞系を確立する予定である:(1)野生型BURに囲まれたEGFPは強く発現されるが、変異型BURに囲まれる場合は発現されない。(2)同時にトランスフェクトされたSATB1発現コンストラクトの存在下では、野生型BURに囲まれたEGFPは完全に抑制されるが、変異型BURに囲まれたEGFPは抑制されない。仮にSATB1の発現が、長期間の培養中に細胞毒性を引き起こす場合は、発明者らは、誘導的な発現系を利用する予定である。上記の2つの基準を満たす、安定にトランスフェクトされた細胞クローンが確立されれば、発明者らは、強い蛍光を示す細胞によって明らかとなる、SATB1のリプレッサー活性をブロックする化合物をスクリーニングするために、SATB1発現ベクターとともに同時にトランスフェクトされた、野生型BURに囲まれたEGFPを含む細胞クローンを使用する予定である。SATB1の潜在的な阻害物質である化合物については、発明者らは、侵襲性の表現型に対するその作用を、ボイデンチャンバー浸潤アッセイ法で検討する予定である。
【0144】
実施例8:予後シグネチャー遺伝子とSATB1調節遺伝子のマイクロアレイによる比較
ヒト乳癌の遺伝子発現のプロファイリングによって、不良な予後と関連する場合のある特徴的な遺伝子発現パターンが同定された。これについては、Ramaswamy, S., Ross, K.N., Lander, E.S. & Golub, T.R. A molecular signature of metastasis in primary solid tumors. Nat Genet 33, 49-54(2003);van de Vijver, M.J. et al. A gene-expression signature as a predictor of survival in breast cancer. N Engl J Med 347, 1999-2009(2002);およびvan't Veer, L.J. et al. Gene expression profiling predicts clinical outcome of breast cancer. Nature 415, 530-6(2002)を参照されたい。原発腫瘍でも検出され得る、このような予後不良関連遺伝子のシグネチャーの存在は、転移細胞はまれにしか存在せず、および腫瘍の進行の後期段階において、一連の遺伝子変化を介して進化するという従来の考え方に疑問を投げかけるものである。そして実際に、予後不良関連の遺伝子発現プロファイルがどのように生じるかということに関する機構に関する証拠はほとんどない。このような発現パターンは、原発腫瘍中の一部の細胞で偶然に生じる可能性があるほか、原発腫瘍細胞の発現パターンに変化を特異的に誘導して転移表現型を生じる、機能性の介在因子が新たに発現される可能性がある。
【0145】
van't Veer, L.J. et al., Nature 415, 530-6(2002)に記載された、乳癌の予後不良と有意に関連すると過去にマイクロアレイ解析によって同定された231個の遺伝子にマッチした155個の遺伝子のうち、55個(36%)は、SATB1に依存して、3D培養におけるMDA-MB-231細胞を使用した発明者らの研究から変化しており、侵襲性癌細胞でアップレギュレートされたこのような遺伝子がSATB1によってもアップレギュレートされること、またこの逆も成り立つことが判明した(パネルa、表2)。SATB1依存性の遺伝子群は、MDA-MB-231細胞の肺転移または骨転移のいずれかを促進することが知られている遺伝子を多く含んでいた(パネルbおよびc、表2)。
【0146】
表2のパネルbでは、SATB1によって調節される遺伝子が、Minn, A.J. et al. Genes that mediate breast cancer metastasis to lung. Nature 436, 518-24(2005)に過去に報告されている、MDA-MB-231細胞による肺転移促進シグネチャーと比較されている。89個のマーカー遺伝子が、CodeLinkのヒト20Kアレイプローブとマッチしており、および29個の代表的な遺伝子(33%)がSATB1の状態に影響されることがわかる。
【0147】
表2のパネルcでは、127個の骨転移マーカー遺伝子が、マッチした94個のCodeLinkヒト20K遺伝子と比較されており、および選択された25個の遺伝子が示されている(27%)。発現の倍率を、図の下に示す色別のスケールに変換した。
【0148】
上述の実施例からわかるように、SATB1の強い発現と侵襲性の低分化型乳癌の関連に関する統計的データは、全38個の組織試料(10個が正常、5個が中分化型、および23個が低分化型)を使用時にP<0.001を示す。臨床使用におけるSATB1の診断的価値をさらに確認するために、ならびに、その予後における重要性を検討するために、発明者らは、原発乳癌の組織を関連臨床データとともに研究者に提供するためにNCIによって設立された、国立癌研究所(NCI)のCooperative Breast Cancer Tissue Resource(CBCTR)を使用する予定である。CBCTRは、ホルマリンで固定されたパラフィン包埋済みの原発乳癌標本を、関連する病理学的情報および臨床転帰情報(すなわち、最長10年間の追跡期間、腫瘍サイズ、結節状態、組織型、生存状況、施行治療、再発関連情報、病期)とともに提供可能である。この有用な有限のコレクションは、アーカイブの組織を臨床データおよび転帰データとともに必要とする大規模研究を促進することが意図されている。
【0149】
CBCTR標本を使用した確認によって、予後予測および診断におけるSATB1の使用が可能となる。例えば、リンパ節陰性患者に由来する原発組織の生検は、SATB1を検出するためにSATB1抗体で免疫染色もされる。仮にSATB1が陽性であることがわかれば、患者は、放射線療法および/または化学療法などの、より積極的な抗癌療法を受けることが考慮されるべきである。
【0150】
実施例9:対象におけるSATB1のダウンレギュレーション
ヒト対象におけるインビボ試験
SATB1 shRNAの調製および投与:実施例4に記載されたshRNAの懸濁物は、オリゴヌクレオチドと緩衝剤または界面活性剤を混合して治療濃度域の懸濁物を調製することで調製可能である。siRNAは、合成され、秤量され、ならびに混合および超音波処理よって低塩緩衝液に溶解可能である。可溶化剤および送達剤を溶液に添加することができる。ストック溶液から希釈液を作製することが可能であり、および37℃の0.9% NaClなどの最終賦形剤が各投与剤形に投与の直前に添加される。液体成分(例えば、緩衝液、siRNA、および生理食塩水)の最終的な比率は例えば、それぞれ5:5:90とすることができる。SATB1が悪性細胞で異所的に発現されるように検出される、侵襲癌を有すると診断された対象には、治療有効量の溶液が間質内または腫瘍内に投与される場合がある。試料の投与量は、シリンジおよびニードルを使用して、0.1〜0.5 mlを1〜5回/週とすることができる。
【0151】
siRNA投与後に十分な期間が経過した後に、腫瘍細胞の成長および細胞分裂に顕著な低下が観察されるはずである。shRNAの投与は、腫瘍細胞におけるSATB1の枯渇を引き起こすことで、侵襲性腫瘍細胞に特徴的な転移および成長を防ぐはずである。
【0152】
本発明の実施例、方法、手順、特定の化合物および分子は例示的であり、本発明を説明するものであり、いかなる点においても、本発明の範囲は制限されると見なされるべきではない。本明細書で言及された任意の特許、出版物、公開配列は、本発明が関連し、およびそれぞれが特異的かつ個別に、参照により組み入れられると同程度に参照により本明細書に組み入れられる当業者のレベルにある。
【0153】
表1は、本研究に使用されたヒト原発乳腺腫瘍標本の病理学的情報の要約を示す。
【0154】
(表1)本研究に使用したヒト原発乳腺腫瘍標本の病理学的情報の要約

【0155】
表2は、マイクロアレイによる、予後シグネチャー遺伝子とSATB1調節遺伝子の比較を示す。
【0156】
(表2)

【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】対SATB1抗体(赤)を使用した、組織アレイ(Biomax)由来の転移性管癌(MDC)に由来する、(A)乳癌細胞株のウェスタン解析、(B)原発乳腺組織試料のウェスタン解析、(C)正常標本および原発腫瘍標本の蛍光免疫染色の写真。
【図2】SATB1の発現が、コード領域(SATB1-shRNA1)または3'UTR(SATB1-shRNA2)のいずれかに対するshRNAを発現する、pSUPER-puroコンストラクトが安定にトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞では、親MDA-MB-231細胞の場合と比較して大きく低下したことを示すウェスタンブロット解析および定量的RT-PCR解析の写真。SATB1の発現レベルは、配列が任意の既知のヒト遺伝子にマッチしなかったshRNA(対照shRNA)が安定に発現されるMDA-MB-231細胞では変化しなかった。
【図3】プラスチック(2D)培養またはマトリゲル(3D)培養プレートのいずれかにおいて成長させた、親MDA-MB-231細胞、対照細胞(対照shRNAを発現)、SATB1-shRNA1 MDA細胞、およびSATB1-shRNA2 MDA細胞の増殖速度を示す2つのグラフ。
【図4】MDA-MB-231細胞においてSATB1によって調節される遺伝子の機能的プロファイルを示すチャート。生物学的過程および分子機能に関する遺伝子オントロジー(Gene Ontology)のタームを使用した機能的プロファイルを、20,000個の遺伝子の初期プール(AmershamのCodelink)を標準として使用するOnto-Expressによる、2D培養または3D培養のいずれかにおいてSATB1依存的に2倍を超えてアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子を対象に構築した。
【図5】プラスチック(2D)培養で、および3D培養(マトリゲル)で5日間および10日間にわたって、対照として成長させたMDA-MB-231細胞(a)、およびSATB1 RNAiを発現するMDA-MB-231細胞(b)を示す写真。
【図6】F-アクチン、β-カテニン、インテグリンα6に対する抗体による免疫染色(いずれも緑色)、および3D培養で成長させたSATB1-shRNA1 MDA細胞またはSATB1-shRNA2 MDA細胞の、DAPIによる対比染色(DNA、青)を示す写真。組織化された、および極性のある形態を有し、腺房様構造を形成することがわかる。
【図7】SATB1の異所性発現が異常な細胞形態を誘導することを示す写真。(A)MCF-10A細胞(ベクター対照)、およびSATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞を、プラスチック(2D)上で、および3Dマトリゲル上で5日間および10日間にわたって成長させた。SATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞は、腫瘍形成能をもたない不死化細胞株である対照細胞と比較して異常な形態を示した。(B)空のベクター対照を有するMCF-10A細胞、SATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞を3D培養で成長させた後に、核(DAPI、青)およびα6インテグリン(緑)を染色した。ベクター対照を有するMCF-10A対照細胞の形状は正常であったが、SATB1を発現するMCF10A-SB10細胞は、正常MCF-10A細胞(2つの独立した例(i)および(ii))と比較して異常な形態を示した(4つの独立した例(i)〜(iv)を参照)。(C)空のベクター対照を有するMCF-10A細胞、およびSATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞を3D培養で成長させた後に、核(DAPI、青)およびF-アクチン(赤)を染色した。ベクター対照を有するMCF-10A対照細胞の形態は正常であったが、SATB1を発現するMCF10A-SB10細胞は、正常MCF-10A細胞(2つの独立した例(i)および(ii))と比較して異常な形態(4つの独立した例(i)〜(iv)を参照)を示した。
【図8】(A)MDA-MB-231細胞、およびSATB1 shRNAを発現するMDA-MB-231細胞(左上のパネル)を対象に、ならびにMCF-10A細胞(ベクター対照)、およびSATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞(左下のパネル)を対象にソフトアガーアッセイ法を実施した。(B)浸潤細胞の数を、各セットの細胞を対象としたボイデン(Boyden)チャンバー浸潤アッセイ法でカウントしてグラフを作成した。SATB1 shRNAまたはSATB1 shRNA2を発現するMDA-MB-231細胞は、それらの宿主細胞であるMDA-MB-231細胞(右上のパネル)と比較して浸潤性が20%低下していた。MCF-10A細胞、およびベクター対照を有するMCF-10A細胞では、1〜2個の浸潤細胞が認められたが、SATB1を異所的に発現するMCF10A-SB10細胞では、10〜20個の浸潤細胞が認められた(右下のパネル)。注:4百万個のうち極めて少数の細胞が、MCF-10A/SATB1で浸潤活性を示した。それにもかかわらず、これらの浸潤細胞は、SATB1の強制的な発現の後でのみ認められた。
【図9】他の細胞成長因子および癌マーカーの遺伝子発現にSATB1が及ぼす作用を示す写真。A.半定量的RT-PCR解析を実施して、転移の抑制または促進に関与することが既知である遺伝子の発現レベルを評価した。2D培養で成長させた、対照ベクター(対照1および2)を発現する2つの独立したHs578T細胞クローン、ならびにいずれもSATB1発現コンストラクト(pLXSN-SATB1)を有する2つの独立した細胞クローン(SATB1-1およびSATB-2)を対象としたRT-PCR解析も実施した。PCR条件は、MDA-MB-231細胞またはHs578T細胞のいずれかにおいて解析された各遺伝子の発現のSATB1依存性のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションが検出されるように最適化した。宿主:トランスフェクションなし、V:ベクター対照、siRNA-1、siRNA-2;独立したSATB1枯渇クローン、SB10、SB12;独立したSATB1強制発現クローン、および48の成長関連因子および癌マーカーの遺伝子発現。B.親MDA-MB-231細胞、対照MDA-MB-231細胞(対照shRNA)、SATB1-shRNA1 MDA細胞、およびSATB1-shRNA2 MDA細胞における、ERRB2およびβ-カテニンのタンパク質発現レベルをウェスタンブロットで解析した。GAPDHのレベルをローディング対照として使用した。C.半定量的RT-PCR解析の結果から、図に示した遺伝子の発現レベルが、全ての細胞型で一定であることがわかった。検討した他の全ての遺伝子の発現レベルを示す。
【図10】SATB1が、インビボでERBB2遺伝子座を標的として、乳癌細胞におけるERBB2の発現を調節することを示す。各断片のSATB1結合活性を、細菌に産生させた組換え型SATB1タンパク質を使用した電気泳動易動度シフトアッセイ法(EMSA)によって確認した。潜在的なSATB1結合配列を示す、EMSAに関して陽性を示す、これらの位置を、数字の下のバーで示す。インビボでSATB1に実際に結合する断片を赤い星印で示し、およびChIPの下の赤いバーでも示す。a.対照細胞と比較時に、MDA-MB-231細胞におけるshRNAを介するSATB1の除去と、Hs578T細胞におけるSATB1の過剰発現の両方によって発現が変化した一群の遺伝子。b.発現が細胞内におけるSATB1の発現レベルに依存しない一群の遺伝子。遺伝子構造は、USCS(URL: <http://genome.ucsc.edu/>)のデータに基づく。
【図11】図11aは、1×106個の、対照-shRNAを発現するMDA-MB-231細胞、SATB1-shRNA1 MDA細胞またはSATB1-shRNA2 MDA細胞が注入されたヌードマウスの肺の写真。RNAiによるSATB1の枯渇は、対照と比較して、MDA-MB-231細胞の肺への転移能を阻害した。転移巣を矢印で示す。図11bは、解剖顕微鏡下でカウントされた、個々のマウスに由来する転移性肺結節の総数、および個々の切開された肺内にカウントされた転移結節の平均数を示すグラフ。図に示した代表的なマウスの肺を対象に、肺でコロニーを形成したヒト乳癌細胞におけるヒトSATB1の発現レベルを、ヒトのSATB1およびGAPDHに特異的なオリゴマーを使用して、ローディング対照としてヒトGAPDHを使用したRT-PCRで解析した。ヒト遺伝子に対する、これらのオリゴマーの特異性は、図に示すゲルの写真上で、マウスの胸腺細胞(Thy)に対するRT-PCRシグナルが存在しないことから明らかである。図11cは、2×106個の、ベクターのみがトランスフェクトされたHs578T細胞(対照)、またはHs578T細胞の肺への転移能を後に促進するSATB1の過剰発現を引き起こす、SATB1の発現コンストラクト(pLXSN-SATB1)がトランスフェクトされたHs578T細胞が注入されたヌードマウスの肺の写真。3匹の独立したマウスについて得られた代表的な写真を示す。図11dは、SATB1を過剰に発現するHs578T細胞(HS25)および対照を過剰に発現するHs578T細胞(HS)が注入されたマウスの肺内で形成された転移性肺結節の総数を示すグラフ。図11bと同様に、ヒトSATB1の発現は、図に示した代表的なマウスを対象としたRT-PCRで解析した。
【図12】非腫瘍性MCF-10A細胞におけるSATB1の強制的な発現が、ヌードマウスで乳腺の腫瘍を生じたことを示す写真。
【図13】侵襲性の極めて高い細胞が、SATB1 siRNAに曝露されると浸潤活性を失い、および非腫瘍細胞はSATB1の過剰発現時に浸潤活性を獲得するという、実験から得られた原理を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、患者の転帰を予測する予後予測法:
患者に由来する原発組織を提供する段階;
SATB1の発現を検出する段階であって、SATB1発現の検出が侵襲癌の予測因子またはマーカーとなる、段階。
【請求項2】
アッセイ法が、SATB1のタンパク質レベルを検出する免疫化学的アッセイ法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アッセイ法が、SATB1の転写レベルを検出するRT-PCRアッセイ法である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
化合物がSATB1阻害物質である、SATB1を発現する細胞を処理する化合物。
【請求項5】
阻害物質がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
阻害物質がsiRNAオリゴヌクレオチドである、請求項4記載の化合物。
【請求項7】
阻害物質が、SATB1の機能に干渉する小分子である、請求項4記載の化合物。
【請求項8】
阻害物質が、SATB1を阻害する核酸配列を産生するウイルスベクターである、請求項4記載の化合物。
【請求項9】
阻害物質がアプタマーである、請求項4記載の化合物。
【請求項10】
阻害物質が抗体である、請求項4記載の化合物。
【請求項11】
siRNAオリゴヌクレオチドが、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、およびSEQ ID NO: 7からなる群より選択される、請求項6記載の化合物。
【請求項12】
阻害物質がshRNAオリゴヌクレオチドである、請求項4記載の化合物。
【請求項13】
shRNAオリゴヌクレオチドが、SEQ ID NO: 8またはSEQ ID NO: 9である、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
阻害物質が、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、もしくはナノ粒子などに封入されるか、またはこれらに機能的に結合されるかのいずれかであり、かつインビボにおける対象への送達用に製剤化されている、請求項4記載の化合物。
【請求項15】
請求項4記載の化合物を提供する段階、および治療有効量の該化合物を細胞に送達する段階を含む、細胞の悪性形質転換を防ぐ方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、侵襲癌を同定する診断法:
患者由来の原発組織の生検を提供する段階、
該組織におけるSATB1の発現を検出する段階であって、SATB1の検出が侵襲癌の診断となる、段階。
【請求項17】
癌が、乳癌、小細胞肺癌、白血病、リンパ腫、骨癌、または結腸癌である、請求項17記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図11D】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公表番号】特表2009−516823(P2009−516823A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533787(P2008−533787)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/038711
【国際公開番号】WO2007/075206
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】