説明

SiOxならびにこれを用いたバリアフィルム用蒸着材およびリチウムイオン二次電池用負極活物質

【課題】成膜時にスプラッシュの発生を抑えてガスバリア性に優れた蒸着膜の形成が可能な蒸着材として、また、初期効率を高く維持できるリチウムイオン二次電池用負極活物質として好適なSiOxを提供する。
【解決手段】昇温脱離ガス分析において、200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が680ppm以下であることを特徴とするSiOx。H2Oガス発生量は420ppm以下であることが望ましい。また、X線回折により得られたグラフにおいて、2θ=28°付近に発生するSiピーク点におけるピーク強度P1と、ピーク点前後の平均勾配から想定したピーク点におけるベース強度P2が、(P1−P2)/P2≦0.2を満足することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリアフィルム用蒸着材およびリチウムイオン二次電池用負極活物質として好適に使用できるSiOx、ならびにこれを用いたバリアフィルム用蒸着材およびリチウムイオン二次電池用負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、食品加工の分野で食品等を包装する場合、油脂やたんぱく質などの劣化を防止するため、酸素や水分などが包装材料を透過しないように、包装用材料にはいわゆるガスバリア性が求められる。さらに、医療品および医薬品を処理する分野では、医療品および医薬品に関して変質や劣化に対し高い基準が設けられており、ガスバリア性の高い包装材料が求められている。
【0003】
近年、ガスバリア性が高く、透明性に優れるSiO蒸着膜を有する包装用材料が注目されている。例えば、高分子フィルムにSiO蒸着膜を成膜させた材料などである。ここで、SiO蒸着膜とはシリカ系蒸着膜を意味し、その組成をSiOxで現した場合、xの値は1<x<2となる。SiO蒸着膜を包装用バリアフィルムとして用いる場合は、1.4<x<1.8とするのが好ましいとされている。なお、透明性に優れることは、外観から包装内容物を観察して変質や劣化を確認するために必要であり、特に食品等を包装する包装用材料にとっては必須の特性といえる。
【0004】
このガスバリア性が高いSiO蒸着膜を成膜できる蒸着材料は、SiとSiO2の混合物を加熱し、昇華したSiOガスを析出基体に析出させ、得られた析出SiOを破砕や研磨等で成形することにより製造される。しかしながら、このSiO蒸着材を用いて高分子フィルムにSiO蒸着膜を成膜する際に、スプラッシュが発生することがある。このスプラッシュとは、昇華したSiOガスとともに昇華していない高温の微細な粒子が飛散する現象であり、高分子フィルム上のSiO蒸着膜にこの微細な粒子が付着した場合、ピンホール等の欠陥を生じさせて、ガスバリア性を悪化させる原因となる。
【0005】
そこで、スプラッシュの発生数を抑制するために、従来から種々の改善がなされており、例えば特許文献1では、水素ガス含有量が少ないSiO蒸着材が提案されている。同文献には、SiO蒸着材中の水素ガス含有量とスプラッシュ発生数との関係が示され、水素ガス含有量を50ppm以下にすることでスプラッシュ発生数を大きく低減することができるとされている。しかし、必ずしも期待されるようなスプラッシュ低減効果が得られない場合がある。また、SiO蒸着材を製造する際に使用するシリコンや二酸化シリコンに含まれている水素ガスを除去する必要があるため生産性が悪く、SiOの製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
特許文献2および特許文献3では、高活性な酸化ケイ素粉末が提案されている。高活性にすることで他の元素との反応が効率的かつ容易になることから、ケイ素化合物製造用原料として期待でき、特許文献3の実施例には、この酸化ケイ素粉末を原料として用い、高い反応率で窒化ケイ素を得たことが記載されている。しかし、蒸着材料として利用するための物性改善はなされておらず、これらの特許文献に記載される酸化ケイ素粉末を用いて成膜する際に、スプラッシュ低減効果を得ることは困難と考えられる。また、これら特許文献に記載の酸化ケイ素粉末は、高活性であることから大気下で表面酸化・窒化が進みやすく、ハンドリング性に劣っている。
【0007】
一方、近年における携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性および機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されており、リチウムイオン二次電池は、高寿命かつ高容量であることから、電源市場において高い需要の伸びを示している。
【0008】
このリチウムイオン二次電池は、正極、負極およびこれら両極の間に電解液を含浸させたセパレータを有しており、充放電によってリチウムイオンが電解液を介し正極と負極の間を往復するように構成されている。
【0009】
負極には、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質(負極活物質)が用いられており、この負極活物質として、SiOなどのケイ素酸化物を用いる試みがなされている。珪素酸化物はリチウムに対する電極電位が低く(卑であり)、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出による結晶構造の崩壊や不可逆物質の生成等による劣化がないことから、この珪素酸化物を負極活物質として用いることにより、高電圧、高エネルギー密度で、サイクル特性(充放電を繰り返し実施した際の放電容量の維持性)、および初期効率に優れたリチウムイオン二次電池が得られることが期待できるからである。
【0010】
前記の初期効率とは、初期充電容量に対する初期放電容量の比であり、重要な電池設計因子の一つである。この初期効率が低いということは初期充電で負極に注入されたリチウムイオンが初期放電時に十分に放出されないということであり、初期効率が低くなるようなケイ素酸化物はリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いることは困難である。前掲の特許文献1〜3にはさまざまな物性のSiO蒸着材や酸化ケイ素が提案されているが、そのいずれにおいても、初期効率の向上に向けた改善はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO2006/025195号公報
【特許文献2】特許第3951107号公報
【特許文献3】特許第3952118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、SiO蒸着材を用いて例えば高分子フィルムにSiO蒸着膜を成膜する際に、スプラッシュの発生が抑えられ、ピンホール等の欠陥を生じさせない、ガスバリア性に優れた蒸着膜を形成できるとともに、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合に、初期効率(初期放電容量/初期充電容量)を高く維持できるSiOxを提供すること、ならびにこのSiOxを用いたバリアフィルム用蒸着材およびリチウムイオン二次電池用負極活物質を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討したところ、SiOxは、昇温脱離ガス分析を行った際に200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が多いほど、高分子フィルムにSiOx蒸着膜を成膜する際にスプラッシュが発生し、また、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際に初期効率が低くなることが判明した。
【0014】
昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲でSiOxから検出されるH2Oガス発生量は、SiOx中に含まれるシラノール基の数に依存する。シラノール基(Si−OH)とは、Siと水酸基が共有結合して形成される基である。シラノール基は、200〜800℃で下記(1)式の反応を起こして、シロキサン結合(Si−O−Si)を形成するとともに、H2Oガスを発生する。
Si−OH + HO−Si → −Si−O−Si− + H2O↑ …(1)
【0015】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記(1)のSiOx、下記(2)のバリアフィルム用蒸着材および下記(3)のリチウムイオン二次電池用負極活物質にある。
【0016】
(1)昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が680ppm以下であることを特徴とするSiOx
【0017】
(1)のSiOxにおいては、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が420ppm以下とする実施形態を採ることができる。
【0018】
また、(1)のSiOxにおいては、X線回折により得られた生データグラフをデータ特定数49で移動平均近似曲線に変換したとき、その曲線上で2θ=28°付近に発生するSiピーク点におけるピーク強度P1と、ピーク点前後の平均勾配から想定したピーク点におけるベース強度P2の関係が、(P1−P2)/P2≦0.2を満足するものとする実施形態を採ることができる。
【0019】
(2)前記(1)のSiOxを用いたバリアフィルム用蒸着材。
【0020】
(3)前記(1)のSiOxを用いたリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【発明の効果】
【0021】
本発明のSiOxを食品加工や医療品、医薬品等の分野で使用されるバリアフィルム(包装材料)用蒸着材として用いれば、SiOx蒸着膜の成膜時に、スプラッシュの発生を抑えることができ、ピンホール等の欠陥のない、ガスバリア性に優れた蒸着膜の形成が可能である。また、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合には、当該二次電池の初期効率(初期放電容量/初期充電容量)を高く維持することができる。本発明のSiOxは、活性が低いので、大気中で表面酸化や窒化が進むことはなく、ハンドリング性にも優れている。
【0022】
また、本発明のバリアフィルム用蒸着材を用いることにより、ガスバリア性に優れた蒸着膜の形成が可能であり、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池の初期効率を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】SiOx粉末についてのX線回折によって得られたグラフであり、同図(a)は(P1−P2)/P2≦0.2である場合の例を示し、同図(b)は(P1−P2)/P2>0.2である場合の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のSiOxは、前記のとおり、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が680ppm以下であることを特徴とするSiOxである。
【0025】
本発明のSiOxで、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量を680ppm以下に規定するのは、例えば、本発明のSiOxを使用して高分子フィルムにSiOxの蒸着膜を形成する際におけるスプラッシュの発生をなくし、また、本発明のSiOxをリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いて構成した当該二次電池の初期効率の低下を抑えて高く維持するためである。昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量は、スプラッシュの発生をより低減し、リチウムイオン二次電池の初期効率をより高く維持する観点から、420ppm以下が望ましい。
【0026】
昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲でSiOxから検出されるH2Oガス発生量が680ppm以上である場合は、成膜時にスプラッシュが発生し、また、リチウムイオン二次電池の初期効率が低下する。
【0027】
昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲でSiOxから検出されるH2Oガス発生量の測定は、昇温脱離ガス分析装置(TDS)を使用し、Mass Fragment法によって行う。試料の加熱は室温から開始し、昇温速度は0.5℃/sとする。Mass Fragment法とは、横軸が温度、縦軸が特定質量数のイオン強度のスペクトルを作成し、このスペクトルの面積を用いて定量する方法である。
【0028】
本発明のSiOxにおいて、xの範囲は0.5≦x≦1.5が望ましい。SiOxをバリアフィルム用蒸着材として使用する場合は、通常、xが1より大きいSiOxが望ましいとされており、リチウムイオン二次電池用負極活物質として使用する場合は、一般に、xが1より小さいSiOxが使用されるからである。
【0029】
本発明のSiOxにおいては、X線回折により得られた生データグラフをデータ特定数49で移動平均近似曲線に変換したとき、その曲線上で2θ=28°付近に発生するSiピーク点におけるピーク強度P1と、ピーク点前後の平均勾配から想定したピーク点におけるベース強度P2の関係が、(P1−P2)/P2≦0.2を満足するものとする実施形態を採ることができる。
【0030】
SiOxは、後述するように昇華したSiOxを加熱された析出基体の内周面に析出させることにより得られる。このSiOxにはSiが混在していることがあり、これを蒸着材料として用いた場合には、混在したSiが蒸発、飛散し、これもスプラッシュの原因となる。この混在したSiは、析出基体上でSiOxが熱分解して析出したものであり、析出Siによるスプラッシュは(P1−P2)/P2が小さいほど低減され、(P1−P2)/P2≦0.2を満足すれば実用上十分に低減されること、および析出基体内周面の温度を低下させるほど(P1−P2)/P2が小さくなることを発明者らが見出した。ここで、P1およびP2の求め方を、図1を用いて説明する。
【0031】
図1は、SiOx粉末についてのX線回折によって得られたグラフであり、同図(a)は(P1−P2)/P2≦0.2である場合の例を示し、同図(b)は(P1−P2)/P2>0.2である場合の例を示す。X線回折により得られたままの生データグラフはノイズを多く含むため、移動平均近似曲線に変換して、ノイズの影響を低減する。このとき、データ特定数は49とする。すなわち、生データの、2θ(θ:X線入射角)が小さい方から最初の49個の値(1番目から49番目まで)の平均値が移動平均近似曲線の最初の値(小さい方から25番目の2θにおける値)となり、次に2番目から50番目までの平均値が移動平均近似曲線の2番目の値(小さい方から26番目の2θにおける値)となる。以後、同様に処理することにより、生データを移動平均近似曲線に変換できる。
【0032】
図1(a)および(b)は、いずれもこの変換された移動平均近似曲線である。同図では、2θ=28°の付近にピークが現れている。これは、Siピークである。28°近傍のSiピークの領域を除いた前後の領域には格別のピークは見られない。そこで、ピーク領域を除いたピーク前後の領域における強度データから、ピーク領域におけるベースライン(図中に直線で示す。)、すなわちピーク強度に影響されない平均強度勾配を求め、これからピーク点におけるベース強度P2を想定する。
【0033】
より具体的には、ピーク領域を除いたピーク前後の領域として、24〜26°および30〜32°をそれぞれ選択する。各領域における平均強度P3およびP4を求める。平均強度P3およびP4を、それぞれ25°および31°における強度として各点を直線で繋ぐ。これをベースラインとする。ピーク点の2θに対応する位置のベースライン上の点の強度をベース強度P2とする。
【0034】
こうしてピーク点におけるベース強度P2が想定されると、(P1−P2)/P2を算出することができる。(P1−P2)/P2は、図1(a)では0.10であり、図1(b)では1.35である。
【0035】
本発明のSiOxは、下記(1)〜(4)の工程を経て製造することができる。
(1)Si粉末とSiO2粉末とを混合し、造粒した混合造粒原料を1100〜1350℃に加熱する。この場合、前掲の特許文献1に記載されるように、水素ガス含有量の低い原料を用いることが、スプラッシュ発生数を低減する上で望ましい。
SiOxの用途がバリアフィルム用蒸着材の場合は、通常、xが1より大きいSiOxとし、リチウムイオン二次電池用負極活物質として使用する場合は、一般に、xが1より小さいSiOxとする。このxの値は、例えば、SiとSiO2の2種類の原料を個別の熱源で独立して加熱して蒸着させる二元蒸着法で作製したSiOx膜を粉末化してSiOx粉末を製造する場合に、SiOx膜を作製する際のSiとSiO2の各蒸着速度を調整することによって、調整することができる。
【0036】
(2)昇華したSiOxを500〜600℃の析出部(析出基体内周面)に析出させる。
(3)SiOxを析出させた析出基体をAr雰囲気中で冷却し、SiOxを回収し、粉末化する。
(4)回収したSiOxと、適量のエタノールをオートクレーブ内に収容し、圧力を0.1〜1MPa、温度を80〜150℃で処理する。
【0037】
前記(4)の処理(以下、「回収後処理」と記す)は、本発明のSiOxを製造する上で肝要の処理である。この回収後処理を施すことにより、SiOx本来の構造を保持した状態でシラノール基が存在する部分を修復し、安定したシロキサン結合(Si−O−Si)とすることができる。その結果、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が680ppm以下である、本発明のSiOxを製造することが可能となる。
【0038】
回収後処理において、処理圧力を0.3〜1MPaとし、処理温度を105〜150℃とすることが望ましい。これにより、H2Oガス発生量が420ppm以下である本発明のSiOxを製造することが可能となるからである。また、SiO本来の構造を維持し、後処理を簡易にするためである。
【0039】
この回収後処理は、例えば、オートクレーブを使用し、回収したSiOxと適量のエタノールをオートクレーブ内に収容し、所定温度に加熱することによって比較的簡便に行うことができる。エタノールを同時にオートクレーブ内に入れるのは、気化させて、オートクレーブ内を所定の圧力にするためである。
【0040】
以上説明した本発明のSiOxは、SiOx蒸着膜の成膜時に、スプラッシュの発生を抑えることができ、ガスバリア性に優れた蒸着膜の形成が可能である。また、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合には、当該二次電池の初期効率を高く維持することができる。このSiOxは、活性が低いので、表面酸化や窒化が進むことはなく、ハンドリング性にも優れている。
【0041】
本発明のバリアフィルム用蒸着材は、本発明のSiOxを用いたものであり、これを用いて形成されたSiOx蒸着膜はガスバリア性に優れる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、本発明のSiOxを用いたものであり、これを用いたリチウムイオン二次電池は初期効率を高く維持することができる。
【実施例】
【0042】
水素ガス含有量が35ppmのSi粉末をSiO2粉末と混合し、造粒した混合造粒原料を1100〜1350℃で加熱し、発生した気体状のSiOxを析出基体の内周面に析出させ、析出基体が室温になるまでAr雰囲気中で冷却した後、大気下に解放してSiOxを回収し、粉末化した。続いて、回収したSiOxと所定量のエタノール(試薬特級)をオートクレーブに収容し、5時間の回収後処理を行った後、濾過し、乾燥して、SiOxを製造した。表1には、析出基体内周面(析出部)の温度ならびに回収後処理の圧力および温度条件を示した。表1に示す比較例では、回収後処理を行わなかった。表1に示す本発明例は、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が、本発明で規定する条件を満たした例であり、比較例はこの条件を満たさなかった例である。
【0043】
【表1】

【0044】
これらのSiOxについて、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量、SiOxのx値、およびX線回折によるSiピーク強度を調査した。さらに、これらのSiOxを、バリアフィルム用蒸着材として使用した際のスプラッシュ発生数、およびリチウムイオン二次電池用負極活物質として使用した際の当該二次電池の初期効率を調査した。なお、比較のために、回収後処理を実施しなかったSiOxについても同様の調査を行った。
【0045】
調査方法は、下記のとおりである。
・昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量
昇温脱離ガス分析装置を使用し、SiOxを室温から0.5℃/sの昇温速度で昇温し、Mass Fragment法によって測定した。
・SiOxのx値
SiOxのO(酸素)をセラミック中酸素分析装置(不活性気流下溶融法)によって定量し、SiOxのSiを、SiOxを溶液化した後、ICP発光分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)によって定量し、両定量値からSiOxのx値を算出した。
【0046】
・X線回折によるSiピーク強度
粉末X線回折装置を用いてX線の入射角と回折強度との関係を調査した。試料には、上記方法で製造したSiOxを平均粒径20μmに粉砕したものを使用した。X線回折の測定条件は表2に示すとおりとした。そして、Siピーク点におけるピーク強度P1からベース強度P2を減じた値P1−P2とベース強度P2との比(強度比(P1−P2)/P2)を求めた。この強度比の求め方は上述のとおりである。
【0047】
【表2】

【0048】
・スプラッシュ発生数
イオンプレーティング装置を用いて、昇華したSiOxが析出基体に蒸着する際に、エレクトロンビームを、出力が300W、初期圧力が4×10-4Paのもとで60秒間照射した場合に発生するスプラッシュの個数を測定した。
【0049】
・リチウムイオン二次電池の初期効率
SiOxを負極活物質として使用したリチウムイオン二次電池を作製し、一定の電流で充電、放電を行い、初期効率を求めた。
【0050】
前記表1に、SiOxの製造条件と併せて、得られたSiOxの物性、および、このSiOxをバリアフィルム用蒸着材としてまたはリチウムイオン二次電池用負極活物質として使用した場合における効果(スプラッシュ発生数および初期効率)をまとめて示す。
【0051】
前記表1に示したように、本発明で規定する条件を満たす本発明例1〜4のSiOxでは、いずれもスプラッシュの発生はほとんど認められず、初期効率も60%以上と良好であった。
【0052】
これに対して、製造時に、回収後処理を行わず、昇温脱離ガス分析において200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量に関して本発明で規定する条件から外れる比較例1および2のSiOxでは、いずれもスプラッシュの発生が認められ、初期効率も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のSiOxをバリアフィルム用蒸着材として用いれば、SiOx蒸着膜の成膜時に、スプラッシュの発生を抑えることができ、ピンホール等の欠陥のない、ガスバリア性に優れた蒸着膜の形成が可能である。また、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合には、初期効率を高く維持できる。したがって、本発明のSiOxは、食品加工や、医薬品製造、さらには、リチウムイオン二次電池製造等、種々の産業分野において好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温脱離ガス分析において、200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が680ppm以下であることを特徴とするSiOx
【請求項2】
昇温脱離ガス分析において、200〜800℃の温度範囲で検出されるH2Oガス発生量が420ppm以下であることを特徴とするSiOx
【請求項3】
X線回折により得られた生データグラフをデータ特定数49で移動平均近似曲線に変換したとき、その曲線上で2θ=28°付近に発生するSiピーク点におけるピーク強度P1と、ピーク点前後の平均勾配から想定したピーク点におけるベース強度P2が、(P1−P2)/P2≦0.2を満足することを特徴とする請求項1または2に記載のSiOx
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のSiOxを用いた蒸着材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のSiOxを用いた二次電池用負極活物質。

【図1】
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【公開番号】特開2011−98879(P2011−98879A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223597(P2010−223597)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】