説明

Snめっきの耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金条及びそのSnめっき条

【課題】Snめっきの耐熱剥離性を改善したCu−Zn系合金条及びそのSnめっき条を提供する。
【解決手段】15〜40質量%のZnを含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu−Zn系合金条において、P、As、Sb及びBi濃度の合計を100質量ppm以下、Ca及びMg濃度の合計を100質量ppm以下、O及びS濃度をそれぞれ30質量ppm以下に規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の導電性材料として好適で、Snめっきの耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金条及びそのSnめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu−Zn系合金は、りん青銅、ベリリウム銅、コルソン合金等と比較するとばね性が劣るものの廉価なため、コネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の電気接点材料として広く使用されている。Cu−Zn系合金として代表的なものは黄銅であり、C2600、C2680等の合金がJIS H3100に規定されている。Cu−Zn系合金を電気接点材料に用いる場合、低い接触抵抗を安定して得るためにSnめっきを施すことが多い。Cu−Zn系合金のSnめっき条は、Snの優れた半田濡れ性、耐食性、電気接続性を生かし、自動車電装用ワイヤーハーネスの端子、印刷回路基板(PCB)の端子、民生用のコネクタ接点等の電気・電子部品に大量に使われている。
【0003】
通常、銅合金のリフロ−Snめっき条を高温で長時間保持すると、めっき層が母材より剥離する現象(以下、熱剥離)が生じる。銅合金にZnを添加すると、熱剥離特性は向上する。したがって、Cu−Zn系合金の耐熱剥離性は比較的良好である。
上記Cu−Zn系合金のSnめっき条は、脱脂及び酸洗の後、電気めっき法により下地めっき層を形成し、次に電気めっき法によりSnめっき層を形成し、最後にリフロ−処理を施しSnめっき層を溶融させる工程で製造される。
Cu−Zn系合金Snめっき条の下地めっきとしては、Cu下地めっきが一般的であり、耐熱性が求められる用途に対してはCu/Ni二層下地めっきが施されることもある。ここで、Cu/Ni二層下地めっきとは、Ni下地めっき、Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行った後にリフロ−処理を施しためっきであり、リフロ−後のめっき皮膜層の構成は表面からSn相、Cu−Sn相、Ni相、母材となる。この技術の詳細は特許文献1〜3等に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−196349号公報
【特許文献2】特開2003−293187号公報
【特許文献3】特開2004−68026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、耐熱剥離性に対し、より高温で長期間の信頼性が求められるようになり、従来の比較的良好な耐熱剥離性を有しているCu−Zn系合金に対しても、更に良好な耐熱剥離性が求められるようになった。
本発明の目的は、すずめっきの耐熱剥離性を改善したCu−Zn系合金すずめっき条を提供することであり、特に、Cu下地めっき、又はCu/Ni二層下地めっきに関して改善された耐熱剥離性を有するCu−Zn系合金すずめっき条を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、Cu−Zn系合金のリフローSnめっき条の耐熱剥離性を改善する方策を鋭意研究した。その結果、S、O、P、As、Sb、Bi、Ca及びMgの濃度を規制することにより、耐熱剥離性を大幅に改善できることを見出した。
本発明は、この発見に基づき成されたものであり、以下の通りである。
(1)15〜40質量%のZnを含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物中P、As、Sb及びBi濃度の合計が100質量ppm以下、Ca及びMg濃度の合計が100質量ppm以下、O濃度が30質量ppm以下、S濃度が30質量ppm以下であることを特徴とするSnめっきの耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金条。
(2)Sn、Ni、Fe、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの中の一種以上を0.01〜5.0質量%の範囲で含有することを特徴とする(1)のCu−Zn系合金条。
(3)(1)または(2)のCu−Zn系合金条を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Cu相の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする、耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金Snめっき条。
(4)(1)または(2)のCu−Zn系合金条を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする、耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金Snめっき条。
なお、Cu−Zn系合金のSnめっきは、部品へのプレス加工の前に行う場合(前めっき)とプレス加工後に行う場合(後めっき)があるが、両場合とも、本発明の効果は得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(1)母材の成分
(イ)合金元素
本発明は15〜40質量%のZnを含有する銅合金を対象とするものであり、Znがこの範囲から外れる銅合金に対しては、発明の作用効果が発現しない。
15〜40質量%のZnを含有する銅合金として黄銅が挙げられる。JIS−H3100ではC2600、C2680、C2720等の黄銅が規定されている。Znが40質量%を超えると、製造性が劣化し、導電率低下も大きくなる。Znが15質量%未満になると強度が不足する。好ましくは27〜38質量%である。
本発明の合金には、更に、合金の強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、Sn、Ni、Fe、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの中の一種以上を合計で0.01〜5.0質量%添加することができる。ただし、合金元素の追加は、導電率の低下、製造性の低下、原料コストの増加等を招くことがあるので、この点への配慮は必要である。これら元素の合計量が0.01質量%未満では、特性改善効果が発現しない。一方、上記元素の合計量が5.0質量%を超えると、導電率低下が著しくなる。そこで、合計量を0.01〜5.0質量%に規定する。好ましくは0.1〜3.0質量%である。
【0008】
(ロ)不純物
VB族のP、As、Sb及びBiは、めっきと母材との界面に濃化することにより、熱剥離を促進する元素である。そこで、これらの濃度を合計で100質量ppm以下に規制する。より好ましい濃度は5質量ppm以下である。
Pは銅合金の脱酸剤や合金元素として良く用いられる元素であり、例えば特開昭60−86230号公報に見られるように、特性改善のためCu−Zn系合金にPを添加することもある。P濃度を低く抑えるためには、脱酸剤や合金元素としてPを添加しないことはもちろん、Pを含有する銅合金スクラップを原料として用いないことなども必要である。
【0009】
As、Sb及びBiは、伸銅品の主要原料である電気銅が含有する代表的な不純物である。これらの濃度を低く抑えるためには、品位の低い電気銅の使用を避ける必要がある。
P、As、Sb及びBiの合計濃度の下限値は特に規制されるものではないが、1質量ppm未満に下げようとすると多大な精錬コストが必要となるため、1質量ppm以上にするのが通常である。
次に、めっきと母材の界面に濃化することにより熱剥離を促進する元素として、P、As、Sb、Bi以外に、MgとCaがある。そこで、MgとCaの濃度を合計で100質量ppm以下に規制する。より好ましい濃度は5質量ppm以下である。
Mgは銅合金の脱酸剤や合金元素として良く用いられる元素であり、特に応力緩和特性に対するMgの効果は顕著である。Mgを低く抑えるためには、脱酸剤や合金元素としてMgを添加しないことはもちろん、Mgを含有する銅合金スクラップを原料として用いないことなども必要である。
【0010】
Caは、Cu−Zn系合金を溶製する際に、耐火物や溶湯被覆剤等から混入しやすい元素である。溶湯と接触する資材にCaを含有しないものを用いることが肝要である。
Mg及びCaの合計濃度の下限値は特に規制されるものではないが、0.5質量ppm未満に下げようとすると多大な精錬コストが必要となるため、0.5質量ppm以上にするのが通常である。
O及びSの各濃度は、30質量ppm以下に規制する。いずれかの濃度が30質量ppmを超えると、Snめっきの耐熱剥離性が劣化する。O濃度を低く抑えるためには、インゴット製造時に溶湯表面を木炭で被覆することが有効である。この場合、木炭に水分が吸着しているとこの水分が酸素の混入源となるため、十分に乾燥した木炭を使用することが肝要である。また、木炭被覆に塩化物や弗化物等から構成される溶融塩による被覆を併用すれば、溶湯が大気と遮断されるため、より高い脱酸効果が得られる。
S濃度を低く抑えるためには、原料、溶湯と接触する耐火物、溶湯被覆剤等からのSの混入を防止することが必要であり、これらの品質を厳選することが必要であるが、Na2CO3等の脱硫剤を溶湯上に添加し、溶湯中に含有されたSを除去することもできる。
【0011】
(2)めっきの厚み
(2−1)Cu下地めっき
Cu下地めっきの場合、Cu−Zn系合金母材上に、電気めっきによりCuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層が反応してSn−Cu合金相が形成され、めっき層構造は、表面側よりSn相、Sn−Cu合金相、Cu相となる。
リフロー後のこれら各相の厚みは、
・Sn相:0.1〜1.5μm、
・Sn−Cu合金相:0.1〜1.5μm、
・Cu相:0〜0.8μm
の範囲に調整する。
Sn相が0.1μm未満になると半田濡れ性が低下し、1.5μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
【0012】
Sn−Cu合金相は硬質なため、0.1μm以上の厚さで存在すると挿入力の低減に寄与する。一方、Sn−Cu合金相の厚さが1.5μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい厚みは0.5〜1.2μmである。
Cu−Zn系合金ではCu下地めっきを行うことにより、半田濡れ性が向上する。したがって、電着時に0.1μm以上のCu下地めっきを施す必要がある。このCu下地めっきは、リフロー時にSn−Cu合金相形成に消費され消失しても良い。すなわち、リフロー後のCu相厚みの下限値は規制されず、厚みがゼロになってもよい。
【0013】
Cu相の厚みの上限値は、リフロー後の状態で0.8μm以下とする。0.8μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいCu相の厚みは0.4μm以下である。
上記めっき構造を得るためには、電気めっき時の各めっきの厚みを、Snめっきは0.5〜1.8μmの範囲、Cuめっきは0.1〜1.2μmの範囲で適宜調整し、230〜600℃、3〜30秒間の範囲の中の適当な条件でリフロー処理を行う。
【0014】
(2−2)Cu/Ni下地めっき
Cu/Ni下地めっきの場合、Cu−Zn系合金母材上に、電気めっきによりNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層を順次形成し、その後リフロー処理を行う。このリフロー処理により、CuめっきはSnと反応してSn−Cu合金相となり、Cu相は消失する。一方Ni層は、ほぼ電気めっき上がりの状態で残留する。その結果、めっき層の構造は、表面側よりSn相、Sn−Cu合金相、Ni相となる。
リフロー後のこれら各相の厚みは、
・Sn相:0.1〜1.5μm、
・Sn−Cu合金相:0.1〜1.5μm、
・Ni相:0.1〜0.8μm
の範囲に調整する。
Sn相が0.1μm未満になると半田濡れ性が低下し、1.5μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい範囲は0.2〜1.0μmである。
Sn−Cu合金相は硬質なため、0.1μm以上の厚さで存在すると挿入力の低減に寄与する。一方、Sn−Cu合金相の厚さが1.5μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましい厚みは0.5〜1.2μmである。
【0015】
Ni相の厚みは0.1〜0.8μmとする。Niの厚みが0.1μm未満ではめっきの耐食性や耐熱性が低下する。Niの厚みが0.8μmを超えると加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進される。より好ましいNi相の厚みは0.1〜0.3μmである。
上記めっき構造を得るためには、電気めっき時の各めっきの厚みを、Snめっきは0.5〜1.8μmの範囲、Cuめっきは0.1〜0.4μm、Niめっきは0.1〜0.8μmの範囲で適宜調整し、230〜600℃、3〜30秒間の範囲の中の適当な条件でリフロー処理を行う。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例で採用した製造、めっき、測定方法を以下に示す。
市販の電気銅をアノードとして、硝酸銅浴中で電解を行い、カソードに高純度銅を析出させた。この高純度銅中のP、As、Sb、Bi、Ca、Mg及びS濃度は、いずれも1質量ppm未満であった。以下、この高純度銅を実験材料に用いた。
高周波誘導炉を用い、内径60mm、深さ200mmの黒鉛るつぼ中で2kgの高純度銅を溶解した。溶湯表面を木炭片で覆った後、所定量のZn及びその他の合金元素を添加した。次に、P、As、Sb、Bi、Ca、Mg及びSを添加して不純物濃度を調整した。O濃度が高い試料を作製する場合は、溶湯表面の一部を被覆した木炭から露出させた。
その後、溶湯を金型に鋳込み、幅60mm、厚み30mmのインゴットを製造し、以下の工程で、Cu下地リフローSnめっき材及びCu/Ni下地リフローSnめっき材に加工した。
【0017】
(工程1)800℃で3時間加熱した後、厚さ8mmまで熱間圧延する。
(工程2)熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去する。
(工程3)板厚1.5mmまで冷間圧延する。
(工程4)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱する。
(工程5)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗及び#1200エメリー紙による機械研磨を順次行い、表面酸化膜を除去する。
(工程6)板厚0.43mmまで冷間圧延する。
(工程7)再結晶焼鈍として400℃で30分間加熱する。
(工程8)10質量%硫酸−1質量%過酸化水素溶液による酸洗を行い、表面酸化膜を除去する。
(工程9)板厚0.3mmまで冷間圧延する。
(工程10)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして次の条件で電解脱脂を行う。
電流密度:3A/dm2。脱脂剤:ユケン工業(株)製商標「パクナP105」。脱脂剤濃度:40g/L。温度:50℃。時間30秒。電流密度:3A/dm2
(工程11)10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗する。
(工程12)次の条件でNi下地めっきを施す(Cu/Ni下地の場合のみ)。
・めっき浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:5A/dm2
・Niめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程13)次の条件でCu下地めっきを施す。
・めっき浴組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L。
・めっき浴温度:25℃。
・電流密度:5A/dm2
・Cuめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程14)次の条件でSnめっきを施す。
・めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。
・めっき浴温度:50℃。
・電流密度:9A/dm2
・Snめっき厚みは、電着時間により調整。
(工程15)リフロー処理として、温度を400℃、雰囲気ガスを窒素(酸素1vol%以下)に調整した加熱炉中に、試料を10秒間挿入し水冷する。
【0018】
このように作製した試料について、次の評価を行った。
(a)母材の成分分析
機械研磨と化学エッチングによりめっき層を完全に除去した後、Zn及びSn濃度をICP−発光分光法で、P、As、Sb、Bi、Ca、Mg及びS濃度をICP−質量分析法で、O濃度を不活性ガス溶融−赤外線吸収法で測定した。
(b)電解式膜厚計によるめっき厚測定
リフロー後の試料に対しSn相及びSn−Cu合金相の厚みを測定した。なお、この方法ではCu相及びNi相の厚みを測ることはできない。
【0019】
(c)GDSによるめっき厚測定
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Sn、Cu、Niの深さ方向の濃度プロファイルを求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製 JY5000RF-PSS型。
・Current Method Program:CNBinteel-12aa-0。
・Mode:Constant Electric Power=40W。
・Ar-Presser:775Pa。
・Current Value:40mA(700V)。
・Flush Time:20sec。
・Preburn Time:2sec。
・Determination Time:Analysis Time=30sec、Sampling Time=0.020sec/point。
【0020】
GDSで得られるCu濃度プロファイルデータより、リフロー後に残留しているCu下地めっき(Cu相)の厚みを求めた。GDSによる代表的な濃度プロファイルとして後述する発明例23(表2、Cu下地めっき)のデータを図1に示す。深さ1.7μmのところに、母材よりCu濃度が高い部分が認められる。この部分はリフロー後に残留しているCu下地めっき層であり、この層の厚みを読み取りCu相の厚みとした。なお、母材よりCuが高い層が認められない場合は、Cu下地めっきは消失した(Cu相の厚みはゼロ)と見なした。同様に、Ni濃度プロファイルデータより、Ni下地めっき(Ni相)の厚みを求めた。
【0021】
(d)耐熱剥離性
幅10mmの短冊試験片を採取し、105℃または150℃の温度で、大気中3000時間まで加熱した。その間、100時間毎に試料を加熱炉から取り出し、曲げ半径0.5mmの90°曲げと曲げ戻し(90°曲げを往復一回)を行った。そして、試料の曲げ内周部表面を光学顕微鏡(倍率50倍)で観察し、めっき剥離の有無を調べた。
【0022】
発明例1〜20及び比較例1〜7
母材の不純物の耐熱剥離性への影響を調査した実施例を表1に示す。
【表1】

【0023】
Cu下地めっき材については、Cuの厚みを0.3μm、Snの厚みを0.8μmとして電気めっきを行い、400℃で10秒間リフローしたところ、全ての発明例、比較例でいずれもSn相の厚みは約0.4μm、Cu−Sn合金相の厚みは約1μmとなり、Cu相は消失していた。
Cu/Ni下地めっき材については、Niの厚みを0.2μm、Cuの厚みを0.3μm、Snの厚みを0.8μmとして電気めっきを行い、400℃で10秒間リフローしたところ、全ての発明例、比較例でいずれもSn相の厚みは約0.4μm、Cu−Sn合金相の厚みは約1μmとなり、Cu相は消失し、Ni相は電着時の厚み(0.2μm)のまま残留していた。
【0024】
本発明合金である発明例1〜20では、Cu下地、Cu/Ni下地にかかわらず、105℃、150℃とも3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。
発明例1〜4及び比較例1〜3では、Mg、Ca、S、O濃度が低い条件下で、P、As、Sb及びBi濃度を変化させている。P、As、Sb、Biの合計濃度が100質量ppmを超えると、Cu下地、Cu/Ni下地にかかわらず150℃での剥離時間が3000時間を下回っている。剥離時間の短縮は105℃、150℃共にP、As、Sb、Biの合計濃度が高いほど顕著である。また、150℃での剥離時間が105℃での剥離時間より短く、P、As、Sb、Biの悪影響は150℃でより顕著に発現するといえる。
【0025】
発明例5〜9及び比較例4〜5では、P、As、Sb、Bi、S、O濃度が低い条件下で、Mg及びCa濃度を変化させている。MgとCaの合計濃度が100質量ppmを超えると、Cu下地、Cu/Ni下地にかかわらず105℃での剥離時間が3000時間を下回っている。一方、150℃では剥離時間の短縮が認められず、MgとCaの悪影響は105℃でより顕著に発現するといえる。
比較例6及び7は、それぞれS及びOが30質量ppmを超える合金である。両者ともにCu下地、Cu/Ni下地にかかわらず105℃及び150℃のめっき剥離時間が3000時間を下回っている。
発明例10〜13は、本発明の範囲内でZn濃度を変化させているが、いずれにおいても3000時間経過後にめっき剥離が生じていない。又、発明例14〜20は、本発明の範囲内でSn、Ni、Fe、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を添加しているが、いずれにおいても3000時間経過後にめっき剥離が生じていない。
【0026】
発明例21〜35及び比較例8〜13
めっきの厚みが耐熱剥離性に及ぼす影響を調査した実施例を表2及び3に示す。母材組成はCu−30.0質量%Znで、P、As、Sb及びBiの合計濃度は3.2質量ppm、MgとCaの合計濃度は2.1質量ppm、O濃度は18質量ppm、S濃度は12質量ppmであった。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表2(発明例21〜28及び比較例8〜10)はCu下地めっきでのデータである。本発明合金である発明例21〜28については、105℃、150℃とも3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。
発明例21〜24及び比較例10では、Snの電着厚みを0.9μmとし、Cu下地の厚みを変化させている。リフロー後のCu下地厚みが0.8μmを超えた比較例10では105℃、150℃とも、剥離時間が3000時間を下回っている。
発明例23、25〜28及び比較例8〜9ではCu下地の電着厚みを0.8μmとし、Snの厚みを変化させている。Snの電着厚みを2.0μmとし他と同じ条件でリフローを行った比較例8では、リフロー後のSn相の厚みが1.5μmを超えている。またSnの電着厚みを2.0μmとしリフロー時間を延ばした比較例9ではリフロー後のSn−Cu合金相厚みが1.5μmを超えている。Sn相またはSn−Cu合金相の厚みが規定範囲を超えたこれら合金では、105℃、150℃とも、剥離時間が3000時間を下回っている。
【0030】
表3(発明例29〜35及び比較例11〜13)はCu/Ni下地めっきでのデータである。本発明合金である発明例29〜35については、105℃、150℃とも3000時間加熱してもめっき剥離が生じていない。
発明例29〜31及び比較例13では、Snの電着厚みを0.9μm、Cuの電着厚みを0.2μmとし、Ni下地の厚みを変化させている。リフロー後のNi相の厚みが0.8μmを超えた比較例13では105℃、150℃とも、剥離時間が3000時間を下回っている。
発明例32〜35及び比較例11ではCu下地の電着厚みを0.15μm、Ni下地の電着厚みを0.2μmとし、Snの厚みを変化させている。リフロー後のSn相の厚みが1.5μmを超えた比較例11では105℃、150℃とも、剥離時間が3000時間を下回っている。
Snの電着厚みを2.0μm、Cuの電着厚みを0.6μmとし、リフロー時間を他の実施例より延ばした比較例12では、Sn−Cu合金相厚みが1.5μmを超え、105℃、150℃とも、剥離時間が3000時間を下回っている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発明例23(表2、Cu下地めっき)の試料の銅濃度の深さ方向のプロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15〜40質量%のZnを含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物中P、As、Sb及びBi濃度の合計が100質量ppm以下、Ca及びMg濃度の合計が100質量ppm以下、O濃度が30質量ppm以下、S濃度が30質量ppm以下であることを特徴とするSnめっきの耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金条。
【請求項2】
Sn、Ni、Fe、Mn、Co、Ti、Cr、Zr、Al及びAgの群から選ばれた少なくとも一種を0.01〜5.0質量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1のCu−Zn系合金条。
【請求項3】
請求項1または請求項2のCu−Zn系合金条を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Cu相の厚みが0〜0.8μmであることを特徴とする、耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金Snめっき条。
【請求項4】
請求項1または請求項2のCu−Zn系合金条を母材とし、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Ni相の各層でめっき皮膜が構成され、Sn相の厚みが0.1〜1.5μm、Sn−Cu合金相の厚みが0.1〜1.5μm、Ni相の厚みが0.1〜0.8μmであることを特徴とする、耐熱剥離性に優れるCu−Zn系合金Snめっき条。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314859(P2007−314859A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148597(P2006−148597)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】