説明

T細胞の単離および同定

【課題】抗原(例えば、MBP)に対する特異性を有するT細胞を単離する改良された方法を開発すること。
【解決手段】本発明は、自己T細胞ワクチンの改良および、それらの産生方法の改良に関連する。本発明はまた、自家T細胞ワクチンを使用する、多発性硬化症または慢性間接リウマチの様な自己免疫疾患の処置方法に関連する。本発明はさらに、T細胞が関連する疾患の診断法に関連する。本発明は一般に、抗原特異的T細胞およびより詳細には自己抗原に対し特異的なT細胞の単離方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般に、例えば、多発性硬化症(MS)のような、自己免疫疾患の診断および処置の分野に関連する。より詳細には、本発明は、抗原特異的なT細胞の単離に関する。さらに、本発明は、例えば、MSのような、自己免疫疾患の処置のための抗原特異的なT細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
細胞傷害性Tリンパ球またはTヘルパー細胞上のT細胞レセプター(TCR)および抗原提示細胞(APC)上のMHC/ぺプチド複合体により形成される細胞間認識複合体は、個々の生体内におけるT細胞のレパートリーの発生(ポジティブ選択;ネガティブ選択;末梢生存)および適応的免疫反応のコントロールステージ(Tヘルパー)ならびにエフェクターステージ(Tキラー)の両方の間において、T細胞を活性化する細胞−細胞接触の様々なセットにおける共通の認識要素である。
【0003】
適応的免疫反応において、抗原は、超可変分子(例えば、抗体またはTCR)により認識され、超可変分子は、任意の抗原を認識し得るほど十分に多様な構造体を有し発現される。抗体は、抗原の表面の任意の一部と結合し得る。TCRはしかし、APCの表面上の主要組織適合複合体(MHC)のクラスI分子またはクラスII分子と結合する短いペプチドとの結合に限定される。TCRのペプチド/MHC複合体の認識は、T細胞の活性化(クローン性増殖)の引き金となる。
【0004】
TCRは、αβ(アルファ−ベータ)またはγδ(ガンマ−デルタ)であり得る二本の鎖からなるヘテロダイマーである。TCRの構造は、免疫グリブリン(Ig)の構造に大変似ている。それぞれの鎖は、二つの細胞外ドメインを有し、細胞外ドメインは、免疫グリブリンの折り畳みである。このアミノ末端ドメインは、非常に可変性であり、可変(V)ドメインと呼ばれる。膜に最も近いドメインは、定常(C)ドメインである。これら二つのドメインは、免疫グリブリンのこれら二つのドメインと類似しており、かつFabフラグメントに類似している。それぞれの鎖のVドメインは、三つの相補性決定領域(CDR)を有する。膜に近接部においては、それぞれのTCR鎖は、両鎖との間のジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む、短い連結配列を有する。
【0005】
αβおよびγδヘテロダイマーをコードする遺伝子は、T細胞系統にのみ発現される。この四つのTCR部位(α、β、γ、およびδ)は、Igの遺伝子構造編成と非常に近似した遺伝子構造編成を有する。α鎖およびγ鎖は、VセグメントおよびJセグメントの再配置により産生され、対して、β鎖およびδ鎖は、Vセグメント、DセグメントおよびJセグメントの再編成により産生される。このTCR鎖の遺伝子セグメントは、α鎖のVセグメントとJセグメントとの間であるδ鎖遺伝子セグメントを除き、異なる染色体上に位置する。δ鎖遺伝子セグメントの位置は、重要である:α鎖遺伝子セグメントの生産的な再編成は、δ鎖のC遺伝子を削除し、その結果所定の細胞においてαβヘテロダイマーは、γδレセプターとともに共発現し得ない。
【0006】
マウスにおいては、およそ100個のVα遺伝子セグメントおよび50個のJα遺伝子セグメントおよび1個のCα遺伝子セグメントのみが存在する。δ鎖遺伝子ファミリーは、およそ10個のV遺伝子セグメント、2個のD遺伝子セグメントおよび2個のJ遺伝子セグメントを有する。β鎖遺伝子ファミリーは、20〜30個のVセグメントならびに1個のDβ、6個のJβおよび1個のCβを含む二つ同一のリピートを有する。最後に、γ鎖遺伝子ファミリーは、7個のVおよび3個の異なるJ−Cリピートを含む。ヒトにおいては、この編成は、マウスと類似しているが、セグメントの個数は、変化する。
【0007】
α鎖およびβ鎖における遺伝子セグメントの再編成は、Igの遺伝子セグメントの再編成と類似する。α鎖は、Igの軽鎖と同様に、V遺伝子セグメント、J遺伝子セグメントおよびC遺伝子セグメントによりコードされる。β鎖は、Igの重鎖と同様にV遺伝子セグメント、D遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメントによりコードされる。α鎖遺伝子セグメントの再編成は、VJの連結を生じ、そしてβ鎖遺伝子セグメントの再編成は、VDJの連結を生じる。再編成された遺伝子の転写、RNAプロセッシング、および翻訳の後、α鎖およびβ鎖は、T細胞の膜上にジスルフィド結合により連結され発現される。
【0008】
TCR遺伝子セグメントは、12ヌクレオチド(1ターン)または23ヌクレオチド(2ターン)のいずれかの介在配列を有するヘプタマーおよびノナマーを含む認識シグナル配列(RSS)と隣接する。Igの様に、組換え−活性化遺伝子(RAG−1およびRAG−2)によりコードされる酵素は、組換えプロセスを担う。RAG1/2は、Ig再編成と同一の様式で、RSSを認識しそして、V−JセグメントおよびV−D−Jセグメントを連結する。簡単に言えば、これらの酵素は、一つのDNA鎖を遺伝子セグメントとRSSとの間で切断し、コード配列におけるヘアピン形成を触媒する。シグナル配列は、次いで切除される。
【0009】
α鎖におけるVセグメントおよびJセグメント、ならびにβ鎖におけるVセグメント、DセグメントおよびJセグメントのコンビナトリアル連結は、多数の可能な分子を産生し、それによりTCRの多様性を引き起こす。多様性はまた、遺伝子セグメントの代替的な連結によりTCRにおいて達成される。Igとは対照的に、β遺伝子セグメントおよびδ遺伝子セグメントは、代替的方法により連結され得る。β遺伝子セグメントおよびδ遺伝子セグメントのRSS隣接遺伝子セグメントは、β鎖のVJおよびVDJ、ならびにδ鎖上のVJ、VDJおよびVDDJを産生し得る。Igの場合と同様に、多様性はまた、遺伝子セグメントの連結の可変性により生じる。
【0010】
相補性決定領域(CDR)として公知であるTCRの超可変ループは、MHC分子および結合したペプチドより構成される複合体の表面を認識する。αおよびβのCDRループは、APCの表面上のMHC分子だけと接触し、一方、CDR1ループおよびCDR3ループは、ペプチドおよびMHC分子の両方と接触する。Igと比べ、TCRは、CDR1およびCDR3においてさらに限定された多様性を有する。しかし、TCRのCDR3ループの多様性は、Igの多様性よりも大きい、なぜならTCRは、増大された連結の多様性を誘導する一以上のDセグメントと連結し得るからである。
【0011】
多数の自己免疫疾患の病因は、生物体に存在する自己抗原に対する自己免疫性T細胞の反応により引き起こされると考えられている。クローン選択説の概念に対し、全ての自己反応性T細胞が、胸腺で除去されるわけではない。複数の自己抗原に対するTCRを有するこれらのT細胞は、正常T細胞レパートリーの一部を提示し、そして自然に末梢に循環する。なぜ自己反応性のT細胞が、進化の過程において、胸腺で分化させられ得るのか、ならびに、末梢で適応させられるのかについては、明らかではない。それらの生理学的機能については、理解されていないが、これらの自己反応性T細胞は、活性化した時、自己免疫性病理の誘発といった潜在的リスクを呈する。自己反応性T細胞はまた、自己免疫疾患の結果なしに、正常な個体から単離し得る。自己反応性の抗原認識自体は、自己破壊工程を媒介するには十分ではないことが、立証されている。自己反応性T細胞を病原へとする必須条件の一つは、自己反応性T細胞が活性化されなければならないことである。
【0012】
自己反応性T細胞は、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症(MS)および慢性関節リウマチ(RA))の病理に関連づけられる。MSの自己反応性T細胞の病理は一般に、ミエリン抗原、特にミエリン塩基性タンパク質(MBP)、に対するT細胞の反応から生じ続ける。MBP反応性T細胞は、インビボ活性化を受け、そしてコントロールの個体とは対照的に、MSの患者の血液および脳脊髄液中に高頻度で前駆体が発生することが見出される。これらMBP反応性T細胞は、T1サイトカイン、例えば、IL−2、TNFα、およびγ−インターフェロン(IFNγ)を産生し、それは炎症性細胞の中枢神経系への移動を促進し、そしてMSにおけるミエリン破壊的炎症反応を悪化させる。
【0013】
ミエリン反応性T細胞もまた、動物における実験的な自己免疫脳脊髄炎(EAE)(MSに類似する)の病理に関連することが示された。EAEは、補助剤中に乳化されたミエリンタンパク質を注射することにより、感受性の高い動物に積極的に誘導し得、または、ミエリン反応性T細胞系統およびミエリン感作させた動物由来のクローンを注射することにより、受動的に誘導し得る。インビトロで活性化された場合、極めて少数のミエリン反応性T細胞が、EAEを誘導するために必要であり、100倍以上の静止状態にある同様の反応性を有するT細胞は、EAEを媒介し得ない。
【0014】
EAEは、不活性化されたミエリン反応性T細胞を用いたワクチン接種(T細胞ワクチン接種と呼ばれる手法)により、予防およびまた処置されることが示された(Ben−Nunら,Nature,1981;292:60−61)。T細胞ワクチン接種は、抗イディオタイプT細胞および抗エルゴタイプT細胞を含む調節免疫反応を引き起こし、調節免疫反応は、ミエリン反応性T細胞の枯渇を誘導する。ミエリン反応性T細胞の枯渇により、治療的効果が、EAEおよび他の実験的な自己免疫疾患モデルでみられる(Liderら,Science,1988;239:820−822;Lohseら,Science,1989;244:820−822)。
【0015】
自己免疫疾患モデルにおける、この成功により、T細胞ワクチン接種は近年、MSの患者での臨床試験に進んだ。EAEのような実験モデルにおける結果に基づいて、自己反応性T細胞の枯渇は、MSおよび別の自己免疫疾患の臨床経過を改善し得ると考えられている。
【0016】
試験的な臨床試験において、放射線照射された自己MBP反応性T細胞クローンを用いたワクチン接種は、CD8細胞溶解性のT細胞の反応(循環するMBP反応性T細胞を特異的に認識および溶解した)を誘発した(Zhangら,Science,1993;261:1451−1454,Medaerら.Lancet 1995:346:807−808)。放射線照射された自己MBP反応性T細胞クローンによる三回の皮下注射は、MS患者の循環するMBP反応性T細胞の枯渇を生じる。
【0017】
予備的な臨床試験において、循環するMBP反応性T細胞は、放射線照射された自己MBP反応性T細胞の三回の皮下注射による患者へのワクチン接種により、再発が寛解したMS患者および第二段階に進行したMS患者で枯渇された(Zhangら,J Neurol.,2002;249:212−8)。T細胞ワクチン接種は、溶解速度、不活性数値の増大およびMRI傷害活性による測定から、それぞれの患者のグループに有益であった。しかし、最後の注射からおよそ12月後に加速度的に病気が進行する傾向があった。この明確な加速度的な病気の進行の意味は、不明であるが、MBP反応性T細胞に対するT細胞ワクチン接種により引き起こされた免疫の漸落に関連する可能性がある。ワクチン接種を受けた患者のおよそ10〜12%の患者で、加速度的な進行とおよそ同じ時間に、MBP反応性T細胞が再出現した。いくつかの場合において、異なるクローン集団(ワクチン接種前は検出されなかった集団)由来の再出現したMBP反応性T細胞は、MBP反応性T細胞が、クローンのシフト(clonal shift)またはエピトープ拡延(epitope spreading)を起こした可能性があることを示唆する。MBP反応性T細胞のクローンのシフトは、以前の研究(Zhangら.1995)で観察されており、進行中の疾患の工程に関連する可能性がある。
【0018】
T細胞ワクチン接種は、ミエリン反応性T細胞の枯渇に有効的であり、潜在的にMS患者に有益であることが示されたが、処置に関し複数の問題が存在する。それぞれの患者へのT細胞ワクチン処置は、個人に合わせたものにしなければならない、なぜならミエリン反応性T細胞のレセプターは、異なるMS患者との間で、極めて多様でありおよび変化するからである(Vandevyverら,Eur.J.Immunol.,1995;25:958−968,Wucherpfennigら,J.Immunol.,1994;152:5581−5592,Hongら,J.Immunol.,1999;163:3530−3538)。
【0019】
さらにそれぞれの患者個人に合わせたものにするために、8週間までは、現行の方法を使用して所定のT細胞ワクチンを産生するのに必要とされる。T細胞ワクチンの産生は、患者の脳脊髄液(CSFMC)または末梢血(PBMC)から単核球の単離から始める。単離された単核球は次いで、活性化ミエリン反応性T細胞になるまでミエリンペプチドと共に7〜10日間培養される。培養物は次いで、3日間、ミエリンペプチドの存在下で[H]−チミジンの取り込みを測定することにより、ミエリンペプチドへの特異的増加について試験される。ミエリンペプチドへの特異的増加に対して陽性と出た培養物は次いで、クローンのT細胞株を得るために段階的に希釈されるか、または直接的に増殖させられる。この細胞は次いで、6〜8週間まで、培養されるこれらのT細胞が増殖される。最後のT細胞ワクチン産物がクローンである場合、T細胞は、単一のパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法と同質である。通常、3〜6のクローン細胞株が、複数のパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を有する不均一な製剤を産生するために組み合わせられる。最後のT細胞ワクチン産物が、直接的な増殖により産生された場合、T細胞は、一以上のパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法と異種である。
【0020】
現行の方法では、T細胞ワクチン接種の個人に合わせた性質およびそれぞれのワクチンの産生のために必要な長期間の細胞培養により、処置は高価なりそして労働は激務になる。細胞培養に必要とされる長期の時間はまた、コンタミネーションの重大なリスクを生じる。最終的に、クローンシフト(clonal shift)またはミエリン反応性T細胞のエピトープ拡延(epitope spreading)の可能性は、異なるパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を有するそれぞれの患者に対するT細胞ワクチンのその後の産生を必要とし得る。
【0021】
従って、抗原(例えば、MBP)に対する特異性を有するT細胞を単離する改良された方法を開発する必要性が存在し、T細胞媒介性の疾患(例えば、MS)を有する患者の処置のためのT細胞ワクチンを産生するのに使用され得る。自己反応性T細胞のクローンシフトの原因である不均一なパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を有するT細胞ワクチンを産生するための改良された方法を開発する必要性もまた、存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
本発明は一般に、抗原特異的T細胞およびより詳細には自己抗原(self antigen)または自己抗原(autoantigen)に対し特異的なT細胞の単離方法に関する。目的の抗原に特異的な一以上のT細胞を単離するための方法は、一般的に、以下の工程:該抗原またはそれらの誘導体とともに患者から得たT細胞を含むサンプルをインキュベートする工程;CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程、を包含する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
目的の抗原に特異的な一以上のT細胞を単離するための方法であって、諸方法は、以下の工程:
(a)該抗原またはそれらの誘導体とともにT細胞を含むサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記抗原は、自己抗原である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記自己抗原は、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、タイプIIコラーゲンペプチド、ヒートショックタンパク質、MAGE、PSA、CA125、GADタンパク質および、腫瘍関連抗原からなる群より選択される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記抗原は、自己抗原の免疫優先エピトープである、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記免疫優性エピトープは、ミエリン塩基性タンパク質の残基88〜99およびミエリン塩基性タンパク質の残基151〜170からなる群より選択される、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記第一マーカーおよび前記第二マーカーを発現する前記細胞は、該第一マーカーおよび該第二マーカーそれぞれに対する抗体を使用して、または必要に応じて、該第二マーカーに結合する抗体と組み合わせて、第一および第二マーカーの両方に結合する二重特異性抗体を使用して選択される、項目1に記載の方法。
(項目7)
一以上の前記抗体は、蛍光標識される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記T細胞は、蛍光活性セルソーティングにより選択される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記第一抗体は、磁性ビーズに結合される、項目6に記載の方法。
(項目10)
前記T細胞は、磁気活性セルソーティングにより選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記抗原は、前記サンプルとともに1〜7日間インキュベートされる、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記抗原は、前記サンプルとともに1日未満の間インキュベートされる、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記抗原は、前記サンプルとともに16時間未満の間インキュベートされる、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記抗原は、前記サンプルとともに12時間未満の間インキュベートされる、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記抗原は、前記サンプルとともに8時間未満の間インキュベートされる、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記抗原は、前記サンプルとともに4時間未満の間インキュベートされる、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記抗原は、前記サンプルとともに2時間未満の間インキュベートされる、項目16に記載の方法。
(項目18)
項目1に記載の方法により、単離されるT細胞。
(項目19)
前記単離されたT細胞は、T1T細胞もしくはT2T細胞またはそれらの組合せである、項目1に記載の方法。
(項目20)
サンプル中のT細胞の個数を定量するための方法であって、該T細胞は、一以上の目的の抗原に特異的であり、諸方法は以下の工程:
(a)該抗原またはそれらの誘導体とともにT細胞を含むサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;および
(c)工程(b)により選択された該T細胞の個数を決定する工程、
を包含する、方法。
(項目21)
患者の自己免疫疾患の診断をするための方法であって、諸方法は、以下の工程:
(a)該疾患に関係している一以上の自己抗原とともにT細胞を含む該患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程、
を包含する、方法。
(項目22)
患者の自己免疫疾患のモニタリングをするための方法であって、諸方法は、以下の工程:
(a)一以上の自己抗原とともにT細胞を含む該患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;および
(c)工程(a)により選択された自己反応性の該T細胞の個数を決定する工程、
を包含する、方法。
(項目23)
患者の自己免疫疾患の処置をするための方法であって、諸方法は、以下の工程:
(a)一以上の自己抗原とともにT細胞を含む該患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;
(c)該選択された自己反応性T細胞を不活性化する工程;および
(d)工程(b)により不活性化された自己反応性の該T細胞を該患者へ投与する工程、
を包含する、方法。
(項目24)
患者の自己免疫疾患の処置をするための組成物を産生するための方法であって、諸方法は、以下の工程:
(a)一以上の自己抗原とともにT細胞を含む該患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;および
(c)該自己反応性のT細胞を不活性化する工程、
を包含する、方法。
(項目25)
工程(b)で選択された前記自己反応性のT細胞の個数を増加させる工程をさらに包含する、項目23または24に記載の方法。
(項目26)
項目24または25に記載の方法により産生される、自己免疫疾患の患者の処置のための組成物。
(項目27)
T細胞レセプター、またはその一部分をコードする核酸を分離するための方法であって、該T細胞レセプターは、目的の抗原に特異的であり、諸方法は、以下の工程:
(a)該抗原とともにT細胞を含むサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;および
(c)工程(b)により単離されたT細胞からT細胞レセプターをコードする核酸を、T細胞レセプター遺伝子の可変領域に特異的な第一プライマーおよびT細胞レセプター遺伝子の定常領域に特異的な第二プライマーの少なくとも一つの使用により、増幅する工程、
を包含する、方法。
(項目28)
一以上のT細胞レセプター、またはその一部分をコードする一以上の核酸を単離するための方法であって、該一以上のT細胞レセプターは、一以上の目的の抗原に特異的であり、諸方法は、以下の工程:
(a)該一以上の抗原とともにT細胞を含むサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;および
(c)工程(b)により単離されたT細胞から一以上のT細胞レセプターをコードする一以上の核酸を、T細胞レセプター遺伝子の可変領域に特異的な第一プライマーおよびT細胞レセプター遺伝子の定常領域に特異的な第二プライマーの少なくとも一つの使用により、増幅する工程、
を包含する、方法。
(項目29)
患者の一以上のT細胞レセプター、またはその一部分をコードする一以上の核酸のレパートリーを決定するための方法であって、該一以上のT細胞レセプターは、一以上の目的の抗原に特異的であり、諸方法は、以下の工程:
(a)該一以上の抗原とともに、T細胞を含む該患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;
(c)工程(b)により単離されたT細胞から一以上のT細胞レセプターをコードする一以上の核酸を、T細胞レセプター遺伝子の可変領域に特異的な第一プライマーおよびT細胞レセプター遺伝子の定常領域に特異的な第二プライマーの少なくとも一つの使用により、増幅する工程;および
(d)工程(c)により増幅された該一以上の核酸の該ヌクレオチド配列を決定する工程、
を包含する、方法。
(項目30)
自己免疫性の患者の一以上のT細胞レセプター、またはその一部分をコードする前記核酸のレパートリーを決定するための方法であって、該一以上のT細胞レセプターは、一以上の目的の自己抗原に特異的であり、諸方法は、以下の工程:
(a)該一以上の自己抗原とともにT細胞を含む該自己免疫性の患者由来のサンプルをインキュベートする工程;
(b)CD69、CD4、CD25、CD36およびHLADRからなる群より選択される一以上の第一マーカーならびに、IL−2、IFNγおよびTNFα、IL5、IL−10およびIL−13からなる群より選択される一以上の第二マーカーを発現する一以上のT細胞を選択する工程;
(c)工程(b)により単離されたT細胞から一以上のT細胞レセプターをコードする一以上の核酸を、T細胞レセプター遺伝子の可変領域に特異的な第一プライマーおよびT細胞レセプター遺伝子の定常領域に特異的な第二プライマーの少なくとも一つの使用により、増幅する工程;および
(d)工程(c)により増幅された該一以上の核酸の該ヌクレオチド配列を決定する工程、
を包含する、方法。
【0023】
本発明の方法は特に、自己免疫疾患の病原の一因である自己反応性T細胞を単離するために有益である。
【0024】
本発明の方法はまた、自己免疫疾患の診断ならびに自己免疫疾患の進行のモニタリングを可能とし、そしてこの疾患のための処置の効果のモニタリングを可能とする。
【0025】
本発明の方法はまた、T細胞が関連する自己免疫疾患の処置のための自己T細胞ワクチンの調製を可能とする。
【0026】
ワクチン調製のための方法は一般的に、抗原特異的T細胞の単離(上記)、必要に応じてそれに続いて単離された抗原特異的T細胞の集団の増殖を可能にする培養工程、を包含する。
【0027】
本発明はまた、特にT細胞ワクチンおよび本発明の方法を使用して単離された抗原特異的T細胞を含む医薬組成物に関連する。
本発明の方法はまた、T細胞レセプターおよびそれらをコードする核酸を特徴付けるために有益である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、刺激前(左)、MBPの残基83〜99での刺激後(中)およびMBPの残基83〜99での刺激後(右)の多発性硬化症患者のCD69およびγIFN(上)およびCD69およびTNFα(下)を発現する細胞のFACS同定を示す。
【図2】図2は、刺激前(左)、MBPの残基83〜99での刺激後(中)およびMBPの残基83〜99での刺激後(右)の健常なコントロールの患者のCD69およびγIFN(上)およびCD69およびTNFα(下)を発現する細胞のFACS同定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(詳細な説明)
(1.定義)
本発明を理解することを補助するため、いくつかの用語は、下に定義される。
【0030】
本明細書中で用いられた場合「自己抗原(autoantigen)」または「自己−抗原(self−antigen)」は、哺乳動物に対してネイティブであり、哺乳動物において免疫原性であり、哺乳動物の種に保存される抗原またはエピトープをいい、これは、自己免疫疾患の病原に関与し得る。
【0031】
本明細書中で用いられる場合「CD」、「分化クラスター」または「共通決定因子(common determinant)」は、抗体により認識される細胞表面分子をいう。いくつかのCDの発現は、特定の系統または成熟の経路の細胞に対して特異的であり、そして他の発現は、活性化の状態、位置の状態、または同一の細胞の分化の状態に従って変動する。
【0032】
ヌクレオチド配列の脈絡において、「から誘導された」または「それらの誘導体」は、ヌクレオチド配列が、記述された特定の配列に限定されないだけでなく、その配列のバリエーションをも含むことを意味し、配列のバリエーションは、記述された配列に対するバリエーションが、適切なまたは非常にストリンジェントな条件下で、記述された配列の相補体へハイブリダイズする能力を保持する程度まで、ヌクレオチドの付加、欠失、置換または改変を含み得る。ペプチド配列またはポリペプチド配列の脈絡において、「から誘導された」または「それらの誘導体」は、ペプチドまたはポリペプチドは、記述された特定の配列に限定されないだけでなく、その配列におけるバリエーションをも含むことを意味し、配列のバリエーションは、列挙された配列におけるバリエーションが、記述された配列への免疫反応を誘発する能力を保持する程度まで、アミノ酸の付加、欠失、置換または改変を含み得る。
【0033】
ペプチドまたはポリペプチドを記述するために使用される場合、「免疫原性」は、ペプチドまたはポリペプチドが免疫反応(T細胞媒介性、抗体のいずれかまたは両方)を誘発し得ることを意味する。
【0034】
「免疫関連疾患」は、免疫系が疾患の病因に関与する疾患を意味する。免疫関連疾患のサブセットは、自己免疫疾患である。自己免疫疾患としては、慢性関接リウマチ、重症筋無力症、多発性硬化症、乾癬、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎(ハシモト甲状腺炎)、バセドウ病、炎症性腸疾患、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、多発性筋炎、およびある種の糖尿病が含まれるが、これらに限定はされない。本開示に鑑みて、当業者は容易に、本発明の組成物および方法により、他の自己免疫疾患を処置できることを理解し得る。
【0035】
「PCR」は、ポリメラーゼ連鎖反応を意味し、例えば、一般に米国特許第4,683,202号に記載され(Mullisに対して、1987年7月28日発行)、これらは、本明細書において参考として援用される。PCRは、増幅技術であり、選択されたオリゴヌクレオチドまたはプライマーが、重合因子(例えば、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼ)およびヌクレオチド三リン酸塩の存在下で、核酸テンプレートへハイブリダイズさせられ得、それにより伸長する産物が、プライマーから形成され得る。これら産物は次いで、変性させられ得、そしてテンプレートとしてサイクル反応に使用され得、サイクル反応は、既存の核酸の数と量を増幅させ、続くそれらの核酸の検出を容易にし得る。様々なPCR技術が、当該分野において公知であり、そして本明細書中の開示に関連して使用され得る。
【0036】
「ペプチド」または「ポリペプチド」は、結合したアミノ酸の配列であり、そして天然、合成、または改変あるいは天然および合成の組み合わせであり得る。
【0037】
「プライマー」は、オリゴヌクレオチドを意味し、天然、合成またはそれらの改変であろうとなかろうと、テンプレート分子上の特定のヌクレオチド配列に対し十分に相補的なヌクレオチド合成の開始点として機能し得る。
【0038】
「プローブ」は、オリゴヌクレオチドを意味し、天然、合成またはそれらの改変であろうとなかろうと、十分に相補的なヌクレオチド配列に特異的に結合し得る。
【0039】
「T細胞媒介性疾患」は、T細胞による自己抗原の認識の結果として生じる疾患を意味する。
【0040】
疾患からの動物の保護をいう場合、「処置」または「処置する」は、疾患を防ぐか、抑制する(suppressing)か、抑制する(repressing)か、または完全に排除することを意味する。疾患を防ぐとは、疾患の発症前に、本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制する(suppressing)とは、疾患の発症後ではあるが臨床的兆候の前に、本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制する(repressing)とは、疾患の臨床的兆候の後に、本発明の組成物を動物に投与することを含む。
【0041】
(2.抗原特異的T細胞の単離)
(a.モノクローナル抗原特異的T細胞の単離)
T細胞は、抗原標的および抗原提示細胞とともにインキュベーションすることにより、細胞培養内で活性化および増殖させられ得る。一度活性化されると、T細胞は、多くの遺伝子産物の転写および発現を誘導する複雑な細胞シグナルカスケードを受ける。本明細書中に記載される本発明は、所望の抗原特異性を有するT細胞の同定および単離のために活性化T細胞に特異的な遺伝子産物を利用する。
【0042】
第一の局面において、本発明は、目的の抗原に対し特異的であるT細胞を単離するための方法に関する。T細胞を含むサンプルは、特定の抗原と共にインキュベートされ、これは目的の抗原に対し特異的なT細胞の活性化を生ずる。サンプルは、抗原と共に1〜7日間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に1日未満の間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に16時間未満の間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に12時間未満の間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に8時間未満の間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に4時間未満の間インキュベートされ得る。サンプルはまた、抗原と共に2時間未満の間インキュベートされ得る。
【0043】
目的の抗原に対し特異的なT細胞は次いで、上記のように活性化されたT細胞の遺伝子産物を発現するT細胞を選択することにより単離され得る。活性化T細胞のサブセットは、サブセット特異的遺伝子産物または細胞表面マーカー(例えば、CD4対CD8)により、T細胞を選択することにより単離され得る。
【0044】
目的の抗原としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン気突起膠細胞糖タンパク質(MOG)、またはそれらのフラグメントが挙げられる。目的の抗原はまた、免疫優性フラグメント(MBPの残基83〜99または残基151〜170が挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。目的の抗原はまた、目的の二つ以上の個々の抗原の組み合わせであり得る。
【0045】
T細胞を活性化するために使用される抗原またはそれらの誘導体は、目的の抗原に対する免疫応答を誘発することができる任意の免疫原であり得る。活性化している抗原は、目的の抗原、またはそれらの誘導体であり得る。活性化している抗原は、MBP、PLP、MOG、あるいはそれらのフラグメントおよび/または誘導体であり得る。活性化している抗原はまた、免疫優性フラグメント(MBPの残基83〜99または残基151〜170、あるいはそれらのフラグメントおよび/または誘導体が挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。活性化している抗原はまた、二つ以上の個々に活性化している抗原の組み合わせであり得る。活性化している抗原は、一回以上、目的の抗原に対して特異的なT細胞を活性化するために使用され得る。
【0046】
T細胞は、単核細胞を含む任意のサンプル内に存在し得る。このサンプルは、MS患者の末梢血または脳脊髄液からか、あるいはRA患者の滑液から単離され得る。他の自己免疫疾患の患者からのT細胞は、末梢血および/または疾患に関連した組織から同様に単離し得る。単核細胞は、当該分野で公知である遠心分離技術(Ficoll(登録商標)勾配が挙げられるが、それらに限定されない)の手法を使用することによりサンプル内に濃縮され得る。T細胞はまた、T細胞の遺伝子産物の発現に対するポジティブ選択、ネガティブ選択、またはそれらの組み合わせを使用することにより、サンプル内に濃縮され得る。
【0047】
活性化T細胞を同定するまたはネガティブ選択するための遺伝子産物は、細胞表面マーカーまたはサイトカイン、またはそれらの組み合わせであり得る。活性化T細胞を同定するための細胞表面マーカーとしては、CD69、CD4、CD8、CD25、HLA−DR、CD28およびCD134が挙げられるが、これらに限定されない。CD69は、Bリンパ球およびTリンパ球、NK細胞および顆粒球に見出される初期の活性化マーカーである。CD25は、IL−2レセプターであり、活性化T細胞および活性化B細胞に対するマーカーである。CD4は、TCRレセプターであり、胸腺細胞、T1型T細胞およびT2型T細胞、単核細胞、およびマクロファージに対するマーカーである。CD8はまた、TCRレセプターであり、細胞傷害性T細胞に対するマーカーである。CD134は、活性化CD4T細胞にのみ発現される。
【0048】
活性化T細胞をネガティブ選択するための細胞表面マーカーとしては、CD36、CD40、およびCD44が挙げられるが、これらに限定されない。CD28は、T細胞レセプター経路に非依存的な刺激性のT細胞活性化経路として機能し、CD4細胞およびCD8細胞上に発現される。CD36は、膜糖タンパク質であり、血小板、単核球および内皮細胞に対するマーカーである。CD40は、B細胞、マクロファージおよび樹状細胞に対するマーカーである。CD44は、マクロファージおよび別の食細胞に対するマーカーである。T細胞の一部は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞(例えば、CD4対CD8)の細胞表面遺伝子産物の発現に対するポジティブ選択、ネガティブ選択、またはそれらの組み合わせを使用することにより単離し得る。
【0049】
本発明の活性化T細胞を同定するためのサイトカインは、T1型T細胞(細胞媒介性反応)およびT2型T細胞(抗体反応)により産生されるサイトカインに限定されない。活性化T1型T細胞を同定するためのサイトカインとしてIL−2、ガンマインターフェロン(γIFN)および組織壊死因子アルファ(TNFα)が挙げられるが、これらに限定されない。活性化T2型T細胞を同定するためのサイトカインとしては、IL−4、IL−5、IL−10およびIL−13が挙げられるが、これらに限定されない。T細胞の一部はまた、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞(例えば、γIFN対IL−4)のサイトカイン遺伝子産物の発現に対するポジティブ選択、ネガティブ選択、またはそれらの組み合わせを使用することにより単離し得る。
【0050】
目的の抗原に対し特異的な活性化T1型T細胞は、CD69、CD4、CD25、IL−2、IFNγ、TNFα、またはそれらの組み合わせを発現する細胞を同定することにより単離し得る。目的の抗原に対し特異的な活性化T1型T細胞はまた、CD69およびCD4と共にIFNγまたはTNFαを発現する細胞を同定することにより単離し得る。目的の抗原に対し特異的な活性化T2型T細胞は、CD69、CD4、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13、またはそれらの組み合わせを発現する細胞を同定することにより単離し得る。目的の抗原に対し特異的な活性化T1型T細胞および活性化T2型T細胞の組み合わせは、CD69、CD4、CD25、IL−2、IFNγ、TNFα、またはそれらの組み合わせを発現する細胞およびCD69、CD4、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13、またはそれらの組み合わせを発現する細胞を同定することにより単離し得る。
【0051】
本発明の活性化T細胞のポジティブ選択またはネガティブ選択のために使用される遺伝子産物は、蛍光活性セルソーティング(FACS)、磁気細胞ソーティング、パニング、およびクロマトグラフィー(しかし、それらに限定されない)を含む抗体を利用する当該分野で公知である免疫選択の手法により同定され得る。活性化T細胞上の二以上のマーカーの免疫選択は、一以上の工程(それぞれの工程は一以上のマーカーに対しポジティブに選択するまたはネガティブに選択する)で実施され得る。二以上マーカーの免疫選択が、FACSを使用する一工程で実施される場合、二以上の異なる抗体は、別の蛍光団で標識され得る。
【0052】
磁気細胞ソーティングは、酸化鉄より構築されおよび多糖類でコートされた超常磁性マイクロビーズを使用することにより実施され得る。好ましくはこのマイクロビーズは、直径はおよそ50nmであり得、そして標準的な哺乳類の細胞の百万分の一の容量を有し得る。好ましくはこのマイクロビーズは、コロイド懸濁液(細胞表面抗原に対し早く能率的に結合することを可能とする)中にとどまるのに十分な小ささである。好ましくはこのマイクロビーズは、フローサイトメトリーと干渉せず、生体分解可能であり、および細胞機能にごくわずかな影響を有する。マイクロビーズに対する抗体結合は、直接的であっても関節的であってもよく、二次抗体を介するリガンド(例えば、蛍光団)に対するものであり得る。
【0053】
抗体は、クラスIgG、クラスIgM、クラスIgA、クラスIgD、およびクラスIgE、もしくはそれらのフラグメントまたは誘導体であり得、Fab、F(ab’)、Fdおよび一本鎖抗体、ダイアボディー(diabody)、二重特異性抗体、二官能性抗体およびそれらの誘導体が挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、親和性精製された抗体、またはそれらの混合であり得、それらは活性化T細胞に特異的な遺伝子産物(またはそれらから生成された配列)のエピトープに対し特異的に十分な結合をすることを示す。抗体はまた、キメラ抗体であり得る。
【0054】
抗体は、当該分野で公知である一以上の化学薬品部分、ペプチド部分、またはポリペプチド部分(活性化T細胞(抗体が結合される)の同定および/または選択を可能とする)の連結により誘導され得る。抗体は、化学薬品部分(例えば、蛍光団染色剤)により結合され得る。蛍光標識された抗体により結合された活性化T細胞は、蛍光活性セルソーティング(FACS)(しかし、それらに限定されない)を含む手法を使用することで単離され得る。抗体はまた、磁性粒子(例えば、常磁性マイクロビーズ)により結合され得る(Miltenyi Biotec,Germany)。磁気標識された抗体により結合された活性化T細胞は、磁気活性セルソーティング(しかし、それらに限定されない)を含む手法を使用することで単離され得る。
【0055】
細胞表面の発現された遺伝子産物に対して、抗体は、直接的にこの遺伝子産物に対し結合し得そして細胞選択のために使用され得る。低濃度で発現された細胞表面遺伝子産物に対して、磁気蛍光リポソーム(magnetofluorescent liposome)(Scheffold,ら.Nature Med6:107−110,2000)は、細胞選択のために使用され得る。低レベルの発現では、従来の蛍光標識された抗体は、細胞表面の発現された遺伝子産物の存在を検出するに十分なほどの感度ではあり得ない。蛍光団を含むリポソームは、目的物に対し特異性を有する抗体に対し結合させられ得、それにより細胞表面の発現された遺伝子産物の検出を可能とする。
【0056】
細胞内の遺伝子産物(例えば、サイトカイン)に対して、抗体は、細胞透過処理をした後に使用され得る。あるいは、細胞透過処理により細胞を殺すことを避けるために、細胞内遺伝子産物(最終的に細胞から排出される場合)は、細胞膜を透過し排出された時、細胞表面上の「キャッチ(catch)」抗体を使用することにより検出され得る。キャッチ抗体は、二つの異なる抗原((i)目的の排出された遺伝子産物および(ii)細胞表面タンパク質)に対して特異的である二重の抗体であり得る。細胞表面タンパク質は、特にT細胞上、または一般にリンパ球上に存在する任意の表面マーカーであり得る(例えば、CD45)。キャッチ抗体はまた、始めに細胞表面タンパク質に対して結合し得、次いで目的の細胞内遺伝子産物が膜を透過し排出された時にこれに対して結合し得、このために、この遺伝子産物を細胞表面に保持する。次に捕捉された遺伝子産物に対して特異的な標識された抗体を使用して、捕捉された遺伝子産物に対して結合させる(活性化T細胞の選択を可能にする)ために使用され得る(Manz,ら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1921−1925,1995,本明細書中において参考として援用される)。
【0057】
サイトカインのある種の形態がまた、細胞表面上に低濃度で発現されることが見出された。例えば、γIFNは、細胞内γIFN発現の速度論と同一の速度論を有し、細胞表面上に低濃度で提示される(Assenmacher,ら.Eur J.Immunol,1996,26:263−267)。細胞表面上の発現されたサイトカインの形態に対し、従来の蛍光標識された抗体または蛍光団を含むリポソームは、目的のサイトカインを検出するために使用され得る。当業者は、活性化T細胞に対し特異的な細胞外遺伝子産物および細胞内遺伝子産物を検出および選択するための別の手法を認識する。
【0058】
本発明により単離されたはT細胞は、全血液から少なくとも90%まで濃縮され得る。T細胞はまた、全血液から少なくとも95%まで濃縮され得る。T細胞はまた、全血液から少なくとも98%まで濃縮され得る。T細胞はまた、全血液から少なくとも99.5%単離され得る。
【0059】
(b.単離されたモノクローナル抗原特異的T細胞)
第二の局面において、本発明は、本発明の第一の局面の方法により単離された目的の抗原に対し特異的なT細胞に関連する。
【0060】
(c.ポリクローナル抗原特異的T細胞の単離)
第三の局面において、本発明は、一以上の目的の抗原に対して特異的であるT細胞を単離するための方法に関連する。T細胞を含むサンプルは、一以上の抗原(一以上の抗原に対して特異的なT細胞の活性化を生ずる)と共にインキュベートされる。一以上の抗原に対して特異的なT細胞は次いで、本発明の第一の局面のように単離され得る。
【0061】
T細胞は、異なるTCR(目的の抗原に対してそれぞれ特異的である)を発現する不均質なパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を有し得る。T細胞はまた、異なるTCR(一つより多い目的の抗原に対して特異的である)を発現するVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法の不均質なパターンを有し得る。以下に記載されるように、不均質なパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を含むT細胞は、ポリクローナルT細胞ワクチン(ワクチン接種された患者のにおいてエピトープ拡延を防止し得る)を処方するために使用され得る。
【0062】
(d.単離されたポリクローナル抗原特異的T細胞)
第四の局面において、本発明は、本発明の第三の局面の方法により単離された一以上の目的の抗原に対して特異的なT細胞に関連する。
【0063】
(3.抗原特異的T細胞の個数を定量する)
第五の局面において、本発明は、本発明の第一または第三の局面の方法により単離されたT細胞の個数を決定することにより、サンプル内の一以上の目的の抗原に対して特異的なT細胞の相対的頻度を決定する方法に関連する。
【0064】
(4.自己免疫疾患を診断する)
本発明の第六の局面において、自己免疫疾患の患者は、患者からサンプルを取得するおよび本発明の第一または第三の局面の方法により自己反応性T細胞を単離することにより診断され得る。自己免疫疾患は、患者の自己反応性T細胞のレベルをコントロールと比較することにより診断され得る。自己反応性T細胞のレベルは、本発明の第五の局面の方法に従って決定され得る。
【0065】
(5.自己免疫疾患の進行をモニタリングする)
本発明の第七の局面において、自己免疫疾患は、本発明の第五の局面に従い自己免疫疾患の患者由来のサンプルにおける自己反応性T細胞の頻度を決定することによりモニターされ得る。自己免疫疾患の症状の重症度は、自己反応性T細胞の個数と相関し得る。さらに、サンプル中の自己反応性T細胞の個数の増加は、症状の重篤度を小さくするおよび/または症状が現れる前に疾患を処置することが意図される処置を適用するための指標として使用され得る。
【0066】
(6.自己免疫疾患の処置のためのワクチンを産生する)
本発明の第八の局面において、組成物は、本発明の第一または第三の局面の方法により単離された(および必要に応じて、本明細書中で記載されるように培養内で増殖させられる)不活性化自己反応性T細胞により自己免疫疾患を処置するために産生され得る。自己反応性T細胞は、化学的な不活性化または放射線照射を含む(しかし、それらに限定されない)当該分野において公知である多数の手法を使用することで不活性化され得る。自己反応性T細胞は、凍結保存を含む(しかし、それらに限定されない)当該分野において公知である多数の手法を使用することで不活性化前または不活性化後のいずれかで保存され得る。下記に記載するように、組成物は、自己免疫疾患の患者において自己反応性T細胞を枯渇するためのワクチンとして使用され得る。
【0067】
この組成物は、薬学的組成物(当該分野において公知である方法を使用することで産生され得る)であり得る。疾患の処置または障害の処置における臨床前治療および臨床治療として使用される薬学的組成物は、診断および処置の認められた原則を使用する当業者により産生され得る。そのような原則は、当該分野において公知であり、および陳述される(例えば、Braunwaldら,監修,Harrison’s Principles
of Internal Medicine,第ll版,McGraw−Hill出版,New York,N.Y.(1987))(本明細書中において参考として援用される)。薬学的組成物は、任意の動物に投与され得、この動物は、組成物の有益な効果を受け得る。薬学的組成物を受ける動物は、ヒトまたは別の哺乳類であり得る。
(a.ワクチン)
第九の局面において、本発明は、本発明の第八の局面の方法により産生される組成物に関連する。組成物は、自己免疫性患者の自己反応性T細胞を枯渇させるため使用され得るワクチンであり得る。
【0068】
(7.自己免疫疾患の処置)
第十の局面において、自己免疫疾患は、本発明の第九の局面に従い組成物を投与することにより自己反応性T細胞を有する患者において処置され得る。組成物は、患者において自己反応性T細胞の枯渇を導き得るワクチンであり得る。
【0069】
ワクチンは、均質(「モノクローナル」)または不均質(「ポリクローナル」)なパターンのVβ−Dβ−Jβ遺伝子使用法を含む自己反応性T細胞を含み得る。臨床的研究は、自己モノクローナルT細胞ワクチン接種を受ける自己免疫疾患の患者が、ミエリン反応性T細胞に対する免疫を漸減させることを示し得ることを示す。いくつかの場合において、再出現する自己反応性T細胞は、異なるクローン集団を起源とし得、このことは、ミエリン反応性T細胞が、進行する疾患の過程に潜在的に関連するクローンシフトまたはエピトープ拡延を起こし得ることを示唆する。クローンシフトまたはエピトープ拡延は、自己反応性T細胞により媒介される自己免疫疾患の問題であり得る。自己反応性T細胞の多様な集団を枯渇させることを可能とするポリクローナル自己反応性T細胞を含むワクチンは、クローンシフトまたはエピトープ拡延を伴う問題を回避し得る。
【0070】
この組成物は、薬学的組成物であり得、これは、意図される目的を達成する任意の手段により投与される。例えば、投与は、非経口経路、皮下経路、静脈内経路、動脈内経路、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮経路、経粘膜経路、脳内経路、髄腔内経路、または脳室内経路によるものであり得る。あるいは、または同時に、投与は、経口経路によるものであり得る。この薬学的組成物は、ボーラス注射により、または長時間かけた漸進的な灌流により、非経口投与され得る。
【0071】
投与される投与量は、レシピエントの年齢、性別、健康状態、および体重、併用治療の種類(あるのであれば)、処置の頻度、および望まれる効果の性質に依存し得る。薬学的組成物の投与のための用量範囲は、望まれる効果(例えば、自己反応性T細胞が枯渇される(本発明の第七の局面により計測される)が達成されならびに自己免疫疾患が、有意に防止され、抑制(suppress)され、または処置される)を生ずるために十分な大きさであり得る。この用量は、有害な副作用(例えば、望ましくない交差反応、全身的な免疫抑制、アナフェラキシー反応など)を生ずるほどの大きさではないかもしれない。
【0072】
この薬学的組成物はさらに、適切な薬学的に受容可能なキァリア(賦形剤および補助剤(活性組成物を薬剤的に使用され得る調製物へと処理することを容易にし得る)を含む)を含み得る。この薬学的組成物に対する添加物は、アジュバンド(例えば、ミョウバン、キトサン)含有物または当該分野において公知の他のアジュバンド含有物を含み得る(例えば、Warrenら,Ann.Rev.Immunol.4:369−388(1986);Chedid,L.,Feder.Proc.45:2531−2560(1986)(これらは参考文献として本明細書中に援用される)を参照のこと)。この薬学的組成物はまた、当該分野において公知である方法および化合物を使用して、送達または生理活性を高めるためにリポソームをさらに含み得る。
【0073】
非経口投与のための適切な処方物は、不活性化自己反応性T細胞の水溶液(例えば、水溶液中に水溶性塩)を含む。さらに、不活性化自己反応性T細胞を含む油懸濁液が、投与され得る。適切な親油性溶媒または親油性ビヒクルとしては、脂肪酸(例えば、ゴマ油)または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチル)またはトリグリセリドが挙げられる。水溶性注射懸濁液は、懸濁液の粘性を高める物質(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、および/またはデキストランを含む)を含み得る。この懸濁液はまた、安定剤も含み得る。
【0074】
不活性化自己反応性T細胞は、注射による投与のための薬学的に受容可能な慣用的な非経口的ビヒクルを使用することにより処方され得る。これらのビヒクルは、無毒性であり治療的なものであり得、そして多くの処方物が、Remington’s Pharmaceutical Sciences(上記)に陳述される。限定されない賦形剤の例は、水、生理食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液およびハンクス緩衝化塩溶液である。薬学的組成物はまた、少量の添加物(例えば、等張性、生理学的pH、および安定性を維持する物質)を含み得る。
【0075】
不活性化自己反応性T細胞は、およそ5×10細胞/mlからおよそ1×10細胞/mlまでを含む全細胞濃度で処方され得る。自己免疫疾患を防止すること、抑制すること(suppressing)または処置することに使用するための不活性化自己反応性T細胞の好ましい用量は、およそ2×10細胞からおよそ9×10細胞の範囲内であり得る。
【0076】
(8.TCRレパートリーの決定)
第十一の局面において、本発明は、本発明の第一または第三の局面により単離されたT細胞からの一以上のT細胞レセプターをコードする核酸を増幅することにより、自己免疫患者の一以上のT細胞レセプター、またはそれらの一部をコードする核酸のレパートリーを決定する方法に関連する。この増幅は、プライマー対を使用することにより行われる。このプライマー対の第一プライマーは、TCR遺伝子の可変領域を含む核酸に対してハイブリダイズするおよそ15ヌクレオチドから30ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドであり得る。このプライマー対の第二プライマーは、TCR遺伝子の定常領域を含む核酸に対してハイブリダイズするおよそ15ヌクレオチドから30ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドであり得る。このプライマー対は、TCR遺伝子のVβ−Dβ−Jβ領域に対してハイブリダイズする核酸を増幅するために使用され得る。
【0077】
T細胞からの一以上のT細胞レセプターをコードする核酸(「標的配列」)またはそれらのフラグメントは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(当該分野において公知である任意の特定のPCR技術または装置を使用する)によりサンプルから増幅され得る。例えば、PCR増幅は、以下の成分:5μl 10×PCR緩衝液II(100mM Tris−HCl、pH8.3、500mM KCl)、3μl 25mM MgCl、1μl
10mM dNTPミックス、0.3μl Taqポリメラーゼ(5U/uL)(AmpliTaq Gold,Perkin Elmer,Norwalk,Conn.)、30pmolの第一プライマー、30pmolの第二プライマー、および1μlのサンプルDNA、を含む反応混合物が調製される手順に従い得る。ポリメラーゼは、少なくとも95℃の温度において安定であり得、50〜60のプロセッシビリティーを有し得、かつ一分間につき50ヌクレオチドより大きい伸長速度を有し得る。
【0078】
PCR反応は、95℃(変性)一分、56℃(アニーリング)20秒、および72℃(伸長)40秒で全40サイクルの増幅プロファイルを伴い実施され得る。第一サイクルが始まる前に、反応混合液は、およそ5分間から15分間の最初の変性を受け得る。同様に、最後のサイクルが完了した後、反応混合液は、およそ5分間から10分間の最終の伸張を受け得る。あるPCR反応は、わずか15〜20サイクルを伴いまたは50サイクルも伴い作動し得る。特定のPCR反応に依存して、増幅プロファイルのそれぞれの工程について、より長いインキュベーション時間またはより短いインキュベーション時間およびより高い温度またはより低い温度が、使用され得る。
【0079】
標的配列を含むサンプルは、核酸(例えば、ゲノムDNA、cDNA、PCRによりあらかじめ増幅されたDNA、またはDNAのその他の形態)であり得る。サンプルは、T細胞(例えば、末梢血単核細胞(PBMC))を含む任意の動物組織またはヒト組織から直接的にまたは間接的に単離され得る。ゲノムDNAは、T細胞を含む組織から直接的に単離され得る。cDNAは、T細胞を含む組織から直接的に単離されるmRNAの逆転写により間接的に単離され得る。
【0080】
標的配列を検出するための能力は、二段階のPCR反応によるゲノムDNA、cDNA、またはDNAのその他の形態の増幅により間接的にサンプルDNAを単離することにより高められ得る。例えば、第一PCR増幅反応は、予備的なフラグメント(第一プライマーおよび第二プライマーが、対向する鎖上に選択的に結合することが可能であるフラグメントよりも長く、かつこのフラグメントを含む)を増幅するために行われ得る。第二PCR増幅反応は次いで、第一プライマーおよび第二プライマーを有するテンプレートとしてこの予備的なフラグメントを使用し、標的配列を含むフラグメントを増幅するために行われ得る。第一プライマーまたは第二プライマーのいずれかが、この予備的なフラグメントを増幅するために第一PCR反応で使用された場合、第二PCR反応は、「セミネステッド(semi−nested)」である。第一プライマーも第二プライマーもいずれも、この予備的なフラグメントを増幅するために第一PCR反応で使用されなかった場合、第二PCR反応は、「ネステッド(nested)」である。
【0081】
模範的な二段階PCR反応において、T細胞由来の一以上のT細胞レセプターをコードする一以上の核酸は、TCR遺伝子のVβ領域に対してアニールする第一予備的プライマーおよびTCR遺伝子のCβ領域に対してアニールする第二予備的プライマー使用して第一PCR反応(VβからVβ−Dβ−Jβ連結を通過しCβまで伸長する予備的なフラグメントを増幅する)を行うことにより増幅され得、その後、ネステッドまたはセミネステッドであり得る第二PCR反応が行われ得る。本開示を考慮すると、当業者は、標的配列のPCR増幅のため適切なプライマーおよび反応条件を選択することが可能である。
【0082】
標的配列の増幅後においては、この増幅産物は、多数の手法により検出され得る。例えば、増幅産物のアリコートが、電気泳動用ゲルにロードされ得、これに対して電場が、サイズによりDNA分子を分離するために適用される。別の方法においては、増幅産物のアリコートが、SYBR green、エチジウムブロマイド、またはDNAに対して結合し、検出可能なシグナルを発する別の分子で染色されたゲルにロードされ得る。乾燥ゲルは、標的配列に対してハイブリダイズする標識されたオリゴヌクレオチド(ここからのオートラジオグラフは、フィルムに対してこのゲルを曝すことにより得られ得る)を含み得る。
【0083】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すことが含まれる。以下の実施例において開示された技術は、本発明の実施において本発明者により見出された技術が、十分に機能し、従ってその実施のため好ましい様式を構成すると見なされ得ることが、当業者により認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、開示された具体的な実施形態において、複数の変更が成され得、さらに本発明の趣旨および範囲から離れることなく、同一または類似の結果を得ることが可能であると評価する。
【実施例】
【0084】
(実施例1)
(T細胞ワクチン接種のためのミエリン反応性T細胞の単離)
(1.PBMCの調製および初回刺激)
MS患者およびコントロールの患者由来の新鮮な血液試料を、収集の二時間以内に処理した。あるいは、単核細胞を、MS患者の脳脊髄液(CSFMC)から取得し得る。末梢血単核細胞(PBMC)を、全血から標準Ficoll勾配分離法により単離した。具体的には、ヘパリン添加血液を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)を用いて希釈(1:1血液/HBSS)し、次いで遠心チューブ内においてFicoll−hypaque溶液上にゆっくりと上層し、そして1800rpm、18℃〜25℃で20分間、ブレーキを伴わず遠心分離した。PBMCを、次いで、過剰のHBSSを加えることにより洗浄し、そして1700rpmで10分間18℃〜25℃で遠心分離した。精製されたPBMCを、RPMI 1640培地内で遠心分離により三回洗浄し、その後AIM V培地(Gibco,Grand Island,N.Y.)に再懸濁した。細胞数を、計数し、そして細胞を、96ウェルU底培養プレートに一ウェルあたり200,000細胞の密度でプレートした。全てのプレートに、患者番号および患者名の頭文字を用いて標識した。細胞は、20μg/mlの濃度の合成ペプチド(表1に列挙され三個のミエリンタンパク質(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG))の既知免疫優性領域に対応する)存在下で37℃でインキュベートした。プレートを、37℃のCOインキュベーター内に置き、そして視覚的に毎日観察した。細胞を、抗原特異的T細胞を選択的に培養するために7日〜10日間培地の交換なしに培養した。
【0085】
【表1】

【0086】
(2.抗原特異的T細胞の同定および選択)
上記の細胞は次いで、活性化T細胞を示す遺伝子産物の発現により選択される。上記セクション2(a)参照。Cytokine Catch Reagent(Miltenyi Biotec)(上記)は、最終的に細胞から排出された際、細胞内サイトカインγIFNまたはTNFαを検出するために使用される。簡単に言うと、Cytokine
Catch Reagent(一般的に二重特異性抗体(活性化T細胞マーカーおよび排出サイトカインの両方に対して結合する))は、細胞表面上のCD45分子または他の活性化T細胞表面マーカー(例えばCD69)に対し結合するため、始めに細胞と共に4℃〜8℃でインキュベートされる。結合されたCytokine Catch Reagentを有する細胞は次いで、細胞内のγIFNまたはTNFαがまたCytokine Catch Reagentに対して結合し得る(サイトカインが、このインキュベーション時間の間に細胞内から排出される際に)ように37℃で45分間インキュベートされる。γIFNまたはTNFα(Cytokine Catch Reagentにより細胞表面に結合されている)は次いで、蛍光色素PEに対して結合体化した目的のサイトカインに対し特異的な抗体を使用することにより検出される。
【0087】
細胞表面分子CD4およびCD69は、別の蛍光色素に対し結合体化した抗体を使用することにより検出される。CD4細胞集団は、始めにゲーティングにより選択され、次いでこの集団内で「ダブルポジティブ」(CD69およびIFNγまたはCD69およびTNFα)染色される細胞は、FACSにより分別されそして無菌的に採取される。
【0088】
単離されたミエリン反応性T細胞は次いで、rIL−2、PHA、抗CD3または他の一般的なT細胞分裂促進因子を用いて刺激することにより、放射線照射された自己のPBMC存在下で7日〜10日間直接的に増殖させられる。ミエリン反応性T細胞株は、全細胞数がおよそ2000万個に達するまで、培養内で増殖させられる。
【0089】
(実施例2)
(MSの診断)
2ml〜100mlの血液が、患者から採取され、ならびに一以上の合成ペプチドが、Tリンパ球を初回抗原刺激する(prime)ためまたは刺激する(stimulate)ためにこの全血に直接的に加えられる。ペプチドは、三個のミエリンタンパク質(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG))の公知の免疫優性領域に対応する。この血液を、ミエリン特異的T細胞を活性化させるため、ペプチドと共に1日〜7日間インキュベートする。この抗原初回刺激期間の最終において、この細胞は、短期再刺激アッセイにおいて抗原を用いて再チャレンジされる。
【0090】
ミエリンペプチド活性化T細胞は、界面活性剤溶液を用いた細胞膜透過処理を行い、細胞を洗浄し、次いで細胞表面上のCD4分子またはCD69分子あるいは細胞内のIFNγまたはTNFαを検出するために一以上の染色抗体と共にインキュベートすることにより、検出される。染色抗体は、異なる蛍光色素に対して結合体化されているため、FACS分析による488nmのレーザーにより励起された際、異なる波長で蛍光を発する。CD4T細胞集団は、始めにゲーティング用のCD4細胞を使用することにより選択され、次いでこの集団内で両抗体(CD69およびγIFNまたはCD69およびTNFα)と免疫反応する細胞が同定される。この「ダブルポジティブ」ミエリン反応性T細胞の集団は、同一の試験における健常なコントロールと比較して多発性硬化症(MS)患者において有意に増加していることが示された(図1、MS患者、図2、健常なコントロール)。この方法を使用することで、患者の血液内において循環しているミエリン反応性T細胞の個数は、自己反応性T細胞集団に対するMS治療法の効果を決定するための処置前、処置の間または処置の後に決定され得る。終末点は、ダブルポジティブ染色される細胞の割合またはダブルポジティブ染色される細胞の絶対数のいずれかとして決定される。
【0091】
(実施例3)
(抗体結合体化リポソームを使用するMSの診断)
全血は、患者から採取され、一以上の合成ペプチド(実施例2に記載)を用いて刺激される。この血液は、ミエリン特異的T細胞を活性化するためにペプチドと共に3時間〜16時間インキュベートされる。この抗原初回刺激期間の最終において、この細胞は、IFNγ、TNFα、またはそれらの組合せに対する抗体に対して結合体化した磁気蛍光リポソームを用いて染色する前に短期再刺激アッセイにおいて抗原を用いて再チャレンジされる。この細胞はまた、CD4および/またはCD69に対する抗体を用いて染色される。染色されたミエリン反応性T細胞は、実施例2に記載されるように検出される。
【0092】
(実施例4)
(TCRクローンのレパートリーの決定)
細胞集団において提示されるT細胞レセプター(TCR)クローンのレパートリーは、実施例2および実施例3において記載されるように細胞選別を行うことにより二重ポジティブ染色された細胞集団を単離することにより分析され得る。DNAを、単離された細胞から抽出し、これを用いて、25個の既知TCR可変ベータ鎖(Vβ)遺伝子ファミリーに対して特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを行う。この手順は、TCR Vβ遺伝子使用法の分布についての情報をもたらし、病原性T細胞集団のクローン性を示す。この方法はまた、MS患者においてミエリン反応性T細胞集団のクローンシフト(clonal shifting)またはエピトープシフト(epitopic shifting)が発生しているのかを決定するために使用され得る。
【0093】
(実施例5)
(T細胞ワクチン接種によるミエリン反応性T細胞の減少)
再発−軽減(RR)−MSの患者および第二次進行(SP)MSの患者は、放射線照射された自己ミエリン反応性T細胞クローン(直接的な増殖により単離された)の皮下注射を三回受け、その4週間後、12週間後および20週間後の三回の追加注射を受けた。患者を、ミエリン反応性T細胞の前駆体の頻度、再発率、拡大身体障害状態スコア(EDSS)およびMRI病変活性の変化について24ヶ月の期間にわたってモニタリングした。この結果を、自己の値と対の様式でワクチン接種前の値と比較した。さらに、βインターフェロン−1aの臨床試験におけるRR−MSのプラシーボ群の臨床データ(Jacobsら,1996)および近年のβIFN−1b研究におけるSP−MSのプラシーボ群の臨床データ(European Study Group,Lancet,352:1491−1497(1998))を、比較のためにMSの自然歴データを提供するために含めた。T細胞の頻度は、ワクチン接種後20週間目に検出不可能であったかまたは実質的に減少したかのいずれかであった。この結果は、MSの患者におけるT細胞ワクチン接種によるミエリン反応性T細胞の減少を確認した。
【0094】
(実施例6)
(自己ミエリン反応性T細胞を使用するMS患者のワクチン接種)
ワクチン接種のプロトコールは、これまでの臨床研究(Zhangら,1993,Medaerら,1995)で使用されたものと類似である。つまり、実施例1に従って調製されたミエリン反応性T細胞クローンを、放射線照射されたPBMC(補助細胞源として)存在下でフィトヘマグルチニン(PHA)(4μg/ml)を用いて活性化する。細胞を次いで、10%熱不活化ヒトAB血清および1mLに対し100ユニットのrIL−2を補充したRPMI1640培地中で10日間培養する。活性化ミエリン反応性T細胞を次いで、滅菌生理食塩水で三回洗浄して残りのPHA、rIL−2および細胞片を除去し、最終的に2mlの生理食塩水に再懸濁する。放射線照射(10,000ラド、137Ce源)の後、この細胞を、両腕の皮下に注射(1ml/腕)する。ワクチン接種のために使用されるT細胞の個数は、一回の注射あたり40×10細胞〜80×10細胞までの範囲であり、相対皮膚表面積に基づいて、実験動物において効果的なT細胞用量の推定により選ばれる(Ben−Nunら,1981)。それぞれの患者は、二回の皮下注射を、続いて4週目、12週目、および20週目での繰り返しの注射を受ける。
【0095】
患者は次いで、障害の確認された進行の発症までの時間、EDSS、再発率、およびMRI病変活性について観察される。この結果を、患者自身の処置以前の経過ならびにRR−MS患者およびSP−MS患者における二つの近年の臨床試験におけるプラシーボ群(MSの自然歴の推定値として役立つ)(Jacobsら,1996),European Study Group,1998)と比較する。進行までの時間を、少なくとも2ヶ月間持続するEDSSの少なくとも1.0の増加(Poserら、1983)により決定する。研究中の病状の再燃は、神経学的検査における客観的な変化(EDSSの少なくとも0.5ポイントの悪化)を伴う、新たな神経学的症状の出現または少なくとも48時間続く既存の神経学的症状の悪化により定義される。患者は、定期的な来診予定の間の事象を報告するように指示され、症状が悪化を示唆するものであるか神経学者により調べられる。安全性の評価は、定期的来診における有害事象、生命徴候および身体検査を含んだ。T細胞ワクチン接種前および接種後の研究患者の臨床変数における差は、ウィルコクソンの順位和検定を使用することにより分析される。
【0096】
(実施例7)
(ワクチン接種後のMSの臨床経過における変化)
患者は、実施例1に従って調製されたT細胞ワクチン接種を有害効果を伴わずに、受ける。平均的なEDSSは、ワクチン接種後24ヶ月の間にわたってRR−MSの患者において減少する。これと比較して、同じ時期の観察の間RR−MS(n=56)の自然歴においてはEDSS平均0.61増加がある(βインターフェロン−1a試験(Jacobsら,1996)を使用することで行われる試験において報告されたのと同様)。さらに、無変化のEDSSまたは改善されたEDSSのいずれかを有する患者の比率は、MSの自然歴の比率よりも高い。MSの自然歴における患者の18%と比較して処置されたRR−MS群内の(たとえあったとしても)ごくわずかの患者は、24ヶ月以内で2.0のEDSSを超えて進行する。
【0097】
SP−MSコホート内で、EDSS平均は、SP−MSの自然歴において記録された+0.6(European Study Group,Lancet 1998;352:1491−1497)と比較して、24ヶ月の期間にわたってよりゆっくりと進行する。さらに、カプラン−マイアー法を使用する確認された進行までの時間の推定値は、MS患者の自然歴(RR−MSについて12ヶ月で20%の進行、そしてSP−MSについて9ヶ月で20%の進行)(Jacobsら,Ann.Neurol,1996;39:285−294,European Study Group,1998)と比較してかなりの遅延を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−178759(P2010−178759A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98263(P2010−98263)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【分割の表示】特願2004−527772(P2004−527772)の分割
【原出願日】平成15年8月6日(2003.8.6)
【出願人】(391058060)ベイラー カレッジ オブ メディスン (16)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
【出願人】(504051722)オペクサ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】