説明

VEGF−Bアンタゴニストを含む癌治療方法

【課題】癌の治療および予防の提供。
【解決手段】血管内皮成長因子Bアンタゴニスト(VEGF−B)アンタゴニストの有効量を、治療を必要とする被験体に投与する段階を含む、哺乳動物における癌の治療方法。VEGF−Bアンタゴニストは、VEGF−Bをコードする核酸分子を標的とし、かつVEGF−Bの発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるか、VEGF−BとVEGFR−1の結合を阻害する抗VEGF−B抗体であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、癌の治療および予防の領域に関する。具体的には本発明は、腫瘍および前癌性組織を含む癌の成長を阻害する成長因子のアンタゴニストを提供する。さらに具体的には本発明は、血管内皮成長因子Bアンタゴニスト、ならびに腫瘍組織および前癌性組織を含む癌の成長を阻害するための、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
本明細書で参照される出版物の書誌的詳細は、本明細書の最後にもまとめて示す。
【0003】
任意の先行技術に関する参照を、先行技術があらゆる国々において共通の一般的な知識の一部を形成すると自認するものとして、または何らかの形でそれを示唆するものとして受け取るべきではない。
【0004】
血管および血管供給の発生は、胚発生中における器官の発生および分化のための、ならびに創傷治癒、組織および器官の再生、ならびに黄体および子宮内膜の周期的な成長などの、出生後の正常な生理学的プロセスのための基本的な必要条件である(Folkman & Klagsbrun, Science, 235(4787); 442-447, 1987;Klagsbrun & D'Amore., Ann. Rev. Physiol. 53:217-239, 1991;Carmeliet et al., Nature 380:435-439, 1996;Ferrara et al., Nature 380:439-442, 1996)。新しい血管の成長および成熟(血管新生)は、高度に複雑で協調したプロセスであり、数多くのリガンドによる一連の受容体の連続的な活性化を必要とする(Yancopoulos et al., Nature 407:242-248, 2000;Ferrara and Alitalo, Nature Medicine 5:1359-1364, 1999;Carmeliet, Nature 407:249-257, 2000)。血管内皮成長因子(VEGFまたはVEGF-A)はおそらく、このようなリガンドの中で最も詳細に特性が明らかにされたリガンドであり、およびVEGF-Aが関与するシグナル伝達は、このプロセスの重要な律速段階であるようである(Ferrara et al., Nature Medicine 9:669-676, 2003)。
【0005】
正常な生理学的プロセスに加えて、腫瘍の病理学的成長は、腫瘍床における新しい血管の形成の程度に依存することも知られている(前掲のCarmeliet et al., 2000;Folkman, Nature Medicine 1:27-31, 1995;Hanahan & Folkman, Cell 86:353-364, 1996))。VEGF-A mRNAの発現はヒトの多くの腫瘍で促進され、およびVEGF-Aは、腫瘍が血管成長を切り替えるために頻繁に利用する重要な血管新生因子であると考えられている(Dvorak et al., Semin Perinatol 24:75-78, 2000;前掲のFerrara & Alitalo, 1999;前掲のYancopoulos, 2000;Benjamin & Keshet, Proc Natl Acad Sci USA 94:8761-8766, 1997;Ferrara and Davis-Smyth, Endocr. Rev 18:4-25, 1997)。VEGF-Aは血管の透過性も高め、およびこれは、腫瘍の浸潤および転移に重要な役割を果すと考えられている(Dvorak et al., Curr Top Microbiol Immunol 237:97-132, 1999)。この結果、腫瘍の成長を阻害するために、VEGF-Aなどの血管新生因子を標的とする薬剤を開発すべく取り組みが進められている(前掲のFerrara et al., 2003)。このような1つの薬剤が、VEGF-Aに結合してその活性を阻害する、ヒト化されたマウスモノクローナル抗体であるベバシズマブである。ベバシズマブ(Avastin)は最近、結腸直腸癌の治療用にFDAから承認された。
【0006】
VEGF-Aは今日、構造的に関連した分子のファミリーの基礎メンバーであると認識されている。「VEGFファミリー」は、プロトタイプであるVEGF-A、胎盤成長因子(PLGF)、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、およびVEGF-Eを含む6つのメンバーを含む(Eriksson & Alitalo, Curr Top Microbiol Immunol 237:41-57, 1999)。VEGFファミリーの生物学的機能には、少なくとも3種類の構造的に相同なチロシンキナーゼ受容体であるVEGFR-1/Flt-1、VEGFR-2/Flk-1/KDR、およびVEGFR-3/Flt-4の差次的な活性化が関与する。VEGF-A、VEGF-B、およびPLGFは、非チロシンキナーゼ受容体であるニューロピリン1およびニューロピリン2にも結合する(Soker et al., Cell 92:735-45, 1998;Neufeld et al., Trends Cardiovasc Med. 12:13-19, 2002)。VEGFファミリーは、受容体結合パターンによって以下の3つのサブグループに分けられる:(1)VEGFR-1およびVEGFR-2と結合するVEGF-A;(2)VEGFR-1のみと結合するPLGFおよびVEGF-B;ならびに(3)VEGFR-2とVEGFR-3の両方と相互作用するVEGF-CおよびVEGF-D(前掲のFerrara & Alitalo, 1999;前掲のFerrara et al., 2003)。
【0007】
上述したようにVEGF-Aは、VEGFファミリーの中で、最も詳細に特性が明らかにされたメンバーであり、および多くの証拠の蓄積から、VEGFR-2が、内皮細胞の増殖、遊走および生存、血管新生、ならびに血管透過性などの生物学的活性に関連するVEGF-Aの主要メディエーターであると結論されている(前掲のFerrara et al., 2003)。VEGFR-2に加えて、VEGF-Cおよび-DもVEGFR-3と結合して、これを活性化する。VEGFR-3は主にリンパ管内皮細胞で発現され、ならびにVEGF-Cおよび-Dは、リンパ管の新生[すなわちリンパ管新生(lymphangiogenesis)]の重要な調節因子であると考えられている(Makinen et al., Nature Medicine 7:199-205, 2001;Skobe et al., Nature Medicine 7:192-8, 2001;Stacker et al., Nature Medicine 7:186-91, 2001)。VEGF-A、-C、および-D、ならびにVEGFR-2または-3を介するシグナル伝達の下流の作用とは対照的に、VEGF-Bの果たす詳細な役割、およびVEGFR-1を介するシグナル伝達については不明な点が多い。
【0008】
VEGFR-1は、さまざまな細胞型で発現され(Clauss et al., J. Biol. Chem. 277:17629-17634, 1996;Wang & Keiser, Circ. Res. 83:832-840, 1998;Niida et al., J. Exp. Med. 190:293-298, 1999)、少なくとも内皮細胞におけるその発現は、低酸素およびHIF-1αに依存した機構によって促進される(Gerber et al., J. Biol. Chem. 272:23659-23667, 1997)。しかしながら、VEGF-Aに対する応答において、VEGFR-1の弱い自己リン酸化だけが認められており、ならびにVEGF-AとVEGFR-1の結合は、増殖および生存などの重要な内皮細胞応答に必要な下流のシグナルを活性化しないようである(de Vries et al., Science 255:989-991, 1992;Waltenberger et al., J. Biol. Chem. 269:26988-26995, 1994;Keyt et al., J. Biol. Chem. 271:5638-5646, 1996;Rahimi et al., J. Biol. Chem. 275:16986-16992, 2000)。VEGFR-1に特異的なリガンドであるPLGFが、内皮細胞上でVEGF-Aの活性を高めたという観察は、VEGFR-1が「おとり受容体(decoy receptor)」として機能する可能性があること、すなわちVEGFR-1のPLGFをVEGF-Aに置き換えれば、VEGFR-2との結合が可能となり、VEGFR-2を介するシグナルが利用可能となることを示唆している(Park et al., J Biol Chem. 269:25646-25654, 1994)。遺伝的に改変されたマウスを対象に得られたインビボデータは、VEGFR-1がシグナルを伝達しない「おとり」的役割を果たすことをさらに示唆している。VEGFR-1-/-マウスは、8.5〜9.5日齢で子宮内で死に、内皮細胞は発生したものの脈管に組織化することはなかった(Fong et al., Development 126:3015-3025, 1999)。致死性は、血管芽細胞の過剰な増殖によるものと解釈されており、VEGF-Aの作用の亢進に基づくとされている(前掲のFong et al., 1999)。キナーゼドメインを欠くVEGFR-1を発現するマウスが健康であり、血管発生に顕著な欠損が見られなかったという観察は、おとり仮説をさらに裏付けている。というのは、短縮型(truncated)受容体でもVEGF-Aと結合可能であったが、細胞内シグナルを伝達しなかったからである(Hiratsuka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 4:9349-9354, 1998)。
【0009】
VEGF-B-/-マウスの解析でも、VEGFR-1に特異的なリガンド、およびVEGFR-1が関与するシグナル伝達が果たす、正確な生理学的な(および病理学的な)役割を取りまく混乱は解決されていない。VEGF-A-/-マウスとは対照的に、VEGF-B-/-マウスは血管発生に顕著な欠損を示さず、かつ健康であり、子孫を残す(Bellomo et al., Circ. Res. 86:E29-E35, 2000)。ある報告では、VEGF-B-/-マウスの心臓は大きさが縮小しており、および冠動脈閉塞に対する反応、および虚血からの心筋の回復が損なわれていた(前掲のBellomo et al 2000)。心臓の形態は正常に見えたが、同論文の著者らはVEGF-Bが、完全に機能する冠脈管の確立に不可欠であると結論した。これとは対照的に、VEGF-B-/-マウスについて述べた第2の報告では、わずかな心房の伝導欠損のみが報告されている(Aase et al., Circulation 104:358-364, 2001)。
【0010】
血管形成の調節にVEGFR-1およびVEGFR-1に特異的なリガンドが果たす役割に関する混乱の結果として、腫瘍の成長および転移の阻害におけるVEGF-Bの治療標的としての可能性は不明である。VEGF-Bは、他の因子群とともに、さまざまな腫瘍で発現されることが報告されているが(Salven et al., Am J Pathol, 153:103-108, 1998)、発現の促進を示す証拠は少なく(Li et al., Growth Factors 19:49-59, 2001)、異種移植モデル、または他の近縁の動物モデルでVEGF-B特異的アンタゴニストが有効であるという報告はない。事実、VEGF-B(およびPLGF)の潜在力は、VEGF-Bの発現の増加が、VEGF-A誘導性血管新生を阻害すること、したがってVEGF-A活性およびVEGF-Aが誘導する血管新生に起因する疾患の治療の潜在的な方法となることを示唆する国際公開公報第03/62788号のCaoらによる開示によって、さらに混乱している。
【0011】
本発明では驚くべきことに、VEGF-Bアンタゴニストが、腫瘍組織を含む癌の成長および発生の低下に有用であると判断された。
【発明の概要】
【0012】
本明細書の全体を通じて、文中で特に明記しない限り、「〜を含む(comprise)」という語、または「〜を含む(comprises)」もしくは「〜を含む〜(comprising)」などの変化形は、記載された要素もしくは整数、または一群の要素もしくは一群の整数は含まれるが、他の任意の要素もしくは整数、または一群の要素もしくは一群の整数は含まれないことを意味すると理解される。
【0013】
ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列は、配列識別子番号(配列番号:)によって参照される。配列番号:は数値的に、配列識別子<400>1(配列番号:1)、<400>2(配列番号:2)などに対応する。配列識別子については表1にまとめた。配列表をクレームの後に付した。
【0014】
本発明は、腫瘍組織および前癌性組織を含む癌の成長を、VEGF-Bアンタゴニストを使用して阻害する方法を提供する。1種類もしくは複数のVEGF-Bアンタゴニストを単独で含むか、または他の抗癌剤もしくは他の血管新生阻害剤と組み合わせて含む組成物も提供する。
【0015】
本発明で想定されるアンタゴニストは、VEGF-BとVEGFR-1の相互作用を阻害する抗体、VEGF-Bの発現を低下させるアンチセンス化合物、またはVEGF-Bの発現を低下させる干渉核酸の場合がある。
【0016】
好ましい抗体はVEGF-Bと結合し、かつVEGF-Bとその受容体の相互作用に干渉する。このような抗体および他のアンタゴニストは、VEGF-Bの全体または一部が、直接的または間接的に関与する特定の条件の治療に使用されると提案されている。本発明は、VEGF-Bアンタゴニストを投与する段階を含む、被験体における、このような状態の治療方法も想定している。
【0017】
ヒトのVEGF-Bに対する抗体または他のアンタゴニストの場合、他の哺乳動物型のVEGF-Bとの、ある程度のレベルの交差反応性は例えば、特定の疾患に対する作用に関して抗体または他のアンタゴニストを動物モデルで検討する目的の場合、および試験動物におけるVEGF-B/VEGFR-1が関与する受容体シグナル伝達が試験抗体または他のアンタゴニストに影響される様式で毒性試験を実施するような状況では望ましい場合がある。ヒトのVEGF-Bに対する、抗体または他のアンタゴニストの交差反応性が望ましいと考えられる種には、マウス、イヌ、およびサルが含まれる。本発明の特に好ましい抗体群は、マウスのVEGF-Bと交差反応性を示すヒトVEGF-Bに対する抗体群である。
【0018】
関連する局面では、本発明の抗体は、VEGF-Bの受容体結合ドメイン(RBD)と結合し、およびVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する。本発明の特に好ましい抗体群は、ヒトのVEGF-BのRBDと結合する抗体群、ならびにマウスのVEGF-BのRBDとも結合し、相互作用するか、または会合して、VEGFR-1を介してVEGF-B誘導型のシグナル伝達を阻害する抗体群である。
【0019】
好ましくは、このような抗体は、モノクローナル抗体(「mAb」)、またはこの抗原結合断片である。さらにより好ましくは、抗体は、ヒトへの投与に適切な脱免疫化(deimmunized)抗体もしくはキメラ抗体を含むヒト化抗体、またはヒト抗体である。例えばトランスジェニックマウスを使用して、またはファージディスプレイによって作製されたマウスのモノクローナル抗体およびヒトのモノクローナル抗体から作製されたヒト化抗体が特に好ましい。
【0020】
本発明の抗体は、マウスのモノクローナル抗体1C6、2F5、2H10、および4E12、ならびに1C6、2F5、2H10、および4E12がヒト化されたmAb、脱免疫化mAb、またはキメラ型のmAbを含む。マウスのモノクローナル抗VEGF-B抗体2H10を発現するハイブリドーマ細胞株は、2005年7月27日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection; ATCC)にアクセッション番号__として寄託されている。
【0021】
本発明は、VEGF-Bアンタゴニスト、特に本発明の抗体の投与によって、VEGF-Bが関与する疾患または状態を調節する方法を想定している。本発明による治療の対象となる状態は、癌および腫瘍、特に充実性腫瘍を含む。前癌性状態、ならびに例えば骨髄腫およびリンパ腫などの散在性腫瘍も治療される可能性がある。
【0022】
本明細書で使用される配列識別子を表1にまとめた。
【0023】
(表1)配列識別子の一覧



【0024】
本明細書で使用される省略形のリストを表2に示す。
【0025】
(表2)省略形

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】抗VEGF-B mAb 2H10の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を示す。アミノ酸のナンバリングは、Kabatら(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991)に従う。CDR領域(下線部)は、Kabatら(前掲)の配列定義(ただし、組み合わせ配列であるCDR-H1は除く)、およびChothiaおよびLesk, J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987の構造定義に従って定義される。
【図2】抗VEGF-B mAb 4E12の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配を示す列。アミノ酸のナンバリングは、Kabatら(前掲)に従う。CDR領域(下線部)は、Kabatら(前掲)の配列定義(ただし、組み合わせ配列であるCDR-H1は除く)、およびChothiaおよびLesk(前掲)の構造定義に従って定義される。
【図3】抗VEGF-B mAb 2F5の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を示す。アミノ酸のナンバリングはKabatら(前掲)に従う。CDR領域(下線部)は、Kabatら(前掲)の配列定義(ただし、組み合わせ配列であるCDR-H1は除く)、およびChothiaおよびLesk(前掲)の構造定義に従って定義される。
【図4】EmBLデータベースの配列X93622およびJ00242(それぞれ、ヒトの非再編成型生殖系列抗体の軽鎖領域PK9およびJK4)に由来するヒト可変軽鎖生殖系列(PK9/JK4)のアミノ酸配列、ならびにEmBLデータベースの配列HSIGDP75およびJ00256(それぞれ、ヒトの非再編成型生殖系列抗体の重鎖領域DP75およびJH4a)に由来するヒト可変重鎖生殖系列(DP75/JH4a)のアミノ酸配列を示す。CDR領域に下線を付す。
【図5】マウスの抗VEGF-Bモノクローナル抗体2H10のCDRでのCDRグラフト処理後のヒト可変軽鎖生殖系列(PK9/JK4)のアミノ酸配列、およびヒト可変重鎖生殖系列(DP75/JH4a)のアミノ酸配列を示す。CDR領域に下線を付す。重鎖の配列中の74位(KabatのナンバリングではH73)のアミノ酸は、実施例10に記載された手順でThrからLysへ逆突然変異されている。
【図6】大腸菌における発現に最適化された2H10のCDR領域の核酸配列を示す。
【図7】抗VEGF-B mAb 1C6の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を示す。アミノ酸のナンバリングは、Kabatら(前掲)に従う。CDR領域(下線部)は、Kabatら(前掲)の配列定義(ただし、組み合わせ配列であるCDR-H1は除く)、およびChothiaおよびLesk(前掲)の構造定義に従って定義される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましい態様の詳細な説明
本発明を詳細に説明する前に、特に明記された部分以外は、本発明が、成分の特異的な剤形、製造法、投与量、または診断法などに制限されないことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語が、特定の態様を説明することだけを目的としており、制限する意図はないことも理解されたい。
【0028】
単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という表現は、文中で明記しない限り、複数の局面を含む。したがって例えば、「1つの抗体(an antibody)」についての言及は、1つの抗体、ならびに2つまたはそれ以上の抗体を含み:「1つのVEGF-B(a VEGF-B)」についての言及は、1つのVEGF-B、ならびに2つまたはそれ以上のVEGF-B分子を含み;「1つのアンタゴニスト(an antagonist)」についての言及は、1つのアンタゴニスト、ならびに2つまたはそれ以上のアンタゴニストを含む。その他についても同様である。
【0029】
本発明の説明および請求に関しては、以下の専門用語を、以下に記載された定義に従って使用する。
【0030】
「アンタゴニスト」、「化合物」、「活性剤」、「薬理活性剤」、「薬物」、および「活性物(active)」という用語は、本明細書で互換的に使用され、所望の薬理作用および/または生理作用を誘導するVEGF-Bアンタゴニストを意味する。これらの用語は、薬学的に許容可能な、および薬理学的に活性な状態の、このような活性剤、特に本明細書で言及される、塩類、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、類似体などを含むがこれらに限定されない薬剤も含む。「アンタゴニスト」、「化合物」、「活性剤」、「薬理活性剤」、「薬物」、および「活性物」という用語が使用される場合は、これが活性剤それ自体、ならびに薬学的に許容可能で、薬理学的に活性のある塩類、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝物、類似体などを含むことを理解されたい。
【0031】
「アンタゴニスト」、「化合物」、「活性剤」、「薬理活性剤」、「薬物」、および「活性物」についての言及は、例えば2種類またはそれ以上の抗体などの、上記成分の2種類またはそれ以上の組み合わせを含む場合がある。「組み合わせ」は、薬剤が個別に提供され、および個別に供与されるか、もしくは分配されて与えられるか、または分配前に混合される2つの部分からなる組成物などの、複数の部分からなる組み合わせも含む。
【0032】
例えば、多成分からなる薬剤パック(pharmaceutical pack)は、個別に維持された2種類もしくはそれ以上の抗体、または抗VEGF-B抗体、および抗癌剤もしくは血管新生阻害剤を有する場合がある。
【0033】
本明細書で用いる、薬剤の「有効量」および「治療的有効量」という用語は、血管新生の阻害、および/または腫瘍組織を含む癌の成長の阻害を含む、所望の治療効果もしくは生理学的作用、またはアウトカムを提供するのに十分な量のVEGF-Bアンタゴニストを意味する。望ましくない作用、例えば副作用が、望ましい治療効果とともに時に現われることがあり;したがって実施者は、適切な「有効量」を決定する際に、潜在的な利益と潜在的なリスクの均衡をとる。必要とされる薬剤の正確な量は、被験体の種、年齢、および全般的な状態、投与様式などに依存して、被験体ごとに変動する。したがって、正確な「有効量」の特定は可能ではない場合がある。しかしながら、任意の個々の状況における適切な「有効量」は、当業者であれば常用の実験法のみで決定可能である。VEGF-Bアンタゴニスト、好ましくは抗体が癌を阻害する能力は、ヒトの腫瘍に対する有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。当業者であれば、このような量を、被験体の大きさ、被験体の症状の重症度、および選択される組成物の種類または投与経路などの因子を元に決定することができるであろう。
【0034】
「薬学的に許容可能な」担体、および/または希釈剤は、生物学的に、またはそれ以外の状況に不適(undesirable)でない材料を含む薬学的媒体を意味する。すなわちこのような材料は、選択された活性剤とともに、任意の、または実質的に有害な反応を引き起こすことなく被験体に投与することができる。担体は、任意の、およびあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、緩衝剤、キレーティング剤、ならびに吸収遅延剤などを含む場合がある。
【0035】
同様に、本明細書で提供される化合物の「薬理学的に許容可能な」塩類、エステル、アミド、プロドラッグ、または誘導体は、生物学的に、またはそれ以外の状況に不適でない塩類、エステル、アミド、プロドラッグ、または誘導体である。
【0036】
本明細書で用いる「治療する(treating)」および「治療(treatment)」という用語は、癌の症状の重症度および/または発現頻度を低減させること、癌の症状および/または根本原因を除去すること、癌の症状および/またはその根本原因の発生を防ぐこと、ならびに癌による損傷を改善もしくは寛解することを意味する。
【0037】
「癌」および「腫瘍」という用語は互換的に使用可能であり、前癌性状態を含む。
【0038】
被験体を「治療する」段階は、感受性のある被験体における癌の成長、または他の有害な生理学的事象の予防、ならびに臨床的に症候性の被験体を対象とした、癌の症状の改善による治療を含む場合がある。
【0039】
本明細書で用いる「被験体(subject)」は、本発明の薬学的製剤および方法による利益を得る動物、好ましくは哺乳動物、および、より好ましくはヒトを意味する。本明細書に記載された薬学的製剤および方法による利益を得る可能性のある動物の種に制限はない。被験体は、ヒトまたは非ヒト動物であるかに関わらず、被験体のほかに個体、患者、動物、宿主、またはレシピエントと呼ばれる場合がある。本発明の化合物および方法は、ヒトの医学および獣医学において応用が可能である。
【0040】
好ましい動物は、ヒトまたは実験動物である。
【0041】
実験動物の例は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、、ハムスター、ネコ、およびイヌを含む。
【0042】
本発明では、従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA手法を利用する。このような手法は当技術分野で周知であり、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D. N. Glover ed. 1985)、およびF. M. Ausubel, et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., 1994などの、さまざまな出版物に記載されている。
【0043】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」、または「核酸分子」という用語は、リン酸エステルのポリマー状のリボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、もしくはシチジン;「RNA分子」)、またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、もしくはデオキシシチジン;「DNA分子」)、または1本鎖型、2本鎖型、またはこれ以外のホスホロチオエートおよびチオエステルなどの、これらの任意のホスホエステル類似体を意味する。
【0044】
「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、または「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAまたはRNAなどの核酸中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオチド」とも呼ばれる)を意味し、および2個またはそれ以上のヌクレオチドの任意の鎖を意味する。
【0045】
「コード配列」、すなわちRNA、ポリペプチド、タンパク質、または酵素などの発現産物「をコードする」配列という用語は、発現時に産物の産生を生じるヌクレオチド配列である。
【0046】
「遺伝子」という用語は、1つまたは複数のRNA分子、タンパク質、または酵素の全体もしくは一部を含むリボヌクレオチドまたはアミノ酸の特定の配列をコードするか、またはこれに対応するDNA配列を意味し、例えば、遺伝子が発現される条件を決定するプロモーター配列などの調節DNA配列を含む場合もあれば含まない場合もある。遺伝子はDNAからRNAに転写される場合があり、RNAはアミノ酸配列に翻訳される場合もあればされない場合もある。
【0047】
本明細書で用いる、ヌクレオチド配列の「増幅」という用語は、ヌクレオチド配列の混合物中における特定のヌクレオチド配列の濃度を高めるために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用を意味する場合がある。PCRに関しては、Saiki, et al., Science 239:487, 1988で説明されている。好ましい態様では、本発明の核酸は、PCRで増幅可能な抗VEGF-B抗体、抗VEGF-B抗体の重鎖もしくは軽鎖、抗VEGF-B抗体の重鎖もしくは軽鎖の可変領域、抗VEGF-B抗体の重鎖または軽鎖の定常領域、抗VEGF-B抗体のCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、もしくはCDR-H3)、本明細書に記載されたマウス-ヒトキメラ抗体、本明細書に記載されたCDR-Fab、または本明細書に記載されたヒト化抗体をコードする核酸を含む。
【0048】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、遺伝子、mRNA、cDNA、または他の対象核酸をコードするゲノムDNA分子、cDNA分子、またはmRNA分子とハイブリダイズ可能な、一般に少なくとも10ヌクレオチド、好ましくは少なくとも15ヌクレオチド、およびより好ましくは少なくとも20ヌクレオチド、好ましくは100ヌクレオチドを超えない程度の核酸を意味する。オリゴヌクレオチドは例えば、32P-ヌクレオチド、3H-ヌクレオチド、14C-ヌクレオチド、35S-ヌクレオチド、またはビオチンなどのラベルが共有結合的に結合されたヌクレオチドを取り込ませることで標識可能である。1つの態様では、標識されたオリゴヌクレオチドを、核酸の存在を検出するためのプローブとして使用することができる。別の態様では、オリゴヌクレオチド(一方もしくは両方が標識可能)を、対象遺伝子の完全長もしくは断片のクローニング用か、または核酸の存在の検出用のいずれかのために、PCR用プライマーとして使用することができる。一般にオリゴヌクレオチドは合成的に、好ましくは核酸合成装置で作製される。
【0049】
任意の核酸(例えばVEGF-B遺伝子をコードする核酸、もしくは抗VEGF-B抗体をコードする核酸、または、これらの断片もしくは一部)の配列を、化学的配列決定法または酵素的配列決定法などの、当技術分野で既知の任意の方法で決定することができる。DNAの「化学的配列決定法」は、DNAを個々の塩基に特異的な反応でランダムに切断するMaxamおよびGilbertの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74(2):560-564, 1977)で実施することができる。DNAの「酵素的配列決定法」は、Sangerの方法(Sanger, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74(12):5463-5467, 1977)で実施することができる。
【0050】
本発明の核酸は、天然の調節(発現制御)配列と隣接している場合があるほか、プロモーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)および他のリボソーム結合部位の配列、エンハンサー、応答エレメント、サプレッサー、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5'および3'の非コード領域などを含む異種配列と結合している場合がある。
【0051】
「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞内でRNAポリメラーゼが結合可能で、かつコード配列の転写を開始するDNA調節領域である。プロモーター配列は一般に、転写開始部位がその3'末端に位置しており、最低限の数の塩基、または任意のレベルにおける転写の開始に必要なエレメントを含むように、5'方向に上流を延ばしている。RNAポリメラーゼの結合が関与する転写開始部位、ならびにタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)がプロモーター配列中に見出される場合がある。プロモーターは、エンハンサー配列およびリプレッサー配列を含む他の発現制御配列と、または本発明の核酸と使用可能に連結されている場合がある。遺伝子発現を制御するために使用可能なプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(米国特許第5,385,839号および第5,168,062号)、ならびにSV40初期プロモーター領域(Benoist, et al., Nature 290:304-310, 1981)を含むがこれらに限定されない。
【0052】
コード配列は、同配列が、RNAポリメラーゼが関与する、コード配列のRNA、好ましくはmRNAへの転写と、これに続くRNAのトランススプライシング(イントロンが含まれる場合)の誘導、および任意で、コード配列にコードされたタンパク質に翻訳される場合に、細胞内で転写および翻訳の制御配列「の制御下にある」か、「機能的に結合されている」か、または「使用可能に結合されている」。
【0053】
「〜を発現する」、および「発現」という用語は、遺伝子、RNA、またはDNAの配列上の情報の、産物への変換を可能とすること、または引き起こすこと;例えばヌクレオチド配列の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化させることでタンパク質を産生することを意味する。DNA配列は、細胞内で、もしくは細胞によって発現されて、RNA(mRNAなど)またはタンパク質(抗VEGF-B抗体など)などの「発現産物」を生成する。発現産物そのものも、細胞によって「発現された」と表現されることがある。
【0054】
「ベクター」、「クローニングベクター」、および「発現ベクター」という用語は、宿主を形質転換するために、DNAもしくはRNAの配列を宿主細胞に導入可能な、および任意で導入配列の発現および/または複製を促進する媒介物(プラスミドなど)を意味する。
【0055】
「トランスフェクション」または「形質転換」という用語は、細胞内への核酸の導入を意味する。これらの用語は、抗VEGF-B抗体、またはこの断片をコードする核酸の細胞内への導入を意味する場合がある。導入された遺伝子または配列は「クローン」と呼ばれる場合がある。導入されるDNAまたはRNAを受ける宿主細胞は「形質転換され」、および「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されたDNAもしくはRNAは、宿主細胞と同じ属もしくは種の細胞、または異なる属もしくは種の細胞を含む任意の供給源に由来する場合がある。
【0056】
「宿主細胞」という用語は、細胞による物質の産生、例えば細胞による遺伝子、DNAもしくはRNAの配列、タンパク質もしくは酵素の発現もしくは複製のために、選択され、修飾され、トランスフェクトされ、形質転換され、成長されるか、または何らかの方法で使用されるか、もしくは操作される任意の生物の任意の細胞を意味する。
【0057】
「発現系」という用語は、適切な条件でタンパク質を、またはベクターに担われて宿主細胞に導入される核酸を発現可能な宿主細胞および適合性のあるベクターを意味する。一般的な発現系は、大腸菌の宿主細胞とプラスミドベクター、昆虫の宿主細胞とバキュロウイルスベクター、ならびに哺乳動物の宿主細胞とベクターを含む。
【0058】
本発明は一般に、VEGF-Bが関与するシグナル伝達機能を阻害することで、腫瘍性組織ならびに前癌性組織を含む癌の成長を阻害する方法に関する。これはVEGF-B活性を阻害すること、VEGF-Bと受容体の相互作用を阻害すること、またはVEGF-Bの発現を低下させることで行われる場合がある。したがって本発明は、癌を治療する方法、ならびに、この方法に有用な組成物および薬剤を想定している。好ましい態様では本発明は、VEGF-B/VEGFR-1の相互作用に拮抗する抗体を提供する。
【0059】
しかしながら本発明は、VEGF-Bの発現を低下させるアンチセンス化合物、またはVEGF-Bの発現を低下させる干渉核酸を含む他のVEGF-Bアンタゴニストにも拡張される。干渉核酸分子は、合成されたRNAiまたはDNA由来のRNAiを含む。
【0060】
VEGF-Bアンタゴニストは、さまざまな方法で作製することができる。例えば核酸ベースの化合物は、米国特許出願第20040102389号に記載された一般的な方法で作製可能であり、および酵素型の核酸分子(Inozyme、G-cleaver、amberzyme、zinzymeなどのリボザイム)、DNAザイム(DNAzyme)、2-5Aアンチセンスキメラ、3本鎖形成核酸、おとり核酸、アプタマー、アロザイム(allozyme)、RNA切断性官能基を含むアンチセンス核酸(Cook et al.、米国特許第5,359,051号)、低分子干渉核酸(siRNA, Beigelman et al., 米国特許出願第60/409,293号)を含む。
【0061】
VEGF-Bの発現を低下させるアンチセンス化合物は、ZhangおよびDobieの国際公開公報第03/105754号に記載されている。VEGF-Bに対するRNA干渉(RNAi)に関与可能な、および/またはVEGF-Bの発現を低下させる短鎖干渉核酸(siRNA)分子、短鎖干渉RNA(siRNA)分子、2本鎖RNA(dsRNA)分子、マイクロRNA(miRNA)分子、および短いヘアピン型RNA(shRNA)分子などの干渉核酸分子は、McSwiggenらの国際公開公報第03/070910号に記載された一般的な方法で作製できる。
【0062】
本発明の好ましいアンタゴニストは、ヒトVEGF-Bに対するアンタゴニストである。しかしながら、交差反応性のVEGF-Bアンタゴニスト、すなわちヒト型および他の哺乳動物型のVEGF-Bと拮抗するアンタゴニストが望ましい場合があり、および本発明の別の局面となる。
【0063】
抗体は好ましくはモノクローナル抗体である。好ましくは抗体は、単離された状態で均一であるか、または完全に、もしくは部分的に純粋な状態である。
【0064】
最も好ましくは抗体は、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体であるか、またはヒトへの投与に適切なヒト抗体である。このような抗体は例えば、例えば後述するトランスジェニックマウスを使用して、またはファージディスプレイで作製可能なマウスのモノクローナル抗体、およびヒトのモノクローナル抗体から作製されたヒト化抗体を含む。「ヒト化」抗体は、脱免疫化抗体を含む。
【0065】
「VEGF-B」についての言及は、VEGF-B167およびVEGF-B186を含むVEGF-Bのあらゆる天然のイソ型(Olofsson et al., J Biol Chem. 271:19310-19317, 1996)、VEGF-Bの天然のプロセシング型(processed form)に加えて、天然のVEGF-Bタンパク質の配列を元に任意の遺伝学的に改変された型を含む。VEGF-Bは、VEGFファミリーの成長因子のメンバーであり、同ファミリーのあらゆるメンバーと同様に、VEGFホモロジードメインを含む(Olofsson et al., Curr Opin in Biotech. Vol 10:528-535, 1999)。同ホモロジードメインは、シスチンノット(cystine-knot)と呼ばれる構造モチーフを特徴とし、VEGFR-1との結合に主に関与するペプチド配列を保持するタンパク質の一部である。ヒトおよびマウスのVEGF-Bに関しては、VEGFホモロジードメインは、VEGF-B167とVEGF-B186の両方の成熟型のアミノ酸10〜108位に拡がる、遺伝学的に改変された状態の分子の中に含まれる。VEGF-BのVEGFホモロジードメインは、受容体結合ドメイン(RBD)とも呼ばれる。人工的に作製されたVEGF-B10-108は、VEGFR-1のリガンド結合ドメインと結合し、およびVEGFR-1を介してシグナル伝達を明らかにするように設計されたキメラ受容体アッセイ法で活性を示す(Scotney et al., Clin Exp Pharmacol Physiol (Australia), 29(11):1024-9, 2002)。
【0066】
本発明のVEGF-B分子は、ヒトのVEGF-B167(NCBIアクセッション番号AAB06274;タンパク質配列はシグナル配列を含む)、ヒトのVEGF-B186(NCBIアクセッション番号AAC50721;タンパク質配列はシグナル配列を含む)、マウスのVEGF-B167(NCBIアクセッション番号AAB06273;タンパク質配列はシグナル配列を含む)、マウスのVEGF-B186(NCBIアクセッション番号AAC52823;タンパク質配列はシグナル配列を含む)、ならびにヒトのVEGF-B10-108(配列番号:1)およびマウスのVEGF-B10-108(配列番号:2)と呼ばれる、これらの改変型を含む。
【0067】
ヒトのVEGF-B10-108の配列は、アミノ酸31位(H)〜アミノ酸129位(K)(NCBIアクセッション番号AAB06274に示されたヒトのVEGF-B167タンパク質の配列を含む)に由来するアミノ酸の配列に対応し、およびアミノ酸31位(H)〜アミノ酸129位(K)(NCBIアクセッション番号AAC50721に示されたヒトのVEGF-B186タンパク質の配列を含む)に由来するアミノ酸の配列に対応する。
【0068】
マウスのVEGF-B10-108の配列は、アミノ酸31位(H)〜アミノ酸129位(K)(NCBIアクセッション番号AAB06273に示されたマウスのVEGF-B167タンパク質の配列を含む)に由来するアミノ酸の配列に対応し、およびアミノ酸31位(H)〜アミノ酸129位(K)(NCBIアクセッション番号AAC52823に示されたマウスのVEGF-B186タンパク質の配列を含む)に由来するアミノ酸の配列に対応する。
【0069】
本発明で想定される抗体の例は、VEGF-Bと結合して、VEGFR-1を介してVEGF-Bが関与するシグナル伝達をブロックすることでVEGF-B誘導型の生物学的活性を阻害する抗体を含む。このような抗体は、VEGF-Bのポリペプチド、または例えばVEGF-B167、またはVEGF-B10-108などの受容体結合ドメイン(RBD)を含むペプチドなどの、この抗原性部分もしくは免疫原性部分に対して作製することができる。VEGFR-1を介してVEGF-Bが関与するシグナル伝達をブロックする能力を有する抗体は、本明細書に記載されたアッセイ法を含むがこれらに限定されない細胞ベースのアッセイ法または生化学的アッセイ法で選択することができる。好ましくは抗体は、ヒトのVEGF-Bポリペプチド、またはこの免疫原性部分に対して作製される。好ましくは、ヒトのVEGF-Bシグナル伝達をブロックする抗体が選択される。
【0070】
本発明の好ましい抗体は、ヒトのVEGF-Bと結合してヒトのVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体である。
【0071】
さらに好ましい態様では本発明は、ヒトのVEGF-B10-108(配列番号:1)に結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体を提供する。
【0072】
さらに好ましい態様では本発明は、ヒトのVEGF-BのRBDに結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体を提供する。
【0073】
ヒトのVEGF-Bに対する抗体の場合、他の哺乳動物型のVEGF-Bとの、ある程度のレベルの交差反応性が、例えば特定の疾患に対する影響に関して抗体を動物モデルで検討する目的、および試験動物におけるVEGF-B/VEGFR-1シグナル伝達が試験抗体の影響を受けるか否かを調べる毒性試験を実施する目的などの特定の状況では望ましい場合がある。ヒトのVEGF-Bに対する抗体の交差反応性が望ましい種は、マウス、ラット、イヌ、およびサルを含む。特に好ましい本発明の一群の抗体は、マウスのVEGF-B(「mVEGF-B」)に対して、ある程度のレベルの種の交差反応性を示すヒトのVEGF-Bに対する抗体である。交差反応性とは、抗体がヒトのVEGF-Bおよび他の種に由来するVEGF-Bと高親和性で結合してVEGF-BとVEGFR-1の相互作用を阻害することを意味する。アンチセンスRNAまたは干渉RNAなどの他のVEGF-Bアンタゴニストとの交差反応性は、これらがヒトのVEGF-Bおよび他の種に由来するVEGF-Bの発現を低下させることを意味する。
【0074】
本発明の好ましい抗体、および本発明の方法に使用される抗体は、2種類またはそれ以上の種に由来するVEGF-Bと交差反応して、VEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体である。
【0075】
本発明の特に好ましい抗体は、ヒトのVEGF-BおよびマウスのVEGF-Bと結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体である。
【0076】
好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-B10-108(配列番号:1)およびマウスのVEGF-B10-108(配列番号:2)と結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体を提供する。
【0077】
さらに好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-BのRBDおよびマウスのVEGF-BのRBDと結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する抗体を提供する。
【0078】
好ましくは、このような抗体はモノクローナル抗体である。
【0079】
最も好ましくは、抗体は、ヒト疾患治療における使用に適した脱免疫化モノクローナル抗体を含む、ヒト抗体またはヒト化抗体である。
【0080】
1つの態様では、本発明は、VEGF-Bと結合してVEGF-Bが関与するシグナル伝達をVEGFR-1を介してブロックする、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0081】
好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-Bと結合してヒトVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0082】
さらに好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-B10-108(配列番号:1 )と結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0083】
さらにより好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-BのRBDと結合してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0084】
別の好ましい態様では、本発明は、2種もしくはそれ以上の種に由来するVEGF-Bと交差反応してVEGF-B誘導型のシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0085】
好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-BおよびマウスのVEGF-Bと結合してVEGF-Bシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0086】
さらに好ましい態様では、本発明は、ヒトのVEGF-B10-108(配列番号:1)と結合し、およびマウスのVEGF-B10-108(配列番号:2)とも結合してVEGF-Bシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0087】
特に好ましい態様では、本発明は、hVEGF-BのRBDと結合し、およびmVEGF-BのRBDとも結合してVEGF-Bシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である抗体を提供する。
【0088】
本発明は、VEGF-Bとの結合をめぐって、本発明の抗体、および特に好ましい態様では、2005年7月27日にATCCにアクセッション番号____として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体2H10と競合する抗VEGF-B抗体、ならびに同競合抗体の抗原結合断片、および競合抗体のヒトもしくはヒト化型、またはこれらの抗原結合断片も想定している。
【0089】
さらに好ましい態様では、競合抗体は、モノクローナル抗体2H10のCDRと同じCDRを有する。VEGF-Bとの結合をめぐってモノクローナル抗体2H10と競合する抗体の例は、1C6および2F5を含む。
【0090】
「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」についての言及は、以下を含むがこれらに限定されない、全てのさまざまな型の抗体に対する言及を含む:例えばモノクローナル抗体を含む完全抗体(例えば完全なFc領域を有する抗体);例えばFv、Fab、Fab'、およびF(ab')2の断片を含む抗体の抗原結合断片;ヒト化抗体;ヒト抗体(例えば、トランスジェニック動物で、またはファージディスプレイで産生される抗体);ならびに遺伝子工学的手法で産生される免疫グロブリン由来のポリペプチド。
【0091】
特に明記しない限り、本明細書で用いる「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」という用語は、完全抗体と、この抗原結合断片の両方を含む。
【0092】
特に明記した部分を除いて、本発明の抗体に関する特異性とは、抗体が、無関係のタンパク質と強く結合することなく、対象となる標的抗原のみと実質的に結合することを意味すると意図される。しかしながら、2種類またはそれ以上の関連タンパク質と結合するような抗体を設計すること、または選択することは可能である。関連タンパク質は、さまざまなスプライスバリアント、もしくは同タンパク質の断片、または異種に由来する相同タンパク質を含む。このような抗体でも、このようなタンパク質に対する特異性を有すると見なされ、本発明に含まれる。この文脈における「実質的に」という表現は、基礎レベルすなわち非特異的レベル以上において、非標的抗原に対する検出可能な結合がないことを意味する。
【0093】
VEGF-Bと結合する抗体は、抗VEGF-B抗体と呼ばれる。
【0094】
本発明の抗体は、周知の手順で作製することができる。これについては例えば、Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Kennet et al. (eds.), Plenum Press, New York (1980);およびAntibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane (eds.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, (1988)を参照されたい。
【0095】
本発明の抗体を産生させる1つの方法は、マウスまたはトランスジェニックマウスなどの非ヒト動物をVEGF-Bポリペプチド、もしくは例えばRBDを含むペプチドなどの、この免疫原性部分で免疫化することで、VEGF-Bポリペプチドもしくは免疫原性部分に対する抗体を動物で産生させる段階を含む。アジュバント、または抗体応答が望ましい抗原および他の成分を含むコンジュゲート形成抗原の投与などの、特定の免疫原の抗原性を高めるさまざまな手段は当業者に周知であり、かつ利用可能である。接種は典型的には、初回接種と、これに続く一連の追加免疫を含む。動物から血液を採取して、抗体の力価に関して血清を調べることができる。力価がプラトーに達するまで動物を追加免役することができる。コンジュゲートは、組換え細胞を培養して、タンパク質融合体として作製することができる。ミョウバンなどの凝集剤も、免疫応答を高めるための使用に適している。
【0096】
ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方を、この方法で作製することができる。両タイプの抗体を得る方法は当技術分野で周知である。ポリクローナル抗体は、それほど好ましくないが、適切な実験動物に、有効量のVEGF-Bポリペプチド、またはこの免疫原性部分を注射し、動物から血清を回収し、およびVEGF-Bに特異的な抗体を、任意の既知の免疫吸着法で単離することで比較的容易に作製できる。この手法で産生される抗体は一般に、産物が不均一である可能性があるために、それほど望ましくはない。
【0097】
大量に、かつ均一な生成物を産生する能力があるため、モノクローナル抗体の使用が特に好ましい。モノクローナル抗体は従来の手順で作製することができる。
【0098】
本明細書で用いる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、このような集団を含む個々の抗体は、天然の変異がわずかに存在する可能性を除けば同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、1つの抗原部位に対する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対するさまざまな抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、個々のモノクローナル抗体は、抗原上の1つの決定基に対する。「モノクローナル」という修飾句は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の性質を意味し、および任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature 256:495 (1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法で作製可能なほか、組換えDNA法(例えば米国特許第4,816,567号を参照)で作製することができる。「モノクローナル抗体」は、ファージ抗体ライブラリーから、例えばClackson et al., Nature 352:624-628, 1991、およびMarks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597, 1991に記載された手法で単離することもできる。
【0099】
本発明は、マウスまたはトランスジェニックマウスなどの非ヒト動物を、例えばヒトのVEGF-B167、もしくは例えばVEGF-B10-108(配列番号:1)および(配列番号:2)などの、RBDを含むペプチドなどの、この免疫原性部分などのVEGF-Bポリペプチドで免疫化する段階;免疫化した個体から脾臓細胞を回収する段階;回収した脾臓細胞をミエローマ細胞株と融合させてハイブリドーマ細胞を得る段階;ならびにVEGF-Bポリペプチドと結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定する段階を含む、ハイブリドーマ細胞株の作製法を想定している。
【0100】
このようなハイブリドーマ細胞株、および同細胞株が産生する抗VEGF-Bモノクローナル抗体は本発明に含まれる。ハイブリドーマ細胞株が分泌するモノクローナル抗体は従来の手法で精製される。ハイブリドーマ、またはハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体をさらにスクリーニングすることで、VEGF-B-シグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する能力などの、特に望ましい特性を有するモノクローナル抗体を同定できる。
【0101】
本発明の抗体の産生の初期段階で動物を免疫化するのに使用可能なVEGF-Bポリペプチド、またはこの免疫原性部分は、任意の哺乳動物供給源に由来する可能性がある。好ましくは、VEGF-Bポリペプチド、またはこの免疫原性部分はヒトのVEGF-Bであり、かつRBD領域を含む。
【0102】
本発明の抗体の抗原結合断片は、従来の手法で作製することができる。このような断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')2、および1本鎖Fv断片(sFvまたはscFvと呼ばれる)を含むFv断片を含むがこれらに限定されない。ジスルフィド安定化(disulphide stabilized)Fv断片(dsFv)、1本鎖可変領域ドメイン(Abs)分子、ミニボディ、およびダイアボディなどの、遺伝子工学的手法で作製される抗体断片および誘導体も本発明による使用に想定される。
【0103】
VEGF-Bに対するモノクローナル抗体のこのような断片および誘導体は、本明細書に記載されたアッセイ法を含む既知の手法で作製し、所望の特性に関してスクリーニングすることができる。本明細書に記載されたアッセイ法は、VEGF-Bと結合する本発明の抗体の断片および誘導体を同定するための手段、ならびにVEGF-Bによるシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する活性も保持する断片および誘導体を同定する手段となる。手法の一部は、対象mAbのポリペプチド鎖(またはこの部分)をコードするDNAを単離する段階、およびDNAを組換えDNA技術で操作する段階を含む。DNAは別の対象DNAと融合させることができるほか、(例えば変異誘発もしくは他の従来の手法で)、例えば1つもしくは複数のアミノ酸残基を付加するように、欠失するように、または置換するように変化させることができる。
【0104】
抗体ポリペプチド(例えば、重鎖もしくは軽鎖、可変領域のみ、または完全長)をコードするDNAを、VEGF-Bで免疫化されたマウスのB細胞から単離することができる。このようなDNAは、従来の手順で単離することができる。
【0105】
本発明は、本発明の抗体、抗原結合断片、またはヒト化型の抗体に対応するアミノ酸配列もしくはヌクレオチド配列の任意のわずかな修飾を想定している。特に本発明は、本発明の抗体または抗原結合断片をコードする核酸の配列保存的バリアントを想定している。ポリヌクレオチド配列の「配列保存的バリアント」は、任意のコドン中の1つもしくは複数のヌクレオチドの変化が、当該位置にコードされたアミノ酸の変化を生じないバリアントである(図6)。本発明の抗体の機能保存的バリアントも本発明で想定されている。「機能保存的バリアント」は、タンパク質の1つもしくは複数のアミノ酸残基が、類似の特性を有するアミノ酸によるアミノ酸置換を決して制限はされないが含むタンパク質の全体の立体構造および機能を変化させることなく変えられたバリアントである。類似の特性を有するアミノ酸は当技術分野で周知である。例えば、交換可能な極性/親水性アミノ酸はアスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、スレオニン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸を含み;交換可能な非極性/疎水性アミノ酸はグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンを含み;交換可能な酸性アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸を含み、ならびに交換可能な塩基性アミノ酸はヒスチジン、リシン、およびアルギニンを含む。
【0106】
本発明は、本明細書に記載された核酸、ならびに、このような核酸とハイブリダイズする核酸にコードされた抗VEGF-B抗体、およびこの断片を含む。好ましくは核酸は、低ストリンジェンシー条件で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件で、および最も好ましくは高ストリンジェンシー条件でハイブリダイズし、ならびに好ましくはVEGF-B結合活性を示す。核酸分子は、1本鎖型の核酸分子が他の核酸分子と、温度および溶液のイオン強度の適切な条件でアニーリング可能な場合に、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAなどの別の核酸分子と「ハイブリダイズ可能」である(前掲のSambrook, et al.を参照)。温度およびイオン強度の条件がハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。典型的な低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、55℃、5×SSC、0.1% SDS、0.25%ミルク、およびホルムアミドなしの条件;または30%ホルムアミド、5×SSC、および0.5% SDSの場合がある。典型的な中程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションが40%ホルムアミド、5×SSCまたは6×SSCで行われる点を除いて低ストリンジェンシー条件と同等である。高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション条件が50%ホルムアミド、5×SSCまたは6×SSC、および任意で、より高温(例えば57〜68℃)で行われる点を除いて低ストリンジェンシー条件と同等である。一般にSSCは、0.15 MのNaClと0.015 Mのクエン酸ナトリウムである。ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的な配列を含むが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに依存して、塩基間のミスマッチが許容されることが求められる。核酸のハイブリダイズに適切なストリンジェンシーは、当技術分野で周知の諸変数である、核酸の長さおよび相補性の程度に依存する。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高くなるほど、核酸がハイブリダイズ可能なストリンジェンシーは高くなる。長さが100ヌクレオチドを上回るハイブリッドについては、溶解温度を計算する方程式が導かれている(前掲のSambrook, et al.を参照)。より短い核酸、すなわちオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションに関しては、ミスマッチの位置が、より重要となり、オリゴヌクレオチド長さが、その特異性を決定する(前掲のSambrook, et al.を参照)。
【0107】
BLASTアルゴリズム(同アルゴリズムのパラメータは、個々の標準配列の全長に対して、個々の配列間で最大のマッチをもたらすように選択)による比較時に、本明細書に記載されたヌクレオチドおよびアミノ酸の配列と少なくとも約70%が同一な、好ましくは少なくとも約80%が同一な、より好ましくは少なくとも約90%が同一な、および最も好ましくは少なくとも約95%が同一なヌクレオチド配列を含む核酸、およびアミノ酸の配列を含むポリペプチドも本発明に含まれる。BLASTアルゴリズム(アルゴリズムのパラメータは、個々の参照配列の全長に対して、個々の配列間で最大のマッチをもたらすように選択)による比較時に、本明細書に記載されたアミノ酸配列に対する類似性が少なくとも約70%、好ましくは類似性が少なくとも約80%、より好ましくは類似性が少なくとも約90%、および最も好ましくは類似性が少なくとも約95%(例えば95%、96%、97%、98%、99%、100%)であるアミノ酸配列を含むポリペプチドも本発明に含まれる。
【0108】
配列同一性とは、ヌクレオチドまたはアミノ酸の比較対象の2つの配列間における正確なマッチを意味する。配列類似性とは、比較対象の2つのポリペプチドのアミノ酸間の正確なマッチと、非同一で生化学的に関連するアミノ酸間のマッチの両方を意味する。類似の特性を有し、かつ互換的な可能性のある生化学的に関連したアミノ酸については前述した。
【0109】
BLASTアルゴリズムに関する説明は、参照により本明細書に組み入れられる以下の参考文献に記載されている:BLAST ALGORITHMS: Altschul, S.F., et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990;およびAltschul, S.F., et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1997;Altschul, S.F., J. Mol. Biol. 219:555-565, 1991。
【0110】
本発明の抗VEGF-B抗体分子は、組換え的に(例えば大腸菌の発現系で)産生させることも可能である。当技術分野で既知の組換え型抗体を産生させる方法はいくつかある。抗体の組換え的な産生法の1例は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,816,567号に記載されている。形質転換は、ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する任意の既知の方法で実施できる。哺乳動物細胞への異種ポリヌクレオチドの導入法は当技術分野で周知であり、デキストランによるトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、ポリブレンによるトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへの封入、微粒子銃による打ち込み、および核内へのDNAの直接的なマイクロインジェクションを含む。加えて核酸分子は、ウイルスベクターを使用して哺乳動物細胞内に導入することができる。細胞の形質転換法は当技術分野で周知である。これについては例えば、米国特許第4,399,216号;第4,912,040号;第4,740,461号;および第4,959,455号を参照されたい。
【0111】
1つの局面では、本発明は、本発明の抗体をコードする核酸配列を適切なベクター中にクローニングする段階、宿主細胞株をベクターで形質転換する段階、および形質転換された宿主細胞株を、本発明の抗体の発現に適した条件で培養する段階を含む、本発明の抗体の産生法を提供する。
【0112】
宿主細胞株におけるクローニングおよび発現に利用可能なベクターは当技術分野で周知であり、哺乳動物細胞株におけるクローニングおよび発現用のベクター、細菌細胞株におけるクローニングおよび発現用のベクター、ならびに昆虫細胞株におけるクローニングおよび発現用のベクターを含むがこれらに限定されない。抗体は、標準的なタンパク質精製法で回収することができる。
【0113】
別の局面では、本発明は、配列番号:5〜10もしくは配列番号:13〜18、または配列番号:21〜26もしくは配列番号:45〜50に示された配列を有するCDRを含む抗体、または配列番号:3および4もしくは配列番号:11および12、または配列番号:19および20もしくは配列番号:43および44、または配列番号:29および30に示された可変軽鎖および可変重鎖の配列を含む抗体をコードする核酸配列を提供する。
【0114】
他の局面では、本発明は、配列番号:5〜10もしくは配列番号:13〜18、または配列番号:21〜26もしくは配列番号:45〜50に示された配列を有するCDRを含む抗体をコードする核酸配列を含むベクターを提供する。
【0115】
さらに別の局面では、本発明は、配列番号:3および4もしくは配列番号:11および12、または配列番号:19および20もしくは配列番号:43および44、または配列番号:29および30に示された可変軽鎖配列および可変重鎖配列を含む抗体をコードする核酸配列を含むベクターを提供する。
【0116】
好ましい局面では、本発明は、配列番号:29および30に示された可変軽鎖配列および可変重鎖配列を含む抗体をコードする核酸配列を含むベクターを提供する。
【0117】
さらに別の局面では、本発明は、本発明のベクターで形質転換された宿主細胞株を提供する。
【0118】
発現用の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は当技術分野で周知あり、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株を含む。これらは特に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えばHep G2)、A549細胞、3T3細胞、および他のいくつかの細胞株を含む。哺乳動物の宿主細胞は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、およびハムスターの細胞を含む。特に好ましい細胞株は、発現レベルが高い細胞株を見極めることで選択される。使用可能な他の細胞株は、Sf9細胞などの昆虫細胞株、両生類細胞、細菌細胞、植物細胞、および真菌細胞である。重鎖、またはこの抗原結合部分、軽鎖、および/またはこの抗原結合部分をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入する際、抗体は、宿主細胞における抗体の発現、または、より好ましくは、宿主細胞を成長させる培地中への抗体の分泌を可能とするのに十分な期間、宿主細胞を培養することで産生される。
【0119】
抗体は培地から、標準的なタンパク質精製法で回収することができる。さらに、産生用細胞株からの本発明の抗体(またはこれに由来する他の部分)の発現を、いくつかの既知の手法で高めることができる。例えば、グルタミンシンターゼ遺伝子発現系(GS系)は、特定の条件で発現を高める一般的な方法である。GS系は、その全体または一部が、欧州特許第0 216 846号、第0 256 055号、および第0 323 997号、ならびに欧州特許出願第89303964.4号と関連して論じられている。
【0120】
さまざまな細胞株によって、またはトランスジェニック動物で発現される抗体が、それぞれ異なるグリコシル化を受ける可能性は高い。しかしながら、本明細書で提供される核酸分子にコードされた全ての抗体、または本明細書で提供されるアミノ酸配列を含む抗体は、抗体のグリコシル化にかかわらず本発明の一部である。
【0121】
ファージディスプレイは、抗体の誘導体を作製可能な既知の手法の別の例である。1つの方法では、対象抗体の成分であるポリペプチドが任意の適切な組換え発現系で発現され、発現されたポリペプチドを集合させることで抗体分子を作ることができる。
【0122】
1本鎖抗体は、重鎖と軽鎖の可変領域(Fv領域)断片を、アミノ酸のブリッジ(短いペプチドリンカー)を介して連結することで1本のポリペプチド鎖を得ることで形成可能である。このような1本鎖Fv(scFv)は、2つの可変領域のポリペプチド(VLおよびVH)をコードするDNA間のペプチドリンカーをコードするDNAを融合させることで作製されている。結果として得られる抗体断片は、2つの可変ドメイン間のフレキシブルリンカーの長さに依存して、2量体または3量体を形成する可能性がある(Kortt et al., Protein Engineering 10: 423, 1997)。1本鎖抗体の産生のために開発された手法は、米国特許第4,946,778号;Bird, Science 242:423, 1988、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879, 1988、およびWard et al., Nature 334:544, 1989に記載された手法を含む。本明細書に記載された抗体に由来する1本鎖抗体は本発明に含まれる。
【0123】
1つの態様では、本発明は、2種類もしくはそれ以上の動物種に由来するVEGF-Bと結合してVEGF-Bによるシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害する本発明の抗体断片、またはキメラ抗体、組換え型抗体もしくは合成抗体を提供する。
【0124】
多様なサブクラスまたはアイソタイプの抗体を対象抗体から誘導する手法、すなわちサブクラス切り替え(subclass switching)が知られている。したがって、IgG1またはIgG4のモノクローナル抗体は例えばIgMモノクローナル抗体に由来する場合がある。これは逆も成り立つ。このような手法で、任意の抗体(元の抗体)の抗原結合特性を有するが、元の抗体の抗原結合特性とは異なる抗体のアイソタイプまたはサブクラスと関連する生物学的特性も示す新たな抗体の作製が可能となる。組換えDNA手法を利用することができる。このような手順では、特定の抗体ポリペプチドをコードするクローン化されたDNA、例えば所望のアイソタイプの抗体の定常領域をコードするDNAを利用することができる。
【0125】
上述のモノクローナル産生プロセスを動物、例えばマウスで使用してモノクローナル抗体を作製することができる。このような動物に由来する従来の抗体、例えばマウスの抗体は、免疫応答を引き起こすことがあるために、ヒトへの投与には一般に適していないことが知られている。したがって、このような抗体は、ヒトへの投与に適した抗体とするために修飾する必要がある場合がある。キメラ抗体および/またはヒト化抗体を作製するプロセスは当技術分野で周知であり、以下に詳述する。
【0126】
本明細書に記載されたモノクローナル抗体は具体的には、重鎖および/または軽鎖の可変ドメインが非ヒト種(例えばマウス)に由来する抗体中の対応する配列と同一か、または相同である一方で、残りの鎖が、ヒトに由来する抗体中の対応する配列と同一か、または相同である「キメラ」抗体を含み、ならびに所望の生物学的活性を示す限り、このような抗体の断片を含む(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855, 1984)。
【0127】
「ヒト化」型の非ヒト(例えばマウス)抗体は、非ヒトの免疫グロブリンに由来する最小の配列を含むキメラ抗体である。多くの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)が、所望の特性、例えば特異性および親和性を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種に由来する、対応するCDR(ドナー抗体)と置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域の残基が、対応する非ヒト残基と置換される。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体中またはドナー抗体中には存在しない残基を含む場合がある。このような修飾は、抗体の性能をさらに高めるために加えられる。一般にヒト化抗体は、全てまたは実質的に全ての相補性決定領域が非ヒト免疫グロブリンの相補性決定領域に対応し、全てまたは実質的に全てのフレームワーク領域の残基がヒト免疫グロブリン配列の残基である、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むと考えられる。ヒト化抗体はまた、任意で、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含むと考えられる。詳細については、Jones et al., Nature 321:522-525, 1986;Reichmann et al., Nature 332:323-329, 1988;Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992;Liu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439, 1987;Larrick et al., Bio/Technology 7:934, 1989;およびWinter and Harris, TIPS 14:139, 1993を参照されたい。
【0128】
任意の抗体の相補性決定領域(CDR)は、例えばKabatら(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication No. 91-3242, 1991)に記載された系を使用して容易に同定可能である。
【0129】
例えば、マウスのモノクローナル抗体1C6、2F5、2H10、および4E12をヒト化して、標的宿主における抗体の免疫原性を低下させることができる。マウスのモノクローナル抗体1C6、2F5、2H10、および4E12は、VEGF-Bに対する拮抗作用を有し、およびVEGFR-1を介してシグナル伝達を阻害する。しかし他の宿主、特にヒトにおけるmAb 1C6、2F5、2H10、および4E12には潜在的に免疫原性があるため、mAb 1C6、2F5、2H10、および4E12を、このような宿主において治療薬として使用することは不適切である。
【0130】
特定の態様では、本発明の抗体は、その軽鎖の可変領域中に、mAb 2H10の軽鎖中に存在する少なくとも1つのCDRを含む。mAb 2H10のCDRは図1および配列番号:5〜10に示されている。したがって、本発明で想定される抗体は、mAb 2H10の軽鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。さらに本発明で想定される抗体は、mAb 2H10の重鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。好ましい態様では、本発明の抗体は、mAb 2H10の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む。
【0131】
特定の態様では、本発明の抗体は、その軽鎖の可変領域中に、mAb 4E12の軽鎖中に存在する少なくとも1つのCDRを含む。mAb 4E12のCDRは、図2および配列番号:13〜18に示されている。したがって、本発明で想定される抗体は、mAb 4E12の軽鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。さらに本発明で想定される抗体は、mAb 4E12の重鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。好ましい態様では、本発明の抗体は、mAb 4E12の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む。
【0132】
特定の態様では、本発明の抗体は、その軽鎖の可変領域中に、mAb 2F5の軽鎖中に存在する少なくとも1つのCDRを含む。mAb 2F5のCDRは、図3および配列番号:21〜26に示されている。したがって、本発明で想定される抗体は、mAb 2F5の軽鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。さらに本発明で想定される抗体は、mAb 2F5の重鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。好ましい態様では、本発明の抗体は、mAb 2F5の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む。
【0133】
特定の態様では、本発明の抗体は、その軽鎖の可変領域中に、mAb 1C6の軽鎖中に存在する少なくとも1つのCDRを含む。mAb 2H10のCDRは、図7および配列番号:45〜50に示されている。したがって、本発明で想定される抗体は、mAb 1C6の軽鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。さらに本発明で想定される抗体は、mAb 1C6の重鎖可変領域に由来する1つから3つ全てのCDR配列を含む抗体である。好ましい態様では、本発明の抗体は、mAb 1C6の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む。
【0134】
非ヒト動物でヒト抗体を産生させる手順が開発されており、当業者に周知である。例えば、1つもしくは複数のヒト免疫グロブリン鎖をコードする遺伝材料が導入されたトランスジェニックマウスを使用して、本発明の抗体を産生させることができる。動物で産生された抗体は、動物に導入されたヒトの遺伝的材料にコードされたヒト免疫グロブリンのポリペプチド鎖を含む。このようなトランスジェニック動物の作製および使用の例は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,814,318号、第5,569,825号、および第5,545,806号に記載されている。
【0135】
ヒト抗体を産生させる別の方法がファージディスプレイである。ヒト抗体を作製するためのファージディスプレイ法は当業者に周知であり、Cambridge Antibody TechnologyおよびMorphoSysなどの企業に使用されており、国際公開公報第92/01047号、国際公開公報第92/20791号、国際公開公報第93/06213号、および国際公開公報第93/11236号に記載されている方法を含む。
【0136】
本発明の抗体は、VEGF-Bが関与するシグナル伝達によって生じる生物学的活性を阻害するためにインビトロまたはインビボで使用することができる。本発明の抗体の他の使用は、VEGF-Bポリペプチドの存在を検出する(インビトロまたはインビボのいずれかにおける)アッセイ法、およびVEGF-Bポリペプチドを精製する免疫イムノアフィニティクロマトグラフィーである。
【0137】
したがって1つの態様では、本発明の抗体を、VEGF-B受容体を介するVEGF-Bが関与するシグナル伝達に(直接的または間接的に)起因するか、または悪化した疾患もしくは状態を治療するために、治療的応用で使用可能である。治療への応用は、VEGF-Bによるシグナル伝達をVEGFR-1を介して阻害するのに有効な量での本発明の抗体の哺乳動物へのインビボ投与を含む。好ましくは、このような抗体は、本発明のヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体である。
【0138】
このような抗体を使用して、癌、特に腫瘍、具体的には充実性腫瘍を含むがこれらに限定されない、VEGF-Bによって誘導される疾患または状態を治療することができる。
【0139】
本発明の抗体は、マウスのモノクローナル抗体1C6、2H10、4E12、および2F5、ならびにmAb 1C6、2F5、2H10、および4E12のヒト化型の抗体である。
【0140】
本発明の抗体は、ヒトのVEGF-Bのアミノ酸残基10〜108位(配列番号:1)、および/またはマウスのVEGF-Bのアミノ酸残基10〜108位(配列番号:2)に対するモノクローナル抗体であり、ならびに2種またはそれ以上の動物種に由来するVEGF-Bに結合するモノクローナル抗体も含むがこれらに限定されない。
【0141】
本発明の特定のモノクローナル抗体は、mAb 1C6、2H10、4E12、および2F5;mAb 1C6、2H10、4E12、および2F5と同じエピトープと結合するmAb;ヒトのVEGF-Bとの結合をめぐってmAb 1C6、2H10、4E12、または2F5と競合するmAb;ヒトのVEGF-B10-108との結合をめぐってmAb 1C6、2H10、4E12、または2F5と競合するmAb;mAb 1C6、2H10、4E12、または2F5の生物学的活性を有するmAb;ならびにVEGF-BもしくはVEGF-B10-108とVEGFR-1の結合を阻害する任意の上記の抗体の抗原結合断片からなる群より選択される。この態様の抗体は、1C6、2H10、4E12、および2F5、ならびに実施例に記載される、これらのヒト化型の抗体を含む。
【0142】
1つの態様では、抗体は、ヒトのVEGF-BまたはVEGF-B10-108に対する、1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるmAbの結合親和性と実質的に等価な、ヒトのVEGF-BまたはVEGF-B10-108に対する結合親和性を有する。mAb 1C6、2H10、4E12、および2F5に由来する、任意のアイソタイプ(IgG4、IgG1を含むがこれらに限定されない)のmAbも本発明に含まれる。任意のこのようなモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も本発明で提供される。
【0143】
抗体の親和性は、実施例のセクションに記載されたバイオセンサーを基礎とした方法で決定できる。好ましい抗体は、表面プラズモン共鳴で決定時に、ヒトのVEGF-Bと1×10-7 Mまたはこれ未満のKD値;好ましくは1×10-8 Mまたはこれ未満のKD値;より好ましくは1×10-9 Mまたはこれ未満のKD値;および最も好ましくは5×10-10 Mまたはこれ未満のKD値で結合する抗体である。1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるmAbの生物学的活性の1例は、VEGF-Bとの結合能力、およびVEGF-Bによるシグナル伝達のVEGFR-1を介した阻害能力である。1つの態様では、本発明のmAbは、1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるmAbの場合と実質的に等価な生物学的活性またはVEGF-Bブロッキング活性を有する。このような活性は任意の適切なアッセイ法で測定可能であり、例えば、本明細書に記載されたVEGFR-1/EpoR/BaF3増殖アッセイ法で測定されるか、またはScotney et al.(前掲)に記載されたアッセイ法などのレポーター遺伝子アッセイ法で測定される。
【0144】
1つのアッセイ法では、Ba/F3細胞を、エリトロポイエチン受容体(EpoR)の細胞内ドメイン、およびVEGFR-1の細胞外ドメインを含むキメラ受容体でトランスフェクトする。改変Ba/F3細胞は、適切な量のVEGF-Bが存在すると、MTS色素減少(dye reduction)アッセイ法によって測定される細胞の増殖が認められる。これは、VEGFR-1/EpoR/BaF3増殖アッセイ法と呼ばれる。VEGF-BとVEGFR-1の結合を阻害する抗VEGF-B抗体は、このアッセイ法で、VEGF-Bが誘導する細胞増殖を阻害する。
【0145】
VEGFR-1を介してVEGF-Bシグナル伝達と拮抗する抗VEGF-B抗体は、前掲のScotney et al.に記載されたアッセイ法などのレポーター遺伝子ベースのアッセイ法で、VEGF-Bが関与するレポーター分子の活性化を阻害する。
【0146】
当業者であれば、本発明の細胞ベースのアッセイ法、例えば上記のアッセイ法、および実施例に記載されたアッセイ法を、VEGF-B/受容体相互作用の調節因子のスクリーニングの基礎として利用可能なことを理解する。このような方法は当業者に周知であるが、この方法の簡単な説明を本明細書では提供する。この方法は、VEGF-B/受容体結合の任意の拮抗作用の非存在下では例えば増殖またはレポータールシフェラーゼ発現のシグナルが検出され得る条件のもと、シグナル産生量のVEGF-Bを、適切に改変された細胞に加える段階を含む。次に同じ実験手順を、1つもしくは複数の試験化合物の存在下で実施し、検出されたシグナルのレベルを、試験化合物の非存在下で検出されたシグナルのレベルと比較する。次に、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、検出されるシグナルのレベルを変化させる試験化合物を、後の試験用に選択する。試験化合物は、抗体の可変ドメインのファージディスプレイライブラリーなどを含む場合があるほか、VEGF-Bに対するモノクローナル抗体のパネルをアッセイ全体でスクリーニングすることができる。
【0147】
VEGF-Bが関連する疾患および障害の治療は、VEGF-Bアンタゴニスト、好ましくは本発明の抗体、ならびに1種類もしくは複数の薬学的に許容可能な担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物の投与によって実施することができる。
【0148】
薬学的に許容可能な担体および/または希釈剤は、任意の、およびあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、緩衝剤、キレーティング剤、および吸収遅延剤などを含む。これらの溶媒および薬剤の使用は当技術分野で周知である。任意の従来の溶媒または薬剤が活性型と適合しない場合を除いて、これらを治療的組成物に使用することが想定される。補助的な活性成分を組成物に含めることも可能である。
【0149】
注射用に適した薬学的剤形は、無菌性の水溶液(水溶性の場合)、および無菌性の注射液の即時調製用の無菌性粉末を含む。これは製造および保存の条件で安定であり、ならびに細菌および真菌などの微生物の混入作用を防がなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、ならびに植物油を含む、溶媒または希釈溶媒の場合がある。適切な流動性は、例えば界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の予防は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖類または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の長期の吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物を使用することでもたらされ得る。組成物には、緩衝剤およびキレーティング剤を含めてもよい。
【0150】
無菌性の注射可能な溶液は、適切な溶媒中に必要量の活性型、および必要であれば任意で他の活性成分を組み入れた後に、濾過滅菌または他の適切な滅菌手段を行うことで調製される。無菌性の注射可能な溶液の調製用の無菌性の粉末の場合は、適切な調製法は、活性型の粉末に加えて任意の追加的な所望の内容物が得られる真空乾燥法および凍結乾燥法を含む。
【0151】
このような治療的に有用な組成物中における活性型の量は、適切な投与量が得られる量である。
【0152】
本発明の組成物は、腫瘍、特に充実性腫瘍、および他の任意のVEGF-Bが関与する疾患または状態を含むがこれらに限定されない、VEGF-Bが関与する状態の修飾に有用である。前癌性状態、および例えば骨髄腫およびリンパ腫などの散在性腫瘍を治療することもできる。
【0153】
本発明のヒト抗体およびヒト化抗体、特にmAb 1C6、2H10、4E12、および2F5のヒト化型は、このような状態の治療に有用である。VEGF-BとVEGF-B受容体の相互作用に起因する任意の有害な状態を、1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるmAbのヒト化型などの本発明の抗体を投与することで治療することができる。
【0154】
したがって本発明の別の局面は、治療的有効量のVEGF-Bアンタゴニスト、例えば1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるmAbのヒト化型などの抗体を必要とする被験体に投与する段階を含む、癌を始めとするが癌に限らないVEGF-Bが関与する状態を、一定の時間、およびVEGF-B受容体を介するVEGF-Bシグナル伝達を阻害するのに十分な条件で治療または予防する方法を想定している。
【0155】
本発明の方法および組成物を使用する治療に想定される腫瘍のタイプは、乳房腫瘍、結腸直腸腫瘍、腺癌、中皮腫、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、生殖細胞腫瘍、肝癌/胆管の癌、神経内分泌腫瘍、下垂体新生物、小円形細胞腫瘍、扁平上皮癌、黒色腫、非定型的線維黄色腫、精上皮腫、非精上皮腫(nonseminoma)、間質性ライディヒ細胞腫瘍、セルトリ細胞腫瘍、皮膚腫瘍、腎臓腫瘍、精巣腫瘍、脳腫瘍、卵巣腫瘍、胃腫瘍、口腔腫瘍、膀胱腫瘍、骨腫瘍、頚部腫瘍(cervical tumor)、食道腫瘍、喉頭腫瘍、肝臓腫瘍、肺腫瘍、膣腫瘍、およびウィルムス腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0156】
投与方法を調整して、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供することができる。例えば単回ボーラスでの投与が可能であり、複数回に分割した用量を一定期間、投与することが可能であるほか、治療状況の要件に応じて、用量を比例的に減じたり増やしたりすることができる。投与を容易して投与量を均一にするために、非経口的組成物を単位投与剤形に製剤化することが特に有効である。
【0157】
当技術分野の医師または獣医は、必要な有効量の薬学的組成物を容易に決定し、かつ処方することができる。例えば医師または獣医は、所望の治療効果を達成するために、薬学的組成物に使用される本発明の抗体などのVEGF-Bアンタゴニストの用量を、必要レベルより低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投与量を増してゆくことができる。一般に、本発明の組成物の適切な日用量は、治療効果を生じる最低有効用量の化合物量とすることができる。このような有効用量は一般に、上述の諸因子に依存する。投与は好ましくは標的部位(例えば腫瘍)の近傍への注射が好ましい。望ましいならば、薬学的組成物の有効日用量を、2回、3回、4回、5回、6回、またはこれ以上の回数に分割して、1日を通して適切な間隔をおいて投与することができる。
【0158】
治療への応用に関しては、本発明の抗VEGF-B抗体などのVEGF-Bアンタゴニストを、ヒトへのボーラスとしての静脈内投与、または筋肉内経路、腹腔内経路、脳脊髄液内経路、皮下経路、関節内経路、滑液内経路、髄腔内経路、経口経路、局所経路、もしくは吸入経路による一定期間の持続注入による投与が可能な剤形を含む、上記のような薬学的に許容可能な投与剤形で哺乳動物、好ましくはヒトに投与する。抗VEGF-B抗体などのVEGF-Bアンタゴニストは、局所的ならびに全身的な治療効果を発揮させるために、腫瘍内経路、腫瘍周囲経路、病巣内経路、または病巣周囲経路によっても適切に投与される。腹腔内経路は、例えば卵巣腫瘍の治療に特に有用であると考えられている。
【0159】
VEGF-Bが関与する疾患または状態の予防または治療に関しては、抗VEGF-B抗体などのVEGF-Bアンタゴニストの適切な投与量は、上述のように治療対象の疾患の種類、疾患の重症度および経過、アンタゴニスト投与の目的(予防か治療か)、治療歴、患者の病歴および対アンタゴニスト反応、ならびに術者の判断に依存する。アンタゴニストは、1回または一連の投与で患者に適切に投与可能である。
【0160】
疾患の型および重症度に依存して、約1μg/kg〜約50 mg/kg(例えば0.1〜20 mg/kg)の抗体が、患者への投与、例えば1回もしくは複数回の個別の投与による、または持続注入による初期候補投与量となる。典型的な日投与量または週投与量は、上述の諸因子に依存して、約1μg/kg〜約20 mg/kgもしくはこれ以上の場合がある。数日間またはこれ以上の期間における反復投与に関しては、投与を、疾患の症状に所望の抑制が見られるまで繰り返す。この治療の進行は、例えばX線撮影による腫瘍イメージングを含む、従来の手法およびアッセイ法で容易にモニタリングされる。
【0161】
好ましくは、被験体はヒトである。しかしながら、家畜動物ならびにペット動物に対して獣医学的応用も想定される。このような場合は、哺乳動物による抗体に対する免疫原性反応を回避するように設計された適切な抗体を作製する必要があるだろう。
【0162】
本発明は、治療的有効量のVEGF-Bアンタゴニストを一定の期間、疾患または状態の所望の抑制を十分生じる条件で被験体に投与する段階を含む、ヒト被験者におけるVEGF-Bが関与する疾患または状態の治療方法を提供する。
【0163】
本発明はさらに、被験体における腫瘍組織および前癌性組織を含む癌の治療用または予防用の医薬品の製造におけるVEGF-Bアンタゴニストの使用を想定している。
【0164】
好ましくは、上記の方法で使用されるVEGF-Bアンタゴニストは抗体である。好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
【0165】
上記の方法で使用される好ましい抗体は、ヒトのVEGF-Bと1×10-7 Mまたはこれ未満のKD値;好ましくは1×10-8 Mまたはこれ未満のKD値;さらにより好ましくは1×10-9 Mまたはこれ未満のKD値;および最も好ましくは5×10-9 Mまたはこれ未満のKD値で結合する抗体である。
【0166】
したがって特定の態様では、本発明は、1C6、2H10、4E12、および2F5から選択される、有効量のヒト化型のmAb、または同等のVEGF-Bブロッキング活性を有する抗体を一定の期間、癌の成長または拡散を十分に低下させる条件で被験体に投与する段階を含む、ヒト被験者におけるVEGF-Bが関与する癌の作用を改善する方法を提供する。
【0167】
本発明はさらに、被験体における癌の治療用もしくは予防用の医薬品の製造における1C6、2H10、4E12、および2F5から選択されるヒト化型のmAb、または同等のVEGF-Bブロッキング活性を有する抗体の使用を想定している。
【0168】
本発明をさらに、以下の非制限的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0169】
実施例1
VEGFタンパク質の作製
一般的事項
ヒトおよびマウスのVEGF-Bタンパク質およびVEGF-Aタンパク質を、ヒトのVEGF-B B10-108に関して過去に報告された一般的な方法(Scotney et al., 2002, supra, Scrofani et al., 2000, Protein Science, 9:2018-2025)に従って作製した。この方法を、マウスのVEGF-B B10-108の作製に関して以下に詳しく説明する。この方法で作製されるタンパク質は当初、6×Hisタグと実際のVEGF-Bのアミノ酸配列の開始点の間に6×HisタグおよびGenenase I用の切断部位を含む、追加的な16アミノ酸をN末端に有する。望ましいならば、この追加のアミノ酸は、以下に概説する一般的な手順で、酵素による切断によって除去される。タンパク質上のタグおよび切断部位の有無を以下に示す:6×His.hVEGF-B10-108は、N末端のタグおよび切断部位を含む成熟型のヒトVEGF-Bのアミノ酸10〜108位を含むタンパク質を意味する。hVEGF-B10-108は、N末端のタグおよび切断部位を有しない同じタンパク質を意味する。他のタンパク質は同じ方法で表される。
【0170】
マウスの6×His.VEGF-Bの作製
一般には前掲のScotneyらの手順に従って、6×HisタグおよびGenenase I切断部位を含むマウスのVEGF-B10-108(6×His.mVEGF-B10-108)を6×His.mVEGF-B10-108pET-15b(Novagen, USAのカタログ番号70755-3のpET-15bベクター)による大腸菌BL21-Codon-Plus-[DE3]-RP株(Stratagene, USA)への形質転換後の細菌発酵によって、組換えタンパク質として産生させた。発現レベルを決定するために、IPTGによる誘導前と誘導の1時間後、2時間後、および3時後に試料を回収し、SDS-PAGEと、抗6×His mAb(マウスのmAb、QIAGEN, USA)を使用するウェスタンブロットで評価した。HRP結合二次試薬(ヒツジ抗マウス抗体、Chemicon, USA)と発光基質(PerkinElmer, USA)を使用して、結合状態のmAbをオートラジオグラフィーで可視化した。
【0171】
細胞を溶解後に、6×His.mVEGF-B10-108を金属アフィニティクロマトグラフィー(ニッケルアフィニティ、Amersham)で、変性および還元の条件で大腸菌封入体から精製した。カラムから6 M尿素、10 mM Tris、100 mMリン酸[pHは4.5]を使用してフラクションを溶出し、SDS-PAGEで解析した。溶出されたフラクションを対象に、抗6×His mAbを使用してウェスタンブロット解析も実施した。結合状態のmAbを、HRP結合二次試薬と発光基質(PerkinElmer, USA)を使用したオートラジオグラフィーで可視化した。
【0172】
ニッケルアフィニティから精製された6×His.mVEGF-Bを、6 M塩酸グアニジウム(gd)、100 mM Tris (pH 8.5)で100μg/mlに希釈し、DTTを20 mMとなるように添加して還元し、1 M gd、100 mM Tris (pH 8.5)、5 mMシステイン、および1 mM シスチンで2日間の透析を行った。再フォールディングした6×His.mVEGF-Bを次に、0.1 M酢酸で透析を行った後に、逆相HPLC(RP-HPLC、Zorbax 300 SB-C8カラム、250x21 mm i.d.)による精製を行った。主に二量体材料を含むフラクション(非還元SDS-PAGEによって評価)をアッセイ用にプールした。ウェスタンブロット解析(還元条件下でのSDS-PAGE)を、RP-HPLCフラクションを対象に抗6×His mAbを使用して実施した。結合状態のmAbをオートラジオグラフィーで、HRPO結合二次試薬と発光基質を使用して可視化した。VEGF-Bが正しく再フォールディングすると、タンパク質のN末端が隠されて、抗6×His mAbが同タンパク質に結合しなくなることに注目されたい。
【0173】
精製済みの、再フォールディングした6×His.mVEGF-B10-108の活性の解析を、本明細書に記載されたVEGFR-1/EpoR/BaF3細胞増殖アッセイ法で行ったところ、組換え型の6×His.mVEGF-B10-108、ならびに正の対照タンパク質hVEGF-A11-109、hVEGF-B10-108、および6×His.hVEGF-B10-108に対してVEGFR-1/EpoR/BaF3細胞が用量依存的に増殖することがわかった。
【0174】
酵素的切断の手順
N末端の6×Hisタグが、以下に示すように酵素的切断によってヒトVEGF-Aおよび/またはVEGF-Bの調製物から除去された場所に注目されたい。簡単に説明すると、5 mgの凍結乾燥状態のタグ付きタンパク質を、わずかな容積の1 mM酢酸(500μl)に再懸濁し、100×容量(50 ml)のGenenase I消化溶液(5μg/ml Genenase I、100 mM Tris-HCl、5 mM CaCl2、200 mM NaCl、0.02% Tween-20)を添加した。この材料を21℃で24時間、軽く混合しながらインキュベートした後に、0.1 M 酢酸で透析を行って反応を停止させた。消化された材料を次に逆相クロマトグラフィーで精製し、文献(前掲のScotney et al.)に記載された手順で凍結乾燥状態のアリコートとして保存した。
【0175】
実施例2
細胞ベースのアッセイ法および生化学的アッセイ法でVEGF-Bの活性と拮抗する、ヒトVEGF-Bに特異的なマウスモノクローナル抗体
組換え型のヒト(h)VEGF-Bイソ型に対するモノクローナル抗体を標準的な手順で作製した(Harlow and Lane, Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, Chapter 6, 1988を参照)。簡単に説明すると、BALB/cマウスまたはC57BL/6マウスを、初回接種用に完全フロインドアジュバント(CFA)中に、および続く免疫用に不完全フロインドアジュバント中に乳化した約10〜30μgのhVEGF-B(hVEGF-B167、hVEGF-B10-108、またはhVEGF-B186のいずれか1つ、N末端の6×Hisタグを含むものと含まないもの)を腹腔内(i.p)経路で免疫化した(少なくとも2週間、3〜4週間ほどの期間をおく)。融合の3日前、および最後のi.p.による免疫化の少なくとも3〜4週後にマウスを約10μgのhVEGF-B(溶媒はリン酸緩衝食塩水(PBS))で静脈内(i.v.)経路で追加免疫した。脾臓細胞とSp2/O-Ag14ミエローマ融合パートナーの融合と、続くHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン)による選択後に、hVEGF-Bに特異的なmAbを分泌するハイブリドーマをELISAで同定し、増殖させた後に、少なくとも2回、限界希釈によりクローン化した。
【0176】
細胞ベースのアッセイ法
モノクローナルAbのアンタゴニスト活性を、新しいVEGFR-1/EpoR/BaF3増殖アッセイ法で評価した。このアッセイ法は、キメラ受容体を発現する改変BaF3(DSMZ、カタログ番号ACC 300)細胞が、ヒトエリトロポイエチン受容体(EpoR)の細胞内ドメイン、およびVEGFR-1の細胞外ドメインを含むことをベースとしている。VEGF-AおよびVEGF-BなどのVEGFR-1のリガンドは、キメラ受容体の二量体化を引き起こし、続いてEpoRの細胞質ドメインがリン酸化されると、下流の情報伝達分子が活性化され、BaF3細胞の増殖につながる。この方法は、数種類のサイトカインおよび成長因子を対象とした増殖ベースの生物学的アッセイ法を開発するために使用されている(例えばMurayama et al., J. Biol, Chem., 269, 5976-5980, 1994;Fukada et al., Immunity 5, 449-460, 1996;Stacker et al., J. Biol. Chem., 274, 34884-34892, 1999を参照)。改変BaF3細胞は、10% FCS、Zeocin (250μg/ml、Invitrogen, USA)、hVEGF-A165(50 ng/ml)、ペニシリン(50ユニット/ml、Invitrogen, USA)、ストレプトマイシン(50μg/ml、Invitrogen, USA)、およびGlutaMAX-I (2 mM, Invitrogen, USA)を添加したDMEM(Invitrogen, USA)中で維持する。
【0177】
マウスmAbのアンタゴニスト活性の解析に関しては、洗浄済みのVEGFR-1/EpoR/BaF3細胞(5×104細胞/ウェル、平底の96ウェルマイクロタイタープレート)を力価測定用の試験mAbで1時間、プレインキュベートした後に、所定濃度のhVEGF-A165、hVEGF-B167、またはhVEGF-B10-108を添加して37℃で72時間、10% CO2の存在下で維持した。72時間後に増殖をMTS色素減少アッセイ法(Mosmann, T., J. Immunol Methods, 65, 55-63, 1983)で評価した。得られた結果から、mAb 2H10、4E12、2F5、および1C6が、hVEGF-B167(VB167)およびhVEGF-B10-108(VB108)の活性を拮抗可能であるが、hVEGF-A165(VA165)を拮抗不能であることがわかった。
【0178】
生化学的アッセイ法
モノクローナル抗体が、VEGF-BとVEGFR-1のリガンド結合断片の結合をブロックする能力を、新しい競合的ELISAで測定した。第2のIg様ドメイン(D2-VEGFR-1、前掲のScotney et al.;Weismann et al., Cell 91, 695-704, 1997を参照)に対応する、VEGFR-1の組換え断片を使用してマイクロタイタープレートをコーティングした。段階希釈の試験mAbとプレインキュベートしておいた、固定された飽和濃度以下の組換えhVEGF-B10-108(5 nM)を次に、このプレート上でインキュベートした。1時間後にプレートを洗浄し、引き続いてウサギ抗ヒトVEGF-B167血清、マウス抗ウサギ-Ig西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート、およびTMB基質で処理した。酸によるクエンチング後に、450 nmにおける非色分析で測定したELISAシグナルは、プレートに結合した状態のD2-VEGFR-1に捕捉されたVEGF-B10-108の量に比例していた。mAbによる結合の用量依存的な阻害は、VEGF-B10-108との結合をめぐるmAbとD2-VEGFR-1間の競合の指標となった。アッセイの結果から、mAb 2H10、1C6、および2F5はVEGF-B10-108とD2-VEGFR-1の結合を拮抗可能であるが、4E12は拮抗不能であることが判明した。このデータは、アンタゴニストmAb 4E12が、D2-VEGFR-1との直接的な相互作用には関与しないVEGF-Bの領域と結合することを示唆している。
【0179】
実施例3
ヒトVEGF-B特異的アンタゴニストであるマウスモノクローナル抗体の動的解析
動的解析
mAbと標的VEGF-Bの結合の動的解析には、BIAcore(商標) 2000表面プラズモン共鳴装置(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を使用するバイオセンサーベースの方法を用いた。バイオセンサーチップを、VEGF-Bの共有結合的なカップリングのためにN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸(EDC)、およびN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)を供給業者(Biacore AB, Uppsala, Sweden)の指示書に従って使用して活性化させた。5μg/mlのVEGF-B10-108(溶媒は20 mM酢酸ナトリウム、pH 4.8)の溶液を調製し、アリコート(35μl)を2μl/分の流速で注入して、約500〜600反応ユニット(RU)のカップリング形成タンパク質が得られた。最後に1 Mのエタノールアミンをブロッキング剤として注入した。
【0180】
動態測定では、125 nM〜0.98 nMの2倍段階希釈の試験抗体を、BIAcore(商標)緩衝剤(20 mM HEPES、pH 7.8、0.15M NaCl、3.4 mM EDTA、0.005% Tween-20)に、1 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)とともに25℃で流速15μl/分で注入した。BIAevaluation(商標) V3.02ソフトウェア(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を使用した、結合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)の同時解析によって平衡結合定数(KD)を決定した。個々の試験mAbとの結合を2回評価し、現時点で得られている概要データを表3に示す。
【0181】
(表3)

【0182】
実施例4
マウスVEGF-Bと交差反応し、この活性を阻害する、ヒトVEGF-Bに対するモノクローナル抗体
hVEGF-Bに対するモノクローナル抗体を、mVEGF-Bとの交差反応性に関して、標準的なELISAフォーマットを用いて検討した。プレートに結合させたhVEGF-B10-108または6×His.mVEGF-B10-108(濃度1.25μg/ml)とmAbをインキュベートし、結合状態のmAbをHRP結合二次試薬およびTMB基質を使用して可視化した。得られた結果から、mAb 4E12のみが、ヒトおよびマウスのVEGF-Bのいずれとも相互作用しなかったことがわかる。
【0183】
交差反応性をさらにウェスタンブロット解析で検証した。500 ngのhVEGF10-108および6×His.mVEGF-B10-108を非還元SDS-PAGEで処理し、標準的な手順でPVDF膜にトランスファーした。ブロットを、10μg/mlの濃度の試験mAb (2F5、2H10、もしくは4E12)または陰性対照mAb(6A9)でプローブ処理した。結合状態のmAbをHRP結合二次試薬および発光基質を使用してオートラジオグラフィーで可視化した。mAb 2F5および2H10は、ヒトとマウスのVEGF-B10-108の両方と結合したが、mAb 4E12はhVEGF-Bのみと結合した。
【0184】
mAb 2H10、1C6、2F5、および4E12についても、1 nM hVEGF-A、50 nM 6×His.hVEGF-B10-108、および50 nM 6×His.mVEGF-B10-108の増殖活性阻害能力に関して、上述の手順によるVEGFR-1/EpoR/BaF3増殖アッセイ法で検討を行った。mAb 2H10、1C6、および2F5は、ヒトとマウスの6×His.VEGF-B10-108の両方の活性を阻害したが、mAb 4E12は、ヒト型のVEGF-B10-108に対してのみ活性を示した。
【0185】
実施例5
ヒト腫瘍細胞株のならし培地中におけるVEGF-Bの検出
ヒト腫瘍細胞株2008(卵巣)、A431(類表皮癌)、H460(非小細胞肺)、HT-29(結腸)、MDA-MB-231(乳房)、およびPC-3(前立腺)は、Peter MacCallum Cancer Centreから入手した。細胞株は常用の手順で、10%ウシ胎児血清(FCS)、ペニシリン(50ユニット/ml、Invitrogen, USA)、およびストレプトマイシン(50μg/ml、Invitrogen, USA)、およびGlutaMAX(Invitrogen, USA)を添加したRPMI培地(Invitrogen, USA)中で、接着性細胞として37℃で5% CO2の存在下で継代した。VEGF-B産生細胞株の解析では、コンフルエント培養物を、8.0 mlの培地を含み、ヘパリン(100μg/ml, Sigma, USA)を添加または非添加の条件で100 mmのペトリ皿中に約1:20となるように希釈した。14日後に遠心分離して培養上清を回収し、全VEGF-Bタンパク質のレベル(VEGF-B167+VEGF-B186のイソ型)を標準的なサンドイッチELISAアッセイ法で評価した。サンドイッチELISAは、抗VEGF-B mAb(VEGF-B167およびVEGF-B186に反応性のもの)を結合させたマイクロタイタープレートについて行い、捕捉されたVEGF-Bをウサギ抗VEGF-Bポリクローナル抗体と、続いてHRP結合抗ウサギIg試薬(Chemicon)を使用して検出した。試験VEGF-Bを、組換えVEGF-Bタンパク質を対象に作成された標準曲線を用いて定量した。
【0186】
評価対象の全てのヒト腫瘍細胞株はVEGF-Bを発現することが判明した。VEGF-B167イソ型は、C末端ヘパリン結合ドメインを保持しており、この結果、ある程度の発現タンパク質が細胞と結合した状態を保つことが知られている。ヘパリンを培地に含めたのは、この材料を細胞表面から放出させるためであり、場合によっては、この結果として、細胞上清中に検出されるVEGF-Bのレベルは若干高くなった。
【0187】
実施例6
ヒト腫瘍細胞株HT-29のマウス異種移植試験
ヒトの腫瘍の成長を潜在的に制限する新しい治療薬を、十分に特性が明らかにされたマウス異種移植モデルを用いて、インビボにおける有効性に関して評価することができる。実施例5で説明したように、免疫不全マウスに移植するといずれも充実性腫瘍として成長するいくつかのヒト腫瘍細胞株は、VEGF-Bタンパク質を発現する。
【0188】
インビトロで指数関数的に成長するヒト結腸癌HT-29腫瘍細胞を回収し、洗浄した後に、麻酔した無胸腺ヌードマウスの右後肢の皮下組織に注入した(5×106/匹)。投与は、腫瘍が約100 mm3の大きさに達した時点(約2週間後)で開始した(この時点でマウスを10匹の投与群に分けた)。抗VEGF-B mAb 2H10の解析では、1群の10匹のマウスに約400μg(容量200μl)の試験2H10を腹腔内(ip)注射で週2回投与し、一方で第2群のマウスには同量のアイソタイプをマッチさせた対照mAb(mAb C44、コルヒチン特異的、ATCCカタログ番号CRL-1943)を投与した。投与を5〜7週間継続し、腫瘍の幅および長さを一定間隔(例えば4〜5日毎)に電子キャリパーを使用して決定した。腫瘍の体積(mm3)は、0.5×長さ×幅2の式で算出した。
【0189】
投与開始から38日後までに、抗VEGF-B mAb 2H10を投与したマウスでは、アイソタイプをマッチさせた対照mAbを投与したマウスにおける腫瘍との比較時に、腫瘍体積に41%の減少が認められた。この結果は、類似の腫瘍異種移植モデルでヒト結腸癌HT-29腫瘍細胞を使用してVEGF-Aに対するmAbについて観察された抗腫瘍活性にほぼ匹敵する(Asano, M et al., Jpn J Cancer Research, 90(1):3-100, 1999)。
【0190】
実施例7
治療用のヒト化mAbを作製するためのmAb 2H10の可変領域遺伝子のクローニング
2H10 mAbを産生するハイブリドーマ細胞からメッセンジャーRNAを調製し、可変領域配列を逆転写してRT-PCRで増幅した。N末端のアミノ酸配列、および抗体のアイソタイプに基づく部分的に縮重するPCRプライマーを使用して、軽鎖の可変領域を増幅した。N末端のリーダーペプチドをコードする配列とアニーリングするように設計されたフォワードプライマーと、抗体アイソタイプに基づくリバースプライマーを使用して重鎖可変領域を増幅した(Coloma et al., 1991, Larrick et al., 1989)。得られたPCR産物の配列決定から、2H10の可変領域のアミノ酸配列が判明した。アンタゴニストmAbである4E12および2F5の可変領域のアミノ酸配列を同一の方法で決定した(表1;図8〜10参照)。
【0191】
実施例8
ヒト腫瘍細胞株DU145のマウス異種移植試験
実施例6に記載したように、ヒトの腫瘍の成長を潜在的に制限する新しい治療薬のインビボにおける有効性を、十分に特性が明らかにされたマウス異種移植モデルを使用して評価することができる。
【0192】
インビトロで指数関数的に成長するヒト前立腺癌DU 145腫瘍細胞を回収し、洗浄した後に、麻酔したSCIDマウスの右半身の皮下組織に注入した(2×106、1:1(PBS:マトリゲル)/匹)。投与は、腫瘍が約100 mm3の大きさに達した時点で開始した(この時点でマウスを10匹の投与群に分けた)。抗VEGF-B mAb 2H10の解析では、1群の10匹のマウスに約400μgの試験2H10(容量200μl)を腹腔内(ip)注射で週2回投与し、一方で第2群のマウスには、同量のアイソタイプをマッチさせた対照mAb(mAb C44、コルヒチン特異的、ATCCカタログ番号CRL-1943)を投与した。投与を4〜5週間継続し、腫瘍の幅および長さを一定間隔(例えば4〜5日毎)に電子キャリパーを使用して決定した。腫瘍の体積(mm3)は、0.5×長さ×幅2の式で算出した。
【0193】
投与開始から33日後までに、抗VEGF-B mAb 2H10を投与したマウスでは、アイソタイプをマッチさせた対照mAbを投与したマウスにおける腫瘍との比較時に、腫瘍体積に有意な減少が認められた。腫瘍成長の低下のレベルは、上述のHT-29腫瘍実験で観察されたレベルと同等であった。
【0194】
実施例9
ヒト腫瘍細胞株A431のマウス異種移植試験
実施例6に記載したように、ヒトの腫瘍の成長を潜在的に制限する新しい治療薬のインビボにおける有効性を、十分に特性が明らかにされたマウス異種移植モデルを使用して評価することができる。
【0195】
インビトロで指数関数的に成長するヒト扁平上皮癌A431腫瘍細胞を回収し、洗浄した後に、麻酔した無胸腺ヌードマウスの右半身の皮下組織に注入した(3×106、1:1(PBS:マトリゲル)/匹)。投与は、腫瘍が約100 mm3の大きさに達した時点で開始した(この時点でマウスを10匹の投与群に分けた)。抗VEGF-B mAb 2H10の用量反応解析では、10匹のマウス群に約1000μg、400μg、40μg、または4μgの試験2H10(容量200μl)を腹腔内(ip)注射で週2回投与し、一方で第5群のマウスには1000μgのアイソタイプをマッチさせた対照mAb(mAb C44、コルヒチン特異的、ATCCカタログ番号CRL-1943)を腹腔内注射で週2回投与した。投与を17日間継続し、腫瘍の幅および長さを一定間隔(例えば2〜3日毎)に電子キャリパーを使用して決定した。腫瘍の体積(mm3)は、0.5×長さ×幅2の式で算出した。
【0196】
投与開始から17日後までに、抗VEGF-B mAb 2H10を投与したマウスでは、腫瘍体積に有意な減少が認められ、減少の規模は、投与された2H10の用量に比例していた(すなわち腫瘍の成長の低下レベル:用量1000μg>用量400μg>用量40μg>用量4μg)。1000μg/用量時に認められた腫瘍成長の低下レベルは、4μg/用量群と比較して約40〜45%であった。4μg用量の2H10と比較すると、1000μg/用量の対照mAb C44は、腫瘍の成長について、ある程度の非特異的な低下を引き起こしたようであった。
【0197】
実施例10
抗VEGF-B mAb 2H10のヒト化
CDRグラフトFabおよびマウス-ヒトキメラFabの作製
VBASEデータベース(ヒト抗体遺伝子のデータベースhttp://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)を使用して、実施例7に記載され、および図1に示された2H10の可変領域の配列に近縁のヒト生殖系列の可変領域の配列を見つけた。EmBLデータベース配列X93622およびJ00242(それぞれ、ヒトの非再編成型生殖系列(unrearranged germline)の抗体の軽鎖領域PK9およびJK4)、ならびにHSIGDP75およびJ00256(それぞれ、ヒトの非再編成型生殖系列の抗体の重鎖領域DP75およびJH4a)(図4)を後のCDRグラフト用に選択した。
【0198】
2H10 CDRグラフトヒト生殖系列Fab(CDR-Fab)をコードする核酸配列を、ヒト生殖系列の可変領域配列のCDRをコードするヌクレオチドを、2H10 CDRのヌクレオチド配列と置換することで作製した(図5)。次に可変領域の配列を、軽鎖および重鎖の対応するヒトの定常ドメインをコードするヌクレオチド配列と融合することで、CDR-FabをコードするcDNAを得た。CDR-Fabのヌクレオチド配列を、大腸菌における発現用のコドンが最適となるように修飾した後に、1つの大腸菌発現ベクター中に挿入することで、可溶性の機能性のCDR-Fabを発現させるための2シストロン性のコンストラクトを作製した。大腸菌における抗体断片の発現の一般的な説明については、Corisdeo S. and Wang B. (2003), Functional expression and display of an antibody Fab fragment in Escherichia coli: study of vector design and culture conditions. Protein Expression and Purification 34: 270-279を参照されたい。
【0199】
図6に、大腸菌における発現に最適化された2H10のCDR領域の核酸配列を示す。
【0200】
マウス-ヒトキメラのFab(対応するヒト定常ドメインと融合したマウス2H10の重鎖および軽鎖の可変領域を含む)、ならびに可溶性の2H10マウスFabタンパク質(「Antibody Production: Essential Techniques」 Peter J. Delves, 1997, John Wiley & Sons, Chichester, UK)に記載されたパパイン消化プロトコルを使用して完全長のマウス2H10抗体のタンパク質分解で調製されたもの)もVEGF-B結合試験用に調製した。マウス-ヒトキメラのFab、および2H10マウスFabは、VEGF-Bに対して同等の結合親和性を有していたので、CDR-Fabが、ヒトのフレームワークによるマウスのCDRの提示を最適化し、かつVEGF-B結合親和性を改善するために、フレームワークの最適化を必要とする否かの評価に使用した。
【0201】
キメラFabとCDRグラフトFabの結合親和性の比較
VEGF-Bに対するCDR-Fabの結合親和性を、競合ベースの結合アッセイ法(例えばELISAフォーマットでFabをファージディスプレイする方法)、またはBiacore解析で可溶性タンパク質を精製する方法などのいくつかの様式で、マウス-ヒトキメラFabおよび2H10マウスFabのVEGF-B結合親和性と比較することができる。
【0202】
固定されたヒトVEGF-Bに対するCDR-Fabの結合親和性を、BIAcore装置を使用した表面プラズモン共鳴(SPR)を測定することで、2H10マウスFabと比較した。CDR-Fabおよび2H10マウスFabを対象に、複数の異なる濃度の各Fabの注射から得られたデータを用いて、結合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)、および平衡結合定数(KD)を計算した。CDR-Fabは、2H10マウスFabより速い解離速度を有し、結果的にVEGF-Bに対する結合親和性は弱くなることが判明した(表4)。したがってCDR-Fabの結合親和性を改善するために、重要なフレームワーク残基の最適化を行った。
【0203】
CDR-Fabおよびマウス-ヒトキメラFabの可変領域の配列をアライメントして、最適化を必要とする可能性のあるCDR-Fab内のフレームワーク残基を見つけた(Foot J. and Winter G. (1992) Antibody Framework Residues Affecting the Conformation of the Hypervariable Loops. J. Mol. Biol. 224:487-499)。L71、H67、H69、H71、H73、およびH75の6つの重要なフレームワーク残基が同定された。12のCDR-Fabフレームワークバリアントのパネルを、当初のマウス配列に戻す重要なフレームワーク残基の個々の変化および組み合わせの変化(6つの単一逆突然変異、ならびにH67、H69、H71、およびH73のペア)によって作製した。
【0204】
12のCDR-Fabフレームワークバリアントを大腸菌で発現させ、それらの解離速度を、マウス-ヒトキメラFabおよびCDR-Fabの解離速度とBIAcoreで比較した。H73逆突然変異を有するCDR-Fabバリアントは、単独か、またはH67、H69、もしくはH71の1つとの組み合わせについて、マウス-ヒトキメラのFabと同等の解離速度を有することが判明した(表5)。
【0205】
次に、4つのH73 CDR-Fabフレームワークバリアント(H73、H67/73、H69/73、およびH71/73)の結合親和性をマウス-ヒトキメラFabと競合的ELISAで比較した。これら5つのFabを、溶液中の滴定量のVEGF-Bの存在下で、プレートに結合させた状態のヒトのVEGF-B(1ug/ml)との結合能力に関して溶液中で検討し、IC50を決定した(固定されたVEGF-Bとの結合の50%が置換されている可溶性VEGF-Bの濃度)。各CDR-Fabバリアント、およびマウス-ヒトキメラFabのIC50を元にVEGF-Bの結合親和性に順位をつけた。1つのH73逆突然変異を有するCDR-Fabバリアントが、マウス-ヒトキメラFabと同等の、最高のVEGF-B結合親和性を有することがわかった(表5)。
【0206】
固定されたヒトVEGF-Bに関するH73 CDR-Fabフレームワークバリアントの平衡結合定数(KD)を、次にBIAcoreで決定したところ、2H10マウスFabに関する平衡結合定数の3倍以内であることがわかった(それぞれ115 pMに対して337 pM)。
【0207】
(表4)

【0208】
(表5)

*競合的ELISAで測定。相対結合親和性は、[CDR-FabバリアントのIC50/マウス-ヒトキメラのIC50]と等しい。
【0209】
文献







【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGF-Bアンタゴニストの有効量を、治療を必要とする被験体に投与する段階を含む、哺乳動物における癌の治療方法。
【請求項2】
癌が、腫瘍、前癌性状態、骨髄腫、またはリンパ腫である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍が、乳房腫瘍、結腸直腸腫瘍、腺癌、中皮腫、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、生殖細胞腫瘍、肝癌/胆管の癌、神経内分泌腫瘍、下垂体新生物、小円形細胞腫瘍、扁平上皮癌、黒色腫、非定型的線維黄色腫、精上皮腫、非精上皮腫(nonseminoma)、間質性ライディヒ細胞腫瘍、セルトリ細胞腫瘍、皮膚腫瘍、腎臓腫瘍、精巣腫瘍、脳腫瘍、卵巣腫瘍、胃腫瘍、口腔腫瘍、膀胱腫瘍、骨腫瘍、頚部腫瘍(cervical tumor)、食道腫瘍、喉頭腫瘍、肝臓腫瘍、肺腫瘍、膣腫瘍、およびウィルムス腫瘍から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
癌が充実性腫瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
VEGF-Bアンタゴニストが、VEGF-Bをコードする核酸分子を標的とし、かつVEGF-Bの発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
VEGF-Bアンタゴニストが、VEGF-Bをコードする核酸分子を標的とし、かつVEGF-Bの発現を阻害する干渉核酸分子である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
VEGF-Bアンタゴニストが、VEGF-BとVEGFR-1の結合を阻害する抗VEGF-B抗体である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗体がヒトVEGF-Bと1×10-7 Mまたはこれ未満のKD値で結合する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
抗体がヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
抗体が、請求項9記載の完全抗体の抗原結合断片である、請求項7記載の方法。
【請求項12】
抗原結合断片が、Fv、Fab、またはF(ab')2断片、1本鎖Fv断片(sFvもしくはscFv)、ジスルフィド安定化(disulphide stabilized)Fv断片(dsFv)、1本鎖可変領域ドメイン(Abs)分子、ならびにミニボディおよびダイアボディから選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
VEGF-Bアンタゴニストが、ヒトのVEGF-B、および少なくとも1種の他の動物に由来するVEGF-Bと交差反応する、請求項1〜12のいずれか一項記載の記載の方法。
【請求項14】
VEGF-Bアンタゴニストが、ヒトVEGF-BおよびマウスVEGF-Bと交差反応する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ヒトのVEGF-Bと1×10-7 Mまたはこれ未満のKD値で結合する、VEGF-BとVEGFR-1の結合を阻害する、単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項16】
モノクローナル抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項17】
ヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項16記載の抗体。
【請求項18】
請求項17記載の抗体の抗原結合断片。
【請求項19】
抗原結合断片が、Fv、Fab、またはF(ab')2断片、1本鎖Fv断片(sFvもしくはscFv)、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、1本鎖可変領域ドメイン(Abs)分子、ならびにミニボディおよびダイアボディから選択される、請求項18記載の抗原結合断片。
【請求項20】
ヒトVEGF-B、および少なくとも1種の他の動物に由来するVEGF-Bと交差反応する、請求項15〜19のいずれか一項記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項21】
ヒトVEGF-BおよびマウスVEGF-Bと交差反応する、請求項20記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項22】
mAb 2H10の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む、請求項15〜21のいずれか一項記載の抗体。
【請求項23】
mAb 2F5の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む、請求項15〜21のいずれか一項記載の抗体。
【請求項24】
mAb 1C6の重鎖および軽鎖の可変領域に由来する4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列を含む、請求項15〜21のいずれか一項記載の抗体。
【請求項25】
請求項15〜24のいずれか一項記載の抗体を含む組成物。
【請求項26】
請求項22〜24のいずれか一項記載の抗体の有効量を、治療を必要とする被験体に投与する段階を含む、哺乳動物における癌の治療方法。
【請求項27】
配列番号:5〜7に示された配列を有するCDR、または配列番号:5〜7に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有するCDRをもつ軽鎖を含む、請求項17記載の単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項28】
配列番号:8〜10に示された配列を有するCDR、または配列番号:8〜10に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有するCDRをもつ重鎖を含む、請求項17記載の単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項29】
配列番号:5〜10に示された配列を有するCDR、または配列番号:5〜10に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有するCDRを含む、請求項17記載の単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項30】
配列番号:29および30に示された配列を有する可変重鎖および可変軽鎖配列、または配列番号:29および30に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有する可変重鎖および可変軽鎖配列を含む、請求項27記載の単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項31】
2005年7月27日にATCCに寄託されたアクセッション番号__のハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体と競合する、単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項32】
2005年7月27日にATCCに寄託されたアクセッション番号__のハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体と同じか、または実質的に同じエピトープと結合する、請求項31記載の単離された抗VEGF-B抗体。
【請求項33】
請求項27〜32のいずれか一項記載の抗体の有効量を、治療を必要とする被験体に投与する段階を含む、哺乳動物における癌の治療方法。
【請求項34】
請求項27〜32のいずれか一項記載の抗体を含む組成物。
【請求項35】
配列番号:31、33、および35のヌクレオチド配列、または配列番号:31、33、および35に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項30記載の抗VEGF-B抗体の軽鎖をコードする核酸。
【請求項36】
配列番号:37、39、および41のヌクレオチド配列、または配列番号:37、39、および41に示された配列に対して少なくとも約80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項30記載の抗VEGF-B抗体の重鎖をコードする核酸。
【請求項37】
請求項35記載の核酸および請求項36記載の核酸を原核生物または真核生物の宿主細胞で発現可能な、請求項35記載の核酸および請求項36記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項38】
請求項37記載の発現ベクターを含む、原核生物または真核生物の宿主細胞。
【請求項39】
以下の段階を含む、請求項30記載の抗VEGF-B抗体を産生させる方法:
(a)請求項38記載の宿主細胞を、抗体の発現を可能とするのに十分な期間、培養する段階、および(b)発現された抗体を精製する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36189(P2012−36189A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190494(P2011−190494)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【分割の表示】特願2007−524133(P2007−524133)の分割
【原出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(507231747)ズィナイス オペレーションズ ピーティーワイ.エルティーディー. (3)
【Fターム(参考)】