説明

X線コンピュータ断層撮影装置

【課題】 三極X線管におけるX線発生の制御性を向上すること。
【解決手段】X線コンピュータ断層撮影装置は、陰極124と、陽極122と、バイアス電極125とを有するX線管121と、X線検出器14と、画像再構成部23と、管電圧を発生する高電圧電源131と、フィラメント加熱電源132と、バイアス電源133と、高電圧電源とフィラメント加熱電源とバイアス電源とを制御するX線制御部16とを具備し、X線制御部は、管電圧を継続的に印加させ、フィラメント電流を継続的に供給させ、バイアス電圧をパルス列として印加させるとともに、バイアス電圧のパルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方を経時的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線コンピュータ断層撮影装置(CT装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、管電圧スイッチング制御や、心電同期制御において、X線管電流の高速応答は性能及び被曝低減という観点で重要となっている。X線管電圧・管電流変調制御時の波形の例を図5に示す。管電圧スイッチング制御時は、管電流も管電圧の変動に追従した波形が必要となり、高速な応答が必要となる。また、心電同期などの管電流変調時は、管電流を高速で制御することにより、不要なX線を低減することが望ましい。
【0003】
従来の管電流制御技術は、陰極・陽極の2極構造を有する2極X線管と、陰極・陽極・バイアス電極の3極構造を有する3極X線管について次の通りである。
【0004】
まず、バイアス電極を持たない、2極X線管の場合、X線管電流はフィラメント電流の調整により制御される。管電流の周波数応答は陰極フィラメントの熱時定数に依存するため、図5の要求に対し管電流が追従できず、X線管電流はフィラメント電流に対して図6に示すように遅延する。これにより線量不足や不要被曝が発生することがある。
【0005】
次に3極X線管の場合は、図7、図8に示すバイアス電圧は、事前に特定されている管電流との関係に基づいて制御される。周波数応答の遅い陰極フィラメント電流ではなく、バイアス電圧を調整することで、管電流の周波数応答性を改善する方式である。
【0006】
しかし、バイアス電圧が印加されると、管電流が減少するだけでなく、焦点サイズも縮小され、最終的には焦点がなくなり、電子ビームがカットされ管電流が”0mA“になる。この電圧をカットオフ電圧という。低い管電流領域で制御を行う場合、バイアス電圧はカットオフ電圧に近い値を印加することとなり、焦点サイズが著しく小さくなり、図6に示すように実際の管電流波形は不安定になり、安定した制御が難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的は、三極X線管におけるX線発生の制御性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、陰極と、陽極と、前記陰極と前記陽極との間に配置されるバイアス電極とを有するX線管と、前記X線管から発生され、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力に基づいて画像を再構成する画像再構成部と、前記陰極と前記陽極との間に印加される管電圧を発生する高電圧電源と、前記陰極のフィラメントに供給されるフィラメント電流を発生するフィラメント加熱電源と、前記陰極と前記陽極との間の管電流を制御するために前記バイアス電極に印加されるバイアス電圧を発生するバイアス電源と、前記高電圧電源と前記フィラメント加熱電源と前記バイアス電源とを制御するX線制御部とを具備し、前記X線制御部は、前記管電圧を継続的に印加させ、前記フィラメント電流を継続的に供給させ、前記バイアス電圧をパルス列として印加させるとともに、前記バイアス電圧のパルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方を経時的に変化させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図である。
【図2】図1のX線高電圧電源の構成を示す図である。
【図3】図1のX線制御部によるバイアス電圧制御を示す図である。
【図4】図1のX線制御部による他のバイアス電圧制御を示す図である。
【図5】従来のX線制御を示す図である。
【図6】従来のバイアス電圧制御による不具合を示す図である。
【図7】バイアス電圧と管電流との相関を示す図である。
【図8】バイアス電圧と管電流との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置を説明する。
本実施形態のX線管は陰極と、陽極と、陰極と陽極との間に配置されるバイアス電極とを有する三極X線管である。バイアス電極に印加するバイアス電圧はパルス列として発生される。バイアス電圧のパルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方は経時的に変化される。それによりX線発生の制御性が向上する。
【0011】
なお、X線コンピュータ断層撮影装置には、X線管と放射線検出器とが1体として被検体の周囲を回転する回転/回転タイプと、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線管のみが被検体の周囲を回転する固定/回転タイプ等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本実施形態を適用可能である。ここでは、現在、主流を占めている回転/回転タイプとして説明する。また、1スライスの断層像データを再構成するには、被検体の周囲1周、約360°分の投影データが、またハーフスキャン法でも180°+α(α:ファン角)分の投影データが必要とされる。いずれの再構成方式にも本発明を適用可能である。ここでは、前者の例で説明する。また、入射X線を電荷に変換するメカニズムは、シンチレータ等の蛍光体でX線を光に変換し更にその光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換する間接変換形と、X線による半導体内の電子正孔対の生成及びその電極への移動すなわち光導電現象を利用した直接変換形とが主流である。X線検出素子としては、それらのいずれの方式を採用してもよい。また、近年では、X線管とX線検出器との複数のペアを回転リングに搭載したいわゆる多管球型のX線コンピュータ断層撮影装置の製品化が進み、その周辺技術の開発が進んでいる。本実施形態では、従来からの一管球型のX線コンピュータ断層撮影装置であっても、多管球型のX線コンピュータ断層撮影装置であってもいずれにも適用可能である。ここでは、一管球型として説明する。
【0012】
図1、図2は本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示している。このX線コンピュータ断層撮影装置は、被検体に関する投影データを収集するために構成された架台1と、架台1の制御及び画像再構成等の各種信号処理に必要な複数のモジュールを収容する操作卓(コンソールともいう)2とを有する。架台1は、X線管装置12とX線検出器14とを有する。X線管装置12とX線検出器14は、回転駆動されるリング状のフレーム11に搭載される。X線管装置12と多チャンネル型X線検出器14は、撮影時に被検体が挿入される撮影領域Sを挟んで対向する。一般的にDAS(data acquisition system) と呼ばれているデータ収集部15は、X線検出器14からチャンネルごとに出力される信号を電圧信号に変換し、増幅し、さらにディジタル信号(投影データという)に変換してから出力する。操作卓2は、操作者がスキャン条件等を入力するための操作部22と、操作者により設定されたスキャン条件に従って装置全体を制御してスキャンを実行するための制御部21と、データ収集部15で収集された投影データに基づいて断層面またはボリュームに関する画像データを再構成するデータ再構成部23とを有する。
【0013】
上記X線管装置12は、真空状態で密閉される三極X線管121を有する。三極X線管121は、回転陽極122、それに対向する陰極124、そして陽極122と陰極124との間に配置されるバイアス電極125とを収容する。バイアス電極125に印加される電圧によりX線の発生と停止とを制御することができる。
【0014】
X線高電圧電源ユニット13は、高電圧電源131、フィラメント加熱電源132、バイアス電源133を有する。高電圧電源131は、X線制御部16からの制御信号に従って、陽極122と陰極124との間に印加される高電圧(管電圧)を出力し、また停止する。フィラメント加熱電源132は、X線制御部16からの制御信号に従って、陰極124のフィラメントに供給されるフィラメント電流を出力し、また停止する。バイアス電源133は、バイアス電極125に印加されるバイアス電圧を発生するインバータ式電源であり、X線制御部16からの制御パルスに同期するスイッチング素子によりパルス系列としてバイアス電圧を発生する。バイアス電極125の電位は、ゼロと、陰極124の電位と等価またはそれより低いマイナス極性の電位(カットオフ電圧)との間で変位する。図3に示すようにカットオフ電位が維持されている期間をパルス幅PW、カットオフ電位の発生周期をパルス周期PSとする。バイアス電位がゼロのとき、陰極124のフィラメントから発生される熱電子がバイアス電極125を通過して回転陽極122のタングステン等のターゲット123に衝突し管電流が流れる。バイアス電位がカットオフ電位のとき、陰極124のフィラメントから発生される熱電子がバイアス電極125で遮断され管電流は流れない。
【0015】
図3に示すように、スキャン期間中においては、管電圧が継続的に印加され、フィラメント電流が継続的に供給されるとともにバイアス電圧のデューティー比(PW/PS)が経時的に変化されることによりパルスX線の発生とその停止とが制御される。デューティー比を変化させるために、バイアス電圧のパルス幅PWとパルス繰り返し周波数(スイッチング周波数fsw、1/PS)との少なくとも一方が経時的に変化される。図3の例では、スイッチング周波数fswは一定に保たれ、パルス幅PWが変化される。
【0016】
バイアス電圧を連続的に変化させる従来の方式では、低い管電流領域での安定した制御が困難であった。本実施形態では、バイアス電源133にリニアアンプではなく、ON−OFFスイッチング可能な例えばチョッパ形電源を採用し、バイアス電圧を図3に示すようにVb0とカットオフ電圧Vbcutの間で高速スイッチング(ON/OFF)させパルスのデューティー比を変化することにより、管電流を制御する。デューティー比は、ゼロ又はその近似値から、1又はその近似値まで連続的に変化される。
【0017】
なお、バイアス電源133のスイッチング周波数fswを管電流の応答速度より十分速く、例えば数十〜100kHzの範囲から選択することにより、電流検出部17で検出される管電流は図3の実線のような波形になり安定した制御が可能となる。
【0018】
さらに、バイアス電圧のスイッチング周波数fswをデータ収集部15のサンプリング速度(数kHz)の例えば10倍以上として数十kHz以上であって、管電流の応答速度を基準とした周波数(数十〜100kHz)よりも低い周波数に設定する場合は、管電流検出部17に数十kHzのフィルタ(平均化回路)を追加することが好ましい。この場合、実際の管電流波形は、図3の点線で示す波形を示すことになるが、管電流検出部17の波形は図3に実線で示す連続波形を得られる。また、スイッチング周波数がデータ収集部15のサンプリング速度よりも十分速いため、スイッチングされたX線は1サンプリング内で積分されるため、データ収集部15で検出されるX線量は平均化されスイッチングの影響は画像には表れない。
【0019】
バイアス電圧のパルス制御としては、以下のように制御する。バイアス電源133のパルス周波数を一定のもとでパルス幅PWを拡大していくと、バイアス電極125にカットオフ電圧を印加している期間は陰極124からの電子がカットされるため、管電流は低くなる。パルス幅PWを狭くしていくと、管電流は高くなる。図4に示すように、パルス幅PWを一定として、スイッチング周波数fswを連続的に変化させることでデューティー比を連続的に変化させるようにしてもよいし、パルス幅PWとスイッチング周波数fswとの両方を変化させることでデューティー比を連続的に変化するようにしてもよい。
【0020】
スイッチング周波数fswを非常に高くしていくと、パルス幅PWは狭くなっていき、パルス出力が難しくなっていく。この場合は、デューティー比制御に加えて、管電流領域により出力電圧可変制御と、パルス出力制御を切り替えて制御することで対応する。低い管電流領域では、焦点が著しく小さくなるカットオフ領域付近での制御となるため、バイアス電圧はパルス出力制御とし、焦点が著しく小さくならないような管電流領域では、バイアス電圧をリニアに変えて制御する。
【0021】
本実施形態のように管電流制御をバイアス電圧のパルス系列のデューティー比制御により実現んすることにより、管電流、管電流変調制御をより低い管電流領域でも高速且つ安定に制御することができ、不要な被曝を低減することが可能となる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0023】
1…架台、2…操作卓、11…回転フレーム、12…X線管装置、13…X線高電圧電源ユニット、14…X線検出器、15…データ収集部、17…管電流検出部、21…制御部、22…操作部、23…データ再構成部、121…三極X線管、122…回転陽極、124…陰極、125…バイアス電極、131…高電圧電源、132…フィラメント加熱電源、133…バイアス電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、陽極と、前記陰極と前記陽極との間に配置されるバイアス電極とを有するX線管と、
前記X線管から発生され、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力に基づいて画像を再構成する画像再構成部と、
前記陰極と前記陽極との間に印加される管電圧を発生する高電圧電源と、
前記陰極のフィラメントに供給されるフィラメント電流を発生するフィラメント加熱電源と、
前記陰極と前記陽極との間の管電流を制御するために前記バイアス電極に印加されるバイアス電圧を発生するバイアス電源と、
前記高電圧電源と前記フィラメント加熱電源と前記バイアス電源とを制御するX線制御部とを具備し、
前記X線制御部は、前記管電圧を継続的に印加させ、前記フィラメント電流を継続的に供給させ、前記バイアス電圧をパルス列として印加させるとともに、前記バイアス電圧のパルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方を経時的に変化させることを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項2】
前記パルス繰り返し周波数は、前記管電流の応答速度の逆数よりも高いことを特徴とする請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項3】
前記X線検出器の出力には、前記X線検出器の出力信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換する機能を有するデータ収集部が接続され、
前記パルス繰り返し周波数は、前記サンプリング周波数よりも高いことを特徴とする請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項4】
前記管電流を検出する電流検出部をさらに備え、
前記X線制御部は、前記電流検出部で検出された管電流値に基づいて前記パルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方を変化させることを特徴とする請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項5】
前記X線制御部は、前記バイアス電圧のパルス幅とパルス繰り返し周波数との少なくとも一方とともに、前記バイアス電圧の電圧値を変化させることを特徴とする請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項6】
陰極と、陽極と、前記陰極と前記陽極との間に配置されるバイアス電極とを有するX線管と、
前記X線管から発生され、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器の出力に基づいて画像を再構成する画像再構成部と、
前記陰極と前記陽極との間に印加される管電圧を発生する高電圧電源と、
前記陰極のフィラメントに供給されるフィラメント電流を発生するフィラメント加熱電源と、
前記陰極と前記陽極との間の管電流を制御するために前記バイアス電極に印加されるバイアス電圧を発生するバイアス電源と、
前記高電圧電源と前記フィラメント加熱電源と前記バイアス電源とを制御するX線制御部とを具備し、
前記X線制御部は、前記管電圧を継続的に印加させ、前記フィラメント電流を継続的に供給させ、前記バイアス電圧をパルス列として印加させるとともに、前記バイアス電圧のデューティー比を経時的に変化させることを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−235935(P2012−235935A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107558(P2011−107558)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】