説明

X線センサ、そのX線センサの検査方法、およびそのX線センサを用いたX線診断装置

【課題】正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、それによる白キズの出現を抑えることができるX線センサを提供する。
【解決手段】本発明にかかるX線センサは、透光性基板17と、前記透光性基板17の一方の面上に形成された透光性電極21と、前記透光性基板17の前記透光性電極21が形成された一方の面上に順次設けられた正孔注入阻止層22と、電界緩和層23と、正孔トラップ層24と、電荷増倍機能を持つ光導電性の感度層25と、電子注入阻止層26とを含む光導電性膜18と、を備え、前記電界緩和層23の厚みが、前記透光性電極21と前記正孔注入阻止層22とからなる層の厚みよりも厚いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線センサ、そのX線センサの検査方法、およびそのX線センサを用いたX線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置は、X線源と、そのX線源から所定の間隔をおいて対向配置されるX線センサとを備え、X線源から放射したX線を人体に照射し、その人体を通過したX線をX線センサに入射させることにより、人体内部の状態を目視可能とするものである。このようにX線診断装置はX線を人体に照射するので、X線の照射量はできるだけ少ないほうが好ましい。したがってX線診断装置では、X線センサの感度を高める必要がある。
【0003】
そこでX線センサに、阻止型構造を有する光導電性のターゲット部に電荷増倍機能を持たせた撮像装置(例えば、特許文献1参照)を採用することで、X線センサの感度を高めることが考えられる。
【0004】
具体的には、この撮像装置には、正孔注入阻止層と電子注入阻止層との間に挟まれる光導電性の感度層、すなわち入射した光により電荷が発生する感度層の材料に、高電界をかけると電荷増倍作用が起こるものが採用されている。具体的には、特許文献1には、感度層がSeを主体とする非晶質半導体で形成された撮像装置が記載されている。この撮像装置によれば、少ない光量でも感度よく撮像ができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−304551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、正孔注入阻止層と、電子注入阻止層と、これらの間に挟まれる電荷増倍機能を持つ光導電性の感度層と、を備える光導電性膜をX線センサに採用することにより、X線センサの感度を高めることができる。
【0007】
しかしながら、既知の技術では、例えば正孔注入阻止層にキズや膜厚ムラが発生した場合、正孔注入阻止効果が不十分となる。つまり、高圧電源からの正孔が正孔注入阻止層のキズやムラ部を通過して感度層に到達してしまう。そのため、既知の技術では、撮像画像に白キズが出現するという問題があった。
【0008】
正孔注入阻止層に発生するキズや膜厚ムラは、透光性基板に残留する微小なゴミに起因するところが大きい。つまり、透光性基板にゴミが残留すると、そのゴミによって発生する凹凸が薄い透光性電極に転写されて、正孔注入阻止層にキズや膜厚ムラを発生させる。ところで、X線診断装置においては、X線センサに極めて大きな面積が必要となる。例えば、マンモグラフィー用のX線診断装置には、平面視したときの各辺の長さが200〜250mm程度のサイズの矩形状のセンサ面を持つX線センサが、胸部用のX線診断装置には、平面視したときの各辺の長さが450mm程度のサイズの矩形状のセンサ面を持つX線センサがそれぞれ用いられている。このように大きな面積のX線センサを形成するときには、どうしても、透光性基板から完全にゴミを除去できずに、光導電性膜の一部にキズや膜厚ムラが発生してしまうことがある。
【0009】
本発明は、上記した問題に鑑み、正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、それによる白キズの出現を抑えることができるX線センサ、そのX線センサの検査方法、およびそのX線センサを用いたX線診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために本発明にかかるX線センサは、
透光性基板と、
前記透光性基板の一方の面上に形成された透光性電極と、
前記透光性基板の前記透光性電極が形成された一方の面上に順次設けられた正孔注入阻止層と、電界緩和層と、正孔トラップ層と、電荷増倍機能を持つ光導電性の感度層と、電子注入阻止層とを含む光導電性膜と、
を備え、前記電界緩和層の厚みが、前記透光性電極と前記正孔注入阻止層とからなる層の厚みよりも厚いことを特徴とする。
【0011】
また本発明にかかるX線センサの検査方法は、上記した本発明にかかるX線センサの検査方法であって、前記透光性電極に電圧を印加して前記光導電性膜に電界をかけた状態で、前記透光性基板のX線が入射される他方の面に赤色光を照射する第1工程と、前記赤色光を照射することにより前記光導電性膜の前記感度層に発生した電荷の量に応じた電気信号を前記光導電性膜の外部へ取り出す第2工程と、を具備することを特徴とする。
【0012】
また本発明にかかるX線診断装置は、X線源から所定の間隔をおいて対向配置されるX線センサに、上記した本発明にかかるX線センサを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、透光性電極に高電圧を供給する高圧電源から流入した正孔を正孔トラップ層においてトラップすることで、透光性電極と正孔トラップ層との間の電界を緩和できる上、電界緩和層によって電界緩和領域を広げることができる。さらに本発明によれば、電界緩和層の厚みを、透光性電極と正孔注入阻止層とからなる層の厚みよりも厚くして、可視光用途のセンサの電界緩和層よりも厚くしたので、可視光用途のセンサよりも電界緩和効果を効果的に発揮させることができる。したがって本発明によれば、正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、それによる白キズの出現を抑制することができる。
【0014】
また本発明によれば、X線センサの品質を評価する際に、X線を用いる代わりに、可視光である波長620nmの赤色光を用いることが可能となる。すなわち、赤色光は6μm以下の厚みの電界緩和層を透過可能であることから、電界緩和層が6μm以下の厚みであれば、赤色光を用いたX線センサの品質の評価が可能となる。より具体的には、赤色光をX線センサに照射して、X線センサの光導電性膜に発生する膜欠陥(黒キズや白キズ)を評価することが可能となる。したがって、本発明によれば、赤色光を用いてX線センサの品質を評価することが可能となるので、X線を用いた検査方法と比較してX線センサの品質の評価が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかるX線診断装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態にかかるX線診断装置のブロック図
【図3】本発明の実施の形態にかかるX線センサの外観を示す斜視図
【図4】本発明の実施の形態にかかるX線センサの断面図
【図5】本発明の実施の形態にかかるX線センサの光導電性膜の構成図
【図6】本発明の実施の形態にかかるX線センサの制御ブロック図
【図7】本発明の実施の形態にかかるX線センサの特性図
【図8】本発明の実施の形態にかかるX線センサの特性図
【図9】本発明の実施の形態にかかるX線センサの特性図
【図10】本発明の実施の形態にかかる電界緩和層の厚みと白キズの発生個数との関係を示す図
【図11】本発明の実施の形態にかかる電界緩和層の厚みとバイアス光源から照射される光の波長との関係を示す図
【図12】本発明の実施の形態にかかるX線センサの検査時の制御ブロック図
【図13】本発明の他の実施の形態にかかるX線センサの断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかるX線センサ、そのX線センサの検査方法、およびそのX線センサを用いたX線診断装置の実施の一形態について、添付図面を交えて説明する。なお添付図面は、理解を容易にするために模式的な図を示している。
【0017】
まず、この実施の形態にかかるX線診断装置の全体構成について、図1および図2を用いて説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態にかかるX線診断装置の構成図である。図1に示すように、X線診断装置は、X線源1と、X線源1から所定の間隔をおいて対向配置されるX線センサ2とを備え、X線源1から放射したX線を撮像対象者3に照射し、その撮像対象者3を通過したX線をX線センサ2に入射させることにより、撮像対象者3の内部の状態を目視可能とするものである。
【0019】
具体的には、側面視したときの形状が略半円状のアーム4の一端にX線源1が設けられ、該アーム4の他端にX線センサ2が設けられている。このようにしてX線源1とX線センサ2が所定の間隔をおいて対向配置されている。したがってアーム4によって、ベット5に横たわった撮像対象者3を挟んでX線源1とX線センサ2とを対向配置させることができるので、X線源1から放射されて撮影対象者3を通過したX線を、X線センサ2で検出することができる。
【0020】
アーム4は、本体ケース6に回動自在に取り付けられている。本体ケース6は、アーム4を回動させる駆動装置(図示せず)を内蔵している。このようにすることで、撮像対象者3の内部の状態を様々な角度から目視することが可能となる。
【0021】
図2は本発明の実施の形態にかかるX線診断装置のブロック図である。
【0022】
図2に示すように、X線源1はX線制御部7に接続されており、X線制御部7はコントローラ8に接続されている。コントローラ8は、X線診断装置全体の動作を統括的に制御するものである。X線制御部7は、コントローラ8からの指令信号に従って、X線源1によるX線の放射動作やX線の照射量を制御する。
【0023】
X線センサ2は画像処理部9に接続されている。画像処理部9は、X線センサ2から取り出された電気信号(光電変換信号)を検出して画像処理する。画像処理部9により処理された信号はコントローラ8に送信される。コントローラ8は、X線センサ2が検出したX線の光量(強度)に基づく画像、すなわち撮像対象者3の内部の状態を表示する画像をモニタ10に映し出す。
【0024】
またX線センサ2は、電子源制御部11にも接続されている。この電子源制御部11もコントローラ8に接続されている。電子源制御部11は、コントローラ8からの指令信号に従って、後述する電子源による電子線の照射動作や電子線の照射量を制御する。
【0025】
さらにX線センサ2は、バイアス光源制御部12にも接続されている。このバイアス光源制御部12もコントローラ8に接続されている。バイアス光源制御部12は、コントローラ8からの指令信号に従って、後述するバイアス光源による光の照射動作や光の照射量を制御する。
【0026】
本体ケース6に内蔵されているアーム4を回動させる駆動装置(図示せず)は移動制御部13に接続されており、移動制御部13はコントローラ8に接続されている。移動制御部13は、コントローラ8からの指令信号に従って、アーム4の回動動作を制御する。
【0027】
コントローラ8には、さらに入力部14が接続されている。コントローラ8は、入力部14から入力された指令に従って、X線診断装置全体の動作を統括的に制御する。
【0028】
続いて、この実施の形態にかかるX線センサ2について、図3ないし図6を用いて説明する。図3は本発明の実施の形態にかかるX線センサの外観を示す斜視図であり、図4は本発明の実施の形態にかかるX線センサの断面図であり、図5は本発明の実施の形態にかかるX線センサの光導電性膜の構成図であり、図6は本発明の実施の形態にかかるX線センサの制御ブロック図である。
【0029】
図3および図4に示すように、X線センサ2は、平面視したときの形状が矩形状の取り付け基板15を備える。また図4に示すように、取り付け基板15の主面上には、同じく矩形状の電子源16が設けられており、その電子源16の上部には、透光性基板17が配置されている。詳しくは、透光性基板17は、X線が入射される面(X線入射面)とは反対側の面が電子源16に向くように、取り付け基板15に対して対向配置される。図示しないが、透光性基板17のX線入射面とは反対側の面には透光性電極が形成されていて、その透光性基板17の透光性電極が形成されている面上に光導電性膜18が設けられている。
【0030】
さらに図3および図4に示すように、取り付け基板15の主面上において、電子源16と透光性基板17がカバー19で覆われており、そのカバー19内に、透光性基板17のX線入射面に光を照射するバイアス光源20が配置されている。詳しくは、バイアス光源20は、カバー19内の透光性基板17の投影領域から外れる位置に配置されている。
【0031】
図5に示すように、光導電性膜18は、透光性基板17の透光性電極21が形成されている面上に順次設けられた正孔注入阻止層22と、電界緩和層23と、X線や可視光などの照射によって発生した正孔をトラップする正孔トラップ層24と、電荷増倍機能を持つ光導電性の感度層25と、電子注入阻止層26とからなる。したがって、透光性基板17は、電子注入阻止層26が電子源16に向くように、取り付け基板15に対して対向配置される。これにより、電子源16は光導電性膜18の電子注入阻止層26側の面に向けて電子線を照射することができる。
【0032】
ここで、透光性電極21には酸化インジウム・スズ(ITO)や酸化スズなどが使用される。また、正孔注入阻止層22には酸化セリウム(CeO)が、電界緩和層23には非晶質セレン(a−Se)が、正孔トラップ層24には非晶質セレン(a−Se)とフッ化リチウム(LiF)が、感度層25には非晶質セレン(a−Se)が、電子注入阻止層26には三硫化アンチモン(Sb)がそれぞれ使用される。
【0033】
光導電性膜18に電界緩和層23と正孔トラップ層24が設けられているのは、正孔注入阻止層22などにキズや膜厚ムラが発生している場合でも、それによる白キズの発生を抑えることができるようにするためである。
【0034】
すなわち、正孔注入阻止層22などにキズや膜厚ムラが発生している状態では、X線が照射されていない時でも透光性電極21に接続される高圧電源から正孔が常時流入し、その流入した正孔が光導電性膜18の内部電界により加速・増倍して白キズとして現れてしまう。この問題に対して、透光性電極21と感度層25との間に正孔トラップ層24を設けることにより、正孔トラップ層24で正孔をトラップさせて、透光性電極21と正孔トラップ層24との間の電界を緩和させることができる。したがって、正孔注入阻止層22などにキズや膜厚ムラがある場合でも、高圧電源から流入した正孔が感度層25へ到達することを防止して、撮影画像に出現する白キズの個数を低減することができる。
【0035】
さらに、正孔注入阻止層22と正孔トラップ層24との間に配置された電界緩和層23により、透光性電極21と正孔トラップ層24との間の電界緩和領域を広げることができる。したがって、この電界緩和層23により、白キズの発生をより抑えることができる。また、この実施の形態では、電界緩和層23の厚みを、透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚みよりも厚くして、可視光用途のセンサの電界緩和層の厚み(30nm程度)よりも厚くしている。これにより、可視光用途のセンサよりも電界緩和効果を効果的に発揮させることができる。なお、可視光用途のセンサにおいても、透光性電極には酸化インジウム・スズ(ITO)や酸化スズなどが使用され、正孔注入阻止層には酸化セリウム(CeO)が使用され、電界緩和層には非晶質セレン(a−Se)が使用され、正孔トラップ層には非晶質セレン(a−Se)とフッ化リチウム(LiF)が使用され、感度層には非晶質セレン(a−Se)が使用され、電子注入阻止層には三硫化アンチモン(Sb)が使用される。
【0036】
また、バイアス光源20が設けられているのは、正孔トラップ層24による電界緩和効果をより効果的に発揮させるためである。すなわち、X線照射前にバイアス光源20から透光性基板17のX線入射面に光を照射することにより、バイアス光源20から照射された光によって発生する正孔を正孔トラップ層24でトラップさせて電界緩和効果を発現させることができる。したがって、キズや膜厚ムラの感度層25への影響を無くすことができる。
【0037】
図6に示すように、電子源16には、電子線を照射するための電圧Vdが供給される。さらに電子源16は、電子源制御部11に含まれるX走査ドライバ27とY走査ドライバ28に接続している。したがって、電子源16は、X走査ドライバ27とY走査ドライバ28により、光導電性膜18の電子注入阻止層26側の面に電子線を走査する。
【0038】
またX線センサ2は、図6に示すように、複数の開口が設けられたメッシュ29を備えてもよい。メッシュ29は、電子源16から照射される電子線を加速させたり、集束させたり、余剰電子を回収するために設けられる中間電極であり、電子源制御部11に含まれるメッシュ電圧印加部30に接続している。メッシュ電圧印加部30はメッシュ29に正電圧(メッシュ電圧)Vmeshを印加する。メッシュ29は、公知の金属材料、合金、半導体材料等で形成することができる。
【0039】
透光性電極21は、高電圧Vharpを供給する高電圧源31に接続している。この高電圧Vharpにより、光導電性膜18の感度層25に高電界がかかる。さらに透光性電極21は画像処理部9に接続している。画像処理部9は、上述したように、透光性電極21から取り出された光電変換信号を検出して画像処理する。光電変換信号のレベルは、透光性基板17のX線入射面に入射される光の光量(強度)に応じて変化する。
【0040】
続いて、この実施の形態にかかるX線診断装置の動作を説明する。この実施形態においては、撮影対象者3のX線撮影を行う前に、バイアス光源20から透光性基板17に向けて光を照射する。バイアス光源20には、例えば、波長が540nm(緑色)あるいは440nm(青色)の可視光を照射できる光源を用いる。
【0041】
このような初期操作を行う理由は、図5に示すように、透光性基板17のX線入射面の前に被写体が存在しないA部と、透光性基板17のX線入射面の前にX線の透過率が悪い被写体が存在するB部が発生した場合、A部とB部との間で正孔トラップ層24による電界緩和効果に差ができるためである。この電界緩和効果の差は、X線照射によって発生し正孔トラップ層24でトラップされる正孔の量に差ができ、透光性電極21から正孔トラップ層24までの電位に差ができるために起こる。
【0042】
A部とB部との間で電界緩和効果に差ができる現象を、図7ないし図9を用いて具体的に説明する。図7ないし図9は、透光性電極からの膜厚深さ方向への電圧の分布をそれぞれ示す。
【0043】
まず、初期状態では、図7に示すように、正孔トラップ層24で正孔がトラップされていないので電界緩和効果は現れず、A部、B部とも、透光性電極21から電子注入阻止層26までの電圧が膜厚深さ方向に線形的に下がる特性になる。
【0044】
そして、この初期状態から初回のX線照射の前までに、光導電性膜18の透光性基板17側の面の全体にバイアス光源20から光(バイアス光)を一様に照射した場合、図8に実線で示すように、A部、B部とも、正孔トラップ層24に十分な量の正孔がトラップされて電界緩和効果が発現する。つまり、正孔トラップ層24の電圧が上昇して、透光性電極21と正孔トラップ層24の電圧がほぼ同じになり、透光性電極21と正孔トラップ層24との間の電界がほぼゼロになる。そして、このように正孔トラップ層24の電圧が上昇したことにより、A部、B部ともに、正孔トラップ層24から電子注入阻止層26までの膜厚深さ方向の電圧の変化が急峻になる。
【0045】
一方、バイアス光が照射されない場合には、図8に破線で示すように、A部、B部とも、初期状態と同じく透光性電極21から電子注入阻止層26までの電圧が膜厚深さ方向に線形的に下がる特性になる。
【0046】
初回のX線照射後、すなわち2回目のX線照射前、A部では、初回のX線照射によって十分な量の正孔が正孔トラップ層24でトラップされるため、図9に示すように電界緩和効果が発現する。したがってA部では、バイアス光が照射されない場合でもX線照射によって電界緩和効果が発現する。
【0047】
一方、B部では、X線照射によって発生し正孔トラップ層24でトラップされる正孔の量が不十分となる。したがって、バイアス光が照射されない場合、不完全電界緩和が発現する。つまり、図9に破線で示すように、正孔トラップ層24の電圧が若干上昇するものの、透光性電極21と正孔トラップ層24との間の電圧が膜厚深さ方向に下がる。そのため、正孔トラップ層24から電子注入阻止層26までの膜厚深さ方向の電圧の変化は、A部に比べて急峻にはならない。
【0048】
したがって、バイアス光が照射されない場合、A部とB部との間で、正孔トラップ層24から電子注入阻止層26までの電圧の変化に差が生ずる。すなわち、正孔トラップ層24と電子注入阻止層26との間に配置された感度層25にかかる電界強度に差が生ずる。感度層25にかかる電界強度は、感度層25の感度と大きな関係があるため、A部とB部との間で感度層25にかかる電界強度に差が生ずると、同一の被写体を撮影してもA部とB部との間で信号レベルに差が出てしまう。すなわち、以前に撮影した被写体の履歴を引きずることになる。
【0049】
これに対して、2回目のX線照射前に、初回のX線照射前と同様にバイアス光を照射することにより、A部、B部ともに、電界緩和効果を発現させることができる。つまり、図9に実線で示すように、A部、B部ともに、正孔トラップ層24から電子注入阻止層26までの膜厚深さ方向の電圧の変化を急峻にさせることができる。
【0050】
以上のようにX線照射前にバイアス光源を用いて電界緩和効果を発現させることにより、照射履歴の影響を受けず、感度バラツキの無いX線センサを実現することができる。
【0051】
但し、正孔トラップ層24による正孔のトラップは不安定なものであるので、少なくともX線撮影の前には必ずバイアス光源20を点灯させて、X線センサのセンサ面全体で安定的に電界緩和効果を発現させることが望ましい。
【0052】
続いて、電界緩和層23の厚みについて説明する。上述したように、可視光用途のセンサの電界緩和層の厚みが30nm程度であるのに対して、この実施の形態では、電界緩和層23の厚みを、透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚みよりも厚くして、可視光用途のセンサの電界緩和層よりも厚くしている。
【0053】
すなわち、可視光用途のセンサの電界緩和層の厚みが30nm程度であるのは、可視光用途のセンサにおいては、全ての可視光が感度層まで到達する必要があるためであり、これに対して、X線センサにおいては、X線が可視光と比較して透過力が高いために、電界緩和層の厚みを可視光用途のセンサの電界緩和層に比べて厚くすることが可能となる。この実施の形態においては、透光性電極21の厚みは30nm程度、正孔注入阻止層22の厚みは30nm程度であり、したがって透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚みは、ほぼ60nm程度となっている。
【0054】
以上説明したように、電界緩和層23の厚みを、透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚みよりも厚くして、可視光用途のセンサの電界緩和層よりも厚くするだけでも、可視光用途のセンサよりも電界緩和効果を効果的に発揮させることができるが、この実施の形態では、電界緩和層23の厚みを、透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚み(60nm程度)よりも十分に肉厚に設定している。具体的には、1.5μmから6μmまでの範囲から選択した厚みを設定している。
【0055】
図10に、この実施の形態におけるX線センサの電界緩和層23の厚みと白キズの発生個数との関係を示す。この白キズの発生個数は、X線もバイアス光も照射していない状態で測定したものである。図10に示すように、白キズの発生個数は、電界緩和層23の厚みが30nmから1.5μmまでの範囲では急峻に減少し、電界緩和層23の厚みが1.5μmよりも厚くなると、その減少カーブが緩やかになる。
【0056】
つまり、電界緩和層23の厚みを、透光性電極21と正孔注入阻止層22とからなる層の厚み(60nm程度)よりも十分に肉厚な1.5μm以上にすることにより、正孔注入阻止層などに発生したキズや膜厚ムラが感度層25に与える影響をより効果的に低減することができる。
【0057】
また、電界緩和層23の厚みは、バイアス光源20から照射される光が感度層25に到達しないようにする厚みに設定するのが望ましい。すなわち、バイアス光源20から照射される光が感度層25に到達しないようにすることで、バイアス光源を連続点灯しても、光電変換信号に対してバイアス光源が影響しなくなる。したがって、バイアス光源の点灯タイミングを制御する必要がなくなる。具体的には、X線照射前ごとにバイアス光源を点灯したり、X線動画撮影のブランキング期間ごとにバイアス光源を点灯しなくて済む。
【0058】
図11に、この実施の形態における電界緩和層の厚みとバイアス光源から照射される光の波長との関係を示す。図11に示すように、波長440nmの青色光や波長540nmの緑色光をバイアス光源20から照射する場合、電界緩和層23の厚みを1μm以上にすれば、バイアス光源20から照射された光が感度層25に到達することを阻止することができる。
【0059】
したがって、この実施の形態のように電界緩和層23の厚みを1.5μm以上に設定した場合、バイアス光源20から照射する光として青色光や緑色光を選択すれば、バイアス光源20から照射される光が感度層25に到達することを阻止することが十分に可能となる。なお、図11に示すように、X線は殆んど電界緩和層23を透過し、減衰しない。
【0060】
以上のように、電界緩和層23の厚みを十分に肉厚にすることで、白キズの発生数をより低減できる。しかし、その反面、電界緩和層23を厚くし過ぎると、可視光では電界緩和層23を透過できなくなるため、X線センサの検査にX線が必要になり、X線の遮蔽機構を含め検査装置が大掛かりになる。したがって、より容易にX線センサの検査を実施するためには、電界緩和層23の厚みに制限を加えて、可視光を用いた検査を可能にする必要がある。
【0061】
そこで、この実施の形態では、電界緩和層23の厚みを6μm以下に制限している。すなわち、図11に示すように、赤色光は、電界緩和層23の厚みが6μm程度までは透過可能であるので、電界緩和層23の厚みを6μm以下に設定することにより、可視光である波長620nmの赤色光を用いたX線センサの検査が可能となる。
【0062】
以下、この実施の形態におけるX線センサの検査方法について図12を交えて説明する。図12は、赤色光を用いたX線センサの検査時の制御ブロック図である。
【0063】
まず、透光性電極21に電圧を印加して、光導電性膜18に対して50V/μm〜100V/μmの電界をかけた状態で、光源32から透光性基板17のX線入射面の全面に波長620nmの赤色光を一様に照射する(第1工程)。
【0064】
この赤色光は、感度層25に入射する。よって、この赤色光によって感度層25に電荷が発生する。次に、X走査ドライバ27とY走査ドライバ28により電子源16をコントロールして、光導電性膜18の電子注入阻止層26側の面に電子線を走査する。この電子線の走査によって、赤色光を照射することにより感度層25に発生した電荷の量に応じた電気信号、すなわち感度層25に入射した赤色光の強度に応じた電気信号が画像処理部9へ読み出される(第2工程)。
【0065】
この読み出された電気信号は、画像処理部9によって画像処理された後、コントローラ8によって映像信号としてモニタ10に表示される。この結果、モニタ10の表示画面に、白キズが白く、黒キズが黒く映る。したがって、可視光である赤色光を用いた光導電性膜18のキズの評価が可能となる。
【0066】
以上のように、この実施の形態によれば、電界緩和層23の厚みを可視光用途のセンサの電界緩和層よりも十分に厚くしたので、例えば正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、電界緩和効果を効果的に発揮させて、撮影画像に出現する白キズの個数(白キズの発生数)を低減することができる。
【0067】
さらに、この実施の形態によれば、X線センサの品質を評価する際に、可視光である波長620nmの赤色光を用いることが可能であるので、X線を用いた評価と比較すると、容易にX線センサの評価が可能となる。
【0068】
続いて、X線センサの他の実施の形態について説明する。この他の実施の形態にかかるX線センサは、図13に示すように、導光板33が透光性基板17の上部に配置されている点が、上述した実施の形態と異なる。すなわち、この他の実施の形態では、図13に示すように、バイアス光源20から放射される光が導光板33の側面へ入射される。そして、導光板33が、バイアス光源20から受光した光を、透光性基板17のX線入射面全体に均一に照射する。これにより、正孔トラップ層24に対してバイアス光源20からの光を均一に照射することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明にかかるX線センサおよびそれを用いたX線診断装置によれば、正孔注入阻止層などにキズや膜厚ムラが発生した場合でも、それによる白キズの出現を抑制することができる。さらに本発明にかかるX線センサの検査方法によれば、可視光である波長620nmの赤色光を用いてX線センサの品質を評価することが可能となるので、X線を用いた検査方法と比較してX線センサの品質の評価が容易となる。したがって、本発明にかかるX線センサ、そのX線センサの検査方法、およびそのX線センサを用いたX線診断装置は、X線を用いて検査対象体の内部状態を観察するための機器に有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 X線源
2 X線センサ
3 撮像対象者
4 アーム
5 ベッド
6 本体ケース
7 X線制御部
8 コントローラ
9 画像処理部
10 モニタ
11 電子源制御部
12 バイアス光源制御部
13 移動制御部
14 入力部
15 取り付け基板
16 電子源
17 透光性基板
18 光導電性膜
19 カバー
20 バイアス光源
21 透光性電極
22 正孔注入阻止層
23 電界緩和層
24 正孔トラップ層
25 感度層
26 電子注入阻止層
27 X走査ドライバ
28 Y走査ドライバ
29 メッシュ
30 メッシュ電圧印加部
31 高圧電源
32 光源
33 導光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、
前記透光性基板の一方の面上に形成された透光性電極と、
前記透光性基板の前記透光性電極が形成された一方の面上に順次設けられた正孔注入阻止層と、電界緩和層と、正孔トラップ層と、電荷増倍機能を持つ光導電性の感度層と、電子注入阻止層とを含む光導電性膜と、
を備え、前記電界緩和層の厚みが、前記透光性電極と前記正孔注入阻止層とからなる層の厚みよりも厚いことを特徴とするX線センサ。
【請求項2】
前記電界緩和層の厚みが60nm以上であることを特徴とする請求項1記載のX線センサ。
【請求項3】
前記光導電性膜の前記電子注入阻止層側の面に電子線を照射する電子源を備えることを特徴とする請求項1もしくは2のいずれかに記載のX線センサ。
【請求項4】
前記電子源が設けられた取り付け基板をさらに備え、前記電子源に前記電子注入阻止層が向くように、前記透光性基板が前記取り付け基板に対して対向配置されていることを特徴とする請求項3記載のX線センサ。
【請求項5】
前記透光性基板を覆うカバーと、前記透光性基板のX線が入射される他方の面に光を照射するバイアス光源と、をさらに備え、前記バイアス光源が前記カバー内に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のX線センサ。
【請求項6】
前記バイアス光源が、前記透光性基板の投影領域から外れる位置に配置されていることを特徴とする請求項5記載のX線センサ。
【請求項7】
前記電界緩和層は、前記バイアス光源から照射される光が前記感度層に到達するのを阻止する厚みを有することを特徴とする請求項5もしくは6のいずれかに記載のX線センサ。
【請求項8】
前記電界緩和層の厚みが6μm以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のX線センサ。
【請求項9】
前記電界緩和層の厚みが1.5μm以上で且つ6μm以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のX線センサ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のX線センサの検査方法であって、
前記透光性電極に電圧を印加して前記光導電性膜に電界をかけた状態で、前記透光性基板のX線が入射される他方の面に赤色光を照射する第1工程と、
前記赤色光を照射することにより前記光導電性膜の前記感度層に発生した電荷の量に応じた電気信号を前記光導電性膜の外部へ取り出す第2工程と、
を具備することを特徴とするX線センサの検査方法。
【請求項11】
X線源と、前記X線源から所定の間隔をおいて対向配置されたX線センサとを備え、前記X線センサとして、請求項1ないし9のいずれかに記載のX線センサを用いたことを特徴とするX線診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−109362(P2012−109362A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256366(P2010−256366)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】