説明

X線撮像装置およびX線撮像方法

【課題】屈折コントラスト法に替わるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供する。
【解決手段】被検知物によるX線の位相変化を用いて撮像するX線撮像装置であって、X線発生手段101から発生したX線を空間的に分割する分割素子103と、分割素子により分割されたX線の入射により第1の蛍光を生じる第1の蛍光体が複数配列された第1の蛍光体アレイ105と、第1の蛍光体アレイを透過したX線の入射により前記第1の蛍光とは異なるスペクトルを有する第2の蛍光を生じる第2の蛍光体が複数配列された第2の蛍光体アレイ106と、前記第1の蛍光と前記第2の蛍光を検出する検出手段107と、を有し、第2の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じて蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線を用いたX線撮像装置、およびX線撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を用いた非破壊検査法は工業利用から医療利用まで幅広い分野で用いられている。X線は波長が約1pm〜10nm(10−12〜10−8m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(約2keV〜100keV)を硬X線、波長の長いX線(約0.1keV〜2keV)を軟X線という。
【0003】
例えば、X線による吸収能の違いを用いた吸収コントラスト法ではX線の透過能の高さを利用し、鉄鋼材料などの内部亀裂検査や手荷物検査などのセキュリティ分野の用途として実用化されている。一方、X線の吸収によるコントラストが形成されにくい低密度の被検知物に対しては、被検知物によるX線の位相変化を検出するX線位相イメージングが有効である。
【0004】
各種X線位相イメージングにおいて、特許文献1に示される屈折コントラスト法は、X線の被検知物による屈折効果を利用した方法である。この屈折コントラスト法は、微焦点のX線源を用い、被検知物と検出器の距離を離して撮像される。この方法によれば、X線の被検知物による屈折効果から被検知物の輪郭が強調されて検出される。また、この方法は屈折効果を利用するため、多くのX線位相イメージング手法の場合と異なりシンクロトロン放射光のような干渉性の高いX線を必ずしも必要としないという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−102215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された屈折コントラスト法では、X線の被検知物による屈折効果における屈折角が非常に小さく、輪郭強調した像を得るには検知物と検出器の距離を十分に離す必要性がある。そのため、特許文献1の方法では、装置の大型化を招くという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、屈折コントラスト法に替わるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るX線撮像装置は、被検知物によるX線の位相変化を用いて撮像するX線撮像装置であって、X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子と、前記分割素子により分割されたX線の入射により第1の蛍光を生じる第1の蛍光体が複数配列された第1の蛍光体アレイと、前記第1の蛍光体アレイを透過したX線の入射により前記第1の蛍光とは異なるスペクトルを有する第2の蛍光を生じる第2の蛍光体が複数配列された第2の蛍光体アレイと、前記第1の蛍光と前記第2の蛍光を検出する検出手段と、を有し、前記第2の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じて蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈折コントラスト法に替わるX線撮像装置およびX線撮像方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1におけるX線撮像装置の構成例を説明する図。
【図2】本発明の実施形態1及び2における蛍光体アレイの一部分について説明する図。
【図3】本発明の実施形態1における演算処理の方法について説明するフロー図。
【図4】本発明の実施形態1及び2における蛍光体及び検出手段の一部分について説明する図。
【図5】本発明の実施形態2における蛍光体アレイの一部分について説明する図。
【図6】本発明の実施形態2における演算処理の方法について説明するフロー図。
【図7】本発明の実施形態3における蛍光体及び検出手段の一部分について説明する図。
【図8】本発明の実施形態3における演算処理の方法について説明するフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態では、発光量勾配を有する蛍光体を複数配列した蛍光体アレイを用いて屈折効果による位置変化に関する情報を取得する。ここで、発光量勾配を有する蛍光体とは、X線の入射位置により、蛍光の発光量が変化する蛍光体のことをいう。この蛍光体は、形状を連続的に変化させるか、または、単位体積あたりの発光量を連続的に変化させることにより構成することができる。なお、本明細書では、「連続的」との用語は「段階的」の概念を含むものとして取り扱う。例えば、ステップ状に発光量が変化している形態も本発明に含まれる。本発明の実施形態では、上記のように発光量勾配を有する蛍光体を用いたことから、上記屈折コントラスト法の問題点を解決することができる。
【0012】
本発明者らがこの撮像方法について検討を進めたところ、異なる発光スペクトルを有する2種以上の蛍光体を用いれば、1種類の蛍光体で構成したものよりも多くの情報を1回の撮像で取得できることに思い至った。
【0013】
例えば、実施形態1で説明するように、X方向に発光量勾配を有する第1の蛍光体と、Y方向に発光量勾配を有する第2の蛍光体を用いて、1度の撮像で同一領域のXY方向の位相勾配を測定することができる。
【0014】
また、例えば、実施形態2で説明するように、発光量勾配を持たない第1の蛍光体と、所定の方向に発光量勾配を有する第2の蛍光体とを用いて、1度の撮像で同一領域の透過率と位相勾配を測定することもできる。
【0015】
また、例えば、実施形態3で説明するように、実施形態1と実施形態2を組合せてXY方向の位相勾配と透過率を測定することもできる。
【0016】
以下、これらの具体的な実施形態について説明する。
【0017】
(実施形態1)
(装置の構成)
図1は本発明のX線撮像装置を示した図である。101はX線源(X線発生手段)、102は単色化手段、103はX線分割素子、104は被検知物、105は蛍光体アレイ(第1の蛍光体アレイ)、106は蛍光体アレイ(第2の蛍光体アレイ)である。また、107は検出器(光強度検出手段)、108は演算手段、109は表示手段である。110はX線分割素子を移動するための移動手段、111は被検知物104を移動するための移動手段、112は蛍光体105、106を移動するための移動手段である。
【0018】
X線源101から発生されたX線は、X線分割素子103により空間的に分割され、被検知物104によって位相が変化し、その結果、屈折する。屈折したX線は蛍光体アレイ105、106に入射する。蛍光体アレイ105、106から生じた蛍光の強度は検出器107により検出される。演算手段107は、検出器106により得た蛍光の強度から被検知物104の微分位相像や位相像等の位相情報を演算する。演算手段107から位相情報が出力され、ディスプレイ等の表示手段109に表示される。
【0019】
(X線源、単色化手段)
X線源は実験室で用いられるX線管や大型放射光施設の放射光源であってもよい。また、X線源101からのX線が白色X線であって、単色X線が必要な場合には、X線源101と被検知物104との間に単色化手段102を配置しても良い。単色化手段102としては、スリットと組み合わせたモノクロメータやX線多層膜ミラーなどがある。
【0020】
(分割素子)
分割素子103はX線源101から発生されたX線を空間的に分割する。すなわち、分割素子103を透過したX線はX線の束となる。このX線分割素子103はラインアンドスペースを有したスリットアレイ形状であっても、2次元的に配列された穴を有しているものであっても良い。また、X線分割素子103に設けられたスリットはX線を透過する形態であれば、光学素子の基板を貫通しなくとも良い。X線分割素子103の材料としてはX線の吸収率が高いPt、Au、Pb、Ta、Wなどから選択される。あるいは、これらの材料の合金であってもよい。
【0021】
X線分割素子103により分割されたX線のラインアンドスペースの周期は例えば検出器107の位置では検出器107の画素サイズ以上である。すなわち、X線により発光した蛍光を検出する検出器107を構成する画素の大きさは、X線分割素子103により分割されたX線の空間的な周期以下である。
【0022】
(被検知物)
検知物104としては、人体、人体以外の生体、無機材料、有機材料、無機有機複合材料などが挙げられる。なお、被検知物104を移動する移動手段(不図示)を別途設けてもよい。この移動手段により、被検知物104を適宜移動することができるため、被検知物104の特定個所についての像を得ることができる。
【0023】
(蛍光体アレイ)
次に、蛍光体アレイ105、106について説明する。
【0024】
図2は本実施形態における蛍光体アレイ105(第1の蛍光体アレイ)を説明するための図である。201は基準X線(被検知物104が無い場合)の光路、202は被検知物104により屈折したX線の光路である。203は発光量勾配を有する蛍光体アレイ(第1の蛍光体アレイ)、204は蛍光体(第1の蛍光体)、205はX線により発光した蛍光体204からの蛍光である。
【0025】
蛍光体204はX線照射によって蛍光205を発光する材料で構成され、且つ素子内で図2に示したX方向に連続的に蛍光の発光量分布を付与したものである。X方向に連続的な発光量分布を有することを図2の右側に図示している。
【0026】
例えば、上記発光材料としては、例えば一般にX線用のシンチレーターとして使用されているNaI(Tlドープ)、CsI(Tl)CsI(Naドープ)、CsI(ドープなし)、LSO(Ceドープ)、YAP(Ceドープ)、GSO(Ceドープ)などから選択することができる。発光量分布を付与するためには、蛍光体204内での発光材料の濃度を変化させればよい。また、発光に寄与するドーパント量を変化させることによっても、発光量分布を付与することが出来る。これにより、X線の位置変化量ΔXに応じた蛍光スペクトルの強度分布J1(X)を与えることが出来る。
【0027】
一方、蛍光体アレイ106(第2の蛍光体アレイ)は、蛍光体アレイ105(第1の蛍光体アレイ)とは発光スペクトルおよび発光量勾配の方向が異なるアレイとする。すなわち、蛍光体アレイ105はX方向に対して連続的に蛍光の発光量分布を付与したが、蛍光体アレイ106は、X方向とは方向が異なるY方向に対して連続的に蛍光の発光量分布を付与する。これにより、蛍光体アレイ106では、X線の位置変化量ΔYに応じた蛍光スペクトルの強度分布J2(Y)を与えることが出来る。
【0028】
なお、上記では、入射するX線に対して単位体積当たりの発光量が連続的に変化している蛍光体の例を示したが、入射するX線に対して垂直方向に厚みが連続的に変化した蛍光体を用いてもよい。すなわち、三角柱形状の蛍光体を配列したものであってもよい。
【0029】
図4は分割素子103により分割された一つのX線に対応する、蛍光体アレイ105と106と、検出器107の構成を説明するための概念図である。401は蛍光体アレイ105を構成する蛍光体であり、X方向に発光量分布を有する。402は蛍光体アレイ106を構成する蛍光体であり、Y方向に発光量分布を有している。
【0030】
X線404は被検知物を透過したX線で蛍光体401及び402の蛍光を励起させる。405は蛍光体401から発光した蛍光でJ1(X)の強度分布を、406は蛍光体402から発光した蛍光でJ2(Y)の強度分布を有する。403は検出器107の検出素子で、蛍光405及び406を検出する。
【0031】
このように、蛍光405を検出素子403で検出するためには、蛍光体402は蛍光405に対して透過性を有していることが好ましい。例えば、CsI(Tlドープ)からは、中心波長約550nmの蛍光が得られる。また、CsI(Naドープ)からは、中心波長約420nmの蛍光が得られる。CsI(Naドープ)は約250nm以下の光に透過性があるため、CsI(Tlドープ)からの蛍光を透過することができる。そのため、蛍光体401としてCsI(Tlドープ)を用い、蛍光体402としてCsI(Naドープ)を用いることができる。また、CsI(ドープなし)からは、中心波長約280nmの蛍光が得られ、また約350nm以下の光に透過性がある。そのため、3層構成にする場合には、X線の入射側から、CsI(Tlドープ)、CsI(Naドープ)、CsI(ドープなし)の順序で蛍光体を配列することもできる。
【0032】
(検出器)
検出器107としては、蛍光体アレイ105および106からの蛍光が別々に検出可能に構成されていれば良い。例えば、RGBの各カラーフィルターを有する素子がベイヤー配列した固体撮像素子を用い、蛍光体アレイ105および106に対してRGGBの四要素を用いることができる。
【0033】
検出器107の種類としては、紫外光や可視光ではSiを用いたCCDセンサやCMOSセンサなどの固体撮像素子、赤外光ではInSbやCdHgTeなどの化合物半導体を用いた固体撮像素子を用いたカメラなどを用いることができる。
【0034】
検出器107は、蛍光体アレイと近接していても良いし、一定の間隔を隔てて配置しても良い。検出器107と蛍光体アレイ106は、その間をレンズや反射ミラーなどの光学素子で接続されていてもよい。これらの光学素子と組合せることで、蛍光体アレイ106から透過及び散乱してきたX線を検出器に入らないようにし、検出データのS/Nを向上することができる。
また、被検知物104によるX線の位置変化量を精度良く測定するために、画素毎に蛍光体と検出素子とがファイバープレートで一体化されていてもよい。
また、蛍光体アレイ105と、106と、検出器107との各間に、蛍光体アレイ105及び106から得られる蛍光スペクトルの中心波長に透過性を有するバンドパスフィルターを設けてもよい。
【0035】
(移動手段)
X線分割素子103と、被検知物104と、蛍光体アレイ105、106を移動させる移動手段110、111、112はステッピングモータなどから選択される。これにより被検知物104は適宜移動することができるため、被検知物104の特定個所についての像を得ることができる。
【0036】
(演算処理)
続いて、本実施形態における演算処理の方法について説明する。
【0037】
図3は、演算処理107のフローである。まず第1のステップであるS100において、蛍光体アレイ105及び106から発生した蛍光スペクトルを取得する。
【0038】
次に、第2のステップであるS101において、各X線による蛍光スペクトルの強度情報から基準X線201に対する位置変化量(ΔX、ΔY)を算出する。この位置変化量(ΔX、ΔY)は、蛍光体アレイを作製する際に発光量の勾配を予め決定しておき、実際測定した蛍光体の発光量の差から算出すればよい。
【0039】
また、予め作成しておいたデータベースを参照して位置変化量を決定してもよい。作製上の誤差や、発光効率の場所依存、蛍光体自身による蛍光の吸収など、蛍光体へのX線の入射位置に対して蛍光スペクトルの強度分布(J1(X)及びJ2(Y))が設計通りの相関関係とならないことが考えられる。そこで、屈折したX線404の位置変化量を精度良く測定するためには、予め蛍光体401及び402のX線照射位置変化量X及びYに対する蛍光スペクトルの強度分布(J1(X)及びJ2(Y))を測定し、データベースを作成しておくことが望ましい。具体的には、被検知物104がない状態で分割素子103或いは蛍光体アレイ105と106をX−Y方向に走査することで蛍光体401および402に入射するX線の位置を変化(ΔX及びΔY)させる。そして、蛍光体401および402からの蛍光スペクトル405および406を検出素子403により測定することでデータベースを作成することが出来る。
【0040】
位置変化量(ΔX、ΔY)と、被検知物104と蛍光体アレイ105及び106との距離(Z)を用いて各X線の屈折角(Δθx、Δθy)は式(1)及び(2)で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
【数2】

【0043】
次に、第3のステップであるS102において、上記式(1)及び(2)を用いて各X線の屈折角(Δθx、Δθy)を算出する。屈折角度(Δθx、Δθy)と微分位相(dφ/dx、dφ/dy)とは式(3)及び(4)の関係がある。
【0044】
【数3】

【0045】
【数4】

【0046】
λはX線の波長であり連続X線を用いる場合は実効波長を意味する。
【0047】
次に、第4のステップであるS103において、上記式(3)及び(4)を用いて各X線の微分位相(dφ/dx、dφ/dy)を演算して算出する。
【0048】
次に、第5のステップであるS104において、上記演算結果から得られた各微分位相(dφ/dx、dφ/dy)をX方向及びY方向に積分することによって位相(φ)を算出する。
【0049】
次に、第6のステップであるS105のステップにおいては、この様に算出された各微分位相(dφ/dx、dφ/dy)および位相(φ)を出力し、表示手段109に表示することができる。
【0050】
本実施形態では上記の構成により、被検知物104での微量の屈折変化量、微分位相量、位相量を求めることができる。この手法によれば、被検知物と検出器間距離を短くすることができ、装置の小型化が可能となる。
【0051】
(実施形態2)
本実施形態では、実施形態1で説明した蛍光体アレイ105(第1の蛍光体アレイ)がX線の入射位置に対して、蛍光の発光量が変化しない蛍光体が並べられた構成を有する。すなわち、本実施形態では、被検知物の吸収効果による透過X線強度を検出するための蛍光体アレイと、屈折効果によるX線の位置変化量を検出するための蛍光体アレイとが設けられていることが特徴である。発光量勾配を有する蛍光体アレイのみを用いた場合、検出された蛍光の強度変化量が被検知物の吸収効果によるものなのか、屈折効果によるものなのかが判別できない。そのため、本実施形態は、被検知物の吸収が無視出来ない場合において有効である。
【0052】
本実施形態のX線撮像装置において、装置の基本構成は実施形態1で説明した図1と同じである。先ず、図5において、本実施形態の蛍光体アレイ105の構成例について説明する。図5は、図1に示した蛍光体アレイ105の一部分を示した図である。
【0053】
501は基準X線(被検知物104がない場合)の光路、502は被検知物104により屈折したX線の光路を示している。蛍光体アレイ503は、蛍光体504が並べられて構成されている。蛍光体504は、X線照射によって蛍光505を発光する材料であって、被検知物104を透過させた際に生じるX線の入射位置に対するX線による発光量(J3)が一定である。すなわち、X線の入射位置によって蛍光の発光量が変化しないように構成されている。
【0054】
また、蛍光体としては実施形態1と同様の材料を設けることができる。蛍光体アレイ105から発光した蛍光を検出手段107に導くために、蛍光体アレイ106は蛍光体アレイ105から発光した蛍光スペクトルの波長領域において透過性を有していることが好ましい。
【0055】
なお、上記において、発光量が変化しないように構成されている蛍光体とは、X線の入射位置の変化によって発光量が実質的に変化しない蛍光体のことをいう。すなわち、作製上および計測上における誤差範囲内での変動は許容される。
【0056】
続いて、本実施形態における演算処理の方法について説明する。
【0057】
図6は、演算処理107のフローである。まず第1のステップであるS200において、蛍光体アレイ105及び106から発生した蛍光スペクトルを取得する。
【0058】
次に、第2のステップであるS201において、各X線の被検知物104による吸収量を算出する。具体的には、予め被検知物104が無い状態で求めた蛍光体アレイ105からの蛍光スペクトルの強度情報505(J3)と、被検知物104を透過させることによって得られる蛍光スペクトルの強度情報505(J3‘)の比を求める。被検知物104によるX線の吸収量Aは、式(5)で表される。
【0059】
【数5】

【0060】
次に、第3のステップであるS202において、被検知物104によるX線の位置変化量を算出する。具体的には、蛍光体アレイ106からの強度情報(J2‘(Y))は、X線の吸収の影響により発光強度が低下しているため、吸収量Aで除算することで補正を行う。そして、予め被検知物104が無い状態で求めた蛍光体アレイ106からの蛍光スペクトルの強度情報(J2(Y))のデータベースを参照して、その補正した強度情報(J2’(Y)/A)から基準X線201に対する位置変化量(ΔY)を算出する。
【0061】
次に、第4のステップであるS203において、実施形態1と同様に、式(2)を用いて各X線の屈折角(Δθy)を算出する。
【0062】
次に、第5のステップであるS204において、実施形態1と同様に、式(4)を用いて各X線の微分位相(dφ/dy)を演算して算出する。
【0063】
次に、第6のステップであるS205において、上記演算結果から得られた各微分位相(dφ/dy)をY方向に積分することによって位相(φ)を算出する。
【0064】
次に、第7のステップであるS204のステップにおいては、この様に算出された各微分位相(dφ/dy)および位相(φ)を出力し、表示手段109に表示することができる。
【0065】
このような構成により、微小なX線の位置変化を検出できるため、被検知物104と検出器107の距離を長く取る必要性がなく装置の小型化が出来る。また、分割素子103を用いることにより、微分位相量、位相量を定量化することができる。また、蛍光体アレイ105を用いた被検知物104によるX線の吸収量を算出し、蛍光体アレイ106により得られる情報を補正し、より正確な微分位相量や、位相量を算出することができる。
【0066】
なお、上記では蛍光体アレイ106がY方向に勾配を有していたが、X方向に勾配を有するアレイとしてもよい。
【0067】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態1と実施形態2を組み合わせた形態である。すなわち、実施形態1で説明した2方向に発光量勾配を有する2つの蛍光体アレイと、実施形態2で説明した被検知物による吸収量を測定する蛍光体アレイを用いた構成例である。
【0068】
図7は分割素子103により分割された一つのX線に対応する、上記3つの蛍光体アレイと検出器107の構成を説明するための図である。701は透過率(吸収量)を測定するための第3の蛍光体、702はX方向に発光量勾配を有する第1の蛍光体、703はY方向に発光量分布を有する第2の蛍光体である。被検知物を透過したX線705は蛍光体701及び702、703から蛍光を励起させる。706は蛍光体701から発光した蛍光でJ3の強度分布を、707は蛍光体702から発光した蛍光でJ1(X)の強度分布を、708は蛍光体703から発光した蛍光でJ2(Y)の強度分布を有する。704は検出器107の検出素子で、蛍光706及び707、708を検出する。
【0069】
予め蛍光体701及び702、703のX線照射位置変化量X及びYに対する蛍光スペクトルの強度分布(J3及びJ1(X)、J2(Y))を測定し、データベースを作成しておくことが望ましい。これにより、屈折したX線705の位置変化量を精度良く測定することができる。具体的には、被検知物104がない状態で分割素子103あるいは3つの蛍光体アレイをX−Y方向に走査することで蛍光体701及び702、703に入射するX線の位置を変化(ΔX及びΔY)させる。そして、蛍光体701及び702、703からの蛍光スペクトル706及び707、708を検出素子704により測定することで上記データベースを作成することが出来る。
【0070】
したがって、X線の被検知物104による吸収量および位置変化量を蛍光スペクトルの強度分布に変換し検出することにより、被検知物104での微量の屈折変化量を求めることができる。これら3つの蛍光体アレイを用いることにより被検知物−検出器間距離を短くすることができるため装置の小型化が可能となる。続いて、本実施形態における演算処理の方法について説明する。
【0071】
図8は、演算処理107のフローである。まず第1のステップであるS300において、上記3つの蛍光体アレイから発生した蛍光スペクトルを取得する。
【0072】
次に第2のステップであるS301において、各X線の被検知物104による吸収量を算出する。具体的には、予め被検知物104が無い状態で求めた蛍光体アレイ105より被検知物側の蛍光体アレイからの蛍光スペクトルの強度情報505(J3)と、被検知物104を透過させることによって得られる蛍光スペクトルの強度情報505(J3‘)の比を求める。実施形態2と同様に、式(5)を用いて、被検知物104によるX線の吸収量Aを算出する。
【0073】
次に第3のステップであるS302において、被検知物104によるX線の位置変化量を算出する。具体的には、被検知物104を透過して得られる強度情報205(J1‘(X)およびJ2’(Y))は、X線の吸収の影響により発光強度が低下しているため、吸収量Aで除算することで補正を行う。そして、予め被検知物104が無い状態で求めた蛍光体アレイ106からの蛍光スペクトルの強度情報205(J1(X)およびJ2(Y))のデータベースを参照して、その補正した強度情報(J1‘(X)/AおよびJ2’(Y)/A)から基準X線201に対する位置変化量(ΔXおよびΔY)を算出する。
【0074】
次に、第4のステップであるS303において、実施形態1と同様に、式(1)及び(2)を用いて各X線の屈折角(Δθx、Δθy)を算出する。
次に、第5のステップであるS304において、実施形態1と同様に、式(3)及び(4)を用いて各X線の微分位相(dφ/dx、dφ/dy)を演算して算出する。
次に、第6のステップであるS305において、上記演算結果から得られた各微分位相(dφ/dx、dφ/dy)をX及びY方向に積分することによって位相(φ)を算出する。
【0075】
なお、S304のステップにおいては、この様に算出された各微分位相像(dφ/dx、dφ/dy)、位相像(φ)、吸収像は表示手段109によって表示することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
X線源、分割素子、蛍光体アレイ、検出器を同期させて被検知物1103のまわりを移動させる可動手段を用いて、被検知物からの全投影データを得ることもできる。全投影データにおける位相像からコンピューテッドトモグラフィーにおける画像再構成法(たとえばフィルタ逆投影法など)により、位相(φ)の断層像を得る。これにより、各微分位相像(dφ/dx、dφ/dy)、位相像(φ)の三次元像を構成することができる。また、X線の入射位置によって発光量が変化しない蛍光体を用いれば、吸収像の三次元像も構成することもできる。
【0077】
なお、分割素子、蛍光体アレイ、検出器を固定し、被検知物を回転させて投影データを得ても構わない。
【符号の説明】
【0078】
101 X線源
102 単色化手段
103 分割素子
104 被検知物
105 蛍光体アレイ
106 蛍光体アレイ
107 検出器
108 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知物によるX線の位相変化を用いて撮像するX線撮像装置において、
X線発生手段から発生したX線を空間的に分割する分割素子と、
前記分割素子により分割されたX線の入射により第1の蛍光を生じる第1の蛍光体が複数配列された第1の蛍光体アレイと、
前記第1の蛍光体アレイを透過したX線の入射により前記第1の蛍光とは異なるスペクトルを有する第2の蛍光を生じる第2の蛍光体が複数配列された第2の蛍光体アレイと、
前記第1の蛍光と前記第2の蛍光を検出する検出手段と、を有し、
前記第2の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じて蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記第1の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じてX線による蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有し、
前記第1の蛍光体における発光量勾配の方向と前記第2の蛍光体における発光量勾配の方向とが異なることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記第1の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じてX線による蛍光の発光量が変化しないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記分割素子により分割されたX線の入射により第3の蛍光を生じる第3の蛍光体が複数配列された第3の蛍光体アレイを更に有し、
前記第3の蛍光のスペクトルは、前記第1の蛍光のスペクトルおよび前記第2の蛍光のスペクトルとは異なり、
前記検出手段は、前記第3の蛍光を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記検出手段により検出された蛍光の強度から、前記被検知物の微分位相像または位相像を演算する演算手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記第2の蛍光体は、入射するX線に対して垂直方向に厚みが連続的に変化しているか、または、単位体積当たりの発光量が連続的に変化していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記第1の蛍光体は、入射するX線に対して垂直方向に厚みが連続的に変化しているか、または、単位体積当たりの発光量が連続的に変化していることを特徴とする請求項2に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記第1の蛍光体は、入射するX線に対して垂直方向に厚み一定であるか、または、単位体積当たりの発光量が一定であることを特徴とする請求項3に記載のX線撮像装置。
【請求項9】
被検知物によるX線の位相変化を用いて撮像するX線撮像装置に使用するX線撮像方法において、
空間的に分割されたX線を被検知物に照射する工程と、
前記被検知物を透過したX線を、第1の蛍光を生じる第1の蛍光体が複数配列された第1の蛍光体アレイと、前記第1の蛍光体アレイを透過したX線の入射により前記第1の蛍光とは異なるスペクトルを有する第2の蛍光を生じる第2の蛍光体が複数配列された第2の蛍光体アレイに入射させる工程と、
前記第1の蛍光と前記第2の蛍光を検出する工程と、を有し、
前記第2の蛍光体は前記X線の入射位置の変化に応じて蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有することを特徴とするX線撮像方法。
【請求項10】
前記第1の蛍光体は、前記X線の入射位置に応じてX線による蛍光の発光量が変化する発光量勾配を有し、
前記第1の蛍光体における発光量勾配の方向と前記第2の蛍光体における発光量勾配の方向とが異なることを特徴とする請求項9に記載のX線撮像方法。
【請求項11】
前記第1の蛍光体は、前記X線の入射位置の変化に応じてX線による蛍光の発光量が変化しないように構成されていることを特徴とする請求項9に記載のX線撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−185653(P2011−185653A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49313(P2010−49313)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】